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とびこめエッグハンターズ

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●無害でかわいいたまごです
 湿った空気は涼しい。岩と植物の壁。暗闇にぼんやり灯った鮮やかな鍾乳石、映し込んだ地下水が色付き揺れる。
 洞窟内にひそひそと響く囁き声。しかし人気のないそこに、たまごだけがいくつもいくつも転がっている。
 かたかた、かた。 カタカタカタ!
 ――ねえねえ。もうすぐここでお祭りがあるんだって!
『たまごをころしてよろこぶだなんて、にんげんは野蛮だヨ!』
『まったくダ、まったくダ!』
『でもバカだよネ。ぼくらのことをたまごだなんてサ』
 殻の上部をけたたましく開け閉めし笑っては。
 薄明りがなぞるまあるい筈のシルエットに、鋭い爪、棘だらけの尾、ゴツゴツの翼や角がいびつに蠢いた。

●とびこめエッグハンターズ
 片隅にカラフルな紋様のついたたまごがひとつ。
 それは近付く足音や視線に震えるとひとりでに割れ、中から黒色のゼリーもといタールを零れさせた。見つかっちゃいましたー、と間延びした音を発して。
「イースターって賑やかで楽しいですよねぇ。たまごを見つけるとおめでたいと言いますし、ということで」
 お願いしたいことは。中身、ニュイ・ミヴ(新約・f02077)は身を乗り出した。
 ――エッグハンティング。
 この先の村の、年に一度のイベント。
 冒険者デビュー目前の子どもたちがたまごから孵化したモンスターを狩ることで、一人前の証を示すという、門出への祝いを兼ねた祭だ。
 たまごは討伐されると砂金へ変わるサンドリザードのもの。
 これの子は駆け出しにぴったりの力量で、且つはじめて自力で狩った記念として形に残ることから、先輩冒険者が調達したたまごを"狩場"へ設置しておくことになっている。
 ところが今回、そこに強力なモンスターが紛れてしまった。なんでも、たまごに擬態する特性を持つものもいるというのだから尚厄介……子どもが間違って手を出してしまったならば。
「あぶないですから。みなさんには、こわいモンスターを追い払ってほしいのです。村外れにおっきーい鍾乳洞があってですね、そこの奥が会場なのですが」
 本来は管理された場で手軽に冒険気分を味わってもらおう、というものだったのだろう。
 だが今、洞窟にはオブリビオンの影響とみられる分厚い根や蔦が張り巡らされ内部が変化しているようだ。
 地下水の濁り、急流、暗闇に複雑化した構造と蔓延る植物。
 侵入者を拒むべく働くそれらに巻き取られぬよう注意しておきたい。
「鍾乳石が落ちてきたらですか? ……すっごく痛いと思います!」
 そこで村に伝わるこの帽子を。
 スッ……とニュイが持ち上げたふわふわはうさ耳付きハット。うさ耳付きハットである。
 タールがぐーで叩いても凹まぬ優れもの! 確かに込められた加護。
 垂れ立ち各色多種族用取り揃えているらしいから安心してほしいと告げ、――ハッと。
「それと先に入った大人冒険者さんが数名戻ってきていないようなので、できれば一緒に見つけてあげてください。腕が立つ方らしいですが……」
 みなさんもお気をつけて。
 頭部を垂らせばかろん、と、転がる殻が陽気な音で祭へ誘う。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、たまご狩りで縁起の良さそうなアックス&ウィザーズへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:冒険(鍾乳洞攻略)
 第2章:集団戦(ランダム・エッグ)
 第3章:ボス戦(???)

 全章通して広範囲・地形破壊等の影響範囲が広く強大な力を行使すると、洞窟が崩れる危険性が上がります。
 帽子はぜひ。お任せいただいても大丈夫です。

●第1章について
 縦に横に奥に広々とした鍾乳洞。一例に"水中"とありますが陸部分もあります。
 考え得る障害はOPをご参照ください。ご自分の思う形で攻略をどうぞ。

●第2章について
 たくさんのたまごに囲まれた状況から、モンスターが擬態しているたまごを見つけ出し討伐します。
 何らかの有効な工夫があった場合、先攻を取れたり、本物たまごを破壊せず済みます。それ以外の場合、敵の先攻で開始します。

●その他
 第2章以降は導入部公開後のプレイング受付となります。
 詳細なスケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。

 以上、ご参加を心待ちにしております。
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第1章 冒険 『洞窟潜水』

POW   :    体力を活かして水中を進む

SPD   :    素早さを活かして水中を進む

WIZ   :    賢さを活かして水中を進む

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

チロル・キャンディベル
【喫茶三人娘】

ぼうしはおまかせ!
ウカとキトリがステキでうれしくなっちゃうの
チロ、ウサギさんとオオカミの耳で、おかしくないかしら?
ソルベにも何かつけるのよ

しょうにゅうせき?
キラキラしてるあれのことかしら?
すごい、キレイね!
っとと、おっきな声はダメね、しーなの

ウカの後ろを進みつつ、チロもなにかおてつだい…
ソルベの『やせいのかん』とかどうかしら?
どこがいいかとか分からない?
あと、ソルベが通れるくらい道を開けておけば
あとの人も安心よね
じゃまなものはどんどん切ったり、横においやったり

チロは2人といっしょだからだいじょうぶ!
ぼうけんワクワクするのよ
チロもモンスターをたおしたら
いちにんまえになれるかしら!?


キトリ・フローエ
【喫茶三人娘】帽子お任せ

鍾乳洞の風景に圧倒されつつ
さあ、大冒険の始まりよ!(小声)
二人もソルベもいるし、ふわふわのご加護もあるし、きっと大丈夫ね
落ちてくる雫の冷たさにびっくりしないようにしなくちゃ
大きい声が響くのは少し恥ずかしいもの

ソルベも通れる広い道を探して進みましょう
別れ道は第六感に頼りつつ、ウカと違う道の先を確かめたり
道を塞ぐ蔦や蔓は何とかして、通りやすいようにしておきたいけど…
チロ、ソルベ、疲れてない?
ウカの注意を促す声にはありがと!って笑って低空飛行
この先にいる魔物を倒せばチロも一人前よ!
冒険者さんの声が聞こえないか時々聞き耳を立てたり
二人の頭に石が落ちてこないかも気をつけて進むわね


華切・ウカ
【喫茶三人娘】
帽子はおまかせ!
似合うのを選んでください!
チロちゃんもキトリちゃんもお似合いです
もちろん、ソルベさんも!

わあ、涼しい!
と、大きな声は響くので小声で内緒話のように
こういうの、わくわくしますね
頭にはしっかり帽子を――もふもふ。厚いもふな加護を感じます

ウカが先をいきますね!
キトリちゃんはチロちゃんと一緒にウカの後ろを
前方に注意しつつ、ソルベさんも通れる道を
うぅん、この辺は足元がぬるっとしてます。気を付けてくださいね
ウカはまだまだ元気です!
あっ、キトリちゃんは高く跳ぶとあのへん危なそうです!
二人の声をききつつ前へ前へ

……落ちて着たらひとたまりなさそう
けれど、この帽子がありますもんね!




 ぴちょん!
 遥か頭上から落ちてきた水滴は自らの頭大ほどあって。冷たく弾け、ぴゃっとなりかけたキトリ・フローエ(星導・f02354)はしかし不思議そうに見つめてくる少女――チロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)と目が合えば、キリリとした眼差しで笑む。
「どうしたのチロ。さあ、大冒険の始まりよ!」
「ふふっ。涼しくって――こういうの、わくわくしますね」
 声は潜めておくけれど……どこまで届くだろう? わあって叫んでみたくなる!
 友のためにと前につき、きょろり辺りを見回して歩いていたから偶々その瞬間を目にした華切・ウカ(空鋏・f07517)もまたころり楽しげに。撥水してもふもふぴょんと元気に白耳跳ねるキトリの帽子は信頼性抜群だ。精々、藍地に星空模して散る宝玉がより艶やかになったくらい。
 己の頭上のものは黒のたれ耳。布地に刺繍された太陽、大きな椿に似た花飾りが一輪彩を添えていて、曰く、力強くて格好良い炎の色だから――と。きゅ、と厚いもふな加護を感じつつツバを引く頃には、白熊ソルベに乗ったチロルは何度も頷いたあと。
 狼耳にマーブルうさ耳の四つ耳状態。はじめはちょっぴり不安だったけれど、なかよしな二人から似合うと太鼓判を押されたならば、むしろつよそうかもなんて得意なきもち。
「ごーごーなのよ。あっ、しょうにゅうせき……キラキラしてるあれのことかしら? すごい、キレイね!」
 ぱあっと元気いっぱいな声を上げてしまったなら、しーっ、振り返りやさしく窘めるのはしっとりした熊の鼻先。

 ソルベの帽子は主とおそろい、パステルカラーの波を泳ぐ不思議な模様のお魚柄。やや小さいそれがずれる度、はしっと戻すのが今のチロルのお仕事。
 ウカが大きなからだでも通れる道を選んでくれるので道中は快適そのもの。
「うぅん、この辺は足元がぬるっとしてます。気を付けてくださいね」
「ですって、ソルベ」
 あぶない足場はフェアリーであるキトリにとって無問題。ふよふよ飛んで光の筋を引けば、二人の手厚い案内へ短く返事した白熊は賢く道を選ぶ。
 ときたま膝程度まで水に浸かる箇所もあったけれど、この調子ならびしょ濡れにならず進んでゆけそうだ。
「あっ、キトリちゃんは高く飛ぶとあのへん危なそうです!」
「ありがと! ……あら、道が分かれてるわね?」
 低速飛行に移ったキトリは、続く道の先に瞬きを二度。
 これぞ探検の醍醐味! でしょうか、なんて俄然わくわくとしたヤドリガミの友の翳らぬ様子が頼もしい。右の道には蔦の壁、左の道には真っ暗闇と大きな水音……。
(「チロもなにかおてつだい……」)
 したい。
 ひんやりした洞窟の中でもあたたかい背に埋まりながら、狼娘が相棒に問うはこの先の道行き。すんすん、鼻を鳴らす気配がして、ずずいとソルベが進み出たのは右の道。
 キトリの第六感もこちらが楽そうと告げている。同じタイミングで真隣に体を並べたひとりと一匹は頷きあって、
「お願いしてもいい?」
 白熊はその妖精の言葉に、蔦裂く爪の一撃で応えるのだ。
 ありがとうの声は三人分。通り抜けざまウカのてのひらが労いを込め白い毛並みの背を撫でゆけば、すっかり疲労なんて感じさせぬ足取りでぐんぐん続く。
「みんな、疲れてない? って、聞くまでもないかしら」
「ええ、ウカはまだまだ元気です!」
「チロは二人といっしょだからだいじょうぶ!」
 やはりと言うべきかな答えに綻ぶキトリの面持ち。適度に暗いことがいっそ良かったかも――などと。キトリちゃんも飛ぶのに疲れたらウカの肩へどうぞ、そんな心遣いもうれしくて。
 嬉しさのぶつけ先。元気を示すため。ついでに後続のため、人間でいえばちょうど頭のあたりに引っ掛かりそうな蔦の一本をえいやと引っこ抜いて奥へ奥へ。
 それにね。それにね、ぼうけんワクワクするのよ。
 ルンルン告げるチロルは声量のことを頭の片隅から遠くへ放りかけつつも、視界の端にちょろりと過った蝙蝠か何かの生き物にはたと。
 動物? モンスター?
 この洞窟でモンスターを倒すことが、一人前の証――。
「チロもモンスターをたおしたら、いちにんまえになれるかしら!?」
「もちろん。この先にいる魔物を倒せばチロも一人前よ!」
 わっとした声につい釣られ素のまま笑ってしまうのはキトリとウカだ。
 同時にサッと全員分の帽子のポジションを調節したウカであったが、どうやら衝撃は襲ってこないらしくほうと一息。
「よぅし、ウカも全力でサポートしますからね!」
 いまさら水ごときに錆付かず花鋏は、いつでも揮えるように。
 でも今のはただの動物だと思います、と人差し指を立ててささやくことで、ソルベの水中飛び込みは回避されたのであった。

 警戒は怠らずとも賑やかな道中は、遠足の最中のよう。
 いまだ遭難者の声は聞こえぬとなれば――もっと奥か。別の道か。いずれにせよ丁寧に切り開いてきたこの道を次に通る誰かは、随分と楽に進めることだろう。
 耳を澄ましていたキトリは、段々と幅の狭くなってきた道をソルベが踏み外さぬようガードレール代わり、道の端へ。
「それにしても、たまごのかたち……」
「気になります……。焼くとおいしかったり? ハッ、もしかしてぷにぷにタイプ!?」
 歩くのか。足でも生えているのか。
 ウカの乱心を招きつつもおしゃべりは次第に未だ見ぬモンスターの姿にまで広がるものだから、がーるずとーくは奥深い。難しい道のりも、みんなとなら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……うさぎだなァ……。
賢い君、賢い君、似合うカ?どうだどうだ?

ココで暴れると大変なンだってなァ……。
狼の鼻はよくきく鼻。スンスン嗅いで手がかりを探そう
他にも何か手がかりは無いか見渡して、危ない場所は避けよう。

水、水……今の季節はあまり入りたくないなァ……。冷たそう。
もしかするとあたたかいかもしれないケド。
賢い君はどうダ?

ちょいちょい、水を触ってみる。
それにしてもキレイな水だ。コレのいた場所は泥水ばかりだった。

面白いモノはなーいですか。
あーって声をあげて遊んでみようカ。
コノ洞窟は良く響くかもしれない。


黒天・夜久
――今回は人の姿のままじゃ難しそうですね。

そう思った夜久は場に合った姿に変化することにした。
必要なのは水中で自在に動くことができる身体。変化したその姿は、胸ビレがペンギンのフリッパーのようになった魚、といった風体だ。
人形もロッドもちゃんと体内に格納済みである。帽子も可愛かったので貰って格納済み。
人間大の黒い魚になった夜久は、触角のように伸ばした身体の一部で周囲を探りながら濁った水の中を進んでいった。



 地の底が赤い。
 岩の色だ。なみなみ静かな水越しにも透ける、水鏡に映った自らを壊してゆく。
 人間が本能的に忌避する色であれ、エンジ・カラカ(六月・f06959)には青信号と変わらない。
 それにしても、キレイな水だ――なんならそうも感じた。
(「コレのいた場所は泥水ばかりだった」)
 濁ってこれというならば本来はどうなのか。もーっと別のなにかまで映り込んでしまいそうで。それはちょっとなァ、ひとりごとが笑いを帯びる。
 足を突っ込まざるを得なかった地下水はやはり冷たい。けれど狼の鼻はこちらの道が正解であると告げていた。手の内の"相棒"だって、どうだ、水浴びしてすこしその輝きを増したまである。
「賢い君にはちょうどよさそうダ。アァ……崩して足場を作るのが楽だろうって?」
 その通り。
 さすが辰砂と自身の汚れは気にせず拷問具を指で拭って、デモと続ける。
 ここで暴れると大変なことになるらしい。エンジは今、無法地帯のケダモノではなくひとりの猟兵であるからして、利口にやくそくごとをなぞり歩くのだ。
 大体――今はうさぎだったか。
「賢い君、賢い君、似合うカ? どうだどうだ?」
 ひょこんと揺れるぼさぼさ黒耳がくっついた布地は、パッチワーク仕様。端切ればかりが落ち着く性分。
 お祭り騒ぎめいたそのカラフルだけが装いからの乖離甚だしく、だが誰もエンジを"否定しない"。

「ハハ。面白いモノはなーいですか」
 上機嫌に――それでいてすこしつまらなさそうに。
 あーと声上げ蹴った水、足元に、まっくろいろをした何かがスイと過った。足首に巻きつくこれは、  スライム?
「!」
「こんにちは。すみません、お仲間ですか」
 喋る大魚――否、それを模した暗色の流動体。触覚を伸ばして探り探りに進んでいたブラックタール、黒天・夜久(ふらり漂う黒海月・f16951)。
 エンジの反応も見上げたもので、一瞬にして掴み返し水中から引き摺りだしていた夜久の身体の一部が大気中でぱたぱた跳ね水をまき散らした。尾びれ……そんなところか。
「なァんだ、ごちそうかと」
「お味は保証できませんね……ご期待に沿えず申し訳ない。ですがお役には立ちますよ、離していただいても?」
 片目を眇めた狼男は不思議なものをみる瞳。ぺいと解放すれば黒き魚のひれがまた水を打つ。活き活きと奥へと泳ぎを再開して、エンジの進む先に障害がないことをも同時に証明しはじめた。
「行先も同じでしょうから。どうぞ自分の後ろを」
 鍾乳洞の構造は時に、落とし穴めいた凹凸をも自然に生む。深い側を己、浅い側をエンジへ譲る夜久。
 へぇ、と、頭上降る喜色孕んだ声は興味の移ろいを表して。
 踏みそうで踏まない間隔で追われつつ、夜久はペンギンのフリッパーに似た形を取った翼を器用に扱い推進力を得る。
 時折本物の魚らしき生き物と鉢合わせては触覚でご挨拶、彼らが慌てて逃げゆく先にこそ道が続くのだと読んで舵を取る様はしっかりと計算高い。
 これだけ水に馴染んでおいて、体内に取り込んでおいた武器と帽子は濡れを避けられるのだから便利な身体だ。帽子の方は――どちらかといえば人形にぴったりきそうな愛らしさのたまご型水晶が飾られていたろう。
 たまにでっぱりが水底から突き出す岩に引っ掛かるくらいで。
「しかし入り組んでいますね。人の姿のままでは大変じゃありませんか?」
「アァ、ひと。ひとね」
 ところでこの帽子どう思う? 明後日の返しをする狼男を一瞥……したろうか。
 面白いと思います、とのタールの言葉は賛否をよそに実に人間めいていて、それがすこし、おもしろい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リオネル・エコーズ
駆け出しちゃん達が初挑戦できるように
先輩冒険者さん達も見つけて解決したい欲張り姿勢
…帰れないって、結構しんどいもんね

てことで頭よーし(ウサ耳帽子
灯りよーし(ランタン

先輩冒険者さんの痕跡ないか照らしつつ目を凝らす
どっち進んだかわかるように
根っこや蔦に短剣でザクザク矢印刻んどこ
引き返したら矢印に縦線引く感じでザクザク
しかし鬱蒼度パないね
昔から暗いとこ慣れてて良かった

進みつつ足を止めて、耳を澄ます
何か聞こえるかな
何が聞こえるかな
静かなら深呼吸
冒険者さーん?って呼んでみる
返事があったら嬉しいよね、一応は無事ってことだし
怪我で動けなかったら肩貸して外まで運ぶのが良さげかな
運ぶのヤバそうならUCで治そ


グリツィーニエ・オプファー
WIZ
黒兎のハットを頭に乗せる
ハンスには…少々大きいで御座いましょうか
幼き愛し子の成長の為にも、空気を読まぬ悪漢は退治せねばなりませぬ

暗い場所があるならばランプ等も用意したいですね
ただ進むにしても此処は既にオブリビオンの領域
何事も注意して進むに越した事は有りますまい
…ハンス、くれぐれもご無理をなさいませぬよう
相棒たる精霊に先行して貰い、何かあれば知らせて頂きましょう
極力進み易い道を選び会場を目指します
…濡れると毛が爆発致しますので、出来れば避けたいですが
人命が係っているのです
私如きが贅沢を言っていられますまい

途中、救助を必要とする方と出会いましたら手を貸しましょう
ご助力頂けますならば、尚心強い




 見慣れた景色とまるで違う、世界。
 時の流れに削られた岩が織りなす段段畑に似た起伏は、ひとの手によらぬものと思えぬ精巧さ。
 ドキドキとワクワク、それ以上に欲張りたいのは猟兵心。駆け出したまご諸君の初挑戦、それに先輩冒険者の無事――リオネル・エコーズ(燦歌・f04185)は歩幅も大きく段を跳び越える。
(「……帰れないって、結構しんどいもんね」)
 持ち込んだランタンの光がほわりと照らす輪郭には、翼と同じにやわらかな朝の訪れを予感させる垂れ耳が揺れた。ミニシルクハットにて豊穣の神に捧ぐ譜面の音符は麦の穂仕様。
 ちょうどうさぎがそうするようにしなやか跳ね下りながらも、巡らす視線は動くものを探し続ける。
 何か聞こえるか。
 何が聞こえるか――すうと息を吸って、吐いて。
「冒険者さーん?」
 カァ。
 通りのよいリオネルの呼び掛けに返ったものは、鳥類と思わしき声だった。
 はたと目を向ければ、暗闇から零れ出たかの見目をした濡羽色が三段下で首をかしげている。鴉。その頭にはうさ耳帽。
 ぱち、瞬いて見つめ合う間が数秒。
「んーっと、迷子?」
 それとももしかして噂の冒険者たちはそういう"種族"?
 知らないものがたくさんな自覚はあるから。屈んでじっ……と覗き込んでみたけれど、別な足音が近付けばそれもおしまい。
「――ハンス。そちらに何か……」
「あ。精霊ちゃんか」
 グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)。主の声にはたたと飛んで戻る黒の帯びる違和に納得した風にリオネルが顔を上げたなら、男は小さく会釈をしてみせた。
 今は山羊ではなく黒兎。目深に帽子を被るグリツィーニエもまた、要救助者の存在を意識して動いていたひとり。
「こちらの道にはどなたもおられませんでした」
「こっちも。しかし鬱蒼度パないね、見えないってほどじゃないけど」
 昔から暗いところに慣れていて良かった。人生何が役に立つか分かったものではないから楽しい――とはいえ下りと上り、両側から探したとなればこの道であと考えられるのは深い崖下くらいのもの。
 一応ねと灯りで照らす用心深さに。
 うぅぅ――……。
 ひとの呻き声を微かながら確かに拾えば、二人とついでに一羽は視線を交える。

「いやマジ、あって良かった早くも二つ目だよ」
 切り立つ断面を見せる地層の中ほど、ほんの人間ひとり分のスペースに引っ掛かっていた男たちを引き上げながら、背の翼で羽ばたいてオラトリオは息をつく。
 真下では黒々とした水が渦巻いて。その最中からにょろと伸ばされた蔦を啄み邪魔するのがハンスことグリツィーニエの精霊だ。
 先に引き上げられたひとりは両足ともに骨折してしまった様子。へたりと座り込む姿を見遣るキマイラ男の横顔は相も変わらず茫洋としつつも、千切れた布を用いて、彼を背負い運ぶための紐の支度をてきぱき進めている。
「いてェ、いてェよぉ……」
「御気を確かに……ご安心くださいませ、迎えに寄越されたもので御座います」
 迎え。
 今一番欲しかったワードに勇気付けられ涙を呑む男は、罅が入っている気がしないでもない脇腹をさすっては深く頭を垂れた。
「不甲斐ない真似をすまねェ。運んできたたまごを置いて帰ろうとしてたら、後ろから襲われてな。信じられるか? たまごにだぜ!?」
「だから俺は言ったろ、なんかいつものより重くねえか? ってよぉ」
 リオネルが肩を貸すもうひとりはまだ軽傷らしく、片足引き摺りオーバーにかぶりを振った。それにビビッて逃げてきたら蔦に足を取られこの様だ――子どもたちになんと言ったら。
 災難で御座いましたね。
 どうせ水気で爆発した毛。今更さらに濡れたところで困るまいと、なにより人命のため、水浸しの男を背負いあげるグリツィーニエは紐を結わえて。
「幼き愛し子の成長の為。空気を読まぬ悪漢退治が我々の使命なれば」
 この件の解決は任せてほしいと言いたげな声があまりに頼もしくやさしいものだったので、背中からはまた鼻水かなにかを啜る音が響くのだった。
「そだね、まずはしっかり体を休めるのが待ってるみんなのためじゃないかな。……良かったよ、無事で」
「参りましょう。ハンス、先導を」
 肩を叩き励ますリオネルの傍ら、鳴いて鴉は闇を裂く。彼が道中マメにつけていた刃傷を目印と教えこんだなら出口までの道は楽々だろう。
 手の塞がった持ち主らに代わり、嘴と趾とに挟んだランプにランタンが広く周囲を照らす。
 もう大丈夫――そう、あたたかく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
【WIZ】
うわ、思いのほか暗いですね……
なるべく早く、最良の形で終わらせたいところです

嫌な暗闇は常備しているランプで照らし、
邪魔な植物は妖刀でサクサクと切り開きながら
足を取られぬよう注意しつつ【第六感】を頼りにズンドコ進みます
地図もないなら、このハレルヤの直感以上に頼れるものはありません

鍾乳石は落ちてきたらクッソ痛いと思うので、
巨大なからくり人形のニッキーくんの手を常に頭上に翳させて
私の屋根になっていてもらいます

うさ耳付きハットもニッキーくんがどうぞ
私には自前の耳がありますし、頭上は守ってもらっていますし、
ふわふわうさ耳付きとか私にはちょっとアレですし、
ニッキーくんに似合っていて可愛いですしね


ロカジ・ミナイ
先に言っとくけど砂金目的じゃぁないよ
子ちびっこたちの安全と健やかな成長のために
ひと肌脱ぐのは猟兵として当たり前だからだよ

【POW】
遠泳が得意とかいうわけじゃない
そもそも泳ぐのもいつぶりだったかな……忘れちゃったよ
でもそれはそれ、僕は泳げるんだ、沢山ね

大事なのは気合いと勘、それから感性
頼れるのは己の筋肉のみ
それは陸でも水中でも同じさ

根やら蔦やらがあるって話だけど
その時は髪に刺しといた刀簪でちょちょいっとね
変わった草があったら回収回収

念のため帽子を借りていこう
痛いのはイヤだからねぇ
僕に似合いそうなヤツを適当にヒョイと
……あ、これ防水LEDライトとか付いてないの?

※アドリブOK


アルバ・アルフライラ
(従者、敵以外には敬語)

幼子を守るのは大人の義務である
…なれば、一肌脱がぬ訳にはいくまい

白い兎耳と花咲くハットを身に付け
ふふん、中々に様になっておろう
イースターらしい衣を新調したい所だが…まあ贅沢は言っておられん

洞窟の暗闇を闇雲に歩く訳にもいかぬ
【愚者の灯火】を用いて光源を確保
叶うならば遠く迄見通せるよう奥にも炎を配置
極力地形を把握し、進むようにしよう
鍾乳石の落下にも細心の注意
何かあれば、近くに居る猟兵へも声掛けは欠かさず
第六感や聞き耳で分る事も何かあるだろうか?
例えば要救助者の居場所等――な

…然し、急流に足を取られては
最悪この身が砕けかねん
地形を破壊せぬ範囲で、魔術で凍らせる事が叶えば良いが



 心許なく揺れるランプの灯。内に閉じ込めた輝石がかつ、と器を叩く音だけが、靴音に重なって。
 ひとり。
 暗闇は苦手で――それでもこの話を受けたのは成したいことがあるから。不遜な面持ちが常ながら、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)の足は前へだけ歩む。道の選択? そんなものはハレルヤ印の直感だ。
 だらんと垂れた尾が水に引き込まれればビクッ!
「しばき倒しますよワレ」
 と同時、蒼炎透かしこんだ風な刃が閃いて即座に不届き者を真っ二つ。巨大植物のものと思わしき蔦はしなしなと水底へ姿を消した。
 ……まったく。
 誰かさんの口調を真似たところで重くるしい天井が吹き飛び空が覗くわけもなく。ただまぁちょっと、割と似てたな? と自画自賛に口元綻ぶ程度――、
「お綺麗な顔して言うじゃぁない」
「っはい!?」
 晴夜から見てぽっかりと口を開いた地下水溜まりを挟み対岸、軽薄な笑みで手が振られる。ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)こそ何故此処へ。
 猟兵以前に遊び人以前に商売人――普段の男を知るものの半数は首を傾げるやもしれぬが、うち半数は砂金目当てと合点がいったろう。だが残念、本日のロカジは一味違う。
「いやぁ頼もしくて助かるね、ちびっこたちの安全と健やかな成長のため! 立ち上がったはいいけど、僕の仕事もう無いかも?」
 ひと肌脱ぐのは猟兵として当たり前――くつりと喉を鳴らし笑うものだから、その実のところは彼のみぞ知るが。
「……今のはちょっとした景気づけであって、普段の私はより清廉潔白ですよ。もちろん頼っていただく分には構いませんが」
「ハハッ! そりゃぁイイ」
 賑やかしさは確か。
 少しばかり尾の活気も増した晴夜を前にして、ロカジはこれといった前置きもなく合間の水へと飛び入った。
 そうして晴夜へ降りかかりかけた飛沫を庇いに影から前へ出る巨体がニッキーくん。彼が信を置く筋肉達磨――否、からくり人形。チンドン屋じみたギザ柄帽子もセットで耳四つ。
 この先陸路が途切れてるっぽくてさあー、とざばり水中から顔を出したロカジも目と鼻の先に現れたのが数秒前とうってかわってチャーミングの過ぎる兎頭なものだから、静止する……かと思いきやそのまま会話を続けるあたり自由人。
 やあって手挙げるフレンドリーさは、或いは怪しげな品など疾うに見慣れた、か。
「僕は泳いできたし平気なんだけどね、ただ暗すぎて懐中電灯か何か欲しかったわけ。てかこの帽子? これ防水LEDライトとか付いてないの?」
「少なくとも私のものは付いていませんね。この灯りで足りますか」
 先を照らすように掲げる晴夜のランプ。
 そのとき――ふうっと。
 話し込む二人の後方から音もなく迫り来て、爛々、闇を焼いた炎があった。

「灯火ならばお貸ししましょう」
 痛みは訪れない。何故ならそれは、不用意に傷付かぬためと猟兵の齎すユーベルコードであるから。
 歩み寄る術者、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)が身に宿す色彩は鍾乳石の照り返しでもなんでもなく、彼自身の生まれ持ったもの。
 その艶やかな黎明を飾る帽子のふわっふわ白うさ耳に花咲く様は、思いの他見目よりも実用性を重視したロカジにとって一瞬きょとんとなる華美さ。
「どぉーもどぉも。頭のそれ気合入ってんね?」
「お似合いですよ。それに眩しくて……この炎は良いですね」
「は、……こほん。何事も楽しまねば損というものです」
 中々に様になっている模様。二人へ涼し気に応えつつも、アルバはふふんと得意げに鼻で笑う癖を覗かせ。
 実は見せつける先の従者が不在で口寂しさが皆無でもなかった――こうなると本格的に衣も調達してきたいものだが、それは万事終えてからでも遅くはなかろう。なにせたまご狩りの本番はこの後、自分たちの手で取り戻すことが確定しているのだから。
 ――さ。
 薔薇色の指先が促す先へ灯火は躍る。

 時に水路、時に陸路と道を見出しながら進む三人と一体。
 幼子を守るのは大人の義務。
 一肌脱ぐ理由としては十分。童子の透明感を保ちながらも重ねた年月相応に、アルバの目線は大人のそれだ。当然彼らが悲しむことなどあってはならない――故に、取り残された大人とやらもこうして零さず探し出す。
「意識はない、……か」
 息はある。壁面にもたれかかるように倒れ伏す男二人の傍には砕けたたまごの殻が。愉快な柄をしているが、こびりついた血の赤は宝石の瞳をすうと冴えさせて。
「こちらで担ぎましょう。力仕事は大の得意ですので、彼」
「ああ、それは助かります。……うむ。やはり従者には甲斐性がなくてはな」
 ひと二人むんずと摘まみ上げタワーブリッジよろしく固めてしまうからくり人形を見遣り、感心した風なアルバの青目は瞬き挟めば煌めく星のそれ。
 なんなら使いを喚ばおうと持ち直した魔杖はまた小洒落たステッキの役割へと戻る。
 この状態で鍾乳石が落ちてきたらどうなるのか。
 若干気になるところはあれど、ニッキーくんのことだ。うまい具合にやさしさを見せてくれるに違いない――信じて晴夜は暗闇の先に目を凝らす。
「この先は流れが急そうですね。乗っていきますか?」
「彼に? ……いささか過負荷では?」
 それにまるで幼子の絵面にはならぬか……俄かに歩を止めたアルバらの背で水音が上がったのは、水面にロカジが顔を出したから。
 泳ぎが得意かといえば実のところ気合いと勘、それから感性。あと筋肉。
 一応は道を探していた――びたびた蠢く極彩植物の一部やらを懐に詰め込む片手が語るに、完全ただのボランティアというわけではなさそうながら。
 長簪の先でついと分かれ道の先を指すロカジ。
「あっちの方なら流れ緩やかっぽいけど。何? 乗せてくれるのかい」
 僕も楽したいなぁ~、などとゆるゆるバタ足する姿の気の抜けた具合からして、なるほど、全員このまま己の足で歩いてゆけそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
【いつもの】穂結さん(f15297)とラッカさん(f15266)

【紙技・彩宝】
提灯を折って、通った道に配置していきます。迷子防止ですね。
自分で持てば光源にもなります。

ルート検索はラッカさんに任せましょう。
彼のカンってものは信頼性が高いですし、冒険者の跡も気になります。

穂結さんはUCで進路の確保…を…
…本体、そんな10フィート棒みたいな使い方してイイんですか?
ハッスラ的には大正解ですけど。

リーダーの仕事はそこに対する、より完全なバックアップです。
【暗視】と【聞き耳】で環境の変化に注意。
岩にヒビが入る音。石の欠片。水場の音。
先に問題を予測できれば、あとはお二人がなんとかします。任せましたよ。


ラッカ・ラーク
【いつもの】
ユーダチ(f14904)とカグヤ(f15297)と!
すげえな、ネコ耳配慮もされてんだこの帽子…ウサ耳の中に収まるようになってる…

帰路と明かりと進路の確保、危険回避は二人がやってくれるし、二人なら完璧だろ。
オレは正しいルートの割り出しと行方不明者探しだ!
ゴーグルを起動して細かな痕跡から【世界知識】も加えて【追跡】、ハッキリしないとこは【野生の勘】で補完。
運良く見つけられたら提灯を目印に帰るんだぞって送り出す。

ユーダチがくれるサインとカグヤの刀…あれ、本体そう使って大丈夫なのか?頼もしいけどよ。
足元天井壁の暗がり、危険は多いだろけど二人が教えてくれる。
オレは調べものに集中しようかね。


穂結・神楽耶
【いつもの】
矢来様(f14904)、ラーク様(f15266)。帽子の準備はお済みですか?
合いそうなものを確保して参りましたので是非使ってくださいね。
いえ別に、うさ耳のお二方が見たいとかそんなこと。

何分箱入りですので、基本は旅慣れていらっしゃるラーク様と周到な矢来様の指示に従う形で。
その上でわたくしができそうなことといえば進路の確保でしょうか。
【錬成カミヤドリ】。蔦や根などの障害物を複製した刀で切り払いますね。

足下、水が滲んで不安定な箇所が。念のためちょっとつついてみましょつか。
えいえい。
…よし、大丈夫そうですね!



 ――――如何ですか?
 穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)は前のめりに微笑んだ。

「如何も何も」
「すげえな、ネコ耳配慮もされてんだこの帽子……」
 片や黒垂れ耳。一面、淡い色味の七色ひよこ型饅頭。時々食べかけ。
 片や藍立ち耳。しましまうねうね星に水玉とにかく賑やかしいビビッドカラー。
 棒立ちの矢来・夕立(影・f14904)に、自前の獣耳が帽子にちゃんと収まったことを不思議がってぺたぺた触るラッカ・ラーク(ニューロダイバー・f15266)へと。
 合いそうなものを探してきましたので、是非使ってくださいね――だとかなんとか。
「これ穂結さんの願望溢れてますよね。まだ被り間違えたと言われた方が納得できますけど」
「自分で被ってしまうと、見ることができませんので……」
 やんわりしながらも美味しそうなものへの気持ちに頑な確信犯、神楽耶が頭にした帽子はハイカラ和モダン風味。臙脂の地に矢羽根の刺繍、黒のリボンが引き締まる。耳もまた、ぴょんと凛々しく黒。
「いいじゃねえか、中々男前だぜユーダチ」
「替えましょう」
 ラッカのやんや持て囃す声に提案ではなく確定で返す夕立、両者の残像を残すレベルの攻防が始まりかねない横で、のほほんと眼前塞ぐ植物の壁を掻っ捌く神楽耶はどこ吹く風。
 ヤドリガミたる娘の本体――振るった刀が糸くず同然にふぁさと道を切り出せば「真っ直ぐでよろしいですか?」、さて茶番終了とばかりあっさり勝負を棄てた男二人もそれぞれの仕事道具へ手を。
「ほら、三枚に下ろされますよ」
「オレは食えねぇぞ。まぁ見てな、」
 紙技・彩宝。薄くも華やかな千代紙提灯越し夕立がてのひらに灯す薄明りは、違わぬよう足元を照らす。ここに至るまで幾つも撒いてきた、信頼度抜群な往路復路のしるべ。
 間近に差す色に口端を上げれば今は帽子の上から取り付ける形となっていた電脳ゴーグルを目元へ下し、だれかの通った痕跡と蓄積したデータとを照らし合わせるラッカ。
 灯りを頼りに、足跡。岩の苔の付き方。水の動きと濁り具合。蔦の壁は……本体が潜むとなれば、分厚い方が本命か。
「――右だ」
 そしてなにより、最終的には野生の勘。
 行方不明者の発見と同じだけ大切な"狩場"到達。キッズってのは高い方高い方に登るのが好きなんだ、なんて訳知り顔で肉球つきの指が振られたのは経験談?
「使えるものはなんでも使います」
「いつも勉強になります、ラーク様」
 ラッカさんの勘であれ。と、つかつか歩む夕立の脇を抜け、旅慣れた友の判断を疑う素振りひとつなくお辞儀もかろやか神楽耶はまた先陣を切った。

 なんでも――とは言ったが。
「……本体、そんな十フィート棒みたいな使い方してイイんですか?」
「頼もしいけどよ、実はオレも気になってた」
 珍しく声の揃うそれは、複製した己自身こと結ノ太刀をざくざく用いて水面下、足元の様子を探る神楽耶へ。
 ハッスラ的には大正解。ちょっとつっつくもとい強かに打ち据えられた分厚い根がするり逃げ出す姿に女は、よしとひとつ頷いて。
「はい? 大丈夫そうですよ! あら、あちらの山も大きいですね」
 その泰然としなやかな手がゆらと進路上の塊へ鞘を構えたなら、「待った」で制す黒手袋も絹めいて。リーダーの仕事とはより完全なバックアップにこそある。
 岩じゃないですね。
 ウソかマコトか。さらり言ってのけた夕立が導き出した答えにもうひとり、真偽を後押しウサギネコも首を縦に。呼吸音は微かでも、あれは生物。蔦に絡め取られ丸まった、人だ。
「まぁ……おいたわしい」
 いま、楽に。
 神楽耶は、なぐりころす形でなく正しく揮う形へと手のうちの刀を滑らせる。指揮棒同然宙を撫ぜたとき、数を増して浮き出た分け身の幾多が白波を立てながら、ザン! 標的くるむ緑を裂いて。
 ふつんと断たれた僅かな衝撃は偶々、水に浸食された柱へでも揺れ伝わったか。
 ぐら、
 上方――力無く頽れ、水へ浸かりゆく要救助者の頭上で石が牙剥く。
 またフリダシからなんて――面倒ですし。折紙手裏剣をそうする風に、さめた瞳のまま夕立が放ったおいしそうなうさ耳ハットはくるんと空を滑空して、その人影へと降り注ぎかけていた氷柱状の鍾乳石を弾き払った。
 馴れ合わねど秒で魅せた連携は息合う"仲間"のそれ。
 ラッカも当然その一。宙を……水面スレスレを蹴り駆けた獣の動きはすばやく、探し、やっと見つけた命が濁り水に沈みきる前に細腕を掴みすくい上げる。
「一丁上がりっと! おーいお前さん、無事か?」
 ぺち。 というよりも、ふに?
 陸へ連れ出した女冒険者の頬を軽く叩いたならば、ぱちりと開かれた瞳はいっぱいに覗く猫を映して。

 彼女の傷自体は浅いもの。
 自力で歩いて戻れる具合で、障害掃除したて且つ提灯目印もセットと安心親切なかえりみちを教えてやったところ心底からの感謝とともに踵返していった。
「十名ほどの集まりで祭の支度をされていたのですね。どなたもご無事だとよいのですが」
「穂結さんがあと九回、あやしいものがあっても斬る前に思い留まればいけますよ」
 特段その背を見送ることもせず、目的の奥地へと歩み出した夕立の視界に――暗闇が。
「ほーらよ」
 オトシモノ!
 きっと笑っているであろうキマイラ男の声色でぱさ、と、被せられたふわ帽子。柔い黒毛は寝かしつけられ目まで覆う邪魔寄りの邪魔。別にこれ、要らないのだが。
 まあ実用性だけは確かなようだし。このおめでたい柄とももうひととき、付き合ってやっても?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

絢辻・幽子
WIZ

ハットを装着して、耳をゆらゆら、尻尾をゆらゆら
ふふ。狐は意外と賢いんですよう。
まぁ、尻尾を濡らしたくないのでこちらは必死なのですけど。

『ロープワーク』と『地形の利用』を駆使しましょうか
綱渡りより、ぶら下がっていく方が楽そうですかねぇ
ターザンよろしく、蜘蛛の糸でぶらーんと行きましょう
ぶらーんといったら、引っ掛けられそうな所にまた引っ掛けてぶらーんです

あ、鍾乳石が落ちそうな時は下の人に声をかけておきましょう
狐は優しいんですよ。
迷子もついでに、探しておきましょう。

蔦に巻かれるようなら
お返しに糸で巻いてリボン結びしてあげますね。

(人を食ったような狐、ふわふわーっとゆるふわ適当に生きている。)


ロシュ・トトロッカ
はじめての冒険にロマンはとっても大事!
そしてそして、お祭りをめーいっぱい楽むのも大事!
そういうわけで、その邪魔をする子は退治しちゃうよ!

でもって装備は大事ということで、頭にはばっちりうさ耳ハットを装備!
泳ぐのなら得意分野。ぐいぐい泳いで探索しよー!
にごってるところもきっとこう、光は少しくらい通るはずだから
明るい方を目指していけば大丈夫! …だよね?
おぼれはしないと思うけど、中々出れないとさすがにちょっと、息苦しいかも…
急流は滑り台感覚で楽しんじゃえ!
でも途中で植物にからまらないようには注意
…うっかり宙ぶらりんはちょっと恥ずかしそう
いざとなったらスカイステッパーで体勢を立て直して脱出だ!




 はじめての冒険。
 それは、ロマンに溢れたものであるべきだ。
 ロシュ・トトロッカ(マグメルセイレーン・f04943)は三方をなめらかな白い岩肌に囲まれ、その水中に馴染むからだで洞窟を泳ぎ進んでいた。
(「お祭りをめーいっぱい楽むのも大事!」)
 だから一刻も早く取り戻してあげたい、一心で。……しかし入り込んだ空間はもう暫く息継ぎもできていない真っ暗闇、ってところだけがちょっぴり残念。
 どこか浮上できるポイントは――。
 少年キマイラがむむむと唸る頃、ちょうど岩天井一枚挟んで上方、開けた空間では絢辻・幽子(幽々・f04449)がターザンごっこ。
「よーほー、なんて。それは海賊でしたっけ」
 黒のフリル付き中折れ帽。片側だけ折れた灰うさ耳ゆらり。自前の狐尻尾もゆらゆらり。
 指に絡めた蜘蛛の糸、得物たるひとつを頑丈なロープとして。
 突き出すつらら石にくるんと巻きつけ、跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ、伸び切る前に次の石へ。
 足がかりとしたその石がぼきっ、と、割と頻繁に折れてしまうのはレディが重いからでは決してない。――ないのだ。
 ひゅるるる。
 当たったら痛そうな尖り方で落ちてゆくそれらへ、危機感を感じさせぬゆるやかな声色で。
「下の方ー、もしいらしたら避けてくださいねぇ」

 ひとの声?
 そんな女狐の真下。ロシュがはてな、と視線を上へずらした途端はじまる石豪雨。
 かっ、が、かつん!!
 高いところから降り来ているらしき塊が、突き立っては次々に岩天井をざくざく貫通しはじめるではないか。
(「わっ!」)
 ホログラム映像が崩れるときに似て閉鎖世界が割れてゆくから、驚く少年の口からはつい貴重な空気が零れる。頭は庇えば……否、青うさ帽子ががっちりガードで大丈夫。
 それに前向きに捉えたなら今の衝撃で塞がっていた天井に大穴が開いたので、差し込む光をしるべに上を目指せそうだ。
 ひとかき、ふたかき――。
 やがてロシュは水面に泳ぎ着く。
 ぷはぁと胸いっぱいひんやり酸素を吸い、見上げた先には根本からぽっきり折れたつらら石たちとサーカスの曲芸よろしく糸で垂れ下がる幽子の姿が。
「あらあら、ほんとうに居たなんておねえさんびっくり。石は当たってません?」
 今、落ちたでしょう――言いながらも女は吊られたカラフルな岩に糸を引っ掛けて。振り子の原理で体を倒して。前へ、前へ。
 その姿が空を泳ぐかのようだから、青く澄んだまあるい瞳はぱちり。
「大丈夫! ねえ、すごいね。きみはだぁれ?」
「私です? ふふふ。ご覧の通り、危険もお教えできて心優しい狐ですよ」
 狐! 本当に世界には――出会うすべてのものにはふしぎがいっぱい。狐も飛べるんだぁって綻ぶ少年のかんばせは、ちょっとのハプニング程度ワクワクへ変える心のつよさ透かして。
 幽子に並走し泳ぎを再開、アーチ状に育った石筍の間をイルカたちがそうするように器用にくぐる。背を押して流れ込む急流をも味方につけて、水の中、ロシュはずっと自由。
「狐さん、お空の旅はどう? こっちはね、滑り台みたいで楽しいよ!」
「まぁ素敵。ではこちらはおさるさん気分でしょうか」
 尻尾さえ濡れなければ、そちら側も良かったかもしれませんね。くすりと笑み含ませ次に幽子は「あっ」と一声。 そう、冒険にドキドキは尽きないもの。
 落ちますよ。
 忠言は"また私が石を落とした"ではなく"いまからあなたが下へ落ちる"。泳ぎゆく先が、まるで切り立つ崖――そして滝の形状となっていようとは。

「わあぁ――――ぁあっ!」
 びぴょいーん! ウォータースライダーのラストめいて勢いよく宙へ飛び出すロシュのからだ。
 十メートルは軽い遥か眼下へフリーフォール、上がる叫びの色はしかし大いにはしゃいだものであったけれど。
 優しい狐を自称した手前、全力で水面へぶつかって痛そうなことになる前に巡らす糸で抱き留めてあげるのが幽子だ。
 ネットに守られ水際でワンバウンドしたロシュは、溶け入る風にゆるり水へかえる。水中は……先ほどまでよりも植物の蔦や根がうんと多い。目指す"退治しなくてはいけない子"に近付いた証。
 だが、それよりも。
「――今のもう一回やりたい!」
 ざばあと顔を出した途端、そう瞳輝かせるものだから。
 突然の来訪に慌てて躍る蔦たちを片端からリボン結びにまとめ上げつつ、苔生した地へと華麗な着地を決めた女狐はころころ微笑むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーナ・リェナ
【Siemen】

耳付きハットはたれ耳がいいな
ふふ、オズもリルも可愛いなぁ
みんなでかぶったら冒険に出発だね

うー……とはいってもわたし、泳げないんだよ
え、リル。連れてってくれるの?
ありがとね
リルに抱っこしてもらって水の中を進む
綺麗な景色にいろいろ話したくなるけど今は我慢
片手で口を押えて、もう片方の手で気になったところを指さしてみる

ランプを灯してもらったら、ちょっと前に出て危ないものがないかどうかを確認しながら進む
オズからチョークを受け取って、子どもからは見えにくいところに印をつけてくね


リル・ルリ
【Siemen】
アドリブ歓迎

「耳付き帽子。似合うかな?オズとルーナも良く似合うよ」
褒められればはにかんでエッグハント、のはじまりだ
「まずは冒険者探しだね。ん、ルーナ泳げない?じゃあ僕が運んであげる」
僕は人魚だから
泳ぐのは得意なんだ
役に立てるのが嬉しくて笑顔がもれる
大事にルーナを抱えて、片方の手をオズに差し伸べて
「オズも、泳ぐのはじめて?なら。ふふ、任せて」
ゆらり游ぐ水の中
3人で游ぐのが楽しくて歌が零れる

冒険、なんて。わくわくだ
ランプの光が神秘的
あっちに行けばいいのかな?
オズみたいに耳をすましてみる
声が聞こえれば、2人を振り返ってみたり
印があれば大丈夫だね
この先がどうなってるのか
嗚呼、楽しみだ


オズ・ケストナー
【Siemen】
耳付きハット(お任せで)
うん、ふたりともにあってる

それじゃ、エッグハントの前に
冒険者さんを見つけようっ

あっ、わたしも泳いだことなかった
ありがとう
リルがいればだいじょうぶだね
安心して手を繋ぎ

水の中、ゆらゆらしてふしぎな景色
たのしいと言いかけて
水の中は喋れなかったと口元に手をやり
泳ぐリルの尾ひれがきれい
ルーナの指さす先をみて
わあっ

ランプを灯して
冒険だっ
たのもしいルーナの羽が照らされてきれい

迷子にならないように目印つけよ
このあと来るこどもたちに見つからないよう
高い位置に
冒険はまっさらな状態でしたいものね
ルーナ、お願いしていい?

冒険者さんの声が聞こえないか耳を澄ますよ
顔見合わせ
あっちだ



 桃に紫、黄に青緑。散りばめられたトランプスートはめくるめく遊びへ誘うよう。チェックのリボンに漂う気品、たらりと金毛がやわらかなうさ耳帽子にも、しあわせ運ぶ白き羽飾りはやっぱり欠かせない。
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、ありがとうとまたよろしくねとを親愛込めてあいさつするみたく見繕った帽子をぽふっ。
 この鍾乳洞に突入してからというもの、頭防具としてもう何度かお世話になっているのだから頼もしい。
「ふふ。本当にぴったりだよね、オズ。リルも」
 翅持つ小人の特権は、そんなうきうき微笑ましい友の姿をいろんな角度から眺められること? 傍を漂うルーナ・リェナ(アルコイーリス・f01357)の守護も垂れ耳。毛色はちょっとだけこんがりした、おいしそうなブラウン。
 一粒飾られた春めくいちごの王冠が愛らしくも行動的なベレー帽。
 リル――リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)の頭上のクールに整った印象持つヘリンボーンもまた、パステルカラーで構成されれば一気におとぎの魚。似合うかな、はにかむ微笑も合わさったなら静かに湛える水色景色に花が咲く。
「うん、ふたりともにあってる」
「オズとルーナも良く似合うよ」
 想いあって、支えあって、暗い闇の中もいつもの風景。そうしてエッグハンターらは一路、奥地を目指す。

 ――例えば。
「うー……わたし、泳げないんだよ」
「ん、ルーナ泳げない? じゃあ僕が運んであげる」
 ごうごうと音を立てる水の流れがあったなら。渦巻くそれに身を竦める友のため、差しのべる手もそこにある。
 リルは人魚。
 そのてのひらはつめたくも、望んで触れたならば解けはしない。そうっと大事に抱きかかえてくれるから、ありがとね、と妖精は身を委ねることができて。
「さすがリル――あっ、わたしも泳いだことなかった」
「オズも、泳ぐのはじめて? なら。ふふ、任せて」
 きゅっと繋げばあたたかい。
 両手が塞がりふわり零れるキマイラの笑みには、役に立てるということへの嬉しさがたくさん。
「ありがとう。リルがいればだいじょうぶだね」
「もしも息が苦しくなったなら、すぐに教えてね」
 頷き交わして、三人いっしょに泳ぐ水中はふしぎな景色。
 持ち込んだランプの光がゆうらり、ゆらり。幻想的に輪郭をぼやけさせる。どこからか漏れる光で陸よりも明るい地点などもあり、そんなときは赤や緑に色付いたおもちゃのような洞床が映えうつくしい。
 元々はこの高さにまで水など無かったのだろう。もっと深くへ水没した橋や柵が目に入ればますます本の中に迷い込んだようで。そしてなにより、そんな世界に自然溶け込む人魚の尾鰭の艶美ときたら!
 閉じた水槽の内よりどこまでも流麗に。揺らめく月が落とし込まれた今、此処はさながら夜の空。
(「わぁっ……」)
 くいとリルの服の袖を引くオズは「たのしい」「きれい」を伝えようとしたのだけれど、そのとき改めて水の中にいるのだったと思い出し口元を押さえた。それほどまでの安心感、ルーナも、感じるものは同じのようで。
(「あとでいっぱいお話したい」)
 だから今はちょっとだけ我慢。いっぱいの綺麗を目に焼き付けるとともに、気になるものがないかを視界に探すルーナ。そのちいさな指先が指す方向へと、すいすい身を向けるリルの唇はいつしか我知らず歌を紡いでいた。
 三人で泳ぐことが、こんなにも楽しくて。
 この先がどうなっているのか――嗚呼、楽しみだ。

 妖精の導きは陸へ上がっても続く。
「ルーナ隊長、よろしくおねがいしますっ!」
「ふふふ、わたしからはぐれるんじゃないぞー」
 なんて! オズが灯したランプの光を受け、二人よりうんと高くへ飛んで行先調べ。その度に照らされたルーナの翅がみせる虹色がとても綺麗だからオズは、実はまだ水の中にいるのかもって自らの頬をつねつね。
「オズ?」
「――なんでもないよ! そうだ、迷子にならないように目印つけよ?」
 リルのやさしく案ずる眼差しにてへへと笑ってみせ、オズが取り出したのはチョーク。
 自分で書いてもいいけれど……。
「冒険はまっさらな状態でしたいものね。ルーナ、お願いしていい?」
 オズ自身、キラキラとした子ども心といつも共にあるからか。
 冒険者のたまごなみんなに見つからないように高く――と、内緒話に胸ときめかせる様は大人のようでいて彼ら目線。世界のどこにわくわくがあるか、ちゃあんと分かってる!
「まかせて」
 そんなオズが差し出すチョークを抱きかかえ、ルーナは更にひと飛び。印したマークはうさぎ型。「あっ」と気付いてしまった場合にだって嬉しくなれるような、遊び心もたいせつに。
 名案だと頷くリルの賛辞は、きっと二人ともへ。

 笑顔は絶えず足を進める。
 しんとして顔を見合わせることがあるとすれば、それはこんな風に――知らない誰かの声を聞き取ったとき。
「女の人かな」
「あっちだ」
 ごつごつとした大岩が多くなってきて先が見え辛いけれど、耳を澄まして追いかけるうちやがて開けた空間が見えてくる。
 そのときルーナがはたはた高度を下げ、走る二人の間に寄り付いた。
「すごい……たまごがいっぱい! いっしょに人もいるの、ちゃんと立ってるよ」
「本当? よかった、辿り着けたんだね」
 探し人が無事だということも嬉しい。リルの声に淡く喜色が滲む隣でオズもまったく同じ気持ち。
 そこに不安はなく。逸る心が拳を握らせ、次なる冒険の訪れに高鳴る胸をとんと叩くのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ランダム・エッグ』

POW   :    いないヨ!ここにはいないヨ!
自身と自身の装備、【殻から出ている体の一部が触れている】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    これでもくらエ!
【高速で飛ばされた卵の殻】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    助けテ!
自身が戦闘で瀕死になると【自身が擬態していた生物の成体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:るひの

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ぽっかり開けた空間。
 オブリビオンによって複雑に捻じ曲げられた鍾乳洞の道は、幾つもの行き止まりを生み出しながらも最終的にはここへ続いていたようだ。
 時を同じくして辿り着いた猟兵らの眼前には冒険者男女が二人、立ち竦んでいた。
 そして、たまご。イースターエッグめいた色柄をしたそれらは膝を抱える人間の子ども程度の大きさはあるか。
 無造作に転がされ嫌に静かに横たわる、どれもに罅が入っていて――ちょっとだけ飛び出した体の一部はみな同じ生物のものに見えた。

「あっ……! 待って、ストップ!」
 近付く足音にびしっと手だけ翳して声を上げたのは女冒険者。その顔は何故だか振り返らない。
 助けに来てくれたのはわかる。ありがとう。
 まずそう続ける声のトーンは心底嬉しそうな。しかし直後には、でも……と曇らせて。
「気を付けて。こいつらは――殺人たまごは、もうあなたたちに"気付いてる"わ」
 そのとき。
 女の隣で同様にこちらへ背を向けていた男の体が大きく傾いだ。
「うう、僕はもうだめだ……足がしびれて感覚が……」
「ばかっ! たまご集めからここまで何十時間も頑張ったじゃない、無事に家族に逢いたくないの!?」
 こうして助けも来てくれたのに――!!
 悲痛な叫びが上がる中、ふっと意識を失った肉体はだが止まれずに……地面にぶつかるかと思われたが。

 ぱかんっ。

 それより早くどこからかもっと軽い音が鳴った。
 ちょうどそう、たまごを割ったときのような。
 刹那、男はなにかに殴りつけられ宙へ放り出される。ここにあるのはたまごだけ。けれど、ぶおんと過った風切り音と赤茶けた残像はたしかにこの場に別の脅威を感じさせた。
「トーマスゥ!!!」
 鼻血を撒き散らしつつも不幸中の幸いか、猟兵側へとずざざーーっと吹っ飛ばされたトーマスとやらは白目を剥いている。
 その頬にはくっきり赤い痕。
「そう、そうなの……こうして一瞬でも油断を見せるとやつらは襲い掛かってくる。瞬きの間すらも恐ろしい。見えた? 今、何に何をされたか、なんて」
 だから不動の姿勢で睨み合っているのか――。
 自身も限界が近いのだ。震える足で、女は持ち得る限りの情報を語りはじめる。
 おそらく敵はまだ何体もいるし、やたら射程が広いこと。
 何故かたまごの数が減ったり増えたりすること(目が疲れているので錯覚かもしれない)。
 叩き潰そうと素振りを見せれば超速でカウンターされ、逆にそっと触れるだけならば何もしてこない場合があったこと。
 本物の成体サンドリザードがそうするように、熱砂のブレスや鋭い引っ掻き、岩石投げらしき攻撃も何度か繰り出されたこと。
「あと、あとはそうね……はい? 見分け方?」
 ――運よ。
 運。 さて。たまご狩りに最も求められる力は、もしかすると。
夏目・晴夜
頼れるのは運のみだなんて面白過ぎますね

ニッキーくんは私のランプを高く掲げ持って、
辺りを広く照らしながら大人しくしていて下さい
その怪力で洞窟を崩されては堪らないのでね
転がってきた敵を優しく【踏みつけ】て潰す位ならいいですよ

それでは狩りの時間ですね
「憑く夜身」で操れるたまごの影を全て操り、動きを封じます
動けない危機に敵が僅かでも踠いたり音を立てたら占めたもの
偽物のみを妖刀でカチ割っていき、反撃には【カウンター】でお返しを

全ての敵が易々と正体を明かしてくれるとは思いませんが、
間違えて本物を割ってしまうとも思いません
皆大好き【第六感】と【聞き耳】、
あとはこの自信の強さで強引にでも運を引き寄せてみせます



 頼れるものは運のみ、だなんて。
「――面白過ぎますね」
 一見して絶望的に不利な状況も、晴夜の面持ちや品定めするみたく顎をさする指先から余裕を奪えない。運なんてのは引き寄せるもの。自身に為せぬことはない――からくり人形ニッキーくんの手に高く掲げさせたランプが、一面のたまごたちに濃く影を作らせていた。
 殻から飛び出た尾や手といった体の一部が、時折ふるると震える。
 本物の方も孵化間近なのであろうが、この状態で攻撃をしてくるといった話は聞いていない。そも、暴れるモンスターを只人がここまで運べはしない筈だ。
 つまりはたまごの姿のまま強く抵抗を見せるものが"アタリ"というわけであり。
「それでは狩りの時間です」
 さぁさぁ、逃げないと食べてしまいますよ?
 じゃり。靴音を鳴らして男は歩み出る。粗い砂に残す足跡は確かにひとのそれながら、生まれる影は獣のものと変わらない。爪牙に代わり、揮う力がすらりと澄ました刃というだけで。
 号令を飛ばすように伸べる手の甲を翻したならはじまり、不可視の操り糸は誰にも知られず既に放たれていたのだ。

 カタッ。

 どこかで殻が音を立てる。
 となりへ、となりへと伝播して震えはじめるたまごはだが、長く伸び勝手に"蠢かされる"影に雁字搦め絡めとられ次の一手を封じられて。
 その戒めを喰い千切ろうとひとつの殻の罅が大きく広がる――瞬間を、狩人は待っていた。
「いち」
 振り抜き、かち合わせた妖刀がそれはもういい音を響かせたものだから、スイカ割りにでも興じるようだった。無抵抗にひしゃげた殻からは赤茶の物体が零れ落ちる。
『グゲッ』
 それでもなんとかもがいた腕を抱き留め捻じ伏せるはうさぎの巨腕。
 故に攻めに徹することも叶う。寝かせていた刃を次は真っすぐに突き立て流れるようにトドメとする晴夜を前に、逃げをも許されぬ周りのいくつかはガタガタ激しく震えるのみ。
 飛び散った絵の具めいた液体にぐいと頬を拭う。この生臭さはいまいち。味の方も所詮真似ただけなのだろうと、存外好き嫌いの激しい獣の尾ははたんと上下。
「そう急かずとも順に割ってご覧に入れます、お楽しみに」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
イイネェ、たのしそうだネェ。
増えたり減ったり?好都合。
一つ一つに触れるより、纏めてぜーんぶ割ればイイ。
そうだろ賢い君。

アァ、そうだそうだまとめてぜーんぶ。
思いっきり息を吸って耳を塞いでも脳裏に響く咆哮をお見舞いしてやろう。
それでもたまごは増え続けるンだろ?
ならイイじゃん。もっともっと増やして纏めて割ればイイ。

ガオー、ガオー
中から出てくるモノはなーに。なーに。
賢い君なら分かるカ?わからないか。

たまごの攻撃はささっと避ける。自慢の足をたまごにも見せようカ


ロカジ・ミナイ
やさしく触るのはまぁまぁ得意だよ
優しいからね

しかしながら
運を掴むには勘が仕事をしなけりゃならない

ある程度の目星を付けて
当たりかハズレかカラダで判断して
タマゴの特徴から正解を割り出す

……のが正攻法に近いんだろうけど
僕は痛いのとか嫌だから
勘と気合いとタッチアンドゴーで何とかするって決めたんだ
……出来るかはともかく

でもやられっ放しは腑に落ちないから
飛ばされる前に殻の一つも引っ掴んで暴いてやりたいね
ほらカラを破って出ておいでよ
コソコソ隠れてないでさぁ

……ああ、これ?別に刺しはしないよ
切る用だから
こうやって、こうするんだよ

※アドリブOK



「へぇ」
 ボーナスステージだ。肩越しに覗く作戦勝ちの様にゆるゆる機嫌よさげな声色。
 後方を気にせず済むというだけで随分動きやすくなる。反対側から少年目掛け飛ばされかけた殻のひとつを握りつぶしたのは彼の人形で、もうひとつは声の主、ロカジ。
 とはいえこちらは握力任せのゴリゴリではなくスマート。閃かせた手に握った何か――ただ飾るには過ぎた簪を打ち合わせての一芸だ。
「この商売やってると、借りは早いとこ返さなきゃ知らない間に膨れ上がっちゃうしねぇ」
 くわばら、などと男のおめでたカラーな靴裏が似た色味の殻を踏み割った。
 途端にざわりと険を帯びて感じられるのはたまごたちの殺気。
「おっと。足が滑った」
 長簪を腰巻に捻じ込めば顔の横でぱっと両手を開いてみせ無害アピール。そうそう、痛いのなんて嫌いだし?
 今しがた殻を飛ばしてきた一体へとにへら笑うも細められた双眸は底冷えする魔性。
 剥き出しの敵意に晒されてこそ、にぃんまり口に弧描くものがもうひとり。
「イイネェ、たのしそうだネェ」
 エンジとしては。
 たまごがどうとか増えたり減ったりなんて細かいことはどうでもよく。全部割ればいいって、曇る頭の中に燦然煌めく答えはいつだってひとつであるし、賢い君の考えだってきっとそう。
 ――アァ、そうだそうだまとめてぜーんぶ。
 ふらり。縺れる危うげな足取りだった。
 接近を拒む殻が飛ばされて、かくんと据わらぬ首の脈のすぐ横を掠めてゆく。そんなたっぷりのスリルにも落とさず男が吸った息はただユーベルコードとしてぶつけるため。人狼咆哮――烈しい音の圧は凶器と化して分け隔てなく一塊を殴りつける!
『アァァァ!?』
『アタマガワレルゥ……!』
 ぱりんぱりんと硝子を割るように容易くたまごが砕けてゆく。当然内も無傷とはいかず、力弱いサンドリザードの子はそのまま砂金となって零れ、傷だらけでももたもた這って逃げんとす生命力の高さが偽物というわけだ。
 鋭い爪、尾に短い翼。鱗の硬い赤茶色の体は刺々しい幼竜の見目。
「おや? 中身はいっしょカ、つまらない」
「ハハ、分かりやすいつかなんつうか? ね。ほらおたくも出ておいでよ。コソコソ隠れてないでさぁ」
 あれも正攻法っちゃ正攻法。当たり外れも何のそののやり口におどけてロカジが肩を竦めたのは一瞬。
 こわくないよの延長で女へそうするみたいにやさしく片手触れていたパステルたまごに声掛ければ、隙間から覗く爬虫類の金と目が合う。
 ぎょろり。
 にこり。
『――シネッ!』
 べり、と、至近で剥がれかけたひとかけごとつるつるの殻の上、線を走らせる。
 仕立て道具は馴染みの刀簪、そこに仕込みて今は抜き身となった刃。途端細かに分かたれ殺傷力の落ちた破片ははらりとロカジへ襲いかかり、広がる穴に中で潜んでいたなにものかを右手で引き摺りだしながら、左手に掴んだ帽子を団扇のように扇いで瞑る片目も笑いのかたち。
「あっハハハ、くすぐったァ! あのねぇ、それでひとを殺そうだなんて――」
 舐めちゃぁいけない。

 躍らせた簪は用途を違え、サンドリザードもどきの腹を切り裂いた。
 こうやって、こうするんだよ。教え込む口調はやさしいごっこの続きながら、砂金のひとつ零れやしない獲物へ注ぐ眼差しは正解だとてどこか退屈。
 先ほど狼男の攻撃の余波で出来上がったもの等、このまま砂や湖に溶け込むよりは拾って帰るのもいいかもしれない。
 ふと。偽物潰しを終え、さらさらとした手触りの金で遊んでいたエンジが顔を上げた。
 佇む一角には殻の残骸が残るだけ、だが、どこからか迫る風切る音を敏く狼の耳が拾い上げたのだ。蹴り退いた地面で砂がめくれ上がる。同時に爪痕が刻み付けられ、くん、とエンジは鼻を鳴らして。
「コレは知ってる。そこにいるなァ……そうだろ賢い君」
 でも見えないなんて不思議。
 不思議は面白い――こうして暴くのが。
 数分越しの獰猛な咆哮が、容赦なく空間を貫いた。ぶつんとものが弾ける音に続き、少し離れた先で血を噴き崩れ落ちる竜の体はまるではじめからそこにあった風に浮き出て景色に馴染み、ぐずぐず砂へ還る。
 透明化。
 増え続けるというよりは、元々あったものが現れ出ているのか。
 目に映る以上に遊び相手の数が多いとなれば、エンジの瞳に浮かぶ感情は焦りなどとは程遠く……もっともっと増やして纏めて割り砕いたときの楽しさ。あぁ、思い浮かべるだけでも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

矢来・夕立
【いつもの】

もう面倒なんで、まとめて壊しちゃいません?
【紙技・冬幸守】の要領で、式紙をばら撒きます。
…が、コレは《フェイント》。すなわち――
――ウソですよ。
狙うのはカウンターの誘発。
反応したやつがホンモノ…この場合はニセモノなんでしょうか? ともかく、駆除対象ですね。

オレが攻撃されることも織り込み済みです。《見切り》きれれば重畳。躱しきれずに当たっても、役割は果たしました。
スキができるのはあっちも同じです。
そこを叩くのはオレの担当ではない。では、宜しくお願いします。
後々本命の【紙技・冬幸守】を支援に遣りますので。

シゴトは言われた通りやる方でして。「壊すな」ってものを壊したりしませんよ。


ラッカ・ラーク
【いつもの】
オレは敵意のないフリでフツーに近づいてこうかね。うおーたまごだなーって。
運はちょっとだけ自信があんだぜオレ。

ユーダチ(f14904)に乗せられてカウンターがムダ撃ちされる瞬間を『野生の勘』で『見切り』、作ってくれたスキを見逃さず遠けりゃ『ダッシュ』で『2回攻撃』!
1回どいつがソレかわかっちまったらこっちのモンなんじゃん?
カグヤ(f15297)が援護射撃くれるだろうし。攻撃は極力受けちまわないように立ち回りつつ崩してこか。
誰か集中攻撃もらいそうになってたら『挑発』して『おびき寄せ』て分散狙うのも忘れずに。オレは勘で避けたい。

そそ。
"目標のヤツらを"まとめて壊しちまおうぜ!


穂結・神楽耶
【いつもの】
運。…うーん、我ながらとんと自信のない部分が提示されてしまいました。
引き寄せられる結果は自力で掴むものですものね。

気の早い男性陣が多くてまったくもう。『援護射撃』を合わせろという解釈で受け取りますよ?
【神遊銀朱】。矢来様(f14904)やラーク様(f15266)を狙った卵を狙い撃ちます。
動きが見えずともおおよその方向と角度さえ分かれば十二分。一射一倒にて参りましょう。

当然、攻撃は隙の裏返し。わたくしを狙う攻撃には『オーラ防御』を。ええ、そちらは任せました。
お仕事ですもの。過不足なく、きっちり片付けるとしましょうか。



 瞬きも無くきっかり三秒。そうこうして、派手に崩れた一角までを視界に収め。
「楽そうですね。もう面倒なんで、オレたちもまとめて壊しちゃいません?」
 黒髪が。纏う羽織の繊維が。解けるようにはらはらと、夥しい数の紙製蝙蝠が夕立のもとから飛び立った。
 己が黒漆の長髪をも巻き上げて舞い行く姿の頼もしいこと。なびく毛先を軽く押さえては神楽耶は友とその視線の先、ふたつを眺め見て。
「それもよいですね。運、と我ながらとんと自信のない部分が提示されてしまいましたし」
 引き寄せられる結果は自力で掴むものですものね――、そして、小さく微笑む。
 嘘と察して乗じるこころの余裕がそこにはあった。

『ニンゲン……!!!』
 身の危険を察知したたまごがかたかたと音立てて殻弾丸を射出するのはすぐ。
 夕立の立ち位置に近いものから順に数体。偽物、偽物、本物本物本物偽物――狙い通り誘発させたカウンターが式の蝙蝠に穴を開け散り散りにする。
 だが、視えた。
 抜けたいくつかが自身に向かってくることも織り込み済。手元に残していた一枚を指に挟み構え、横に薙ぐようにして想定内の数々を一挙切り捨てる夕立。眉ひとつ動かさずに。
「あれで打ち止めといつ言いました? まぁ、これで最後ですが」
 ふうと息をついてみせる男のお膳立てされた隙。
 相殺に働いた式紙が爛れて落ちれば、まるで無防備に――。
「おわっ! 大丈夫かユーダチ」
 ラッカはといえばたまごとのふれあいに本腰を入れていたものだから、振り向けば多くの殻に纏わりつかれている顔馴染みの姿に一瞬ギョッ。
 ただ――お生憎様これは小芝居。
(「運はちょっとだけ自信があんだぜ、オレ」)
 やわらかな獣毛を割いて隠した爪が顔を出す。
 さも友好的に歩み寄ったここはひと跳びの間合い。しん、と。身ひとつ、踏み込む男が連れたものは、凪いだ草原が一瞬にして逆巻き荒れるような暴風だった。殻の大部分を攻撃に用いたばかりのオブリビオンは襲う衝撃に耐えられない!
『ギッ』
 ゴオッ、
 真横から別の一体の殻が襲うも、触れる寸前まで引き付けておいてから縦に跳ね飛んだ獣は同士討ちを引き起こしながら尾をしならせ宙で体勢を整えた。足に結わえた銀輪が鳴れば背の翼がばさりと一度音を立てる、それらは揶揄する響きにも似て。
「バッカだなあ、一回どいつがソレかわかっちまったらこっちのモンなんじゃん?」
「ぴょん、ぴょん。うさぎのお姿が絵になっておいでですね」
 お手伝いは不要でしょうか、との女の声にもまた似た響きが……気の早い男性陣への援護がつとめ。まったくもうなんて口を尖らせる様は齢相応のいとけなさを醸すも、選んだ手は段違い。
 本体――神楽耶の刀は刀剣のかたちをしていながらも、複製を生み出して銃弾のように降らせ命刈る術を憶えている。神遊銀朱。現に今こうして、夕立へ寄り付く殻を蝙蝠以上穴ぼこにしてみせる力がそれ。
 時に貫いた先でも勢い弱めず、たまご本体までも一緒くた抉ってしまうほどの並々ならぬ精神統一。為すべきを、次は見失わぬためと握る本体に込めた力が声もなく物語る。
『自慢ノ殻ニヒビガ……クソォ、コノタマゴ殺シメェ!』
「悪いのは易々殺される方では」
 騒々しい恨み事を永遠止ませたのは、夕立。
 神楽耶の散らかした跡をぱきんと踏みてより粉々に。他に足音という足音はなく、相次ぐ攻勢と"フェイント"の式に紛れていつしか姿を晦ましていた男は声に遅れ、たまごたちの只中にその外套をはためかせた。
「――ウソですよ。すべて」
 刃を放つまでもなく。
 抜ける湿気た空気に煽られるまま、零れ落ちた式の数は先の枚数以上。風を掴み、蝙蝠は宙へ。荒々しく襲い掛かる彼らはラッカの視界をも染め、だが怯む必要がないのは疑うまでもなく明らか。
 自由の獣は晴れやかに力を振るうだけでいい。
「やっぱオレ、ツイてるだろ?」
 気儘な旅の道連れをふたり。
 背に、空の無い天を駆け下った爪の一閃が深々と殺人たまごをかち割った。

「シゴトは言われた通りやる方でして。壊すな、ってものを壊したりしませんよ」
「ホントかぁ? まっ、割るときがあるとすりゃユーダチよりカグヤだと思ってたけどな!」
「ラーク様?」
 刀のスペアはまだまだあるのだ。
 しゃん、女がやたらに綺麗な鈴音を鳴らす。それに百八十度反転し思い切りよく駆けだしたラッカはたまごの群れへ、たとえ不慮の何かが起きたとて敵を盾にできるこの乱戦、悪くはないとも。
「じゃあラッカさん、あっちの三つどれが本物かどうぞ」
「は? みっつ?」
 右で殴って左で受け流し。足が止まれど翼は開く。元の位置まで飛び退きて尚も駆け巡るラッカがはた、と、男の声に視線だけ遣れば右手にも一から数を増したたまごが。 いつの間に。
 究極、殴ればわかるだろという思考回路のキマイラが拳を固めることよりも若干だけ早かったのが真横を過ぎてゆく刀であった。
「片端から割ってみれば、どれかは当たるのでは」
 過不足なくと語りつつ、神楽耶の性質はその直刀を儘写し取ったかの如く曲がりない。射貫かれんとしたたまごは自らを庇うように殻を放り出すも焼け石に水、突き立つ刃で深手を負って零れる中身が地面に垂れふるふると身を起こす。
 かぱ、
 大きく開かれた口の中は真っ赤――そこからどうと音を上げて放たれるのは熱砂のブレス。噂のサンドリザード成体由来の力……つまり恐らくこれは"黒"。
「ふふ、この通り」
「ぅあっつ! ヒトん真ん前でやるかよ!」
 至近まで飛び掛かっていたラッカが毛をチリッとさせて曲芸並に身体をくねらせ避ける中、女はたじろがず細かな破片とを纏う闘気で焼き崩す。
 ご神体とは戦勝祈願の神社か何かに祀られていたものだったのか、ほとほと謎ではあるが。由来を詮索するような間柄でもなく。
 ただ今、確かな力が隣にあることこそが夕立にはタメになる。
「運がないとか言いましたっけ。次からそのご利益も売りつけたらどうですか」
 きっと高く売れますよ――彼らが繋いだ勝機をモノにしたのは血濡れど一向に鋭さ鈍らぬ、式紙蝙蝠の牙であって。

 お遊戯会めいて黙らない、たまご狩りはもうしばらく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

グリツィーニエ・オプファー
いやはや、斯くや恐ろしい魔物が今までにいたでしょうか
はい、いつ襲われるかも解らぬ状況
勿論緊張しておりますよ
…はあ、そう見えない?
左様に御座いますか…ふむ、何故でしょう?

ハンス、危険な卵を判別する方法が何か御座いますでしょうか
いっそ鳥籠の蝶を解放し【母たる神の擒】にて無力化するのも手と思うのですが
業によって姿を現した敵を記憶
順番に倒していくと致しましょう
…ああ、ただ油断は禁物故
移動する際も卵達に警戒は怠らずに参ります
蝶を先行させ、その気配で正体を現して頂けると助かるのですが
そう簡単にはいきますまい
…殴り飛ばされぬよう気を付けねば
ハンスも勝手に飛んでいっては駄目ですよ?
怪我をしては大変で御座います


リオネル・エコーズ
どれがヤバイ卵だろ
喋ったらバレちゃうし黙って考えないと

唸れ俺の視力、って見ても見分けんのは難しそう
…先輩冒険者さんがいつものより重かったとか言ってたんだよね
オーラ防御利用しつつ、敵意は抱かず・出さず・言わず
花に触るみたく、優しく丁寧にタッチ

…凄い
こんな立派な色艶と形した卵、生まれて初めて見た
生命が創り出した芸術品だね
いやマジで
様付けするレベル

掌に収まるサイズしか知んないから驚いたのはホント
心籠めて褒めつつ、さり気なく重さ確認
いつもの、は知らないけど重いのはビンゴかな
可能なら他と除けて置く
他の人にアレだよって目で伝えるね

重かった卵にだけ鈴蘭の嵐
本物をやるのは駆け出したまごちゃん達だからね




 話に聞いた通り、たまごは基本的に、攻撃したものを攻撃する習性を持っているらしかった。
 上手に"騙せている"間は振り回される人間の姿をも嘲笑っているのやもしれない――。

(「どれがヤバイ卵だろ。喋ったらバレちゃうし……」)
「いやはや、斯くや恐ろしい魔物が今までにいたでしょうか」
 黙って考えないと、と吐く息すらも押し殺すように、己の口元へ手をあてるリオネルの横でなにやら大仰しい音が落ちた。
「はい、いつ襲われるかも解らぬ状況。勿論緊張しておりますよ」
 …………?
 青年がそろり見遣れば額に手を触れため息零すグリツィーニエ。その肩、鴉のハンスもノリノリに翼で顔をふぁさっと覆う芸達者。いや。こちらはもしかすると主の大根役者具合に呆れている可能性。
 事実グリツィーニエときたら常の起伏の少ない声、冷や汗のひとつかかずに仄暗く両の藤色にまあるい影を映すばかり。「マズいって!」と言いたげにリオネルがローブの端を引いたあたりで、ああ、と。
「声を……成程、そちらの方が怯えている風味が増しておられますね」
 見事なお手並み。口に出してぽんと手を打つのだから、重症。

 そのときのリオネルは、わかった、わかったからここは任せてと言ったのかもしれないし――とにかくたまごたちへ振り返りざま、品のよい透明硝子の奥できりりと目力を強めたのだ。
 思い出すのは先の冒険者が口にした重さについて。偽物は本物より重い……たしか、そう。だからと、努めて手指は友好的に伸べる。
(「花に触るみたく、やさしく……丁寧に」)
 指先がまず、丸と波線の紋様賑やかなたまごへ触れた。ほんのりあたたかいのは命の証拠か。
 隙間から飛び出した赤茶の尻尾が攻撃してくる気配はなく、機嫌良さげにみょんみょん上下している。ほうっと息をついててのひらまでも包みこむように。
 ――凄い。
 間近に見る立派な色艶とサイズに、心底から湧くのは打算抜きの感動で。
「生命が創り出した芸術品だね。いやマジで、様付けするレベル」
 そこにちょっと色々盛りつつ褒めてみるのが彼の作戦。
 ぺたぺた、次々に触れながら重さを確かめてゆくリオネル。
「こう、抱き枕にも良さそうじゃない? わぁホント超抱き心地いいなぁー」
『ヘヘヘ……照レルワー。ニンゲンニモ話ガ分カルヤツガ居ルジャナイカ』
 っん?
 撫でて抱え上げ、頬を寄せた際に聞こえた呟きは幻聴――ではなく、シンフォニアの耳は誤魔化せない。たしかに今、"たまごの中から"声が。

 なんともいえぬ面持ちになりつつそっ……と怪しくないたまごたちから遠ざけて置き直す青年の姿を見つめては、なるほどあの方法は真似できそうにないとグリツィーニエはぼんやり。
 ならば――ハンス。
 名を囁くだけで通じ合う精霊は意を察したらしく、主が抱える鳥籠をかつんとつついた。
 それにふっと僅か目元を和らげて。恐れぬ山羊角の男は隠さず力を行使する。
「単刀直入に御伺い致しましょう」
 キィ。 錆びた風な音を皮切りに、開かれた鳥籠の口から溢れ出るは幻想の青き蝶の群れ。
『!』
 うつくしく舞い踊れどその本質は、害。巻かれるたまごは身を震わせて殻を撃ち出した。一瞬、さりとてそこには四つの瞳が光っている――ぱぁんと蝶の二、三を霧散させたまではよかったのだが。
 儘、術者まで裂く筈であった殻は力無く地へと寝かしつけられてしまう。
 母たる神の、擒。蝕む甘美なる呪によって。
 結果としてただ己の居場所を知らせただけ……姿を消そうと焦るたまご本体の、光沢持ちなだらかなフチにて、行き着いた蝶は悠々と翅を休めた。
 復活祭の象徴に青く淡く揺らめくそれが寄り付く様は、芽吹きの春を祝う絵本の一頁めいて。
「すご」
 十八番の歌声を封じせっせと頑張っていたリオネルの口からも、つい感嘆のトーンで呟きが零れる。
 はっ、と。足元を見たなら、キミハボクノコト好キダヨネ? という具合に見てくる視線と交錯。
「ごめんだけど」
 駆け出したまごちゃん達のためだから。
 へにゃり、秀眉下げて申し訳なさげにも笑み。だがその手の得物は惑わず、抜いたなら指揮をはじめるかの如く真っすぐ振り下ろされる。
 風を切る最中に鈴蘭のひとひらずつへとわっと解け、覆い――お静かに。
 こつこつ積み上げた努力が裏切らぬように。白の花弁は間違っても本物を呑むことはない。疑わしきは纏めて近場に寄せていたこともあり、反撃の隙も与えず瞬く間に一帯を染め上げて鎮めた。
「ふぅ。たまご運びって結構重いしやばたにえんなんだ……みんなの頑張り守れてほっとしたー」
「お怪我もなくなによりで御座いました」
 勝手に飛ばないこと、との言いつけを守り暫くおとなしくしていた耳付き鴉が花弁を追い跳ねる様は黒兎?
 粛々と剣が逃げ場を失った殺人たまごを貫いたなら、よろこびを共にするように。しるべの蝶は指先へと寄り添った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
【Siemen】
アドリブ歓迎

「オズ、オズ。大丈夫?」
たまごに近づくオズをはらはらしながら見やる
どのタマゴが攻撃してくるのかわからなくて
オズが攻撃されたら嫌だもの
オズの合図があればすぐに「魅惑の歌」を歌って動きをとめられるように備えておくよ
たまごにだって、届けてみせる――この歌を!
動き出すたまごにすかさず歌を聴かせ動きを縛る――さぁ、さぁ、エッグハントだ/よ、オズ、ルーナ!ぱかんと、割ってしまって
中から素敵なものが出てくるのはいいけど
攻撃されるのは嫌
攻撃や破片は【空中戦】でひらり躱していくよ
冒険者のお姉さん達もきっとオズやルーナもおつかれだ
たまごをたくさん割れたら「癒しの歌」を歌って癒すからね


オズ・ケストナー
【Siemen】
たまごの間に不自然な空間がないかな
床に武器を置いて
戦うつもりはないよって感じでたまごの間に入っていくね

リルにだいじょうぶだよと笑いかけ
ルーナといっしょに

空間にそっと手をかざして
なにかに触れたなら
それはたおさなきゃいけないたまご

見つけたら帽子のたれ耳をきゅっと握って合図

リルの歌が聞こえたら【ガジェットショータイム】
小回りの利くハンマーを呼んで
見えないたまごをぱっかん
つられて動こうとしたたまごは全部こわすたまごっ
リルが動きを止めてくれてるうちに
ルーナっ
あたりをつけたたまごをぱっかんぱっかん

攻撃は【武器受け】
殻もふたりに当たらないように弾いて

冒険者のおねえさんを早く休ませてあげたいな


ルーナ・リェナ
【Siemen】

見えないたまごがあるところってぽっかり空いてるように見えるよね
ソルは呼べば聞こえるところで待ってて
オズと一緒に、違う方向から危ないたまごを探す
見えてるたまごは触るふり
なんにもないところに、何かある感触があったら
オズの真似をして帽子のたれ耳を握るね
合図をしたりされたらソルを呼んで槍に
他のたまごを割らないように気をつけながら危ないのだけをしっかり退治
敵からの攻撃は当たりたくないけど
避けたら他の誰かに当たっちゃうようならそのまま受けるよ
リルが動きを止めてくれてる間に、できるだけ早く片付けたい



「オズ、オズ。ルーナも……大丈夫?」
 握りしめる拳に思わず力が入る。
 戦うことは苦手。そんなリルの目の前、果敢にもたまごたちへ近付くオズは安心させるべく笑顔を見せてくれた。
 共に向かうルーナが待たせていったソル――ドラゴンの力強い存在を後ろの岩陰に感じることも、波立つ胸中を落ち着かせてくれるひとつ。だから、リルは頷きで返す。
 合図があればいつだって力になりたい。
 無論、そうして備えていてくれる彼がいるからこそオズとルーナも目先の物事に集中することができるのだ。
 目的はズバリ、消えたり現れたりするたまご探し。
 見えないたまごがあるならば、その空間はぽっかり空いている筈。先んじて戦端を開いたものたちの様子を見てもそれは確かで、瞬間移動等をしている訳ではなく、姿見えねど在り続けることには変わりない。
 だから選んだ手段は、こう。
 武器と受け取られそうなものは地面に置いて、今は手ぶら。戦うつもりはないとひらひらたまごたちへ挨拶するオズは人好きのするふんわりスマイル。きっとたまご人気も上々――ぺたりっ。
「わっ、すべすべしてる!」
「すべすべ? こっちはぬるぬる!」
 モノによって個体差が?
 まるで敵意見せず触れ和気藹々とふれあいを楽しむ二人の姿は、傍目には……おそらくたまご目にも無邪気な子どものそれのように見えたことだろう。
 だがその実ルーナは見えているたまごは触るふりで、不用意な刺激を避けていたし。オズだってすこしの違和も見逃さないと万全の態勢。
 やがてルーナの手が何もない空間でなにかを撫ぜたなら、オズも同様。
 取り決めていた"合図"はハットからなかよく垂れたふかふかうさ耳を握ること!

 カタッ?

 突然止んだ心地よいなでなでに、なんだ? とたまごが訝しんでももう遅い。
『ニャニ……ッ』
『何ヲスル気ダ!!』
 一斉に牙を、爪を。獣性を剥き出しにしたって。
 切り刻まんとした力は直後、宙半ばでぴたりと静止するのだ。金縛りにあったかのように……集った者たちが持ち寄った灯に照らされ、ほの明るい舞台上。しずかに浸す澄み切った声の波に抱かれ。
(「たまごにだって、届けてみせる――この歌を!」)
 離して、あげない――シレーナ・ベルカント。エッグハントのはじまりを、さぁ、と、歌い上げるは夢泡沫の歌姫。
「ルーナっ」
「うんっ」
 そうしてリルがつくってくれたひととき。無駄にだなんてとんでもない、オズがフリーだった手にぽふんと淡色の煙起こしてハンマーを召喚すれば、ほぼ同時に「ソル!」ルーナが槍を呼ぶ。
 ただの槍ではない。ドラゴンランス、ソルと名を持つ竜は岩陰からするりと身を躍らせ、滑空、突進。身に滾らせては渦巻く炎へ溶かし込む風にその身を鋭利に作り変え、主が指し示す何もない空間へとどっと突き立った。
 そう。すり抜けることはなく、穿つ。
『ギャアァァァ!?』
「あたり!」
 勢い烈しく叩き込まれた力に、焦がす灼熱に、たまらずたまごは透明化を解く。悶え苦しみ中身が殻から跳ね出たが、眼前に迫っていた殻弾丸たちを真横に弾き落としてからの引き戻す手でオズが縦へ振るった槌がその逃走を終えさせた。
 ガッッ。
「こっちと、」
 バトンよろしくくるんと回してがなる蒸気が手へと振動を伝える。たまご割りへの気合は十分!
 そして――そっちもこわすたまご!
 瞳の色が尾を引くほど。上体を反らしながらも二人がぐんと大振りに払った一撃が、互いの背へと爪を立てんとしていたサンドリザードもどきの腕を断って、折つ。
(「かっこいい、な」)
 歌も中ほど。
 戦いぶりを目の当たりにしてこころに注がれたるは水中では得られぬ熱。リルの声はより満ち満ちて完成されてゆく。
 がんがん叩き割られてゆくたまごから零れるものはモンスターばかり。砂金でないことは順調を表しているものの、ちょこれーとだとか。みんなと食べたおかしみたいに素敵なものだったならよかったのにな、って。
 すこし。お御馳走といえばこの通り――飛ばされてくる殻くらいのものだから。
 尾鰭がはたんと宙を打った。
 未だ完全に魅了から逃れられていない襲撃はいなすに易く、人魚は躍るように。泳ぐように華麗なターン。密やかに海色溶かした毛先が波打って、過る破片にも歌声は変わらず透徹。

 ぱっかん!
 陽気な音が反響して、奏でた槌の振るい手オズの耳にも跳ね返ってくる。砕ける殻が灯を受けて眩しく散るけれど、それが本物たまごや妖精の友に降りかからぬようにしっかりと握り込んで。
「ふふっ。こんなにも大きなたまごだと、目玉焼きがおなかいっぱい食べられてしまいそう」
「あら、わたしはどうせならケーキがいいな。ん……でもクッキーも、ババロアも、カラメルたっぷりのプリンもいいよね」
 彼と彼女の煌めくこころだけは作戦抜き。
 ルーナの槍が緋色の穂先を幾度となく閃かせ、そうした雑談に花が咲きはじめる頃には、三人が担当していた一角は見事に大掃除されていた。
「お腹も減っちゃうね。おつかれさま、すてきだったよ」
 よいしょと山盛り殻の破片を片隅へ追いやりながら、こちらも立派に務めをこなしたリルがゆうらり寄ればみんなでハイタッチ! 連携の勝利だ。
 冒険者のお姉さんたちは、と振り返った先ではへたりと座り込んだ冒険者らの姿が。猟兵が一気呵成に敵の数を減らしてくれて、且つ睨みを利かせ続けてくれているおかげだろう。今や隅の方であれば、誰の攻撃も飛んでこない安全地帯が確保できていた。
「おにいさんも傷はだいじょうぶかな」
「ええ、おかげさまで。本当に、すごいわ……どれだけ修練を積めばそんなにも戦えるの……?」
「しゅうれん? うぅん、だってひとりじゃないもの」
 ねっ。 朗らかなオズの受け答えにはすぐさま「ね」がふたつ続いて。
 念には念をと低空飛行でぶつかるなにかが無いか探していたルーナも、リルによる癒しの歌が紡がれゆく間はたまごの大きな殻を腰掛けにひとやすみ。掠った程度の傷は程なく癒え、ぐっと伸びをひとつ。
「今のうちに本物たまごは遠ざけておこっか。……」
「うん、うん。僕たちで持つから任せてね、ルーナ」
 ――終始支え合いを忘れずに、三人のたまご狩りは無事、大成功。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ええい、こうも擬態されると見分けがつかぬ
いっそ全て燃やしてしまった方が…こほん
おっと失礼、それは美しくありませんね
子等が催しを待ち望んでいるのです
台無しにする様な事があってはいけない

…等と言ってはみたが、さてどうするか
不意を打たれ砕かれる無様は晒したくない故
卵の割れる音に注意を払い、方向を察知
念の為、魔方陣よりドラゴンゾンビを召喚して護衛につかせよう
多少業を喰らえど即座に沈む事はなかろうよ
寧ろ彼奴の気配で偽物が動くならば僥倖
其の侭踏み潰す事も叶えば、他の猟兵へ敵を示す事も叶う
卵から出たのが成体の特徴を持つならば、それは偽物
我々を狙った事を後悔させんとカウンターを叩き込む

――ふふん、見つけたぞ?


ロシュ・トトロッカ
運。運かぁ……ある意味でとーってもむずかしいね
っと、とにかくおねえさんたちは下がっててね!
猟兵のみんなもこれだけいるんだから、きっとどうにかなるなる!
とにかくよそ見は厳禁、みたいだから
視線はしっかりたまごの方へ
それ以外にも変な気配や予兆がないか気を付けてみよっと
触れるだけなら大丈夫なこともあるらしいから
そろっと触って、それから手をガチキマイラに変化させたら安全にいけないかな、試してみよう
増えたり減ったり、ってことは隠れてたりもするのかな?
あえてがむしゃらにたまごのないところ含めて攻撃も試しちゃおう!
手痛い反撃には気をつけて、危ないときはスカイステッパーで空中にきんきゅーかいひ!


絢辻・幽子
 ……怪しいものは、だいたいパーンと割っちゃえばよいのでは
なぁんて。
糸で結んでぎゅぎゅっと豚と一緒に煮卵にしてしまいましょう、
えぇ、作ったことないですけど。

透明になっちゃうのなら
糸をつけておけばよいのでは、と……思うのですが
でも、糸に触れられたらどうなっちゃうんでしょう?
私が糸を掴んでいる感覚も消えますかねぇ……
ふふ。ならちょっと面白いのに

私のかわいいお人形さんも操りつつ卵がりしましょうねぇ
でも、瀕死のときにでてきちゃう成体ってなんでしょう
にわとり……?
危ないときは糸を使って上へ回避しますねぇ



 なんとか無事そうな冒険者の姿を目にでき、ロシュのからだも心なし軽い。
 その調子で下がっててね! 明るく手を振って、改めて――ふむむ。
「運。運かぁ……」
 ある意味でとーってもむずかしい。
 だがそこで思考の渦に囚われぬことが彼の美点。これだけの猟兵のみんながいるんだから、きっとどうにかなるなる!
 武器の代わりに握りしめた拳を高く掲げるものだから、煩わしい擬態っぷりへじわっと眉間に皴を寄せていたアルバも健気な少年の手前、文句を口にする気が削げるというもの。
 いっそ全て燃やしてしまった方が……などと。
「ええ。子等が催しを待ち望んでいるのです。台無しにする様な事があってはいけない」
 美しくない解決策を捨て去るべく首を横へひとつ挟む咳払い、至って平静に。思案を巡らせる横顔を小さく笑う気配があった。
「みなさん考えることは同じですよねぇ。怪しいものはだいたいパーンっ、シンプルで狐は嫌いではありませんよ」
 なぁんて、と付け足すがこの女――幽子の傍でだらんと佇むひとがたの表情は読めない。眼球持たぬ伽藍洞は今にもその言葉を実行してしまいそうな怪しい闇を湛えていたし。
 なにより、もっと楽しそうな調理法を思いついたんですという声色の揺らめきは影の如く。
「糸で結んでぎゅぎゅっと豚と一緒に煮卵にしてしまいましょう。えぇ、作ったことないですけど」
 はじめに戦場へ躍ったのは赤い糸だったろうか。
 それに引き攣れるように縺れ出るのが"かわいいお人形さん"。足取りの歪さは恐怖刻み、ざわりとたまごの間に警戒が広がれば、途端に射出される殻が使い手の女ごと切り裂かんと迫る!
「――ふふ」
 熱い歓迎のよろこばしいこと。
 燃え尽きたあとの残滓のような毛色だから、焼き焦がす一等情熱的な炎を手繰れるなどときっと予想できなかったのだ。ちりっと大気に火の粉を散らして、狐火はその姿を露わに。
 球体関節人形の四肢を掠めながら翔ける火球は殻を呑み、押し返す。一度に炭化させられた黒焦げたまごはとても食べられたものじゃあないが、中身を慌てさせるには十分!
「丈夫な子みたいだね! きっと偽物だっ」
「乗らぬ手はありますまい」
 ぼとりと垂れかかる型崩れした肉体……然しこの世へ生まれたてというわけでもない紛い物には、二度と大地を踏ませてやらない。踏むのは此方――死霊術士の使役する力。
 とん、と、星追いの剣が厳粛に地を叩くのと。そこから砂土をめくり上げ突き出た肉食獣の巨大な足裏が、焦げたまごを圧し潰すのとは同時。備えたる叡智を綴りて型を成した魔方陣は燐光を帯びて、煌めき織り込んだ外套、長髪までをも同じ色へと寄せる。
「どれ、すこし遊んでやれ」
 その"ゲート"から次には爪、生えそろった牙とが順に覗いて地を揺らし。大きく――咆えた。

 オォォォオォ!!

 びりびり空気が震える。たまごたちと一緒になってぱちくりびっくりしたロシュであったが、ずーっと先に見上げるドラゴンに首が痛くなる前に頭をぶんぶん!
 視線はたまごへ合わせるのだ。
(「ぼくも続こう……」)
 大胆な二人とは異なり、少年が選んだ作戦は等身大。触れるだけなら大丈夫……その教えをなぞってたまごに両の手でそろっと触れる。
「よしよーし、っと」
 程よく日に焼けた肌はやわいひとのかたち。 ――だった、その瞬間までは。
『ギッ』
 コマ送りよりもずっと早く、接触面へ瞬く間に獣の牙が生え揃う。からだの一部を作り変える能力はキマイラのそれ。力を込めれば万力の如くたまごはミシミシと音立て歪み、ロシュのてのひらにも尖った殻の破片が食い込む。
 しかし痛みを感じる暇もないのは、吸い上げた生命力を糧として治癒が同時に進んでいるから。結果として安心安全に、且つ傍から見れば極めて和やかにたまごひとつを屠ることができた。
 もちろん苦しい思いをする子は少ない方がいいけれど――残された断末魔ごと手の感触をぐっと握る。より大きな悲しいの連鎖を防ぐため、少年は。
「もうちょっと……!」
 次へ、その手を伸ばす。

 戦いは続き。中でも特に厄介だったのは、透明化しているらしき敵の存在。
 警戒は十二分。三人で背中合わせ状態なら背後を取られることこそ無くとも、一瞬反応が遅れることはあって……そんな最中にそれは起こった。
 麗しき宝石の男を砕かんと虚空より撃ち放たれた巨岩。
 成体の力だ。戦場における記憶力にも依然翳りはなく、聞き及んでいた"偽"の特徴であると見て取れば窮地にも余裕の色乗せ星の瞳は微笑った。
「――ふふん、見つけたぞ?」
 寸でで盾と割り込み腐肉と骨とを抉り飛ばされるドラゴンゾンビは、彼のすべてであるか?
 否。護衛のひとつに過ぎない。
「とってもよい子ちゃん、うらみは晴らして差し上げますね」
 なにせこの場には猟兵が選り取り見取り。
 見えずとも、視えた。 投石の軌道を逆に辿って踏み跳んだ女狐は赤糸でつながった塊をぶおんと振り回す。風が鳴る、鳴く、叫ぶ。
 ――叩きつける!
 ゴッ、 ゴ。鈍器の硬度持つ黒々とした物体は、先刻焼き払ったたまごの分厚い殻。指先数本で叶える同士討ちの演出は息するように自然で、常から化かし込んでいるのだから当然。
 てんてんと跳ね転げて中身の生き物が透明化を解いたなら、じ、と視線を注いでいたふわふわの尾はちょっぴり興醒めといった風に地スレスレを撫ぜた。あれはサンドリザードと同じ姿だ。
「にわとりじゃないんです? 糸も消してはくれませんしぃ。芸がひとつなら変身ごっこはおしまいですね」
 幽子に向けられた追撃の手は悉く"ひとのこ"が引き受け。
 じとりと一帯へ降り注いだ屍竜の血肉も、死して尚、空間に隠れたなにかの輪郭を色付けあぶりだすための一助へと。それでこそ我が僕、と語るかの動じぬ面で眺め見遣り、アルバは満足げに首肯。
 我々を狙ったこと、後悔するといい。
「さ、お探しのものが別れの挨拶へ顔を見せたご様子」
「うん! ぼく、ばぁーってとにかくたくさん叩いて探そうかと思ってたから……」
 見つけやすくしてくれてありがとう! 明るく告げる礼の言葉、お返しに繊細な宝石のからだへ伸びかけていたごつごつ竜鱗に覆われし腕の一本を殴りつけ喰い千切ったあと。
 赤色飛沫が珊瑚みたくに落ちては散る、ロシュは飛び入る先でも拳を振りかぶって――――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『幻惑喰いの大花』

POW   :    喰らいつく
単純で重い【花の中心にある口による噛みつき】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    蔦を振り回す
【蔦の先の花粉嚢】が命中した対象を爆破し、更に互いを【頑丈な蔦】で繋ぐ。
WIZ   :    幻覚を見せる
【幻を見せる効果のある花粉】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花粉で埋め尽くし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フルール・トゥインクルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 そうして、目につく限りで最後の殺人たまごが砕かれたとき。
 同時に割れたものは今まで足場に戦っていた、地面だったのだ。
「っ!!!!」
「なんだ……下に空間が!?」
 相次ぐユーベルコードの応酬が崩壊を招いたか……否、これは!
 大海でクラーケンが船を深い水底へ引き摺り込むときの足のように、落ちゆく最中たくさんの揺らめく蔦が猟兵たちを抱き込まんと伸ばされる。
 その数本を振り払ったなら、もうもうと砂煙が立ち込める中、見えてきた光景――。
「冒険者、さん?」
「こんなところで何を……」
 五つの人影。探していた残りの冒険者。
 先に"落ちていた"らしい彼らに外傷はなく、だが、この騒動にも猟兵の声掛けにも反応を見せず。

「あはは、君ったら待てよ! あんまり走ると転ぶぞ!」
「むにゃ……もう食べられないよぅ」
「ずっと探していたんだよ、今までどこへ行ってたの?」

 大はしゃぎで蔦を追いかけまわしている者。砕けたたまごの殻に齧りついている者。
 おいおいと大泣きして物言わぬたまごを抱き締めている者……。
 どうやら彼らは一様に"幸せな夢"を見ているようだ。
「――! この煙、砂だけじゃない」
 はじめに気付いたのは誰だったろうか。
 濃い黄味を帯びた煙が巻き上がった砂が落ち着いても止まず、不思議なほど甘い香をしていることに。

 ず、ズ。ズズ…………。

 もやの向こう、大樹と呼ぶのが相応しい巨体が揺れた。恐らくは洞窟中に張り巡らされていた蔦や根の主。それは新たな餌の到着を喜んで頭の大花を揺らし。
 おめでとう! たまごを見つけたお祝いを贈らせてもらうね――ともすれば頭に響いたこの声すら幻覚のはじまりか。
『ヨウコソ、ヨウコソ!』
『ネェ、彼女スゴインダヨ。罪深ァイニンゲンノコトモ、キット幸セニシテクレルサ! 永遠ニネ!』
 遠く近くかしゃかしゃと殻が笑う音。殺人たまご改めランダム・エッグも周囲にいくつか身を隠しているとみてよさそうだ。
 ――本来ならば幸せ運ぶイースターエッグ。門出を祝うサンドリザードのたまご。
 見つけたものに訪れるべきは、こんなまやかしでは決してなく。
矢来・夕立
【いつもの】
幸せなこと…は、ですね、――。
…、オレの幸せが何なのか。オレがそれをどう思うかなんて、誰も知らなくていい。欠片でも知ったやつは消す。
取り急ぎそこの草から始末します。

【刃来・竜檀】。ツタを斬る。《2回攻撃》でもっと斬る。
オレに攻撃が向かってくるなら避けずに受けて斬る。
無論、気づかれていないのなら“いつも通り”事を運べます。《忍び足》から《暗殺》で効率よく剪定していきましょう。
草と心中なんざ御免ですね。球根じゃないんですから。下手にあちこち壊す前に死んでください。

卵だの花粉だの、細かいことはお二人がどうにでもします。
オレは目の前のやつを殺すことだけ考えればいい。全くいつも通りですよ。


穂結・神楽耶
【いつもの】
…幸せ、ね。
ああそうですね、何物にも脅かされない平和な村とか。たしかに幸せでしょうけれども。
『それ』が残っていたのなら今この場所にいませんので。
お生憎様。

不愉快な幻覚は不埒な花粉のせいですね。
ならばまずこれを片付けてしまいましょう。
【朱殷再燃】。
球根になっても根は生えませんので洞窟にだけ気を付けて。
ついでとばかりに蔦も根も卵もまとめて『なぎ払い』ます。
矢来様(f14904)もラーク様(f15266)も。寝惚けていらっしゃるようでしたら纏めて気付けいたしますので。

────いつも通りに、なんて。
それこそいつも言っていることですよね?


ラッカ・ラーク
【いつもの】
幸せ、ねえ。こんなトコに落ちてるモンじゃねえし?
"楽しそうに賑わう知らない街"なんて、用意されて見に行くんじゃつまんねえもん。わかりやすすぎるウソだろ。

狭い場所でも小鳥ぐらいならイケんじゃん?
【増やせば軍団!】で『挑発』『おびき寄せ』『時間稼ぎ』を指示、敵の攻撃が洞窟にブチ当たんねえように。それな?生き埋めはエンリョしたいぜ。
オレ自身も『存在感』『空中戦』『2回攻撃』で囮兼バックアップ優先。『野生の勘』『見切り』『フェイント』でもろもろを避けたり同士討ち狙ったり。
本命が動きやすい状況を作るのがサポート担当のオシゴトよ、戦いのプロ達がいるんだしな。
いつも通り、頼むぜ?



 しあわせ。

 同じ単語を耳にした筈なのに、脳裏に過るものがまるで違うのも心持つひとならではか。
 もっとも彼らを"その"枠組みに収めるのは、いささか乱暴が過ぎるというもの。
 神楽耶は一振りの刀。
 心なんてものいつから手にしてしまったのだろう。遠い喪失のあの日から……愛し愛された、何者にも脅かされぬ平和な村はもう、どこにも存在しないというのに。
 今も焼き付く日々は、かたちそのまま娘の胸にある。
 チキッ、
 だからこそ目の前に浮かび上がるこれは、何だ?
「……ああ、そうですね。たしかにそれは、わたくしの幸いでした」
 ――不愉快。
 チ、 ジ……握る得物の刀身が赫赫と熱を帯びてゆく。
「ですがお生憎様」
 喪ったからこその、今。この両手も。両足も。
 疎む筈の炎はたちまちせり上がり、唯ひとつ燃え尽きることを赦されなかった身を包む。過日を再現するかの如く勢いを増す業火もが、しかし――すべて望まざるを屠るため。
 チリチリ焦がす熱気。或いは殺気。
 それは楽々着地を決めて以降、隣で毛繕いしていたラッカの見る幻にも影響を及ぼしはじめていた。
 そこにあったのは未だ見ぬ旅先。
 楽しげに賑わう冬色の街並み。塞がった筈の天井には昼の如くに白き星月夜。うまそうな香りの湯気を立てるマグなんかぶつけ合って、誰かの生誕なんかを口々に祝って――いたというのに、炎が舐めればどろどろ溶けて。
「――だからあっつい!」
 風情もくそもねえ、一笑してついに飛び出す男の面持ちには惜しむ様子ひとつない。旅なんて、お膳立てされて行くのではつまらない。意味もない。端から願い下げというわけだ。
 第一、
「オレらさぁ、これでもウソにゃ慣れててね。ちょいとわかりやす過ぎだったな?」
「ふふ。矢来様に弟子入りなさっては?」
 言い捨て。同時に齎すは小鳥に炎、数の暴力。ラッカの爪先が一歩地を蹴るごとにぽぽぽと湧き出す鳥型バーチャルペットは花粉だっておいしく食べてしまうし、うねる火炎は虚構の風景を灰へ変えてゆく。
 本物の砂煙をかきたてながら真横を過ぎるキマイラの姿へ、黒ずくめの男はぺいぺいと手で払った。人聞きが悪い、とでも形ばかり言いたげに。
「さすが喧嘩っ早い。まったく残念です、ひとが世界征服の夢を楽しんでたのに」
「なに物騒なもん見てんだよ。どーっせそれも"いつもの"なんだろ?」
 "ウソ"。
 ならば彼、夕立にとっての幸せとは?
 ――自問の必要がある。浮かぶ像がある。吐きたい台詞はひとつもない。
 それが何で、どう思うか等、誰も知らなくていい。だから。
「さあ」
 ふっと細く息を吐いた。次の酸素が欲しくなるよりも先に刃が閃いたなら、花粉の壁とその向こうで待ち構えていた蔦までもがまとめて捌かれる。
 うねる断片が別ななにかに見えたとてより細かに。粉微塵に。宙へ投げ出されてから砂上に落ちるまでのわずかな合間に幾度、ピンと張ったピアノ線のような冴えで。
「取り急ぎコイツを消すことでしょうか」

 痛覚を有しているか知れたことではないが。ギィ、と、逆側の腕もとい蔦を振り上げて大花はお怒りの様子。
 狙うは痛打をくれた夕立。だとしてはじめから、叩きつけられるならば受けきる気でいた男は僅かな間を退避ではなく触れる脇指に次の指示を飛ばすためだけに使う。
 ――草と心中なんざ御免ですしね。球根じゃないんですから。
 最大限引き付けてからと定めた横薙ぎは、合間に無理くり滑り込んできたAR鳥に一度小休憩。その身代わりが打たれ失せる瞬間の電子の煌めきをも目眩ましと利用し踏み込む即応性の高さは、伊達にこの道××年。
 よしよし。
 使い走りが消されたというのにラッカは得心した様子、何故なら彼らもまた、夕立が稼いだ一瞬を繋いでいたから。
「おっそうだ、なんでも望めってなら一曲頼むわ。目一杯ノれるミュージックをよ!」
 根から蔦、蔦から葉へと順に蹴り上げたんたんと宙跳ねるラッカが念じると小鳥の群れは尚も果敢に身を呈す。壁、天井もしっかりガード。男と使いとの機敏な動きに振り回され巨大蔦は右へ左へ、揺さぶられる度いびつな結び目が増えてゆき。
「カグヤはアレだろぉ。食いもん」
「よくご存じで、実は先ほどからラーク様がおいしそうな鶏肉に見えてきて大変なのです」
 あぁ、これも花の不埒な魔力の所為なのでしょう――ヒバリウサギの際どいスレスレを削いで飛ぶ炎弾はある意味では彼の軽快なダンスを一層盛り立てていた。毛もステージ衣装ばり逆立つというもの。
 はたしてそうした見目に惹かれたのか否か。
 炎塊を払うことに必死なうち、ひとで例えたなら喉に該当しそうな花茎をトリアシにがづんと蹴りつけられた花はぐえ、と息詰まらせ、跳ね上げた頭部を殴りつけるように薙ぐ。青き獣を喰らわんと、大口が開けられていた。

 が。
 閉じられるとはいっていない。

「腹壊しますよ」
 黒い影。
 ――斬! ちいさな花を手折る際となんら変わらぬ手応えで、ラッカを口へ押し込もうとその背に突き立つところであった蔦数本が根本からまとめてブツ切れに。
 くんと刃の向きを変え揮い手こと夕立は、己を巻き取らんと沸き立つ地の下の根をも深々突き刺す。人間としての呼吸よりも容易いルーチンに乱れ無く。
 そこそこのスピードと重量をしていたものだから切れた蔦の前進もただでは止まらず、だが僅かな間は、スカイダンサーの舞台を整えるに十分で。
「これこれ――!」
 ぼごぉ、と痛ましい衝突音が上がるも直前でするり潜り抜けたキマイラは、手土産に毟り取った赤色花弁で悠々うちわ。見上げる先には、口いっぱい蔦を詰め込むこととなった大花が。
「ご自分の腕の味はいかが? ってな」
「まあ。感想をお聞かせいただいても?」
 あぐあぐ吐きだしているうちに防御は疎か。
 よいのですよ。ごゆっくり、そう女は薄ら笑んだ――こちらでお聞きしますので。今や炎と一塊となった本体が空を撫で斬れば大気をも焦がし、燃ゆかまいたちが焼く有象無象。
 合わせて振るわれる一本は鉄の身を持っていながらも、軽く。閑か。
 焼け焦げつつ我が身を守ろうとした葉をばっ……さり切り捨てて。
「その調子で、下手にあちこち壊す前に死んでください」
 ね。

 ひと、うさぎ。夢見るばかりの生き物であるのは装いだけ。
 ねがいは自らの手の内。オーダー要らず、これが彼らの"いつも通り"。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
たまごサン(ロカジ/f04128)ドッチドッチ、コッチ?
アァ……そっち。

趣味のイイ花だなァ……骨の花だ。
アァ……おねーさんなんてどこに居る。ココは墓地じゃあないカ。
たまごサンは変なヤツだなァ……。

自慢の鼻は花の臭いにやられて使い物にならない。
賢い君、賢い君、たまごサンにもステキな景色を見せてやろう

相棒の拷問器具の賢い君。
薬指の傷を噛み、君にとっておきの食事を。
アァ……なーんだ、墓地じゃない。おねーさんもいない。

花を蝕む君の毒は美味いだろ?
アァ……たまごサンたまごサン、コレは花と遊びたいからヤってくれ。
そうだ、匂いはほどほどにしてくれヨ。
自慢の鼻がやられちまう。
アァ……狐だったのカ


ロカジ・ミナイ
狼くん(エンジ(f06959))、こっちだよ

こっちこっち、ほら、真っ黄っ黄!
これ花粉かなぁ?いい匂いだしねぇ
困ったねぇ、鼻水出ちゃうねぇ
なんだか…純金の襦袢のお姉さんが手振ってる気もするしねぇ…

…はっくしょぃ!!おっと、
このでっかいお花ちゃんは厄介な術を使われるみたいだ
狼くんは大丈夫かい?何かイイモノ見えてないかい?
ははぁ…墓地に襦袢か…イイねぇ〜

はい
いい気分はほどほどにして
良くない草花はさっさと刈ったり燃やしたりしちゃおうね
たぶん僕の香油の方がいい匂いするから
あるよ、無香料の香油
姿も匂いも全て燃やす香油だよ
イヌ科に優しいでしょ?
実は僕もイヌ科なんだ、狐ってやつ

※アドリブOK



 ――とはいってもちょっぴり煙たい。
 花粉の黄に燃え滓の灰、気持ち耳も垂れる帽子をいつものフードの癖でぎゅむと引っ張り、エンジは首をひねる。
「たまごサン。ドッチドッチ、コッチ?」
 たまご?
 偶然にも視線の先で透明化していたランダム・エッグの身震いを誘いながらも、エンジが探しているのはまた別のひと。
「狼くん、こっちだよ。こっちこっち、ほら、真っ黄っ黄!」
 ロカジ。敢えての高濃度の只中、派手な色彩をした男は霞まず手をひらり。高く売れんじゃない? なんて掴み取っては眺めているのだから商魂逞しくて。
「これ花粉かなぁ? いい匂いだしねぇ」
 すん、とひとつ嗅いでみるとむずむず。あっ、鼻水出ちゃう。
 おどけてみせるその瞳は同時に別のものも映している。粉のついでに掴んだものは細腕だった。
 ひとの、女のものだ。
 辿って見下ろせばなまめかしい肉付き、純金の襦袢を着込んで逆の手を誘うみたく振ってみせるというのに、ただ、顔だけがどうにも見えない。
 ――しあわせ?
 くっ。 押し殺した笑いに狼が視線を寄越す。微かな頭の動きに、花粉がぞろりと流れを変えてくすぐる鼻。
「……はっくしょぃ!! おっとお姉さんが、」
 指が、離れちゃった。仕方ない、彼女が零れ落ちてしまうのはまったくもって不可抗力。あちらさん厄介な術を使われるみたい。告げて指同士を擦り合わせれば名残もさらさら、失せ。
「狼くんは大丈夫かい? 何かイイモノ見えてないかい?」
「趣味のイイ花だなァ……骨の花だ。おねーさんなんてどこに居る」
 ココは墓地じゃあないカ。
 変なヤツ、と男を評すエンジはさして驚きもせず、金目が捉えた景色を迷わず歩んでゆく。茎が背骨なら花は髑髏。蔦は杭。がしゃがしゃ音はけたたましく、だが耳馴染みが良い。心地よい? 黙らせたいほど。
 寂れたグレーも当然――いくら叶えてやると言われても、知りもしないものを想像できるわけがないだろう。
「ははぁ……墓地に襦袢か……イイねぇ~」
「賢い君、賢い君、たまごサンにもステキな景色を見せてやろう」
 だから襤褸切れは"ステキ"と疑わない。
 代わってぼろぼろ涙を落とすように処刑道具が身を磨り減らすのは、相棒たる男が噛んだ薬指に呼応して。束の間、景色が揺らめく。ぼこんと膨らみ肉を持とうとした骨がヒトガタに近付く、

 ただその先は。

「特別にそこの花にも。君の毒は美味いだろ?」
 血色の鱗片が、己が意思が赤く塗りつぶした。ザアアァ、さざめき群れるそれは切り傷やら焼け跡にしつこく纏わりつくとっておきのプレゼント。
「おっと、もうおしまい? まぁたしかにね、たぶん僕の香油の方がいい匂いするから」
 黄にも香にも飽きてきたところ、ロカジはエンジの宝きんきら色彩に舌鼓を打ち、礼とばかりに寝台で休むときと同じ緩慢な所作で煙管に白を一筋くゆらせて。そうして漂う香しい芳香……花の甘さをも翳らせてしまうような。
「? 匂いはほどほどにしてくれヨ。自慢の鼻がやられちまう」
「こりゃ無香料さ。ムコウリョウ、分かる?」
 姿も匂いも全て燃やす香油。
 ならば一瞬流れて思えた香は去りゆく"幸"が別れ際に残した何かであったのか――知る術はないけれど。狼男の首は縦にかくん。 かくん。
「アァ……なーんだ、墓地じゃない。おねーさんもいない」
「いやぁ、儚いったらない。ひとのゆめって書くんだろう? イヤんなっちゃうね、まったく」
 お花ちゃんも取引相手は選ぶべきだったな。
 ボッ。
 同時、花の元まで辿り着いた湯気煙は火を呼び起こす。たかが煙と蔦で風起こし払わんとした無知が仇となった、ただでさえ絡まり短くなっていた緑は炎に呑まれ躍るみたく、一息にくしゅくしゅに縮んでしまう。
 張り付く鱗が一層焦がされ煮え立ち地獄の業火、もしくは地獄の窯の中? 夢も現も変わらない。もんどりうって大花が火から逃れようとする真ん前で、二人は雑談に小花を咲かせるのだ。
 ――実は僕もイヌ科なんだ、狐ってやつ。
 ――……狐だったのカ。
 どうりで尻尾がつかめない。頭のうさ耳がよっつ分、関心を示すべくぴょこ、と跳ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
はは、幸せって何ですか?
今以上に格好良い大人になって長生きする事とかですか?

やめてくれませんかねえ、くだらないものを見せるのは
この世への未練が生まれて泣いてしまうではないですか
ただでさえ大切な人が増えてしまって参っているのに

「妖剣解放」での高速移動と衝撃波、それと寿命を使って
振り回す蔦も大花も透明化したランダム・エッグも
全てズタズタのグチャグチャにしてさしあげます

なりたくて人狼になったわけじゃないのに
どうせ長生きできないなら、って折り合いつけて生きているのに
どいつもこいつもふざけやがって

ああ、ニッキーくんは敵の攻撃が地形に当たらないよう
その身を挺して守っていてください
壊れても直してあげますから


アルバ・アルフライラ
ほう、幸せにしてくれる――これは面白い事を言う
幸せなぞ疾うの昔に手に入れているさ
眼前に灰色の片割が映ろうと、ざわつく心を押し込めて
――もう戻らぬ幸せに縋りつくとでも思うたか?
斯様な侮辱、万死に値するぞ

魔方陣より召喚した【女王の臣僕】を使い、花は勿論狡猾な魔物共も凍らせてくれる
ふふん、凍らせるだけならば然程甚大な被害にもならぬだろう
撒かれた花粉は風の魔術を用いて風向きを変え、極力猟兵へ影響が及ばぬよう阻止
花粉で埋め尽くされた地形は蝶の力で凍らせ、強化解除を試みる
ふん、彼奴には不用意に動かれると洞窟が危うい故
その身を凍らせ、麻痺させ動きを制限

子等の門出を祝福する為にも
貴様には早々退場してもらおうぞ




 決して覆せないからこそ、諦めのつくものはこの世にいくつもある。
 生まれつき定められた命の尺だとか。
 喪いて久しい愛し魂だとか。その光。

「うるさいんですよ」
 さっきから――悶えるうち壁を打ち崩さんと伸びた蔦の一振り、体当たるように翔けた晴夜の利き手が裁いては。常より随分獣じみた狩りはたまご相手に引き続き……、いや一層。
 苦しみ吐き出され、濃く纏わりつく花粉の煩わしさに逆の腕を振るう。茨の海を掻き分けるに似て覚束ぬ足元は、高々踏み鳴らせど何時ぷつんと途絶え奈落へ落ちるかわからない。
 わからないのだ。
「……はは。幸せって何ですか? 今以上に格好良い大人になって長生きする事とかですか?」
 斬ったそばから形を結びはじめる花粉を引き裂き、刀を鳴らす手からどろりと零れたものは血液のようでいてずっと冷たい。暗色の怨念。悪食の妖刀が喰らってきた様々な命が、持ち主の心のささくれに悲鳴を上げるかの如く。
 くだらない。
 人狼は短命が常。まぼろしの中でだってああしてあたたかく笑いかけてくれる彼らとはぐれるときがそう遠くなく来る、どんなに強く振舞っていようとも。ハレルヤは、神なんかではないのだから。
 振り切って手荒に引き戻す刃が大気をも痛みの波と変え、少年の両脇に身を隠していた殺人たまごごと蔦の数本をぱんっと弾けさせた。
「折り合いつけて生きているのに。どいつもこいつもふざけやがって」
「まったく。面白い事を言うものだ」
 尚も突っ込む彼を支援するため、花粉に紛れて蝶が躍る。風がひとつ吹く度、次々に粉を上回る数へ膨れ上がる青は同調する体でその実ただひとりごちる男、アルバの力。
 幸せなぞ疾うの昔に手に入れている。
 故に、眼前映る灰色をした片割れに告げる言葉のひとつもない。
 声を届ける先は揺らがずオブリビオン。ひと匙分の想いは懐かしみ細められた瞳の内にだけほんのひととき、すうと視線を上げたなら、眼差しが指したかのように蝶の群れもまた上方へと吹き荒れて。
「――もう戻らぬ幸せに縋りつくとでも思うたか?」
 斯様な侮辱、万死に値するぞ。
 低く吐く。そうして狼少年に、自身に纏わっていたまやかしを霧散させる。
 胸の歪みなど押し殺すまま。宝石は完璧な比率を保ち、うつくしく瞬くがさだめ。

「ああ、これは斬りやすくなった。ま、彼らなら自らごとどうぞと笑うでしょうがね」
 そしてその上で生きてみせる、確信。信頼。 ――妖剣解放。粛々と晴夜が選んだ戦法は己が血の宿命を更に確固とするものだ。しょうもない手合いにくれてやるには惜しくとも、とっとと片すに丁度いい。
 右手からの蔦を断ち、ぼこぼこと地面をめくり上げ迫る根の合間をじぐざぐに潜り抜ける。先で葉がハエ叩きの要領で振り下ろされれば、
「ニッキーくん」
 むん!! と分厚い胸板で受け止めるからくりが控えている。
 ゴム人形同然地面を跳ね転がる彼。帽子が落ちた。頭に石柱が落ちた。だが勇士がひしゃげたおかげで守れたものは数知れず、先の崩落に巻き込まれ滑り落ちてしまっていた本物たまごのいくつかもだし、壁に床だって。
「それもまた幸せ、か」
 凛々しい面持ちで従者が魅せた――といっても表情筋自体死んでいるのだが――寸劇にくつりと喉を鳴らして笑み、アルバは指音で蝶を呼び戻す。
 当然、見逃してやるなどと優しい行為ではない。彼らの青は氷のしるし。触れたなら凍てる刃、大花の体に取り付いていたすべてがべりべりと剥がれるのだからたまらない。
 あちこちの繊維が剥き出しになって垂れ下がり、垂れた先で花粉柄の地すら白く覆い返すほどの冷気。さんざん炎で炙られてからのこの仕打ち、拷問だ……透明たまごは震えた。
 がちっ、がち。 もしかすると寒いから。だがその音は自ずから居場所を伝える他、役立たず。
『ミャ゛ッ!?』
『ツベタ……ニンゲン酷イ!! ナンデッ』
 蝶の一部は空ではたはた鮮やかに別れ彼らのもとへ。殻より逃げ出す暇も与えず、閉じ込めたままに氷漬け。
 そこら中へ白く浮き出ることとなった丸い輪郭をかこん、とヒールで蹴り飛ばし好い音がするのを確かめる様は児戯めいていたが、
「黙れよ下郎。子等の門出を祝福する為にも。貴様等には、早々退場してもらおうぞ」
「そう。時間は有意義に使いましょう」
 次の瞬間には大花の懐踏み入り晴夜の放つ神速の斬撃が、弧を描いてあたり一帯の氷を打ち崩した。

 一瞬のきらめき。崩壊は不可逆。
 覆せぬものを――本当に諦めきれる?
 本当に?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リオネル・エコーズ
屋敷の様子
俺の両頬を包む手の温かさ
いつか帰りたいって思ってた場所は、何もかも全てあの日のまま
甘い香は何の花だろう
お帰りなさいって笑う貴方を見て…思い出す

あの日笑っていたのは俺
泣いてたのは貴方
俺が行けばみんなを守れるから
だから何があっても帰らないって決めた、のに

ごめんね、母さん
どうしたら帰れるかまだわかんないんだ
でも、今何をすべきかはわかってる

白薔薇の歌姫に踊ってもらおう
踊り甲斐がありそうなのは大花かな
途中殺人卵を踏み抜いてもらえたらいいけど、俺もオーラ防御しつつ周りを気にしよ
蔦や卵が向かって来たら短剣でお返事
舞台は黙って見なきゃ

ちょっとの間幸せだったけど
幸せってさ、自分の目で見るのが一番だよ


グリツィーニエ・オプファー
はて、幸せに御座いますか
ハンスと共に居るだけで満足で御座いますが
…欲を言うならば、母たる神との再会
そして今度こそ母をこの手で――おやおや、ハンス
心配して下さっているのですか?
ご心配なく…私は大丈夫ですよ

さあ、お行きなさい
撫でた精霊を花弁と変え攻撃を致します
黒剣を抜き此方も花弁に変えたならば己の周囲を守る様に展開
多少は撒き散らされる花粉を抑えられるやも知れませぬ
卵の魔物達に迂闊に近付かれぬようしなくてはなりますまい

無論、猟兵の皆様の支援も忘れてはおりませぬ故
喰らいつきは口元に花弁を集中させ切り刻み怯ませられるか試しましょう
蔦を振り回してきた際は蔦に攻撃する等して、洞窟が破壊されぬよう細心の注意を



 少なくとも、こちらの大花は諦めきれないらしい。

 今まで地中に埋まっていた分のからだをついに引き摺り出しての全面攻勢。
 ゴゴ、と天井に地面が揺れて、またもや色濃く漂いはじめた花粉は本物たまごを後方へと逃がしていたリオネルの鼻先も掠めゆく。
(「甘い、」)
 花の香――そして。
 今の今まで抱いていた筈のたまごから伸び、やんわり抱き返してくるひとの手。撫ぜる温度は青年の両頬へ辿り着き、宝物に触れるみたく包み込む。
『お帰りなさい』
「……ぁ」
 転瞬、景色は移り変わり。洞窟? 違う。ここは屋敷で、この手は。この声は母のもの。見つめる先のやさしい微笑みだって、何もかもすべてあの日のまま。
 そっと上から包み重ねれば脳裏に溢れかえる"思い出"――あの日。
 貴方は泣いた。
 俺は笑った。
 俺が行けばみんなを守れるから、だから……何があっても帰らぬと固く誓って今日まで。そうしてこのぬくもりから、手を離すのはいつも自分からと知って。
「ごめんね、母さん」
 どうしたら帰れるか、まだわかんないんだ。ふつふつと紡ぐ、心の底では、いつか帰りたいと思っていた。小さく息を零せば揺らぐような不確かなまぼろしに夢見るほど。
「でも、今何をすべきかはわかってる」
 放蕩息子だと叱ってくれてもいい。
 けれども貴方は変わらず、大切な。守りたい命のひとつ。

 指が解けた。
 最後の瞬間、彼女が頷いた風に見えたのはきっと花粉のゆらめき……振り返らず大花へ向き直るリオネルの開いてみせた五指にはひとつのデバイスだけ残る。
「さぁ……躍ってみせて」
 胸元に握りしめたなら武器としてでなく、決意の証として。朗々唱え上げる一節へ耳に馴染む穏やかな声が重なり響くのも、きっと――きっと。
 闇に光が射すように、馳せ参じた歌姫は白薔薇のドレスをひらめかせ真っすぐに脅威へと立ち向かう。舞踏は如何? 手を差し伸べては蔦を弾き、冷凍殺人たまごを踏み抜いて。
 その度、女が刻む光輝の尾が鴉の興味をくすぐった。
「はて。幸せに御座いますか」
 続くようにと撫でれば男の手から飛び立ちゆく、彼はペットでもなんでもなく、精霊。主の周囲にぐるりと一周分だけの輪を描く端から黒藤の花弁へと変じ、守護を振り撒きながら向かう先、白薔薇を風の中へ迎え入れ。
 リオネルの体験は、グリツィーニエから見れば分にも満たぬ出来事であった。当然そこへ気付けの一撃をぶつけることもできたが、彼のかんばせを目にしたとき"幸せ"の存在を朧気に感じたから。
 ゆるりと首を傾いだ男はすこし、想像してみたのだ。
 幸せとは。ハンスと共に居るだけで満足。だが、欲を言うならばそれは、母たる神との再会に他ならない。
(「そして今度こそ母をこの手で――」)
 知らず指は剣に触れる。つめたい感触にも動じず抜かれた刃がふと動きを止めたのは、自らの周りに漂わせていた花弁が直にひたひた貼り付いてからだった。
「おやおや、ハンス。心配して下さっているのですか?」
 花に温度はない。鴉に言葉はない。
 グリツィーニエはゆっくり、手袋めいて覆う黒に指を触れる。とん、とん、幼子を寝かしつける風に繰り返しては、
「ご心配なく……私は大丈夫ですよ」
 間置かず依然、像を結ばぬ花粉の壁を断ち裂いた。まやかしは不要。いつか、いつかをたのしみに。

 白と黒との共演、盛り上がりは最高潮。
「っと、舞台は黙って見なきゃ」
「貴女も主演で御座います。どうぞ、御集中くださいませ」
 胸に抱く"母"の姿は異なれど、さも親切げに語る揃いっぷりがよく似ていた。術者から潰せ、と向かい来る蔦や根を斬り落とすその判断すらも。閃く短長の二刀はどちらも黒、今はステージの端役に徹し。
 大花はズタズタに裂かれ躍りながらも、とても不思議そうだ。
 この集団はなぜ幸せを拒むのだろう?
 先に来た人間たちは、あんなにも嬉しそうだったのに――猟兵の活躍によって幾度も散らされた花粉、それを必死にかき集めようとしている五つの姿が視界にはある。
 よそ見を許してくれるほど"悪魔"は甘くない。
 呆然と開かれた花の口へひとまとめに喰らわせる黒花弁の味わいも同様、鋭利に切り刻んでぽろぽろと牙を落とさせる禍々しさ。
 ――まもなく終幕。
「リオネル殿も、よろしいでしょうか?」
「うん。ちょっとの間幸せだったけど……幸せってさ、自分の目で見るのが一番だよ」
 だから。
 まずは未来へはばたくため、今日を歌おう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロシュ・トトロッカ
わっと、と!
今日はなんだかよく落っこちる日だなぁ!
ちょっと楽しいし好きだけどっ

んん? なんだかふわふわ、あまーいかおり……
視界はカラフルにゆがんで
気づけばとっぷり、七色の海の底
あっちにこっちに泳いでいく魚もきれいな色で
ふわふわ、ふらふら追いかけて
つーかまえた!
ぎゅっとそのうち一匹、大きいのに飛びつくと

……はっ!
おさかな、じゃない!
ぱちり目をまたたけば慌てて臨戦態勢
そうだ、たまご。幸せを探しにあの子たちが来る前に
悪ーい子は追いはらわないとね!
だって、そういうお祭りなんだもの
笑顔でぽかぽか幸せにすごせないなんて、ぜったいダメ!
スカイステッパーでたたっと空を駆け上がって
全力かかと落とし、いっくよー!


絢辻・幽子
あらまあ……大きなお口。
何を食べたらそんなに大きなお口になれるのかしら
興味はありますけど、なりたくはないですねぇ。

草っぽいですし、燃やして除草してあげましょうね

うーん、蔦に糸を絡ませたら
攻撃する際にちょっとでも威力下がったりしませんかね
洞窟壊れちゃったら大変ですし

幻覚見てる子は頬をぺちぺちして起こしましょうか
いい夢見てる所悪いけど

*幸せなまぼろしは
「ぽかぽかしていて、ふかふかしたものに包まれて微睡む」
そんなまぼろし
こんなものに、幽ちゃんは屈しませんよ
なんて頑張るかもしれません。

※真の姿は狐耳が出現して、尻尾が4つ。
(のらりくらり、人を喰ったような女狐
自分の尻尾を汚されるとものすごく怒る女)




「――わわっ、と!」
 べごん!
 力一杯に振るわれた蔦であるが、花粉嚢がおっきな岩石を砕いて撒き散らすだけに終わった。ちょうどその岩上にて頭を揺らしていたキマイラはびょん!!
 結構な高さから落ちることになるけれど、ご心配なく。こちらのロシュはスカイダンサー! 宙返りも華麗に泳ぐみたくのツーステップ、からのスリーで逆側の岩へジャンプ。
「今日はなんだかよく落っこちる日だなぁ! ちょっと楽しいし好きだけどっ」
 そしてこの笑顔だ。
 現に彼は泳ぎを満喫していた。
 まぼろしの中で、であるが――。

 ぷくぷくと泡を吐く。
 からだを浸す水は涼しい。それにすっっごくカラフル! 七色の海は周りで泳ぐ魚たちもきれいな姿で、ひらーってロシュを誘って鰭が過ってゆくものだから。
「負けないよ!」
 少年もぐんと続いて水を掻く。ふわり、ふらり、浮いて沈んで。
 追い抜いて回り込んで、誰よりも水と親しんで。あぁ――しあわせ!
「つーかまえた!」
 ぎゅむぅっ。
 大きい一匹に全身で飛びついてふふっと頬ずり。ふにふに……ふに、つる?
 つるつる?

『エッ……エ?? アノ……』
「……はっ! おさかな、じゃない!」
「そうですよぉ、これはふかふか羊さんです」
 ふ、ふかふか?
 逆側から同じ個体に抱きつく幽子がうっとり答えた。ちなみにこれは透明化して余裕の構えでいた筈のたまごです。
 驚くことに彼女が見ているまぼろしは酒浸りでも呪物でウハウハでも、ないのだ。
 ぽかぽかお天気の下、鮮やかな緑の草なんてむしゃむしゃしながらくつろぐ羊の群れ。羊といってもその毛量は五倍くらいで、もはやもふ。もふの塊。
「はぁ、いいですねぇ……最近ご無沙汰だったんですもの」
 大体、逃げるなんて酷くないですか? そんなひとを猛獣みたいに――スリスリ。スリスリスリ。
 "こんなものに、幽ちゃんは屈しませんよ"。花粉初見時に女狐が口にしていた言葉もまとめてファンシーワールドへご案内されてしまったようだ。今は微睡みの中……。
『マッ……アツイアツイ!! ヤメロニンゲン!』
「うろこが落ちちゃってるね、大丈夫? いたくない? ……じゃなくて!!」
 ひつじでもないよ!
 べちっ、と突っ張る両手で力いっぱいたまごを押しのけ転がすロシュ。ごろりん坂を滑る球体は、鈍器の強さで大花の茎へと打ち込まれた。
「むぅ、私を騙していたんです? これはいけません。悪い子、悪い子です」
「たまご……うん。幸せを探しにあの子たちが来る前に、悪ーい子は追いはらわないとね!」
 笑顔でぽかぽか幸せにすごせないなんて、ぜったいダメ!
 そしてそれはつくりものではない、本物であるべきだ。思い描く祭のあたたかみが力をくれる気さえした。空想するのはとっても上手で――かける想いはそれ以上。
 ロシュが飛び出して、幽子の呼んだ狐火がその輪郭を照らし出す。
「草っぽいですし、燃やして除草してあげましょうね」
 うらみの力か、気持ち勢いが増している気がしないでもない猛火をそのまま喰らわせては崩落が心配だ。ただでさえ大花のからだは最早割とスカスカ。
 だからと女は同時に糸をも操り伸ばして。
「これでくるっと。あとそこの皆さん、いつまでもズルいですよ」
 丁度いいところにあった、くらいの理由付けでロシュへ伸ばされていた蔦数本をぐるぐる巻き上げ引き絞る。それは火球のとおりみち。燃やしてクッション、ついでに少年の足掛かりにも働いて、ぴょん! 小柄なからだを更なる高きへと運ぶ。
 ちなみに皆さん、とは――未だ花粉に夢中な冒険者諸君のことである。頬をべちんっと打ち据える赤色は鞭ではなく糸なのであるが、そこそこの痛打となったらしく彼らの目をたちまち覚まさせる。
「ハァッ!!」
「あれっ、ドラゴン肉は!? いまたしかにあったんだよ、そこに……」
 うえ、口の中がジャリジャリ……殻!? 混乱する面々に駆け寄った他の猟兵が説明をはじめる背で、どごん! 爆炎が上がった。
 おしとやかな……とはとても言えないし頭上からはつらら石が落ちてはくるが、壁は無事らしい。
「ドラゴンね。実際食べてそうですよねぇ、あのお口」
 すこし気の済んだライラックは和らぎふすと息を吐く。あぁ、でもそれならあんなに脆くはなりませんか? とは、降る石の合間を潜り天井まで駆け上ったロシュが直上から繰り出した全力かかと落としが炸裂したから!
 真っ黒焦げ、ぐっしゃり折り畳まれた頭部から花弁がはらはら舞い散って。
「ここの水もちゃんと綺麗に戻してね?」
 前のめりにずしん、と、砂を舞わせて巨体が倒れ伏す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
【Siemen】
アドリブ歓迎

しあわせは優しくて甘くて。僕はこんなのは違うと思うから――誰もがそれぞれのしあわせを選ぶべきなんだ
だから僕は君がくれるシアワセは要らないよ
オズが駆けて
ルーナが飛んでいく
そんな大切な友達達を守れるように、僕は精一杯願いを込めて歌おう
【歌唱】にこめるのは2人への【鼓舞】、
『凱旋の歌』を
僕を、守りながら戦ってくれるオズとルーナをもっと支え背を推せるように!
敵が揺らぎ攻撃を仕掛ければ、音色変えて『魅惑の歌』を。ほらもっと、僕の歌を聴いてろよ
2人に手出しはさせないよ
僕も君達を守るからね

うん、きっと
終わらせて楽しいえっぐはんと、しよう
ルーナとオズと、楽しくたまご見つけたいんだ


ルーナ・リェナ
【Siemen】

幸せは誰かに決められるものじゃない
自分で決めるものなんだ
たとえ間違ってなくても押し付けられたくなんかないんだから!

槍になったソルと一緒に、まっすぐに敵に突っ込む
リルに行きそうな攻撃だけは甘んじて受けるけど
自分への攻撃は見切りと野生の勘で避けるよ
一面に広がってる花粉はマレーアから水を呼び出して流す
終わったらほんとの、楽しいエッグハンティングができるようにしようね


オズ・ケストナー
【Siemen】
しあわせは、もっとぽかぽかするものだよ
わたしにだってこれがちがうのはわかる

なら、あの彼女をたおせば
冒険者さんはもどってこられるんだね

ルーナを追って駆け出して
斧を振り回し
伸びる蔦を叩き切る
ルーナに迫る攻撃も【武器受け】
止まらず進めるように
まかせてっ

リルの歌がきこえる
やさしい声に守られているのを感じる
リルのところには通さない
リルのじゃまはさせないよ

頑丈な蔦に繋がれても
相手のまわり一周して逆に拘束するのに使えないかな
ルーナっ

終わったら冒険者さんに
お祭りのじゅんびしよっ
幻覚がとけても
ちいさな冒険者さんのために忙しくしてたら
しょんぼりしてるヒマなんてないよね

みんなでたのしくエッグハントっ



 幻惑喰いは起き上がれない。
 ふるふるとしている彼女に追撃を入れるのはかわいそ――なぁんて遠慮も必要ない。地面を押し返さんと我が身を支える蔦を、槍の一本が貫き崩した。
 穴は妖精サイズだから軽傷? いえいえ、次いで襲う火嵐竜の豪炎を味わったなら気絶などしていられない。
 瞬く間に燃え広がる炎に茎まで呑まれる寸前、自らへの殴打で蔦を切り捨て慌てて大花は身を起こした。既に一撃離脱を成していたフェアリー、ルーナが距離を保って得物を回す。
「あなたは大事なことがわかってない。幸せは誰かに決められるものじゃない、自分で決めるものなんだ」
 たとえ間違ってなくても、押し付けられたくなんかないんだから!
 体以上、声はずっと力強い。ぐぐ……と蔦を伸ばし機動力高き翅を毟ろうとしたところで、動きはあまりに遅すぎて。
 ザンッ。
 追って駆け来たHermes――オズの斧が通さない。一振りにて両断し、続く二撃目へは噴きつける蒸気がもたらす反動を利用して跳ね上げ、咬ませる柄で押しのける。
 そう。 しあわせは……。
「しあわせは、もっとぽかぽかするものだよ。わたしにだってこれがちがうのはわかる」
「優しくて甘くて。僕はこんなのは違うと思うから――誰もがそれぞれのしあわせを選ぶべきなんだ」
 だから僕は君がくれるシアワセは要らないよ。
 ルーナとオズの言葉に続け、リルはそっと己が心を傾ける。二人は自分へ思想を強制しないのに、まるで同じことを思っているのがなんだかふしぎだ。ふしぎで……嬉しい。
 同じ世界を歩いている。
 故に、この一曲もが友のため。
 ヴィクトワール。
「――君の勝利を歌おうか」
 希望、勇気。彼らがどちらも兼ね揃えているのは知っているけれど、その灯火をより燃え立てる祈りの奏で。
 背を押される心地は確かなもの、オズにリル……二人の助けに感謝を呟くルーナのお返しは一層の攻勢。しっかり体重を乗せ、抱えるソルの穂先を光らせ。
「オズ、合わせてくれる?」
「もちろんっ」
 同じくして歌声に力をもらっていたオズはいつでもいけると踏み出す。傷付きすぎたからだろうか、大花の反応はどこかワンテンポ遅く、そして散漫。
 先ほどの失態で学習できておらず、フェアリーとミレナリィドールへのどっちつかずの攻撃は都度巻き取られて沈黙。
 もっとも万全の状態であったとて、彼ら三人の結束の前に有効打が叶ったかどうか。

 歌声はそれひとつで楽器のよう。
 流れるように曲調を移ろわせてゆく、後方に位置していてなにより前で戦う二人が守ってくれるから、リルは大花の動きもじっくりと観察して行動に活かすことができた。
(「僕も君達を守るからね」)
 頭を二回左右に振るのは薙ぎ払いの予備動作。
 それなら贈るは"魅惑の歌"がふさわしい。声は艶を帯び、恍惚と。激情に狂わす術でありながら、それでいて紡ぎ手が内に秘める願いはあどけなくまっさら。
「ほらもっと、僕の歌を聴いてろよ」
 惹きつける。焚きつける。意識を蝕むほどに震わせ、妖精を追いかけていたはずの蔦はからだごとリルの側へと振り返った。
 その、背となる部位へ間髪入れず突き立つルーナの槍。
「背中ががら空きだよ! って、ロマンだよね」
「うんうん、かっこいい! ルーナ!」
 ごおっ! 炎がすぐさま噴き叩けばぴょんこと軽く跳ねオズは賛同するが、殴りつける斧については鉛の如く重く烈しいまま。
 でもこっちが後ろなのかな? そう素朴な疑問で首を傾げるのは、大花の元気がすっかりないから。禿げ散らかして垂れた頭は口を開ける気力もない模様。
 花粉に関しても同じようなもので、けほっ、と吐かれた黄色が時々漂って落ちる程度、万全ならはたして自分にはどんな"しあわせ"が見えていたのか――でもやっぱり、いらないや。
(「冒険者さんたち、つらそうだったもの」)
 正気に戻ったときの彼らの表情。見せかけの夢は脆い。
 それよりも、今の嬉しいと楽しいとをずっと抱えてゆきたくて。もちろんその中には共に戦う彼らもいてほしいから、笑って、手を伸ばして。
「みんなみんな、このあとのことって考えてる?」
 斧を振るうよりも速さを取り、削れ細った首を守ろうとする大花の蔦を引く。ぶっといこの一本が最後だ。
 おかげで撒く必要のなくなったルーナは体を反転させ、真ん前。
 正中に緑色した首を捉え、突き進む宙を遮るものはなにもない。翅が振り撒く光が、疎らな花粉を虹色に塗り替えて。
「もちろんほんとの、楽しいエッグハンティングがしたいな」
「うん、きっと終わらせて楽しいえっぐはんと、しよう」
 ルーナとオズと、楽しくたまご見つけたいんだ――再びの転調を迎えていたリルの歌声が友の勇姿を飾り立てる。
 わたしもいっしょ! オズが笑みを深めたなら、直撃までは秒を切り。皆で繋いだここまで、ついに花茎を上と下真っ二つに弾けさせた炎は祝いの花火の音にも等しく。

 ……――というわけで、あとは。
「っよし! これで変なもの見せられるひとも出ないかな?」
 一般人には対処できないであろう花粉のお掃除。オブリビオンの消滅とともに薄れるとはいっても時間が必要そうだから、"もしも"なんて望まぬルーナはきびきび。
 右脚に刻まれた紋様、マレーアから呼び出した水で綺麗さっぱり流してゆく。戦いの衝撃で荒れた砂だとか小岩も、こうしてなだらかに整えられて。
 尾鰭ではたんとその澄んだ色を混ぜ、ぷっかり浮いた本物たまごを集めて回るリルもこれには心地よさげ。やがて淡い花霞にも似た薄桃の縞々柄に寄りかかって、一息。
「ひんやり。生き返るきもちだよ、ふふ」
「さ、冒険者さん。お祭りのじゅんびしよっ」
 ちいさな冒険者たちのためにまだまだやるべきことはたくさん!
 幻覚が解けたってしょんぼりしてはいられない。リルが遠慮がち、オズが元気よく揺すった男の下がり眉は悲しみではなく、仰る通りだと自らを恥じるもの。
 手を貸せば握り返して立ち上がる。そこにある幸せの為だけにコツコツ頑張ってきたのだ、足取りはもう心配いらないほどしっかり。
 まずはみんなでたまごの設置からやり直そうか?
 浸した水が引く頃には、オブリビオン――幻惑喰いの大花の姿は跡形もなくなっていた。


 偽物エッグハントが終わって、やってきた本物エッグハント!
 多くを守り抜いたからこそ延期もなく開催されたイベントは、恩人である猟兵たちにも広く開かれた。
 鍾乳洞の入り口に溢れるのは、子どもも大人も眩しい笑顔。
 たまご狩りの大先輩として紹介されたものだから、一人前ぶりたいお年頃の少年少女もこそっと猟兵にアドバイスをもらいにきたり。
 賑やかで――幸せな。

 この奥には目の覚めるほどの夢やお宝なんてないかもしれない。
 だが。ひとがひとのため込めた願いが確かに、ある。
 そうと知ってこそ力を添えた、両手の指じゃとても足りない助っ人さんたちの気持ちも。

 ピィ、と産声を上げるサンドリザードがはじまりを告げた。
 高鳴る心はドキドキにワクワク、うさ耳ハットを頭に被り、これから先長らくの相棒となるであろう得物を握りしめたなら。
 さぁ――エッグハンターズ、胸を張って出発!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月28日


挿絵イラスト