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パイで鯖を喚ぶ

#UDCアース #魚怪類

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#UDCアース
#魚怪類


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●おめでとう、活きの良いパイですよ!
 OLのトウコさん(仮称)は、自宅の台所で意気込んでいた。
「見てなさい! 今度のお花見には、料理教室で習ってきたばかりの手作りパイを持って行って、料理下手の汚名を返上するんだから!」
 ――どんなに料理下手でも見捨てません!
 なぁんて書かれた魚のイラスト入りの料理教室の胡散クサそうなチラシを握り締め、トウコさん腕まくり。
「まず欠かせないのはこの魚で――」
 ヅドンッ!
「あ、これ魚にきっと合うわね!」
 ドゴッ!
「賞味期限近いから入れちゃいましょ」
 ゴシャッ!
 何だか料理にあるまじき音を立てつつ、料理下手にありがちな『レシピなんか見ない』を突っ走り、それでも行程は進んでいく。
 そして、ついに――。
「できたぁぁぁぁぁぁ!」
 焼き上がったのは、魚をふんだんに使ったフィッシュパイ。
 魚の目はツヤツヤと輝き、生えている足はジタバタ動いているぞ!
『ォォォォォォォ』
 何だか鳴き声とも雄叫びとも名状しがたい音を発しながら、パイはトウコの手を離れてスタスタ歩くと『じゃっ!』って感じで普通に玄関から出て行った。
「……どう言う事……」
 どんまい。

●本当にあるんだ、そう言うパイ
「…………」
 ……。
 グリモアベースは、何とも言えない沈黙が流れていた。
 集まった猟兵達の前には、黒い翼のオラトリオらしい女性が『中から魚の頭が5,6個突き出ているパイ』と言う何とも言えないものを持って佇んでいるからである。
「ああ、ええと。レネシャよ。グリモア猟兵。よろしく。
 まあ私の事はいいわ。ええとね。UDCアースで、こう言うパイがね、逃げ出す」
 猟兵達の視線に口を開いたレネシャ・メサルティム(黒翼・f14243)は、言葉を選びながら話を続ける。
「スターゲイザーパイって言う名前の、UDCアースのとある国の料理らしいわ。
 だけど、邪神の影響、と言うかとある邪神復活を企む連中の罠で動き出しちゃう」
 レネシャがパイを持っていない方の手でぺラリと広げたのは、料理教室のチラシ。
 ――どんなに料理下手でも見捨てません!
 なぁんて書かれている。あと、魚のイラストも大きく描かれている。
「こう言うのに頼りたくなる気持ちも、判らないでもないわ。私もたまに、何も紫の食材使っていないのに、料理が紫になる事があるから」
 え?
「ん?」
 閑話休題。

「料理が下手な人をピンポイントで狙って撒かれてたみたい」
 そして、人数が集まった料理教室は恙無く開催され、何事もなく終わった。
 是非、家でも自由に作ってね、とお土産に渡される魚とか調味料。
 これ全部罠だったけど。
「それを使って独創的なスターゲイザーパイを作ると、高確率で動いて逃げ出すダークマターと化す。逃げ出したパイは、邪神復活の供物になる」
 だからこその料理下手ピンポイントなんだけど。
 なんだろう、この回りくどいやり方。
「で、逃げ出しちゃうパイがかなり出るのが予知出来たから。逃げ回ってるパイを回収して欲しいの。あ、でも全部じゃなくていいわよ。何匹かは敢えて泳がせておいて」
 匹って、パイ数えるのに使う単位じゃねえよなぁ。
「泳がせたパイは、邪神復活を企む連中のところに戻ると予知出来たのだけど、その正確な場所までは見えなかったの。ごめんなさいね」
 敵の本拠地を掴むには、餌が必要になると言うわけだ。
「何匹かなら、復活する邪神は不完全だから」
 戦って倒す必要はあるが、不完全に復活した邪神なら勝てない相手ではない。
 ちなみに、どんな邪神なのだろう。
「ずっと見せてたわよ。ここに居る」
 レネシャがずいと差し出したのは、ずっと持ってたスターゲイザーパイ。
 そこから顔を出している魚は、青い胴体を持っている。

「邪神は鯖よ」

 油がのっていて美味しそうなんだってさ!


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。
 魚が生えてるパイ。
 本当にあるらしいです。
 スターゲイザーパイで、ぐぐってみよう!

 それはさておき、今回はUDCアースで逃げ出した迷子のスターゲイザーパイを捕まえつつ、邪神復活を企む連中の本拠地を探して乗り込んで、不完全に復活した鯖を退治するお仕事です。

 舞台は、UDCアースのS区。高層マンションが立ち並ぶ、割と開けた都市です。
 1章は冒険。迷子のパイ探し。たくさん逃げ回ってるから、頑張って探しましょう。
 パイ捜索、追跡方法の他、探すシチュエーションの指定もOKです。
 海!山奥!とか言われると、都市ですよ、とやんわりマスタリングになりますが。

 2章は、集団戦になります。敵は此処では伏せておきます。
 3章はボス戦。邪神です。鯖です。

 2章以降は、導入を入れる予定です。
 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 冒険 『迷子の迷子の…。』

POW   :    捜査とは足!とにかく捜索する

SPD   :    聞き込みなどで出現範囲を絞る

WIZ   :    同様の物体を仲間に見立てて誘きだす

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィーナ・ステラガーデン
いやいや!?何一つわかんないわ!?
おかしいでしょ!何でパイが出来上がったら足生えて逃げ出すのよ!?
邪神復活目論んでる連中何考えてんのよ!どう考えてもシュールだわ!

【POW】
まあいいわ!とにかくその逃げてるパイを探せばいいわけね!
技能「視力」を使いつつUCで空から探させつつ
私は自分の足できりきり探すわよ!

ところで足生えてるっていってもパイはパイなのよね?
美味しいのかしら?ちょっと味見してみたいわね!
って・・・何で突き刺しちゃったのよ魚・・・
切り身入れるとかで良いじゃない!独創的にも程があるわよ!

(アレンジ、アドリブ、連携などなど大歓迎!)


蒼汁之人・ごにゃーぽさん
……なんだろう、このピンポイントで狙い撃たれたかのようなネタは?
スターゲイザーパイ?もちろん知っているどころか依頼でも活躍してくれてますともさ。
そんなわけで、蒼汁クッキング♪でいーとみぃと鳴きながら宙を念動力で飛び回るいーとみぃスターゲイザーパイを召喚☆
第六感と野生の勘、それに邪神復活を目論む連中を見つけて欲しいと言う祈りを籠め、さらにいーとみぃを喰って酷い目に合うがいいという呪詛を籠めて放流。
いーとみぃがいーとみぃされるために本拠地を探し始めた後を追跡するよ☆


七瀬・麗治
【powで捜査】
七瀬だ。連絡を受けて出動した。で、どこなんだ? その、歩くパイとやらは。
まずはバイクに乗って(騎乗)、S区内を〈失せ物探し〉で捜索だ。ついでに【カルマハウンド】を放ち、別の地区を探らせる。感覚を共有しているから、離れていてもすぐに分かるはずだ。
発見できたらまず一匹確保し、ハウンドに匂いを嗅がせる。あとはその匂いを便りに、残りの個体がどこに向かうか〈追跡〉させて調べよう。目的の施設を特定できたら、仲間に連絡だ。
ハウンド、食べたかったら食べていいぞ。……いや、オレは遠慮しておこう。


鎧坂・灯理
【調査依頼】
とはいえ、依頼人(f14904)とは別行動だが。

さて、生きたパイ探しか。
魚が入っていると言う事だし、手持ちの人工知能たちを猫に変化させて街に散らばらせよう。
見つけたら発信器から信号を出しつつ襲いかかるように。
猫の形にする必要はないが、まあ気分的にな。
幾つか撃って破壊して、最後の一つだけ逃がして追いかけよう。

余談だが、某国の迷食品代表と思われがちなこのパイ。
実は本土の人間からすると「完全なるご当地料理」でしかなく、生涯名を聞かずに生きる人の方が多いほど。
むしろ「なんで日本でそんな知られてるの?」と不思議がられているらしい。
日本で言うところのハチノコやイナゴの佃煮のような扱いだな。


黒木・摩那
【WIZ】
スターゲイザーパイを検索した。
SANチェック!

あやうく正気度が減るところでした。

てっきり料理下手な人が作ったフェイク料理?だと思ったら、
実際にあるなんて。
世界は広いですね。

そんな邪悪なパイが世の中を漂ってるとか危険すぎます。
一刻も早く回収しないと。

パイ釣りを試みます。
動く鯖パイならば、ご飯も食べるでしょ、きっと。

エサはエビと、丼ぶりご飯にサバの頭を突っ込んだ、ス〇キヨ丼で誘います。
UC【影の追跡者】で見張り、引っかかったら、ヨーヨーや【念動力】で回収します。


ラルフ・アーレント
一応、中々に歴史ある料理らしいけど、どうしてこうなった……(スマホで検索しつつげんなり顔)

一先ず、最近料理教室があった場所を探して、そこを中心に範囲広げつつ聞き込みするか。スマホ使って、ネットで現地付近の料理教室の話題や目撃情報とかも探しとく(コミュ力・情報収集)
発見次第、人通り多い所のは騒ぎになるのもアレだし極力確保(追跡・ダッシュ)
……確保後の扱いどうしよう。食い物粗末にすんのは気が引けるけど、抑々これって食い物の括りに入る…?

ある程度泳がせとけ、って指示あった事だし、他の猟兵とも連絡取っとかないと。
向かってる方角や通る道で元凶の位置や捜索範囲の絞り込みできねーかな?

アドリブ・連携歓迎


真守・有栖
準備は整ったわ。
始めるわよ!鯖の一本釣りを!

とっっっても高い建物(まんしょん)の周囲を一時的に封鎖。
屋上から何本も釣り糸を垂らして、すたぁ……長いから略して鯖ね。餌に食いついた鯖を釣り上げる大胆不敵な作戦よ!
まさかこんな場所から釣り上げようなんて誰も思わないでしょう。……この賢狼たる私以外は!

……さっそくまんまとかかったようね!
ここからが豪狼たる私の腕の見せ所!

よいしょ!

うんしょ!どっこいしょ!

ぜぇっ……まだ半分……

ぐぬっ……足で踏ん張って抵抗するなんて!?こんのぉ……!

よ、ようやく一匹……なかなかの大物だったわ。

あ。またかかっ……!?こ、今度はこっち……あっちも?!ちょ、ちょっと待ってー!?


矢来・夕立
【調査依頼】
探偵さん(f14037)に調査依頼を出しました。
探偵のテンプレですね。パイ探し。
ペットもパイも同じようなもんじゃないですか。単位も“匹”ですよ。

初動は完全に別行動です。
こちらは【情報収集】でどのあたりにパイが集まってるか調べます。
SNSとかに上がってません?

群生地のアタリをつけたところで【紙技・炎迅】。
農業用トラクターを…作る。
ついでに最寄りの農協でコンバイン借りてきましたんで、パイ収穫祭。
つまり地道に回収して廃棄ですね。周辺環境に配慮していきたい。
ウソです。飽きたら普通に轢き潰します。

本場ではこのパイ、春の風物詩と呼ばれていてまさに4〜5月にかけて旬の食材ウソに決まってんだろ


セツナ・クラルス
走るパイなんて、なかなかにメルヘンじゃないか
滅多に出来る体験じゃないだろうし、
ふふ、精々楽しむとしよう

逃げるパイをきゃっきゃうふふと追いかける
想定以上にすばしっこいね
でも、私も負けてはいないよ
一生懸命追いかけるも体力は並以下
少しずつ距離が離されていく
…これは少々作戦を変更せねばならないね
灯火を敵の周辺に発生させ無理矢理にでも動きを止めよう

ケーキにロウソクとは気の利いた演出だろう?
さて、今日を命日にしたくなければ
誰に呼ばれて、どこに向かっているのか白状して貰おうか
ふふ、一度こういう悪役ぽい台詞を言ってみたかったんだ
白状してくれた良い子のパイは優しく回収しておこうか
白状しない場合?
…ふふふ


エドゥアルト・ルーデル
スターゲイジーパイを悪用するなどとは…許せん!
信者共をとっちめてやらねば…
拙者は食わねぇけな!アレ嫌いなのよね…

都会で何かを探すなら…都会に限らないでござるがやっぱ空からですな
上空に10機ぐらいサーチドローンを打ち上げて監視でござるね!見上げた顔と目が合いそうですな
見つけ次第事前に召喚しておいた影の…誰!?【知らない人】だこれ!怖いよぉ!
とにかく発見し難い知らない人であれば見つからずに捕獲して貰うことも等楽勝ですぞ!

え?拙者は何するのって?
その辺で【罠使い】でパイ捕獲用の罠を作ってますぞ!籠につっかえ棒のヤツ!
中に仕込むのは…マーマイトしか持ってねぇ!ま、いいか!

アドリブ・絡み歓迎


鵜飼・章
僕はなぜこの依頼を受けてしまったんだろう
前世がイギリス生まれの魔法少女だったからかもしれない
魂がスターゲイザーパイに呼ばれているんだ

不思議ちゃん発言をしている場合じゃない
【動物と話す】でその辺の雀や鳩や鴉に聞きこみ
ええと…歩くパイ見なかった?
もう野生の鴉に捕まってるかもしれないな
その時は【コミュ力】を使って交渉
それ僕のツナマヨおにぎりと交換しよう
こっちの方が絶対おいしいよ

結局町中で鳥とお話している不思議ちゃんになってる…
気にしたら負けだ
【恥ずかしさ耐性】があるし

元気なパイにはUC【三千世界】を使い泳がせる
確保したパイは…鴉のごはんにしてもいいのかな
僕もお腹がすいたし少し食べてみよう
感想はお任せ



●パイに狂気を感じる日
「……」
 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)はスマホの画面から、無言で視線を外した。
「危ないところでした……」
 摩那が何を見ていたのかと言うと、スターゲイザーパイを検索していたのである。
「てっきり料理下手な人が作ったフェイク料理だと思ったら、実際にあるなんて。危うく正気度が減るところでした……」
 今の摩那の気分は、所謂、SAN値チェック!である。
 そんな気分に陥れられたまま、ふと視線をあげると。
「僕は……なぜこの依頼を受けてしまったんだろう」
 遠い目で佇んでいる鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)がいた。
「何故って……来てから言っても遅いだろ?」
 やはりスマホでスターゲイザーパイを検索していたラルフ・アーレント(人狼のブレイズキャリバー・f03247)も、げんなりした顔のまま告げる。
「そうだね。来てしまったんだ」
 章は一つ頷いて――。
「前世がイギリス生まれの魔法少女だったからかもしれない。魂がスターゲイザーパイに呼ばれているんだ」
 なんか妄言を吐き出した。SAN値大丈夫かな?
「一応、中々に歴史ある料理らしいけど、どうしてこうなった……」
 まだ問題のパイの画像を見ているだけなのに、既にどういうことだって状況に、ラルフの顔がますますげんなりとしたものになる。
「歴史はある。本場ではこのパイ、春の風物詩と呼ばれている」
 そこに口を開いたのは、矢来・夕立(影・f14904)だった。
「まさに4~5月にかけての旬の食材を使った伝統料理で――」
「依頼人――しれっとウソをつくな」
 まさに立て板に水と夕立が続ける言葉を、鎧坂・灯理(不退転・f14037)が遮った。
「ウソに決まってんだろ」
(「まったく――この依頼人は」)
 悪びれる風もなく、表情を変えずに返してくる夕立に、灯理は胸中で溜息1つ。
 とは言え、今日は依頼人と雇主である。
 探偵として、灯理はフォローのひとつも入れておくべきか。
「このパイ、かの国の迷食品代表と思われがちだがな。実のところ、アレは『完全なるご当地料理』でしかない。
 日本で言うところのハチノコやイナゴの佃煮のような扱いだ、と灯理は続ける。
「本場の人間でも、生涯名を聞かずに生きる人の方が多いほど。むしろ『なんで日本で、そんな知られてるの?』と不思議がられるらしい」
「え? そんなに珍しいもの?」
 だが、その説明に異論――という程でもないが、意外そうな反応を見せた者がいた。
 ハルキゲニアなる古代生物を模したペットロボに乗ったフェアリー、蒼汁之人・ごにゃーぽさん(戦慄の蒼汁(アジュール)・f10447)である。
「知っているどころか、何度か召喚して活躍してくれてますともさ」
 ごにゃーぽさんの言葉に、場の空気が一瞬固まった。
 おかしいな。
 何で邪神の手先を上回る猟兵がいるんだろう。
「まあ、拙者も知ってるでござるよ」
 そこにそろそろと手を上げたのは、いかにも傭兵然としたおっさん、エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)である。
「全く。スターゲイザーパイを悪用するなどとは……許せん! 信者共をとっちめてやらねば……」
「好きなやつは好きな料理ってことか」
 表情を険しくするエドゥアルトに、ラルフが成程と頷く。
「いや、食わねぇけど! アレ、嫌いなのよね……」
「……」
「……世界は広いですね」
 しれっとエドゥアルトが返した一言に、ラルフが沈黙し、摩那がしみじみと頷いた。
「つまり珍しいご当地パイが、走っていると言うわけだね」
 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)が、散らばり気味だった状況を一言で端的に纏める。
「パイの珍しさより、一番おかしいのそこでしょ! 何でパイが出来上がったら、足生えて逃げ出すのよ!?」
「そう? なかなかにメルヘンじゃないか」
 フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)があげた正論と思える一言を、しかしセツナは『メルヘン』の一言で片付けてしまう。
「いやいや!? メルヘンで片付けちゃっていいの!?」
「いいんじゃないかな。滅多に出来る体験じゃないだろうし。精々、楽しむとしよう」
 フィーナが思わず入れたツッコミにも、セツナは穏やかな笑みを崩さなかった。
 どうやら彼もまた、ややずれた感性の持ち主のようである。
「滅多にあったら、やばいでしょ! 邪神復活目論んでる連中何考えてんのよ! どう考えてもシュールだわ!」
 邪神復活を企む側も、猟兵側にもつっこみどころ多数で、フィーナのツッコミがやや遅れ気味である。がんばれ。
「楽しむんでもシュールでも構わんが」
 停めたバイクに腰を下ろし、やり取りを見守っていた七瀬・麗治(悪魔騎士・f12192)が口を開いた。
「どこなんだ? その、歩くパイとやらは」
 停めたバイクに腰を下ろした、七瀬・麗治(悪魔騎士・f12192)である。
 そう。既にパイは、猟兵達の目に映る街のどこかを逃げ回っているのだ。
 目の前にいない以上、探さねばならない。
「そうね。すたぁ……長いから略して鯖で。鯖を見つけなきゃいけないんでしょ」
 麗治の正論に頷き、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)が他の猟兵達を見回す。
「皆、準備は良い? 私の準備は整ったわ!」
 何故か、有栖は大量の釣竿を抱えていた。
「準備がよければ、始めるわよ! 鯖の一本釣りを!」
 ……。パイなの、わかってるかな?
 まあいいか。
 猟兵達は幾つかのグループに分かれて、動き出した。

●聞き込みグループ
「……さすがに、もういるわけが無いか」
 ガランとした雑居ビルの空き部屋に、ラルフの声が静かに響く。
 件の料理教室があった場所を訪れてはみたが、そこはもぬけの殻。
 とは言え、そんなことは想定の内。
「パイが走ってりゃネットに目撃情報もあるかと思ったが、意外とないもんだな」
 スマホで情報を検索しつつ雑居ビルを出ると、ラルフは周囲を見回し――。
「よう。ちょっと良いか? この辺りで料理教室があったって……」
 ラルフは同年代と思しき年代が多そうなグループに、聞き込みをはじめた。
「お? そのゲームおもしろいよな」
 時に色々目覚めてるゲームの話題を混ぜながら、話を膨らませていく。
 ワルぶってみたりしてるけれど、意外とコミュ力高いのである。
 一方、別の方向にコミュ力を働かせている猟兵がいた。

「ちょっと良いかな……歩くパイ見なかった?」
 ゴミ袋をロックオンしていた鴉と話している、章である。
 もう野生の鴉に捕まってるかもしれない――そう考えての、聞き込みである。動物と話せるんだよ。聞き込みなんだよ。
『カーッ』(意訳:簡単に喋ると思うのか?)
「え? そう言わずにさぁ……教えてくれない?」
『カッカッ、カーァッ!』(意訳:ただで喋るような安い男じゃねえぞ!)
 章と鴉の間では会話が成立しているのだが、これ、傍から見ると『町中で鴉とお話している不思議ちゃん』に成りかねない。
(「ま、そんなことは気にしたら負けだよね」)
「よし。それ僕のツナマヨおにぎりと交換しよう」
『カカーァ?』(意訳:ツナマヨだぁ?)
「うん。こっちの方が絶対おいしいよ」
『カケー!』(意訳:シャケの方が好きだ!)
「えぇー……」
 都会の鴉、意外と食通。

「ちっ――!」
 路地裏に響くラルフの足音と、舌打ち。
 赤い瞳が見据える先には、シャカシャカ走るスターゲイザーパイが2匹!
 ラルフがこの路地裏に入ってきたのは、先ほどのグループとの会話で得た、付近であった料理教室。その点を結んだ範囲を絞り込んだ結果である。
 料理教室を受けた人が、近くにいるかもしれない。
 そう思ってみたら、ビンゴ。
「この……逃がすかよ!」
 人通りの多い所に出しては拙い。ラルフはダッシュで距離を詰めると、後ろからスターゲイザーパイを両手で1匹ずつ掴み取った。
「……こんなの、あと何匹いるんだ?」
「おや。そちらも確保だね」
 そこに現れたのは、同じくパイ2匹を抱えた章である。
 鴉から『魚なら路地裏の野良猫に聞けよ』と言われて来たのだ。なお、猫はツナマヨで交渉成立だった。
「合わせて4匹か……扱い、どうする? 食い物粗末にすんのは気が引けるけど、抑々これって食い物の括りに入るのか……?」
 掴まってもなお、足をシャカシャカさせ続けているパイに、ラルフが再びげんなりとした顔になる。
「そうだね……≪三千世界≫」
 章は少し考え、おもむろに鴉を召喚した。
「食べちゃって」
 章が喚んだ鴉はただの鴉ではない。特別に訓練された鴉である。
 ちょっとおかしいパイだって食べるさ。
「1匹は泳がせて、この子に追いかけて貰うとしよう。最後の1つは僕が食べ……」
 そう言いかけた章が、突然固まった。
「お、おい。どうした?」
「……あのパイ、生焼けな上に、あっまい……」
 共有した味覚から章に伝わって来たのは、うんざりするような味だったとか。
「……こっちで1匹泳がせたって、他の猟兵に連絡しとく」
 聞かなかった事にしてポチポチとスマホで連絡を入れ始めるラルフの後ろで、1匹のパイが走り去り、鴉が羽ばたいた。

●増やした視点と、罠
 鳥――つまり、空からの目線。
 同じものを利用しようとした猟兵は、他にもいる。
「出てくるといいわ下僕!」
 路地裏にフィーナの声が響いて、蝙蝠の翼が広がる。
 バサバサと羽ばたき、フィーナの蝙蝠達は狭い空に羽ばたいていった。
「サーチドローン、発進でござる!」
 そのあとに続けて、フィィィンと極々小さなプロペラの音を鳴らすドローンの群体を、エドゥアルトが飛ばしていく。
「とにかく、逃げてるパイを探せばいいわけよね? なら、空からよね」
「都会で何かを探すなら……やっぱ空からですな」
 フィーナとエドゥアルトは使う手段こそ違えど、方針は一致していた。
 空からの視点を増やす。
 まあ、そのあとの方針は異なるのだが。
「餌の方はどうでござるかな?」
「大体出来たわよ」
 エドゥアルトが振り向くと、そこでは摩那がエビを地面に置いていた。
「では、罠を仕掛けますぞ! ……来ますかね?」
「動く鯖パイなら、ご飯も食べるでしょ。きっと」
 餌の上に罠を作りながら首を傾げるエドゥアルトに、摩那が淡々と返す。
 エビで鯛を釣る――ならぬ、エビでパイを釣る、である。
 エビだけではない。
 隣には丼も置かれていて、真赤なご飯に鯖が頭から突っ込んでいた。
 この構図、とある有名なミステリーのワンシーンそっくりらしい。
 ともあれ、エビと丼にそれぞれ、籠につっかえ棒のシンプルな罠が作成された。
「あとは隠れて待つだけね」
 呟いて、摩那は影の追跡者を召喚する。
 そしてエドゥアルトも――。
「では拙者も……って、誰!? また違う【知らない人】だこれ! 怖いよぉ!」
 自分で召喚した知らない何者かに、怯えていた。
 しょっちゅう違う人が現れるらしい。コンプリートできる日は来るのかな?
「そう? 誰だか判らないけど召喚できるって、割とあると思うわよ? 私も、誰だか知らない召使を喚べるし!」
「……そう言うもんでござるか?」
 離れて見ていたフィーナの一言に、エドゥアルトが落ち着きを取り戻す。
「召喚ってそう言うものでしたっけ」
 摩那が思わず呻くが、この場に限ってはそう言うもんかもしれない。
「じゃあ、こっちは任せるわ! 私は自分の足でも探すから!」
 罠の完成を見届けると、フィーナは蝙蝠を飛ばした方へと歩いていった。

「っとと」
 半ば埋もれていたパイプにつんのめりかけて、フィーナの足が止まる。
 その赤い瞳には、フィーナ自身が見ている光景と、蝙蝠と共有する上空からの視界の2つが映っていた。
 2つの視点があれば、動くパイが近くにいれば見つけるのは難しくない。
「あら? 早速見つかったかしら」
 果たして、それらしいものは意外と早く見つかった。
 ちょこまかと走り回る、丸い物体。
「蝙蝠、降下しなさい」
 蝙蝠の高度を下げさせると、その物体の詳細が見えてくる。
 そして、生えてる魚の頭とこうもりの眼が合った。
 つまり、蝙蝠視点を通じて、フィーナもパイから生えてる魚と眼が合うと言う事だ。
「……なんで突き刺しちゃったのよ、魚……」
 見えたのは、口を半開きしてパイから飛び出た鯖の頭。
 インパクト抜群の見た目に、思わずフィーナが呻く。
 そのまま蝙蝠に飛び降りさせれば、捕獲はそれで完了だった。
「パイ……なのよね」
 追いついたフィーナが捕まえたパイを持ち上げると、ジタバタともがく。
「パイはパイよね。ちょっと、味見してみたくなるわ」
 美味しいのかしら、とフィーナが顔の前に持ち上げる。
 パイから突き出た魚と眼が合った。
「……何で突き刺しちゃったのよ魚……独創的にも程があるわよ! 切り身入れるとかで良いじゃない!」
『ォォォォォォォ』
 フィーナの声に応えたのは、パイの魚の頭が放つ不気味な声だけだった。

 罠の近くに佇む、影の追跡者と知らない人。どちらも、召喚者以外には極めて発見され難い性質を持っている。そこにいても、気づかれる事はあるまい。
 一方、摩那とエドゥアルトは2人とも、物陰に潜んで待っていた。
 パイが、餌にかかるのを。
「もうすぐでござるよ」
 エドゥアルトはドローンの群体を操り、発見したパイを急き立て誘導している。
 そして――。
『『――ォォォ! ォォォォ!』』
 2匹のパイが、路地から飛び出してきた。
 パイから飛び出した魚の頭の瞳がギョロリと動き、エビと丼ロックオン。
 パイまっしぐら。
「今よ」
「頼みますぞ、知らない人」
 摩那とエドゥアルトの合図で、追跡者と知らない人が紐を引く。
 バタンッと落ちる籠。その中でもがくパイたち。
 ドダン、バタンッ――シーン。
 2つの籠の中身は暴れていたが、片方がすぐに静かになった。
 丼の方だった。
 籠を開けるとパイが痙攣していた。
「マイ唐辛子は、邪悪なパイには刺激が強かったでしょうか」
 それを見下ろし、摩那はしれっと告げるのだった。

●増やすな危険
 さて。ちょっと危険な丼と罠で、パイが仕留められていた頃。
 別の場所では、もっと危険なモノが誕生しようとしていた。
「蒼汁ークッキング♪」
 ごにゃーぽさんの手にあるのは、何か青い液体。
 え、これなに!?
「蒼汁はポーションだよ♪」
 そう言い張るごにゃーぽさんだが、説明には宇宙的狂気な味の蒼汁、と書いてある。そんな説明を気にした風もなく、ごにゃーぽさんが蒼汁をぶちまけた。
 蒼に染まった地面が、ボコボコと泡立ち始める。
 その中心が盛り上がって――。
『いーとみぃ』
 そんな鳴き声を上げて、新たなスターゲイザーパイが召喚された。
 蒼いけど。蒼いけど。
「ふふ。邪神復活を目論む連中の本拠地、見つけてね! 連中はいーとみぃを喰って、酷い目に合うがいい」
『いーとみぃ』
 自身よりも大きな蒼いパイに、ごにゃーぽさんは呪詛とか呪詛とかを込めていく。
 ふわふわ漂いくるくる回るパイの姿はまるでUFO。
 さて、ごにゃーぽさんは召喚した『いーとみぃ』にいーとみぃされるために、敵の本拠地を探させるつもりだった。
 そう。さっきから呼んでいる、そして鳴いている、いーとみぃ。
 それはパイの名前である。
 いーとみぃ――つまり、EAT ME――私を食べて。
『『『ォォォォォォォォォォ』』』
『いーとみぃ』
 その名前に惹かれたのか。
 突如飛び出してきた足の生えたパイと、宙を漂う蒼いパイとの、食べてやる、食べられてたまるか、な争い。
 どっちのパイも魚の頭が生えているのが、またシュール。
 様相は、さながら怪獣大戦――だが、決着はあっさりついた。
「ぼくのいーとみぃに、邪神連中のパイが負けるものか!」
 ごにゃーぽさんのいーとみぃを齧ったパイの方が、悶絶して消滅したからである。

●追走劇
 ブロロロッとエンジン音を響かせて、麗治の駆るバイクがS区を疾走する。
 その傍らには、大きな黒い犬型UDC――カルマハウンドが併走していた。
 そして、彼の前には――パイが群れていた。
 シャカシャカシャカシャカカカー!
「くそっ……歩くパイどころか走ってるじゃないか!」
 何かもうパイにあるまじき速度を見せるパイに、バイクの上で麗治がぼやく。
「まさか、パイとカーチェイスすることになるとはな――ん?」
 呟いたバイクのスロットルを上げようとした麗治が、視界の端に何かを捉える。

「ああもう、待てって言ってるのに!」
 やっぱりシャカシャカ走っている別のパイ――と、それを追っているセツナが、立て続けに細い横道から飛び出してきたのだ。
 セツナの方は、何か凄い楽しそうだけど。
 もうきゃっきゃうふふ、である。
 だが、表情とは裏腹に、セツナの体力は尽きかけていた。
「想定以上に……すばしっこいね……さすがに少々……作戦を変更せねばならないね」
 肩を大きく上下させながら、セツナは視線を向ける。
「明かりを灯そう。──ひとつ、ふたつ」
 ――ポゥッ、ポウッ。
 前触れも無く灯火が生じたのは、セツナから逃げるパイの真正面だった。
『ォォォォォォ!?』
 火を警戒して足を止めたパイの前に、炎はどんどん増えていく。
「ケーキにロウソクとは気の利いた演出だろう? 私も負けはしないよ」
 行き場を失ったパイに、セツナが追いついた。
「さて、今日を命日にしたくなければ、誰に呼ばれて、どこに向かっているのか白状して貰おうか?」
(「一度こういう悪役ぽい台詞を言ってみたかったんだ」)
 念願かなったセツナの口元に、思わず笑みが浮かぶ。
 だが――。
『ォォォォォォォ』
 パイの口から出てくる音は、ほとんど代わり映えしなかった。
 あ、これ喋れないやつか。
「白状してくれないなんて、悪い子だなぁ……ふふふ」
 笑みを深めるセツナの後ろに、炎が集まっていく。
「逃がさないよ? ふふふ」
 しゃかしゃか足を動かすパイを押さえつけ、セツナは一つに集めた炎を――。

「あっちは大丈夫そうだな」
 バックミラーで炎が立ち昇ったのを見て、麗治は視線を前に戻す。
「ハウンド。俺達も、そろそろ仕留めるぞ」
 麗治が召喚したカルマハウンドは、『業』の匂いを嗅ぎ分けることが出来る上に、麗治と語感を共有する。
 その能力を活かせればと、麗治はカルマハウンドを最初は別地区に向かわせた。
 だが――件のパイは、作られて完成して、逃げているだけである。
 邪神の何かの影響があるとは言え、その業は麗治が思うほど強くなかった。
 それでも、視点を増やせるという意味では、捜索の効率は上がっていた。他の猟兵達も視点を増やした者が多かった点からも、有効であったと言える。
 そして、今は合流させて数体のパイを纏めて追っている。
「ハウンド、1匹は確保しろ――!」
 麗治の号令で、カルマハウンドがパイを跳び越える。
『ォォォォォ!?』
 その前脚が、先頭のパイを押さえつけていた。パイの進行が止まる。
 キィィィィ――ッ!
 そこに響いたのは、タイヤがアスファルトに擦れる音。
 車体をギリギリまで倒した麗治が、そこにバイクで突っ込んだ。
 パイをグシャグシャに潰して、バイクが止まる。
「ふぅ……あとは2匹か。1匹は泳がせるとして……ハウンド、匂いを嗅いだら、食べたかったら食べていいぞ?」
 だが、麗治の指示で匂いを嗅いだカルマハウンドは、こんなの喰えるかと言わんばかりに、片方のパイを踏み潰した。

●探偵と依頼人
 シャカシャカシャカッ!
 スタタタターッ!
 1人佇む灯理の目の前では、走り回る生きたパイが、灯理の召喚した多数のチビ猫メカと、追いかけっこを繰り広げていた。

 ――パイを探してください。探偵のテンプレですよね。パイ探し。
 ――それを言うならペットではないか?
 ――ペットもパイも同じようなもんじゃないですか。単位も“匹”ですよ。

 この光景に、ここにはいない依頼人――夕立のやり取りを思い出す。
 今回の夕立と灯理が依頼者と探偵。そんな立場であることは、前述の通り。
 だが、2人は全くの別行動をしていた。
 S区の両端近くに別れている。
「まあ、この様相を見てしまうと、ペットもパイも同じようなもん、と言うのも間違ってはいないとなってしまうな」
 小型とは言え、灯理の猫メカは一応戦闘用。
 人工知能を搭載しているし、程ほどの強さと能力だってある。
 それなのに、パイの方も中々掴まらずに逃げてるってんだから。
「発信器の信号も出ているから、見失う心配はほぼないな」
 灯理は最初、チビ猫メカを街に散らばせていた。
 だが人工知能が追い詰める内に、その反応は次第に集まってきて――その結果が、結局全てのチビ猫メカと、それらが見つけたパイが大集合になこの状況である。
「魚が入っていると言う事で猫型にしてみたが……大漁だな」
 これは当たりだったと言っても、良いのではないだろうか。
 そう思いながら、灯理は愛用の銃を抜いた。
 時には物理法則を無視した形に変形する事もある銃だが、今は拳銃の形で充分だ。
(「猫の形にする必要は無かったが、まあ気分的にな」)
 誰に言うでもなく胸中で呟いて、灯理は引鉄を引く。
 ガゥンッ! ガゥンッ!
「一つ残れば、充分なんでね」
 銃声が響く度に、パイとその中身が飛び散った。

 一方その頃。
「さて、探偵さんは順調ですかね?」
 灯理が銃声が届かない程度に離れた場所で、夕立が式紙の一つを手に呟いていた。
 夕立が向ける赤茶の瞳の先には、空き地の上を走り回るパイ達。
 そして、傍らには借りてきたコンバイン。
 農業用の収穫から脱穀までこれ1台な巨大なあれである。
「SNSに意外と情報が無かったので少し苦労しましたが。パイ収穫祭と行きましょう」
 夕立の手から離れた式紙は、コンバインに向かっていった。
 紙技・炎迅。
 夕立が何も指示しなければ、自動二輪の姿を好んで取る式紙である。
 今回は、コンバインと合体しながら形を取った。
 結果出来上がったのは、整地まで出来るトラクター兼な感じの、どう見ても農業にとても向いてそうな、紙と農機のハイブリッドな謎機械である。
 夕立が効率重視した結果かもしれない。
「地道に回収して廃棄ですね。周辺環境に配慮ですよ。ウソですけど」
 夕立がさらりと吐くウソに、今はツッコミが誰もいない。
「ま、普通に轢き潰しましょう。探偵さんが、1匹くらい捕まえて泳がせてますよね」
 そう根拠無く信じて、夕立は前方のパイの群れに向かって、紙と農機の合体物を容赦なく向かわせていった。

●過ぎたるは尚も及ばざるが如し
「うわぁ……とっっっても高いわね!」
 高い建物の屋上に、有栖の姿と、大量の釣竿があった。
 釣竿は全てセットし、釣り糸が垂れている。
「ここから餌に食いついた鯖を釣り上げる! この賢狼たる私以外は思いつかない、大胆不敵な作戦よ!」
 まさかこんな場所から釣り上げようなんて、誰も思うまい。
 そんな自信が、有栖にはあった。
 罠を仕掛ける猟兵はいたし、農機持ち出してきた者もいたけれど、地上で釣竿並べて糸垂らそうってのは、確かに他にいない。
 
 グググーッ!
 
 並べた竿の一つが、大きくしなる。
「さっそく、まんまとかかったようね!」
 それでかかるって言うんだから、世の中判らないものだ。
「ここからが豪狼たる私の腕の見せ所よ! よいしょ!」
 有栖はしなる竿に飛びつくと、それを両手で持って、リールを回し始めた。
「うーんしょ! よーいしょ! どっこーいしょ!」
 気合いの入った掛け声の割りに、糸を引くのはとてもゆっくり。
 まあ、本来の釣りでも、勢い良く引くのはタイミングも大事だ。
「ぜぇっ……はぁっ……まだ半分……」
 有栖の場合は、腕力とか体力とか色々足りてないってだけだけど。
「ぐぬっ」
 竿が急にしなり、糸の先が重くなる。慎重に覗き込むと、パイは足を壁につけて踏ん張っていた。
「……足で踏ん張って抵抗するなんて!? こんのぉ……!」
 釣られまいとするパイ。
 なんとか釣り上げようとする有栖。
 これは、確かに釣りだった。場所が屋上って言うだけの事だ。
 そして――。
「や、やった! よ、ようやく一匹……!」
 有栖はついに、パイを釣り上げる事に成功した。
「なかなかの大物だったわ……」
 ググッ!
 ググググッ!
 グググーッ!
「え、あ、またかかっ……え、こっちも……あっちも!?」
 有栖が座り込もうとした、その時。いくつもの竿が突然、あっちでもこっちでも、しなりだしたのだった。
 有栖にらくらく釣り上げられる力があっても、この数は1人では無理だ。
「ちょ、ちょっと待ってー!?」
 困惑する有栖だが、そもそも、パイが一気にかかったと言う事はそれだけ周囲にパイがいると言う事だ。
 他の猟兵達が、潰して回っていたのに?

 その理由、答えは、屋上でパニくってる有栖を遠目で見上げる、敢えて泳がせたパイをそれぞれに追ってきた他の猟兵達の姿が物語っていた。
 訓練された鴉や、偵察用蝙蝠や、カルマハウンドの追跡。自分達の足での追跡。集まった情報、逃げるパイの動きからの推測。
 それらで、動くパイが集まる先を突き止めたのだ。
 そして、場所こそ――有栖が屋上にいる建物から、程近い雑居ビルだった。
 偶然もあるもんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ケーキ戦隊』

POW   :    甘い香りでパワーアップ!
【空腹を誘う甘い香り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    自慢のケーキをご馳走しよう!
【食欲】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【伸縮自在のフォーク】から、高命中力の【様々なダメージを与えるケーキ】を飛ばす。
WIZ   :    ほらほら美味しそうだろう?
【心惹かれる美味しそうな香り】【目を奪う美味しそうな見た目】【とろける甘さと美味しさ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●お前らのせいか
 シャカシャカシャカーッ!
 敢えて泳がされたなどとは露知らず、せっせと足を動かして、ビルへと駆け込んでいくスターゲイザーパイ達。
 追っていた猟兵達は、その光景をバッチリ見ていた。
 此処が本拠地であることは、間違いないだろう。

 だが、猟兵達をロビーで待ち受けていたのは――甘い香りだった。

『例えフィッシュパイでも、パイはパイ』
『パイはケーキの親戚のようなもの』
『故に走るパイは我らが同士も同じ!』

『『『我らケーキ戦隊、義によって助太刀いたす!』』』

『あのパイ達は、お前達には食わせない!』
『食べるなら、我らケーキを食っていけ!』
『嫌だと言っても食わせてやろう!』

 今度は手足が生えたケーキ達が、言いたい放題である。
 とりあえず確かな事は――鯖の前に、何かまた変なのが出てきたと言う事。
 どうにかして、此処を突破しなければならないようだ。
蒼汁之人・ごにゃーぽさん
シリアスシーン終了のお知らせ☆え?元々なかった?せやな。
引き続き蒼汁クッキング♪で産み出したいーとみぃスターゲイザーパイをケーキ達にけしかるよ♪
互いをいーとみぃさせあうケーキとパイ……なぁにこれぇ?あ、やらかしたのはボクか。
ギャグ補正によるバナナの皮やタライ、パイ投げ等でケーキ達の動きを阻害し、コントもある種のギャグだろとウシロウシロ現象で味方の猟兵達の攻撃を援護するよ。
例えヤられた味方がいてもカートゥーンアニメ的ななんやかんやで即時リポップさせて助けよう。


さて、ふっ……どうしてこうなった。
だが、今のうち言っておく、温存したユベコで邪神戦はさらなる混沌のずんぞこに落ちるだろうことを!


真守・有栖
……ふん。同族を護るべく私たちに立ち塞がるだなんて、義理堅い連中じゃないの。
その覚悟、見事なものよ!褒めてあげるわ!

……ぁ。釣具の撤収が終わった?
さすがね!褒めてつかわすわ!

後片付けを任せた(丸投げした)組織の人たちの報告を受け、次なる指示を出すわ。

卓袱台と座布団と、それからお茶の準備よ!
何をするかって?けぇきなる甘味を食らってやるのよ!
受けて立たぬは狼の名折れ!けっっっしてけぇきが食べてみたかったからではないわよ?(尻尾ぶんぶん)

おやつの準備が整えば、いざ実食!

……甘いじゃないの。美味しいじゃない!
和菓子とはまた違った味わいね。うんうん!
さぁ、次のけぇきを寄越しなさい!食べ尽くしてあげるわ!


鎧坂・灯理
【調査依頼】
了解した。依頼人(f14904)が依頼において不利な行動をとる、あるいは狂気に陥った暁には、即時麻酔弾を撃たせて頂く。
遠慮なく。遠慮なく。

食べ物が食べ物で遊ぶのを食べ物が手伝っているな。
常々思うが、何故滅んでいないのか不思議だなUDCアース。

【WIZ】
焼夷手榴弾でも……とも思ったが依頼人の式紙まで燃えてしまうな。
仕方ない。スーツケースを地に置き、上に蓋を開いて腕を突っ込みガトリング砲を引きずり出し、念力で反動を殺し撃ちながら左右になぎ払う。
依頼人に襲いかかるのが居たら手持ちの銃を散弾銃に変形させ撃ち落とす。

食べ物を粗末にする奴は私も嫌いでね。
依頼人の援護にも力が入るな。


矢来・夕立
【調査依頼】
かつてないほどの殺意と憤りを覚えています。
もしオレが何かを間違ってしまったら、探偵さん(f14037)。
そのときはあなたがオレを止めてください。
…これがオレの、最後の依頼になるかもしれません。

食べ物“が”!遊ぶんじゃ!ありませんよ!!

違う。食べ物が食べ物で遊んでいる。さてはここが噂に聞く地獄か?
固より修羅道は覚悟の上ですけど。どれかで言うと餓鬼道かな、ここ
…根本的に相性が悪い敵ですね。地獄性の違いがヤバい。
解釈違い。バンド解散。【紙技・冬幸守】。
せめてもの慈悲です。食って供養してやる。コウモリが。

食べ物を粗末にする奴はこの世で4番目くらいに嫌いです。
殺す。本件の邪神は屈辱的に殺す。


フィーナ・ステラガーデン
見つけたわよ元凶!年貢の納め時と言うやつよ!
って、うわー・・。また変なのがいたわ!?
パイの次はケーキなの!?どーせならお肉とかに足生えて欲しかったわ!
あんたら大人しく皿にでも乗ってなさいよ!

そーねえ!とりあえず纏めて焼いてやるわ!
仲間と連携しつつ
【範囲攻撃、属性攻撃】でごばあっと火を放ったり
UCでコンガリーってする感じね!
出来ればちょっと火通しても美味しいやつを狙いたいわね!
プリンとかいないかしら?じゅるり

(アレンジ、アドリブ、連携大歓迎!)


鵜飼・章
うっかりお腹がすいたなんて発言するんじゃなかった…

僕が空腹なのは確定事項なのでフォークに注意
パイのせいでまだ口の中が甘いな
ジャスミン茶(装備品)で中和しつつ
【大食い/激痛耐性】でさくさく食べて食レポし皆に注意を促す
見るからに危険そうな物は【見切り】で仕分け
しれっと鴉達(装備品)にパス
必要ならお茶は仲間にもあげる

とはいえ全部食べたら流石に飽きるな
試食ができたらUC【ヘンペルのカラス】で一番美味しい子を探して
効率的に食べていこう
質問は『この中で一番美味しいのはきみ?』
美味しい子はメスで切り分けて食べる
嘘つきの子は廃棄だ

食べる事には特に疑問はない
芋虫の踊り食いと似たようなものだよね
ごちそうさまでした


エドゥアルト・ルーデル
キマイラフーチャーの怪人かな?拙者は訝しんだ

【甘い香り】にはより強力な匂いで対抗だ!このレーション(クソマズ)を開封する時が来たようでござるね…!
開けた瞬間漂う出来損ないのチリコンカーンの匂い…甘ったるい匂いと混ざって食欲失せる…

開けたからには後で消費しないとなとテンションだだ下がりのまま戦闘続行…やっぱ食べたくねぇ!
いいこと思いついた、目の前のケーキにねじ込もう!ケーキの背後から【スリ渡し】感覚でレーションの中身を挿入!
貴様らはもうチリソースとケーキの混ざり物だ!貴様らはもうケーキじゃない!このケーキは出来損ないだ、食べられないでござるよ

アドリブ・絡み歓迎


黒木・摩那
また妙なのが出てきました。
『あのパイは食べさせない』と言われても、そもそも食べないし。
『ケーキ食っていけ』と言われても、しゃべるケーキに解説されながら食べるのって、
人の正気度を確かめる、新手の拷問としか思えないのです。

ケーキ自体は好きですが、動くケーキは趣味じゃないんです。

甘味の誘惑は自身の調味料ポーチから唐辛子をひと舐めすることで打ち消して【気合い】。

ヨーヨーでケーキを粉砕したり、ワイヤーでバラバラにしたり、
【敵を盾にする】ことで数を減らしていきましょう。


ラルフ・アーレント
あ、鯖ぶっ刺されたパイに同情とかじゃねーんだ……?

ブレイズフレイムで盛大に燃やしていく方向で。焦げりゃ見た目も味も空腹感誘えるようなモンじゃねーだろ。 あ、でも屋内だし敵以外への延焼は消しとく。
さっき食い物粗末に云々言ってたって? 喋ってUC使ってくるコレは食べ物じゃない。いいな?

積極的に前衛出て薙ぎ払って、一気にカタ付けたいところ。狙われてる仲間が居たら敵ぶっ飛ばしたり気絶させたりで援護に行くか(なぎ払い・2回攻撃・吹き飛ばし・気絶攻撃)
相手の攻撃は動き回って回避(ダッシュ・見切り)。嗅覚に来る類のは炎の熱や対流で防げねーかな。
え、何かそういう類の知識?ありませんけど?

アドリブ・連携歓迎


七瀬・麗治
今度は、しゃべるケーキが出てきた……だと?(困惑)
とはいえ、こいつらもUDCなら倒さねばなるまい!
美味しそうなケーキの甘い匂いを我慢しつつ、 記憶消去銃に寄生体を植え付けて〈武器改造〉し、威力を増強して攻撃だ。
投げつけられてくるケーキを素手でキャッチすると、【模倣と解析】を発動。オレのUDC寄生体よ、このケーキをコピーしろ! 黒剣をフォークの形に変え、敵のUCを奪って反撃する!
「今度はオレがお前たちにケーキをご馳走してやろう! モンブラン、ガトーショコラ、NYチーズケーキ! 好きなのを選ぶがいい!」
※アドリブ、絡み歓迎です



●どう言う事だってばよ
 ショートケーキ。
 抹茶ケーキ。
 チョコレートケーキ。
 ロールケーキにバームクーヘン。
 ミルフィーユにフルーツタルト。
 ずらずら出て来たケーキ達。
 そう、出て来たのだ。
 どいつもこいつも手足が生えてやがる!
(「ここ、UDCアースだよね? キマイラフーチャーの怪人かな?」)
 その光景にエドゥアルト・ルーデルは世界を間違えたかと胸中で訝しむけれど、残念ながら、ここUDCアースで間違いないんだ。
「これはつまり、シリアスシーン終了のお知らせ☆ですね!」
 蒼汁之人・ごにゃーぽさんの一言に、視線が集まった。
「なんですか?」
 正確に言うと、視線が集まったのはごにゃーぽさんの隣に漂う蒼い物体である。
「また妙なのが出てきました」
 色々纏めて『妙なの』で片付けた黒木・摩那の一言は、大体皆同じ意見だったのではないだろうか。
「今度は、しゃべるケーキが出てきた……だと?」
 ずれそうになった眼鏡を押しやりながら、七瀬・麗治が困惑を露わに呻く。
「パイの次はケーキなの!? ここは、元凶に『年貢の納め時と言うやつよ!』って言えるかと思ってたのに!」
 変なのが出た、とフィーナ・ステラガーデンが小さく地団駄を踏む。
『ふっふっふ、驚いているようだな』
『だが、もっと驚かせてやろう』
『俺達の甘さと美味しさにな!』
 猟兵達の反応に、満足そうにほくそ笑むケーキ戦隊!
「外でうっかり『お腹がすいた』なんて発言するんじゃなかった……」
 こんなケーキ連中が出てくるのは、外で溢した言葉が原因と思ったのだろうか。
 ほくそ笑むケーキ戦隊から視線を外して、鵜飼・章が呟いた一言は――それこそ、うっかりだった。
『ほぅ……お前、お腹空いているのか』
『それは好都合!』
『好きなケーキを食わせてやろう!』
 ケーキ戦隊、章にロックオン。
 だが、乗り気な猟兵が他にもいたりする。
「あ、もしもし? 釣具の撤収が終わった? さすがね! 褒めてつかわすわ!
 それで、次のお願いなんだけど。卓袱台と座布団と、それからお茶を準備して!」
 携帯端末で誰かと話している真守・有栖であった。
「何をするかって? 此処に居る、けぇきなる甘味を食らってやるのよ!」
「今のって?」
「UDC組織の人達。任せた釣竿の後片付けが終わったって連絡くれたから、お茶とか頼んだのよ」
 章に問われてさらりと返した有栖は、ケーキ戦隊に向き直る。
「……同族を護るべく私たちに立ち塞がるだなんて、義理堅い連中じゃないの」
 ふん、と小さく鼻を鳴らしケーキ戦隊を見据えて言い放つ。
「その覚悟、見事なものよ! 褒めてあげるわ!」
『覚悟よりも味を褒めてもらいたいものだな!』
「いいわよ。あとで食べてあげるから、首を――首無いわね? ええと、皿でも洗って待ってなさ――あ、ちょっと待って」
 ケーキ戦隊から視線を外し、有栖はプルプル鳴った携帯端末を手に取る。
「え? お茶は時間がかかる? 茶葉が切れてるって――そんなぁ」
「あ、ジャスミン茶ならあるよ?」
「もしもし? お茶はいいから卓袱台と座布団だけ――」
『卓袱台――つまりテーブルか。あるぞ!』
 有栖の電話と口を挟む章のやり取りを見ていたケーキ戦隊の先頭にいるショートケーキが、パチンと指を鳴らす。
 すると奥のバームクーヘンが走っていって、長机とパイプ椅子を手に戻ってきた。
「もしもし? やっぱりいいわ。色々ありがとう!」
 それを見た有栖は、一言告げて端末をしまった。
「座布団は欲しかったけれど、それでいいわ! 受けて立たぬは狼の名折れ!
 けっっっして、けぇきが食べてみたかったからではないわよ?」
 有栖は色々言ってるけれど、ぶんぶん動く尻尾が色々隠しきれていない。
『他にもどうだ? まだ椅子はあるぞ』
『まあ、座らなくても食わせる気だがな』
「どうせ黙っていないのでしょう? しゃべるケーキに解説されながら食べるって、人の正気度を確かめる、新手の拷問としか思えないですよ」
 また小さく溜息をついて摩那は、着席を進めてくるケーキ戦隊から距離を取る。
「てか、マジで普通に食わせる気なのかよ。助太刀とか言ってたけど、鯖ぶっ刺されたパイに同情とかじゃねーんだ……?」
 内心首を傾げながら、ラルフ・アーレントがケーキ戦隊にツッコむのだが。
『え、何で?』
『アレンジなくしてケーキの発展なし!』
「何でこいつら鯖に手を貸してんだ……?」
 ミルフィーユとエクレア、特にパイ生地連中にさらっと返されて、ラルフの方が逆に困惑してしまう。
「常々思うが、何故滅んでいないのか不思議だなUDCアース」
 あまりに奔放なケーキ戦隊に、思わず呻いた鎧坂・灯理だが、ふと気づいた。
 矢来・夕立が滲ませている、殺意に。
「探偵さん……オレ、かつてないほどの殺意と憤りを覚えています」
「どうやらその様だな」
 ケーキ戦隊から視線を外さずに呟く夕立を横目で伺い、灯理が頷く。
「もしオレが何かを間違ってしまったら、その時はあなたがオレを止めてください」
「いつものウソ――ではないな。了解した」
 夕立の声の冷たさに殺意の偽りのなさを感じ、灯理は頷いた。
 何故、此処まで怒りを抱いているのかは判らないが、この怒りは本物だ。ならば、灯理が止める道理はない。
「依頼人が私達に不利な行動をとる、或いは狂気に陥った暁には、一切合財遠慮なく、即時麻酔弾を撃たせて頂く」
「頼みましたよ……これがオレの、最後の依頼になるかもしれません」
 灯理の物騒な一言にも静かに頷いて、夕立は決意と式紙を手に進み出た。

●シリアスなんて無かった
「ボクにケーキを食べさせたいなら、パイを先に食べてもらおうか!」
 ごにゃーぽさんがケーキ戦隊の1体にけしかけたのは、いわずと知れた青いスターゲイザーパイ『いーとみぃ』である。
 街中を逃げ回っていたパイにかじられてたような気もするけれど、そんな事は無かったとばかりに綺麗になって元気に漂っている。
 何故かって?
 ごにゃーぽさんの周囲だけは、既に理不尽なギャグ補正が支配する混沌としたコミカルフィールドになっているからだ!
『いーとみぃ』
『な、なんだこいつは……パイ、なのか?』
 その真っ青な外見たるや、ケーキ戦隊すらパイなのかと迷うほど。
「今しがた言っただろう? ボクが蒼汁で作ったのさ。ああ、蒼汁って言うのはね。ポーションだよ?」
『お前は一体何を作ったんだ!?』
 ごにゃーぽさんの言葉に、ケーキ戦隊からも思わず突っ込みが入る。
『いーとみぃ』
『そうか。お前……パイなら、食べられたいんだな』
 見詰め合うケーキとパイ(の中の魚の頭)。
 片方、いーとみぃしか言ってないんだけど、何で会話が成立しているのかな。
『ならばこの俺が、食ってやろう!』
 ケーキ戦隊から進み出たのは、先頭のショートケーキ。
「外を走り回ってたパイは一口で一撃だったよ? 耐えられるかな?」
『イタダキマス!』
 手にしたフォークで、いーとみぃをぶすり。一口に放り込む。
『くぁwせdrftgyふじこlp!?』
 何とも言語化しにくい悲鳴を上げて、ショートケーキは全身から蒼い何かを噴出して、憤死した。
 蒼いのはなんだったのだろう。神の霊血かな。
『い、一撃だと……』
『ば、馬鹿な……俺達ケーキ戦隊の一員が、あんなパイ1つで』
「ふふん! 思った通りだよ」
 呻くケーキ達に、ごにゃーぽさんは余裕の笑みで告げる。
「確かに『いーとみぃ』はスターゲイザーパイ用に召喚したものだよ。だけど、君達が自分で言ったんじゃないか――同士も同じって。同士なら、効くよね?」
『な、何だってー!?』
 それで効いちゃうって不条理だけど、仕方が無い。
 此処はごにゃーぽさんのギャグ空間の圏内。不条理な概念改変だって起こるさ。

●ここだけお茶会
「いざ実食よ!」
「鴉達の分も貰えるかな?」
『良かろう! 自慢のケーキをご馳走しよう!』
 長机についた有栖と章の前に、ずらりと並ぶ色とりどりのケーキ。
「……良く食おうって気になるな」
「全くだ。美味しそうではあるが……UDCの出すケーキだぞ?」
「そう? 芋虫の踊り食いと似たようなものと思えば、いけるよね」
 そっと離れて見守るラルフと麗治に、章はのほほんと返してフォークを取る。
 目の前にあるのは、イチゴが乗ったミルフィーユ。
 さくりとフォークをいれても、虫っぽさは全く無いが――。
「ナポレオンパイだね。崩れ易くて食べ難いけど、程良い甘さで味は美味し……あ、なんかピリッと来た」
「……甘いじゃないの。美味しいじゃない!」
 そんな刺激をものともせず、2人は次の皿へ。
「これは抹茶のケーキだね。餡子の甘さが……これ抹茶に毒混ぜてない?」
「和菓子とはまた違った味わいね。うんうん!」
 章と有栖は、章のジャスミン茶で口直ししながら、どんどんケーキを食べていく。
「ガトーショコラかな。ビターな味わいで、とろけるチョコがナイス。……だけどこれも苦味で誤魔化して毒だよね?」
 毒の痛みを耐えつつ、章はやばいと思ったケーキは横の鴉達にスルー。
 さらに食レポ風に仲間に情報を伝える事で、注意を促す狙いもある。
 だが――。
「さぁ、次のけぇきを寄越しなさい! 食べ尽くしてあげるわ!」
 有栖は純粋に食欲で動いてそうだった。
 或いは、誇りにかけていたのか。
 まあ何にせよ、耐性も大食いも無いのにそんなに食べてたら――。
「あ、あら……世界が回って――?」
 ぐらっと傾いて、ばたーんっと仰向けに倒れる有栖。
「わ、わぅぅぅ……」
 紫のお目目がぐるぐるになってるけれど、しばらく寝かせておけば3章にはきっと復活しているさ。
『ふっ……まず1人』
『我らのケーキの恐ろしさ、思い知ったか!』
『もう1人はどこまで持つかな?』
 ほくそ笑むケーキ戦隊。
「苺とサクランボと桃のタルトか。爽やかな甘酸っぱさの中に――なにこれ酸?」
「塩と砂糖をわざと変えたバームクーヘンとかベタなことするね?」
「この季節にモンブラン……苦味で誤魔化すのワンパターンだよ?」」
 その視線を浴びながら、章はさくさく食べ進めていく。大半は鴉に食わせつつ。
「そのプリン、食べられそうかしら? それだけだったら――」
「あー。残念、これやばそう」
 プリンだけなら、と手伝おうとしたフィーナに章が見せたのは、何故かグツグツ煮たったように泡立つプリン。
 そんなやり取りを、何度か繰り返し――。
「流石に飽きた」
 章はしれっと言い放った。
「お腹のキャパはまだ余裕があるけども、口の中が甘くてね。だから、白黒つけて効率的に食べていこう――≪ヘンペルのカラス≫」
 章の前に現れたのは、白い鴉の長老。
「さて――この中で一番美味しいのはきみ?」
 章の問いは、嘘偽りを返せば、鴉の長老の拷問が待っている業。
 だが――。
『オレだ!』
『いや、生クリームを使った正統派な私が――』
『俺だろう』
『和洋折衷の抹茶こそ――』
 ケーキ戦隊たちは、口々に名乗り出す。その誰もが、自分こそが一番美味しいケーキだと信じきっていた。
「やかましい! 食べ物“が”! 騒ぐんじゃ! 食べ物“で”! 遊ぶんじゃ! ありませんよ!!」
 俺だ俺だと騒ぐケーキ戦隊を、夕立の声が一蹴する。
 その一言が、本当の戦いの火蓋を切って落とした時、灯理はぷちっと何かが切れる音が聞こえた様な気がした。

●そろそろシリアスに!
「オレ、食べ物を粗末にする奴はこの世で4番目くらいに、嫌いです」
『え、微妙に低いな』
「黙れ」
 夕立の独白にツッコミを入れた抹茶ケーキに、白い蝙蝠が群がる。
『こ、これは――紙か? ぐわー!?』
「殺す。本件の邪神は屈辱的に殺す。それに汲する連中も殺す」
 紙技・冬幸守――フユコウモリ。
 この蝙蝠の式紙の群体は、気性が荒い。今は、夕立の瞳が3秒見た相手を食い尽くすように放たれている。
『食われる!! 紙なのに!!』
「せめてもの慈悲です。食って供養してやる。コウモリが」
 紙に食われて消え行く抹茶ケーキに、夕立が淡々と告げる。
『せめて自分でも食えよぉ』
『ほらほら美味しそうだろう?』
 香りと見た目と甘さを強化したケーキが数体、夕立に迫る。
「成程、理解したよ依頼人」
 そこに灯理の声が聞こえて、パァンッと乾いた銃声が響いた。
 灯理の足元に置かれたスーツケース。その中身は、ユーベルコードで作られた無数の武器が並んだ武器庫だ。
 灯理の手にある散弾銃は、そこから取り出された物だ。
「食べ物を粗末にする奴は私も嫌いでね。援護は任せろ」
 掌中で銃をくるりと回しながら灯理は素早く狙いを定め、パァンッと乾いた銃声を立て続けに響かせ、ケーキ達を撃ち抜いていく。

『くそっ、こいつらケーキ好きじゃないのか!?』
『そんな人間がいるとは――!』
 2人に淡々と攻められ、ケーキ戦隊たちが慌てて走り回り戦闘体勢を取る。
 
 ――其は全てを飲み込む黒き炎
 
 その様子を見ながら、フィーナの口は慣れた詠唱を唱えていた。
「あんたら大人しく皿にでも乗ってなさいよ!」
 そしていつもの様に詠唱を省略し、フィーナが放った漆黒の炎は、ごばぁっと膨れ上がって波の様に広がりがケーキ戦隊の一部を飲み込んだ。
「盛大に燃やしていくのは、大賛成だ!」
 フィーナの声に頷いて、ラルフの左眼から吹き出る炎を掌へと移す。
「焦げりゃ見た目も味も、空腹感を誘えるようなモンじゃねーだろ!」
 ラルフが振るう腕と共にケーキ戦隊をなぎ払ったそれは、この世ならざる地獄の炎。
 どちらの炎も直撃すれば、ケーキ戦隊でもこんがり黒焦げ間違いなし。
『こんなの、フランメされたと思えば!』
『キャラメリゼされたと思えば!』
 だが、中には頑張って炎を耐えたケーキもいる。さすがに数が多く、火力が十全に伝わりきらなかったか。
『今度はこちらの番』
『この甘い香りを喰らえ!』
 残るケーキ戦隊たちが、空腹を誘う甘い香りを全身からふわっと放つ。
『これで空腹を誘い、食欲を増大させて自慢のケーキを食わせてやろう!』
 香りを放ったことで安心したか、再びほくそ笑むケーキ戦隊。
「ご遠慮しますよ」
 だが、摩那はまるで動じず、常に持ち歩いている調味料ポーチを開いた。
 その中身は、赤い。そして辛い。
「んっ……やはりこの味です。辛さです」
 自慢の調味料の中から選んだ唐辛子を、摩那はひと舐め。
 その辛さは漂ってくる甘さを打ち消すと同時に、辛党の摩那にとっては気合いを入れるに足りる味だ。
『な、なにぃ!?』
『唐辛子だと……』
『だが、そんなものそうそう――』
 確かに、この場に唐辛子を持っているのは摩那だけだ。
 だが、それに勝るとも劣らないものを持っている猟兵ならば他にもいる。
「コイツを開封する時が、来たようでござるね……!」
 エドゥアルトが取り出したのは、レーションの小さな袋。
「甘い香りにはより強力な匂いで対抗でござるよ!」
 エドゥアルトがびりっと袋を破いた瞬間、何とも言えない香りが漂い出した。
「くは……この出来損ないチリコンカーンの匂い……甘ったるい匂いと混ざって、食欲失せるでござるぅ……」
 げんなりとした顔になるエドゥアルトの手にある袋には、ただ一言――不味いとだけ書かれていた。
『ば、馬鹿な』
『我らの甘い香りが、届きすらしないだと……!?』
「匂いは我慢するしかないかと思っていたが、これならば怖れる程ではないな」
 自慢の香りが届かないどころか逆に鼻を摘むほどの匂いを浴びせられて狼狽るケーキ戦隊に、麗治が鋭い視線を向ける。
(「こうなれば、ヤツラの次の手は――」)
『くっ。だがもしかしたら食欲は感じているかもしれない』
『そうだな。取り合えず、自慢のケーキをご馳走しよう!』
 半ばやけくそになって、ケーキ戦隊たちがケーキを指したフォークを投げる。
「予想通りだ」
 だが、麗治はそう来ることを読んでいた。
「寄生体よ、このケーキをコピーしろ!」
 投げつけられたケーキを素手で掴み取ると、麗治はそれをフォークごと、己の寄生体に喰わせてコピーする。
 模倣と解析――パラサイトアナライザー。
「頂いたぞ、お前達の能力。今度はオレがお前たちにケーキをご馳走してやろう!」
 麗治は黒剣をフォークのような形に変えると、それと記憶消去銃の2つを繋ぐ形で寄生体を植えつけて、武器改造。
 寄生体が解析した模倣ケーキをフォークで撃ち出す、フォーク銃の完成だ。
「モンブラン、ガトーショコラ、NYチーズケーキ! 好きなのを選ぶがいい!」
 その先端に寄生体が再現したケーキを、麗治は次々と撃ち込んでいく。
『くっ、俺達にケーキだと!?』
「どうした? 自分達のケーキの模倣は食えないか! そうだとしたら、食えないケーキをオレ達に食わせようとしていたのだな!』
 避けようとするケーキ戦隊に向けた麗治の言葉は、逃げ道を塞ぐものだった。こうまで言われてケーキを避けてしまえば、それを認めるようなものだ。
 それではますます、空腹感を与えるのが難しくなろうと言うもの。
『そ、そんな事はないぞ? 美味しそうだろう?』
 香りと見た目と甘さの強化で凌ごうとするケーキ戦隊。
「じゃ、クソマズにしてやるでござるよ」
 エドゥアルトの声は、その一体の背後から聞こえた。
『何!?』
「遅い。気づいた時には終いでござるよ」
 気づいたケーキが振り向いたその瞬間に、エドゥアルトは目的を達していた。ケーキの口の中にスリ渡したのは、先ほど開けたレーションだ。
 エドゥアルトはケーキの間をすり抜けるように移動しながら、残るレーションを端からケーキ戦隊の口にねじ込んでいく。
「これで! 貴様らはもうチリソースとケーキの混ざり物だ! 貴様らはもうケーキじゃない! 食べられない出来損ないでござるよ!」
『『『『なな、何てことしてくれやがるー!?』』』』
 エドゥアルトの言葉に、ケーキ戦隊たちがこれまでにないほど動揺を見せた。
「と言う事で、さっさと焼却処分が良いと思うでござるよ」
「そーねえ! 纏めて焼いてやるわ! 特にそこのプリンは、コンガリーの焼きプリンにしてやるわよ!」
「おおよ。一気にカタ付けてやるぜ――え、プリン食うの?」
 振り向いたエドゥアルトの一言に、フィーナとラルフが全く違う事を言いながら、それでも同時に頷く。
「さっきのあれ捻じ込まれてないみたいだし。焼きプリンは美味しそうじゃない?」
 じゅるりと口元を緩ませたフィーナの一言が聞こえたか。
『プリンだけでも逃げろ!』
『そうだ。食べたいと思われるものがいれば、まだ逆転の目が――』
「あるわけないだろ」
 悪あがきを企むケーキ戦隊に、夕立の声と式紙の冬幸守が襲い掛かった。
「食べ物が食べ物で遊んだ挙句に、火を耐えるは、変なマザリモノになるは。ここが噂に聞く地獄かと思えてきますよ」
 淡々と告げる夕立の視線の先で、ケーキ戦隊の一体が冬幸守の足に掴まる。
「修羅道は覚悟の上ですけど……どれかで言うなら、餓鬼道かなここ」
「地獄道でどうだ、依頼人よ」
 やはりスーツケースから引きずり出したガトリング砲をケーキ戦隊に向けて、灯理が夕立に告げる。
「まあ、どこでもいいんですよ。……ようは根本的に相性が悪い敵ですね。
 地獄性の違いがヤバい。解釈違い。バンド解散です」
「バンドなんか組んでないだろ?」
「ウソですよ」
 念力で反動を殺したガトリング砲で弾幕を張る灯理の指摘に悪びれず頷いて、夕立は冬幸守が捕まえたケーキを群れの中に落としていく。
 積み重なったケーキ戦隊に絡みつく、ヨーヨー。
「別にケーキが嫌いなわけではないですよ。ケーキ自体は好きです」
 絡み付いたヨーヨーの先は、摩那の掌の中。
「ただ、動くケーキは趣味じゃないんです」
 摩那は超合金のヨーヨーを引っ張って、敵を盾にする要領で他のケーキ戦隊にぶつける事で逃亡を妨害する。
『ま、待て! せめて食ってくれ』
『そうだ! 炭になるのは嫌だ!』
『ケーキといえど、食べ物を粗末にするのは――』
「無駄だ。UDCは、倒さねばなるまい!」
 もがくケーキ戦隊の上に、麗治も伸ばした黒剣を撒きつけて動きを封じる。
「食い物を粗末に云々を、お前達が言うな!」
 そこに、左眼の地獄の炎を両手に移したラルフが、地を蹴って飛び出す。
 ケーキ戦隊に近づくに連れて甘い匂いは残っているが、それはラルフが纏う地獄の炎の熱量により歪んだ気流に防がれる。
「喋ってユーベルコード使ってくるのは食べ物じゃない! いいな?」
 ラルフが両手を振るい、地獄の炎をでなぎ払う。
「問答無用で、詠唱省略! 焼きつくせえぇぇええ!!」
 そこに合わせて、フィーナが漆黒の炎の奔流を放った。黒炎と獄炎が混ざり合い、煉獄を思わせる赤黒い炎へと変わっていく。荒れ狂う赤黒炎。
 炎の嵐のような火勢がケーキ戦隊を炭と変えて、文字通り、焼き尽くしていく。
 ともすればこのビルごと焼き尽くしそうな勢いの炎だったが、焼いたのはケーキ戦隊たちだけだ。
「まだ空気が少し甘ったるいわね……ケーキじゃなくて、どーせならお肉とかに足生えて欲しかったわ」
 ぼやいたフィーナだが、すぐに気持ちを切り替え顔を上げる。
「じゃ、魚のお肉のところ行きましょうか! 登っていけば、何処かにいるでしょ!」
 その言葉に頷いて、猟兵達はビルの上階へ続く階段を駆け上がっていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『青光る邪神・鯖』

POW   :    アニサキス・デッドエンド
【傷口から放った血 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【寄生虫アニサキス毒爆弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ジェノサイド・サバカン・ストーム
【数多の鯖缶 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    Omega3・エンハンス
【ドコサヘキサエン酸(DHA) 】【ドコサペンタエン酸(DPA)】【エイコサペンタエン酸(EPA)】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。

イラスト:井渡

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠蓮賀・蓮也です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鯖召喚の儀式場
 ケーキ戦隊との戦いを切り抜けた猟兵達。
 彼らは、ビルの部屋を調べながら上へ上へと登っていった。
 鍵のかかった扉も、探偵が開けるか、他の者でも力でこじ開けるかして、虱潰しに探していく。結果、残ったのは屋上だ。

 ――生贄は足りるのか?
 ――充分ではないがやるしかない!
 ――侵入者が間もなく来るぞ。儀式を急げ!

 駆け上る猟兵達の先、屋上の扉の向こうからそんな声が聞こえてくる。
 バァンッと扉をぶち破って、屋上に飛び出した猟兵達が見たものは、屋上に書かれた何かの儀式円。
 その中心には足の生えたスターゲイザーパイ――の残骸が積み重ねられていた。

『外で生まれこの場まで駆けて来るというサバ(鯖)イバルを生き抜いた鯖のスターゲイザーパイを生贄に――召喚に応えよ、邪神・鯖!』
 パァァァッと、儀式円が輝きを放つ。
 その中心にあったパイの残骸が吸い込まれるように消えて――代わりに、青光る何かがぬぅっと生えてくる。
 屋上にどーんっと聳え立ったのは、青光る巨体。
 脂が乗っていて美味しそうな、巨大な鯖だった。
『『邪神様ー!』』
 召喚してた連中は、感涙に咽び泣いている。
『オォ……オォォォォ』
 鯖はその声に応えるようにビチビチと尻尾を屋上から放すと、びちびちしながらふわりと浮き上がり、猟兵達を睥睨してくる。
 さすがに邪神。空を泳ぐくらいの事はできるようだ。
 何はともあれ、これが最後の戦い。
蒼汁之人・ごにゃーぽさん
アニキサスとかヤバめの名前が見えたから防御力重視でシリアスブレイカーを全力展開。もしもその時もギャグ補正がなんとかしてくれる、よしんばならなくても概念改変しちまえば無問題無問題。

先ずはワンダフルライフ♪でオウァティオウェルミス・クリブラトゥスを邪神鯖と同じくらいの大きさで作成。で、このオウェちゃんを依代にごにゃーぽ神☆ごずなり様に御光臨戴こう。邪神にはこちらも善神をぶつけるのだ。
悪魔合体コンゴトモヨロシクしちゃった姿がラスボス通り越してエンドコンテンツの裏ボスみてぇになってるけど、ごずなり様は光の陣営ですよ?
と、ともかく。ごずなり様の蒼汁の権能はボクの蒼汁の上位互換、邪神だろうが効果覿面だよ。


鵜飼・章
あんなに元気だったのに可哀想なパイたち…
食べ物も尊い命も無駄にはしない
UC【閉じた~】で死んだパイをリサイクルしよう
僕が僕達が邪神だ

こんな時の【投擲】と【スナイパー】だよね
蘇ったパイを鯖の口に投げ入れバイオテロを実行
勿論召喚してた人達にも喰わせる
帰れると思ってるの?甘いな
屋上への扉は封鎖したよ
おしおきの時間だ
お腹をこわして地味に困るといい

伏線は張っておいた
パイの不味さは一章で僕が立証済だ
おまけに今はゾンビパイだから腐ってる…
ああ怖い
僕でも食べたくない
そんなものを人に食べさせるなんて僕は悪い子だ…
でも食べ物を粗末にする方がいけないよね

おしおき完了したら鯖を食べて帰る
誰かが焼いてくれてると期待して


七瀬・麗治
鯖……うん、どう見ても鯖、だな。
だが、この迸る邪悪なオーラは紛うことなき邪神!

カードの封印を解き、真の姿を解放。ダークブルーの全身甲冑に身を
包む。さらに【黒風鎧装】を発動させ、<オーラ防御>の能力を強化。
黒い烈風を発生させ、守りを固めて戦う。
<かばう>で鯖の攻撃に割って入り、<武器受け>と<オーラ防御>
で敵の攻撃を弾きながら、鋭く切り込んで攻撃を叩き込む!
「鯖といえば……そうだ、寄生虫アニサキスに気を付けろ!」
まったく、こんな鯖のどこに崇拝するほどの魅力があるのか……。
いや、鯖は美味いけどな? オレも好きだけどな? 塩焼きとか、
鯖味噌とか。
戦闘が済んだら、ハウンドにご褒美のジャーキーをやろう。


フィーナ・ステラガーデン
出たわね青魚!大空を泳ぐのはあんただけじゃないわよ!
来なさいマグロ!あんたの力を今!見せ付けてやるのよ!
「グロォ!!」

技能「全力魔法」「高速詠唱」謎の「覚悟」を使って
大空にマグロを召還するわ!
空中での青魚同士のドッグファイト・・この場合フィッシュファイトかしら?
を仕掛けるわ!!

横に並んでマグロの体当たりで牽制!
時には優雅でかつ大胆な宙返りからのインメルマンターン!
身体の脂を見せ付けるように太陽をバックに突撃でトドメよ!

(アレンジ、アドリブなどもうそりゃもう自由にどうぞ」


矢来・夕立
【調査依頼】
鯖の邪神か。懐かしいですね。
あの仕事も探偵さん(f14037)に依頼をお願いしたんでした。
もう一度言いますけど、捌き方なら知っている。
サバだけに。
もう一度言いますけど、笑うところです。ここ。

【忍び足】【暗殺】【刃来・速総】。
初撃の式紙が当たれば、飛んでようがなんだろうが近づける。
……そうだな。探偵さんの真似ー。猫を折って投げます。当たりそうじゃないですか?

で、斬ります。
ああ、血? 問題ありません。
流れる前に調理してもらえるアテがあるので。
ケーキをフランベできなかったぶんまで。よろしくお願いします。

あ。焼くんでしたら塩ふっときましょうか?
撒いとく感じになりますかね。邪神だし。


鎧坂・灯理
【調査依頼】
鯖の依頼か。いやな記憶が蘇るな。
依頼人(f14904)は楽しそうだったが。
いや、依頼人はいつもつまらなさそうに楽しそうだが
いや楽しそうにつまらなそうというか
いかん、依頼人のつまらんギャグのせいで頭が混乱している。
これもすべて邪神のせいだな。邪神がいなければ依頼人がだじゃれを言うこともなかった。間違いない。

【SPD】【本日のおすすめ】は焼夷弾だ。
バイクと念動力でサバ缶を見切って避けつつ、可変式銃器を変形させ、装填してスナイプ。
依頼人が捌いてくれるなら私が焼こう。血液なぞ流す暇もなく。

塩撒いておけ、塩。岩塩ぶつけてもいいぞ。


セツナ・クラルス
ああ…何ということだ…
邪神の姿に慄きながら別人格・ゼロを呼ぶ
よく来てくれたね、ゼロ
私だけではどうすることもできない
きみの力が必要なんだ

塩焼きと刺身、どちらがいいだろうか
うん、塩と刺身
だってあんなにぴちぴちなんだよ
今夜のメインは鯖で決まりじゃないか
しかし、どう調理しようか決めかねていてね
だからきみの力を借りようと…あっ、待って行かないで、共に戦おう

ゼロを引き止めながら交戦開始
考えてみたら、最近はそこそこ暖かいのに常温で放置している魚は危険だね
武器に炎の力を付与し、こんがり焼いてみよう

ふむ、味噌煮、という選択肢もありだねえ
味噌属性の攻撃とかできたら、或いは
…なんて
流石に邪神を食べるのは遠慮するよ


真守・有栖
けぇきを食わせて、ばたんきゅー。
身を以て食い止めた覚悟、敵ながら天晴れね!

って、それどころじゃなかったわ!?もしもーし……

携帯片手に皆を追いかけて屋上へ。

うんうん。了解!……っと!?

でっっっかい鯖じゃないの!今夜は鯖三昧ね!

鯖は鮮度が大事。
此処からは時間との勝負。速攻で捌くわ!

疾駆。
宙泳ぐ鯖の下へ潜り込む。
抜刀。
抜き打ちで腹を裂き、臓物を除く。
寄生虫には注意!ね。ふむふむ。次はー……と。組織の人に教わった通りにてきぱきずばっと下処理を進めていくわ。
全く、麗狼なる私の太刀捌きたるや!

……わふぅ。血塗れになったけど処理(退治)終了よ。
さぁ、どう料理して……んん?けぇきの食べ過ぎかしら?おなかが(略


黒木・摩那
鯖が浮いてる!
なんてシュールな光景でしょう。

しかし、鯖邪神は縦に浮くのね。
魚が立ってるのは新巻鮭以外に見たことないからびっくり。

でも、そのままにして、またスターゲイザーパイを量産されるのも困るし、結果、食べ物が捨てられることにもなるし。浮く魚を倒すのは惜しいけど、ここで下ろすしかありません。

UC【トリニティ・エンハンス】の【火の魔力】で攻撃力を強化。ルーンソードから火を出す形で焼き魚にしましょう。

邪神とは言え、魅力的な焼き音ですが、食べませんからね。


ラルフ・アーレント
予想してた以上に鯖だった!コレ衛生状態大丈夫なのか…?何かこうヤベー事になってない?
大丈夫?組織と猟兵共同の保健所的な何か作らなくて大丈夫?

混乱してても仕方ないので戦闘はしっかりと。
隙作って連携して一気に潰したいところ。こんなんでも邪神だしジリ貧長期戦は回避したい(気絶攻撃・2回攻撃)
傷口からの血がやばそうだし、ブレイズフレイムで焼き潰してく。極力見切って走り回って回避するけど被弾怖い。耐性そう無いんだよなぁ(見切り・ダッシュ・毒耐性)
だーっ!もう面倒だから全体的にこんがり焼いて良いよな? こんがり通り越して炭まで焼く心算ではあるけど。幾ら美味そうでも邪神は食えねーよ流石に。

アドリブ・連携歓迎


エドゥアルト・ルーデル
うーむでけぇ鯖でござるな、ビチビチ跳ねて活きが良いって奴ですかな?
でも日本の鯖の旬って秋から冬にかけてでござるよね?あんま脂乗ってなさそうですぞ

生臭いし近づきたくねぇな!【スナイパー】で遠くから撃って様子見でござるね
うおっ【傷口からアニサキス】出てきたキモっ!ちょっと対策をググってみるか…
予防するには…内臓を取り除く…動いてるから無理…冷凍…機材がない…70%以上の温度で加熱!良いでござるな
という訳でハイ!【大型爆弾】!こいつを鯖に投げつけて加熱処理だ!おまけで【罠使い】で周りに仕掛けておいた爆弾もつけちゃう!
炙られてこんがり良い焼き加減でござるね!

アドリブ・絡み歓迎



●おっとり刀で駆けつけて
「ん……」
 真守・有栖が目を覚ました時、感じたのは冷たい床の感触だった。
「麗狼たる私をばたんきゅーさせてくれるなんて。身を以て食い止めたけぇきの覚悟、敵ながら天晴れね!」
 もういなくなったケーキ戦隊の賛辞を口にして、有栖はすくっと立ち上がる。
 体が痺れたりしてたけれど、凡その状況は把握していた。のんびりしている場合ではない事は、判っている。
「もしもーし……うん……うん。了解!」
 有栖は携帯端末を手に、先行した猟兵達を追いかけて階段を駆け上がり始めた。

●屋根より高い邪神鯖
 一方その頃。
 屋上では、猟兵達が頭上を見上げていた。
「あんなに元気だったのに……可哀想なパイたち……」
 儀式円の縁に屈んで、爪を黒く塗った指先でスターゲイザーパイの残骸に悲しげに触れている鵜飼・章を除いては。
「うーむでけぇ鯖でござるな」
「おぉ……予想してた以上に鯖だった」
 召喚された邪神・鯖の巨大な姿を、エドゥアルト・ルーデルとラルフ・アーレントは半ば呆然と見上げている。
「何ということだ……」
 セツナ・クラルスもその威容に慄いていたが、その隣に、瓜二つの姿が現れた。
「よく来てくれたね、ゼロ」
 それはセツナであってセツナではない。別人格――ゼロが【共存共栄】によって具現化した姿だ。良く見れば、セツナよりも目つきが悪い。
「きみの力が必要なんだ。塩焼きと刺身、どちらがいいだろうか」
『――?』
 セツナのその言葉に、【ゼロ】が『は?』って眉を潜める。
「だってあんなにぴちぴちなんだよ? 今夜のメインは鯖で決まりじゃないか。
 しかし、塩と刺身、どちらで調理しようか決めかねていてね。私だけではどうすることも出来ないから、きみの力を借りようと……あっ、待って行かないで」
 鯖の調理方法の相談の途中で背を向けた【ゼロ】を、セツナが引き止める。
「でも、日本の鯖の旬って秋から冬にかけてでござるよね? 生臭いんじゃね?」
「そう言う問題か? 幾ら美味そうでも邪神は食えねーよ流石に」
 2人のやり取りにエドゥアルトとラルフが思わず顔を見合わせる。
「……うん、どう見ても鯖、だな。いや、鯖は美味いけどな? オレも好きだけどな? 塩焼きとか、鯖味噌とかな?」
 七瀬・麗治も目の前に浮かぶあれが、どう見ても鯖である事は認めざるを得ない。
 だが、そんな巨大な青光る胴体から迸るものを、麗治は見逃していなかった。
「この迸る邪悪なオーラは紛うことなき邪神だ!」
 麗治が眼鏡の奥で目を細める。
 そうです。邪神です。
「鯖邪神は縦に浮くのね」
 目を丸くして鯖を見上げていた黒木・摩那が、ようやくぽつりと声を上げた。
「魚が立ってるのは新巻鮭以外、見たことないから、びっくりです。鯖が浮いてるのもびっくりでしたけど」
 すすす……っ。
 黒木・摩那の呟きが聞こえて、鮭じゃないと主張したかったのか。
 それとも一部の猟兵達の食欲を感じ取って、お腹を隠そうとしたのか。
 鯖は頭を下げて尻尾を上げる。つまり魚らしい横向きになった。
 まあ、それでも空中にいるわけで。
「……結局、シュールな光景ですね」
 摩那の呟きに、数人が首を縦に動かし同意を示す。

 まあ、こんな光景、猟兵でも驚くだろう。
 ところが、こう言う状況が始めてではない猟兵もいる。

「鯖の邪神か。懐かしいですね」
「そうだな。いやな記憶が蘇るな」
 矢来・夕立と鎧坂・灯理の脳裏に蘇っていたのは、いつかの漂流船の事件。
 あの時は――鯖とは知らずに鯖に遭遇したのだったか。
「あの仕事も探偵さんに依頼をお願いしたんでしたね」
「そうだな」
 いつも通りの表情の夕立の隣で、灯理の表情は心なしか僅かに暗いような。
「もう一度言いますけど、捌き方なら知っている。サバだけに」
「……」
 夕立がしれっとぶっ込む駄洒落に、灯理は沈黙で返した。
(「あの時も、依頼人は楽しそうだったな。いや、依頼人はいつもつまらなさそうに楽しそうだが。いや、楽しそうにつまらなそうというか――いかん、つまらんギャグのせいで頭が混乱しているな。思考が纏まらん」)
 混乱している、と灯理が自己分析している理由は、つまらんと称したギャグ以外にもあったかもしれない。鯖の鰓から脱出した事を思い出していたとか。
「もう一度言いますけど、笑うところです。ここ」
 その沈黙をどう受け取ったのか。
 夕立は実際つまらなさそうに自分は笑いもせず、さらにダメ押ししてくる。
「何もかもすべて、この邪神のせいだな。この邪神がいなければ、依頼人が駄洒落を言うこともなかった。間違いない」
「一応言っておきますけど、オレ正気ですからね?」
 眼も合わせずに言い合って、探偵と暗殺者は鯖を見上げる。
「――また出たわね青魚!」
 その後ろから、フィーナ・ステラガーデンの威勢の良い声が空に響いた。
「大空を泳ぐのはあんただけじゃないわよ!」
 フィーナは知っている。目の前の鯖以外の、空を泳ぐ魚を。
「来なさいマグロ!」
 フィーナが指差した蒼穹――その彼方で、何かがキラリと輝きを放った。
 輝きは次第にぐんぐんと迫ってくる。
『グロォッ!!』
 猛スピードで空から降って来て正面から鯖の顔面に突進をかましたのは、炎を纏った巨大なマグロだった。
『あ、あれって――』
『まさか……マグロ様!?』
 マグロにざわつく鯖を召喚した信者達の声を聞きながら、フィーナはマグロの上にひらりと飛び乗った。
『まさか……あの潰された邪神マグロを愛でる会の関係者!?』
『マグロの魔女とか?』
「違うからね!?」
 何か凄い勘違いまでされて、たまらずフィーナがツッコみを入れた。
 まあ、鯖もお魚系邪神と言う意味では、近しい存在と言えるかもしれない。鯖の信者がマグロ様の事を知っていても、おかしい話ではない。
「いーい感じにカオスになってきたのだ!」
 空で睨みあう、鯖とマグロ。
 そんなカオス極まる状況に、蒼汁之人・ごにゃーぽさんがニヤリと笑う。
「そんじゃひとつ、善神をぶつけるとしようかな! ごにゃーぽ☆」
 ごにゃーぽさんが、両手をわきわきと何かを作り始めるのだった。

●鯖の腹の中にご用心
 バァンッ!
 大きな音を立てて、屋上の扉が開かれる。
「でっっっかい鯖とマグロじゃないの! あれ? 鯖だけじゃないの?」
 飛び込んできた有栖が、空の様相を見て一瞬、その紫の瞳を丸くする。
「あ、マグロは私が喚んだのだから! 敵は鯖だけよ!」
「ふむふむ。了解! 今夜は鯖三昧ね!」
 フィーナの声に有栖はひとつ頷いて――やおら飛び出した。
「お、おい。もう少し用心して――」
「鯖は鮮度が大事。速攻で捌くわ!」
 用心を促すラルフの声を置き去りに、有栖は駆ける。
「ほら、探偵さん。やっぱり鯖は捌くものですよ」
「ツッコまんぞ。ツッコミは探偵の仕事ではないからな」
 猟兵達も夕立と灯理のやり取りも、鯖の信者達もすり抜け、猛然駆ける。
 瞬狼疾駆。
「斬る気か? 鯖といえば……寄生虫アニサキスに気を付けろ!」
「大丈夫。捌き方は上がってくる途中で、組織の人達に教えて貰ったから!」
 鯖の腹下に潜り込んだ有栖は、注意を促す麗治の声に返しながら、床を蹴った。跳躍と同時に刀に手をかけ、濃口を切る。
「良く近づけるなぁ。拙者は、近づきたくねぇでござるよ」
 エドゥアルトはその動きを眼で追いながら、マークスマンライフルを構えた。
 様子見の援護射撃を兼ねて、照準を定め――引鉄を引く。
 パァンッ!
「まずは、腹を割いて臓物を除くっ!」
 抜刀――剣刃一閃。
 鞘走った有栖の刃が鯖の腹を斬り裂いた。一瞬遅れて、エドゥアルトのライフルから放たれた7.62mm弾が鯖の巨体に穴を空ける。
 鯖の巨体からすれば、大きな傷と言うほどではない。だが、傷は傷だ。
「どう? 麗狼なる私の太刀捌きたるや!」
 傷から噴出した鮮血を浴びて、有栖が笑う――狼の血が、騒ぐのか。
「いきなり血塗れになっちゃったのは誤算ね。もっとずばっと大きく切って、てきぱき下処理を進めていかないと……?」
 二の太刀を切りかかろうと刀に手をかけ見上げた有栖が、眉を潜める。
「あれって――?」
 今しがた切った傷口の中で、何かが蠢いて――ドバッ!!!
 傷口から放たれたのは、半透明で血塗れな、うねうね蠢く何か。
「うおっ!? 傷口からなんか出て来たキモっ!?」
 エドゥアルトの撃ち込んだ銃創からも、それはうねうねと出てきていた。
 鯖が体内に飼う、寄生虫アニサキス毒爆弾だ。とは言っても、そこは邪神の体内から出てくるもの。一つ一つが縄みたいに太い。
「なるほど。鯖自体がでかければ、寄生虫アニサキスも大量か」
 見るからにアレな寄生虫アニサキス毒爆弾の前に割り込む、黒い風。
 ダークブルーの甲冑で全身を覆った麗治が、アニサキス毒爆弾を防いでいた。
 黒剣で落とせるアニサキスを叩き落とし、落とせぬ分はオーラを乗せた黒い烈風で可能な限り受け流す。それでも受け流しきれなかったアニサキスが、甲冑の上から麗治に食いついていた。

●鯖は焼くに限る
「コレ……衛生状態大丈夫なのか…? 何かこうヤベー事になってない?
 大丈夫? 組織と猟兵共同の保健所的な何か作らなくて大丈夫?」
「保健所でどうにかなるような毒素でもなさそうだ」
 うねうねうにょうにょなアニサキス攻撃にどん引きなラルフの言葉に、取りつくアニサキスを引き抜いて潰しながら麗治が返す。
「予防するには――内蔵を取り除く? 切ったら出てくるから無理。次は――冷凍? 機材無いよね。後は――70℃以上で加熱? おお、これでござる!」
 スマホで対策を検索してたエドゥアルトが、出来そうな手段を見つけた。
 加熱。
 つまり、炎。
 同じ事を考えている猟兵は、他にもいた。
「塩、振っときましょうか?」
「塩か。撒いておけ。岩塩ぶつけてもいいぞ」
「さすがに岩塩は持ち歩いてないですねぇ」
 どこに持っていたのか。塩の小瓶を掌で弄ぶ夕立に、灯理は足元のスーツケースを開きながら頷く。
「じゃ、斬ってきます。アテにしてるので、早く燃やして下さいね」
「任された。依頼人が捌く傍から、私が焼こう」
 【本日のおすすめ】で召喚された特殊な弾丸を装填しながら返す灯理の声を背中に、夕立は塩と白羽の式紙を手にゆらりと進む。
 その歩みに音はなく。
 その歩みに迷いなく。
 それは忍びの足だ。暗殺者の足だ。例え敵が他の、人の高さの目線を持つ存在でも、気取らる事が出来たかどうか。
「──速く、総てを」
 夕立が塩の小瓶を放り投げ、式紙を投じる。
 刃来・速総――小瓶を撃ち抜き、塩を被って青光る鯖の身体の奥深くにまで突き刺さった白羽の速さ、まさに迅雷、隼の如き。
「さて、この次は……そうだな。探偵さんの真似ー」
 速総が刺さった今、例え鯖がどこにいようが近づく事は出来る。
 だが、敢えて近づく必要もない。
 夕立の指が素早く紙を猫に折った。速総を印に鯖へと群がる紙の猫の爪が、猫本来の爪に劣らぬ鋭さで鯖の体に深い爪痕を残した。
 傷が増えれば血が流れる。道理だ。そのままだったら。
「お願いしますよ、探偵さん。ケーキをフランベ出来なかったぶんまで、盛大に」
「血液なぞ流す暇は与えん――喰らえ怪物」
 振り向きもせずに告げる夕立に答える灯理の声と、銃声。
 可変式銃器から放たれたのは、特殊な燃焼剤を仕込んだ焼夷弾。
 ズドンッ!
 着弾と同時に広がった炎が、猫式紙がつけた傷を焼いていく。
 ズドンッ! ズドンッ!
 猫式紙が引っかく傍から、灯理はそこをピンポイントで焼夷弾を撃ち込んでいく。
 傷口を焼いてしまえば、血は流れない。
「おお。やっぱ火が良いでござるな。という訳でハイ! ――大型爆弾!」
 2人の攻撃を見たエドゥアルトが、どこからとも無く取り出すは超大型爆弾。
「どっから出て来たその巨大な爆弾!?」
「そいつぁ拙者にもわからねえ! 死なばもろともーっ!」
 溜まらずラルフが入れたツッコミに返しながら、エドゥアルトは床を蹴って跳び上がると、頭上に抱えたままの爆弾をぶん投げた。
「おまけで罠に仕込んどいた爆弾もつけちゃうぜ! 炙られてこんがり良い焼き加減になりやがれでござ――るよぉおお!」
 っづっどぉぉん!
 エドゥアルト自身も吹っ飛ばされる程の爆炎が膨れ上がって、鯖を飲み込んでいく。
「おいおい……でもまあ、血と寄生虫はやばそうだし、燃やすのは良さそうだな!」
 エドゥアルトの答えに一抹の不安を感じつつ、ラルフは大剣『Gebrannt』を足元に突き立てると、その刃に腕を当てて滑らせた。
 ラルフの傷口から、紅蓮が迸る。
「毒の耐性はそうないんだよ。もう色々と面倒だから、こんがり焼いていいよな?」
 地獄の炎を立ち昇らせながら、ラルフが屋上を駆け回る。
「こんがり通り越して、炭になるまで焼いてやるよ!」
 ラルフの紅蓮の炎は収まりつつあった爆炎を飲み込みながら膨らんで、鯖の体を満遍なく焼いていく。
 その身から滴る脂で、パチパチと炎が爆ぜる。
 その微かな音を聞きながら、摩那は目を細めて炎の魔力を纏っていた。
 トリニティ・エンハンスだ。
「ただ下ろすと危ないのなら、斬りながら焼き魚にしましょう――食べませんけど」
 摩那の指が、緋月絢爛の刀身を滑る。
 炎を纏う細い刀身。その中で万華鏡のように映り変わるルーン文字。やがて煌々と輝きを放ったのは『松明の灯火』と『太陽』、そして『勝利』を象徴する3つのルーン。
 何れも、対応する元素は火のルーンだ。
「熱消毒と言うのは良い手だね。そうは思わないかい? ゼロ」
 傍らの別人格に問いかけながら、セツナが大鎌――『宵』を構える。
「考えてみたら、最近はそこそこ暖かいのに、魚を常温で放置は危険だね」
『……そうだな。オレ達もやるか』
 もう1つの『宵』を構えて『ゼロ』も頷く。2人で1人。フタツデヒトツ。炎の属性を付与させし宵の刃が帯びた熱で赤々と輝く。
 そして、摩那とセツナと『ゼロ』がほとんど同時に床を蹴って跳び上がった。
 緋月絢爛が炎を纏って翻る。
 赤熱した2つの宵の刃が閃く。
 斬ると焼くを同時に行う――2人の発想は、奇しくも同じものだった。
「塩焼きかぁ……味噌煮、という選択肢もありだねえ」
 脂の焼ける匂いを嗅ぎながら、セツナは宵を振り回す。
「味噌って属性にならないかな。味噌属性攻撃とか出来たら、或いは――」
『そんな属性聞いたことない』
「判ってるさ。さすがに邪神を食べるのは、遠慮するよ」
 ぶっきらぼうに告げる『ゼロ』にセツナが笑って、2人同時に宵の刃を突き立てる。
「制空権は渡さないわよ!」
『グロォッ!』
 地上からの跳躍攻撃がほとんど当たり続けているのは、フィーナはマグロを駆って鯖の頭上を押さえ続けているのもあった。
 高ささえ取られなければ、あの巨体だ。当てるのは難しくない。
『やめろぉ! 鯖様を食べる気か、お前ら!』
「私、食べませんからね……全員と言いきれないのが、アレですけど」
 わめく信者に辟易した様子で言って、摩那は緋月絢爛を振るい続ける。
「それよりも浮く魚を倒す方が、惜しいです。でも、またスターゲイザーパイを量産されても困るし、食べ物捨てられる事にもなりますし……」
「ああ、それなら大丈夫だと思うよ?」
 ぼやく摩那に答えたのは、章だった。
 ずっと屈んでいた儀式円の縁に、今は立っている。
 その隣では――何かが蠢いていた。

●混沌の果てに
「食べ物も尊い命も、無駄にはさせない」
 ぞざざざざ。
 章の隣で蠢いているものに、その場にいる全員が覚えがあった。
 鯖の信者達にとっては、此処に集めさせたもの。
 猟兵達にとっては、集めてたもの。そして出来ればもう見たくなかったもの、も一部の猟兵には追加されるだろうか。
「死んだパイのリサイクル、完了だよ」
 閉じた時間的曲線の存在可能性――そのユーベルコードで章が復活させたもの。
『な、な、な……』
『ど、どう言う事だ』
 それに言葉を失う信者達。
 それは、生贄になって完全に残骸になっていた筈のスターゲイザーパイ達だった。
「ま、ゾンビパイだから腐ってるけどね。死神は気まぐれみたいだ」
 パイは明らかに紫がかって、腐っていた。時間軸と世界線を歪め、生命の在り様を捻じ曲げる邪法は、パイすらもゾンビに変える。
「さあ、おしおきの時間だ」
 章はそんなゾンビパイの一つを掴むと、鯖の口へとぽーんっと投げ込んだ。
「パイの不味さは、僕が自分で食べて立証済みだ」
 ぽーんっ。
「おまけに今はゾンビに変わってるから、腐ってるも同じ」
 ぽーんっ。
「……ああ怖い。僕でも食べたくないね」
 ぽーんっ。
 淡々と酷いことを言いながら、章はゾンビパイをどんどん投げる。鯖の口へ。多少軌道が外れてたって、ゾンビパイが自らジタバタして軌道を修正していく。
 そして、ゾンビパイが口の中に入る度に、鯖の体がビクンッと痙攣していた。
 効いてる、効いてる。
『――……ッ!』
 だが、鯖もやられっぱなしではいなかった。
 クワッと目を見開いたかと思うと、口を大きく開いて――シュポンッ!
 シュポポポポポン!
 鯖の口から弾丸の様に放たれる――鯖缶。
「アニサキスはまだ判るが――なんだこの鯖缶は! 缶はどこから出て来た!」
 麗治が溜まらずツッコミながら、槍の様に変えた黒剣を振り回して無差別鯖缶が仲間に届かぬように弾き続ける。
「そこでじっとしていろ、依頼人」
「任せましたよ、探偵さん」
 改造単車・二代目に飛び乗った灯理が、その車輪を完全に空中に浮かせたまま車体を回転させて鯖缶を弾き飛ばしていくのを、夕立は微動だにせず眺める。
『っしゃー!』
『鯖様の鯖缶のお恵みじゃー!』
 2人が弾き飛ばした鯖缶は、信者達が目の色変えて拾っていた。
「こんな鯖のどこに崇拝するほどの魅力があるのかと思ったが……もしかして鯖缶目当てじゃないだろうな?」
 呻く麗治の目の前で、伸びてきた蒼い何かが鯖缶を掠め取った。
 蒼い何かの根元に――奇妙奇天烈としか言いようがない、大量の触手のようなものを持つ謎の生き物を模した、真っ青な巨大な何かがあった。
「ごずなり様に御光臨して戴いたよ。ごにゃーぽ☆」
 ごにゃーぽさんの掛け声で、謎生物が触手だかなんだかわからない蒼汁滴るものを振り上げ、放たれる鯖缶を片っ端からキャッチしてもぐもぐ。
「いけいけ、ごずなり様ー!」
 ごずなり様が何なのか、この場で理解出来ているのは召喚したごにゃーぽさんただ1人だっただろう。
 一応説明しておくと、ごにゃーぽさんはまず、24㎥ほどのオウァティオウェルミス・クリブラトゥスなる奇妙な古代生物――の偽物を作った。
 ワンダフルライフ。奇妙奇天烈な動物の偽物のみ、精巧に作れる業。
 そして、その偽物をよりしろに、ごずなり様なる蒼汁の権能を操る神的な存在を召喚した結果が――あの蒼汁滴る巨大な謎生物である。『な、なんだ……あの生き物は』
『そもそも生き物なのか?』
『まさか我らが知らない邪神では』
 その異様な威容たるは、鯖邪神の信者ですら戦慄するレベル。
「いや、ごずなり様は光の陣営ですよ? 善神ですよ?」
 そう告げるごにゃーぽさんに向けられる、疑惑の視線。
「まあ、オウェちゃんをベースにしたら悪魔的な合体になっちゃって、裏ボスみてぇなになってるのは認めますけど」
 ごずなり様と同じ種類生き物の模型の上でごにゃーぽさんがてへっと笑う。
「と、ともかく。ごずなり様の蒼汁の権能はボクの蒼汁の上位互換。邪神だろうが、効果覿面の筈だよ」
 ごにゃーぽさんが小さな手で、そちらを指差す。
 ごずなり様に撒きつかれた鯖が、その口に蒼汁を垂らされて悶絶するように、ビッタンビッタン身を捩っているところだった。
 だが――その時、鯖の体内では変化が起きていた。
 寄生虫は思うように放てず。鯖缶も防がれた奪われた。
 この上鯖に残された力は、唯一つ。
 Omega3――鯖のような青魚に多く含まれる成分。それが今、鯖邪神の体内では急ピッチで精製されていた。
『ォォォォオォォオォ』
 怨嗟と雄叫びの合いの子のような音を発して、鯖邪神が力強く身を捩って、ごずなり様の触手を振り解く。
 そこを脱した鯖は――空に向かって泳いでいった。
 こんなところに居られるか!と言わんばかりである。
 だが、鯖よ。お忘れではなかろうか。
 此処に居る魚は、鯖だけではない事を。
「行かせるわけが――無いわ!」
『グロォッ!』
 フィーナを背中に乗せたマグロが、上昇を始めた鯖の横腹にズドンッ突進をかまして、鯖の上昇を止めたのだ。
「ドッグファイト……いえ、この場合はフィッシュファイトかしら? とにかくマグロ! あんたの力を今! 見せ付けてやるのよ!」
『グッロォォォッ!』
 フィーナの言葉に、マグロがやる気を漲らせる。
 ぶつかる邪神な鯖と、元邪神なマグロ。空の青魚対決!
 ドゴォンッ! バチィンッ!
 突進を繰り返すマグロに、鯖がしならせた尾をぶつけて対抗する。
 だが、何度目かの衝突で互いに離れた直後、鯖は突然頭を天に向けた。
「甘いわ! 見せてあげなさいマグロ! 優雅でかつ大胆なインメルマンターンを!」
『グロォッ!!!』
 フィーナがマグロに指示したインメルマンターンとは、縦方向にUターンする空戦機動である。
 飛行機であれば垂直上昇からの宙返りで、逆さまになった機体を回転させて上下を戻すのだが――マグロの場合は一度腹を上に向けた状態になるわけで。さてそうなると、コックピットでもない背中に乗っている人はどうなるか。
「か、回転はいいわ! このまま、突撃で、トドメ、よ!」
 そう指示を出すフィーナは、背びれに必死で掴まっていた。トドメと言うか、これでトドメにならないと落ちちゃうかもしれない。
 そんな杞憂を他所に、マグロは太陽の光を浴びてその巨体を黒光らせながら青光る鯖へとぐんぐん迫っていく。
 ドッゴォォン!
 マグロと鯖では脂の乗りが違うと物語る様なマグロの突進が、重たい音を響かせた。地面に当たれば地割れを起こすほどの突進の衝撃が、鯖を屋上に叩き付ける。
 こうなっては、まな板の鯉ならぬ屋上の鯖。
 横たわってピクピクしている鯖邪神に、得物を手にした猟兵達が迫る。
『さ、鯖様が――!』
『あのマグロ様、やっぱりマグロ様なのか!?』
『あの蒼いのも、やっぱり邪神なんじゃないか』
『――あいつはゾンビ作るし!』
「ああ、そうだよ。僕が、僕達が邪神だ」
 鯖邪神がやられそうになって騒ぐ信者達を、章が告げた一言が黙らせた。或いは、章の後ろに鴉に運ばれて浮いている、ゾンビパイが目に入ったからかもしれない。
「もしかして、自分達はこのまま帰れると思ってるの? 甘いよ」
 いやだと首を振る信者達に迫るのは、爪でゾンビパイを掴んだ章の鴉達。
「こんなものを人に食べさせるなんて、僕は悪い子だ」
 悪い子っていうか、本当にどっちが邪神なのか。
「……でも食べ物を粗末にする方がいけないよね」
 章の無情な一言で、鴉が信者達の口にゾンビパイをデリバリー。腐ってもパイ。パイのサクサク感の後に信者達を襲ったのは、この世のものとは思えぬ――。
 信者達が卒倒したのは、言うまでもない。

●こんがり焼けました
「ごにゃーぽ☆」
「ナイスファイトだったわ、マグロ。またよろしくね!」
 ごにゃーぽさんとフィーナが召喚した謎生物とマグロを還せば、屋上に残る魚類はこんがり焼けた鯖だけになる。
 その鯖は、もうピクリとも動かなかった。
 戦いは、終わったのだ。

「皆、鯖、焼いてくれてありがとう」
 解剖用のメスや鋏を手に、章がこんがり焼けた鯖に向き直る。
「……え? え? まさか食うのか!?」
「うーむ。まあ、ビチビチ跳ねて活きは良さそうでござったけどね?」
「魅力的な焼き音ではありましたが……」
「これだけこんがり焼いてくれたから、寄生虫も大丈夫だよね」
 驚くラルフとエドゥアルトと摩那に曖昧に微笑んで、章はメスを突き立てた。
「お刺身も楽しみたかったけど、焼き鯖もいいわね!」
 そこに、尻尾をぱたぱたさせて有栖も加わった。
 あ、またこの2人か。
『どうした、食われるぞ?』
「流石に邪神を食べるのは遠慮するよ」
 消え行くゼロに微笑んで、セツナが踵を返す。
「食われるとは、中々屈辱的な最後でしょう。塩振っといて良かった」
「でも自分では食わんのだな、依頼人」
 面白くなさそうに満足気に去る夕立の後に灯理が続いて屋上を出る。
 1人、また1人と屋上を後にする猟兵達。
「んん?」
 そんな中、鯖を食べていた有栖が眉を潜めて――。
「けぇきの食べ過ぎかしら? おなかが……ちょ、ちょっと通して!」
 蒼い顔になって、大慌てで階下へ走り去っていった。
「ハウンドも食えるだろうが――やめておこう。ご褒美はジャーキーだな」
 それを見た麗治もそう言い残して、屋上を後にする。
 果たして、鯖は食べ尽くされたのか。
 それは――後始末に当たったUDC組織の記録にも、残っていないそうである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月09日


挿絵イラスト