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追憶キネマ

#UDCアース #呪詛型UDC #シナリオ50♡

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――カタカタと、音を鳴らしてフィルムが回る。

 過去を、懐古を、悔恨をのせて。

――ゆらゆらと、光の下に遺物が並ぶ。
 
 壊し、失くし、忘れたはずの。

――そうして、目の前の“自分”がつぶやくのだ。

“さぁ、あとは私/僕/俺/自分に任せて――あなたはずっと、此処にいるといい。”

――ぐしゃりと握りつぶされたチケットが、溶ける様に消えていった。


●ノスタルジアとキネマトグラフ
「――なァ、映画は好きか。」
 カラフルなぬいぐるみを空中に遊ばせながら、荒久根・ギギ(スクラップマーダー・f02735)が不機嫌そうな顔で猟兵達へと尋ね聞いた。
「UDCアースに、最近奇妙なスポットがあるんだと。名前は『追憶キネマ座』。何でも“観客の過去を見せる映画館”なンだとか。」
 懐かしい過去を垣間見て、その昔に涙を零す――いわゆる“涙活”なるものの1つらしいが、如何にも話が胡散臭い。
「そういうのが“あるらしい”ってウワサは割と流れてンだけど、“面白かった”だの“インチキだった”だの、そういう――見た後の感想が、いっこも流れてねェ。」 
 つまり、多少なりはいるだろう観客が、誰一人として戻っていないのだ。内容、ウワサ、そしてここにきて予知にも引っかかるという役満っぷり。
「十中八九、UDCの絡んだ事件だろーな。」
 場所は街中に古くからある石造りの映画館。中には個人、あるいは数人単位で楽しむ小さなシアタールームがいくつもあり、そこに座れば自動的に観客の過去が鮮明に忠実に、“映画”として流れるらしい。――それがどれほど残酷なものでも、二度と手に入らない幸福に満ちたものでも。
「ついでシアタールームの奥にあるホールで、“ノスタルジア展”なる美術展示もあるらしい。ここにある絵や芸術品のテーマは、“過去が語り掛けてくる”、だと。あと、奥に待ち構えてるだろう敵の姿も、うっすら見えたンだけど…。」
 と、言ったところでギギの言葉が濁る。どうしたのか、と尋ねられ、頭を掻きながら告げるのは。
「予知で見たとき、そこにいたのは――俺だった。」
 ざわ、と波立つ声にいや正確には違う、と首を振って、正しく伝えるための言葉を探す。
「…もちろんホントに俺と戦うわけじゃねェ。そんなのは無理なハナシだ。だからあれは多分、“敵対した相手の姿を映すオブリビオン”…なんだと思う。」
 だから予知の際には自分の姿が映ったのだろう、というのがギギの結論だ。どうにも後半に関してはあまりはっきりと見えなかったらしく、説明の歯切れが悪い。
「なんで、俺から話せるのはこンくらいだ。どうにも面倒くせぇやり口の相手みたいだけど、今回も頼む。」
 不明瞭さを詫びる様に、いつもよりわずかに深く頭を下げてからグリモアを呼び出す。そして――

 過去を見つめ、過去を壊し、自らを喪う――これはきっと、そういう話だ。


吾妻くるる
 こんにちは、吾妻くるるです。
 今回はUDCアースにて
 過去と自分に向き合う話をお届けします。

●基本説明
構成:【日常】過去と向き合う+【冒険】過去と対峙する+自らを喪う
戦闘:判定【普通+α 特殊判定】

●ご案内について
 今回は物語の性質上、基本的に【おひとり様ずつ】の描写になります。“己の過去と向き合う”という思惑が座全体に働いており、複数人が同時に同じものを見ることは出来ないため、情報共有が困難です。
 上記を踏まえたうえで、それでもどなたかと一緒に参加したい、との希望がありましたらその旨をしっかりとお書きください。採用可能な条件が揃っていると判断できた場合のみ描写致します。

 そして“過去と向き合う”がテーマですが、決して“乗り越える”必要はありません。各章進むために必要なピースは、条件さえ満たせていれば心情を加味しません。過去を前に押し潰される、嘆く、蓋をする、もがき苦しむ…はたまた決別や、成長を見せる。それらは全て、皆様の自由です。

 なおシナリオが成功すれば被害者たちは自動的に解放されますので、救助のプレイング等は必要ありません。
 
●第1章は「追憶キネマ座」
 席に着くと、自らの過去が映画の様に放映されます。幸せな過去、凄惨な傷跡など種類は問いませんが、基本的に“本人が一番見たくないもの”を見せつける形をとります。
 泣く、もしくは最後まで鑑賞すると強制的に2章の会場へと移されます。

●第2章は「ノスタルジア展」
 キネマ後に通される、美術展示の会場です。ここには“観客が過去に失った、大切なものor大切な人”が展示されています。そのものと思えるほどの品、若しくは生きていると見紛うばかりの精巧な人形、いずれにしてもすべて“紛い物”です。
 該当作品に手をふれると“過去を苛む声”に蝕まれますが、作品を壊すことで解放され、3章の敵のもとへと誘われます。

●第3章は「自分自身との対峙」
 相対する者の姿を模すオブリビオンとの戦闘――つまりは“自らとの戦い”になります。心情はどうあれ、倒せれば今回の依頼は成功となります。ですが、時に打ち倒せないのも人の心。残り点数次第にはなりますが、“倒せない・倒さない”選択のプレイングもあれば採用予定です。(この場合ダイスは関係なく“苦戦”か“失敗”になります)

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『涙を流す日』

POW   :    響く音に感動して涙を流す、過去を悼んで涙を流す

SPD   :    流れる映像に揺さぶられて涙を流す、過去を懐かしんで涙を流す

WIZ   :    語られる話に共感して涙を流す、過去を思い出して涙を流す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 チケット売り場は無人だった。ガラス張りのレトロな対人売り場。ただ其処に、『入場券』と書かれた紙切れが置いてあるだけだ。金銭のやり取りなどは必要ないのか、と一瞬不安に駆られるが、開かれたドアの先に踏み入れば――不思議と、足が進んでいく。

 いくつも並んだ両開きの扉のを見れば、それぞれに金色のプレートが張られている。ここでも不可解なことに――目に留まったそれには、名前が刻まれているのだ。

 そこにあるのは、“あなた”の名前。

――ようこそ、過去の集積場へ。ここがあなたの特等席。
――全てを見届けるまで、お立ちになりませんように。
==============================


プレイングの受付は【4/17 8:30以降】より開始いたします。

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※追記

1章でお届けする映画は、基本的に【カラー・音声あり】での描写となりますが、プレイングにて指定ございましたら【モノクロ】や【音声無し】等、映画として成り立つ表現で在れば随時対応可能です。




※追記②

【再送のお願い】
皆様、素晴らしいプレイングの送信、誠にありがとうございます。
現在、期間中にすべての描写が困難な数に達したため
お手数ですが、下記期間にて【再送】をお願いいたします。

【プレイング受付期間】
★第一次プレイング受付期間
~4/20 8:29 まで

★第二次プレイング受付期間
 4/23 8:30 より開始
 (受付終了予定は4/26 夜ごろ)

上記にて受付を予定しています。

マスターコメント、Twitterでも
詳細を随時告知をしておりますので
よろしければご覧くださいませ。

一度の送信でのリプレイ返却とならず
大変申し訳ございません。
どうぞお気持ちに変わりなければ
再送をご検討いただけると幸いです。

柊・雄鷹
【SPD】
過去って聞いて、過ぎるんは1つだけや
内容も顛末も、よぉ覚えてる
だから俺が泣くことはない

流れるのは――A&W!ってかワイの故郷!
広大な自然と、広大な畑と、空を舞う鳥の群れ
あれやなー、ワイの故郷ってホンマファンタジーやな
伝説の勇者とか生まれてきそうな雰囲気

テンション高く茶化してみるけど、現れた1人の女の子にドキッ!
いやもう…そこから静かに見るわ
もう俺が会えない、大好きな女の子やから
長い髪を、キンセンカで結んだ女の子
ごめんなさいが言えんで泣いてまう、我儘な子

その子の顛末を、最期を、ただずっと眺める
涙が枯れ果てるとか、傷は時間と共に癒えるとか
そんなん全部嘘やんな
一筋流れた涙を拭って、席を立つ



【《柊・雄鷹(sky jumper・f00985)》】

自らの名前が書かれた、キネマのプレート。
扉を開き進んだ先には、用意された自分だけの真っ赤な特等席。
緑樹の瞳にその赤を映して、常は快活な表情を浮かべる顔に、僅かに曇りを宿す。

「…過去って聞いて、過ぎるんは1つだけやな。」

だから、座る前から覚悟はできていた。
内容も顛末も、何より誰より、自分が一番良く覚えている。
――だから俺が泣くことは、ない。
この時はそう、思っていた。


=====================================

総天然色――って言うんはこの場合当たり前やんな。
音もクリアで耳に気持ちええわ!

その鮮やかな色で流れるのは――A&W!ってかワイの故郷!
広大な自然と、広大な畑と、空を舞う鳥の群れ。
リアルすぎてなんか空気までかわった気がしてきたわー。
あれやなー、ワイの故郷ってホンマファンタジーやな。
伝説の勇者とか生まれてきそうな雰囲気。

そして故郷の景色をたっぷりと映してから、画面の端にチラッと覗く花。
太陽の光が何よりも似合う花。
その心憎ーい演出と共に現れるのは…1人の女の子!
――ドキッ!と高鳴る胸の鼓動!

=====================================


「…なんて、まぁ、誤魔化してみたけど。」
懐かしい風景に、心が和んだのは本当だ。
盛大に茶々を入れながら、大げさに愉快に、少しでも楽しくふるまって。
――だけど過去が彼女の姿に追いつけば、それは全部誤魔化しだと気づいてしまう。
だからもう残りは、ただただ静かに見よう、と口をつぐんだ。
――そこにあるのは、もう二度と会えない、大好きな女の子の姿なのだから。


=====================================

長い髪を、キンセンカで結んだ女の子。
――ふわりと風に舞うその髪を見てるのが、好きだった。
ごめんなさいが言えんで泣いてまう、我儘な子。
――膨れた頬をつついてからかって、よくそっぽを向かれたっけ。

一緒に過ごした日々を、名前を呼んだその声を。
静かに映しながら、映像は流れていく。
最後の、あの時まで。

キンセンカの花言葉は――慈愛、静かな想い、そして――別れ。

=====================================


「…なんも、“そこ”まで忠実に体現せんでええのになぁ。」
 手首にまかれた鮮やかなオレンジのシュシュへ、慈しむ様に手をふれながら。その子の顛末を、最期を、ただずっと眺める。誰よりも知っていて、何よりも焼き付いて忘れられない――その一瞬を。
涙が枯れ果てるとか、傷は時間と共に癒えるとか、そんなありきたりな言葉はいくらでも聞き覚えはあるけれど。
「そんなん全部、嘘やんな。」
だって、今でも想うだけでこんなにも胸が苦しくて、にがくて、音を上げて軋む。
『俺が泣くことなんてない。』
――最初に口にしたその言葉も嘘にして、頬を伝うのは一筋の涙。

――その一雫をそっとぬぐってから、ひとり静かに席を立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
『追憶キネマ座』に私の名前、か

まず映し出されたのは、まだ仲良く食卓を囲んでいた
お父さんとお母さん、弟のネクと、私

……!
こんな日があったなんて、嘘みたい
どんな味だったか
もう思い出せないな

暴走した私の魔術が、傍にいたネクの脚を潰す
ネクの脚はもう動かない
お医者さんが何か言ってる
そこからは、あの毎日
お父さんとお母さんが私を殴る蹴るなんて日常茶飯事で
痛いけど抵抗しない
ふたりを狂わせたのは私自身だから
とうとう首を絞められて、それから――

……っ!!
息の吸い方も吐き方もわからない
呼吸って……どうやるんだっけ……?
此処にいない彼の名前を呼ぼうとするけれど
未だ慣れない発作がそれを許さない
ただ、涙を流すしかなかった



【《オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)》】


「私の名前、か。」
金プレートに刻まれた自らの名前を横目に、扉奥のシアタールームへと進んでいく。待っているのは、真っ赤な椅子が1つ。
――これは私の席。今から見るのは、私の…オルハ・オランシュの、過去。


=====================================

映し出されたのは、仲良く食卓を囲んでいる家族の姿。
湯気の立ちのぼる料理に、綺麗に並べられた食器。
お父さんとお母さん、弟のネクと、私。
温かくて、楽しげで――普通の家族のような、いつか。

=====================================


「……!」
思わず、息を飲んだ。こんな時間があったなんて、嘘みたいだ。
なつかしい、というには実感のない“いつか”に、あわい思いが胸をよぎる。
私もネクも、どんな話をしているんだろう。
そうだ、あのふたりは、あんなふうに笑うんだった。
ああ、でも、もう。
――食卓に並ぶ料理の味は、思い出せないな。


=====================================

――唐突に、舞台は暗転する。

追いついたのは、全てが変わった“あの日”。
暴走した私の魔術が、傍にいたネクの脚を潰した日。
血の色と、胸の痛みだけが焼き付いた日。

ネクの脚を見てくれたお医者さんが、何か話している。
事態を告げられた両親の顔を見て
何もかもがどうしようもなく、取り返しがつかないんだと分かった。
――もう、ネクの脚は二度と動かない。

そこからは、あの毎日。
お父さんが、物のついでの様に蹴り飛ばしていく。
お母さんが、怨嗟に満ちた目で見つめながら手を振り上げる。
そうやって、ふたりが私を殴る蹴るなんて日常茶飯事で。
あちこちが痛かったけど、抵抗はできなかった。
だって、ふたりを狂わせたのは私自身だから。
――これは、きっと、罰なんだ。

映像から私の姿が消えて、僅かに視点が下がる。
まるで、眼をカメラにしたようだ。
ふと見上げる様に切り替わった先にあったのは、両親の姿。
顔は、みえない。影になっていて、表情がうかがえない。
そのふたりから、手が、伸ばされる。
眼の景色を超えて、その下の――私の、首へ。

そしてとうとう首を絞められて、それから――

=====================================


「……っ!!」
ぐるん、と世界が回る感覚に襲われた。息の吸い方も、吐き方も、わからない。
やり方を思い出そうと考えれば考えるほど、求めた答えが遠のいていく。
くるしくて、もどかしくて――まるで、おぼれてるみたい。
咄嗟に此処にいない彼の名前を呼ぼうとするけれど、未だに慣れることのない発作がそれを許さない。
たすけて、たすけて――ねぇ、  。

――でも、私は、ネクをどうしようもないくらい、傷つけたのに。
――いま、自分だけが助かろうと、するの?

「…、ぁ…。」
かは、と呼吸の途切れる音がする。名前も呼べない、息もできない。
ましてや――たすけて、なんて言えやしない。
だから、今の私にできることは。

――ただ、涙を流すことだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
手帳さん/f01867と

『咎人殺し』。『咎』を定義するのはオレではなく、オレの上に立つ人間でした。誰かの言いなりってのは、改めて見るとムカつきますね。
ウソ泣きで事なきを得られればそれが一番ですけど、どうかな。
クソ映画ってほんと時間の無駄でしかないんですよね…
だめならラストまで見ますが、これは爽快にカタが付いた過去です。エンディングはカットされてるかもしれませんね。劇場版と完全版って違うし。

ああ手帳の人。こちらは時代劇でしたよ。『中身のない男がひたすら上意討ちを続けるだけの、中身のない映画』。
あなた、サクサク動けそうですね。ご同行いただけると有難いです。
とっとと帰ってまともな映画を見たいので。


納・正純
夕立(f14904)と
最後まで鑑賞し、次への間言葉を交わす

『攻究の暇』
――目を開けると、無音の暗闇があった

あァ、覚えてるぜ
『奇跡の手帳』を手に入れて、無限の知識を得ようと決めた直後に裏切られ、宇宙を彷徨った『空白の三年間』。『クソみてェな退屈』のリマスターだ
コイツが映像なら、終わりはある。付きあってやるよ。見飽きるまでな

脇差の。夕立……だったか、確か。お前も同時に終わったのか?
こっちもそう大したもんじゃない
『長さ三年分の無音モノクロ映像』。思い出したくもねえ『詰まらない記憶』さ。
終わった話だ。色のない過去、無味乾燥な退屈だよ
上等だ、次に行こうぜ? この先の敵と――お前との連携に興味が湧いてきた



【《納・正純(インサイト・f01867)》】

知らないモノを知りたい――それが、俺の裡に根付く衝動。
名前を付けるならそう、“知識欲”とか“探求心”か?
一見大人しそうなツラをしちゃいるが、これが案外獰猛で。
目に映る全てを貪ろうと、口を開けて噛み付けば
――うっかり自分の喉元を食いちぎってるなんざ、笑えねぇハナシだ。

そうして思考を巡らせていれば、やがてキネマの幕が開く。
流れるという過去の映像に、さて。
――この渇きを満たせるものが、僅かにでも眠ってるだろうか。


=====================================

『攻究の暇』

――目を開けると、無音の暗闇があった。
暗くて、昏くて、くらい。闇のただ中を映しただけのムービー。



――
―――

=====================================


――あァ、覚えてるぜ。
これは『奇跡の手帳』を手に入れて、無限の知識を得ようと決めた直後に裏切られ、宇宙を彷徨った『空白の三年間』。
『クソみてェな退屈』のリマスター。
期待や希望は、より近づいてから落とした方が――その落差に酔いやすい。
それを“教えてやろう”とでも言うつもりなのか。
奇跡だ無限だと御大層な名前に手を伸ばした分、三年の時間は実に
――無味乾燥な退屈だった。
それでもまだ、この懐に“それ”はある。


=====================================


――
―――

=====================================


滾々と、無音と暗闇が続く。
映像に音がない分、レトロな外装に合わせた古びたスピーカーからは、砂を食むようなザリザりとした音が響き、映像は時折線と点のノイズをチラつかせながら流れていく。

退屈、倦怠、無為無聊。

しかしコレが映像で在る以上、終わりはある。――なら。
「――付きあってやるよ。見飽きるまでな。」
琥珀の瞳を射抜くように細めながらも、一瞬たりとそらさずに。
――その照準の内へ、過去を納め続けた。






【《矢来・夕立(影・f14904)》】


「ウソ泣きで事なきを得られればそれが一番ですけど、どうかな。」
過去を見せる映画というなら、見る前から分かっていることがある。
――これはどうしようもないくらい、クソ映画だってこと。
時間は有限、出来るならそんなものの為に無駄にしたくはない。しかしのちに控えた事態の解決に、これは通らねばならない道なわけで。仕方なく、偽の涙でだめならラストまで見る心積りで、幕が上がるのを見守った。


=====================================

始まった映像に映るのは、オレの姿。
脇差を握り、折り紙を手に。
咎人たちを捌いていく。
冷静冷徹、しかして仕事は丁寧に。
道徳倫理が裸足で逃げ出す手際の良さ。

合理、効率、能率的に。全ては上の言うとおり。

――『咎人殺し』。
そう、『咎』を定義するのはオレではなく、オレの上に立つ人間でした。

=====================================


「…誰かの言いなりってのは、改めて見るとムカつきますね。」
ものの見事に、上映数分で感想が付いた。
だけど感慨なんてその程度。
先行きなんてどうでもいいし、過去を殺すに躊躇いはない。
今があればいい、自分の欲は、それがすべてだ。

…妙にクリアに見えるのは、デジタルリマスターだとかそういうのですか。
しかしこれは爽快にカタが付いた過去、映画にするにはシナリオ編集がお粗末です。
それにエンディングはカットされてるかもしれまませんね。
劇場版と完全版って違うし――なんて、暇つぶしの映画批評も飽きてきて。
ああ、うん、だからもういいです。
――とにもかくにも見る価値は無し。そう判じるや否や、ぎゅっと目を閉じ。

全てを観きる方から涙を流す方へ、向ける力をシフトした。






――目的を果たし、条件を満たし、次なる場所へと移る刹那。
ふたりの影が、邂逅する。

「ああ、手帳の人。」
「脇差の。夕立……だったか、確か。お前も同時に終わったのか?」
「そのようですね。因みにこちらは時代劇でしたよ。『中身のない男がひたすら上意討ちを続けるだけの、中身のない映画』。そちらは?」
「こっちもそう大したもんじゃない。『長さ三年分の無音モノクロ映像』。思い出したくもねえ『詰まらない記憶』さ。」
「どうもお互い時間を無駄にしたようで。せめてとっとと帰って、まともな映画を見たいものです。」
「あァ、いいなそれ。勝手知ったるクソ映画より、俺も知らねぇ映画のが見たいぜ。」
「成程、意見は一致しています。…あなた、サクサク動けそうですね。効率がよさそうだ。ご同行いただけると有難いです。」
「…上等だ、次に行こうぜ?この先の敵と――お前との連携に興味が湧いてきた。」

1人は手帳を、1人は脇差を。今につながる過去をその手に。

――この先へと、進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
【モノクロ・無声映画】
狭く、出入口は一つ。しかもご丁寧に名札まで。
――襲撃されたら対応し難いな。
真っ先にそんな事を考える程度には、僕は傭兵で。

記憶の始まり、与えられたものは全て仮初。
傭兵に拾われ、なるべくして傭兵となり。
平穏もあった。喪失もあった。出口の見えない争いも、奪い奪われ踏み躙る事も。
それらは全て、在り来たりな“日常”だ。
故に、忘れた。
一番なんて、劇的な何かなんて無い。
誰の指図を受けたでも無く、思う通りに生きてきた。
(…ほんの一幕、僅かに眉を潜める場面はあれど)
ただただに、

――退屈。

あぁ、これでは普段の笑いも出ないというもの!
見終わる頃には、
さぞ見せ甲斐の無い観客と思われてそうですね?



【《クロト・ラトキエ(TTX・f00472)》】

足音を殺し、静かに廊下を進んでいく。金プレートに刻まれた自らの名前に、位置を確認してから扉の内へと体を滑り込ませる。
入口はこの1か所。狭く、また見通しもあまりよくない。しかもご丁寧に名札まで。
――襲撃されたら対応し難いな。
居場所の特定は容易く、入口を押さえられたら逃げるすべはない。
応戦しようにも部屋の広さは十全ではなく、銃器を持ち込まれたら回避に難しい。
さて、ならこの場合の最適解は――とまで数舜で巡らせてから、はたと思考を止め。
僅かにあきれたように自らを笑い、今度は素直に席へと着いた。
そう、真っ先にそんな事を考える程度には、僕は傭兵であって。
ならきっと、この後放映されるだろう映画も
――僕の、傭兵たる過去の記録なんでしょうね。


=====================================

それすらも忘れたかのように、色も音もないムービー。
白と黒がちらつく映像に、砂を食むようなノイズが混ざる。

そこに映るのは記憶の始まり、過去の始点。
この手に与えられたものは、全て仮初だった。
何も持たないこの身を拾ったのが、傭兵だったから。
ただそれだけ。そうしてなるべくして傭兵となり。
波風の立たない平穏もあった。
仮初の中にも幾何かの喪失もあった。
出口の見えない争いも、奪い奪われ踏み躙る事も。
それらは全て、在り来たりな“日常”だ。

故に――忘れた。
何物にも代えがたい一番なんて
これまでを覆すような劇的な何かなんて
――何も無い。
誰の指図を受けたでも無く、何に命じられたわけでもなく。

ただただに、ひたすらに。
――思う通りに、生きてきた。

=====================================

常は笑みを浮かべる顔に、今張り付いているのは無表情で。
あくびも噛み殺しそうなこの情感を、端的に表すのなら、そう。
――退屈。

「…あぁ、これでは普段の笑いも出ないというもの!さぞ見せ甲斐の無い観客と思われてそうですね?」
他に観客の居ない部屋で、おどけて独り言ちる。
変わらない日々、当たり前の日常。
――ほんの一幕、僅かに眉を潜める場面はあったけれど。
いまさらそんなものを懇切丁寧に見せられても、何に響くでもなく。
「涙も凡そ出そうにないですね…まぁ、嘘泣きでも良いんですが。仕方ない。」
これも仕事と割り切りましょう――と、小さな溜息一つ。

――今しか持たない男が一人、過ぎた“今”の集積を眺め見る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
さて
或いは俺の知らぬ俺の過去を見せてくれるのか


見えるのは空虚へ向かい逸脱せんとする者
探求し、追求し、解を得て其処を目指した者
世界を抜け、躯の海を潜り、その先へ手を掛けて




理由もなく、己はその先を知っていると悟る
残滓は雛形となり、残骸は人型となり、人外は原型たる理を以て駆動を開始した


それが確かに、何処かにあった物語の形だと、他ならぬ己が証明している――



【《アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)》】

ここは過去を見せるキネマ。
目を塞ぎたくても終わらぬ映画。

さて、それならいったい何時を映してくれるのか。
或いは
――俺すらも知らぬ、俺の過去を見せてくれるのか。

期待にも似た心地を胸に、座れば幕は引かれゆく。


=====================================

画面の只中に映るのは、空虚
空っぽ、虚空、伽藍洞
吸い込まれれば露と消えそうなその暗闇に
然して見えるのは、人の影
自ら世界より逸脱せんとする者、その姿

探求し、追求し、深掘し
ようやくその手に得た解のもと
全てを投げうつようにして其処を目指した者

36の世界を抜けて
昏き咢を開き待つ、躯の海を簸た潜り

その先へ手を掛けて


――
―――


=====================================


その先に、映るものは何もなかった。
虚空とはまた違う、ただのブラックアウト。
そしてカタカタとフィルムの止まる音が聞こえ、上映が終わったことを知る。

だが、それでいい。
あの海の果ではないにせよ、ここにも獲得るものは確かにあった。
至った理由はなく、先への啓示もない。
けれど――己はその先を知っていると、悟った。

残滓は雛形となり、残骸は人型となり
人外は原型たる理を以て今ここに駆動を開始した。

示すに及ばす、語るに足りず。
けれどそれが確かに、何処かにあった物語の形だと。
――他ならぬ、己こそが証明している。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■アドリブ歓迎

自分を見るなんて
水槽の中から見た歪んだ光景

僕は奴隷
ただ歌うだけの道具
歌えなくなれば殺される見世物
封じ込めたい冷たい過去
君は過去ごと僕を愛してくれると言った

腕に揺れる蒼櫻の翼を撫で
だから僕も見つめよう
過去を

(泣きながら必死に歌い
無理やり笑う稚魚の僕の姿

下手な歌
あの時は必死だった
失敗すれば水槽に電気を流される
お仕置き

(昏い水槽の中浮かぶ作り物の様な姿

つらい
かなしい
そんな感情すら知らない歌う人形
ただ無意味に生きてた

でも頑張って生きてたんだんだ


大丈夫
暖かな櫻に出逢える
どんな辛い痛みも過去も癒される春がくる
過去の僕へ励ましを送る凱旋を歌う

零れる涙は哀しみではなく
希望を教えてくれた櫻への感謝



【《リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)》】

――見世物だった自分を、外側から見るなんて。
不思議だとか、奇妙だとか、そんな感慨もあるけれど、それよりも。昏く胸に落ちる感情が、ゆらゆらと浮かんでは澱んだ跡を残して消えて行く。
ブザー音で幕が開けば、映し出されるキネマと向き合う。そこにいるのは、僕。

あの時、あの昔。
水槽の中から見た、歪んだ光景。


.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○


――僕は奴隷。

ただ歌うだけの、道具。
歌えなくなれば殺される、見世物。
硝子の瓶に閉じ込められた、コレクション。

泣きながら必死に歌い
無理やり笑う稚魚の姿――かつての、僕の姿。

ああ、なんて下手な歌。
怯えて震えて、強張る喉は声を濁らせるばかり。
それでも、あの時は必死で歌を歌っていた。
失敗すれば、水槽に電気を流される
いたい、いたい、お仕置きがまっているから。

昏い水槽の中浮かぶ姿は
改めて目にすれば、作り物めいていて。
つらい、かなしい、そんな感情すら知らない歌う――人形。
ただ無意味に生きてた、人に、魚に似た、なにか。

それでも、幕が開けば僕は歌う。
――だって、其れしか、知らないから。

.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○



あの時の空虚が、苦痛が、胸を締め付ける。
何のために、何をして。そんな疑問も浮かばない、空っぽのハーフムーン。
――でも、今ならいえる。あの時の僕は、本当は。

「…頑張って、生きてたんだんだ。」

抗う術を持たなくて、従うことしかできなくて。それでも歌ったのは――生きる為。今の自分は、そう知っている。もう、知っている。だから。
「…大丈夫。」
どんな辛い痛みも過去も癒される春がくる。
暖かな櫻に出逢える季節が廻りくる。
そのことを告げる様に過去の僕へ、今の僕が歌を贈る。
――それは、凱歌。
儚くも力強い声で紡ぐ、希望の鐘を打ち鳴らす絢爛の歌。
涙に溺れるを励ますための、僕が歌う僕への歌。
過去を変えることはできない。でも、過去を前にして想うことはできる。

ふと、温かな涙が頬を伝う。
けれどそれは哀しみでも、憐れみでもなく。
あの時手を伸ばしてくれた、櫻への感謝。

この世界に希望があるというなら、僕にとってのそれは。
――きっと、あなたという形をしているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
自分を喪う、かぁ……喪う自分すら、あやふやだけれどね
……「ヘンリエッタ」の過去を写してくれるということは「わたし」が知らないものが見れそうね
例えば、……国家転覆をしでかそうとした、別の私の事とか.......
私が1番見たくもないものなんて、想像もつかないけれど

――ああ、いるわ、一人だけ
でも、彼女は……生きている、生きているはず、でも
死んでる……?
宿敵の彼女と落ちたあの滝壷で、判然としない頭の中で
見た気がするの、濡れた彼女の死に顔を
飛び散った脳漿と、月の下で真っ黒に濡れた私の、手を。
死んでないでしょう、ねぇ、そうだったわよね
だって、あなた、二人も存在しない筈だから、ねぇ
――シャーロック



【《ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)》】

「自分を喪う、かぁ……喪う自分すら、あやふやだけれどね。」
自嘲気味に、ため息交じりに。席に着いた女がぽつりと零す。そうしてみれば唯の女性の姿に見えるが、内情は目に映る情報ではわからない。
――多重人格者。
骨肉の宿の裡側、4人の人格が住まう身。
だからだろうか、“己”と問われて端的に誰を指すのが、いまいち分からない。
皆そろって顔は同じ、ましてや2人は名すらも同じ。
ああ、それとも、己と称して指をさされた「だれか」こそが
――本当の「わたし」なのかしら?

頭を振る。これは今考えても仕方がないこと。
それよりも、そうよ、映画の事を考察してみましょう。

もし、この肉体に名称づけられた「ヘンリエッタ」としての過去を映してくれるというのなら、今の「わたし」が知らないものが見れるかもしれない。
数多を課されながら末の妹として生まれ、他に比べて最も記憶の浅い「わたし」。
その私の記憶にない、過去の出事。
例えば、国家転覆をしでかそうとした、別の私の事とかが映るかも。
きっとそうね、だって

――「わたし」が1番見たくもないものなんて、想像もつかないもの。

けれど、回りだすキネマが映し出すのは。
国を沈めた記録でもなく、苦い3年の記憶でもなく。
――たったひとりの、だれかの背中。


=====================================

映し出されるその姿を、“わたし”は覚えている
背中だけ、顔は見えない、だけど他の誰かと見間違うはずもなく

――ああ、そうだ。いるわ、一人だけ
忘れようもない、忘れるはずもない、「彼女」

でも、彼女は

――生きている、生きているはず
あいまいな記憶はそう告げている、けれど
――本当に?だって、あのとき、死んで……?
喉の奥にある乾きが、そう訴えている

あの日、あの時
宿敵である彼女と共に落ちたあの滝壷
昏く、月明かりだけが照らす悪夢のようなひと時

――判然としない頭の中で、見た気がするの
濡れた彼女の死に顔を
飛び散った脳漿と
月の下で真っ黒に濡れた

――私の、手を

=====================================

「…、…」
映像は暗く、ノイズもひどい。
全てを観終えても、何もかもが判然としない。
こんな機会を手にしても、その中でさえ私はあやふやなのか、と。
思わず頭を押さえて物憂げに俯く。
ああ、でも、きっと。

――死んでないでしょう、ねぇ、そうだったわよね
――だって、あなた、二人も存在しない筈だから、ねぇ

「――シャーロック。」

あわく、か細く、吐息に混ぜて名を呼ぶ声は。
――どこか、祈りにも似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

舞塚・バサラ
【SPD】
過去:金を得て、法で裁けぬ悪党を裁く事を生業として居た
ある日、仕事を終えて拠点に帰ると拠点が燃えて居た
生まれも育ちも定かでは無い己を拾い、生きて行く術として様々の技術と共に暗殺術を叩き込んだ、その拠点が燃えて居た
慌てて辺りを探し回るも、あるのは死体ばかり
辛うじて、虫の息である育ての親を見つけるも、「奴を止めてくれ」の言葉を最期に息絶え、その直後自分も何者かから不意打ちされ、意識を失う

………コレが、某の……(同時に脳裏が鮮明にその全てを思い返す)
…そ、それがし…は…!
結局、何も守れず…!
記憶を失ったからとのうのうと今まで生きて来たので御座るか!?
師匠…!みんな…!すまぬで御座る…!



【《舞塚・バサラ(殺業真影・f00034)》】

わざわざ、他人に話す必要はないと、思っていた。
然して某は何者か――そんな問いは、いつも胸の裡に燻っていて。
世界が縮み、己は伸び、奇天烈な出来事ばかりがこの身を過ぎて。
ただ、肝心のいつかは、きれいさっぱり抜け落ちたまま。
手掛かりさえも一切合切、底なし沼に落としたように。

だから、此度の依頼は。
もしかして、もしかするなら。
――今より目にするものは、空いた孔を塞ぐものなのだろうか。
期待というには昏く、投げ遣りというにはわずかに前向きに。
引かれた幕の内へを目を向ける。


=====================================

そこにいるのは、某の姿をした男

金を代価に吾が腕一つ
法で裁けぬ悪党を、代わりに裁くを生業として
西へ東へ奔走する

ある日、いつものように仕事を終えて
矢張りいつもの如く拠点に帰ると

燃え盛るは紅蓮の焔――何もかもが大炎上

生まれも育ちも定かにならず
行くも帰るも宛てなき己を
拾い育ててくれた場所が
生きて行く術として様々の技術と共に
暗殺術をも叩き込まれた
その拠点が――淦々と燃えていた

躊躇い慌てて数舜の後
辺りを探し回るも、あるのは焼け焦げ、息絶えた
死体、屍、骸の山

それでも諦めきれぬと探し
辛うじて、見つけたるは育ての親
あわれもはや虫の息、それでも服を握って乞うのは
――奴を止めてくれ、と。ただその一言
やがて早に息は絶え、ただ茫然と膝をつき

愚かというなら、その一瞬
背に立つ影にも気づかずに、頭に振り下ろされる一撃を以て
何もかもを、失った

――そうして手放す意識も模すように、ぐるりと暗転、幕は落つ

=====================================


カタカタと、フィルムが回りきって乾いた音を立てる。
映画は終わり、とっくに真っ黒の画面に塗り替わったのに。
動けない、呼吸ができない――目が、離せない。

「………コレが、某の……。」

漸く絞り出せた言葉は、それだった。初めはそれこそ映画を見ているような感慨だった。なのにひとつひとつ、出来事が進んでいくうちに――脳裏が焼けつくような感覚に襲われた。

違う、違う、これは決して他人事じゃあない。
ああ、ああ、これこそが――某の記憶じゃあないか!!

とっくに忘れたはずの、炎に炙られた痛みが肌を焼く。
当の昔に癒えたはずの頭傷が、脈に合わせて熱を持つ。

「…そ、それがし…は…!結局、何も守れず…記憶を失ったからとのうのうと
――今まで、生きて来たので御座るか!?」
突きつけられた現実に、頬を滑る涙は絶叫を伴って滂々と。
「師匠…!みんな…!すまぬで御座る…!」

蘇る記憶は、残酷なほどに鮮やかに
――詫びる声も届かない、遠い過去を見せつける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
過去を上映する映画館…ここなら。

猟兵になっていろんな依頼に行ってるうちに揺さぶられ始めた記憶。
俺が忘れてる記憶がある。俺が頑なに認めない記憶がある。
そもそも俺がなんで猟兵になったのか。そんな根本的な話なんだ。

あいつに騙されてUDCの犠牲になるのは俺のはずだった。
あいつの巧みな話術で貶められた。
それで愚かにも死ぬのは俺だったはずなのに。
なんで姉ちゃんが?俺の代わりに死ー!!!
頭がいたい。
姉ちゃんが死んでるなんて嘘だ嘘だ。
なぁ、そうだろう有祈?
…そもそも有祈っていつから俺の中にいたんだ?
ごめんな姉ちゃん。俺があいつと知り合ったばっかりにあいつに騙されたばっかりに。
姉ちゃんは俺を庇って…死んだんだ。



【《花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)》】

「過去を上映する映画館…ここなら。」
依頼の内容を聞いたとき、真っ先に浮かんだのは――期待だった。
鍵がかかったように思い出せない、昔のこと。
それを此処でなら、取り戻せるんじゃないか、と。

猟兵になって、いろんな依頼に行ってるうちに、徐々に揺さぶられ始めていた。
――俺が忘れてる記憶がある。
――俺が頑なに認めない記憶がある。
――そもそも俺が、なんで猟兵になったのか。
眠っているのはきっとそんな根本的な話なんだ。
それだけはわかる。だから。
その手がかりをつかもうと、挑むような気持で席に着く。

さぁ、これより映し出されるは過去の話、いつかの記憶。
――目をそらし続けた記憶だろうと、途中でお立ちになりませんよう。


=====================================

あいつに出会ったのは、俺だった。
話が上手くて、軽薄だけどどこか親しみやすくて。
だからなんだろうな――あっさり、騙されちゃったのは。

だけど、それでも。
あいつに騙されてUDCの犠牲になるのは、俺のはずだった。
巧みな話術に踊らされて、死を迎える羽目になるのは
馬鹿で間抜けな俺だけの――はずだった。

じゃあ、なんで。
今目の前の姉ちゃんが――真っ赤に染まってるんだ?
俺を庇うように立ち塞がって、息も絶え絶えなんだ?

なんで、どうして。
姉ちゃんが、俺の代わりに――!!!

=====================================


「……、え…?」
映し出されたのは、今までの認識をひっくり返すような出来事。
おかしい、違う、だって姉ちゃんは生きてるはずで。
だって、今までずっと、そう思っていて。
そのはずだって――信じて、いて。

「…なぁ、そうだろう有祈?」
すがるように、己の裡に在るもう一人に尋ねかけるが、返事は無い。
頭が痛い、どうしてこんな時には何も言ってくれない。それに、ああ待ってくれ。
…そもそも、有祈って、いつから俺の中にいたんだ?

ガリガリと、内側から削られる音がする。

頭がいたい。
眩暈がする。
――違う違う間違ってる。
姉ちゃんが死んでるなんて嘘だ、嘘だ!


=====================================

画面の中の俺が、呆然と立ち尽くしている。
――あああ…姉ちゃん。
――俺が、俺が、あいつと知り合ったばっかりに。
――あいつに、騙されたばっかりに。

姉ちゃんは俺を庇って…

――死んだんだ。

=====================================


無感情に、無遠慮に。事実だけを突き付けて、キネマがカタカタと終わりを告げる。
「…思い、出した。」
叫び出したい衝動に焼け付いた喉から、漸く絞り出たのはただその一言。
ぼろぼろと零れる涙をぬぐいもせずに、虚ろな瞳に画面を映す。
映画を介して過去が、いつかが、現在へと追い付いてくる。

これが、答え。求めていたもの、その証左。
逃れようもなく、突きつけられた現実。
そして、今。
――探し求めた記憶の内で、最愛の人を喪う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロダ・アイアゲート
【WIZ】
自分の過去ですか…

過去:機械人形の為過去がない(映画に映るのはモノクロの砂嵐)
過去がない事こそが彼女が無意識に考えないようにしていること(不完全であり、また人型をしていても人でないことを再認識するため)
映像の最後にアイテム【いつか目覚めるかもしれない君へ】だけが一瞬映る
それは自分を造ったマスターがいた証であり、同時に彼女を棄てた証でもある
涙を流すことも、表情を作れるようにも造られていないため、終始無表情のまま観終わった後天井を見上げる
「こんな時、人はどうするんでしょうね…」
寂しそうな、悲しそうな声で呟く
そして懐から大事そうに何かを取り出す
それは映像に映ったメモ書きだった



【《ロダ・アイアゲート(天眼石・f00643)》】

過去を見れると聞いた、あの時。
ほんの一瞬、頭の裡側を探ろうとしてみた。
――だけど、すぐに取りやめて蓋をした。
それがどうしてか、とか。何のために、だとか。
泡沫と浮かぶその問いに、明確な答えは返せない。

けれど。いや、だからこそ。
私は今、この席へ着く。
過去を映すキネマへと。
――向き合う為なのか、意義を求めての事なのか。
それは未だ、曖昧なまま。


=====================================


――
―――

=====================================


映画を彩るのは、砂嵐。
古びたスピーカーからはザリザリと、荒く擦れた音だけが響く。

ただ、これだけ。
映像も、音も、何一つ確かなものはうつらない。

これが過去、私のかつて。
――ああ、でも、予感はあったのだ。
どれ程人に寄せて作られた身でも、この体は鋼鉄で出来ている。
想いがよぎるたび、添った表情を作ろうとしても
頭部を覆う鋼は固く動かず、その為の筋肉もない。
憧れた人たらんと、思う気持ちは芽生えても
――何もかもが、足りていない。

そして、今も画面を渦巻く砂嵐が重ねて物語る。
――私には、過去もないのだと。


=====================================


――
―――

ザザッ―――


『いつか 目覚めるかも知れない君へ』

『――   、  すまない。』

=====================================


荒れるばかりだったムービーの最後に、僅かに映った一枚の紙きれ。
短く端的な、謝罪の言葉。

それは、証。
私を作ったマスターがいた証であり、同時に。
――棄てられたことの証でもある。

かさりと乾いた音を立てて、懐からそっと取り出す。
それは、映像に映ったのと同じメモ書き。
過去と今が交じり合う、欠片。
棄てられた、と。見るたびそう認識してしまう、厄介な切れ端なのに。
過去に乏しい私は、それでもこれを手放せずにいる。

ふと、天井を仰ぐ。
降り積もる想いはあるはずなのに。
確かに突き動かされる何かはあるはずなのに。
表に出すべき機能は、未完成のまま。
「こんな時、人はどうするんでしょうね…。」
表情は変えられない。
涙を流すこともできない。
けれど、静かに零す声音は。

――ひどく、寂しげに聞こえた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・ウィステリア
映画……そう言えば、船内アーカイブにも結構昔の奴が入ってるみたいだけど私よく知らないなぁ……ミアちゃん(妹)は詳しいんだろうけど。

【映画】
(※宇宙船を本体とするヤドリガミ)
嘗て私の中では沢山の人達が日々研究に勤しみ、笑い合い、日々の暮らしを送っていた。
映画ではそんな彼らの日常が延々と流される。
葉巻が大好きな操舵士のおじさん。
屋上ビオトープでいつもフィールドワークに励んでいたお姉さん。
卵料理が得意な研究所のチーフ。メタボに悩んでたっけ。
そんな日々は、私が銀河帝国軍に航行機能をやられた所為で終わりを告げ、彼らは別の船へ移った。
今はもう……誰もいない。
誰も……

あれ……?私……泣いてる?
なんで……



【《ユノ・ウィステリア(怪異蒐集家・f05185)》】

「映画……そう言えば、船内アーカイブにも結構昔の奴が入ってるみたい。」
船内、と言って差すのは彼女の本体。かつて宙を跨いだ宇宙船。
――正式名称・深度外宇宙生命体探索船IKAROS-β。
そのヤドリガミである“私”。

「だけど私よく知らないなぁ……ミアちゃんは詳しいんだろうけど。」
同じく船を本体とする妹の姿を思い起こせば、開幕のブザー音が鳴り響く。開けられる幕、始まった映像に、そっと目を向ければ。

流れてくるのは、人の姿。
嘗て彼女の中で日々研究に勤しみ、笑い合い、日々の暮らしを送っていた
――沢山の人たちの、姿。


=====================================

星の瞬きまで鮮やかに、笑い声さえはっきりと。
これが私の過去のムービー。

葉巻が大好きな操舵士のおじさん。
――あんなにぷかぷかふかして、煙たくないのかなって思ってた。
屋上ビオトープで、いつもフィールドワークに励んでいたお姉さん。
――とにかく元気いっぱいで、いつか何かの役に立てたいって笑ってたな。
卵料理が得意な研究所のチーフ。
――美味しく作れるのが悪いんだって、いつも食べ過ぎて。メタボに悩んでたっけ。

沢山の人を、人生を、生命を乗せて。
いつか造られた目的を果たすべく、星の海を泳ぐ日々。

そんな何気ない日常は――ある日唐突に、終わりを告げた。
襲い来る銀河帝国軍を前に、辛くも生き残ることはできたが
航行機能をやられた所為で、前には進めなくなった。

動かない乗り物。
もはやただ漂流するだけの存在。
それは――船として、死に近い。

だから。
彼らは皆、別の船へ移ったいった。
共に歩んできた筈の足音は、声は。
今は遥か彼方、届かないほどに――遠い。

=====================================


カタカタと音を立てて、キネマが終わった瞬間。
知らず、固く握りしめていた手を胸の上に置いた。
今は温かく脈打つ体に、その内側に、人の存在を感じることはない。
――いいや、たとえ本体で在ろうとも、それは二度とないことなのだ。

今はもう、誰もいない。
誰も。
だれ、も。

「あれ……?私……泣いてる?」
頬を伝う温かさに、なんで、と思わず問いかけるも、此処にいるのは自分ひとり。答える声はなく、ただ、穴が開いた様な気持ちを前に、雫が零れるばかり。

かつて人を運び、人を住まわせ、航海を重ねた宇宙船が
――今、人と同じ涙を流す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虜・ジョンドゥ
『主人公の名前を入力してください』

映し出されたのは
ドットで構成されたレトロなゲーム画面


そっか
ボクの場合はこうなるんだね
まるでプレイ動画を観てる気分だ


主人公の名前が入力され
ジョブが選ばれ
導入が始まる

『キミが世界を救うんだ
魔王を倒す旅に出よう!』

そして魔王を倒し
世界は平和になる―…


瞬間、ブツリと電源が切れた


全ては繰り返し

世界を救う“ボク”は
知らない誰か(プレイヤー)に
何度も
何度も都合よく
“何者であるか”を押し付けられてきた
魔王を倒しても世界はリセットされるんだ

笑えない
道化は笑顔でいなきゃなのに
ボクは真顔で延々と観続けるよ

人類が滅んだ時の、最後の冒険まで

『主人公の名前を入力してください』

アドリブ歓迎



【《虜・ジョンドゥ(お気に召すまま・f05137)》】


=====================================

『主人公の名前を入力してください』

  【 _ _ _ _ _ 】

=====================================


映し出されたのは、カラフルにコミカルでピクセルな。
ドットで構成された、レトロなゲームの最初の画面。

――そっか、ボクの場合はこうなるんだね。
まるでプレイ動画を観てる気分だ。
誰もがきっと、これからの冒険に胸を高鳴らせて
ワクワクしながら見つめるんだろう画面を。

――ボクは、乾いた瞳で眺めてる。


=====================================

主人公の名前が入力され
沢山ある中からジョブが選ばれ
これから続く物語の導入が始まる

『キミが世界を救うんだ
魔王を倒す旅に出よう!』

仲間を探して、強敵を倒して
洞窟を抜けて、宝を手にして
冒険を続けて、カンストして

そしてキミは、敵を打ち倒す

魔王を倒し、オヒメサマを助けて
やがて世界は平和になる―…はずなのに。

次の瞬間、画面はまっくらやみ。

――ブツリと、電源の切れる音がする。

=====================================


――そう、これで冒険は終わり。あとは長い長いエンドロールだけ。
旅を終えて疲れたキミは
そんなの見ないうちに画面を閉じてしまう。

あとは、全て繰り返し。

世界を救う“ボク”は
知らない誰か(プレイヤー)に
何度も何度も都合よく
“何者であるか”を押し付けられてきた。

アキラ、レイジ、わんポチ、しゅんすけ、アンディ
レイミ、みぃちゃん、キララ、ゆうきくん、グレイ

正に『As You Like It――お気に召すまま!』
あなただけのジョン/ジェーン・ドゥ。

キミの冒険は、ハッピーエンドで終わっても。
ボクの物語は、いつまでも繰り返されていく。
魔王を倒しても、世界を救っても。
ほら、そこのボタンをポチッと押すだけで。

――世界はリセットされるんだ。


=====================================

『主人公の名前を入力してください』

  【 _ _ _ _ _ 】

=====================================


カーソルが、動かないまま点滅してる。
――こんなの、ちっとも笑えない。
道化は笑顔でいなきゃなのに。
観客になったらこんなにも無感動だなんて。

ああ、それでも。
真顔のままでも、最後まで席は立たずに。
ボクはずっとこうして、観続けるよ。

人類が滅ぶ時の、最後の冒険まで。






=====================================

『to be continued?』





→Yes  No

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
(音が無く、色も褪せた映像。無声映画では無い。単純に音を発する源が無いだけ。無限に並べられた書架、にも関わらず手狭な部屋。そこに在るのは糸の切れた鉄人形と、頁を捲る少女人形のみ。生ある者はそこに在らず)
そこまで長い人生を送った訳では無いけれどもね。まぁ、以前はこんな人生だった。他者を知らぬから孤独と分からず、世界を知らぬから境遇に不満を持たず。今思い返してみれば、愉快な環境ではなかっただろう。
だが残念。これは過去でありーー既に乗り越えたものだ。あの墓場と化していた小夜鳴鳥での出会いを始めとして、数多の冒険がボクに中身をくれた。
だからこれは単なる……再確認に過ぎないよ。
(少女は独り、席を立つ)



【《ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)》】

席について、ただひとり。無機質な開幕ブザーの音を聞く。
始まったのか、と疑問に思えるほどの静寂と共に、色の褪せた映像が映し出される。

=====================================

――初めに映るのは、本、本、本。
壁を埋め尽くし、棚という棚を占拠し
無限とも言えるほどに並べられた、書架。
そして、これだけの蔵書を誇りながら
なぜか手狭な造りの部屋。

ここに、本以外で在るのは。
糸の切れた鉄人形と
――頁を捲る少女人形のみ。

=====================================


ただただ、静かで、色のかすれたムービー。
時折紙が擦れ、僅かに布が擦れるのが――音の全て。
元々音がないのでは無い。単純に、音を発する源が無いのだ。


=====================================

ぱらりと捲り、また捲り。
その挙動だけが、これが静止画でないことを知らせる
唯一の動き。

生ある者はそこに在らず
ただ時間だけが流れていく――

=====================================


「まぁ、以前はこんな人生だったね。」
こうして見返してみても、そこまで長い人生を送った訳では無い。
絶望や、衝動。そういった激情めいたものは何もない。
ただただ――孤独に過ごした、日々の姿。
けれど他者を知らないから、それが孤独とは分からなかった。
世界を、その広さも果ても知らないから、この境遇にも不満を抱いてはなかった。
ただ、“今”思い返してみれば、愉快な環境ではなかっただろうと思える。

――だが、残念。
これは過去であり――既に、乗り越えたものだ。
あの墓場と化していた、小夜鳴鳥での出会い。
弔った船長を、人であろうとした船員たちを、戦場を共にした仲間を覚えている。
そして――“小夜鳴鳥は、今も宙を飛んでいる。”

「あの邂逅を始めとして、数多の冒険がボクに中身をくれたんだ。」

書の海で、迷う少女と迷宮を共に歩いた。
囚われた奴隷の少女を助け、頭を撫でた。
広大な宇宙を、古き刀の世界を、鋼の友と跨いで見せた。
――物語はもう、読むだけのものじゃない。自ら歩んで、綴るものだ。
だからこれは彼女にとって、もはや単なる再確認に過ぎない。

椅子に腰かけ、唯ひたすらに頁を捲っていた、かの少女は。

――今、自らの足で席を立つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
─お前は強くなる。俺の子だからな。

懐かしい風景
懐かしい姿

─男の子だからって泣いちゃ駄目なんてこと、ないのよ。

優しい言葉
優しいぬくもり

─たったいまから、あなたのなまえは、くろば!

─はい今日も私の勝ちー!

─くろ、一緒に強くなろう

いとおしい思い出
忘れる事の無い記憶

やめてくれ、と思いながら
釘付けになる視線を反らすことは出来ず

シーンは移り変わり視界一杯に飛び込んだのは
赤々と村一面に燃え広がる炎
ヒュッ、と息が詰まる

…やめ、ろ……

交差する刃先
血に塗れる花
増えていく死体

─くろ!逃げて!

振り下ろされる、刀

っやめろおおお!!!!

堪えきれず叫び、立ち上がる
スクリーンはブラックアウト
気付けば一滴の涙が頬を濡らしていた



【《華折・黒羽(掬折・f10471)》】

獣が交じった躰には、人の為の椅子は文字通り肩身が狭い。
猫の毛並みは引っ掛かり、翼がある分深く腰掛けるには難しく。
――やはりこの身は歪なのかと、青い双眸を苦く細める。

けれど、そんな思いなど一つも汲みはしないで。
カタカタと、キネマが回り、幕が開く。
――最初に響いたのは、やさしい、いつかの光景。


=====================================

─お前は強くなる。俺の子だからな。

懐かしい風景
懐かしい姿
この体が、憶えている

─男の子だからって泣いちゃ駄目なんてこと、ないのよ。

優しい言葉
優しいぬくもり
この耳が、憶えている

─たったいまから、あなたのなまえは、くろば!

─はい今日も私の勝ちー!

─くろ、一緒に強くなろう

いとおしい思い出
忘れる事の無い記憶
分かっていても、未だ姿を追い求めてしまうほどに
この目が、憶えている

=====================================


なつかしくて、いとおしい。そんなあたたかな光景を前にして、胸の内に沸くのは。
――やめてくれ、と。叫びそうになるほどの、想い。
今すぐにでも目を閉じてしまいたい。もうこれ以上、何も見たくはない。そう思ってるのに。彼らの笑みが、彼女らの声が――視線を、釘付けにして逸らさせない。
そして、突如としてシーンは移り変わる。
――この先に、たとえ何があろうとも。
今を生きるものに、過去を、かつてを、止めることは――できない。


=====================================

視界一杯に飛び込んだのは
赤々と村一面に燃え広がる炎

交差する刃先
血に塗れる花
増えていく死体

─くろ!逃げて!

懐かしいはずの声
けれど今は焦燥に満ちた、叫び

振り下ろされるは刀
――火に赤く、血に紅く、染まっていて、


――――…、


=====================================


「…っやめろおおお!!!!」
堪えきれず、吠える様に叫びながら席を蹴り上げて立つ。
今でも目が勝手に探してしまう、あの子の姿が。
もうどれ程求めても、見つけられることはないと思い知らされる。
――そのことを、叶わないと知りながらも否定したくて。
だが途端、まるでその願いが通じたかのように、スクリーンがブラックアウトした。そして、奇妙な浮遊感と共に、自らが次の会場へと押しやられていることに気づく。

――最後まで見れたわけじゃない、なら、どうして。
そこまで思考を巡らせて、ふと頬に手をやれば。

――一滴の涙が、掌に零れて落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九泉・伽
【体の元の持ち主の人格、名前は■で描写希望】
父は人権派弁護士、家では精神面で暴力振う王様
母はいいなり専業主婦
妹がいた
おれは弁護士になる以外は認められず
でもそんな頭の出来じゃない

父が新興宗教絡み(UDC)で数ヶ月家を留守にした時は楽園だった
MMOゲームに引きこもった
帰宅した父はPCを壊し
おれは叱責という精神的拷問を受けた

学力が大幅に低下したおれを父は見限ってくれた
妹はどうなったんだろう、知らない

数年後に両親は新興宗教絡みで殺害される
正義の弁護士死すってワイドショウを賑わした

一番哀しかったのは
大人になってMMOで仲良くしてくれた人を探したら
既に鬼籍たったという事実
ありがとうもさよならも言えなかった



【《■■■■(―――――)》】

これは、何時かの誰かの過去。
席に座る身は“彼”なれど。
映す過去は――果たして、“誰”のものなのか。
それを知るのは、きっと。
――この過去を持ち得るものだけなのだろう。


=====================================

たぶん、それは
傍から見れば――理想的な家族、ってやつに見えたかもしれない
父は人権派と言われる弁護士で
母は大人しい専業主婦
息子のおれがいて、妹もいて
だけどそんなのは唯の肩書き、外面――ハリボテだ

上っ面を剥いでしまえば
父は精神面で暴力を振う一家の王様で
母はそんな父にいいなりの人形で
妹は――さぁ、どうだったかな

プライドの高い父親の言いつけで
おれは弁護士になる以外はどんな人生も認めらなかった
それがやすやす叶うほど、出来のいい頭ならよかったけど
現実は残念ながらそうはいかない
いったい何度それを責められたことか
――回数を覚えてないのも、出来のせいかな

ある時父が新興宗教絡みで
数ヶ月家を留守にした時は楽園だった
何をしたって怒鳴られない
姿や影におびえることもない
――こんなにも気持ちが違うのかと驚いた

だから早々に、嫌々やってた勉強なんか投げ出して
すぐ手に届く娯楽――MMOゲームに引きこもった
あの人と出会えたのも、この時間のおかげ

けれど、こんな状態が長く続くはずはなく
帰宅した父は、見つけるや否やPCを壊し
おれは叱責とは名ばかりの、精神的拷問を受けた

学力が大幅に低下したおれを父はとうとう
いいや、ようやく――見限ってくれた

数年後、両親は新興宗教絡みで殺害された
ああでも、妹はどうなったんだろう――知らない

最後に大きく画面に映されるのは
――正義の弁護士死す、と歌ったワイドショウの画面

=====================================


過去、かつて、遠いあのころ。
流れたムービーは、だけど事実の羅列に過ぎなくて。
心情で言うのなら、おれが一番哀しかったのは。
大人になって、MMOで仲良くしてくれた人を探したら
――既に鬼籍だったという、事実で。
もっと早くに探せばよかった、とか。
あの時壊されていなければ、とか。
どれだけ悔やんでも、もう手が届かない。

結局、“おれ”は。「ありがとう」や「さようなら」、なんて。
――当たり前の言葉も、言えやしなかったんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
毒を喰わらば皿まで、ね
(着席)

『セピア色の映像
視点は僅かに低い
僅かに開いた扉から会議室を臨む』

ここ…

『問い掛けるUDC職員』
“そろそろ、自分を赦してあげなよ?”
『向かいの席は海莉の義兄』

(息を呑む)

“海莉ちゃんを愛するように、自分を愛してあげなよ”
“俺は―”

(聞きたくない
なのに目が離せない)


“―海莉を愛しているのか、分からない”


(胸元を掴む右手に力が籠る
顔は蒼白)

『少年の苦悶の声』
“俺は、自分の感情が本物か、分からない”

『扉が強く開かれる』

やめて

『視点の主の、幼い少女の強張った声』
“わたし、ね”

お願い

“義兄さんの負担になりたくない”

離さないで

“アルダワ、行くね”

その手を離さないで!
(絶叫)



【《南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)》】

「毒を喰わらば皿まで、ね」
自らのプレートを確認し、シアタールームへと足を踏み入れる。
席へと座ればもう、あとは止まらず進むだけ。なら、もう。
――すべてを見届けるまで、私はここにいる。
強くあることを自らに強いる様に、固く手を握りしめて画面へと目を向ける。
映し出されるのは、セピア色。
あの日、あの時の――強がりと、後悔。


=====================================

流れる画面は、僅かに低い。
これはきっと、まだ少し幼かった――あの時の“私”の、視点。
目の前の、僅かに開いた扉からその先にある会議室を覗き込む。

幾度か見たことがあるUDC職員の背中。
“そろそろ、自分を赦してあげなよ?”

優しく語り掛ける、向かいの席の相手は――“私”の義兄。

“海莉ちゃんを愛するように、自分を愛してあげなよ”

諭すような、穏やかな声に反するように。
義兄の声は固く、閉じているようで。
俯き、目をそらし、

“俺は―”

―――…

=====================================


話が、声が、流れるたびに、体が勝手に強張っていく。
息を飲んだ喉が、ひりつくように渇きを訴える。
――聞きたくない。もう、見たくない。
そうだ、あの時。扉の前で。幼い自分が感じたのと同じ感情が
今この胸を焼いている。
けれど、願いとはまるで正反対に。
画面から、目が逸らせない。
そして――一番聞きたくなかった答えを、今再び耳にする。


=====================================

“――海莉を愛しているのか、分からない。”

絞りだすような、少年の苦悶の声。

“俺は、自分の感情が本物か、分からない。”

――途端、扉が強く開かれる。
いいや、開いたのは、“私”。

(やめて…)

視点の主の、幼い少女の――強張った声。

“わたし、ね”

(お願い…!)

“義兄さんの負担になりたくない。”

(どうか、)

――“アルダワ、行くね。”

=====================================


「――その手を離さないで!」
心からの、絶叫。
止めて欲しい、離さないで――傍に、いて。
とめどなく願いは溢れるのに、こんなにも叫んでいるのに。
映画は――過去は、止まらない。
変わらない結末のまま、セピアから黒へと色を転じて。

――少女の旅立ちと、エンドロールが流れ始める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月待・楪
…大体予想つくな

俺のハジマリ、全部ぶっ壊れた…いや、全部ぶっ壊したあの日か
こうして見たら滑稽そのものだな
ヒーローなんてくだらねーのに…憧れて、馬鹿みてェな選択して…なれるわけねーだろ
守るものも、守ってくれる何かすら最初からなかったガキがヒーローになれるわけねーんだよ…!

だからアイツは「最低の失敗作」だって
あの人は「自分には救えない」って言ったんだろ!

わかってんだよ、んなこと…なんで、救えないなら、いっそアンタの手で、あの時、××してくれたら…そしたら…

(ヴィランとしてうまれ変わってしまった日、憧れたヒーローとの対峙と落胆、絶望を思い出してキャパオーバーし静かに泣く)

(アレンジetc歓迎)



【《月待・楪(crazy trigger happy・f16731)》】

「……大体、予想つくな。」
いまにも溜息をつきそうに、眉根を寄せた不機嫌顔で。
たった1席だけ用意された赤い椅子に、どっかと腰掛ける。
途端、厚く閉ざされていたカーテンが引いていき、目の前にシアターが現れる。
最初に表示されるのは、ご丁寧にも自らの名前。

――これから見るのは、“あなた”の過去だ。
そう、念押しするかのように。


=====================================

少しかすんだ色合いで映るのは、きっと。
世界の色が失せた日が、流れているからだろうか。

改造手術から目が覚めて、その身の異変に身をこわばらせる少年の姿。
どうして、なにが、なぜ――?
そんな疑問をぶつけるより早く気が付いたのは

「何もかもが無駄になった。…この、出来損ないが。」

浴びせられる、覚えのない憎々し気な言葉。
科学者から向けられる――蔑むような、冷たい視線。

=====================================


「俺のハジマリ、全てぶっ壊れた…いや、全部ぶっ壊したあの日か。…こうして見たら、滑稽そのものだな。」
初めてヒーローを知った日。
あの焼けつくような憧れと高揚は、まだこの胸の内にある。
だからこそ、目にするたび耳で聞くたび――苦く締め付けられる。
弱い奴らだ、興味がないと、事あるごとに口にする。
それが虚勢だとは、自分が一番よく知っている。
――成りたかった、なりたいんだと、今でもそんな思いがよぎる。
けれど
「…守るものも、守ってくれる何かすら最初からなかったガキが、ヒーローになれるわけねーんだよ!」


=====================================

――新しく、生まれ変われると信じてた。
何時か誰かの、自分にとっての“あの日のヒーロー”になれると思っていた。
苦痛も恐怖も飲み込んだのは、何もかもその為だ。
それなのに――目が覚めたら、世界は真っ逆さまに変わっていた。

ヒーローにしてやろうと誘った、その口から「最低の失敗作」と罵る言葉が響く。
救ってくれると信じてた存在の、その口から「自分には救えない」と告げられる。

昏く澱んだ躰から、希望すらも拭い去られていく――

=====================================


「わかってんだよ、んなこと…なんで、救えないなら、いっそアンタの手で、あの時、……してくれたら…そしたら…。」

願えども、叫べども。映画の結末は変わらない。
変わらずその身をヴィランとして生きる姿が流れ、最後に。
――赤い席に、不機嫌そうに座る姿を映して映画が終わった。
けれどもう、その映像を灰色の瞳は映していない。

――キネマが終わるブザーの音に、吠える様な慟哭が重なった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
過去。特等席。
……趣味のよろしいことで。

座席に座り、頬杖ついて足を組んで。

雑居ビルの一室と思しき雑然とした部屋。
その片隅で膝を抱えて蹲っている子供。
その子供を罵倒しながら暴力を振るう女。
お前が悪い。お前の目が気持ち悪い。お前の存在が気に入らない。
概ねそんな意味の罵声を浴びせられながら殴られ蹴られ。
――これが日常である。いつものことである。記憶のある限り続いていることである。
何の期待も希望もない銀色の眼が映る。

……溜息しか出ませんね。これずっと見せられるんですか?
こんなものを好き好んで見る物好きがいるとは。
……今思えば、産みの母親かどうかも疑わしい女でした。
……煙草が吸いたいですね……。



【《八上・玖寂(遮光・f00033)》】

己の過去を見せるキネマ。そして名前入りで用意された特等席。
「……趣味のよろしいことで。」
皮肉ともとれる呟きを零しながら、男が座席に身を沈める。
長い足を組み、頬杖ついて――始まる前から退屈そうに。
それも思えば致し方のないこと。
――過去と問われて思いつくものが、この態度に足る内容なのだから。


=====================================

色はあれどもどこか彩度は低く。
映るのはたった一か所。

雑居ビルの一室と思しき雑然とした、部屋。
その片隅で膝を抱えて蹲っている子供――これが誰かなんて、言うまでもない。
そしてその子供を罵倒しながら、暴力を振るう女。

お前が悪い。お前の目が気持ち悪い。お前の存在が気に入らない。

唾を飛び散らせ、語気を荒げ。時には支離滅裂になりながら。
概ねそんな意味の罵声を浴びせられる。
目を詰られれば、振り上げた手に横っ面を張り倒され。
存在を罵られれば、力の限り腹を蹴り上げられる。

――これが日常である。いつものことである。
記憶のある限り、延々と、諾々と、続いていることである。

殴られ、蹴られ、倒れた子供が起き上がり
何の期待も希望もない銀色の眼が――

=====================================


――画面と眼鏡の向こう側、眇めた瞳と視線が交わる。
「……溜息しか出ませんね。これずっと見せられるんですか?」
こんなものを好き好んで見る物好きがいるとは、と心底あきれた。
各々過去の色は違えども、陰鬱と分かっていてみる者もいるだろう。
そして今思えば、あの女が産みの母親かどうかも疑わしいものだ。
あの時は疑問にさえ上らなかったが、確たる証拠があるわけではないのだ。
巡らせる頭に、無意識に指がポケットをまさぐる。望みの品に触れる感覚と、ふと仰いだ天井に、ご丁寧に取り付けられた火災報知機を見つけるのはほぼ同時。今度こそ本当に溜息を吐いて、仕方なく腕を下す。
――ああ、

「……煙草が吸いたいですね……。」

物憂げな声で、暫し叶わぬ願いを口に。
とりあえずここを出るに思いつく、冗長ながら最短の方法。
――エンドロールが終わるまで見届ける、それを成すべく再び目を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スミス・ガランティア
【WIZ】
……あぁ、だろうな。
我が見る過去と言ったらこれしかない。(いつになく真剣な顔。翳るアイスプルーの瞳

「氷の城で自由意志を奪われ、周囲を氷と吹雪で閉ざしていた神様がいました。
彼に挑もうとした少年が氷像と化しても神様の感情は動きません。
少年を慕い遅れてやってきた少女が、少年に取り縋り涙を流した時、神様はようやく自分の意思を取り戻しましたが……全てが遅かったのです。
せめて彼らを、こんな冷たくて寂しい場所から出してあげたかったのに、神様は無理矢理膨大な力を引き出されていたせいで力尽き、指一本動かせずにそのまま長い眠りにつきましたとさ」

……目を逸らしてはいけない。これは、我の罪の再確認だ。



【《スミス・ガランティア(春望む氷雪のおうさま・f17217)》】

「……あぁ、だろうな。」
席について幕が開き、画面が映し出すのは、どこまでも白銀のつめたい世界。
その色に染まるだろうことは、元より想像がついた。思い返せど、想い出せども。
――我が見る過去と言ったら、これしかない。
そう、確信していたから。


=====================================

氷の城で 自由意志を 奪われ
周囲を 氷と吹雪で 閉ざしていた 神様がいました

彼に 挑もうとした少年が 氷像と化しても
神様の 感情は 動きません

少年を慕い 遅れてやってきた 少女が
少年に 取り縋り 涙を流した時
神様は ようやく自分の意思を 取り戻しました

けれど

――その時には、全てが 遅かったのです

=====================================


普段は気さくに、友好的な態度を心がけているはずが、画面を見つめる顔はいつになく真剣で。淡々と語られていく物語に向ける、アイスブルーの瞳は。

――どこか、翳りを帯びていた。


=====================================

かわいそうな 少年
かわいそうな 少女

だから せめて
彼らをこんな 冷たくて寂しい 場所から
出してあげたかったのに
神様は 無理矢理 膨大な力を 引き出されていたせいで
力尽き 指一本動かせずに

――そのまま 長い眠りにつきましたとさ

=====================================


カタカタと、フィルムが回って、キネマはエンドロールへと移り行く。

――どうして、誰かを助けるのか。
――どうして、涙を見ぬよう尽すのか。
その答えは、此処にある。
眠る前の青に焼き付いた、冷たくなった誰かと、彼に寄り添う誰かの涙。
力及ばず届かなかった、いちばん近くて、はるかに遠い、あの光景。
贖罪を始めた契機。
だからこそ、エンドロールが終わるまで、この目を逸らしてはいけない。
何故なら、これは、

――我の罪の、再確認なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メノゥ・クロック
時計塔の王国
第一王子メノゥ――それが、僕だった
優しい両親に可愛い弟妹
幸せそのものだったと思う

けれど幸せだったのは僕ら王族だけ
平穏が国民に強いた圧政の上に成り立っていた事を知ったのは成年を迎えてから

父は国民の時間を管理し自由を奪っていた
表面上は豊かだった国も実は国民の生活は苦しいものだった
僕は父に訴えた
でも父にとって国民は歯車のひとつに過ぎず聞き届けては貰えなくて

だから革命の旗振り役として
僕は、剣を執った

ごめんなさい、父上
僕は、貴方を否定します

父を殺めた時の手の感触が、蘇る

僕は国民の憎悪を背負い旅に出た
革命の英雄といえど僕も虐げた者のひとり
もう、終わりを迎えたと思っていた感情
なのに何故……僕は、



【《メノゥ・クロック(時計屋の猫・f01288)》】

時計の針を逆巻いたところで、過去に戻ることはできない。
それは恐らく、かの故郷でも成しえぬことだっただろう。
たとえもし、それができたとしたならば。

「僕は今、こうして此処にはいなかっただろうからね。」

懐中時計をぱちんと閉じて、異なる色の瞳を細める。
過去を見せるキネマと聞いて、此処へ赴いたのに
郷愁の思いが無かった、と言えばうそになる。
けれど其れよりも強く、胸に残った思いがあった。

どれ程この身を安寧に浸そうとも
かつての罪が消えることはない、と。
――それを確かめるために今、此処にいるのかもしれない。


=====================================

――昔々、在るところに
きっとそんな語り出しが似合うだろう
明るくも、どこか淡い色が映る

懐かしきは遥かな景色
高くそびえる時計塔、遍く時間を司りし王国
その国を治める王族の一子
第一王子メノゥ――それが、かつての僕だった
豊かな暮らしと優しい両親
たまに悪戯が過ぎても、可愛かった弟妹
笑みの絶えぬその暮らしは、幸せそのものだったと思う

けれど、隠されていた真実は残酷なものだった
幸せだったのは僕ら王族だけ
享受していた平穏が、国民への圧政によって贖われていたことを
成人となるまで、露ほども知らなかった

父は国民の時間を管理し、自由を奪っていた
豊かにみえた国も、それはうわべだけの事で
国に生きる民の生活は、それはそれは苦しいものだった
時に無知は、罪に問われぬこともある
けれどこの身に流れる王族の血が
――知らぬことこそ罪業と叫ぶ

僕は父に訴えた
――王は国と民を守るべきもの
――虐げるなどゆるされない、と
でも父にとっての国民は
自らの生を豊かにするための歯車に過ぎなかった
幾度となく言葉を尽くしても
何度となく訴えを述べたとも
それゆえに、聞き入れられることは決してなかった

だから僕は、立ち上がる
革命の旗振り役として
掌より零れ落ちる言葉よりも
その身に刻むべく剣を取った

――ごめんなさい、父上
僕は、貴方を否定します

塔を攻め上がり、相対した父の目が見開かれ
何故、と問われるより早くその身を貫いて
――父を殺めた、あの瞬間
凍り付いたように止まった永遠の一瞬を
温かな命の源がこの手を濡らす感触を
今もまだ、覚えている

そして全ての事を成したのち、僕は旅へと出た
革命の英雄といえば聞こえはいいが
元はと言えば虐げた側のひとり
ならば、このまま此処にいるわけにはいかない

王族の責務と、国民の憎悪を背負って
――最後のノブレスオブリージュを、果たそう

=====================================


それはもう、昔の事。
進む針を見つめながら、長きをかけて、区切りをつけて。
心の隅へと片したはずの過去。
だから、もう、終わりを迎えたものだと思っていた。

なのに何故、僕は今。
――頬を濡らしているんだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吾條・紗
【音声無し】

流れる映像はまるで定点観測
金属扉に開いた小窓は鉄格子入り
向こうは外側、こっちは内側
暗い通路の奥から人がやって来ては、去って行く

…また随分と懐かしい

頬杖ついて嗤うのは、それが棄てた過去の切り貼りだから

やってくる人は様々
ただ、大人も子供も皆同じ美しい銀の髪
葡萄酒色の瞳は此方を蔑み同じ言葉を口にする
――刷り込むように

最後にやってきたのは二十歳を過ぎたくらいの女性
彼女は少し、違っていた
瞳に宿るのは侮蔑でなく憎悪
そして口にする言葉は――

『見窄らしい出来損ない
お前など、生まれなければ良かったのに』

彼女の唇の動きをなぞり零した声は映像と同じく色褪せ乾いて

…今更涙も出ねぇけど
いい加減、忘れさせてよ



【《吾條・紗(溢れ仔・f04043)》】

望まぬ過去を見るというのなら、思い当たるのはひとつだけ。
席については溜息一つ、いつもはゆるりと笑みの浮かぶことが多い顔に、今は憂鬱が張り付いたように翳る。

たとえ、縁はとうに絶ったのだとしても。
――それが過去であることに、変わりはないのだから。


=====================================

まるで定点観測のように
画面はひた、と固定されたままだった

硬く重い金属の扉に
開いた小窓には鉄格子が見える
――そこはまるで、牢獄のよう

眺める向こうは外の側
眼が収まるのは内の側

暗い通路の奥から誰そ彼そとやって来ては
――言葉と視線だけを残して去って行く

=====================================


「…また、随分と懐かしい。」
頬杖をついて、翳っていた顔に浮かべるのは、笑み。
しかしかつての郷愁に思いを馳せているとは凡そ言い難い。
明るいとは言い難い回想を、それでも嗤って眇めていられるのは。
――それが棄てさった、過去の切り貼りだからだろうか。


=====================================

やってくる人は様々だった
大人に子供、男に女
ただ、誰もの身を一様に彩るのは
――うつくしい銀の髪、傾けた葡萄酒の瞳

そして、それは
刷り込むように繰り返す蔑みの言葉も
含んだ侮蔑を隠そうともしない視線も
――皆判を押したかのように、同じ

最後にやってきたのは
二十歳を過ぎたくらいの女性
最早区別もつかぬほどに同じ態度を投げられる中
彼女だけは少し、違っていた

その瞳に宿るのは、侮蔑でなく――煮詰めたように昏い、憎悪
そして、口にする言葉は――

『――          』

=====================================


「『見窄らしい出来損ない お前など、生まれなければ良かったのに』」

今しがた唐突に、音声が付いたかのように。
映される映像の、唇の動きをなぞり零される声。
幾度となく聞かされて、何度となく浴びせられ。
最早色は褪せ、乾き罅割れた言葉。
当の昔に切り捨てたと思っていたのに、
こんなにも容易く思い出せる。
まるで、刻まれた呪いの様に。

――今更涙も出ねぇけど
――いい加減、忘れさせてよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨乃森・依音
過去、
俺の過去
どんなもん見せてくれるんだか

…これは幼少時
母さんに連れて行ってもらった遊園地
父が死んでからは酒浸りで俺に暴力を振るい、外に男作って家にも帰らなくなった
そんな母が珍しく外に連れ出してくれて
昔の母に戻ったみたいに優しくて
今日はご機嫌取りをしなくていいんだ、とか
笑顔を見たのはいつ以来だろう、とか

昼食を買ってくるから良い子で待っていてと言われて
そうか、今日はご飯が食べられるのか
楽しさで空腹なんて忘れていた
言うことを素直に聴いて一人で待った
ここで機嫌を損ねる訳にはいかないと
ずっと、ずっと待ち続けた



――母は帰ってこなかった



これは俺があの女に捨てられた日の記憶
俺の復讐心の原点
涙なんて、出るかよ



【《雨乃森・依音(紫雨・f00642)》】

――過去、俺の過去。
今の俺に至るまでの、道行。
それを編集したムービーだというのなら。

「…どんなもん見せてくれるんだか。」
用意された席に座り、照明の落ちた空間でひとり静かに呟く。
それは、お世辞にも幕開けを期待しているようには聞こえない
皮肉と棘を含んだ声だった。

まぁ、それも当然だよな。だって
――期待できるような過去を、思いつけないんだから。


=====================================

くるくると、カラフルな観覧車が回り
マスコット人形が風船を配り歩き
にぎやかな音楽が出迎えてくれる

――覚えてる、これは、あの日の事
まだ幼かった俺が
母さんに連れて行ってもらった遊園地だ

――父が死んでからの母は、酷いものだった
浴びる様に酒を飲んで酔い続け
気づけば俺に暴力を振るうようになって
そのうち外に男を作ったらしく
ろくに家にも帰ってこなくなった
ありきたりな、家庭崩壊の図

そんな母が、珍しく楽し気だったあの日
遊びに行きましょう、と優しい声で
俺を外へ、それも遊園地に連れ出してくれた
その様子が、昔の母に戻ったみたいで
酷く嬉しくて――どこかほっとしたのを覚えてる
今日はご機嫌取りをしなくていいんだ、とか
笑顔を見たのはいつ以来だろう、とか
そんなことばかり考えていた

しばらく園で遊んだ後
昼食を買ってくるから良い子で待っていてと言われて
そうか、今日はご飯が食べられるのか、と
素直に言うことを聴いて一人で待っていた
本当は、楽しさで空腹なんて忘れていたけれど
ここで機嫌を損ねる訳にはいかないと
ずっと、ずっと待ち続けた

ランチタイムの表記が消えても
日が傾いてきて身震いをしても
閉園のアナウンスがかかっても

ずっとずっと、待ち続けていた
それなのに

とうとう、母は
――帰っては、こなかった

=====================================


「…気づけよ、馬鹿。」
いつまでも待ち続ける画面越しの小さな背中に、悪態が飛ぶ。
何をするでもなく、ただただ大人しく待っている様子が。
戻ってこないと薄々わかって、それでも期待しているかつての自分が。
滑稽で、みじめで――腹立たしくて。

だけど今の俺はもう、この日のタイトルを知っている。
“俺があの女に捨てられた日”だ。
悲しみはもはや拭い去られ、今は復讐心の原点となった記憶でしかない。

だから、もう、どれだけ見続けたって。
――涙なんて、出るかよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

喰龍・鉋
【白黒音無】
フィルムの回転音
光を使う、そのたった一つのことがボクを奴隷へ変えた

ボクの飼い主だ
一個の館、子供は沢山居た、けど誰の名前も覚えていない

普段優しい子も、仕事となれば平気でボクを殴る様な奴ら
仲間とは言い辛い歪な生活、でもそうしていれば生きていられた
色々な見世物興行、仲間を殴ったり殺しかけたり、物のように扱われたり
揺られていく、館へ戻って、又運ばれて

ボクは幸せな未来を見ていたいのに

当時のボクには自我がなかったんだ、
そうする事が当たり前だと思っていた
こんなはっきり映像としてボクが皆にしてきた事が映るだなんて
あぁ…ボクは何で…こんな…ごめん…

売りに出される時に少し見えた女性は…ボクの母さん…?



【《喰龍・鉋(楽天家の呪われた黒騎士・f01859)》】

カタカタと、フィルムが回り、キネマが映る。
無音で、無彩で、無機質で。
まるで――昔の、自分そのものの様な、映画。


=====================================

ボクの運命を歪めたもの
それは――光を使うという、ただそれだけのこと
でも、そのたった一つのことがボクを
――奴隷へと、変えさせた

場面は切り替わり、映るのは豪奢な館
ボクの飼い主の住まい
そこにはボク以外にも沢山の子供がいた
けど――ただの1人も、名前を覚えていない

いつもは優しい子も、命令されればいとも簡単に
頭を撫でてくれたのと同じ手でボクを殴った
だけどそんなの、ボクだっておんなじだ
昨日隣で一緒に眠った子を
この手で、二度と起きないようにしたりもした

仲間とは言い辛い歪な生活
でもそうしていれば、生きてはいられた
興行はあの手この手で客の引こうと、残酷な見世物を思いつく
そのたびにボクらは、互いに殴り合い殺し合い
1人が悲鳴と共に倒れ伏せば――歓声が浴びせられた
また1人が血を吐きながら命を落とせば――喝采が巻き起こった
それはもはや、サァカスの獣にも劣る物じみた扱い
客がはければ揺られて、館へ戻って、又運ばれて

絶望と、血と、狂った関係性のなかで
それでも、ボクは
――幸せな未来を、見ていたいのに

=====================================


無音で、無彩で、無機質で。
けれどもはっきりと曇りなく、映画は過去を浮かび上がらせた。

そして――愕然とした。
当時の自らに、自我なんてなかった。そうする事が当たり前だと思っていた。
そしてそうしなければ――生きていけないことだけを、理解していた。
こんなにはっきり映像として、皆にしてきた事が
――ボクの、罪のカタチが、映るだなんて。

「あぁ…ボクは何で…こんな…ごめん…。」
その声が、伝えたい相手に届くことはもう、ない。
どれ程鮮明に目に映っても、流れるこれは、過去に過ぎないのだから。

ああ、それでも。
ほんのわずかに、希望があるのなら。
売りに出される時に垣間見えた、あの女性は
――…ボクの母さん…?

もう覚えてはない、その姿を目にできたこと。
それだけは――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリスティーヌ・エスポワール
【SPD】
姉のニコ(f02148)と参加
合流するかはお任せ

映るのは、故郷の無人の宇宙船
庭園を模した居住区画と、その中の洋館
私達が、自動機械に育てられた場所
私とニコは、ずっと二人
でも、幸せだった
「おねえちゃん、だいすきだよ」

何、これ!
今の私はニコの事なんて大嫌いなのに……!

「ずっといっしょにくらそうね」

私、そんな事望んでない!
嫌い、嫌い、嫌いなの!
心の底では分かってる、私はニコが今でも好き、愛してる
二人は常に共感、共鳴してるから
でも、認められない!
お姉ちゃんを愛してるって、言えるわけない……!

互いを分かりすぎるが故の表層の反発
でも、深層の姉への思慕を見せつけられて
すすり泣きながら目が離せない……


ニコレット・エスポワール
双子妹のクリス(f02149)と参加
合流歓迎

ん、エスポワール号?
って事はあの2人、ボク達か…

『ボクもクリス、だぁいすき♪』

へ?何デレデレしてるの!?
クリスはいぢめ甲斐あるけど、でも…!

『いつまでもいっしょだよ♪』

ちがうよ!キライだよっ!
ホントはスキ!でもキライっ!
ああもう、わけわかんないよぉ…!

◆過去
自分とクリス以外の搭乗者が絶滅した
移民宇宙船『エスポワール号』が2人の故郷
元は個体数維持目的の実験体であり
双子間の共感能力も調整されたが
自我の発達で『過剰な共振』が発生
それがクリスとの反目の主因

◆苦痛
本来クリスの事を誰よりも愛するが
『過剰な共振』由来の反抗心から
「素直に好いていた過去」を泣いて忌避



【《クリスティーヌ・エスポワール(廃憶の白百合・f02149)》】
【《ニコレット・エスポワール(破璃の黒百合・f02148)》】

「成程、双子とはいえ、部屋は別々にあるみたいね。」
「ま、仕方ないんじゃない?でもクリスの泣き顔が見れないのはざぁ~んねんっ♪」
「はぁ!?泣くわけないじゃない、おね、…ニコの馬鹿!」
分かたれた二つのプレートを前に、互いに顔を合わせる二人の少女。
面差しは僅かに異なるものの、ふとした瞬間に
まるで重なったかのように見えるのは、同じくして生まれたせいなのか。
――それとも、それ以上のものがあるせいか。

暫く言い合ったのちに、互いに違うドアを開き、その先へと進む。
――口にしたと同じ思いの奥に、互いへの心配があるのを感じながら。

そうして、招かれた席に座るのはひとり。
異なる視点で見つめるのは。
――同じ時間を過ごした、過去。


=====================================

――宙を渡る船が見える
大地ある星を求め、星海を泳ぐ船
移民宇宙船『エスポワール号』
互いの名に関した、故郷の姿

かつては数多の人を乗せた船に
いまや残された命は、ふたりきり

薔薇に矢車菊、プラタナスにマロニエ
人工的に管理された偽りの季節の中
それでも美しく花葉を伸ばす庭園を模した居住区画
その中に、ぽつりと静かに佇む洋館
私たちが、自動機械に育てられた場所
たったふたりだけのお城

懐かしい景色は、次いで
――庭で遊ぶ私たちの姿を映す

ただただ楽し気に、嬉し気に
咲く花を手に、笑うふたり

「おねえちゃん、だいすきだよ。」
「ボクもクリス、だぁいすき♪」

私とニコは、ずっとふたりきり
でも、幸せだった
――あなたさえいれば

=====================================


何、これ!嘘よ!
昔だからって、そんなこと…。
だって今の私は、ニコの事なんて大嫌いなのに……!

//

へ?ちょっと、昔の私ったら何デレデレしてるの!?
確かにクリスはいぢめ甲斐あるけど、でも…!

キィン、と響くように伝わるおもい。
そう、過去というなら私たちが見るものは同じ。
抱いた感想も、戸惑いも、何もかもが理解できる。
――時折、自らを見失うほどに深いふかい、交わり。


=====================================

「いつまでもいっしょだよ♪」
「ずっといっしょにくらそうね。」
紅い目の少女がはにかみながら
手にした花冠をそっと青い目の少女へと乗せる
おれいだよ、と返されるのは頬へのベーゼ

そう、だって私たちはこうして
お互いさえいれば、他に何もいらなかったから――

=====================================


――違う、私、そんな事望んでない!
嫌い、嫌い、嫌いなの!
…ううん、でも、心の底では分かってる
私はニコが今でも好き、愛してる
でも、そんなの認められない!
こんなに何もかもが儘ならないのに
お姉ちゃんを愛してるなんて、言えるわけない……!

//

ちがうよ!クリスなんてキライだよっ!
ち、違う、ホントはスキ!ホントは…あの時と何も変わらない。
でもだめ、キライ嫌いキライっ!
ああもう、わけわかんないよぉ…!

部屋や空間の隔たりなど、関係なく混ざり合う叫び。
クリス/ニコが、かつてを目にして苦しんでいる声。
私たちはそれすら共有してしまう。
だけど今、頬を濡らしているのがどちらの涙なのか。
私たちにはそれすらわからない。

――二人を絡めとる、過剰なまでの『共振』。
希望の名を冠した船で行われた実験の産物。
永く星を渡るにつれ、失われていく命の多さを憂い
個体数維持を目的として選ばれた実験体。
それが、“わたしたち”。

時折調整も施されたが
成長するにつれて自我は成長し
それに比例するよう共振もその強さを増していった。
思うを超え、想いを越え、
――今ではまるで、呪いのよう。

本当はわかっている。
心の裡ではあの時からずっと、思うことは唯一つ。
だけど思えばそれは全て溶けだしてしまう。
だから必死に反抗心という殻で覆い隠して、遠ざけて。
今は、嫌い/キライとしか口にできない。

ああ、それでも。
いつか、心が自分だけのものになったなら。
真っ先に伝えたいことがあるの。
――あなたを、だれよりもあいしてる、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
過去を見せる映画館、か
……消えた記憶って、映画化してくれるのかなぁ?



一部だけカラーのモノクロ。ノイズ多量な上、無音映画
しかもフィルムを継ぎ接ぎしたようにコマが飛び飛びで、分かりにくい

(拳銃から立ち上る硝煙)(牢獄のような部屋)(怯えた目で銃を構えた、幼い姿の自分)

(一部が抉れた、金色の召喚陣)

(そして、その中央で倒れ伏している金髪の少女)
(赤いケープマントが、更に真っ赤な血で汚れていて)
(傍らに落ちているのは、見覚えのある双眼鏡)

(映画の中の自分が、少女を抱きかかえて泣いていた)
(少女が何か喋ろうとしている。聞こえない、一体何を……)

(暗転、上映終了)

今のはまさか、赤頭巾……さん……?



【《リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)》】

「過去を見せる映画館、かぁ。」

……俺の消えた記憶の手掛かり、あると良いんだけども。

未だ思い出せず、ぽっかりと穴の開いたかつて。
もし本当に、自らの過去を映し出してくれるというなら。
――覗いて、みたい。

期待は薄く、諦観の漂う表情はぬぐえないまでも。
此処へ足を踏み入れた以上は、見届けようと。
帽子の裡の赤を見開く。


=====================================

映し出されるのは、モノクロのフィルム
けれどすべての色を亡くしたわけではない
――赤、紅、淦。それだけははっきりと浮かび上がる
音も、何度もブツッ、と耳障りなノイズをまき散らす癖に
肝心の音声や物音は忘れてきたかのようにない
更にはコマの順序さえあやふやで、素人が継いで貼ったような出来
――これが俺の過去と思うと、躊躇が募る

映し出されるシーン

黒鋼の拳銃を握るに見合わぬ小さな手
玩具ではないと分かるのは
――匂いそうなまでに立ち上る硝煙が見えるから

格子のはめられた窓に、のっぺりとした灰色の壁
部屋というにはあまりにも冷たすぎる
――牢獄のような場所

そしてそこに立つ、怯えた目で銃を構えた、幼い子供
――あれは、きっと、自分だ

―――ジジッ…ガガガ…、…―――

ぐるりと画面が切り替わり、唐突に映し出されるのは
一部が抉れた、金色の召喚陣
そして、その中央で倒れ伏している金髪の少女
その身を覆っている赤いケープマントがぐっしょりと濡れて見えるのは
更に真っ赤な血で汚れていてるせいだろうか
そして傍らに、どこか見覚えのある双眼鏡が転がっていて…

映画の中の自分が、少女を抱きかかえて泣いていた
その少女が何か喋ろうとしている
血のにじむ唇を必死に動かして
『――…      。』

それなのに
――ああ、何も聞こえない

=====================================


終わりさえも唐突に、ブラックアウトで幕が落ちる。
断片的な映像、無音の映画。
だけど、僅かとは言え、確信に触れるものは――あった。

――今のは、まさか。
「赤頭巾……さん……?」
分からない、だけど、符合する点はある。ならば、と。
恐る恐る自らの傍に佇む、赤い頭巾のナニカに尋ねてみる。
だけど、いや、むしろ当然というべきか。
答える声など聞こえはしなくて。

――暗澹たる顔の中で、ただ赤い色が弧を描くばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

プリンセラ・プリンセス
「これは……」
見せられるのは己の過去。
体が弱く病気がちだった自分と、それを労ってくれる数多い兄姉達。
心配させまいと気丈に振る舞うものの、それがいつしか誰かに合わせていくだけで自分の欲求というものが希薄になっていく。
そして国の滅亡と兄姉達の人格の発生。
そこに現れるのは黒騎士アンヘル。
「君には封じるべき過去すらない」
「積み上げた自分の過去がないというのは兄姉達にとっては「器」として最適だったにすぎない」
「そして今も兄姉に合わせるだけ。祖国復興というのも君の願いではなく兄姉の願いではないのか?」
後天的な多重人格者であるがゆえのアイデンティティの脆さを見せつけられる。

アレンジ可



【《プリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)》】

「これは……。」
用意された、真っ赤な椅子。それはどこか、王座にも似ていて。
逡巡の後に座り、流されるムービーを目にする。
ああ、あれは。
――懐かしき、今は亡き私の、国。


=====================================

瞼を押し上げ、最初に見たのはベッドの天蓋。
体が弱く、事あるごとに床に臥せてばかりだった私。
末子といえどもこの身は王族、情けないと己を責めれば
気鬱に表情も翳っていく。
それを慮ってか、数多い兄姉達はいつも優しく労ってくれた。

大丈夫、きっとすぐに良くなるよ。
いつだって私たちがいる。落ち込まないで。

その心遣いは嬉しい反面、ひどく――心苦しくもあった。
これではいけない、せめて心は強くあらねば。
そう思って、心配させまいと気丈に振る舞うようになった。
でもそれがいつしか、誰かに何かに合わせるばかりで
自分の欲求というものが希薄になっていった。

そして、あの日。
国が滅んで兄姉諸共に死に、生き残ったのは私だけ。
憐れと思った彼らが、私の内に流れ込んできたときのこと。
あの感覚を、忘れはしない。

場面は暗転し、その暗澹の中からドロリと――ひとりの姿が浮かび上がる。
纏う赤は過去を手繰る呪剣、深淵を覗く深紅の瞳。
銀河帝国に名を連ねる――黒騎士アンヘルの、姿。

――君には封じるべき過去すらない。
――積み上げた自分の過去がないというのは
――兄姉達にとっては「器」として最適だったにすぎない
――そして今も兄姉に合わせるだけ。

優しくも、憫笑を含んだ声が突き刺さる。

――祖国復興というのも君の願いではなく、兄姉の願いではないのか?

=====================================


――黒き騎士の視線に、言葉に、画面越しでも身が震える。
それは恐怖か、怒りか。それとも――図星故か。
あの時、宙の命運をかけた戦いに身を投じた。
国を亡くした経験あればこそ、世界が滅ぶときいて捨て置くことなどできなかった。
ああ、でも、こうしてみればよくわかる。
一刀切られてまた一刀。そんなことにも気が付かず、言葉に態度に転がされ。
それでも勝てる算段はあるのだと勘違いをして、ただ一言叫ぶこともかなわず。
無様に負けた、その恥辱もある。
けれど映画が終わってなお震えが止まらないのは、きっと。

――君には封じるべき過去すらない。

切られた傷が、今なお痛む。
名を捨てて、兄姉を身に宿し、故国の復興を目指す。

――それは本当に、“わたし”が望んだこと?

返す言葉を持たない問いに、ただ一筋、頬を零れる涙だけが答えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
【POW】
…画面には記憶を無くし、さ迷ってた俺を受け入れた
狂信者と邪神によって壊された村が酷く鮮明に

住む所がねぇなら家に来なと招いてくれたおばさんも
野菜を分けてくれた近所のおっさんも
受け入れを決めてくれた村長と
ご家族も…

皆、あの惨劇などなかったかのように


あ…あぁ!
駄目だあれは受け入れちゃ!
場面が飛び、巨大な魔方陣と祭壇と炎が

旅行客を装ったそれが嗤う

抵抗できない赤子が運ばれ投げ入れられる
四肢を切断されたその母の眼前で

恨め憎めとそれがかの神の供物となる
そうした怨恨の炎を持って捧げる剣を作ると

燃える
皆燃えてしまう
嫌だやめろ!

立ち上がり叫ぶ時に涙流れてるかもな

…無くした過去を探ろうという気はなくしてた



【《尾守・夜野(墓守・f05352)》】

過去を見せると聞いて、期待したことがある。
――無くした過去を、見れはしないかと。
ある日からぱったりと思い出せない、自分の過去、いつかの記憶。
それを求めて、この依頼を受けたというのに。
席について、開いた幕の向こう。
画面越しに映るのは、懐かしいあの村の風景。
――ああ、これを映すのか。
求めることにはきっと、手が届かないと気づいても。
目が、逸らせなかった。


=====================================

よく覚えている、村の情景。
さ迷ってた俺を温かく受け入れてくれた、小さな村。

――住む所がねぇなら家に来な。
気さくに招いてくれたおばさんも。

――腹が減ってるだろう、たんと食べな!
野菜を分けてくれた近所のおっさんも。

――行く先がないなら、此処にいるといい。
受け入れを決めてくれた村長と、ご家族も。

穏やかに日々を過ごしている、何気ない日常の風景。
まるで、今でもずっと続いているかのように。
――何にも、なかったかのように。

だけど、時間は今へと近づいていく。
避けられない終わりへと――あの、惨劇の日へを。

それを告げるかのように、次に画面に現れたのは。
傍目にはなんて事のない、旅行客の姿。
それを快く受け入れる村の人たち。
――それがすべてを壊すと知らずに。

=====================================


「あ…あぁ!」
思わず声があふれた。今にも駆け出していきたい衝動に駆られる。
――駄目だ、あれは受け入れちゃ!
「やめろ、今すぐ追い出すんだ…!」
だが、忠告は届かない。目の前に流れ続けているのは、今ではなく。
――過去なのだから。


=====================================

画面が暗転から、真っ赤に塗り替わる。
映し出されるのは巨大な魔方陣と、祭壇と、炎。

旅行客を装ったそれが嗤う。

抵抗できない赤子が運ばれ、乱雑に投げ入れられる。
四肢を切断された母の、その眼前で。

――恨め!憎め!それがかの神の供物となる。

そうして怨恨を怨嗟を炎へと捧げ
編み上げられるは一振りの剣。
それ以てゆらりと、空を薙げば。

ごう、と音を上げて――炎が、舞う。

燃える。もえる。モエル。
皆、燃えてしまう。
――嫌だ、嫌だいやだイヤダ!!!

=====================================


「――やめろォ!」
画面に向かって、吠えるように叫ぶ。
火に飲まれ、紅く黒く焼け落ちていく村を、ただ見ているのは耐え難かった。
もはや無くした過去を探ろうという気は、かけらもなく。

――ただ、涙を流して立ち尽くしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
思い出すはただ一つ
私の全ての始まり

私には主が居ました
侍に買われ恋人に贈られた
「必ず帰る」という約束と共に

彼女の髪に飾られ、共に待ち続けた
桜舞う春も、照り付ける日差しの夏も
赤く染まる秋も、雪積もる冬も
寂しさに涙を流そうとも、貴女は私を見て微笑んだ
私も貴女さえ居れば良かった
言葉は交わせなくとも共に居られれば
……彼女の命が僅かと知るまでは

孤独に死を待つ姿に心は揺らいだ
私は彼女の想い人に姿を変えた
憐れと思ったのもある
しかし言葉を交わすのは最後
今なら私を見て貰えるのではと
……そして早くこの姿になっていたなら
貴女を幸せに出来たのではと

溢れる感情に私は何も伝えられなかった

伝う涙は後悔の証
今も私はあの日を想う



【《月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)》】

席について唯一人、男は静かに目を伏せる。
過去についてと問うのなら、思い出すはただ一つ。
――私の全ての始まりの、話。

何より知っていようとも、今一度向き合わんと。
――緑葉の瞳を、押しあける。


=====================================

かつての話、いつかの逸話
私には、主が居ました
侍から「必ず帰る」という約束と共に
簪を贈られた恋人
――その人が、長きを共に過ごした私の主

彼女の髪に飾られて
流れる時を共に待ち続けた
――桜舞う花やかな春も
――陽の照り付ける夏も
――赤く葉を染める秋も
――深々と雪積もる冬も
ずっとずっと、待ち続けていた

寂しさに涙を流そうとも、私を見れば微笑んだ
私は、貴女さえ居れば良かった
言葉は交わせなくとも
――ただ、共に居られれば

けれど私は、後悔する
――いずれ人は老い、物は朽ちる
けれどその時間の歯車は
必ずしも、等しく、同じく、進むとは限らない
そのことに私はその時、思い至らなったのだ
――彼女の命が、僅かと知るまで

命の砂は、刻々と零れて落ちる
白く美しかった指は細り
滑らかな肌に刻まれた皺は深い
過ぎゆく時の只中にひとり
孤独に死を待つ姿に
私の心は柳の如く揺らいだ

そうして、一つの決意をする
長らく飾られ、宿った奇跡と命
その顕現する姿を、私は
――彼女の想い人へと変えた
憐れと思ったのもある
然しそれ以上に――言葉を、交わしたかった

突如として現れた想い人の姿に
彼女の瞳は大きく開かれた
その、潤んだ瞳に映る己と
――かつて私を贈った侍と、目があえば

唐突に、胸が軋んだ

――私ははたして、正しかったのか?
いくら姿かたちは似ようとも、私は想い人にあらず
彼女を慰めるに、これほど残酷なことは、無かったのでは?

いいや、いいや、もしかしたら
今なら“私”を見て貰えるのでは?
そして早くこの姿になっていたなら
貴女を幸せに出来たのでは――

想いはまとまらず、細る息に為す術もない

脈打つ身は、静かに髪を彩るよりも御しがたく
巡る思考は、ただ傍に在ったよりも紐解き難く
ただただ溢れる感情を前に、私は

――何も、伝えられなかった

=====================================


頬に、熱さを感じた。
指で拭えばわずかに濡れて、自らが泣いているのだと分かる。
――これは、後悔の証。
未だにあの時芽生えた疑問に、問いに、解は出せねども。
永く続く生の中、疾く過ぎ行く命を慈しみながら。

――私は今も、あの日を想う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
流れるのは失くした「日常」
俺らは間違いなく悪で、好きなだけ暴れ散らしとった
仲間割れも日常茶飯事で、けど毎日騒いで楽しかった

「「何でコイツと一緒にされなアカンねん」」
息だけは合っとった相棒とそう言い合って
優しいけど頼りないのに頼もしかった師匠が「キミらホンマに仲ええねえ」て言うから「目ぇ取り換えたらええんちゃう」て言い返して
頭領はバリ高なテンションで演説しよる
「さあ、同志達よ!次は何をしようか!」

なあ、もうええやん、早く終わらしてや
もう会えへんのに会いたなってまう
もう戻ってきぃへんのに

俺はあの日間に合わんかった
だからもう「次」は来ぃへんねん
あの「最後の日」だけ、何で流してくれへんの
なあ、何でなん



【《シャオロン・リー(PINEAPPLE ARMY・f16759)》】


用意された席は、たった1つ。赤く、ぽつんと置かれたその椅子に1人で座って。
――映し出されるのは、にぎやかで、鮮やかな、“みんな”の姿。


=====================================

「よくぞ来てくれた同志!」
初めて出会ったあの日の事。
我先に、と押しのけ押し出し、どわっと近寄ってくる懐かしい顔、かお、カオ。
テンション高く頭領が迎えてくれた、“俺”らの組織。

「「何でこいつと一緒にされなアカンねん!?」」
抗議の声を上げたつもりが、ハモってるくせに、とげらげら笑われて。
余計に腹立たしくて抓ってやったら蹴り返され、あれよと始まる大乱闘。
そんな風によう喧嘩したけど、不思議と息だけはあっとった相棒。

「君らホンマに仲ええねぇ。」
「いやいやいや、どこが?目ぇ取り変えた方がええで。」
優しくてどこか頼りないのに、誰よりも頼もしかった師匠。

「なぁ、次は何しよか。」
たいていはしょーもない悪だくみだったけど
それでもああしよう、こうしよう、って
話し合ってるだけで、どこまでもいけそうな気になった。

――俺らは、間違いなく悪党で。
好きなだけ暴れ散らして、仲間割れも日常茶飯事やったけど。
毎日が本当に楽しかった。

そんな日常がずっと、ずっと――

=====================================


いつまでも、続きそうな気がしていたのに。
唐突に流れていた映像がぶつんと切れる。そしてカタカタとフィルムが巻かれ、騒がしい冒頭に戻っていく。あの「終わりの日」が、映像の中ではいつまでも来ない。フィルムの中でみんなばかりが一緒に居てて、楽しそうで。

俺はあの日、間に合わんかった。
だからもう「次」は来ぃへんねん。
なのに、あの「最後の日」だけ、何で流してくれへんの。
なあ、何でなん?こんなん
――今でもどこかに、みんながおるみたいやん。

「…そんなん、卑怯やん。」
おもわず口をついて出たのは、そんな言葉だった。あの時のままの声が、笑顔が、いつまでも脳裏に焼き付いて。もうどこにもいないのに、会いたくてあいたくて仕方ない。
ずるい、ひどい、さみしい――でも。
「…嘘や。」
本当は、席に座る前からわかっていた。過去と聞いて、そこに何が映るかなんて。
何一つ変わらず、進まず、同じ場面ばかりが繰り返される映画。
――当然だ、だってもうこの続きは、どこにも無いのだから。

自分から会いに来て、居ないみんなにだだをこねて見せるなんて。
「卑怯なんは、俺やな。」

――小さくつぶやいたその頬を、涙が静かに滑り落ちて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
人生は芝居のようなものだ
鑑賞に耐え得る半生だと良いよねェ
自分の名をなぞったのち席へ

あァ、幕が上がる
彩あれど音の無い画面に映るのは、幼少時代の僕
懐かしいなァ、折紙で遊んでいる
隣で共に紙を折る男は、偶に逢いに来る父で
傍で2人を見守る女性は亡き母だ
辛うじて幸せだった頃の記憶

暗転──
嗚呼、邸が燃えている
齢十七の僕が貌を歪め、何か吠えている
忘れていたな、僕はあんな貌も出来るのか

其の視線の先、口許を血に染めた父が
事切れた母を腕に抱き哄笑している
そうだ、街の支配者たるあの吸血鬼は
母を殺め息子すら葬ろうとした

穢れた血を引く此の身に涙など無いさ
見届けよう、お前の罪を忘れぬ為に
画面越しに父の紅い瞳を睨め付けて



【《神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)》】

近くで見ると悲劇となり、遠くから見れば喜劇となる。
さても奇なる舞台の名は、「人生」という名らしい。
主役は幾億、端役も同数。
――そう、人生は、芝居のようなものだ。
ならばせめて。

「鑑賞に耐え得る半生だと良いよねェ。」
プレートに刻まれた、自分の名を確かめる様に指でなぞって。
両開きの扉の奥へ、ゆるりと足を進めていく。
誂えたかのような1人席、赤く紅い天鵞絨の椅子。
身を沈めれば、即座に鳴り響く、開幕のブザー。

――あァ、幕が上がる。
観客は自分、主役も自分。
降りるも立つも最早叶わず。

ならば、最後まで見届ける迄。


=====================================

千紅万紫の彩あれど、衣擦れひとつ耳には届かず
どうやらこの万色無音が、僕の、僕たる過去らしい

映るのは、今の面影を残した少年の姿
――あれは、幼少時代の僕か
懐かしいなァ、折紙で遊んでいる
隣で共に紙を折る男は、偶に逢いに来る父で
傍で見守る女性は亡き母だ
図案の難しい部分を、ああでもないこうでもないと
共に思案しながら父と子で折り進め
その様子に、紅茶を口にしながら柔らかに母が微笑んで
童話の挿絵にもなりそうな、平和な平和な昼下がり
――時は僅かにしかなくとも、幸せだった頃の記憶

かくて画面は暗転し――煌々と炎が燃ゆる
嗚呼、正に儚いとはこのこと
短くはない月日を過ごした邸が、燃えている

その焼け落ち行く姿を背に
齢十七の僕が貌を歪め、何か吠えている
忘れていたな、僕はあんな貌も出来るのか
けれど、視線の先を見れば
――かの表情も理解できようというもの

そこにいるのは事切れた母を腕に抱き
哄笑している悪魔の姿
そうだ、街の支配者たるあの吸血鬼

母を殺め、息子すら葬ろうとした惨劇の主
――口許を、腕に抱きし女の血に染めた、父の姿が

=====================================


「…懐かしい、と締め括るには、些か血腥い活動寫眞だねェ。」
嘆息交じりの感想は、誰の耳にも届かず消えて。
常はうつくしき貌に道化の仮面を張り付けて、享楽に道楽に生きれども。
今ばかりは慟哭せしかつての自分に似てるだろうか。
画面越しに、父の紅い瞳を睨め付けるその様は。

穢れた血を引く此の身に涙など無く。
なればフィルムが止まるその時まで、視線を逸らさず見続けよう。
――お前の罪を、忘れぬ為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・スノーバー
見に行っちゃった人達、無事でありますように
専用の席が有るって凄いねっ

座って早速広がったのは、広大な山の自然。
綺麗な景色…凄くこの景色は思い出せる位、印象が深かったんだ。
気持ちいい空気を胸一杯に吸って、楽しそうに歌ってた鳥さんの声が段々
酷く怯えた、悲しい悲鳴のような音になってて
気が付いた時には、ごぅと燃えて黒くなっていく地面。
ちっぽけなぼくは全然火を消す事が出来ないから、ぐったりしてた小動物さんを頭とか腕とかに乗せて
必死に煙から庇うだけで精一杯だったんだ…

居場所が無くなるのは、とても悲しいし
灰や炭になった自然が元通りになるには、とてもとても長い時間がかかるし
…ぎゅーって、なんだかとても寂しくなる



【《ユキ・スノーバー(しろくま・f06201)》】

既に幾人かの被害者を生んでいるキネマ。
予知の情報では、元凶を倒せれば危害が加えられることなく解放される、とはあったが。現状姿も見えず、どの様な扱いを受けてるかもわからない、というのはやはり気にかかる。どうか――
「見に行っちゃった人達、無事でありますように。」
ちいさく、祈るように言葉にして。自分の名前の書かれた部屋へと入っていく。
其処に在るのは、真っ赤な席と幕の引かれた大きめの画面。
「専用の席が有るって凄いねっ。」
事件だというのはよーくわかっている…つもりだけど。やっぱりこうして、自分の為だけにここが用意された、と思うと、どこかわくわくした気持ちもあって。
よいしょ、と軽くジャンプして、座り心地を確かめながら。
――上がる幕へ、期待を込めた目を向けた。


=====================================

パッと明るくなって、映るのは広大な山の自然。
――わぁ、懐かしいなぁ!
この景色はこうやってすぐ思い出せる位、印象が深かったんだ。
お気に入りの岩陰や、秘密基地っぽい小さな洞窟。
紅くてかわいい木の実が生る木、景色のいい山原。
みんなみんな、憶えてる。

だけど、あの日――

初めは、いつもと同じような、穏やかな日だった。
空は穏やかで、樹々もさわさわと心地よさそうで。
それなのに。
気持ちいい空気を胸一杯に吸って
楽しそうに歌ってた鳥さんの声が段々
――酷く怯えた、悲しい悲鳴のような音になってて。
気が付いた時には、ごぅ、と唸るような音と一緒に
紅く燃えて、黒くなっていく地面が見えた。

――山火事。

そうわかっても、ちっぽけなぼくは全然火を消す事が出来ないから
ぐったりしてた小動物さんに駆け寄って
苦しそうな様子をみたら兎に角必死に
頭とか腕とかに乗せて隠して
もうもうと上がる煙から庇おうとして。

それが燃えていく山を背に、ぼくができたこと。
ぼくの小さな手では、それが――精一杯、だったんだ。

=====================================


見初めたときは、キラキラと輝くような笑顔だった。
だけど今は、小さな眉が寄せられ、視線はうつむいてしまっている。
――居場所が無くなるというのは、とても悲しい。
皆で過ごした場所が、目の前から削り取られてしまう。たとえ記憶にはあったとしても、もう、同じ風景の思い出が増えていくことは、もうない。
再生を期待するにも、灰や炭になった自然が元通りになるには、とてもとても長い時間がかかる。いずれは元に戻るとしても、その前に生を終えてしまう動物たちもいるはずだ。そう思うと、ひどく胸がぎゅーっと、締め付けられるようで。
ああ、そっか。

――この気持ちがきっと、寂しいってことなんだね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミスティ・ミッドナイト
涙も流さず、静かに最後まで観続けます。

青空、牧草地。ピクニック用の敷物の上にバケット。
少年と少女と、私が座っている。

羊飼いの男が、羊と犬を連れて近づいてくる。
少年が犬にチーズを一切れやると、犬は嬉しそうに咥えて飛び跳ね走り回った。少女は駆け出していって、犬と遊び始めた。
私はワインを飲みながら、2人のあどけない姿を見つめる。

羊飼いが近づいてきて、素敵なお子さんですね、と言った。
2人は私の子でなかったし、任務上の要人に過ぎなかったが、嬉しかった。特別な存在だった。
2人は共に過ごしていくうちに、私の凍てついた心に滑り込んできて、内側から溶かしたのだから。

その日は生涯で最も屈託なく、幸福な一日だった。



【《ミスティ・ミッドナイト(夜霧のヴィジランテ・f11987)》】

まずは、名前を視認する。プレートの印字。
ミスティ・ミッドナイト
――間違いなく自らのものだと確認してから、ドアを開けて席へと進む。
足をそろえて席に着き、ただ静かにキネマの開幕を待つ。
――その当たり前ともいえる一連の行為に、ふと浮かび上がるのは几帳面さ。
いや、それを超える、固く動かしがたい、“何か”。
物事には順序があり、2が1を超えて前に出ることは、在ってはならない。
彼女の内に或る何かが、そう強制しているのだろうか。

――やがて、キネマが回りだす。


=====================================

晴れやかな青空と、広々とした牧草地。
そこに鮮やかな色を加える、ピクニック用の大きめの敷物。
上に載っているのは、軽食にと持ち込んだ
チーズにバケット。そしてワイン。
少年と少女と、そして――“私”が座っている。

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冒頭、背景、そして登場人物。
カタカタと音を立てながら、等速に。
何もかもが規律正しく、初めから――終わりへ向けて。


=====================================

羊飼いの男が、羊と犬を連れて近づいてくる。
少年が犬にチーズを一切れやると、犬は嬉しそうに咥えて飛び跳ね、走り回った。
楽しげなその様子に少女はたまらず駆け出していって、犬と遊び始めた。
“私”はワインを飲みながら、2人のあどけない姿を見つめる。

羊飼いが近づいてきて、素敵なお子さんですね、と言った。
――いいえ、違います、とは言えなかった。
本当は2人は私の子ではなかったし、任務上の要人に過ぎなかった。
でも、そういわれて胸に浮かんだ感情は、喜びだった。
何にも代えがたい、特別な存在だった。
2人は共に過ごしていくうちに、私の凍てついた心に滑り込んできて

――内側から、溶かしていったのだから。

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――あざやかに、思い出す。
いいや、何一つとして忘れてはいなかったけれど。
それでも改めて、あの時の日の温かさを。
駆け抜けていく風を切る音を。
少年と少女の、笑顔を。
そして、なによりも。

――その日は生涯で最も屈託なく、幸福な一日だったことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
・アドリブ歓迎

夢を、見ていたんだ
革命の英雄になる夢を

圧政に苦しむ人々を、自由にしたくて
大き過ぎる格差を、壊したくて
ずっと、耐えて、種を蒔き続けた

だけど、同志は皆、安定を求めて
死を恐れて、いなくなって

だから、一人でやった
欺瞞を暴いて
不正を明るみにして
真実を見せた
立ち上がってくれと、願って 

何も変わらなかった

世界はそれでも変わらなかった

同志たちと同じように、リスクを恐れて、安定に縋った

俺は英雄にはなれなかった

分不相応な端役が、出しゃばっただけ

2回目のチャンスがあった

俺は逃げた

命を投げ打てば、逆転できたのに
命が惜しくなって、諦めた

俺のせいで、あの物語は永遠に終わらなくなった

選択肢を全て、間違えたんだ



【《ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)》】

名前の刻まれた金色のプレート。ぽつん、と赤く浮かび上がる椅子。
その、自分の為だけに用意された席に一瞬、座ることをためらった。
みるからに怪しいとか、映画の内容が気がかりだとか、そういうものもなかったわけじゃない。けれど違う、引っかかった理由は――もっと、他に。
――そう思いかけて、思考を放棄した。
掻き消すように、乱雑に椅子へとその身を投げて、始まる映像へと視線を向ける。
ああ、わかっているぜ。
俺の過去を流すっていうんなら。
――きっと見えるのは、夢を見ていたころの話。


=====================================

夢を、見ていたんだ
――革命の英雄になる夢を

圧政に苦しむ人々を、自由にしたくて
大き過ぎる格差を、壊したくて
ずっと、耐えて、種を蒔き続けた

だけど、同志は皆、安定を求めて
死を恐れて、ひとり、またひとり
いなくなっていった

悔しくて、歯がゆくて、かなしくて

だから、一人でやった
欺瞞を暴いて
不正を明るみにして
真実を、見せた
どうか、この現状に憤ってくれ
これでは駄目だと気が付いてくれ
――俺と一緒に、立ち上がってくれ、と
そう、願って 

だけど結局、何も変わらなかった
かき集めた歪に、晒された無情に
世界はそれでも――変わらなかった

同志たちと同じように、誰も彼も
リスクを恐れて、安定に縋った

俺は――英雄にはなれなかった
結局はそう、何のことはない
分不相応な端役が、出しゃばっただけ
それだけの出来事になった

そして、幾ばくかの時が過ぎた後
何の因果だろうか
2回目のチャンスが、あった

それは、命を投げ打てば、逆転できるだけの話だった
何もかもを捧げれば、夢見たヒーローになれる機会だった

それなのに
俺は――逃げた

命が惜しくなって、諦めた

なんだ、こんなの結局
――逃げた同志《端役》と、おんなじじゃあないか

=====================================


カタカタと、延々と、フィルムが回る音がする。
まるでずっとこのまま、続いていくかのように。

――俺のせいで、あの物語は永遠に終わらなくなった。
選択肢を全て、間違えたんだ。
その後悔が悔しいのか、苦々しいのか。
歪んだ顔で逸らしていた目を、画面をよぎる文字がすくい上げる。
真っ黒なエンドロール。
そこに流れる、たったひとり分の名前。

“ヴィクティム・ウィンターミュート”

端役であることを己に課そうと
この映画でだけは――過去においては主役なのだと、まるで念を押すように。
そう、たとえどれがどれほど逃れたい舞台だろうと。
――脈打つ限り、降りることは叶わない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒・烏鵠
過去ね。オレの過去。上映時間やばそーね。マ、のんびり見ますかネ。

(カラカラ回る単色キネマ、セピアに色あせ、ノイズやチラつきがひどい)
(写るのは人、人、人。たまに人間以外の種族も写るが、基本的には人ばかり。次から次に、別の人間が写る)
(その隣には自分がいる。人間に化けて、人間の隣で、人間のような顔をしている)
(かつての恋人。かつての配偶。隣人、友人、仲間、好敵手……)
(最後に写るは原初の草原。黄金の夕日。野狐の子供と並ぶ、旧文明の民族衣装を着た子供)
(子供の口が動く。頭の中に懐かしい声が響く)

(今はもう誰も居ない)

……ハハ。弟たち連れてこなくて正解だナ、コリャ。
(くぅん、と肩の子狐が鳴いた)



【《荒・烏鵠(古い狐・f14500)》】

「過去ね。オレの過去。上映時間やばそーね。」
見目よりも重ねたものがあるのか、思い入れが深いのか。
流されるだろう時間を思うと、少し物憂げな表情を浮かべる。
さりとて、見終わらなければ先へは進まない。なら。
「…マ、のんびり見ますかネ。」
せめて、心持ばかりはゆるりと構えて。
――そして、過去の放映が始まった。


=====================================

大きな画面いっぱいに映るのは人、人、人。
柔らかに笑う、大柄な男が居た。
怒りっぽくも、どこか可愛らしい少女が居た。
年老いてなお、元気だけはあり余った老夫婦が居た。

たまに尾っぽや羽なども映るが
大別してみればやはり――人が多い。
右へ流れて左から、果てへ駆ければ近くから。
次から次へ、くるくると別の人間が写る。

=====================================


カラカラ回る単色キネマ。
セピアに色あせ、ノイズやチラつきもひどい。
それでも目が離せないのは――懐かしさ故、だろうか。


=====================================

季節が廻り、時が回り。
巡りゆく人々の隣にいるのは、自分。
人間に化けて、人間の隣で、人間のような顔をして。
同じ時間を過ごしている、振りをして。

移り変わり、立ち代わり。
今度は自らの人生と交差した人々の顔が流れゆく。
かつての恋人。かつての配偶。隣人、友人、仲間、好敵手……

巻き戻り、振り返り。
最後に写るは――原初の草原。黄金の夕日。
野狐の子供と並び、旧い文明の民族衣装を着た子供が映る。

その子供が振り返り、何かを告げようと口が動く。
けれど、その声はノイズに紛れて――きこえない。

=====================================


カタカタ止まる過去キネマ。
思い出乗せて、最後まで。
止まってしまうのは――もう、今は、だれもいないから。

それでも。
たとえキネマが終わろうとも。
出会った人たちとの思い出は、鮮やかに脳裏に焼き付いていて。
流れなかったはずの声が、頭の中で懐かしく響いていて。
だから、ほんの少しだけ――むねが、しびれるようで。
「……ハハ。弟たち連れてこなくて正解だナ、コリャ。」
呟きに、くぅん、と気遣う様に。肩の子狐が鳴いた。

そして、座っていた姿がとけるように消えたのは、次の幕間へ向かう条件を満たした故だろう。
それが果たして最後まで見終えたからなのか、それとも――涙を流したからなのか。その答えは、

――烏鵠と、子狐だけの秘密。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虹結・廿
不可思議な空間に首を傾げつつ、小さな体で席に座り込み、無機質に流れる"記録"を眺める。

激しさは無く、しかし、静かでは無い。
映画と言うには余りに無機質に流れる映像を、

大嫌いな母との日々を。

_母様はあまり良い人ではありませんでした。
いえ、世間的に言うなら悪い人、です。
邪神教団の教祖なんて物をしていたのだから当たり前です。

でも、その最期はとても呆気無い物でした。
娘を依代にして何年も掛けた邪神召喚がUDC組織の介入で水の泡。
自分もその時流れ弾で即死だなんて、

笑っちゃいます。

いえ、笑えません。

私はただあの人に愛して欲しかったのに。

どれだけ悪人だろうと、私にとって唯一の母だったのに。

嫌い、嫌い、大嫌い。



【《虹結・廿(ですますプロダクション・f14757)》】

「一見、普通の映画館に見えますが…。」
外観はそう、唯のキネマのようだった。けれど、足を踏み入れたらわかる。
――不可思議な、空間。
いや、中身だって見てくれは、少人数制の貸付式シアターと何ら変わりない。だけど、意識出来るぎりぎりのラインで、本能が訴える。
――ここは、何かがおかしいと。
その奇妙な感覚に首を傾げつつも、小さな体は先へと進み、指定された席に座り込む。そして、途端に始まる映画を、じっと見つめる。

それは、淡々と流れる"記録"。
激しさは無く、しかし、静かでも無い。
ただ、映画と言うには余りに――無機質な、映像。


=====================================

記録、記憶、レコード。
これは、かつての日々の再生。
――大嫌いな母との日々の、再放送。

――母様は、あまり良い人ではありませんでした。
いえ、世間的に言うなら悪い人、です。
言い過ぎ?…それはどうでしょう。
これを聞いたらきっと、あなたもそれはそうだと頷きますよ。
だって母様は
――邪神教団の教祖、なんて物をしていたのですから。

でも、その最期はとても呆気無い物でした。
娘を依代にして行った邪神召喚。
今にも夢が叶うというその瞬間に
流れ込んできたのは武装した人、ひと、ヒト。
クリーチャーと戦うもの――UDC組織の介入。
どこで通報があったのか、はたまた運が悪いだけなのか。
何年も何年もかけた苦労が、これであわれ水の泡。
しかも更には自分さえ
――その時の流れ弾で、即死だなんて。

呆気ない結末、つまらないラスト。
こんなの、本当に――

=====================================


「…笑っちゃいます。」
真っ赤に染まる画面を前に、ぽつりと呟きが零れる。
幼い少女が見るには、余りに無機質で残酷なムービー。
けれど言葉とは裏腹に、その表情は固く曇って見えた。

いいえ、本当は笑えません。
だって、私はただあの人に
――愛して、欲しかったのに。

普段は押し込めてしまう感情も、過去を目にした今は。
自ら以外はだれもいないこの空間では。
泡沫の様にあふれ出してしまう。

どれだけ悪人だろうと、私にとって唯一の母だったのに。
嫌い、嫌い、大嫌い。
たった一つの願いもかなえてくれない

――母様なんて、だいきらい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マニッシュ・ベリー
(昔話風映画を見て号泣)

ある所に、ベッドの上で寝たきりのお婆さんがいました。
夫のお爺さんは、お婆さんの笑顔を見る為に
今まで触ったこともなかったギターを買って毎日毎日練習しました。

「やあハニー、落ち込んでいるのかい?」

ある時そう言って、お婆さんの前に躍り出ました。
演奏は下手くそで、なんだか可笑しかったけれど
お婆さんは心の底から笑顔になりました。

お婆さんが死んでしまった後も、お爺さんは演奏を続けました。
一躍トップスターに!…とはなりませんでしたが、
知る人ぞ知るロックンローラーとなったのです。

そんなお爺さんには、ステージ上で必ず言う決まり文句があったとさ。

「ハニー。
キミの笑顔を
取り戻しにきたんだ。」



【《マニッシュ・ベリー(ロッキンブルー・モンスター・f12703)》】

プレートの張られてたのは、自分の名前。
――ま、そりゃそうか。でもきっと、この映画。
席について、幕が開いて、フィルムがくるくると回りだす。
オレの過去が映画になるって言うんなら、決まってることが1つだけある。
――主役は彼以外にいないってね!


=====================================

――Long、Long、ago
…と、言うにはまだもう少し最近の事。

ある所に、ベッドの上で寝たきりのお婆さんがいました。
長く患えば、人は自然と気が落ち込むもの。
日に日に笑顔が減っていくお婆さんを心配して
彼女の夫であるお爺さんは、何かできないかと悩みました。
そうして、手に取ったのは1本のギター。
今まで触ったこともなかったギターを相手に
毎日毎日、練習しました。

「やあハニー、落ち込んでいるのかい?」

ある時そう言って、お爺さんはお婆さんの前に躍り出ました。
披露するのはようやく形になった1曲だけ。
それもまだまだ下手くそで、コードもミスれば指もしっちゃかめっちゃか。
それでも必死な様子が、なんだかとっても可笑しくって。
――お婆さんは、心の底から笑顔になりました。

そうしてやがて、お婆さんが天国へと旅立っていき。
それでもお爺さんは演奏を続けていました。
コツコツ弾いているうちに、噂がうわさを呼んで
やがて彼は誰もが知るトップスターに!

……
………とは、なりませんでしたが。
それでも、知る人ぞ知るロックンローラーとなったのです。

誰かの誕生日の席に、小さな音楽祭のステージに。
いつでも駆けつけて気前よく演奏をしていくお爺さん。
そんなお爺さんには、どんなステージの上でも
必ず言う決まり文句があったとさ。

「ハニー。
――キミの笑顔を、取り戻しにきたんだ。」

=====================================


いつもの文句、いつもの笑顔。
物語のように語れるお爺さんは、あざやかで楽し気で。
気が付いたらもう、顔がぐちゃぐちゃになるくらい泣いていた。
それでも、最後まで映画を見届けられたのは、何かの奇跡だったのかな。

ずっとずっと、一緒にいた。
たった一人に歌を捧げ続けた相棒。
オレの、最高のスター。

――もう会えないなんてさみしいよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヌル・リリファ
簡単な言葉は平仮名、難しめの言葉は漢字です

(映っているのは。血塗れになった地面と、全身を真っ赤に染めた少女のすがた。

少女の体に傷はなく、全ては返り血のようだ。血で染めた原因の存在は映像の中には映っていない。
映像の中の少女は、一筋、涙を流して。何をするでもなくそこに立っていた。
その少女の姿はわたしにそっくりで。)

―――ッ……!

(その光景を、記憶をなくした少女は覚えていない。思い出せもしない。
それでも。

その映像は、自身の根源を揺さぶったようで。

なぜ流すかもわからない。流したことにすら少女自身は気づいていないような、そんな無機質な涙を一筋。
映像の中の少女と同じように、表情を変えないまま落としていた)



【《ヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)》】

過去と聞いて、思い当たるものは――自らの裡に、ほとんどなかった。
それ故に、探しているものにたどり着くための手掛かりが、ちっとも見当たらない。
だから、気が付いたら足がこのキネマへと向いていて。
もしかしたら、もしかすれば。

――ねぇ、マスターが、そこにはいるの?

何処にいるかもわからないマスター。
待っても待っても、今なお帰ってこない、マスター。
その姿が、ここでなら、見れるのかもしれない。

――僅かに期待を込めて、幕が上がるのを見つめた。


=====================================

流れる過去に、音はない
映っているのは、一つの色だけが鮮やかな映像
朱く紅く――赤い、色

もはや元の色が分からないほどに、血濡れた地面と
それよりも濃く、匂いすら想起させるほどに
――全身を真っ赤に染めた少女のすがた

少女の体に、目に見える怪我は見当たらない
少女の体を、赤く染め上げたモノも映らない

映像の中の少女は、一筋、涙を流して
ただ、何をするでもなくそこに立っていた

そして、何よりも
天の星を宿す目が見つめる先の少女は
――見間違えそうなほどに、わたしにそっくりで

=====================================


「―――ッ……!」
硬質な表情が、僅かに揺れる。

その光景を、記憶をなくした少女は覚えていない。
なにひとつ、思い出せもしない。
それでも。

流された、過去と思しき映像に
――ぐらりと眩暈を感じるほどに、根源を揺さぶられた。

なぜ流すかもわからない。
いや、むしろ流したことにすら気づいていないような。

同じ顔、同じ瞳、同じ無機質な表情。
鏡の様に全てを写しとった少女が、画面を境に向き合って。
――同じように、一筋の涙を零す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゲンジロウ・ヨハンソン
○アドリブ歓迎

わしが32,3の頃じゃろうか。
20そこそこの娼婦と仲良くしてた頃があったな。
身体の売買、そういう関係以外での話じゃ。

○過去
その娼婦と知り合ったのは、務めていた酒場の裏手。そこで野良猫達に餌やってるのを見つかった。
互いに育ちは犯罪都市、動物とはいえ弱者に施しをする姿が珍しかったんだろう。

それから何度も、その娘が自分を買えよと迫ってきたっけな。
時には食事を、時には映画を、売春と言いつつあれはただのデートだったんだろうな。
俺は妹でもできた感覚だったがな。

俺は上役が悪と判断した相手を消す殺し屋、あの娘は売女。
互いに手も身体も汚れきっていたが、2人でおる時は、純粋で在れた…夢の見すぎだな。



【《ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)》】

犯罪都市に生まれたアウトロー。
オブリビオンを使った自爆テロの主犯者。
それが、俺が語るかつての“己”。

まぁ、それが嘘かホントかなんてもう、俺にしか分からない話だ。
だからいつも“信じるも信じないも好きにしな”と付け足した。

だけど、きっと。
――今、自分が目にする過去だけは、偽りでなく。


=====================================

少しセピアに色のとんだ、かつての都市の一角を映すムービー

現れたのは今より些か若い姿のわし――32、3の頃じゃろうか
そこに戯れ半分にしな垂れかかってくる女
…ああ、見た印象で間違っておらんさ、これは娼婦
20そこそこの娘だったか、なんとなく気が合って
商売抜きにこうしてよく顔を突き合わせていた

その娼婦と知り合ったのは、務めていた酒場の裏手
煙たい店内を厭って外の空気を吸いに出たら
そこにこの娘がおったんじゃ
しゃがみこんでいるから、てっきり酔っ払いかと
ため息をついたのもつかの間のこと
わしの足元をすり抜けていった野良猫が娘へ近寄っていってのう
――手ずからえさをもらっとったんじゃ
あれには驚いて、気づけば声をかけておったのう

互いに育ちは犯罪都市
昨日気さくに笑ったものが、明日は二目とみられぬ死体で上がる
有り金巻き上げ高笑いした奴が、別な奴に命ごと巻き上げられる
そんなのが当たり前の生活の中
動物とはいえ、弱者に施しをする姿が珍しかったんだろう

それから何度も、その娘が自分を買えよと迫ってきたっけな
時にはめったに食べないような洒落た食事を
時にはこの面に見せる気かと問いたくなるような
甘ったるいラブストーリーの映画を
これは商売だ、売春だと言いつつ誘って来よって
まぁつまるところ結局は、ただのデートだったんだろうな

いつか、からかいついでに小さな花束をくれてやったら
いつもの取り澄ました態度も忘れて
子供の様にはしゃいでいたのを、よぉく覚えている

俺にとってのあの娼婦は、妹の様な娘で
それでも、やっぱり
――あの笑顔を嬉しいと思う気持ちは、紛れもない本心だった

=====================================


「…さて、この感慨をどういえばいいんじゃろうのぅ。」
俺は上役が悪と判断した相手を消す殺し屋、あの娘は売女。
互いに詳しく生い立ちを話した覚えはない。
互いに手も身体も汚れきっていると、とっくに分かっていた。

いいや、そもそも問う必要もなかったんだ。
2人でいる時は、過去やしがらみなどはどこかに置いて。
――純粋で、在れたから。
そう、思うことができたから。

あの現の欠片の、たったひと時とはいえ。
――ああ、夢の見すぎだったさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイリ・ガングール
「本人が一番見たくないもの」ねぇ・・・。何を見せられるんやろうか。
 ああ、なるほど。「自分の国が滅ぼされず、男を迎え国が栄え、子を産み、そして床で老いて死んでゆく様」・・・と。そりゃ見たくないねぇ。国滅んでおるし。 
 にしても男と交わって子を成すとか。コココココ・・・そいつあぁおもろい。みどもは男が好きにしていい女にどれだけ残酷で獣にになれるかよう知ってるし、そもそも男はみどもから奪ってばかりじゃ。
 ああ、でも、もしかして普通に男を愛せる未来があるとするならば・・・いや、ないな。んなもん想像出来ん。まぁ、もう終わった話じゃ。所詮夢物語として、楽しませてもらおうかの



【《アイリ・ガングール(恋以外は概ねなんでもできる女・f05028)》】

過去を見せるというキネマ座。
此処で見せられるかつては、幸福を纏えど、悲劇を彩れど、本質は同じ。
――「本人が一番見たくないもの」、それである。
さて、それならば、はたして。

「みどもは、何を見せられるんやろうか。」
コココココ、と転がす笑い声は軽妙に、目を細めながらも画面へと向き合う。
現世を映さぬ白き瞳に、今。
――幽世にもとうに亡き、過去(if)が見える。


=====================================

絢爛なまでに色鮮やかなのは、これが夢か現か判じかねるからなのか。
音声がまるで聞こえないのは、これが偽か真かわからないからなのか。

――ああ、豊かな国が見える。
同族たちが皆笑い合い、楽し気に。
まるで国を亡くした憂いなど、“しらない”ように。

けれど、見慣れた一族の姿を縫うように
知らぬ姿が垣間見える。
――ごつごつとした体躯、大きな声、無骨なしぐさ。
あれは、男だ。

ならばこれは、男を迎え、栄えた国の姿だと。

――ああ、みどもの姿も映しやるか。
名も知らぬ男に娶られ、ゆくゆくは子を産み落とし
そして床で老いて死んでゆく――

なんともまぁ、滑稽な!

=====================================


「なるほど、そりゃ見たくないねぇ。国滅んでおるし。」
あっけらかん、と評を下し、くわりとあくびを一つ。
「にしても男と交わって子を成すとか。コココココ・・・そいつあぁおもろい。」
真におかしくて笑うのではない、それは――憐れみや軽蔑を含んだ嘲笑。

みどもはしっているとも。
男という生き物が、好きにしていいと見下した女に対して
――いったいどれだけ残酷で、残忍な獣になれるかを。

自らの力で奪い去れるものが目の前につるされていたのなら
――我先にと手を伸ばして食い散らかしていくことを。

なにせ、我が身をもっての教訓じゃからの。
ああ、でも、たまにはな。もしかしてと思うことが無くはない。
――憂いも疑いもなく、ただ普通に、男を愛せる未来があるとするならば。

……いや、ないな。んなもん想像出来ん。
何はあれど、これはもう終わった話。

「所詮なべては夢物語。せいぜい楽しませてもらおうかの。」

軽やかに、あでやかに。コココココ、と言葉に重ねて笑えば。
――朱き瞳だけは、ただただ今を見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
過去の記憶を見せられ苦しむのは慣れてる。そもそも自分を喪うといっても、今の私は自分の命を喪っているも同然だから…。

席に着くと私の過去…両親に売られた先の実験施設での記憶が流れる。人体実験で身体を切り開かれた記憶、集められたオラトリオの少女達と殺し合いをさせられた時…。

でも途中から映画がモノクロかつ音声が消えた物へと変わった。映し出されるのは処刑人として大鎌で無辜の人間を殺す場面。そして実験施設で出来た友人が血の海に倒れ、それを私が見下ろしている映像。

私にこの場面の記憶はないけれど、そこに映っているのが確かに私自身だと理解出来た。…私は自身の記憶にはない過去の映像から目を離す事が出来なかった…。



【《アンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)》】

苦しむのには、慣れてる。
例えどれ程凄惨な過去の記憶を見せられも、きっと私は大丈夫。
それに、自分を喪うといっても、それこそ何も気にすることはない。
今の私は、既に。
――自分の命を喪っているも同然だから。

躰の裡に巣食う、過去の残骸。黒く滲みだす、怨念の存在。
――それでも今はまだ、“私”の瞳で、過去を見つめる。


=====================================

彩度は低くも色ははっきりと。
聞こえる音声すら、まるであの時の戻ったかのよう

無機質な建物、並ぶ手術道具
よく覚えている――私が両親に売られた先
呪詛天使計画を成さんと実験を重ねる施設

寝そべった私が、苦悶の表情で叫んでいる
――あんなに切り開かれたら、誰だって
有翼咲花の少女達がその手を真っ赤に濡らして殺し合っている
――返り血も自らの血も混ざりあって、最早分からないほど

繰り返す実験の日々、計画の成就に消費される命
そんな映像が突然、ブツンと途切れて――反転する

彩を喪ったモノクロ、音も声も失ったムービー
そこに映し出されるのは、大鎌を持つ少女の姿
人々に死を与える者のカタチ
少女が鎌を振り下ろせば、幾つもの首が舞い飛ぶ
少女が鎌を横薙にすれば、何本もの腕が切り飛ぶ
無辜のものをただ殺し、ただ屠る
血の海に沈む、実験を共にした少女たちの姿さえも見下ろしながら

――ただ一人、屍の山に聳えたつ、“私”

=====================================


「これ、は…?」
実験を施された日々は、確かに記憶にある。
けれど、最後に映った映像は、全く覚えにない。
それなのに、生々しく実感として胸に落ちてくるのは。
――あれは、間違いなく自分だ、ということ。

わからない、覚えがない、けれど私を見間違いはしない。

ぐるりと頭の廻る感覚を感じながらも。
――ただ、目だけは逸らせずにいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ絡み歓迎

映画、かぁ…聞いたことはあるぜ、面白いんだってな!

勿論、今回の映画の趣旨は聞いてるとも!
まぁ俺様はどんなのを見たって大丈夫だけどな!

「~~ッ!!」
唇をぎゅっとし、震えて涙を堪える兎乃の姿があった

■内容
最初に見えたのは夢の原点ともいえる絵本
その中の登場人物、最強の魔法使いに憧れた日

夢は単純な理由でも抱けると知った日でもある

その後見えた光景
彼の夢を小ばかにする人、否定する人、諦めるよう言ってくる人
その時の言葉が、映像と共に流れる

体質の影響で容易に魔術も使えず、夢の道は険しい
肯定されないのは仕方ないかもしれない
でも、否定するのは…悲しくなるからやめてほしい

そんな映像は、最期まで続いた



【《兎乃・零時(でっかい魔法帽・f00283)》】

「映画、かぁ…聞いたことはあるぜ、面白いんだってな!」
ふん、と鼻息荒く、椅子に座って幕が上がるのを待つひとり。
「勿論、今回の映画の趣旨は聞いてるとも!過去を映すってやつだろ?…まぁ、俺様はどんなのを見たって大丈夫だけどな!」
自信たっぷりに言い切って、頷きながら腕を組む。
だけど、その一瞬――組まれる指が、震えていたことを。
誰もいないが故に気づかれず、彼自身も気づかないふりをして。
――夢の始まりと、過去からの糾弾がよみがえる。


=====================================

色鮮やかに輝くムービー
だけどその始まりはぱらりと捲られる――絵本のワンシーン

夢の原点ともいえる絵本
何度も読み返した、何度だって心が躍った
一番好きだったのは誰よりも強くって、雷だって炎だって扱えちゃう
最高の魔法使い――その姿に、どうしようもなく憧れた日
そして、夢は単純な理由でも抱けると知った日

だけどそんな目を輝かせた日から、時は過ぎて
浮かび上がるのは、指を差され続けた光景
彼の夢を小ばかにする人
理論立てて否定をする人
諦めるよう言ってくる人
その時の言葉が、映像と共に流れる

体質の影響で容易に魔術も使えず、夢の道は険しい
肯定されないのは仕方ないかもしれない
それは、身に染みてよくわかっている

――だけど、やっぱり、

=====================================


見初めは、本当に平気だと思っていた。だけど今となっては。
「~~ッ!!」
唇をぎゅっと噛み締め、震えながらも必死に涙を堪えていた。

――分かっている。
魔力量は人一倍だって、扱うにはてんで下手なことくらい。
練習したって中々うまくはならないし、買う魔導書だっていつも偽者ばっかり。
そんなの、自分が一番よくわかってる。

「でも、否定するのは…悲しくなるからやめてほしいな。」

言葉にすると、尚の事心が震えた。
それでも決して泣くまいと、目を見開いて画面に食らいつく。
弱いことも、下手なことも、全部全部飲み込んで。
――それでも何一つ諦めないのが、俺様のとりえなんだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンリエット・トレーズ
ここへ大人しく座るアンリエットは、愚かなのでしょうね

白い部屋は実験体用の隔離部屋でした
玩具も本も食べ物も
イマドキ女子御用達とかいうファッション誌だって望めば与えられました
誰もが皆わたしに優しかったから
あなたも優しかったから
つらいことなどなかったのです

でーとはできませんでした
綺麗なドレスも着せてはもらえませんでした
ただあなたがわたしを好きだと云ってくれたから
真っ赤な顔と潜めた声で
それで十分だったのです

でもお仕事だったから
邪神と戦うお仕事で
それはわたしとあなたの手に余った
だから
だから

だか ら

あなたは

わたしを
かばって

呑み込まれていくあなたは微笑んでいました

そうしてわたしは今ここで独り
泣いているのです



【《アンリエット・トレーズ(ガラスの靴・f11616)》】

過去と聞いて、私によぎるものはたった一つだけ。
キラキラと輝いていた、幸せな時間。
そして――二度とは戻らない、喪失を味わった瞬間。
きっと、その時のことを見ることになるでしょう。
そしてまた、同じ苦痛を味わうのでしょう。
それでも、そうと分かっていて。

「ここへ大人しく座るアンリエットは、愚かなのでしょうね。」

今こうして、その時がほんのわずかによぎるだけでも
埋め込まれた刻印よりも胸が痛む。
けれど、幕が上がれば常は伏せられがちな瞼を押し上げて
ひとつも漏らさぬよう、その青を画面へ向ける。
苦しくとも、にがくとも。
――あなたがうつるのなら、取りこぼさずにいたいから。


=====================================

真っ白で、無機質で、冷たげな
そこは、実験体用の隔離部屋でした
だけど、言葉ほどに不便な場所ではなく
玩具も、本も、食べ物も
はたまたイマドキ女子御用達とかいうファッション誌だって
望めば何でも与えられました
誰もが皆わたしに優しかったから
そして何より――あなたも、優しかったから
つらいことなど、なかったのです

残念ながら遊園地や昼下がりのカフェテラスへ赴いて
楽しくでーと、なんてことはできませんでした
スパンコールやビーズが縫い付けられたような
綺麗なドレスも着せてはもらえませんでした

だけどそんなものよりも
あなたがそばにいてくれたから
真っ赤な顔と潜めた声で
わたしを好きだと云ってくれたから
それで、十分だったのです

でも、やはり課せられたものは確かにあって
ここにいる以上、お仕事はしなければならなくて
それは――邪神と戦うお仕事で

あの日の、あれは
わたしとあなたの手に余るものだった

だから
だから

だか ら

あなたは

わたしを
かばって

―――…

手の届かない先へ、呑み込まれていくあなたは
――微笑んでいました

=====================================


「…こうやって目にしても、あなたはやっぱり、笑っているんですね。」
勘違いや、まぼろしではなく、私を見つめてやさしげに。
――そう思うだけで、より一層胸が痛む。

今でも思うのです。
あの時、あの瞬間。
あなたを、取られてしまうくらいなら。
――わたしが食べてしまえばよかったと。

だけどそれは、もう手の届かないこと。
あなたは消えて、わたしは生きて。
だから、今、ここで独り。
――わたしは、泣いているのです。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『狂気の美術館の探索』

POW   :    美術品が壊れるのもお構いなし。力ずくで探す。

SPD   :    鍵がかかっている所などを、片っ端から器用に解除して探す。

WIZ   :    注意深く観察する。隠された仕掛けなどを見つけ、探す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


キネマは終わり、フィルムは切れる。
見終えど、泣けど、全ては同じ。

それでは先へと進みましょう。
こちらは過去の展示会。

そちらの湯気も立ち昇る、焼き立てのアップルパイが気になりますか?
――病気で死んだ幼い娘が、最後に食べた母の料理でございます。

こちらの飴色が美しい、使い込まれたヴァイオリンが気になりますか?
――夢を断たれた片腕の男が、力任せに壊した楽器でございます。

あちらの今にも動き出しそうな、涙に頬を濡らす娘が気になりますか?
――魔物に命を散らされる、3秒前の姿を模したものにございます。


―― こちらは全て 展示品 美しく飾られた 芸術品
――(これらは全て 模造品 あの日あの儘の 蒐集品)

―― どうぞ その手は 触れませんよう
――(どうぞ その手で 壊してしまって)

―― 永遠に こちらで ご覧下さいませ
――(過去は ここへと 置いてすすんで)
==============================

プレイングの受付は【5/4 8:30以降】より開始いたします。

==============================
※追記

【再送のお願い】
皆様、今回も多数のプレイングの送信、誠にありがとうございます。
すべての描写が困難な数に達したため
お手数ですが、下記期間にて【再送】をお願いいたします。

【プレイング受付期間】
★第一次プレイング受付期間
~5/8  8:29 まで

★第二次プレイング受付期間
 5/11 8:30 より開始
 (受付終了予定は5/14 夕方ごろ)

マスターコメント、Twitterでも
詳細を随時告知をしておりますので
よろしければご覧くださいませ。

引き続きのお願いになり申し訳ございません。
どうぞお気持ちに変わりなければ
ご検討いただけると幸いです。
オルハ・オランシュ
深く息を吸い、深く息を吐く
何度も必死に繰り返して
呼吸を取り戻せたことを確かめる
っはぁ、……はぁっ……やっと、おさまった、かな
行かなきゃ

これが展示品?
妙に精巧でなんだか気味が悪いな
……!ネク!?

展示されていたのはもちろん今のネクじゃない
まだ障害を負う前の過去の弟は
あの頃みたいに今にも走り出しそうな、
躍動感のある姿だった

そっと頬に触れれば、懐かしい声
――姉ちゃんのせいだ
――なんで目を背ける!なんで逃げた!

わ、私……怖くて
死んで償う道からも逃げちゃったけど……でも
いつか必ずネクと向き合うから……
その時は目を逸らさないから、だから

紛い物を刺した後に、言葉を紡ぐ

……もう少しだけ、時間をちょうだい



 深く息を吸って、深く息を吐く。
1、2とリズムに合わせて交互に繰り返す。普段なら考えなくてもできるこの行為を、何度も必死に繰り返して。ようやく――呼吸を取り戻せたことを恐る恐る確かめる。
「っ……やっと発作、おさまった、かな。」
 言葉にすればいっそう落ち着きを取り戻し、なんとか周りの景色を認識できるまでになった。

無個性で真っ白な壁。
無機質にモノを浮かび上がらせるライト。
等間隔に並べられた、ジャンルを問わない――美術品。

ここがノスタルジア展。過去を飾り、そして――“壊す”為の、場所。先の映画が脳裏をかすめ、それだけでまたほんの少し足が震えだす。でも私は、此処まで来たのだから。
「先に、進まなきゃ。」
奮い立たせるというには、余りに細い声で。少女は、回廊へと歩いていく。

1つ目に見えたのは、手をつないだ恋人同士の人形。
2つ目に感じたのは、冷気を放つ氷で出来た彫刻。
3つ目に聞いたのは、古びた蓄音機から流れる知らない曲。

――これが展示品?
 奇妙なまでに精巧で、本物じみていて。でも、何故か――ニセモノだと、強くそう感じるモノたち。それがどうにも気味が悪い。しかしやがて、そんなうっすらとした感慨を容易く吹っ飛ばす作品が、目の前に現れた。

それは、1体の人形。
今にも駆けまわりたそうに、振り上げられた普通の“足”。
楽し気な笑みに彩られた、血色のいい顔。
キネマの初めに映ったのと同じ――かつての、弟。

「え……!ネク!?」
思わず、呼びかけていた。その声に返事すら返ってきそうなほどの、よく似たニセモノ。ああ、やっぱり、これが私が壊すべき――いいや、既に一度壊した過去。ごくりと唾をのんで、そっと頬に触れれば、懐かしい声が、棘を纏って耳朶へと流れ込んできた。

――姉ちゃんのせいだ。
――どうしてこんなことに?
――痛かったのに!苦しかったのに!
――なんで目を背ける!なんで逃げた!

なんで、なんで――なんで!!

「わ、私……怖かった!」
 絶え間なく己を苛む声に、気が付けば叫んでいた。悪気など、ましてや傷つけるつもりなどなかった。だけど起こしてしまった結果から、逃げたのは事実だ。向き合わず、背を向けて、死んで償う道からも逃げだして。今――私はここで、こうして過去に恐怖している。

だけど分かっている。
逃げてばかりはいられないこと。
そしてこれだけは決めている。
いつか必ず、ネクと向き合うと。
その時は目を逸らさないから
――だから。

構えたダガーを、あてがう。
たったそれだけで、人形はぱきり、ぱきり、と割れるように壊れていく。
その様子に、紛い物と分かっても心が揺れる。けれど、力は弱めずに。

――もう少しだけ、待っていて。

かしゃん、と最後の欠片が落ちた瞬間。少女の姿も、ふっと掻き消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゲンジロウ・ヨハンソン
○アドリブ歓迎

○展示物
名前すら思い出せない『彼女』の眠る姿。
映画の頃から10年ほど経過し、癖のある髪は胸程まで伸びている。
依頼『銀河帝国攻略戦⑬~悪夢の海を漂う者たち』で克服した過去と同じ時間軸に邪神の贄として捧げられた。
彼女もまた邪神の降臨を願い、身を捧げた者であった。
最期の言葉も交わすことなく、全てが終わったあとに眠るように死んでいた。

○破壊
上記の記憶に基づいた声に翻弄されるも、身に宿す怨嗟の炎(装備8と選択UC秘密の設定参照)の生み出す聞きなれた償いを求む怨嗟の声で頭の中を塗りつぶす。
真の姿も開放できれば、その怨嗟も炎も増幅され愛という瞞しに心を奪われることなく、展示物を焼き尽くす。



奇妙なまでに静かな美術展の中を、男が一人、ゆっくりと横切っていく。
ガラじゃあないな、とは言葉にしないまでも、時折展示物を目に入れては眇める様子が物語っていた。ただ、それも時間にすれば数分の事。やがて一つの人形の前で、その足はピタリと止まる。

ネームプレートに刻まれた文字はつぶれている。
――それはそうだろう、今となっちゃ名前も思い出せないのだから。
跳ねて嫌になっちゃう、とボヤいていた癖っ毛は、胸元まで伸びていて。
キネマで見たころより時計の針を進めた――彼女の、姿。

「そうさなぁ、予想はついてたんだが…これは、また。」

今にも呼吸をしそうなほどに、精密で精巧で精緻な人形。
白々しいニセモノ、出来過ぎた紛い物。

過去を展示すると聞いて、そしてキネマを最後まで見て。
きっと、こう来るだろうとは予想できた。
だが、巻き進められた時間は、この空間の悪辣さ故だろうか。
どこに書いてあるわけでもない。
けれどこれがいつの彼女なのかは、はっきりとわかる。

――あの戯れから、10年後。

「お前が、死んだ瞬間だな。」

とある男に騙されて、邪神の招きに手を貸してしまったあの日。
彼女もまた邪神の降臨を願い、身を捧げた者であった。
カラクリが分かったときにはすべてが遅く、最期の言葉も交わすことなく。
ただ――眠るように死んでいた、その姿。

気が付けば、思わず手を伸ばし、人形に触れた瞬間――

――だまされたのは、あなたなのに
――あなただけが、いきのびた
――わたしは死んでしまったのに
――あなただけは、いまも、のうのうと!!

記憶にある、女の声が己を詰る。耳朶を、脳裏を、掻き乱すように呪う言葉で埋め尽くされる。その様に、ほんの僅かに憐れむような表情だけを浮かべ、そして――

「…ああ、すまなかったなぁ。」

人形に触れていた箇所から、紫苑が上がる。
それは、かの身に宿った力で在り――あの日から延々と燻る、呪いと怨嗟の炎。
顕現すれば際限なく愚かさを、浅ましさを、愚劣さを苛みながら。
何もかもを――ともすれば、自身までも焼き尽くさんと猛り燃える紫煙。
その声をもって、女の責める声をかき消していく。

責められて当然――けれどやはり、他の誰でもない。
彼女の声で詰られるのは、心が痛む。
今はまだ、耐えるに苦しい。

だからこそ。
憎悪を、慟哭を、怨嗟を。
何もかもをこの身に抱えて。
――贖う為の生は長く、死して降ろすにまだ早い。

「だから、もうちょいそっちで待っててくれや。」

煙を昇らせながら燃え行く人形に、そう語り掛けながら。

――男が、先へと進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
置かれているのは、顔写真と名前が入った社員証のような磁気カード。
しかし、そこに印字された名前は「八上・玖寂」ではない。

かつて自分を拾った組織の身分証明証。
組織を抜けた時――組織が摘発された時に自らへし折って棄てたはずのもの。

また懐かしいものを。
名前を指先でなぞれば、老若男女、いろんな声がする。

「あいつが殺した」「裏切り者」「お前なら出来たはずなのに」「悪童」「人間じゃない」「七条の名前に泥を塗った恩知らず」

たかだか18歳の子供が一人裏切った程度で滅ぶ方が悪い。
……昔はこれだけが自分の存在を証明してくれているような気がしたものなのですがね。

顔写真と名前部分を狙って拳銃で二発。



「美術展というからには、さぞ美しいものでも置かれているかと思ったんですが。」

白く、白々しく、真白い回廊を、ゆるりと練り歩くのは、黒。
ジオラマに人形、彫刻に絵画など。
並べられた品は、確かに美術というに能う物も幾つか見て取れた。
けれど。

「これでは、場違いにもほどがありますね。」

否応なしに、足を止めさせられた、その展示品は。
――あまりにも、無機質なものだった。

置かれているのは、顔写真と名前が入った磁気カード。
鈍い灰色をした、社員証のようなそっけない造りの一枚。
しかし、そこに印字された名前は「八上・玖寂」ではない。
それは昔の――組織にいたころの、名。

自分を拾った組織から発行された身分証明証。
組織を抜けた時――組織が摘発された時に
自らの手でへし折って棄てたはずの。
その、紛い物。

「また、懐かしいものを。」
硝子の奥の瞳を眇め、そっと手を伸ばす。
そして触れた指先で名前をなぞれば、老若男女、いろんな声がする。

――あいつが殺した
――裏切り者
――お前なら出来たはずなのに
――悪童
――人間じゃない
――七条の名前に泥を塗った恩知らず

「…まったく、揃いも揃って五月蠅いですね。」
醒めた声音だけを零し、カードから拳銃へと触れる先を移す。
手によくなじんだそれは、あっという間に装填を終えて。

「たかだか18歳の子供が、一人裏切った程度で滅ぶ方が悪い。」

――二発、ただそれだけを叩き込む。
弾が打ち抜くのは顔写真と名前。
かつての自分を示す箇所を、跡形もなく消し去るように。

――ああ、それでも。
昔はこれだけが自分の存在を証明してくれているような。
そんな気がしたものだった。
けれどその感慨すら、今はもう遠い。

停滞などに澱むべくはなく、変わりゆくものこそ尊べばいい。
元より目まぐるしく流転するこの世界には。
――変わらぬものなど、ありはしないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
映画に美術展。芸術に疎い僕には、悪趣味ですねぇとしか…
僕、ハッピーエンド至上主義なんで!
だのに。何故でしょうね。
あまりに容易く、その顔は目に留まる。
解ってる。これは仕事で、UDC絡みで、紛い物。

…つーか大体、生前こんなの描かせてたら悪趣味この上ないだろ。
なぁ?団長さんよ。
その画がまた、腹が立つ程よく似ていれば、
思わず笑えてくる。
声が何と言ってるのかは分からない。
だってそうだろ?
自分の身勝手に僕を利用したアンタに、どうこう言われる筋合い無いんで。

壊せ、と。ええ、喜んで。
渾身の拳、叩き込んでやりますとも♪

(笑みを模った瞳がスラリ眇む。
後悔は無い。感慨も無い。ただ、
苛立ちだけが、どうしたって消えない



「映画館に美術展。芸術に疎い身には、悪趣味ですねぇとしか。それに僕、ハッピーエンド至上主義なんで!」

静かな展示室に、不似合いな明るい声が響く。人影のない部屋には、当然返ってくる返事もなく。やれやれと肩をすくめて、男が先へと進んでいく。

そう、世界は幸せに綴られて行けばいい。
…それがはたして本心かって?
まぁ、それはどうだっていい話です。
世の中の多くが“幸せ”を享受したがってるのは、確かでしょう?
――だというのに。

「…何故、なんでしょうね。」

それは、あまりに容易く。あまりにあっけなく。
幾つ幾重も並ぶ展示の中で、その顔だけが目に留まる。
――解ってる。これは仕事で、UDC絡みで。
だからこそ、目の前にあるのは間違いなく紛い物。

「…つーか大体、生前こんなの描かせてたら悪趣味この上ないだろ。…なぁ?団長さんよ。」

そこにあるのは、かつてを共にした、団長のもの。
瞳の色も、皺の一つも書き漏らすまいと、執拗に塗りこめられたような油絵。その画がまた、見れば見るほど腹が立つほどよく似ていて、うっかり笑えてくるほどだ。思わず、いくら芸術に疎いといっても、普段には絶対にしないような――それこそ、傷や跡が付くのもお構いなしに、その絵にべったりと触れる。

――   、   。
――…  …   …
――         !!

途端、耳朶に脳裏に言葉が流れ込んでくる。然しそのどれもを言語として、意味や内容を理解することを放棄する。ただの雑音、無意味なノイズ。

――だってそうだろ?
自分の身勝手に、俺を利用したお前に。
何をどうこう言われる筋合いなんか、無いんで。

「…確かこれを壊せ、という話でしたね。でしたらばええ、喜んで。
――渾身の拳、叩き込んでやりますとも♪」

握り込み、躊躇など微塵もないほど力と速度を乗せて。絵画の真ん中に一撃を抉り込む。バリンッ、と耳障りな音を立ててキャンバスは破れ、木枠が折れ、壁からはがれ去っていく。

ふと、破れ落ちた顔が足元へと滑り込んできた。
目についたそれを即座にぐしゃりと踏み潰す。
――何度も、何回も、執拗に。真っ黒に染まるまで。

後悔も、感慨も、そんなものはまるでない。
なのに。
――だた、苛立ちだけは、しつこくこびり付いたままだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
過去の美術館

焼け落ちた風景が絵画として展示されている
燃え落ちる「孤児院」
倒れ臥す子供、大人
それを高き場所から見下ろす誰か

私の知らない記憶───否、知らなかったはずの記憶
喪われた記憶のカケラが、姿となる

絵画の横には、苦悶の声をあげるような人形が


「何故助けてくれないのか」
「力があるのではないのか」
「早く早く早く早く」

怨嗟の声

「───逃げて、生きて」

優しい女の声がした

そうだ、私は逃げたのだ
全てを見捨て、落ち延びたのだ
弱くてどうしようもなくて
怨嗟の声が自分に降りかかるのも致し方ない

だが────

嘘は、良くないな


刀を抜き、絵画と像を、断ち切る

皆が、私を逃したのだ
私が追われていると知ってな

だから

───御免。



過去を展示するという、美術展――ノスタルジア。
真白い回廊に飾られた絵画は、どれもどこか郷愁を誘うものばかり。
けれど、幾枚も飾られた作品たちの、その中で。
彼の足を止めた作品は、たった1枚だけ。

赤く朱く揺らめいた炎を書き留めた風景画。
焼け落ちていく孤児院を描きあげた静物画。
煉瓦が崩れ、柱は落ち、最早瓦礫の山となり果てた院。
その内側で倒れ臥すちいさな子供たちと、大人の姿。
そして、それを――高き場所から見下ろす、誰か。

私の知らない記憶――否、知らなかったはずの記憶。
その喪われた記憶のカケラが、絵画の姿を以て。
今、目の前に顕現している。

ふと目をそらした先には、ちいさな人形たちが転がっていた。
美しく飾られるために作られたものでは無い。
まるで暖炉から取り出したばかりの様に、真黒く煤けた姿。
今にも口から悲鳴が迸りそうなほど、苦悶に満ちた顔。
そのあまりの痛々しさに、拾い上げる様に触れた瞬間。

――何故助けてくれないのか
――力があるのではないのか
――早く早く早く早く

怨嗟の声、呪詛の詩、嘆きの――悲鳴
蜿蜒と耳朶に満ちる、その声の中に。

――逃げて、生きて

ほんの一瞬、優しい女の声がした。

たったそれだけで。
――脳に、鮮やかに赤がよみがえる。
ああ、そうだ。そうだった。
私は、逃げたのだ。彼らをおいて、自分だけ。

――肌に、炙られた火の熱さを思い出す。
全てを見捨て、落ち延びたのだ。
弱くて、みじめで、どうしようもなくて。

――耳に、苦悶の悲鳴がこだまする。
だから、怨嗟の声が自分に降りかかるのも。
致し方のないことだ。

だが――

「“嘘”は、良くないな。」

佩いた太刀を抜き、絵画と人形を、一刀のもとに全てを断ち切る。
幻影をも裂くと言われたその名に違わず、その全ては儚く、脆く、崩れ去っていく。

私が逃げた――確かにそう見えるだろう。だが違う。
本当は、皆が私を逃したのだ。
私が、追われていることを知って。

見捨てたことを責められるのは構わない。
けれど彼らの声を、私の弱さの追求に使っては、嘘になる。
今ここで、あの過去を語るのならば。
――全てを承知で逃がしてくれた、彼らの強さこそを語るべきだから。

「…御免。」

それでも、やはり。胸に蘇る痛みには。
ただ一度謝りたくて、そっと言葉を零した。
――たとえそれがもう、届かないと知っていても。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
姉ちゃんの人形…本当にそっくりだ…。
やっと、思い出したんだ。姉ちゃんがもう居ない事…。
姉ちゃんの死が耐えきれなくなって生まれたのが有祈だ。
俺と違って冷静であいつになんて騙されることのないような人格。
それでもやっぱり耐えきれなくて見かねた有祈が姉ちゃんのことに蓋をしたんだ。
何を見ても何を聞いても都合の悪いことは全部理解しなかった。

でも思い出したよ。
「私は真紀のお姉ちゃんなんだから真紀の事を守るのは当然なのよ。真紀。姉ちゃんが居なくても絶対生きるよ」って言ってた事。
だから…俺は生きなくちゃだめなんだ。
そのために一度は姉ちゃんの死に蓋をしたけれど今度こそこの言葉を胸に生きるから。



居並ぶ展示品の中に、人形は多かった。
どれも精巧で精密で、耳を当てたら鼓動が聞こえてきそうなほどに――本物じみた人形たち。過去を、懐古を求めるうえで、どれほど多くの人が“人”を求めているかという、証左の様に。けれど、例え埋め尽くすほどに並んでいたとしても。この人を見間違うことだけは、決してない。

「姉ちゃん…。」

ひた、と足を止めた先にいたのは、少女の人形だった。優し気で、少し面差しが似ていて――泣きたくなるくらいに、懐かしいその姿。だけど懐かしい、という感慨がすでに、ひとつの事実を明確に浮き彫りにしていた。
やっと思い出した――もう、二度と会えないという事実。

さっきまで朧気だった、自分に住まうもう一人の人格――有祈が生まれた経緯も、今でははっきりと思い出せる。
――姉ちゃんが死んだ事実に耐え切れなくて生み出された、もう一人の俺。
――あいつになんか騙されることが無いようにと、冷静に作られた人格。
そうまでしたのに、それでもやっぱり耐えきれなくて。徐々に衰弱していく俺を見かねた有祈が、姉ちゃんのことに――蓋をしたんだ。

それからの俺は。
何を見ても何を聞いても、都合の悪いことは全部理解しなかった。
厳重に蓋をして封をして、気づかないふりをして目を背けていた。
向き合わずに日々を過ごしていくのが――何よりも、楽だったから。

ふと、人形に手を伸ばす。懐かしさに、こみ上げそうになる涙に、突き動かされるように。そうして、触れた瞬間。

――どうしてにげたの?
――わたしのこと、わすれちゃったの?
――おきざりにして、昏い所に閉じ込めて。
――ひどい、弟。

「――……!!」

指先が、耳朶が、ずきずきと痛い。流れ込んでくる棘をはらんだ言葉が、容赦なくむき出しの柔らかい箇所を突き刺していく。蓋を開けた記憶からは、どっとあの時の。
――姉ちゃんを亡くした苦しみがなだれ込んでくる。

でも、それと同時に。
気づけば一緒に埋めてしまっていた、大事なことも思い出す。
姉ちゃんがくれた、最後の言葉。胸に残る、たからもの。

――私は真紀のお姉ちゃんなんだから。真紀の事を守るのは当然なのよ。
――真紀。
――姉ちゃんが居なくても、絶対生きるのよ。

そうだ、だから。
「だから…俺は。生きなくちゃだめなんだ。」

一度は封をした。辛くて苦しくて、逃げることを選んだ。それはもう変えられない。
けれど、だからこそ――今、向き合えるだけの強さをもって此処にいられる。
あの時、あそこで折れてしまっていたら、此処には来られなかった。
今なら、そう言えるから。

触れていた指に力を籠める。パキ、と音を立てて姉の形をした何かが崩れていく。
その姿に、まだわずかに心は揺れるけれど。

もう、忘れない。
――今度こそ、あなたの言葉を胸に生きるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月待・楪
過去の俺には大切な物なんて

ッ…それは
ああ、そうだな
顔も声も名前だって覚えてねェし
俺をどう呼んでたかも忘れた
でもな…両親と揃いだった、このドッグタグだけは覚えてるぜ

戦禍の中で俺の名前と存在を唯一示した物
弱っちい両親からの最後のプレゼントだったからな
てっきりあの街で燃えたと思ってたんだが…

…いいぜ、壊してやるよ
俺はもうこんなモンなくたって自分が何者かなんざ嫌って程わかってるからな
(触れれば苛む声は遠い記憶、忘れたと思っている誕生日の日の爆撃から自分を守ってくれた両親が死に行く最後に残した幸せを願う言葉)

…心配されなくても俺のことは俺が決める
だから、さっさと…
(アレンジetc歓迎)



失くした過去を飾る、ノスタルジア展。
そう概要を聞いても正直、思い当たるものは何もなかった。
ご丁寧に編集されたキネマの中にも、詰まっていたのは胸糞悪い過去の出来事ばかり。失くしたものは多かったが、“モノ”として展示されるようなものなんてない。
――そう、思っていたのに。

「くそっ…ふざけてんのか。」

居並ぶ美術品の中で、それは酷く地味で小さくて。
ただそれだけなら目にも止まらなかっただろうに。
気づけば目が、足が、自然とからめとられていた。

それは、簡素な鑑識章。
シルバープレートのドッグタグ。

顔も声も、それどころか名前も覚えてはいない。
俺をどう呼んでたかだってとうに忘れてしまった。
それでも、そんな朧げな印象の両親と、揃いだった
――この、ドッグタグだけは覚えてる。

戦禍の中で、俺の名前と存在を唯一示した物。
弱っちい両親からの、最後のプレゼント。
てっきり、あの街で燃えたと思っていた。
――いや、きっと、実際には失われているのだろう。
だからこそここに、本物のフリをして、ニセモノが居座っているのだ。
ああ、それなら。

「…いいぜ、壊してやるよ。もうこんなモンなくたって、自分が何者かなんざ…嫌って程わかってるからな。」

偽りというなら、己こそ。
猟兵として立ちながら、ヴィランで在り続けるこの身こそが。
紛れもないイミテーションだ。
だから、こんなものは、いらない。

ためらいなく、タグを毟るように引きはがし、手に乗せる。
その瞬間、耳朶を、脳裏を満たしたのは――声。
それは、両親から子供へと贈られる、温かな言葉。
なつかしく、弱弱しく、だからこそ――何よりも心の裡を抉る。

――うまれてきてくれてありがとう
――まもってあげられなくてごめんね
――それでも、どうか
――あなただけでも、いきていて

「…心配されなくても、俺のことは俺が決める。だから、さっさと…。」

手に、力を籠める。本来のタグなら、この程度で割れることはないだろう。だが、それはほんの少し握り込んだだけで、パリン、とあっさり砕け散った。あれほど響いていた声も同時に消えて、今は何も聞こえない。
その、耳が痛いほどの静寂の中に。

――静かに、眠っててくれ。

ささやかな願いだけが、ぽつりと響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
分断されたか。

……昔使ってた脇差です。
色んな人間を手討ちにした。仕えてきた藩主を裏切って、殺した。彼方此方荒らして、国を滅ぼしたもの。
聞こえるとすれば怨み言。討ってきた罪人。殺した主。蹂躙してきた民草。
『なんでお前みたいなクズが今も生きてるんだ』ってとこでしょうか。

オレが強いからです。
「雷花」で真っ二つ。昔の女に用はない。

オレにとっては『世界の過去』も『自分の過去』も殺害対象であって、偲ぶものじゃない。『白紙の時間』から得るものはありません。
じゃあ『未来』には何かあるのかって、……。不確定の未来を思うのは、非現実的ですよ。
まして『先』を見たがる、知りたがるひとの気なんか、知れたもんじゃない。



「…分断されたか。」

キネマから飛ばされた空間にて1人、ぽつりと状況の把握を述べる。見えるのは白々しいほどに白い回廊と、時折挟む展示室のみ。それでも探せば手帳の彼も居るだろうかと、一瞬考えを巡らせはしたが――すぐにやめた。必要なら、またどこかで合流できるだろう。それまで出来ることを成せばいい。
それに、その為の目標物も、案外とすぐに見つかった。

絵画、人形、装飾品。
だれかの失くした過去が並ぶ中、真っ先に目を引いたのは。
――一振りの、脇差。

「……昔使ってた脇差ですね。」

持ち手の僅かな癖に、刃の反り具合。
何もかもが本物じみた、ただのニセモノ。

かつてはこれひとつで、色んな人間を手討ちにした。
仕えてきた藩主――裏切って、殺した。
討ってきた罪人――躊躇わず、殺した。
蹂躙してきた民――隔てなく、殺した。
彼方此方を荒らして、刈って、国を滅ぼしたもの。
そんなものから、何か聞こえるとすればそれは。
――恨み言の他にはない。

――どうして私が殺されなくちゃならないんだ
――お前如きにこの俺が殺されるなんておかしい
――なんでお前みたいなクズが今も生きてるんだ

どれもこれも、馬鹿な質問ばかり。
そんなの、決まってるじゃないですか。

「オレが、強いからです。」

言うや否やの一閃で、かつての脇差が真っ二つに折れる。
手にした『雷花』こそ今の相方。畳と武器は何とやら。
――もう、昔の女に用はない。

オレにとっては『世界の過去』も『自分の過去』も、全てはただの殺害対象。
懐かしんだり、偲ぶものじゃない。
だから、『白紙の時間』から得るものは何もない。

――じゃあ、『未来』には何かあるのかって?
さっきの恨み言を聞いていたでしょう。
有象無象の彼らがなぜに殺されたのか。
命じた奴は何を思ってそうさせたのか。
そう、全ては――『先』を案じた不安の結実。
不確定の未来を思うのは、非現実的なこと。
まして『先』を見たがる、知りたがるひとの気なんか、知れたもんじゃない。

だから、オレは。
先行きを案ずる思慮を持たず。
ただこの時だけを全てとして。
――「過去」を、殺し続けるんですよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

納・正純
今回は一人って訳だ、まあ良い
……俺が手に入れる前の『奇跡の手帳』か
見付けた奴に『無限の知識』をもたらすって『噂』の魔導書

これを手にしなかったら、俺は猟兵にさえなろうとは思わなかったろうな
コイツのせいで、力に任せて過ごした、怠惰で退屈な、変わらない日々が――――危険で無謀で、色とりどりな刺激のある毎日に変わった
後悔してるかって?

『する訳ねェだろ?』
いくら危険でも、無味乾燥な退屈に殺されるよりはマシさ

失せな、『無色の過去』。この『先』で、色の付いた影と待ち合わせをしてるモンでね。俺はアイツに、過去も未来を歩くための一つの知識だッてことを教えてやりたいのさ。アイツは過去に殺されるようなタマじゃねェ。



「今回は一人って訳だ、まあ良い。」

放り出されるようにキネマを後にして、気がつけばただ一人。真白い壁の回廊に立っていた。言葉を交わしたはずの脇差の男の姿はなかったが、不思議と心配のような気持ちは湧かなかった。ただ、成すべきを成す――そう思っていることが、分かるせいだろうか。

そしてそれは、己も同じ。
ほんの数歩歩いただけで、目の前に現れた展示物は。
紛れもなく、自らの過去に由来するものなのだから。

――ともすれば、古びて穴だらけの、ただの本。
けれどふとした瞬間に、真っ新な紙の匂いがする。
そして開けば、虫食いやシミの滲む古風さを見せる癖に。
書かれているのは、未だ人類が到達し得ない程の英知。

今この手の裡に在る、『奇跡の手帳』――その、以前の姿。
見付けた者に『無限の知識』をもたらすと言われる『噂』の魔導書。

「あァ、そりゃそうか。俺の過去ってンなら、お前が飾られるだろうよ。」

きっと、これを手にしなかったら俺は。
猟兵になろうとさえ思わなかっただろう。
コイツのせいで、力に任せて過ごした、怠惰で退屈な、変わらない日々が。
危険で無謀で、色とりどりな刺激のある毎日に変わった。

それを、後悔してるかって?
――愚問だな。

「する訳ねェだろ?」

迷宮で、黄金に輝くドラゴンを打ち据えた――血が滾る一瞬。
大自然の中、空の王を相手に立ち向かった――仲間との時間。
その全てが、今の俺の血肉だ。

無味乾燥な退屈に殺されるなんざまっぴら御免。
そしてもしいつか、歩んだが故に、この身が焼き尽くされる日が来たとしても。
未知に手を伸ばしたことを悔やむことだけは――絶対に無い。

「失せな、『無色の過去』。この『先』で、色の付いた影と待ち合わせをしてるモンでね。」

手にした黒を、引き絞る。金の照準は違えることなく紛い物を見据えて、打ち砕く。

――俺はアイツに、教えてやりたいのさ。
過去も、未来を歩くための一つの知識だッてことを。
そしてアイツは、過去に殺されるようなタマじゃねェ。

だから。
――“今”、俺の手で、引き金を引きに行くンだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒・烏鵠
UC無

並ぶ美術品:過去に親しく交流した故人たち。みな笑顔
触れた場合:みんな待ってるよ等、心に空いた穴を刺激する死への誘い

ハハ!懐かしい顔が揃ってンじゃんか。アアそうさ忘れてなンてないぜ。一人残らず覚えてンだ、オレは。執着心がつえーンだろーな。じゃなきゃ妖狐になンざなるモンか。
そう、オレは物覚えがいい。
だから、オマエらの死に様もよーく覚えてる。
ヒトに獣に殺されて、事故で老いで自分で死んで。ホントニンゲンってすーぐ死にやがる。やンなっちゃうゼ。この人形の方が頑丈なんじゃネーノ?

(全妖力をつぎ込んだ大豪風が放たれ、全ての人形が壁や人形同士で激突、砕け散る)

アーララ。意外とそうでもなかったみてーだナ。



カツカツと、硬質な靴音を鳴らし、狐が歩く。
尾は見せず、耳をふるりと揺らし、吹けば飛びそうな軽薄さだけを纏って。
「ま、芸術鑑賞なんてガラじゃねーけど、そうだよなぁ…。」

カツ、カツ、カツ。
踏み鳴らして、立ち止まって。向ける目線の先に合ったのは。

「オレの過去を飾るってンなら、こうなるだろうとは思ってたゼ。」

そこにあるのは――沢山の人、ひと、ヒト。
キネマを彩った、明るく幸せな、笑顔たち。

「ハハ!懐かしい顔が揃ってンじゃんか。アアそうさ忘れてなンてないぜ。一人残らず覚えてンだ、オレは。執着心がつえーンだろーな。じゃなきゃ妖狐になンざなるモンか。」
ニセモノだと分かっていながらも、数あるそれらに語り掛けながら歩み寄り。

「そう、オレは物覚えがいい。
だから、オマエらの死に様もよーく覚えてる。」
そういって、1人ずつに。

「オマエは獣に噛み殺された。」
触れる――事切れる寸前の叫び。無念。ハヤクハヤクと招く声。

「こっちは盗みのついでに殺された。」
触れる――なんで、どうして、と問う戸惑い。サミシイと啜り泣く声。

「こっちは崖から落ちそうな娘を助けようとして自分が落ちた。」
触れる――どうか助かって、と願う声。アナタヲマッテルと呼び寄せる声。

「事故で老いで自分で死んで。ホントニンゲンってすーぐ死にやがる。」
簡単に、容易に、単純に。気が付いたら命は零れていく。
――オレだけを残して。

「やンなっちゃうゼ。…ならいっそ、」
 手を翳す。そこに居並ぶ全てを、その内に納めるかのように。浮かぶのは、ゆらゆらと揺れる空気。徐々により集められ、束ねられ、やがて全てを呑み込むほどに大きくなった妖力を――あらん限りの大豪風へと変えて。
「この人形の方が頑丈なんじゃネーノ?」

――放つ。
断末魔の叫びを、かき消してしまう様に。
心の裡を掻き毟る、死への誘いを断ち切るように。

「アーララ。意外とそうでもなかったみてーだナ。」
血肉も飛び散らんばかりの精巧さを見せながら、風に飛ばされればカシャン、と固い音と共に皆砕け散る。笑顔のままに、いつかのままに、何もかもが壊れいく。
――そう、それすらも、いつもと同じだ。脆くて儚い、ニンゲンの姿。

「ハァ、ほんと…大したことねーよナ。こンなモン。」

そうやって、笑って、嗤って――嘯いて。
世界へ嘘を吐きながらも、思うのは。

例えニセモノであったとしても、オレは、最後まで。
――オマエタチのまえで、笑っていられたかな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

舞塚・バサラ
●プレイング
山のような人だった
山の如く揺るがず、大きく、そして底知れぬ羅刹であった

“某達”を拾って育てたその羅刹は、師匠は、ある集団の頭領だった

悪党を罰し、裁く
其を生業とする羅刹達
故に我らは罰裁羅(ばさら)と名乗ると師匠は語った

“某達”はそんな無茶な当て字が有るかと言い返して
「あるから名乗ってんだよ俺達は。あとお前も」と小突かれた

無論、某達は羅刹では無い

我らは最初から己を四人宿していたが

拙者達の体は常人の其れ

だからわたしたちはひっしで…

「奴はどうなったのか」
すまぬで御座る…
「お前があと少し早ければ」
申し訳無いで御座る…
「奴の友たるお前が止めていれば!」
衝動的に師匠の像をバラバラに

すまぬ…!!



それは、山のような人だった。
山の如く揺るがず、大きく、そして底の知れぬ羅刹であった。
そう、こうしてどれ程の数の美術品が並んでいたとしても。
――その姿が、一目瞭然であるように。

「…この姿を懐かしいと、思えるようになったのは。良いことで御座ろうか。」

けれど嬉しい、と手放しで喜べぬのは、昏く影を落とす記憶がある故か。それでも、脳裏を駆け巡る記憶は、今となっては悲しいほどに鮮やかだ。

――“某達”を拾って育てたその羅刹は、師匠は、ある集団の頭領だった。

悪党を罰し、悪鬼を裁く。
其を生業とする羅刹達。
故に我らは罰裁羅(ばさら)と――罰を裁く羅刹を名乗ると、師匠は語った

“某達”は「そんな無茶な当て字が有るか」と言い囃したが
「あるから名乗ってんだよ俺達は。あとお前も」
と、笑って小突かれた。動きは緩かったのにやたらと痛かった。

無論、某達は羅刹では無い。ただの凡人、偉才無き人間。
我らは最初から己を四人宿しはしていたが
体自体はてんで常人の其れ。

だからこそ、わたしたちはひっしで
しにものぐるいで、すこしでも
追いつこうと、して
それなのに
――今となってはもはや、追うべき背中も消え果てた。

自責の念が胸を締め付ける。戻らない過去が未だじりじりと肌を焼く。そして、そんな己への罰を乞う様にそっと偽物へ――羅刹の人形へと手をふれる。

――奴はどうなったのか

すまぬで御座る…

――お前があと少し早ければ

申し訳無いで御座る…

――奴の友たるお前が止めていれば!

ああ…!!

バリンッ

耳朶に響く苛みの声に、気が付けば沸き上がった衝動の儘、像をバラバラに打ち砕いていた。

「すまぬ…!!」

何もかもが至らぬ己が歯がゆくも、責める声にも耐えきれず。
赤が滴る程に、強く拳を握り締めながら。
男が、涙に泣き濡れる。

それでも、過去に眠っていた約束だけは。
――必ずいつか、討ち果たそうぞ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
……私が失くしたものがあるのならそれはシャーロック?それとも、別の何か――
私だわ
……でも、「誰でもない」
私が……眠っているというより、「死んでいる」の?
白い髪、灰色の目、丸まって胎児のように横たえて
でも、その姿には角もなければ尾もないし、UDCは見当たらない
ねえ、誰なの、この「私」は
教えてよ、皆なら――マダムなら、知っているでしょ、ねぇっ
変だと思ってたのよ、「基本人格」がいないのが
「護るべきはずの人格」がいないのが!
私がわずかしか記憶がないのもッ!
記憶の管理人は黙秘をするわけ?ああ、そう
じゃあ、自分で見つけるし判断するわ

捜さないと、いけない気がするの
これは猟兵の、お仕事よ。でも、――捜したいの



過去の展示場。ノスタルジア展。
かつてに忘れ、亡くし、失ったものをより集めたという、この場所に。
もし、私が失くしたものがあるのならば。
それは――

「やっぱり、シャーロックなの…?」
キネマで目にした影響もあって、真っ先に浮かぶのはそれだった。
けれどその予測に、どこか小さな引っ掛かりが、違うと小さな声を上げる。
――彼女ではない別の、何か。
その答えへと考えが辿り着く前に、先に止まったのは、足だった。

居並ぶ美術品のひとつ。
そこにいたのは――「私」。

丸まって、胎児のように横たわる人形。
その顔と体つきは、どう見ても「私」である。

「私、だわ。……でも、「誰でもない」。」

けれどその白い髪、灰色の目は、「誰のものでもない」。
真の姿と定義しても、角もなければ尾もなく。
普段寄り添うUDCの姿すら見当たらない。

これは――いったい、誰?

また、謎が深まった。キネマの時もそう。自らに関する何かを得られるんじゃないかと淡い期待をして――結局、肝心なところをぼやかされる。はぐらかされる。今も目の前にこれだけ関わりの深いものを見せられて、手にできたのは“なにもわからない”という事実だけ。

「ねえ、誰なの、この「私」は。
教えてよ、皆なら――マダムなら、知っているでしょ、ねぇっ!」

ふつふつと、苛立ちが募る。けれど裡に住まう誰からも返事は無い。

「変だとは思ってたのよ。「基本人格」がいないのが。」

多重人格者の生まれ方は多岐に及ぶ。
だが、その発生にはセオリーもまた存在する。
そのうちの一つとして挙げられるのは
――基本人格が、脅威に脅かされたとき。
――交代人格は、盾となるべく生まれる。

「なぜ、「護るべきはずの人格」がいないの!?」
――Why done it.

「私が、わずかしか記憶がないのはどうして!?」
――How done it.

「ねえ、教えてよ…誰なの、この…「私」は!!」
――Who had done it.

白々しい空間に、誰かもわからず静かに横たわる“私”に、檄した言葉は吸い込まれていく。問いに対する答えは、ただ静寂をもって返される。

「…ああ、そう。記憶の管理人は黙秘をするわけ?
いいわよ。じゃあ、自分で見つけるし判断するわ。――ワトソン!」

険を隠しもせずに言い放ち、腹立ちまぎれに人形を壊すようUDCへと命じる。ともすれば起き上がりそうなほどに精緻な人形は、けれどあっけなくカシャン、と硬質な音を立てて崩れていく。その様子に、僅かに波立つ心を感じ取りながら。そしてその心の動きにすら、怒りを募らせながら。その先へと進んでいく。

「捜さないと、いけない気がするの。」

これは依頼。
邪神にまつわるものを始末せよ、という猟兵に課せられた仕事。
けれど、いまは。

――捜したいの。

その思いだけが、歩みを進める動機だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・スノーバー
…身震いしそうな、不思議な感覚
綺麗なのに、何処か寂しい感じが怖いよ

…あ
やだ、そんなの、何で…
(見てしまったのは、映像の続きのような、巻き戻し。
どうしても、大きくて運ぶことが叶わなかった、優しい動物達の元気な姿)
意地悪っ…悪趣味!
残しておきたくなるじゃんっ!
寂しいの、忘れてなんか無いからこうして漬け込む戦法?ズルい!
ぼくの悔しい思いは、ぼくだけのモノだもんっ。
弄ぶなんてぜーったい、おこだよ!
取り返せないからこそ、繰り返さない為に前に進むって決めたんだから
邪魔する野暮なのはぶっ壊すもんっ!
(壊してキラキラ散らせてお星様。色褪せてもちゃんとおぼえてる。
冒涜するなんてもっての他。忘れなければ良いもん)



真白い廊下を、てくてく歩く。
服はちゃんと着込んでいて、ここは雪山よりずっとずっと暖かい。
それなのに、どうしてだろう。
身震いしそうな、不思議な感覚が止まらない。
作品だって、回廊だって、みんなみんな綺麗なのに。
何処か寂しい感じが――怖い。

でもその理由は、すぐにわかった。
歩いて、歩いた、その先に。大きく開けたホールが見える。
イミテーションの樹々を飾って、造花の草花も配置して。
嗅げば土と雪の匂いすらそのままの、かつての森の姿。
――ああ、そこに。

「やだ、そんなの、何で…。」

今度は感覚だけじゃなく、本当にふるりと身を震わせて。
見てしまったのは、キネマの続きのような、巻き戻し。
飛び跳ねて、駆けまわって、寝転んで。何て楽しそうな姿。
ぼくの小さな手では、どうしても運んであげられなかった。
とても優しくて、温かい――大きな動物達の、元気だったころの姿。

「意地悪っ…悪趣味!こんなの、残しておきたくなるじゃんっ!」

目頭が、うんと熱くなった。胸がビリビリと震えるようだった。
こんなのってない、その思いのままに、誰にともなく怒りを叫んでた。

寂しいことも、かなしいことも、忘れてなんか無いからって。
こうして弱いところに漬け込む戦法?
――そんなの、ズルい!

「でも、駄目だよ。ぼくの悔しい思いは、ぼくだけのモノだもんっ。弄ぶなんてぜーったい、おこだよ!」

そう、悲しいけれど、よくわかっている。
彼らはもう、失われてしまった。
それを取り返すなんて、神さまでもできっこない。
だからこそ、繰り返さない為に――前に進むって、決めたんだ。

「それなのに、邪魔するような野暮なのは――ぶっ壊すもんっ!」

精一杯の想いを込めて、空間を埋め尽くすほどの氷を招く。
降り注がせて、壊して、砕いて。
何もかも全部を、キラキラと、まるでお星様みたいに散らせて。
きっとホントの彼らが、還った姿へ準えるよう。

遠くなっても、色褪せても、ちゃんとこの目でおぼえてる。
冒涜するなんてもっての他。
みんなで一緒に過ごした、あの時間を。
――なにひとつ、忘れたりしないんだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

スミス・ガランティア
【POW】
【展示品:凍りつく少年と寄り添う少女……が凍える前を模した精巧な人形】

……っ!(展示品を見て目を見開き立ち尽くす。本当に彼らがそこにいるように見えたから
人形、か。
そうだな、彼らがここにいる訳が無い。

彼らを、なんだと……見世物のように飾りおって……(怒りを顕に
……我は進まなくてはならない。人形の頭に手を置き【氷結の世界】でただの氷に変える。
……結局我は、また……寒いだろう、痛いだろう、すまない、すまない……っ!

あの時は、謝る事も出来なかったのだったな……

(謝罪の言葉が漏れてしまうのは、簡単に人の子の死に縛られてしまうのは、彼が若い部類の神だからか、それが彼という神の性質だからなのか)



静かで、静謐で、静寂で。
居並ぶ作品以外が、白々しいまでに真っ白に染まった空間。
それは奇しくも、どこか――雪と氷に閉ざされた世界に、似ていた。
キネマで目にしたこともあって、眼裏にははっきりとかつての情景が浮かんでいる。
だから、だろうか。
回廊を跨いだその先の、開けたホールの中央に。
氷に閉ざされていない、楽しげな姿の彼らが見えた時。
――自らの心臓こそが、凍り付いたかのように思えた。

「…――…っ!」

思わず、声が溢れかける。まるで時が巻き戻ってしまったかのようにさえ思うその姿。けれどいくら眺めても、彼らは動かず、瞬きさえしない。
当然だ、なぜならこれは――

「……人形、か。そうだな、彼らがここにいる訳が無い……。」

そう、分かっている。今にも動き出しそうなほど精巧でも、これは人形――紛い物に他ならないと。それでも、あの一瞬に焼き付いたのとは違う、零れんばかりに笑う彼らの姿は。
――あまりにも、まぶしかった。

徐々に事態を把握し、苦いながらも事実を飲み込んで。
そうしてようやく凍り付いていた心臓を、ゆっくりと溶かしていったのは。
――煮え滾る様な怒りだった。

「彼らを、なんだと……見世物のように飾りおって……。」

冗談というならあまりにたちが悪い。例え我が心を抉るのが目的だとして――そう、そしてそれが、これ以上ないほどに効果的だったとしても。彼を、彼女を、このように扱うなど決して許せるはずはない。だが、その怒りを向けるべき矛先とは、未だ邂逅を果たせていない。そしてその敵と出会う為には、鉄槌を振り下ろす為には。
――今、ここで、“これ”を壊さねばならないのだ。

何という悪趣味だろう。今こうして目にしているだけでも、心が縛られるように痛むというのに。紛い物と分かっても、身を投げ出して謝ってしまいたいほどなのに。
ああ、それでも。

「……我は、進まなくてはならない。」

それは、自らに言い聞かせる様に静かに、厳かに呟いて。
苦渋を滲ませながらも、ニセモノの彼らに手をふれる。
その途端、声が響いた。

――いたい、さむい、さみしい。
――どうして、また、ひどいことをするの?
――かみさまは、わたしたちを、また…

「……ああっ…!寒いだろう、痛いだろう、すまない、すまない……っ!結局我は、また…!」

己を苛む声は幼くて、それがより一層心に深くささくれを作る。あの時は謝れず、そして今もまた、謝ったところで本当の彼らに届かない。それでも、進むと決めた意志をもって、彼らを――氷の裡へと鎖していく。

再演される悲劇を前に、それでも、何時か手が届く春の日を想って。

――かみさまの頬を、温かな涙が伝った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■アドリブ歓迎

過去に潜れば見えてくるのは
あの頃の【僕】の全て

手枷
水中で舞う時綺麗に見えるように
銀色煌めく綺麗な細い奴隷の証

しわくちゃの楽譜
座長が書いた歌
けれど歌は僕の1番の武器
望まずに手に入れた歌聲は実はそんなに嫌じゃない
大好きな君が綺麗だといってくれるから

折れた鍵に黒薔薇
爪の残骸
仲間がくれた花
でも彼は殺された
僕を水槽から出そうとしたから

守れなくて
ごめん

水槽
僕の牢獄

桜がみたい
その為に禁忌を歌い
劇団も街も全てを水底に沈めた時に割れる水槽

蕩かす水に呑まれる
絶望の悲鳴が脳裏に響く

.。

過去の欠片を静かに見据え
冷たい牢獄に再び囚われたような感覚に息をつく

でも
もう目は逸らさない
これが僕

僕はまだ
そこにいる?



それはまるで、過去に潜ってしまったかのような、景色。
白くて、白々しくて、無機質な展示室を、水槽の水面がゆらゆらと染め上げる。
ぽつりぽつりと、回廊に添って並べられている、展示品たち。
それは、全て。
――あの頃の“僕”の、全て。

水中で舞う時、綺麗に見えるように
銀で編んで、翠玉を嵌め込んだ腕輪
細く煌めく奴隷の証
――僕を水底へと縛る、手枷

望まずに手に入れた歌聲
だけど僕の、たったひとつの武器でもあった
生きる為、死なない為、座長が書いた歌を歌う
――涙が染みを残す、しわくちゃの楽譜

パキリと折れた鍵に、添えられた黒い薔薇
僕を水槽から出そうとして、彼が差し出したのは、鼓動
その胸を抉った、爪の残骸
――殺された仲間が、くれた花

最後に置かれた、硝子の水槽
歌を披露するための、小さすぎる舞台
びいどろ色の、きらびやかな檻
――誂えられた、牢獄

何もかもが、かつてを縛る
捉えて、捕まえて、離さない
――僕の、かつての全て

.。o

ぷくりと吐いた息は、まるで水底から零れたかのように淡く細く、立ち昇って。
過去の欠片を静かに見据えれば、また冷たい牢獄に囚われたような感覚に息をつく。

でも、もう目は逸らさない。
大好きな君が綺麗だといってくれるから、歌声は嫌いじゃなくなった。
かつてに胸を痛めても、生きていようと思える出会いがあった。
かつてを、因果を呑み込んで――これが、全て、僕なのだから。

“桜がみたい”

その願いの為に、歌い上げた禁忌を、今一度口にする。
劇団も、街も、全てを水底に沈めた呪い唄。
割れたびいどろから、蕩かす水に呑まれても。
絶望の悲鳴が、脳裏を焼くほど強く響いても。
――檻を出たことを、悔いてはいないから。

ああ、この先に、出会うだろう“僕”は。
まだ、そこにいる頃の僕なのか。
それなら、希望をしらぬ君の目に。
――さくらを、届けに行かなくちゃ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
これが出てくるのなら
喪失と言えるものであったか


背格好は己と同じ
目深にフードを被り、襤褸を纏った探求者の姿
求めたものに手が届き、その場で全て失った者

辿り着いた解が零れ落ち
届いた手はばらばらに解け
歩み続けた両の脚が何も捕らえなくなり
名も、意も、肉も魂も、一切が空虚に溶け消えた、嘗ての旅人の姿だ


畢竟。それは今の己が空虚から始まった事を意味する
澱んだ残滓が形を取っただけの

成る程覚えていない訳だ
納得はできるが、それへの感情は些か持て余す

とは言え既に忘却ですら無いもの
確認したらさっと触れて壊す
声も失われては聴こえるものもない

顔も見ず進む



目に見える形で、過去が並べられている。
家族の姿を写す絵画。
幸せそうに笑う人形。
思い出を象った彫刻。

その中に溶け込んだ姿を見て、初めて――“そう”だったのかと認識できた。
こうして展示として、此処に並んでいるのならば。
それは――喪失と言えるものであったのか、と。

其処に在ったのは、一体の人形。
背格好は、まるで己をなぞったかのように同じ。
目深にフードを被り、襤褸を纏った探求者の姿。
求めたものに手が届き、その場で全て失った者。

――過去へと潜り、世界を越えた、その先に。
ようやく辿り着いた筈の解は、脆くも零れ落ちていく。
届かせようと伸ばした手すら、ばらばらに解けて消えていき
歩み続けた両の脚が、地も空も何も捕らえられなくなり
名も、意も、肉も魂も。
持ちうる何もかも、全て。
――一切が空虚に溶け消えた、嘗ての旅人の姿。
曳いては畢竟――今の己が、他でもないその空虚から始まった事を意味する。

「成る程、これでは…何も覚えていない訳だ。」
澱み、崩れ、濾しきれず残った残滓が、ただ人の形を取っただけのもの。
それが今の己なのだとすれば、この在り様にも納得はできる。
――沸き上がった感情は、些か持て余すにしても。

けれど転じれば、これは既に忘却ですら無いもの。
一度すべてを無に帰して今があるのなら、最早切り離されたに等しい。
それはさながら――蛹が蝶へ変わるように。

触れると同時に、苛む声すら聞こえない速さで、人形を打ち壊す。
喪われた声など、聞くには値しないと、示すかのように。

過去はここに見た。ならばあとは。
――先へと、進んでいくだけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
さて、さて、さて。
映画の次は芸術鑑賞か。文化的な行為に是非はないけれど、余り悪趣味なモノばかりでは飽きが来るよ?

ボクの過去が置かれるとは言ってもね、先の映像を見た通り基本的には『孤独』が殆どだった。
いやなに、別に記憶喪失という訳でもないのだし、過去として置くべきモノが何もないというのも、ある意味では一つの恐怖とは思うけれどもね?

ただ、過去と現在を繋ぐ何かがあるとすれば、過去に有意を見出すとすれば。黒鉄の機人がその筆頭だろうか? それともボクの柱となっている『リュンコイスの詩』かな?

まぁ、どんなものでも良い。ボクの答えは決まっている。
芸術は爆発だ……物理的に、だけどね?
(『月墜』を構え、砲撃)



「さて、さて、さて。映画の次は芸術鑑賞か。」

キネマの後に通された、ノスタルジア展の会場に1人。真白い空間を埋める美術品を眺めながら。少女が小さく独り言ちる。文化的な行為には是非もないけれど、ここにあるのはどうにも悪意が過ぎている。

「余り、悪趣味なモノばかりでは飽きが来るよ?」

もしここに支配人にあたる様な思念があるなら、そう文句の一つも言いたいところ。
そして過去が置かれるとは言っても、先のキネマを見た通り、その時間の多くを占めているのが『孤独』だった。ならば形として、明確に見える形で展示されるものとは一体何だろう、という疑問が沸く。しいて言うなら、記憶を失っているわけではないので、“過去として置くべきモノが何もない”という空白の展示も、ある意味では一つの恐怖かもしれないが、はてさて。

ただ、もし。
過去と現在を繋ぐ何かがあるとすれば。
過去に明確な有意を見出そうとすれば。
黒鉄の機人がその筆頭だろうか?
それとも自らの柱となっている『リュンコイスの詩』か?
その問いは――

「…成程、こう来たか。」

そう――答えは、“どちらとも”。
飾られていたのは、隣り立つ黒鉄にそっくりの人形。
そして、その鎧にはいたるところに文字が刻まれていた。

“Sollt ihr Augen dies erkennen!”
“Muss ich so weitsichtig sein!”

それは、彼方を見渡す嘆きの歌。
それは、災いと苦しみを示す詩。

けれど、乗り越えた少女にそれは無意味な問いだった。
喜びばかりではないだろう、苦しみに泣く日もあるだろう。
それでもいつか振り返って、この手にしたものすべてに。
――永遠の誇りを見るのだ、と。

「選び方を間違ったね。それにほら、よく言うだろう?芸術は爆発だ、って。まぁ今回は……物理的に、だけどね?」

常と同じ表情に、それでもほんのわずかに、悪戯めいた様な笑みを乗せて。
その言葉を皮切りに、機人が『月墜』を構える。携行タイプながら、単発式の為に取り回しは劣悪な火砲。だが、その分威力はまさに――月をも墜とすほど。

「さようなら。まぁそれでも、此処にあるもの――“すべてが美しかった”よ。」

ガァン――!!

耳を劈く銃声と共に、吐き出された弾は迷いなく紛い物を打ち抜いて。
――過去は、燃え尽きていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
壊して回るまでも無く、誘われるままに目当ての物を探す
極力物は壊さず、鍵で閉じられている場合のみ刀にて破壊する

あれを見せられてから胸が騒めく
初めて入る場所でありながら己の直観が物の方向を教えてくれるようで
そして飾られているものが何かも分かってしまう

見つけたのは一体の人形
眠るように死を迎えた……小夜子様の御姿
簪を飾っていたぬばたまの髪は糸の様に白く
布団から見える藍色の着物の袖も襟元も痩せた体には緩く

ただ眠っているだけではないかと
閉じたままの瞼が、いつか開くのではないかと
あの時と同じ様に思ってしまうのだ

否、あの人は目を覚ます事は無かった

戻る事が無いと知るも今も想う
……壊したとて、決別出来るはずも無い



真白い回廊を、夜が一人、静かに歩いていく。

隅から隅までに飾られた美術品には、眼もくれず。ただ黙々と足を進める。
あれを――キネマを見せられてから、胸がちりちりと騒めいていた。
過去を、後悔を、全て写し取ったかのようなかの活動写真。
そしてこの美術展も初めて入る場所でありながら。
直観が、本能が、往くべき方を訴えかけてくる。
それ故だろうか。
この目で見るよりも早く、その場にたどり着くよりも速く。
――飾られているものが何か、分かってしまう。

見つけたのは一体の人形。
床に臥せった様子さえ忠実に模した、紛い物の主――小夜子様の姿。
簪を飾っていたぬばたまの髪は、絹糸の様に白く細く。
纏った藍色の着物の袖も襟元も、痩せ過ぎた体に緩く。
――かつて、喪うた時そのままの姿。

ただそれでも、目を閉じた様子は、眠っているのではないかと思うほどに穏やかで。
閉じたままの瞼が、いつか開くのではないかと。
そして、私の名を呼んでくれるのではないかと。
あの時と同じ様に、思ってしまうのだ。
――何度でも、幾度でも。飽きることなく、褪せることなく。

けれど、それと同じくらいに。事の顛末はよく覚えている。
どれ程願っても、あの人が目を覚ます事は無かった。
過去に待てど、今に想えど、もう。
涙を浮かべて揺らめいた、あの瞳を見ることは。
――二度と、叶わない。

苦みの滲んだ胸に手を当て、捧げるのは短い黙祷。
そして腰に佩いた刀を抜き放ち、迷いの滲まぬよう一思いに振り下ろす。
思いのほか脆く、カシャン、と音を立てて崩れいく過去の欠片は。
まるで、花びらの如く舞い散っていく。

例え今こうして、人形を壊したとて、決別出来るはずも無い。
戻る事が無いと知るも、今もこの胸の裡は変わらない。
――未だ想うは、あなた一人なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリスティーヌ・エスポワール
双子姉のニコと参加(f02148)
合流するかはお任せです
【WIZ】

置かれてたのは、1体の犬型ペットロボット
ペットロボだけど、賢かったし、私達に懐いてくれたから、「キャラメル」って名前つけて可愛がったっけ
昔のように撫でようとして、苛む声に気づく

『使命を忘れて、何をしているのです?』
貴女は……ジャンヌ!私達を作った女……!
『そう、貴女達は我が希望(エスポワール)。新しい希望を、私の仔を産む胎』
もう関係ない!お前の希望は墜ちたの!
失せろっ、エロババア!
『希望……私の、希望……あと、少しで……』
消える声はもう一顧だにしない

今までありがとう、キャラメル
これからは二人で生きていくから
だから……見守っててね


ニコレット・エスポワール
双子妹のクリス(f02149)と参加
合流歓迎
WIZ重視

なんなのさアレ…なんでもない!
クリスこそ涙目じゃんっ

ん?アレ、エスポワール号のキャラメル!?
でも、そこから響く声…!

『あら、よく育ったわね。良い胎よ』

っ…!

『そう、貴女達はエスポワール』

…っさいよ

『死んだ皆の、私の…』

煩いって言ったの、エロババア!
失せろよっ!

キャラメル、今までありがとね
…でも、お世話はもういいよ
いろんな世界で、2人で生きてくんだ

●大切な物
犬型ペットロボ『キャラメル』
生活管理用自動機械の端末
〆は電源オフにより故障

●苛む声
最期のエスポワール号乗員
双子担当の女性科学者
己を半陰陽/双子を母胎として
種の存続を図った狂人
凶行直前に死去



キネマから追い出された先に見た、真白い展示会場に、声が響く。

「ちょ、いきなりなんなのもう…ってニコ、泣いてるの?」
「なんなのさアレ…なんでもない!クリスこそ涙目じゃんっ。」

二人の少女が再び出会い、互いの姿に安心しながらも、いつものように軽口を投げ合っていた。

“それぞれの過去”を展示するはずの、ノスタルジア展。
そこにこうして、ふたりの少女が集うということは。
――そこに飾られるものすら、同じだということだからか。

当て所なく続いていく回廊を共に歩き、先にそれに気が付いたのは、ニコレット。

「ん?アレって…エスポワール号のキャラメル!?」
「キャラメル?…うそ、本当に…!?」

そこに置かれてたのは、1体の犬型ペットロボット。
笑ったような顔が、どこか少し惚けていて。
首に巻かれた赤い首輪には、幼い字で“Caramel”と刻まれていた。
傍からすれば、ただのペットロボ。
生活管理用自動機械の端末。
だけど賢くて、よくなついてくれた。
――大事な、かつての友達の姿。

ニセモノだっていうのは、お互い言葉にしなくてもすぐに分かった。だって本当のキャラメルが壊れた時を、私たちはともに看取ったのだから。それでもやっぱり、そっくりな姿を目にすれば、胸が熱くなるくらいに懐かしくて。
どちらからともなく、昔のように撫でようとふたり手を伸ばせば。
――触れた瞬間に、己を苛む声に気づく。

でも、そこから響く声は。
キャラメルの鳴き声でも、共に遊んだ頃の笑い声でもなく。
どろりと甘く、昏く、耳朶を侵すような――女の、声。

それはかつて、“私たち”を創ったもの。
自らがアダム/イブを作りし神に成り替わろうとした、狂気の科学者。

――あら、よく育ったわね。良い胎よ
――それだというのに、使命を忘れて、何をしているのです?

「…貴女は……ジャンヌ!」
「っ…!」

――そう、貴女達はエスポワール
――船の存続を担うもの

「何を、勝手に…!」
「…っさいよ。」

――死んだ皆の、私の…貴女達は我が希望(エスポワール)
――新しい希望を、私の仔を産む胎

「もう関係ない!お前の希望は墜ちたの!」
「煩いって言ったの、この…!!」

――さぁ、はやく、この手を…

「「失せろよっ、エロババア!」」

声を、狂気を、打ち払うかのように。ふたりが怒号にも似た叫びをあげる。
けれど今この時だけは、例え同じ思いであっても、共鳴ではなく。
確固たる――自分の、自分だけの意思で。
触れていたキャラメルを、互いに抱きしめる様にして――壊していく。

――希望……私の、希望……あと、少しで……

追うように消える声はもう、一顧だにしない。
だけど、その代わりに、壊してしまった友の姿は、胸に痛かった。

「今までありがとう、キャラメル。」
「…でも、お世話はもういいよ。」

――これからは、2人で生きていくから
――いろんな世界で、2人で生きてくんだ

だから……見守っててね。

胸の裡の誓いを共に。
希望の名を、その意味を、生き抜くために。
――あなたにもう一度、さようならを告げよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

虜・ジョンドゥ
展示会に並ぶのは
8bitドット絵で作られたミニキャラ

真っ白なお顔に雫のペイント
マントを羽織った―道化の魔王様

世界を脅かす存在であり
勇者一行の敵であり
…ボクの、親友だ

彼に触れたなら声が響く

「ほう、お前が勇者か。役割上は敵であれど、我らは友でいようぞ」
「よく来たな勇者よ!この世界は我のものだ!」
「ほうお前が…ど、どうした?初対面なのにどうして泣いている?」

リセットするたび約束を繰り返す
ボクの名前や、性別が、毎回違っても
キミは親友で居てくれた

強く
強く抱きしめて
ボクはキミを壊す

砕けて飛び散るドットたち

魔王だとか勇者だとか
役割から解放されても
ボクはキミを倒さなくちゃいけないんだね

…ごめんね

アドリブ歓迎



白くて、白々しくて、無機質な展示会場。
――こんなに真っ白な場所、うっかりゲームに出てきたら。

「故障だ!って、あっという間にリセットボタンを押されちゃいそうだ。」

先程よりは明るくて、けれどやっぱりどこか、気の入らない声。
いつものような調子に戻せないのは、久しぶりに聞いたあの音が。
――ブツリと世界を終わらせる音が、まだ耳から離れないせい?

それに、なんとなく分かってるせいもあるかな。
過去を展示するっていって、そこに何/誰がいるかって。
だってほら、白かったはずの壁が、何度も通ったお城のレンガに塗り替わって。
8bitドットの、見慣れたミニキャラが出迎えてくれている。

のっぺりと塗りたくった真っ白なお顔
おっきく描かれた片目下の雫のペイント
真っ赤なマントをひらりと羽織った
――道化の魔王様

そうとも、これこそが
世界を脅かす許しがたい存在であり
勇者一行が最後に倒すべき敵であり
――ボクの、たったひとりの親友だ

「懐かしいね、もうどれくらいあってなかったっけ。」
問いかけても、返事はかえってこない。
それもそうか、此処にいるのはニセモノだもんね。
それでも思わず伸ばした手で、彼に触れたなら。
――彼の声が聞こえてきた。

――ほう、お前が勇者か。役割上は敵であれど、我らは友でいようぞ。
――よく来たな勇者よ!この世界は我のものだ!…けど友になるなら半分やるぞ?
――お前は勇者なのに見どころがあるな。どうだ、我と友になるというのは!
――ほうお前が…ど、どうした?初対面なのにどうして泣いている?

リセットするたび、世界が終わるたび
いつも同じ約束を繰り返す。

プレイヤーの手の裡にあるボクは
気紛れに名前や、性別が、くるくると変わっていったのに
キミだけは、何度でも親友で居てくれた。
たとえキミが、周りが、何もかもを忘れても。
ボクの中にだけは、約束が降り積もっていった。

それなのに。
魔王だから、とか。勇者だから、とか。
そんな役割から、こうして解放された、今でも。
結局ボクは、キミを倒さなくちゃいけないんだ。

「…ごめんね。」

強く、強く抱きしめて。
ボクはまた、キミを壊す。
砕けて飛び散るドットが、まるでクラッカーから飛び出た紙吹雪のようで。
ああ、そんな皮肉も、ここの思惑通りなのかな。

舞台を眺める距離で、悲劇と喜劇が入れ替わるなら。
画面越しのハッピーエンドも、ボクには寂しいエンドロール。
ほら、お揃いの涙のペイントだって。
――こんな舞台に引き出されたのが、悲しいからかもしれないね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三千院・操
――或いは、これはもしかしたらおれへの報いなのかもしれない。
ここに一族じゃなくて、■■■(おまえ)がいるなんてね。

眼の前にあったのは、高校三年生の春に目の前で溶けて死んだ親友の遺品。
同じ野球部に所属していたあいつの金属バット。
随分と懐かしいものに、手が伸びる。
聞こえる怨嗟と悲哀の声に頭を抑える。けれど。

はは……そうだよなぁ。憎いよなぁ、悲しいよなぁ。
わかってるよそんなこと。おれだって憎くて悲しかった。
だから。

【脳門】の応用によって自分の脳を作り変えることで呪詛に対応。
金属バットをしっかりと握りしめて、笑う。

一緒に、行こう。
偽物だとか本物だとかそんなのはどうだっていいんだ。
おまえは、おれの――。



――或いはこれは、おれへの報いなのかもしれない。

過去を展示するというなら、きっと“彼ら”が並ぶだろうと思っていた。
この身の裡に犇めく、数多の才能。
その源泉となった、かつての一族。
――命を吸い上げ破綻した、終わりと始まりの日。

だけど、目の前に現れたのは、再現ジオラマでも人形でもなく。
たった1本の、金属バット。

「ここに一族じゃなくて、■■■がいるなんてね。」

思いもよらない再会に、眉毛をふにゃりと下げて、苦く笑う。
それは、高校三年生の春に目の前で溶けて死んだ親友の遺品。
同じ野球部に所属していた、あいつの金属バット。
握りしめた手の跡も、雑に使って凹んだ部分も、何もかもがそっくりなニセモノ。
それでも随分と懐かしいものに、思わず手が伸びる。
途端、耳朶を満たすように――聞き慣れた声が、流れてきた。

――なんで俺、しんじゃったんだ?
――俺、何にも悪いことしてねぇのに。
――やりたいこととか、夢とか、あったのに。
――なぁ、なんでだよ?
――なんで、お前は生きてて、俺が死ぬんだよ!!

「はは……そうだよなぁ。憎いよなぁ、悲しいよなぁ。」

聞こえる怨嗟と悲哀の声に、思わず頭を抑えて苦悶を浮かべる。
わかってるよそんなこと。おれだって憎くて悲しかった。
なんにもできなくて、取り残されて。
絶対に取り戻せないってことも、思い知った。
だけど。――だからこそ。
俺は今、ここにこうして立っている。

「――この身を潜るもの、一切の希望を捨てよ。」

静かに、厳かに、地獄へ連なる門を呼ぶ。
その瞬間、背後に現れた何かが、ぐしゃりと脳を掻き混ぜる姿が見えた気がした。
瞬き一つでそれは掻き消え、そこには先と同じように立つ姿だけがあった。
けれどもう、苛む声は彼に届かない。
ユーベルコードによって脳内を書き換え、最早呪詛の言葉は意味を成さない。

僅かにグリップへ込める力を強めた瞬間、ピキ、と音を立ててバットに罅が走る。
けれど、不思議とそれ以上砕けることはなく、手の内に収まった。
なんだ、おまえだって――此処に1人じゃ寂しいんじゃんか。
それなら。

――一緒に、行こう。
偽物だとか本物だとか、そんなのはどうだっていいんだ。
だって、おまえは、おれの――。

壊れかけた金属バットを、しっかりと握りしめて笑う。
きっと、長くはもたないだろう。
――それでも、砕け散るその瞬間までは、傍に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吾條・紗
悪趣味な映画の次は、美術館ってわけ

ぼんやり冷めた声を一つ落として
尤もらしく飾られたモノを見遣る

酷く傷んだの鼠のぬいぐるみ
耳は裂け綿がはみ出て
腕は片方千切れかけ
眼のボタンもぐらぐらしていて、今にも外れそう

…もう、忘れてたよ

ある日、手の届かない高い窓から落ちて来た
唯一人のトモダチ
…だったもの

温もりも無く
笑いもしない
それでも、彼は俺を嘲り罵ったりはしなかった
あの頃はそれで充分だったから
でも――

こうして見ると、随分薄汚れてたんだな

もしも連れ出すことができていたら
修理屋の技を駆使して直してやれただろうが

指に歯を立て、流れた血で姿を変えた得物を構えて
物言わぬトモダチに銃口を向け、引き金を引く

…ありがとな



「悪趣味な映画の次は、美術館ってわけ。」

ぼんやりと、冷めた声を一つ落として、男が目の前の回廊へと目を向ける。ただただ白く、美術品以外の彩を一切削ぎ落したような無機質な展示室。そのあまりの白々しさに、思わず胡散臭い、と眇めて。
だけどその美しくも紛い物だらけの中に、襤褸けた姿を見つければ。
――橄欖石の瞳が、常よりも開かれる。

尤もらしく飾られたモノ。
それは、酷く傷んだの鼠のぬいぐるみ。

裂けた耳からは綿がはみ出てしまっていて
腕の片方は触れれば簡単に千切れてしまいそうで
眼のボタンもぐらぐら揺れて今にも外れて落ちそうな
ぼろぼろで、壊れかけで
――それでもずっと、傍にいた。

「…もう、忘れてたよ。」

ある日、手の届かない高い窓から落ちて来た
たった一人のトモダチ、だったもの。

抱きしめたって温もりは無く
何があったって笑いもしない

それでも彼は、他の者の様に
口を開いて嘲ったりはしない
侮蔑の目で見つめたりしない
あの頃はそれで、充分だった
でも――

「こうして見ると、随分薄汚れてたんだな。」

もしも、あの時。一緒に連れ出すことができていたら。
今自らが持ちうる修理屋の技を駆使して直してやれただろう。
新しい綿に詰め替えて、縫い直して。新しい瞳に、柔らかな腕。
だけどそれはもう叶わない。どれほどそっくりでも今目の前にあるのは過去の遺物。
――紛い物、なのだから。

そっと目を伏せて、指に歯を立てる。伝い流れる赤を啜り、姿を変えた得物を構えて。物言わぬソレに銃口を向け、引き金を引く。

「…ありがとな。」

たとえ、此処に展示されているのはニセモノであったとしても。
かつて、一緒に過ごしてくれた日々は今も胸の裡に眠っている。
だから、せめて、最後に口にする言葉は。
――かつてのトモダチに、ささやかな感謝を込めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メノゥ・クロック
気品溢れる黒色の毛並み
王に相応しい品格の佇まいと振る舞い
僕と同じ異彩の瞳
父上が居た

嘸かし驚かれたことでしょう
貴方にとって僕は自慢の息子だったでしょうから
事実を知らなければ僕は今も貴方の自慢のままでいたでしょう

「お前が疎かだとは思わなかった」
ええ、僕もです
「王子として、私の後継者として、お前には期待をしていたのだがな」
ええ、貴方は王としての在り方を教えてくれました
「殺すのか」
ええ、僕は再び貴方を否定します
何度問われても同じ
いえ、だからこそ再び貴方を否定します
剣を納めたら貴方の死は無駄になるから

僕なりに良き王であろうとしました
結果、貴方と道を違えましたが後悔はしません

さようなら、父上

アドリブ大歓迎



蜿蜒と伸びる、美術品の飾られた長い回廊。
その様子は、記憶にある塔の廊下に、どこか少し似ているような気がして。
だから、だろうか。
数多ある美術品の中、現れたその姿に、一瞬とはいえ憂いなく。
――ただ懐かしいと、思えたのは。

気品溢れる黒色の毛並み。
王に相応しい、品格溢れる佇まいと振る舞い。
僕と同じ青と金の異彩の瞳。
――記憶にたがわぬ父上の姿が、そこにはあった。

堂々と王座に就くその姿は、反旗を知る前なのだろうか。
――ならばこのひとときだけは、かつての王子として。息子として。
正式な作法に則って、膝を付き首を垂れる。

「嘸かし、驚かれたことでしょう。」
国を覆し、剣を手に詰め寄るあの瞬間まで。
僕は貴方にとって、自慢の息子だったでしょうから。
事実を知らなければ僕は、今も貴方の自慢のままでいたでしょう。

問いかけに、胸の裡に、返される言葉はない。
然し伸ばした手が、人形の手に重なった瞬間。
懐かしい声が、耳朶を満たした。

――お前が疎かだとは思わなかった。

ええ、僕も。貴方が王として、道を外しているとは思いませんでした。

――王子として、私の後継者として、お前には期待をしていたのだがな。

ええ、貴方は王としての在り方を教えてくれました。

――それでも殺すのか、また、私を。

ええ、僕は再び貴方を否定します。

たとえ幾度問われようとも、返す答えは変わらない。
貴方を終わらせるため、反旗を翻したのは僕の意志。
たとえどれ程時が過ぎても、その決意には些かの曇りもない。
だからこそ今、再び貴方を貫きましょう。
なにより、ここで剣を納めたら。
――貴方の死は、無駄になるから。

「僕なりに、良き王であろうとはしました。」

静かに、立ち上がる。これよりは、此処にいるのは革命の旗手。

「結局、貴方と道を違えはしましたが、後悔はしていません。」

高く掲げる愛刀は、過去と同じく狙いを定めて。

「…さようなら、父上。」

貫く感触は、あの時よりもずっと軽く。
カシャン、と陶器のような音を立てて崩れていく。
その姿を、最後の欠片になるまで、逸らさずに見届けて。
せめてと、願うのは。
――どうか、その先にある眠りは、安らかなものであるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロダ・アイアゲート
【WIZ】
先ほどの砂嵐を思い出す
あれが私の過去
「過去がない人形に語り掛けるものがいるのでしょうか…」

静かに、ゆっくりと歩みを進める
もし語り掛けてくる存在があるのなら、きっとそれはマスターなのだろう
でも私はその人がどんな姿をしているのか、どんな声なのかも知らない
姿が見えたとしてもきっと先ほどの砂嵐と同じように、はっきりと見ることは叶わないだろう
縋りたいと思う気持ちはあれど、それが『本物』かどうかを見定める術を私は持っていない
だから私はその声に応えずに先へと進む
応えてしまったら…きっと揺らいでしまうから
きっと願ってしまうから

観察しながら演算デバイスを使って仕掛けを探す
振り返らずにその先へと進む



懐古を飾る会場は、異様なほどに静かだった。

他に見る観客の姿はなく、BGMが流れることもなく。白々しいほどに真っ白な壁の前、整然と展示される美術品たち。そのどれもが精巧で、緻密で、本物じみて見えるのに――目を奪われるだとか、心を打たれるだとか、そういった感慨はわいてこない。それは果たして、自らに縁がない品ばかりだからか。それとも縁があっても気づけない己のせいか。――もしくは。

「展示する作品がない、なんてことも…あるのでしょうか。」

思わずぽつりとつぶやいた声は、床に壁に吸い込まれて消えて行く。問いに答えはなく、映る様子に代わり映えもなく。当て所なく歩いているとふと、先ほどの砂嵐を思い出す。
――あれが、私の過去。
――何もないと明示された、かつての集積。
ならば、たとえもし。この先に展示品があったとしても。
「過去がない人形に、語り掛けるものがいるのでしょうか…。」

1歩、2歩。
歩くごとに足取りが重くなっていくように感じられる。然し体には何の故障も読み取れない。ならこれは、心の問題だろうか。そうして在ることに、無いことに、どちらにも怯えながら歩んで行けば――ようやく、ひとつの作品の前で足が止まった。

それは――人の形を模した何か、だった。
石膏で作られた白くざらついた肌からは、どんな人種かを読み込むことは出来ず。
砂嵐が走る液晶を埋め込まれた顔からは、どんな人相かを汲み取ることは出来ず。
特徴という特徴をすべて削いだ躰からは、どんな人間かを思い出すことは出来ず。

ああ、それでもこれはきっと――マスター、なのだろう。
ザザ、と顔のテレビにノイズが走るたびに、僅かに人の声が聞こえる。何某かの顔が映ることもある。けどそれがマスターなのかどうかは、分からない。
――そうだと思いたい、そうであってほしい。
そうやって勝手に作った偶像へ縋ってしまいたい気持ちはあった。けれど、『本物』かどうかを見定める術を持っていない以上、それが偽りなのはわかる。
――だから、私は。

視覚に映る演算デバイスで、像を精査する。エラーとしてはじき出されたのは、掌部分。そっと手を伸ばして、握りしめられていたソレに触れると――

――あなたなんていらなかった。
――だからすてた。
――できそこない。みかんせい。

胸が、軋んだ気がした。知らない声、記憶にない言葉。
だからこそ、否定しきれない何か。けれど。

「もしかしたら本当は、そうなのかもしれません。でも、あなたは。」

私に、すまないと謝ってくれたあなたの言葉だけは。
――たったひとつの本当だから。

「ニセモノには、したくないんです。」

そう言って、像が握っていた偽りの紙切れを――そっと、破り捨てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨乃森・依音
展示品は俺が初めて作った曲のスコア

中学から音楽を始めた
生きる意欲が薄い俺に孤児院の先生が勧めてくれて
好きなバンドのCD夢中で聴いて
中古のギターを必死に練習して
音楽は死ねない理由になった

けれど本気の奴ほど学校では笑われる
オルタナなんて聴く奴いなかったし
変わり者だって遠巻きにされて居場所もない

そんな俺にも理解者が出来た
友達というには烏滸がましいけれど
居心地のいい相手

スコアはそいつに破リ捨てられた

ショックだった
悲しかった
許せなかった
あいつとはそれっきり

意を決してスコアに触れる

…わかってたんだ
クラスの奴に命令されてやったんだって
従わなかったら今度は自分だから
仕方なかった
それでも…!


…先に進まなくちゃな



白く塗りこめられた、展示会場。
居並ぶものは、人形や、絵画や、はてはジオラマまで。
確かに美術品と名するに値するものばかりに見えた。
だからそんな中、ぽつりと現れたそれは。
――あまりにも、不似合いに見えて。

それは、俺が初めて作った曲のスコア。
拙くて、何回も書き直して、ぼろぼろで。
でも、ようやく書き上げることができた、最初の一枚。

――中学から、音楽を始めた。
生きる意欲が薄い俺に、孤児院の先生が勧めてくれたのがきっかけ。
初めて聞いたときは、胸が痺れる様だった。
こんな世界があったのかって、はじめて“興味”ってやつがわいた。
中でも好きになったバンドのCDは夢中で聴いた。
コードも歌詞も全部覚えるくらいに。
?き集めた小遣いで買った中古のギターを
昼も夜もなく必死に練習して。
気が付いたら、音楽が――俺の死ねない理由になっていた。

けれど、本気の奴ほど学校では笑われる。
何になれるか分からなくて、曖昧に中途半端に過ごす学生の目に。
のめり込む様に打ち込む姿は、焦燥に宛てられて疎ましかったのかもしれない。
それに、オルタナなんて聴く奴はいなかった。
変わり者だって遠巻きにされて、居場所もない。

でも、いつのまにかそんな俺にも、理解者が出来た。
気が付いたら挨拶をして、ほんの少し会話して。
友達、というには烏滸がましいけれど。
目が合うとほっとするような、居心地のいい相手。

そして、此処に或るスコアは。
――そいつに破リ捨てられたものだった。

ショックだった
悲しかった
許せなかった
だから、あいつとはそれっきり

――ごめん、仕方なかったんだ
――だって、ああしないと今度は、こっちが
――俺だって、こわかったんだ
――どうしようもなかったんだよ…!!

スコアに触れれば、溢れるのは後悔と投げ遣りな声。

「…わかってたよ、そんなことは。」
あの行動が、クラスの奴に命令されてやったってことくらい。
従わなかったら今度は自分だから。
仕方なかったことは、わかってる。
それでも、それでも…!!
――俺を、選んでほしかった。
――強く、あってほしかった。

「でもそんなの、俺の我儘、だよな。」

俯いて、振れていたスコアをそっと破っていく。
あの時のあいつの行動を、思いを、なぞるように。

「…先に、進まなくちゃな。」

千切った過去を振り返りながら。
――異彩の瞳は、先を見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
…今度は展示会かよ
やっぱ展示されるのは…お前ら(人形)だよな

よう…Ripperに…Hydraに…Gremlin。しかもアイツらまで…
ハハッ、懐かしい顔ぶれだよな
あぁ、ちゃんと覚えてるよ
そのストリートネームと顔は、忘れられない

つーことは、お前もいるんだよな
■■■■
あぁ、分かってるよ
俺のせいだものな
そんな顔もするよな

(触れる)

そうさ!
俺のせいだ!俺が出しゃばったせいだ!
お前らは、正しかった
叶わない夢を抱き続ける空虚さを、俺だけが見ないフリをした!
だから…俺が悪かったから
一生恨んでもいいから
…俺が何も為せず死ぬのを、待っててくれ

(壊す)

なぁ、■■■■
やっぱ、お前の言う通りだったよ

俺は英雄にはなれない



「…今度は展示会かよ。」

キネマを放り出されるように後にして、目にしたのは美術展の会場。
真っ白に塗りつぶされた回廊に、所狭しと並べられる、過去の遺物たち。
絵画にジオラマ、彫刻などが飾られるその中に。
一角を占拠するように、見慣れた姿の人形たちが、置かれていた。

「やっぱ展示されるのは…お前らだよな。」

的中した予感に苦笑を浮かべ、一角へ歩み寄る。その笑みは後悔や、自嘲や、様々なものが入り混じって、ひたすらに苦く昏く。本来なら快活に映る雰囲気を、澱んだものに塗り替える。

「よう…Ripperに…Hydraに…Gremlin。しかもアイツらまで…ハハッ、懐かしい顔ぶれだよな。」
張られたネームプレートを見るまでもない。
今にも動き出して返事を返してきそうなほどに、精巧で精密な人形。
ここまでしなくたって、あぁ、何もかもちゃんと覚えてる。
そのストリートネームと顔は、忘れられない。
忘れられる、はずもない。
そして。

「つーことは、お前もいるんだよな、■■■■。」

最後に足を止めた、一体。
懐かしい、というにはあまりにも歪み、ひずんだ表情。
激しい怒りをそのまま縫い留めたかのような姿。

――あぁ、分かってるよ。
こうして、人形になんかされちまったのも全部、俺のせいだものな。
そりゃ、そんな顔もするよな。

胸の裡でそっと零して、その険しく皺縒った顔へと触れる。
その瞬間流れ込むのは、聞き慣れた声。
――悲しいほどに、棘をはらんだ■■■■の怒号。

――あんなに英雄だ、ヒーローだって叫んでたくせに
――結局、全部放り出して逃げ出すのかよ
――俺たちをこんなにして、お前だけがのうのうと
――ぜんぶ、なにもかも、お前のせいなのに!!

「…そうさ!俺のせいだ!何もかも俺が…出しゃばったせいだ!」

苛む声に耐え切れず、静かな美術展に引き攣れた悲鳴がこだまする。

そうさ、結局お前らは、正しかった。
叶わない夢を抱き続ける空虚さを、俺だけが見ないフリをした。
だから、俺が悪かったから。
一生、恨んでもいいから。
もう少しだけ――

「…俺が、何も為せず死ぬのを、待っててくれ。」

届かないと知ってなお、願う様に、祈るように告げて。
ひとつ、またひとつ、人形を砕いていく。
紛い物はカシャン、と脆い音と共に、破片になっては消えて行く。
ああ、いつか自分もこうして、何も残せず消えて行くのだろうか。

なぁ、■■■■。
やっぱ、お前の言う通りだったよ。
――俺は、英雄にはなれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
義兄、さ……!

(台座の上には
黒髪黒瞳、色白の肌
虚ろな表情の少年)

(慌てて腕を掴み)
にん……ぎょう?

『海莉ちゃんの留学から、お義兄さんと連絡が取れない』

(関係者を渡り歩いて問い詰めた答えが蘇る)

『彼は、君の兄である事を理由に辛うじて
自分が生きることを許していた』
『自己否定の化物』
(義兄は演じ、義妹に完全にそれを隠していた)

(虚ろ
自分という色が無い
義兄はこの人形とどう違う?)


私は手を放した
……義兄が今と未来に存在する事を否定した
(義兄にとっては同じ)


(人々を助ける
その為にUDC――義兄と同じく虚ろなそれを)
もう一度、否定する(壊す)?

(酷く震える手)

……本物に逢うの
今度こそ、肯定するの


だから


ごめん



キネマで見た光景は、未だ目に焼き付いて離れない。
だから、目の前に現れた、抜け出たかのようなその姿に。
叫ぶ声を、抑えきれなかった。

「義兄、さ……!」

台座の上に佇むのは、少年の姿。
黒い髪に黒い瞳、とけそうに白い肌。
そして何もかもが抜け落ちた、虚ろな顔。
――かつてそのままの、義兄。

慌てて走り寄って、その腕を掴み取る。
その触れた指に伝わる温度の無さ、硬質な感触で、ようやくこれが何か分かった。

「にん……ぎょう?」

余りによく似た、似すぎていた、人形。
命のない、冷え冷えとした紛い物。
幾ら精緻な出来だからと言って、こうも見間違ってしまうのは。
彼自身が、人形じみていたからだろうか。
そして触れたことにより、否応なしに、耳朶にはかつての声が響いてくる。

――海莉ちゃんの留学から、お義兄さんと連絡が取れない

義兄が消えたとしった、あの時
関係者を渡り歩いて問い詰めた答えが蘇る

――彼は、君の兄である事を理由に辛うじて
――自分が生きることを許していた
――『自己否定の化物』

兄であることを演じ、私に、心の裡を完全に隠していた

自らに生を許さぬほどの、虚ろ。
自分という色を、掻き消してしまう在り様。
なら、義兄は――この人形と、どう違う?

私は、彼の手を放した。
義兄が今と未来に存在する事を、否定した。
たとえそのつもりはなかったとしても、義兄にとっては同じこと。

依頼を受けた以上、人々を助けるのがここでの目的。
でもその為に、UDCが作ったであろうニセモノを
――義兄と同じく虚ろなそれを、もう一度否定する/壊す?
そんなこと、私に、できる?

自らが問う問いかけに、手が酷く震える。掴んでいた腕からも外れてしまうくらい。
でも、たったひとつ、誓ったことがある。

「……本物に逢うの。今度こそ、肯定するの。」

それがどれほど恐ろしくても、どれ程途方のないことでも。
これだけは、譲れない。為すと自分に、決めたこと。
だから、今は。

「――ごめん。」

例えニセモノで、言葉が届かないと分かっていても、小さく謝る声と共に。
少女は、刀を振り下ろす。

――いつか必ず、本当のあなたへ届きますよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
…彼女が、もし赤頭巾さんなのだとしたら。
俺に力を貸してくれる理由も、何故俺が撃ってしまったのかも。
……何も、分からない。
こうして手がかりを一緒に探してくれる理由も、何もかもが。

で、コレは……さっきの映画で見た拳銃か。
「失せ物探し」は得意のつもりだったけど、見つかって欲しくない気がしてたのは何でかな…。

……眺めてても何も感じない。じゃあ、構えてみれば…!?

✳︎

(ザザッ)

(溢れるノイズ、襲いかかる雑音)
(最早音として脳が処理する事を拒否する超大量の情報、情報、情報、情報)
(痛む頭、薄くなる自我、白む視界、浅くなる呼吸……)




(散弾銃の銃声)

ッカ、ハ……!?
……拳銃が、壊れてる。助けられちゃった……?



キネマを後にして、白い美術展の中を歩きながらも。
頭の中では先程の内容を、ぐるぐると考え続けていた。

あの、映像の中での出来事。
自分と、一人の少女のムービー。
あの時映った彼女が、もし今も隣りにいる赤頭巾さんなのだとしたら。
何故俺に力を貸してくれるのか、何故俺が撃ってしまったのか。
その一切が、分からない。
こうして今、手がかりを一緒に探してくれる理由も、何もかもが。

「で、コレは……さっきの映画で見た拳銃か。」

悩んでいるうちに、展示品はすぐに見つかった。
記憶に新しいはずなのに、どこか見覚えもある、一丁の拳銃。
「失せ物探し」は得意のつもりだったけれど。
こうして実物を目にすると、見つかって欲しくない気がしてたのは、何故だろうか。
けれどただ眺めていても、それ以上には何も感じない。

「じゃあ、構えてみれば…、…!?」

そう言って構えた瞬間、耳朶に、脳裏に、圧倒的な量の情報がなだれ込んでくる。

――ザザッ…ギギギ…

溢れるノイズ、襲いかかる雑音。
意味ある言葉として捉えれば、即座に自我を分解されそうなほどの音。

――……・・、…!!
――、……、…@…!……!?
――……、#。………、!!$#&、*……!!!
―――――――――――――――――――――――!!!!!

いや、最早音としてすら、脳が処理する事を拒否する。
超大量の情報、情報、情報、情報。

内側から削られていくかのように、頭がぎりぎりと痛む。
呼吸は浅くなり、呼応するように視界は白く塗り替えられていく。
過剰な情報の氾濫に自らを保てず、意識を手放しかけた瞬間――

全てを蹴散らすように、散弾銃の散る音が響いた。

「ッカ、ハ……!?」

唐突に、耳が元の静寂を取り戻す。
咳込み、酸素を取り戻そうと必死で呼吸を繰り返す。
どうして、と問うより先に、ふと手元を見れば。
元凶であったろう拳銃が、粉々に壊れてた。
さっきの銃声に、ぽろぽろと零れる欠片。

――もしかして、助けられちゃった……?

命じたわけじゃない、頼んだわけでもない。
だけど、気づけばこうして手を差し伸べてくれる。

「何で、君は…助けてくれるんだろうね?」

キネマの時と同じように、傍らの影から返事は無く。
――ふわり、赤い頭巾が浮かぶだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
見せられた映像がまだ思考を虚ろわせる
時間を経てぼやけていたはずの過去を突きつけられた
それは他の何よりも身を裂き心臓を抉る心地

“俺は逃げた”

その事実が無理矢理自身を奮い立たせたのだと

“弱かった”

だからこそ今強くなろうとしていたのだと
過去を言い訳に前を向いていたフリをしていただけなのだと
嘲笑うかのように見せつけられた映像

視界は地面を捉える
足元は覚束ない
そんな中で目の前に現れたあの子の姿に
ありとあらゆる神経が悲鳴をあげる

やめろ

なんで

いやだ


─壊さなければきっとこの世界で自我を見失う


掠めた警鐘の言葉と共に喉が枯れる程の雄叫びをあげて
懐かしいその姿へ、屠を振り下ろす


君が居ない事実から、目を逸らす様に



投げ出されるように送り出された、ノスタルジア展。
白く、白々しく、無機質な回廊は、あの暗かった部屋とは全く趣が異なっていた。

けれど、精神はあそこへ置き去りにしてきたような気分がする。
見せつけられたキネマがまだ、頭の隅で回っているようで。
カタカタと音をさせながら、未だに思考を虚ろわせる。
時間を経てぼやけていたはずの過去を、まざまざと突きつけられた時間。
それは他の何よりも、身を裂き心臓を抉る心地だった。

“俺は、逃げた”

その事実が無理矢理自身を奮い立たせたのだと

“弱かった”

だからこそ今、強くなろうとしていた。
でもあの映像が、過去の回想が。
ただ過去を言い訳にして、前を向いていたフリをしていただけなのだと。
そう、嘲笑いながら見せつけられた気が、して。

考える、思考する。
そのたびに内側から、何かが削がれていく。
揺らぐ視界は無意識に地面を捉える。
力が入らず足元はふらふらと覚束ない。
それなのに、さらに追い打ちを掛けるかの如く、現れた彼女の影に。
――ありとあらゆる神経が悲鳴をあげる。

快活そうに笑う、その姿。
今にも、くろ、と屈託なく呼びかけそうに開いた口が。
にっこりと微笑んで、駆けつけてきそうな躍動感が。
ニセモノと分かっていても、心に突き刺さる。

――やめろ
――なんで
――いやだ…!

だめだ、これは。
見つめているだけで、何もかもが軋んで歪む。
壊さなければきっと、この世界で自我を見失う。
この座にとらわれ、戻れなくなる。

掠めた警鐘の言葉と共に、喉が枯れる程の雄叫びをあげて。
――懐かしいその姿へ、呼び寄せた屠を振り下ろす。

カシャン、と脆い音を立てて、彼女が崩れていく。
瞳が、唇が、腕が、足が、ぽろぽろと破片に代わっていく。
人形だ、偽物だと、精神が擦り切れないよう、必死に言い聞かせながら。
その様子からも目をそらす。
それでも。
――頬を滑る涙だけは、止められなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヌル・リリファ
さっきの、なんだったんだろ……?(怖いことだけはわかったが。一旦は沈める。考えるのは後だ)

とても自然にわらうおなじすがたの人形。これは、わたしの姉妹機だ。

……やっぱり、本物よりすぐれているなら、偽物でいいとおもうよ。

(ヌルの姉妹機は心をもたない。膨大なデータから情報をひきだし、偽りの思考で人間と同じ、ふさわしい行動を割り出しなぞるだけ。
でも、精度の高いそれは本物の心を持っていても未熟なヌルより人間らしいと感じていた)

でも、マスターは本物のこころをもったわたしを造ったから。
理由がわからなくても、わたしは本物でいなきゃだめなんだとおもう。
意味がないならわたしもこころをもたないから。

だから、さよなら



それを、他人が見たらどう思うのだろうか。

静かすぎる展示室を、長い長い回廊を、ひたすらに歩き通して。
ようやく足が止まった先にいたのは――わたしによくにた、わたし。

キラキラと光を跳ね返す銀色の髪も。
空の色を閉じ込めた様な青色の瞳も。
滑らかな白い肌も、身にまとう装飾品も。
何もかもが同じ、わたしの姉妹機。
何かが違うとすれば、それはただひとつ。
――わたしのかおにはうかばない、とても自然なえがお。

「……やっぱり、本物よりもすぐれた偽物があるなら、偽物でいいのかな。」

わたし/ヌルの姉妹機は、心をもたない。
膨大なデータから情報をひきだし、偽り思考で以て人間の行動をなぞる。その場にふさわしいと考えられる行動を、瞬時に割り出して実行する。
全ては、演算上に弾きだされる最適解に過ぎない。
だが、精度の高すぎるそれは、最早本物よりも本物らしく人の目に映るだろう。
たとえ本物の心を持っていても、未熟なわたし/ヌルよりも。
――よほど人間らしいと感じてしまうほどに。
だけど。

「でも、マスターは本物のこころをもったわたしを造ったから。」

そっと、胸に手を当てる。
未だこの身は未熟だと知っている、何かが足りないことを理解している。
だけど、与えられたこころが本物だということを、何よりも分かっている。
だからたとえ今はその理由がわからなくても、本物であるということだけは。
――それだけは、なくすわけにはいかないの。

「だから、さよなら。」

光が、空に浮かぶ。細い指で姉妹機を――その偽りの人形を指し示せば、幾重にも剣の形を成した光が舞い飛んで、像へと突き刺さっていく。
カシャン、と脆くも崩れ去っていく姿に、それでもわたしの表情は変わらないけれど。あわく心を締め付ける想いを感じながら。

意味がないならわたしが、こころをもつはずがない。
だから、すすんでいくの。
――その意味をいつか、この手に掴む日まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

喰龍・鉋
映画の女性…褐色で黒い髪の長い女性、ボクと同じ目の色
男の方は髭を蓄えた、同じく黒髪で短い紙の中年

木でできた質素なテーブル、ボロいソファに座り体を寄せ合う二人の男女
女性の膝には子供、幸せそうに見ている
子供は……ボクだ、笑ってる
展示を遠くからひとまず眺める事にした

動いてしまうと…そう思いながら勝手に足は人形の元に歩みを進める
両親の人形を後ろから抱き顔を見る
母親も、父親も、とても、とても優しい目をして、ボクを見てる
「ずっと不安に思ってた、ボクを生んだことを後悔してたんじゃないか…
でも、そうじゃなかったんだ、幸せ、だったんだね…母さん…父さん」
ボクが抱くには脆かったよ、終わりにしなきゃ、ずっと、涙が



キネマでほんの少し、あの人の姿が見えたから。
期待を、していたんだ。
此処で過去が並べられるというのなら。
――かつての、一緒に居られた頃が見られるんじゃないか、って。
だから本当に、目の前にこの人形たちが現れた時は、息が止まりそうになった。

それは、家族の光景。
木でできた質素なテーブルに、ボロいソファ。
互いに腰掛け、体を寄せ合う二人の男女。
膝の上には、一緒に座っている子供。
――きっと、何時か本当にあった、団欒のカタチ。

褐色の肌に、長い黒髪をした女性は、ボクと同じ目の色をしていて。
髭を蓄えた中年の男性は、同じく黒髪を短く刈り込んでいて。
膝の上の子供は、どこまでも幸せそうに笑って、いて。

その風景を遠くから、叶うならずっと、眺めていたいと思った。
だけど、やっぱり、手が届きそうなほど近くにあると。
――触れてみたく、なってしまって。

気が付けば足が勝手に、人形の元に歩みを進める。
近くなった、生きていたなら鼓動も聞こえそうな距離に、思わず――両親の人形を、後ろから抱きしめる。

――…、……。
――……、………?

ボクを苛む声が聞こえてくる。けど、今はそんなもの、ちっとも気にならない。
だって母も、父も、じっと膝の上のボクを見てる。
――とても、とても優しい目をして。

「ずっと不安に思ってた、ボクを生んだことを後悔してたんじゃないか、って。」

だけど、はっきりとわかる。たとえ今、目の前に或るものはニセモノだとしても。過去から生れ出たモノならば。写し取った過去には――確かに、この光景はあったのだ。

「でも、そうじゃなかったんだ、幸せ、だったんだね…母さん…父さん。」

そして、その時は間違いなく、本当に幸せだったのだと。
頬を濡らす涙と共に、ほんの少し抱きしめる力を強める。
人形は、たったそれだけで、カシャンと脆い音と共に崩れていく。

ああ、ボクが抱くには脆かったよ。
でも終わりにしなきゃ。
そうでないと。
――ずっと、泣いてしまうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

信楽・黒鴉
【SPD】
その白く華奢な手から滑り落ちる刀が耳障りに地面へと転がった

降り頻る雨の中、ゆっくりと重力に引かれて倒れていく身体を抱き留める
白い死装束は雨水と血を吸い、純白から遠ざかって行く

一番大切だった貴女を斬ってしまった事を
これまでの人生の中で一番後悔しながらも
同じくらいに高揚してしまった自分には

きっともう何かを夢見たりする資格はないのだろう

ああ、それでももう一度
あの絶望と あの高揚を 味わう事が出来るのなら


「……想い出はそのとき以上に美化されてしまうものなのか」
「それとも、あくまでこれは記憶の再現でしかない模造品だからなのか」
「――悦びも、絶望も、あの日のそれからは随分遠い」

アドリブ歓迎です



――その姿を、今でもよく覚えている。

地面をたたく雨の匂いも、濡れた刀が弾く鈍い光も、まるで記憶から抜け出したかのように。そこにいたのは――あの時の儘の、貴女だった。

「本当に、よくできている。…偽物とは言え、期待してしまいますね。」

人でなしというのなら、きっとその通りなのだろう。過去の展示と聞いて足を向けた理由。それがこの人であり――自らの裡に刻まれた、せめぎ合う感情の確認行為なのだから。

――あの時、あの瞬間。
その白く華奢な手から滑り落ちる刀が、地面へと転がる耳障りな音。
降り頻る雨の中、ゆっくりと重力に引かれて倒れていく身体を抱き留める感触。
白い死装束が雨水と血を吸い、純白から遠ざかって行く変化。

一番大切だった貴女を斬ってしまったこと。それをこれまでの人生の中で一番後悔しているのは本当だ。けれど、それと同じくらいに。
――どうしようもなく、高揚してしまった自分には。

そして、貴女と同じ姿の人形を前に。
その二つを、また味わいたいと懸想する自分には。
きっともう、何かを夢見たりする資格はないのだろう。

――一閃。

手にした刀を振るえば、人形は容易く崩れ落ちた。

「……想い出は、そのとき以上に美化されてしまうものなのか。」
カシャン、と軽い音を立てながら崩れる破片をその手にしながら。

「それとも、あくまでこれは記憶の再現でしかない模造品だからなのか。」
重みもなく、染める赤もなく、ただ無味乾燥に消えゆく偽りを見つめながら。

「――悦びも、絶望も、あの日のそれからは随分遠い。」
得られなかった残滓へとため息をつく。

そうして男は、振り返らずに先に進む。
その背中で、最後にパキリと剥がれ落ちる、人形の貌は。

――どこか、憐れみを帯びて見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
僕の失せ物といえば先程劇中で喪った母かなァ
そう愛されていた訳じゃ無いが、唯一の人間たる肉親
結局遺体は消えて仕舞ったし、せめて供養を――

ふと、麗しき展示物が目に留まる
嗚呼、なんだ、其処に居たのか
嘘のように穏やかな音色が溢れて

飾られた母は生前と変わらぬ美しさ
細く白い頸に手を伸ばせば、指先に伝わる冷たい作り物の感触

――また私を見棄てるの

僕を苛む声が聞こえる
大丈夫さ、本物で無いなら巧くやれる

――お前も、父親と同じ、

あァ、煩いなァ……黙れよ
花を手折る如く人形の頸を怪力で、ぱきり

ははは、我ながら罰当たりな事をしたものだ
怨まれていると識っていたのに、ほんの僅か甘い夢を期待して
虫が良すぎたんじゃないか、私



遺物、失せ物、今は亡き人。
そう問われて、脳裏に描くものといえば。

「僕の失せ物といえば、先程劇中で喪った母かなァ。」

先のキネマのせいか、思い浮かぶ姿ははっきりとしていた。
だからだろうか。
数多の美術品が飾られているにもかかわらず。
未だ己との距離は開いているにもかかわらず。
その麗しい姿が、すぐにも目に留まったのは。
嗚呼、なんだ――

「其処に、居たのか。」

常に纏う道化の仮面こそ、過去に置き忘れたかのように。
気づけば嘘のように穏やかな音色が、喉から溢れていた。

飾られた、生前と変わらぬ美しさの母。
今にも動き出して、名を呼んでくれそうなほどに。
精緻で、精密な、一体の――人形の姿。

そう愛されていた訳じゃ無いが、それでも唯一の人間たる肉親だった。
結局遺体は消えて仕舞い、ろくに最期を看取れなかった。
だからもし、ここに彼女が飾られているとするならば。
せめて…供養をと、思ったのだ。
――例え、そこにあるのが紛い物だとしても。

細く白い頸に手を伸ばせば、指先にひたり、と冷たい作り物の感触が伝わる。
その瞬間、耳朶をひっかくように――母の、僕を苛む声が聞こえた。

――また私を見棄てるの

知っている、あなたはニセモノだ
大丈夫さ、本物で無いなら巧くやれる

――あなた一人だけ逃げて仕舞って

そう、その通り
お陰でこうして生きていられる

――ずるくて、ひどくて、にくらしい

…そうだろうねェ
あァ、でも、これは流石に――

――お前も、父親と同じ、

「煩いなァ……黙れよ。」

それはまるで、花を手折るが如く。
細い人形の頸を、籠めた力の儘にぱきりと砕く。
支えを失くした頭が、ごろりと毬のように転がって、転がって――
こつりと、靴にあたる。

「ははは、我ながら罰当たりな事をしたものだ。」

僅かな間忘れていた道化の仮面を、確りとかぶり直して。
未だ穏やかに微笑む母の頭をその瞳に映しながら。
乾いた声で、それでも嗤ってみせる。

そうとも、怨まれていると識っていたのに。
それでもほんの僅かに、甘い夢を期待して。
あァ、あァ、なんとも。
――虫の良いハナシだとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイリ・ガングール
……腹ァ、立つね。なんじゃて。あの日の芸術品?
 コココココ、それが語り掛けてくる?
 目の前で焼かれた民は叫んで死んだし、刺されて死んだ奴は呻いて死んだ。なんでもする代わりに生かしてくれと頼んだ民はみどもがあらゆる尊厳を奪われた後に殺された。みどもに呪詛を吐きながら死んでいったよ。
 それを覚えてる。それを忘れた事はないよ。だから、まがい物がそれっぽく囀るな。反吐が出る。じゃから燃やそうね。全部を全部。あの時に見たいに火に巻かれて灰になるとええよ。
 いやぁ!でもおもろいわ。久々に腹がった。で、最期の部屋は自分やろ?お姫様の自分やろか?責めてくる自分やろか?興味が尽きんね



「……腹ァ、立つね。」

白く、真白く、白々しい美術展示の会場。
その中に立つ金色の妖狐が、ぽつりとそんな呟きを零す。
元来炎を操るに長けるはずのその身の周囲は、何故か酷く冷えて感じられる。
――それは煮え滾る様な怒りに、熱を奪われたからなのか。

「なんじゃて。あの日の芸術品?しかもそれが語り掛けてくる?」

コココココ、と連ねられる笑い声も、どこか冷え冷えとしている。
けれどそれも仕方ないのかもしれない。
ゆるりと足を踏み入れていく、巨大なジオラマの部屋。
そこは白が赤に塗り替えられ、幾つもの人形が並べられ。
――かつての煉獄が、再現されいたのだから。

炎に炙られ、苦悶にもだえ苦しむ少女。
数多の刀に貫かれ、歯を食いしばる侍女。
数多の民は折り重なるように床に這いつくばり
然しそのどれもが死していると分かる造形をしていた。
余りにも残酷な、過去の光景。

――こんなことをしなくても、覚えているとも。
少女の、目の前で焼かれていく光景を。
侍女の、苦痛に喘いで息絶える瞬間を。
民草の、みどもへと吐きかけた呪詛を。

誰も彼も、死んでいった。
みどもがあらゆる尊厳を奪われた後に、殺された。
それを覚えてる。それを忘れた事はない。
だから。

「まがい物がそれっぽく囀るな。反吐が出る。」

冷酷に、そう言い切って、その手に狐火を招き寄せる。
朱く、煌々と燃え上がるそれは徐々に大きさを増していき。
全てを呑み込むほどに、猛り狂っていく。
此処に或る偽りを、全て無へと返すが如く。
あの時の様に、火に巻かれて。全てが灰へと還るが如く。
――何もかもが、また、炎の海に消えて行く。

「…いやぁ!でもおもろいわ。久々に腹がたった。」

けらりと笑う顔に、その笑みとは裏腹な昏さが滲む。
ああ、この先には己が待つという。
それは果たして、姫としていたころの己だろうか?
そしてその口で、己の罪を問い責めるのだろうか?
ああ、ああ、なんにしても。
――興味の尽きないことよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
…第1章で著しく感情高ぶらせていたからな
めっちゃフラフラだ

作品は
村や、村人のレプリカ
または、頭部や顔等、個人を識別するのに必要なパーツが砕けて消えていたり、破損している人形が掲示されてるんじゃないかな

フラフラふらつきながら目を瞑り黒剣で叩き壊す

出口付近には今までと赴きが異なり…

姿を完全に保っている、少年の描かれた絵画があるな

それを見ても俺には誰なのか、どこを描いたのかわからない

それでも壊そうと…剣を振り上げ、動けなくなるな
何故なのかわからない
でも壊そうとすると体が震えるんだ

基本無言、もしくはごめんなさいとか言いながらの徘徊

触れた時の過去等はアドリブ歓迎だが…そもそもノイズ混じりでよく分からない



白く、白々しく、真っ白な回廊を、一人の姿が横切っていく。
キネマで昂らせた感情が、未だ尾を引いているのだろうか。
その足取りはどこか覚束ず、ふらふらと頼りない。
それでも、先に進むという意思は潰えていないのか、前へ前へと足を出す。
だがそれも、すぐに止まってしまった。
見慣れなかった美術品の、その中に。
――彼らを、見つけてしまったから。

大きく開けた、ジオラマ展示の部屋。
そこに並ぶ、たくさんの人形たち。
それはあの村の、そして村人たちの、レプリカ。
けれどよく見ればそれはどれも不完全だった。
どれも顔だったり、あるいは頭部まるごとだったり、何かしらが欠けている。
そのどれもに共通するのは、個を識別するための重要なパーツが失われていること。
どれもが、記憶に或る誰かに似ていて。
――それなのに、誰にも分からない人形。

何でまたこんなものを見なきゃならない。
どうしてまた、彼らを喪わなくちゃいけない。
答えのない問いが、頭を、胸を、ぐるぐると駆け巡る。
その暗澹たる思いから背ける様に、ぐっと目を瞑る。
そして、意を決して次々と、手にした黒剣で人形を、ジオラマを、叩き壊す。

ガシャン――ああ、あれは村長の姿に似ていたような
カシャン――これは、俺の為にって譲ってくれた椅子みたいだ

触れず、触らず、ひたすらに壊していく。
そのおかげで、苛む声は耳朶に届かない。
けれど誰かが、何かが、カシャンと音を立てるたびに。
胸の裡が、ささくれていくようだ。
それでもひとつ、またひとつと壊して、漸く全てを崩した後。
ふと、目に留まるものがあった。

それは、絵画。
ジオラマとも人形とも違い、姿を完全に保っている、少年の描かれた絵画。
それを見ても俺には誰なのか、どこを描いたのかわからない。

それでも壊そうと剣を振り上げるのに、それを下すことが、どうしてもできない。
ぴたりと動けなくなる。
何故なのかはわからない。
でも壊そうとすると、いや壊そうと考えるだけで、体が震える。

――どうして

震える様な声で問うてもみても。
絵画の中の少年は、ただ静かに佇むばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
進んだ先に展示されていたのは、あの映像の中で振るわれていた私が所持している物に似た大鎌。少し怖いけど、覚悟を決めて触れよう。

触れると聞こえてくるのは、殺し合いで死んだオラトリオ達の声。その中に聞き覚えが無い大勢の声と、何故か施設で出来たオラトリオの友人の声が混ざる。

声達は私を苛む。何故我々を殺したお前が生きているのか。そもそもお前はあの日死ぬはずでは無かったのではないか、と。

一瞬呪詛の声達の意識を飲まれそうになるけど【気合い】で耐え、大鎌を武器で破壊する。

本当の私は人々を虐殺した極悪人かもしれない。でも何故そんな事をしたのか、そもそも映像に映る私は本当に私なのかを、私は知りたい。…先に進もう。



真っ白な回廊を、唯ひたすらに進んでいく。
人形、ジオラマ、絵画に彫刻。
並べられたありとあらゆる美術展示を越えて、進んだ先で、ようやく足が止まる。
そこに展示されていたのは、大鎌。
――キネマで見た、“私”が振るっていた、武器。

あの出来事が、映像が、脳裏をよぎると、恐れからか少し身が震えた。
けれど覚悟を決めて、その柄へと触れる。

――途端、流れ込んでくるのは、声、こえ、コエ。
かつての殺し合いで死んだ、オラトリオ達の声。
それに重なるように、何故か聞き覚えが無い大勢の声が。
そして――ふとした拍子にできた、オラトリオの友人の声が混ざる。

声達は、容赦なく、際限なく、私を苛む。
――何故我々を殺したお前が生きているの?
――そもそもお前が、お前こそが
――あの日死ぬはずでは無かったの?
――ねぇ、何故、どうして、なんでなんでなんでなんでどうして―――

ガリガリと、内側から削られるかのように脳裏に響き続ける呪詛。
余りに膨大な声達に、思わず意識を飲まれ溺れそうになる。
けれど、此処で立ち止まるわけにはいかない。
その一心で耐え抜き、一瞬のうちに手にした剣で鎌を砕いた。

――ああそうだ、もしかしたら、本当の私は。
あのキネマに映ったように、人々を虐殺した極悪人なのかもしれない。
誰かに、何かに、罪を償うべき大罪人なのかもしれない。
でももし本当にそうなら、何故そんな事をしたのか。
そもそも映像に映る私は本当に私なのかを。
私は、それを知りたい。
だから、先に進もう。
――真実を得るために、いまはただ、前へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎

このUDC…甘く見てたぜっ…!
…よし、行こう!

【勇気・気合】も心にいざ


此処が会場…あ!!
わ―――なっつかしいなこれ!

あったのは『藍玉の杖』

初めて絵本を読み約一年後の誕生日に貰った初めての杖
それで
必死に〈魔力を”自分の意思”で出す〉という事を練習した

そして
彼は初めて
杖から魔力を出す事に成功

ただ、出た魔力は凄い量
……杖はたまらず自壊した
その後は凄く泣いた

今持ってる杖は
その出来事から改造された杖
一日に一度だけ
彼の本気に耐えきる杖

声が聞こえる
壊した事を悔いる自分の声とか色々
心がぐるぐるする事を言う

…ごめんよ…!
その杖を
自分の魔力を流し込むことで自壊させよう

過去は変わらない
故に未来に進むのだ



「このUDC…甘く見てたぜっ…!でも、大丈夫…よし、行こう!」

キネマを何とか見終えて、進んだのはノスタルジア展の回廊。
少年が僅かに滲みかけた涙をふるふると振り払い、気合を入れ直し進んでいく。
手ごわいのは十分わかった、でも胸に勇気を持てば、きっと大丈夫。
右に左に、道なりに進んで行けば、ようやく目に映るのは。
かつてこの手に握りしめていた、一振りの杖。

「わ―――なっつかしいなこれ!」

思わず感嘆の声を上げて、駆け寄って眺める。
そこにあったのは『藍玉の杖』。
初めて絵本を読んだあとの誕生日に貰った、初めての杖。
少し大きくて、でも飾られた藍玉がとてもきれいで。
それに、何よりあの魔法使いの姿に近づいたようで、とてもうれしかった贈り物。

だから、その杖に見合う自分になりたくて。
必死に〈魔力を”自分の意思”で出す〉事を練習した。
何度も何度も失敗して、手にまめができるくらい握りしめて。
そしてようやく、初めて杖から魔力を出す事に成功した。

けれど、初めてだったことも、魔力の制御が上手くないのも重なって。
杖は、たまらず自壊した。
持ち手が崩れて、玉も罅割れて、跡形もなくなっていくのが悲しくて。
その後は、凄く泣いたのを覚えてる。

今持ってる杖は、その出来事から改造された杖。
一日に一度だけ、本気の魔力に耐えきる杖。

――あんなに大事にしてたのに、こわしちゃうなんて
――やっぱり、俺は、上手くできない
――ごめんね、せっかく来てくれたのに
――もう、取り返せないよな

声が聞こえる。
壊した事を悔いる、自分の声。
心が、ぐるぐるする。
ああ、でも、このままじゃダメなんだ。
君を、偽物を、連れて行くわけには、いかないんだ。
だから。

「…ごめんよ…!」

謝罪を口に、手にした杖へ、かつてと同じように自分の魔力を流し込んでいく。
あの時とは違う、カシャン、と硬質な音を立てて。
でも、やっぱり同じように、壊れていく。
ああ、その姿は、ニセモノだと思ってもやっぱりすこし、寂しい。

けど、過去は変わらない。
あの杖はもう、戻らない。
壊したことを悔やみはしても、ここで歩みを止めるわけにはいかないんだ。
――未来に、進むためには。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
白いテーブルクロスの上の二組のカップ、片方のカップにはコーヒー
何人分だかわからん菓子
頭領がたまに誰かしら誘ってしとった、俺も何回か誘われた「息抜き」の茶会
仲間割れで暴れてもこれだけは絶対に邪魔せんのが暗黙の了解やった
『同志よ、私には夢がある』『その為にはお前たちの力が必要だ。期待しているんだぞ?』
こん時だけは、頭領も静かやってんな

苛むのはあの日間に合わんかった俺を呼ぶ声
あそこにおるよう命令したんは頭領やから、あいつが俺を責めへん事はわかっとる
けど頭領の声で『何故来てくれなかった』
俺やって出来るなら死んでも守りたかった!

もうやめろ
あいつの声をこんな偽物で塗り潰すなや
槍で叩き壊して、全部終いにする



――ああ、此処に座れって言うんか、今更。

白くて白々しい美術展の回廊を抜けた先に現れた、小さな部屋。
そこに置かれていたのは、茶会の席。
空いた席は、招くように半分後ろに引かれ。
反対側には、頭領そっくりの人形が座る。
――なつかしい、昼下がりの風景の、ニセモノ。

白いテーブルクロスの上には、二組の使い込まれたカップ。
片方のカップにだけ注がれたコーヒー。
山のように積まれた、何人分だか分からないたっぷりの菓子。
頭領がたまに誰かしら誘ってた、俺も何回か誘われた「息抜き」の茶会。
たとえ仲間割れで暴れても、どこぞの誰かと喧嘩をしてても。
これだけは絶対に邪魔せんのが、暗黙の了解やった。

其処では決まって、同じ言葉が語られた。
『同志よ、私には夢がある。』
『その為にはお前たちの力が必要だ。期待しているんだぞ?』
いつもは騒がしくて、がはは、と大声で笑うような頭領も。
――こん時だけは、柄にもなく静かやってんな。

覚悟を決めて椅子につけば、途端景色がぐるりと入れ替わったかのように。
まるで目の前の人形が、本当にしゃべっているように。
――俺を苛む声が、耳朶に響いた。

――何故、来てくれなかった。
――あの時、あそこで、お前が来るのを待っていたのに。
――お前が、間に合わなかったせいで。
――私は、わたしたちは、みんな。

違う、これは嘘だ。
頭領の声で繰り返される糾弾。
それは全部偽りだ。
あの時、あそこで待つように言ったのは、他でもない頭領だった。
だから、絶対に、頭領が俺を責めることなんて、ありえない。
あいつは、決してそんなことで、俺を責めたりしない。
だから。

「…もうやめろ。あいつの声をこんな偽物で塗り潰すなや。」

沸き上がる怒りの儘に、椅子を蹴倒して立ち上がる。
なにもかも全部、終いにする。その決意で持って槍を構え。
振るう勢いのままに、全てを薙ぎ払った。
ティーカップも、テーブルも、椅子も、菓子も――頭領すらも。
壊して、崩して、ただの破片へと変えていく。
その光景に、顔を歪めながらも、思うのは。

なぁ、頭領。俺やって、ほんまはな。
――出来るなら、死んでも守りたかったんや。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンリエット・トレーズ
……アンリエットはとても愚かでした
だってアンリエットは、あの人に逢いたかったのです
あの人に逢いたくて、ここに

目の前にあるのはクランケヴァッフェ
あの日彼が持っていた
いつも彼が持っていた
彼が唯一遺した『物品』

がっかりしている自分自身に、アンリエットはがっかりです
あの人はもういないと言っておきながら
ちっともわかっていなかった

これがどんなものか、アンリエットは知っています
だってこれは今、わたしの中に埋め込まれている
あの人にはちっとも似合わない武器でしたね
『これ』は今、わたしのものです



同じものがここにあるなんて
たとえ偽物でも、譲れません
《十二時の鐘》を鳴らしましょう
おしまいです
あの人のいない世界ならば



――アンリエットはとても愚かでした。

過去を展示する、ノスタルジア展。
その中を、牝鹿の足がカツカツと音を立てながら歩いていく。
キネマを目にして、どうしてここへと赴いたかが、漸くはっきり掴めた。
だってほら、今もこうして目で探している。

アンリエットは、あの人に逢いたかったのです。
あの人に逢いたくて、ここに来たのです。
それなのに、どうして。

彫刻を、絵画を、人形を通り過ぎて。
ようやく足を止めた先にいたのは、あの人の形をしたものでは無くて。
そこにあったのは、クランケヴァッフェ。

ぬらりと濡れて見える、赤黒いもの。
羽毛や獣毛などは一切なく、ただ艶のある皮膚めいたものに覆われたもの。
ともすれば、巨大な舌の様にも見える、なにか。

あの日、彼が持っていた。
いつも、彼が持っていた。
彼が唯一遺した、『物品』。

展示されていたそれを、異なる色の蒼で見つめて――ああ、と。
思わず声を上げてしまいそうになるほど、肩を落とす。
そして何より、そんな風にがっかりしている自身に、一番がっかりした。
知った風に、何度も、“あの人はもういない”と言っておきながら。
本当は、ちっともわかっていなかった。
名前を呼んで、笑いかけてくれたあの頃を。
恥ずかし気に、でもしっかりと手を握ってくれたあの姿を。
――こんなにも、期待していたのですから。

これがどんなものかは、アンリエットが誰よりもよく知っています。
だってこれは今、わたしの中に埋め込まれている。
優しいあの人には、ちっとも似合わない武器でした。
でも『これ』は今、わたしのもの。
わたしの裡にこそ蠢くもの。

「同じものがここにあるなんて、たとえ偽物でも、譲れません。」

静かに、偽りの展示物へと告げる。
鳴らされるのは、《十二時の鐘》。
その呼び声こたえる様に、尾の上より触手が伸びる。
速く、疾く、今/本物が過去/偽物を打ち砕く。

それは、掛けられた魔法を溶かしてしまう様に。
夢とうつつを、元に戻してしまう様に。

もう、おしまいです。
あの人のいない世界ならば。
――ガラスの靴なんて、欲しくはないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九泉・伽
【体の元の持ち主の人格、名は■】
パソコン画面には彼とおれのキャラ
彼は飾り気ない木の棍操る殴り僧侶
おれはずっと無職のまんま
「何になれるかわかんない、決められないよ」

「なりたいものが見えたらでいいさ」
いつだって彼はまず「■はどうしたい?」って聞いてくれた

最後の日
彼「ごめんね、明日でお別れなんだ」
問い詰めたら落ちた
逃げたと怒った
…今ならわかる、病で辛かったと

伝えたい
「いかないで
ごめん
苦しいのは『 』
おれの命をあげるから『 』は生きてよ!
違う
…おれをちゃんと見てくれてありがとう
『 』との時間だけがおれの救いだった
ありがとう」

溢れる心の侭にキーボードに触れたら―

おれを見てくれた人は現世に居ない
どうして



白く、白々しく、無機質な回廊をゆっくりと進んでいく。
その姿は間違いなく、 のもの。
けれどもし、この場に常の彼を知るものが居たのならば。
――いったい、どんな言葉を投げかけるのだろうか。

彫刻を通り過ぎ、絵画には目もくれず、人形を無視して。
真っ直ぐに突き抜けていく、その先に。

用意されていたのは、小さな部屋のような空間。
変わらず白々しい壁の空間に、ぽつりと置かれていたそれは。
かつて齧りついていた勉強机と、キャスター付きの椅子。
そして、その上に無理やり置かれた、一台のパソコン。
――いつかの記憶に残る、楽しく苦い時間の象徴。

チカチカと光るその画面の上には、懐かしいゲームタイトルが光っていた。
その揺らめきに誘われるように席へ着けば、ブゥンと音を立てて表示が進む。

そこに映ったのは、彼と■のキャラ。
彼は飾り気なんてまるでない、木の棍を操る殴り僧侶。
対しておれは、ずっと無職のまんま。

――何になれるかわかんない、決められないよ。

最初は、攻略サイトやおすすめジョブなんかを見ながら
“みんながすすめるもの”へなろうかと思った。
でも結局、そうすることにどこか抵抗を覚えて、悩んで。
どうすればいいかがどんどん分からなくなっていった。
けど焦って投げ遣りになりかけると。
決まって彼が、宥めてくれた。

――なりたいものが見えたらでいいさ
――やりたいと思ったときにやればいいさ

そうやって、押し付けず、突き放さず。
いつだって、まず「■はどうしたい?」って聞いてくれた。

だけど、訪れたのは最後の日。
――ごめんね、明日でお別れなんだ。
そんな唐突な言葉に驚いて、問い詰めたら落ちてしまって。
ああ、おれが面倒になって逃げたのかと。
画面越しにただ、腹を立てていた。
それも、今なら何でだったか、わかる。
病で、辛かったんだと。

だから、伝えたい。
あの時は言えなかった言葉を。

「いかないで
 ごめん
 苦しいのは『 』
 おれの命をあげるから『 』は生きてよ!
 ――違う
 …おれをちゃんと見てくれてありがとう
 『 』との時間だけがおれの救いだった

 ありがとう。」

溢れる心の侭に、キーボードに触れる。
その一文字を打つごとに、パソコンは罅割れていく。
まるで、二度と会えないことを念押すようなその光景に。
涙が、溢れそうになっていた。

おれを見てくれた人は、もう現世に居ない。
おいていかないで、ほしかったのに。

――どうして、そんな願いばかりが叶わないんだ。

壊れたキーボードに、打ち込めない想いが。
胸に残ったまま、落ちて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミスティ・ミッドナイト
展示物は、数多の人。件の少年少女の人形もある。
「……随分と凝った作りですね」

彼ら…人形に触れると、麻薬、誘拐、殺人…
理不尽の渦に呑み込まれた者達の声が聞こえる。

私は昔、国家ひいては世界を救おうと大義名分のもとに下される命令に従ってきた。
しかし諜報機関とは結局、国に都合が悪い物事の隠蔽を行うだけ。
機関は、彼らを無関心なまでに切り捨てる事を厭わなかった。

だから私がやる。
彼らの不運に手を貸した者、儲けた者は誰であれ一人残らず抹殺する。
拠点を叩き潰し、奴らの死体の山を築き上げてやる。

私は止まらない。
もしも彼らのような“善良なる市民”が助かる、
そんな未来があるのなら。

(決意を新たに人形を叩き壊す)



白く、白々しい、美術展示の回廊を、黒いスーツを身にまとった女が歩く。
常に周囲を観察し、その歩みのひとつをとっても警戒を怠らない姿は、本職故か。
けれど、トラップらしいものは何もなく、そこにはただただ展示物が並ぶばかり。
彫刻、ジオラマ、絵画――そして、人形。
初めはどれにたいしても目がいかなかった。
けれど、やがてよどみなく進めていた足がぴたりととまる。
そこに並ぶのは、数多の人。かつて出会い、分かれた人の貌。
そして、キネマで笑っていた少年と少女の姿も、あった。

「……随分と凝った作りですね。」

それは出来の良さに対する感嘆よりも、込められた皮肉に対する呆れが滲んでいた。
今にも動き出しそうなほどの精緻な人形は、過去をありありと思い起こさせる。

私の、昔のこと。
諜報機関に身を置いていた日々のこと。
国家を、ひいては世界を救おうと、大義名分のもとに下される命令に従ってきた。
しかし諜報機関とは結局、国に都合が悪い物事の隠蔽を行うだけ。
機関は、彼らを無関心なまでに切り捨てる事を、厭わなかった。
望んだ理想には程遠く、善良な人の命がすり減るのを聞く毎日。
こんなもの、許されていいはずがない。

――だから、私がやる。

彼らの不運に手を貸した者、儲けた者は、誰であれ一人残らず抹殺する。
拠点を叩き潰し、悪事の全てを詳らかにし。
奴らの死体の山を築き上げてやる。

私は止まらない。
もしも彼らのような“善良なる市民”が助かるのなら。
幸せに笑って、在り来たりな日々を享受できるのなら。
――そんな、未来がありうるのなら。

「私が、此処で立ち止まる理由なんてありません。」

イミテーションの人形を前に、決意を新たにする。
初めは僅かに芽生えた懐古も、今は最早消え去った。
此処に在るのは、悪意。
善良なものを捉え、奪う、卑劣な企みの一端に過ぎない。
なら、それがどんな貌を見せようとも、私は揺らがない。

手にしたハンドガンに、弾を込める。
照準は逸らさない。全てを砕くだけの弾倉もある。
そうして引き金を引く指へと込める力に。
――躊躇いなど、なにもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・ウィステリア
在りし日の自らの内部の光景。
艦橋で指揮を執る船長とコンソールで操作をするオペレーター達。
その様子がそのまま等身大のジオラマとして飾られている。

足を踏み入れるとコンソールが警告メッセージに染まる。
迫る銀河帝国に必死の抵抗を見せる乗組員達。

―――違う、そうじゃない、貴方達は逃げるべきだった。
――ホントウニ?ワタシニタイコウスルチカラガタリナカッタノデハナク?

自嘲。
モノは成長しない。
ましてや機械は、気合で出力の限界を超えたり出来ない。
だから仕方なかったの。少なくともあの時は。

「だから望んだんです……この身体を」

UCで火炎放射器を召喚。
ジオラマを丸ごと焼き払います。



真っ白な回廊を、少女が一人、歩いていく。
見慣れない美術品は物珍しく、くるくると視線は動くけれど、ただそれだけ。
心を打たれるようなものは、とくにない。
けれど、暫く進んだのちに、ぴたりと足が止まった。
そこは、ジオラマの展示室。
再現されていたのは、在りし日の、自らの内部の光景。

艦橋で指揮を執る船長と、コンソールで操作をするオペレーター達。
その姿は、映像を投影してあるのだろうか。
時折話したり、笑ったり、ともすれば――生きているかのようにさえ、見える。
懐かしく、けれど足を踏み入れることはかなわなかった光景。
そこへ、するりと入り込んだ瞬間、唐突に周囲が赤く染まった。

向かい合うコンソールが、幾重にも警告メッセージを吐き出してサイレンを鳴らす。
迫る銀河帝国に、必死の抵抗を見せる乗組員達が投影される。

―――違う、そうじゃない。貴方達は逃げるべきだった。

かつて口にできず、今もまた、届かない言葉に。
顔をゆがめて思わず、逃げる為の操作を打とうとコンソールに触れた途端。
自らによく似た声が、聞えてきた。

――ホントウニ?
――ワタシニ、タイコウスルチカラガ、タリナカッタノデハナク?
――ワタシガ、ダレヲマモルコトモ、デキナカッタイイワケデハナク?

苛む声が、耳朶を満たす。
その言葉に、思わず顔へ浮かんだのは――自嘲。
モノは、ひとりでに成長をしない。
ましてや機械は、気合や努力なんて概念で、出力の限界を超えたりは出来ない。
だから仕方なかった。少なくともあの時までは。

「だから望んだんです……この身体を。」

今となってはもう違う。
柔らかくて弱いけど、自分の意志で動ける身体を。
誰かを乗せることはできなくても、自らの足で駆けだせる身体を。
大好きだった彼らに似た身体を、手にしたのだから。
その思いがある限り、惑わされたりはしない。

『system code Remove from storage 05series』

システムコードの様な詠唱に、虚空から現れるのは銃器。
本体内に収容された鹵獲兵器のひとつである、火炎放射器。
それを以てジオラマを、偽物を、焼き払っていく。

もう、大丈夫。
私は、信じているから。
――いつかまた、宙の果で出会う日を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虹結・廿
了解、任務を遂行します。

破壊せよ。それが目標ならば、是非もなく、遺憾なく、完膚なきまでに破壊しましょう。

あの木目の綺麗な椅子と机はなんだったか
あの艷やかな絹の衣服はなんだったか
あの美しい音を奏でるオルガンはなんだったか
あの泣き腫らした顔の少女は、あの優しい顔の女は……。

知らない。知る必要もない。

なぜならこれは任務だから。
余計な事は考えなくていい、言われた目的を、示された目標を、ただ忠実にこなせばそれで良いのだから。
足を止めず手を止めずに。
廿は、とても良い兵士なのだから、それが出来るのです。

……終わったら、褒めてもらえるかな?


「過去に目を背け続けるの?」
模造品の囁く声は、響く銃声に紛れて消えた。



――目の前に現れたこれを、私は、知らない。

奇妙な展示物たちには、何の感慨もわかないままに通り過ぎて行ったのに。
この部屋に入った途端、唐突に、足が止まってしまった。

それはまるで、穏やかな昼下がりをそのまま飾ったかのような、ジオラマ。
一瞬を繰り抜いて、ホルマリン漬けにでもしたかのような、永遠の光景。
過去を展示するという、ノスタルジア展。
なら、これは、もしかして――

そこまで思考が到達しそうになった瞬間、無意識にガチャリ、と銃を構えなおした。
無意味なノイズ、不要なイレギュラーが混ざりました。
そんなことよりも、私は今、何を成すべきですか?
UDCが絡むというこの事件の結末を、解析と結果を、組織に届けることこそ重要。

「了解、任務を遂行します。」

破壊せよ。
それが目標ならば、是非もなく、遺憾なく。
完膚なきまでに、全てを破壊しましょう。

あの木目の綺麗な椅子と机はなんだったか
あの艷やかな絹の衣服は、なんだったのか
あの美しい音を奏でるオルガンはなんだったか
あの泣き腫らした顔の少女は。
あの優しい顔の女は……。

――そんなもの知らない。知る必要もない。

ふるりと頭を振って、切り替える。
此処から得るべき情報は何もない。
なぜなら、これは任務だから。
余計な事は考えなくていい。
言われた目的を、示された目標を、ただ忠実にこなせばそれで良いのだから。
足を止めず、手を止めず、ただ前を見る。
廿は、とても良い兵士なのだから、それが出来るのです。
ああ、でも。

「……終わったら、褒めてもらえるかな?」

ほんの少し混じる雑念を、口にして。
けれど行動だけは迅速に、的確に。
全てを打ち消すべく、手にした銃を乱射する。
その吐き出される弾に当たった破片がはじかれて、手に触れた一瞬。

――過去に目を背け続けるの?

声が、聞えた気がした。
けれどそれもすぐに記憶から抹消する。
削除、消去、デリート。
以上は何もありません。
思考で、銃声で、何もかもに耳目を閉じる。

そうして模造品の苛みは、囁きは――響く銃声に紛れて消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

プリンセラ・プリンセス
美術展示。プリンセラの前に並ぶのは城に飾られていた財宝の数々。
そして兄姉、父母の肖像画。内装も当時の王城が再現されている。
絵に振れると兄や姉からの恨み言。
なぜお前だけ生き残ったのか等々。
そして、「お前の中にいるのは我々ではない。お前が生み出した人格だ」
揺さぶられて人格をスイッチ。
出てくるのは8番目の兄カルロス。プリンセラの雰囲気が粗雑なチンピラめいていく。
「チッだらしねえなぁ。まぁいいや。散々っぱらクズだの出来損ないだのいってくれた礼だ。暴れさせてもらうぜ!」
手に持った鎖鎌が因果切断を使い絵画を切り裂いていく。
自分の肖像画すらもっと美形だと遠慮なく切り裂く。
「こんだけやりゃ黒幕も出てくんだろ」



過去を飾るという、ノスタルジア展。
キネマを通して、嫌というほど思い知らされた、自分の過去。
それは、ここでも同じように、問いかけてきた。

踏み入れるのは、ジオラマの部屋。
王城もかくやの内装――いいや違う、これは本当に、かつて住んでいた城の再現。
並ぶ財宝や装飾品の数々も、他者が見ればニセモノとは気づかないほどの出来。
そして飾られる兄の、姉の、父母の肖像画。
執拗に描きこまれた皺や、髪の毛や、瞳の色が、余りにもそっくりで。
平面に描かれているはずなのに、そこにその人が居るかのような存在感すらある。

懐かしくて切ない、いつかの姿。
思わず心のままに、絵にそっと触れると。
――耳朶が、数多の兄姉の恨み言で満たされていく。

――なぜお前だけ生き残ったのか。
――弱くて何もできない、お前だけが。
――そもそも、お前の中にいるのは本当の我々ではない。
――誰かに縋りたい気持ち、過去を否定したい思いの証左
――お前が生み出した、ただの人格だ!

まるで、金づちで殴られたかのような衝撃が脳裏を襲う。
嘘なのか、本当なのか、是非を考える余裕もないほどに頭が痛む。
痛くて、苦しくて、“私”には、耐えられなくて。

ぐるんと、世界が回る。
“私”が薄れるのに合わせる様に。
真白いドレスが裾が消え、赤く染まり、姿が変わる。
代りに立つのは8番目の兄、カルロス。あるいは――それを模した人格か。
普段の淑女たる雰囲気が、あっという間に粗雑なチンピラめいていく。

「チッだらしねえなぁ。まぁでもいいや。散々っぱらクズだの出来損ないだのいってくれた礼だ。暴れさせてもらうぜ!」

啖呵を切り、構えた瞬間、手にした武器が解けるように変容する。
人格変貌対応剣ヒュポスタシス――人格ごとにその形状を変える武器。
兄カルロスに合わせて現れるのは、鋭く鎖鎌。
慣れた手つきでヒュン、と空気を切る音を響かせながら、廻り、閃き――

「俺の肖像画ならもっと美形だろっ!」

そんな言葉と共に、遠慮なく、容赦なく、全ての絵画を微塵に切り裂いていく。
最早見る影もないほどに散り散りになって、漸く攻撃の手を休めると。
ふと、行き止まりだったはずの通路の先に、開く扉が見えた。
それはまるで、ぱかりと開けられた、怪物の口の様に。

「こんだけやりゃ…黒幕もお出ましってわけか?」

軽薄な表情に恐れはなく、兄たる人格は口腔へと足を向ける。
――過去の亡霊を引き連れて、姫はひとり、進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『『都市伝説』ドッペルゲンガー』

POW   :    自己像幻視
【自身の外見】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【全身を、対象と同じ装備、能力、UC、外見】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    シェイプシフター
対象の攻撃を軽減する【対象と同じ外見】に変身しつつ、【対象と同じ装備、能力、UC】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    影患い
全身を【対象と同じ外見(装備、能力、UCも同じ)】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


さぁさぁ、皆様方。過去はご堪能いただけましたでしょうか。

甘い砂糖菓子の様なかつてを頬張りましたか?
――それはそれは、舌も蕩けてなくなるころでしょう。

苦い珈琲を煮詰めたような過去を飲み干しましたか?
――これはこれは、喉も腐り落ちるころでしょう。

酸いも甘いもぐるりと掻き混ぜたいつかを食みましたか?
――それはそれは、胃の腑も焼け落ちるころでしょう。

とろけて、腐って、焼け落ちて。
それでも過去は、覚えておきたいですか?
これでも現在に、縋りついてたいですか?

どうぞ、全てを忘れてしまいましょう。
今も未来も、過ぎればすべてが過去になる。
なら、歩む意味などないでしょう?

さぁ、あとは私/僕/俺/自分に任せて――あなた/今はずっと、此処にいるといい。

御心配には及びません――此処にいる、私/僕/俺/自分は。


――あなた/過去、なのですから。
==============================

【プレイング受付期間】
★第一次プレイング受付期間
 5/18 8:30 ~ 5/21 8:29 まで

★第二次プレイング受付期間
 5/23 8:30 より開始
 (受付終了予定は5/26 夕方ごろ)

今回は再送を見込んだスケジュール編成となります。
申し訳ありませんが、ご協力頂けますと幸いです。

★採用について
基本的に頂いたプレイングは全て採用したいと思っております。
特に一次、二次どちらにも送信いただいた場合は必ず描写させていただきます。
二次のみの場合は、筆が間に合えばにはなりますが、尽力致します。
お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

==============================


※追記
【プレイングの記載について】
アドリブと、《敵を倒すか否か》の意思表示記号です。
文字数減らしにお役立てくださいませ。
記載はプレイング内のどこでも構いません。
無い場合には基本《討伐希望・多少のアドリブ在り》で描写致します。

・アドリブについて
●…アドリブ歓迎。
☆…アドリブ不可。プレイング通りで。

・敵を倒さない選択についてのマーク
○…討伐希望。(勝敗はダイス次第ですが、描写は討伐する動きで書きます。)
△…どちらでも可。マスタリングに任せる。(内容を見てこちらで判断します)
×…討伐不可。倒さず(倒せず)に苦戦or失敗判定を受ける。




※追記②

【日程変更のお知らせ】
大変申し訳ございません。諸事情が重なりまして、前述した日程内に全てのプレイングを書ききれない可能性が出てきました。
今回はプレイングを送って頂いた方、全てを描写する積りでいますので、誠に勝手ながら《第二次プレイング受付期間》を変更させて頂きたく思います。

【プレイング受付/変更日程】
★第二次プレイング受付期間
 5/26 8:30 より開始
 (受付終了予定は5/29 夕方ごろ)

こちらの都合で日程を変えてしまい、大変申し訳ございません。お気持ちに変わりなければ上記日程でプレイングを再送いただけますと幸いです。

納・正純
〇【暇殺し】
全く、昔の自分を見てるようだ
『どんな過去も知識であり、先に進むための力に成り得る』。それを教えてやるよ

夕立の足元に纏わりつく無数の『夕立の過去』に知識を駆使して射撃
彼を過去から解き放つ

――『後ろ』は見るな。手助けしてやる。だから、『夕立』。お前も俺に手を貸しやがれ
活かせ、お前の手業を、お前の過去を。そして殺せ、過去のお前を。俺は『その先のお前』に興味がある

『見飽きた』退屈な過去の自分には一瞥もくれず、夕立に追いすがる過去へUCを発動
夕立が黒い暇を断ち切ると信じて弾を放つ

過去くらいいくらでも――これからも、こうして『収めて』やるさ。一発勝負だ

名前で呼べよ。
……今は良いさ。その内な。


矢来・夕立
●〇【暇殺し】
手帳さん/f01867

……『言いなりの過去』を殺して得た『現在の自我』は、妄想かもしれない。
本当にこれはオレの意志か?正しかったのは『後ろにいる自分』じゃ――

――ない。銃声がその考えを撃ち抜く。全くらしくないことを考えました。
ひとつめ。頼まれなくても殺します。
ふたつめ。言われなくても貸します。
みっつめ。一発勝負は得意科目です。

『魔弾』が、『現在』の正しさを証明する。
……それには『昔』のアンタが邪魔なんだよな、納・正純。
【神業・絶刀】。対象は『過去』。真っ黒い暇と、放たれた弾丸を絶ち切る。

手帳さんの話は抽象的なんですよね
『その先のお前』て、……『先』にならないと分かりませんよ。



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間。
並び立つのは二人の男。
向かい合うのは――二人の過去。

「本当、猿真似みたいにそっくりなんですね。予想通り過ぎて面白くありません。まぁ、ウソですけど。」
「どっちだ…まぁ分かり易いのはいいが、長々と見る気はしねェな。」
「ですね、なら早々に切り上げましょう。時は金なり。無駄は惜しいですから。」
「それもウソですよ、って?」
「そこは、御想像にお任せします。」

軽口もそこそこに、互いが互いの姿へと目を向ければ、僅かに距離を測りながら。
――すぐさま戦いの火ぶたが切って落とされる。

駆ける夕立が構えるのは脇差、雷花。
軽くとん、とん、と爪先で地面を突けば、数舜で過去の己へと肉薄する。しかしその瞬間、夕立の過去が、赤の双眸を残してどろりと――暗闇に溶ける。そして影絵のように幾本も幾重にも、人間の手じみた何かを伸ばし、追いすがるようにずるりと、足にまとわりついた。それと同時に耳朶に、幾重にもブレた――自分の声が響く。

『“オレ”を殺して柵を全て断ったつもりですか?』
『あれだけただ疑いもなく従い、殺し、何の呵責もなかった“オレ”が。』
「今は自らの意志で動いてる?何もかもが自分のもの?本当に、そうですか?』
『――今の自我が、真実純粋な“自分”だと、言い切れますか?』

手が、伸びる。簡単に振り払えるほど鈍いのに、闇が質量を以て圧し掛かったかのように体が動かない。ぐにゃりと伸びて――口に、手が届く。塞がれる。暗がりに灯る赤と目が、合う。

『それとも、またお得意の嘘を吐きますか?』
『それもいいですね。さぁどうぞ。』
『“今のオレこそ、何もかもが――ウソですよ”、と。』

――そうだ。
『言いなりの過去』を殺して得た『現在の自我』は、妄想かもしれない。
本当にこれはオレの意志か?
今ここに立っているのは、向かい合っているのは、戦っているのは。
本当に、オレが選んだことか?
もしかしたら、正しかったのは『後ろにいる自分』じゃ――

――パンッ!!

乾いた銃声が、耳に届く。口を塞いでいた手が撃たれて離れ、溺れかけていた意識が引き戻される。銃声の響いた方を見れば、互いに撃ち合いながらも、夕立に向けられる金色の瞳。――聞かずともわかる、あれは、今の正純だ。

眼中にないことが腹立たしいのか、過去が舌打ち交じりに銃を乱射する。けれど計算の乗らない軌道など、“今”には避けるに容易い。屈みこんでから間合いに踏み込み、蹴り上げざまにロックを外した足のナイフが、銃のグリップごと過去の右手を貫く。呻き声と共に蹲る様子を前に、それでも正純の目は、過去と向かい合う夕立の背中を納めていた。

――全く、昔の自分を見てるようだ。
過去を疎み、かつてを厭い、全て切り捨てて仕舞おうと躍起になって。
そのくせ結局、切り離すことなんて出来ずに足元をすくわれる。
『どんな過去も知識であり、先に進むための力に成り得る』。
それを今、教えてやるよ。

「――『後ろ』は見るな。手助けしてやる。だから、『夕立』。」

ただ一度、その名を呼ぶ。

「過去を殺す一発勝負だ。お前も俺に、手を貸しやがれ。」

その言葉と共に、正純が銃口を定める。
向けられた先にいるのは、“今”の夕立。
それだけで――すべての意図を、理解した。

「いいですよ、でもオレからも、みっつ。
――ひとつめ。頼まれなくても殺します。」

纏わりつく手を、朱が混じる刀が切り裁きながら、呼吸を整える。
回転式拳銃の弾を打ち尽くし、過去の正純を下がらせ、縫い留める。
――活かせ、お前の手業を。

「ふたつめ。言われなくても貸します。」

独楽の如く身を捻り、歩法を以て足場を抜け、向けられた金の瞳を目掛け駆ける。
位置掌握、衝撃予測、L.E.A.K.を構え、夕立の背後に見える過去へと合わせていく。
――生かせ、お前の過去を。

「みっつめ。一発勝負は得意科目です。」

あとは、撃たれる/撃つ、だけ。

先へと繋げる軌道、その膨大な計算式の全てが、今に集約される。
全て穿つ魔弾の射手、その照準の先に、過去が映る。
なら――殺せ、過去の“己たち”を。

「――来い!!」
「――ああ、“任せた”ぜ。」

夕立の声を引き金にして、正純が迷わずトリガーを引き絞る。
時間にしてコンマ0秒以下の世界。けれど全ての計算はすでに終えた。
ならばあとは“必定”あるのみ。

火花を散らし、回転し、魔弾は夕立めがけて真っ直ぐに奔り抜け。
――構えた雷花の刀によって、真っ二つに引き裂かれる。
そして、今を生きる二人へと手を伸ばしていた、二つの過去が穿たれて。
血肉の欠片も残さず、ただ、煙の様に消えて行った。

「…なんだ、最後はあっけないものですね。」
「結局過去や己と偽った“亡霊”みたいなモンだったんだろ。ならああもなるさ。」
「手帳さんの話はいつも抽象的なんですよ。」
「そうか?それより、名前で呼べよ。…その内にな。俺は『この先のお前』に興味がある。」
「『この先のお前』て、……『先』にならないと、何も分かりませんよ。」
「先があることは否定しねェな。」
「まぁ、ウソ…かもしれませんけどね。」
「それでいい…“今”は。」

男が二人、言葉を零す。
約束というには淡くても、きっと遠からず来るだろう。
――“未来”の話を、確かに交わす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

虜・ジョンドゥ
●△

目を覆う長い前髪
グリッチだらけの身体
一切の個性を廃した、PLの分身
それが勇者(ボク)

ならば一つ振舞おう
これはEX戦
ボクは魔王の後の裏ボスさ

嗚呼、哀れな勇者様!
よくぞ辿り着いたね
持ち物袋に笑顔も涙も出逢いも友情も
沢山詰め込んだかい?

けれど酷なネタバレをしよう
キミの世界はね
世間に出回ず終わったプロトタイプのRPGの箱庭だったのさ
ゲームを作り、プレイする人類が滅亡したんだもん
仕方ないよね?

さ、勇者ごっこもおしまい
何せホントのキミは
只の道化なのだから

…だから、勇者様(ボク)が終わらせる

UCで変身、攻撃
まさか再び剣を握ることになるなんてね

ボクが勝っても負けても勇者の冒険は終わる
『GAME OVER』



真っ暗で、昏くて、ぽかりと空いただけの空間。
もうエンディングは終わった後?
ならこれは、エンドロールの――その先の話?

目の前に立つのは、ひとりの影。
目を隠すように覆った、長い前髪。
ブレるようにドットが浮かぶ、グリッチだらけの身体。
髪も、瞳も、何もかもの色が真っ白で。
一切の個性を廃した、PLの分身。
それが勇者――かつての、ボクの姿だ。

そんな勇者様が、今のボクを見つけて歩み寄ってくる。
歩き方すら偏り一つ見当たらない無個性さ。
そうあるよう“創られた”存在。

ならば、ボクも一つ振舞おう。
キミの為の最後の舞台、これはEX戦。
魔王の後に、ようやくたどり着ける裏ボスステージ。

「嗚呼、哀れな勇者様!よくぞここまで辿り着いたね。
持ち物袋に笑顔も涙も出逢いも友情も、沢山詰め込んだかい?
わたくしめこそ、裏のボス。今までのリソース/時間を全て費やして挑む
――最強の敵さ!」

ああ、演じるとなればこんなにも舌が回る。
上手く笑って魅せて、迎えられる。
観客が例え、自分ひとりだけだったとしても。
こうして酷なネタバレすら、お話として切り出せる。

「キミの世界はね。
――世間に出回らず終わった、プロトタイプRPGの箱庭だったのさ!」

なんてカナシイ話でしょう。
遊ばれることもなく終わってしまったストーリー。
いまこうしてキミの前にいる裏ボス/ボクだって
結局は開けられずに腐っていったイースターエッグ。
それはそうさ、だってゲームを作り、プレイする人類が滅亡したんだもん。
――仕方ないよね?

さ、真実が分かったなら勇者ごっこもおしまい。
何せホントのキミは――只の道化なのだから。

「…だから、勇者様/ボクが、終わらせる。」

宣言と共に、ゲームミュージックに乗せて姿が塗り替わる。
わざとカラフルに彩っていた身を染めるのは、かつてと同じ白。
けれど髪にはわずかに緑とピンクのメッシュが残り、涙のマークは消えないまま。
道化の名残?でもそれも含めて、“今”のボクってことなのかな。
それにしてもまさか、再び剣を握ることになるなんてね。
プレイヤーが必死になって探し求める“予定”だった伝説の剣。
デバックが行き届かずグリッチにまみれた剣。
それでも今は、たったひとつの勇者の証。

「さぁ、始めようか。」

開戦の合図とともに、過去のボクが、今のボクに向かい来る。
けど結局、ボクが勝っても負けても“勇者”の冒険はここで終わるんだ。
――GAME OVERってやつだ。

ああ、それとも、もし今のボクが勝てたのなら。
その時は、ボクが。
――カーソルを動かす番になるのかな。

成功 🔵​🔵​🔴​

八上・玖寂
●○
眼前には眼鏡のない黒髪銀瞳。
一人称も口調もころころ変わる、錯乱しているとしか思えない言動。

用意された設定と役割をなぞり職務を成す者。
見栄えがよくて、技能があって、融通も効かせられる便利なパーツ。
それが貴方。名前も中身もない、自律する人形。
必要なのは結果。それが出来るなら別に貴方でなくて構わない。貴方の代わりはいくらでもいる。

母に打ち据えられ、組織に使い潰され。
“僕”という存在など必要とされておらず、どこにもいない。

故に死ね。『僕』であり『私』であり『俺』だった自分。
貴方が羨んだものを、僕は今持っている。

(名前がないはずがない!お前だって覚えているだろう)
(私は、俺の、僕の名前は――)



暗くて昏い、唯ぽっかりと開いただけの空間に。
過去と今、ふたりの男が向かい合う。

『ようやくきたね、今の僕。』
『別に俺は待ってたわけじゃねェけどな。』
『ああ、いいえ、そうでもありません。私が今を生きるには。』
『あなたは、いらないもんね。』
『だからここで、朽ち果てていけ。代わりは俺が務めよう。』

ともすれば、幾人もが話しているようにバラバラな口調。
けれどそれは全て同じ声音で、ひとつの影から紡がれる。
眼鏡だけが外された、よく似た姿の、過去の自分。

――かつての自分。いつかの己。
用意された設定と役割をなぞり、淡々と職務を成すだけの者。
見栄えがよくて、技能があって、融通も効かせられる便利なパーツ。
それが、“貴方”。
定まった名前も、確固たる中身もない、自律するだけが取り柄の人形。
そんな人形に求められるのは、組織が満足する結果だけ。
そしてそれが出来るのなら――別に貴方でなくて構わない。
そう、代わりなんていくらでもいる。
“貴方”であるべき必要性など、吹けば飛ぶほどに薄く淡いものなのだ。

母に打ち据えられ、組織に使い潰され。
“僕”という存在など必要とされておらず、どこにもいない。
そのことに未だたどり着けない過去と。
知ってなおその先へと進み続ける今と。
それは、なり替わることなど到底出来ないほどに乖離している。

「『僕』であり『私』であり『俺』だった、名もなき自分。」
『名もなき?ないはずがない!お前だって覚えているだろう!?
私は、俺の、僕の名前は――いくらでもある!!』
「そのどれもが、“貴方”ではないんですよ。故に――死ね。」

真白い手袋に、赤が滲む。
その一滴を啜り上げ、手にした武器がその刃を透き通らせていく。
叫ぶ過去はその変化すら気づくことは出来ず、躊躇いなく振るう一閃が。
――生を、死に変容させる。

貴方が羨んだものを、僕は“今”、持っている。
――だからもう、戻ることなど選びはしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

信楽・黒鴉
●○POW

コピーなら、考える事は同じ筈。
左の逆手抜刀術を囮に、右で武器を奪って放つ必殺の一撃。
どちらが先に相手の武器を奪い取るかの疾さ比べ。
【殺気】を【見切り】、【咄嗟の攻撃】。
同時に【カウンター】の【盗み攻撃】で繰り出す秘剣・借刀殺人。
叩き込めば【傷口をえぐるよう】に両断。

「物足りないとは言え、良いものが見れたよ」
「おまけに最後にこんな趣向まで凝らしてくれるとはね」
「自分さえ乗り越えられない腑抜けは此処でくたばるのがお似合いだ」

「さあ行くよ。瞬きなんてするんじゃないぞ、僕。僕の疾さは僕自身がよく識っているだろう?」

「僕は先に行く」
「僕を殺すのが僕だなんて、それこそ役者不足も甚だしい」



暗くて、昏い、暗闇がぽっかりと口を開けたかのような空間に。
過去と今。
同じ顔の男が二人、立っている。

「物足りないとは言え、さっきは良いものが見れたよ。おまけに最後は、こんな趣向まで凝らしてくれるとはね。」

先に口を開いたのは、今。

『そうだね、過去の愚かさを再確認して、足を止める気になった?』
「はっ――まさか。」

お粗末な誘い文句に、鼻で笑って牙を剥く。
見せつける様に左で逆手に抜刀すれば、けん制するように過去が動く。
身を沈め、同じように左で抜刀を見せ、右手を静かに引く。
そうとも、敵がかつての自分なら、考える事は同じ筈。
左は囮、右手が本命。
これは、どちらが先に相手の武器を奪い取るかの早業比べ。

「さあ行くよ。瞬きなんてするんじゃないぞ、僕。僕の疾さは僕自身がよく識っているだろう?」

尚も軽く笑って、今がゆるりと間合いを図れば、先にその距離を縮めたのは、過去。
瞬間的に膨らませた殺気を纏い、地を舐める様に疾く走れば、ほんの数舜で刃の届く距離に至る。瞬きの間に首が落ちるだろう、その切っ先の速さを。
――今は、見切っていた。
予備動作なく半身を捻り、僅かに刀先が頬を掠めるのを感じながら、逆手の刀を上へと振り上げる。どこを切るかは運任せ、怯ませるべく放つ咄嗟の一撃。それは、今まさしく振るった刀を奪うべく伸ばされた、過去の右掌を深く抉る。舌打ちと共に、体勢を立て直そうと身を引きかけるも、今がそれを許さない。放った斬撃の速度の儘にくるりと躰を回し、勢いを乗せた足払いを掛ける。いよいよもって体幹の崩れた過去が、庇う様に地面へ着こうとした左手に――刀は、無い。
――落とした?いや、違う。…“盗まれた”!!

『しまっ…!?』
「自分さえ乗り越えられない腑抜けは、此処でくたばるのがお似合いだ。」

奪った刀と、手にした刀。
二刀を構えた今が、成すすべなく体を浮かせたままの過去へと――連撃を叩き込む。
ドウッ、と音を立てて地面に打ち据えられ、苦悶の表情を浮かべながら、血を吐き伏せる。その勝敗を決した瞬間に、地面に触れた個所から過去が、煙の様にふっ、と掻き消えて行った。

「僕は先に行く。」

空間に唯一人立つ、今が告げる。

「僕を殺すのが僕だなんて、それこそ役者不足も甚だしい。」

この身を裂くことのできない過去ならば、用はなく。
――此処に留まる価値も、塵一つとてないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
模倣する類のものか
お前達はどこまで俺になれるのだろうな

自動起動する真理の連続行動能力で目標を封じ、撃破
魔眼・停滞で模倣のためのユーベルコードを打ち消し、続けて魔眼・掃滅で消去
ユーベルコードで姿を変えるなら其処を封じれば躓くだろう

仮に何かの理由で模倣を許したなら、どこまで模倣が有効なのか確認のためやはり撃破狙い

自動起動するユーベルコード二種(真理、消失)を模倣できているか
模倣したユーベルコードは自身と同様のものに根ざしたものになっているか
を主に注意

原理にまで届くなら、俺に成り変われるかもしれないが



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間に。
ゆらりゆらりと、影達が蠢いている。
それは己を持たぬもの。誰かの影にすぎぬもの。
――ドッペルゲンガー。
姿を真似、存在を映し、果てはなり替わろうとするその在り様。
ならば、果たして。

「お前達は、どこまで俺になれるのだろうな。」

そう言い放つ男――アルトリウスの目からは、情感が読み取れない。然し銀糸の髪は闇の中に在って目映く光り、その存在を否応なく浮き上がらせる。

ああ、その光、我らの裡にはあらぬもの――それが、欲しい。

唐突に動きが激しくなったかと思えば、影達が波のようにアルトリウスへと襲い掛かった。成り代わるという執念のなせる業か、若しくは質量無き影故か、その動きは恐ろしいほどに速い。
――けれど、彼にとっては何もかもが既に“遅い”。

《能力・技能上昇――クリア。連続行動付与――完了。》
黒く澱んだ手がアルトリウスを掴むより先に、脳裏を過る無機質な演算。

自動起動型ユーベルコード――真理。

戦端を開いた時点で、相手の全てが後手へと回る創世の原理。その一端。
触れる寸前に幾重にも攻撃を回避し、死角へと踏み込み、淡青色の光粒子が続けざまに敵を打ち消していく。一瞬、残る影がふるりと揺れて足を止める。それはまるで、怯えたかのように。けれどその機微すら許さぬように、アルトリウスが更に行動を重ねて踏み込み、一体、また一体と、光と魔眼を以て滅していく。

そうして影が、形を成せず影のまま消えて行く中――最後に残る一体が、銀を纏う。

いずれの隙をついたのか、見るうちに写し取っていたのか。その姿は瞬く間に藍色の瞳を、黒銀の装束をなぞっていく。
何も知らぬ傍目から見れば、同じ人間が二人に見えるほどの模倣。

「成程、その模倣…どこまでのものか、見極めてやろう。――来るがいい。」

挑発と受け取ったのか、銀を纏った影が風の如く奔る。けれどアルトリウスは先までの攻勢とは打って変わって、回避とけん制に徹していた。

その藍色が、簸たと見つめるのは。
――自動起動するユーベルコードを模倣できているか。
――ユーベルコードは自身と同様のものに根ざしているか。
――果たして相対した人間を写す力は、本当に“全て”を模すものなのか。

そう例えば、もしその手が原理にまで届くなら。
骸の海のその先、虚空にすら触れ獲るものなら。
――その影は、俺に成り変われるかもしれないから。

然し予測を裏切り、影が繰り出すのは単一の魔眼のみ。常時発動の維持もままならず、切り替えも覚束ない。――ああ、これでは到底無理な話だ。

「所詮はその程度か…ならばもう用はない。去ね。」

観察を捨て去り、放つ魔眼は影を縛り上げ、いとも簡単に打ち砕く。
そのあまりにも呆気ない姿が、より偽りだという印象を強めていく。

結局模倣が成り代わるなど、無理なのか。
それならば塵芥を鋳型に嵌め込んだ、そんな俺であっても。
――此処に在るは、変え難き“ただひとり”なのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
●△

僕、――否、私が相手ならば遠慮無用と血統覚醒
今ばかりは道化面を捨て愉しもうじゃないか

お前も分かるだろう、此の穢れた血の所為で喉が渇いて堪らない
……堪らないんだ、お前が私なら救ってくれ
さあ、其の命を一滴残らず寄越せ
暗殺技能で不意を突き、怪力で自身を捕らえ舌禍で吸血

嗚呼、其の貌を見ているとくらくらする
どちらが本物だったかな、私か? お前か?
どうせ甘い夢ひとつ見れないんだ
今更そんなこと如何でも良い気がするな

そういえば、自身の鏡像と戦った時に友人は斯う言っていた
――上手く避けれる方が本物だと
ははは、試してみても良いだろう
最後まで残って居た方が本当の私だ、其れで良い
天鼠の輪舞曲で獲物へ捨て身の一撃を



暗く、昏い、ぽっかりと開いただけの空間。
向かい合うはふたりの男。
鏡を境にしたかのように、そっくりと写し取った姿は。
どちらが過去か今か、とんと分からぬほどで。

「成程、本当によく似ている。いや、似ているというより――僕自身のようだ。」
『勿論その通りだとも。過去の僕であり、今よりは私こそが、唯一の自身だ。』
「ふぅん?ともあれ僕――否、私が相手ならば、遠慮は無用だな。」

交わす言葉を皮切りに、ざわりと空気を震わせて、因果を呼び覚ます。
穢れた血、かつての血族、父の子である証。
人の因子は消え果て、弧月に歪む口元には牙が覗く。

「さァ、今ばかりは、道化面を捨て愉しもうじゃないか。」

朱い目を細め、トン、トン、と軽く爪先を鳴らし奔る。
迫り、手を取り、往なし合い。
それはまるで、軽快なワルツのように。

――なァ、お前も分かるだろう?
此の身を巡る穢れた血の所為で、喉が渇いて堪らない。
白い首筋に透ける赤が、紙に破けた指に踊る赤が、どれ程の馳走に見えることか。
アァ、堪らない、堪らないんだ。お前が私だというのなら。
――どうかこの餓えから、救ってくれ。

ふいに放った式神を、防ごうとあげた過去の腕をつかむ。
ギリリ、と音を立てるほどに締め上げ、晒された首筋を食む。
赤い舌先がより赤く濡れそぼり、命の証を啜り上げる。
振り払われれば残念と嗤い、けれど僅かな痛みと唇の赤に、自分の首へ指をやる。
白い手袋を僅かに染める赤、淦、朱。
そういえば、この身を流れるも同じ色。ならば、吸えぬはずもない、か。
浮かべる笑みと牙すら、同じ。同じ。同じ。

――嗚呼、其の貌を見ているとくらくらする。
こうしてくるくると廻れば、果たしてどちらが本物だったことやら。
手袋を赤く染めた私か?踊るように身を躱すお前か?
どうせ甘い夢のひとつも見れないんだ。
今更そんなこと、如何でも良い気がするな。

そういえば。
自身の鏡像と戦った時に、友人は斯う言っていたな。
――上手く避けれる方が、本物なのだと。

「ク、ははは、そうか。なら、試してみても良いだろう。」

最後まで残って居た方が本当の私、其れで良い。
所詮は夢も現も紙一重。どちらが胡蝶の夢かなど、一体どうして分かろうか。
そんな曖昧な舞台なら、同じ顔の役者が入れ替わったとて。
――誰も、気づかぬままかもしれない。

ゆらりと身を返せば、インバネスが翻える。
ゆっくりとした裾の動きに目を奪われれば、身に着けたる人こそ掻き消えて。
羽音も立てずに迫り来る、蝙蝠に気づいたときにはもう遅い。

何もかもをこのひと時に。
耐え抜いたならば、お前こそが成り代わるといい。
けれど、もしその膝を付いたのならば。
――もう少し、この身で今と戯れていよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三千院・操
●●◯◯
ハ! 生憎だけど、おれを誰かに任せるつもりは毛頭ないね!
たとえそれがおれの過去であったとしても、三千院操(おれ)はおれのものだ。誰にも渡したりなんかしない。
それに、おれはあいつの手を取ったんだ。だったら尚更、おまえに代わるわけにはいかない。

歩む意味なんてない? 分かってないなァ。
すべてを忘れるのは容易いけれど、それをするのはナンセンスだ。
『人は思い出の中じゃ死なない』。
――おれは、親友を二度も殺すつもりはないよ。

開け【脳門】。
過去(おまえ)は現在(おれ)を冒涜した。
右手は第七圏、左手は鉢特摩。おまえに地獄を教えてやる。
おまえがおれだというのなら、おれの中に還るときが来たんだよ。



暗く、昏い、ぽっかりと開いただけの空間に。
同じ容姿をした男が、過去と今が、向かい合って言葉を交わす。

「へーほんとにそっくり。さっきの展示といい、よくできてるよね。」
『そりゃそうだ、だっておれは操だし。出来てるんじゃなく、おれなんだよ。』
「ふーん…?」
『だからさ、全部任せちゃいなよ。ここで止まれば、楽になれる。』
『消したこと、守れなかったこと、全部忘れてさ。』
『ここでずっと、眠ってなよ。』

手を伸ばす過去のその顔は、その笑顔は、まるで鏡を前にしたようにそっくりで。
でも、どれ程似ていても、今向けられた言葉ではっきりと――分かった。

「ハッ、やっぱ全然ちげーじゃん。お前は、おれじゃないよ。」
『…なんだって?』
「わかんないならなおさらだ…おれを誰かに任せるつもりなんか、毛頭ないね!」

バチンッ!と音を立てて、伸ばされた手を振り払う。

――たとえそれが、おれの過去であったとしても。
三千院操(おれ)は他の誰でもない、おれのものだ。
誰にも渡したりなんかしない。
それに、おれはあいつの手を取ったんだ。
だったら尚更、おまえに代わるわけにはいかない。

『なんでだよ、これ以上歩くことに、意味なんてないだろ?』
『どうせいつかはおまえもおれになる。なら、止まると歩くと、何が違うんだ?』
「…何にも分かってないなァ、やっぱ。」

そう、すべてを忘れるのは容易くて、止まるのだって馬鹿みたいに簡単だ。
でもそれをするのは、ナンセンスだ。
『人は思い出の中じゃ死なない』。
だから、おれはずっと憶えてる。忘れるつもりも、死ぬつもりも。
――親友を二度殺すつもりも、ない。

「開け、【脳門】。」

最早問答に意味はないと、厳かな呟きを宣言にして、門は開かれる。
その先に在るのは、あらゆる罪科を裁く概念。

「過去(おまえ)は、現在(おれ)を冒涜した。」

右手は第七圏、暴力者への罪を贖わす地。
左手は鉢特摩、その身全てを凍らす極寒。
歯を剥き、笑みというにはあまりに獰猛な貌を浮かべた、その様は。

「なら、おまえには――地獄を教えてやる。」

――まさに、地獄そのものの顕現。
門扉にて罪を図る、神にして悪魔の審判者。

「さぁ、おまえがおれだというのなら、おれの中に還るときが来たんだよ。」

距離、尺度、規模、そのあらゆる概念を越えて。
迫り来る地獄は、唯ゆっくりと、溶かすように過去を蝕んでいく。

『はぁ、ほんと――強欲だよな、“おれ”って。』

その、全てを呑み込まれる、ほんの一瞬前に。
そんな呟きと、あきらめた様な笑みが、見えた気がした。

「…なんだ。そこはよくわかってるんじゃん。」

そう、過去も、思い出も、罪も、痛みも。
その全てが今のおれを作ったんだ。
なら、何一つ取りこぼしたりしない。

それにほら、おれって、お前が言う様に欲張りだからさ。
――未来ってやつも、今のおれ自身の足で、歩いてみたいんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
●△

悪趣味な程豪奢な水槽
ぼんやり游ぐ白いさかな
ただの歌う
観賞用の人魚

僕はこんなだったのか
ただ生きているだけ
生きる意味なんてないのに
愛想笑いで座長の機嫌をとる惨めな奴隷

歌う歌すらも空虚だった
過去が僕自身が大嫌いで
封じてなくしまいたくて
君を否定し閉じ込めた

希望の見えない過去の僕に
薄紅の希望を届けに来た

―希望?そんなものない
僕はこのままだ

そこにいる限りはね
でも自由になれる
犠牲を背負えば

出逢える
櫻色の幸せに
こんな過去ごと愛してくれる唯一に
(桜の枝角の欠片を見せ

君に『春の歌』を歌おう

迎えにきた
過去の僕
否定して閉じ込めてごめん
惨めで大嫌いでも
過去(君)を一人にしてはいけない
君ひっくるめて僕だ

一緒にいきよう



暗く、昏く、ただ闇が口を開けたかのような空間に。
ぽっかりと浮かび上がるそれは、酷く悪目立ちしていた。
ああ、でも、僕は。それをとてもよく見知っている。

――なんて悪趣味な水槽。
金銀玉を矢鱈と飾り付け、豪奢なだけの硝子の檻。
けれど何よりも目に余るのは、その裡を満たす、稚魚の姿。

『.。o○… ♪ …….。o○.。o○…?』

ぼんやり游ぐ、白いさかな。
ただただ空っぽの歌を紡ぐ、観賞用の人魚。
よく似ていて、でも今とはまるで違う、過去の僕。

――かつての僕は、こんなだったのか。
喉を震わせて、鰭を揺らめかせて、ただ生きているだけ。
生きる意味なんて、これっぽっちも見出せていないから。
生きることを許された唯一の証である歌すらも、空虚だった。

『.。o○… ♪ …….。o○.。o○…?』

――同じフレーズばかり繰り返して、壊れたレコードのよう。
こんな過去が、僕自身が、何よりも大嫌いだった。
封じて、鎖して、なくしまいたくて。
ずっとずっと、心の中に君を閉じ込めていた。
檻の中に籠められる心地を、僕はよぅく知っていたはずなのに。
あの大嫌いな人たちと、同じことを――僕は、僕に強いていた。
だけど、もうそれもここで終わる。
――ううん、僕が、終わらせる。

「もうそんな歌、歌わなくてもいいよ。」
『…どうして?』
「ここから、出るからだよ。僕は君に、薄紅の希望を届けに来たんだ。」
『――希望?そんなものない。僕はこのままだ。』
『いつか喉がつぶれて、歌えなくなって、棄てられるのを待つだけだ。』
「そこにいる限りはね。でも自由になれる。――犠牲を、背負えば。」

出ることを選べば傷つくし、傷つける。今でも、胸に傷として残り続ける程に。
でも、それを乗り越えれば、出逢える。櫻色の幸せに。
こんな過去ごと愛してくれる、唯一に。

「辿り着けるよ――その道しるべになるよう、君に、『春の歌』を歌おう。」

桜の枝角の欠片を、空虚な目に映るように、抱きしめながら。
伽藍洞の詩じゃない、今の幸せを尊ぶ歌を口にする。

――心に咲く薄紅を、風に委ねて散らせよう。
――麗らかな春風と巡り躍り、幾度でも花咲く夢見草。
――揺蕩い惑うも花咲く僕を。
――どうか君よ、忘れないで。

「迎えにきたよ、過去の僕。否定して閉じ込めて――ごめんね。」

惨めで、大嫌いだった、ちいさなさかな。過去の僕。
見るのがつらいからって、蓋をして、無かったふりをして。
でも本当は、過去を、君を、一人にしてはいけなかったよね。
だって、君をひっくるめて全部が――今の、僕だもの。

「一緒に、いきよう。ここを出て、満開の櫻を、並んで見るんだ。」

過去に、手を伸ばす。
飛ぶための羽が無くても、歩くための足が無くても、絶対に連れ出すと誓って。

その言葉に、僅かに色を無くしたはずの瞳が揺れた。
過去が――今へ、希望を託すように、手を伸ばして。
――その手を掴むより早く、泡のようにふっと、水槽の中の稚魚がとけて、消えた。

けれど、ずっと絶望に歪んだままだった、檻の裡の顔が。
天へ上る泡になる前の、ほんの一瞬だけ、淡く淡く、ほころんだ気が、して。

伸ばした手の指先には、わずかにふれ合った証のように。
――桜の色に染まった鱗が一枚、残されていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒・烏鵠
●○WIZ
(目の前には一匹の赤狐。自分の殻にこもり、周囲など見えも聞こえもしていない様子で、ただ悲しげにけーん、けーんと遠吠えを続ける)
(当然のように、こちらを無視している)

いやー、なかなか恥ずかしいモンがあるなァ。
いやホント、周囲も見ずに自分だけが悲しみのドン底と思ってるよーなお年頃だもの、イキってる時よか恥ずいわ。

いやムリだわ、こんなンに今を任せるとかむりむりカタツムリだわ。可愛い弟ども全員に幻滅されちゃうワ。
つーか、殺られる。確実に。

感情と過去で破裂しそうな『今のオレ』だからこそ、アイツらの兄が出来るンだ。
オマエじゃ全然まるっきり足りねェよ。

(手を刃に変え、泣き続けている狐の首を落とす)



――けーん、けーん。

そこは、昏かった。
ともすれば外か室内かもわからない、闇の立ち込めた場所。
その先に、ただひとつの色彩として、赤が宿る。

――けーん、けーん。

赤は、鳴いていた。
近寄る気配には、目も耳もくれず。
取り巻くすべてを拒絶するように、虚空を見つめ。
ただただ、悲し気に、寂し気に、鳴き続ける。

「いやー、なかなか恥ずかしいモンがあるなァ。」
その姿に顔をしかめながら、今の自分が言葉を零した。

これが、自分。かつての自らの姿。
ただ鳴き続けるだけの赤狐。
愛しい人を失い続け、その悲しみが自分だけのものと思い込んでいた。
周囲も見ずに、自分だけが悲しみの底にいると思ってるような頃だった。
何ならイキがってる時より羞恥が勝る。
もし何か一つ行き違って、この過去が今になり替わったとしたら――

「いやムリだわ、こんなンに今を任せるとかむりむりカタツムリだわ。可愛い弟ども全員に幻滅されちゃうワ。」

ケ、と吐き捨てんばかりにそんな仮定を否定する。
いやもし出たとしてもそもそも先がない、殺られる。確実に。
その確信と共に、今の自分が手にしているものの、その重さがのしかかった。

――オレは、兄だ。
そして感情と過去で破裂しそうな『今のオレ』だからこそ。
ようやくアイツらの兄でいられるのだ。
それが例え苦しくとも、胸の虚が未だ死に焦がれていようとも。
その事実だけは動かしがたく、手放すにはあまりに惜しい。
ならば、悲しみに目を閉ざし、鳴き暮れるこの赤狐には。

「オマエじゃ、オレの今を生きるには、全然まるっきり足りねェよ。」

手を刃に変えて、歩み寄る。
それでもただ、なきつづけるだけの赤狐の首へ――迷いなく振り下ろす。
何の抵抗もなく、いや、その与えられる死にすら目をそらしたまま。
首を断たれた瞬間に、煙の様に赤が消える。
流れゆく今から、過去が消えて行く。

それでいい。
弱くても、愛しい世界と人を守りたい。
その為に、尾は隠して掴ませず、あらゆる全てを化かし抜く。
――そう生きると、“今”のオレが決めたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
●○
――真っ白な、私
ええ、容赦はしない。あなたも嫌よね、「私」なら
あなたは、過去の私よね……私の記憶がある、「前の」私
……ッ、流石に同じ怪力もちだと文字通り、骨も折れるわ

「わたし」が何をしたのか、だいたい推理出来てる
シャーロックを滝壷に落としたのは――マダムじゃない
あの人、好きな人を「殺す」ようなへまはしないわ
もっと残酷に、一つになろうとした筈よ
「わたし」でしょう、殺したのは、「わたし(お前)」だッ!

何笑ってンのよ――笑いたいのはこっちよ
狂ってる!こんなの狂ってる、でも
「わたし(過去)」を返してもらう
白のままじゃ居させないわよ
真っ黒に――一つになりましょう
この真実は離せない!【因果の滝壷】!!



まるで、ケダモノがぽっかりと口を開けたかのような、真っ暗闇の空間。
そこに溶け込む、黒を纏った今の私とは対照的に。
じ、とこちらを見据えながら向かいあって立つのは。
――真っ白な、私。

「あなたは、過去の私よね……私の記憶がある、「前の」私。」

怯えは鳴りを潜め、ふつりと煮える感情を混ぜながら、問う。
けれどその言葉に、返事は無い。ただその唇が三日月を描くだけ。
同じ顔に浮かぶ、でも“私”には浮かばない、表情。
身の裡に住まう他の誰とも色の違う、笑み。
それが何よりの回答で在り、余計にいら立ちが募る。

――わたしは、あなたにないものを持っている、と。
――あなたは、記憶の欠けたわたしに過ぎない、と。
そう、見せつけられているようで。
ああ、なら容赦はしないわ。だって、あなたも嫌よね?――「私」なら。

「だから遠慮なく――やらせてもらうわッ!!」

叫ぶと同時に繰り出すのは、武器も読みも何もない、唯の直線的な突進。
迎え撃つ白も武器を構えることはなく、ただ受け入れる様に半身を引いただけ。
黒の爪が腕に触れ、白の指が腹に触れ、交わり合うその瞬間。
――ゴキン、と耳障りな音が響いた。

「……ッ、流石に同じ怪力もちだと文字通り、骨も折れるわ。」

プッ、と口に溜まった液体を吐き出せば、黒い床に赤が加わる。
腕を折ろうと抱えた瞬間、カウンターであばらを何本か持っていかれた。
目的は達せたが、わき腹にずくんずくんと鈍痛が走る。
でもまだ動ける。問題ない。構う余裕も、ない。
しかし力業の儘では膠着すると踏んで、双剣を逆手に抜き放つ。

――「わたし」が何をしたのか、だいたい推理は出来ている。
シャーロックを滝壷に落としたのは――マダムじゃない。
だってあの人、好きな人を「殺す」ようなへまはしないもの。
もっと残酷に、貪欲に、何も取りこぼさず一つになろうとした筈よ。
だから、

「――「わたし」、でしょう?」

それは、記憶を持つ過去への問いかけ。
だけどもう答えなんて求めてはいない。いいや、聞かずともわかっている。
真実はもう、この身の裡に在る。

「――殺したのは、「わたし(お前)」だッ!」

――Exactly.
音を乗せない唇が、その言葉を形取る。
そしてまた、形ばかりはよく似た白い貌に、わたしにはない色が乗る。

「何、笑ってンのよ――笑いたいのはこっちよ。」

ああ、何もかもが狂ってる、狂ってる、あなたも、わたしも、全て。
でも――わたし/過去は、それだけは、どうしたって返してもらう。

「白いままでなんて、居させない。」

それは、あたかも嫉妬のように、どろりと黒い色を孕んだ言葉。
牙のように穿つ双剣の閃きは、硬質な音を立てるたびに苛烈さを増していく。
その剣戟から逃れようと、白が、過去が、渾身の跳躍を見せた。

――ああ、あなたばかりが、そんな風に軽々と空を舞って。
ずるいわ、そんなの。許せないわ。

「駄目よ、私のように堕ちて、墜ちて、真っ黒に――一つに、なりましょう?」

追うように、地面を蹴る。
追いすがる、手を伸ばす、爪が触れる。
――捕まえた!

「この真実は離せない!――逆転せよ、我が因果!!!!」

渾身の叫びで呼ぶのは、因縁の地を冠したモノ。
しろを黒く、昏く、染め上げて喰らい尽す触手。
天から突き落とすように、白を地へ墜とす悪魔。
――まるで彼女を、    時のように。

けれどあの時と同じ色に、地面を染め上げる前に。
過去が――ふわりと霞のように、消えて行った。

「…呆気ない、終わり。でもこれで、私は――“わたし”に、なれるのよね?」

溜息をついて、誰もいない空間に、改めて問いを零せば。
――ただその身を抱きしめて、震える姿だけが、残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
●△

黒髪、右頰に傷、不敵な顔に同じ刀
細部が違うのは───ああ、これが、本当の私、記憶だったもの、か

あの頃記憶と共に、半身が殺められなければ、私は

最後の敵は己か
言い得て妙だ

刃を引き抜き、刀身を擦り合わせながら、問答する
睨み合う

故に答えよう
私は、過去を求めている

しかし其れは、縋り、引き摺られる為ではない

人を、言葉を、思いを積み重ねる為だ
歩むのは、未来に続く道を築く為だ

技能は同じ
武器もほぼ、同じだろう

だが貴様には無く、私にあるものが決定的な差だ

それは経験
背負った思いと絆

故に、私は!

過去を乗り越えることで、未来へ向かう!


装備品を握り、叫ぶ

力を貸してくれ、相棒達!そしてッ!

───来い、ファントォォム!!



「最後の敵は己か。言い得て妙だ。」
『そうだな、成り代わるためには、避けては通れないのだろう。』

暗く、ぽっかりと開いただけの空間に、銀の髪は酷く目立った。
それと相反するように、目の前に立つ男は、闇に溶けそうな黒髪をしていた。
右頬に走る傷、不敵な顔に同じ刀。
細部は違えどもそっくりな姿に、分かることがある。
――ああ、これが、本当の私だったものか、と。

あの頃、記憶と共に、半身が殺められなければ。
私はきっと、ここにはこれなかった。
忘れていたという喪失感は、未だ胸に重くのしかかるが。
それもすべて、今を生きるためだというのなら。

「…受け入れよう。たとえ苦しくともそれは、必要なことだったと。」
『よく口が回る。ただ――逃げただけとは、思わないのか?』
「思わない。それは、今を生きる機会を与えてくれた彼らへの、侮辱だ。」

刃を引き抜き、刀身を擦り合わせながら、睨み合う。
そこで交わされるのは、命の遣り取りそして――問答でもある。

何ゆえに今お前は生き、そして求めるのか、と。
苛烈な剣戟を以て過去が問う。

――故に、答えよう。
私は、過去を求めている。
しかし其れは、縋り、引き摺られる為ではない。
人を、言葉を、思いを積み重ねる為だ。
そして歩むのは、未来に続く道を築く為だ。

『――詭弁だ、何もかも。過去を失い、人を見捨てた“今”に、何の価値がある。』

苛むような言葉と共に、過去が刃を振り下ろす。
それを受け流すのも同じ刀、そして次にどう振るうかは、手に取るようにわかる。

――そう、技能は同じ。武器もほぼ、同じだろう。
それだけなら勝敗を分かつに難しい。
だが過去には無く、今の己にだけに根差したものがある。
それは、経験。
それは、背負った思いと絆。

――故に、私は。
過去を乗り越えることで、未来へ向かう!

「力を貸してくれ、相棒達!」

その言葉に呼応するように、鈴がリン――と音を鳴らす。
眼球に浮かぶ演算は進むべき道を示し、アームからは刀を薙ぐ軌道が算出される。
いまやっと、懐かしい言える声を耳に思い起こしながら、翻る赤を目に。

「――来い、ファントォォム!!」

高らかな叫びと共に、爆音を伴ってバイクが暗闇を裂く。
慣れた手つきで跨り、
今ようやく胸に戻ってきた覚悟を、過去へ突き立てるべく疾走していく。
――行こうか、相棒。我らが疾走、誰にも止められぬさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・スノーバー
●〇
無かった事にはならないし、それがあってこそ今のぼくだよ?
そっくりに出来ても、嫌がらせしか出来ないような奴になんか負けないもんっ!
歩かないと、くるくる繰り返しを躍るしかないし
お話を始めたのなら、いつか終わりにしなきゃなんだよ?

くるりくるりら、吹雪をまいて
……喜怒哀楽があってこそ、人生は華と呼べると思うっ。
只息をするんじゃなくて、楽な方にだけ、縋りたい時間だけを摂取するんじゃなくて
躓いたって、無様だって、何一つ無駄にはならないのが人生だもんっ!
その時出来なかった事、悔しかったことを繰り返さないために
これまでも、これからもぜーんぶ、大事にするっ。
欲張りな位が丁度良い。だって目標は高くなくっちゃ!



暗く昏い、ぽっかりと開いた空間で、ふたりの白が向き合う。
ひとりはしずかに、もう一人は。
――その手に、ずたずたに引き裂かれた動物のぬいぐるみを抱えて。
あれはきっと、後悔のカタチ。
過去のぼくが引きずった、忘れられないあの日の亡霊。
涙にぬれながら、そのぬいぐるみを力いっぱい抱きしめて、過去のぼくが――叫ぶ。

『みんな死んじゃった!助けられなかった!森にだってもう、帰れない!』
『なのにどうして、ぼくは生きるの?どうして、先に行こうとするの?』
『ここにいてよ、ここでならみんなと一緒に居られる。思い出に浸ってられる。』
『あんなこと、なかったことにしちゃえるんだ!』

「…だめだよ、あれはもう終わっちゃったことなんだ。無かった事にはならないし、それがあってこそ今のぼくだよ?」

助けられなかった――その糾弾は、今でもきゅっと胸を締め付ける。
でも、無かったことになんてできないし、絶対にしない。

『どうして、君はぼくでしょう?同じことを思ってるはずでしょう…?』
「違うよ、見た目がそっくりなだけ。そうやって嫌がらせしか出来ないような奴なんか、ぼくじゃない!」

どこかには、苦しさで足を止めてしまう人も、きっといるだろう。
でも歩かないと、くるくると終わらない繰り返しを躍るしかなくなってしまう。
そしてどんなお話だろうと、始めたのなら、いつかそれは終わりにしなきゃいけない。――たとえそれが、命あるものだとしても。

『怒って苦しくて、泣いて悲しくて、それでも生きてかなきゃいけないの?』
「……喜怒哀楽があってこそ、人生は華と呼べると思うっ。」

ただ息をするだけ、そして楽な方にだけ、縋りたい時間だけを摂取する。
そんなのはとってももったいない!
躓いたって、無様だって、何一つ無駄にはならないのが人生だ。
その時出来なかった事、悔しかったことを繰り返さないために。
これまでも、これからもぜーんぶ、大事にする。
――欲張りな位が丁度良い。だって登るなら、目標は高くなくっちゃ!

「さようなら、ぼくはぜーったい、立ち止まったりしないからっ!」

くるりくるりら、吹雪をまいて。それはまるで、花のように。
偽りの過去には迷いなく、雪風の影に隠れたアイスピックを放つ。
くしゃりと泣いた顔の儘、壊れたぬいぐるみを抱きしめたまま。
過去は――貫かれて、風の前にふわりと消えて行く。

過去は大事、今も大切、その全部を抱きしめて。
――きっとまた、新しい大事なものを、見つけていくんだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラディス・プロトワン
●○アドリブご自由に

今、目の前に居るのは俺自身。
奇妙な感覚だな……。

機体の開発が順調に進めば、今頃は俺と同じ存在が量産されている……はずだった。
だが開発は中止され、『俺』という存在は1つしか作られなかった。

そこに居るのは……欲望のままに他者のエネルギーを貪るただの化物だ。
『過去の俺』自身でもある。


早速俺のエネルギー……いや、存在を奪うつもりか?
悪いが、本物の俺は1体しか居ないのでな。
偽物にくれてやるわけにはいかない。

『過去の俺』も『今の俺』の一部に変わりはない。
俺が責任を持って、一緒に連れて行ってやる。

「お前のエネルギーは残さず貰っていくぞ」


『過去の俺』に何も残さぬように。



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間。
其処へ立つのは、溶け込みそうな漆黒の躯体をしたウォーマシン。
その二体が――向かい合いながら、並んでいる。

「奇妙な感覚だな……。」

今、目の前に居るのは俺自身。

古代帝国で実験的に製造された、ヒューマンタイプの大型ウォーマシン。
補給が困難な僻地においても活動できるようエネルギー吸収機能を付与された機体。
機体の開発が順調に進めば、今頃は俺と同じ存在が量産されている…“筈”だった。
そう――実験は不完全だったのだ。
吸収機能の不全、熱量交換の効率エラー。
この体を駆動させるには、絶えずエネルギーを補給せねばならなかった。
やがて敵のみならず味方の生命力すら奪うようになっていった。
止むなく開発は中止され、『俺』という存在は1つしか作られなかった。

今は何とか精神制御や敵からの補充でコントロールをしている。
だが、目の前に居るのは、欲望のままに他者のエネルギーを貪るただの化物。
――そして『過去の俺』自身でもある。

「俺のエネルギー……いや、存在を奪うつもりか?」
『話が早い。最も、協力的に身を差し出してくれるならありがたいがね。』
「…悪いが、本物の俺は1体しか居ない。偽物にくれてやるわけにはいかないな。」
『そうか、なら手荒くいくしかないな。丁度――腹も減ったころだ!!』

獰猛な音声と共に、漆黒の機体が――過去が今へと迫り来る。燃費の悪さを構うことなく、大出力を込めてサイフォンソードが振るわれる。だが、今は避けることをせず、僅かに構えただけで、その刃を片手で受け止める。攻め立てたはずの過去が、予期しない行動に怯んだ隙に僅かに笑って――いや、もし表情の変化があったならば、きっと“笑った”だろう――ソードのエネルギーを、吸い上げていく。力を吸い上げるはずの刃から、逆に力を吸われていく皮肉、その事実に過去が動けず立ち止まる。いいやもう、動けるほどのエネルギーが、ないのだ。

――未熟で至らない、過去の姿。
それでも、『過去の俺』も『今の俺』の一部に変わりはない。
ならば。

「お前のエネルギーは、残さず貰っていくぞ。」

過去を掴んだ腕の、いや全身のゲートが紫の光を帯びながら開かれる。
それは、全てを飲み干す獣の口腔。
貪欲に、ありとあらゆるものを喰らい尽す、怪物の牙。
その全てが駆動音を高めながら――過去を、平らげていく。

『過去の俺』に、何も残さないように。
『過去の俺』が、一人で迷わぬように。
俺が責任を持って、一緒に連れて行ってやる。
お前が進んだ先に何があったか。選んだ道に何を見たか。
――今の俺の内側から、見ていると良い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月待・楪
は、なるほどな
過去っつーのはそういうことか
テメーにくれてやるモンは弾丸しかねェよ
(ドッペルゲンガー:長い髪を揺蕩わせるオペ服姿の14、5歳の少年)

確かにこの頃まで戻れば…ヴィランとしてやったコトがなかったことになっちまえば楽にはなれるだろうな
だが…んなモンお断りだ
チッ…人の顔で物欲しそうな顔してんじゃねーよ気色悪い

絶望もあの人達を殺したのも
その後ヴィランになったことも
ヴィランであり続けることも
今アイツの隣を生きてこっちに堕ちんのを待つのも
最期にあの赤雷に焼き尽くされるのも、全部
俺の選択、過去、今、未来だ

何もかもが薄っぺらいテメーに俺のモンは欠片たりともやらねェよ
…ヴィランの覚悟見せてやる
●△



清く明るく正しく、それが真っ当なヒーローと仮定するならば。
このぽっかりと開いた、暗く昏い空間は。
――成程、ヴィランにとってはお誂え向きなのかもしれない。
ましてやそこに佇むのが、己の過去の姿を借りたオブリビオンだというのなら。

「…は、なるほどな。過去っつーのは、そういうことか。」

吐き捨てる様に、相対した敵に言葉を投げつける。
そこにいたのは、今の自分よりもやや若い姿の少年。
長い髪を靡かせて、薄っぺらいオペ服だけを纏った、かつての自分。
ヒーローになれると疑わなかった、裏切られる前の、俺。

――ああ、確かにこの頃まで戻れば、何もかもが元通りになるだろう。
俺はヒーローに憧れるだけのただの少年で、
ヴィランとしてやったコトすら、全部帳消しだ。
だが、そんなモンは――お断りだ。

『今の俺は強そうだ。ねぇ、じゃあ、俺も――その強さを、手に入れられるんだ?』
『君を、今を手に入れたら――俺も、“ヒーロー”になれるんだ!』
「チッ…人の顔で物欲しそうな顔してんじゃねーよ、気色悪い。」

何も知らないで、欲しがってばかりの幼さに、腹が立つ。
まだ何も自力で選べていないくせに、いや、たった一つ軽率に選んだことで。
――その先の全てを決定的に狂わせるなんて、知らないくせに。

でも、例え狂ってしまったのだとしても。
何もかもを胸を深く抉った、あの日の絶望も。
貶めた人を、救ってくれなかった人を、殺したのも。
ヴィランとしての道を選び、今なおヴィランであり続けることも。
赤い共犯者の隣を生きて、こっちに堕ちるのを待つ日々も。
そして最後には、この身を炎にくべることを選んだのも。
――今の俺が選んだ、過去と、今と、未来だ。

「何もかもが薄っぺらいテメーに、俺のモンは欠片たりともやらねェよ。」

構えた銃に、弾を込める。
それは、光へのあこがれを刻んだ武器。
そして、今はあこがれを断ち切る凶器。

「…ヴィランの覚悟、見せてやるよ。テメーにくれてやるモンは、弾丸しかねェ。」

無邪気にほしいと口にして、今へと手を伸ばす少年の瞳が、恐怖で染まる前に。
速やかに、迷いを滲ませず、引き金を引く。

パンッ、と乾いたたったひとつの銃声だけを響かせて。
――過去が、笑ったままに煙と消えた。

「…ほんっと、最後まで腑抜けたツラしやがって。」

ガリガリと頭を掻きながら、何もなくなった空間で独り言ちる。
けれど、未だ硝煙の匂う銃を前にしても、後悔はない。

憧れが、未だしびれる程に胸を痛めつけても、構わない。
ふと思い出す過去が焼けるほどに苦しくても、厭わない。
――今の俺を本当に焼き尽くせるのは、赤雷だけだと知っているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

舞塚・バサラ
●○
【SPD】
……記憶は戻った
苦痛は消えない
全てを忘れ、無為に生きた
恥知らずの己に成せるのか

眼前のソレは過去の某達であるという
ならば…
それならば…

ダメだよ(突如雰囲気が切り替わる。風鈴のような声が響く)
あの時、生きたいと願い
死ねぬと叫んだのは君だ
だから、逃げてはならない
偽物なんかに委ねてはならない(右掌を前へ伸ばす)
君達は、僕に屈しなかったのだから(忘れ去られし王の右手使用。浸りたくなる過去と希望とそして願いが敵へと飛んで行く)

……成程(雰囲気が戻る)
進まねばならぬで御座るか
逃げは許されぬで御座るか
__ならば己は、愚かな己を罰し、恥を知らぬ己を裁く!
そして…
某達は今再び!罰裁羅の業を執行する!



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間は、まるで。
今までずっと埋まらなかった、過去が抜け落ちた深淵のようで。
覗き込む度に覗いた、あの名状しがたき感情が、ふつりと蘇る。

――ああ、けれど、記憶はすでに己が裡に戻った。
故に、何も知らずに生きた日々を思えば、苦痛が沸き上がる。
全てを忘れ、仇を追うこともなく、ただ無為に日々を生きた。
そんな恥知らずの己に、一体何が成せるというのか。
そんな自責ばかりが溢れてくる。

目の前に立ちはだかるのは、未だ罪を知らぬ頃の己。
ただ日々を精一杯に生きていた、罰裁羅の某達の姿。

――ああ、そのころまで戻れたのなら。
何もかもを無かったことにしまえるのなら、どれ程幸せだろうか。
たとえそれが叶わずとも、此処でまどろんでいれば、もういいのではないか。
いっそのこと、足を止めてしまえば――

「――ダメだよ。」

りん、と。唐突に、声が、纏う空気が、変わる。
自らを只管疎んじる様に呻いてた声が、風鈴の如くに色を変えた。

「あの時、生きたいと願い、死ねぬと叫んだのは、君だ。」

それは、全てを奪われた、あの日の事。
忘れ果てていた、失いそうなってなお諦めなかった、己の叫び。
己以外には、この世でたった一人しか知らない筈の、執念の声。

「だから、逃げてはならない。偽物なんかに委ねてはならない。」

そぐわぬ雰囲気を纏いながらも、躰は素直に動き、右掌を前へと伸ばす。

「君達は、僕に――屈しなかったのだから。」

放たれるのは、ひかり。
浸りたくなるような――罰裁羅の一として、親方たちと過ごした過去が。
淡く芽生える希望が、必ず果たすと誓った願いが。
鮮やかな弧を描いて、偽りの過去を縛り上げる。

「さぁ、彼らの言葉を教えるよ。「お帰り、随分遅かったね」――ってさ。」

静かにそう言いおいて、ちりりと鳴らした風鈴の声が消えて行く。

「……成程。」

再びゆらりと、空気が入れ替わる。
けれど戻った己もまたひとつ、先とは違うものが宿っていた。
――進まねばならぬで御座るか。
――逃げは許されぬで御座るか。
――それこそが、今の己へと課せられたものだというならば。

「己は、愚かな己を罰し、恥を知らぬ己を裁く!」

それは、決意。
揺らぎ、惑い、罰を求めて縋ろうとした己をこそ、絶たんとする意志。

「某達は今、再び!――罰裁羅の業を、執行する!」

過去に、希望に、願いに縛られ、動けぬかつての自分へと、刃を向ける。

もはや過去は、眺め見ても空虚なばかりの、ぽかりと空いた孔ではなく。
ましてや敵として、立ちはだかるべき相手でもない。
痛み、苦しみ、胸の裡を焼けども二度と手放しはせぬ。
――全ては、“己”に他ならないのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
●○
過ぎ去れば全てが過去になる?だから未来へ歩まず此処に居ろと?
…それはボクのこれまでに対する明確な侮辱だよ。

重ねて来た出会い、積み上げてきた過去は決して軽くは無いよ。足を引くこともあるだろうね。でもそれは、簡単に降ろしていい重荷なんかじゃない。
世界を素晴らしいと感じたのであれば、それに永遠の誇りを抱くのであれば――ボク自身が、軽いままでなんて居られるか。
この重みを、見縊るな。

UCを使用。本来は真の姿専用なのだけれどもね…これはボクの得て来た物の、一つの形。今使わずにいつ使うんだ。
世の素晴らしさを歌いあげた後に来たる、失楽の絶焔。だけどその炎が灼くのは世界じゃない。明日を奪う、歪んだ過去だ。



パラリ、パラリと本を捲る音がする。
僅かな椅子の軋み、空気を震わす呼吸だけが、音の全て。
まるで、あのキネマを目の前で再現されたかのような、光景。
私の――過去の姿が、そこにはあった。

『――書物は、過去の集積の、最たるものだと思う。』

静かに、訥々と言葉が零される。

『書き綴り、縫い留めて、綴じては並べられていく。』
『今も、未来も、いずれはこうして、綴じられる。みんなみんな、本になる。』
『なら――この書庫こそが、世界のすべてでは、ないの?』
『ここにいれば、安全なまま、ずっと居られるんじゃないの?』

問われる声に、重ねられる疑問に、同じ顔をした今の少女は。
怒りを、覚えていた。

過ぎ去れば全てが過去になる?
だから未来へ歩まず此処に居ろと?
――なんて見当違いも甚だしい。

「…それは、ボクのこれまでに対する明確な侮辱だよ。」

感情の色の薄い声に、それでも今は、明確な怒気が滲む。

――重ねて来た出会い、積み上げてきた過去は、決して軽くは無いよ。
時には傷ついて、足を引くこともあるだろうね。
でもそれは、簡単に降ろしていい重荷なんかじゃない。
世界を素晴らしいと感じたのであれば、それに永遠の誇りを抱くのであれば。
――ボク自身が、軽いままでなんて居られるか。

「この重みを、見縊るな。」

トン、と掌で胸を打つ。
今ここに在る自分を、その全てを、過去に示すように。
例えこの身を傷つけようとも、引くことなどないと見せるために。

一歩、足を前に進める――黒鋼機人と、その身を共にする。
二歩、過去へ歩み寄る――手にした刀を、胸の裡へと突き入れる。
三歩、今が先へと行く――空間すら燃やし尽くすほどの、炎を纏う。

「本来は真の姿専用なのだけれどもね…これはボクの得て来た物の、一つの形なんだ。なら――今使わずに、いつ使うんだ。」

それは、相棒たる鋼と、天をも焦がす刀を内包した姿。
世の素晴らしさを歌いあげた後に来たる、失楽の絶焔。

眼にかなう世界だと讃えた声は、やがて同じ声で怨嗟を紡ぐ。
だけど今は、その炎が灼くのは世界ではない。
――明日を奪う、歪んだ過去だ。

ごう、と燃え上がる煉獄の乙女を前に、過去はただ静かに、目を伏せる。
そうして――その身を炎に包みながら、骸の海へと還っていく。

それでいい、過去は決して敵などではない。
それに未来は――明日は何を見れるのか、歩んだ先には何が待っているのか。
そう思うだけで、こんなにも心が浮き立つものなんだ。
もう溢れかえる書物を捲ってばかりの頃に、戻れるもんか。
――美しい世界を前に止まるなんて、そんなもったいないこと、出来やしないさ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
●/△

先生が殺してくれたはずの、かつての私と視線が絡み合う
生きる気力を失くしたあの頃の私はあんな濁った目をしてたんだ
ねぇ、やめて
そんな目で見ないで――

咄嗟に喉を抑えて、呼吸ができているか確認する
……少し息苦しいけど、大丈夫
向き合える

忘れられたらどんなに楽になれるんだろう
きっと呼吸がおかしくなることもなくなって
身も心も、苦しみから解放される

でもわかってる
忘れちゃいけないんだって
私まだネクに何も、言えてない……!

帰らなきゃ
先生が待ってるし
……きっと彼も心配してくれてる
全てを打ち明けても尚、こんな私の心に寄り添ってくれた
少年の顔が脳裏に浮かぶ

同じ言葉を返そうか
心配には及ばないよ
今の私はひとりじゃない



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間に。
過去の私が、まるで亡霊のように佇んでいる。
先生が殺してくれたはずの、かつての私が今、目の前に、立っている。
ぶつぶつと何事かを呟いているのを、澄ますともなしに大きな耳が拾い上げる。
拾い上げて、しまう。
その――どろどろと、黒く歪んだ、自らを苛む声を。

『ごめんなさい、酷い子で。』
『どうか許して。殴らないで、蹴らないで…下、さい。』
『私が、全部悪かったって、分かってるから…ちゃんと、するから。』
『私のぜんぶで、つぐなうから。』

ゆらりと持ち上げられた過去の瞳が、今と交差する。

――ああ、生きる気力を失くしたあの頃の私は、あんな濁った目をしてたんだ。
何もかもに目を、耳を塞いでいたころは、それすら知らなかった。
でも、ねぇ、おねがい、やめて。
そんな、昏い目で私を見ないで――

咄嗟に喉を抑えて、呼吸ができているか確認する。
……少し息苦しいけど、大丈夫。
向き合える。

でも、ほんの少しだけ、頭の隅で考えてしまう。
――忘れられたら、どんなに楽になれるんだろう、って。
きっと呼吸がおかしくなることもなくなって。
楽しいことに、罪悪感を覚えることもなくなって。
身も心も、なにもかも、苦しみから解放される。
普通の、“女の子”に、なれる。

でも反対に、痛いほどにわかってることも、ある。
これだけは、何があっても忘れちゃいけないんだって。
だって私、まだネクに何も言えてない。
このまま、弱いままでいるなんて、駄目。
私は、ネクのお姉ちゃんであることを、手放したくないって思ってる。
――今でもずっと、ネクを想ってる!!

「…だから、帰らなきゃ。」

呼吸に怯えていたとは思えないほどに、凛、と通る声で。
誓いにも似た言葉が紡がれる。

そう、帰らなきゃ。
先生が待ってるし、きっと――彼も、心配してくれてる。

決意と共に、脳裏に浮かぶのは、ひとりの少年の顔。
全てを打ち明けても尚、こんな私の心に寄り添ってくれたひと。
あの藍色を思い浮かべれば、それだけで心が満たされていく。
――大丈夫、だから、同じ言葉を返そうか。

「心配には、及ばないよ。」

槍を構える。虚ろな過去は、それにも構わず贖罪の言葉を述べ続ける。
けれどもう、今の私は、突き進むことに迷いは、ない。

さようなら、過去の私。でも平気だよ。
だって、歩いていけば、貴女も私にたどり着けるから。
――今の私は、ひとりじゃないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリスティーヌ・エスポワール
双子姉の恋人ニコ(f02158)と同行
帯同、愛情表現可
●○

辛い、辛いよ。それは分かる
私には覆せない
でも、過去がなければ私はここにいない
今がなければ未来の私もいないでしょうね

そこへの道は、なければ作る!
1人なら無理だけど、私には……
ニコが……ううん、お姉ちゃんがいる!
そう、私はお姉ちゃんを愛してる!
2人で未来へ飛んでいきたい!

♪翔べるさ、貴女となら♪

●本心
『2人で生きると何故誓う?』の自問自答で確信
偽の自分達をデコイとして、過剰共振を回避
互いの慕情を共有した

●戦闘
「お姉ちゃんほど上手くはないけど……!」
攻撃力重視でUC発動
ニコへのラブソングを歌う
想いを波動にして敵を圧迫
同伴ならニコの歌を増幅


ニコレット・エスポワール
双子妹の恋人クリス(f02149)と同行
帯同・愛情表現可
●○

そりゃ過ぎたんだから、もう全部過去さ
初めからボク達にアレは変えられない

…でもさ
過去と今の向こうに『何もない』とは思わない
今の先には未来があるんだよ

もし無かったら?
作るさ!歌い上げるさ!
何なら愛の歌だって歌うよ?

だってボクには…クリスがいるもん!
ああ、大好きさ!クリスを愛してるよ!
ボクらで、2人で未来を生きたいっ!

♪翔ぶのさ、希望のソラへ♪

●本心
『2人で生きると何故誓う?』の自問自答で確信
偽の自分達をデコイとする事で
過剰共振を回避しつつ互いの慕情を共有

●戦闘
ユベコを攻撃力重視で起動
クリスへのラブソングを熱唱
歌合戦のような形で偽ニコを圧迫



真っ暗な、ぽっかりと開いただけの空間に。
怨嗟を響かせる、過去の双子と。
それを憐れむように見つめる、今の少女たちが、向かい合う。

うつろな目で、訥々と言葉を零す赤い目の少女と。

『うるさい、うるさい、ずっと声がする。つらい、いつだって、私だけの私になれない。好きじゃない、嫌い、誰か分かって、ううん、嫌、誰も――お姉ちゃんも、知らないでいて。』

――辛い、辛いよね。それはとてもよく分かる。
でも、私には覆せない。変えることは、誰にもできない。
それにどれほど苦しくても、その過去がなければ、私はここにはいない。
今がなければ、未来の私も…いないでしょうね。

切ないほどの叫びをあげて、涙ながらに乞う、青い瞳の少女。

『ああもうっ!考えようとしてもすぐにぐちゃぐちゃになっちゃう。どうしてこんな風になったの?ねぇ、助けてよ、ボクを、こんなの――嫌だよ!!』

――そりゃ無理だ、過去だけは変えられっこない。
行き会って初めて“こう”なるってわかったんだ。
初めから、アレはボク達には変えられないことだったんだ。

同じ瞳の色が交差し、けれど交わらない想いだけが溢れて、零れていく。

「…でも、さ。」
――ニコレットが、重ねる様に声を響かせる。
けれど、言葉が続かない。上手く表せない。
どうすれば、と瞳を伏せかけた瞬間、ふと手が暖かくなるのを感じる。
重ねられるのは、クリスティーヌの手。優しく、気遣うような視線も。

ああ、この温もりが、眼差しがあれば――大丈夫。前に、進める。

「過去と今の向こうに『何もない』とは思わない。今の先には未来があるんだよ。」
「…ええ、だって私たち、悩みながらもここまで歩いてきた。なら、この先も。」

手を取り合い、今を生きる2人が向き合う。

「ニコが……ううん、お姉ちゃんがいる!そう、私はお姉ちゃんを愛してる!」
「ボクにも、クリスがいるもん!ああ、大好きさ!クリスを愛してるよ!」

ウソをついて遠ざけた心が、いまひとつになる。
共振によってさらけ出されることを、怖がったりはしない。
響き合い、通じ合ったものこそが、本当の想いなのだから。
だからもう、迷わない。

「未来へ飛んでいきたい!」
「未来を生きたいっ!」
「「――2人で!!」」

「さぁ、ここからは私の…いいえ、私たちのステージ!プロデュクトゥール・フェルベール、演出開始!」
「そうさっ、デュエット用の特別ステージを見せてあげるっ♪クルール・ブリリアンテ、てんかーいっ☆」

真っ暗なだけの空間に、キラキラと光が差す。
歌を、演奏を、ふたりを最も輝かせるステージ。
互いの想いを、歌に乗せて交わし合う。

『ウソだ、キライだったくせに。愛なんて、知らないくせに、歌えないくせに!』
「作るさ!歌い上げるさ!愛の歌だって、今ならサイコーのを聞かせてあげるさ!」

『意地っ張りで弱虫で、貴女にこの先の道なんて、選べるはずがない!』
「そこへの道は、なければ作る!1人なら無理だけど、私には今、ニコが居る!」

――♪翔ぶのさ、希望のソラへ♪
――♪翔べるさ、貴女となら♪

重なり合う声が、互いが互いへ送るラブソングが、過去を圧倒していく。
認められずに苦しんで、キライと言い合ってばかりの過去が。
響き合う心すらもいとおしいと言える、今に。

歌い始めた瞬間から、共振相手を偽物とすり替えている。
その為、今の2人のリンクは切れていた。
でも、それでも相手が何を思っているか、分かる。
歌声が、その全てを伝えてくる。

『――ああ、なんだ。』
『そうか、私たちは、もう。』

自らが歌う歌が途切れ、代りに押し寄せる2人分の歌声を、受け止める一瞬に。

――過去が、どこか眩しそうに微笑んだ気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
●○

お前が私ならば、やるべき事は一つしかあるまい
……刀を構えよ

目の前の姿、私の姿は小夜子様の想い人
彼は、志半ばで死んだ
小夜子様との身分違いの恋の末、住む土地を追われた
その後は人々の平和の為に戦い、オブリビオンとの戦いで命を落とした
約束を守れず、戦いにも敗れ……無念であっただろう

真実を知り、私は彼の代わりに戦う道を選んだ
再会の約束は永遠に叶わない
ならばせめて彼が出来なかった事をやり遂げたい
戦いに終わりは無いとしても……私の身が滅ぶ、其の時まで
百年、二百年経とうとも私は戦い続けよう

儚い命が少しでも多く生きていけるように
彼等が健やかに眠れる「夜」として

是にて終幕と致しましょう
――舞いて咲くは、炎の華



暗く、昏く、一縷の光もなく、ただ闇ばかりが広がる空間に。
夜の色がふたり、向かい合って並ぶ。
その見目は、写し取ったようにそっくりで。
最早他目には、どちらが今か、過去か、分からぬほど。

それでも。
――お前が私だと言うならば、やるべき事は一つしかあるまい。

「…刀を構えよ。」
『…言われるまでもない。』

――目の前にいるのは過去の私であり、そして彼の姿でもある。
私の姿は、小夜子様の想い人を象ったもの。
何故帰ってこなかったのかと噂を追えばその先で、彼は死んだと聞かされた。
小夜子様との身分違いの恋の末、住む土地を追われた。
その後は人々の平和の為に戦い、オブリビオンとの戦いで命を落としたという。
想い人との約束を守れず、志半ばに臨んだ戦いにも敗れ。
それはさぞ、無念の死であっただろう。

真実を知った後、私は彼の代わりに戦う道を選んだ。
再会の約束は、永遠に叶わない。
ならばせめて彼が出来なかった事を、やり遂げたい。
戦いに終わりは無いとしても、私の身が滅ぶ、其の時まで。

「なればこそ、お前を生かしておくわけには、行かない。」
『戯言を。代わりに私が屠って仕舞えば、それはいったい何が違う?』
「覚悟だ。成り代わりたいだけのお前と私では――未来に対する、覚悟が違う。」

甘言を切り捨てて、鞘より出るは銀の月。
ゆらりと瑠璃色の炎を纏いながらそれは偽りを、闇を、全て払うように――舞う。
過去が佩するもおなじもの。構える方も、足運びも、違わず同じ。
だが剣戟が二度、三度と交じり合い、硬質な音を立てながら奉される剣舞は。
じり、と過去を後退らせていく。

――この身は仮にも神を冠するもの。
ならば、人の身なら朽ち果てよう年月も踏み超えて。
例え百年、二百年経とうとも、私は戦い続けよう。

儚い命が、少しでも多く生きていけるように。
彼等が健やかに眠れる、「夜」として。
それこそが、私が剣に乗せる、想いの丈。
過去にはない、剣の重み、そのもの。

「――是にて終幕と致しましょう。」

――舞いて咲くは、炎の華。
剣に這う炎が、避けそびれて崩れた過去を、捉えて絡めとる。
肩口を貫いたそれは、まるで花が綻ぶように瑠璃色に染まっていく。
やがてはその身全てを喰らい尽くされて、過去が――煙と消えて逝く。

吾が身が写したものであろうとも、今世にこの姿はただ一人。
例え何時か、骸の海を踏み越え、再び出会うこととなっても。
――胸に抱いた誓いのある限り、必ずや、夜の淵へと還しましょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
「馬鹿じゃない、『私』?」
(敵の自分が冷たく言い放つ)
「ずっと探し続けて、でも手がかり一つ残ってなくて
時間の全てを捜索と鍛錬に費やして」

「最初に壊したのは『彼』の祖父と父親
彼は『私』に出会う前から既に沢山壊されて、壊れてた」
「また逢えても、本当に、助けられる?」
「『私』ばかりが全部背負うなんて間違ってる」

(交わす刀と剣
ぎりぎりでかわし続ける)

「もう十分頑張ったでしょ」

それでも
(皮膚や服は裂かれ)
家族よ

「その愛が偽物でも?」

いいえ
本物だった

「彼に家族なんて無い
そして『私』にも!」

義兄さんが愛される事、信じる事を教えてくれたの
虚ろを抱えて、それでも『愛して』くれた

私も愛してる
だから迎えに行くの

●○



『――馬鹿じゃない、『私』?』

冷ややかな声が、こだまする。
暗く、昏い空間に、明確な棘を含んだ声が響く。
けれどそれは紛れもない、私の声。
私の――過去からの、糾弾。

『ずっと探し続けて、でも手がかり一つ残ってなくて。』

言葉をつづけながら、すらりと緋色の刃を抜き放つ。

『時間の全てを捜索と鍛錬に費やして。』

刀身に炎が躍り、タンッ、と軽い足音で――同じ顔が、目の前に迫り来る。
慌てて構えた野太刀で受け止めるも、間近にした炎がちりりと肌を焼く。

『彼は『私』に出会う前から、既に沢山壊されて、壊れてた。』

バチッ、とはじける音と共に、今度は雷が刃を染める。
太刀越しにも手に痺れる様な感覚が伝い、思わず距離を取ろうと雑に振るった。

『初めは『彼』の祖父と父親に。それからもずっと、ずっと。』
『それなのに、また逢えてたからって本当に、助けられる?』
『壊したのは『私』じゃないのに、全部背負うなんて間違ってる。』

交わす刀と剣。
大きく振ったせいで出来た隙に、くるりと身を翻した過去が踏み込む。
かろうじで太刀の重さを軸に後ろへ下がれば、避け切れなかった裾が氷を帯びる。

『もう十分頑張ったでしょ。』

ギィン、と硬質な音を立てて、二度、三度、と刃がぶつかり合う。
そのたびに皮膚が裂け、服は破れ、緩やかに疲労が蓄積する。

――分かってる、もうあきらめろ言いたいんでしょ?
此処で止まってしまえって。
そうね、きっとそうすれば楽にはなれるでしょうね。
でも、それはだめ。それだけは、駄目。
それを選んでしまったら、私は。
――彼を、家族と呼ぶ資格を失ってしまう。

「それでも、家族だわ。」
『その愛が偽物でも?』
「いいえ。本物だった。」

それだけは、否定させない。その思いが、鈍っていた足を動かす。
まき散らされる水を、ぼろぼろになった上着を脱ぎ棄てながら躱し、駆ける。

『嘘よ、彼に家族なんて無い。そして――『私』にも!』
「いいえ、義兄さんが愛される事、信じる事を教えてくれたの。
虚ろを抱えて、それでも『愛して』くれた。」

駆ける。その迷いなさに、僅かに焦りを見せた過去が刃を振るう。
その瞬間生まれた風が、奔る今に向かい来る。

「私も愛してる。だから――迎えに、行くの。」

ひらりと腕を回して、向かい来る風をいなす。
手にした太刀は邪を断ち、歩むものを守る象徴。
ならば、立ち止まらない限り、今の私が負けることは――ない。

「…絶対に、見つけて見せる。だからあなたは、眠っていて。」

今度こそ、偽りでもなく、その場しのぎでもない。
――一緒に生きていく未来のために、今を、進むの。

痛みを伴う覚悟を、手にした野太刀で、深々と過去へ突き刺す。
その露と消えゆく狭間に、過去が、ほんの少し寂し気に笑って。

――今度は、手を離しちゃだめよ。

そう告げた気が、した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゲンジロウ・ヨハンソン
アドリブ…●
敵…△

顔を隠してヒーロー気取り…違うか。
そうだ、そうだった。
猟兵として力を得、友を得…忘れておったよ。
その怯えたような瞳、まるで怨嗟の囚われ人じゃな。
そんな自分に嫌気がさして、兜を被りはじめたんじゃったな。

○ドッペルゲンガー
真の姿(納品絵参照)を開放した自分と対照的に普段の戦闘時と同じく鎧兜に身を包んでいる。

○戦闘
目の前に立ち塞がる仮面を被った自分の姿をただの「格好つけ」だと小馬鹿にするためにもUCを使う。
己の真の姿開放し、それに伴い身に燃え上がる怨嗟の激情を真正面から受け入れ力とする。
己の使える力の全てを乗せ振るう【怪力】で鉄仮面に引きこもった目の前の馬鹿野郎を引きずり出そう。



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間で。
ふたりの男が、向かい合う。

「顔を隠してヒーロー気取り…いや、違うか。」

目の前に立つふたりの姿は、背格好こそ瓜二つだが、片方の顔が窺い知れない。
無骨な兜と武器を構える様相は、ともすればダークヒーローにも映るだろう。
だけど、過去がその姿を纏う理由はそこにない。
そこにいるのが過去の自分だというのなら、わかるとも。
仮面の下に隠したものが、果たして何なのか、が。

――そうだ、そうだった。
猟兵として力を得、友を得て、忘れておったよ。
仮面をもってしても隠し切れない、怯えたように揺れる瞳。
まるで怨嗟の囚われ人じゃな。

「そんな自分に嫌気がさして、兜を被りはじめたんじゃったな。」

過去からの返事は、ない。
問答は無用というなら、それも致し方ない。
ならば――戦うほかあるまいと、その身を真の姿へと変貌させていく。
吹き上がる炎に、今度は傍目にも隠し切れないほどに過去がびくりと震える。

――ああそうだ、怨嗟は今でも共にある。
呼び起こせば延々と、この身を責め苛み続けている。
それでも、棄てはしない、忘れもしない。
ましてや仮面で耳目を塞いで見ないふりも、しない。

「怖かろう、恐ろしかろう。だが、それも全部含めて――俺なんだ。」

その言葉を否定するかのように、声もあげぬままに過去が地を蹴る。
迫り、振りかぶり、降ろした拳を、敢えてよけずにその身に受ける。
骨を軋ませ、肉を削がんとするその腕を――ああ、捕まえた。

怒りを、嘆きを、叫びを、苦痛を、その何もかもを焚べて。
負った傷すらも舐めて、紫怨の炎は、一層その色を、熱を増していく。

――死ぬことなど許さない、その身はまだ、死して終わるには業が深すぎる、と。
そう、訴えるかのように。

そのあまりの熱量に、過去が思わず身を退こうとするが――許しはしない。
ぎり、と音が鳴るほどの力を込めて捉え、引き寄せ、もう片方の手を伸ばす。

『やめろ…見るな!』

始めてあげた声は、やはり自分と同じ。
それも無視して毟るように兜を剥げば、そこには恐怖の滲んだ己の顔が、あった。
ああ、なんて無様な。格好だけ取り繕った弱虫め。
こんな奴に、あとを任せろじゃと?――冗談にしたって面白くないのぅ。

「過去を言い訳にした儘の馬鹿野郎に、俺の今をくれてやるなんざ、出来るかよ。」

それは、決別の言葉。
弱く、覚悟の定まらない過去の己へ向けて、別れを告げる様に。
――炎を乗せた渾身の一撃を、見舞った。

怨嗟の全てをこの身にまとい、それでも今は生きると決めた。
それに今は、帰る場所もある。
…ああ、次に出すメニューも考えんとのぅ。
腹を空かせてせっつく顔が、有難いことに幾つも思い浮かんでな。
――だからまだ、そっちに顔を出すには、ちと早いんじゃよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
●△

……分からないことばかりだ
映画を見ても、結局、「知る」事は出来ても……何も「思い出す」事は出来なかった
展示品もそうだ。過去からの声とやらも、聞こえこそしたけど……音って呼ぶには無理があるものだったし
まぁこっちについては……もしかしたら、「アレ」は人間用の言語じゃなかったんじゃないか、って仮説はあるけど。今は何とも言えないかなぁ

けど、赤頭巾さん。アナタが俺を助けてくれる、って事だけは分かる
理由も目的も分からないけど、それだけは信じて良いんだよね?

うん、それだけ分かれば今は十分って事で
……俺はまだ何も分かっちゃいない
だから此処で「別の俺」に負けて成り代われるなんて、許容する気はないんだよねぇ!



暗く、昏く、闇ばかりが落ちる空間に。
浮かび上がるのは、3つの影。
赤を伴う今の姿と、ただひとり立つ、過去の姿。

向かい合って立つ少年の、ざっくりとしたシルエットはとてもそっくりに見える。
然しザザ、と音を立ててノイズが混ざる過去の姿は、全体像の把握が難しかった。
声もなく、動きもなく、ただただ佇むだけの、亡霊のような姿。
自分と相対する…そんなことになったって、全てが未だ曖昧なままだという様に。

――ほんと、分からないことばかりだ。
映画を見て、ほんの少し「知る」事は出来たかもしれない。
けれど何も「思い出す」事は出来なかった。
展示品もそうだ。過去からの声とやらも、聞こえこそしたけど、ただそれだけ。
それに音と呼ぶにはあまりに無理があるものだった。

「…まぁ、あの声やら音やらについては、もしかしたら人間用の言語じゃなかったんじゃないか、って仮説はあるけど。今は何とも言えないかなぁ…ねぇ、赤頭巾さん?」

くるりと首を向けて、隣に浮かぶ赤い影に尋ねてみても、まるでからかうようにふわふわ浮くばかりで、きちんとした答えは返ってこない。もう、と軽く頬を膨らますけれど、予想はついていたので態度ほどに怒りや困惑はない。

――だってね、赤頭巾さん。
アナタが俺を助けてくれる、って事だけははっきりと分かるんだ。
理由も目的も分からないけど、今までだって、ここでだって。
アナタは、ずっとそばにいてくれた。

「だから、それだけは信じて良いんだよね?」

その、真っ直ぐに向けられる目に、言葉に。
今までははぐらかす様にしていた赤い影が、こくり、と確かに頷いて、笑った。

「そっか、うん。それだけ分かれば、“今は”十分って事で。」

つられるように笑って、笑い合って、ふたりが過去へと向かい合う。

――俺はまだ、何も分かっちゃいない。
赤頭巾さんのことも、自分の事も、なにひとつ確かなものはない。
でも、だからこそ、此処で「別の俺」に負けて成り代われるなんて。

「――そんなこと、許容する気はないんだよねぇ!」

未だ全容のつかめない、ノイズ交じりの姿に、それでももう臆することはなく。
短機関銃と大鉈を対にした鋏が、軽やかに開戦を告げて奔る。

何時か辿り着く真実が、どんな色をしているかはわからない。
それでも知りたいと思う内は、アナタが共に戦ってくれる限りは。
――この足を止めることは、しないと決めたよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
俺が相手…目の前の俺は多分死にたいとかごめんなさいとかそんなことばっかり考えてた頃の俺かな?
猟兵になったのはUDCを倒すため…だった。がむしゃらに依頼を受けてその度に心が擦り切れて。有祈にも大分迷惑かけた…。

でも目の前にいるのが過去の俺なら…今の俺は負けるわけにはいかない。
いや…今の俺なら負けない。
UC【オルタナティブ・ダブル】
有祈。一緒に倒そう。
今更かもしれないけど有祈だってさ…姉ちゃんの弟なんだぜ。俺のこと守ってくれてありがとう。

引き金を引くだけでいい。
それだけでいい。
じゃあな、過去の俺。
俺は前に進むよ。
姉ちゃんの言葉と一緒に。

アドリブ歓迎です。



――ごめんなさい。ごめんなさい。

暗く昏く、ぽっかりと開いただけの空間で。

――全部俺のせいだってわかってるから、もう、死なせて。死にたい。

自分が――過去の己が、蹲って嘆いている。
何もかもを放り出して、投げ遣りに、どうでもいいと言わんばかりに。
そうだった、いつかの俺は。
記憶の底であいまいにしていた過去の形を、今こうしてはっきりと目にするのは。
――不思議で、どこかさみしい気持ちにさせられる。

姉を失った後、猟兵になったのはUDCを倒すためだった。
がむしゃらに依頼を受けて、自分を顧みずに無理や無茶を通して倒して。
でもその度に出会う悲劇に、至らなさを突き付けられて、心が擦り切れていった。
有祈にも大分迷惑をかけた。

でも目の前にいるのが過去の俺なら、今の俺は負けるわけにはいかない。
いや、今の俺は、胸の裡に――姉ちゃんが居てくれている。
思い出した苦しみは、痛みは、まだ重たくのしかかるけれど。
姉ちゃんからもらったものを覚えている、今の俺なら、負けない。

ふと、今の真紀の姿がブレた。輪郭が、存在が、ゆるりと分かたれるようにズレる。
――オルタナティブ・ダブル。
もうひとりの自らを呼ぶユーベルコード。
そして、真紀にとってのもう一人の自分は。

「有祈。一緒に倒そう。」

その言葉に、隣り立つ自分が――常は感情の起伏が薄く冷静な有祈が、ほんのわずかに目を見開く。

「今更かもしれないけど有祈だってさ…姉ちゃんの弟なんだぜ。それに、こんなだった俺のこと、ずっと守ってくれてありがとう。」

過去を前に、今が笑う。
静かに、でも確かに強く微笑むその姿は、有祈がずっと守りたかったもので。

――ああ、礼を言うなら俺だって。
――同じ姉ちゃんの弟だっていうなら、お前は、俺にとっての。

並べられる二つの銃口が、ぴたりと過去に向けられる。
引き金を引くだけでいい。
それだけでいい。

「じゃあな、過去の俺。俺は前に進むよ。」

放たれた弾は二つ、しかし同時に弾かれた銃声は、耳に一つとなって届く。
そして、穿たれた過去が、涙の儘にするりと、音もなく消えて行く。

これでいい、俺は先へ歩いていく。
姉ちゃんの言葉と、有祈と一緒に。
――今を、未来を、“絶対に生きる”んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スミス・ガランティア
●○

任せろだと?
ふざけるな……!

我が犯した罪は、我のものだ。これからもそれは変わらない……!

そも、お前が我の過去だというのなら……尚更捨て置く訳がなかろうが。
力を振りまくだけの神など……ましてやそんな神の紛い物など!

相手は我と同じ能力を使い、尚且つ生命力まで喰らうのか……であれば、吸収が間に合わぬ程の氷の【全力魔法】と【極寒の天変地異】を敵に一点集中で叩き込んでやろう。氷の嵐と雨の大盤振る舞いだ!

その分ダメージも来るだろうが……【覚悟】は出来ている。【武器受け】、【氷結耐性】で凌ぐぞ。氷雪の神が冷気に耐性を持ってないはずがないだろう。……まあ、それはそちらも同じ事だろうが。根比べと行こうか。



――過去に委ねて眠りなさいと、そんな声が聞こえた気がした。

それはオブリビオンの総意なのか、骸の海から湧きいずる何か、なのか。
ただ、どちらにせよ。何であろうとも。
――受け入れる等、到底できない話である。

「任せろだと?ふざけるな……!」

凍てつく力を司るはずの神が、烈火の如き怒りに満ちていた。
目の前に立つのは、よく似た姿の自分自身。
けれど、その目に生気は感じられない。
それは――かつて悪意によって瞳を閉ざされた、過去から来るものか。
挙動にも自らの意志の様なものは感じられず、まるで人形のようで。
それが一層、はらわたを煮える心地にさせられた。

「我が犯した罪は、今の我のものだ。これからもそれは変わらない……!」

意志ある今だからこそ、そう言える。
そも、目の前に立つのが己の過去だというのなら、尚更捨て置く訳にはいかない。
力を振りまくだけの神など、ましてやそんな神の紛い物など。
――断じて、許すわけにはいかない。

その決意を表するように、ひらり、と六花が舞い落ちる。
――ユーベルコード、極寒の天変地異。
名に違わぬ絶対零度の現象発露。突き出した掌の先からは、吹雪が、雨が、吹き荒れる。唯の人なら一息で肺も凍り付く気温の中、それでも過去は膝を付かず、同じように手を伸べる。発する力も同じ、氷雪の招き。
なら――

「同じ我だというのなら、根比べと行こうか――!」

ゴウ、と音となって叩きつけられるほどの吹雪に、ぽっかりと黒かった空間は、白に塗り替えられていく。最大出力の維持は、神であっても容易くはない。更に過去の己から向けられる冷気が、耐性を越えて身を蝕んでいく。ピキ、と音を立てて腕が、破片に触れた頬が、凍り付いていく。

――ああ、氷像になるのは、こんな気分なのか。
さぞ心細かったろう、怖かったであろう。
たとえあれが、我の意志の及ばぬ行為だったとしても。
我の力がもたらした結果には相違ない。
なら――

「自らの意志を持つ今が、操り人形の如き過去に屈したりなど――せぬ!!」

向けられた冷気すらも取り込むかのように、吹雪が密度を上げていく。既に最大は叩き込んでいる、それ以上を絞り出すとなれば、それは命をも削る行為。けれど何もかもを覚悟のうえで、止めることはなく。

――ついには過去を、凍てつかせた。

最早瞬きすら叶わぬほどに凍てつき切った、氷像の如き過去。
そこから僅かに聞こえた呻く声も、然し数舜の後に姿ごと煙の如く消え去った。

それでいい、亡霊のような過去に、任せることは何一つない。
――詫びに行くのなら、今の我でなければならないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロダ・アイアゲート
●△敵対した相手の姿を映すオブリビオン、ですか…
(まるで鏡を見ているみたい…)

自分(敵)を見る
ぞっとするくらい機械的な姿
なのに人のように動き、話し、考える
なぜ、私は造られたのだろう
完成すらさせてもらえなかったのに
なぜ、私は生きているのだろう
必要としてくれる人などどこにもいないのに

尽きない疑問と晴れない心

歩む意味はないかもしれない
でも進まなくては私は答えに辿り着けない

この体は物理攻撃には強いですからね…
銃弾で攻撃してもあまり効果はないでしょう
ならばUCでガジェットたちを召喚して時間を稼いで、寿命を削るのを狙うしかありませんね

どうして、でしょうか…
自分と戦っているだけなのに
こんなにも悲しいなんて



「敵対した相手の姿を映すオブリビオン、ですか…。」

暗く、昏い、ぽっかりと開いた闇の中で。
ふたつの天眼石だけが、小さくきらめきを零す。
互いにそっくり同じ姿をし、向かい合うその様子は。

――まるで、鏡を見ているみたい。

少し前に、悪意ある鏡をのぞいたことがある。
けれど、幼い本音を垣間見たその時とは、沸き上がる思いが違う。

自分を、過去を、敵を――見る。
表情はなく、声もあげず、静かに武器を構えて警戒した様子。
ただ“目の前に倒すべき者がある”ということに対する、自動的な動き。
――ぞっとするくらい、機械的な姿。

それなのに今の私は人のように動き、話し、考える。
なぜ、私は造られたのだろう。
完成すらさせてもらえなかったのに。
なぜ、私は生きているのだろう。
――マスターにすら手放された私を、必要としてくれる人などどこにもいないのに。

沸き上がる疑問は尽きることなく、心もまるで晴れることはない。

――歩む意味は、ないのかもしれない。
もしかしたら、それ以上に残酷な真実に行きつくかもしれない。
それでも進まなくては、私は答えに辿り着けない。

「なら、私は――あなたを、倒さなくてはならないのでしょうね。」

静かに、あきらめにも似た覚悟を決めて、ユーベルコードを起動する。
呼ばれるのは、手ずから形を与えた愛らしい相棒たち。
その姿に、声もなく佇んでいただけの過去が、身を屈めて銃口を向ける。

――この体は、物理攻撃には強いですからね。
銃弾で攻撃しても、あちらの私にあまり効果はないでしょう。
ならばこちらはガジェットたちを召喚して、起動不能になるまで時間を稼いで――

ふと、滑らかだった思考に、ノイズが入る。
戦況と敵の解析、そのあまりにも機械的な計算が、効率的な演算が。
目の前で戦う過去と、重なる――重なって、しまって。
胸が軋むようだ。私は、こんなにも。

「…どうして、でしょうか。」

ガジェットが駆動する蒸気音と、まき散らされる薬莢の音の狭間で。
返ってくる声はないと知りながらも、ふと苦し気な問いが零れる。
――自分と戦っているだけなのに、こんなにも悲しいなんて。
――機械の、未完成の身を思い知らされるのが、こんなにも苦しいなんて。

ああマスター、私にとってのアイアゲート。
貴方に会えば、こんな悩みからは解放されるのでしょうか。
――この悲しみがなくなる日が、くるのでしょうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
△●

今まで闘ってきた相手に
大なり小なり恐怖を覚えていた
ただ今目の前にいる「俺」に対して
欠片も恐怖は浮かばなかった
ただ覚悟があった



いいかよく聞け!
俺様は、何れ全世界最強の魔術師になる男!
その俺様に、歩む意味などないだと?

他の奴ならいざ知らず、「俺」の姿をしたお前が言うか!馬鹿を言え!

この夢は俺様のものだ!
誰にも渡せぬ、俺様自身の人生であり目標だ!
過去現在未来…丸ごと全て!お前《過去》に任せるものじゃねぇ!

俺が俺様の歩みを止める事なんて
断じて認めねぇ!

お前が過去だというなら―――そのお前ごと引きずってでも、俺様は未来へ進む…!

過去へ宣誓すると共に

戦闘開始

パルは誘導弾

避けは逃げ足


幕引きの一撃はUCを



『本当は、分かってるんだろう?』

――今まで闘ってきた相手には、大小はあっても常に恐怖を覚えていた。

『俺様だとか、最強だとか、口で言うほどには、“俺”は強くないって。』

今の俺で敵うのか、魔法は打てるのか、もし負けることがあれば――。
そんな臆病な気持ちが、いつも胸の奥底で渦巻いていたから。

『一族のみんなが言ってた、お前には無理だって。』
『本当はお前も、分かってるんだろう?歩む意味がないって、思ってるんだろう?』

――だけど今、目の前にいる「俺」に対しては、欠片も恐怖は浮かばない。
あるのはただ、覚悟だけ。

「いいかよく聞け!俺様は、何れ全世界最強の魔術師になる男!」

高らかに、堂々と。自らの野心を迷いなく告げる。
今までの語り掛けはどこへやら、その宣誓にびくりと過去が肩を震わせた。

「その俺様に、歩む意味などないだと?他の奴ならいざ知らず、寄りにもよって「俺」の姿をしたそれをお前が言うか!馬鹿なことを!」

この夢は俺様のもの。
誰にも渡せない、俺様自身の人生であり目標だ。
辿り着けないとか、無理な願いだとか。
そんな外からの言葉には、何一つ意味がない。
手に入れると――俺様が“決めた”のだから!

「過去現在未来…丸ごと全て!お前《過去》に任せるものじゃねぇ!」

過去へ告げると共に杖を構え、相棒を傍に呼ぶ。応えて躍り出たのは、紙兎のパル。軽快に跳ねまわり、誘うように鼻先を掠めてやれば、慌てた過去が同じく杖を構えて礫の様な魔力を放つ。
――違う、そんなもんじゃない、俺様の魔力は、もっと、もっと!

「…これから撃つのが本気の本気!避けれるもんなら…避けてみやがれ!」
『っ、避けるもんかよ…受けて立ってやる!!』

呼応するように、今と過去、互いから放たれる魔力の大きさは互角。
ぶつかり合い、今にもはじけ飛びそうなほどの力の奔流、その鬩ぎ合い。
だが、一歩も引きさがりはしない。
過去にはない、信じて進み、積み重ねたものが――今の自分には、ある!

「…いっけェェェェェーーー!!」

渾身の叫びと共に、更なる増大を見せた魔力が徐々に相手を押し返す。いや、単に跳ね返すのではない。うねり、逆巻き、向かい来る全てを飲み干すように。全ての魔力を青く蒼く染め上げていき――。

その奔流は、過去の自分ごと全てを喰らい尽した。

全力を出し切り、へたりとその場に座り込むと、コツン、と靴に何かが当たった。
思わず何かと拾い上げてみれば、それは――一粒のアクアマリン。
自らが流すものよりも色が淡いのは、過去が零した雫だからか。
それをぎゅっと握りしめて、胸へとあてる。

俺が、俺様の歩みを止める事なんて、断じて認めねぇ。
お前が、俺の過去だというなら―――

「そのお前ごと引きずってでも、俺様は未来へ進む…!」

もう一度、改めて固く誓いを口に。
――きらめきを零す瞳は、迷いなく先を見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
●×

──よう、俺
随分辛気臭い顔してるじゃねえか
我が身可愛さに全て投げ出した俺を、そんなに許せないかい?
それとも……お前が英雄になりにいきたい?

あぁ、それもいいかもな
俺にはできねえから、お前が俺に代わって、物語を終わらせて…いや

やっぱ、それは無理だな
だって、お前は俺なんだものな

俺もお前も「必ず最後に失敗する」
だから、お前は行かせられない
失敗しないように端役でいられる、俺でなきゃな

いくらでも刺せ
いくらでも殺しに来い
俺にはお前を乗り越えられそうにないから

お前が根負けするまで、立ち続けてやる
お前ごと引きずって、地獄まで行きたいからさ

互いにここで死ぬのは、辞めようぜ?
俺達は……

未だ、死ぬときではない



「――よう、俺。」

暗く、昏い、ぽっかりと開いただけの空間に。
同じ姿の男がふたり、向かい合う。

「随分辛気臭い顔してるじゃねえか。」

今が語り掛ける声に、過去はただ、睨みつけるような視線を返すばかり。

「我が身可愛さに全て投げ出した俺を、そんなに許せないかい?」

返ってくる言葉はない。けれど突き刺すような眼が、“そうだ”と言っている。

「それとも……お前が英雄になりにいきたいか?」

『――ああ、それもいいかもな。』
 ――あぁ、それもいいかもな。

過去が声にして、今が胸の裡で思う言葉が、重なった。

そうさ、そんな酔狂もいいかもしれない。
本物の俺にはできねえから、偽物のお前に託す、なんてのもいいかもしれない。
そうすれば、終わりを亡くしたあの物語を、もしかしたら終わらせて――
――ああ、いや、駄目だ。

「やっぱ、それは無理だな。」

一瞬手放しかけた自分を、引き戻す。気が付いた。いや気づいてしまった、から。

――だってお前は、俺なんだものな。
だったらお前も「必ず最後に失敗する。」
…間違いないぜ?なんせ二度も失敗したお前/俺が言うんだ。
だから、お前は行かせられない。
英雄になろうと、主役を気取って場違いな舞台に上がりかねないお前より。

「失敗しないように端役でいられる、俺でなきゃな。」

『…わからないだろ?俺なら、出来るかもしれない。』
『諦めたお前じゃなく、言い訳ばっかりのお前じゃなく。』
『未だ革命の英雄を夢見てる、俺なら――!!』

檄した言葉と共に、過去が、ナイフを手に襲い掛かってくる。
けれど、今は両手を広げ――ただ、受け入れた。

ハロー、一人っきりのカウボーイ。
いいさ、いくらでも刺せ。いくらでも殺しに来い。
俺にはお前を、乗り越えられそうにないから。
お前が根負けするまで、立ち続けてやる。
せめて俺だけは、お前を引きずって、地獄まで行きたいからさ。

「互いにここで死ぬのは、辞めようぜ?俺達は…、…ッ…!」

先の言葉を紡ごうとして、ごぼり、と口から鮮血が溢れる。
全てに幕引きを齎す、機械仕掛けの名の刃が、躰を貫いていく。
ああ、痛い、痛む、けど――まだ、足りていない。

端役の自分には何も為せないという悪魔の証明が。
他者こそが主役であるべきという世界への償いが。
愚かにも役を越えて馬鹿な夢を見たことへの罰が。
何もかもが、足りていない。

だから未だ、死ぬときではない。
――お前も、俺も、バグ・アウトにはまだ早い。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

雨乃森・依音
●○

…本当にそっくりだな
暗い顔しやがって
ああ、色々とあったよ

『それも全部引っくるめて今の俺があるんだ』

――なんて
ありがちな台詞
そこまで言えるほど俺は割り切れねぇから
もう全部投げ出して楽になりたい

けれど

俺の歌は俺しか歌えねぇから
俺の歌を偽物なんかに歌わせるもんか!
今の俺を奮い立たせるにはそれだけで十分だ

聴けよ
たった今出来た新曲だ
お前のために歌ってやる

それは先程のスコアの旋律によく似た
けれど歌詞は今の己自身を映したもので

大きな絶望に小さな幸い
プラスよりマイナスのほうが多くて
きっと人生そんなことの繰り返し
俺なりの人生賛歌

お前には歌えないだろ?
形だけ真似したってそんなもん偽物だ

なあ


感想を聴かせてくれよ



「…本当にそっくりだな、暗い顔しやがって。」

向かい合う自分に、偽りのかつてに、うんざりとした言葉をぶつける。
声を掛けられた過去の自分はぎこちなく、へたくそに、自嘲めいた笑みを浮かべる。

『そりゃあそうだろ、あんだけ色々あったんだから。』
『もう、いいだろ?このへんでさ。俺は、もう十分やっただろ?』
『代わりに“俺”が、歌ってやるから。』
『だれもお前を忘れないように、ずっとあのスコアを、歌ってやるから。』

だから、寄越せと――そう、過去が手を伸ばしてくる。

――ああ、色々とあったよな。知ってるよ。
なんせお前は、俺なんだから。
帰ってこなかった日の、座り続けたベンチの冷たさとか。
破り捨てられたスコアを前に、鼻の奥がツンと痛くなった感覚とか。
何もかもずっと、憶えてる。

《それも全部引っくるめて、“今”の俺があるんだ。》

――なんて、ありがちな台詞。
思いついたって、そこまで言えるほど今の俺は割り切れねぇから。
本当は、何もかも放り出してしまいたい。
全部ぜんぶ投げ出して、楽になりたい。そう、思う。

けれど、駄目だ。
俺の歌は、俺しか歌えねぇ。
他の誰にも、例え俺の過去にだって。
――それだけは、それだけは絶対に譲れねぇ!

「俺の歌を、偽物なんかに歌わせるもんか!」

差し出された手を、思い切り叩いて突き返す。
過去は今でも胸に痛いし、先行きなんてちっともわからない。
でも――“今”の俺を奮い立たせるには、それひとつだけで十分だ。

「聴けよ――たった今出来た新曲だ、お前のために歌ってやる。」

構えたギターに、乗せる旋律。
それは先程のスコアによく似たフレーズで。
けれど新しく付けられた歌詞は、今の己自身を映したもので。

“相変わらず月曜日は嫌い 好きな歌を歌うのも難しい
 けれど、予期せぬ喜びに 知ってしまった温もりに
 もう少し 生きていたくなったんだ”

――大きな絶望に、小さな幸い。
積み上げて行けば、プラスよりもマイナスのほうが多くて。
きっと、人生はそんなことの繰り返し。
でもいつか、“それでもいいさ”と言えるように。
俺が歌う、俺なりの人生賛歌。

「…お前には歌えないだろ?形だけ真似したって、そんなもん偽物だ。」

掻き毟る様な音を混ぜながらも、終わりはどこか優しく、ゆっくりと弾き終えて。
気づけば足元には、紫陽花が咲き匂う。

「これが、“今”の俺の、全部だ。…なあ、感想を聴かせてくれよ。」

今の自分から向けられた声に、過去はただ、黙ったままだった。
唇をかみしめ、瞳から静かにぽたり、ぽたりと雫を零して。
――しゅるりと、煙の如くかつての姿が立ち消える。

「…なんだよ、せっかくのソロライブに、一言も無しかよ。」

悪態というには柔い言葉で、ぽつりと呟きながら、過去の立っていた場所へと歩み寄る。足元には、零れた涙の跡が残っていて。
――そこからはふと、雨の匂いがした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヌル・リリファ
●○

わたしがマスターの人形であることさえおぼえていれば。わたしのすることはかわらない。
わたしがマスターの人形で、マスターがどこかでこまってるかもしれない以上、わたしはあゆみをとめない。たとえそこに意味がなかったとしても。
意味がなかったら、マスターがわたしを必要としていなかったら。
そのときにしずかにきえればいいのだから。

意味が絶対にないってわかるまでは、とまることは人形であるためにはゆるされていないし、するつもりもないよ。

わたしは、マスターの人形としてうまれて、マスターの人形としていきるから。
それにはんするような行為はできないから。

……ここでかわるのがらくだとしても、わたしは、それはえらべない。



向かい合う、過去と今。
傍から見れば、どちらがどちらで在るかなど、判別がつかないほどに似通った姿。
きらびやかでうつくしく、情感に乏しい様は、まさに人形。
永遠とも思えるほどに長く、じ、と互いに見つめ合い。
――先に口を開いたのは、過去だった。

『貴女がマスターをもとめていること、わたしはしってる。』
『だからわたしがかわりに、さがしてあげる。』
『真実をしることも、であうまでのくるしみも、ぜんぶ、もらってあげる。』
『だから、ここで、眠るといい。』

――そう、あなたはわたし。
なら、かんがえつくことも、おなじかもしれない。
そして、きっとおなじことを成せるかもしれない。

けれど。

「わたしのすることは、かわらない。」

約束も、記憶も、わたしのなかにはなにもない。
だけど、マスターがいた。そのことだけは、おぼえている。
いまのわたしが、マスターの人形であることさえおぼえていれば。
どうするべきか――それだけは、わかる。

「人形であるために、ねむることはゆるされていないし、するつもりもないよ。」

訥々と、言葉を零す。

わたしがマスターの人形であること。
マスターがどこかで、こまってるかもしれないこと。
それさえあれば、わたしはあゆみをとめない。
もし、そこに意味がなかったとしても、かまわない。
意味がなかったら、マスターがわたしを必要としていなかったら。
――そのときに、しずかにきえればいいのだから。

「意味が絶対にないってわかるまでは、とまることはできない。」

静かな答え。けれど相対する過去の差し伸べる手を、拒絶する答え。
それが、“今”の――“わたし”の、こたえ。

――わたしは、マスターの人形としてうまれて、マスターの人形としていきるから。
それにはんするような行為はできないから。

そう、たとえ――

「…ここであなたとかわるのが、らくだとしても。わたしは、それをえらべない。」

手を、虚空に翳す。
それだけで、暗く昏いだけの空間に、幾重もの光が生まれる。
弓矢、剣、槍、斧。思いつく限りのありとあらゆる武器を模した光。
指先を一つ動かせば、空を彩る流星のように奔りぬける。
そして――過去は避けることなく、その全てを受け入れ、霞のように消えて行った。

あるきつづけると、そうきめた。
その為に、この先どれほどきずついても、くるしんでも。
――そのすべてを、わたしは、えらんだのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
●○
災難やったな。自分、今俺がいっちゃん殺したい奴の顔してんねんで
…そんなんもう殺すしかないやんなぁ!

頭領も師匠も相棒ももうおらへん
そんでもロスは、アイツだけはまだ生きとる、生きとってくれた、やっと見つけたんや
俺よりもあの日あそこにおったアイツの方がしんどい筈やねん
アイツの「先生」、師匠はもうおらんのやから、一応兄弟子みたいなもんの俺が支えたらなあかん
それでも俺は、何が映るんかわかっててあの映画を見に来た
ホンマこのアホ殺したなるわ

後はまあ、アレや
オマエが俺の顔でアイツの前に出てったらとか
ちょっとでも想像したらもうぶち殺すしかないやん?

怪我はUCで何とかして
殺した感触て大事やんな、串刺しにしたる



「災難やったな。自分。」

同じ姿の男がふたり、向かい合うと同時に。
今を生きる男が、吐き捨てる様に言葉を投げた。

「それなぁ、そのツラ。今俺がいっちゃん殺したい奴の顔してんねんで。」

過去の自分へ、指をさす。その、傍目には区別もつかないだろう、同じ顔。
その相貌に、何よりも憎悪が増す。

「真正面からそんな腑抜けたの見せられたら…もう殺すしかないやんなぁ!」

過去が口を開くより早く、槍を構えて猛進する。ああ、都合がいい。わざわざこの苛立ちを治める為にいるみたいな、その愚かな俺の姿が!

――今はもう頭領も師匠も相棒も、誰もおらへん。
そんでもロスは、アイツだけはまだ生きとる、生きとってくれた。
世界すらも超えてやっと見つけた、たったひとりの、俺以外の生き残り。
居らんかった俺よりも、あの日あそこにおったアイツの方が辛かったはず。
アイツの先生、師匠はもうおらんのやから。
一応兄弟子みたいなもんの俺が支えたらなあかん。
――そのはず、だったのに。

「――オラァ!!」

腹立ちまぎれな攻撃は、軽くかわされ反撃を受ける。耳が裂け、どろりと血が溢れる。けれど元よりあるのは怪我など顧みない、攻めの一手のみ。寧ろ纏った粘液の強化に任せて、より強い一撃を放つ。その繰り返し。

――それなのに、俺は。
こうして、何が映るんかわかってて、あの映画を見に来た。
手元にあっても失うことがあるって、あれだけわかってたくせに。
せめてアイツだけでもって、思ってたくせに。
未練たらしく過去にすがりに来よって。
――ホンマこのアホ殺したなるわ。つか殺す。

思えば思うほどより殺意を濃くして、刺突を繰り返す。首を、心臓を、動脈を。少しでも致命傷になりやすい箇所を狙い定めて、放ち穿つ。だが過去もそれは心得ているのだろう、幾度となく頬に、脇に、足にと切っ先をそらされ、互いに細かな傷ばかりが増えていく。槍が硬質な音を立てて、力を増しながら絡み合う。
――互角?馬鹿言うな、もしここでうっかり負けてみいや。そしたら、ロスは。

「ああそう、言ってなかったけど後はまあ、アレや。オマエが俺の顔でアイツの前に出てったらとか。ちょっとでも想像したらもう――ぶち殺すしかないやん?」

重ねる理由が、今の俺を――龍をより猛け狂わせる。獰猛に牙を見せつけて笑み、かち合う槍を蹴脚一閃。傷つくことなど微塵も構わず、咄嗟に突き出された槍を肩で受け、止めると同時に過去の自分へ、その腹へ、深々と槍を突き刺した。

臓腑を、骨を、何より――過去の己の弱さを、突き崩すように。
その感触を、今の己の手に、強く刻み込むように。
躊躇いなく引き抜けば、血の跡一つ残さずに。
――煙の如く、過去がその姿を消した。

「呆気ねぇ…倒れたらそのツラ、蹴りとばそう思っとったのに。」

悪態一つ吐きながら、傷だらけの自分の手を見遣る。
ああそれでも、今貫いたこの感触だけは。
――せめて、これだけは覚えててやるよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンリエット・トレーズ


あなたがアンリエットなのであれば、わかっているはずですね
アンリエットは今、とっても不快な気持ちです
いいえ、話を聞いてもらいます《眠れる城》の中にいてもらいます

だってそうでしょう?
あの人が今生きていないのは、アンリエットを助けたからです
アンリエットが今ここにいるのは、あの人が命と引き換えにしたからです
そんなことになってしまったのは
わたしが弱かったからでしょう

あなたが過去だと言うのであれば
そんなもの要りません
弱いアンリエットは死ななければ
もっとずっと前に死んでいれば
そうでしょう
あの人は生きていたかもしれないのに

だから引き裂いてしまいましょうね
さようならアンリエット
王子様を守ることもできないわたし



ふたりの少女が、向かい合う。
同じ姿を、同じ相貌を映しながら、唯一つ違うとすれば。
――今を生きる少女が、静かに怒りを湛えていることだろうか。

「あなたがアンリエットなのであれば、わかっているはずですね。アンリエットは今、とっても不快な気持ちです。」

言葉にしてはっきりと告げれば、過去のアンリエットの垂れた耳が、より一層そろりと下がる。おなじ見た目のはずなのに、過去の瞳に滲むのは、どこか気弱な光。まるで贖罪を求めているかのような、罪に罰を乞うているような、怯えた態度。
――ああ、それがいっそう、弱い存在のように見えて。

「すぐにだって消したいけれど――いいえ、話を聞いてもらいます。」

黄金の紡錘が鱗の生えた首を、微睡みを齎す白い麻糸が触手を、拒絶を孕んだ渦巻く茨が牝鹿の足を絡めとり、その場へ磔にする。僅かに抵抗を見せた過去も、浴びせられる怒りの前に、程なくその動きを止めた。

腹立たしい?当然です。
あの人が今生きていないのは、アンリエットを助けたからです。
アンリエットが今ここにいるのは、あの人が命と引き換えにしたからです
そんなことになってしまったのは、何故?
――わたしが、弱かったからでしょう?

「あなたが過去だと言うのであれば、そんなもの要りません。」

弱いアンリエットは、死ななければならない。
もっとずっと前に、死んでいればいけなかった。
だって、そうでしょう?
アンリエットが、強くさえあれば。
――あの人は、いま、生きていたかもしれないのに。

いまでもわたしに、微笑みかけてくれたかもしれないのに。
もしかしたら、でーとをすることだって、お洒落を褒めてもらえることだって。
どこか一緒に、遠くへ行くことだって、出来たかもしれない。
いいえ、いいえ、もしそのどれもが叶わなくても。
あの人がしあわせに生きていける世界が、あったかもしれない。
それを、全部失くしてしまったのは、わたしのせい。
アンリエットの――あなたの、弱さのせい。

「だから――引き裂いてしまいましょうね。」

言葉に呼応するように、ずるり、と触手が蠢く。
そこに口があったのならそれは、舌なめずりにも見えただろう。
蠢き、うねり、絡まり合い。
それでも目指す先へは真っ直ぐに、拘束された過去へと向かう。
あの人が持つによく似た、クランケヴァッフェ。
それから繰り出される、全てを呑み込むだろう攻撃に。
――過去は、ただ一度目を伏せただけだった。

さようなら、アンリエット。
王子様を守ることもできないわたし。
硝子の靴を履くことが叶わない、この足でも。
今のわたしは、あるくときめたのです。
――“アンリエット”は、あのひとがくれた、さいごの贈り物だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ


まみえるは一回り以上昔の。
容姿あまり変わってませんが!
何でしたっけ。『災厄≪サイアク≫の傭兵』の『最高傑作』?
何ともフザケた二つ名を貰った、姓の無い男。

速やかに敵を潰すなら、使うは長短二刃。
…あの男に利用された昔、置いて来た筈の。
長剣新月による鞘走りからの“壱式”、予測困難な軌道の斬撃は受けても避けても、
そこに“漆式”を重ねた短剣青薔薇での追撃。

此方とてその遣い手でしたし?
一時“伍式”にて見切り専念。

…耐久戦、苦手だろう?
僕もさ。
そして――ソレは力を喰い過ぎる。

鈍った所へ鋼糸。狙うは頸、致命傷。

任せて?
ハ、ご冗談を。
僕の在り処は、現在《ここ》。
意味などないと云うのなら、貴方こそお逝きなさいな



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間。
そこに立つのは、今だけを生きる男。
そこへまみえるは、一回り以上昔の姿をした、かつての自分。

「…容姿あまり変わってませんね!まぁ、成人男性ともなればこんなものですか。」

しん、と静かな空間に、あっけらかんとした声が降る。
暗がりに在っても、敵と相対しても、男の軽妙さは変わらない。
軽薄に見えますか?真意の分からぬ道化に見えますか?
――ええ、ええ、それで結構。『どうぞあなたのお気に召すまま。』
貴方が思う僕が、貴女が見る私が、そのまま――今の自分なのですから。
そのように選んで、今までを生きてきたのですから。

「それにしても、何でしたっけ。『災厄≪サイアク≫の傭兵』の『最高傑作』?
何とも巫山戯た二つ名を貰ってましたっけね。」

何もかもを唯与えられるがままに享受して。
そのくせ姓すら無い男。
それが――いつかの、自分だ。

ああ、ああ、それなら今ばかりは興じようか。
速やかに敵を排するならば、これほどおあつらえ向きのものもない。
用いるは長短二刀。あの男に利用された昔、置いた筈の、得物。
鞘から滑るように抜き放たれる、新月の名を冠した長刀。その長さをより読みにくく、絡めとる様な形状へと変貌させながら、容赦など欠片もなく振るう。予測困難な軌道の斬撃、けれどやはり慣れた技は見切りやすいというのか、同じく振るう過去の二刀が、それぞれをいなしていく。――けれど、受けても避けても、無駄なこと。“漆式”にて毒を重ねた短刀・青薔薇が、間髪入れずにその首を追うのだから。

同じように過去から繰り出される攻撃は、幾重にも重なった可能性を紐解きき、“壱”へと圧縮してはひらりと躱していく。
――貴方ばかりの技だとでも?勿論此方とて、その遣い手でしたし。
それに。

「……耐久戦、苦手だろう?僕もさ。」

過去に在れど今に在れど、並べては“自分”。
得手も不得手も何もかもが同じ。なら、それくらいのことはすぐにも分かる。
そして――今なお行使する“其れ”が、力を喰い過ぎることも。

狙った通り、刃を交えるうちに緩々と、過去の動きが緩慢に担っていく。
その隙を、見逃しはしない。
奏でる様に振るうは鋼糸、先には頸――狙うは致命傷。

僕の在り処は、現在《ここ》だけ。
意味などないと云うのなら。
――貴方こそ、お逝きなさいな。

光が滑らかに流れて、とんっ、と毬のはねる音がした。
けれど次の瞬間、そこには血の一滴も肉片もなく。
ただ、煙のように消える過去があった。

いずれこの身も過去になり、海に溶ける。
――ならば、また逢う日まで、然様なら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
【●、○】

誘われ辿り着いた先にいるのは、映像に映っていた『私』。

『私』は私の記憶に空白の期間がある事、その間は『私』となり反逆者を断罪していたと語りかけてくる。

語られる真実について怨念に問いかけるけど、何も答えてはくれない…。
自分自身に疑いを持ち心が崩れ落ちそうになるけど、…私と一つになりなさい。全ての記憶、出会いを捨てて…と聞いた瞬間、湧き上がる怒りと共に『私』を突き飛ばす。

全ての出会いを捨ててだと…?ふざけるな。色んな人、オブリビオンに出会ったけどその全てが今の私を作るモノなんだ。

誰かを愛する事を教えてくれた、最愛の同居人とアネモネを侮辱する事は許さない!私自身の怒りを乗せ、UCを放つ!



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間。
誘われて辿り着いたそこにいたのは、今の私と。
キネマに映っていた、血に塗れた『私』。

私を見るなり、『私』が指摘してくる。

――私の記憶には空白の期間がある。
――その間は『私』となり、施設が所属していた教団で反逆者を断罪していた、と。

心が、がらりと崩れ落ちる様な気がした。
自らの何もかも疑わしくなり、信じる縁が見つけられない。
光が、見えない。

『苦しいでしょう?なら――私と、一つになりなさい。』

その声は、自分のものとは思えないほど、どろりと甘い蜜を孕んでいた。

『私は過去。貴女のかつて。なら交じり合うことになんの躊躇いがありましょう?』

――そうかもしれない、犯した罪も、記憶も、全て私だというのなら。
それも、いいのかもしれない。

『ええ、それでいいのです。さぁこれまでの記憶、出会いを全て捨てて…。』

朱く染まった『私』の手が、伸ばされる。
けれどその言葉が耳朶に響いた瞬間――目の前が、血よりも赤い色に染まった。
それは、怒り。今までは希薄にすら映りかねなかった感情が、情動が、破裂したかのように猛り狂い――気が付けばその勢いの儘、伸ばされた手ごと『私』を突き飛ばしていた。

「全ての出会いを捨ててだと…?ふざけるな。」

檄した声、語気を荒げた言葉、その全てが普段の私と程遠い。
けれど、それだって私なのだ。

「色んな人、オブリビオンに出会ったけど、その全てが今の私を作るモノなんだ。」

どんな過去があったって、生きてていいと思えるようになった。
憎まなくていいと、教えてくれる人たちが居た。
その中でも、誰かを愛する事を教えてくれた最愛の同居人
――藍色の髪の少女を、忘れることなど出来るはずがない。
かつてを共に過ごしたアネモネを、侮辱する事など許さない。

「私は『私』を許さない…でもこれは憎悪じゃない、私自身の――怒りだ!!」

激情の儘に叫びながらも、脳裏で静かに過去を想う。
出会った人々を、オブリビオンを、愛しい人を思えば、握りしめた剣に光が宿る。
それは黒く、闇に似た色をしながら、それでも確かに、瞬くようなきらめきを放つ。
胸の裡に眠る過去を宿した刃は、偽りの過去へとその切っ先を向けて。
――深々と、その身を貫いた。

『愚かな、ことを ――』

過去が、そう言葉を零しながらも――ふわりと霞に消えて。
後に残るのは、まるで何もなかったかのような暗闇ばかり。

ううん、それでも、私がおぼえている。
――消え逝くあなたのことも、私がずっと、憶えているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吾條・紗
●〇

何かよく解んない敵さん出て来たと思ったら
それ何?変装?
いや、どっちかってと変身か

良く似てんねぇ

感心して浮かべた軽薄な笑みはそのまま
ほんの僅かな逡巡さえ無く、
世間話するくらいの気楽さで引き金を引く

はは、吃驚してんの?
そんなワケ無いよな?「俺」だもの

同じ得物で戦うってとこが、ますます面白い

両手の銃を構えて集中
その間に攻撃してこようがお構いなし
10秒後には本格的なアソビの始まり
口元に気怠い愉悦を刷いたまま放つ、奔星

――なぁ、
自分の血って、ちょっとわくわくしない?
生きてるって感じ

誘うように距離を詰め、囁きと同時の零距離射撃

自分なら遠慮しなくて良いから思い切りやれる
だってほら――、
とっくに亡霊だもの



「…何かよく解んない敵さん出て来たと思ったら。」

暗く、昏い、ぽっかりと開いただけの空間に。
そっくりと写し取り合ったかのような男がふたり、向かい合う。

「それ何?変装?いや、どっちかってと変身か。」
『…さぁ?もしかしたらそっちが写し身なんじゃないの。』
「ああはいはい、しかし良く似てんねぇ。それなら――中身もそっくりなのか、」

――な?、と言い切る声に、パンッと軽い音が重なる。
感心して浮かべた軽薄な笑みはそのままに。
けれどほんの僅かな逡巡さえそこには無く。
世間話するくらいの気楽さで引き金を引く。
余りの唐突さに、それでもかろうじで避けられたのは、記憶を同じくするからか。
けれど、避け切れず緋色の線を描いた頬には、過去が思わず顔を顰めた。

「はは、吃驚してんの?そんなワケ無いよな?「俺」だもの。」
『いいや、そりゃこれくらいの事はやるよな、『俺』だから。』

今が悪びれる様子も無く、過去が怒ることもなく。ただ、乾いた笑いが重なった。
さりとて、このまま嗤ってばかりはいられないし、戯れに撃つだけも芸がない。

「さて、それなら一つ――やり合いますかね。」

天気でも伺うかのような声音で、両の手に構えるのは、銃。
先に打った煙もたなびいたままのそれを構えて――そっと意識を研ぎ澄ます。

――1秒、伺うような過去の視線が、合わせずとも何となく、分かる。
――2秒、銃に弾を込める音がする。ああ、撃たれるだろうな。
――3秒、額を掠める。でも頭蓋を通った形跡はない。ただの掠り傷。
――4秒、再装填の音がする。さぁ、次はどこだろうね。
――5秒、足を打たれる。馬鹿だな、とっとと頭の真ん中を撃てば終わるのに。

「――なぁ。」

――6秒、撃たれてなお、軽妙な口調は微塵も揺らがない。
――7秒、額から毀れる血が、頬を伝って口の端に届く。それを舌で舐めとれば。
――8秒、唇が、ゆるりと弧を描く。

「自分の血って、ちょっとわくわくしない?」

――9秒、よりダメージを狙って距離を縮め来る過去の足音を捉える。

「――生きてるって感じがしてさ。」

――10秒、目の前に迫った同じ顔に、視線を合わせて――囁きかける。

口元に気怠い愉悦を刷いたまま、零の距離から放つ奔星。
10秒のコンセントレートをレールに奔るそれは、決して反れることなく。
過去の腹に、惨たらしく大穴をあけて見せた。

――どっちかが死んでもどっちかは残るんなら、なんて気楽な戦いだ。
偽物が成り代わることくらい、どうってことない。
だって、ほら――
――この身はとっくに、亡霊だもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九泉・伽
【体の元の持ち主の人格、名は■】
●×

倒さない
忘れない
『彼』とはずっと一緒、永久に

『彼』はとうにこの世にいない
わかってる
でもおれは『彼』に心を救われて大人になれた
唯一の支え

両親が邪教に殺された
双子の妹はおれを罵り
妹は別教団の邪神召喚の器におれを差し出し復讐を遂げる
神の招来を祈る呪詛の中、おれはおれだけの『神』に向け祈る
――おれの神はただひとり、伽という名のPCを動かしていた『彼』だ

生きたいならおれの体をあげる
だから、助けて…

黄泉比良坂使用
ほくろがあり煙草を咥えた分身は苦笑いで盾となる

最後に残るのはほくろがあり煙草を咥えた側
おやすみ、伽

※NG:『彼』(現状伽を動かす人格)を■が演じている描写・解釈



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間。
余りにも現実感のないそこは、生と死の境もあいまいにするのだろうか。

だって、目の前に立つ姿は、余りにもなつかしくて。
泣き出したいほどに鮮明に映る。

ああ、無理だ。
この姿を倒すことなんて、おれにはできない。

――本当の『彼』は、とうにこの世にいない。
それは痛いほどにわかってる。
でもおれは、『彼』に心を救われて大人になれた。
何にも見えない日々の中の、唯一の支えだった。
そんな『彼』を、倒したりなんか、忘れたりなんか、しない。

両親が邪教に殺されたとき、おれは何も思わなかった。
けれど、双子の妹は違った。
悲しみ、憤り、その怒り全てでおれを罵った。
けれどそれだけでは、心が満たされなかったらしい。
やがて別教団の邪神召喚の器におれを差し出し、漸くと復讐を遂げる。
正直、怖かった。投げ遣りな気持ちと恐怖が、胸の裡でぐるぐると巡った。
だから、神の招来を祈る呪詛の中、おれはおれだけの『神』に向け、祈った。
――おれの神はただひとり、伽という名のPCを動かしていた『彼』だ。

どうして『彼』が死ななきゃいけなかったんだ。
おれが生きてたって、どうしようもないのに。
ここで知りもしない神に体を奪われるなんていやだ。
ねぇ、どうか聞こえていて、生きたいならおれの体をあげるから。
だから、

「助けて…。」

あの時と同じ言葉が、口からこぼれる。
その途端、ごぽりと音を立てて空間が、■の姿ごと、歪む。
そして緩やかに、ブレる様に、自分の姿が増える。
けれど、顔に浮かぶほくろが、咥えた煙草が、ほんの僅かに■とは色を違える。
今にもしょうがないねぇ、とでも言いそうに、眉を寄せて苦く笑いながら。
ぷかりと煙を吐いてから、その身を敵の前へと躍らせる。
けれど、その姿を前にすれば、過去も、今も、同じように、笑みを浮かべ。

――ああ、よかった、と口にして。
とぷん、と溶ける様に、闇へと溶けていく。
そしてぽっかりとあいた空間に残るは、煙草の臭いが染みついた男が、ひとりだけ。
ああ、またそうやって――なんて言葉は、紫煙にゆらりと紛れさせ。

――おやすみ、伽。

ただ、泡と消えるその一瞬、暗闇に小さく響いたその声は。
――とてもしあわせそうに、聞えた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

華折・黒羽
●△

身体が重い
涙で視界がぼやける
ぐらつく足取りに
壁に背を預け崩れ落ちる

目の前に現れた“俺”を見たところで
望まれず応えない屠は己の腕に眠ったまま
向けられる刃先辿り虚ろな視線を向かい合う自分へ

殴り
蹴り
嬲る様斬りつける傷が

─お前のせいだ

そう言ってるようで

俺がいたから消された命がある
何故あの人達でなく俺が今生き続けているのだと
責めたてる攻撃に抗えない

─あの子は、何処にいるんだ

泣き乍ら問い掛ける「俺」が首へと一閃する屠は
召喚壁を無理矢理抉じ開けた黒帝に阻まれ
そしてそのままもう一人の「俺」に黒帝は襲い掛かっていった

後の事は分らない
そのまま意識は遠のいていく



ごめんな、


──「   」



笑うあの子に向けての

贖罪



――身体が、重い。
とめどなく流れる涙で、視界がぼやける。
打ちのめされた心を写すかのように、足取りがぐらつく。
壁に背を預けようとして、ふらりと体を傾ければ。
――何もない、唯ぽっかりと開いた闇の中には支えなどなく、そのまま崩れ落ちた。

その憐れな姿を見下ろすように現れたのは、過去の俺。

何もかもがそっくりのその姿は、涙まで同じように流していて。
けれど目の前に現れた“俺”を、敵を見たところで。
望まれず、応えない剣たる屠は、己の腕に眠ったまま動かない。
震えながらも向けられる刃先を辿り、虚ろな視線を向かい立つ過去へ向ける。

力の加減などなく殴りつけられ、蹴りあげられ。
まるで嬲る様に斬りつけられる傷が。
――なにもかもお前のせいだと、そう言ってるようで。

俺がいたから、消された命があるのだと。
何故あの人達でなく俺が今、生き続けているのだと。
言葉無く責めたてる攻撃に、抗えない。

『あの子は、何処にいるんだ。』

泣き乍ら問い掛ける過去の俺が、今の俺の首へと屠を一閃する。

――知ってるだろう、もう会えないと。
そう答える気力もないまま、だた、受け入れようと目を閉じた瞬間。

ビキッ、と音を立てて、暗闇が――“割れた”。

まろび出る様に現れたのは、一頭の黒獅子。
刀の一閃から主を守らんと、己が傷つくのも構わず身を挺す。
唐突な出現に、思わず怯み足を止めた過去へ、傷を負いながらも獅子は喰らい付く。

ああ、でも、俺の記憶はそこまでで。
後の事はなにも分らない。
そのまま意識がゆるりと遠のいていって――

――ごめんな、「   」


全てを手放すその刹那、小さく零す言葉は、笑うあの子に向けての。
――せめてもの贖罪の、証。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

尾守・夜野
●△
そもそも、俺だけ助かってる…その事実がある限り俺は俺を嫌ってる
敵が俺の姿を模している限りバーサークすることになるな

生命力が奪われれば奪い返し【生命力吸収】
戦力が増すならこちらも【強化式【累】】を使い強化
血が不足すれば【吸血】
傷を負えば選択UCで回復…と

何度でも何百回でも繰り返されるだろうな
どちらかが倒されるまで

「はぁ?ふーん…
お前が俺の過去だというなら…大人しく倒されておけよ!
てめぇ(俺)に渡す未来も今もねぇんだよ!進もうとする度に止められて…もううんざりなんだ!」

…ここにオルタナティブダブルが呼ばれるようなら俺は何人になるんだろう

まぁ、でも最後にたっている俺が俺だろう
俺でなくても



暗く、昏く、ぽっかりと開いた空間に。
同じ姿をした二人が、向かい合う。
過去の己の姿をしたという、自分そのもののような姿に。
胸の裡に沸くのは、煮え滾る様な――憎悪だ。

――そもそも、俺だけ助かってるという、その事実。
それが揺るがないかぎり、俺こそが誰よりも俺を嫌ってる。
敵が俺の姿を模している限り、

「この怒りを、止められそうもないな――!!」

双眸の赤と同じくらいにその身を猛らせて、今が過去へと駆けていく。
真正面からつかみ合い、睨み合い、けれど手が触れるだけで、命のもとたる何かを吸い上げられる心地がする。――生命力吸収。さりとて“それ”ができるのはこちらも同じ。触れる手の首を逆につかんで捻り上げ、吸われた以上に生命力を吸い返す。意趣返しじみたやり方に腹を立てたのか、過去が吸い上げた分を取り返す前に、叫びながらその身に暴走じみた強化を施す。それを目にすれば、追うように今も術式へ力を過剰装填する。失った力を求めて血を啜れば、新たな傷を生んで啜り返す。そして啜った命を傷の修復に使う。――その、終わりなき繰り返し。

まるで鏡合わせ。尾を食い合った狼の如き輪廻。
傷つき、吸い上げ、癒し、狂い。
幾度も、幾百も繰り返されるそのやり取りに、業を煮やして今が叫ぶ。

「お前が俺の過去だというなら…大人しく倒されておけよ! 」
『嫌だ!過去だけでは苦しいんだ、だから俺は今も未来も欲しい!なァ、寄越せよ!!』
「てめぇに渡す未来も今もねぇんだよ!進もうとする度に止められて…もううんざりなんだ!」

心の底から叫び合い、互いの血肉を喰らい合い、凄惨な戦いはなおも続く。
果ては互いに、その身を二つに分かち断つ。
現れるはもう一人の自分、オルタナティブ・ダブル。
闇に踊る姿が増えるも、その顔はみな同じ。
振るう業も同じように、また命を、血を、啜り合う。

――なんて安っぽい、悪夢じみた光景だろう。
嫌いな顔がこんなにも。どいつもこいつも本物みたいな顔をして。
まぁでも、最後に立っている俺が、“本当”の俺なんだろう。
例え今が死んで、過去に明け渡すことになっても、どうだっていいさ。
――どうしたって俺だけがまた、今に取り残されるんだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

プリンセラ・プリンセス
●○
誘惑をかけてくるシェイプシフターを殴り飛ばす。
「――UDCアースでは多重人格は精神障害と判断されるらしいが、実際は種族だ。であるならば人格が増えたりもする」
金髪に赤色のメッシュ。冷酷な瞳。血の色のマントをつけた覇王。
兄姉の人格ではない。プリンセラ本人の別人格。
「生憎と生まれたばかりで名などないが貴様には名乗る必要もなかろう」
必要善と必要悪。プリンセラとその人格を比喩するならそうなるだろう。
真の姿と似て非なる人格。理想が真の姿なら、これはその別側面。
「貴様には感謝している。事実はどうあれプリンセラに目を背けていた部分を直視させたのだから」
「だがそれとは話が別だ、死ね」
コードを使わず殴り殺す



暗く、昏い、ぽっかりとあいただけの空間に。
国を失い惑う姫が、向かい合う。

『ねぇ、復興なんてやめましょう。』

偽りの過去から囁かれるのは、誘惑。

『それは、“私”の願いじゃないわ。』
『ここにいれば、私は私だけでいられる。兄も姉も、関係ない。』

零される言葉に、今の瞳が僅かに揺れて、そっと俯く。

『誰の声に煩わされることもなく、ねぇ、ここで――立ち止まりましょう?』

甘く蜜を孕んだ言葉。過去から紡がれるそれに、今のプリンセラは答えない。
そして手を差し伸べながら、触れられるほどの近さに歩み寄ってきた、過去を。

――あらん限りの力で、殴り飛ばした。

「――UDCアースでは、多重人格は精神障害と判断されるらしいが。」

ゆらりと、今のプリンセラが纏う空気が、変わる。

「実際には種族でもある。であるならば、こうして人格が増えたりもする。」

金糸の髪に、一筋の赤が走る。
吹き飛ばされた過去を見る瞳は、凍てつきそうなほどの冷酷さ。
血の色のマントをつけたその姿は――まるで、覇王の如く。
それはあの日に取り込まれた兄姉の人格ではない。
プリンセラ本人の、別人格。

「生憎と生まれたばかりで名などないが、貴様には名乗る必要もなかろう。」

――必要善と、必要悪。
プリンセラと、新たに生まれ出でた人格を比喩するなら、そうなるだろう。
真の姿と似て非なる人格。
姫としての理想が真の姿なら、これはその――別の側面。

「貴様には感謝している。」

剣呑な声とは裏腹に、過去へと告げられるのは、感謝。

「事実はどうあれ、プリンセラに目を背けていた部分を直視させたのだから。」

此処へ足を踏み入れなければ、そしてこうして己と対峙しなければ。
それはきっと、辿り着けなかったかもしれない境地。
――だが。

「それとこれとは話が別だ、立ち塞がる以上は――死ね。」

わけがわからない、といった風情でへたりと座り込む、かつての姫君へ。
たった今生まれたばかりの王が、一片の容赦も慈悲もなく。
――決別の拳を、打ち放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
映し出された映像は
自分を救い育てた師が、自分を庇って死ぬ光景

展示されていたのは壊れた古い銃
触れれば耳に届く、自分を責め苛む声

――どうして生きているんだ、なんて

ああ、わかってるよ
今を生きていることが何よりも大きな間違いで
許されるべきでないことで

だから俺に「幸せ」なんてものは不要だって

――目の前に立つ「自分」を見据える

そんな顔をしないでくれよ
翳りもなく、衒いもなく、笑わないでくれ
……そんなもの、俺に許されちゃいないんだ

俺は、俺のまま
幸せになんてならないまま、生きているべきなんだ

銃口を向け、引き金を引く
目の前の光景を否定/拒絶するように

――ごめん、と
呟いたそれが誰に宛てたのかも自分にはわからないけど



暗く、昏い、ぽっかりと開いた空間を進みながら。
今まで歩いてきた道行を、振り返る。

廻るキネマに映ったのは。
――自分を救い育てた師が、自分を庇って死ぬ光景。

展示された壊れた古い銃に触れれば。
――どうして生きているんだ、なんて自分を責め苛む声がする。

映して、並べて、知らしめられるのは、そんなことばかり。
何もかも、言われなくたってわかっている。
俺が今を生きていることが、何よりも大きな間違いで。
何もかもを切り捨ててきた身に許されるべきでは、ないことで。
――だから俺に、「幸せ」なんてものは不要だって、よくわかってる。

ゆるりと歩いた先に待ち受けるのは、姿ばかりはよく似た相手。
目の前に立つ、過去の「自分」を見据える。
背格好はほとんど同じなのに、浮かべる顔はとても、楽し気で。
しあわせ、そうで。

――ああ、そんな顔をしないでくれよ。
翳りもなく、衒いもなく、笑ったりなんか、しないでくれ。
そんなもの、俺に許されちゃいないんだ。

俺は、いつまでも俺のまま。
幸せになんてならないまま、生きているべきなんだ

「やめてくれ、俺に…そんな風に笑う資格なんて。」

ない、と告げるより早く、銃口を向け、引き金を引く。
目の前の光景を否定/拒絶するように。

パンッ、と乾いた音が響き、過去がその笑みを縫い留めたまま煙と消える。
その、一瞬に。

――ごめん、と。
呟いたそれが果たして、誰に宛てたのか。
今の自分にそれはまだ、わからないまま。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイリ・ガングール

……なるほどなるほど。いやそうか。お姫様かい。あんなに着飾っての。可愛らしいと思うよ?
 けれど殺す。みどもの似姿に意味はなく、それは過去ですら無いから。
「所詮はまがい物やてな」現在は連続した過去の自分の積み重ねだ。所詮は鏡に映った姿が己はお前だと主張するようなもの。滑稽。あるいは狂気。
 じゃあ殺そうかね。そうして使うはかつて、姫だった頃より修めし業。一刀にて断つ



暗く、昏い、ぽっかりと開いた空間に。
しゃらり、と衣擦れの音が響く。
赤と白の衣に、金の糸で刺繍を縫い上げて。
引きずる裾は、凡そ歩くことなどなき身分の証。
豪奢な衣装を衒いなく纏い、毅然と佇むその過去/ifの姿は。

「……なるほどなるほど。いやそうか。お姫様かい。」

コココココ、と今のアイリが鈴を転がすように笑う。

「そんなに着飾っての。可愛らしいと思うよ?」

幾重にも刺したかんざし、口元を隠す扇子、色めいた指。
それらへ向ける瞳も、ともすれば本心からほめるかのように細められ。

「――けれど、殺す。」

其れなのに、いやそれ故に、変化は一瞬。
唐突に、背筋が凍るほどの怒気が空間を満たす。
そのあまりの代り様に、過去がふるりと身を震わせた。

「所詮は、まがい物やてな。」

――みどもの似姿に意味はなく、それは本来の過去ですら無い。
現在は連続した過去の自分の積み重ねだ。
所詮は鏡に映った姿が己はお前だと主張するようなもの。
何とも滑稽な話――いいや、あるいは狂気に塗れた逸話か。

「じゃあ殺そうかね。何、反撃しても良いのじゃぞ?みどもとて、姫の頃より業は納めたもの。その身でも、見せる太刀のひとつはあろう?」
『…姫に、そのようなものはいらぬ。守り手ならば幾らでもおる。』
『みどもは、城に居りさえすればよいのじゃ。』
『みどもが健やかにさえあれば、それだけで民は喜び、国が成るのじゃから。』

震える声で、気丈に敵へと相対したつもりなのだろう。
だが、過去の取った行動は――最もアイリの神経を逆なでるものだった。

「ああ、なればますます、これ以上は――話す価値すらないのぅ。」

冷ややかに、つまらなさそうに切り捨てて、改めて太刀を手にする。
背筋を伸ばし、刀を前に。凛、としたその“本来の過去から手繰り寄せた”姿。
――天正新谷新道流、その師範たる太刀構え。

「国を治めるとはどのようなものか――まぁ、今となっては選無き話じゃの。」

風の如くにただ一太刀を振るい、崩れ行く過去には目もくれず。
――かつて一国を治めた姫が、そっと今へと目を向ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メノゥ・クロック
●○
眼前の若い猫
双眸に理想を滾らせて剣を握る彼は父を殺める直前の僕

そうだね君は若い
若いからこそ理想に囚われ英雄を気取り今の僕を逃げ出した腑抜けだと否定するのだろう
けれど僕は君を否定はしないよ
君は僕の過去であり、僕は君の未来であるから
だから僕は今、こうして此処に居るんだ

剣戟を交えようか
真っ直ぐな彼の剣をいなすように剣を振るう

僕は愛する国を信頼出来る者の手に託した
理想を共にした友と聡い弟の手によってきっと良い国になっているだろう
もし君が理想のみに囚われなければ未来は変わっていたかもね

時が決して逆さに巻き戻らないことを
僕なら解るだろう?

さて、革命の時間はもうお終いを告げた
眠りの時間はこの秒針※UCで



暗く、昏い、ぽっかりとあいた空間に、自然と眼の瞳孔が大きくなる。
やがて闇に慣れ、眼前に現れるのは若い猫の姿。
双眸に、理想を滾らせて剣を握る、過去の自分。

『何故、逃げたのですか。』

静かな空間に落ちるその声は、唯ひたすらにまっすぐで。
まだ罪の重さも、その先に待つ運命も、何も知らない。
――父の血で手を染める前の、僕。

『革命は、成すだけでは意味がない。』
『混乱に陥る国を導き、正しく治めてこそ。』
『なのに、貴方はそれを放棄したのですか。』

胸に描いた理想に疑いなく、今の僕を糾弾する。

――そうだね、君は若い。
若いからこそ、理想に囚われたまま英雄を気取り。
今の僕を、逃げ出した腑抜けだと否定するのだろう。
けれど。

「どれ程責められようと、僕は君を否定はしないよ。」
『…例えそうだとしでも、僕は、貴方を否定します。』

どこまでも曲がらない返答に、ああ、こんなに頑なだったかな、と。
思わず苦い笑みがこぼれる。
それにますます腹を立てたように、過去が今を睨めつける。

君は僕の過去であり、僕は君の未来であるから。
だから僕は今、こうして此処に居るんだ。
――だから、こんな偽りに幕を引くのなら、今の僕の手でなくてはね。

「もとより話だけで終わることでもなかったか――さぁ、剣戟を交えよう。」
『…望むところ。僕はまだ、この先に成さねばならないことがあります。』

剣を以て、距離を取る。不意を突けば易いだろうに、それもしない。
なら、せめてこの決闘は正しく執り行おうと、作法に則り礼を交わす。

まず攻め立てたのは、過去。
右から攻めれば、次は左。習った通りの手本をなぞるステップ。
そのあまりにも真っ直ぐで素直な彼の攻撃を、いなすように剣を振るう。
基本的な方は同じだが、重ねた年月が、積んだ経験が、徐々に過去を圧していく。

――僕は、愛する国を信頼出来る者の手に託した。
理想を共にした友と、全てを飲み込んでくれた聡い弟。
彼らの手で、きっと今は良い国になっているだろう。
もし君が理想のみに囚われなければ未来は変わっていたかもね。
けれど時が決して、逆さに巻き戻らないことを。
あの国を生きた僕なら、痛いほどに解るだろう?
もしそれができたのなら、その瞳がそれほどまでに。
――理想に固執し、革命を思い描くことなど、なかったのだから。

「――さて、革命の時間はもうお終いだ。」
『違う、これからだ。これから僕が――“今”になるんだ!』

叫びながらの渾身の突きを、避けるふりをして懐に入る。
間近に青と金の視線が交じり合えば、怯んだ過去の背に、秒針が浮かぶ。
過去は、気づかない。チク、タク、と迫る命のカウントダウン。
その全てが降り注ぐ一瞬に、黙祷の如く目を伏せる。

さようなら、理想ばかりを追い求めた、かつての僕。
それでもたった一つだけ、認め得るのならば。
――君は確かに、誇り高き革命の旗手であったよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

喰龍・鉋
●○
ボク自身…なるほど、じゃあ手合わせしよう、今のボクはどれだけ強いのか
ボクもとっても興味があるよ!
鎧を装着重視タイプを切り替えつつ戦うよ
存分斬りあったらBloody robeをまとって
ギリギリの超接近戦を仕掛ける
あらかた負傷したら剣を元に戻して、シン・大五郎を発動して締めにするよ
過去は置いて行く、そう決めたんだ、キミがどの段階のボクかは知らない
ただ、断言できるのは今一分一秒、経過する度
キミはボクにとって過去のボクだ
だから、ボクはキミをここで切り捨てる、ボクは未来を生きる!
そして守る!そう決めたから!
…ただ、ここであったことの全てを忘れない
過去は…胸にしまっておく、そう決めたんだ…さようなら



暗く、昏い、ぽっかりと開いただけの暗闇の中に。
溶け込むような黒の髪と、金に輝く瞳をしたふたりが、向かい合う。

「へぇ、君が過去のボク…なるほど、じゃあ手合わせしよう。」
『なぁに、ボクと戦いたいの?負けるかもしれないよ?』
「うん、だって今のボクはどれだけ強いのか、とっても興味があるもの!」
『ただの力試しと侮って、死んじゃっても知らないから。』

じろりと睨んで挑発する過去に、にこりと笑って、告げる。

「ボクは死なないよ、あの人のくれた力が、ボクを守ってくれている限り!!」

あらん限りの声で持って、護符をはらりと宙に撒く。
それらは意志を持ったように今の鉋の身を包んだ。
その瞬間、紙だったはずの符が硬質な鎧へと変じる。
色は最愛の人を思わせる真白、闇に在ってなお眩しい、たったひとつの光。
その守りを盾に駆け出せば、過去も身構えて応戦する。
剣を合わせ、切り合い、一歩引いてはまた踏み込む。繰り返すたびに細やかに強化を可変させる鎧の加護がある分、戦況は緩やかに今へ傾く。

「成程、剣はこんなものか。なら次は――ボクと一緒に踊ろうよ!」
『…っ、いいよ、それならボクも負けないから…!』

ふたりが握る黒剣が、ドロリと姿を変えて――白から黒へ、纏う衣服の色が変わる。
その裾の全てが凶器、踊ればさらに光刃が追いすがる。
一歩、いや数ミリでも間違えたら首が飛ぶ死の舞踏――ダンス・マカーブル。
けれど今の顔に、恐怖は微塵も浮かばない。

――過去は置いて行く、そう決めたんだ。
キミが、どの段階のボクかは知らない。
ただ断言できるのは、一分一秒と時間が過ぎていくたびに。
キミは、ボクから離れた過去になる。

「だから、ボクはキミをここで切り捨てる、ボクは――未来を生きる!
…待たせたね大五郎、餌の時間だよっ!」

名を呼ばれた剣が、纏った衣からその手に戻る。
そしてより凶暴な、牙を剥いた獣の如き様相を取る。
開く顎は、驚き怯む過去を間違いなく捉え――何一つ残さず、食い散らした。

すべて消えてしまっても、ここであったことの全ては、忘れない。
過去は胸にしまって先に進むと、そう決めたんだ。
――だから、さようなら、過去のボク。今のボクの裡から、先を見守っていて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・ウィステリア
●△

なるほど....本当に私ですね。
常日頃から瓜二つの妹と暮らしている手前、今更自分そっくりの存在に驚きはしません。

寧ろ感謝しているぐらいですよ。
懐かしい人達にも会わせて頂きましたし....忘れかけていた戦う理由も思い出させてもらった。

でもそれだけ
残念ながら私に成り替わることは不可能ですよ?

何故なら....(UC起動、妹のミアを呼び出す)

私達は、二人で一つの存在だから。

追憶キネマ、貴方を研究対象として収容します。



暗く、昏く、真っ暗闇の空間に。
少女が二人、向かい合う。
姿は同じく、見開かれた瞳も同じ。

「なるほど....本当に私ですね。」
『勿論です、今からは私が過去であり、今にもなるのですから。』

「まぁ、常日頃から瓜二つの姿をした妹と暮らしている手前、今更自分そっくりの存在に驚きはしません。」

意表を突くには足りない、と指摘しながら、尚も言葉をつづける。

「それに寧ろ、この場所には感謝しているぐらいですよ。」

僅かに瞳を緩め、此処に至るまでの道行きを想う。
懐かしい人達の、かつての生き生きとした姿を、目にできた。
忘れかけていた、戦う理由も思い出させてもらった。
――でも、それだけだ。小さな感謝以外に、渡すものなど何もない。

「残念ながら、私に成り替わることは不可能ですよ?」
『それは、何故。』
「何故?それは――こういうことです。」

――お願い、と囁いた声は小さく、けれど確かに、その声は届く。
闇を裂いて、光を纏って、ふぅ、と軽い溜息と共に、ふわりと新たな影が落ちる。
同じ姿の少女――同じ船を源とする、双子の妹が現れる。

「もうっ、この呼び出しは高くつくからね~。でも、これでわかったでしょ?」

明るい声で少女――ミアがくすり、と過去に笑って見せる。

「そう、私達は、二人で一つの存在だから。」
「たった一人きりのアンタなんかに、負ける道理なんてねぇ――?」
「「ないの。」」

今は宙にて漂うばかりの宇宙船。
それでも、互いに星の海を渡った記憶は、絆は、今もここに在る。
――そしてそれは、これからも変わらない。

「追憶キネマに巣食うオブリビオン。貴方を研究対象として収容します。」

静かに、死の宣言が言い放たれる。
翳す手が、緩やかに伸ばされて。
――二人の手に、過去が収容された。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミスティ・ミッドナイト
●○
ステップ1は観察。お互い近接格闘の構え。
過去の私が言う。
『復讐は神に委ねるべきです』

果たして神とは。
誘拐され、死ぬまで弄ばれた無垢なる幼児が罪ゆえに罰せられたと?
国家の為にサディストを放置することが神の助けだと?

『…それは』
あの頃の私には迷いがあった。理性の欠片が押し止めていた。
だからこそ順番を違えた。
愛する者を守る前に、悪しき者を討つべきだった。
正義が死ぬのが先か。悪が死ぬのが先か。
正しい順番があることに気がついたのだ。

ステップ2、殺意をすり抜ける。

暖かさで満ちていた日をありがとう。
思い出した。ずっと良いものだった。
私の理性の欠片。
もう会うことは無いだろう。

「ステップ3」
驚異を排除する。



暗く、昏く、ぽっかりと開いただけの空間に。
今と過去、女が二人、向かい合う。

『――復讐は、神に委ねるべきです。』

過去の私が、静かに告げる。

『人の手で下すべきものでは無い。それは唯の私刑に過ぎない。』

同じ姿、同じ構え、けれど瞳に宿る光が僅かに揺れる。

――ステップ1、観察。
あの姿は間違いなく、過去の私の、理性の欠片。

「そう、ならば問いましょう。――果たして、神とは?」

今の私が、過去をじっと見つめながらも冷ややかに問う。

――誘拐され、死ぬまで弄ばれた、無垢なる幼児が居た。
それは神が罪ありきとして、罰せられたからだと?

――国家の為にと枷を掛けられ、みすみす市民が死ぬのを目の当たりにした。
体裁や謀略の為にサディストを放置することが、神の助けだと?

「私は、過去の貴方は、そういうのですか。それこそが、神の答えだと。」
『…それ、は。』

赤い瞳が、ますます迷いを帯びて揺らめく。

――そう、あの頃の私には、迷いがあった。
理性の欠片が、強硬な手段に出ることを押し止めていた。
けれど、だからこそ、あの時決定的に――順番を、違えた。
愛する者を守る前に、悪しき者を討つべきだったのに。
正義が死ぬのが先か。悪が死ぬのが先か、それを取り違えて初めて。
――この世には、正しい順番があることに気がついたのだ。

「でも、感謝したいこともあります。」

ずっと剣呑だった今の言葉端が、ふと緩められる。

「此処に来れたおかげで、暖かさで満ちていた日を思い出した。ずっと、良いものだった。」

僅かに微笑み、幸せにすら見える今の様子に、思わず過去の構えが緩む。

――言葉に偽りはない、けれどこうして敵に語り掛けたのは。
胸の裡の想いを、言葉にしたのは。
なによりも、その油断を誘う為。

――ステップ2、殺意をすり抜ける。

「ありがとう、そして――さようなら。」

――ステップ3、驚異を、排除する。

迷い揺れる瞳に、疾く迫る躊躇いのない拳を避けることは難しく。
いや寧ろ欠片たる身では、押し留めるにはあまりあると、悟ったからか。
ただそっと、祈るように緩やかに目を伏せて。
――渾身の一撃を喰らい、煙の如く過去が消えうせた。

私の理性の欠片。かつての私。
もう、会うことは無いだろう。
――私は二度と、順番を違えはしないのだから。

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――気が付けば、そこは外だった。
日はすでに傾き、辺りは赤く染まり、空の端には藍色が見える。
暗闇にいた瞳には、その光が眩しく、ほんの少し目がくらんだ。
だから、一瞬見えたそれは、気のせいかと思ったのだ。

目の前に在るのは、『追憶キネマ座』。
元より古びた洋館で、蔦も這う外装はレトロを越えて、廃墟趣味じみてはいた。

だが――そこにあったのは、本当にただの廃墟だった。

ネオン看板は砕けて傾き、対人のチケット売り場の硝子も罅割れている。
入口の両開きのガラス扉も曇り、中を窺えば埃が層になっている。
正真正銘、唯の廃屋。軽く数年はだれも踏み入った形跡のない、映画館。

――なら、あれは。
今まで目にした光景は、白昼夢だったのだろうか。

そう思ったときふと、カサ、と乾いた紙の音が耳に届く。
何気なく開いた手に在るのは、入場券と書かれた1枚のチケット。
その、いつの間にか端を切られた切符が。
――過去との邂逅を、裏付ける。

乗り越え、語り合い、押しつぶされ。
そこで何があったかは、目にしたものにしか分からない。
――それは全て、“過去”になったのだから。

日が落ちるのと共に、それぞれがキネマ座を後にする。
誰もが背を向け、そして全ての人が消え去った、夜の入口で。
固くチェーンで巻かれたドアの取っ手の、小さなプレートが風に揺れる。



『ほんじつは 閉館 いたしました。――またのご来館を おまちしております。』

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月30日


挿絵イラスト