18
策謀の媛宮~本命は要人の首

#サムライエンパイア #媛宮伝

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
#媛宮伝


0




●焔、舞う。
 ――黄昏時。
 仕事も人心地着き、下城し警備が薄くなり、今日の夕餉は何だろう、等と人々がぼんやりと考え始めた頃。
 ……不意に、天空で爆発音が轟いた。
「なっ……何だ?!」
 思わず物見台の兵士が空を見上げた、その時。
 ――ヒュン。
 一閃と共に物見の首が撥ね飛ばされ、宙を舞う。
 それを成した漆黒の忍び装束に身を包んだ者は顔色一つ変える様子も見せず、天空へと合図を一つ。
 その合図に応じる様に、上空からバラバラと同じ装束に身を包んだ忍達が江戸城へと降り立った。
 その中央にいるのは、緋色の髪の女。
 夕暮れ時の沈み始めた日の逆光に緋色の衣装が艶やかに照らされるが、城下町での惨禍に混乱を来していた人々が、女達に気付くゆとりは無かった。
「思っていたよりも上手く行きましたわね」
 クスクス、クスクス。
 まるで、手毬を楽しむ童女の様にあどけない笑みを口元に閃かせ。
 それ以上の事を語らず、眼下で起きている光景を視て笑う。
 ――炎の海に飲まれ、悲鳴と怒号渦巻く大江戸の町を。
「どうやら、策は成ったようですわね。では、私も向かいましょうか。……成すべき事を、成すために」
 その口元に愉悦の笑みを称えたままに。
 肩に刻んだ土蜘蛛の刺青を一撫でし、女は、忍達と共に江戸城へと潜入する。

 ――幕府を内側から破壊するために。

●緊急招集
 ――グリモアベースの片隅。
 北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が、深刻な表情で黙り込んでいる。
 その様子が気になったのであろう、猟兵達が優希斗の傍に訪れた。
「……と、皆か。丁度良い所に来てくれたね」
 現われた猟兵達の姿を認め呟く優希斗。
 彼の胸元で淡く輝く黒い光が、何処か禍々しく不気味だった。
「サムライエンパイアで、少々規模の大きな事件が起きようとしている」
 そこで小さく間を置く優希斗。
 自分が視た光景を知らせることに、少々覚悟が必要だったのだろう。
「それは……あるオブリビオン達が横の連携を取り、江戸城を狙うという計画だ。俺だけじゃ無い、他のグリモア猟兵の何人かも同じ光景を視ている」
 万が一江戸城がオブリビオンに落とされれば大変な事になる。
 否、江戸城にオブリビオンによって大きな被害が出たという事実だけでもサムライエンパイアの人々への動揺は計り知れないものになるだろう。
「江戸城を狙うために行われる計略は3つだ」
 1つは、上空からの江戸の町への襲撃。
 1つは、上空のオブリビオンから落下した部隊による江戸城城下町の焼き払い。
 そして最後の一つは……。
「上空に現われたオブリビオンから落下した忍びと女の部隊が江戸城に潜入し、要人の暗殺、或いは懐柔を狙うというものだ。皆には、この3つの事件に対処する手立てを考えて欲しい」
 優希斗の言葉に、猟兵達が其々の表情を浮かべて返事を返した。

●作戦
「先ず、上空のオブリビオンからの他のオブリビオンの落下を止める手立ては無い。それ以降彼等がどう行動するかは他のグリモア猟兵達から聞いて欲しい」
 そこまで告げて、ふぅ、と息を吐く優希斗。
「此処からは俺が視た光景についての説明になる。それは抜け忍衆と、それを率いる首魁が江戸城に侵入、内部から江戸城にいる要人を暗殺、或いは籠絡するものだ。けれど、今ならまだ間に合う」
 今なら江戸城内部にオブリビオン達が散らばるよりも前に接触が可能となる。
 本来であれば、江戸城の警護の者達が対処すべき事かも知れないが……。
「2つの事件自体が陽動だからそれは期待できない。そもそも猟兵で無ければオブリビオンに対抗するのは難しい」
 つまりこの計略に対応できるのは猟兵達のみ。
「策の決行は夕暮れ時。江戸城の人間を避難させるのは難しいから、彼等が侵入した瞬間を狙って、君達が彼等を迎撃するのが最善手だ」
 とにかく、敵を一人も逃がすことなく殲滅する事が重要なのだと優希斗は語る。
「抜け忍衆を倒せば計略の首謀者も現われるだろう。後は首謀者を倒せば良い」
 因みに戦いが終わったら、江戸の町を散策できる。
「かなり大変な任務になるとは思うが、どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の言葉に背を押され、猟兵達はその場を後にした。


長野聖夜
 ――策謀の行き着く先は。
 いつも大変お世話になっております、長野聖夜です。
 今回は三ノ木咲紀MSと、湊ゆうきMSの下記シナリオとリンクしております。
 1.策謀の媛宮~夜空を駆ける略奪列車 担当:三ノ木咲紀MS。
 2.策謀の媛宮~爆炎のその先に 担当:湊ゆうきMS。
 詳細は、其々のOPをご確認下さい。
 私の班の概要はOPの通りです。
 戦場は江戸城内部ですが、戦いに悪影響を及ぼす狭い場所等の判定は致しませんので、戦い方は好きにして頂いて構いません。
 但しこの場から敵に逃げられてしまった場合、江戸城にいる他の人々に被害が及ぶのでその点は判定材料とします(これは🔵🔴とは別に、リプレイ内で描写する予定です)。
 第3章はお声掛け頂ければ北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)をお誘い頂くことも可能です。
 未成年の飲酒や成人向けを思わせる描写等は公序良俗に違反する為行いませんので、その点、ご了承頂けます様お願い申し上げます。
 尚、第1章のプレイング受付締切は、4月25日(木)8時30分以降~4月27日(土)の午前中。
 執筆予定は27日(土)午後~28日(日)ですので、この期間に入る様、プレイングを送信して下さい。
 逆にこれより早くに締切が来てしまうプレイングに関しましては、流してしまう可能性が極めて高いのでもしその場合は4月27日(土)14時頃迄にご再送頂ければ幸甚です。
 第2章以降の執筆予定は、業務連絡として新章冒頭か、或いはマスターページに入れますので其方をご確認頂けます様お願い致します。

 ――それでは、良き戦いを。
118




第1章 集団戦 『模擬忍法・紫陽衆』

POW   :    苦無乱舞
【レベル×1の苦無】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    我らに理解できぬ戦術なし
対象のユーベルコードを防御すると、それを【即座に理解し時には秘術で種族や体格を変え】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    我らに唱えられぬ忍術なし
いま戦っている対象に有効な【忍術が書かれた巻物と忍具】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。

イラスト:倉吉サム

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
依媛、また黄泉がえりましたか。いいでしょう、何度でも骸の海に叩き落としてあげます。

接敵までにスチームエンジンとトリニティ・エンハンスで攻撃力を強化。
配下の忍者たちは一撃必殺しないと面倒そうですね。
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「高速詠唱」「鎧無視攻撃」「串刺し」でIcicle Edgeを乱射。忍者たちをまとめて凍らせます。

Active Ice Wallは今回、味方の盾として展開。皆さんが盾にしつつその陰から攻撃できるように。敵の数が多いと、氷塊で動きを封じるにも限界がありますし。
それでも自分に攻撃が来たら、氷の盾で防御します。

依媛は……いない? もう奥まで入り込んでいますか!?
急ぎ追いましょう!


郁芽・瑞莉
幕府本丸である江戸城、しかも要人暗殺とは……。
そして首謀者は何時ぞやに対峙したあの土蜘蛛「依媛」。
幕府崩壊の危機、何としても阻止して。
黄昏時の昏き影、祓わせて貰います!

要人暗殺阻止の為、第六感や相手の動きから見切って、
迷彩で周囲に溶け込んで、凶刃からダッシュでかばい、
同じ苦無や刀で武器受け、最悪は身体を張ってでも止めて。
各種耐性で耐えますよ。
「私は忍びでは無いのですが……。今回は格好らしい事をさせて貰いました!」

「そちらが苦無の乱舞というのなら私は千の札の刃で対抗です!」
相手に先んじる様に高速詠唱からの投擲、誘導弾として苦無を叩き落としつつ、相手には力を溜めた全力魔法の一撃をお見舞いしますよ!


鞍馬・景正
――まさか斯様な形で江戸城に戻る事になるとは。
元書院番士としても、猟兵としても、この企みは必ず阻止してくれましょう。

◆戦闘
忍びたちの侵入直後より、機先を制し攻撃。
【早業】の抜刀で【衝撃波】を放ち、【範囲攻撃】で纏めて【なぎ払い】に掛かりましょう。

散開や離脱の気配があれば逃さず【見切り】、脇差を投じて牽制しながら【怪力】を乗せた【燕切】で仕留めさせて頂く。

城中にはかつての同僚始め顔見知りも多い。
手を弛めて忍びを逃し、彼らを危険に晒す愚などは犯さじ。

それでも万一城内の人々が標的に晒されるか、他の猟兵が危ういと見れば【かばう】べく立ち塞がり、我が身を盾にする事も厭いませぬ。


吉柳・祥華
◆心情
やれやれ目覚めたばかりじゃというのに
忙しないささんすなぁ
どれ、手伝うとするかのぉ

◆戦闘
ふぅむ…(薙刀を手に)
まずは彼奴ら動きを封じてみるかのう(先制攻撃でユーベル発動)

・巧い具合に彼奴等の動きを封じたのなら、毒使い、マヒ攻撃、呪詛、等を使い敵の弱体化を狙いつつ

・攻撃の際には…力溜め、鎧砕き、傷口をえぐる、鎧無視攻撃、二回攻撃等で攻める

・回避には残像、見切り、オーラ防御等で対応

◆台詞
・おやおや、どなた様かぇ?
・何処の手の者か知らぬが、わっちの邪魔をしないでおくんなしよ
・わっちか?主様(要人)の妾でござうんす(嘘です。が、敵を誘惑してみようか?)
・それと…あんた様がわっちのお相手しなんすか?


荒谷・つかさ
……何とか、手遅れになる前に迎撃できそうか。
グリモア猟兵の皆には感謝しないとね……まあ、優希斗は役割だから当然と言うんでしょうけれど。

予め城内の構造と人の配置は覚えておき、人の居る方へ向かおうとする敵を優先的に狙うわ。
当初は風迅刀の「属性攻撃」による風の刃の射出を主体に立ち回るわ。
敵が苦無を投げてきたら、零式・改二で「武器受け」して弾き落としたり、「見切り」と「早業」の応用で掴み取ったりして回収。
回収できたら状況に応じて、そのまま【鬼神剛腕砲】で投げつけて攻撃するわよ。
特に、分散してきたなら素早く投げられる苦無は有効なはず。

上様は猟兵だからまだいいとして、無力な家臣の皆さんに手出しさせないわ。


美星・アイナ
サムライエンパイア、その要たる拠点を襲うだなんてね
夕暮れの朱に江戸城を染めさせる不貞、決してさせないわよ

ペンダントに触れ交代する人格は主を護るくノ一
『此処から先は、行かせませんよ(ニコッ)』

天井、床や壁、敵の肩口や背を
足場として有効活用
ダンスパフォーマンスをモチーフにした
レガリアスシューズでのステップを織り込んだ蹴撃
剣形態の黒剣による2回攻撃のなぎ払い、切っ先での串刺しで応戦
UC使用は相手の負傷度が深いここぞという時の一度のみ

相手のUCは【敵を盾にする】【見切り】【激痛耐性】【武器受け】で防ぐ

それにしても奴さん達
何を企んでるの?
なら、そろそろ出てきなさい
話を聞かせて貰うわ

逃がしもしないけど、ね


黒岩・りんご
琴さん(f02819)とともに参加です

ひとまずは江戸城内で待機
…さすが上様も猟兵だからなのかしら
城内見学とかしてみたいところですが、まぁそれはまたの機会に
大奥に迷い込んだりしないよう、今は敵を待ちましょう
江戸城を襲撃する敵ですか…大物でしょうけど、何ものかしら?

さて、琴さんの奇襲で足の止まった忍者を逃がさぬよう
【幼き魔王の群体自動人形】を召喚して取り囲みましょう
そのうえで、わたくしは傀儡の『喜久子さん』を起動させ、喜久子さんとの2人がかりで、ぷちりんごの包囲を抜けようとするものから優先して薙ぎ払い、切り刻んでいきますわ
「琴さん、ナイス援護です♪」
「プチたち、一斉攻撃!とどめを刺しなさい!」


加賀・琴
りんごさん(f00537)と参加です

えっと夕暮れ時に江戸城に待機して、敵が侵入したら迎撃するんですね
改めて猟兵って凄いですね、江戸城に入れるんですから。天下自在符自体が城主の将軍の許可証のような扱いなのでしょうか?

それにしても江戸城を直接狙うなんて大胆ですね
これだけ大掛かりな作戦を実行出来る首魁ですか、嫌な予感がしますね

『先制攻撃、早業、スナイパー』の【破魔幻想の矢】で機先を制して忍びをその場に留めさせます
そうすればりんごさんが包囲してくれるはずです
包囲するりんごさんの援護に『援護射撃、2回攻撃』の【破魔幻想の矢】を放ちます
包囲を崩さず、包囲を抜けようとする者を優先して射貫いて殲滅させます!


ペイル・ビビッド
こんな混戦の中に身を投じるのは
緊張するな…
(ばちんと両頬を叩き)
でも、でっかーんとやるしかない!
サムライエンパイアのお偉いさんの命と
世の平和がかかってるんだもの

【ダッシュ】で間合いを詰め【先制攻撃】【だまし討ち】
【範囲攻撃】で自分の周囲をぐるりと平筆で【なぎ払い】
敵の攻撃は【武器受け】から【咄嗟の一撃】【カウンター】
さらに【ジャンプ】で【踏みつけ】て【逃げ足】で対応
時には【地形の利用】で壁や置物を盾にする

UCを使うのは互いに疲弊してきたここぞの一回で
なるべく多くの弾を放ち戦力を削る
数打てば当たる、だ!


仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
「一人も逃がすなか…上等だね」
【携帯食料】を食みながら他の猟兵のテンションを借りて細胞を活性化
特に嗅覚を研ぎ澄まし忍び込んだ紫陽衆達の血の匂いを【吸血】本能で覚える

POW
【目立たない】ようにマフラーを懐にしまう
急な攻撃にでも対処できるよう常に【学習力】で周囲の状況を把握する
「慢心している時が一番危ない。一人ずつ確実に」
「しかし、いろいろ使いすぎだろ。それならこちらもそれに応えよう」

打ち損じを考慮し相手に傷をつけることを優先
基本は【ダッシュ】で間合いを詰め、勢いそのままに【鎧無視攻撃】で斬るが、他の猟兵や畳などがあればそれを死角に使用する
たまに【残像】を使用し相手の隙を作る




 ――江戸城、城内。
「……夕暮れ時に此処に待機して、敵が侵入してきたら迎撃するんですよね、私達」
 加賀・琴の呟きに、そうですわね、と答えるのは黒岩・りんご。
「でも、改めて猟兵って凄いですね、江戸城に入れるんですから。天下自在符自体が城主の将軍の許可証の様な扱いなのでしょうか?」
「……上様もグリモア猟兵ですからね。恐らくそう言うことなのでしょうね」
「まあ、私達みたいに独自に上様に忠誠を誓っている人もいるからね。そう言う人が来訪した時に対処できる様に、と言う事だと思うわ」
 りんごに同意する様にそう告げたのは、荒谷・つかさ。
 額の汗を軽く拭いつつ、ふぅ、と安堵の息をついているのは、恐らく気のせいでは無いだろう。
 実際……。
(「……何とか、手遅れになる前に迎撃できそうな状況だものね」)
 この状況を予知したグリモア猟兵達には感謝の念が尽きない。
 まあ……。
(「優希斗は役割だから当然、と言うんでしょうけれどね」)
 以前、『彼女』の存在を予知した戦いの後、今回と同じ様に自身の胸元で不気味に黒く輝いた短剣、月桂樹を見せてくれた彼の事をつかさは思う。
 だからこそ……。
「それにしても江戸城を直接狙うなんて大胆ですね。……これだけ大がかりな作戦を実行できる首魁ですか、嫌な予感がしますね」
「ええ……そうですわね」
 琴とりんごのその反応が既に誰なのかを予見しているにも関わらず、その可能性を意図的に振り払おうとしている様に見えて少々不憫だ。
 事前にある程度江戸城城内の構造と配置を覚えてきたつかさはそんな事を思いながら、スチームエンジンをルーンソード『スプラッシュ』の鍔に取り付け、更にトリニティ・エンハンスによって自らの破壊力を高めているウィリアム・バークリーと郁芽・瑞莉を見る。
「ウィリアム君とつかささんは、気がついているんですね」
 瑞莉の確認する様な問いかけに、ウィリアムが静かに頷きを一つ。
「はい。今回の首謀者は恐らく……」
 ――まつろわぬ土蜘蛛・依媛。
「しかし、幕府本丸である江戸城、しかも要人暗殺とは……」
「随分と思い切った手を使うわよね」
 瑞莉の呟きに小さく頷きかけたのは、美星・アイナだ。
(「夕暮れの朱に江戸城を染めさせる不貞、決してさせないわよ」)
 そう強く胸に誓いを抱くアイナの傍で体を硬くしている少女が一人。
「ペイル? 緊張しているの?」
「アイナさん……うん。こんな混戦になりそうな戦い、初めてだから……」
「大丈夫ですよ、そう言うことでしたら僕も援護しますから」
 初めてであることを告げ、肩を強張らせているペイル・ビビッドにウィリアムが微笑み、励ます様に声を掛け。
「つかささん達は、頼りになるわ。安心して良いわよ」
 更に妹分の緊張を見てアイナが微笑し、傍で話をしていたつかさを見やりつつそう告げると、そっか、と少しだけ笑みを浮かべてペイルが頷きを一つ。
「ちょっと良いか?」
 仁科・恭介が携帯食料である肉を食みながら問いかけた。
「あなたは?」
 アイナが問いかけると、おっ、悪いと特に悪びれた様子も無く恭介が答えた。
「俺は恭介。仁科・恭介だ。まあ、アイナとは会った事があるんだけれどな」
「それで、その恭介さんがどうかしたのかしら?」
 つかさの問いに、恭介が実はな、と呟きを一つ。
「あんたらの誰かのテンション、俺に少し借して貰えないか? この携帯食料(魚)と交換でさ」
 告げる恭介に、それなら、と腹の虫が鳴きそうになるのを感じながらつかさが頷き返す。
「私のテンションを少し貸してあげるわ」
「おっ、ありがとよ」
 バクバクと携帯食料(肉)を食みながら笑う恭介に、つかさのテンションが少し分け与えられた。
 彼女の中に滾る戦意、そしてその力が恭介の全身を巡り、肉と共に恭介の体の糧となり、彼の細胞を急激に活性化させていく。
「ありがとよ。さてと……」
 軽く礼を述べた後、特にその嗅覚を研ぎ澄ました恭介の様子を見ながら、ふと、鞍馬・景正の脳裏にある考えが過ぎっていた。
(「――まさか、斯様な形で江戸城に戻ることになるとは」)
 元々、書院番士……即ち徳川家の親衛隊の一人……として将軍に仕えていた身ではあるが、事情があって此処を離れていた。
 だが……それは徳川への忠誠が損なわれたからでは無い。
 ――故に。
(「此度の企みは、元書院番士としても、猟兵としても、必ず阻止してくれましょう」)
 そう内心で意気込む景正の隣では。
「ふぁぁぁぁ~」
 大きな欠伸を一つする羽衣を着た女、吉柳・祥華の存在がある。
 その額から伸びている二本の角が、人ならざる者である事を教えてくれていた。
(「やれやれ、目覚めたばかりじゃというのに、忙しないささんすなぁ」)
 一つ大きく伸びをしながらゆらり、と結羽那岐之を構える祥華。
 既に臨戦態勢に入っている。
 同時に……ゾロゾロと群れて入ってくる忍び達。
「おやおや、どなた様かぇ?」
 忍び達の姿を見つめて祥華が問いかけながら、その両掌から、手作りの鳥黐を含ませた液状の物体を放って、現われた忍び達をその粘着性で絡め取り。
 ……そして。
「いざ、参る!」
 景正が抜く手を見せぬ程の早業で鞘の内にて静謐に満たされていた濤景一文字を抜き、怒濤の如き勢いで衝撃波を解き放ち、侵入してきた忍達の出鼻を挫く。

 ――かくて、戦いは始まったのだ。


『此処から先は、行かせませんよ』
 胸元のペンダントにそっと触れ、ニコリ、と暗殺者の様な笑みを浮かべたアイナが天井を駆け抜けヒラリと黒い軌跡を描いて舞う。
「……Active Ice Wall!」
 ウィリアムが素早くルーンソード『スプラッシュ』の先端で若葉色と青の混ざり合った魔法陣を描き出しながら叫んだ。
 その叫びと共に猟兵達の周囲に展開される、無数の氷塊の群れ。
『我等、我等が大義のために成すべき事を為さん!』
 一斉に唱和すると同時に紫陽衆達の群れが動き出しながら、何処からともなく緑色の巻物を展開。
『忍法、紅蓮嵐舞!』
 巻物より生み出された炎の渦がウィリアムの氷塊を溶かそうとした、その時。
 ――バチン!
 自らの両頬を強く叩いたペイルが気合いと共に一気に肉薄。
(「緊張するな……けれど!」)
「でっかーんとやるしかないんだ~!」
「幕府崩壊の危機、何としても阻止して、黄昏時の昏き影、祓わせて貰います!」
 ウィリアムの呼び出した氷塊を溶かす炎の弾道を見切って、忍び達の群れに飛び込む様にした瑞莉が、その中心で青・碧・緑・紫・赤・黄・茶・白・黒・灰の10色の霊符を散布。
『符より引き出されし、森羅万象の力よ……。刃を為して、魔を穿ち祓い給え!』
「え~い!」
 ペイルが父より受け継いだ全長100cm程の平筆を振るうのに合せる様に、瑞莉が散布した10色霊符から炎が解き放たれ、忍術による攻撃から立て続けに解き放とうとしていた無数の苦無とぶつかり合い、爆ぜる。
 あまりに凄まじいそれは、周囲一体の襖を吹き飛ばした。
 突如として起こった惨事に動揺する城内の人々に危険が迫るが。
「させぬ!」
 景正が人々と苦無の間に割って入り、抜き放った濤景一文字でそれらの苦無を叩き落とた。
「私の目が蘭の内は、決して人々に手は出させぬ!」
「行くわよ」
 零式・改二……否、3度目の再誕を果たした零式・改三で同じく苦無を叩き落としたつかさがひゅっ、と何も持たぬ左手を振り下ろす。
「琴さん」
「……行きます。遠つ御祖の神、御照覧ましませ!」
 手を振り下ろすと同時に放たれた無数の風の精霊によって織り込まれた斬撃でつかさが敵を切り刻み。
 更に琴が和弓・蒼月に番えた矢をひょう、と放つ。
 一本の聖光に包まれた矢が解き放たれると同時に115本に分裂して、大地と水平に飛び、次々に忍び達を撃ち抜いていく。
「りんごさん、お願いします」
「琴さん、ナイス援護です♪ 『おいでませ! ぷちりんごさん!』」
 琴の呼びかけに応じたりんごが叫びながら、左手ではいからな娘の様な姿をした人形、『喜久子さん』を起動。
 そうしている間にワラワラと合計130体の3~4頭身位にデフォルト化された、嘗て魔王と呼ばれていた頃であろう、15歳頃の姿をしたポニーテールで和服姿のりんご達が群がる様に襲いかかった。
 幼き魔王達によって作られた包囲網の内側に追い詰められた忍達の目を、ペイルのおとーさんの平筆の先端から放たれたインクが潰し、恭介の振り下ろしたサムライブレイドが忍達の上半身と下半身を泣き別れにする。
「全力で行かないのは、相手に失礼だからね」
「そうですね。遠慮無く行かせて貰いますよ」
 恭介の言葉に微笑んだ主を護るくノ一の人格のアイナがトン、トン、とステップを刻みながら踏み込み忍達に蹴打を浴びせ。
 そのまま忍達を踏み台に上空から此方を狙い撃とうとしていた忍び達に迫り、DeathBladeを黒剣状態にして振るう。
 薙ぎ払いによる一撃が忍びの一人を斬り裂き、どう、と倒れるところを見逃さず、アイナがその喉元を黒剣状態のDeathBladeで貫き串刺しにして止めを刺した。
「私は忍びでは無いのですのが……。今回は格好らしい事をさせて貰いますよ!」
 そんなアイナに追随する様に瑞莉が空中で回転しながら、飛苦無 飛燕を放つ。
 風の力を帯びた飛苦無 飛燕が、祥華の結羽那岐之を通じて放たれた呪詛や毒に喘ぐ忍達の傷口を抉り、確実に止めを刺していく。
 立て続けにつかさの風の刃が、止まること無く苦無を解き放とうとする忍達を斬り裂いた。
 出鼻を挫かれ、態勢を崩された忍び達の不利は免れぬ。
(「まあ……当然と言えば、当然か」)
 この場にいる忍達の苦無。
 そのうちの数本をひゅひゅっ、と指を動かしてつかさが掴み取り自らの怪力を乗せて素早く投げ返した。
 己の豪腕によって加速した苦無が分散して城内の人々を殺して回ろうと離脱しようとした忍達を貫き、その息の根を止める。
 ――本来、忍びの鉄則は不意を討つ事。
 その為にわざわざ陽動まで行った……にも関わらず、待ち伏せしていた多数の猟兵達に先手を取られ、更に身動きまで封じられたのだ。
 その様な状況下では如何に紫陽衆といえど、全力で戦える筈もない。
「無力な家臣の皆さんに手出しはさせないわ」
 淡々と告げるつかさに応じる様に、ウィリアムが若葉と青を混ぜた魔法陣を複数召喚。
 そしてパチン、と左指を鳴らした。
「Icicle Edge!」
 左指が鳴る音と共に、ルーンソード『スプラッシュ』に取り付けられた蒸気エンジンが大きな音を立てる。
 その音に押される様に撃ち出された無数の氷槍がつかさのカウンターで撃ち抜かれた忍達の鳩尾を始めとする人体にある急所を撃ち抜き殲滅した。
「おや? もう、終わりでありんすか?」
 祥華がカラコロとからかう様な笑い声を上げて軽く首を傾げて呟くが、それには恭介が軽く首を横に振った。
「慢心している時が一番危ないんだ。ちょっと待ってろ」
 そう告げて、先程つかさのテンションと携帯食料【肉】を食べて活性化させた細胞……特に研ぎ澄まされた嗅覚を使用。
 程なくして微かに顔を顰めて、不味いな、と小さく呟いた。
「こいつらは囮だ。まだ、奥に向かっている奴等がいるみたいだぜ」
 呟きその位置を簡潔に説明する恭介に地図を叩き込んでいたつかさが頷く。
「……急ぐわよ」
 つかさの呟きに、アイナ達が頷き、恭介を先頭に、走り出す。

 ――まだ、戦いは始まったばかりだった。


『ちっ、囮はやられたか!』
『だが、これで……!』
 最初の第一陣を囮にし、りんご達の包囲を逃れていた忍達が要人を暗殺するべく江戸城の松之大廊下を駆け抜けていく。
 けれども、そんな彼等の後ろからドタドタという足音が響き渡った。
『もう、追ってきたか!』
 やむをえぬ、と複数の忍達がその場で急ブレーキを掛けて旋回、恭介達に向けて無数の苦無と同時に何処から共無く取り出した火薬を放つ。
「いろいろ使い過ぎだろ。それならこちらもそれに応えよう」
 半身になってタン、と廊下を蹴った恭介が地を這う様に一気に廊下を駆け抜ける。
 あまりの速さに生み出された残像に翻弄され、思う様に攻撃を当てられぬ忍達に恭介が肉薄、懐から取り出した狩猟刀『牙咬』で忍術を放ってきた忍達の胸を斬り裂いた。
(「一体、一体確実に……だろ」)
 胸元を斬り裂かれ、パッ、と血の飛沫を咲かせて力尽きる忍びの血を避けながら次の標的に狙いを定める恭介。
 忍達は、猟兵達を足止めする部隊と、要人を暗殺しに行く部隊に分けてこれに抗しようとするが……。
「何処の手の者か知らぬが、わっちの邪魔をしないでおくんなしよ」
 波状の穂先のその片面に月牙が取りつき、柄に龍の巻かれた青龍戟の変形型、結羽那岐之を残像を生み出しながら接近して薙ぎ払う様に振るった祥華の一撃が忍達の一角を薙ぎ払い。
「貴様達の好きにはさせぬ!」
 景正が納刀していた無銘脇差を抜き放って投擲してその二手に分かれる手段を妨害した。
「皆さん、援護します」
「続きますわよ、ぷちりんごさん!」
 告げながら和弓・蒼月に矢を番え、琴の放った100を優に超える聖なる矢が忍達を射貫き、更に『喜久子さん』と100を越えるぷちりんごさんと共にりんごが肉薄しながら、神龍偃月刀を地面に突き立てる。
 嫌な音と共に江戸城の板を斬りながら、神龍偃月刀を撥ね上げると、斬り裂かれた破片達が礫の様な衝撃波となって忍達を打ちのめした。
「プチたち、一斉攻撃! 止めを刺しなさい!」
 鋭く命じるりんごに応じる様にぷちりんごさん達が突進、小型化した神龍偃月刀の模倣品を振るって忍達を切り裂いていく。
『くっ……忍法五月雨吹雪!』
 ぷちりんごさん達を足止めすべく忍び達の一体が素早く印を結んだ。
 周囲に現われたのは氷の礫。
 怒濤の如き勢いで放たれた氷の礫がぷちりんごさん達を凍てつかせた。
 そうやって次々にぷちりんごさん達が倒れてくるのを見過ごす瑞莉達では無い。
「そちらが氷で来るのなら、此方はこれで対抗しますよ!」
「合わせるわ。……風よ」
 瑞莉が合一霊符を自らの周囲に展開させながら詠唱を開始。
 同時に合一霊符の一つ、赤の霊符が深紅の輝きを灯し、炎の竜を召喚する。
 召喚された炎の竜が氷の礫達を飲み込まんと喰らい掛かるのにつかさが風迅刀を媒体に呼び出した風の精霊で煽り、火勢を強めた。
 紅蓮の炎が忍び達の氷の礫を飲み込み彼等を焼き尽くすその間に、直進するペイルと壁を駆け上がり反対側へと黒い軌跡で鋭い蹴りを放って忍びを蹴散らしながら着地するアイナ。
(「今なら……!」)
『この一撃を流星に変えて……当たれーっ!』
『【コトノハ】は【言ノ葉】にして【言ノ刃】、物理で砕けぬ悪意でも言葉の刃にゃ叶うまい!切って刻んで滅多切り、欠片遺さず塵となれ!』
 見事にハモる、ペイルとアイナの詠唱。
「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる、だ!」
 ペイルが叫びながら自らのおとーさんの平筆の先端から塗料を変化させた光球を散弾の様に放って忍達を一気に撃ち抜き、アイナの揺るがぬ信念を秘めた悪意を断つ歌声の刃が忍達の頭らしき人物の上半身を吹き飛ばす。
『ちっ……頭が!』
『怯むな! 我等の目的を果たすためにも! 全員一斉射撃!』
 動揺の声と、叱咤する声。
 其々の声が重なり合い、やがて彼等は全方位に向けて無数の苦無を解き放つが……。
「……Active Ice Wall!」
「……やらせませんよ!」
 ウィリアムの呼び出した氷塊による盾がそれらの苦無を遮る盾となり、更に瑞莉が十色霊符の一つ、『青』の霊符を起動させて怒濤の如き波を召喚、それらの苦無を片端から飲み込ませていく。
 ウィリアムと瑞莉によって一気に数を奪われた苦無であれば、祥華達が残像で目くらましを行えば回避するには十分で。
 更につかさがそれらを掴み取り逆襲のために投げつけられる程の数になっていた。
 つかさ達の援護を受けながら、尚、間断なく放たれる苦無達を景正は見切って肉薄し、自らの怪力を乗せて濤景一文字を抜刀。
『一刀にして二刀――貴様等に躱せる道理など無し』
 ――其は、一拍二撃の斬撃也。
 踏み込みと共に、振り抜かれた鋭迅怒濤の太刀が描くは、燕が輪を描くが如き眩い剣跡。
 その鋭意なる一刃に、忍達が為す術は無い。
『ちっ……貴様達は何なのだ……猟兵!』
 数を減らし忌々しげに吐き捨てる忍びの一人にコトン、と軽く首を傾げる祥華。
 ふと、悪戯心が祥華の胸に抱かれた。
「わっちか? 主様の妾でござうんす」
 ――無論、嘘でありんすが。
 思わぬ反撃の言葉に目を瞬き、身動きを止める忍びに、祥華は結羽那岐之を突き立てて止めを刺し。
「一人も逃がすな、か……上等だね」
 恭介もサムライブレイドを存分に打ち振るい、未だこの場で生き残っている忍びを斬り捨てた。
 ――かくして。
 誰にも被害が出ることは無く、一つの戦いは終わりを告げていた。


 ――だが。
「……参ったね」
 吸血により、彼等の血の匂いを覚えていた恭介がその匂いを嗅ぎ取り渋面になる。
 この周囲の紫陽衆達の匂いは感じ取れない。
 或いは、周囲のあまりにも飛散している血の匂いが濃すぎて、その匂いと混ざり合ってしまっているか。
「……依媛が……いない……?!」
 周囲を警戒する様に見ていたウィリアムもその事実に気がつき、同じく渋い表情になる。
 依媛、と言う言葉にびくり、と酷い戦慄きを感じる様に肩を竦める琴。
 りんごが琴を気遣う様にそっと琴の肩に手を置き、勝鬨の声を上げるペイルを宥めたアイナも又、気遣わしげに琴へと視線を送っていた。
「どうやら、琴殿は何やら事情を抱えているようですな」
「まあ、必要であればわっちらも話を聞くべきだと思いまするが……先ずは、問題の解決が先でありんすなぁ」
 景正の呟きに祥華がそう返す。
 景正達の視線は、琴達とウィリアム達に交互に送られている。
 その間にも直ぐに表情を戻した瑞莉が軽く肩を竦めた。
「此処にいないのでしたら、依媛は……」
「多分……大奥の方にいるのかも知れないわね」
 つかさが呟きを一つ。
 ――と、その時。
「こいつは……戦いの音、だな」
 鋭くなった五感でその音を感じ取った恭介が呟く。
 その恭介の言葉が呼び水となったか、ウィリアムがはっ、とした表情になった。
「依媛は奥……既に大奥の方まで入り込んでいるというわけですね! 皆さん、急ぎ追いましょう!」
(「又……ご先祖様……なのですか……?」)
 ウィリアムの呼びかけに応じた景正達が奥へと走り去るのを見つめながら、琴が顔を青ざめさせる。
 時折、彼女の胸に浮かび上がる『土蜘蛛の呪詛刺青』がざらつく様な嫌な輝きを発し、自分の体を蝕んでいくかのよう。
「琴さん、大丈夫ですわ。今は先を急ぎましょう。……それが今、私達に出来る精一杯ですわ」
 りんごがそっと琴の手を優しく握る。
 りんごの熱を感じ取った琴がそれに肩の力を抜いて静かに頷き、りんごと共に大奥に向かって駆けだした。

 ――きゅっ、と、きつく唇を噛み締めながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
強い人と壊しあえるかもと思ってわくわくしながら参加するわ。
他の人が相手にしていないオブリビオンを壊すの。分担した方が逃げられにくいでしょう?
マヒ攻撃で逃げられないようにするの。他の逃げようとする人も追跡・ダッシュで追いかけて壊すの。
ケガをしても気にせず動けなくなるまで楽しむの!
そっちからしかけてきたくせに逃げるなんて、その程度の覚悟だったの?
動けなくなるまで壊しあおう?戦えない人とやるよりわたしとやる方がぜったい楽しいから、ね?だいじょーぶよ、わたしも動けなくなるまで壊しあってあげるから。
ああ、やっぱり楽しー!壊すのも、壊されるのもね。
もっともっと楽しみたい……もっと強い人と壊しあいたいの!



●断章
 ――ワクワク、ワクワク。
 ヘザー・デストリュクシオンは、胸の中に高まる昂揚を抑えきれず、ブルリ、と愛らしく武者身震いを一つ。
 耳がぴょこぴょこと動くが、その口元に咲くは残忍な少女の笑み。
(「さ~て、強い奴は何処にいるかな? いるかな?」)
 他の猟兵達と離れて行動していた理由は一つ。
 ――オブリビオンを一人も逃さぬ為に別行動を取った方が確実だと判断したから。
(「壊したい、壊したい、壊したいの……!」)
 高まる欲求。
 自分が抱えている不満の捌け口を探す為ヘザーが江戸城城内を歩き回っていた……その時。
『猟兵! 覚悟!』
 一人の男が現われ、ヘザーに向かって苦無を放つ。
 その攻撃を敢えて片腕で受け止めるヘザー。
 痛覚からの刺激が楽しくて、思わず舌舐めずりしながら、ピョン、ピョンと兎の持つ膂力で戦場を跳ねて肉薄。
「楽しそうな相手ね!」
 現われた忍へと伸縮自在な白猫の爪を伸ばしてその身を斬り裂くヘザー。
 はぐれ忍び、と呼ぶべきであろうこの忍びは変装を解いて素早くその攻撃を苦無で受け止める。
『我等に理解できぬ戦術無し! 秘術、千変万化!』
 ヘザーの爪を受け止めたその忍びが叫びと共に素早く印を胸の中央で結ぶ。
 白煙と共にそこに現われたのは……。
「へぇ……それはとても楽しそうなの!」
 まるで、鏡の様に自分と同じ姿をした少女が現われたのに、ヘザーの笑みがより一層濃く深まった。
『行くぞ!』
 ヘザーの姿を借用した忍びが、その手の白猫の爪を伸ばして攻めかかってくる。
 野生の勘で身を翻し咄嗟にその攻撃を避けるが、パックリと頬が裂けて、ポタ、ポタ、とヘザーの人形の様に整った顔から血が滴り落ちた。
「ああ、やっぱり楽しー! ねぇねぇ、わたしにも壊させてよ!」
 気にせず脚力を生かして跳びながら、ヘザーが白猫の爪を短く、鋭く振るう。
 何時の間にか蝶ネクタイを吹き飛ばし、自らの体を加速させたヘザーの速度に忍びが対応できる筈も無い。
 彼の借り物の体の胸に、ヘザーの白猫の爪が突き立てられていた。
『ガハッ……?!』
「ほらほら、どうしたの? もっと、もっと壊し合おうよ! もっともっともっと!」
 捲し立てながらヘザーが突き立てた白猫の爪を傷口を抉る様にグリグリと動かす。
 爪の先端に塗り込んだ麻痺毒が忍びの体を巡り、血泡を吹いて崩れ落ちた。
「あれ? もう終わりなの?」
 それはそれは、心底つまらなそうに。
 げし、と容赦なく自らの体を借りた忍びを足蹴にし、次の標的を探すヘザー。
「こんなんじゃ、全然楽しく無いな~。もっと強い人いないの?」
 ヒクヒクと、猫並みの嗅覚で周囲の匂いを嗅ぎ取り、ヘザーは笑う。
「……みぃつけた、なの♪」
 ――今度は、もっと強いと良いな。
 壊し、壊され合う事でしか得られぬ快楽を求め、ヘザーは次の標的を求めて忍達を単独で追った。


『……やられたか』
『構うな。我等は我等の役割を果たせば良い』
 集団から離れた数人の忍び。
 彼等は本体がやられた時の伝令役で有り、或いは要人暗殺のために単独で行動を行う、紫陽衆達の中でも単独行動に長けた暗殺者達だ。
 彼等が向かおうとしたのは、既に下城した要人達の所。
 即ち、火事騒ぎで混乱する江戸城城下町の中で鎮火のために動いたり、或いは避難している者達だ。
 だが……。
「そっちから仕掛けてきたくせに逃げるなんて、その程度の覚悟だったの?」
 猫の嗅覚で彼等の気配を嗅ぎ取ったヘザーが舌舐めずりをしながら姿を現し、白猫の爪を伸ばして、その内の一人の忍の胸を貫く。
『ぬっ……?!』
「動けなくなるまで壊し合おう? 戦えない人とやるよりわたしとやる方がぜったい楽しいから、ね?」
 狂人の笑みを浮かべて風の様な速さで大地を駆けぬけてそのまま肉薄、爪でその喉を掻き斬り、忍を壊す。
 無邪気で残忍な……愛を知らぬ破壊者の乱入に、忍び達は素早く目線を交わして役割を分担。
 一人が素早く掻き消える様に奥へと駆け、残された一人が苦無を投げ放つ。
 苦無がヘザーの右肩に突き刺さり、そこからじわりと血が滲んだ。
「忍法、苦無乱舞!」
「あはは、やっと骨のありそうな奴が見つかったの!」
 左肩から溢れる血。そして、そこから体へと回る毒。
 自分の体が内側から破壊されそうになる事にさえ快楽を覚えながら、ヘザーが愉快そうに笑って白猫の爪を振るう。
 振るわれたそれを忍は受け止める代わりに懐から爆弾を一つ取り出し放った。
 直感的にバックステップをするヘザー。
 次の瞬間、爆弾が地面に落ちて大爆発を起こして、それによって砕けた江戸城の廊下の破片がヘザーに突き刺さった。
「あははっ、こういう戦いがしたかったの!」
 熱傷が体に付き更に猫兎の衣装の一部が爆発に耐えきれずに破れたのを見ながら、ヘザーは笑う。
 剥き出しになる肌が所々水膨れし、また嘗ての傷が浮き彫りになるが、結果として更に身軽になったヘザーが大地を疾駆。
 そうしながら捨て身で懐に飛び込み、ロングブーツで忍びの顎を蹴り抜いた。
『ガッ……!』
 顎を蹴り抜かれながらも尚意志の力で立ち続けながら、懐から取り出した無数の苦無を投げ放つ忍び。
 それに手足、そして胸を貫かれ、全身を朱に染めながらヘザーは笑う。
「ああ、やっぱり楽しー! 壊すのも、壊されるのもね」
 その言葉を餞別に、白猫の爪を振るうヘザー。
 全身の痛覚から伝えられる『痛み』と言う名の快楽と。
 自らが振るった白猫の爪でその首を撥ね飛ばした時に感じられた手応えという名の快楽。
 両方の快楽に浸りながら、ヘザーは足止めに残った忍びを殺す。
 ――本体から離れて城下町に向かい、城下町の要人を殺すべく行動を行おうとしていたこの忍びを。


「さて、と次はあの奥ね」
 壊すことと壊されることの悦びを堪能しながら、ペロリと白猫の爪に付いた血を舌で拭い取ったヘザーが笑う。
 彼女の視線は、先程奥へと向かった忍びの方へと向けられていた。
 恐らく、その先に忍び達の長がいるのだろう。
「もっともっと楽しみたい……もっと強い人と壊しあいたいの!」
 心の奥から感じる生々しい破壊衝動に身を震わせながら、兎の様に軽やかな足取りで、ヘザーも奥へと向かう。
 ――他の猟兵達が戦い……そして、首魁がいるであろう大奥へと。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ラッセル・ベイ
要は全員残さずに始末すれば良いのだな?
手早く終わらせようか

●戦闘(WIZ)
私ならば広かろうが狭かろうが、どんな場所でも戦える
場内を歩き回り、敵を見付けたら殲滅するで良いか

「ストレングス・ルーン」「グラウンド・ルーン」を同時起動
「氷剣フロス」には氷結ポーションを付与し、属性威力を向上

基本はグラウンドを構えて、攻撃を受けつつバッシュで押し込む
体勢を崩した所をフロスの斬撃、怪力からの踏みつけ等で始末
逃亡は【ホーリーサーペント】で阻止。絶対に逃さん

私に有効な攻撃があるのか?
是非とも見てみたい所だ。弱点の補強にも繋がるしな
本当にあれば、だが……
まぁ、仮に危険な状況になってもポイゼが居るから問題はない


喰龍・鉋
旦那の尊(f12369)と共闘*アドリブ歓迎
尊がおびき寄せてくれるのをきちんと確認しつつ
隠れて見守りつつタイミングを見計らい挟撃するよ、
心配だな…無理はしないでね尊、苦無乱舞は可能な限り庇うなり武器で受けて、尊、他猟兵もカバー、敵を盾にしながら地道に数を減らしていくよ、
力押しして尊の串刺しが通りやすい様に押し込んで行こう、
息を合わせないとね、あんまり動きが早くて困るならUCを発動して
敵が纏まってるところの床を爆破して物理的に拘束しよう
動きを止めながら生命力吸収も出来るし……大事なお城みたいだけどしょうがないよね


白皇・尊
妻の鉋(f01859)と共闘

「江戸城に仕掛けてくるとは、良い度胸をしていますねぇ」

☆共闘戦術
狙うは挟撃、僕が惹きつけて隠れた鉋が背後から奇襲します。
「ここから先は通しませんよ?」
まず『オーラ防御・かばう・拠点防御』の力により【物理、術、呪いなどあらゆる攻撃から身を守る強固な防御結界を張る符術《守護法陣》】を展開して自身に守護結界を付与、守りを固めた上であえて敵の前に身を晒し『おびき寄せ・誘惑』で敵の目を惹きつけて【吸精妖術】を発動。
「ここで死んで頂きます」
結界の守りを頼りに斬り込み、霊剣を『怪力』で振るい敵を『なぎ払い』、『串刺し』にして『生命力を吸収』し尽くして殲滅します。

※アドリブ歓迎


彩瑠・姫桜
江戸城内部も結構広そうだし、知識もそんなにないのだけど
要人狙って…だと、本丸の大奥あたりに行くのかしらね?

敵を一人も逃がすことなく、というのが重要なら
できるだけ多くの敵と遭遇できそうなところに行きたいわ
大奥に入れるようなら廊下渡りながら要人が待機している部屋へ向けて移動しながら対応するし
入れないなら本丸内部の移動できる範囲を走りながら敵との遭遇目指すわね

敵には【咎力封じ】使用し動きを止めた上で【串刺し】にする
確実かつ迅速な撃破を目指すわ

敵の攻撃は【武器受け】で対応するわね

万一ユーベルコード封じられたら
ドラゴンランス2匹に竜形態で攻撃仕掛けてもらうわ
【傷口をえぐって】【目潰し】仕掛けてもらうわね




 ――江戸城、大奥。
「此方に敵が現われる……そう考えていらっしゃるのですか、姫桜は?」
「ええ、正門……要人達が執務をする方は他の皆が対応してくれているみたいだから、こっちの方が良いかな、と思ってね」
 すっかり馴染みとなったラッセル・ベイの仮契約の毒精霊ポイゼの問いかけに、彩瑠・姫桜が多分ね、と言う表情でパタパタと手を振りながらそう答える。
「ここ、僕達が入っちゃって良いんでしょうかねぇ?」
 そう呟いたのは、妖狐、白皇・尊。
 泣かせた女は数知れずの女装少年だが、流石に将軍の大奥に手を出す気にはなれない。
 姫桜が疲れた様に溜息を一つ。
「まあ、非常事態だもの。許して貰える筈よ」
「そうですわね。そもそもそうでなければラッセルが此処に入れる筈がありませんわ」
 姫桜の言葉に同意する様にポイゼが頷く。
 一方、ラッセルはこの場に興味が無いのだろう。
 ただ、軽く髭を扱きながら、要は、と小さく呟いていた。
「全員残さずに始末すれば良いのだな?」
「まあ、そう言うことだよね」
 ラッセルの呟きに頷いたのは、喰龍・鉋。
「しかし江戸城に仕掛けてくるとは、良い度胸をしていますねぇ」
 今回の作戦の規模のことを思い、しみじみ呟く尊。
 尊の言葉に、微かに姫桜の表情が顰められる。
 今回の作戦の話を聞いた時、幼馴染みは江戸で起きる大火災を止めるべく戦いに行くと言っていた。
 あちらの作戦は、上手く行っているのであろうか。
「姫桜」
 ふと、振り向けば気遣わしげに声を掛けてきたポイゼの姿が目に入った。
「大丈夫ですわよ、皆さん、きっと」
「そうね。ありがとう、ポイゼ」
「……話はそこまでみたいだよ」
 気を取り直す様に微笑む姫桜とそれに頷き返すポイゼの様子を見て取った鉋が呼びかける。
 それから鉋は尊の方に目配せを送り、尊が勿論、と言う様に悪戯少年めいた笑みを浮かべた。
「では、ラッセルさん、姫桜さん、それから……ポイゼさんでしたか。行きましょうか?」
「良いだろう。ポイゼ、背中は任せたぞ」
「任せなさいなっ!」
「ええ。……行くわよ」
 重厚な低音で頷くラッセルとパチン、と扇子を閉ざして気合いを入れるポイゼ、そして確固たる決意をその眼差しに宿した姫桜。
 鉋が周囲に溶け込む様に身を隠し、息を潜めるその間に。
 
 ――ダダダダダッ……!

 雪崩れ込む様に現われた紫陽衆達と、尊達は対峙するのだった。


『くっ……、此処にも猟兵が……!』
 大奥の要人達を狙うべく侵入していた忍び達の前に、威風堂々、姿を現したラッセルを見て、思わず、と言った様子で歯噛みをする忍び達。
 江戸城の半分の面積を占めるとされる大奥だ。
 戦う場所には事欠かない。
「お前達、私に有効な攻撃が分かるのか? そうであれば、是非とも見せて貰いたいところだな」
 呟きながら、自らのダブルセブンスポーションが一つ、氷結ポーションを氷剣フロスに振りかけて氷結属性の効果を高め、更に自らの宿すストレングス・ルーン及び、地盾グラウンドの中央に嵌め込まれたグラウンド・ルーンを同時に起動。
 己が武具の力を最大限に高めたラッセルへと忍が咄嗟に印を刻む。
 同時に彼等の周囲に現われたのは、炎と木枯らしの群れ。
「忍法、木枯らし炎舞!」
 叫びとと共に一斉にラッセルへと木枯らしが炎を纏った鋭い風の槍となって迫り掛かる。
「成程。地には風、氷には炎。そう来たか」
 意外な組み合わせによる忍術を地盾グラウンドで受け止めながら、感嘆の唸りをあげるラッセル。
 だが、真の性能を引き出され、自身の怪力を持つラッセルには、それ程の痛痒を感じられない。
 臆すること無く地盾グラウンドを翳して進み、ブン、と押し込む様に盾を振るう。
『ガッ!』
 怪力の乗せられたシールドバッシュ、大地に根ざす巨木の様に揺るがぬその一撃に思わず忍び達がよろけたその直後。
『慄け咎人、今宵はお前達が串刺しよ!』
 ラッセルの影から飛び出した姫桜が、手枷をよろけた一体に嵌め込み、一体に猿轡を噛ませ、そして複数体を纏めて拘束ロープで縛り上げつつ、schwarzを旋回させて横薙ぎに振るい、更にWeißで忍達を纏めて串刺しにした。
 手枷と猿轡を忍達は素早く取り払いながら、タン、とダッシュを一つ。
 そのまま、彼女に向けて苦無乱れ打ちを放とうとした、その時。
「此処から先は通しませんよ?」
 それまで、何処にいたのであろうか。
 忍びの部隊の背後に現われた尊が、何やら聞き覚えの無い呪詛を紡ぎながら艶めかしい仕草で太股に着けたホルスターから霊符《守護法陣》を取り出し上空へと放る。
 放り出された霊符《守護法陣》が呼び出したのは、青白い妖力によって生み出された防御結界。
 それを自身に付与したうえで、尊は良く通る艶やかな声音で忍び達に呼びかけた。
「どうでしょう皆様。僕と一緒に踊りませんか?」
 青白い妖力を、他者には抗いがたい色香へと変えて、不思議なカリスマと共に呼びかける尊。
 背後を取っているにも関わらず、その声は忍達の一部にすっ、と入り込み、クルリ、と尊の方を振り返らせた。
『お、おお……』
 ゴクリ、と生唾を飲み込む彼等の背後に、それまで身を隠していた鉋がばっ、と隠し戸を開ける様に飛び出しながら大五郎を袈裟に振り下ろし忍びを切り刻む。
『がっ……!』
『ちっ、罠か!』
「まんまと罠に嵌まってくれましたね。チョロいものです」
 舌打ちをしながら鉋の方を振り返り、鉋に続いて攻撃を仕掛けようとしていた姫桜達を狙い撃つべく乱れ苦無を解き放つ忍び達。
 だが、その時には鉋が前に立ちはだかり、フォースセイバーでそれを叩き落としている。
「姫桜ちゃん、ラッセルくんも頼んだよ!」
「ええ、任せて!」
 鉋の問いに姫桜が応じて再び拘束ロープで纏めて忍達を縛り上げ。
「どうした、この程度なのか?」
 地盾グラウンドでその苦無を受けきったラッセルがフム、と一つ頷きながら氷剣フロスを振り下ろし、目前の忍を斬り捨てている。
「ポイゼ」
「任せなさいなっ!」
 斬り捨てた忍を軸に氷剣フロスから複数の氷の礫を解き放ち、何人かの忍び達を打ち据えながら、後方のポイゼに呼びかけるラッセル。
 ポイゼがそれに頷くと同時に、すぅ、と息を吸い、そしてふぅ、と吐く。
 一見すると、それはただの深呼吸。
 だが……毒を自在に扱いこなすポイゼにとっては、それは別だ。
『毒の礫……?!』
 ラッセルの氷剣フロスから放たれた氷の礫と、ポイゼの吐いた息が重なり合い、それが猛毒の礫となって、忍達に襲いかかる。
 突然切り替わった攻撃手段に忍び達は為す術無く礫を受け、そこから入り込んだ毒に体を蝕まれて力尽きていく。
「行くわよ!」
 その間にも姫桜が二槍を振るいながら手枷、猿轡、拘束ロープを解き放つ。
 拘束ロープによって何体かが纏めて縛り上げられたその隙を見逃さず、尊が歌う様に言の葉を紡いだ。
『妖狐らしい術、お見せしましょう』
 告げながら尊を覆う青白い妖力の結界に生命力吸収能力を持たせて、悠々と身動きが取れなくなっている忍び達にその身を晒しながら、霊刀《白鬼》を振るう尊。
 振るわれた刃が姫桜の姿となった忍達が放った猿轡や手枷を叩き落とし、合わせる様に鉋の振り上げた大五郎が拘束ロープを切り払った。
「無理はしないでね、尊」
「大丈夫ですよ、鉋。他の猟兵の皆さんも実力者の様ですから。それよりも、僕の結界に鉋は触れないで下さいね」
 優しくあやす様に告げる尊。
 尊の言葉を、まるで体現するかの様に。
『忍法! 妖力破壊!』
 術式を破壊するべく五芒星を描き出し、そこから飛び出した漆黒の手裏剣を放った忍び達の体が見る見る内に痩せ細っていく。
『ばっ、馬鹿な、これは……っ?!』
『我等の生命が……喰われる……だとっ……』
 そのまま全身から生命力を吸い取られ、力尽きていく忍び達。
 忍び達の陣形の一角が崩される様を見て、愉快そうに肩を竦める尊。
「ここで死んで頂きます」
『ちっ……このままでは……!』
『怯むな、陣形を立て直せっ! お前達は先に行ってあの方の……!』
 猟兵達の猛攻に悪戦苦闘しながらも冷静な指示が飛び交い、そのままこの場を離脱しようとする忍び達、そして、尚この場に留まろうとする忍び達の部隊に分かれようとする。
 だが……。
「絶対に逃がさん。『現われよ、聖なる蛇。敵対者共を噛み千切れ』」
 ラッセルが朗々と紡いだ呪と共に、37体の白い蛇型の炎が荒れ狂う波の如く舞う。
 それは、ライフスティーラーの派生魔術。
 数よりも破壊力に特化された神聖属性の白蛇達がこの場を退き、役目を果たそうとした忍び達に追いすがりその身を喰らい尽くしている。
『くっ……臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!』
 自らの災厄を撥ね除ける九字護身法を結び、咄嗟に黒蛇を呼び出す忍び達。
『暗黒属性』を持つかの黒蛇達がラッセルの白蛇を喰らわせ、本来の目的を果たすべく忍びの仲間達を逃がそうとしている。
 その様子を見て……ふぅ、と鉋が息を一つ吐いた。
「大事なお城みたいだけれど、しょうがないよね。被害を出さないためだもの」
「そうですね。やってしまって良いと思いますよ、鉋」
 最愛の夫、尊の後押しに頷き返し、鉋が大五郎を巨大な黒影へと変形させる。
(「この感じ……」)
 ビリビリと肌が焼け付きそうな気配を感じ取りながら、姫桜が目前の敵を纏めて串刺しにして、鉋と尊への攻撃を防ぎきった。
「どうもありがとうございます、姫桜さん」
 尊が姫桜に礼を述べた、その時。
『キミには、見えないと思うよ』
 ひゅっ、と巨大な影を振るう鉋。
 目に見えぬ速さ――即ち光速――で放たれた黒影が、九字護身法を結んだ忍び達の立つ床にぶつかり大爆発を起こす。
 それによって生み出された飛散破片が針化した剣となって九字護身法を結んだ忍達を纏めて拘束し。
「尊くん」
「姫桜さんも続いて下さいね」
「えっ……ええ、了解よ!」
 尊が針化した剣に貫かれ身動きの取れぬ忍達を霊刀《白鬼》で貫き、追随する様に姫桜が二槍で忍達を纏めて串刺しにした。
 九字護身法を結ぶ忍び達が壊滅した事で、ラッセルの白蛇を喰らおうとしていた黒蛇達は消滅し、ラッセルの放った神性属性の白蛇達が思う存分上層部に連絡を入れようとしていた忍び達を喰らい、蹂躙する。
 ――こうして、ほぼ忍び達が壊滅した、その時。
『くっ……まさか、此処も……?!』
 大奥へと続く通路を駆けてきた一体の忍びが驚愕の表情で凍り付き、思わず息を漏らしていた。
「あれ? まだいたんですね」
 姫桜と鉋に僅かに残っていた忍達の殲滅を任せた尊が、此方へと駆けつけた最後の忍びに気がつき、微笑を零す。
 ――それは、正しく人を誑かす妖……狐の笑みだった。
『あっ、ああ……うぁぁぁぁぁ!』
 その笑みに取り憑かれた様に突進してくる最後の忍び。
 尊は、そんな彼を霊刀《白鬼》で貫き、口元に笑みを閃かせた。
「ご馳走様でした」
 そのまま全ての生命力を吸い尽くし、忍びに止めを刺す。
 ――かくて。
 要人暗殺のために向かった紫陽衆の最期の一人は、灰となって消えていった。
 
 ――江戸城の者達に、一矢報いることも出来ぬままに。


 ――クスクス、クスクス。
 それらの出来事を感じ取り、女が童女の様にあどけない笑み。
 だが……口元の笑みと異なり、内心では複雑な思いが入り交じっている。
(「まさか……誰にも被害を与えることが出来ずに忍び達がやられるとは思いませんでしたわ」)
 ――けれども。
「ご安心なさい。貴方達の魂は、私の力にさせて頂きますわ」
 呟き、女はクルリと振り返り、ゆっくりと階下へと降りていく。

 ――要人を暗殺するよりも、彼等の相手をするのが先だと判断したから。

 江戸城襲撃阻止作戦は、佳境を迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『まつろわぬ土蜘蛛『依媛』』

POW   :    我はまつろわぬ神、天津神に仇なす荒ぶる神なり
【人としての豪族の媛から神話での土蜘蛛の神】に覚醒して【神話で記された異形のまつろわぬ女神】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    我は鎚曇(つちぐもり)、強き製鉄の一族の媛なり
【この国への憎しみの念】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    この国に恨みもつ者達よ、黄泉より還り望みを果たせ
【朝敵や謀反人など悪と歴史上に記された者達】の霊を召喚する。これは【生前に使用していた武具と鍛え上げた技術】や【生前に従え率いていた配下や軍勢】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:馬路

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は加賀・依です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回執筆予定期間は4月30日(月)~5月2日(水)となります。その為、プレイングの受付は、4月29日(日)の8時30分~4月30日(月)午前中です。もし変更がございましたらマスターページにて告知致しますので其方もご参照頂けます様、お願い申し上げます。*

 ――カツン、カツン、カツン。
「……まさか誰一人殺すことも出来ずに、彼等が倒されるとは思っていませんでしたわ。色々とお膳立てさせて頂きましたのに」
 口元に童女の様にあどけない、けれども微かに困惑した笑みを閃かせて。
 その肩に土蜘蛛の刺青が刻み込まれた、緋色の髪の女羅刹が姿を現す。

 ――即ち……まつろわぬ土蜘蛛・『依媛』
「まあ、問題はありませんわね。此処であなた方が倒れれば、どの道、結果は同じ事。それに……新しい魂を得ることも出来ましたもの」
 呟きながら、依媛がさっ、と片手を上げる。
 同時に彼女の背後に現われたのは、無数の忍びの亡者の群れ。
 ――其は、朝敵や謀反人など悪と歴史上に記された者達の率いる軍勢と共に、彼女の新たな力となる。
「流石に話をして逃して頂けるとは思っておりません。ですので、此度は力尽くで行かせて頂きますわ」
 ――口元に、笑みを閃かせながら。
 周囲に緋色のカーテンの様な光を敷きながら、依媛は笑う。
「では、参りましょうか。猟兵の皆様。どうぞ、よしなに」

 ――さぁ、猟兵達よ。
 今こそ、雌雄を決する時。
 緋色の光に遮られた此処は、誰の邪魔も入らぬ戦場だ。
 故に、唯々全力で依媛を倒すことに力を注げば良い。
 ――健闘を、祈る。

*江戸城の要人・一般人の保護に完全成功しましたので、この章では人々への被害を考える必要はありません。
 ですが、その分全力で依媛は皆様との戦いを行います。
 それでは、良き戦いを。
※プレイング受付期間及び、執筆期間の曜日に誤りがありました。誠に申し訳ございません。
プレイング受付:4月29日(月)8時30分以降~4月30日(火)13時頃迄。
執筆期間:4月30日(火)14時以降~5月2日(木)一杯。
何卒、宜しくお願い申し上げます。
美星・アイナ
誰の仕業かと思ったら依媛、貴女か

力尽くでもですって、上等よ
なら此方はそれ以上の力でお相手するわ

さぁ、スペシャルライブの始まりだ
私の歌を聴けぇっ!

人格交代はしない
ヘッドセット型サウンドウェポンを起動
基本は回復手として立ち回り

大鎌形態の黒剣を振るいながらジャンプ
ダンスパフォーマンスの動きを織り交ぜつつ
覚悟、鼓舞の想いを乗せながらUCを歌う
攻撃時はなぎ払い、2回攻撃、踏みつけ、スライディング、鎧砕き、傷口をえぐるをフル活用

依媛の手数が少なくなったら回復を止め
攻撃に専念

琴さんの姿を見て痛々しい想いに
気丈に振舞っていても苦しさが伝わる
前に相対した時の事があるからか

後で声、かけてみよう

アドリブ、連携可能


フローリエ・オミネ
アドリブ歓迎

どんなに亡者を呼び寄せたところで無駄よ
所詮死んでいるのだから

御覧なさい、これがあなたの罪。罪が重ければ重いほど、攻撃も重いわ
亡者たち、あなた方はもうこの世には要らない存在

運命に抗うことは、最も大きな罪なのよ。

けれどもわたくしのこの技では、トドメはさせないから
代わりに、もうひとつ――「人為的災厄」を放ちましょう

「鉄のスコール」「血の雷」を使用
あなた方の使った武器を
あなた方によって命を奪われた者の血を

全ての無念の想いをこの技に乗せて。

「空中戦」はお手の物。歩けない、なんて言わせないわ。私にとっての地は、空。
行動はのろくても、「鎧無視攻撃」「2回攻撃」「高速詠唱」には長けていてよ。


ウィリアム・バークリー
久しぶりですね、依媛。再会を望んではいませんでしたが。改めて討滅させていただきます。
ウェポンエンジンとトリニティ・エンハンスは継続を確認。効果が切れていたら再発動。

Icicle Edgeを率いる軍勢に撃ち込んで、削っていきましょう。今回、Active Ice Wallに回す分も全部氷槍と変えて、余計な敵を排除していきます。

もう少し避けづらい術も使ってみますか。
「高速詠唱」風の「属性魔法」「衝撃波」「範囲攻撃」「鎧無視攻撃」「全力魔法」で、かまいたちを含んだ烈風の斬撃術を前方全域に放ちます。
味方には、術の完成直前に道を空けてもらう感じで。

その風に「空中戦」で乗って依姫の懐に入りルーンスラッシュ!


鞍馬・景正
虚礼は不要。
大奥にまで踏み込んだ倨傲、お福様の雷が落ちる前に介錯いたそう。

◆戦闘
後顧の憂いなし。全力で行かせて頂く。
当流の基礎にして奥義。【鞍切】を馳走しましょう。

神代の荒神とて構わぬ、斬ると決めた者を斬り徹す。
そう【覚悟】を決めながら、依媛へと間合を詰めて参りましょう。

先に攻撃を仕掛けられれば動きから軌道を【見切り】、予想し得ない者は【第六感】の警鐘に従い回避。

そのまま運足の勢いと、【怪力】と、【破魔】の念を込めた【鎧砕き】の打ちで真向より斬りかかる。

依媛撃破を第一としつつ、因縁ある方がいれば望みに添うよう援護も引き受けましょう。

いずれにせよ江戸の地を騒擾させた罪、その身で償って貰う。


仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
UC対象:依媛
「避難は完了ですか。なら全力でいくか」
「こんなに沢山いたら…集中できないよね」
「こいつらは何とかする。あとは任せた」
「今度こそお休み」

WIZ
【携帯食料】を食みつつ依媛、亡者、猟兵の位置と室内の間取りを【学習力】で把握する
その上で、他の猟兵が依媛に集中できるようにサポート役で動くことを選択
召喚された亡者達が他の猟兵を攻撃しないよう阻止するように動く
死角を狙う亡者達にも反応できるよう【失せ物探し】でにらみを利かせ、依媛の心にUCを反応させ全身の細胞を活性化
【ダッシュ】【残像】【鎧無視攻撃】を駆使して亡者を排除する
偶に依媛に対して亡者や調度品などを蹴り飛ばし隙を作る


ヘザー・デストリュクシオン
姿は変わりないけどいつもより体が軽い気がするの。
強そうな人ね、うれしくってゾクゾクしちゃうの!
でもあの人のこと、知ってる人がいるみたいね。
わたしは楽しく気持ちよく壊しあえればいいから、止めを刺したいならゆずるの。
基本的には女性狙い。亡者がじゃまならさくっと壊すの。やりたいことがある人のじゃましようとしている野暮な亡者も、ついでに壊すわ。
ダッシュやジャンプを使ってそれでも速さが足りないようなら迷わずショートパンツも脱ぎ捨てるの。下着ははいてるからいいでしょ?
向こうが全力でくるならこっちもそうしないと失礼よね?
もちろんわたしも動けなくなるまで全力で壊しあうの!
壊しあうのが1番楽しいし気持ちいいの!


彩瑠・理恵
まつろわぬ土蜘蛛『依媛』、ですか
偶然なのでしょうか、それとも必然なのでしょうか、どちらでしょうかね?
私が生まれる前に貴女によく似た人がいたと親世代から聞き及んでいます
まぁ以前交戦した姉さんの話からすると偶然の一致、なのでしょうけど
どちらにせよ、貴女の野望は此処で終わらせます。徳川の世はまだ続きます

【闇堕ち】で攻撃重視でリエに代わります

ハハッ!ボクが知る刺青羅刹とは違うのかしら?
どっちにしろ、かつての羅刹首魁に劣るような者でないのは確かだわ
まぁいいわ、六六六人衆リエが羅刹首魁の刺青羅刹を討たせてもらうわ!
鮮血の影業で足下から無数の血の杭で襲わせて、少しでも隙が出来れば鮮血槍で串刺しにしてやるわ!


ラッセル・ベイ
●戦闘(POW)
まさかとは思うが、私達を倒せる前提で物を言っているのか?
負けた時の言い訳でもした方がまだ良かったと思うがね
後々恥を掻く奴だぞ、それは……と、軽く挑発しておこう

有効な属性が分からんな
ならば、単純に破壊力の高い「剛斧ブロングス」の出番だ
グラウンドも構え、近接距離で戦闘を行う

変身までするとは、中々の強敵の様だ
では、私も本気で行かせて貰うぞ。覚悟せよ
ストレングス、ミスティック、リフレクション、そしてグラウンドのルーンを全て同時起動
攻撃、防御、回復……隙はない、これを崩せるのならば崩してみよ
最前線で依媛君を抑え、味方の攻撃が集中した所に【ハイ・インパクト】の一撃を叩き込む

消し飛ぶがいい


白皇・尊
妻の鉋(f01859)と共闘

「おやおや、美人さんですねぇ…結婚前の僕だったら可愛がってあげたところです」

☆共闘戦術「物量には物量といきましょう」UC【百鬼夜行】を『全力魔法』で攻撃力を増して召喚、更に一撃で消えてしまう弱点を『オーラ防御・かばう・拠点防御』の力により【物理、術、呪いなどあらゆる攻撃から身を守る強固な防御結界を張る符術《守護法陣》】を百鬼夜行に付与して守りを固め補い、鉋に合わせ突撃させます。
「貴女は美しいですが、鉋には劣りますので…式神に嬲り殺しにされてください♡」さらに後方から霊符を投擲し霊子『ハッキング』を仕掛け、霊を使役している彼女術を妨害しましょう。
※アドリブ歓迎


喰龍・鉋
夫の尊(f12369)と共闘、親玉登場って感じかな?美人さんだね、
でもどうやらココロは醜いみたいだ。
共闘戦術、【INARI】発動、攻撃力を選択、尊が守ってくれるなら
防御面は心配ないと思うし、タマにはボクも好きに暴れてみようかな、
尊の百鬼夜行に伴ってね、さぁて力比べをしてみよう!一直線に思いっきりボスめがけて突進するよ、なんなら百鬼夜行も纏めてたたっ斬っちゃう。
生命力を吸収した剣の威力を味わってもらおう。
あんまり恥ずかしいこと言わないでよ尊!切っ先がブレちゃうでしょ!
*アドリブ歓迎


吉柳・祥華
◆心情
ふむ、あれが件の媛かぇ?
まぁ、あの媛に関しては他の者に任せておきなんしょ
妾は、魑魅魍魎共を浄化するとしようかのう

◆戦闘
結羽那岐之(薙刀)と朱霞露焔(霊符)と手に
まずは霊符をばらまき封じてある鬼神を呼び出して【破魔】の力で浄化させていく
妾は薙刀で【2回攻撃・なぎ払い・衝撃波】等で攻撃をしくいく
時に【地形の利用・破壊工作】でユーベルなども発動させて魑魅魍魎どもを駆逐するざんし

◆台詞
おーおー大群でござうんすなぁ
そらなぁ?汝らの境遇も同情しなんすが…
今の汝らは当時の汝らを葬った奴と変わらんざんし
何故、蘇った?
汝らは既に過去の者、所詮は幻、現代を生きる妾達に敵うわけなかろう…今度こそは安らかに眠れ


黒岩・りんご
琴さん(f02819)とともに

現れましたね、依媛
わたくしの親友と、琴さんの姉と同じ顔をしたオブリビオン
でも出会うのも2度目です、もう動揺はしませんわ
「力尽くというのなら望むところ。此度はこの手で討ち滅ぼして差し上げます」

「琴さん、援護お願いしますね!」
琴さんの援護を受けながら、依媛に接近し
喜久子さんを操りながら偃月刀で斬りかかります
わたくしと喜久子さんの2人の薙刀の間合いから逃さぬように
連続攻撃で畳みかけます

偃月刀で斬りつけ、追い詰めたら、さらに懐に入り、偃月刀を依媛に突き刺し地面に串刺しにして足を止めさせ
「これで決着ですわ!」
手刀での【鬼九斬手】にて一刀両断
首を狙います


加賀・琴
りんごさん(f00537)と参加です

やはり、ご先祖様でしたか……
此処へは、上様に献上された神剣に引かれましたか?
それともこの国への恨みからでしょうか
……どちらにせよ、もう迷いません
幾度過去から迷い出ようと、遠き末裔の貴女様の巫女として何度でも貴女様を安らかな眠りに還しましょう

【破魔幻想の矢】で亡霊の軍勢を射貫き浄化します
今です、りんごさん。道は私が作ります!
りんごさんの障害になる亡霊達を射貫き、ご先祖様への道を切り開きます
りんごさんがご先祖様に近づいたら【破魔幻想の矢】を今度はご先祖様一人に集中させて放ち、その動きを制限させて援護します
亡霊に接近されたら大磨上無銘薙刀や影打露峰で切り払います


ペイル・ビビッド
コイツが依媛か…
敵は一人、いや複数
いくら手数を増やしても
あたしたち猟兵が
ここから先へは通さないよ!

第六感で怨霊たちの動きを察知
咄嗟の攻撃・カウンター・武器受けで
攻撃が当たるのを避ける

こらー!
味方に護らせてばっかじゃなくて
自分からけしかけてきなさいよー!

複製描画で取り出しますは
横幅のある大きな置き盾
屈めばドワーフより大きな人も
充分身を隠せる
落書きと甘くみないでよ
見た目は不格好でも
頑丈に出来てますから!

背後をとられないように
相手の動きを見切りつつ
ここから範囲攻撃だ!


郁芽・瑞莉
嗾けた忍び達も自身の力として、
取り込むことは織り込み済みだったのです……。
如何に力を増そうとも。
私……、いいえ。私達がすることは変わりません。
貴女の企みは此処で断ち切り、祓って見せますよ!

神霊体になって黄泉返ってきた亡霊たちに対しては。
戦闘知識や第六感に従って残像や迷彩、
フェイントやスライディングで致命傷にならない様に回避。
避けられない場合は武器で受けたり、オーラ防御で凌ぎ。
カウンターで破魔の力を乗せて衝撃波を出したり、薙ぎ払います。

依媛にはダメージの蓄積分で溜めた力を一気に開放。
破魔の力も乗せて。早業の一撃目で相手の鎧を砕き。
2回攻撃の二撃目で捨て身の一撃で砕いた部分に攻撃を突き刺しますよ!


荒谷・つかさ
現れたわね、刺青の鬼姫。
他の人は知らないけれど、私にとってお前は単なる過去の亡霊に過ぎないわ。
在るべき場所に……躯の海に還りなさい!

破魔の力を宿す「瑞智」を破邪形態(槍の姿)にし【祈祷術・破邪浄魂法】を発動。
怨霊や邪神を討滅する力を強化し、主に召喚された軍勢の相手をして因縁持ちの仲間のフォローをするわ。
槍の穂先に属性攻撃の風の刃を纏い、威力と射程を強化。
怪力で槍を振り回して敵群をなぎ払い、それに伴う衝撃波で範囲攻撃も行う。
敵の攻撃は見切りで回避するか、零式・改三での武器受け防御を狙うわ。

依媛に仕掛ける余裕があるならば、因縁持ちの仲間の本命の一撃を入れるための牽制、囮、捕縛等の支援に行くわよ。


彩瑠・姫桜
依媛、私は、貴女の事、やっぱり嫌いにはなれないの
でも、貴女が過去を率いて未来を壊し、喰らおうとするなら
私は貴女の前に立ち塞がる
何度だって止めてみせるわ

【血統覚醒】使用の上、積極攻勢

亡者の群れを優先撃破
倒すのは一体ずつを、できる限り速く、かつ確実に仕留めて数を減らしていくわね
亡者であっても人の形を取るなら、頭部と胸部は弱点になるかしらね
ドラゴンランス二刀流で、脳天と心臓の両方を【串刺し】で一突きして一撃必殺を目指すわ

依媛への攻撃は心臓への一突きを狙うわ
一撃必殺にしたいのは私なりの敬意よ
倒す敵ではあるけど、苦しんでは欲しくないから

敵からの攻撃は【武器受け】で対応
残念だけど簡単には倒れてやらないわよ


アカネ・リアーブル
戦国の時代を経て、今は天下太平の世
少なくともこの時代を生きる人々は、戦乱の時代を望んではおりません
微力ながらお手伝いさせていただきます
依媛、お覚悟を!

アカネは【茜花乱舞】で、黄泉還りの者たちを倒しましょう
依媛と宿縁をお持ちの方の、邪魔はさせません
2回攻撃、範囲攻撃、なぎ払いを駆使して、依媛へ向かう仲間へ攻撃が行かないよう、こちらで引きつけます
他の猟兵の方々とも協力して、確実に黄泉還りを倒しましょう

ここで依媛を逃せば、全ての戦いが水の泡と化してしまいます
イタチごっこかも知れません。ですがいつか完全に倒せる日まで
戦い続けるのみです
アカネは猟兵、なのですから




「……依媛。貴女、なのね」
 彩瑠・姫桜の何処か懐かしさを孕んだ声音に緋色の幕を周囲に展開しながらその背に土蜘蛛の8本の鋭い鉤爪状の足を召喚し、そして全身から禍々しき神々しさを放つ異形へと変貌させた依媛があどけない童女の様な笑みを口元に閃かせ懐かしげに笑う。
『どうやら、私の事をご存知の方もいる様ですわね。然様でございますわ。我はまつろわぬ土蜘蛛にして、天津神に仇なす荒ぶる神ですわ」
 そんな依媛を見つめて、やれやれと頭を振るは、白皇・尊。
「折角の美人さんですのにそんな姿に変わるなんて勿体ないですねぇ。……結婚前の僕だったら可愛がってあげたところです」
「ちょ……ちょっと尊……!」
 尊の大仰な身振りを見、慌てふためいた様子で告げつつ、満更でも無い様子で大五郎を構えるは、喰龍・鉋。
 尊のからかう様な笑みに小さく息を吐きながら、鉋が依媛を改めてマジマジと見つめる。
「美人さんだね。でもどうやらココロは醜いみたいだ」
「まさかとは思うが、私達を倒せる前提で物を言っているのかね? 負けたときの言い訳でもした方がまだ良かったと思うがね。後々恥を掻く奴だぞ、それは……」
 ラッセル・ベイの挑発に、依媛はただ艶然と微笑むのみ。
 彼女の背後に集う亡者達の群れが鬨の声を上げてそれに応じた。
「ラッセル。依媛は、本気で私達を倒せるつもりの様ですわ」
「フム……確かに、中々の強敵の様だな」
 ポイゼの案ずるような問いかけにラッセルが軽く髭を扱きつつ、頷きを一つ。
 剛斧ブロングス……ラッセルが自ずから手掛けた武具達の中でも、特に破壊力が最高の斧を取り出し、地盾グラウンドを構えて態勢を整えた。
 亡者達の群れがその様子を見て各々戦闘態勢を整える間に、姫桜も又、改めて二槍を構え、そして軽く自らの唇を噛み締める。
 唇から滴り落ちた血が、玻璃鏡の嵌め込まれた銀の指輪、桜鏡に触れた。
 同時に瞳が真紅へと彩られその犬歯が伸びていき、銀の指輪も又、まるで姫桜の中の深淵と誓いを映し出すように、淡く輝いている。
「依媛、私は貴女の事、やっぱり嫌いにはなれないの」
 あの時と同じヴァンパイアの姿と化しながら、姫桜が呟く。
 桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡が同意とばかりに淡く輝き出した。
「でも、貴女が過去を率いて未来を壊し、喰らおうとするなら」
 ――私は、貴女の前に立ち塞がる。
 ……そして。
「何度だって、止めてみせるわ」
『止めることが出来る、と仰るのでしたら、是非私の事を止めて下さいませ。その程度の誓いで、私が背負いし『業』を止めることなど出来はしません事よ』
 亡者の群れ達がそれに応じる様に、鬨の声と共に襲いかかってくる。
 以前対峙した時よりも更に増加していた亡者達の群れに、姫桜が微かに身を強張らせた、その時。
「どんなに亡者を呼び寄せた所で無駄よ。所詮死んでいるのだから」
 鈴の鳴る様な、涼やかな美しい声音と共に。
 緋色の結界を突き破る様に、怒濤の如き鉄のスコールが降り注ぎ、突進しようとする軍勢とラッセル達の間に楔を打ち込む。
 更に……。
「戦国の時代を経て、今は天下太平の世。少なくともこの時代を生きる人々は、戦乱の時代を望んではおりません。微力ながらお手伝いさせていただきます!」
 やや興奮気味な声音と共に、無数の茜色の花弁の群れが舞い、楔を打たれ身動きの取れなくなった亡者達を貫いていく。
「……この気配。貴女ですわね、フローリエ」
 宙を浮かぶ蒼き髪と青きドレスに身を包んだ娘、フローリエ・オミネに小さくポイゼが問う。
 Verschwindenを振るい、クスリとフローリエは微笑んだ。
「久しぶりね、ポイゼ。ラッセルに、姫桜も」
「隣の子はオラトリオですか。愛らしい方ではありませんか」
「あっ、ありがとうございます! ある方にお願いされて姫桜様達の援護に参りました!」
 尊のからかいに微かに頬を赤らめつつ、やや着物が煤けているアカネ・リアーブルが答えた。
(「目指すは綺麗なお姉さん! なのですが……」)
 目前に迫る軍勢と神を相手にこの軽口を叩く余裕があるとは、なんともまあ。
「援軍は大歓迎だよ!」
 鉋がアカネの茜の花弁で倒しきれなかった、フローリエの鉄のスコールによって身動きが取れなくなった者達を大五郎を振るって斬り捨てていく。
 ――そんな時。
 兎の如き速さで駆け抜ける、肌の所々が水膨れを起こしている兎耳の少女がその脇を駆け抜けた。
(「姿は変わりないけど、いつもより体が軽い気がするの!」)
 背筋がゾクゾクする程の強敵の気配。
 肌が粟立つ程の悦びを堪能しながら、ヘザー・デストリュクシオンが口元に鱶の笑みを浮かべて、白猫の爪で残虐に亡者を貫き破壊する。
『その程度の数が増えたところで、私達を止めること等、出来はしません事よ』
 先程までの童女の笑いから一点、艶然とした笑みを口元に閃かせた依媛が呟きと共にこの国への憎悪の念が凝り固まった漆黒の刃をヘザーに向けて解き放つ。
 解き放たれたそれがヘザーの猫兎の衣装を斬り裂き、その胸から鮮血が迸った。
「アハハハハハッ! こんなに強いのね! ゾクゾクしちゃうの! もっともっと壊し合おうよ!」
 斬り裂かれた痛みに酔いながら、ヘザーが駆ける。
 一方、地盾グラウンドを構えズシン、ズシンと確実に前進するラッセル。
 そのラッセルを援護するべく毒の霧を吹き出し敵を牽制するポイゼ。
 姫桜や鉋と共にラッセルの後に続く尊だったが、大量の亡者の群れにその道を塞がれ、進軍もままならぬ。
 更に後方から、依媛が土蜘蛛の足を槍として放ち絶え間無く攻撃を続けてくるため、完全に攻めあぐねていた。
「これは戦力が足りませんね。ならば、物量には物量といきましょう」
 呟きながら、尊が澄んだ声でそれを唱える。
『僕の式神、堪能しちゃってください』
 尊の呼びかけと共に召喚されたのは、鎧こそ小型である物の、夜叉、鵺、牛鬼等の100を優に越える妖怪達。
 ――百鬼夜行。
 妖怪達を模して描かれた式神達が己の力を振るって亡者の軍勢に突撃を仕掛けようとする所に、太もものホルスターから、艶めかしい仕草で霊符《守護法陣》を取り出した尊が青白い妖力を解放し、あらゆる攻撃から身を守るとされる強固な防御結界を妖怪達に張る。
「鉋に続いて行っちゃって下さい♪」
「行くよ!」
 尊の指示に応じる様に百鬼夜行が前進し、鉋が同時に尊から貰った符術【INARI】を詠唱し、シュッ、とした白鎧を身に纏い、大五郎を振るう。
 ――されど。
『私の戦士達に、その様な術は通じませんわ』
 艶然と呟くと共に、涼やかな声音で歌う依媛。
 周囲に展開された緋色の光が更なる輝きを発し、彼女の手勢が受けた傷を瞬く間に癒し、また、無限とも思える程に増殖した。
 ――と、その時。
「これがまつろわぬ土蜘蛛『依媛』、ですか」
 幼いが落ち着きを感じさせる声音と共に、魔法陣が姫桜の隣に浮かび上がる。
 その声音をよく知る姫桜が二槍で目前の亡者を打ち倒しながら、あっ、と思わず声を上げていた。
「理恵……?!」
「姉さん。又一緒に戦えて嬉しいです。それにしても、これって偶然なのでしょうか、それとも必然なのでしょうか、どちらなのでしょうかね?」
 その名を呼ばれた彩瑠・理恵がコトリ、と首を傾げる。
「……姫桜のお知り合いなのですか?」
「妹です。ええと……」
 理恵の答えに、ラッセルの背を守っていたポイゼが丁寧に一礼。
「ポイゼですわ。此方はラッセル。姫桜とは時々ご一緒させて頂いておりますわ」
「そうですか。姉さんがいつもお世話になっております」
「・・・・・・ってのんびり挨拶している場合じゃないでしょ!」
 姫桜が思わず突っ込みを入れるが、しかし理恵は気にしない。
「フム・・・・・・姫桜君の妹は随分と肝が据わっている様だな」
 依媛の全力に全力を持って答えるため、自らの体に刻まれしストレングス・ルーン、地盾グラウンドの中央に嵌め込まれたグラウンド・ルーン、自らの負傷と魔力を高速回復させるミスティック・ルーン、自動で魔法反射障壁が展開されるリフレクション・ルーン・・・・・・全てのルーンを起動させ、本気となったラッセルが重厚な声音で感心した様に頷きを一つ。
 理恵が、いえ、と軽く呟きながら、未だ誰もその元に辿り着けていない依媛の方へと視線を向けた。
「依媛。私は、私が生まれる前に貴女によく似た人がいたと親世代から聞き及んでいます」
『あら? 私の事を知る人が他にもいると? それは光栄な話ですわね』
 少し意外そうな表情で依媛が艶然と笑うのを見ながら、まぁ、以前交戦した姉さんの話からすると偶然の一致、なのでしょうけれどと小さく呟く理恵。
 ――微かに動揺とも、懐旧とも取れる何かを見た気がするのは、理恵の気のせいだろうか。
 ――だが……。
「どちらにせよ、貴女の野望は此処で終わらせます。徳川の世はまだ続きます。『己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力……』」
『……っ!』
 依媛が思わず、と言った様子で息を呑む。
 そして……怨嗟の念が籠もった声音で呟いた。
『灼滅者……!』
『リエ、この身を貴女に委ねます』
 理恵が呟き自らの『ダークネス』と呼ばれた存在・・・・・・リエへと人格を交代する。
「ハハッ! ボクが知る刺青羅刹とは違うのかしら?!」
 理恵・・・・・・否、リエは影の様に付いてくる鮮血の影業を無数の血の杭へと変形させて、依媛の配下の亡者達を貫くが・・・・・・亡者達の軍勢は留まる様子を見せない。
「・・・・・・灼滅者、ね」
 酷く懐かしく感じる響きを思わず口で転がしながら、フローリエがWeiß Märchenに刻み込まれた血のインクを雷へと変えて、亡者達を打ち据える。
(「その言葉に懐かしさを覚えてしまうのは、あの人が関係するからかしら。それとも・・・・・・」)
「皆様の邪魔はさせません!」
 フローリエの雷の周囲を舞い踊らせる様に、空中で鎖舞扇を翻して舞いながら、舞薙刀を茜の花弁へと変えて解き放つアカネ。
 暗赤色と深紅が荒れ狂い、周囲の亡者達を打ち据えていく。
 ――だが・・・・・・。
「ハハッ! これは驚いた! 嘗ての羅刹首魁に劣る様な相手では無いって訳ね!」
『私は、まつろわぬ女神。朝敵や謀反人を導く荒ぶる神。この程度の力で私達を倒すことなど出来ませんわ』
 呟きながら8本の背の足から、裁きの雷を解き放つ依媛。
 放たれた雷がヘザーを、尊の呼び出した百鬼夜行を撃つ。
 体中の痺れに、ビクン、と背筋を震わせながらヘザーが笑った。
「凄いの! 体が軽くなったわたしでも壊せるなんて、とってもとっても楽しいの! 壊したくて、壊したくて仕方ないの!」
「尊の結界を打ち破れる程の雷……でも、ボク達は絶対に負けないよ!」
 鉋を守る様に消えていった尊の召喚した式神達を見ながら鉋が大五郎を振るい、軍勢を薙ぎ払う。
 それでもまだ劣勢だった、その時。
「さぁ、スペシャルライブの始まりだ。私の歌を聴けぇっ! 『君よ、明日を望むなら剣を取れ! 艱難辛苦の群れを薙ぎ払い、扉の向こう側へ駆け抜けろ! 手にした剣、それは未来への扉を開ける鍵になる!』」
 絶望の中に希望を齎す光明の光を伴った歌が、辺り一帯に響き渡った。


「姫桜さん! ラッセルさん! 遅くなってすみません!」
 美星・アイナの歌声に押される様にして姿を現したのは、ルーンソード『スプラッシュ』の柄のスチームエンジンを再起動させたウィリアム・バークリー。
 更に……。
「現れたわね、刺青の鬼姫」
 問う様に呼び掛けながら、自らの飼い慣らす白い大蛇『瑞智』を巨大な白き槍に変化させて呟く、荒谷・つかさ。
 嘗て対峙した猟兵達の姿を認め、依媛は笑う。
「……これも因縁、なのでしょうかね?」 
 淡く微笑みながらそう呟き、軍勢の中に紛れ込ませた忍びをけしかける依媛。
 放たれた無数の苦無がルーンソード『スプラッシュ』の先端で魔法陣を描いていたウィリアムを襲おうとするが。
「嗾けた忍び達も自身の力として取り込むことは織り込み済みだったのです……!」
 決意を秘めた呟きと共に、飛苦無 飛燕を解き放ち、更に10色の合一霊符に『燃』と描く郁芽・瑞莉。
 合一霊符に刻まれた文字が凄まじい爆発を起こし、苦無を丸呑みに。
 それはまるで、縛鎖より解き放たれた龍の如し。
 その様を見ながら、瑞莉が凛とした表情で依媛を睨み付けた。
「貴女が如何に力を増そうと。私……、いいえ。私達がする事は変わりません」
 それはさながら誓いの如く。
 瑞莉の決意に応じる様に見る見る内にその戦闘装束が白く染まっていき、禍ノ生七祇が真の姿を露わにしていく。
 ――その姿、正しく神霊体。
「貴女の企みは此処で断ち切り、祓って見せますよ!」
 そのまま神霊体と化した瑞莉が戦場に向かって駆けていくのを見つめながら、自らの鞘に収まり、静謐を感じさせる濤景一文字に手を置いた鞍馬・景正が静かに呼吸を一つ。
「これ程の軍勢を操ることの出来る強敵ですか。中々に壮観ですな」
「けれど、避難は完了しているんだ。全力で行けるって事だろ、景正」
 携帯食料(肉)を食みながら、悠然とした足取りで景正に続いて姿を現した、仁科・恭介。
「まあでもこんなに沢山いたら……集中できないよね?」
「……気付いていたのですか?」
 恭介がちらりと目配せを送った先にいたのは、和弓・蒼月を構え、まるで気持ちを整える様に胸に手を置いていた加賀・琴と、彼女の肩に励ます様に手を置きながら、喜久子さんを起動させていた黒岩・りんご。
 琴の言葉に恭介が軽く肩を竦ませ、そうですな、と景正が呟いている。
「琴達が、依媛と何らかの因縁を抱えているって事位だけれどね」
「奴は、大奥にまで踏み込んだ倨傲です。後顧の憂い無きこの状況です。私達も手を化します故、お福様の雷が落ちる前に介錯致しましょう」
「そうですわね」
(「依媛……わたくしの親友と、琴さんの姉と同じ顔をしたオブリビオン」)
「りんごさん」
 景正の言葉に同意する様に頷くりんごを支えとするかの様に、言葉にならぬ複雑な思いを込めてその名を呼ぶ琴。
 りんごは、琴を安心させるかの様に、そっと琴の肩を再度叩いた。
「ええ、私も出会うのも2度目です、もう動揺はしませんわ。琴さんの方こそ、大丈夫ですの?」
「……はい。大丈夫です」
 きゅっ、と血が出る程に唇を噛み締めながら琴が頷く。
 唇から滴り落ちる血が、何よりも今の彼女の心境を雄弁に語っている様に思えた。
「ふむ、あれが件の媛かぇ?」
 カラコロと鈴の鳴る様な声で問いかけたのは、吉柳・祥華。
「敵は一人、いや複数か……!」
 ペイル・ビビッドも又、同様に呟くのに、りんごと琴が同時に首を縦に振る。
 祥華が肩を張っている様に見える琴達の様子を見ながらならば、と小さく呟いた。
「あの媛に関しては貴様等に任せるのじゃ。妾は、魑魅魍魎共を浄化するとしようかのう」
「完全な保障は出来ませぬが……私達も可能な限り、協力させて頂きます」
「まあ、あの亡者達の群れは私達が何とかするから、依媛は任せたよ」
「はい。宜しくお願い致しますわ」
 景正と恭介の言葉に背を押される様にりんごが頷き、琴に目配せ。
 その目配せを受けた琴が和弓・蒼月に一本の破魔の矢を番え、合わせる様に、祥華が結羽那岐之と朱霞露焔を構え、ほほ、と優雅に微笑んだ。
「では、参るとするかぇ?」
「はい。……りんごさん!」
 祥華の合図に頷き、琴が破魔の矢を撃ち出す。
 大地と水平に100を優に越える破邪の矢が飛び、亡者の群れ達を射貫いていく。
「反撃……開始ですわ!」
 琴のそれに合せる様にりんごが頷き、景正、恭介、ペイル、祥華等と共に亡者達の群れへと突進した。


「……Icicle Edge!」
 瑞莉の放った符によって詠唱を完成させられたウィリアムが無数の氷の槍を乱れ打ちの如く解き放つ。
「参ります!」
 ウィリアムから五月雨の如く放たれる氷槍、琴の解き放った100を越える破魔の矢、そして此方へと増援に駆けつけた恭介が地面を擦過させたサムライブレイドを振るい、最初から亡者達と交戦していたラッセル達の元に駆け寄っていく。
「参ります」
 恭介達が作りあげた道を駆けながら、目前に迫る敵を濤景一文字を抜き放って一閃、敵を打ち倒し、更に喜久子さんに薙刀を振るわせてりんごが共にその道を切り開かせる。
「此処から先は、あたし達猟兵が通さないんだから!」
 ペイルがおとーさんの平筆を振るって、その先端から塗料を撃ちだし、亡者達を撃ち抜き。
「おーおー、大群でござうんすなぁ」
 祥華が何処か感心した様な間延びした口調で呟きながら朱霞露焔をばらまく。
 浄化の炎と大地の理を操るとされる鬼神を封じ込めた、とされる呪符が亡者達の群れに降り掛かり、かっ、と閃光と共に弾けて散った。
 そんな祥華達の戦いを支えるのは、アイナの信ずる未来の為に戦う者達に捧ぐ希望の歌だ。
 その希望が依媛の軍勢に手を焼いていた姫桜達の耳に届きその傷を癒す力となる。
「これなら行けそうね、アカネ」
「はい! 行きます!」
 混戦故に味方を巻き込む恐れのあるそれを解き放つことを一度止めていたフローリエの呼びかけに、上空から無数の茜の花弁を放ち援護攻撃を続けていたアカネが頷き返す。
『あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ 千(ち)たび嘆きて 恋ひつつぞ居(を)る』
 アカネが高らかに短歌を読み上げたのに合わせる様に、アカネの鎖舞扇も又、茜の花弁へと姿を変える。
 茜色の花弁の乱舞が、次々に亡者達を絡め取るのに合わせる様に、Verschwindenを掲げたフローリエの周囲を血の雷が踊り狂った。
 それはウィリアムの放ち、亡者達に突き立てた氷槍を撃ち抜く様に舞い……茜の花弁に全身を絡め取られ、氷槍に貫かれて完全に身動きの取れなくなっていた亡者達を撃ち抜いていく。
(「ここで依媛を逃せば、全ての戦いが水の泡と化してしまいます」)
 茜の花弁を舞わせながら、アカネは思う。
 けれども、オブリビオンは甦る。
 であるならば……或いはそれは、イタチごっこなのかも知れない。
 ――だが……今は。
(「いつか完全に倒せる日まで戦い続けるのみです」)
 それが、猟兵であるアカネの役割だから。
 自らの誓いを胸に抱き合流してきた恭介や祥華と共にその場に残りながらアカネが叫ぶ。
「りんご様!」
 その言葉にハッ、とした表情になりながらりんごが神龍偃月刀を横薙ぎに振るい。
「景正様!」
 景正は小さく頷きながら縮地の要領で肉薄、間近の亡霊を濤景一文字で一刀両断。
「ラッセル様、ポイゼ様!」
 ラッセルは黙して頷きストレングス・ルーンで強化した自らの腕で、剛斧ブロングスを振り下ろして目前の亡者を叩き潰し。
 ポイゼは扇子を振るって亡者達にも効く毒風を送り込んで彼等の動きを鈍らせた。
「姫桜様!」
 姫桜は二槍で亡者達の頭部と心臓の両方を串刺しにし。
「理恵様!」
 リエは鮮血の影業で生み出した周囲の亡者達をその場に縫い止め。
「尊様、鉋様!」
 結界を張り直した尊が再召喚した百鬼夜行に周囲の敵を一掃させ、鉋が大五郎を横薙ぎに振るい目前の亡者達を殲滅する。
 アカネの意図を察した、白和装と共に神霊体となり、生物的な黒き薙刀と化した禍ノ生七祇で周囲の敵を薙ぎ払いながらつっ、と口から血を流す瑞莉が言の葉を紡ぐ。
「皆さんは先に行って下さい! この軍勢は、私達が引き受けます! どうか依媛を!」
「……Icicle Edge!」
 若葉色と青の混ざり合った魔法陣から乱射されていたウィリアムの氷槍が、名を呼ばれた七人の目前の亡者達を貫く。
 まるで先に進んで下さい、と言わんばかりに。
「こっちが完全に片付いたら私達も合流するから。それまでは頼んだわよ」
 つかさが冷静な表情のままに『瑞智』から放たれた破邪の白光で、亡者達の目を眩まし。
「りんごさん、皆さん……お願いします! どうか依媛を……私のご先祖様を!」
 琴が再び破魔の矢をひょう、と撃ちだし100を越えた聖なる矢で亡者達を一斉に浄化する。
「こらー! 味方に護らせてばっかじゃ無くて、自分からけしかけてきなさいよー!」
 ペイルが叫びながら、おとーさんの平筆で自分の身長より小さい横幅のある大きな置き盾を描き出して、依媛班を執拗に追いかけようとする亡者達の追撃を防ぐ。
「そらなぁ? 汝等の境遇も同情しなんすが……」
 祥華が囁きかける様にしながら、朱霞露焔で動きを止めた亡者達を、結羽那岐之による一太刀で浄化させていった。
「皆のことは、私が守る!」
 大鎌形態のDeathBladeを大上段に構え、Shadow Dancerで夜闇を斬り裂く一条の光の如き軌跡を描き、人々を魅せる踊りを踊りながら、亡者達を踏みつけ、或いは斬り裂き、歌を止めること無く歌い続けるアイナ。
「本当はあの人と壊し合いたいけれど、でも、あいつらがいるなら、こっちでも良いの!」
 全身を朱に染めながら、霰も無い姿を晒したヘザーが笑って目前の忍びの首を白猫の爪で掻き切る様に撥ね飛ばす。
 ――彼女が首を飛ばしたのは、先の戦いで彼女を壊そうとし、壊れた忍びの一人。
 そして彼と同等か……それ以上の実力を持つ亡者達が途絶える事無く目前にいる。
「凄いの、凄いの! 壊しても、壊し甲斐と壊され甲斐のある相手が一杯いるの!」
 心底愉快そうに笑いながら耳をピクリと動かして次の標的に狙いを定めるヘザー。
 太刀を青眼に構えたその男は、如何にも腕が立ちそうで。
 ただ、機械の様に正確な動きで、ヘザーの首を狙って斬り上げてくる。
 その刃をすんでの所で首を引いて躱すヘザー。
 首の皮が切れ、ポタリと血が滴るその様子に心底愉快そうな笑顔を浮かべながら。
「いいの、いいの! もっと、もっと、もっと壊し合うの! わたしはもっと壊し合いたいの!」
 ヘザーが白猫の爪を振るい、達人との命をかけた応酬を行い続ける。
 その脇を恭介が駆け抜け……回復の要であるアイナの死角を見切り、彼女を背面から貫こうとしていた足軽らしき男の喉笛を、狩猟刀『牙咬』で斬り裂いていた。
「恭介君、ありがとう!」
「この位はな」
 アイナの御礼に当然とばかりに軽く手を振り、この場に残ったつかさ達の隙を突こうとする亡者達を確実に斬り伏せていく恭介。
 ――ドクン。
 恭介は依媛の鉋によって醜い、と評された深い憎悪と戦への滾るテンションを糧に全身を活性化させていた。
(「こいつらを全滅させるには、まだもう少し掛かりそうだな」)
 ――だから……。
「私達が行くまで負けるなよ、皆」
 依媛との戦いに向かった姫桜達を見送りながら、恭介がポツリと呟いた。


「アハハハハッ! やっと、やっと串刺しに出来るわ、依媛! ボクの知る刺青羅刹!」
 リエが昂揚と嘲りの混ざった笑い声を上げながら、鮮血槍を振り抜く。
 それまで後方支援に徹していた依媛が、その攻撃を背から生やした8本の土蜘蛛の足の一つで真っ向から受け止めた。
「灼滅者……いえ、闇堕ち灼滅者と言えど貴女一人の力では私には到底及びませんことよ」
「理恵! 後退して!」
 鮮血槍を弾かれ、大きく仰け反ったリエに向かって8本足の内の一本が真っ直ぐに突き立てられる。
 咄嗟にリエを突き飛ばし、schwarzとWeißを十文字に構えて何とかその攻撃を受け止め、両足で踏ん張り立ち続ける姫桜。
 ジン、と重い衝撃が全身を針の様に貫くが、ヴァンパイアと化している今の姫桜にとっては痛手では無い。
「残念だけど、簡単にはやられないわよ」
「麗しい姉妹愛、ですか。まぁ、美しいこと」
 からかう様に笑いながら依媛が両手を天へと掲げる。
 天へと掲げられた両手に生まれ出でるは、紅い光球。
「荒ぶる神の怒り、その身に受けよ!」
 声高に叫ぶと同時に光球から、無数の深紅の光線が周囲へと飛び交った。
 すかさずラッセルが姫桜達の前に立って地盾グラウンドを構えてその攻撃を防ぐ。
 ミスティック・ルーンによる魔法反射障壁がラッセル達を狙った光線を辛うじて反射。
 そのまま光線はあらぬ方向に飛び、雲散霧消した。
「全力で行かせて頂く。当流の基礎にして奥義を馳走してみせましょう……!」
 朗々と告げながら、深紅の光線の軌道を辛うじて見切り、また、時には数多の戦いの中で鍛え抜かれた第六感を働かせてだっ、と依媛の懐に飛び込む景正。
『――鞍馬の名にかけて、貴様を斬る』
 そう……ただただ、真っ直ぐに。
 運足の勢いと自らの怪力、そして破魔の念の籠もった静謐にして怒濤たる濤景一文字を振るう景正。
「……っ!」
 その一閃は、さながら水面に映る月が陽炎の様に揺らぐが如し。
 銀閃と共に放たれたその一撃は依媛の体に深々と食い込んだ。
 それは、流石の依媛を以て初めてたじろがせるには事足りる威力。
 斬り裂かれたその部位から血飛沫が舞うが、しかし依媛は艶然たる笑みと余裕を崩さない。
『少しはやると言うわけですわね。それでは、返礼をさせて頂きましょう』
 呟きながら、握り拳を景正に向けて振り下ろす依媛。
 刺青羅刹と呼ばれる存在の持つ膂力は、剛力であると同時に俊敏。
 触れれば頭蓋骨事破壊されてしまいかねないその一撃を、何とか体を横に逸らす事で肩へと命中部位をずらす。
 グシャリ、と肩が潰れる嫌な音が周囲に響き渡りその苦痛に思わずぐぅ、と唸り声を上げる景正。
「これが、神代の荒神の力と言う事か……!」
「下がって!」
 顔を顰めつつ鬼気迫る表情で依媛を睨み付ける景正に、鉋が素早く声を掛けた。
「尊!」
「ええ、存分にやって下さい、鉋」
 尊が教えてくれた符術で白いシュッ、とした鎧を纏い直し、自らの破壊力を高めながらダン、と大地を蹴って飛び上がり、景正と入れ替わり様に大上段から大五郎を振り下ろす鉋。
 鉋を迎撃しようとする依媛だったが、鉋と槍の様に鋭い土蜘蛛の足の間に、尊の呼び出した青白い妖力の結界に守られた百鬼夜行達が割って入って土蜘蛛の足を受け止める。
「保って少々ですよ、鉋」
「大丈夫! それだったら、纏めて……斬る!」
 そのまま力任せに大五郎を振り下ろし袈裟の一撃を加える鉋。
 生命力を吸収した大五郎が赤黒く禍々しい輝きを放ちながら、依媛の体から生命力の一部を奪い取った。
『私の生命を奪い取るとは……傲慢も甚だしいですわね』
 一瞬、口元に閃かせていた笑みを消し去り、ひゅっ、と手刀を放つ依媛。
 それと同時に生み出されたどす黒い漆黒の刃……それは、この国への憎しみの念が凝り固まった斬撃だ……が鉋の体を八つ裂きにせんと迫ってくる。
「鉋!」
 ポイゼが叫びと同時に毒の霧を撒散らして依媛の放った刃の勢いを削ぎ、すかさずラッセルが地盾グラウンドでその刃を受け止める。
「むぅ……!」
 グラウンド・ルーンにより強化された地盾グラウンドを通じて鎧を無視して殴りかかられる様な衝撃がラッセルを襲い、思わず、と言った様子で目を見開く。
「攻撃、防御、回復……隙を作ったつもりはない私であってもこれ程の衝撃を受けるか……。どうやら、私達を倒せる前提だったのは、虚勢では無かった様だな」
 ミスティック・ルーンで己が傷と今の一撃で雲散霧消したグラウンド・ルーンの魔力を緊急回復させながら、地盾グラウンドを叩き付けるラッセル。
 ドワーフ特有の怪力が乗せられたその一撃は、依媛に微かな隙を作るのに十分な威力だった。
「そこですわねっ! 喜久子さん!」
 2、3歩後退した依媛のその隙を見逃さず、左手で喜久子さんを操りながら、神龍偃月刀に弧を描かせて薙ぎ払うりんご。
 りんごと喜久子さんによる絶え間ない連係攻撃が、依媛の体に少しずつ、少しずつ切り傷を作り上げていく。
 だが……その薙刀の軌道を見切っているのか、全ての攻撃が表皮を斬り裂く程度に留まっている。
「ですが……チャンスですね」
 尊が霊符《解析掌握》を額の前に翳しながら再び100を越える百鬼夜行達を召喚。
 幾度目になるか分からない、あらゆる攻撃から身を守る防御結界を百鬼夜行達に展開しながら、にっこりと笑って、ピッ、と人差し指で依媛を指差す。
「貴女は美しいですが、鉋には劣りますので……式神に嬲り殺しにされてください♡」
「ちょっ、ちょっと尊! あんまりそんな恥ずかしいこと言わないでよ! 切っ先がブレちゃうでしょ!」
 鉋の照れ隠しなどまるで気にせず笑みと共に式神達に命じる尊。
 そんな尊の命を受けた式神達が、我先にと依媛に向かって殺到していく。
『その程度の式神で私を倒せるとお思いですか?』
 両手を広げて自身の式神を召喚し対抗しようとする依媛に笑顔を浮かべながら、いいえ、と告げる尊。
「そんな風には思っておりません。ですので、これを受け取って下さい♡」
 そのまま、手に握っていた霊符《解析掌握》をピッ、と投げつける尊。
 危険を感じたか、咄嗟にそれを躱そうと緋色のカーテンの結界を構築した依媛だったが、その時には鉋が今度は下段から大五郎を振り上げ。
「これで……どうだ!?」
「江戸の地を騒擾させた罪、その身で償って貰う!」
 体勢を立て直した景正が、自らの怪力と破魔の力を載せた濤景一文字で真っ向から斬りかかり。
「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
 姫桜がschwarzとWeißを重ね合わせてまるで一本の巨大な槍の様に依媛の心臓を狙って真っ直ぐに槍を突き立て。
「アハハッ! この六六六人衆のボクが誰かと協力して戦うなんてね!」
 リエが再構築した鮮血槍で、姫桜と逆側の胸を狙って依媛を貫こうとする。
「くっ……!」
「喜久子さん!」
 鉋の攻撃を皮切りに放たれた連続攻撃を深紅の結界で辛うじて受け流す依媛だったが、その時にはりんごが喜久子さんと共に依媛を挟み撃ちにしてその身を薙刀で斬り込んでいる。
「消し飛ぶが良い」
 この時を待っていた、とばかりにラッセルが振り上げていた、『破壊』の属性を持った剛斧ブロングスを振り下ろしていた。
 鉋の攻撃を切っ掛けとした猟兵達の一気阿世の攻勢に耐えきれず、遂に依媛の結界がガラガラと音を立てて崩れ落ち。
 そこに尊が放った霊符《解析掌握》が飛び込み……依媛の胸に突き刺さった。
 同時に凄まじいまでの霊力が依媛の全身を駆け巡る。
 程なくしてその意味に気がつき思わず目を見開く依媛。
『……してやられましたか』
 彼女のその呟きに応じる様に。
 彼女が呼び出そうとしていた式神達が、バラバラと音を立てて崩れ落ちていく。
「これで貴女はこれ以上霊を使役することは出来ません。後は、嬲り殺しにされるだけですね」
 愉快そうな笑い声を上げる尊。
 けれども依媛は、一瞬歪めた顔を元に戻して口元に妖艶な笑みを閃かせ、周囲に張り上げていた緋色の幕を両指で指し示した。
 緋色の幕が依媛のそれに応じる様に明滅し、全方位から全てを焼き尽くす火線となって襲いかかる。
 尊の式神達の結界が破壊され、何十体かが崩れ落ちた。
 肩で息を切らしながらも、尚依媛は笑みを崩さない。
『確かに私の手を一つ封じたのはお見事ですわ。ですが……まだ、足りません』
 依媛がそう呟くと同時に、肩にある土蜘蛛の刺青が怪しく輝く。
 それに呼応する様に……依媛の傷も少しずつ癒え始めていた。
『さて……もう少し楽しませて頂きましょうか?』
 そう呟き、依媛が再び攻勢に打って出た。


「……Wind Beast!」
 先程まで編んでいた若葉色と青の魔法陣。
 その術式を今度は若葉色一色に染め上げ、ルーンソード『スプラッシュ』の先端を突きつけるウィリアム。
 ウィリアムの命に応じて、解き放たれるは鎌鼬の含まれた暴風。
「続くわね」
「アカネの力もお使い下さいませ!」
 フローリエがWeiß Märchenを紐解いた血のインクを雷へと変えて、ウィリアムの暴風に被せて雷雲と化し、その中をアカネの暗赤色の花弁が驟雨の如き勢いで降り注ぐ。
 混ざり合った3つの力は、一つの巨大な暴風雨……それは、人為的な未曾有の大天災……を生み出していた。
「乗らせて貰うわ」
 ヒュンヒュンヒュンと『瑞智』をつかさが天へと掲げプロペラの如く回転させる。
 風の精霊達がつかさの呼びかけに応じて一斉に集まり、フローリエ達の呼び出した未曾有の大天災の中心に立つ台風の目となり、この辺り一帯を破壊せんと暴れ回る重なり合った3つの力に破邪の力を与える『鍵』となった。
『現世に縛られし魂よ。我が祈りにて邪を破り、魂を清め、幽世へと旅立ちたまへ……!』
 つかさが鋭く詠唱すると共に、ぐっ、と自らの手に爪を立てる。
 それによって滴り落ちた血液が霊力に満ちた護符となり、『鍵』としてのつかさを支え。
 破邪の属性を得た大天災が、何時果てるとも無く現れ続けていた亡者達の群れを蹂躙した。
「殲滅の糸口は掴んだわよ。後は頼むわ」
「お任せ下さい、つかささん!」
 破邪の力を与える『鍵』としての役割を担いながら、けほっ、と軽く喀血しつつ呟くつかさに瑞莉が頷き、白の和装姿のままに生物的な黒き薙刀、禍ノ生七祇を振るう。
 未曾有の大災害に勝るとも劣らない衝撃波が、怒濤の如き勢いで発射され、辛うじて大災害による被害を免れた亡者達を纏めて薙ぎ払った。
「これで終わりだと思わないで下さいよ!」
 呟きながら素早くスライディングで地面を走り、天井から奇襲を掛けようとしていた忍びの攻撃を躱して、大災害と衝撃波により、完全に浮き足立っていた亡者達に肉薄し、禍ノ生七祇で薙ぎ払う瑞莉。
 寿命を削り、身体を苛む苦痛さえも依媛との戦いに備えて力として蓄え続け、禍ノ生七祇を一心不乱に振るい続けた。
「皆! もう少しよ!」
 空中で三回転半のパフォーマンスを決め、自らのヘッドセット型サウンドウエポンを通して信じる未来の為に戦う者達に捧ぐ希望の歌に鼓舞と覚悟の思いを乗せて歌い続けるアイナの激励にペイルが士気を高めておとーさんの平筆を走らせた。
 恭介が残像を残しながらサムライソードを振るって亡者達を切り裂き支えてくれるため、ペイルが描き出した横幅のある大きな盾は、亡者達と依媛を分断するという重要な役割を果たし、更に彼女自身が好きな様におとーさんの平筆で亡者達の数を確実に減らすことを可能としていた。
(「りんごさん……」)
 琴も又、先に向かわせたりんごの事を思いながら接近してきた亡者達を、有るときは、大磨上無銘薙刀を振るい、またある時は、影打露峰でその身を貫き内側から破邪の力を発動させ、亡者達を浄化していた。
 ――そうして戦っている間に、どの位の時間が経ったのであろうか。
 その違和感に最初に気がついたのは、それまで壊し合うことが楽しくて楽しくて仕方なく……霰も無い姿のまま何度も何度も、何度でも甦ってくる強敵足る亡者を白猫の爪で殺し続け、自らも体中に傷跡を作り、その痛みすらも快感だと感じていたヘザーだった。
 ――何故ならば。
「? あれ? もう終わりなの?」
 何度も何度も殺しあいを続け、動けなくなる直前まで自分を追い詰めてくれる位楽しませてくれていた敵。
 先程までは何かに操られるかの様に再生し、そして再び壊し合いを続けられたのだが、今度はそれが起きてくる事無く灰となって消えてしまったからである。
「なんでなんでなんで? これじゃあ、つまらない、つまらないの! わたし、もっともっともっと壊し合いたいのに!」
 心底つまらなそうに呟くヘザーの死角から、傷だらけの彼女の首を狙って槍を突き出す戦士。
 ――だが……。
「おぬし、何故、甦った? 汝等は既に過去の者、所詮は幻、現代を生きる妾達に敵うわけなかろう……(「跪け」)」
 祥華がその戦士へと視線を向け、重力で押し潰してひしゃげさせる。
「ふむ……これで漸く安らかに眠ることが出来るのぅ」
「この状況……どうなっているんだ?」
 祥華の背後から忍び寄り、彼女を袈裟に斬り裂こうとしていた亡者の攻撃を、祥華が体を傾けて躱すと同時に、狩猟刀『牙咬』を持って飛びかかり、その喉笛を斬り裂き止めを刺した恭介の問いかけに、そうじゃのう、と応じる祥華。
「恐らく、件の媛に何かが起こったのじゃろう。例えば……」
 ふと、再び襲いかかってきた忍びの亡者へと、結羽那岐之を突き出す祥華。
「今の汝等は、当時の汝等を葬った奴と変わらんざんし。何故、甦った?」
 突き出した結羽那岐之にその心臓を貫かれ息絶えた忍びを破魔の力で浄化させ、続ける祥華。
「貴奴等を黄泉がえらせる術式を封じられた、とかのぅ」
 祥華の言葉に、思い当たる節があったのだろう。
 周囲に亡者達がいなくなったのを確認してから、あっ、と琴が両手で唇を覆いながら、声を上げる。
「心当たりがあるのかえ?」
「はい。最初の戦いの時も、ご先祖様の土蜘蛛の刺青を私が破魔の矢で射ってから……亡者達を呼び出すことが出来なくなっていました」
 何故、今まで忘れていたのだろう、と微かに憂いげな表情になる琴に、ふむ、と祥華が頷きを一つ。
「まあ、そう言うことは良くあることじゃ。そもそも件の媛であれば、以前と同じ刺青を亡者達を召喚する門にしようなどと考えることも無さそうじゃしのぅ」
「……力尽くで浄化するだけじゃ無くて、もう少し手を考えた方が良かったかも知れないわね」
 台風の目となっていたつかさが術を解きポツリと呟くのに、ウィリアムやアイナが顔を見合わせる。
「え~、じゃあこれでコイツらはもう終わりなのぉ?」
 そんなアイナ達の事を気にせず不満げに問うヘザー。
 生まれたままでは無いものの、霰も無い姿となっているヘザーの状態は、恭介の目には少々毒だ。
 ただ、霰も無い事への生々しさよりも……傷だらけの体の痛々しさの方が強く表れてはいるが。
 アイナの歌でも、ヘザーの体に刻み込まれている傷を癒すことが出来なかった。
 恐らくそれは、ヘザーが壊すだけでは無く、自ら壊されることを楽しむ破壊者で有り、快楽主義者であったからだろう。
「いえ、まだです。まだ、終わっていません」
 神霊体状態を解除すること無く、口から血を滴らせながら呟く瑞莉に、ペイルもそうだね! と頷き返した。
「まだ依媛が残っている! 皆、急ごう!」
「そうね。後は片付けるだけだわ」
 ――依媛……ね。
 ペイルの呟きに、応じながら一瞬目を見開くフローリエ。
 ――何故だろう。
 自分によく似た……けれども、何処か空気の異なる桃色の髪の娘が、今、フローリエの目前にいる琴と幸せそうにお茶会をしている夢の様な光景が幻視された。
「あの……フローリエさん、でしたっけ? どうかしましたか?」
「いえ……何でも無いわ」
 キョトン、と瞬きを繰り返す琴の様子にフローリエは軽く頭を振る。
 ――この戦い、こんな既視感をよく覚えるわね。
 何故かしら、と宙に浮いたまま、フローリエが内心で息をついた。
「急ぐわよ、皆。後少しで、この戦いも終わる……!」
 何処か吹っ切れた様にも見える琴。
 けれどもそれは無理をしているのでは無いか。
(「前回の事件のことも、あるものね……」)
 そんな風に琴にちらりと気遣う様な視線を送ったアイナの呼びかけに応じて、ウィリアム達は奥へと向かう。

 ――この戦いに、終止符を打つために。


「たたっ切るよ!」
 白い鎧に傷を負わせながら、あらんばかりの声量と共に、大五郎を唐竹割りに振り下ろす鉋。
 尊の式神達によって一瞬だけ羽交い締めにされた依媛を斬撃は的確に捉えている。
 ――尊の式神達という……多大なる犠牲と共に。
「ラッセル!」
「分かっている、ポイゼ」
 ポイゼの呼びかけにラッセルが傷だらけになった地盾グラウンドを見つめながら頷きを一つ。
(「もう少し保ってくれよ、私の作品達よ……」)
 ミスティック・ルーンにその体を高速治癒され、地盾グラウンドに絶え間なく魔力を送り込みながら、ラッセルが剛斧ブロングスを袈裟に放つ。
 放たれた斧による一撃が依媛の体を捕らえ、その身から血飛沫を舞わせるが、依媛は負けられない、とばかりに右手を挙げて炎弾を呼び出し、それを投擲。
 同時にその背の蜘蛛の足を自在に動かし迫ってくる。
 ――一瞬反応が遅れ、魔鎧ダークネスにその一撃が命中した。
「ぬっ……!」
 痛覚が鋭い音を立て、ミスティック・ルーンがラッセルの傷を癒すが、それでも尚、一進一退の戦いが続いている。
「まだよ! まだまだ!」
「ハハッ、この力! 流石は羅刹首魁の刺青羅刹って訳ね!」
 深紅に染まった瞳から、血の涙を流して寿命が削り取られていくのを感じながらも、諦めること無く姫桜が二槍を心臓に向けて突き出し、血に酔った笑みを浮かべたリエが、鮮血の影業による杭を乱れ打って依媛を執拗に責め立てる。
「倒れぬのなら、何度でも斬り裂くまで!」
 依媛の放った蜘蛛の足を見切りながら、耳朶を持って行かれた景正が、もう、幾度目になるか分からない、真っ向両断の斬撃……鞍馬流の基礎にして奥義足るそれを放つ。
 横一閃にて放たれた濤景一文字の一撃が、幾度もその刃を受け、先に発動した土蜘蛛の刺青の治癒でも追いつかないほどの速度でその傷口を更に拡大。
 ――だが、それでも尚。
 まだ、戦局は膠着状態。
 後一押し、その一押しが、どうしても足りない。
 喜久子さんを操って背面から依媛を襲わせ、自らは側面から神龍偃月刀で斬撃を与えたりんごがそう思った、その時。
「……りんごさん!」
 100を優に越えた聖属性の破魔の矢が、依媛に吸い込まれる様に突き刺さった。
「ぐ……ぐぅあ……?!」
 それは、琴の生み出した破魔幻想の矢。
 更に、風の精霊達の力を借りて空中を浮遊していたウィリアムがルーンソード『スプラッシュ』に氷と風の精霊達を纏わせて袈裟に振るっていた。
「断ち切れ! 『スプラッシュ』!」
 ウィリアムの放った袈裟の一撃が、これまでの戦いで蓄積していた傷をパックリと割り、依媛の体を内側から凍てつかせていく。
「そこね」
「アカネも参ります!」
 澄んだ声音と共に解き放たれたのは無数の暗赤色に染め上げられた鉄のスコール。
 怒濤の如く降り注ぐ暗赤色の鉄柱のスコールとそれを染め上げていた暗赤色の花弁が、依媛の体を滅多打ちにする。
「が……がはっ……?!」
「依媛、お覚悟を!」
 喀血する依媛を毅然とした表情で見つめるアカネの呼びかけに応じる様に。
「依媛! あなたは絶対に許さないんだから!」
「貴女の起こしたこの騒動……決着を付けてあげるわよ!」
 ペイルがレガリアスシューズで依媛を蹴りつけ、続けざまにおとーさんの平筆から塗料を叩きつけて痛打を与え、アイナが黒い螺旋の軌跡を描きながら、依媛の頭部に強烈な蹴撃を与える。
 同時にDeathBladeを剣形態へと変形させそのまま弧を描かせてその身を斬り裂いた。
「つかささん! 瑞莉さん!」
「そうね……逃がさないわ」
 アイナの呼びかけに応じたつかさが白光を放つ瑞智を投擲してその場に串刺しにし、そこに今までの全ての痛みを蓄えた瑞莉が肉薄。
「依媛、受け取りなさい! これが私の全力です!」
 叫びと共に白の和装姿と対になる事で太極を表す生物的な黒い薙刀、禍ノ生七祇を突き出す瑞莉。
 それまでに自らが受けた全ての傷、そして己が寿命をも捧げて力と化させた禍ノ生七祇が先程までよりも数段早く振るわれる事で目にも留まらぬ早業を得て吸い込まれる様に依媛の体を貫いた。
 ――依媛のその背にある土蜘蛛の爪でその白和装を貫かれ、胸から大量の血が溢れ出し見る見る内に白を赤く黒く染め上げていくのを感じながら。
 それは、瑞莉にとって渾身であると同時に捨て身の一撃。
「後は……お任せします……!」
 ガハッ、と喀血しながら叫ぶ瑞莉の合図に応じる様に、恭介が残像を生み出しながら素早く接近。
 依媛のテンションを反映させ、全身の細胞を活性化させていた恭介が、地面を擦過させていたサムライブレイドを振り抜いて、下段から上段にかけてを斬り裂けば。
『楽しいね!』
 その口元に加虐性を感じさせる笑みを浮かべたヘザーが上空から依媛に飛びかかり、その胸元に白猫の爪を振るって突き立てる。
『小娘が……!』
 憤怒も露わに土蜘蛛の爪を放つ依媛。
 それは、空中でとんぼ返りをして急所を逸らしながらも、ヘザーの胸を確かに貫いていた。
 けれどもヘザーは笑う。
「あはははははっ、楽しい! 楽しいの! 壊して、壊されて、壊して、壊されて……! 楽しくて楽しくて仕方ないの!」
 伸長した白猫の爪をグリグリと捻り込む様に胸元に押し込み、空気を入れてその傷口を更に抉りながらヘザーは笑う。
 そこに祥華が視線を向け、瑞莉やつかさ達によって突き立てられた刃を重力で押し込み、更に依媛の傷を抉った。
「貴様は、少しやり過ぎたのじゃ。今度こそ安らかに眠れ」
「グッ……グガァァァァァァァ!」
 この世のものとは思えない絶叫を上げる依媛の姿に、琴の胸が引き裂かれる様な痛みを叩き付けられる。
 それでもぐっ、と唇を噛み締め……琴はじっと先祖たる彼女を見つめていた。
「幾度過去から迷い出でようと、遠き末裔の貴女様の巫女として、何度でも貴女様を安らかな眠りに還しましょう」
 和弓・蒼月に破魔の矢を番え直しながら万感の思いを込めて告げる琴。
 様々な感情が綯い交ぜになるが……それでももう、彼女は迷わない。
 その様子をちらりとポイゼが見やり、呟く。
「ラッセル」
「分かっている、ポイゼ。消し飛ぶが良い」
 『剛斧ブロングス』の破壊属性を最大限に解放するラッセル。
 最後のあがき、とばかりに依媛がそれを見て緋色の結界を再度展開しようとするが……。
「だ~めです。貴女は此処で死んじゃって下さい♪」
 ニコニコと笑いながら尊がまだ生き残っている百鬼夜行に命じて依媛に集中的に痛打を与え。
 そこにラッセルの『剛斧ブロングス』が振り下ろされた。
「こっちも……行くよ!」
 逆袈裟に放たれた鉋の大五郎と共に。
 尊・ラッセル・鉋の同時攻撃に結界を破壊されたその瞬間を狙い。
「リエ!」
「ハハッ、分かっているよ!」
 姫桜が左の心臓を二槍で貫き、リエが鮮血槍で右胸を貫き串刺しにする。
 つかさの瑞智による突きも合わせて完全に身動きを封じられた依媛をきっ、とした表情で見つめながら。
「ご先祖様……『遠つ御祖の神、御照覧ましませ』!」
 ひょう、と巨大な一本の破魔の矢を放つ琴。
 それは真っ直ぐに、離脱したヘザーが抉った胸元の傷を射貫いていた。
 ビクン、と体を震わせる依媛の様子を見て琴が叫ぶ。
「りんごさん!」
「これで決着ですわ! 『我が鬼の手は全てを切り裂く蒼き炎』!」
 応じたりんごが、青白い炎の様なオーラを纏った手刀を既に身動きが取れなくなっている依媛の首に向けて放つ。
『そ……』
 ――それ以上の言葉を、告げるよりも前に。

 依媛の首が宙を舞い……青白い炎の様なオーラに包まれて、焼き尽くされる様に消えていった。

 ――かくて江戸城を騒がせた大きな戦いは、一先ずの終局を迎えたのである……。


「ご先祖様……」
 肩からゆっくりと力を抜き、だらりと和弓・蒼月を下ろしながら琴がそっと息を一つつく。
「彼女は、琴殿のご先祖でありましたか……」
 景正の呟きに、抑揚無く、はい、と頷く琴。
「然様でございましたか……」
「……今度こそ、お休み」
 それ以上、何を言ってやれば良いものかと微かな迷いを見せ、一先ず頷く景正と、まるで祈る様に呟く恭介。
 お休みというその言葉は、まるで敵として、ではなく、琴の先祖として依媛を見ているかの様に、少しだけ優しかった。
「琴さん、大丈夫?」
 気遣う様なアイナの呼びかけに琴が振り向き、そっと透き通りそうな笑みを浮かべる。
 それは、悲壮な覚悟をした者のみが出来る、確固たる笑みだ。
「もう、決めたことですから」
「そう……でも、前の戦いのこともあるんだから……必要な時は、無理せずに声を駆掛けてね?」
「ありがとうございます、アイナさん」
 アイナの呟きに琴の代わりに礼を述べたのは、りんご。
 それ以上誰も何も言わず猟兵達は後片付けをし、静かにその場を後にした。

 ――要人達に誰一人の犠牲者も出すことも無く、江戸城を守り抜いた……その誇りを胸に抱いて。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『お江戸は良いとこ、一度はおいで』

POW   :    普通に散策。倭国の情緒を感じましょ。

SPD   :    芸者さんやちんちろりん。遊べる所も色々あるよ!

WIZ   :    神社や仏閣めぐったり、文化を知るのも楽しいよ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡 次回更新予定日は5月6日(月)です。プレイング受付期間は、5月3日、8時30分~5月5日となります。何卒、宜しくお願い申し上げます*


 ――かくて、江戸城を騒がせた一大事件は、此処に終わりを告げた。
 この次に待つのは、江戸城城下町を自由に散策するその時間だ。
 宵闇の江戸の町を歩くも良し。
 昼や夕暮れ時の江戸の町を歩くも良し。
 或いは、他にやりたいことがあるのであれば、それをやっても良いかも知れない。
 ――いずれにせよ、宵の口であるこの時間から、1日ばかりは江戸城下町を自由に歩く時間がある。
 さあ、猟兵達よ。
 今は、一時の休息を楽しむが良い。
 この日常は、君達猟兵の苦楽が結実して生まれた確かな報酬なのだから。
 
 
鞍馬・景正
祝融の禍は免れましたか。
このまま久しぶりに実家に帰っても良いのですが――念の為、幕閣の方々に仔細を報告しておきましょう。

今回の件は警備の落ち度では無く、過去の亡霊が騒ぎに来たようなもの。
上様や老中方なら事情は承知して頂けましょうから、何人にもお咎め無きよう請願致します。

しかし諸大名も登城する端午の節句を前に大胆不敵な襲撃、これほどの事が何度もあるとは思われませんが、対策も必要かも知れませぬ。

――私が再出仕して常駐していれば良い?
いや、それは少し――別に私も遊び歩いているわけでは……ここで若者全体への批判を申されましても……!?

――嗚呼、説教好きの重臣方の相手はオブリビオンより百倍は疲れます。


仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
POW
倭国の服に着替えて宵闇の街中を歩く
「ダークセイヴァーとはまた違った空だね」
赤ちょうちんを見つけて店に入り注文
「あ、なんかおススメな物を。随分お腹がすいてしまってね」
城中の戦闘を思い出しつつ飯を食べる
思いの他駆け回ったため空腹がひどい
「あ、それも美味しそう。それは癖があるやつです?」

ある程度お腹がいっぱいになったら隣にいる方に声をかけてみよう
「兄さん、もしかしていける口です?なら一緒に飲みません?」
「肌が珍しい?そうなんですよ…故郷はあまり日がでないところなので」
「ここら辺では何が有名なんですか?」
「じゃ、明日はそこを見て回りたいですね」
明日一日はオフ
「ゆっくり休もう」




(「祝融の禍は免れましたか」)
 戦いが無事に終わり、其々に夜の江戸に繰り出していく猟兵の仲間達を見ながら、鞍馬・景正は安堵した様に肩の力を抜く。
 そっと深呼吸を行うや否や、高鳴る戦いへの緊張が緩んでいくのを感じた。
「このまま久しぶりに実家に帰っても良いのですが――念の為、幕閣の方々に仔細を報告しておきましょう」
 そう思い、もう一度江戸城の表に戻る景正。
 そこでは江戸城城下町の復興及び、江戸城の再建のために忙しない様子の幕閣の者達が数人いた。
「おや、元書院番士の景正殿ではございませんか」
「お久しぶりにございます」
 幕閣の一人が彼の姿を認めて、声を掛けてくるのに一礼。
「景正殿が此方にいらっしゃっていた、と言う事は今回のこの騒ぎは……」
「然様でございます。今回の件は警備の落ち度では無く、過去の亡霊が騒ぎに来たようなものです。上様や老中方なら事情は承知して頂けましょうから、何人にもお咎め無きよう請願致します」
 刀を左に置き丁寧に一礼し事の仔細を報告する景正にそうですな、と彼は頷いた。
「畏まりました。景正殿が天下自在符を得、諸国を放浪し数多くの魑魅魍魎を倒したとの噂は聞いております。その様に采配させて頂きましょう」
「ありがとうございます。しかし……」
 一礼したところで、ふと表情を曇らせる景正。
 その先に続くであろう言葉を想定したか、確かに、と続きを促す幕閣。
「諸大名も登城する端午の節句を前に大胆不敵な襲撃、これほどの事が何度もあるとは思われませんが、対策も必要かも知れませぬ」
「流石にそう何度もこの城を襲撃しよう等と思う者はいないとは思いますが……それはまあ、確かに」
 そこまで呟き考えている事、暫し。
 はた、と名案を思いついた様に幕閣が頷きを一つ。
「それでしたら私達を守るため、景正殿が再出仕し、常駐していれば良いのではありませんか?」
「は? ……私が再出仕して常駐していれば良い? いや、それは少し――別に私も遊び歩いているわけでは……」
 景正の弁明にまあそうでしょうが、と幕閣が頷きを一つ。
「ですが、最近の若者は皆、やれ修行だ、魑魅魍魎退治だ等と理由を付けて外に出たがる。あのお方も度々いなくなっておりますし……全くもう少し江戸幕府の内政についても目を向けて貰わねば……その辺り、最近の若者はもう少しきちんとですな……」
「い、いや、ここで若者全体への批判を申されましても……!?」
 慌てて弁明を行おうとする景正に対し、ほぅ、と目をぎらつかせる幕閣。
「……景正殿。まさか魑魅魍魎の退治を名目に遊び歩いているわけではありませんな?」
「いや、私はきちんと過去の亡霊達の退治を……」
「その噂は信じておりますが……万が一、と言うのもございますからな。取り敢えずそこにお座り直し下さいませ。この際です。腹を割ってもう少しお話を聞かせて頂きましょうか……」
 そのまま正座をする様に険しい視線で促され、やむなく正座をし、こんこんと説教を垂れる幕閣のそれを聞き続ける景正。
 ――嗚呼。
(「説教好きの重臣方の相手は、オブリビオンより百倍は疲れます」)
 何時果てるとも無く続きそうなそれを聞きながら、景正は思わず溜息を一つつくのだった。


「大変だったみたいだね」
「恭介殿……待っていて下さったのですか」
 何処かよろよろとした足取りで肩に包帯を巻き、疲れた表情で姿を現した景正に微笑を零す仁科・恭介。
 恭介の姿を見て景正がおや、と言った表情になる。
「他の者達は既に……?」
「其々に江戸の町に出ているよ。僕も折角だし出かけようかと思ったんだけれど、一人だと少しね。景正さんは、この町詳しいでしょ?」
「ええ、以前は務めていた身でもございますからな。勿論、恭介殿が望むのであれば、良い居酒屋をご紹介しましょうか?」
「それは良いね。戦場で走り回ったから、空腹も凄くてね」
 先の戦いで戦場を縦横無尽に駆け回り仲間達の援護を行っていた時のことを思い出しながら、恭介が微笑む。
 携帯食料(干し肉)のストックが大分尽きているのを確認し、この戦いが終わったら又確保しないとね、と考えている恭介にそれでは行きましょうか、と恭介を促す景正。
「しかし、この世界の衣服は変わっているね」
 店の人に着付けをお願いし、自らその裾に腕を通した恭介の呟きにそうかも知れませんな、と相槌を打つ景正。
「まあ、UDCアースにはこの世界と同じ様な衣服があったとの事ですが。確かに少し独特かも知れませぬ」
 他愛も無い話をしながら、宵闇の中で朧気に輝く月を見つめる恭介。
「ダークセイヴァーともまた違った空だ」
「うむ……そうですな」
 恭介が何処か懐かしそうに目を細めそう呟く姿に故郷を思う心を見出したであろうか、静かに相槌を打つ景正。
 そんな風にして夜空の下を歩いている恭介の目に赤ちょうちんの光が目に留まった。
「着きましたぞ。この店は仕事を終えた後、私がよく行っていた店です」
「それじゃあ、入ってみようか」
 景正の懐かしそうな声音に頷き、恭介が居酒屋を訪れる。
「いらっしゃい」
 店の店主が気軽に声を掛けてきたのに、景正が会釈を返した。
「あ、なんかおススメな物を。随分お腹がすいてしまってね」
 景正の会釈に会釈を返す店主に恭介が人好きのする笑みで注文すると、はいよ、と軽く返事を返し酒と共に、お通しとして漬物を用意する店主。
「まっ、ちょっと待ってて下さいや。景正殿もいらっしゃるんなら直ぐに刺身でも用意しまさぁ」
 そう言って早速魚を丁寧に切りそろえ始める店主。
 その様子を微笑んで見ながら用意された冷酒の注がれたカップをぶつけ、ぐい、と一飲みする恭介と景正。
 そうして用意されたお通しを食べ、うん、と恭介が一つ頷く。
「結構いけるね、これ」
「此方は江戸幕府が開かれてから代々続いていたお店でもありましてな」
 そう呟き頷く景正と恭介の目前に置かれる大量の魚の刺身。
 これは、と唸り声をあげる恭介に店主がサービスですよ、と微笑んだ。
「江戸の町を守ってくれたのは皆様だと、お話は伺っております。これから復興する必要がありますが、まぁ、この位の御礼はさせて頂きますぜ」
「それじゃあ、遠慮無く頂くよ」
 そのまま箸を刺身につける恭介。
 新鮮な魚の盛り合わせに舌鼓を打つ恭介に、続けて揚げ物が用意される。
「此方も食べて下さいや」
「ふむ、揚げ物ですな」
「あ、それも美味しそう。それは癖があるやつです?」
 用意された揚げ物を見て、頷き掛ける景正に問いかける恭介。
「中々良い物ですぞ。きっと恭介殿の口にも合いますかと」
「それでは頂きます」
 激しい戦いの後の酒と、つまみと料理の数々……。
 激しい空腹を満たしてくれるには十分以上の美味で有り、また量であった。
 暫しそうやって食事を堪能した恭介が、ふと、隣で酒を飲む男に呼びかける。
「兄さんも、もしかしていける口です? なら一緒に飲みません?」
「まあな。って事は、アンタも結構いける口かい? それにしても……珍しい肌だね」
 気さくに隣の男に話しかける恭介に景正が微笑み、男も気を良くしたが目前の酒を一飲みしてから問いかける。
「そうなんですよ……故郷はあまり日がでないところなので」
「へぇ……そうかい」
 恭介が告げたそれに男が相槌を打ち、景正が確かにと言った様に納得の表情を一つ浮かべた。
(「恭介殿の生まれはダークセイヴァー世界、ですからな」)
 オブリビオンの絶望に覆われた闇の世界。
 その在り方決して救えぬ者達の事を思い出しながら景正が静かに酒に口を付ける。
 暫く男と話をした後、男が勘定を払いその場を去ってから、改めて恭介が景正にそう言えば、と問いかけた。
「ここら辺では何が有名なんだろうね?」
「むっ、そうですな。この辺りで有名所と言えば……」
 幾つかある候補を景正が告げると、成程、と恭介が一つ頷いた。
「じゃ、明日はそこを見て回ろうか」
「ふむ。もし時間の都合が合えば、私もご一緒しましょうか」
 ――明日一日はオフなのだから。
 休息できるだけの時間は十分ある。
 だから……。
「ゆっくり休もう」
「そうですな」
 恭介の言葉に景正が頷き、冷酒を注ぎ合い、そっともう一度冷酒の入ったカップを合せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラッセル・ベイ
異世界の賭け事と聞いて、賭場へと来てみたが……
アックス&ウィザーズとそこまで変わりはないのだな
まあいい、始めようか

折角だし、財布にある全額を使う。一回限りの大勝負だ
別に勝とうが負けようが、私としてはどちらでもいい
勝てばこの後に色々な物が買える、負ければ悔しい
ただそれだけの事

さて……どちらに転ぶかは分からんが、散策というのも悪くはない
賭けに勝ったならば、珍しい素材が売っていれば買うだろう
負けたならば、ちょっと悔しい思いをしながら断念するだろう
ま、全ては賭けの結果次第よ

あぁ、ポイゼも賭けるらしいな
私が負けて、運良く君が当たったら何か奢ってくれ




 ――同時期、深夜の賭博場。
「異世界の賭け事と聞いて、賭場へと来てみたが……」
 ざわつく人々の様子を見ながら、ラッセル・ベイが軽く髭を扱きながら呟く。
 治外法権的な場所である寺で行われているそれは、今回の戦いで起きた江戸の災禍等、何も気にした様子も無く賑わっていた。
 壺の中にサイコロを入れコロコロと胴元であろう男がサイコロをツボの中で回し、ガッ、と地面にそれを置く。
「さぁ……丁か、半か!?」
 丁! 半! と其々に声を上げる男達の賑やかな声を聞き胴元がパッ、とそれを開けた。
「イチロクの丁!」
 男達が其々に声を上げながら、木板のやり取りをしているのを見ながら、成程、とラッセルが頷きを一つ。
(「ルールこそ違うが、アックス&ウィザーズの賭け事とそこまで変わらないのだな」)
「ラッセル、どうか致しましたか?」
「なに、何でも無い。始めようか、ポイゼ」
 木板を手持ちの全額を出して購入し丁半が行われている場所へと座り込むラッセル。
 どっか、と座り込んだ新しい来訪客に、男達がちらりと目線を送るが、猟兵故に悪目立ちする様子は無い。
「さて、お客さん、幾ら賭ける!?」
「むっ……全額だ」
 そう呟き、先程換金した木板を全て前へと押し出すラッセル。
 いきなり全額を賭けると言うその行為に、おお、と唸りの声を上げる男達。
 男達の様子に特に気にした様子を見せずに一つうむ、と頷くラッセル。
 別に勝とうが負けようが、彼にとってはどちらでも構わない。
 勝てばこの後に色々な物が買えるが、負ければ悔しいというのはあるが。
 逆に言えば、ただ、それだけのことなのだ。
 とは言え、普通の町人達ではこうも大胆にはなれないだろう。
「江戸っ子だねぇ、お客さん。それじゃあ……行くよ!」
 威勢の良い掛け声と共に、壷に2つのサイコロを入れそして壺をシャカシャカと振ってダン、と地面に置く胴元。
 ――正真正銘一回限りの大勝負。
「さぁ、丁か、半か、どっちを選ぶ!?」
「では、半だ」
 ラッセル以外の者達も其々にどちらかを選び、そしてパッ、と壺が開かれる。
 その結果は……。


 ――ヒュー、ヒュー。
 何処か清々しくもそこはかとない哀愁を漂わせながら、ラッセルが夜店を回り……とある店に置かれていた素材に目を止める。
「むぅ……中々良い素材があるが……」
 そう言って肩を落とし、内心で悔しさを覚えるラッセル。
 先の賭けの結果は、グイチの丁。
 即ち、ラッセルの負けであった。
「……ラッセル。こういうこともあるのですから、賭け事はくれぐれも程々にして下さいませ」
「何、こういう事もあるのが賭け事、と言う物よ。今回ばかりは仕方あるまい」
 運に恵まれぬ事は、誰にでも有る。
 今回は、偶々それがラッセルに回ってきただけのことだ。
 が……やはり負けたものは悔しい。
 ふぅ、と溜息をつくラッセルだが、ふと何かを思い出したか、ところで、とポイゼに問いかけた。
「ポイゼも賭けるとの事だったな。君の方はどうだったのだ?」
「私ですか? ふふっ……勝ちましたわよ」
 そう言ってジャラジャラと懐からお金を取り出すポイゼ。
 ラッセルがそれを見て、むぅ、と唸りを一つ。
「どうやら運は君に味方したようだな。もし良ければ何か奢って貰えないか?」
「ふぅ……仕方有りませんわね。このまま賭け事に全額賭けて負けた時の事を反省して頂くというのも考えましたが……まあ、それでラッセルが空腹のままに倒れてしまってはどうしようもありませんものね」
 やれやれと言う様に溜息をつくポイゼに、すまぬ、と礼を述べ、静かに夜店を後にし、近くの店に入り食事と酒を楽しむラッセルとポイゼ。

 ――それは、仮契約者と仮契約精霊の……穏やかな一時。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
遊ぶところをいろいろまわってみたけど、いまいち楽しくないの……。
げーしゃとか、ちんちろりんとか、何が楽しいのかよくわからないわ。
やっぱり壊しあうのが1番楽しいし気持ちいいの。
ううー、つまんない!疲れちゃったのー。
その辺の草むらで丸くなって寝ちゃうの。
草むらで寝るの、気持ちいいから好き。
そうだ、猟兵のみんななら強いしわたしと壊しあってくれるかも!
起きたらヒマそうな人探してお願いしてみよー!
きっとだれか1人くらい壊しあってくれる人いるよね?
ふふふ、楽しみー!おやすみなさーい。




「うう~ん、あそぶところをいろいろまわってみたけど、いまいち楽しくないの……」
 ――ジャラジャラ、ジャラジャラ。
 自分の懐にある大量のお金の音を聞きながらも、ヘザー・デストリュクシオンのウサ耳は残念そうに垂れ下がっている。
 例えばげーしゃ。
 皆で騒ぎ、飲んで食べて歌ってと言った様子で有り、時折言葉遊びなどもやっていたが……そんなところにいても、何も楽しく無かった。
 続いては、ちんちろりん。
 賭博場で行われている遊びの一種だという事で試しにやってみたら何だか六ゾロが出てあらし等と騒ぎ立てられ、大量のお金を貰うことが出来た。
 どーもとと呼ばれていた相手は目なしだった事からがっくりと肩を落としていたのだが、これも意味がよく分からなかった。
(「う~ん、やっぱり壊しあうのが1番楽しいし気持ちいいの!」)
 まだ癒え切れていない体中の傷を見ながら、ヘザーは思う。
 尚、猫兎の衣装は既に修繕が終わっていた。
 そのままの格好で外に出て行こうとしたら、他の猟兵達に慌てて止められ大急ぎで修繕され、そして着せられたのだ。
(「別にあの格好でもだいじょーぶだと思うんだけどなぁ……動きやすいし」)
 その時の猟兵達……特に女性陣……の事を思い出しながらコトリ、と首を傾げるヘザー。
「ううー、つまんない! 疲れちゃったのー」
 壊し合いはとっても楽しかったけれど。
 でも、皆がしている遊びというのは、何が面白いのか理解できなかった。
 これは、ヘザーがまともな教育を受けていない事にも起因しているのだろう。
 取り敢えずその辺の草むらを見つけて猫の様に丸くなる。
 ふわりとした草達の柔らかい感触と、匂いがヘザーの鼻腔を擽った。
(「草むらで寝るの、気持ちいいから好きなの」)
 何時からだろう。
 こんな風に草むらで丸くなり、そのままトロトロと微睡みに落ちていく事を、楽しい、と感じる様になったのは。
 そのまま眠りの闇へと落ちていきそうになった時……ふと、ヘザーの脳裏に天啓が閃いた。
(「そうだ! 猟兵のみんななら強いし、わたしと壊しあってくれるかも!」)
 ――ワクワク、ワクワク。
 先程まで垂れ下がっていたウサ耳がピン、と立つ。
 自分の中の壊し合えるという感情が胸に宿り……ヘザーは壊し合いへの悦びを抑えきれなくなってきていた。
(「起きたらヒマそうな人探してお願いしてみよー!」)
 果たして、そんなヘザーに付き合ってくれる猟兵がいるのかどうか。
 それは、起きて聞いてみなければ分からないけれど。
 でも……楽しみなのは間違いない。
 ――それに、きっと。
(「だれか1人くらい壊しあってくれる人いるよね?」)
 そう、思えるから。
 それこそ、楽しみというものだ。
 ――でも、今は取り敢えず。
 この眠気を払う事の方が重要だった。
(「ふふふ、楽しみー!」)
 高鳴る胸の鼓動を眠気で抑え込みながら。
「おやすみなさーい」
 そう誰に共無く呟き。
 ヘザーは一人、スヤスヤと眠りに落ちていく。

 ――壊し合いへの楽しみに歪んだ笑みを浮かべながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

喰龍・鉋
夫の尊(f12369)と行動*アドリブ歓迎
尊と色々縁がありそうだし、ここは尊にエスコートしてもらおうかな!
へぇ尊の神社の分社此処にもあるんだねぇって当たり前っちゃ当たり前…?あ、だ、旦那がお世話になってます…色々頂いちゃったけど良いのかな…?ヤオヨロズって言うと、いわゆるいろんなものに神様が宿るっていう考え方だっけ、ふふん、ボクも多少は勉強してるんだよ!
とは言えそれでも知らないことが一杯だ
UDCでも見覚えがあるようなものもあって面白いねぇ
巫女装束かぁ、尊の神社でお手伝いするのに一着こさえてみるのも
良いかもね、あははーでも、似合うかどうかは……どうかな?


白皇・尊
妻の鉋(f01859)と行動
さ、事件も解決したので2人でデートしましょう。
今回は僕と一緒に神社仏閣巡りですよ!

☆神社仏閣巡り
「まずここにお参りしませんとね…僕ら白狐一族の拠点でもある白狐神社の一つです」
江戸の片隅にひっそりと立つ白狐神社の分社でまずは甘酒とお稲荷さんを頂いていきます。
「八百万の神と言うだけあり、この世界には沢山の神様がいます。僕らが祀る白狐の始祖霊から、鉋も知っている有名な神様まで実に様々ですね」
それから有名なお寺や仏殿にも鉋を案内して、解説しながら2人で観光デートを楽しみましょう。
「鉋には巫女装束なんかも似合いそうですね、いずれ着て貰いましょうか…クスクス♡」

※アドリブ歓迎




 ――翌朝。
「さ、事件も解決しましたので2人でデートと行きましょうか。今回は僕と一緒に神社仏閣巡りですよ!」
「あっ、それ良いね! もしかしてこの辺りにある神社って、尊と色々縁があるのかな?」
 一日休んで回復した白皇・尊の呼びかけに、喰龍・鉋が笑顔になる。
 テンションを上げている鉋に、そうですよ♪ と尊が頷きかけた。
「僕達白狐一族にとって重要な拠点もありますし、他にも色々な神社がありますからね。僕達にはとっても大切な場所なんですよ、鉋」
「へぇ、そうなんだね!」
 尊の説明に、感心した様に頷く鉋。
 最愛の夫と共に、自分達の手で守ったこの地を巡ることが出来る幸福。
 こんな事は早々無い。
 そんな事を思いながら、自分の隣を歩く鉋に満足げに微笑み、尊が歩みを進めて江戸の片隅にひっそりと建つ神社へと向かう。
「まずここにお参りしませんとね……僕ら白狐一族の拠点でもある白狐神社の一つです」
「へぇ、尊の神社の分社、此処にもあるんだねぇ。って、当たり前っちゃ、当たり前……?」
 軽く首を傾げる鉋にそうですねと微笑み、優しく鉋の頭を撫でる尊。
 そうして尊達が神社に足を踏み入れた時。
「ご当主様」
「お久しぶりですね。元気そうで何よりです」
 恭しく頭を下げながら現われた白狐に大仰に頷く尊。
 周囲の空気は、昨日の戦いによる被害とは無関係だと言う様に穏やかで優しい清浄な光に包み込まれている。
(「やっぱり僕達の一族の作った神社は強固ですね」)
 薄らと普通の人々には気付かれない程度に張られた青白い妖力の結界。
 その結界が江戸に起きた災害からこの神社を守ってくれたのだ。
「江戸城を守ることは無事に上手く行ったようですね。流石でございます」
「いえいえ、これも世界を見守る《白狐》一族の長としては、当然の仕事です」
 静かに頭を垂れる白狐に鷹揚に頷く尊。
「あ、だ、旦那がお世話になってます……」
 鉋が慌てて礼を述べると、白狐は鉋にも恭しく頭を下げた。
「ご当主様の奥方様。いつも私共のご当主様と共に戦って頂き、誠にありがとうございます。我等白狐一族を代表し、御礼を述べさせて頂きます」
「え……ええっ?! そんな風に言われちゃうと、ボク照れちゃうんだけれど……」
 ポリポリと気恥ずかしそうに頭を掻く鉋に優しく微笑んだ尊がそれよりも、と白狐に問いかけた。
「いつもの物は、ありますか」
「はっ……確かに此方に。どうぞ、お納め下さい」
 白狐がそう告げ、お稲荷さんと甘酒を尊と鉋に手渡す。
 想定していたよりもずっと多くの量が貰えた事に、思わず鉋が目を丸くしていた。
「それではまた来ます。あなたは引き続き江戸の民達を此処で見守っていて下さいね♪」
「はっ……御意のままに」
 そう告げて一礼し、そのまま尊達を見送る白狐。
 神社を後にしながら、手元に一杯の御稲荷さんと甘酒を見ながら首を傾げる鉋。
「色々頂いちゃったけど良いのかな……?」
「勿論ですよ、鉋。それも僕達への報酬です」
 御稲荷さんにパクつき、甘酒を頂きながら他の神社を尊のエスコートで回る鉋。
 尊は周囲の神社を回る間に、江戸城城下町内でも出たであろう犠牲者達の魂でも存在しないかと思ったが、不思議な事にそう言う様子は無かった。
(「ふむ……もしかしたら、そう言った魂は昨晩の内に誰かが浄化したのかも知れませんね」)
 内心でそんな事を思う尊に神社仏閣を巡りながら鉋が一所懸命な表情になって言の葉を紡ぐ。
「ヤオヨロズって言うと、いわゆるいろんなものに神様が宿るっていう考え方だっけ、ふふん、ボクも多少は勉強してるんだよ!」
 鉋の言葉に心底嬉しそうな笑みを浮かべて、尊が頷きを一つ。
「よく勉強していますね、鉋。あなたの言うとおり八百万の神は、色んな物に神が宿るという考え方です。ですから、この世界には沢山の神様がいます。僕らが祀る白狐の始祖霊から、鉋も知っている有名な神様まで実に様々ですね。例えば……」
 と、何体かの神について説明を行う尊に感心した表情になる鉋。
「やっぱり尊は凄いな。ボクの知らないことを一杯知っていて……」
「ふふ、僕達白狐一族も、そんな稲荷神達の様なものです。この位の知識は持ち合わせていますよ」
 微笑む尊に鉋がそう言えば、と思い出した様に呟いた。
「UDCでも見覚えがあるようなものもあって面白いねぇ」
「そうですね。鉋の言う通り、UDCアースの江戸幕府に通ずる物がサムライエンパイアにはあります。だからこそ、UDCアースで見覚えがあるようなものも多くあるのでしょうね。例えば……」
 そう言って尊が指差したのは、神社の中を忙しなく歩き回る巫女達の着る巫女服。
「あれもそうですね」
 と、そこまで話したところで、ふと、と悪戯めいた笑みを口元に閃かせる尊。
「鉋にはあの巫女装束なんかも似合いそうですね」
「えっ? あの巫女装束?」
 呟く尊にパチクリと目を瞬かせる鉋。
 彼女の目は先程から走り回っている巫女達の身に着けているそれらの巫女服へと釘付けになっていた。
「巫女装束かぁ、尊の神社でお手伝いするのに一着こさえてみるのも良いかもね」
 あははーと笑い、でも……と困った様に軽く手を左右に振る鉋。
「似合うかどうかは……どうかな?」
 首を傾げる鉋にフフ、と微笑する尊。
「鉋にならきっと何でも似合いますよ。ですから……いずれ着て貰いましょうか……クスクス♡」
「まあ、その時はどんな格好になっても……笑わないでね?」
 少しだけ上目遣いに呟く鉋に大丈夫ですよ、と悪戯っぽい笑みを浮かべ。
 尊が、そっと鉋の額に唇を落としたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
江戸の街は風水思想の四神相応に則って都市計画が作られたと聞いたことがあります。
要になるのは神社仏閣。効験を最大限引き出すために、竜穴――パワースポットの上に作られたとか。
神州の術式、気になりますね。実際に回ってみましょう。

こういう時に宇宙バイクは便利です。事故を起こさないよう、安全運転で移動します。

まずは江戸城の鬼門封じ、寛永寺と浅草寺。そこから時計回りに『青竜』隅田川を見ながら裏鬼門日吉神社まで、寺社巡りをしながら江戸の街を見て回ります。

竜脈の力、ぼくの術式に応用出来ないかななどと考えつつ。
土属性の術式は、今はまだ手札が少ないですからね。地脈の力を扱えるようになれば、また選択肢が増えます。




 ――一方その頃。
(「そう言えば、江戸の街は……」)
 宇宙バイク『ダンシング・スプライト』に乗り、エンジンを掛けながら、ウィリアム・バークリーはふと思う。
(「風水思想の四神相応に則って都市計画が作られたんでしたっけ」)
 そんな話を誰かから聞いた様な気がするが、それは一体誰からだっただろうか。
 ただ、誰に聞かされだのかどうかはさておき、この神社仏閣の配置、そしてその霊力を最大限に引き出すための要となる竜穴――パワースポットの上に作られた、と言う話には非常に興味深い物があった。
「神州の術式、気になりますね。実際に回ってみましょうか」
 折角の休みなのだ。その位のことは許されるだろう。
 そう思い、ウィリアムはエンジンを掛けた宇宙バイク『ダンシング・スプライト』のペダルを踏み込み、アクセルを切る。
 安全運転で動き始めたバイクは、ウィリアムの竜脈の調査と言う目的のために、江戸の街を走り始めるのだった。


(「まずは江戸城の鬼門封じである寛永寺と、人々の信仰の中心とも言われている浅草寺ですね」)
 そう思い、宇宙バイク『ダンシング・スプライト』で其方の方を回りながら、竜脈の力を感じ取ろうと精神集中を行い竜脈の力を感じ取るウィリアム。
 まるで川の流れの様に滑らかに江戸城の周りを巡る魔力の流れを感じ取りながら、
時計回りに『青竜』隅田川を眺め、更に裏鬼門とされる日吉神社まで、寺社巡りをしながら江戸の街を見て回り、竜脈の流れを感じ取りながら、ふぅ、と息を一つ吐く。
(「今のぼくですと……この竜脈の流れをどんな風に使いこなせよいでしょうかね」)
 竜脈とは、大地を流れる気の流れ。
 ならば、それらの大地の流れを感じ取りそこに他の属性の精霊達を混ぜ合わせれば、濁流の様な流れを作り、敵を飲み込める魔法が使いこなせる様になるのでは無いだろうか。
 但し、生半可な力では難しそうな事も確かだが。
(「或いは、竜脈の魔力を借りて、ぼくの魔力を強化する、とか……そう言う方法でしょうかね。いずれにせよ、まだまだ研究の余地はありそうです」)
 そう思いながら。
 ウィリアムは神社仏閣巡りを終え、竜脈を感じ取る力を学ぶのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

郁芽・瑞莉
流石に今回は堪えました……。
依媛のような強大な敵には諸刃の剣である事は分かってはいたのですが。
神霊体でなければ危なかったかもしれません。

さて、江戸の街という事ですが。
神社仏閣の様子も確認したい所ですね。
日枝神社から神田明神、浅草寺とグリモアを使って飛びながら、
霊的護りが壊されていないか
見て回りつつ、江戸を楽しみますよ!

その道中、休憩している所で見かけた優希斗さんにお声かけをして。
お茶やお団子を頂きつつぽつりと。
「過去は変えられません。
 私は記憶を持ちませんが、それが過去でもあります。
 でも、未来は見える力を得て。今を変えられる仲間がいるのなら
 きっと未来は素晴らしいものになると信じています」




「流石に今回は堪えました……」
 一日ゆっくり休養を取り、体の節々が痛んでいるな、と郁芽・瑞莉が思いながら溜息を一つ。
(「依媛のような強大な敵には諸刃の剣である事は分かってはいたのですが……」)
 世界の呪いと呼ばれ、御伽噺にあるという『刺青羅刹』と呼ばれる強力な羅刹達の一人であり、同時に他の猟兵から『首魁』と呼ばれていた存在。
 以前に相対した時にも感じたが、それ程までに強力なオブリビオンも中にはいるのだ、と瑞莉はつくづく思う。
(「もしあの時私が神霊体でなければ……危なかったかもしれません」)
 胸元を貫かれた時の痛みがまだ疼くのを感じながら、瑞莉は周囲を見回した。
 城下町で起きた火災の影響も有り、その修繕のために人々が働いている姿も見受けられる。
「……さて、江戸の街という事ですが」
 街人達によって復興されていくその様子を見ながら、ふと、瑞莉は江戸の街を守るとされている霊的護り……風水思想の四神相応の事を思い出した。
 それはある人物によって作られた、江戸城を守る強固な結界であるとされている。
 となると……。
「神社仏閣の様子を確認したい所ですね」
 もしかしたら、この霊的防御に綻びが生じたからこそ、依媛を初めとした多くのオブリビオン達が江戸城及び、江戸城城下町を強襲した可能性だってあるのだ。
 ならば調査し、その綻びがあるかどうかを確認しておくに越したことは無い。
「それでは……行きましょうか!」
 呟きながら瑞莉は、自らの緑のグリモアを起動させた。


(「日枝神社から神田明神……それに浅草寺……」)
 重要な霊的護りの中心には、幸いにも破壊の手が届いていない。
(「大丈夫みたいですね!」)
 神社を歩く人混みを眺めながら、少しだけ瑞穂は微笑む。
 一先ず各霊的護りの中心地の無事を確認したところで、江戸城城下町に戻ろうと歩く瑞莉。
 と……他の猟兵達と共にお茶屋で休息を取っている優希斗の姿を見かけた。
「優希斗さん、皆さん! 休憩ですか?」
「瑞莉さん。ええ、そうですね」
 少々浮かない表情をし、何処か遠くを見る眼差しになっていた優希斗の様子に、微かに首を傾げる瑞莉。
 周囲の猟兵達も彼の様子が気になったのだろう。
 気遣う様な表情だった。 
 けれど、優希斗は直ぐに微笑みの表情に戻す。
「瑞莉さんも、一緒にお茶とお団子、如何ですか?」
「そうですね。それでしたらご一緒しましょうか!」
 頷く瑞莉に優希斗が微笑みそのまま優希斗の隣に腰を掛ける。
 そのまま彼に勧められるままにお茶とお団子を食していた。
 そんな瑞莉の様子を、微笑ましい物を見る様な表情で見ている優希斗を見てそう言えば、と瑞莉の脳裏にある表情が過ぎった。
 彼が、何かを思い出そうとするかの様に、浮かない表情をしている時の事を。
 今回の戦いの直前の予知でも、彼はいつも以上に厳しい表情であった。
 作戦の規模を考えれば当然かも知れないが、その胸元で輝いていた黒い光にも引っかかりがある。
 ――そんな彼の姿を、過去の記憶の無い自分の姿と無意識に重ね合わせてしまうことがあるのは、気のせいであろうか?
「過去は、変えられません」
「瑞莉さん……?」
 きっぱりと告げられた瑞莉の言葉に、微かに瞬きする優希斗。
 そんな優希斗に瑞莉が口元に笑みを閃かせながら、指で自分の頭を指差す瑞莉。
「私は記憶を持ちませんが、それが過去でもあります」
「……あっ……」
 ――記憶が無い。
 自分と同じく、過去の記憶と今の記憶の差異に悩まされる優希斗にとって、その言葉は鐘の様に鳴り響いた。
「でも、私達は未来が見える力を得ています」
「ええ。そうですね」
 一言一句告げる瑞莉のそれに相槌を打つ優希斗。
 彼の隣の猟兵達もそんな瑞莉の話に聞き入っている。
 瑞莉は、その猟兵達を見て、はっきりと告げた。
「今を共に変える事が出来る、仲間がいるのなら」
「……そうですね」
 ――例え、今回の事件で犠牲になった人々がいたとしても。
 彼等の想いを、犠牲に無駄にしてはいけない。
 それだけは、確かなことなのだ。
 そんな事を思いながらふっ、と苦笑を零して息を吐く優希斗。
(「多分、優希斗さんは……」)
 瑞莉自身と同じ様に自分にも分からない過去の記憶で、何かを経験したのだろう。
 そして、自分達と合流する前に何かを見てきた。
 見てきた何かの事を胸に刻み、それを抱えて生きていく事を選んだ。
 それがきっと……人々の未来が素晴らしいものになる為の第一歩になると信じて。
 だから、瑞莉は思うのだ。
 一人でそれを抱え込まず自分達や多くの猟兵達と共にこれからも歩んで欲しいと。
 そうすれば……。
「きっと未来は素晴らしいものになると、私は信じていますから」
 瑞莉の呟きに、感じる物があるのだろう。
 そうですね、と優希斗は微笑みそっと空を見上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

美星・アイナ
終わったわね、無事に
お社や仏閣も色々あるし、優希斗君呼んで一緒に巡ってみよう
あ、先約あるなら終わる迄ゆっくり待つね

スマホのカメラで写すのは社の本殿や鳥居から続く道
そして仏閣内の庭園の風景
写真で見るのとは違って五感で感じる風景に感嘆

写真を撮り終えて改めて思う
江戸城と城下町、そしてこの景色と
人々の営みを護れて良かったなと
グリモアベースで優希斗君が何時になく深刻な顔をしてたから
一番ホッとしてるのはきっと私達よりも彼なのかもしれない

風が吹く中、彼に問いかける

雨は何時か止むよね

交戦中の琴さんの様子を思い出し
気丈に振舞ってても心の中で涙雨は降り続いてる筈
その心に何時か光射す様に願う

アドリブ、掛け合い歓迎


ペイル・ビビッド
(優希斗さんや他PLとの絡み可)

さてっと!
お仕事の後はゆっくり休息、ティータイムだ♪
茶店に入って
縁側で出来たての串だんごと
香り立つお茶をいただきます

わ、このだんごって食べもの
口の中でぷにぷにぺたぺたすふ!
(ちょっと悪戦苦闘)

…こうして無事戦いを終えて
サムライエンパイアに平和な日々が守られて…
けれど
一番辛かったのは琴さんだったのかな
ご先祖様がこんな形で蘇るなんて…

骸の海で安らかに眠れない過去が
現在に現れ世界を脅かしていく
それに真っ当に対抗できるのは
あたしたち…猟兵だけ

どうして?と聞かれても
世界の仕組みはあたしにも
わからないことばっかりだ

今はただこの平穏が
長く続くことを祈って…




(「……」)
 これまでに見てきた事を思い出しながら、北条・優希斗は目を瞑っている。
 昨日の夜のこと。先程見てきた光景の事。
 それで自分が思ったこと。
 そう言った感情を綯い交ぜにしながら、優希斗は目的地へと歩き出した。
 そして、そこで……。
「優希斗くん!」
 明るい声音で手を挙げて自分を呼び寄せる娘の姿が目に入る。
 その娘の名は、美星・アイナ。
 ――それは、昨晩のこと。
「優希斗くん、明日用事ある?」
 ある猟兵達と別れた後、優希斗はアイナにそう呼びかけられた。
 それに対して軽く頷きを返した時、アイナはこう告げたのだ。
「そうしたら、その先約終わるまで待っているから、一緒にお寺や仏閣を巡りに行こう!」
「あっ、はい。良いですよ」
「あっ、アイナさん! あたしも一緒に言って良いかな!?」
「勿論よ。それじゃあ、一緒に行こうか!」
 ペイル・ビビッドの問いにアイナが頷き、結果、こうしてペイル達と神社・仏閣巡りに行くことになったのである。
「あっ、来た来た、優希斗くん! ……って、ちょっと顔色悪いけれど、大丈夫?」
 アイナの問いかけに大丈夫ですよ、と直ぐに微笑みを浮かべる優希斗。
 特に気負い無い様子で呟く彼にペイルとアイナが顔を見合わせた。
「どうしましたか?」
 微笑する優希斗の様子にアイナがペチリと彼の額にデコピンを一つ。
「優希斗くん。また何か抱えているでしょう?」
 デコピンを見舞われた額を軽く撫でながら、大丈夫ですから、と微笑む彼。
 こういう時の優希斗は、その気にならない限りは話をしてくれないことを、経験上知っているアイナは思わず溜息を一つ。
「アイナさん、早く行こうよ! あたし、神社仏閣巡りしながら、何処かでティータイムしたい!」
 ペイルの呼びかけに、アイナがそうねと頷きを一つ。
 経緯はどうあれ、今日の目的は優希斗を連れての観光だ。
 彼等グリモア猟兵達が予知をしてくれたからこそ、江戸城と城下町とこの景色を守り切ることが出来た。
 その事をしっかりと本人にも記憶して欲しい、と切に願う。
 ――故に。
「行くわよ、優希斗くん! ペイル!」
 グイグイと、優希斗とペイルの手を引っ張り、神社仏閣巡り及び、江戸城と城下町の観光を実行するアイナだった。


 ――パシャリ、パシャリ。
 アイナが手にあるスマホのカメラで写すのは、社の本殿や鳥居から続く道。
 更に仏閣内の庭園の風景。
「わ~っ、凄いね!」
 写真の向こうで見ているそれらの光景を見ているペイルの感嘆の声に、アイナもまた同感だった。
 それは、写真という媒体を通して見るのとは異なり、五感でしっかりと感じ取ることの出来る風景。
 それを実感することで、アイナは心底それを感じ取る。
 江戸城と江戸城城下町で行われている人々の営み。
 そして、この風景。
 ――これは全てでは無いのかも知れないけれど……彼等がいたからこそ護ることの出来た、確かな光景。
 ペイルに頼まれて肩車をして神社仏閣の光景を見せている優希斗が少し安堵の表情を浮かべているのを見て、ふと思う。
(「もしかしたら、この戦いが解決して一番ホッとしているのは、私達じゃ無くて……」)
 優希斗君なのかも知れない、と。
 グリモアベースで何時になく深刻な表情をしていたのは何故なのだろうか。
 恐らくそれは相手が依媛だから、と言うだけではあるまい。
 この江戸城と江戸城城下町……多くの人命が奪われる可能性があった事への脅えだったのでは無いだろうか。
(「でも、じゃあ……」)
 先程少し浮かない顔をしていたのは何だったのであろうか。
 ちらりとそんな事をアイナが思い、それを優希斗に問いかけようとしたその時。
 ――グゥ。
「あっ……」
 ペイルがぽかん、と口を開けながら、少し顔を赤らめて、慌ててお腹を抑えている。
 どうやらペイルの腹の虫が音を立てた、と言う事らしい。
「そう言えば、ペイルちゃんはさっきティータイムがしたいって言っていたよね?」
「えっ、……うん!」
 先程までの照れいる様な感情は何処へやら。
 優希斗に向けられたそれに、ペイルがコクリと首を縦に振った。
「それじゃあ、丁度良いからあそこで少し休憩にしようか」
 そう言って、優希斗が指差した先。
 その指差した先にあったのは、茶店。
 成程、休憩にはうってつけ、と言うわけだ。
「あっ! あたし、行きたいなぁ!」
 指差された茶店を見て、ペイルが声を張り上げる。
 それに優希斗が一つ頷き、アイナさんも一緒に行きましょう、と誘った。
「そうね。ちょっと休憩しようか」
 アイナがそれに頷き、茶店へと3人で入るのだった。


「いただきます!」
 茶店にある縁側に置かれた出来たての串だんごと、香ばしい香りの立つお茶のセット。
 運ばれてきたそれを見て、ペイルが嬉しそうに目を輝かせてお団子にかぶりつく。
「わ、このだんごって食べもの、口の中でぷにぷにぺたぺたすふ!」
 柔らかくてぷにぷにした感触に悪戦苦闘しながら団子を頬張るペイル。
 その姿は齢10歳という幼い少女と言うべき年齢通りのドワーフであることをじんわりと優希斗に実感させた。
(「こんな風に幼い子でも、猟兵なんだよな……」)
 猟兵として選ばれたことに対してペイルが何を思っているのか。
 優希斗の脳裏に何となくそんな思いが過ぎる。
 猟兵である以上、自分達とペイル達は仲間である事は間違いない。
 それでも、彼女はまだ10歳の幼い少女なのだ。
「? 優希斗さん?」
 どうにかこうにか団子を食べ終えたペイルがキョトンとした表情で首を傾げた。
 そんな彼女の表情を直視できず、優希斗は微かに微笑を零し、そっと何かを憂う様に、此処では無い何処かを見つめる様な表情となる。
 ペイルを挟んで向こうにいるアイナがそれに気がつき、それに声を掛けようとした時、他の猟兵が呼びかけそれに注意を引きつけられた優希斗。
 猟兵との会話の中でその猟兵から聞かされたその言葉に、アイナは深い共感を示して頷いていた。
「今を共に変える事が出来る、仲間がいるのなら」
 そこで一度言葉を切り、この様に彼女は続けている。
「きっと未来は素晴らしいものになると、私は信じていますから」
 それは、アイナの想いを代弁してくれている様にも聞こえた。
 彼もそれに微笑んで空を見上げてくれたから、きっと少しは気持ちを切り替えることが出来たのだろうか、と思うアイナ。
 彼女が去って、少しして。
 
 ――柔らかな風が、囁く様に自分達を撫でる様に駆けていく。

 束の間、訪れる静寂。
 けれどもそれは、決して居心地の悪い物では無くて。
 寧ろ、何処か居心地が良い……そして、ペイルがある話題を口にするのに丁度良い間を作ってくれた。
「……こうして無事戦いを終えて」
 自分の手にある団子とお茶を見つめながら呟くペイル。
「えっ?」
 優希斗がお茶を啜り、静かに瞬きながら続きを促してくる。
「サムライエンパイアに平和な日々が守られて……」
「……ええ」
 何となくペイルが言いたいことを察したアイナがそっと相槌を打った。
 ――多分ペイルは、私と同じ事を言いたいのよね。
 交戦した依媛、その彼女の子孫であるという娘の顔をくっきりと思い出すアイナ。
 優希斗も何となく言わんとすることを察しているのだろう。
 ただ、ペイルに続きを促すだけだ。
「一番辛かったのは、琴さんだったのかな? ご先祖様が、こんな形で甦るなんて……」
「……そうだね」
 ふっ、と優希斗の表情に影が差す。
 まるで、何かを思い出そうとするかの様に。
 同時に何かを……懐かしむかの様に。
 オブリビオンは、骸の海で安らかに眠れなかった存在が具現化した者。
 過去で未来を塗り潰す者達。
 それは……依媛とて例外では無い。
 その様子を見ながらアイナがもしや、と思ったがそれについては口に出すこと無くただ、ペイルの話の続きを促した。
 姉貴分であるアイナにその背を押される様に、ペイルがそのまま言葉を続ける。
「……骸の海で安らかに眠れない過去が、現在に現れ世界を脅かしていく」
 そこまで告げたところでペイルが困った様に息を一つ吐いた。
「それに真っ当に対抗できるのは、あたしたち……猟兵だけ」
「……ああ、そうだね」
 静かに続きを促す優希斗にペイルが自分の想いを吐き出した。
「どうして? と聞かれてもあたしには分からない。なんで、あたし達の世界の仕組みは、こんなに分からないことばっかりなんだろう……?」
「ペイルちゃん……」
 ペイルの言葉に優希斗はそれ以上、何かを告げるでも無く空をもう一度見上げた。
(「やっぱり、彼女のこと、ペイルも心配していたのね」)
 当然と言えば、当然なのかも知れない。
 アイナにとっても、実際の所そうだ。
 もし自分のご先祖様がオブリビオンと化して自分達に襲いかかってくるのだとしたら……その時、自分の胸をどれ程の傷みが過ぎるのか。
 それはきっと……実際に相対した事になった本人にしか分からないと思うけれど。
 それでも、その傷みを想像することをやめてはいけないと、アイナは思う。
 ――ふわり。
 そよ風がそんなアイナ達の間を駆け抜けていく。
 その風を感じながら、そっとアイナが口を開いた。
「ねぇ、優希斗くん」
「どうしましたか、アイナさん」
 アイナの言葉に、優希斗がそっと問いかける。
 それを受け取ったアイナが言の葉を紡いだ。
「雨は、何時か止むよね」
 それが例え、心の中で雨として涙の様に降り注いでいる傷であっても。
 何時か……そう、何時かその心に、光射す事を、アイナは切に願う。
 そんなアイナの言葉に、優希斗がそっと微笑んだ。
「はい。何時か……きっと止みます」
 ――降り続けるその雨は。
 何処か確信を持って告げられた優希斗のそれを引き取り、ペイルがアイナと共に空を見上げる。
「今はただこの平穏が……」

 ――一日でも、長く続きます様に。

 そう、祈りながら。



 

 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
(いまいち元気がない瑞智を気遣いながら)
あんなに派手に振り回したせいかしら……ごめんなさいね。

瑞智を慰霊形態(白い大蛇の姿)にして【祈祷術・破邪浄魂法】を発動し、僅かながら出たであろう犠牲者を弔って回る
その道すがら、優希斗と遭遇(最初からでもOK)

優希斗。
役割と思っているのは理解しているわ。
それでも言わせて。
ありがとう。あなたの予知のお陰で、犠牲は最小限で済ませられたわ。

そういえば、あなたの短剣……月桂樹。
出撃前にあれの光を見てから、私の知らない記憶がちらつくのよ。
カードを携えた、あなたによく似た青年に何度も見送られる記憶。
……もしかしたら、私もあなたの記憶に、何か縁があるのかしらね。


フローリエ・オミネ
アドリブ歓迎

夜の街を優希斗と一緒に回りたいわ。

お団子にお餅に、温かいお茶

座ってゆっくりお話しても良いわね

――同じ位の身長
けれど、いつの間にか、ほんの少しだけれど追い抜かされていたの

これが、男性――

あっという間に差が開いてゆくのかしら
それならば、今のうちに楽しんでおかないとね

……何をって?

ふふ、さあね。

大人ぶってみたけれど、まだまだ子供みたい
頬の赤みは街灯が隠してくれるかしら?

ねえ、優希斗
あなたは『あの子』について、以前より詳しくなれて?

……どうしても、名前が思い出せないの
「嘘」の名前でなくて、彼女自身の、本当の名を

でもね

彼女は確かに幸せだった
……あなたが気にする必要なんて、ないのよ




 ――時は、昨晩へと遡る。
「シャ~……」
 武器(槍)形態から、白蛇形態に戻った瑞智。
 如何に神の化身では無いかという噂を持つ白蛇であったとしても、流石にあれだけの戦いの後は消耗する。
 増してや使い手……。
「あんなに派手に振り回されたら……元気がなくなってしまうものなのかしら……ごめんなさいね、瑞智」
 荒谷・つかさに、あんな風に振り回されたら尚更だった。
 そのつかさの気遣いによろよろしながら瑞智が頷く様な仕草で返す。
 人間で言えば、肩で息をしている様なものだろうか。
 ちょっと可愛い大蛇の様子にくすり、とつかさが微笑を浮かべ自分の腕を瑞智の方へと差し出した。
 シュルシュルシュル……。
 渡りに船、とばかりに自分の肩に乗り、チロチロと舌を出してグッタリしている瑞智に、やっぱりやり過ぎたか、と少々申し訳ない気分で一杯になるつかさ。
「……まあ、あれだけの大魔力全てに破邪の力を与える鍵になって貰ったのだものね……当然と言えば、当然か」
 仲間の猟兵達によって生み出された未曾有の大天災とも言うべき魔力の塊に破邪の力を付与し、浄化(力尽く)の力を与えたのだから、まあ、致し方ないことであろう。
 とは言え、瑞智にはもう一仕事して貰わなければ困るのも確かだ。
 何故なら……。
(「江戸城城内はともかく、城下町には被害が出ているのだものね」)
 建造物が一部破損こそしたが、江戸城城内の人命は一人も失われなかった。
 けれども、城下町では火災が起き、そして他のオブリビオン達によって殺されてしまった者達がいるらしいとは、あの時江戸城城下町から加勢に来た猟兵から聞いている。
 実際つかさは周囲に浮かばれぬ霊達が漂っている事を、今までの経験から敏感に感じ取っていた。
(「まあ、そういうわけで……」)
「瑞智、もうひと頑張りして貰うわよ」
「しゃぁ~……」
 諦めた様に息をつく瑞智の頭を軽く撫で、つかさはその場所に辿り着き、そして全身でその霊達の気配を感じ取り。
『現世に縛られし魂よ。我が祈りにて邪を破り、魂を清め、幽世へと旅立ちたまへ……!』
 祈る様に叫ぶと同時に、瑞智が魂を浄化する存在……慰霊形態へと変化を遂げる。
 そして周囲を白光で包み込み、漂っていた霊達を一斉に天へと昇らせていった。
「ふぅ……やっぱり連戦の後だと結構疲れるわね、これ。瑞智もう少し頑張れるかしら?」
「しゃぁ~……」
 抑揚無く答える瑞智の背を軽く撫で、つかさは浄化を続けるべく、夜の江戸城城下町を彷徨うのだった。


「何とかなった、みたいだな」
 事後報告を猟兵達から聞くべくグリモアを発動、江戸城城下町へとやってきた優希斗の背に、鈴の鳴る様な柔らかな声が掛かった。
「優希斗」
 その声の主が誰なのかに気がつき、其方を振り向くこと無く、ふわりと微笑みその名を囁く。
「フローリエさん。良い月夜、ですね」
「ええ……そうね」
 空中を浮遊するシソウの魔女、フローリエ・オミエ……いつも自分が夢に見るその過去を強く刺激してくる彼女に月を見上げながら囁きかける優希斗。
 フローリエはまるでそうされるのが分かっていたかの様に頷いて浮遊を解いてゆっくりと優希斗の隣に立ち、そっと下から覗き込む様に彼を見上げた。
「私、夜の街を貴方と一緒に歩きたいの。お付き合いして頂けるかしら?」
 少しだけからかいの混じったそれを聞き、微笑する優希斗。
「ええ、構いませんよ、フローリエさん」
 何となく、予期していたのだろう。
 半分くらいエスコートする様な形で優希斗はフローリエと共に、江戸城城下町を歩き出した。

 ――あの時共に見たかの相手……シャックスの事を思い出しながら。


 お団子に、お餅に、温かいお茶。
 既に夜だが、それでも幸いと言うべきだろう。
 閉めかけていた茶店を見つけ、そこの縁側に腰掛けるフローリエと優希斗。
 少しだけ自分よりも背が伸びた優希斗の様子に、フローリエが微かに頬を膨らませている。
(「この前までは同じ位の身長だったのにね」)
「どうしましたか?」
「ちょっと、ね。いつの間にか、ほんの少しだけ貴方に身長を追い抜かされていたのに驚いただけよ」
(「何時か、完全に背を追い抜かされてしまう日が来るのかしら……」)
 そうなるとこの目線が殆ど同じで、向き合えばじっと見つめ合っている様な、そんな距離感が楽しめなくなってしまう。
 恋とかそう言うものでは無いとは思うのだが、そんな風にお互いに見つめ合える様な、この絶妙な距離感がフローリエは好きだった。
(「これが、男性――」)
 マジマジと自分を見つめてくるフローリエに優希斗が困った様に頬を掻く。
「フローリエさん?」
「これからも、こんな風にあっという間に差が開いてゆくのかしらね?」
「えっ?」
 じっ、と紫の瞳で漆黒の瞳を見つめてくるフローリエの目線を逸らすこと無く見つめ返しながら軽く首を傾げる優希斗。
 それにいえ、と悪戯っぽく笑い、お茶をそっと啜るフローリエ。
 気のせいだろうか。何だか自分の頬が少し熱を持っている様に感じる。
(「大人ぶってみたけれど、まだまだ子供みたいね、私」)
 此処で自分の感情の揺れに深く突っ込んでくる様子が無いのは優希斗の性格なのだろうか。
 或いは……誰かの心に深く突っ込む事に恐れを感じているのだろうか?
(「……これじゃあ、恋しているみたいじゃ無い」)
 いや、そもそも恋というものを物語の中でしか知らないのでこれがそうなのかどうかは分からないが。
 いずれにせよ、自分の頬の赤みを街灯が隠してくれている様なので、取り敢えずはそれで良しとする。

 ――沈黙。

 お互い、何を話すべきか、それとも別の事に意識が向かってしまっているのか。
 特に優希斗の方がそれが顕著で……蒼月が淡く輝くのに気がつきながら、胸元に隠している月桂樹もまた異なる輝きを見せているのを気にしているらしく、それが少しだけ面白くない。
 とは言え、いつまでも何も言わなければただ時が無為に流れるのみ。
 それは決して居心地の悪いものでは無いけれど……今、フローリエが求めているのはそんな時間では無かった。
「ねえ、優希斗」
 ――そう、問いかける時間だ。
「どうしましたか、フローリエさん」
 フローリエの問いかけに、何気ない様子で自分を見つめ直してくる優希斗に、フローリエがつ、と顔を近づけた。
 至近に迫ったフローリエの表情に何かを問う様なものが見られて、優希斗はなんとも言えない感情を抱きながら、フローリエの方を見つめ返した。
「……あなたは『あの子』について、以前より詳しくなれて?」
「ええ。あの事件以降……シャックスに関しては、ですが」
「あの子のこと、覚えていてくれているのね……」
 ほぅ、と息を吐くフローリエ。
 優希斗がそれに軽く息をついた。
「……あれだけまざまざと見せつけられれば流石に記憶の一部は思い出せます。……それに関係している、幾つかの戦いも」
 そう言う優希斗の表情には陰りが見えて。
 その陰りが、いつも見せているものと以て異なる様にも見えて……フローリエの胸が、少しだけ詰まる。
「……どうしても、名前が思い出せないの」
 呟きには、不安が孕んでいた。
「名前……ですか」
 その不安を感じ取ったかただじっとフローリエを見つめ、その続きを促す優希斗。
「……彼女の『嘘』の名前でなくて、彼女自身の、本当の名を」
 ――シャックス。
 それが、フローリエが告げた嘘の名前。
 あの戦いの中で優希斗がフローリエと共に見た……己が『罪』の形。
(「俺は……」)
 まだ、完全には思い出せていないけれど。
 優希斗の脳裏には、2つの名前が浮かんでいる。
(「――さん。そしてもう一つは……」)
 シャックスが、呼ばれることを厭った名前だ。
 具体的な名前は思い出せないけれど、確かにその名がある事は、優希斗も最近になって思い出していた。
「……でもね」
 2つの名を脳裏で呼び起こそうとする優希斗を現実に引き戻す様に問いかけるフローリエ。
 その表情は、何処か確信に満ちていて。
「彼女は、確かに幸せだったのよ」
 まるで、それが真実であるかの様に。
 そう語るフローリエに優希斗は何も答えない。
 ――答えられなかった、のかも知れない。
「……あなたが気にする必要なんて、ないのよ」
 そっと続けるフローリエの言葉は、赦し、なのだろうか。
 それとも彼女が自分の事を忘れないで欲しいと訴え続けている結果なのだろうか。
 分からない。
 けれども……これだけは言える。
「例え、――さん。貴女がその死を幸せだったのだと思ったとしても。それでも、俺は、背負い続けます」
 ――それは、誓いだ。
 今を生きる者が、死んだ……殺したという方が正確なのかも知れないが……者達の事を決して忘れないと言う、己に課した誓い。
 だから今、自分は此処にいる。
 罪人として……そして、自分が自分であるために。
「それが俺達の義務であり……俺が望んだ道ですから」
「……ありがとう」
 優希斗の誓いの言葉に、フローリエがそっと微笑んだ。


「優希斗と、フローリエさん?」
 暫くして。
 呼びかけられているのに気がつき、優希斗が其方を振り向き息を呑んだ。
「つかささん……」
「ごめんなさい、お邪魔だったかしら?」
 冗談めかして告げるつかさの言葉にいえ、と苦笑を零す優希斗。
 フローリエも何も言わずに、つかさを見つめて頭を軽く振っていた。
「すみません、それでどうかしましたか?」
「ええ、ちょっと貴方に言っておきたいことがあってね」
 神妙な表情でそう告げるつかさに優希斗が軽く首を傾げる。
「俺に、ですか?」
「ええ。多分、他にも同じ様な事を思っている人は多くいると思うけれど」
 そこまで告げたところで、深呼吸を一つするつかさ。
 全ての死した魂達の浄化を終えて精も根も尽き果てたか、瑞智がつかさの腕にその身を絡めたままスヤスヤと眠っている。
 そんな白蛇、瑞智を撫でてやりながら、つかさが続けた。
「貴方が、回の件を予知した事、それが自分の役割と思っているのは理解しているわ。それでも、ね」
 そこでそっと胸を撫で下ろす様に息をつき、一礼するつかさ。
「ありがとう。貴方の予知のお陰で、犠牲は最小限で済ませられたわ。……これは他の誰の功績でも無い。貴方の功績よ」
「つかささん……」
 礼を述べた後、何故かぷいっ、とそっぽを向いてしまったつかさに微笑み、軽く頭を掻く優希斗。
「ふふ……」
 フローリエが穏やかに微笑みちらりと優希斗を見、それから空を見上げる。

 ――そこに見えたのは、煌々と輝く月の姿。

 その月の姿を見てからつかさがそう言えば、と言葉を続け、それから優希斗の胸元で輝く光へと視線を向けた。
「あなたの短剣……月桂樹」
「ああ……これですか?」
 そう言って、懐から月桂樹を取り出す優希斗を見てフローリエも思わず息を呑む。
(「この輝き……私も……」)
 知っている様な……そんな気がしたから。
 月桂樹と優希斗を交互に見やりながら、実はね、と呟くつかさ
「初めて見た時は、なんとも思わなかったのだけれど。また出撃前にあれの光を見てから、私の知らない記憶がちらつくのよ」
「えっ?」
 思わず、と言った様にオウム返しに問い返す優希斗。
 その手が無意識にズボンのポケットにしまってあるGolden dawnへと触れている。
 それにつかさが気がついているのか気がついていないのかは分からないけれども。
 つかさは、訥々と歌う様に言葉を紡いだ。
「……それは、カードを携えた、あなたによく似た青年……」
「……っ!」
 つかさの言葉に息を呑んだのはフローリエ。
 あの時、優希斗と会った時にしたあの会話……。
 ――月が、綺麗な夜でした。
 最期の別れとも取れる光景を思い出し……その時に行きましょう、と誰かに呼ばれた記憶が、フローリエの脳裏を過ぎっていく。
 つかさが、ちらりとフローリエの様子を見やりながら静かに続けた。
「そう……あなたに渡したのとよく似たカードを持った青年に、何度も見送られる記憶が、ちらつく様になったわ」
「……」
 つかさの言葉に、優希斗は何も答えない。
 いや……答えられない。
(「それは……」)
 時折夢に見る彼の過去の記憶と重なるものでもあったから。
「……もしかしたら、私もあなたの記憶に、何か縁があるのかしらね」
「そうかも知れませんね」
 つかさの言葉に優希斗が答え、でも、と微笑んだ。
「俺は俺で、つかささんは、つかささん。フローリエさんはフローリエさんです。そこは、きっと変わらないと思いますよ」
「そうね。そう言われると……何だかちょっと照れくさいわね」
 そう告げて、またね、とくるりと背を優希斗達に向けてその場を後にするつかさ。

 ――江戸の空に輝く月から降り注ぐ光がそんな3人の事を優しく照らしてくれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒岩・りんご
引き続き琴さんと共に

もう宵の口ですし、このまま何処かで晩酌といきたいですわねぇ
…と思ったら、琴さんが北条さんとお話してみたいとの事で、しばしお付き合い
2度もご先祖様の予知をされてますし、そのあたり気にかかるのかしら
必要なら口もはさみますが、とりあえずは付き添いに専念です

お話終わったら琴さんを無理矢理引きずって酒場まで
未成年の彼女は飲めませんけど、晩酌の相手してもらいますね?
気持ちよくほろ酔いを楽しみましょう

ついでに、北条さんに会いに行ったのは彼が好みだから?とか聞いてみましょうか?(くす
もちろん違うとわかって聞いてますが、真っ赤になって否定する琴さん可愛らしいですわぁ
いい酒の肴になりそうです♪


加賀・琴
りんごさん(f00537)と引き続き

前回は私にその余裕がなかったですが、今回は北条さんに挨拶しますね
2度もご先祖様の予知をしてくださいましたし、他にご先祖様を予知した方は今のところはいません
なら、次予知するとしたらやはり北条さんの可能性が高いですし、なにかご先祖様との縁が結ばれているのかもしれませんからね

挨拶が終わったらりんごさんに引っ張られて酒場に行きますね
でも、私はお酒を飲めませんからりんごさんにお酌しながら食事ですね

わ、私が北条さんを!?
そ、そんな違いますよ!そ、その北条さんにはご先祖様の予知の件でお世話になりましたから、そのことで挨拶をしただけですよ!?
真っ赤になって慌てて否定しますね




「もう宵の口ですし、このまま何処かで晩酌といきたいですわねぇ」
 他の猟兵達と別れ適当な店は無い物か、と周囲を見渡しながら、黒岩・りんごが呟いている。
 と……隣で、あの、とか細い声で加賀・琴が声を上げたのに気がついた。
「琴さん、どうか致しましたか?」
「いえ、その、私、折角ですし、北条さんとお話をしておきたいな、と……。前回はそんな余裕ありませんでしたし」
(「ご先祖様……」)
 先程りんごによって止めを刺された依媛の事を思い出し、憂い顔になる琴。
 りんごが成程、と納得の表情を浮かべた。
(「2度もご先祖様の予知をされてますし、そのあたり気にかかるのかしら」)
「フフ、じゃあ、折角ですし探してみましょうか。北条さん、彼方此方ふらふらしていらっしゃるみたいですが」
「……俺がどうかしましたか?」
 まるで、琴達の話を聞いていたかの様に。
 他の猟兵達と別れて来たのか姿を現した北条・優希斗に、あっ……、と琴が驚いた様に声音を上げる。
「何処から現われたのですか、北条さん」
「いえ、他の人達と別れてこの辺りを歩いていたのですが、何だかりんごさんと琴さんの会話が耳に入りまして」
 琴の問いかけに答える優希斗に成程、と頷き、隣の琴を前に押し出す様にするりんご。
 そのまま優希斗の前に出た琴が慌てふためきながら優希斗を見上げた。
(「……これは……」)
 何だろうか。
 琴と向き合いながら、酷く懐かしい想いに囚われる優希斗。
 ――それは、夢の中で見た記憶。
 初めて出会ったとある少女を見送り、そして……。
 『人』として、二度と彼女と出会うことの無かった苦い後悔の記憶。
 それは、『依』と言う存在への記憶と重なり合い、胸の中で何かをざわめかせる。
「前回は、すみませんでした。依媛……いいえ、ご先祖様のことを予知して頂いたのに、ご挨拶することも出来なくて。あの時、私、自分の事だけで一杯一杯で……」
 そう言ってペコリと一礼し、か細い微笑みを浮かべる琴に、いえ、と軽く頭を振る優希斗。
「気にしないで下さい琴さん。そう言うことは往々にしてあるものです。増してや相手が……」
 ――自分の先祖である、と言うのなら。
 そう内心で呟く優希斗にでも、と続ける琴。
「今の所は、北条さんだけなのです。ご先祖様の予知をして下さったのは。それも、2回」
「それは……」
 琴の呟きに直接答えず、そっと自らの胸ポケットに潜ませている短剣『月桂樹』に触れる優希斗。
 淡く黒く輝くそれは、今も尚、何かを訴えかけるかの様に明滅している。
「……俺、と言うよりは、これが気がついてくれるんです。彼女については」
「えっ?」
 優希斗が懐から取り出した漆黒の短剣『月桂樹』を見せられて琴が驚いた表情に。
「月桂樹。俺の武器の一つです。その花言葉を、琴さんはご存知ですか?」
「い、いえ……。……何と、言うのですか?」
 その先に続く言葉に嫌な予感を覚えながらも問い返す琴。
 本当は聞きたくない筈なのに、胸が酷くざわつきどうしても続きを促してしまう。
 ――恐らく、彼の口から告げられるであろう、その言葉を。
「『裏切り』です」
「……!」
 優希斗が告げたそれに口元に手を当て、ハッ、と息を飲む琴。
「……それって……」
 りんごも流石に唖然とした表情になる。
 ――依媛の存在は、正しく琴達、その子孫を『裏切り』、オブリビオン化した。
 つまりは……そう言うことなのだろう。
 琴がブルリ、と身震いを一つ。
(「覚悟は、していた筈なのですが……」)
 たとえこの先、何度甦ってこようとも。
 その時には何度でも彼女を倒すと覚悟を決めた筈なのに。
 優希斗にご先祖様による『裏切り』という事実を突きつけられてしまうのは、あまりにも衝撃的すぎた。
 優希斗の表情にも陰りが宿る。
 その漆黒の瞳は、痛ましさと何故か懐かしさを伴って、琴を映し出していた。
「でも……」
 衝撃を隠せず顔色を青ざめさせながらも、琴が呻く。
「もし、そうなのだとしたら……次に予知をされる可能性が高いのはやはり……」
 ――目前にいるこの人、優希斗だろう。
「琴さん。大丈夫ですか?」
「あっ、はい、大丈夫です。あの……北条さん」
 りんごに呼びかけられ、はっ、と気を取り直した琴が優希斗に問いかける。
「どうかしましたか、琴さん」
「……その短剣は、一体どういう物なのですか? 私にはその短剣が、あまりにもご先祖様と縁がある様な物の気がして仕方有りません」
 問いかける琴に、そうですね、と優希斗が淡く微笑む。
 その淡い微笑みに、透き通る様な何か……それは奇しくも依媛との戦いの後、琴が猟兵の仲間達の前で見せた笑みとあまりにも似通っていた事に、果たして琴は気がつけただろうか。
 りんごは、その優希斗の微笑みに、はっ、とした表情になったのだが。
 そんなりんごは気にせずに、優希斗が言の葉を紡いだ。
「この短剣は、多分、俺の記憶の一欠片です」
「記憶の、一欠片……」
 まるで教師に物事を教えられた童女の様に。
 繰り返し呟く琴に、はい、と頷く優希斗。
「俺の知らない、俺の記憶。それは俺であって俺で無い、けれども俺の根源に関わる大切な、決して切り離すことの出来ない……。多分、琴さん。貴女は、俺にとって……」
「北条さん……」
 そこで言葉を区切り夜空を見上げる優希斗と共に、そっと空を見上げる琴。

 ――先程まで優しく人々を照らし出してくれていた月が、今度は何故か泣けない誰かのために泣いてくれている様な……そんな気がした。


 ――とある酒場。
 優希斗と別れた後りんごは、無理矢理引きずる様な形で近くにあった酒場へと入っていく。
 出された料理に舌鼓を打ちつつ、お猪口を琴に差し出すりんご。
 差し出されたお猪口に琴はお酒を注ぎ、お酌をした。
「琴さんは如何ですか?」
「……りんごさん」
 冗談めかして問うりんごに目を細める琴。
「分かっていますわよ。琴さんはまだ未成年ですものね。ちょっと、からかいたくなっただけですわ。でも、晩酌の相手位はして貰えますわよね?」
「はい、それは勿論です」
「ふふ……それなら良かったですわ♪」
 そう言ってお酌をして貰った熱燗を一口飲む、りんご。
 琴がお酌をしたお酒を飲むりんごを尻目に、目前に置かれたお通しに口を付ける。
 さっぱりとした味付けが、とても美味しい。
(「ですが、北条さん……」)
 もしかしたら、とは思っていた。
 優希斗が、何らかの関係でご先祖様との縁がある可能性は。
 けれども告げられたそれは……琴自身には記憶に無いもの。
 それでも、自分に向けられていた彼の目には、胸が漣の様に揺れる何かがある。
 考え込む表情の琴を見て、くす、と微笑みほろ酔い気分のりんごが問うた。
「そう言えば、今日北条さんに会いに行ったのは、彼が好みだからですか?」
「……えっ?!」
 それは、思考の海に沈みそうになっていた琴へのりんごのからかいであると同時に、ちょっとした悪戯だった。
 一瞬優希斗の姿を脳裏に浮かべ、それから聞かれていることの意味を理解し、見る見る内に顔を真っ赤に染めていく琴。
「わ、私が北条さんを!?」
 声が、上擦っていた。
 先の胸のざわめきの事もあり、そう言うのでは無いと理解しつつも、どんどん頬が熱くなっていく。
「本当に?」
「ほ、本当です! そ、そもそも北条さんには、2度もご先祖様の予知の件でお世話になりましたから、それで挨拶をしにいっただけですよ!?」
 顔を真っ赤にして必死に否定する琴の様子が可愛らしくてほろ酔い気分のりんごが悪戯っぽく笑う。
 勿論、りんごは優希斗が琴にとってそんな相手ではないのは百も承知だ。
 それでも……。
「ムキになる所が、尚更怪しいですわね♪」
「い、いえ、だから本当にそう言うのじゃ……!」
 一所懸命に否定するまるで熟したりんごの様に顔を真っ赤にする琴の姿。
 その琴の様子を見ながら、りんごはグイ、とお猪口を干す。
(「いい酒の肴になりそうです♪」)
 そう、思いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩瑠・理恵
姉さん(f04489)と参加です

依媛への献花、ですか
姉さんは優しいですね。私も、珍しいことに殺した後のことは気にしないリエも反対はしてませんよ
でも、彼女と、彼女に協力していたオブリビオンによって被害も出てますので心情的に嫌悪する方もいるでしょうから、こっそりとですよ

はい。私も、リエも彼女が再び現れたならまた一緒に戦います
リエも彼女相手だと姉さんがいないと厳しいと言ってますからね
ただ、母さんにリエが知る彼女について聞きたい気持ちと、母さんに彼女の事を伝えたくない気持ち、どっちもあって複雑ですね

北条さん、何時も姉さんがお世話になってます
どうにも複雑な縁があるようですが、私も姉さんと力になりますよ


彩瑠・姫桜
理恵(f11313)と

依媛への献花に行きたいわ
主に私の気持ちの整理の意味でやっておきたいのよね

理恵、改めて、来てくれてありがとう
とても心強かったわ

依媛が背負った『業』がどれほど深いのかしらね?
(理恵への依媛の言葉を思い出し)
それを覗くのって怖い気もするけど
もしまた彼女が現れたらまた一緒に戦ってくれる?
理恵とリエが居てくれたら、もっと頑張れると思うから
(最後は照れつつ目を逸し小声で)


*可能なら優希斗さんとも会話
今回も後方支援ありがとう
依媛もだけど、他にもあるんでしょ?過去の記憶と繋がる縁って
そういうのあったら、また話してほしいわ
頼ってもらうには頼りないかもだけど、頑張って強くなってみせるんだから




 ――そして時間は翌日へと進む。
「依媛への献花、ですか」
「ええ」
 彩瑠・理恵の問いかけに、彩瑠・姫桜が頷き返す。
 丁度その時、白百合の花束を姫桜は両手で抱えていた。
「姉さんは優しいですね。私も、珍しいことに殺した後のことは気にしないリエも、
反対はしてませんよ」
 理恵の言葉にそう言うのじゃ無いのよ、と姫桜がそっと息を一つ吐く。
「どちらかと言うと、私の気持ちの整理の意味でやっておきたいのよね」
「相変わらずだね、姫桜さんは」
 神社仏閣周りを終えた優希斗が姿を現す。
 ――今は、黄昏時。
 一時の休息は、もうすぐ終わりを告げる頃。
「優希斗さん、来てくれてありがとうね」
「まあ、皆とは一通り話も終わったからね。献花の話を聞いた時は、姫桜さんらしいな、と思ったけれど」
「……もう」
 さらりと告げる優希斗に、姫桜が頬を赤らめてぷいっ、とそっぽを向く。
 そんな姫桜の様子にクスクスと理恵が微笑んだ。
「姉さん、顔が赤いですよ。それよりも、早目にこっそりと終わらせてしまいましょう」
 そう告げて、理恵が少しだけ顔を俯ける。
「彼女と、彼女に協力していたオブリビオンによって被害も出ていますので、心情的に嫌悪を抱く方もいるでしょうから」
「ああ、そうだな」
 理恵の言葉に、優希斗が小さく頷く。
 それが分かっているからこそ、姫桜の誘いに応じたとも言えるのかも知れない。
 頷き、人知れぬ所にそっと白百合の花束を供えながら、姫桜が隣に立つ理恵の横顔を見る。
「理恵、改めて来てくれてありがとう。とても心強かったわ。急に現われたから、とても驚いてしまったけれど」
「まあ、伝えていませんでしたからね」
 呟きながら白百合の花束を見つめる理恵に姫桜がそうね、と頷く。
 ――体が、少しだけ震えていた。
「……依媛が背負った『業』は、どれほど深いのかしらね?」
「どうなんでしょうかね?」
 理恵に向けて放たれた依媛の言葉。
 そして、理恵のユーベルコードに対する激しい反応。
 初めて彼女と戦った時は、あんな反応は見せなかった。
「少なくとも、あの戦いの事だけを言っている様には、話を聞いた限りだと俺には思えなかったけど」
 そう告げて優希斗がそっと自分の胸元を押さえる。
 ――『月桂樹』の黒い輝きは、漸く収まっていた。
「……怖い気がするの」
「姉さん?」
 不安げに紡がれたそれに、理恵がそっと問いかける。
 姫桜は束の間躊躇う様に沈黙していたがやがて何かを悟ったかの様に呟きを一つ。
「彼女の……依媛の『業』を覗くことが」
「姉さん……」
 姫桜の呟きに、理恵が静かに息を吐く。
 優希斗は何も言わずに、ただ姫桜達の会話を耳に挟んでいるだけだ。
「ねぇ、理恵」
「はい」
 程なくして、意を決した様に。
 囁く様な姫桜の呟きに、理恵が応じた。
「もしまた彼女が現れたら、また一緒に戦ってくれる?」
「はい。私も、リエも彼女が再び現れたならまた一緒に戦います」
 姫桜の言葉に深く頷き、それに、と自らの胸に手を当てる理恵。
「……リエも、彼女相手だと姉さんがいないと厳しいと言ってますからね」
「そう……。そうかも知れないわね。理恵もリエもだけれど……皆がいないと彼女と戦うのは、厳しいもの。それに……」
(「理恵とリエが居てくれたら、もっと頑張れると思うから、ね」)
 照れ隠しに目を逸らし、ちょっとだけ頬を赤らめて。
 辛うじて話の聞き役に徹していた優希斗が聞き取れる位の小声で姫桜が呟く。
 理恵も、恐らく何を言われたのかについては気がついているのだろう。
 そっと微笑みを浮かべていたが……程なくしてただ、と小声で囁いた。
「母さんにリエが知る彼女について聞きたい気持ちと、母さんに彼女の事を伝えたくない気持ち、どっちもあって複雑ですね」
「……母さん、ね」
 理恵の言葉に姫桜がなんとも言えない表情に。
 姫桜は、両親と、理恵と共にどこまでも平凡に暮らしていた。
 ヴァンパイアの血も、先祖返りによるものだと聞かされていた。
 けれども……理恵の言っていることは、自分の知っている事とは少し違う。
 まるで、自分達の両親が、依媛と戦っていたかの様に聞こえるのだ。
「母さん達は、何か知っているのかしら」
「どうなんでしょうね。親世代の話、とあの時私も言いましたが、或いは私に聞かせてくれたそれは、母さん達の作り話の可能性もありますし」
 ――つまり、真偽の程は定かでは無いのだ。
 もし、母さん達が実は猟兵で……オブリビオン達と過去から戦っていたのでしたら、それは今まで自分達が見せて貰っていた平凡な日常は、母達の努力の結晶だった、と言う事になる。
(「或いは……」)
 そこで思考を断ち切り、理恵が優希斗の方を改めて一礼した。
「北条さん、何時も姉さんがお世話になってます」
「いや、俺も助かっているよ。俺達グリモア猟兵は予知は出来ても、その予知した相手と戦う事は出来ないからね」
 テレポートや万が一に備えての撤退路の確保。
 このために、優希斗達は自分達が予知した事件に対して自らの手で介入することが出来ない。
 故に、姫桜達の様に自分達の予知に介入してくれる者の存在は、非常に大きな助けとなる。
 そんな優希斗の想いを知ってか知らずか、どうにも、と理恵が呟く。
「依媛に対しては、複雑な縁があるようですが。それでも、もし又現われたら私も姉さんと力になりますよ」
「その時は、宜しく頼むよ」
 理恵の呟きに静かに頷く優希斗。
 その瞳に称えられている光を見て、姫桜がふぅ、と息を一つ。
「今回も後方支援ありがとう」
「いえ、それが俺の役割ですから」
 姫桜の言葉に、ふっ、と息を一つ吐く優希斗。
 何かを吹っ切っている様にも、或いは何処か疲れている様にも見えるが、姫桜はそのまま話を続けた。
「依媛もだけど、他にもあるんでしょ? 過去の記憶と繋がる縁って」
「……ええ、恐らくは」
 姫桜の言葉に、すっ、と目を細める優希斗。
 ――今はまだ、見えていないけれど。
 けれども、蒼月、月下美人、月桂樹は時折、絶え間ない輝きを優希斗に対して示すことがある。
 ――それが何なのかは分からないのだけれど、夢の中で見る景色と被り……深い業となって、優希斗の心を掻き乱すのだ。
 そんな優希斗の心の動きは、まだはっきりと分からないけれど。
 でも、そんな彼の支えになりたいのだとは、姫桜は思う。
 だから……。
「もし、そういうのがあったら、また話して欲しいわ」
「姫桜さん……」
 姫桜の決意を込めた呟きに、優希斗が淡く笑みを浮かべた。
 彼は知っているのだ。
 姫桜が戦いの時、いつも何処かで戦うことに対する恐怖を抱いていることを。
 以前にその事を話したから、或いは遠慮してしまうかも知れないけれど。
 それでも……。
「頼って貰うには頼りないかもだけど、頑張って強くなってみせるんだからね」
「ありがとうございます、姫桜さん」
 そう言って微笑む優希斗。
 姫桜がそんな優希斗と向き合う姿を見て、理恵が柔らかく微笑む。
「……どうしたの、理恵」
「いえ、姉さん、ちょっと格好良いなって。もしかして……」
 理恵の言葉の意味に気がつき、姫桜が見る見るうちに顔を赤くする。
「ちょ……ちょっと、そう言うのじゃ無いんだからね!」
 思わずプイ、とそっぽを向く姫桜に優希斗が微笑み、理恵が軽く首を傾げた。

 ――黄昏時の夕暮れに照らし出される3人の影。
 優希斗がグリモアを起動させ、姫桜達と共にこの場を後にする。

 ――風が吹き、白百合の花束が、花弁となって宙を舞った。

 こうして……猟兵達の一時の休息は、終わりを告げた。
 そして彼等は向かうのだ。

 ……また、新たな戦場へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月07日


挿絵イラスト