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悪が栄えた試し無し!

#ヒーローズアース

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#ヒーローズアース


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● 201904 ヒーローズアース

 コンクリートの建造物が密集する市街地。
 天を衝くビルの合間を縫うように光の軌跡を描く二つの影が、空中で激しくぶつかり合う。

「くっ、くそぉ……!」
 悪態を付いたのは、覆面をまとう黒い影――――自在に空を駆けるそのヴィランは、もう一つの影……すなわちヒーローによって追い詰められていた。
「ようやく追い詰めたぞ……」
 ヴィランよりもさらに高く。上空から悪を見下ろすのは、真紅のマントを翻すスーパーヒーロー。
 その名は【トップガン】。
 この街を拠点とするヒーローチームのリーダーであり、長年に渡りこの街を護ってきた男だ。
「既に応援もこちらに向かっている。大人しく投降しろ!」
 そう呼びかけるトップガンの言葉には、状況とは裏腹に焦りが見え隠れする。
 何を隠そう、彼はとある理由により、連日の戦いによって大きく消耗しているのだ。
 とは言え、歴戦のヒーローはそれを敵に悟らせることはない。
 事実、ヴィランはその様子に気づかず、現在の戦況に活路を見いだせずにいた。

「ふっ、巫山戯るな……!誰が!」
 既に勝ち目の見えないヴィランは、それでもなおヒーローから逃れようと、彼に背を向ける。
 それを見逃すほどトップガンも悠長ではない。
 殺しはしないが痛い目は見てもらう、とその背に向けて己のユーベルコードを放とうと拳を構え……。

「……ぐあああああっ!!」
 突如としてその背後から電撃が襲い、ヒーローは近場のビルの屋上へと墜落する。
 混乱しながらも、これ幸いと逃走するヴィラン。
 それを追うことすらままらなぬ程のダメージを負いながらもトップガンは肉体の限界を無視し、正義の心を震わせて立ち上がろうとする。
「が、ぐ……何者、だ……!?」
 なんとか意識を保ちながら視線を上げたヒーローの目に映ったのは、彼にとって忘れもしない姿だった。

「な……お前たちは!?」
「ふん、驚いてくれたようだな。」
 倒れ伏すヒーローを見下ろすように並ぶのは数名の人影。
 性別も年齢も、なにもかもバラバラなその一団は、唯一の共通点は、各々の衣装に刻まれた【墜落する赤い鳥】のマーク。
「フォールズ……!何故、お前たちが……」
 その言葉に答えることはなく、男たちの一人が再び電撃を放ち、トップガンの意識を刈り取った。
「殺しはしない。お前にはこの街の行く末を是非とも見てもらいたいからな……!」
 そのヴィランたちは暗い笑みを浮かべた。
 彼らの仲間はここに居る者たちだけではない。
 遠くから悲鳴が聞こえる。
 既に多くのヴィランが街へと解き放たれ、その欲望のままに暴れているのだ。

 全ては復讐のため。
 目の前で倒れるヒーローが護ってきた街を、完膚なきまでに壊し尽くすために……。




「みんな集まったかな?それじゃ、説明を始めるよ!」
 グリモアベースが映すのは、大小様々なビルが乱立する都会の街並み。
 UDCアースの日本にも近いその風景は、新しくグリモアベースと繋がった世界―――ヒーローズアースのものだった。
「もう行った事がある人もいると思うけど、今回は新しく見つかったヒーローズアースっていう世界でオブリビオンを倒してきて欲しいんだ」

 グリモア猟兵の少女、一比古アヤメが集まった猟兵たちにそう切り出すと、その手に現れたグリモアが光を放つ。
 映し出されたのは、ビルが立ち並ぶとある街だった。
「元々この世界では、ユーベルコードを使う人達の存在が知られてるみたいでね。その力を使って悪いことをするヴィランと、それを止めようとするヒーローの戦いが度々起きてるんだって」
 前置きと共に街の各所が映し出される。
 ある場所ではヴィランが無差別に一般人を襲い、ある場所ではヒーローが多勢に無勢の有様で、なんとかヴィランとの戦いを続けている。
「で、この街ではヒーローたちが沢山のヴィランを捕まえて街の平和を護っていたんだけど……見ての通り、捕まっていたヴィランが何故か街に現れて暴れちゃってるんだよね」
 それは何者かによって、捕らえられていたヴィランが解放されたことを示している。
 その実行犯こそが、他ならぬオブリビオンだとグリモア猟兵は語った。

 過去から蘇った彼らは、ヴィランと違い、世界そのものを破滅へと導く存在。
 それが現れた以上、ここから先は猟兵達の出番だ。

「ボクの予知だと、解放されたヴィランたちは他所へは逃げないで街を荒し回ってるみたい」
 このヴィランたちは、自分たちを捕まえたヒーローたちを恨んでいる。
 彼らはヒーローへの復讐のため、直接的な襲撃を含む様々な悪事を働き、ヒーローたちが護る街を滅茶苦茶にしてしまうだろう。
 ヒーローもまた、猟兵には及ばないとは言えユーベルコードの使い手だ。
 余程の事がない限り、一方的にヴィランに負けることはないだろうが……。

「それともう一つ。今、この街のヒーローが次々に襲われて再起不能にされちゃってるんだ。あ、この解放事件の前からね」
 そちらもまた、ヴィランたちを開放したオブリビオンと無関係ではないだろう。
 ともあれ、ヒーローたちはすでに大きく数を減らしており、街に解き放たれたヴィランの対処がままならない状態なのだ。
 このまま放っておけば、いずれヒーローたちはヴィランに破れ、護る者が居なくなった街は悪徳の蔓延る地獄へと変貌するだろう。

「皆にはまず、この街のヴィランたちを捕まえて欲しいんだ」
 ただし、と念を押すようにアヤメは続ける。
「ヴィランはあくまで現地の世界の住人で、オブリビオンとは違うからね。校正の可能性もあるし、ちゃんと【捕まえて】ね?」
 そう言ったアヤメの眼は、一瞬だけ鋭い光を放ち。
「……ま、その校正のチャンスを不意にして脱獄した連中なんて、始末した方が早いけど」
 ボソリとつぶやいた言葉を聞き咎めた猟兵が反応する前に、慌てたように首を振ったアヤメがグリモアを展開した。

「……っとと!とにかく、まずは暴れてるヴィランを捕まえた上で、出来ればこの人達を開放したオブリビオンの情報を集めてね!」
 言うが早いか、転移の準備が整う。
 次の瞬間、猟兵たちは光とともにヒーローズアースへの転移を開始した。


桃園緋色
 お久しぶりになってしまいました……桃園です。
 今回は新しいワールド、ヒーローズアースでの事件です。
 第一章、第二章ともに冒険パートで、現地の人間であるヴィランが起こす事件を解決していただきます。
 第三章はボス戦。事件の黒幕であるオブリビオンとの決戦です。

●第一章
 オープニングの通り、刑務所から脱獄して街に潜伏するヴィランの起こす事件を解決していただきます。
 フラグメントの行動例は参考程度に、自由にしていただいて構いません。

●ヴィラン
 元は舞台となる街のヒーローたちに対抗するために同盟を組み、【フォールズ】と名乗って居ますが、各々の仲間意識は希薄です。
 現在は様々なユーベルコードを使う多種多様なヴィランが街で暴れています。
 彼らは総じて猟兵ならば簡単に倒せる程度の強さですが、ユーベルコードが直撃すればダメージは受けます。
 油断しすぎないようにご注意を。
 また、第一章では希望があれば「~しているヴィランを捕まえる」と言ったようにプレイングで指定していただいても構いません。

例)・街の人々を襲うヴィランを止める
  ・ヒーローを複数で狙っているヴィランを倒す
  ・隠れいているヴィランを探し出す          など

 指定が無くてもこちらで活躍の場を用意しますので、問題ありません。

●ヒーロー
 オープニングに登場した、猟兵のジョブで言うスーパーヒーローに似た力を使う【トップガン】をリーダーとした、複数のヒーローが居ます。
 ヴィランと同じくユーベルコードを使いますが、強さは猟兵に及びません。
 ヴィランとは互角程度の強さですが、オープニングの通り、すでにオブリビオンの暗躍で数が少ない状態です。
 彼らは独自にヴィランへの対応を行っていますが、プレイングで特に指定がない場合は登場しません。
 ヒーローに加勢するような内容のプレイングの場合のみ登場予定です。(この場合、オープニングのトップガンが襲われる場面への介入も可能です)


●第二章以降に関して
 第一章終了後に情報を開示します。
 フラグメントなどは公開された際にご参照ください。

 また、第一章での行動に依っては多少状況が変化する可能性があります(●の取得数や情報収集の成果などを参照)。



 説明は以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『五年熟成恨み節』

POW   :    こっちを見な! 大立ち回りを演じて攻撃を引き受ける

SPD   :    三下はすっこんでろ! 被害が出る前に制圧する

WIZ   :    安心したまえよ! 周囲への被害を当然の様に防ぐ

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ショコ・ライラ
ふーんむ
これ以上、ヒーローがヴィランに負けるとこを市民に見せるわけにはいかないねぇ
…人々に頼られるからこそ、ヒーローはヒーローたりえる
信頼を失い、市民を恐怖に巻き込む‪──‬それだけは、絶対に阻止しなきゃ

ヒーローを襲撃してるヴィラン達を【追跡】して
特に人目に付くところで戦闘してる所を見つけて倒すよ

到着したら、もう大丈夫、と
颯爽と【パフォーマンス】してヒーローと市民を勇気付ける

敵の攻撃を《FoP》で避け
【カウンター】で【クイックドロウ】、無力化を図る
お前の攻撃なんて効かないぞ、って
やっぱりヒーローは強いんだ、って
涼しい顔して見せつけてやるんだ
それがヒーローってものだから

(アドリブ・絡み大歓迎)


スピレイル・ナトゥア
「ヴィランひとりひとりは大したことなさそうですが、数の多さが厄介ですね」
とはいえ、私ひとりで街で暴れているヴィラン全員を相手に出来るわけがありません
大鷲のルパクティに辺りを偵察してもらって、より多くのヴィランさんが暴れている場所から順番に制圧していくとしましょう
囚人相手ならグラウンドジェイルのユーベルコードを使って檻のなかに閉じ込めたいところですが、あれは最後に対象をぷちっとしちゃう技なので使えないのが残念です
代わりに、以前ヒーローさんと一緒に考案したスタンショットによる【マヒ攻撃】で戦います
世界の平和を守るために、雷の精霊の力でみなさんの機械を強化したり、敵を捕まえたりもしてみるとしましょう



 炎の波が、猛毒の汚泥が、立体化した影の槍が虚空を奔る。
 周囲の市民諸共己を害そうとするそれらに対し、飛び出したのは緑のボディスーツを身にまとったヒーロー。
「やらせるものか!風のカーテンよ!」
 ヒーローのユーベルコードによって、自分を中心に周囲の人々を守るように風が渦巻く。
 竜巻の障壁はヴィラン達の攻撃を霧散させ、突如として攻撃にさらされた市民たちは安堵のため息を吐いた。

「くっ……何故コイツラが!?」
 状況に翻弄されているのは、背中合わせで周囲を警戒する2人のヒーローだ。
 周囲を囲む8人のヴィランは、それぞれが【墜落する赤い鳥】のマークを身に着けている。
 ヴィラン集団【フォールズ】。
 この街の空を自由に駆ける赤いヒーローを撃ち落とさんと集まったヴィランたちは、なんとか市民を逃がそうと奮戦する2人のヒーローをニヤニヤと遠巻きに眺めている。

 ……そしてその光景を見据える一対の瞳があった。



「さあて、そろそろお楽しみの時間だぜぇ……?」
 風を操るヒーローの防御をすり抜け、市民を守ろうとするヒーロー2人に徐々にダメージが蓄積されていく。
 巨漢のヒーローは、自慢の腕力でヴィランを打ち倒そうとするも、敵は距離をとって甚振るような攻撃を仕掛けてくるばかり。
 迂闊に市民から離れて彼らを危険に晒すわけにも行かず、放たれるユーベルコードから市民を守る盾となった2人はいよいよ膝をついた。

 ヴィラン達の目的は一つ。
 動けなくなったヒーローの目の前で、市民たちを殺すこと。

「させません!ライトニングリボンバラージ!」
 その戦闘に立った、スーツ姿のヴィランに向かって無数の光条が伸びる。
 それは電撃によって形を成した縄だ。
 雷の精霊より放たれたソレに巻き付かれたヴィランは、突然のことに声を上げる間もなく意識を失い、地面へと倒れる。

 その攻撃を放った張本人―――スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)は、混乱するヴィランが次の行動に出るより早く、ヒーローと市民を背にするように戦場へと乱入する。
「き、君は……!?」
 混乱しているのはヴィランだけでは無い。
 助けられたヒーロー達もまた、突然の乱入者が敵か味方か測りかねていた。
「心配いりません。私たちは猟兵……市民の皆さんを守る味方です」
 それより、今は彼らを。……そう言って市民の避難を促すスピレイルに、風のヒーローは我に返ると、痛む身体にムチを打って立ち上がった。
「みんな!今のうちに安全な場所へ!」

(これで一般人の避難は大丈夫そうですね……)
 その様子を見て、一先ずは安心だと息を吐く。その肩に、空から大鷲が舞い降り、己の手柄を主張するように一声鳴いた。
「ルパクティもお疲れ様。もう少し力を貸して」
 空からヴィランたちを見付け、自分達をこの場所まで導いた大鷲の精霊獣を軽く撫でると、スピレイルは鋭い視線をヴィランに向ける。
「クソッ、まだ動けるヒーローが残ってたのか!おい、さっさと片付けるぞ!」
 まだ数の上では圧倒的に有利だと、荒々しく声を上げるヴィランたち。
 だが、敵の出方を伺うまでもなく、主の命によってスピレイルを守ろうとする大鷲がヴィランを牽制し、そこに雷の精霊の力を纏った弾丸が打ち込まれた。
「ぎゃっ……!」
 呻くような声をあげ、さらに一人のヴィランが地に伏した。
(囚人が相手ならまとめて閉じ込めたいのですけど……)
 己のあつかうユーベルコードを思い返し、現状に有効な手を考えるも、火力が過剰で手加減が出来ない。
 ならばと、スピレイルは精霊印のスタンライフル……とあるヒーローから着想を得た、相手を無力化する為の武器を構える。
 その効果は今の攻撃で実証住みだ。
「数の多さが厄介ですが……これ以上好き勝手な真似はさせませんよ!」

「そうそう、その通り……ってね」
 その言葉に続くように、別方向から銃撃が放たれる。
 足を撃たれたヴィランの一人が悲鳴をあげて転げ回り、それを目の当たりにした者たちは一様にそちらを振り向いた。
「な、なんだテメエ!?」
 その場に居合わせた者の鼻をくすぐるのは、ふわりと漂う甘い香り。
 のんびりと、それでいて力強く歩を進めるのは、胸元の開いたスニーキングスーツにチョコレート色のコートを羽織った少女。
 リボルバー型の愛銃でガンプレイを披露しながら、傷ついたヒーローとその背後の市民たちに声をかけるのはショコ・ライラ(そこにちょこんとショコライラ・f17060)。
「通りすがりのヒーローよ。さ、ここは任せて早く行きなよ」
 安心させるような力強い笑みと共に銃を構えるショコに、苛立ったようにヴィランが襲いかかる。
「次から次へと……くたばり損ないのヒーロー共がよおっ!」
 その腕から放たれた炎に、ショコ余裕の表情を崩さずに一歩踏み出した。
「だーめ。全部わかっちゃうよ」
 己のユーベルコードによって、わずかな香りを瞬時にかぎ分け、ヴィランの攻撃を予測する。
 結果。まるですり抜けるように、炎はショコのすぐ脇を通り抜けた。
「BANG!なんてね?」
 惚けるヴィランは、眼にも止まらぬ早さでリボルバーに手足を撃ち抜かれ、無力化されていく。
「ほら、見ての通り。他の所のヴィランもすぐに倒しちゃうからさ」
 チョコレート色のヒーローはなおも市民に呼び掛ける。
 ヒーローはこんなに強いんだと。ヴィランの攻撃なんかものともしないんだと。
 なぜなら、人々に頼られてこそヒーローなのだから。
そして頼れるヒーローが居るからこそ市民も安心出きるのだからら。
「どこを見てやがる!」
 そうして市民を勇気づける彼女の、ユーベルコードによる察知をすり抜けて一人のヴィランの攻撃が襲いかかる。
 猛毒を含む汚泥が槍のように飛翔し、そして風の壁によって阻まれた。
「私たちを忘れてもらっては困るな!」
 ショコを援護したのは、猟兵たちに助けられたヒーロー。
 彼らもまた勇気付けられたのか、市民を守りながらもユーベルコードによる援護を行っていた。
「ふふっ、さすが!」
 危うく攻撃を受けそうになっても尚ショコは笑う。流石はヒーローだと。

「こちらもまだまだですよ!」
「そうこなくちゃね。さて、まずはここを片付けるよ!」 

 これなら予想以上に早く終わるかもしれない。
 その場に駆けつけた二人の猟兵は、ヒーローと力を合わせて次々とヴィランを捕らえていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天祐寺・ミカド
我が星は今日も騒がしいわね。
あら、しかもヒーロー側がかなり押されてる感じなのね。
それならちょっと力を貸してあげましょうか。

お、さっそく交戦の気配が。
どうやら人質を取られてヒーローは迂闊に手が出せない状況みたいね。
ヴィランの死角からアリジゴクくんを放ってまとめて拘束しちゃいましょう。
あ、アリジゴクくん、死なない程度に手加減してあげてね。

ヴィランを無力化できたら、頑丈なロープを描いて実体化。
一人ずつ縛って刑務所に送り返しましょう。
ああ、もう!暴れるんじゃないわよ!縛りにくいでしょうが!(ビンタ)

ふー、ひとつ片付いたわね。
この調子でガンガン行きましょう!



「た、たすけっ……」
 恐怖によって悲鳴を上げることすらままならず、その少年はアスファルトを割って現れた木の根に足を取られ、宙吊りにされていた。
 場所はスクランブル交差点の中心。
 この場所は先程まで、駆けつけた一人のヒーローがその奮闘により、解き放たれたヴィランの一人を追い詰めていた所だった。
 だが、植物を操る力を持ったそのヴィランが逃げ遅れていた少年を捕らえたことによって形勢は逆転する。
 迂闊に手を出すことが出来なくなったヒーローに対し、あわや捕縛されかけていたヴィランは悠々と体制を整え直したのだった。

「さあ……この輝かしい子供の未来を守りたければ、どうすべきか解るな?」
 大仰な言い回しでヒーローを嘲笑うヴィラン。
 ヒーローは歯噛みすることしか出来ない。
 その様子に満足そうに頷いたヴィランが、鬱憤晴らしとばかりにヒーローへとユーベルコードを放とうとした時……。

「やれやれ、我が星は今日も騒がしいわね」
 気取ったような台詞が、どこか軽い調子の声で響く。
 ヒーローはヴィランと人質に、そしてヴィランはヒーローへと意識を向ける中で、両者が予想しない方向から【それ】は現れた。
「なっ、なんだ!っ、化け物……!?」

 突如として虚空に現れたのはアリジゴク。
 正確に言えば、アリジゴクの頭部の『絵』だ。
 絵の具によって宙に描かれた巨大な大顎が、確かな力を持って背後からヴィランを挟み込み、動きを封じたのだった。
「ぐっ、このっ……!」
 ヴィランもその大顎から逃れようともがくが、アリジゴクは人並外れた力でヴィランを押さえつけ、身動きすら許さない。

「なっ、なにこれ……」
「ふふっ、我のお友だちよ」
 ヴィランの集中が途切れたことによって解放された少年に、アリジゴクを放った張本人、天祐寺・ミカド(神のゴッドペインター・f16819)が歩み寄る。
「よく頑張ったぞよ、少年」
 水色の髪に大きなゴーグル。手には絵筆。傍目には遊び好きな一般人にしか見えないが、彼女もまたヒーローズアースの神。
 楽しそうだから猟兵になったという彼女は、こんな時でも気負った様子も無い。
 なんとなく神っぽい口調で人質となった少年を誉めつつ、その無事を確認したミカドは手品でも見せるかのように絵筆を宙に走らせた。
 次の瞬間、宙に描かれた縄が実体化し、ミカドの手に収まる。 
「ふふん。このまま縛り上げて刑務所に送り返しましょう。あ、アリジゴク君、ちゃんと手加減しててね」
 披露した力に少年が眼を輝かせるのを見て、どこか上機嫌なミカドが一歩踏み出すと同時。
 その目の前スレスレを、鞭のように振るわれた木の根が通りすぎていった。
「だっ、だれが貴様なんぞに……!」
 最後の抵抗とばかりに、わずかばかりの力を集めてユーベルコードを発動させるヴィラン。
 その攻撃はミカドに当たる事はなかったが……。

「ああ、もう!暴れるんじゃないわよ!縛りにくいでしょうが!」

 顔を赤く腫らしたヴィランが刑務所へと送られたのは、それから十数分後だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニニニナ・ロイガー
おお~
ヴィランが暴れ放題とは聞いてたっすけど、
真面目にやばそうな感じっす~
なるべく早めに鎮圧したいとこっすね~

とは言え、目立ち過ぎても痛い目見そうでイヤっすね…
ここはヒーローさんを囮にして物陰に隠れつつ、
【見えざるモノ】でこっそり手助けする方向でいくっすよ~
…闇討ちの主犯も、猟兵がいない方が姿を現しやすいはずっすからね

てことで【ドビーちゃん】
その辺のヴィラン達を適当に転ばせたり、
武器を奪ったりして邪魔して欲しいっす~
あ、でも食べちゃダメっすよ~
後で美味しいお肉を食べさせたげるから我慢っす~

ヴィランの動きが妨害されて不審がられたら
「さすがヒーロー!かっこいいっす~!」
とでも叫んでごまかすっす



 ヒーローと共に表舞台に立ち、その強さを人々の目に焼き付ける猟兵たち。
 一方で、影ながら戦う者たちもまた、各々の流儀の元、戦いを始めていた。



「うし、こんなもんでいいだろ!ずらかるぞ!」
「アニキ、ヒーロー共の相手は良いですかい?」
「あぁ?放っておけ、連中の逆恨みなんざ知るかよ!」

 とある銀行。すでに職員は避難したその行内に、3人のヴィランの姿があった。
 各々が重火器で武装したその男たちは、同時に解放された多くのヴィランが目的とするヒーローへの復讐には興味を持たず、ひたすら私利私欲のためにその力を振るっていた。
 無人の行内で、開けるものの居ない大金庫を力ずくで破り、悠々と中身を拝借していくヴィランたち。
 騒ぎを聞き付けて集まった市民たちは、その様子を遠巻きに眺めるしかない。

 普段であれば街を守るヒーローたちがやってきて、彼らを叩き伏せて捕まえるだろう。
 いや、本来であれば既にヒーローが現れて戦いを始めているハズだ。
 そんな光景を期待する市民たちの思いとは裏腹に、ようやくヒーローが空から現れたときには、既にヴィランたちは悠々と大量の金品を運び出し、上機嫌な様子で表に停めていたオープンカーに乗り込む段になってからだった……。


「ヴィランが暴れ放題とは聞いてたっすけど、真面目にやばそうな感じっすね~」
 銀行を視界に納めることのできる、建物の影。
 所々跳ねた髪と白衣が目立つ女性、ニニニナ・ロイガー(一般UDC職員・f17135)は間延びした調子でぼやいた。
(確かにアタシでも問題なく勝てるとは思うっすけど、一介のUDC職員が目立ち過ぎても痛い目見そうでイヤっすね……)
 とは言え、現状を早く鎮圧したいのは言うまでの無いことで。

「てことでドビーちゃん、よろしく頼むっす」



 黄金のオーラを纏った女性が、その長い髪を靡かせて都市の空を掛ける。
 今回の騒ぎを鎮圧して回っている彼女は、ヴィランによる銀行強盗が行われているという通報を受け、ユーベルコードを使って現場まで飛行していた。

「あれね……!」
 光の尾を引いて、今まさに車に乗り込もうとするヴィランたちへ突撃するヒーロー。
 その様子に気付いたヴィランたちは、後部座席に乗った一人がその手に持ったガトリングガンで牽制しつつ、適当にヒーローを撒いて他のヴィランに押し付けようと車を発進させる。……が。
「おい!なにしてる!そっちは……!」
「なんだ!?ハンドルが効かねえ!」
 なぜかその車は、発進したまま方向転換することなく、道路を横切って建造物の壁に激突した。
 幸い、ヴィランたちは運転手の瞬時の判断で速度を落としたため車も原型を保っている。
 だがその隙に、ヒーローはヴィランたちをその攻撃範囲に捉えていた。
「さっさと刑務所に戻ってもらうわ!覚悟!」
 ヒーローは空中で方向を転換。飛行の勢いそのままに強烈な蹴りを見舞おうと、その速度を上げる。
 その光景は、ヴィランたち本人が刑務所に入れられる前にも見た光景。
 ヒーローによってヴィランが退治される、その直前の光景に他ならない。
「くそっ、テメエがくたばれ!」
 ヴィランの中で、即座に混乱から立ち直ったのはリーダー格の男。
 その手に持った大型の銃……ビームキャノンの方向を即座にヒーローへと向け、トリガーを引く。
「……ああっ!?なんだ、これはっ!」
 その攻撃が放たれる直前、銃口が不自然にヒーローとは別方向へと向いた。
 その瞬間、ヴィランはハッキリと感じていた。
 ……自分の手首にナニかが絡み付き、銃諸とも明後日の方向へと引っ張ったのを。

 もっとも、それを察知出来たのは狙われたヒーロー本人くらいのもの。

 なにも知らない市民たちから見た光景は、ヒーローズアースでがありふれたもの。
 すなわち、ヒーローの必殺技が派手な爆発と共にヴィランを吹き飛ばす、そんな光景だ。



「よしよし、良くやってくれたっすねドビーちゃん」
 あとで美味しいお肉をあげるっすよ~。と上機嫌な様子でニニニナが誉めるのは、不可視の触手……彼女の体内に住む相棒こと【ドビーちゃん】だった。
 ニニニナはドビーちゃんに指示を出し、不可視というその特性から、周囲に気付かれない内にヴィランを妨害し、ヒーローが直ぐに彼らを捕縛出来るように援護していたのだ。
「さ~て、この調子で影から……」
「へえ?やっぱりアンタがなんかやってたんだ」
 思わずビクっと震えながらニニニナが振り向くと、そこに居たのは例のマークを身に付けた、どう見ても悪党といった風貌の男。
 どうやら先程の銀行強盗と同じヴィランらしい。
「な、なんのことっすか?」
 惚けようとするニニニナに対し、ヴィランは無言で大型ナイフを構えた。どうやら完全に敵と認識されたようだ。

 ……最終的にニニニナはヴィランを撃破するも、街中で目立たないように敵を倒すのに苦労する事となった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

菅生・雅久
ヒーローが真にヒーローとし足るか
悪が本当に悪なのか、束の間の関わりでは判らない
それを判定する立場でもない
だが目前の事件をどうするかは自身の経験から判断する

建物破壊を止め
一般人の【救助活動】
ヒーローは影から【援護射撃】
…間接的に敵頭上に看板を落とすとかもありだね

自分は【変装】し一般人の風体で行動する
ヒーローにも立場がある
もっと強い人が居ると見せ栄光を取上げる気はない

今日まで体を張り戦ってきたその行動がヒーローだ
これからも市民を助け心の支えで居て欲しい
行動がバレたら「礼はあのヒーローにだよ」と話す

まぁ身バレしない時には思いっきりやらせて貰うけどね!
【絶望の福音】で回避して【軽く】お仕置きしておこう



 爆発音と共に、ビルの外壁が粉々に砕け散る。
 外壁が崩れ、落下したコンクリート塊が二次被害を出した。

 オフィス街の一角では、全身を無数の火器で武装したバイオモンスターのヴィランが手当たり次第に街を破壊していた。
 他のヴィランと比べても明確に、わかり易い形での『ヒーローが守る街を壊す』という行為。
 当然、派手に暴れた分だけ活動できるヒーローが現れるのも早いのだが……。

「チィッ!近づけないか……!」
「避難誘導を急げ!出来るだ流れ弾を減らすんだ!」

 空を飛ぶ力を持つヒーローがヴィランの注意を引き、可能な限りその攻撃を空へと逃がす。
 その一方で飛ぶ力を持たないヒーローは、被害を減らすべくヴィランの攻撃を防ぎながら市民を避難させようと奮闘している。

「こっちだ!ここはまだ道が塞がれていない、落ち着いてここから避難しろ!」
 そんな大混乱の中で、一人の青年が逃げ惑う市民の避難を手伝っていた。
 混乱する市民を落ち着かせ、建物の崩落に巻き込まれた者を助け出し、ヒーローの負担を減らしていく。

「ォオオオオオ!!」
 市民が避難するのを見咎めたヴィランが雄叫びを上げ、、逃げる人々を害さんとその砲口を向ける中でも、彼は落ち着いた様子で一人でも多くを逃がそうとその場に留まっていた。

「巫山戯るなっ!誰がやらせるかよ!」
 そのヴィランの攻撃に割り込んだのは、駆けつけたヒーローの一人。
 暴れまわるヴィランと同じバイオモンスターである彼は、自らの頑丈な肉体と異能を駆使し、文字通りの盾となってヴィランの攻撃を防ぎきってみせた。
「ぐっ……!お、お前も早く逃げるんだ!」
「……ああ!ありがとう!」
 礼を言いながら、先に避難した市民の後を追うように走り出す青年……菅生・雅久(人間のブレイズキャリバー・f09544)。
 他ならぬ猟兵である彼は、この騒ぎに置いてあくまで一般人として行動していた。
 この街を、そして市民たちを護った英雄という称号は、今まで体を張って戦ってきたヒーローに贈られるべきだと考える故に。
(ヒーローとヴィラン……束の間の関わりで彼らの事を評する事など出来ないが……)

 そうして自分が周囲の目に映っていないことを確かめると、雅久は自らの武器であるサブマシンガンを抜き放ち、トリガーを引いた。

「ガッ、グウうう……!」
 発砲音はヒーローたちの戦闘にかき消されて誰の耳にも入らず、放たれた弾丸が撃ち抜いたのはヴィランの真上に展示されていた看板。
 結果、誰もが意識していなかった死角からの大質量の落下が直撃し、ヴィランが大きくよろめいた。
 
 そして、それを見逃すヒーローではない。

「自分が傷つくことも構わず、市民たちを護ったその行動こそがヒーローだ」
 少なくとも、猟兵として戦ってきた自分の経験はそう言っている、と。

成功 🔵​🔵​🔴​

星舞夜・ユエ
【翠苑】の皆さんと
校正のチャンスを自ら棒に振るなんて、勿体ないです。
これ以上罪を重ねる前に、戻るべきところに戻りましょう。

【ティコの使者】を使い、高い所から戦場の様子を把握します。
連絡事項がある時は、皆さんの傍まで行き伝えます。
その際には、自分も攻撃を受けない様、注意しなければいけませんね。

襲われているヒーローを見つけたら、千歳さん、アルゲンさん、杼糸さんの中で、
一番現場近くを探索する方へ伝えます。
暗峠さんのトラップの位置を把握できていれば、
仲間の皆さんが、うっかりひっかかったりするのを防げるかも知れまんね。
ついでにトラップにかかったヴィランを見つけたら、アドラツィオーネさんにお伝えしますね。


中御門・千歳
旅団【翠苑】の皆と参加 

ヴィランを解き放つなんてさ、はた迷惑な奴もいたもんだよ 
いっちょ気張らなきゃいけないねぇ 

まずはステラや絡新婦、ヴィラン捕獲へと動く皆の援護さね 
あたしの式神じゃぁ、ヴィランを殺しかねないからね、 
威力を高めに設定した『テーザー銃』で攻撃し、気絶を狙うよ 

それと隠れて悪さしてそうなヴィランも探そうかね 
『影の追跡者の召喚』で隠れたヴィランを探し出し、マナコの仕掛けた罠の方へ追い立てるよ

文明の利器を使いながらさ、ユエや仲間と上手く連絡を取り合いながら、上手く連携していきたいねぇ
そっちは任せたよ!

捕縛したヴィランの尋問は、ザッフィーロに任せようか 

皆、良い仕事だよ! 


ステラ・アルゲン
【翠苑】の皆さんと参加
同じ正義を志す騎士としては、ヒーローの方々を放っておけません
悪さをする敵を倒すためにも彼らを助けに行きましょう

千歳殿とユエ殿の支援を受けつつ
【月光槍】のルナを手に【天満月】で傷ついたヒーロー達を癒やします

さぁもう一度立ち上がってください
この街を救うには貴方たちの力が必要不可欠です
そのための協力は惜しみませんから

攻撃は氷【属性攻撃】の【高速詠唱】で氷の盾を仲間の傍に作り出して【かばう】
ヴィランへの対処は絡新婦殿、マナコ殿、ザッフィーロ殿に任せ
私はヒーロー側へ何か情報がないか聞いてみましょう

ええ、皆さんいい戦いぶりでしたね!


暗峠・マナコ
【翠苑】の皆さんと

まぁここがヒーローズアース
噂の通り千歳ちゃんにお似合いな格好いい世界のようですね
皆さんと一緒にお仕事するの初めてなので、足を引っ張らないよう頑張ります

ステラさんのキレイな技を目を惹かれつつ、自分のお仕事をしましょう
【レプリカクラフト】でヴィランを嵌める[仕掛け罠]を用意します
ここの人たちはUCを使うとの事で、ガッツリ足に食い込む大きなトラバサミにしてみました
絡新婦さんたちの邪魔にならないよう、瓦礫の影に複数仕掛けるので、ユエさんに場所をお伝えしておきます
皆さん踏まないようにお気をつけてください
尋問はザッフィーロさんにお任せ致します

ふぅ緊張しましたが、皆さんがいると心強いです


杼糸・絡新婦
【翠苑】の皆で参加。
千歳さんや星舞夜を中心とした情報を元に
連携をとりながら行動。
ヴィランの攻撃を阻害するように
UCで鋼糸を召喚して攻撃。
ヒーローの安全はステラに任せて
ヴィランは糸で絡め取るようにして捕獲していく。
また【フェイント】を入れて動き、
暗峠の仕掛け罠にかかるよう仕向けたり、
皆が攻撃しやすいよう隙きを作る。
捕獲後の情報収集はザッフィーロに
お任せしましょかね。


ヒーロー相手のほうが良かったと
思うくらいの目に合わせばええんやろ、
心配せんでもちゃんと捕まえますよって。
自分からチャンスを逃したんやから、
今以上に苦しい状況がお好きなら
お望みどおりにしたるわ。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【翠苑】の皆と
ここがヒーローズアースか
確かに暗峠の言う様千歳嬢にあっているな…と
そう言っている内にヴィランを見つければ、『忍び足』で近づきメイスにて『気絶攻撃』を試みよう
後はステラや星舞夜、杼糸のフォローに回る様メイスにて攻撃を行いつつ動いて行こうと思う

一息ついたならば皆が捕まえた
洗脳が掛けられる全てのヴィランに【赦しの秘跡】にて洗脳を
どんな者がヴィランを解放したのか
どの様な手段を用いたのか、そして何処に行くと言っていたか等
手掛かりになりそうな事を聞き逃さぬ様、時折質問の仕方を変え記憶を引きだす様に聞き出せたらと思う
…捕まえていたからには警備はあったろうに
本当にどの様に開放したのだろう、な




 街を望むオフィスビルよりも高く。
 ヒーローズアースの空に、青く光る炎によって形作られた鳥が舞う。
 巨大なその背に乗るのはヤドリガミの少女、星舞夜・ユエ(よだかのひかり・f06590)。
 旅団を同じくする猟兵の仲間と共にこの世界へとやってきたユエは、自らのユーベルコードによって召喚した炎の鳥に乗って、戦場となった街を一望していた。

「見つけました」
 彼女が見つけたのは、今まさに一人のヒーローが複数のヴィランを相手に交戦する場面だった。
 レンズの奥でスッと目を細めたユエは、その場所を通信で仲間へと伝えると、ポツリと呟く。
「校正のチャンスを自ら棒に振るなんて……」
 あまりにも勿体無いと。そう言った彼女は、ヴィランたちを戻るべき所へ戻すために、再び戦場を注視し始めた。


「ガッ、グ……」
 街を護るヒーローの一人、『キングタイガー』の鍛え上げた巨体がアスファルトを転がり、ビルの壁面に叩きつけられた。
 うめき声と共に彼が見上げるのは、まったく同じ黒のボディスーツに、まったく同じ無骨なガントレットで武装する歳場も行かない3人の少年たち。
 それぞれ『アルファ』『ガンマ』『ゼータ』と呼ばれるヴィランたちは、同じ組織によって改造された強化人間たち。
 嘗ての戦いでも、その抜群の連携でヒーローたちを脅かしたヴィランたち。
 それを相手に立った一人で挑むのは、歴戦のヒーローでも無謀だった。

「対象の無力化を確認。捕縛に移ります」
 そのうちの一人、ガンマがガントレットに仕込まれたスタンガン機能を起動させ、ゆっくりとキングタイガーに近づいていく。
 指一本動かすことも出来ず、それを見ていることしか出来ないヒーロー。
 そして、ガントレットを構えたガンマの耳に届いたのは、鈍い打撃音と味方が地に倒れる音だった。

「……!?」
 慌てて振り返った彼の視界に映ったのは、倒れ伏すゼータと、その後ろに立つメイスを構えた短髪の男……状況から見て、ゼータを殴り倒した『敵』の姿だった。

「ふむ、上手く行ったようだな」
 油断なく、自らが倒したゼータが完全に意識を失っていることを確認したザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の傍らに、人の姿を取ったブラックタールの女性、暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)が並ぶ。
「ここがヒーローズアース……噂の通り千歳ちゃんにお似合いな格好いい世界のようですね」
「ああ、なるほど。確かに千歳嬢に合っているな」
 それは決して油断ではなく。
 確かに周囲を警戒しながらもそれを表に出さないザッフィーロと、頼もしい仲間と共に居ることで自らも自然体で戦場に立つマナコ。
 2人が初めて訪れる世界を悠々と観察している間に、通信機でユエと情報を交換した中御門・千歳(死際の死霊術士・f12285)が後ろから指示を飛ばす。
「雑談は後にしな!さっさとこの場を収めて、黒幕の情報を集めるよ!」
 老齢でありながら、戦場を踏みしめる足は力強く。彼女に続き、同じ旅団に属する猟兵たちが戦場に足を踏み入れる。
「さあ、気張っていかないとねぇ……!」
 千歳はテーザー銃を手に、好戦的な笑みを浮かべてみせた。



 新たに現れた猟兵に対し、2人の強化人間、アルファとガンマは即座にユーベルコードを発動する。
『アクセル、起動』
 強化改造によって手に入れた力により、高速戦闘モードを発動させた2人は即座に各々の役割を分担して行動を起こす。
 その片割れたるアルファは、既に倒れたヒーローを捕縛することを諦め、敵戦力を減らすべくトドメを刺そうと高速でキングタイガーに襲いかかった。
「やらせません!」
 そこに割って入り、月の力を宿した槍でアルファの攻撃を打ち払ったのは男装の麗人、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。
 騎士の装いを身にまとう彼女は、そのまま敵を振り払うと、自らの背に庇ったヒーローへと言葉をかける。
「さぁもう一度立ち上がってください。この街を救うには貴方たちの力が必要不可欠です」
 凛々しい声でそう告げるステラは、その装いに見合うような正義の心を持って、ヒーローを癒やすべくユーベルコードを発動させる。
「夜の闇を照らし導く満月よ。どうか手を貸してくれ」
 その祈りによって現れた月の光が、キングタイガーの傷を癒やしていく。
「!……阻止、優先」
 その行動を察知したアルファが、祈りによって無防備になったステラを攻撃すべく一歩踏み出す、その直前。
 その足を絡め取るべく伸ばされた鋼糸を察知し、やむなくアルファは後ろに飛び退いた。

「お前さんの相手はこっちや」
 白い着物を着こなし、己の本体の複製たる【絡新婦】の銘を持つ鋼糸を操るのは杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)。
「まったく、態々逃げおってからに……。ヒーロー相手の方が良かったって後悔しても知らんで?」
 アルファが絡新婦の攻撃から逃れるうちに、千歳たちを牽制していたガンマもまた後退し、2人は猟兵たちに包囲される形となる。

 明らかに数で劣る状態で、背中合わせに構えるヴィラン、アルファとガンマ。
 彼らは猟兵たちを相手に退く様子も見せず、お互いの隙をカバーするように駆け出し、攻撃を仕掛け始めた。


「ぐ……き、君は?なぜ俺を助けたんだ?」
 どうにか立ち上がれる程度まで回復したキングタイガーは、自分を守るように立つステラに声をかけた。
 突然現れ、明らかに自分たちヒーローを凌駕する実力を持つ猟兵たちにわずかながら警戒を抱くキングタイガー。
 それに対し、ステラは当然といった様子で答える。
「言ったでしょう?この街を救うにはあなた達の力が必要です。それに……」
 一拍置いて。
「同じ正義を志す騎士として、あなた達を見捨てることなんて出来ませんよ」
 そう言いながら、魔術を発動させ氷の盾で味方を援護するステラの様子に、一瞬だけ呆けた様子のキングタイガーは頼もしい味方が現れたと笑みを浮かべた。
「……なら、改めて頼む。力を貸して欲しい」
 そう言って頭を下げるキングタイガー。
「この街のためにも……そして、アイツらのためにもな」


 戦場は明らかに猟兵の優勢で推移していた。
 速度で言えばアルファとガンマが猟兵たちを圧倒している。
 しかし、元から同じユーベルコードの使い手であっても、猟兵の方が圧倒的に格上だ。
 ヴィランたちが得意とする格闘戦は、前衛に立つザッフィーロのメイスとステラが操る氷盾に阻まれ、ソレを迂回しようとすれば千歳のテーザーが牽制に撃ち込まれる。
 そして何より。
「……また、罠」
 攻撃の合間に、マナコがレプリカクラフトによって作り上げた罠があちこちに設置されていた。
 高速で動き回り、敵を翻弄するという戦術上、戦場を広く動き回るヴィランたちは、危うく物陰に仕掛けられたトラバサミに足を取られかけ、その度にユーベルコードを酷使することでかろうじて戦線を保っていた。

(……妙だねぇ)
 その様子に首を傾げるのは歴戦のエージェントである千歳。
(勝ち目がないのは明らかだって言うのに、まるで時間を稼ぐような……)
 その疑問は、上空のユエからの通信によって氷解されることになる。



 街のメインストリートを、目にも留まらぬ速さで駆け抜ける二つの影。
 『ベータ』と呼ばれるそのヴィランは、仲間からの通信を受け取り、彼らの増援となるべく戦場へと駆けつける最中だった。

 送られた位置情報を元に戦場へと近づいた彼は、狭い裏路地を経由して戦場へと突入。
 事前情報から罠を避け、視界に入った戦場にターゲットを見つけ出す。

(いた……指揮官)
 その目が捉えるのは、猟兵たちに指示をだす老齢のエージェント。
 高速起動によって得た勢いのままに、その無防備な背中にガントレットを叩き込もうと跳躍して。

「……そこだね?」
「!?」
 背中越しに放たれたテーザーの銃撃を正面から受け、一瞬で意識を奪われた。

(……あれ、は)
 薄れる視界の中に捕らえたのは、小さな黒い影。
 他でもない、千歳が予め召喚していた影の追跡者に寄って戦場に近づいた段階で補足されていたベータは、まんまと誘いに乗ってしまう形で撃破されたのだった。


「っ……!」
「撤退を……」

 奇襲を仕掛ける手はずだったベータが撃破されたことを受け、動揺する2人。
 そんな好きを逃さず、絡新婦がその糸でアルファを絡め取る。
「あっ、ぐ……!」
「やれやれ……時間ばかり取られてもうたな」
 四肢の自由を奪われ、倒れ伏したアルファに絡新婦は冷たい声を掛ける。
「自分からチャンスを捨てたんや。今より苦しいのがお好きなら、その通りにしたるわ」
 同時にアルファの意識は刈り取られ、残るは一人。

「ぎ、ああああっ……!!」
 そして、2人が倒された事で撤退しようとしたガンマも、激痛に悲鳴を上げ、地面を転がっていた。
 戦闘中にも罠を生成していたマナコは、ヴィラン達の意識がベータの撃破によって逸れた隙に新たな罠を設置し、ガンマを誘い込んだのだ。
 ヴィランがユーベルコードを扱うと聞き、その対策として巨大で頑丈なトラバサミを用意していたマナコ。
 その威力は常人には想像もつかないだろう。

「ふう……やっぱりみなさんが居ると心強いですね」
 初の共闘を終え、安堵のため息を吐くマナコ。
「いや、暗峠もよくやってくれた」
「ええ!皆さんいい戦いぶりでしたね!」
 ザッフィーロとステラが労いの言葉をかけ、仲間たちはそれぞれの奮戦を称え合う。
 そして……。

「さて、あとは任せたよ」
 千歳がそう告げると、頷いたザッフィーロは捕らえられたアルファの元へと歩み寄る。
 彼のユーベルコードは、意識を失った相手を妄信的な狂信者へと一時的に変貌させる……いわば洗脳にも近い能力。
 ともすれば非人道的なその力を以て、ザッフィーロはこの事件の黒幕の情報を得るべく尋問を開始した。


「終わったようですね」
 上空で周囲を警戒していたユエは、一先ずは片付いたと一息入れた。
 先程のベータの奇襲を迎え撃てたのは、他ならぬユエが敵の姿を捕らえ、予め仲間たちに知らせていたからに他ならない。

 ユエの視線の先では、ザッフィーロが捕らえたヴィランをユーベルコードによって洗脳し、情報を聞き出している。
 その様子であれば、敵に関して新たな情報を得ることが期待できそうだ。

 ならば、今は妨害が入らないように警戒しているのが自分の役目だろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『病院占拠→解決』

POW   :    正面から突っ込み囮になる!/手当たり次第に探索!

SPD   :    密かに潜入し被害者を救出!/要所を抑えていく

WIZ   :    犯人達と交渉するふりをして目を逸らさせる!/外部から内部情報を調べる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 街で起きた騒動の大半を鎮圧した猟兵たち。
 ヴィラン達によって残された爪痕は大きく、復興に時間がかかる場所も多いだろう。
 だが、少なくとも目下の驚異は去ったように思われた。
 そんな中で猟兵たちは、自分たちと交戦すること無く逃れていったヴィランたちが一様に同じ建物へと逃げていくのを目撃した。

 それは、郊外に建つ大病院。
 先程までの騒動に置いて、地元の警察はヒーローたちの間でも全く名前が上がることのなかった場所だ。
 そしてそこは、他でもない。
 この事件より前に襲撃を受け、再起不能とされていたヒーローたちが治療を受けて入院している場所でも有る。
 
 どうやらこの事件は周到に計画されていたらしく、街で暴れるヴィランを囮にして、誰一人として外部の人間が気付く間もなく病院は占拠されていたらしい。

 病院を占拠するヴィランの存在が明らかになってなお、内部の詳細は判明していない。
 わかっているのは、全ての出入り口が固く封鎖されているという事。
 現在は出入り口をヴィランたちが堂々と警備しているという事。
 未だ内部には戦闘能力を持ったヴィランたちが残っているという事だ。

 猟兵たちは、病院を解放すべく現地へと急行した。


「っと、みんな!現場に行く前に共有してもらいたい情報があるんだ」
 病院を望む位置まで移動した猟兵達の前に現れたグリモア猟兵・アヤメは、先程の戦いで一部の猟兵がヴィランから得た情報を、その場の全員に共有すべくグリモアを展開し、情報を表示していく。

・情報を持っていたヴィランは、バイオモンスターである。
・ヴィランたちを刑務所から開放したのは、無数の猿だった。
・脱獄を手引きした本人は、何かの研究の為に占拠中の病院の設備を利用している。
・上記の事もあり、ヴィランにはあまり干渉してこない。

「とりあえず、聞き出せた情報の中でハッキリと言えるのはこれくらいかな?もっとも、これはオブリビオンに関して詳しく知らないヴィランが喋った内容だから、そこの所は頭に入れておいてね」

 とは言え、一つハッキリとした事がある。
 少なくとも、オブリビオンは占拠された病院の中に居るらしい、ということだ。

 その場に集まった猟兵たちは、改めて不気味な静けさを保つ病院へと視線を向けるのだった……。
 
天祐寺・ミカド
え、ヒーローが入院してる病院でしょう?心配ね。

『怪我をしたフォールズ』を装って潜入。
宙に描いた【墜落する赤い鳥】のマークを実体化させて、胸に貼る。
顔や腕に傷も付け足しておきましょう。わりといい感じね?

出入り口で警備に悔しそうに話しかけるわ。
「クソッ、ヒーローに味方する奴らに邪魔された!隙を突いて逃げてきたけど、怪我しちゃって。手当てしたいの」
うー、ドキドキするわねこういうの。

入れたら、ヒーローが閉じ込められた病室がどこか探索。
見つけられたらこっそり解放してあげる。大丈夫、我の神対応なら怪我もすぐ治るわ。あと、ヒーローにもマークを描いて貼ってあげる。静かに我が入った場所とは別の出入り口から外へ。



「クソッ、ヒーローに味方する奴らに邪魔された!隙を突いて逃げてきたけど、怪我しちゃって。手当てしたいの」
「チッ、他の奴らが言ってた増援か。あんな奴ら、何処に居やがったんだ……?」
 まあいい、さっさと入れ。と味方にするには杜撰な対応で、正門を守っていたヴィランはあっさりと天祐寺・ミカド(神のゴッドペインター・f16819)を中へと招き入れた。

(うわっ、カンジ悪いなぁ……。今回は逆に助かったけど)
 病院を占拠するヴィランたち、フォールズのマークを身に着けたミカドは、まるで激しい戦いを繰り広げたように傷や汚れで全身を彩っていた。
「っと、これはもう良いか」
 言いながら顔についた傷を擦ると、それはあっさりと剥がれ落ち、溶けるように消えた。
 ミカドは自身の力で描いた傷跡によって、ヒーローにやられたヴィランであるかのように敵を誤認させていたのだ。
 元々フォールズがヴィランの寄り合いに過ぎない点を利用して侵入を果たしたミカドは、何食わぬ顔でヴィランの一員として振る舞い病院を探索していく。

(まずは捕まってるヒーローの解放ね)
 廊下に人気は少ない。
 時々すれ違うヴィラン達も、身につけたマークから味方だと思っているようだ。
(うー、ドキドキするわねこういうの)
 ヴィランとすれ違う度に冷や汗をかきながらも、ミカドは病院の構造と、人が集まっているであろう場所を把握していく。
「……!あそこね?」
 そうして探索を続けてるミカドは3階の端に、武器を構えたヴィランが守る病室を発見した。
 しかし、そのヴィランは遠目にも真面目とは言えない態度だった。
 それを訝しみつつも味方のふりをして近づいてくミカドに気付くと、そのヴィランは警戒する様子も無く話しかけてくる。

「おっ、もう交代か?」
「えっ、ええそうよ。代わるわ」
「おう、なら休ませてもらうわ。もう見張りなんざ必要ないだろうに、お互い運がねえよなぁ」
 そう言いながら扉の鍵をミカドに渡しあっさりと持ち場を離れていくヴィラン。
 その様子を不審に思いながらも、周囲に人影がなくなったのを確認したミカドはさっさと扉を開くと、中を覗き込んだ。

「くっ、いよいよか……」
 中はいくつものベッドが並んだ大きな病室だった。
 だが、部屋の広さに反して使われているベッドは一つ。
 捕まっているのは激しい戦闘の跡なのか、全身に包帯が巻かれた病院着姿のヒーローが一人。
 入院していた所をそのまま拘束されているらしい。

「待って待って!私は味方よ!」
 言いながらヴィランのマークを剥がして見せると、ミカドは呆気に取られたヒーローに手をかざす。
「とりあえずは治療ね。すぐに治してあげるわ」
 その手から光―――ミカド自身の神としての力の欠片がこぼれ落ち、ヒーローを癒やしていく。
「お、思ったより疲れるわね……。とりあえず歩けるくらいには回復したと思うわ」
 ヒーローが恐る恐る体を動かしてみると、確かに再起不能と診断されていた体が、歩く程度なら問題ないレベルまで回復していた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして、っと。それじゃ脱出するわよ。」
 言いながらヒーローにも脱出を促し、来た時と同じ様に彼を連れ出そうと考えるミカド。
 しかし、その前にヒーローがストップを掛ける。
「ま、待ってくれ!他のヒーローたちも助けて欲しいんだ!無理を言っていることは理解してるが、頼む……!」
 彼の必死な様子に圧されながらも、ミカドはヒーローに向き直って話を聞く。
「そう言えばこの病室もやけに広いし……。他のヒーローたちはどこに?」
「わからない……。捕まってから今までの間に、何回か大きな猿たちがここにやってきて」
 そこで一度言葉を切り、ヒーローは猟兵達の想像以上に事態が進行していることを伝える。

「仲間たちは順番に何処かに連れて行かれてしまったんだ……!」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

スピレイル・ナトゥア
「病院が占拠されているのなら、一刻の猶予もありませんね」
ヴィランさんやオブリビオンさんに捕らえられた患者さんたちのことが心配です
あまり時間をかけるわけにもいきません
正面から一気に突っ込んで、病院を制圧して患者さんたちを救出するとしましょう
飛び道具は患者さんに当たって危ないかもしれないので、炎の加護を受けた剣で接近戦を挑むことにします
接近戦はあまり得意ではないのですがが、そこは【捨て身の一撃】を繰り返すことでカバーします
【オーラ防御】を全開にした状態で、攻撃を何度受けたって進んでみせます!
土の精霊の加護を受けた鎧と【オーラ防御】の圧倒的な防御力があれば、【捨て身の一撃】でもダメージ0で安心です!



「病院が占拠されているのなら、一刻の猶予もありませんね」
そう呟いたスピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)は、青い瞳でまっすぐに病院を見据えると、正面からヴィランたちを制圧する事を選択した。
 拙速は巧遅に勝ると言わんばかりに迅速に、正門から乗り込んでいく。

「なんだこのガキ……いや、まさかコイツ!?」
 乗り込んでくるスピレイルを見た門番たちはまず、その外見を侮り、次いで街でヴィランたちを制圧した猟兵達の情報を思い出して戦慄する。
 そして彼らが武器を構える前に、スピレイルのユーベルコードが発動した。

「これが、私からのせめてもの餞別です!」
 言葉とともに、精霊たちがキマイラの巫女姫へと力を与えていく。
 その手には炎の精霊の加護を受けた剣が握られ、その体を土の精霊の力を宿した鎧が覆っていく。
 そして全身に纏う雷光は、雷の精霊による身体強化の証。
 ヴィランが仲間を呼ぶより早く、スピレイルの剣戟がその意識を刈り取った。


 そのまま正面玄関を潜り抜け、エントランスホールをへと足を進めたスピレイル。
 ホールに待機していたヴィランたちが慌てて戦闘態勢を整える前に。
「遅いですよ」
 全力を込めた剣の一撃が、更に一人のヴィランを吹き飛ばし気絶させた。
(やっぱり、手加減して気絶させるのは難しいですね)
 スピレイル自身は接近戦が得意な方ではない。剣術も我流であり、それをカバーするために一撃一撃に全力を込めているが、それに加えて手加減しなければならないのは神経を使う。
 とは言えそれを知らないヴィランから見れば、スピレイルは遥かに格上の相手だ。
「なっ、嘘だろう……!?」
「くそっ、マジでヒーローより強えじゃねえか!」
 その様子に戦慄するヴィランを尻目に、スピレイルは素早くホールの様子を確認する。

「っ、させません!」
 スピレイルの眼が捕らえたのは、受付を兼ねたナースセンターへと押し込められている病院職員の姿。
 その近くを見張っていたヴィランは、彼らを人質にしようと思い付き、ナースセンターの扉に手を掛けた。が……。
「があっ……!」
 動き出した所にスピレイルの一撃が加えられ、ヴィランが吹き飛ぶ。
「もう大丈夫です!暫く伏せていてください!」
 人質となった職員を安心させるように声を掛けると同時、ヴィラン達のユーベルコードが撃ち込まれる。
 ヒーローの味方であるなら人質の盾になるだろうという魂胆か、一人が攻撃を始めれば、ホール中のヴィランが全力でそれに続く。
 下手をせずとも人質にまで被害が及ぶであろうユーベルコードの嵐。
 それに晒されてなお、スピレイルは余裕の表情で宣言してみせる。

「その程度では、私は倒れませんよ」
 そうして攻撃が止んだ時、鎧と精霊の光によって守られたスピレイルは無傷だった。
 後ろに逸れそうな攻撃すらも光のオーラで受け止めて見せた彼女に、ヴィランたちは戦慄し、半狂乱になって攻撃を繰り返す。
「何度攻撃してこようと、私は止められませんよ」
 剣を握り直し、スピレイルが一歩踏み出す。

「絶対に捕まった人たちを解放してみせます!」
 その後、10分と掛からずにスピレイルはエントランスを制圧し、その場にいた人質を解放して見せた。

成功 🔵​🔵​🔴​

中御門・千歳
旅団【翠苑】の皆と参加 

病院を占拠、ねぇ……
入院中のヒーローが心配さね
ちゃっちゃと事件解決をしてやらないとね

式神召喚・具足を使用して、侘助と錆丸を真正面から突っ込ませるよ
まぁ、うちの式神は図体もでかくて目立つからね、囮にはぴったりさね
ただし、ヴィランと接敵したときは、やり過ぎないようにしっかり言いつけないといけないねぇ

囮役としてはステラと一緒さね
さぁて、皆が動きやすくなるようにたっぷりと暴れるよ
ただし、病院内は部屋が多かったり何だりで奇襲がありそうだねぇ
こういった戦いは婆ぁの経験が生きてくるよ
『第六感』で奇襲がありそうな場所にピンときたら、指示を出すよ
ステラ、侘助っ!そこの部屋だよっ!


ステラ・アルゲン
【翠苑】の皆さんと参加
まさか病院を占拠されてしまうとは……
中に居る人達が心配ですがここは絡新婦殿達に任せましょう
重症の方もザッフィーロ殿がいらっしゃいますから安心ですね

私は元より回復を得意としていません
剣故に荒事の方が得意だからな!

真の姿を開放。【白銀の鎧】を身に纏う
千歳殿の式神達と共に正面で大暴れといこうか

ほら、どうした。怖じ気付いたか?

挑発しつつ【存在感】を出してヴィラン達の注意を引いて囮役
【月光槍】のルナと本体の【流星剣】を手に【2回攻撃】で大立ち回り
【凍星の剣】の威力を抑えつつ、周りのヴィラン達を氷漬けにして動けなくして無力化する

さて、他の人達がうまく動けているといいのですが……



 制圧されたエントランスホールを抜け、場所は二階。
 ここには2人の猟兵の姿があった。

「いきな、侘助っ!錆丸!さっさと働くんだよっ!」
 中御門・千歳(死際の死霊術士・f12285)の呼びかけに応え、病院の廊下に二体の異形が姿を現す。
 髑髏顔の鎧武者―――侘助。
 鋼の体を持つ大百足―――錆丸。
 その異形に、遠巻きに様子を見ていたヴィランたちが恐怖の声を漏らす。

「捕らえられている方たちは大丈夫でしょうか……」
 その隣で人質の安否を心配するのは、騎士の装束を纏う男装の麗人、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。
 騎士としての正道を貫かんとする彼女にとって、罪もない人々が傷つけられるのは許す事の出来ない事態だ。
「なぁに、人質の事は中の連中に任せておけば問題無いさ。その分あたしらは自分の仕事をしっかりこなさないとねぇ」
「……ええ。そうですね。絡新婦殿たちなら、きっと」
 千歳の言葉に、ステラは不安を振り払うように一度目を閉じると、捕らえられた人々のことは頼れる仲間たちに任せて自らの役割を全うしようと前へと向き直る。

 スピレイルに続いて正面からの制圧に乗り出した2人の役割は、他でもない囮。
 ヴィラン達の注意をこちらにひきつけ、別方向から侵入した仲間たちが動きやすいように敵を釘付けにする為に正面から姿を見せたのだった。

「では、行きましょう」
 言葉と共にステラは真の姿を解放する。
 そこに現れたのは白銀の鎧を纏う騎士。
 ステラは兜越しに、廊下の先で待ち構えるヴィランたちを睨みつけた。
(たとえ捕らえられた人々の中に重傷者が居ても、ザッフィーロ殿が居れば問題ない。回復なら、彼の方が適任だ)
「元より、私は荒事の方が向いている。……行くぞ!」
 ステラが駆け出すと同時、ヴィラン達も覚悟を決めたのか、数人が真っ直ぐに突撃してくる。
 接近戦を得てとするらしいヴィランたちは、形だけでも連携を取ろうというのか、それぞれがタイミングをずらして防ぎにくいようにユーベルコードによる攻撃を仕掛けてくる。
「甘い!」
 対するステラが構えるのは月光の槍と、ヤドリガミたる自らの本体―――流星剣。
 槍と剣という、間合いも扱いも違う二刀流を見事に使いこなし、ステラはヴィランの攻撃を次々と捌いていく。
 そして。
「な、なんだ!?腕が……」
「ちくしょう!動かねえ!」
 ステラの持つ武器の刀身から発される冷気が、ヴィランたちの手足を凍りつかせ、動きを封じていく。
 数人のヴィランを一瞬で無力化したステラは、その勢いのままにこのフロアを制圧すべく歩を進める。

「この先は分かれ道になってるはず……。錆丸!あんたが先行しな!ちゃんと手加減はするんだよ!」
 病院の見取り図を把握した千歳は、的確に式神へと指示を出してヴィランを追い立てていく。
 挟み撃ちに合いそうな箇所へは式神の巨体を活かした突撃の勢いで敵の目論見を崩し、さらには派手に暴れることでヴィランたちの危機感を煽ってこちらへと注意を向ける。
(さあて、人質が居そうなのは反対側の大部屋だが……)
 無人の野を逝くかの如く制圧を進め、確実に二階のヴィランを捕縛してく一行。
 敵は時間を稼ぎたいのか、散発的に遠距離から攻撃を加えては後退していく。

「ステラ、侘助っ!そこの部屋だよっ!」
 そんな折、戦場で鍛えた第六感によって奇襲を察知した千歳が指示をだせば、侘助が倉庫らしき一室の扉を一刀で切り捨てる。
 そこで待ち構えていたヴィランが驚きに動きを止めれば、即座にステラがユーベルコードによって捕縛し、あえなくヴィランは廊下に転がる事となった。
「気配を消して奇襲の機会を伺っていたのか……。流石ですね、千歳殿」
「ふん、伊達に歳を食っちゃいないのさ。それより気をつけな、まだまだ敵は多いんだからね」

 ……おい!……、増援……だか、……!?
 ……あの猿は……?
 ……、……薬を……。……!!


 耳をすませて見れば、ヴィランたちが増援を別のフロアへと要請しているのか、大声で何かのやり取りをしているのが聞こえる。
 少なくとも、千歳とステラの驚異はヴィラン達の間で共有されたようだ。
 フロアの制圧にはまだかかるが、その前に増援を含めた大量のヴィランとの戦いが待っているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

星舞夜・ユエ
引き続き【翠苑】の皆さんと

杼糸さんが開錠された場所より、ひと気が無い事を確認してから潜入
潜入後すぐに【ポルックスの導引】で分身を召喚します
【潜入班】の皆さんが情報収集に集中できるよう、 私は先頭、分身には後尾を警戒して貰います
皆さんの事は、私達が必ずお守りします

ヴィランを発見、または遭遇したら、
可能であれば背後から、もしくは分身と共に二人がかりで、
手持ちの長杖でボカッと殴って気絶させます
本来戦闘要員ではありませんので、卑怯などとは言っていられません
また悪さをしない様、ロープで縛って捕縛しましょう

仲間が核心に迫る様な情報を入手した時は、
他の場所で戦う仲間に連絡を入れて合流します


杼糸・絡新婦
【翠苑】の皆と参加。
表は千歳さんやステラに任せて、
こっちもやることやりましょか。

SPDで行動
敵の警備に気をつけながら
【鍵開け】で窓から潜入と
星舞夜、ザッフィーロが潜入しやすいよう誘導。
【忍び足】で行動し、互いに警戒して進む。
被害者、特に重傷者優先で救出を行う。

病院内部で得た情報やや暗峠と合流して【情報収集】
必要な情報は他のメンバーとも共有する。

ヴィランに遭遇した場合、
UCで鋼糸を召喚し武器の破壊や敵に絡みつき、
行動を阻止することで捕獲にまわる。
・・・誰の攻撃がまっしなんやろうなあ。
病院まで襲っておいて手加減するのもあれやけど、
この世界のことやししゃあないか。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【翠苑】の皆と
杼糸の鍵開けに乗じ、俺も中へと潜入を
もしはいれなそうならば裏の出入り口等で敵が出て来るのを待ち伏せメイスにて『気絶攻撃』
中へと忍び込もう
暗峠は無事だろうか…同じく侵入している筈だが
…『聞き耳』や『第六感』で何かあったら駆け付けられる様にはしておきたい所だ
基本は『忍び足』にて物影に隠れつつ移動しつつ被害者の『救助活動』を
【生まれながらの光】と『医術』を用いて行って行こうと思う
救助活動の合間に『情報収集』も行えれば良いが…他にも情報を集めている者が居る故出来れば、といった形だろうか
もしも敵に見つかった場合はメイスで『気絶攻撃』をし、物影に隠しておければと思う




「よし……こんな所やろ」
 カチャリと音を立てて、施錠されていた窓が解放される。
 手際よく鍵開けを披露して見せた着物姿の青年、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は素早く内側を覗き込むと、人が居ない事を確認して仲間を招き入れた。
「誰もおらんな……。二人共、今のうちや」
「こちらも終わりました」
「ふむ、あちらは上手くヴィランたちを引きつけてくれているようだな」
 絡新婦に続いて星舞夜・ユエ(よだかのひかり・f06590)とザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が窓を乗り越え、病院内へと侵入する。
 ピシャリとしまった扉の脇……植え込みの陰には、ユエとザッフィーロによって気絶させられた巡回中だったらしいヴィランが、タンコブの治療もそこそこに縛られた状態で転がされていた。


「では、協力をお願いします」
 ユエがユーベルコード、『ポルックスの導引』を発動させると、そこにはユエと瓜二つの、色違いというべき外見の分身が現れる。
「私が前を」
「私が後ろを警戒します」
「みなさんは情報収集に集中してください」
 2人のユエを先頭と最後尾に配置した隊列で、一行は遠くから戦闘音の響く病院内を探索する。
 制圧の済んだエリアで人質達の安全確認もそこそこに、彼らが上のフロアへと足を進めると、徐々にヴィランたちが慌ただしく活動している様子が耳に入って来た。

『くそっ、まともに相手してられるか!』
『あんな奴ら、この街に居たのか!?』
『他所からの援軍だろ!それよりあの猿どもはどうした!俺らも薬を使わねえと!』

「ふん?薬か……」
「なんや?薬がどうかしたんか?」
 せわしなく走り回るヴィランたちをやり過ごしながら忍び足で探索を続ける中、ふとザッフィーロが足を止めた。
 彼の耳がヴィラン達の会話から、気にかかる単語を拾ったのだ。
「ああ、今通り過ぎた連中が気になる事を言っていてな。詳細はわからないが、自分たちに薬を使うつもりらしい」
「薬……ドーピングでしょうか?」
「かも知れんな。あとは猿……街で捕まえた連中も言っていたが、どうやらその猿の居場所はヴィランも知らないらしい」
 顎に手を当てて思案するユエは、一時的にもうひとりの自分に警戒を任せると、囮になっている千歳とステラへ連絡を行う。
「あちらの2人にも伝えておきましょう」
「任せるわ。あの2人なら心配いらへんとは思うけど、一応な」


 手早く情報の共有を済ませると、一行は再び病院内を進む。
 味方が既に解放した人質を含め、占拠時に病院内に居た関係者は複数の場所にまとめて閉じ込められているようだ。
 そうして探索を進めるうちに、一行は戦場となっているエリアから離れた別病棟に足を踏み入れる。
 主に長期の入院患者がまとめられているらしいそのエリアに足を踏み入れると同時に、全員にハッキリとその諍いが聞こえてきた。

『お願いします!今すぐ薬が必要なんです!せめてこの方の分だけでも……!』
『ええい、知らんと言っているだろうが!大人しくしていろ!』
『そんな!このままでは命に関わるんです!どうか……』
『煩いと言っているだろうが!』

 その場にいた一行は目配せも無しに、その病室へと走り出した。
 被害者の救出が最優先。
 予め意志を統一していた一行は、迷うこと無くドアを蹴破ると、病室へと雪崩れ込む。

「っ!まさか、もう来たのか!?」
「喧しいわ、大人しく転がっとけ」
 病室に居たヴィランは一人。
 彼が身構えるより先に、絡新婦が操る鋼糸がヴィランに絡みつき、体の自由を奪う。
「ぐっ……くそっ!こんなものっ!」
 なんとか抜け出そうともがくが、鋼糸は肉に食い込むばかりで緩む様子は無い。
 その間にザッフィーロはヴィランと言い争っていたらしい白衣の男へと近づくと、即座にその事情を把握した。

「ゴホッ、ゴホッ……ゲ、ぁ……」
「あ……た、助けが来てくれたのか……」
 病院の医者らしい白衣の男の傍らのベッド。
 そこには病院着姿の女性が、激しく咳き込んで居た。
 顔は土気色で、今にも倒れてしまいそうな危うさを感じさせる女性に、ザッフィーロは歩み寄るとその手をかざす。
「落ち着いて。今治療する」
 端的にそう告げると同時、彼の手から暖かな光が溢れ、患者を癒やしていく。
「はぁ、はぁ……あ、ありがとう。少し、楽になりました」
「治療のユーベルコードか……複雑だけど、助かりました」
 2人の礼を受けたザッフィーロは、当面の危険が去ったことを確認しながら2人に話を聞く。
「いや、気にすることはない。それより、話を聞きたいんだが……」
 ユーベルコードの代償による疲労にも顔色一つ変えないまま、相手を安心させるように落ち着いた声音で話すザッフィーロ。
 しかし、その後ろで異変が生じていた。

「ぐ、いい加減に、が、あああああああああああ!!」
「っ!なんや?」
 絡新婦によって捕らえられていたヴィランが、突如として叫びだしたと思えば、その肉体が急速に膨張する。
 突如として異常なまでに筋肉質になった男は、のたうち回るように暴れ始めた。
 使い手である絡新婦の本体を複製したその鋼糸は、その程度でどうにかなるものではない。
 しかし男は、まるで丸太のように太くなったその腕に鋼糸が食い込むのを物ともせず、拘束を千切ろうと暴れまわり……。

 ゴッ!と重い音を立てて、ユエの持つ杖がヴィランの頭に叩きつけられた。
「あ、が……」
 バタリと倒れるヴィラン。筋骨隆々に変化した肉体はそのままに、泡を吹いて気絶する姿は敵ながら様子を見ていた医者の同情を誘った。
「うわ……いい音したなぁ」
 呑気にそう言う絡新婦に対し、実行者であるユエは涼しい顔だ。
「少々やりすぎたでしょうか?」
「もとより戦闘者ではありませんので。悪しからず」
 それを聞いた絡新婦は、どこか他人事のように泡を吹く男の様子を眺めていた。
「さて……誰の攻撃で倒されるのが一番マシだったんやろなぁ……」

 その様子を尻目に、ザッフィーロは気を取り直して医者から情報を聞き出していた。
「それで……先程のヴィランとの会話は聞こえていたが、彼女は何故このようになるまで放置されていた?」
 医術の心得を持つザッフィーロは、患者である女性が肺に病を持つこと、そしてその症状を抑える処置が何もされないまま放置されている事を見抜いていた。
 おそらくは、適切な投薬がされずに病状が悪化したのだろう。
「はい……本来、彼女は毎日投薬が必要なのですが……」
 医者は自らの不甲斐なさを恥じるように一瞬だけ言いよどむと、改めてザッフィーロに向き直り。
「彼らはここを占拠したその日に、病院中の薬品を全て持ち去ってしまったんです。患者の治療に必要な薬まで……」
 それからは、かろうじて隠していた薬品で治療を続けていたが、すでにそれも尽きてしまったらしい。
「ふむ、奴らが持っていった薬がどこにあるか分かるか?」
「詳しくはわかりませんが……薬は全て地下に運んだと聞いています」

 一行はその場で可能な限りの治療を済ませると同時に、手に入れた情報を仲間に共有し探索を続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

暗峠・マナコ
【翠苑】の皆さんと
千歳ちゃんとステラさんならば、囮役もおまかせして大丈夫ですよね。

私はブラックタールの液状の身体を活用して、ヴィランに遭遇しないよう通気口を通って内部を調査します。
一時単独行動になってしまいますが、[目立たない]ように気をつけましょう。
[第六感]を頼りに移動して、重傷者さんたちの居場所を発見したら、絡新婦さん達に場所を連絡して合流します。
ザッフィーロさんが治療してくださるなら安心ですね。
ふむ、私は治癒系はさっぱりなもので、再び通気口を通って他に取り残された被害者の方が居ないか探しましょう。
万が一敵に見つかってしまった場合は、より狭い場所を通って[逃げ足]早く逃げますね。



「地下……となるとこっちでしょうか」
 暗がりに、女性の声が静かに響く。
 場所は病院の通気口。
 衛生に気を使う場所だけ有って天井裏まで清潔に掃除されていたのは不幸中の幸いだろうか。
 ブラックタールである暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)は、その液体状の体を活かして他の者が入れない通気口を使って侵入を果たしていた。
 一時的に仲間であるユエたちと別行動を取っているが、既に連絡を取り合って情報を共有し、他の探索担当である3人よりも下のフロアに居たマナコが薬が運ばれたらしい地下へと赴いていた。

(まずは病院に必要な薬の確保ですね。地下にも治療が必要な方が居るならザッフィーロさんに場所を伝えて……)
 確認した病院の構造と大体の方角から経路を割り出し、マナコは暗闇に包まれた通気口を、第六感を頼りに地下へと進んでいく。
(ここですね。……?)
 そうして降りた地下室。
 地下全体へと張り巡らされた空調のための経路を、粘液の体を震わせながら移動していると、苦しげな声が聞こえてきた。

『ぐ、うううう……。まだっ、こんなところで……』
『うう、ああああ……』

「っ!今行きます、待っていてください」
 マナコは素早く移動し、声の発生源である部屋の天井裏へとたどり着くと、ダクトから落下するかのような勢いでその部屋へと降り立った。
 ベシャリと地面にブラックタールの粘液状の肉体がこぼれ落ちると、それは即座に女性の姿へと形を変えて立ち上がる。
 二足で立ち上がったマナコが部屋を見渡すと、そこには奇妙な光景があった。

「この衣装……ヒーローさんですか?」
 そこに蹲り、苦しげに呻くのは数人のヒーローたち。
 彼らは一様に肉体を筋肉質に肥大化させ、地面に倒れていた。
 それは仲間から聞いていた、突然変異したヴィランの症状にも似ていた。
 周囲には何かの実験に使ったらしい巨大な機材と、拘束用と思われる鎖や手錠。
 それらは一様に、力尽くで破壊されたような有様で打ち捨てられていた。
 否、それどころか、壁も扉も机も、部屋中の何もかもが、巨大な何かがのたうち回ったかの様に破壊されている。

 そんな中で唯一、大量のダンボールや瓶などが収納された棚が部屋の隅に鎮座している。
 チラリと確認したラベルを見るに、それは目的の薬のようだ。

「ぐ、あ……君は……」
「喋らないで、今治療が出来る方を呼んでいます」
 マナコを認識したのか、ヒーローの一人が荒い息もそのままに話しかけてくる。
 どう見ても限界が近い様子にそれを押し止めるマナコを無視して、彼は続けた。

「やつをっ、止めてくれ……。このクスリを散布、してっ……屋上から、街中に……」
 途切れ途切れの言葉をつなぎ合わせ、仲間が集めた情報と重ね合わせれば敵の目的が浮かび上がってくる。

 行方の知れない猿……オブリビオンはこの病院の薬剤と施設で、投与した者を異常化させる薬の実験を行った。
 それは明らかに服用者を苦しめるモノ。
 そしてそれを、今まさに屋上から散布しようとしている……。

「……わかりました」
 静かにそう告げたマナコは、即座に仲間と情報を共有。
 そして。自らが苦しんで暴れまわりながらも、患者のための薬だけは守ろうと理性を保っていたヒーロー達を一度だけ振り返り、屋上へと向かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

菅生・雅久
SPD
アドリブ絡み歓迎

陽動か…脱獄手引きをするだけの事はある…ただの悪党じゃないな
気を引締め取り掛かろう

大病院なら職員専用の出入り口や監視カメラがあるかも?
ハッキング可能なら【アルナイル】で図面と内部の様子を照らし合わせ【情報収集】
手薄な場か、非常階段からこっそり侵入

優先順位は、1:被害者の救出。2:オブリビオンの位置把握。
被害者は病室だろうか?
どこかに集められてるとしたら…バイオモンスター・猿を使う・病院…人体実験?改造?…手術室か?
何をしてるにしても好き勝手にはさせられないな

フルゴラの翼を広げ廊下を猛スピードで舞い進み、ヴィランが気付き騒ぐ前に意識を奪い捕縛する
後で忘れず警察に引き渡さそう



 激しい光とともに、雷の翼を纏った菅生・雅久(人間のブレイズキャリバー・f09544)は、愛用の鉄塊剣の一撃でヴィランの意識を刈り取った。
 ユーベルコードによって自己強化を果たした今の雅久は、既にヴィランの眼では捉えることすら出来ない速さで動くことが出来る。
 その力の根源は決意。
 猟兵として、捕らえられた患者を何としてでも助けてみせるという決意が、雅久に力を与える。
 一拍遅れて廊下に倒れたヴィランは、何が起きたのかわからない内に刑務所で目をさますことだろう。

「あ、あの……ありがとうございました」
「いや、気にするな。猟兵として当然の事だ。それより、ここに居る患者は大丈夫なのか?」
 解放した病室に捕らえられていた患者たちの安全を確認すると、雅久は努めて患者を落ち着かせるように声を掛ける。
「もうヴィランは殆ど制圧されている。もう少しだけここで待っていてくれ。もし薬が必要なら、他のヒーローが持ってきてくれる」
 他の猟兵と共有した情報によって、薬が不足している事を知った雅久は、それが確保できた事を患者に伝える。
 その情報に加え、雅久の誠実な態度に長く拘束されていた患者たちも動揺すること無く、この場で待つという選択肢を受け入れていった。
「よし、なら俺は次に向かう。ここは任せた」

 病室を出た雅久は、額のゴーグル―――『Tachi-M:アルナイル』を目元へ下ろすと、病院の図面を投影して自分の現在位置を表示させた。
「屋上か……」
 オブリビオンの居場所。その情報を受け取った雅久は、再び己のユーベルコードを発動させる。
「この手が救いに届き。刃が悪を滅すよう。雷(いかずち)の女神よ、望み叶える翼を貸してくれ!」
 その声に応えるように、雷の翼が雅久を覆う。
 次の瞬間、再び音すら置き去りにする速度まで加速した彼は、最短距離で屋上への経路を踏破する。

(脱獄の手引き、街での陽動……もしや人体実験かとは思っていたが、やはりただの悪党では無いな)
 相手の行動を読み、病院を探索していた雅久だが、改めてオブリビオンの手際の良さに警戒を強める雅久。
 だが、どんな相手だろうと退くつもりはないと、雷の翼に力を込めて階段を駆け上がる。

 そうしてドアを蹴破った先には……。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『シュヴェルマー・ザ・プロフェッサー』

POW   :    バイオレンス・インジェクション
【自身が開発した薬を注射して筋骨隆々の巨体】に変形し、自身の【理性】を代償に、自身の【攻撃力と耐久力および攻撃範囲】を強化する。
SPD   :    デストラクティブ・サイクロン
【両腕を大きく広げ高速回転する事により竜巻】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    「行けィ!ワガハイの忠実なるシモベたちよ!」
【高い知能を持つ十一匹の猿の軍団】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。

イラスト:くずもちルー

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠麻上・若尓戈です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「この段になって追いつかれるとは、ワガハイも運が無い……」
 屋上の入り口を振り返るのは、常人から見ても見上げるような筋骨隆々の巨体。
 黒い体毛に覆われた肉体に白衣を纏う男は、忌々しいと言わんばかりに吐き捨てると、眼鏡の奥から知性に溢れた……それでいて射殺すような目線を猟兵に投げかける。

「なるほど、貴様らが猟兵……この街のヒーロー共が計画を阻止できるはずも無いとは思っていたが、余計なことをしてくれたな」

 その姿は、一言で言えばゴリラだった。
 巨大なゴリラが二足で直立し、メガネと白衣を来て流暢に言葉を話しているのだ。
 なるほど、オブリビオンとなる前―――生前はヴィランが言うようにバイオモンスターだったのか、或いは別の何かか。
 重要な事は唯一つ。
 このゴリラこそが、一連の事件の黒幕にして、猟兵たちが倒すべきオブリビオンで有るということ。
「この場で貴様らを追い返せば我が計画は完遂される。邪魔はさせん!」

 オブリビオンは、その背後に巨大な煙突のような装置を隠すように立ちふさがる。
 この装置こそが、ヒーローからの情報に有った薬品の散布手段なのだろう。
 その計画を実行させるワケには行かない。

 双方の目的はハッキリとしている。
 お互いが相手の目的を阻むため。
 猟兵たちとオブリビオンの戦いが始まろうとしていた。
中御門・千歳
【翠苑】の皆と参加

さぁて、ここいらが正念場だね、皆…気合をいれていくよ!
続々と真の姿になっていく皆を見ると頼もしいね
マナコ、あんたの真の姿もイカしてるよ
綺麗じゃない女なんていないのさ、卑下するもんじゃないよ

式神召喚・雷獣を使用して、鵺の雷蔵を召喚するよ
雷蔵、思う存分暴れておいで

雷蔵は雷を操るのさ
雷で召喚された猿軍団を薙ぎ払うよ

雑魚を倒した後、隙を見て尻尾の蛇でボスに噛みつかせるよ
どれだけ図体がでかかろうと、毒が回れば動きが鈍るよ
暴れる程、毒の回りも早くなるさね

戦闘は基本式神に任せっきりだからね
機敏な動きが出来なきゃ、仲間の世話になるかもしれないねぇ
庇われたらしっかり礼を言っておくよ
すまないねぇ


星舞夜・ユエ
【翠苑】の皆さんと
真のお姿、頼りになります

私も研究者のはしくれとして、
あなたの研究熱心な姿勢は支持出来なくもありませんが、
それで他人の自由や尊厳を犠牲にするのは別問題です
せっかくのあなたの計画も、たかが知れてしまいますよ?
奪った薬は返していただきます。大切なものですから

厄介な技ばかりですが、私は【ウィーザード・ミサイル】で、
敵の注射器や、それを持つ腕を狙い、
バイオレンス・インジェクションの使用を最優先に阻止します
強化なんてさせません

次に、薬品散布装置を起動させようとするボス、
またその手下のサルを、同ユーベルコードを用いて排除・阻止します
完成した研究に罪はありませんが、起動させる訳にはいけません


暗峠・マナコ
【翠苑】の皆さんと

地下の様子を思い出すだけで言いようのない感情が湧いてきます。
到底許せては置けません
千歳ちゃんの掛け声を合図に【真の姿】を開放します
本来あまり見せたい姿ではないのですが…ありがとうございます。
そう言っていただけると私も全力を出せます。
私、このキレイではないゴリラを排除するのに手段は選びません

回転する相手を竜巻ごと、私の膨れ上がる身体で津波の如く覆い潰しましょう
【星か屑か】で私の身体の暗闇の中、無数の瞳に晒し精神を犯します
どれだけ肉体は強靭でも、精神はいかがなものでしょうかね

以降は私は相手の足元に纏わり付いて移動や回避行動の妨害を試みます
どうぞ、ここで制裁を受けてください


ステラ・アルゲン
【翠苑】の皆さんと参加
知性あるゴリラですか……
魔物よりは賢そうだが、その知恵をこのようなことに使用するとは残念だ

引き続いて真の姿を維持
皆の真の姿、とても頼もしい限りだ
恐れることは何もない【月光槍】と【流星剣】を構えて【勇気】を持って敵の前へ向かう
さっきの理性はどうした? それでは魔物……いや獣同然だ
理性が無くなったということは動きも単純なはずだ
【存在感】を持って気を引き攻撃に当たらないように【ダッシュ】し時に【オーラ防御】で防ぐ
大きな一撃の隙を狙って【流星一閃】
悪いが、お前の願いはここで斬り捨ててくれる!


杼糸・絡新婦
【翠苑】の皆と参加。
くだらん話は終わった?、
治療が必要な人がまだ病院にはおるからな、
とっとと終わらせようやないか。

真の姿解放
手加減も遠慮もいらん、
全部ぶつけたろうやないか。

UCでレベル分の鋼糸を召喚攻撃していく。
他の攻撃に気を取られているなら
【忍び足】で機械の方に近づき破壊攻撃。
振るわれたら面倒そうな、
敵の腕や指を切断するように攻撃していく。

また逆に【フェイント】を入れて攻撃を行い、
こちらに視線を向けさせ隙きを作る。
敵が猿を召喚していたのなら、
そいつら捕まえて【敵を盾にする】で
自分以外にも仲間を【かばう】にも利用して防御に使う。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【翠苑】の皆と 良くここ迄非道な事を…
…本当に人の探求欲は恐ろしいと聞くが、類人猿たる物にも当てはまるのだな
皆が真の姿になれば己も真の姿に
余り変わりはせんが溶けた黄金を翼の様に纏った姿だな
黄金は液体状だが…高熱故、盾や飛沫を目くらまし位には出来るだろう
『高速詠唱』で【蝗達の晩餐】を唱え蝗を呼び出し敵へ放つ
現れる僕達は厄介だが…千歳嬢の雷蔵が薙ぎ払ってくれているからな
まあ、蝗達の腹を満たしてやれる肉が増えただけ故…鱈腹喰らえ
味方が致命的なダメージを受けそうな場合は『かば』い『盾受け』を
後は【蝗達の晩餐】にて回復しつつメイスを素早く振るい『2回攻撃』を繰り出し確実に削っていければ幸いだ



「まさか、短期間で目的の薬の開発を終え、作戦に王手を掛けているとは……」
 オブリビオン、シュヴェルマー・ザ・プロフェッサーに向かい合う猟兵たち。
 顎に手を当て、どこか感心したような言葉を投げかけるのは星舞夜・ユエ(よだかのひかり・f06590)。
 ユエは、目的のために研究を行い、それを完成まで漕ぎ着けたシュヴェルマーの行動に、研究者として感じ入るものがあった。
「あなたの姿勢は支持できなくもありませんが、他人の自由や尊厳を犠牲にするのは別問題です」
 だが、その一線を超えてはならないと、同じ研究者だからこそユエはオブリビオンの行動を弾劾する。

「ふん、自由に尊厳だと?ワガハイにそんなモノを奪うつもりはない」
 そう断ずるシュヴェルマーは、不遜な態度で猟兵に言い放つ。
「今回の件も、ワガハイはヴィラン共を解放してやっただけに過ぎん。街で暴れろなどと命じた覚えも無いな」
 そうして、見せびらかすように薬剤の入った注射器を見せつける。
「そして完成したこの薬も、今までのような未完成品とは違う。これを摂取しても動けなくなるような副作用は無く、純粋に筋力を増強させた上で理性の箍を外す」
 そう、後者の効果は決して副作用なのではない。
「この街を滅ぼすのは、他でもないこの街の人間どもだ。ヴィランはくだらん逆恨みのために。ヒーローや市民は己を守るために」
 理性の裏に憎しみをのぞかせて、オブリビオンは言い放つ。
「その力をふるい、街を瓦礫の山に変えるだろう。愚かな人間は、自らの手で世界を滅ぼすのだ!ワガハイはそれを後押しするだけに過ぎん!」

 そう言い放ったシュヴェルマーに対し、猟兵達の抱いた感情は様々だった。

「くだらん話は終わった?」
 杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は、その企みを下らないと一蹴する。 
「治療が必要な人がまだ病院にはおるからな、とっとと終わらせようやないか」
 今はそんなものよりやるべき事があると。目の前の敵を手早く片付けようとする絡新婦は、真の姿を解放。
 その名に違わず、蜘蛛の複眼でオブリビオンを射抜き、鋼糸を構える。

「良くここ迄非道な事を……本当に人の探求欲は恐ろしいと聞くが、類人猿たる物にも当てはまるのだな」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)はそう口にしながらも、その意識は己の存在意義を遂行することに向いているようで。
 先程治療した患者も、このまま放っておいては悪化する一方だろう。
 まだ救わねばならない人が居る。と、溶けた黄金を翼の如く纏い戦闘体勢へ。

「その知恵をこのようなことに使用するとは……残念だ」
 真の姿である白銀の甲冑を纏った騎士の形を取ったステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、目の前の存在が道を誤った事を惜しんだ。
 同時に、己の騎士道に懸けて見逃す事は出来ないと、その手に刃を構える。
「悪いが、お前の願いはここで斬り捨ててくれる!」

「……。」
 暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)は、無言で真の姿を解放した。
 ブラックタールの黒い粘液状の巨体に、真珠のように怪しく煌めく単眼。
 本来はこの姿を他人に見せることを忌避するマナコ。
 脳裏によぎるのは、先程地下で出会ったヒーローの姿。
 思い返す度に胸に湧き上がる言いようの無い感情。それに突き動かされるように、マナコは目の前のオブリビオンの排除を自らに誓った。

「皆さんの真のお姿、頼りになります」
「ああ、壮観だねェ」
 真の姿を解放した仲間たちが並ぶ光景は圧巻だ。
 ユエに同意するように、味方を見渡すのは中御門・千歳(死際の死霊術士・f12285)。
「マナコ、あんたの真の姿もイカしてるよ」
 肩があれば叩いただろう、そんな気安さで己の姿を褒められたマナコは、思わず千歳に目を向ける。
「綺麗じゃない女なんていないのさ、卑下するもんじゃないよ」
 仲間の不安を取り除くように激励した千歳は、召喚符を手に一歩前へ。
「さぁて、ここいらが正念場だね、皆…気合をいれていくよ!」


「行けィ!ワガハイの忠実なるシモベたちよ!」
 シュヴェルマーの号令に従い、彼の背後の鉄柵を乗り越えるように現れたのは猿の軍団。
 その数は8。
 散布装置を守るように布陣した猿たちは、正面から跳躍するように猟兵たちへと襲いかかる。
「通しはしない!」
 対応するように前に出るのはステラ。
 鎧の守りを頼りに、その手に構えた剣と槍で猿たちの突進を受け止める。
 ―――キキッ!
 その均衡を飛び越えるように後続の猿たちが跳躍する。
 狙うは武器を構えない後衛。乱戦に持ち込んで猟兵を撹乱しようとする動きだ。

「甘いわ」
 その狙いを断ち切るように伸ばされた絡新婦の鋼糸が、空中の猿を絡め取った。
「そこで大人しくしとけや」
 絡新婦は糸を操り、捕まえた猿を別の猿へと叩きつけ、敵の突進を止めてみせた。
 それに合わせるようにステラが武器を両腕の武器を振るい、自分が相対した猿を後ろへ弾き飛ばす。

「よくやってくれたねェ、二人共。……雷蔵、思う存分暴れておいで!」
 ステラと絡新婦が稼いだ数秒の間に、千歳は己の式神を召喚していた。
 猿頭、蛇尾、それに虎の四肢を持つそれは、鵺と呼ばれるアヤカシ。
 雷蔵と呼ばれたその式神は、黒い雷雲を身にまとい、足を止めた猿たちへ襲いかかる。

 ―――ギギギイイイ!!
 断末魔の悲鳴とともに、咄嗟に範囲外へと逃げた3匹を除く猿たちが、稲妻に焼かれて倒れ伏す。
 だが、敵の数を減らした事を喜ぶ間もなく、次の攻撃が放たれていた。

「なるほど、これは厄介だ」
 雷を放ち、猿を撃破した雷蔵の懐へ、オブリビオンの本体であるシュヴェルマーが一足で飛び込んできた。
「むっ!?」
 散布装置を守ると踏んでいたオブリビオンの、予想を裏切る突撃。
 落雷の範囲攻撃で装置を巻き込まれるくらいなら、自らが前に出るべきだと判断したシュヴェルマーは、厄介な式神を片付けるためにユーベルコードを発動させる。
「いけない、一旦下がってください!」
 ユエの警告に従い、前衛のステラが咄嗟に後退する。
 次の瞬間、シュヴェルマーは両腕を広げてその場で回転し始めると、その動きに合わせて竜巻が発生。
 周囲をまとめて薙ぎ払う様に、渦状の力が吹き荒れた。


「チィッ、雷蔵!戻りな!」
 吹き飛ばされたのは式神の雷蔵のみ。
 大きなダメージを受けながらも、即座に立て直そうとする雷蔵に千歳が指示を送る。
 だが、敵はそれを狙っていたのだった。

 ―――キキィ!!
 千歳の背後。
 壁面を伝って死角に回り込んだのは、先程正面から攻撃を仕掛けた個体とは別の、シュヴェルマー配下の猿たち。
 伏兵として背後に回っていた猿たちは、式神への指示に掛かりきりとなった千歳を狙って跳躍、空中から強襲する。
「それは通せんな」
 割って入ったのはザッフィーロ。
 身にまとう高熱の黄金を盾のように広げ、自身と千歳たちを猿の攻撃から遮断する。
 ―――キッ!
 高熱の黄金に触れた猿たちは反射的にそれを避け、猟兵たちを包囲するような陣形へ。
「助かったよ、流石だねェ」
「なに、役に立ったなら幸いだ」
 礼を言いながら雷蔵を呼び戻す千歳に答えながら、ザッフィーロは高速で詠唱を行い、ユーベルコードを発動させた。
「お前達も他の命を食い生きているのだろう?……きっと、それと、同じ事だ」
 現れたのは、影のような蝗の大群。
 それはザッフィーロ自身に満ちる、人々の罪の穢れ。
 現れた蝗たちは嵐雲の様に後方の猿たちを飲み込み、その生気を貪り尽くす。
「こっちも負けてられないよ!雷蔵!」
 復帰したジャパニーズキマイラは、先程の雷撃から逃れた猿たちを急襲。
 逃げる間もなく焼き尽くすと、ザッフィーロが召喚した蝗群がその躯を喰らい尽くす。
「少しばかり悪食が過ぎるが……これで配下は片付いたか」
 計11体。
 シュヴェルマーによって呼び出された配下たちは、全てが躯の海へと返された。



 配下の猿たちが猟兵によって殲滅されているのと同時。
 ユーベルコード・デストラクティブサイクロンによって鵺を吹き飛ばした直後。
 回転を止めようとしたシュヴェルマーの視界に影が差す。
「……何だとっ!?」
 その正体は、粘液の身体を跳躍させ、頭上からシュヴェルマーを捕食するかの如く取り込もうとするマナコだ。
 弱まり始めているとは言えユーベルコードの竜巻を受けてまで攻撃を敢行するマナコを、今まさに回転を止めようとしているシュヴェルマーが避ける術はない。
 次の瞬間、頭からブラックタールの粘液体に覆い尽くされたシュヴェルマー。
(……ならば、もう一度回転で吹き飛ばすだけだ)
 そう思考するシュヴェルマーの視界の中。
 真っ黒なそこに、無数の瞳が開いた。
「なっ……!?」
『そう……あなたは、キレイじゃないわ』
 響くように聞こえるマナコの声。
 体を覆う粘体と、突き刺さる視線。脳裏に響く、拒絶にも近いマナコの意志。
 それらに精神を侵されたシュヴェルマーは、ユーベルコードを使うことも忘れて半狂乱になって腕を振りまわす。
「おおおおおおおっ!!」
 野獣のような雄叫びを上げて、自身を覆うマナコの体を振り払うシュヴェルマー。
 だが、振り払われたマナコは、決して逃しはしないと足元に粘液の体を活かして絡みつき、その動きを封じる。
「……逃しません。ここで制裁を受けてください」
「ええい!離せ、キサマッ!」
 逃れようともがくオブリビオン。
 だがその耳に、さらなる事態の悪化を知らせるような音が響いた。


 ゴトリと、重いものが落下する音。
 そちらに眼を向けたシュヴェルマーが見たのは、散布装置の外装の一部が、切り取られたように落下している光景だった。
「とりあえず、コイツを壊せばええんやろ?」
 装置に絡みつく無数の鋼糸。
 それは人型の蜘蛛というべき異形、絡新婦が伸ばしたものだった。
 戦闘を想定して頑丈に作られているのか、一撃で破壊できるような装置では無いものの、あと数度の攻撃で破壊できるだろう。
 そう確信したのか、絡新婦は鋼糸を煙突状の部分に絡みつけ、そのまま切り落とそうと力を込める。

「おのれええええ!!」
 それを防がんと、マナコに足を取られながらも絡新婦へと殴りかかる。
「掛かりおったな」
 だが、それこそが蜘蛛の巣に飛び込むような愚行だった。
 装置を狙っていると思わせながら、絡新婦の狙いはシュヴェルマー本体。
 殴りかからんと伸ばした腕を、鋼糸が一瞬で絡め取り、両断しようと肉に食い込む。
「がっ、ああっ……!」
 苦悶の声を上げながら、空いた腕でシュヴェルマーが取り出したのは散布するものと同じ薬剤の注射器。
 事ここに至っては、最早自らの理性すら不要。
 ここで負けようと、猟兵を仕留めさえすれば計画は完遂される。
 そう確信し、自らに薬を打ち込もうとするその腕を、飛来した炎の矢が弾き飛ばした。

「ぬああっ!」
 その攻撃が飛来した方向に目を向ければ、そこに居るのは杖を構えたユエ。
「完成した研究に罪はありませんが、それを使わせるわけにはいきません」
 攻撃に参加せず、状況の推移を見守っていたユエの狙いはこの一点。
 装置の起動、もしくは戦況を覆されかねないドーピングの阻止。
 その狙いは見事に的中し、シュヴェルマーに抵抗の手段は無くなったように見えた。
「さて、このままトドメを刺して、装置も破壊せんとな」
「……キ、サマらあああ!!」
 だが、その執念の賜物か。
 拘束されていたシュヴェルマーは、額に青筋を浮かべながら最後の抵抗とばかりに、その丸太のような腕を振りまわす。
「……っ、これは」
 腕に鋼糸が食い込むことすら考慮せず、全力で暴れるシュヴェルマー。
 咄嗟にユエが放った魔法の矢を受けても身じろぎせず、鋼糸が巻き付く腕を振り回せば、絡新婦が逆に投げ飛ばされる。
「ちっ、馬鹿力が……」
 咄嗟に拘束を緩めた鋼糸が、置き土産とばかりにシュヴェルマーの腕をズタズタに切り刻む。
 絡新婦はそのまま悠々と着地し、すれ違う仲間に後を任せるのだった。


「薬を使わずとも、これでは獣同然だな」
 暴れるがまま、足元に絡みつくマナコをも蹴り飛ばすシュヴェルマー。
 そこに飛び込むのは、白銀の甲冑―――ステラだ。
 オーラが光の軌跡を残しながら、甲冑とは思えない速さでステラはシュヴェルマーへと接近する。
「邪魔ヲ、するなアアッ!!」
 獣のように叫びながら、それを迎え撃つシュヴェルマー。
 その威圧をものともせず、ステラは振り上げられた腕がその力を発揮するより早く、力任せになったシュヴェルマーの隙を狙い澄ましたように捕らえた。

「願いさえ斬り捨てる、我が剣を受けてみよ!」

 その剣の軌跡は、流星の様に尾を引いて。
 歪んだオブリビオンの願いを断ち切るように繰り出されたステラの一閃が、シュヴェルマー・ザ・プロフェッサーの肉体を深々と切り裂いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菅生・雅久
強さに憧れかトラウマがあったのか、又はそうする必要があったのか
薬で得ても仕方ないと感じるが…何にしても他者を巻き込んだ時点でアウト、止めさせて貰う

特に無差別攻撃に用心し、仲間の【援護射撃】をしつつ接近戦へ
どれだけ筋力を上げても筋を痛めたら生かし切れないだろうと考え【鎧砕き】でアキレス腱や関節を狙い動きを鈍化させる

望みは「力」だけ?
自分が真に強いと感じる相手は失敗のリカバリーが上手い奴
怖いと感じるのは打たれた後も即立ち上がる強い意志の奴だ
お前はどうだ?

POW
フルゴラの翼を広げ速度で掻き回し強さを確認させて貰おう
倒せたらヴィラン捕縛とヒーローの救助&面目躍如に尽力したい
この世界を元に戻さなくちゃな


天祐寺・ミカド
ヒーローもヴィランも、ただの実験体としか考えてなかったってわけね……。
しかも街にそのヤバイ薬を撒くですって?
とんだマッドゴリラだわ、コイツ。
これ以上、我が星で好き勝手できると思わないことね!

『バトルキャラクターズ』を使って、FPSのキャラクターを召喚する。
銃器で武装した兵士達ね。
ゴリラの目の前で、その散布装置をぶっ壊してやりたいんだけど。
大事なものだろうし守ろうとするかしら?まあどっちでもいいか。
我も実体化させた武器を装備。サブマシンガンがいいかしらね。
全員で装置に集中砲火を浴びせてやるわ。撃て撃てー!


スピレイル・ナトゥア
「この町で悪事をしようと思っているのに私たち猟兵のことを考慮していないだなんて片手落ちですね。最近は、私たちもこの世界を守るために協力しているのですよ。時代遅れのヴィランさん」
特に考えはありませんが、とりあえずヴィランさんを挑発してみます

両手を広げてコマみたいに回転するって、小学生がバカみたいによくやってるアレですよね?(※実体験)
きっと、遠心力が加わることと、目が回ることで平衡感覚が失われてしまうことが楽しかったのでしょうね
当時の私もバカな子供でした

精霊印の突撃銃で猟兵のみなさんを【援護射撃】しながら、隙をついて白銀の怪鳥を発動して、シュヴェルマーザ・プロフェッサーさんの首筋に噛みつきます!





「ヒーローもヴィランも、ただの実験体としか考えてなかったってわけね……」
 戦場から一歩離れた位置で、猟兵と戦いを繰り広げるシュヴェルマーの様子を伺うのは天祐寺・ミカド(神のゴッドペインター・f16819)。
 人々を実験の道具として扱い、今尚この街に危険な薬物を散布しようとするオブリビオンを、気に食わないと言わんばかりに睨み付けている。
「とんだマッドゴリラだわ、コイツ……。これ以上我が星で好き勝手できるとおもわない事ね!」
 敵が猟兵たちによって動きを封じられている間に戦場を回り込み、散布装置へと接近したミカドはユーベルコード・バトルキャラクターを発動させ、己の手足となるゲームキャラを実体化させる。
 現れたのは19人の、銃火器で武装した兵士……FPSのキャラクターたちだ。
「目の前であの装置をぶっ壊してあげるわ。……全員、射撃開始よ!」
 ミカド自身もまた空中に描いて実体化させたサブマシンガンを手に、キャラクター達に指示を与える。
 計20人による一斉射撃が、シュヴェルマーの建造した散布装置を襲った。



「ここまで来て……ここまで来て失敗など認められるかァアア!!」
 それは世界を滅ぼすというオブリビオンの本能なのか、或いはオリジナルのシュヴェルマーの執念か。
 瀕死の傷を負いながらも、シュヴェルマーは己の計画の要である装置が攻撃されているのを察知すると、周囲の猟兵を力ずくで牽制し、ミカドを仕留めるべく猛進する。
 だがそれを遮るように、二方向からの射撃がシュヴェルマーを叩いた。
「私たち猟兵のことを考慮していないだなんて片手落ちですね。だからこうやって邪魔されるんですよ、時代遅れのヴィランさん?」
 精霊印の突撃銃で援護射撃を行いながら、敵の意識を自分に向けるように挑発するのはスピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)。
 スピレイルの手製の突撃銃が火を吹くのに合わせてサブマシンガンによる射撃を行いながら、菅生・雅久(人間のブレイズキャリバー・f09544)はユーベルコード・【フルゴラの翼】を発動。
 全身に雷の翼を纏い、射撃を継続しながら高速でシュヴェルマーに接近する。
「強さへの憧れか、トラウマか……こんな薬や計画を考えた理由は知らないが、他人を巻き込んだ時点でアウトだ。止めさせてもらうぞ」
「邪魔だ、そこを退けぇ!!」
 雅久の振るう鉄塊剣を素手で往なしながら、豪腕による拳打で応戦するシュヴェルマー。
 だが、そうやって足を止める間にもミカドによる装置への攻撃は継続している。
「自分が真に強いと感じる相手は失敗のリカバリーが上手い奴、怖いと感じるのは打たれた後も即立ち上がる強い意志の奴だ。……お前はどうだ?」
「ほざくなァアア!!」
 その挑発に対して大振りになった腕を掻い潜り、雅久は懐に潜り込むと間接を狙って鉄塊剣を叩きつけ、足の機能を破壊する。
「があああっ!!」
 苦悶の声を挙げるシュヴェルマーを尻目に、ミカドの攻撃は大詰めを迎えていた。

「あと一息よ!撃て撃て撃てー!!」
 銃撃の嵐が装置を襲い、次々に外装が剥がれていく。
 バラ撒かれた銃弾が内部に入り込めば、そこから火花が散り、それが全体へと伝播していった。
 完全破壊が近いことを感じ取ったミカドは、召喚したFPSキャラのなかで手榴弾を装備している者にそれを投げさせる。
「これで仕上げ!」
 さらに、ダメ押しとばかりに自分自身も宙に描いて実体化させた手榴弾を煙突の中へと投げ込むと、仲間たちを振り返った。

「伏せた方が良いわよ!」



 爆発、炎上。
 煙突のような装置は半ばからへし折れ、轟音と共に装置が倒壊する。
 これで敵の目的は阻止できたと確信する猟兵たちの一瞬の隙を付き、シュヴェルマーは装置へと走り寄った。

「あ、ちょっと!?」
 その行動に驚くミカドを尻目に、シュヴェルマーは装置へと到達する。
 だが、手遅れだ。
 既に装置は完全に破壊されている。煙突部分が倒壊し、基礎部分を押し潰すと一際大きな爆発が起こった。
 黒煙と熱風で猟兵たちの視界が遮られる。

「……自分の計画の要と心中、でしょうか……?」
「まあ、自棄になるのも仕方ないかも知れないけどさぁ……」
 その様子を不可解に思いながら、警戒を解かないスピレイルとミカド。
 彼女たちの懸念の通りに、次の瞬間、先程見せたシュヴェルマーのユーベルコードを上回る巨大な竜巻が戦場を襲った。



「あっぶないわね!巻き込まれる所だったわ!」
 その中心部に最も近かったミカドは、ギリギリでその範囲外へと脱出していた。
 とはいえ、一緒に行動していたFPSキャラたちは大部分が竜巻にのまれる結果となったが。

「これは……装置に装填されていた薬を取り込んだのか」
 そう分析する雅久の視線の先には、体格が二回りは巨大になったシュヴェルマーの姿。
 明らかに適量を遥かに越えた薬剤を取り込んだためか、既にその眼に理性は無く、涎を滴ながら暴れまわる猛獣の姿がそこにはあった。
「両手を広げてコマみたいに回転するって、小学生がバカみたいによくやってるアレですよね?」
 私も昔やった覚えがあります、と敵のユーベルコードを見て呑気に感想を述べるスピレイル。
 挑発するような態度のままだが、彼女は既に銃を構え、油断無く敵を見据えていた。
 シュヴェルマーの理性が失われようと、想定外に多くの薬剤で強化されようとも。猟兵たちのすべき事は変わらないのだから。

「行くぞ!援護を頼む!」
 雷の尾を引いて猛獣へと突撃するのは雅久。
 それに先んじてスピレイルとミカドの援護射撃がシュヴェルマーを穿つが、理性の無い猛獣は多少のダメージをものともせずに暴れまわる。
「危なっ!」
 その状態でも装置を破壊したミカドが憎いのか、手元の残骸を投てきしてミカドを狙うシュヴェルマー。
 単に物を投げるだけの攻撃だが、その質量と速度は戦車の砲撃にも匹敵する破壊力を産み出す。
 その威力に冷や汗をかきながらも、ミカドはシュヴェルマーの攻撃を引き付けて回避することに成功していた。

「確かに力は大したものだが……やはりそんな薬では意味がないな」
 そして、シュヴェルマーの視線が後衛に向いた一瞬で、雅久は敵を剣の間合いへと捉えていた。
「これで終わりだ!」
 無防備な足元を斬りつけると同時に高速移動。
 雅久はシュヴェルマーが自分を捉えようと伸ばす腕を軽々と交わし、次々に斬撃を繰り出していく。
 それは雅久の狙った通り。
 筋力を強化できても間接を破壊すれば動けないだろうと考えた雅久の攻撃は、確かにシュヴェルマーから自由を奪っていた。
「既に思考力も残っていないか……。理性を消すような薬に頼らなければ、逃げる手段くらいは用意できただろうにな」
 高速で繰り出される連続攻撃に、痛みすら感じないかの如く暴れるシュヴェルマー。
 だが、既に破壊された脚は辛うじて姿勢を支えるのが精一杯だ。まともに移動する事すら出来ないだろう。

「……さっきも言いましたけど、こっちを考慮していないと痛い目を見ますよ?」
 そして、最早理性も無く腕を振り回すだけのシュヴェルマーに、止めの一撃が放たれる。
 自分を意識から外した相手に悠々と接近したスピレイルは、自分の腕を白銀の大鷲の頭部へ変形させていた。
「たまにはキマイラらしいところも見せてみようかな」
 場違いなほどマイペースに告げながら、大鷲の嘴がオブリビオンの喉笛を穿ち、止めを刺した。
「終わりです。次があれば、もう少し頭を使った方が良いですよ?」

 シュヴェルマーが暴れた跡……廃墟同然の屋上を見て、スピレイルはそう呟く。
 たしかに、薬によってもたらされた力は猟兵から見ても桁外れだった。
 しかし、その結末は一方的な敗北。

 猟兵たちは、骸の海に返るシュヴェルマーを、各々が異なる感情を以て見送っていた。


 オブリビオンを撃破した猟兵たちは、取り返した薬を病院へと返すと、各々がやるべき事を探して解散した。

 ある者は病院で治療の手伝いを。
 ある者は残ったヴィランの捕縛を。
 ある者は市民の為に街の復興を。

 動けるヒーローたちも、既にやるべき事を見つけ、行動を起こしている。
 この街に平和が戻るのは、そう遠い事ではなさそうだった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月08日


挿絵イラスト