14
君に幸あれ

#UDCアース #黒の王

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
#黒の王


0




●木霊する善意
 一人、また一人、顔を見なくなった。
 けど大丈夫。
 そう、心配いらない。
 みんなみんな、苦しみや悩み、ツライことから解放されたんだ。
 だから、これは、止めちゃいけない。
 神様の所へ、導かなくては。
 続けよう。
 苦しんでる人が幸せへ、王のもとへ至れるように。
 これからもずっと。
 今よりも、もっと!

●君に幸あれ
 その結果、『黒の王』と呼ばれる邪神が完全復活してしまう。
 猟兵達を前に藤代・夏夜(Silver ray・f14088)は機械の手を頬に当て、ハァ、と溜息をついた。
「邪神復活の儀式って、きちんとやろうとしたら結構な手間が掛かるでしょ? でも、現在進行系でやらかしてる誰かさん達は、そういうのナシでやってるみたいなのよね」
 聞こえた声は善意や使命感でたっぷりだったというから、余計たちが悪い。
 視えた大学名からUDCに探りを入れてもらった結果は、「立場問わず行方不明者多数あり」。目立つのは生徒で、教職員も数名が行方知れずだという。
 彼らは皆『黒の王』召喚儀式に関わっているのだろう。どういった形で関わっているかはまだ判らないが、邪神復活の兆しからして明るい形ではない。
 ひたりと落ちた沈黙を叩き割ったのは、夏夜の「そ・れ・で」という明るい声。
「みんなには首謀者の特定と『黒の王』完全復活を阻止してほしいの。大学に入り込んで自分を囮――悩みとか抱えた人のフリしたり、情報収集したりね。学食は一般開放されてるから誰でも入れるわ。あとはそうねぇ、学生用SNSや近所のお店も使えるんじゃないかしら?」
 ニュースで『学友は60歳!』と取り上げられる時代だ。外見年齢的に大人過ぎて大学生のフリはちょっと、という猟兵でも潜入は可能だろう。『子の代わりに来た保護者』も通用する筈だ。若過ぎて、という猟兵なら『受験を考えて見学に来た』、だろうか。
 首謀者を特定または身柄を確保した場合だが、後の面倒ごとはUDCが引き受けてくれる手筈になっているので心配無用、との事。
「行方不明者リストはこれ。アナログかもしれないけど紙で用意させてもらったわ。一枚目が学生、二枚目が教員と職員のリストよ」

 一枚目。
 経済学の津村・剛(つむら・ごう)、法学部の峰岸・ハルカ(みねぎし・-)、歴史学部の戸部・陽子(とべ・ようこ)、文学部の――……。顔写真の横に生徒の情報がずらりずらり。ずらり。ずらり。

 二枚目。
 事務窓口の武山・伸吾(たけやま・しんご)、清掃員の野木島・清也(のぎしま・せいや)、調理師の大島・有希(おおしま・ゆき)。歴史学教授の渡会・菫子(わたらい・すみれこ)、七宮・百合絵(ななみや・ゆりえ)。

 一枚目と比べ二枚目は空白が目立つが、『一つの大学で五人の教職員が行方不明』は、生徒リストと同様、異常である事に違いはない。
「生きてれば色々あるんだもの、事によっては躓いたり動けなくなるわよね。そんな誰かに手を差し伸べる……それは立派だけど、相手の人生ハイ終了、の可能性大な手を差し伸べるのはねぇ」
 夏夜は手をぴろぴろ動かして払うような仕草をした後、猟兵達にニッコリ笑いかけた。
「だから、邪神絡みの善意をブチッとしてきてちょうだい。お願いね」
 それと――気を付けて。
 夏夜のグリモアが輝きを放ち始め、UDCアースへの扉が開いていく。


東間
 閲覧ありがとうございます。
 悩み苦しむ心。消えた人達。首謀者。黒の王。
 解決の時です。

 各章プレイングの受付日時や〆切は、個人ページ冒頭及びツイッター(azu_ma_tw)でお知らせします。
 受付お知らせ前に届いたプレイングは、公平さを保つ為に一度流す事にしています。
 お気持ちに変わりなければ、再度送っていただけますと幸いに思います。

●各章説明
 1章は調査パート。
 大学で、または大学生が利用しているSNSやお店などを使っての調査となります。
 お店は学生に人気の懐に優しい食堂や中華料理屋です。
 都合により割愛していますが、リスト一枚目、生徒の氏名も好きに設定されて構いません(あまり特殊なものはボカす、もしくは不採用の可能性があります)
 調査行動は、あれもこれもと詰め込むよりも、一つに絞るのがオススメ。

 2章は1章の結果を基に『黒の王』の完全復活阻止に挑みます。
 場所は潰れた遊園地。
 冒険パート、かつ、心情寄り。

 3章はボス戦『黒の王』。
 黒の王が見せるのは、理想の自分、幸福な幻覚、心を挫く幻の苦痛。
 心に触れられながらの戦いとなるでしょう。

 ※POW・SPD・WIZは一例です、どう行動するかはご自由に!

●お願い
 同行者様がいる方は、迷子防止の為にお相手の名前(ニックネーム可)とIDを。
 団体参加(4人まで)の場合はグループ名の明記をお願い致します。
 失効日がバラバラですと、納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、プレイング送信日の統一をお願い致します。
 日付を跨ぎそうな場合は、翌8時半以降の送信だと〆切が少し延びてお得。

 以上です。
 それでは皆様のご参加、お待ちしております。
190




第1章 冒険 『学生たちは暴走する』

POW   :    怪しそうなサークルに全部参加してしまえ、学生のたまり場に溶け込んで情報収集だ

SPD   :    大学の裏サイトやSNSなどから怪しい噂を集めて絞り込む。学生の所持品やPCなどを盗み見る。

WIZ   :    大学の学生名簿や職員名簿から経歴を洗う。卒論や研究などから異常なものを見つけ出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 勉強。
 恋愛。
 生活。
 どうでもいい事。
 夏への期待。
 擦れ違う人、見かけた人。
 耳に入る内容、見えるもの、その全てが普通だ。
 空は青いし植木は青々として美しい。異臭なんてしない。
 ここは普通の大学だ。
 普通だが――『普通』の中に、『異常』が隠れている。
天杜・理生
アドリブ、連携歓迎。

とりあえず、学内での情報収集といこうか。
眼帯は悪目立ちしないよう医療用のものにでも変えて、服装も(男子)学生らしいもので紛れるとしよう。

まずは人目につかないところでUCを使用。
召喚した蛇は服の中に潜ませておき、なるべく人の集まりそうなところに赴こう。

行方不明者の友人などを装って
話しかけられそうな学生になにか情報はないか探りをいれてみる。
必要なら「誘惑」も用いてなるべく情報を引き出せるよう。

こんなに連絡がつかないなんて初めてなんだ。
心配で授業にも集中できやしない。
最近アイツを見なかったか?

首謀者に繋がりそうな発言があれば、その後のソイツの言動を蛇に追跡させる。



 大学の内か、外か。人か、インターネットか。
 天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)が選んだのは、構内での情報収集だった。
 普段付けている眼帯は医療用に変え、服装は『男子学生らしく見えるもの』を。
 いつもと違う装い。しかし艶やかな黒髪を翻し構内を颯爽と歩く姿は、擦れ違う生徒の視線を暫し引き留める。
 今の人カッコ良くない? という囁きに理生は振り返らない。服の中、腕に蛇を絡み付かせたまま、自然な足取りで向かうのは『なるべく人の集まりそうな所』。
 構内の空気からして、行方不明者多数という事実に対し、箝口令がしかれている様子はない。知ってはいるが何かしらの理由で騒ぎになっていないのか、そもそも知らないのか。未だ判らない部分は多いが、ならばそれも含めて教えてくれそうな人物に尋ねればいい。
 例えば、大きなテーブルにマジックアイテムを広げてお喋りしている、気の良さそうな学生グループとか。
 かすかに浮かべた微笑、そこから溢れる空気は心の壁を作る前から溶かした様子。マジックサークルのメンバーだという彼らに『行方不明になった学生の友人』だと自己紹介をすると、ええ、マジで、うそ、と驚きの声が次々に上がった。
「こんなに連絡がつかないなんて初めてなんだ。心配で授業にも集中できやしない。最近アイツを見なかったか?」
「やばいじゃん! な、誰か見た?」
「ワリィ見てない。そういえば元気なかったな、あいつ……」
「あっ。あたしのカレシ、あちこち顔出してるから何か聞いたりしてるかも! 電話してみるから、ちょっと待っててもらってもい?」
「ああ」
 席を立って離れる女子学生を見送る耳に、そういえば、とこぼれた声はすぐ目の前。一番手前に座っていた女子学生が、自信なさそうな目で理生を見上げる。
「全然関係ないかもだし、最近っていうにはちょっと前なんだけど……」
「構わない。どんな事でもいい、知りたいんだ」
 じゃあ、と少し安堵を浮かべた学生曰く、一番新しい記憶は先月半ば。サークル部室に向かう途中、誰かと話しているのを見たという。後ろ姿だった為、女子という事以外わからないと言うが。
「その子がどっか行ったあと、スマホ見て、すごいほっとした顔してたんだよねぇ。あぁ、あとね。何か、カードみたいなの持ってた」
「カード?」
「うん。白いやつ」
 謎の美女登場かよ、カードって手品グッズじゃないのと会議を始めた彼らに理生は短く礼を言ってその場を後にする。バイバイ、と振られる手に小さく振り返し――彼らの足元で首をもたげた毒蛇が影に潜むのを見て、目を細めた。
 自分が消えた後、もし、首謀者に繋がる発言があれば。あの美しき蛇が全て、伝えてくれる。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
学生の体で
教授2名が消えた歴史学部の失踪者を主に探ろうか

邪神絡みってなら失踪者の言動に共通点がありそうネ
悩みを抱えていた、誰かを頼っていた、何かに深く興味をもっていた……
消えた近日の足取りも含め『情報収集』活かし聞き込みに

先日世話になったとか借りたもの返したいとか理由つけて
仲の良さそうな学生、職員に接近
最近見ないケド、と心配する素振りで先ずは失踪を把握してるか確認するヨ
それから共通点になりそな点についてと
消える前に何処かへ行く、誰かに会うと言ってなかったかを聞いてみンね
教授失踪にも触れ、消えたヒトらに互いに接点がなかったかも聞いトコ

もし途中怪しい人物に接触又は見かけたら
【黒管】呼んで追わせるヨ



 消えた生徒多数。教職員は五名。
 生まれや環境にはバラつきがあるだろう。しかし。
(「邪神絡みってなら失踪者の言動に共通点がありそうネ」)
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は音を立てずに笑み、足を止める。
 歴史学部。年期溢れる木の看板は、レトロな造りの建物とよく似合っていた。
 中に入ってすぐの場所は広間になっており、丁度いい具合に学生が数名たむろしている。
 学業に励む為の小休憩か、それとも歴史に思いを馳せながら議論していたのか。何であれ、おや、とこちらに気付いてくれたのは有り難い。
 『学生、コノハ・ライゼ』な礼儀正しい笑顔を浮かべ、いざ、お仕事開始。
「渡会・菫子センセイ、いる? 借りてたもの返したくて。ココに来れば会えるかと思ったんだケド」
 誰、という学生達の顔が、渡会・菫子の名を出した途端に「あ~」と変わる。
 そこに暗い色が一切見えず、コノハは内心首を傾げた。明る過ぎる。これは行方不明者の名前に対するリアクションじゃない。
「残念だけど、渡会教授は退職されたからここにはもういないよ」
「そうなの?」
「まあ、俺達も驚いたよ。急だったよな? 実は来週で教授を卒業しま~す! って」
「先週……いや、もう2~3日前か? 教授になりたいって言いまくってた桜田助教授は、ビックリした後に私が教授だーって喜んでたけど。そんで慌てて謝ってたけど」
「桜田さん結構論文出してたんだなぁ。口だけだと思ってごめんなさい」
 両手を合わせて小声で謝罪。広間に学生達の控えめな笑い声がさざめいて、消えていく。そこに、でも――とコノハが落とした声は、やや暗く。
「最近見ないケド、どこいるか知らない?」
 心配だという感情を匂わせ呟いたそれに、今度は学生達が不思議そうな顔をした。
 大学を一歩出た後、普段教えを受けている教授がどこにいるか知らないのは当たり前だ。だとしても、このリアクションは。
(「――ああ、知らないンだ」)
 渡会・菫子が失踪している事も。
 学内に行方不明者が多数いる事も。
「七宮・百合絵センセイも連絡取れないんだケドさ、二人に変わった様子とかなかった? 何か悩んでたり、誰かを頼ってたり、何かにスゴイ興味もってたとか。そういうの」
「渡会教授も七宮教授も、一番興味持ってたのは歴史学だったからなあ」
「そうそう、パワフルな66歳と背筋ぴしっと伸びた70歳の歴史学コンビ。悩みらしい悩みっていうと……もっと歴史を知りたい、紐解きたいってのはよく聞いたかな」
「あと何年続けられるかって事をな~……って思い出した。渡会教授に訊いたんだよ、急な卒業ですねーって。そしたら……」
 ちょっとした旅をするの。
 うふふと楽しそうに。まるで、10代の少女のように笑っていたのだという。
「その旅、七宮教授も一緒なのよ~って。で、そこにタイミング良く七宮教授が出てきてビックリしてたら、お参りですよ渡会さん、って。どっちだったんだろうな」
 両腕を組んで不思議そうに唸る学生は二人に行き先を尋ねたらしいが、揃って「秘密ですよ」、と、内緒の悪戯を思いついた少女のように微笑まれ――それで、お終い。そこから先は、何も知らない。
 他の行方不明者についてもそれとなく訊ねるが、付き合いの無い学部や生徒の事はサッパリ、という返答。余程の有名人でなければそんなモンよねとコノハは納得しつつ、色々ドーモねと笑って外に出る。
 周りに怪しい人物は見あたらない。管狐の出番はなさそうだが。
(「二人の共通点っていうと、歴史学大好きってトコと……」)
 老いてもなお歴史を知りたい願い、自分達の限られた時間を憂う気持ち。
 探求心を灯していた渡会・菫子と七宮・百合絵。
 『戻ってくるつもりでいた』二人を帰さないのは。
 帰れない切欠を与えたのは。
 だあれ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アビ・ローリイット
【POW】足使う

悩み抱えたフリね
非常階段から『ダッシュ』で素早く忍び込めんなら屋上へ。下でも見てりゃ悲壮感ない?(施錠済なら『怪力』で外す)
飛び降りますってな顔して
先客いれば物陰で様子窺い神の使いの接触待つ
いなけりゃ自分で囮、フェンス乗り越え一望
眼下に怪しいやり取り映れば気に留めとくし
声掛けられたなら応答

やんなるよな
寝て起きて毎日同じ繰り返し。死がゴールでしかないのに明るい未来だとか
夢とか
なんのためここまで来たのか、思い出せねえなあ…

惰性で生きてる
明日はもっと楽しいって、一日ずつ継ぎ足しながら
それも疲れたし、と淡々まるきり出まかせでもなく

なあ神様
俺にも会わせてくんない?
救ってよ


※アドリブ等歓迎



 自分は悩みを抱えた存在だと。それを手っ取り早く、かつ、わかりやすい形で見せるのなら、屋上ほどピッタリの場所はない。
 手すりを掴みながら二段飛ばしで駆け上がれば、地上から屋上なんてあっという間だ。その手前、屋上への入り口となるドアの鍵は――掴んで回したらバキャリと音を立てて『開いた』から、掛かっていなかったらしい。
(「とーちゃく、っと」)
 表情をなくせば、アビ・ローリイット(献灯・f11247)の印象は随分と冷えたものになる。吹き抜ける風に犬耳と髪をはたはたと揺らしながら、神の使いのいない屋上をゆっくり歩いて――とん、とフェンスを乗り越えれば目の前は『空中』だ。
 眼下には怪しいヤツ含め、誰もいない。
 長くふさふさとした尾を、ゆらり、ゆらりと左右に揺らす事、数回。ずっと後ろ、屋上のドアがぎいぃ、と音を立てた。
 フェンスに指だけを引っかけて振り返る。少しばかり息の荒い――学生か、職員か。大人びた容姿からは判断がつかないが、青年がいた。飛び降りようとしている誰かに気付いてやって来た。そう、見える。
「……君、死ぬつもりか」
 疑問というより確認に近い声へ、ああ、と告げた肯定は生気薄め仕様。
「やんなるよな。寝て起きて毎日同じ繰り返し。死がゴールでしかないのに明るい未来だとか。夢とか」
 ――ゆめ。
 そう。夢、とか。
「なんのためここまで来たのか、思い出せねえなあ……」
 抑揚のない声は口から出て音になった途端、どこにも無かったかのように消えた。
 同じ事を繰り返して生きていくうちに、描いていたものは見えなくなって。
 けれど戻れやしない。どんどん過ぎていくものを置き去りにして、ただ明日に続くだけ。
「そんなに、空っぽなのか」
「惰性で、生きてる」
 明日はもっと楽しいって。
 一日ずつ継ぎ足して、寝て、新しい一日にまた同じものを足して。『死』という、いつ来るかわからないゴールまで、ただ生きるだけ。それを繰り返し。繰り返し。
「それも疲れたしな」
 淡々と口にしたそれは、まるきり出まかせでもないからこそ、振り返った先、己を見つめるどこかの誰かは茶化したりせず、じっと耳を傾けているのだろう。
 ただ――見える眼差しが。自殺志願者を助けに来たにしては、少しばかり、凪いでいる。そんな目だ。
「なあ神様、俺にも会わせてくんない?」
 救ってよ。
 うすら笑って告げた最後の言葉に、青年の凪いでいた目が――笑った。
「いいよ。でも、神様は僕じゃない。僕達は、案内するだけだ」
 神様の喚び方を。
「そこじゃあ神様は喚べないよ。潰れるだけだ。教えるからついてきて」
「ん」
 アビはフェンスをひょいっと跳び越え、屋上に戻るとスタスタと青年の後をついていく。
 目の前を行く青年は、どう見ても普通の人間だ。
 背中に翼は生えていないし、頭上にぴかぴか光る輪っかもない。

 僕達は、案内するだけだ。

 ――そんな神の使いは、他にもいるようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
へー。教職員五人中、教授は二人とも歴史学の方ですか。
それじゃ歴史学部を中心に調査してみまーす。
首謀者は教授や講師あたりだと教職員と繋がり持ち易そうですね。
生徒の中にいるとしたら相当コミュ力高いかなー。

メイクで軽くクマ作って、悩み事で寝れてません感を醸すよう【変装】しときます。
髪の纏め方もいつもよりルーズに。うわー、クソダサ。
囮としてただ待ってるだけってのもアレなので
講義でも受けに行ってみましょうか。

席は後ろのほう、窓があるなら窓際がベスト。
これなら外の様子もついでに見れるでしょう?
スキルマスターの【視力】【情報収集】【第六感】で
教員と学生の仕草や持ち物を観察して気になる点がないか確かめます。



 一つの地域、閉じられた場所でのみ信仰される神。
 その誕生や時代背景について語る教授の声がBGMとなって流れ続ける。
(「うーん。あの教授は違うみたいですね」)
 じ、ぃ。
 渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)が教壇に向ける眼差しは、普段と違って虚ろだ。クマも出来ているし、普段鮮やかに踊っている金色の髪はいつもよりルーズで――。
(「うわー、クソダサ」)
 窓硝子に映った自分の姿をバッサリ。ついでに外をチェックして、普通の光景が広がっているのを確認すると室内に視線を戻す。
 いつもは指先までネイルして彩るユキテルだが、今日は『悩み事で寝れてません』モードのユキテルだ。メイクで軽くクマを作って、髪をいつもよりルーズに纏めて変装中。
 だって、囮としてただ待つだけというのもアレですし?
 他の生徒と共に教室へ入る間も変装していたので、ここにいる者は皆『今のユキテル』を見ている。あの教師が首謀者でないとしたら、学生かもしれない。だとしたら相当コミュニケーション能力に長けていそうだ。
 悩み苦しむ子羊を装いながら、柔らかな薔薇色の視線を巡らせる。
 学生達の仕草や持ち物に、奇妙なものはないか? 違和感は?
(「……ふうん。皆さん真面目ですね」)
 そうでもなさそうな気配があったのは一度だけ。前のほうに座っている男子がスマートフォンを弄ったくらい。画面をタップして、何かを入力して。ちら、と画面を見た後は全く触っていない。
(「それとも皆さん、自分みたいに変装してるんでしょうか」)
 ――首謀者も、そうなのだろうか。
 教授のBGMはチャイムと共に終わりを告げ、静かだった室内に雑音が戻る中、生徒達がぱらぱらと出て行くのをユキテルは鬱屈とした目で見送って――。
 いや。まだいる。退室の準備をしながらこちらを伺う男子が、一人。スマートフォンを弄っていた男子だ。
 こちらを体調不良と見て案じているのか、それとも。ユキテルは男子を視界に入れながら立ち上がり、力ない足取りでドアへ向かっていく。釣れなかったら別の講義で――。
「あの……だいじょうぶ?」
 か細い声に足を止めて振り返ると、あの男子学生がいた。
「い、いきなりごめんね。何か、辛そうに見えて……具合悪い? 誰か呼ぶ?」
「……いや、違うんで……いいです」
 素っ気無い口ぶり。そらした視線。
 男子は別のものを思い描いてくれたらしい。急に意を決した顔になり、鞄から取り出したものをユキテルに差し出した。ずい、と目の前に出されたそれは。
「何ですか、これ……あなたの名刺?」
「ぼくのじゃないよ。配ってくれって頼まれて……人助けのバイト、みたいな。へへ」
 なぜ照れ臭そうに笑うのか。心に湧いた疑問を変装の下にぎゅむっと押し込んでいると、ユキテルより少し年上らしい少年は勝手に語り出す。
「このサイト、何でも聞いて、解決してくれるんだ。ぼくも、なんにもできない自分がやだなあって悩んでた時に教えてもらって。でね、手伝ってくれないかって声がかかって! いや、面接とかなくって、急にぼくのとこに名刺届いたんだけど」
 それが人助けのバイトらしい。
「じゃあね。体調悪かったら、無理しないでね」
 ぱたぱたと出て行った生徒をユキテルは力無く見送って。完全に気配が遠くへ行ってから、ふう、と息を吐いていつもの表情に戻る。
 真っ白な紙に『人生迷い子案内所』というお洒落なフォントでサイト名が。その下にURLとQRコードだけが載ったシンプルな名刺だ。とりあえずQRコードからアクセスしてみると、真っ黒なページに短い文章がぽつんとあった。
「『悩みや苦しみを抱えていますか』? ハイってしておく流れですよねコレ」
 ハイをタップした先は掲示板だった。背景は暗黒色。掲示板部分は黒。
 灰色で綴られるのは無数のネガティブだ。辛い、苦しい、助けて、聞いて。
 そこに付けられる返信は、全て藍色だった。
 どうしたの? そうなんだ。ひどいね。かなしいね。
 寄り添って掬おうとする声はどれも、『鳩』と名乗っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール
本当は行方不明者の近辺を当たるのが早いでしょうけど、不審に思われそうですし
ワタシはインターネットから探ってみまショウ
籠手にネット端末機器が備え付けてあるので、場所は何処でも良いですが
周囲に聞き耳も立てられる学食の席を借りて検索開始デス

まずはSNSをチェック
主に名簿にある行方不明者と同じ学部・サークル関連の人やグループの投稿を確認
何処か1箇所くらいは、最近どういう行動をしていたか、或いは噂があったか話してると思うんですガ
その後は裏サイトをチェック
パスワード等が必要な場合はハッキングしまショウ。一般のものならセキュリティは厳しくないハズ
寧ろこういう所に、それらしい勧誘の書き込みとかもあるかもですね



 さっきの講義のさあ――来週の飲み会だけど――あそこの数式にこれ当てはめれば――37番、37番カツ丼定食の人~!
 学食の一角、空いている席を借りたリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)に届くのは、学生達の会話と調理師の大きな声。それから食器の音。
 どの音も日常の中でなら有り得る、何て事はない普通ものばかりだが。この大学では、いつ奇妙な引っかかりが飛び込むかわからない。リインルインは周囲に聞き耳を立てたまま、籠手に備え付けてある端末機器から電子世界に触れていく。
(「検索開始といきまショウ」)
 まずは学生用SNS。行方不明者と同じ学部・サークル名で検索をかければ、関連性のあるユーザーが一気に表示された。横書きの日記めいたレイアウトには、最近の活動、近況報告、他愛ない日常といった色々なものが綴られている。
 行方不明と繋がるものがないか。一人ずつ過去の投稿をチェックしていくが、書かれているのはサークル活動の報告や宣伝、飲み会のお知らせ、講義がどうだったこうだった、教授と何々について有意義な話を――他、色々。
(「大学生だと考えると、ごく普通の『最近の行動』ばかりデスね。噂があったか話しては……おや」)
 引っかかりを覚えた投稿は薬学部生徒の投稿だった。
『論文つまり気味。息抜きにカラオケオールは我ながらアホ』
『頭の中にはあるのになかなか形になんないってしんど』
『やりたくてコレにしたけど、今は何でって思ってる』
 ユーザー名ダイチ。同じ読みの名は行方不明者リストに無かったが、以降の投稿を確認すると論文に行き詰まっているのが判る。
 図書館で資料を探した。教授と相談、アドバイスを貰えた。先輩の論文を読んだ。努力の合間に日常の投稿を挟んではいるが、投稿のほとんどが論文関連。日が経つにつれ、ダイチの苦しみは増しているようだった。
(「大学生というのも大変ですね。ん? このコメントは……」)
『どんな話でも聞いてくれる場所がある。興味あったらDMして』
 ユーザー名きくやんは、大丈夫かと訊ねるのではなくどこかに誘導していた。ダイチのDMログを見ればどこかわかる筈。一般大学のセキュリティであれば――やっぱり。ちょっとつついただけで、鍵が開いた。
『教えて』
『ここ』
 やり取りはコメント以上に短かった。ダイチの場合は、長文を書く気力が無かったのかもしれないが。
 添えられていたURLの先は黒く暗い色をした掲示板サイト『人生迷い子案内所』。そこに漂う無数の声は適当に作ったらしいHNで行われており、どれがきくやんでどれがダイチかは判らない。
 だが、聞き手である『鳩』はどうだろうか。文面を見ると大体同じだが、句読点の付け方や細かな文字遣いに若干個性のバラつきが見えている。そして大学の現状を考えると、言葉通りのお優しい誰かさんが語っているとも限らない。
(「近付けた気がシマスね。鳩を演じているのは何方なのか、見せていただきまショウ」)
 大学の外だからかDMログを開けた時と比べ鍵は頑丈だったが、あちらと比べてやや頑丈、という程度。
 ハッキングした先に見えた姿は『鳩参号』。
 だが、足跡を辿れば鳩ではない本当の姿に行き着くだろう。他の鳩も、そう。
 リインルインは、もう暫く電子世界に触れる事にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャハル・アルムリフ
…学舎というものは何処も大きいのだな

師に借りた「めがね」なるものと
筋書きまで作って貰った成人苦学生を装い潜入
表情の硬さも今日ばかりは

敢えて講義の行われている時間に向かうは
屋上、または裏庭といった静かな場所へ
人目を避けて思い悩む者が選び
それを探す者が居るやもと踏んで

ひとり暗がりで顔を伏せ、悩む様子で<おびき寄せ>
話しかけてくる者がいれば
迷ったり口を噤む様子を見せながら少しずつ
父が事業に失敗し、その負債をも負わされ
酷く疲れていると

何処にでもある、下らん話だ
誰かが救ってくれれば良いのだがな
そんな都合の良い話などある訳がない
知っているのなら教えてほしいものだ

釣られる様子あらば
疑う様子で幾つか問い掛けを



 視線の先にそびえ立つソレは今日も大勢の人間を抱えている。教員、職員、学生。あとは、来客といった外部の者。
(「……学舎というものは何処も大きいのだな」)
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は今頃講義中だろう学舎を遠くに見ながら、いつもなら視界内には存在しないライン――めがね、なるものに触れる。
 師からは、眼鏡だけでなく成人苦学生という筋書きも渡されていた。今日ばかりは、己の表情の硬さも成人苦学生『らしさ』の一助となるだろう。
 だが、もう一押し。ここにいるだけでは、借りたものを生かし切れぬ。
 ジャハルは学生達が講義を受けてるだろう建物から離れるように歩き出した。擦れ違う人の数は雑音と共に減っていき、静寂が増していく。
 向かった先は、敷地内の端に位置する建物、その裏庭。
 敷地内なのだからここの木々も手入れされている筈だが、日々の陽光と水分で成長度が増したのか。枝は建物へ被さるように伸びており、頭上では緑の天井がさわさわと音を鳴らし影を作っていた。
 人目を避け、誰もいない、静かな場所へ。
 思い悩む者。それを探す者。両者が選ぶのは、こういった場所ではなかろうか。
 ジャハルは壁にもたれ、顔を伏せる。眼鏡の奥、七彩浮かべた瞳は目の前を見つめるようでいて、その意識は胸の内ただ一点へ。今の己は成人苦学生、心を占めるのは固い地面に非ず――なのだから。
 そして。
「ねえ」
 弾かれるようにして『視線を上げる』と、裏庭への入り口ともいえる建物の角、その場所に少女がいた。
 年の頃ならジャハルより一回りは下だろうか。こんにちは、と浮かべた笑みは柔らかで、普通の見目と相まって警戒心を抱く者など皆無――そう思わせる少女だ。
「こんなところで、どうしたの?」
「――……いや」
 口を開き、言いかけた音を呑み込んで。視線を戻す。
 僅かに『見せた』迷いに、少女は表情を変えない。じっとジャハルが『話す』のを待っている。
(「釣れたか。それとも」)
 見極めるには、もう少し餌を見せなくては。
「……父が、事業に失敗してな」
 作って貰った筋書きを口にすると、少女の目が丸くなった。
 勉学に励む身である己はその負債をも負わされて。酷く疲れているのだと力無く紡げば、少女からは「ああ、それは……」と、触れてはいけないものに触れてしまったというような声と、顔。
 ジャハルは少女から裏庭に茂る木々へと目を向ける。
「何処にでもある、下らん話だ。誰かが救ってくれれば良いのだがな」
 そう言って表情筋に少しだけ力を入れれば、『遠くを見るような目で自嘲めいた笑みを浮かべた苦学生』の出来上がり。
「そんな都合の良い話などある訳がない。知っているのなら教えてほしいものだ」
 存在しないだろう?
 知らないだろう?
 表した態度は剥がさないまま。視線や表情も、少女には向けず、ジャハルは口を噤む。
 何も知らない者が見れば、半端な考えで助けようとしてはいけないと。そう思わせる姿。だが少女はどうだろうか。
「あのね」
 ジャハルの目が少女を見る。
 一歩。また一歩。こちらへと近付く少女は、自分の目の前にいる学生が負わされた苦難を憂う表情で、言った。
「わたし達、人助けをしているの」
「……何?」
 わたし『達』。
「……それが、何だと」
 人助け。経済的にか、精神的にか。それとも――。
 それらを心の中に伏せたまま疑い含んだ問い掛けを向けると、少女は周りをキョロキョロ確認してから喋り出す。
「あなたみたいに辛いことや、苦しいことでいっぱいで動けない人を助けてる。話を聞いて助けられる人もいれば、難しい人もいて。難しい人には、『とっておき』を案内してるんだけど」
「は、巨額の金を無償で貸す富豪か何かか」
「ううん、全然違う。もっと凄くて、すてきなもの。……あなたは……」
 難しい人かな。
 少女は計るような眼差しを笑顔に変え、ポケットから掌サイズのケースを取り出した。蓋を開けて差し出してきたのは一枚の名刺。
「このアドレスにアクセスして、適当な名前で『鳩から伝言。翼までの地図希望』って書き込んで。そうしたら、」
 神様が、あなたを助けてくれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
苦しみや悩みから逃げられるなら、誰だって縋りたくなるさ
…ま、邪神に頼るなんて俺なら死んでも御免だけれど

実際に足を運ばなきゃ分らない事もある筈
そんな訳で、大学生を装い情報収集
昼の食堂は混んでいそうだし
比較的相席も容易に出来るかな
多分噂通…その類のサークルに所属する子もいる筈
事前に調べておいて、コミュ力を使って話し掛けてみよう
そこはかとなく事件の話題に持っていきつつ
学生や教職員が行方不明になる前、どんな事で悩んでたかとか
誰に会っていたかとか分るかな
少しでも情報が集まれば【影纏い】の対象が絞れる
…有益な情報が得られたら席を外す前、報酬にスイーツ一つでも置いていこう

後は影纏いで集めた情報も皆に共有、と



 苦しみ。悩み。
 それは人によって形も重さも違うものだが、重ければ重いほど、手放したくて逃げたくてたまらなくなるものだ。
 もし、それから逃げられるものがあるとしたら?
 ああ、誰だって縋りたくなるだろう。
(「……ま、邪神に頼るなんて俺なら死んでも御免だけれど」)
 学食に足を踏み入れた空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は、席を探す体を装って、テーブル近くをのんびり歩いていた。ぼさぼさ髪の隙間から覗く色違いの双眸は、昼食や会話を楽しむ学生達の顔を片っ端からチェックしていく。
 ――違う。
 違う。違う。
 似ているけど違う。
 ――……いた。
「なぁ。ここ空いてる?」
「え? ああ、大丈夫」
 顔を突き合わせて喋っていたグループの隣。椅子を引いて。すとんと座って。
「真相サーチ研の人達だよね。噂通と見込んで色々教えてほしいんだけど」
 グループ全員の目が一斉に柩を見た。きらきらと輝く目。僅かに紅潮した頬。
 何やら期待に胸膨らませ始めた彼らに柩は心の中で目をそらし、事前に調べておいた活動内容に触れながら、あの話は本当なのかだの何だのと彼らと暫しの談笑タイムに勤しんだ。
「……そういえば、ニュースで所在不明の留学生が、なんてのあったけど」
 ここもそういうの、起きてるのかな。
 柩の投げたボールは真相サーチ研の前へコロコロと。そして。
「誰かがそう訊いてくれるのを、ずっと待ってた……!」
 ガシリとキャッチされた。
 彼らが気付いた切欠は調理師の大島・有希を見なくなったから。他の調理師に訊ねると「暫く休ませてくれって言われて」「元気なかったのに急にウキウキしだして。気分転換に旅行かしらね、羨まし~」と。だが、戻ってこない。
「検索かけたらSNS見つけたんだけど、更新が止まってるんだ。それからしばらくして、今度は歴史学部の教授が二人同時に退職したって知ってさあ」
「二人同時なんて何か臭うじゃない? 年配者だからかSNSはやってなかったんだけど、歴学の子達に訊いたら、教授達もウキウキだったって」
 これは何か起きているに違いない!
 真相サーチ研として調べ、解き明かさねば!
 ――と燃え上がった彼らから得た情報は、なかなかのものだった。SNSと直感、足を駆使する大学生侮りがたし。柩は報酬だよと学食のパフェを奢って外に出る。
(「調理師と歴史学部の教授二人、それと……」)
 彼らが口にした名前は行方不明者リストの一部と合致していた。
 行方不明者は皆、何らかの理由で元気を無くすなどしていた。夢はあるのに現状を打破出来ない。己の限界に、壁に当たって進めなくなってしまった。親しい人に事故が。家庭の問題が。エトセトラ、エトセトラ。
(「それが嘘みたいに明るくなって、どこかへ行った……か」)
 スマートフォンをタップし、青空と白雲映えるホーム画面から画像ファイルに移動する。そこから一枚、先ほどの学生から貰ったとある画像を開けば、職員に白いカードを差し出す男子学生が映っていた。顔もバッチリだ。
 揺らいだ足元からは既に影纏う蝙蝠が羽ばたいた後。大学内に散った猟兵仲間にもこの事を共有すれば――。
(「ん?」)
 蝙蝠の一羽から情報が伝わってくる。電子世界に触れていた仲間。接触を受けた仲間。彼らから届けられたそれを、柩は改めて大学中へと羽ばたかせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
設定は「サボりがちな学生」
サボりの理由は「勉強、引いては人生に意味を感じられなくなり、漠然と何かを探している」

校内に潜入し、如何にも人生楽しくないという雰囲気を醸しつつ、怪しげな場所を探す
校内で儀式をやっているわけではなくとも、少なくとも首謀者には儀式の魔力が多少纏わり付いているものと思われる
コンタクトの機能や第六感で魔力の残滓を探して辿れば、首謀者がよく使う場所、或いは本人に当たる筈

それか、そんな感じでフラフラしていれば、何か問題を抱えていると見られて何らかの接触があるかも
その時は設定通りの事を、あくまで仄かに匂わせる程度に話す
それで食い付いてくれば良し、駄目なら無理に絡まず会話を終わらせる



 行方不明多発の果てに、『黒の王』が完全復活する。
 ならば、儀式を学内・学外どちらでやっていようと、首謀者には儀式の魔力が多少纏わり付いている可能性がある。
 そう考えた忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)は――構内をとぼとぼと歩いていた。
 生気のない足取りに、ふらりふらりと周りを見る両目。
 だが、それら全ては今日限定の偽りの姿。
 『勉強だけでなく人生に意味を感じられなくなった学生』は溌剌とした歩き方はしないし、視線は『漠然と何かを探す』ようにうろうろせず、真っ直ぐ何かを見ているものだ。
 サボりがちな学生という外側を被り、雷火は歩き続ける。
 魔術回路を組み込んだ薄型コンタクトレンズを付けた両目と、鋭く研ぎ澄ませた自身の感覚。魔力の残滓は無いか。怪しげな場所は無いか。
 きびきびと歩いていたなら目立ったかもしれないが、全身から溢れる『如何にも人生楽しくない』という空気が、雷火の姿を構内という背景にとけ込ませていた。
(「首謀者がよく使う場所……或いは、本人に当たれば……」)
 一歩。また一歩。
 自分を『問題を抱えた人物』と見た者から、接触があるかもしれない。フラフラとした歩き方のまま、雷火は中庭広場を抜け――。
(「!」)
 音もなく飛んできた蝙蝠に気付き、足を止めかける。
 すぐ近くに来るまで気付かなかった。という事は普通の蝙蝠ではない。
 ごく僅かな間の後、歩き始めた雷火の後ろを、見え隠れしながら羽ばたく蝙蝠が付いていく。そして伝わったものに、雷火は感覚をより鋭くさせた。
(「そう……学生達が、やっていたの」)
 声をかける。
 白い名刺。
 URL。
 掲示板。
 何人もの『鳩』。
 誘い、話を聞き――難しい、と判断した人間にのみ、『神様と会うのに必要なもの』が伝えられているらしい。それが、彼らの行方不明と『黒の王』召喚に関わっているのだろう。
 ふらり。ふらり。雷火は歩きながら緩やかに角度を変える。
(「見えたわ」)
 酷く薄い。カタツムリが通った痕のような、風が吹けばとろりと消えそうな残滓だった。しかし、確かに在る。ならば、白い招待状は要らないだろう。
 中庭広場で見つけた残滓は屋内へと続いていた。外と中を区切る段差を上がり、長い廊下を少し進んだら、階段を使って三階へ。三階で左に曲がり――突き当たりで、止まった。
 ドアには『人生迷い子相談所』の張り紙。掲示板と同じ名前だが、紙は真っ白だし、ヒヨコや猫、お花といったもので明るくデコレーションされているし、『お喋りするだけでもOK!』といった説明書きまで付いていた。
 蝙蝠から聞いた掲示板とは随分と様相が違う。掲示板はいかにもな色合い、真っ黒だったと聞いているが。
 雷火は被っている設定に相応しいよう、弱々しくノックをして待った。
 ガチャッ。
(「鍵を」)
 解錠の音。張り紙は他者を歓迎していたが、中にいるものは違うらしい。つるりとしたドアが、ゆっくりと開いて。
「……お待たせしました。どうぞ」
 にこり。ドアを開けた学生は何も訊かず、雷火に入室を促す。
 中にあったのはパイプ椅子と、くっついて並んだ長机。机の上には菓子やポット、紙カップ。
 ノートパソコンやスマートフォンを操作していた生徒が数名、顔を上げて雷火を見て。にこり。口が、目が、優しく笑う。
 雷火はそこに善意を見た。
 善意のみだ。それしか無い笑顔だ。邪神に何人も捧げているなどこれっぽっちも思っていない。誰一人帰っていない事に、何の疑問も持っていない。
 自分達は悩み苦しむ人を救っている。
 神の使いとして務めを果たしている。
 そう心から誇るような笑顔だけが、雷火を歓迎していた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『寂れた遊園地』

POW   :    絶叫系アトラクションの跡を調査してみる

SPD   :    屋内系アトラクションの跡を調査してみる

WIZ   :    売店、グッズショップ等の跡を調査してみる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鳩
 話してくれてありがとう。ずっとずっと、頑張ってたんだね。
 ……僕達は、君は、救われるべきだと。幸せになるべき人だと思う。
 これを。それは何年も前に閉鎖した遊園地までの地図だ。こっちは神様の喚び方。
 遊園地に着いたら、ここだ、って思う場所を探すんだ。
 そこで君の求める理想や幸せ、未来が叶うよう、紙に書いて祈るんだ。
 遊園地の中だったらどこでも『繋がる』から、好きなとこ選んで平気だよ。
 えっ、お金? いらないよ。そういうつもりでやってるんじゃないから。
 あなたが今の状況から救われれば、わたし達はそれで充分。
 本当かどうか? 試しておいで。
 僕達に話せたんだ、今の君なら出来ると思うよ。
 それじゃあ――いってらっしゃい。良き旅路を。

●廃色遊園地
 通常、邪神の復活儀式は大規模なものとなる。
 相応しい血筋、祭具、祭壇、大量の生け贄――他、諸々。
 しかし、鳩曰く『遊園地には無数の思い出が刻まれているから、それが神様と繋がるパスになる』『だから、後は本人が願うだけ』と。
 つまり、彼らは毎日過ごす中で『選んで』、『教えて』、『見送る』だけでいい。
 遊園地そのものが祭壇で、生け贄は行方不明者。祭具は、紙。
 そうやって行方不明者を出してきた学生達は。善き事をしたと、満たされた表情で猟兵を見送った彼らは、大学を出た後、UDCに身柄を押さえられるだろう。そこから先は、UDCが全て請け負ってくれる。

 人々を華やかに出迎えていただろうアーチはひびと錆びにまみれ、かろうじて『ランド』だけ読む事が出来た。
 関係者以外立ち入り禁止の札とチェーンが掛けられた入り口の脇。『STAFF ONLY』のシールが付いたドアから中に入ると、アスファルトの隙間から日光を浴びる雑草が、ざわざわ鳴きながら来園者を出迎えた。

 津村・剛、峰岸・ハルカ、戸部・陽子――。
 武山・伸吾、野木島・清也、大島・有希、渡会・菫子、七宮・百合絵。

 彼らは皆、形だけがぽつんと残るこの場所に来て。
 鳩から教えられた儀式――願い事をして、消えた。
 だが、祭具ともいえるものは残っている筈だ。
 願いを綴った紙。どこかにあるそれを見つけ出し、壊さなければ。
 それが黒の王と此処を繋ぐ唯一のもの。
 王を現世へと招く、招待状。
渦雷・ユキテル
回る回るメリーゴーランド
最後に動いてたのはいつなんでしょ
馬車の中を覗けば――重石代わりでしょうか、本の下に紙を見つけ

ふーん、家族関係の悩みですかぁ
昔は優しかったって、あぁ、だから此処に。想像つきます
微笑むお母さんと、大喜びで手を振る子供。それを写すお父さん
そんな幸せのテンプレート
同じ場所ぐるぐる回って楽しいんですかね
自分は乗ったことないんで分かりませーん
そもそも両親の名前も顔も知りませんし!

どうしてこんなのに縋っちゃうんだか
鳩さん達も神様の使いにでもなった気分です?
丸投げしといて良いことした気分に浸る
あははっ、そんなの傲慢なお手軽救済じゃないですか
ぐしゃりと握って電撃の【属性攻撃】で焼き尽くし



 金色のレリーフが付いた王冠のような屋根。天井と床は白亜と赤。
 亜麻色のたてがみなびかせた白馬達は皆、宝石ちりばめた金色の手綱や鞍でめかしこみ、パカラパカラと蹄鳴らして王子様とお姫様の馬車を引く。――なぁんて。
 指先で白馬の目元をなぞると、もっと白い痕が生まれた。
「このメリーゴーランド、最後に動いてたのはいつなんでしょうね」
 敢えてやっていた『クソダサ』からいつものスタイルに戻った渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は、指先に付いた砂埃をフッ、と吹き飛ばし、白馬の間を軽やかに行く。がやがやと鳴っていただろう音楽はとうの昔に終演しているから、ユキテルの足音が、かつんかつんと響いた。
 誰も座っていない馬車を覗き込むと、誰もいない座席には一冊の本――と、その下からちらりと端を覗かせている紙。
 重石代わりらしい本を軽く上げて引っ張り出した紙には、過ぎた日々を願う文字の列。
 お父さん、お母さん。誰しも持つだろう二つの存在から始まる内容に、ユキテルは小首傾げて「ふーん」。
「家族関係の悩みですかぁ」
 昔は優しかった――あぁ、だから此処に。
 笑む瞳に映る白馬達の後頭部、もとい、たてがみ。そこに紅葉のように小さな手を乗せた子供がいて、その傍には微笑むお母さん。子供は大喜びできゃあきゃあと手を振っていて、メリーゴーランドの外にいるお父さんが二人にカメラを向ける。
 容易く想像出来た幸せのテンプレート。けれどユキテルは笑ったまま振り返る。
 前方と同じく、後ろにいるのもめかしこんだ白馬の列。
 外に広がるのは遊園地の一風景。
 きらきら電飾の下で白馬に乗っても、舞踏会が行われるお城に入れはしない。音楽が終わって回らなくなったら、下りて、外に出て。はいお終い。
「同じ場所ぐるぐる回って楽しいんですかね。まあ自分は乗った事がないから分かりませーん。そもそも両親の名前も顔も知りませんし!」
 風が吹き、紙がカサッと音を立てた。
 『かえりたい』と綴ったこの人は、思い出の中にしか残らない日々を惜しんでいるけれど。だったらどうして、こんなものに縋ったのだろう。メリーゴーランドの面白さも、両親の名前や顔も、これも。ああ、分からない。
「鳩さん達も神様の使いにでもなった気分です?」
 丸投げしておいて良い事をした気分に浸る。
 それってつまり、背中を押すだけ押して後の事はノータッチ。ですよね?
「あははっ、そんなの傲慢なお手軽救済じゃないですか」
 ぐしゃり。握った紙から雷を咲かせる。
 真っ黒に焼き尽くした紙は、指を離して空中に踊らせた傍からぼろぼろと崩れ始めた。一枚がいくつかの大きな紙片になって。それが、どんどん千切れて、崩れていって。
 そして後には何も残らない。
 一冊の本と、回らないメリーゴーランドが、あるだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
あの顔。善い事をしたのだと、本気で思っているのが困ったものね
最後まで責任を持たないという所も質が悪い


ともあれ、紙を探しましょう
あまり自信は無いけれど、友人や恋人が一緒に来るような場所。観覧車かイートスペース辺りに、その類の悩みを持っていた人のものがあるかも
紙を見つけたら軽く内容に目を通し
それが間違いなく「祭具」だとなれば、ユーベルコードの鬼火で燃やしましょう

……願えば全て叶うとは、訪れた人達も本気で思ってはいなかったんじゃないかしら
願掛け、或いは気持ちに区切りを付ける為の行為
いずれにせよ、前に進みたかった……進もうとしたのは間違いない
こんな結末でなければ、案外、突破口もあったのかもしれないわね



 いってらっしゃい。良き旅路を。

 ふいに『あの顔』を思い出し、忠海・雷火は短く息を吐く。
 善い事をしたのだと本気で思っている顔だった。そして、最後まで責任を持たないという質の悪さも抱えていた。世の為人の為と飛び回る『鳩』にも困ったものだが、まずは。
「紙を探しましょう」
 目の前にある何とかランドのマップは、雨に晒され手入れを受けなかったからか、錆色が上から下へと垂れていた。
 閉鎖され廃墟と化した遊園地。人はおらず、ものだけが形を残した寂しい場所。この遊園地のどこかに紙が――祭具があるとしたら。大勢が楽しい時間を過ごしただろうこの場所で、行方不明者が「ここ」と選ぶのはどこだろう。
 雷火は暫く案内図を見つめた後、歩き出す。
 あまり自信はないが、友人・恋人が共に来るような場所であれば見つかるのではないか。
 そう考えまず向かったのは、アメリカンダイナー風の建物の手前、互い違いに並ぶパラソル付きのテーブル群。
 ぱっと見た限りテーブルの上に紙は無い。ならばと雷火は閉じられているパラソルの中や、テーブル板の反対側、座席のチェックに取りかかった。
 陽射しを防いでくれる筈のパラソルの中には、穴が開く、裂けるという具合に傷んでいるものが見受けられたが、端がよれているだけで済んでいるものもあった。
 そんなパラソルの一つから、すとん。開けた途端に落ちてきた紙は、テーブルの上でかさりと音を立て――風に持って行かれる前に雷火の手に捕まえられる。端の乾いたテープがくっついた紙が少しごわついているのは、パラソルの内に貼られた後に雨が降ったのだろう。
 雷火は綴られた文字を静かに追った後、瞼を閉じて「そう、」と呟いた。
 ぼ、と現れた鬼火の群れが紙を取り囲む。かごめかごめと歌うように揺らぐ鬼火に包まれた紙は、あっという間に炭と化した。ひらりと落ちた部分がかさかさと音を立て、アスファルトの上で紙の形を保っていたのは僅かな間。
「……願えば全て叶う、ね」
 夢のような出来事だ。行方不明者の中には、本気でそう思ってはいなかった者もいるかもしれない。訪れ、文字という形にする。それは願掛け、或いは気持ちに区切りをつける為の行為か。
 何であれ、彼らは前に進みたかった。進もうとした。それだけは、間違いない。
 ただ。
「こんな結末でなければ、案外、突破口もあったのかもしれないわね」
 紙なんて最初から無かったかのように、風だけが過ぎていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天杜・理生
アドリブ、絡み歓迎。
【WIZ】

終の夢は遊園地……とでもいうのか?
随分とお手軽にお気楽な儀式もあったものだな。
しかしまぁ、鳩の導く先を崩すならその役割はやはり蛇が相応しかろう。

適当に遊園地を歩き回って紙片を探すとしよう。
願いを託すとしたら、そうだな、どこか思い入れのありそうな場所だろう。
例えば、こんなところでも誰かを思ったことを思い出すような場所。
喜ぶ顔を想像しながら土産物でも買ったような場所。

見つけた紙片には
『もう一度逢いたい』

……きっと逢えないほうがいいさ。
字も読めないほど細かく破く。



 一部が欠けたマスコットのオブジェ。ペンキが剥げている花飾り付きベンチ。伸びていくのをそのままにされた植木は、根っこでタイルを盛り上げて勢力拡大中。
 それが、適当に歩いていた天杜・理生の見た遊園地の姿。学生達が、行方不明となった人々を案内した場所。儀式の場。巨大な祭壇。
 彼らがここを選んだ理由を聞いてはいるが、周囲を見る理生の表情は冷ややかだ。
「終の夢は遊園地……とでもいうのか? 随分とお手軽にお気楽な儀式もあったものだな」
 足を止めた理生が見上げる先には、コーヒーカップの入り口ゲート。そこで翼を広げている鳥は白と錆のまだらで、クチバシはぷくっ、脚はぺたっ。
 ――アヒルだ。見る影もないが。
 目線を、元々は可愛らしかったのだろうアヒルから前へ戻す。
 ここでも誰かの思い出は残っていそうだが、願いを託すなら、今こうなっている場所であっても誰かを想った事を思い出すような。そんな場所を選ぶだろうから。
「ここだな」
 一歩入って足元からパキッ、と音。
 割れたガラスが散乱しているそこは、訪れた日の思い出が、記念の品が買える場所。
 理生は足元を埋め尽くす硝子の破片をパキパキと踏みならしながら、壁に備え付けられている棚を見て回る。
 埃と汚れにまみれたそこにあったのは、誰かが置いていったらしいぬいぐるみや玩具だった。なぜか石もあったが、それは忍び込んだ誰かが「取り敢えず置いておけ」というノリで置いたのかもしれないし、鳥の悪戯かもしれない。
 一段ずつ確認し終えた理生は他の棚を確認しようと足を動かして。ふと、レジカウンターの斜め向かいにある島什器に目を向ける。
 菓子、ぬいぐるみ、雑貨。ここにも何かが並べてあったのだろう。目立つ場所だ。置くなら人気商品か、売り出したいものの筈。それを手に取った客は、何を思っただろう。誰を想っただろう。
「まぁ、喜ぶ顔あたりだろうな」
 呟いて、理生は手を伸ばす。
 飛んでいかないよう複数の石で押さえられていた紙には、ただ一言。もう一度逢いたい。それだけが書かれていた。
 これを書いた人物は誰と逢いたかったのか、八文字だけ綴られた紙からは読み取れない。願いを籠めるほど逢いたい誰かがいたという事しか、わからない。
 理生は紙の両端を指で摘む。願う文字が、目に入る。
「……きっと逢えないほうがいいさ」
 そう言って、字も読めないほど細かく破いた。
 鳩の導く先を崩すのであれば、その役割はやはり、蛇が相応しかろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

アビ・ローリイット
ここで願って
どこぞへやら消えて
さいごのさいごまで本当に満足してたなら、それって『救われた』で良いのでないか
なんて、紙に綴られてる俺には叶えてやりようもない色々を見て思うのでした

自我なんてすぐに溶けて
後悔してなきゃさ
テーマパークといやワクワクの詰め合わせ
紹介してくれるとか。いい人すぎ、ほんと

はは
絶叫コースター系、レール歩いて乗り物まで
車輪に巻き込まれた紙には「人生に意味がほしい」
邪神の供物でも意味といや意味
満足ですか、と問うてもがらくたはギィギィいうだけ
破り捨てて
君らのなけなしの拠り所を奪うことに
ありあわせの意味を食いつなぐ俺からは
いつもどうもありがとうしか言うことないな
かみさま
あんたにも



 毎日毎日、誰かが触れて、見て、遊んで、楽しんだ。
 そうして過ごしてきたアトラクションがそのままにされた場所を、アビ・ローリイットは早くもなく遅くもない、己のペースですたすたと歩いていく。
 錆びて表面がぶつぶつになったフェンスに手を突き、ひょいっと飛び越えた先にはざりざりに錆び付いたレールが一本。その上を歩くと、爪の触れた所がカツカツと短い音を立てる。
「……でか」
 そして長い。
 右へ、上へ、下へ。山あり谷あり、渦巻きありのジェットコースター。以前は歓声と悲鳴がぐんぐん走っていた上を歩き続けた先、スタート地点である屋根の下に、一度に12人を風の世界に連れて行くライドがあった。
 この遊園地で『何かを願った誰か』は皆、この遊園地のどこかで消えた。その、どこぞへと消えた時。その『誰か』が最後の最期まで本当に満足してたなら、それは『救われた』で良いのではないか。
「なんてな。どっち?」
 どうよと訊ねる雰囲気でそう言って、ライドの傍にしゃがみ込むと車輪に巻き込まれていた紙を引っ張り出す。おそらく、シートに置かれていたのが風で落ちたのだろう。綴られていたのは、アビには叶えてやりようもない色々が詰まった願いだった。
 願った時、消えた誰かの自我なんてものがすぐに溶けて、後悔していなければ。テーマパーク、というワクワク詰め合わせ物件を紹介してくれた『鳩』とやらは、いい人過ぎる。
 君の為。あなたの為。白い心に真っ白な言葉を乗せて。夢を見せ、願いを溢れさせた鳩。ああ、本当に。『いい人』を繋いで継ぎ合わせて、凝り固めたよう。
「はは」
 立ち上がりながらぽろりと落ちた笑い声。もう一度紙を見る。『人生に意味がほしい』という一文は、神ではなく琥珀の目にだけ映るだけ。
 意味。意味か。邪神の供物でも、意味といえば意味だろう。
「満足ですか」
 今よりもずっと前にガラクタとなったライドがギィギィいうのを聞いてから、アビは紙を破った。笑うのでも何か抱え込むのでもなく、ただ、ばらばらの紙片になって落ちていくのをじっと見る。
 奇跡を願って、救いを求めた誰かのなけなしの拠り所を奪うけれど。
 ありあわせの意味を食いつなぐ己からは『いつもどうもありがとう』しか言う事はない。
 ――ああ。それと。
「かみさま。あんたにも」
 ぴく、と犬耳が反応した。
 次の瞬間、屋根の下に飛び込んできた風が紙切れを一気にさらっていく。
 空に一瞬でとけていった紙切れは、花びらや羽根のようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
急にうきうきしだして、行った先…
まさか遊園地にわくわくする齢でもないだろうし
あーあ、希望を胸に儀式を実行した末
待っていたのは絶望なんてやってらんないよ

さて…それじゃあ祭具探し、頑張っていこうか
俺が赴く先はミラーハウス
一番何かが出てきそうじゃない?…なんてね
注意深く、余す所なく鏡まで観察
第六感が何かを告げたならば、その場は特に念入りに調べてみよう
祭具となる『紙』を発見したならば
無粋とは分っているけれど、内容を確認
せめて、俺だけでもこの人が此処にいた理由を覚えておこう
その後、千々に裂いて――さようなら

結局、利用するだけ利用されてはいおしまい
何の為に今迄生きてきたんだろうね
…本当に、やってらんないよ



 急にうきうきしだして――。
 そして姿を消した渡会・菫子は66歳、七宮・百合絵は70歳。調理師の大島・有希を確認したところ、47歳だった。彼らくらいの年代を考えると、まさか遊園地にわくわくする齢でもないだろう。
 あーあ、と。空廼・柩の溜息が、遊園地の内――見えぬ奥底へと吸い込まれるように消えていく。
 希望を胸に儀式を実行した末、待っていたのが絶望だったとしたら。願った瞬間『叶わない』と、知ったとしたら。
「やってらんないよ」
 柩はそう零しつつも歩き始めて向かった先、柩を静かに出迎えたのは白いサーカステントのような造りのアトラクションだった。入り口であるアーチには『The Mirror』、その脇には世界観が書かれた立て看板。
「ミラーハウスなんて、一番何かが出てきそうじゃない?」
 なんてね。
 唇は笑みを形作りながらも、大きな丸眼鏡の奥にある二色の瞳に隙はない。
 完全にではないが一応閉じてはいた布をどかして中に入る。入ってすぐのそこはそれなりの広さを持つ回転ドアだった。コンビやカップルだけでなく、グループ客も見込んでの設計か。
「ここからもう鏡張りなんだ」
 遥か彼方まで並ぶ自分の顔と見つめ合いながら、柩はバーを掴んでぐるりと進む。外の光が遮断され真っ暗になるが、スマートフォンのライト機能があるから困りはしない。
 パッと生まれた真っ白な光が露わにした鏡の世界は、埃や指紋でうっすら汚れていた。床は固めのタイルで、そこを満遍なく覆うような砂に小枝に草――と、床は鏡に比べ汚れが酷い。
「さて……それじゃあ祭具探し、頑張っていこうか」
 注意深く。余す所なく。柩の目は見える全てを丁寧に拾っていき、研ぎ澄ませた感覚は見えぬものを拾わんと張り巡らされる。暫くは何もない静寂の中、鏡に映る光や己を見ていたが。
「……、」
 感じ取ったソレの方角は、一瞬どちらへ行けるのか判らなくなりそうな丁字路――から、右。迷わず行った先、行き止まりの床に封筒があった。拾い上げ、開いた所で、一枚の折り紙で作られたものだと判る。
「無粋とは分かっているけれど、ごめんね」
 せめて自分だけでも『この人が此処にいた理由』を覚えておこう。
 目は静かに文字列を追い、そして、止まる。後に続いたのは紙を千々に裂く音と、「さようなら」の声。ここで神に願った人の欠片が、無数の残骸になって落ちていく。
「結局、利用するだけ利用されてはいおしまい、か。何の為に今迄生きてきたんだろうね。……本当に、やってらんないよ」
 希望を見出して。願って。
 しかしここに来たと、居たという証は形として何も残らず。
 そうしてまで得たものは、何だった?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
「めがね」も仕舞い
遮るものなく視力と第六感も頼りに

廃れ果てて見た事も来た事もないというのに
遊び燥ぐ声の残響が聞こえるような不可思議と
天突く支柱に繋がれた、振り子の巨大船
偽の舵輪に結んである紙
勝手に読むが、許せよ

誰も自分を知らない遠い所へ行きたい――
…それで船か
恐れたのはヒトらとの関係か、環境か
何かから逃げたかったのだろうが
こんなものに頼るなど愚かしい
否、それすら解らぬ程に追い詰められていたのか

空に翳した紙片へと【うつろわぬ焔】
を僅かばかり吹きかけ、灰に
そら、今度こそどこへなりと流れてゆくがいい

隠れて待つばかりの怠惰な王とやら
玉座より早々に引き摺り下ろしてやらねばな



「……妙なものだな」
 『めがね』を仕舞い、遮るもののないジャハル・アルムリフの視界に広がる光景。
 煌めきを失い寂れ果てたこの場所を、異界で生まれ育ったジャハルは知らない。見た事も来た事もない。
 だというのに、幼い子供や若い男女、家族連れ。見知らぬ人々の遊びはしゃぐ声の残響が聞こえるよう。
 不可思議なものを覚えたのは、『あとらくしょん』と呼ばれる様々な遊具が、錆び付いて砂や埃、雑草にまみれながらも、当時の形を保っているからか。
 ギキィ、と、細く高く響いた音のほうを見る。天を突く支柱と、それに繋がれた振り子の巨大船。入り口に括りつけられていた鉄の板を見れば、これが『巨大船に乗り、前後に大きく揺れる感覚を楽しむ』ものだと解った。
 ジャハルはチェーンの上を易々と越えて『乗船』すると、船尾のほうを見て。そして、船首側を見る。操舵の出来ない、お飾りの舵輪。そこでぱたぱたと揺れる紙が一つ。
 飛んでいかないよう結んであった紙に手を伸ばし――紙に触れた指先が一瞬止まった。
「勝手に読むが、許せよ」
 短く断り、解く。
 誰も自分を知らない遠い所へ行きたい――。
 やや掠れた、綺麗な字で綴られた願いを読んでから。舵輪の向こう、甲板上でくっついて並ぶ椅子を見る。
「……それで船か」
 遠くへと願った――恐れたのは、ヒトらとの関係か。環境か。この人物は、何かから逃げたかったのだろう。しかし閉鎖されたこの地にある船は、どこにも出航など出来ない大きいだけの船だ。大きい故に、神の目には留まりやすいかもしれないが。
(「こんなものに頼るなど愚かしい。……否、それすら解らぬ程に追い詰められていたのか」)
 ここは海原ではなく固い石の大地の上で、この船は海ではなく空中へと振られるだけの船。それでもこの人物はここでそれを。何かとの決別を願って。
「――……」
 ジャハルは紙を空に翳す。苦労の末に描いてもらった喉奥の魔法陣から、ふ、と紡いで吹きかけたのは黄金に煌めいて燃える竜の息吹。
 灰になった願いに風が当たり、ぼろ、と崩れ始めた。掴んでいた手を少しだけ上げて、放す。
「そら、今度こそどこへなりと流れてゆくがいい」
 風であれば、どこにでも、どこまでもゆけるだろう。海を越え、空を越えれば、そこには誰も存在しない。
 旋風のように翻りながら空へと飛んでいった灰色の欠片が、小さくなっていく。
 完全に見えなくなると、ジャハルは船から下りて歩き出した。紙を掴んでいた手は自然、影なる剣に触れる。
 祭具となっていた紙は燃やした。あとは。
(「隠れて待つばかりの怠惰な王とやらを、玉座より早々に引き摺り下ろしてやらねばな」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
一筋の光のように希望を見出していたのなら
本当に助けられると想っていたのなら
ナンて、残酷なハナシ

ケドそれ以上の感慨も憐情も沸くワケじゃなく、今は只なぞるだけ
いつかそれらも自分というモノになると信じて
それでも
今のオレにも、分かる事はあるンだよ

さて可能性をひとつずつ当たろうか
共有されたデータからもう一度『情報収集』
願うならどの場所を選ぶかアタリを付けていこう

例えば探求心に満ちたあの二人なら
歴史に関する施設ナンてあるだろうか
残された時間を憂い戻ってくるつもりだったのなら
時計の下――か

紙を発見したら【月焔】で灰まで燃やす
希望は、笑顔は、容易く喰らわせていいモノじゃナイ
それくらい、オレにだって分かるから



 ここへ行って。書いて。願う。
 そうしたら。そうすれば。
 そこに一筋の光にも似た希望を見出していたのなら、本当に助けられると想っていたのなら――嗚呼、ナンテ残酷なハナシ。
 けれどコノハ・ライゼの胸に、それ以上の感慨も憐情も湧く事はなく。今はただ、なぞるだけ。彼らの残した願いを探して、見つけるだけだ。
 いつか、それらも自分というモノになる。そう信じながら、コノハは廃墟となった遊園地の今だけを瞳に映して。
「それでも。今のオレにも、分かる事はあるンだよ」
 くっと笑ってみせたその顔が見上げるのは、錆に汚れた案内図。遊園地というだけあって、ここはなかなかの広さを誇っている。行方不明となった人々が何かを願うなら、どの場所を選ぶか。そこにアタリを付けていくのが効率的だろう。
「ンー、そうだねぇ」
 それぞれの現状。最後に確認出来た発言や様子。共有されたデータも頭の中に浮かべ――ふわ、と浮かび上がったのは探求心に満ちた年配のご婦人二人。
 歴史に関する施設、ナンてある?
 その考えに『飛び出した恐竜を迎え撃て!』というシューティングアトラクションが目に入るが、恐竜は歴史学ではなく考古学。目線は次の候補を探して案内図の上を移動する。
 もっと歴史を知りたい、紐解きたい。
 あと何年続けられるか。
 学生達が口にしていた二人の言葉から、二人は共に残された時間を憂い、戻ってくるつもりだった。ならば抱いていた願いを神に伝える――七宮・百合絵風に言うならば『お参り』するのに相応しい場所を選んだ筈。
「……あ」
 視線が止まった『そこ』までのルートを頭に入れ、向かう。タイルで花を描いた通りを進み、子供向けのカーレース広場で左へ。そこから中心に向かって――。
(「あった」)
 淡いグリーンの尖塔を持ったそれは、ヨーロッパの風景に似合いそうな外観をした時計塔。一分一秒を正確に刻んでいた時計の針は動いておらず、代わりにとばかり塔の根本に雑草が生い茂っていた。
 お参りと表現した教授だ。雑草にぽいっ、なんてしないだろう。
 膝まで届きそうなその中に踏み入り、柔らかな緑の壁をかき分ける。見つけた紙は綺麗に折り畳まれ、右上に開けられた穴に通した凧糸で時計塔に括りつけられていた。コノハは少しの間だけ紙を見つめてから、冷えた月白色の焔で紙を燃やす。ぼろりと崩れ落ちた灰までも。
「希望は、笑顔は、容易く喰らわせていいモノじゃナイ。それくらい、オレにだって分かるから」
 だから。王だろうが神だろうが、ほんの一欠片もやれはしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒の王』

POW   :    生成
【対象の複製、または対象の理想の姿】の霊を召喚する。これは【対象の持つ武器と技能】や【対象の持つユーベルコード】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    母性
【羽ばたきから生み出された、幸福な幻覚】が命中した対象を爆破し、更に互いを【敵意を鎮める親愛の絆】で繋ぐ。
WIZ   :    圧政
【羽ばたきから、心を挫く病と傷の苦痛の幻覚】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:山本 流

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴィル・ロヒカルメです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●うつつに生まれ出づるは、
 風が止んだ。
 ざわざわと物寂しい音を立てていた雑草や草木、ちゃりりと鳴っていたチェーンの揺れが収まる。空を流れる雲は、変わり始めた空へ貼り付けたかのように動かなくなっていた。
 時も止まったかのような感覚は、ふとすれば呼吸まで忘れそうなほどで――。

 ぽつ。

 前触れもなしに、中空に小さな小さな黒い点が現れた。
 ぽつ、とまた一つ。
 ぽつぽつ、と今度は二つ。
 ぽつ。ぽつぽつ。ぽつぽつぽつぽつ。三つ四つ五つ六七八九――。
 際限なく溢れ出した黒点は、さながら母蜘蛛の腹から溢れた蜘蛛の子か椋鳥の群れ。
 線を描くように、渦を巻くように。ぞぞぞと蠢く無数の黒点は数を増やしながら中空を縦横無尽に駆け回り――ぴたり、と停止して。ぞぶ、と膨らんで弾け飛んだ。
 一斉に花開いた翼は二色の闇色。四肢を無くした女の身体、首から溢れる漆黒の何か。頭があるべき場所には、黒茨の如きリングに包まれた赤い石。
 苦しい。辛い。悲しい。寂しい。そこからの解放を願った紙、全ての『祭具』が破壊された後に生まれ出た邪神の力は万全でないと、そう肌で感じるものの。すい、と。音も立てず、滑らかに降りてくるかの王は、易々と倒されてはくれないだろう。
 ひら。
 ひら。
 下肢に纏っている衣は白翼のように揺れ、十以上ある翼からは、小さな黒い欠片がぱらぱらと零れ落ちていた。
コノハ・ライゼ
ようこそカミサマ?
「柘榴」を肌に滑らせ【紅牙】発動
即座に距離詰め斬りかかる

攻撃の手は止めずとも
現れたソレが気にならないワケでもない
同じ容貌、同じ動き
でもソイツからはまるで、血の匂いがしない
牙剥かず飢えた目もせず――そう、「あの人が好きだったモノ」だけで作られたオレ

だまし討ちも通らぬソレに敵うとしたらただ一つ
激痛耐性で凌ぎながらの捨て身の一撃、から2回攻撃で傷口をえぐって生命力吸収
常と変わらぬ手口は同様に返されるだろうが
ケド「なりたかった」アンタにゃ、誰かの血肉を喰らうナンてできねぇデショ?
牙で深く深く自分を喰らったら
カミサマ、次はアンタの番

皮肉なモンだネ
あの人から一番遠いモノが身を助けるナンて



 降りてくる黒の王へと迫りながら、手の甲に万象映す刃を滑らせる。
 一瞬走った痛みと熱はコノハ・ライゼの表情を変化させるには至らず――刃に生まれた真紅の溝が脈打つ血管のように輝いて、『柘榴』の形が、ばら、と変わった。
「ようこそカミサマ?」
 挨拶の笑顔は、ほのかに冷たく。共に開いた刃が荒々しく閉じ、邪神が持つ名とは逆の色、白磁の肌にざっくりと牙の痕を刻み付ける。
 更なる一撃をとコノハは着地と同時にタイルで覆われた地を蹴った。対する黒の王が、その身からふわりと浮かび上がらせたものは。
「――、」
 ほんの一瞬、薄氷の瞳に光が揺れた。
 同時に揮われた刃が火花を散らす。
 同時に蹴られた地面が、鋭い音を立てる。
 コノハの動きとぴったり反転させたように、全く同じ動きをするソレは複製されたもう一人のコノハだった。
 目の前にいる鏡合わせのようなソレが気にならないワケでも、ない。だが、複製された『コノハ・ライゼ』からは血の匂いがしなかった。牙も剥かず、飢えた目もしない。突き出された『向こうの柘榴』も、ただ、同じ形をしているだけ。
 その突きが、コノハの左肩に刺さった。そこから脳に届いた熱と痛みは確かに存在するもので――しかしコノハは飛び退かない。受けた衝撃をそのまま体に乗せ、走った痛みを踏み付ける。
 鳩尾に『柘榴』を突き刺したら、深く。もっと深く。そのままぐるりと捻れば、肉を抉る手応えと共に力が漲った。
 常と変わらない己の戦り方は『コノハ・ライゼ』も使うだろう。何せ己の抱くものから創られた存在だ。
「ケドさ」
 コノハは笑む。自分にあるものを持たないソレは、“あの人が好きだったモノ”だけで作られた『コノハ・ライゼ』。黒の王が複製した、もう一人の自分。
「“なりたかった”アンタにゃ、誰かの血肉を喰らうナンてできねぇデショ?」
 牙剥く心と欲するものを見る目を持ち、血の匂い纏うコノハ・ライゼだからこそ、写された己を自身という牙で喰らい尽くし――カミサマ、次はアンタの番と。そう言って、笑うのだ。
(「皮肉なモンだネ」)
 あの人から一番遠いモノが、身を助けるなんて。
 きっと、神ですら想像しなかったろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
圧制の幻覚。苦痛には慣れてる筈なのに傷跡が酷く痛んで。
――放り出したっていいんじゃない?他にも猟兵はいますよ。
どうにかなるでしょ。いつだって代わりはいたでしょう。
番号を振られて、真っ白い部屋で飼われていた頃から。

ああ、もう。
好奇心は満たされたし帰ってもいいんですけど。
でもこのままじゃ変装より余程ダサいんで。やりますよ。
自身を【言いくるめ】
痛みのなか【激痛耐性】で踏み出して、一息に駆け抜けて。
止まればまた苦しくなるだろうから。

サイキックブラストの電流をクランケヴァッフェに纏わせた一撃。
【串刺し】にしようと狙うのは頭の位置にある赤い石。
可愛くたって力は結構あるんですよ。
砕いてやります、こんなもの。


天杜・理生
アドリブ、共闘歓迎。

王サマのお出ましか。
しかし、聞いていた通り厄介な。

僕にせよ理想の(性別を偽る必要のない)僕にせよ、同じ手段をつかうなら厄介なだけだ。
手の内は知れてんだよ。
第一、倒すべきは黒の王。構ってやる義理もない。

羽ばたきには要注意といったところか。
けどなァ、僕の幸福は幻程度じゃ不十分なんだよ。
心を挫かれる経験がないとでも思ったか。
そんなの今更何を恐れることがあるものか……!
破魔と呪詛耐性で対抗。

僕の血を遠呂智と一目連に分け与えてUC発動。
大蛇に変じた遠呂智を操って黒の王の捕縛を狙おう。
鎧砕きの締め上げに他の猟兵がつけた傷口を抉る遠呂智の牙から毒を盛って生命力吸収。

幻なんて所詮幻だろ。



 黒の王が二色の闇色を羽ばたかせる。羽ばたき一つで溢れた風の塊が、渦雷・ユキテルと天杜・理生の全身と心を呑み、引き裂いていく。
(「あれ」)
 金髪が派手に翻る中、ユキテルのまあるい薔薇色の瞳が震えた。
 こういうものには。苦痛には、慣れてる筈なのに。服の下、今もある無数の傷跡が、どうしてだか酷く痛む。
 ――放り出したっていいんじゃない?
(「そうですよね。他にも猟兵はいますし」)
 ――どうにかなるでしょ。いつだって代わりはいたでしょう。
(「そうですよ。自分の代わりは、いつだってあそこに」)
 振られた番号。真っ白い部屋。飼われていた自分。あの頃から、ずっと――。
 ああ。でも。これは。
 力の入った指先は傷跡の上。いつの間にか腕を握っていた指を、解く。
 好奇心は満たされたから帰ってもいい。自分以外の猟兵も、ここにはいる。
 でもこのままじゃ、クソダサだったあの変装よりも余程ダサいじゃないですか。だから。
「やりますよ」
 発した声は一音ずつ自分の心臓へ叩き付けるように。そうすれば、皮膚の下、心まで裂かれそうな痛みを越えて踏み出せる。
 タッ、と軽やかな足音が響いた時、その隣に踊ったのは長い黒髪。共に羽ばたきを受けた、他の猟兵である理生だった。
「今度は幸福な幻覚でも見せるか? けどナァ、僕の幸福は幻程度じゃ不十分なんだよ」
 侮られては困る。
 心挫かれる経験が、この天杜・理生に無いとでも思ったか――!
「そんなの今更何を恐れることがあるものか……!」
 血を分け与えた乗馬鞭が『遠呂智』という名の大蛇と化し、浮いていた黒の王を一気に締め上げる。
 何も語らない王が身を捩る度、悲鳴の代わりにみしみしと音がして――ふわり。浮かび上がったのは、すらりとした肢体を麗しきドレスで包んだ『自分』。
 成る程、聞いていた通り厄介だと理生は笑う。あれは男装に身を包まず、生まれ持った性別のままに在る『天杜・理生』。だが、己の理想を写されたからこそ、あの『天杜・理生』の手の内は知れている。
「本命は黒の王だ。『僕』に構ってやる義理もないんだよ。それに、幻なんて所詮幻だろ」
 『天杜・理生』の攻撃をいなし、邪神の身に走る裂傷へと遠呂智の毒牙を突き立て生命を啜る理生へ、ユキテルは「ですよねー」と笑ってすぐ、大蛇と理生へ「失礼しまーす」。断りを入れ、そのまま一息に駆け抜けた。ある筈の無い痛みが追い付けないよう、その足を止めはしない。
 バヂッ。
 掌から爆ぜで迸った電撃は、今はこの身体を持つ自分のもの。点滴台めいた『ブラッディ&ブランディ』がバチバチと彩られて、
「可愛くたって力は結構あるんですよ。砕いてやります、こんなもの」
 黒の王の全身だけが、電撃に包まれる。
 黒茨思わすリングを纏った赤い石に、バキリと亀裂が走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アビ・ローリイット
※生成先=燃える炎がひとを象った姿。望まれた、なれなかった贄の未来

わお
景気よく溶けてる
一切合切なくした様は楽そうだが
生きてるやつ誘うならやっぱ、もっと楽しげにしねぇとだ

こう、
「グラップル」格闘と『ハルバード』の攻防主体
幻や施設ごと叩き潰す意気で
戯れるように、焦げつきつつも

なあなあ
期待なんてしちゃいなかったが
今日、アタリだったかも
斬撃繰り返しと見せかけ【祀】で「フェイント」「カウンター」
ハルバードを炎へ解き、幻とぶつけ炎同士打ち消しあい突っ切り、黒の王へ一撃入れる狙い
だってあの火だるまより
俺のが楽しそうでしょ

かみ――おうさま?
どっちでもいいか
戦って。殺せば死んじまうんだもんな、もう知ってる



 赤い石全体に亀裂が走る。パキッ、とかすかな音と共に零れ落ちた破片が地面に触れる直前、赤い石は硝子がそうなった時のような音を立てて完全に砕けた。
 きらきら降る赤色にアビ・ローリイットは「ふうん」と笑う。ありがとう、は――まぁ、後でいいか。まずはこれ、とハルバードを振り上げれば鈍色が一瞬金色を帯び――ごお、と。裂かれた空の音に燃え盛る炎の音が被った。
「わお」
 流れるように退いた黒の王から現れたのは人型の炎。火の粉を散らしながら向かってくるそれが掴む得物は、今振り上げたものと同じ。それと。
「景気よく溶けてる」
 髪と皮膚と肉と内臓と骨。一切合切無くしたその様は楽そうだ。
 ――望まれたのは、“こう”だった。
 なれなかった贄の未来が姿を得て、燃える炎で出来たハルバードを揮ってくる。アビはそれを己の持つハルバードの斧部で受け止め、飛んだ火花に目もくれず、弾き返した。
 炎のひと。それと――黒の、王。
「生きてるやつ誘うならやっぱ、もっと楽しげにしねぇと」
 衝撃で仰け反った炎のひとの足を払う。転倒したそこ目がけハルバードを一気に振り下ろせば、炎のひとには直前で躱されてしまった。
 タイルを真っ二つにしてすぐ、炎のひとの胴を追って薙いだハルバードはフェンスをざっくり。ガランと響く鉄の音に、アビと炎のひとが揮う得物の音が何度も何度も重なった。
 命がけで戯れるうちに、服が、皮膚が、髪が。ちりちりと焦げ付く。
 だが。
「なあなあ。期待なんてしちゃいなかったが、今日、アタリだったかも」
 もう一撃。ぐるんと横に回して振り下ろす。そう来る筈のハルバードが地獄炎の小人と化せば、構えていた炎のひとのタイミングは完全にずれ、隙となる。なれば、小人は燃えるひとの身体に難なく飛びつけるわけで。
 従順な小人の炎と幻の炎。ぶつかった二つの炎は炎同士で燃やし合い打ち消し合う。炎“達”の色は黒の王が持つ白と闇色にうすら重なり――それを破ったアビの影が落ち、色を消した。琥珀色が、笑う。
「あの火だるまより俺のが楽しそうでしょ。なあ、」
 かみ――おうさま? どっちだ。邪『神』で黒の『王』。二つを持っている、一つの存在。まあ、どっちでもいいか。だって。
「戦って。殺せば死んじまうんだもんな、もう知ってる」
 神だろうと王だろうと、“それ”は全ての命が等しく持つ、当たり前。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
…まるで、壊れた人形だ
こんな不完全な代物が王とはな

縋る人々
過去の残り滓ごときが
勝手に代償だと喰らって良いモノではないぞ
例え、差し出されたのだとしても

空中にいるなら翼を以て其処へ翔け
怪力で翼ごと叩き潰すべく【竜墜】を

生成された姿に不快感、まるで鏡を見るような影の色
勝手に真似るとは不愉快だ
姿形に業まで映したとて
俺が王と尊ぶのは、あんな化け物ではない

…お前もまた、何処へも行けぬ紛い物だ

同じ技を使うなら敢えて受け、耐え、撃ち抜く
ここで折れては碌な報告が出来ぬ故な
どれほど傷を受け、僅かな力しか残らなかったとしても
複製の先で待っているだろう
「王」を騙る身の程知らずへと一撃叩き込んでくれる

墜ちろ、悪食が


空廼・柩
幸せを与える存在にしては
随分とグロテスク過ぎなんじゃない?

先ずはその翼を手折ってしまおうか
眼鏡を外し、相棒である拷問具を手に
【咎力封じ】で王の行動の制限を試みてみるよ
上手く拘束出来ずとも少しは戦い易くなるんじゃない?

俺の本分は猟兵達のサポートだからね
皆が戦闘に集中出来るよう
目立たない性質を利用して死角を補いつつ
万一狙われたならば拷問具で庇ってそのままカウンターを狙う

齎された幻覚と絆は呪詛耐性で拒絶
やばくなったら致命傷にならぬ程度に自分で自分を傷つける
大丈夫、痛みは幾らでも耐性で誤魔化せるし
少し位痛みが残った方が頭も冴えるだろ
大体、俺の幸福なんて高が知れてる
青空さえあれば――俺は何もいらないから



 地面に叩き付けられた黒の王の右肩から腰までが大きく砕かれ、掴まれていた翼も有り得ない方向に曲がっている。
 白磁の陶器めいた胴に残る牙の痕。赤い石を失い空虚に漂う黒茨。黒の王がもたらすものを超えた仲間達が刻み付けた、目に見える損傷。それらを差し引いても、ジャハル・アルムリフの見た黒の王の見目は、まるで壊れた人形だ。
「こんな不完全な代物が王とはな」
 いや。見目だけではない。アレは、縋る人々の心や想いを受け止めず、過去以外全てを喰らい尽くした王だ。
「過去の残り滓ごときが。勝手に代償だと喰らって良いモノではないぞ」
 例え差し出されたのだとしても、それを喰らうものが『王』であるものか。
 静かな表情に冷えたものを宿したジャハルの言葉に、空廼・柩は眼鏡を外して首肯する。
「幸せを与える存在にしては、随分とグロテスク過ぎなんじゃない?」
 UDCに確保された『鳩』達は、自分達が信じていた神の姿を知っていたのだろうか。
(「どっちだっていいか」)
 先ずはその翼を手折ってしまおうか。
 眼鏡を仕舞ったら銀と青の紋様持つ黒棺、相棒たる拷問具を傍らに黒の王を“お持て成し”。
 ――ただし、己の性質を存分に生かし死角から。
 鮮やかに翔た拘束ロープは音もなく広がっていた翼を一纏め。手枷と猿轡は手を取り合うように繋がって、黒の王の腕らしきものを後背へ。
 翼や腕らしきものに黒の王が力を籠めるが、体力もその形も欠けに欠けた状態では、抜けるなどと叶う筈もない。
 目の前にいる『王』が玉座に座る事もままらない状態になれば。ゴキッ、と折れる音が複数聞こえたら、それで十分。柩が「どうぞ」と言葉にせずとも、ジャハルは無言で地を蹴っていた。
 竜化した拳に呪詛が宿る。深く、底まで宿ったそれに反応した黒の王がジャハルを“写した”瞬間、影の色が朧に浮かび上がった。次の瞬間にはハッキリと『ジャハル・アルムリフ』の形を成していたソレが同じものを拳に宿す。
 もし、拷問具を用いた封じ込みが失敗していたら。
(「俺は何を――どんな“幸せ”を見せられるんだろ」)
 柩は二色の双眸にジャハルと『ジャハル』を映し、心の内でかぶりを振った。
(「大体、俺の幸福なんて高が知れてる」)
 力を籠めれば黒の王の翼が更に折れ、翼から零れ落ちる黒色の量が増す。
(「勝手に真似るとは不愉快だ」)
 真似られた己の向こうに見えた黒の王は、不完全なだけでなく傲慢な王だ。どれだけ姿形に業まで映したとて、己はあんな化け物を王と尊びはしない。王と尊ぶのは――。
「……お前もまた、何処へも行けぬ紛い物だ」
 呟きに『ジャハル・アルムリフ』は何も表さない。呪詛渦巻く拳は暴風の如く、横から脇腹へと食い込んだ。
 よく知るからこそ避けるべきそれを敢えて受ければ、激痛と共に鉄の匂いが喉から口内へと駆け上がるが、ジャハルの拳は『ジャハル・アルムリフ』を貫いた。
「ここで折れては碌な報告が出来ぬ故な」
 筋書きと、めがねの成果報告も要るだろう。
 砕かれた写しが消えた先。柩が尚もしっかり捕らえ、容赦なく翼を手折っていた黒の王が身じろぎする。
 『神』を冠し、『王』を騙る存在。夢を、願いを、救い求める心を糧に現界したその身は所々砕け、欠けても未だ柔らかな白を宿してはいるが。
「墜ちろ、悪食が」
 相応しき玉座は遥か彼方。骸の海。

 黒の王の消滅は、現れた時とは逆の動きをしていた。
 端から小さな黒点へと崩れ、蠢く黒点の群れになってぐるぐる駆け回る。やがてばらばらに解れていき――びたッ。中空で停止したそこで、ぶつんっ、と消えた。
 完全な静寂に柩は軽く息を吐き、外していた眼鏡を再び掛けて上を見る。
(「……青い」)
 悩み、苦しみからの解放を。幸せへと至る為、神との邂逅を。
 君に幸あれと、『鳩』はそれを望んだのだろうけれど。
(「青空さえあれば――俺は何もいらないから」)

 ざわ、と雑草が鳴く。
 どこかでキィッとチェーンが揺れる。
 廃色の遊園地はただそこに在って。過去を見に来くる誰かを、迎えるだけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月18日


挿絵イラスト