どうか僕から逃げないで
#ダークセイヴァー
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青年は畑からの収穫を終えて自宅に戻る途中、襤褸布を頭から被ったひどく弱った男性とぶつかった。夕暮れ時で周囲に人はまだ多くいたが、皆、トラブルを恐れてふたりを遠巻きにしている。地面に転がってしまった林檎を拾いながら、青年は尻もちをついた男性に、大丈夫かとたずねた。問われた彼はやつれきった顔のまま、小声で大丈夫だと応える。
「よかったら、うちで少し休んでいかないか?」
その様子を見かねた青年が、男性の方へ手を差し伸べる。毎日の仕事で厚くかさついたその手をおそるおそる握ってから、男性は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、優しい人。……ああ、君の手。思った通り暖かいね」
あれは、初めての気持ちだった。
人間は皆ヴァンパイアのために存在する家畜であり、ヴァンパイアの世界を回すためにくべられる薪だと思っていた。否、今もその認識は変わらない。人間は脆くて取るに足りず、愚かで品性の欠片もない。
それでも僕は、彼をこの手の中で大事に守りたいと思った。使い捨てせず、欲しがるものをすべて与えて、可能なら永遠の命を与えてやりたいとすら思った。誰にでも優しくて周囲から慕われていた、“皆の”彼を、ひとり占めしたかったのだ。
人間はただ一人の伴侶を見つけ、一生添い遂げようと努力するのが一般的だと聞いていた。伴侶の基準には個体差があるが、多くは一定の親しみを感じさせた後に「愛している」と言えば容易に絆されるのだと。
「愛しているよ」
温かいスープを飲み終え、暖炉の前にふたり並んで幼少の頃の話をする彼に、そう告げる。これで彼は僕の物になるはずだった。
「今日初めて会ったばかりだぞ?」
先ほどまで和やかに話していた彼から、笑顔が消える。代わりにその黒い瞳に浮かんだ戸惑いの表情――それは幾度となく見てきた“拒絶”だった。
「そうか、君も、“彼”とは違うのか……」
落胆し、青年の上に馬乗りになると首を掴んだ。じたばたと抵抗する彼の姿が、今はもうただ滑稽で醜く見えた。その嫌悪が、拒絶への拒絶だということは自分でも分かっている。遠い昔に出会い、この腕に強く抱いたがために誤って縊り殺してしまった“彼”の代わりを探して人間の村を彷徨い続けてきたが、いつも辿りつく結末は同じだからだ。
「どうか……僕から逃げないでくれ……」
今ここで青年を解放すれば、二度と彼と絆を深める機会は訪れないだろう。一度では無理でも、何度も「愛している」と言い続ければ、彼もきっと僕を伴侶に選んでくれるはず。
過去の痛みを握り潰すように、彼の心変わりを願いながら、僕は手に力を込め続けた。
●
「事件だ。手が空いている人がいれば助けて欲しいのだよ」
マカ・ブランシェ(真白き地を往け・f02899)は6人の名前を記した紙をテーブルに置いて、猟兵達を呼び止めた。
「正体を隠して村を渡り歩いているヴァンパイアがいるのだ。彼は弱ったふりをして自分を助けてくれるような優しい男性を探しては、その家に住み着いて適度に楽しんだ後、その命を奪う。今回、とある村にそのヴァンパイアが潜伏しているのが分かったのだが……似た条件の村人が多くてね、簡単には見つけられなさそうなのだよ」
この村は、どうやら旅の聖人への信仰の厚い優しい村人が多いようなのだ、とマカは肩をすくめる。
「聖職者に拾われた【マイケル】、村長と出会った【ジャン】、村医者に保護されている【ジム】、宿屋の手伝いを始めた【キット】、仕立て屋と共に暮らす【ベン】、果物屋に世話になっている【ジョナサン】。怪しいと思った人物に直接声をかけて探りを入れてもいいし、全員の日常生活を観察して人ならざる者の痕跡を探してもいいだろう。いっそこのヴァンパイアの真似をして弱ったふりをして村人の方へ接近してみるのもいいかもしれない。ヴァンパイアはターゲットの男性への執着が強いようだから、何らかの行動に出るだろう」
村人に擬態しているとは言え、根っこは傲慢で独占欲の強いヴァンパイアだ。よく観察していれば必ず尻尾を掴めるだろう。
「正体が判明しても、いきなり倒そうとせず相手がひとりになったところで戦闘を仕掛けて欲しいのだよ。村人達を巻き込む恐れがあるからね」
それにせっかく助けた人を殺されては、心に傷が残るだろうからね。マカはそう付け加える。
「行き倒れを放っておけない、そんな善意に生きる人々を、どうか守ってあげてくれ」
そう言って猟兵達に6人の名前を記したメモを渡すと、マカは猟兵達を送り込む準備に取り掛かった。
Mai
とあるダークセイヴァーの村で、ヴァンパイアを探しだして追いつめ、退治してください。
●第一章
オープニングにあります通り『特定の一人(或いは数名)を対象として接近する』『全員の様子を見て回る』『ヴァンパイアと同じ手口でトラップをしかける』など、自由に思いつく方法で調査し、ヴァンパイアが誰なのか特定してください。
●第二章
逃走するヴァンパイアを追跡するパートとなります。
●第三章
戦闘(ボス戦)となります。
章が変わるごとに短い状況説明のリプレイを挟みますので、それが出てからのプレイングをお勧めいたします。
第1章 冒険
『疑心に潜む暗鬼を照らせ』
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POW : 怪しい人物に直接尋問する
SPD : 村の中を虱潰しに調べる
WIZ : 村人たちのアリバイ・不審な行動を検証する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
決して広くはないこの村にはある習慣があった。動物達の鳴き声とともに朝を迎えると、村人全員が広場に集まって互いに挨拶を交わした後、自らの状況を報告し合い、旅の聖人へと祈りを捧げるのだ。
【マイケル】はこの朝の習慣の中心となっている聖職者の男性に拾われた。歳を重ね、最近体の優れない日が増えたという彼は、ちょうど手伝いが増えたと喜んでいる。顔に大きな傷を負い、心身ともにダメージの大きいらしいマイケルはまだ聖職者の彼以外へ心を開いていないようで、他の村人の前に姿を現したことはない。
【ジャン】は村の外れの池のほとりに倒れているところを村長に救われた。故郷に戻る旅の途中で路銀が尽きたという彼は、村長の元で働きながら再び旅立つ準備をしているそうだ。故郷に残してきた家族が恋しいらしく、村長一家の睦まじい姿を見てはさめざめと泣いているという。
【ジム】は病を患い元いた村を追われてここへ流れ着いた。村の医者による懸命の治療の甲斐あって、先日ようやく村人達の前に姿を見せられるまで回復した。物静かで孤独を愛する医者は、彼に恩義を感じているのか人前でも構わず熱っぽく褒める患者に少し手を焼いているようだ。
【キット】は職を失い死ぬ場所を探していたところ、たまたま泊まったこの村の宿で主人に優しく話を聞いてもらい立ち直ることが出来た。数年前に妻を亡くしてから元気のなかった宿の主人も、新しい同居人を得て笑顔を取り戻しつつあるようだ。
【ベン】は仕立て屋が布の買い付けをするために他の村へ出た帰りに、山道で獣に襲われているところを救われたという。その際仕立て屋も手に怪我を負ってしまい、今はふたりとも休業中のアトリエに籠って新しい服のデザインを考案しながら療養しているそうだ。
【ジョナサン】は果物屋が林檎を他の村へ売りに出た時に、弱って今にも倒れそうだったところを果物屋に救われた。何か大きな心的外傷を負ったのか、体の調子は良くなったようだが彼は言葉を話せないまま、果物屋の傍に寄り添い行動を共にしている。
6人とも村へたどり着いた時期にばらつきはあるものの、滞在してから10日は過ぎている。出会ってすぐに手に入れようとしても上手くはいかないらしいと学んだヴァンパイアが、衝動を抑えてターゲットに徐々に接近しているとしても、そろそろ実行に踏み切る頃だろう。
今夜が山だな、と村人達の朝の挨拶に加わった猟兵のひとりが呟いた。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。人間に愛して欲しいなんて、奇妙な吸血鬼もいたものね。
もっとも、その望みが叶う事は無さそうだけど…。
…私は事前に猟兵としての存在感を消す呪詛を施し、
“吸血鬼の支配する街から親戚の村へ逃げている最中の娘”という設定で旅人に変装する
予知にあった夕暮れ時の林檎畑の近くにいる人の良さそうな青年を見切り、行き倒れを装う
…お願い、します。助けて……。
首尾良く拾われたら礼儀作法に則り礼を述べ、同類にも挨拶を。
自分の境遇を語り雑談しつつ、
立ちくらみを装って青年に寄りかかり誘惑してみる
容疑者の様子を探り【吸血鬼狩りの業】が吸血鬼の気配に反応しないか試みる
…ご、ごめんなさい。安心したら、何だか気が抜けて…。
夕暮れ時、村の外れにある小さな果樹園に転がる岩の上に、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は横たわっていた。行き倒れた少女を演じ、予知された光景をなぞることで、ヴァンパイアのターゲットである優しい男性を特定できると考えたからだ。
多くの戦場を潜り抜けてきた猟兵のオーラは、今の彼女にはない。自ら施した呪詛によって存在感の消えた彼女は、誰の目にもか弱い娘に映るだろう。旅人に扮した姿は、リーヴァルディが用意した“吸血鬼の支配する街から親戚の村へ逃げている最中の娘”という設定にも合致し、その説得力を補強していた。
(人間に愛して欲しいなんて、奇妙な吸血鬼もいたものね。もっとも、その望みが叶う事は無さそうだけど)
人間達とヴァンパイア――現在を生きる人々とオブリビオンは、本質的に相容れないのだ。相容れぬ相手を求めることは何らかの歪みを孕んでいて……彼女はその歪みごと、ヴァンパイアを葬るためにここにいる。
誰かが近づいてくる気配を察知し、リーヴァルディは目を閉じた。
「……君、大丈夫かい?」
とんとん、と肩を叩く声に、今まさに意識を取り戻したという風にリーヴァルディは応じる。
「……お願い、します。助けて……」
急に具合が悪くなって、休んでいたら動けなくなってしまって。そう付け加えると男性は、失礼するよと声をかけてリーヴァルディの背に手を回し、起き上がるのを手伝った。背負っていた籠から林檎とナイフを取り出した彼は、皮をむいて一口大に切った林檎をリーヴァルディに食べるように促す。丁寧に礼を告げ、ここに来た経緯をぽつりぽつりと語るリーヴァルディをすっかり信用した男性は、村に着いたらすぐ医者に診てもらえるように話をつけることを約束した。
ふらり、とリーヴァルディの体が倒れる。
「……ご、ごめんなさい。安心したら、何だか気が抜けて……」
「大丈夫、安心して楽にして。これは早く先生に診てもらわないといけないな……!」
立ちくらみを装って寄りかかるリーヴァルディに、青年の鼓動が自然と高まった。
(この人の体、吸血鬼の気配が残っている……けれど一緒に住んでいるにしては薄い……)
ユーベルコードによりヴァンパイアへの感度を高めたリーヴァルディは、果物屋を営んでいるというこの青年と接触があった候補者を探ることを決め、同時に彼と一緒に暮らしているジョナサンをリストから外すことにしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
シン・バントライン
WIZ
朝の挨拶の場を使いそれぞれの村人とターゲットの人物を探りましょう。
怪しまれると面倒なので今回ばかりは私も覆面を取ってご挨拶と洒落込みますか。
ヴァンパイアと同じ手口で弱って具合が悪そうな人間を装い村人に接近して様子を見る。
言葉は話しやすい素の方で行くわ。
6人のうちの何人かはおそらく広場に出て来てるんちゃうかな。そいつらは現場で反応見させてもらおか。
来てないメンツには村人からどんな様子か聞きだすのと、俺のことが伝わるように仕掛けておくわ。
「俺のこの辛さもその居候さんやったら分かってくれると思います」
一番怪しいと思ったヤツの所か、来てないヤツ、どっちかの家にUCでつけて潜入させてもらうわ。
溯ってその日の朝。
いつもと違う覆面を取った姿でシン・バントライン(イケメン志望・f04752)は村人達の前に姿を現した。ここへ来る前に渡されたリストにあった6名のうち、何名かの反応を一度に見られるだろうと朝の集会の場をそのタイミングとして選んだ彼は、具合を悪くした旅人を装い弱り切った様子で村人に声をかける。迫真の演技と親しみやすそうなシンの雰囲気に、村人達は疑う様子もなく彼を受け入れた。
「もーあかんかと思いましたわ……命繋げましたわ、おおきに」
普段と違う砕けた口調で村人達と話しながら、シンは差し出された水と果物を口にする。ぐるりと周囲を見回すと、自分と同じように村へ流れ着いた旅人達――潜入している猟兵達の姿が確認できた。
「今日は聖人の導きが強い日みたいでね、あなた以外にも多くの旅人がやってきましたよ」
「迷惑かけてすいません……」
「いいえ、信仰に生きるのは我々にとっても善いことですから」
うちにも先日やってきた旅人がいるんですよ、と語る聖職者である男性に、シンはどんな人が流れ着いたのかといくつか質問をする。塞ぎこんだままの旅人の背景は男性にも分からないようで、早く元気になってくれたら、と肩を落としていた。
「俺のこの辛さも、その居候さんやったら分かってくれると思います」
彼の辛さも分かってあげられるかもしれない、と言外に含めるシンに、もしよければ話し相手になってくれないかと聖職者は持ち掛ける。
「これも何かの縁、恩返しになるんやったら幸いですし」
昼過ぎに顔を出すと男性と約束をし、確認のため教会へ一度戻るという男性を見送る素振りで、シンはその背中に召還した小さな黒い龍をつけた。彼とふたりきりの状態のターゲット――マイケルの様子が分かればなおよし、と黒龍とリンクした五感で調査を進めながら、談笑する村人と旅人達の様子を引き続き観察する。
(……やっぱり、会いたないか……)
教会に戻った男性は、扉越しに旅人と話をしているようだった。心を開いているとはいえ対面で話すまでには至っていないのだろうか、両者の言葉の間にも緊張感が漂っている。会話のため薄く開いた扉から室内に侵入した黒龍を通して、マイケルの様子を伺うシンは、彼以外にも気になるものを見つけた。マイケルの座っているベッドの傍、小さく開いた窓を支える枠が腐食しているのだ。古い建物であるとはいえ、その不自然な傷み方は強い酸で溶かされたような印象を受けた。
「薬品、か……?」
この村で薬品が手に入る、病院を一度覗いてみようかとシンは考える。
成功
🔵🔵🔴
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
私は巡回神父に扮し、ジムのいる医者とマイケルのいる教会へ寄りましょう。
医者へは健康診断という体で、聖職者へは祈りを捧げにと説明します。
医者や聖職者へは『礼儀作法』を駆使し、信用を得られる様に努めます。
独占欲が強い吸血鬼です。
余分なボディタッチ(握手とか肩や腕に触る)や故郷の祈りの仕方とでも嘯いて耳元で囁き、候補の二人の様子を観察します。
不審な点が確認できましたら、夕食へのお誘いで更に嫉妬心を煽ってみましょう。
血ではなく愛に飢えている吸血鬼。少し悲しいですね。
それでも、拒絶された愛の痛みに耐えるのではなく排除しようとする考えは間違っています。
凶行を必ず止めなければなりませんね。
旅人を装い潜入していく猟兵達と時間を少しずらして、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は旅の神父に扮して村を訪れた。各地の信仰と聖地を巡礼している途中だという彼を、村人達は歓迎する。神父であるからにはと教会へ赴き、旅の聖人へ祈りを捧げた後、聖職者の男性と村の様子や別の村の話をして信頼を得たアリウムは、彼に健康診断を受けられる場所はないかと尋ねた。
「次の目的地までの道のりも遠く険しいものでして、万全を期して臨みたいのです」
「ならば案内しましょう。うちの村には腕のいい医者がおりましてね」
穏やかに笑う男性に、アリウムも蒼氷色の瞳を細めて応じる。共に歩きながら、今教会で世話をしている流れの旅人も、果樹園の近くで村人が拾った時は酷い怪我だったが、その医者に治療して貰ったのだと男性は語った。
(誰が旅人を拾っても、一度は医者の元へ行くのですね……)
アリウムは顎に手を当て、思案する。
病院へ辿りつくと、患者はおらず医者とジムと名乗る男性がいるだけだった。健康診断を済ませた後、軽く言葉を交わす間にも、ジムは熱心に医者の良いところをアリウムへ訴える。
「腕利きというのは本当なのですね。私も医学に興味がありまして……お話、聞かせていただいても?」
「ええ、構いませんよ」
差し出した手を医者が握り返す瞬間、アリウムは強い視線を感じてジムの方を見た。赤いその瞳には嫌悪が滲み出ており、握りしめた手は震えているようだった。
(……頑張りますね。私を殺したいのを、我慢しているように見えます)
血ではなく、愛に飢えているという吸血鬼に、驚きと共に少しの悲しみを抱く。骸の海に堕ち、過去として世界に染み出している相容れない存在として、孤独を抱えるのは当然のことと言える。
(それでも、拒絶された愛の痛みに耐えるのではなく排除しようとする考えは間違っています……)
根底に流れるヴァンパイアとしての傲慢さがそうさせるのだろうか。凶行は必ず止めなければ、とアリウムは決意を新たにすると、医者の肩にそっと手を置いた。
「この出会いに感謝を……よろしければ、今夜お食事でも一緒にいかがですか?」
「今夜は、診察の予定が数件入っていましてね。その後でよろしければ」
ぱし、と医者の肩に置いたままだったアリウムの手がジムによって払われる。敢えて挑発するようににこりと笑みを向けると、アリウムは「夜になったら迎えに来ます」と医者に告げ、病院の外に出た。
大成功
🔵🔵🔵
ヴェル・ラルフ
夜の闇に乗じて村に潜入
敵が行動を起こすなら、夜だと思うしね
[目立たない]ように黒い外套に身を包んで
闇の中から[暗視]で観察
窓の外なら声も聞こえるかな…
数人に目星をつける
「皆の」彼を独り占めしたくて、ヒトに一定の親しみを感じさせようとしている…
皆のお医者さんを熱心に誉めているジムが怪しいかな
病気を患って、なら、顔色が悪くても誤魔化せそうだしね
ジムが普通の人なら、マイケル・キット・ジョナサンも、この順で確認してみたいな
朝に潜入しているサンディ(f03274)が、本当に心配だから…
サンディがお世話になってる所には、【雄凰】、お願い。
…何かあったら、すぐ哭いて教えて。
僕が辿り着くまで、絶対守って。
サンディ・ノックス
朝の習慣の時間に村に転がり込む
村人全員の目に留まればターゲットになっている優しい人はなにかしら反応するはず
人手は多いから心遣いは僅かかもしれないけど
独占欲が強い敵はその僅かさえ面白くないんじゃないかと読んでるよ
他の村から逃げてきて…
食べ物も尽きて…もうだめだと思った…
多くは求めません
どうかしばらく居させてください
擦り切れた粗末なものを身に着け【変装】
謙虚に低姿勢、怯えたような疲れた表情で
精神的にも弱り切っているように振る舞う
猟兵になって村を渡り歩いた時代によく使った手だから慣れてるんだよね…
ヴェル(f05027)の読みなら敵が仕掛けてくるのは夜
心構えはしておくけどヴェルを信じてるし不安はないな
村人達が日課とする祈りの時間に一人の猟兵――サンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)もまた飛びこんでいた。
「他の村から逃げてきて……食べ物も尽きて………」
擦り切れた衣類を身に着け怯え切った表情の彼を疑う者はここにはいない。広場の隅に座っていた男性はサンディの元へ駆け寄ると、迷わず飲み水を差し出した。頭を下げて礼を言い、一気に飲み干したサンディはか細い声でもうだめだと思った……と安堵の息を漏らす。
「多くは求めません、どうかしばらく居させてください」
精神的に限界を迎えているように見える彼を心配そうに見つめていた村人達が、一斉に体格のいい中年男性の方を見た。視線を受けた男性はもちろんだという風に深く頷くと、隣に座っていた男性に話を振る。ジャンと呼ばれた彼は、しばらく中年男性と話をした後おもむろに席を立った。
「今すぐ休める部屋を用意しよう。よく、ここまで無事に辿りつきましたね」
中年男性はサンディを安心させるように柔らかく笑う。目にうっすらと涙を湛えて、サンディは再び頭を下げた。
(とりあえず受け入れてもらえたかな)
村人達の表情をそっと伺いながら、サンディはなおも弱り切った旅人を装う。この擬態は、猟兵になって間もない頃に村を渡り歩き、生き抜くために身に着けた処世術だった。
心配そうに声をかけたり食べ物を差し出す村人達と短く言葉を交わしながら、時間差でここへ来ることになっている仲間が事前に挙げていた人物の様子を探る。村医者と患者のジムは、その両極端な性質故にすぐに見つかった。目深にかぶったフード越しにこちらの方を見ながら何やら熱心に訴えている患者に、ゆっくりと頷いて耳を傾けている物静かな男性。
(ヴェルの読み通りなら、敵が仕掛けてくるのは夜……)
サンディは明るくなってきた空を見上げて、精神を集中させるように目を閉じた。先ほどから向けられている、肌を刺すほどに鋭利な視線に気付かないふりをしながら。
いつもより多い来訪者を迎えてにわかに浮足立つ村にも、いつも通りに時間は流れる。夕食の頃を過ぎ、皆が思い思いに寝る支度を始める頃。村の外で蠢く獣達の気配に紛れて、ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)がその地を踏んだ。暗闇の中を円滑に行動できるようにと黒い外套に身を包んだ目立たない格好で、村の外れに潜入した彼はユーベルコードでヘビクイワシを召喚する。
「雄凰……サンディに何かあったら、すぐ哭いて教えて。朝から潜入していて、本当に心配だから……」
仲間の護衛を命じられた、雄凰と呼ばれたヴェルの身の丈の2倍程はありそうなヘビクイワシは、飛び上がり村の上空をぐるりと旋回した後、他のものより少し大きな家の屋根に留まった。家の規模から恐らく村長のものだろうと判断し、警戒している相手と同じ滞在先ではないことに胸をなで下ろす。
(「皆の」彼を独り占めしたいくて、ヒトに一定の親しみを感じさせようとしている……)
予知で得られた断片的な情報を頼りに、村医者の元に滞在しているという男性――ジムに白羽の矢を立てた。彼らの暮らす家を特定しようと、暗闇を見通しながら病院を探す。
かすかに薬品の匂いを引き当て目的の家へと辿りついたヴェルは、窓の下へと身を潜めた。中からは複数の人間の声がし、どうやら患者が数名診察を受けに来ているのだろうことが分かった。静かに体調を問う男性の声に、やや高揚した別の男性の声がかぶさる。何やら言い合いをしているふたりの男性は、患者達から離れて奥の部屋、ちょうどヴェルが潜んでいる窓の傍まで移動してきた。ヴェルは見つからないように気を付けながら、身を起こして室内の様子を見る。
「誰にでも優しいのは君の美徳だよ。けれど、僕だって君の患者なんだ! ねえ、どうして僕には診察をしてくれないんだい、こんなに君を必要としているのに……」
「それだけ騒げれば、もう大丈夫でしょう」
「大丈夫なもんか、みてくれこの手を……今も震えているんだ……ね、君の力が必要なんだ……」
小さく息をついて脈を取ろうと手を取った医者を、ジムは強い力で抱き寄せた。
(……!!)
医者の背に回されたジムの指先が、朱い霧状に変化する。それは紛れもないヴァンパイアである証で――ヴェルは凶行を止めようと、病院へ突入した。
大成功
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第2章 冒険
『飢えた鼠の群れ』
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POW : 噛み付いてきた鼠達を全身で振り払う
SPD : 鼠から足の速さを生かして逃げる
WIZ : 地形や道具、魔法を使って鼠たちの動きを牽制する
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
親切な村人達に勧められ、あるいは自発的に。猟兵達はジムがヴァンパイアであると確信をもって病院へ集っていた。
(せやけど、あの窓枠の腐食はなんなんやろな?)
教会を調査した猟兵の中には、マイケルへの疑念を捨てきれずにいる者もいる。それでも、他の仲間達と導きだした結論が“今”ならば、目の前のターゲットに集中するだけだと頭を切り替えていた。
村医者の冷淡にも見える静かさに業を煮やしたジムが、彼の手を掴み強引に奥の部屋へと引きずり込む。待合室や診察室で警戒していた猟兵達が一斉に追ったその先では、意識を失って倒れている医者と、彼の体を覆うように朱い霧が渦を巻いていた。
「どこまでもどこまでも、邪魔なやつらだ……」
室内に、怒りに満ちた声が木霊する。医者から離れた朱い霧は窓から外へ流れ出ると、そこで人の形――ヴァンパイアとしての本来の姿に戻った。
「先生は必ず取り返す。お前達が諦めるまで待つのは苦痛だけど、これも彼を手に入れるためだからね」
赤い瞳に猟兵達への憎悪をぎらつかせて。再び朱い霧状になると、ヴァンパイアは病院の裏へと姿を消した。
しばらくして意識を取り戻した医者に、猟兵達は病院の裏に何かあるのかと尋ねる。
「あそこには洞窟があります。鼠が大量に住み着いており、村人達へ伝染病を媒介する可能性がある故に、入り口を塞いでいたのですが……」
何か言いたそうな医者に、猟兵達はあえて話を振らなかった。ジムのことを説明するよりも、彼を追いかけ倒す方が先だと考えたからだ。
「……くれぐれも、鼠に噛まれないように気を付けてください」
猟兵達の緊迫した空気に何かを悟ったのか、医者は彼らを止めることはせず、代わりに人数分のランプを貸し出すことを申し出てくれたのだった。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
彼の吸血鬼からすれば私達は泥棒猫といったところでしょうか。
そんな私達が鼠の這いまわる洞窟へ……。
不謹慎ながら口の端に苦笑が浮かんでしまいます。
他の猟兵に見られないよう手で隠しつつ、吸血鬼を『追跡』しましょう。
洞窟の中はホワイトパスを利用し、鼠からの不意の攻撃に備えます。
躱すだけで済むなら最良ですが、もし難しそうであれば『範囲攻撃』ホワイトブレスで洞窟の中を凍てつく波涛で押し流しましょう。
他の猟兵とも協力し、深追いや孤立しないよう気を付けたいですね。
ジムが吸血鬼で間違いないでしょう。
ですが、私の中で何かが違和感を訴えているのです。
顔の傷、腐食、医者……。
私の気のせいなら良いのですが。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。吸血鬼は村医者の所にいたのね…。
窓枠が腐食していたのも気になるけど…吸血鬼の能力?
…考えても仕方がない。今はあの吸血鬼を追う事に専念しよう。
事前に防具を改造しランプを吊るすフックを造り、大鎌を双剣に変形させる
他の猟兵が洞窟に入る前に制止して【血の教義】を二重発動(2回攻撃)
対象の生命力を吸収して力を溜める“闇の雲”を両手で維持し、
生命を追跡する呪詛を宿した“闇の雲海”の範囲攻撃を洞窟に放つ
…広域攻撃呪法展開。貪り、喰らい、増殖せよ…。
…お待たせ。これで少なくとも、入り口付近は安全。
道中は第六感を頼りに忍び足で警戒しながら進み、
鼠の群れは怪力を活かし、残像が生じる速度で双剣を振るいなぎ払う
シン・バントライン
(あの窓枠気になるな。
マイケルがおかしいんか、あの教会がおかしいんか、そもそもこの街がおかしいんか…。
薬品?ヴァンパイアと何か関わりでもあるんかな。
医者に聞いとけば良かったか)
それはさておき追跡です。
死霊騎士と死霊蛇竜を召喚してネズミ避けになってもらいましょう。
私も攻撃を受けないようにランプの光と剣で牽制しながら進みます。
急いては事を仕損じます。目立たないように黒づくめで慎重に。
洞窟の広さや形状、その辺を調べながら進みます。
あと敵は薬品など持っているかもしれないので風や空気の動きにも気を付けましょう。
(愛の重さも執着も見覚えのある懐かしい見苦しさやな。…その暗さ故こんなところに逃げ込むんか)
「……待って」
ランプを翳し、洞窟の入り口を塞ぐ木の板を外そうとする仲間達へ、リーヴァルディが制止の声をかける。少し後ろに下がっていてほしいという彼女に従いシンとアリウムは数歩入り口から離れた。防具を改造してランプを引っ掛けると、手にしていた大鎌を黒い刃を持つ双剣へと変化させ、地面に突き刺す。空いた両手を前方に翳すと、魔力を練り上げた。
「……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!」
それぞれの手の中で生まれた闇の力と雲が融合して、生命力を吸い上げる闇の雲に変化する。さらに魔力を注げば、雲はその体積を増やし続けて薄く広がっていった。
「……広域攻撃呪法展開。貪り、喰らい、増殖せよ……」
命あるものを追跡するようにと呪詛を乗せて、リーヴァルディはその闇の力を孕んだ雲の海を洞窟の中へ送り込む。自然現象を操るという制御の難しいユーベルコードのため、意識を両手に集中させているリーヴァルディに代わり、シンとアリウムはランプで周囲を照らしながら警戒していた。
「……お待たせ。これで少なくとも、入り口付近は安全」
届く範囲で洞窟に棲むネズミから生命力を吸収したリーヴァルディは、地面から双剣を抜くと仲間達へ先へ進もうと声をかける。
洞窟は3人が横一列に並んでも体がぶつかることのない広さで、じめじめと湿っていてカビ臭い。医者から借りたランプで周囲を照らしながら進む猟兵達は、ネズミの死骸を踏まないように歩きながら、お互いに交換した情報を元に思案していた。
(彼の吸血鬼からすれば私達は泥棒猫といったところでしょうか。そんな私達が鼠の這いまわる洞窟へ……)
偶然ながら奇妙で少しユーモラスな巡りあわせに、仲間達に表情を見られないように手で隠して、アリウムは思わず苦笑してしまう。気を取り直して、魔力を体に巡らせて五感を研ぎ澄ませた。
(あの窓枠気になるな。マイケルがおかしいんか、あの教会がおかしいんか、そもそもこの街がおかしいんか……)
黒龍を経由して見えた教会の窓枠の腐食について、薬品によるものならば医者に質問しておけばよかったか、とシンは内心思う。気配を隠すようにと全身を黒で覆った彼は言葉少なに、洞窟の環境や形状を観察しながら歩みを進めていた。
「ジムが吸血鬼で間違いないでしょう。ですが、私の中で何かが違和感を訴えているのです。顔の傷、腐食、医者……私の気のせいなら良いのですが」
ネズミからの急襲を警戒しながら、アリウムがシンの思考を代弁するようにマイケルを気にしている旨を呟く。
「窓枠が腐食していたのも気になるけど……吸血鬼の能力?」
リーヴァルディは、窓枠の腐食をヴァンパイアの能力――薬品に似た反応を起こす物質を操る能力によるものではないかと考える。防具から吊るしたランプの燃料から使える時間を大まかに計算して、彼女は歩みを早めた。
「……考えても仕方がない。今はあの吸血鬼を追う事に専念しよう」
頷き、歩く速度を速めた仲間達の背中を追いながら、シンは今まで歩んできた道筋を振り返る。洞窟の中はもちろん外も暗く、どこに入り口があるのか分からないほどの暗闇にしばし足を止めて。
(愛の重さも執着も見覚えのある懐かしい見苦しさやな……その暗さ故こんなところに逃げ込むんか)
黒いベールの奥に表情を隠したシンは、記憶の箱をそっと開けて……その甘い痛みに胸を焦がした。
猟兵達を見送った後、何か毒物を吸い込んだのか重い体を引きずって、この村唯一の医者は夜の往診に出ていた。教会に泊まっているマイケルの包帯を交換し、彼に鎮痛剤を処方しなければならないからだ。本来ならばもう少し早い時間に訪れる予定だったが、急な来訪者と居候の不審な動きに時間を取られてしまいやや非常識な時間になってしまった。教会のドアを控えめにノックしながら、医者はマイケルの治療プランを確認する。顔にできた大きな傷はなかなか塞がらず、身体のみならず彼の心を蝕んでいる……一日も早く傷が塞がるように、今は最善を尽くすのみか、と医者は気を引き締めた。
「先生でしたか……どうぞ上がってください」
顔を出した聖職者は、医者を屋内へ招き入れる。部屋から一歩も出てこないマイケルの様子を尋ねる医者に、食欲がないのか昼食と夕食に手を付けていないようだ、と聖職者は心配そうに答えた。医者は静かに報告を受け止めると、マイケルの部屋をノックし、静かに扉を開く。
「……これは、一体」
部屋には誰もいなかった。僅かに開いた窓の枠と白いベッドには何かの薬品が零れたのか、著しい劣化がみられる。室内に足を踏み入れた医者は、嗅ぎ慣れた血の匂いに気付き、無人のベッドの下を覗き込んだ。
「先生、何か……ありましたか?」
「マイケルが、亡くなっています」
おそるおそる声をかける聖職者に、医者は努めて冷静に答える。遺体の様子と周囲に漂う同居人と同じ匂いから、マイケルの死因は毒による他殺であろうと判断し、医者は聖職者に事の次第を打ち明けた。
「彼を殺したのは、うちに居候していたジムである可能性が高いです。彼は……吸血鬼でした」
気配を最小に抑えながら進む猟兵達の前方から、ネズミの騒ぐ声が聞こえてくる。侵入者達へ敵意をむき出しにしたネズミ達は、鋭く鳴いて威嚇しながら群れをなして飛びかかってきた。
「落ち着いて。急いては事を仕損じます」
シンはネズミ避けにと死霊騎士と死霊蛇竜を召喚して攻撃を命じながら、ランプで照らして牽制する。明かりに慣れていないネズミ達はシンを避けるように軌道を変えた。
「……ん」
その流れの先に立っていたリーヴァルディは特に慌てる様子もなく、双剣でネズミの群れをなぎ払う。戦い慣れた彼女によって振るわれた剣は、警戒心を抱く余裕すら与えぬ速さでネズミ達を斬り伏せた。
「……私にこれを使わせないで欲しかったな」
仲間達がなぎ払ってもなお大量に蠢くネズミ達にため息をついて、アリウムはその身に氷の魔力を纏うと洞窟内部を凍てつく波涛で押し流す。
「これでしばらくは大丈夫でしょう」
入り口でのお返しですよ、とアリウムはリーヴァルディに微笑み。
「ネズミもですが、敵は薬品など持っているかもしれません。風や空気の動きにも気を付けましょう」
アリウムが洞窟の奥へと放った冷気が戻ってきていることに気付いたシンが、仲間達へ警戒を呼びかけ。
猟兵達は引き続き足元に気を払いながら先へ進む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
洞窟の奥で、山のように積み上げたネズミの横に座って、そのヴァンパイアは顔をしかめていた。
「こいつもダメか……滅びの定めから逃れられない生物は面倒だな」
毒に当てられて死んだネズミに、彼は病院から持ち出した薬品を振りかける。小瓶から注がれたそれはネズミの死骸を潤しただけで、特に何の変化も齎さなかった。ヴァンパイアは空になった小瓶を洞窟の壁に投げつけ、叩き割る。
「……これも外れ。教会にいたアイツみたいに顔が溶ければまだ面白いのになぁ。先生の大事な時間を独占する奴だし、生き返ったら困るんだけど」
まあ、そうなったらもう一度殺せばいいだけか。ヴァンパイアは暗闇の中で、ケタケタと笑った。
ヴェル・ラルフ
ヒトとの絆を求める吸血鬼…どうして、そこまでヒトである「彼」に固執してしまうんだろう。
血を欲してしまう吸血鬼の自分への嫌悪…なのかな。
それなら、…ヒトに固執するのも、僕には、理解できてしまう。
思い詰めちゃ、だめだ、よね…
サンディ(f03274)と行動
すぐ[暗視]に切り替えられるようにする。
…ありがと、サンディ。
そうだよね。例え拒絶されても…僕は、大切な人を傷つけたりしない。これは、友達がいる限り見失わない、大切なこと。
POW
伝染病か。近寄られるの、やだな。
這い寄る鼠達は「残紅」で[2回攻撃][なぎ払い]
数が多そうなら【ブレイズフレイム】で燃やしておこう。なるべく触りたくないしね。
サンディ・ノックス
「先生を取り返す」かぁ
一丁前に想っている風な口利くんだな
俺は今までやってきたことを聞いているから思い違いだとしか感じないけど!
…普段は敵相手でも一方的に決めつけないようにしてる
切り捨てているのは大切な人のため
その人が傷つく可能性があるなら他のこと考えてる場合じゃない、当然でしょ
ヴェル(f05027)はどんな顔をしているだろう…
表情から察し、頬をぷにっとして微笑む
「共通点探しはしちゃダメだよ?」
飢えた鼠は村に行かれても困るし【解放・夜陰】で潰すよ
不意打ちされるのも面倒だから普通に歩いて【おびき寄せ】たい
ただ数が多すぎると流石の俺でも対処しきれないから
水晶を防壁にして噛まれるヒトが出ないことを優先
猟兵達は着実に洞窟の奥へと進んでいく。
サンディは鳴き声に耳をそばだててネズミ達の動向を探りながら、あえて引き付けるために普通に歩いていた。数が多いと少しつらいかもしれないが、襲い掛かってきたところを迎え撃つ方が、並んで歩いているヴェルのカバーもできるだろうと考えたからだ。
「『先生を取り返す』かぁ。一丁前に想っている風な口利くんだな。俺は今までやってきたことを聞いているから思い違いだとしか感じないけど!」
ヴァンパイアが口にした言葉を反芻して憤りを隠さないサンディの隣で、ヴェルは無言で洞窟の奥を睨んでいた。
(ヒトとの絆を求める吸血鬼……どうして、そこまでヒトである「彼」に固執してしまうんだろう)
共に暮らしていた村医者だけではなく、これまで何人も望みどおりにならないヒトを手にかけてきたヴァンパイア。倒すべき相手ながらも、彼のことを考えると足元がぐらぐらと危うくなる感覚が、ヴェルにはあった。それは体の中を流れている血の半分が訴える本能への嫌悪感が、ヴァンパイアのヒトへ固執する振る舞いに重なって見えたから。まるで自らの吸血衝動から解き放たれたいと、もがいているように。
(それなら、……ヒトに固執するのも、僕には、理解できてしまう)
ぼうっとした頭で、ランプを持つ手をサンディの方へ向けようとして――今、彼を見てはいけない気がして、ヴェルはランプを思わず手で覆った。
「……俺、普段は敵相手でも一方的に決めつけないようにしてるんだよ」
ヴェルの心が揺れていることに気付いたのかどうか、サンディは不意に歩みを止め、ぽつりと言葉を漏らす。
「切り捨てているのは大切な人のため。その人が傷つく可能性があるなら他のこと考えてる場合じゃない、当然でしょ」
ランプを顔の高さまで持ち上げて、サンディはゆっくりとヴェルの方を向いた。親友の顔を直視できず、自身のつま先を見つめながら相槌を打つヴェルは、到底普段通りには見えない。
サンディは柔らかく笑むと、親友の頬を優しくむにりとつまんだ。
「共通点探しはしちゃダメだよ?」
長く共に過ごしてきたのだ、相手が何を考えているかは何となく察しが付く。そして多くを語らなくても、一度きり手を差し伸べさえすれば後は自力で壁を乗り越えられるだろうことも。
「思い詰めちゃ、だめだ、よね……」
血の半分を、未だ赦せなくても。
「そうだよね。例え拒絶されても……僕は、大切な人を傷つけたりしない。これは、友達がいる限り見失わない、大切なこと」
瞳に力を取り戻したヴェルは、洞窟の奥へと視線を戻した。暗闇をものともしない彼の夜目は、こちらへ向かってくるネズミの群を捉える。
「……ありがと、サンディ」
ランプを端の方へ置き、深緋の如意棒を構えて微笑むヴェルに、サンディは安堵のため息を漏らして自らもランプを地面に置いた。
「一気に片付けてしまおう。飢えた鼠が村に行っても困るし」
サンディは空いた両手の中で魔力を練り上げる。内に秘めた悪意を闇属性へと変換し、手のひらに収まる程度の大きさの鋭利な漆黒の水晶として数多く具現化すると、ネズミの群めがけて一斉に発射した。
「……近寄られるの、やだな」
医者が語っていた伝染病のことを思い出し、ヴェルは僅かに眉間にしわを寄せる。サンディの放った水晶によってネズミ達の先頭の集団は皆串刺しになったが、まだ残っているネズミは多く洞窟の奥から沸いてくるようだった。如意棒でなぎ払い続けるのも骨が折れそうだと判断したヴェルは、袖をめくって色白の左腕を露出させると、所持していた短剣でざっくりと切り裂く。血液の代わりに溢れほとばしる地獄の炎で洞窟の壁を焼きながら、ネズミの群を丸ごとその紅蓮の炎で覆った。
「ゴールはすぐそこみたいだね」
ネズミを燃やす地獄の炎が照らしだす洞窟の先に、薄く差し込む月明りを見つけ、サンディとヴェルはランプを拾い再び歩きだす。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『ミスト・ヴァーミリオン』
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POW : ヴァーミリオンミスト
対象の攻撃を軽減する【朱き霧】に変身しつつ、【万物を犯す強酸の霧】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : ディアボリックウェイブ
【霧化した体より放つ瘴気の波濤】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を穢し尽くして】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : トキシックミスト
見えない【猛毒の霧となった体】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
イラスト:緑葉カヨ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠天御鏡・百々」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵達が洞窟を抜けると、月明りに照らされてひとりのヴァンパイアが座り込んでいた。周囲を高い崖に囲まれた、まるで大きな井戸の底のような開けた袋小路で、彼は大量のネズミの死骸と空の瓶に囲まれてひどくつまらなさそうな顔をしている。
「お前達が諦めるまで待ちながら、生き返りの薬を見つけようと思ったのに全然ダメで、嫌になってきたよ」
「薬……?」
猟兵のひとりが訝しみ、足元のネズミの死骸を検めた。どうやら毒で死んだらしいそれは、死後投与された薬によって肉体が溶けてしまったようだ。
「見ての通り、それも失敗だよ。あーあ、生き返りの薬が見つかれば、先生をうっかり殺しても大丈夫だし、僕の成果を褒めて愛してくれただろうになぁ」
「お前は、どうしてそこまであの人にこだわるんだ?」
猟兵の問いに、ヴァンパイアは朱い瞳を細める。ざぁ、とヴァンパイアの輪郭が赤くぼやけたように見えた。
「お前達は僕――“災厄の霧”ミスト・ヴァーミリオンの赦しの元で生存しているに過ぎないことを理解しているか? 本来ならばお前達は生きる価値すらない。同胞達の生活を支えるための歯車であり、家畜なんだから。それを僕は、村の中で自由に営む権利を与えて、繁殖も生存方法もお前達の判断とすることを赦している。……お陰様で同胞から異端視されて迷惑している。なのになぜ、お前達は僕を憎む?」
ヴァーミリオンは憎悪を湛えた冷たい視線を猟兵達へ向ける。
「愛されて当然なんだ、僕のような統治者は。ああ、報われない……報われないよ……。そんな時だった、僕が“彼”に出会ったのは。“彼”は戯れでヒトの世界に降りていた僕に優しくしてくれたんだ。何も聞かずに食事と宿を与えてくれた。初めて僕を愛してくれヒトだったんだ。ずっと傍においてやってもいいと思った……あんな気持ちは初めてだった」
「けど、殺した」
恍惚とした表情で語るヴァーミリオンは、猟兵の言葉に顔色を変えた。
「僕の愛を拒絶するからだよ。お互いに愛していたのに、いざそれが分かってから拒絶しては辻褄が合わないだろう? だからなかったことにしたんだ」
ゆらり、とヴァーミリオンが立ち上がる。
「先生は、僕の素性を気にかけないんだ。あの人が興味を持つのは、体の健康それだけさ。だからこそ、彼は“彼”になる素質がある」
さあ、お前達を殺して先生を迎えにいかなければ――ヴァンパイアはそう語ると、自らの体を朱い霧に変えた。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
私が間違っていました。
受け入れられないから殺す。そんな見返りを求める感情は愛ではありません。愛であっていいはずがない。
幼稚な独占欲でしかありません
体を霧状にして攻撃とは中々厄介ですね。物理攻撃は選択肢から外します。
『全力魔法』ホワイトブレスの『範囲攻撃』『属性攻撃』でどこまで彼を追えるか。
霧を凍結にさえできれば、仲間の傭兵と協力して叩けるはずです。
穢れた地形は凍らせて使えなくします。
もし威力が足らない場合はホワイトホープも併用し、追い詰めていきましょう。
貴方は誰からの愛を得る事もなく、孤独に死ぬ。それだけです。
せめて最期は手にかけた人々への贖罪が、彼の中を占めるよう『祈り』ましょう
シン・バントライン
ヒトにヒトの代わりは出来ない。どんな悪人にも善人にも代わりは居ません。
誰も代わりにはならないと分かってしまうのはツライことです。とても。
貴方はその傲慢さでその感情から逃げているのに気付きもしない。臆病者ですね。
そんな貴方を愛する人は居ないでしょう。
自分がどれだけ支離滅裂なことを言っているのかさえ分かっていない。
哀れなヴァンパイア…ここで終わりにして差し上げます。
【毒耐性】で耐えつつUCを発動し出来るだけ相手を挑発し憎悪を煽る。
戦闘力を増強し生命力を弱らせ、黒剣【君不知亡国恨】の一刀で首を狙っていきます。
「貴方も亡国の歌と知らずに歌う輩ですね。…嗚呼哀哉」
(俺も臆病者や。これも因果応報か…。)
リーヴァルディ・カーライル
…ん。戯れ言は終わり?
人間を家畜だの何だの長々と語っていたけど、
結局お前は、その家畜に好かれる事すら満足に出来ない無能ってだけでしょう?
…と挑発して敵の注意を引き付け、
第六感が捉えた殺気や気合いの存在感を、
魔力を溜めた両目に映し残像として可視化(暗視)
【吸血鬼狩りの業】の補助を行い敵の攻撃を見切り【封の型】で迎撃する
…霧になれば手出し出来ないとでも?
ならば見せてあげる、吸血鬼狩りの業を…。
生命力を吸収する呪詛を宿した大鎌を怪力任せになぎ払い、
霧化している肉体の傷口を抉るように削っていき、
酸や毒は可能なら挑発する前にに防具を改造して耐性を付与しておく
…霧のように、跡形もなく消えなさい、吸血鬼。
ヴェル・ラルフ
(心情)
…家畜?赦し?
何を言ってるの?
ヒトは素晴らしい生き物だ。優しいし、温かい。
生きるのに赦しが必要なのは、血や殺戮を欲する吸血鬼の方だろ。
置いてやってもいい、じゃなくて、側にいてほしい、だろ。
傲慢で、罪深い
僕にも、半分だけど、同じ血が流れている
でも…僕は、お前とは、違う
傍にいてほしい人が、ここにいてくれる
僕が掴み取った、煌めく一等星。
たとえ拒絶されても…大切なことに、変わりはない
家畜と思っている限り、お前は、誰にも愛されないよ
(行動)
忌まわしい真の姿へ
血霧化するなら動きを止めてしまえばいい。
[早業]でUC【残光一閃】
命を削ろうとも、お前は、殲滅しなきゃいけない。
お願いサンディ、叩き潰して。
サンディ・ノックス
生き返りの薬があれば殺しても大丈夫、だって…?
なにを言ってるんだ、生き返らせればそれで許してもらえると?
殺されるときの恐怖は無かったことにして愛してくれると?
意味が解らない
「愛し合っていた、拒絶されたから無かったことにした」
それができる時点でお前のそれは愛じゃない
大切な存在に害を与えたくないとヒトは考えるんだ!
真の姿発現(特徴は真の姿イラスト参照願います、利き手は右です)
あれは命を削る技だけど
今回ばかりはヴェル(f05027)の気持ちを尊重するよ
一秒でも早く滅ぼすため全力を振り絞ってその気持ちに応えるまで
ユーベルコード、青風装甲を発動し動けない相手に突撃
胸を貫き、そのまま【怪力】任せで断ち切る
冷たい月の光と岩壁に囲まれた静かな洞窟の奥に、朱き霧からさらに姿を変えて周囲に溶け込んだヴァーミリオンの笑い声が響き渡る。己の正当さを一切疑わず、勝利と望むものを掴めると信じているその声に、猟兵達は各々武器を手にしばらく言葉を発せずにいた。彼の言葉や思想に共感できる部分を見出せず、言葉の意味そのものは理解できても『何を言っているのかわからない』という戸惑いが漂う中、シンは固まった空気を動かすように大きなため息をつく。
「自分がどれだけ支離滅裂なことを言っているのかさえ分かっていない……傲慢さに溺れて全ての感情を塗りつぶしてしまったのでしょうね」
黒いヴェールを被った彼の表情は誰にも分からないが、努めて冷静に語るその言葉の端々から呆れが漏れていた。笑うのをやめたヴァーミリオンが、姿を隠したまま不機嫌な声で突っかかる。
「ふん……僕のどこが支離滅裂だと?」
「どんな悪人にも善人にも代わりは居ません。……誰も代わりにはならないと分かってしまうのはツライことです。とても。貴方はその傲慢さでその感情から逃げているのに気付きもしない」
可哀想に、臆病者なのですね。黒い剣を握りながら過剰なほどに哀れみを込めて語るシンの額に脂汗が浮かぶ。周囲の空気に含まれる猛毒に己の生命力でなんとか耐えて立っている彼は、ヴァーミリオンの憎悪を引き出そうと挑発をやめない。
「そんな貴方を愛する人は居ないでしょう。本当に、哀れなヴァンパイア……」
嘲笑うように呟いて、猛毒の霧に体力を削られ続けていたシンはふらりとバランスを崩した。地に片膝をついた彼に思わず駆け寄り、その肩に手を置いてアリウムは声をあげる。
「私が間違っていました」
感情の読めないフラットな声に、ヴァーミリオンは共感者が現れたかと空気に溶け込んでいた体を実体化する。紺桔梗色の豊かな髪をもつ憂いを帯びた表情の男に近づくと、彼の言葉の続きを聞こうと顔を覗き込み――氷のように冷たい瞳とかち合った。
「受け入れられないから殺す。そんな見返りを求める感情は愛ではありません。愛であっていいはずがない」
最後まで言い切る前に、アリウムの放った極低温の波涛がヴァーミリオンの肉体を捉える。瞬発的に魔力のすべてを注ぎ込んだその一撃は、骨の芯までヴァンパイアの脇腹を凍らせ一時的にその部位を霧化できなくさせた。
「それは、幼稚な独占欲でしかありません」
腹を押さえて蹲るヴァ―ミリオンに、氷のように冷たいアリウムの言葉が降り注ぐ。一度浮き上がった気持ちを叩き落とされたヴァンパイアは、アリウムへ鋭い視線を向け犬歯を剥いて何事か呻いていた。その一層強い憎悪を隠そうとしない姿に、ヴェルも耐えきれず言葉をこぼす。
「……家畜? 赦し? 何を言ってるの? 生きるのに赦しが必要なのは、血や殺戮を欲する吸血鬼の方だろ」
ヒトに執着するヴァーミリオンの姿に一時は自分の“血統への嫌悪”を重ねて共感しかけていたヴェルは、当然、相手も自分と同じ感想を“ヴァンパイア”に抱いていると思っていた。だが、ヴァーミリオンの口から飛び出す言葉は、どれをとってもあまりにもヴァンパイアらしく、嫌悪感を煽るものばかりだ。だが、どれだけ目の前のヴァンパイアが自分とかけ離れた思考を持っていると実感しても。己の体の半分に同じ種の血が流れていることだけは否定できず、ヴェルの背筋を冷たい汗が流れていく。
「ヒトは素晴らしい生き物だ。優しいし、温かい。置いてやってもいい、じゃなくて、側にいてほしい、だろ」
「ああ、そうだ。だから、僕は『僕の望みに応えることを赦す』と言ってるんだ」
ヴェルは言葉が上手く出てこないことに歯噛みして、喉を押さえた。もっとこの男には言ってやりたいことがあるのに、ともどかしさに唇を歪める彼の背に軽く手を添えて、サンディが横に並び立つ。
「生き返りの薬があれば殺しても大丈夫、だって……? なにを言ってるんだ、生き返らせればそれで許してもらえると?」
「ヒトは生に固執しているからね。それさえ守ってやれば細かいことはどうでもいいだろ」
「殺されるときの恐怖は無かったことにして愛してくれると? 本気で思ってるのか?」
意味が分からない、とサンディは心底軽蔑した様子で首を横に振った。
「大切な存在に害を与えたくないとヒトは考えるんだ!」
その言葉にヴェルは気づく。先ほどまで背筋を伝っていた冷たい感触はなく、今はサンディの手のぬくもりだけがそこにあって。それは紛れもなく、傍にいて欲しい人が今ここにいてくれている、その証だった。
(たとえ半分が同じ血でも……僕は、お前とは、違う)
相手へぶつけようとした拒絶を、自分の心の支えへと変換して。ヴェルはサンディの手を取ると、ぎゅっと握りしめた。
(僕が掴み取った、煌めく一等星)
背中にあった時よりもはっきりと感じるサンディの体温に、ヴェルの心に勇気と決意が満ちていく。
「たとえ拒絶されても……大切なことに、変わりはない。家畜と思っている限り、お前は、誰にも愛されないよ」
己が抱く愛を言葉にして。琥珀の瞳を忌まわしい血の色に染めて、ヴェルは真の姿を解放した。
「そう。『愛し合っていた、拒絶されたから無かったことにした』……それができる時点でお前のそれは愛じゃない!」
彼の決心を受けて、サンディも真の姿を解放する。竜の角と尻尾を持った甲冑の騎士となった彼は、竜の翼を広げると槍を構え、金色の瞳を見開いてヴァンパイアに吠えた。
「うるさいうるさい! お前達に僕の愛の崇高さが分かるはずがない……!」
己の信念を、抱いていた愛を否定されたヴァンパイアは、ようやく自由が戻った脇腹を押さえて後退すると、猟兵達から距離を取る。
「全く残念だ……結局お前達も世界の仕組みを理解してないってことが分かったよ。理解さえできるなら、見逃してやろうと思っていた僕がバカだったんだ。見るに堪えない害虫は殺して、醜さが誰の目にも触れないようにバラバラにしてやらなくちゃ……これも統治者の仕事だからね……」
体内の魔力を変換した瘴気を全身に纏ったヴァーミリオンは、芝居がかった仕草でため息をつくと体の末端から霧化していく。
(……ん。狙いは、アリウムね)
やや後方で大鎌を構えて吸血鬼狩りの呪式を練り上げていたリーヴァルディは、魔力を両目に回してヴァンパイアの姿を追っていた。仲間達の挑発により感情を高ぶらせたヴァンパイアのオーラは、いくら霧となって空気に溶け込もうともそう簡単には消えず、第六感でそれをトレースし魔力で肉眼へ出力することのできるリーヴァルディの目には、実像とそう変わらず映し出されている。その憎悪のオーラが向けられている先、肉体にも精神にもダメージを与えたアリウムとヴァンパイアの間に飛びこむと、リーヴァルディは霧のヴァンパイアめがけて大鎌を振り下ろした。
「貴様……ッ!」
「……戯れ言は終わり?」
その姿からは想像が出来ないほどの怪力に任せるがままに振るわれたリーヴァルディの大鎌は、施された呪詛によってヴァンパイアの霧そのものを吸収していく。
「人間を家畜だの何だの長々と語っていたけど、結局お前は、その家畜に好かれる事すら満足に出来ない無能ってだけでしょう?」
だから、霧になれば手出しできない、なんて考える。リーヴァルディは表情ひとつ変えず、淡々とヴァーミリオンを挑発した。彼女の言葉に激高したヴァンパイアは、霧の姿のまま纏っていた瘴気の波濤を周囲に解き放つ。大地を穢し、命ある者の肉体へダメージを与える毒気の大波は、しかし直撃したはずのリーヴァルディへダメージを与えることは出来なかった。
「何……?」
「見せてあげる、吸血鬼狩りの業を……」
誘導し、予測通りの攻撃をさせることで敵の攻撃は容易く受け流すことが出来る――波濤の勢いを大鎌で受け、その魔力を零さず吸収し刃に施していた呪詛の強化へと転用すると、さらにヴァンパイアの力を吸収しようとリーヴァルディは霧を刻むように幾度も斬りつける。
「くそ、くそくそくそ! 僕の霧と瘴気を受けて、なんでお前は立ってられるんだ!
奪われた魔力を補おうと、穢れた大地から瘴気を吸い上げる実体化したヴァーミリオンが喚くのを、これも想定のうちだと言わんばかりの冷ややかな表情で見返しながら、リーヴァルディは己の外套をぽんと軽く叩いた。事前に呪式によって毒への耐性を付与されていたその黒衣に、ヴァンパイアの表情が絶望に歪む。
「もう分かったでしょう。貴方は誰からの愛を得る事もなく、孤独に死ぬ。それだけです」
大地からの瘴気の補充を阻止しようと、アリウムは氷の波濤で地面を凍らせ穢れを封じ込めた。ここにきてようやく劣勢であることを自覚したヴァーミリオンは、逃走を図ろうと力を振り絞り全身を猛毒の霧に変えはじめる。
「体を霧状にできるというのは中々厄介ですね」
アリウムは冬の精霊の加護と血脈への祝福によって膨大な氷の魔力を解放し、その全てを攻撃力へと転換すると、今だ実体化したままのヴァーミリオンの体の一部をユーベルコードで凍らせる。
(なんて言うて、俺も臆病者や。これも因果応報か……)
なんとか猛毒のダメージから立ち直ったシンは、己の発言を思い返して黒いヴェールの下で密かに自嘲する。その脳裏に過るのは大切なものを失った過去。決して消せない傷口から目を逸らすように、ヴァーミリオンから向けられた憎悪を黒煙として身に纏い、身体能力を強化する。いっそ記憶も黒く塗りつぶしてくれればいいのに、と胸中で呟き、黒い剣を握りしめると、氷の波濤によって身動きを封じられたヴァンパイアの首を狙って駆け出す。万が一氷の拘束が解けた時のためにと、アリウムは極低温の魔力を練り上げヴァ―ミリオンに波濤の照準を合わせたままだ。
黒煙が、黒い剣に宿る今は亡きとある国の恨みに吸い寄せられるように、シンの手元に集まる。
「貴方も亡国の歌と知らずに歌う輩ですね。……嗚呼哀哉」
黒く光る剣が、ヴァンパイアの首を貫いた。傷口から注ぎ込まれる黒煙は、憎悪の主であるヴァーミリオンの体を侵蝕していく。
「……せめて……もう一度……、せんせ、いに……」
村へ続く洞窟の中へ逃げ込もうと再び体を霧状へ変化させようとするヴァンパイアの前に、ヴェルが立ちはだかる。刻々と肉体を蝕む闘気をその身に纏う彼の後ろでは、サンディが槍を構えてヴァンパイアに狙いを定めていた。
(一秒でも早く滅ぼす……ヴェルの気持ちに応えるんだ)
命を削ってでも敵を殲滅するという決断を、快く後押しできるほど大人ではない。けれど、相手の気持ちを尊重できないほど、浅い絆ではない。サンディは呼吸を整え、意識を槍の先端へ集中させる――敵の動きが止まった瞬間にその心臓を抉るために。
「また血霧化するつもり?」
凛とした迷いのない声を投げかけると同時に、ヴェルは闘気でヴァンパイアを捕らえた。鎖のような形状を取った闘気は敵から僅かに残っていた魔力と戦う術を奪う。
「お願いサンディ、叩き潰して」
答える代わりにサンディが竜の翼を広げると、瑠璃色の旋風が吹き起こり全身を包んだ。竜巻のようだ、と周囲の猟兵達が認識するより早くヴァンパイアに向かって一直線に飛び出したサンディは手にした槍で敵の胸を貫いていた。
「……逃げられると思ったの?」
答えは待たず、槍は力任せにヴァンパイアの肉体を断ち切る。
さらさらとした灰のようになったヴァーミリオンは、吹きこんだ夜風に舞い上がり、そのまま夜の闇の中に霧散した。
彼のヴァンパイアが最期に呟いた言葉に、どれほどの意味があるのだろうか。再び世界に染み出した時、ミスト・ヴァーミリオンにこの村での記憶はないかもしれないが、それでも。手にかけた人々への贖罪を抱いた瞬間がありますように、とアリウムは月を見上げて静かに祈った。
大成功
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