そいつは仮面を被ってやってくる
#UDCアース
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都市部からやや離れた住宅街。
夜も更ければ人通りも少なく、国道に面したコンビニだけが、まるで誘導灯のように明るく光って見える。
24時間、明かりを絶やすことのないその光は、妖しの者を惹き付けるというが、今宵そこにたむろし始めるのは、そんな素振りを持たない者達であった。
もとより陽が落ちれば娯楽の少ない、半端な田舎である。
都市部まで足を伸ばせない、或は都市部から外れた穴場を求めて、そういった独特のにおいに釣られて、その若者たちは呼びかけに吸い寄せられてやって来た。
そんな暇を持て余した学生達の顔つきは、一様に浮き足立っているようだった。
ある者は携帯端末の画面を光らせ、ある者は所在なさげに視線をさまよわせ、またある者は我関せずとばかりに店の壁に背を預けるなど……。
コンビニという商店に集いながら、店内に入るでもなく、大型車輌が停められるほどの広い駐車場にバラバラにたむろしているその光景は、ただの異様でしかなかった。
一見すれば、ただの偶然。しかし、彼らがお互いに無関心を装うには、あまりにも一箇所に集まりすぎていた。
無関心。それには違いない。彼らが求めているのはお互いを知り合うことではなく、共通する何者かの到着。
果たして、その存在は前触れ無くやって来た。
闇に染み込む様な黒い装い。夜の闇の中で黒いコートは周囲に溶け込むかのように見え、露出した手の先だけが白く浮き上がって見えた。
そして、肝心の顔は、これも闇夜の中で浮き上がって見える能面に覆われていた。
「おお、本当に来た」
若者の誰かが声を上げた。
それを皮切りに、その異質な存在へとその場の誰もが視線を向ける。
さざ波のように若者達の声が渡り、歓声になろうという手前で、それが止む。
能面の者が軽く手を上げただけで、注目が一点に集まったからだ。
その一挙手一投足に注目が集まり、その者が何を口にするか固唾を呑んで押し黙る集団。
その様相はさながら、教典を授ける祭司とその信者であるかのようであった。
「……、……」
能面の奥底からくぐもった声が漏れる。
おおよそ人のそれというにはあまりに皺枯れたものだったが、短い文言それだけにも拘らず、若者たちは喧騒に沸き立つこともなく、促されるままに踵を返す能面の者の後を追って歩き始める。
闇夜に消えていく黒いコートと能面……。そして、決して少なくない若者の一団。
後に残ったコンビニの炯々とした明かりと、かすかに漏れ出す能天気な店内音楽だけが、閑静な住宅街の沈黙を彩っていた。
「UDCアースの世界では、邪神に連なる者による失踪事件が後を絶たないようですね」
グリモアベースの一角にて、羅刹のグリモア猟兵、刹羅沢サクラが資料を片手に鋭い目元を細める。
「今回あたしが見た予知によると、能面を被った黒いコート姿の者に連れられるようにして、若い男女十数名が姿を消したようです。
あまり明確なものではなかったので、個人的に資料を集めたのですが……」
言いつつ、手元の資料に目を落とす。
それによると、能面の者の正体は不明だが、連れ去られた男女十数名は、いずれも周辺地域に住む学生やフリーターであるという。
それぞれが顔見知りという訳ではないが、どうやらネットのとあるトピックで地元の怪異に関する話で盛り上がり、主催を務めるという人物が呼びかけたのだという。
主催の人物はその手の話題に聡く、あっという間にトピックに集まる若者の心を掴んでしまい、サクラが見た予知の現場であるコンビニを待ち合わせ場所に指定し、心霊スポット探訪を計画したのだという。
「トピックの主催が、かの能面の者であることは間違いないとは思うのですが、肝心の行き先や目的はいまいちハッキリとしませんでした。
ある程度は現地で調査の必要があるでしょう。ここから先は、皆さんのお仕事となってしまいます。
至らぬ調査で申し訳ありません」
しかし、予見したというからには、この背後にオブリビオンの影があることには違いないはずだ。
若者達の行方を探ると共に、黒幕を退治する必要がある。
「若者の好奇心を利用するのは、あたしの故郷でもよくある手口ですが、彼ら一般人が邪神教団に捕らわれてしまっては、何に利用されるかわかったものではありません。
彼らを救う手立てを持つのは、恐らく我々猟兵だけでしょう。
皆さん、どうか手をお貸しください」
そうしてサクラは、いつものように恭しく頭を下げるのであった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじです。
今回はUDCアースの調査依頼という形で、シナリオフレームは、冒険→冒険→ボス戦というものを採用させていただきました。
流れとしては、コンビニでの調査により、若者たちが連れ去られた場所やその理由などを調べたり聞き出したりして、現場に向かい捜索、その後、ボス戦という感じになるかと思います。
今回の案内役はサクラ。前回のリリィと異なり、そんなに急がない予定なので、マッタリ進行になるかと思います。
さすがに翌日リプレイ返却とかはしないと思います。
頂いたプレイングは可能な限り拾っていくつもりですが、どうしても拾い切れない部分があったら申し訳ないです。
楽しいリプレイを皆さんと一緒につくっていきましょう。
第1章 冒険
『深夜のコンビニ調査』
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POW : じっくり時間をかけての張り込み調査
SPD : 客として店内潜入。内部確認や他の客の調査
WIZ : 品揃えや客層等、店に関する情報収集
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
宇冠・由
仮面の敵ならば、同じヒーローマスクとして放っておけませんわ
最近のオブリビオンはえすえぬえす、というのも利用するんですのね……
(とはいえ、猟兵の力で怪しまれないとはいえ、身体を炎で補っている私では店内での張り込みにも限度があります)
ビーストマスターの力を使って、事前にたくさんの猫を集めます
閑静な住宅街なら放し飼いもそれなりにいると思うので協力をしてもらいます
コンビニ周囲を調査し、怪しい奴がいないか、何か落し物がないか調べてもらいます
動物好きな方も一人くらいいるかもしれません
【可愛いは正義】で子猫を店先に召喚し、お客や店員と交流して何か情報を得られないかも探ってみますわ
私はマスクのまま屋上で監視
周囲の闇を濃くするかのように、コンビニの明かりが広い駐車場を照らす。
夜も更けてきて客足はほとんどないが、長距離トラックが休憩所代わりに利用していたり、気の抜けた服装でふらふらと小腹寂しさにやってくる者など、人が居ないではないようである。
(最近のオブリビオンはえすえぬえす、というのも利用するんですのね……)
そんなささやかな賑わいを遠巻きに眺めつつ、宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)は、機械の体をかすかに駆動させ、暗闇の中で顎に手をやるようにして思案する。
UDCアースの情報文化には少々不慣れなところがあるが、仮面のものが相手ならば、同じく仮面を本体とするヒーローマスクとして見過ごすわけにはいかなかった。
(とはいえ、猟兵の力で怪しまれないとはいえ、身体を炎で補っている私では店内での張り込みにも限度があります)
猟兵には特異な者が多い。その中でも、肉体を炎や人工擬体で補っている由の身体は、平常時であっても愛らしいセルロイドのお面のような本体が浮いているだけで軽いホラーになってしまう。
かといって炎をまとって聞き込みをしようものなら、一夜で都市伝説を作ってしまうかもしれない。
そこで、一計を案じることにする。
闇夜の中に、炎が音叉を象り、揺らめきと共にコォンと澄んだ音色を奏でる。
(おいで、おいで)
声を出すわけではない、ただ音叉の音に乗せるように呼びかける。
人の目に目立つのを避けるなら、人以外ならどうだろう。
情報収集の術として由が援助を求めるのは人ではない。ビーストマスターでもある彼女にとって、コミュニケーションを取れるのは何も人ばかりではないのだ。
程なくして、周囲の草むらが騒がしくなる。
「にゃあ」
草の根を掻き分けるようにして現れた救援部隊、それは地元に住まう野良猫たちだった。
閑静な住宅街を抱くここいら一帯には、家猫もそれなりにいるが、人のおこぼれにありつけることも多いため、野良猫の数も多い。
そして、現代人は猫に弱い! そこに狙いをつけた由は、炎の音叉を通じてコンタクトを試みる。
(お集まりいただき、感謝します)
「にゃあ(それほどでもない)」
「にゃあ(ごはんー)」
「にゃあ(フ、サブ……お前ってやつはいつも食事のことばかりだな。仕方のない奴だ)」
本当に意思の疎通が出来ているのか不安を覚えた由だったが、ひとまず続けてみることにした。
(実は、仮面を被った怪しい者を探しているのですが、なにか心当たりはありませんか?)
「にゃあ?(アンタがそうじゃないの?)」
「にゃあ(ごはんー)」
「にゃあ(フ、待てサブ。このお方は、クロの姐さんと話がしたいようだ。取って置きのササミを分けてやるから、こっちに来るのだ)」
どうやら一匹の猫が話を聞く気になったらしい。
(私以外でお願いします。細かなことでも構いません)
「うー……にゃあにゃ(そうねぇ……そういえば、最近、近くの縄張りを仕切ってるトラノスケがぼやいていたわ。根城にしていた場所に人が出入りするようになって、のんびりできないって)」
(場所はわかりますか?)
「うみゃ……(さぁ、知らないわ。トラノスケとは折り合いが悪いのよ。あいつ、いつも身体目当てで下品だから、話したくないの)」
(そうですか……ご協力感謝します)
愚痴っぽい内容に繋がり始めたところで、由は話を切り上げる。
情報の見返りとして、携行している動物用の飼料の中から、お魚の香りがするものを選んで分け与えると、他の二匹も戻ってきたようだ。
「にゃあ(ごはんー)」
「にゃあ(フ、待て待てサブよ。クロの姐さんが先だ。お前というやつはまったく仕方のない奴だ)」
「にゃにゃーん(バルタザール、首尾はどうなの?)」
「にゃ!(ハッ!姐さん、どうやら店員もトラッカーのアニさんも、猫好きのようですぜ。二人ともサブが腹を見せて寝転がるだけで、目が離せない様子でしたぜ)」
飼料を分け合いながら言葉を交わす猫たちの様子に少し困惑する由だったが、そんな事はお構いなしに、三匹の猫たちはあっという間に飼料を食べ終えると由に背を向ける。
ただ、去り際、
「にゃあにゃあ(ごはんのお礼に、ちょっとしたサービスよ。あとは貴女の力でなんとかするといいわ)」
そうして、三匹は颯爽と夜闇に消えていった。
(ありがたいですね。姐御肌のクロに、食べ盛りのサブ、そしてキザなバルタザール)
感謝の言葉を胸に秘め、由はコンビニのほうを見やる。
どうやらタイミングよく、店員が表のゴミ箱の様子を見に出てきていた。
由は滑る様に移動し、コンビニの屋上に陣取ると、店員が店内に引っ込む前にユーベルコードを発動する。
「おいで、私に力を貸して」
柔らかく揺らめく炎の掌中から生み出されたのは、小さく愛らしい子猫。
ユーベルコード「可愛いは正義」で呼び出されたその子猫は、そのまま身を翻して数メートル下のコンビニ前に音もなく降り立った。
「ふう、さっき猫さんが居たから、ゴミ箱漁られてないかと思ったけど、いつの間にか居なくなっちゃって……はうあっ!?」
素朴な印象のコンビニ店員は、周囲をキョロキョロと見回しつつ、さて業務に戻ろうと視線を戻したところ、コンビニの扉の前にちょこんと座り込む子猫を目の当たりにして大袈裟に身をよじる。
子猫特有の毛羽立った毛並みと、体格が小さいせいで顔のパーツが大きく見えるあどけない目つきに、コンビニ店員は一瞬で虜になってしまう。
「はわわわ、か、かわいい……あーでも、ダメダメ! なまものはダメなのよ!」
眉尻を下げて既にどうしようもない表情をしつつも、業務に実直な店員は危うげな自制心を働かせて、のけぞった姿勢のまま子猫から距離を取りつつ、店内に引っ込もうとする。
しかし、扉の前から一歩も動こうとしない子猫には近付かないといけない。
近付くほどにわかる、この愛らしさ。
だが、ダメなのだ。店内ではおでんや簡単な調理も行う場合もある業務の総合格闘技コンビニ店員として、野良猫の体毛やその身に帯びる雑菌は大敵なのである。
今しがたゴミ箱をついでに掃除しておいて言えたことでもないことかもしれないが、コンビニ店員の制服を着た者が店の前で猫と戯れでもしたら、コンビニの衛生観念を問われてしまう。
バイトテロ一歩手前だ!
猫に目がないのは自他共に認めるほどのコンビニ店員だが、業務に関しては真面目を通してきた。
いくら猫ちゃんが可愛くても、手を出したらダメなのだ。
イエス、猫ちゃん。ノー、タッチ!
ああでも、きゃわいい!きゃわきゃわ!
自制心とモフりたい欲求とのせめぎ合いで、もはやコンビニ店員の思考回路は融解寸前であった。
「おっと、猫ちゃん。店員さんを困らせちゃダメだぞ」
「はうあっ、お客様」
そんなコンビニ店員の危機を救ったのは、作業着姿のトラック運転手だった。
手馴れた様子で子猫の首根っこを掴んでやると、そっと扉から離れた場所に置いてやるのだった。
大柄な体躯に似合わず、地面に膝をついて気遣わしげに子猫を扱う姿は、紛う事なき猫好き。
「すいません、お客様」
「いやなに、いいってことよ。止めないと、猫ちゃんを連れてどっか連れ去ってしまいそうだったもんなぁ」
「あはは、お恥ずかしい……」
店員とトラック運転手は、そのまま自然な流れで、ごく自然な流れで、立ち話に移行する。
猫をダシに、といっては難だが、こういった交流もコンビニにはよくあるお話なのである。
「これも新手の人さらいかね……最近はどうも物騒でよくねぇや」
「最近多いらしいですねぇ」
「店員さんも気をつけなよ。ちょっと前にも、なんか若いのが集団でどっか行ったみたいじゃねぇか」
「ああ、そうですね。店内からだとよくわかんなかったですけど、確か皆さん、誰かに連れられるように、国道から逸れた林道のほうに行かれたようですね。
何かあるんですかね、あっちには」
「うーん、さあなぁ。ここの人間じゃないからなぁ」
「あっ、猫さん居なくなってる!?」
「お、本当だ……あー……それじゃあな。お仕事頑張ってな!」
「ありがとうございます!」
ほんの僅かな間の歓談だったが、猫の存在がなくなった途端、トラック運転手は照れくさそうに自分のトラックの方へと帰っていく。
それを見送る店員を見下ろしていた由は、再び顎に手をやる仕草で思案する。
(国道から外れた林道……その先に何かあるようですね)
成功
🔵🔵🔴
虚偽・うつろぎ
アドリブ連携等ご自由にどぞ
SPD
客として店内調査
軽く商品を一通り見ながら
店員の様子、そして店内の客の様子
立ち読みしながら店の前の客の様子とか観察
あまり長居しても怪しいので
野菜ジュースとパンを持ってレジへ
購入するついでに店員に軽く話を聞いてみる
そういえばこの辺りに心霊スポットとかあるの?
そういうの好きで調べてたらここのコンビニから向かうみたいなこと書いてあったから
今度行ってみたいと思ってて
僕みたいな心霊スポット目当てのマニアとか良く来るのかな?
その後は店の外でのんびり買ったものを食べる
その状態で外から店内を不自然にならない程度に観察
外に出たことで店員が不審な行動取ってないかは確認しておかないとね
コンビニ、それは憩い。
コンビニ、それは明り。
今宵も住宅街のコンビニは、夜の静けさそのままに客足も緩やかだった。
そんな深夜のゆるりとした、ただ明るい気だるさすらある空間に、新たな客が足を……たぶん、足を踏み入れる。
「いらっしゃいま……はぇ!?」
虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)の入店と共に、店内はにわかに騒がしさを生じる。
とはいえ、今は店員と二人きりなので、たいした騒ぎではない。
一つ例外を挙げるとするなら、入店したうつろぎが、うつろぎだったということなのだが。
それは、まるで虚空に墨汁を塗りたくった……いや、毛筆で力強く書き上げたかのような、平仮名であった。
いくら猟兵がUDCアースの世界に於いて不自然でない扱いを受けるとはいえ、その姿はやや常軌を逸していた。
「あ、あの、お客様……その、店内で、ええと被り物のようなものは……」
「あ、これは地顔だよ。大丈夫、無害な平仮名だから!」
「え、えぇ……そうですか。失礼しました」
意外にも明るい口調に謎の安心感を覚えつつ、すごすごと引き下がる店員を素通りすると、うつろぎは店内をゆっくりと歩き回り観察する事にする。
コンビニ店員は、ある程度柔軟でなければ勤まらない。お客様の見た目が多少変わっていても、普段どおりに接客できねばならない。
猫には自制心をもっていかれそうになった店員でも、基本的に業務に実直なのである。
ただしヘルメット等を着用したまま入店されるのは困る。
「ふむふむ……一歩、休載か」
ひと通り店内のあちこちを見て回ったうつろぎは、今度は雑誌コーナーで立ち読みしながら、それとなく店の前や店内、店員の様子などを観察する事にする。
夜更けともあって、閑静な住宅街の客足はそれほど多くはない。
店内は系列店専用の有線放送を流している他は、対して騒がしいというほどでもなく、荒れている様子も無ければ、掃除も行き届いている。
きっと真面目な店員が、定期的に棚卸しもしているのだろう。物品の補充も間に合っている。
監視カメラもちゃんと仕事をしているようで、ミラー越しに見えるカメラは稼働中のランプが点っている。
怪しいところは何も無いように感じるが、それがかえって怪しいとも言えなくもないが、そんな事をいい始めたらドツボなのではないだろうか。
……これ以上、長居しても収穫は無いかもしれない。
それにあんまり長居したら不自然だし、店員さんに迷惑になるだろう。
アテが外れたかな、と心なし肩を落とし……肩どこだ。……とにかく、ほんのり気落ちしつつ、うつろぎは立ち読みをやめて、野菜ジュースとパンを商品かごに入れてレジの前に立った。
一応、商品点数が少ないながらもかごを使ったのは、彼なりの気遣いである。
「おねがいします」
「はぁい。ええと、パンは温めますか?」
「いや、けっこう」
「では、商品ご一緒の袋でよかったでしょうか?」
「うんうん」
マニュアルに即した対応ながら、素朴で朗らかな店員の対応に、思わずうつろぎもふんわりとした態度になってしまう。
そういえば、この店員にも話を聞いてみるべきかな。
他に客もいないようなので、うつろぎは代金を払いつつ、話をしてみることにした。
「そういえばこの辺りに心霊スポットとかあるの?」
「はい? 心霊スポットですか?」
「そういうの好きで調べてたらここのコンビニから向かうみたいなこと書いてあったから、今度行ってみたいと思ってて……」
言いつつ、にゅるんとスマートフォンを取り出してみせる。
件のホラー系トピックの情報を彼なりに調べてみたのだが、トピックそのものが既に削除されたか、流れてしまったらしく、ことの詳細を掴むには至らなかったものの、関連のSNSなどをあれこれ漁ってみれば、このコンビニに繋がったというわけである。
ただそれでも、当初の予知以上の情報は得られなかったのは手痛いところだった。
「僕みたいな心霊スポット目当てのマニアとか良く来るのかな?」
「うーん……そういう感じの集まりがあったのは覚えてますけど、どこに行ったかまでは……あ、でも、ちょっと待って下さい」
状況的には、今この瞬間こそ割とホラーなのだが、そんなことはすっかり忘れて、店員は何かを思い出したかのように、店の奥のほうへと引っ込んでしまった。
既に商品の清算は済んで、レジカウンターには白いビニール袋に入った野菜ジュースとパンが置かれている。
店員を待つ立派な書体のブラックタールという姿はかなりシュールな光景だったが、それも束の間、店員はすぐに小走りで戻ってきた。
その手に持っていたやや使い込まれた紙媒体の地図とスマートフォンを、レジの上に広げる。
「高校の頃にこっちに引っ越してきて、道を覚える為に地図を買ったんですけど、ちょっと古い地図だったみたいなんですよ。
それで……」
要領を掴みづらい話だったが、彼女が示した地元の地図の示した内容と、スマートフォンで表示された現在の地図の表記との違いは、うつろぎの目にも明らかだった。
ホームベース状の囲いの中に十字が描かれた地図記号。それは、古いほうの地図にのみ表記され、最新の地図には記されていないものだった。
「病院……?」
「はい、今はもう無いみたいなんですけど、病気したときとかの為に、なんとなく憶えてたんです……でも、今もう無いってことは、そういうことなんじゃないかなって」
「なるほどなぁ。うん、ありがとう」
「あの……余計なお世話かもしれないんですけど、一人だときっと危ないと思いますよ?」
「大丈夫だよ。たぶんね」
心配そうな顔をする店員を元気付けるように明るい声で応じつつ、うつろぎはコンビニを後にする。
さて、買ったものを店の外でのんびり頂きつつ、もう少し調査してみようかとも思っていたうつろぎだったが、貰った情報が割と核心のような気もする。
そちらを調べにいくのがいいかもしれない。
それに……ちらりと店内を盗み見ると、いまだに店員が心配そうな視線を向けてくる。
これはちょっとむずがゆい。
不可思議なこそばゆさを覚えたせいか、うつろぎはいつもよりも急ぎ気味に野菜ジュースとパンを平らげて、ゴミくずをゴミ箱に放り込むと、少しだけ早足に夜の闇へと消えていくのだった。
成功
🔵🔵🔴
エーカ・ライスフェルト
能面黒コートが登場するまでは、被害者は単に警戒心が薄い野次馬だったみたいね
「なら、その時点までは携帯端末を使って閲覧と書き込みをしている可能性があるわ」
【ハッキング】で基地局に残ったデータを漁り、被害者が見ていたサイトや被害者の書き込みを特定しようとする
特定できた後、調べたいのは以下の2点よ
どういう理由であの場におびき寄せられたのか
どの時点まで正常な書き込みが行われていたか
「敵の能力と意図に、できるだけ迫りたいわね」
集まった情報は(いれば)同行者に伝えるし、後続の猟兵が知れるようグリモア猟兵かUDCに渡しておく
・被害者への心情
見捨てようとは思わないけど、新たな被害者を防ぐことをより優先したいわ
畠・和彦
子供ではないが大人になりきれない半端者の流れ着く先か
未熟な若者にとって怪談は格好の餌だろう
「じゃ捜査しますか」
捨て置くことはできない
若者にとってこの時期こそが未来の分岐点だからね
【SPD】
ボクは童顔で低身長、学生と間違えられることも多い
よって学生に【変装】
店内で立ち読みや買い物選びをしつつ内部確認だ
バレないようサイバー双眼鏡での分析も行う
学生で妙にそわそわしてたり不安がる者、この場に似つかわしくない社会人がいたら【コミュ力】で話しかけ【情報収集】だ
勿論ボク自身も不安がる学生に演じる
話しかけられた場合も同様の対応を行う
その中で怪しいと思われる人物が離れる時は『影の追跡者の召喚』で【追跡】させよう
夜陰の風はまだ少しばかり肌寒いものを残していた。
いかにもこれから珍妙不可思議なものに遭遇しそう、と言えば、だいたいの事象はそう当てはまるかもしれない。
変な当てこすりはよくないか。
それにしても、集団失踪事件。連れ去られたのはいずれも若い男女だという話らしい。
子供ではないが大人にもなりきれない半端者が流れ着く先か。
未熟な若者にとってこういった怪談話というのは、格好の餌なのだろう。
失踪の舞台となったコンビニを視界の中に見つけると、畠・和彦(元刑事の変わりモノ・f15729)はそばかすの残る顔に力強い笑みを乗せて、トレンチコートの襟元を正す。
「じゃ、捜査しますか」
捨て置くことは出来ない。
三十を目前に控えたらしい自分の記憶はイマイチ曖昧だが、年長者からは若者と言われても、子供からはオッサンと言われるだけの歳なのだ。
自分が失った記憶の中にはきっと、彼らと同じだけの青春の分岐点があったに違いない。
それを守ってやりたいというのは、ごく自然な人情というものだろう。
「ちょっと待ってちょうだい」
「うん?」
さて、現場であるコンビニにいざ乗り込まんと意気込んでいた和彦を呼び止める声。
国道沿いのガードレールに腰を預けていたその人影は、いつからそこに居たのか、随分派手な印象を受けた。
どこかの夜会から抜け出してきたかのような、星空を切り抜いたようなイブニングドレス姿の、どこか気だるい雰囲気は、装飾も最低限でありながら華美に見えるほどの色香を纏っていた。
「おお、いい女。終電でも逃したのかい?」
「ありがとう、素朴なお兄さん。ところであなた、察するところ同業よね?」
本人はお世辞のつもりではなかったのだが、軽口と受け取ったのかその女性、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は気だるげな調子を崩さぬまま単刀直入にその素性を問う。
そこでようやく和彦も合点がいったように手を打った。
「ああ、お嬢さんも猟兵ってわけか。こりゃ失礼したね」
「お嬢さんはやめてちょうだい。私はエーカ」
「畠和彦だ。よろしく、エーカ嬢」
軽く自己紹介と握手を交わすと、微妙にエーカは眉を顰めたが追求するのもなんだか面倒になったので、しばらくは合わせる事にした。
「それで、わざわざ声をかけたってことは、同じ事件を追ってるってことでいいんだね?」
「ええ、私としても、手を借りたいことがあったから」
そういってガードレールから立ち上がり、一緒に国道沿いの道を歩きながら共同作戦の概要を話し始める。
肩口から胸元まで大胆に露出したドレスを完璧に着こなすエーカのプロポーションには、ほぼ一人やもめの和彦も目のやり場に困ったものだが、そこはお仕事なので真面目に話をすり合わせていく。
そうして、即席ながら共同作戦を作り上げた二人は、やや時間をずらして問題の場所、コンビニへと向かうことになるのであった。
「いらっしゃいませーこんばんはー」
コンビニ店員の朗らかな挨拶を受けながら先に入店した和彦は、周囲をキョロキョロと見回してから雑誌コーナーへと向かっていく。
その時点でかなり挙動不審ではあったが、入店していきなりあちこち見回す仕草は、コンビニに来たけどなにを買うか忘れたというオッサンあるあるなので超余裕で見逃してほしい。
幸いにして若いコンビニ店員もそういった程度の謎行動など見慣れているのか、特に和彦に対して不審に思うことは無かったようだ。
和彦の今の姿は、使い古しのトレンチコートもくたびれた帽子も無く、それらをどこに仕舞ったのかというほど身軽な格好をしていて、顔つきもなんとなく印象に残りづらく有り体に言えば無難な若者へと変装している。
なので、多少のことではとてつもない不審者というレッテルは貼られないことだろう。
まずは第一関門突破と言うところだろうか。
そのままコンビニ内の商品などを見たり手に取ったりしていると、新たな客がやって来た。
「いらっしゃいませーこんばんはー」
ちょっと前と寸分違わない店員の声が聞こえる。
「ちょっとコピー機を借りてもいいかしら?」
「あ、はい、どうぞー。使い方はわかりますか?」
「ええ、困ったときは助けを呼ぶわ」
「かしこまりましたー」
入店して早々にカウンターの影になる位置に設置されたマルチコピー機のほうへと歩いていくドレス姿の女性ことエーカの姿を認めて、店員の視線が彼女から逸れるのを横目でちらりと観察していると、和彦は他の客にぶつかりそうになって、あわてて足を止める。
「おっと、すいません」
「あ、ウス……」
ぶつかりそうになったのは、童顔の和彦よりも若い印象の男だった。
社会経験上、人と話す機会の多い和彦がハキハキと言葉を喋るのに対し、その男は無精ひげに寝癖がかった髪を蓄え、マスクをつけているわけでもないのに応対する声はこもって聞こえた。
一見して、あまり外出するタイプの雰囲気ではないが、ぶつかりかけた際に盗み見た足元は、近所に出歩くようなつっかけではなく、しっかりとしたスニーカーを履いているようだ。
(当たりかも知れないな)
どうにも失った記憶の中で自分は刑事をやっていたようで、こういったところの観察眼はあるらしい。
この若者にひとつ賭けてみようか。
そうして和彦は一芝居打つことを決める。
「いやぁどうもすいません……。あ、ひょっとしてなんですけど、ここのコンビニって、待ち合わせか何かの約束ってありませんか?」
買い物中だというのに、常に握られている男のスマートフォンに目をつけた和彦は、あからさまに目を向けつつ、話しかけてみる。
「え、あっ……いや」
青年の反応は明らかだったように思えた。
ただ話しかけられて困っているだけとは思いがたいほどの動揺。
もう少しカマをかけてもいいかもしれない。
「ボクもそういう話をきいて来てみたんだけど、うっかりスマホ落としちゃってさ。詳しく憶えてないんだよ。ね、何か知ってるなら教えてほしいんだよね」
「う、あ……だ、ダメっすよ。言ってたじゃないすか。誰かに話したり、誘ったりしちゃダメだって……」
「え、そうだった? うーん、悪いことしちゃったな。どうしよう……他にも聞き逃してるかもしれないから、もう少し教えてくれないかなぁ?」
「え、えぇ……」
不安がる素振りを見せながらも、和彦は刑事特有の押しの強さでぐいぐいと青年から話を聞きだそうと迫る。
あくまでも不安がる若者を装いながら。
一方のエーカはというと、店員や他の客の視線がないのを確認すると、複合プリンターの端末に専用のハッキングツールを接続し、周辺のデータを漁る作業に移っていた。
傍目からはコピー機の液晶画面を操作しているようにしか見えないが、手の内ではハッキングツールを駆使して情報を探しているのである。
予知で明かされた情報に依れば、被害者を集める背景には情報端末によるデータの共有があったはずだ。
その形跡を辿るのは今はもう難しいようだが、そこから外に洩れた情報はゼロではない筈。
エーカが探している情報は、携帯端末の基地局、そこからアクセスを辿れる筈のSNSなどの情報共有サービスだ。
ホラースポットや怪談の情報に釣られるような若者のことだ。その程度の警戒心の薄い野次馬根性を持ち合わせているのならば、他の情報を自らの手で発信している可能性も否定できない。
「なら、その時点までは携帯端末を使って閲覧と書き込みをしている可能性があるわ」
誰にも聞こえないレベルの独り言を洩らしつつ、失踪の起こる時刻近辺でアクセスのあったサービス情報を元に、凄まじい早業で情報の海を掻き分けていく。
『暗黒面……俺もそちら側に落ちてしまったかもしれん』
『集会を開くって、こんなにいんのかよ。あーやっぱ帰るかなぁ』
『やっべ、店員さんかわいい。終わったら帰りも寄ろっかな』
『神の復活とかマジで言ってんのかな。なんか変なの出てきたし、なんか雰囲気おかしいってマジで』
幾つかの情報を手に入れたエーカは、やがてそれらの書き込みが、失踪事後からぷっつりと途絶えている事に気付く。
喧騒の中ですら情報を発信し続けた、ある意味で現代的な若者が、大人しく何もしないまま能面の者に煽られるまま同行するとは考えにくい。
考えられる可能性、その意図は……。
神の復活。これが敵の目的なのだろうか。考えられるのは、おそらく邪神だろうか?
そして、若者達を容易く手玉に取れるだけの、一種の催眠のような力があるのだろうか?
憶測に過ぎないことだが、目的や能力の一端に繋がる情報は得られたかもしれない。
そして最後にもう一つだけデータを引き出すと、もうそこそこ時間が経過していた。
そろそろ潮時か。あまり長い時間コピー機の前に居るのも不自然だ。
手早く道具を片付けると、エーカは印刷したコピー紙を手に、複合コピー機から離れる。
「いや、だからこれ以上はダメっす! お、俺は帰る! なんも知らないし、関わってない」
丁度同じ頃、和彦と話していた青年が、慌てた様子でコンビニから出て行った。
それを見送る和彦は肩をすくめて、雑誌コーナーで立ち読みを始めた。
「コピー機、ありがとうね」
「あ、はい。ありがとうございましたー」
あくまでも他人の振りを装うエーカは、去っていった青年をぽかんと眺めていた店員に一声かけてコンビニを後にする。
少し歩いて、国道沿いのガードレールに腰を預けていると、しばらくして和彦もやってきた。
「成果はあったかい? エーカ嬢」
「……ええ。私なりにまとめたデータを、移動しながらグリモア猟兵のあの子や他の仲間とも共有しておくつもり。畠さんも見ておく?」
「もちろん。あと、ボクも名前でいいよ」
「はい、どうぞ畠さん」
「んもーう」
多少おどけた調子で、どこに仕舞っておいたのかコートと帽子を着用しなおしつつ、エーカに渡された紙束を改めていく。
明るい調子だったその顔が、徐々に真剣みを増していく。
「こっちも憶測に過ぎないけど、ちょっとしたことがわかったよ。
たぶん、この人を操るみたいな催眠術は、ある程度波長みたいなものが合わないと、効果が出ないんじゃないかな。
さっきの青年も、あからさまに何かを隠していたのに、頑なにそれを口にできないようだった。
他言できない仕掛けでもあったんだろうな。でも、SNSなんかは大丈夫なのは、意外とずさんだな」
「恐らく、情報を漏洩している意識が無いんだと思う。でも、その危機感の薄さが強い暗示の綻びでもあったのよ」
被害者の一人と思われる青年とじかに接触した和彦の推論に、エーカは持論と照らし合わせて、そう結論付ける。
若者は時として御しがたい。狂信的な暗示をかけようとも、根底の人間性はなかなか覆らない。
まして、対象はまだそういった人間性の固まる前の多感な部分を多少残している若者である。
単純でありながら、単純にはいかない。それが脆さでもある。
「それで、あの青年を追いかけるなら、急いだほうがいいんじゃない?」
「ああ、エーカ嬢が最後に調べてくれた携帯端末の位置情報が正しければ、目的地は同じだろうけど……ボクも一応、あの青年に影を付けておいたから、そちらを追いかけてみようと思う」
慌てて去っていった青年。何かに追われるかのようだった様子から、只ならぬものを感じた和彦は、咄嗟にユーベルコードによる影の追跡者を忍び込ませ、青年の影に張り付けておいたのだ。
奇しくもエーカも同じことを考えていただけに、和彦の抜かりない行動に多少驚いた顔を見せていた。
ただの童顔の男ではなく、この人も紛れなく猟兵なのだ。
「では、途中までご一緒しましょうか。エスコートしてくれるんでしょう?」
「んんー、参ったなこりゃ」
薄く微笑むエーカの気だるげながら漂う色香に、思わず後ずさりしてしまう。
彼女にそんなつもりは無いのかも知れないが、決められそうなところでヘタレてしまうのは、ある意味で彼の愛嬌とも窺えた。
そうして、二人の奇妙な追跡が始まるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リューイン・ランサード
失踪事件との事ですが、失踪した人が帰ってこなければ殺人事件と
変わらないですね・・・
恐そうな感じがしますが、放っておけないので頑張ります<汗>。
舞台がこのコンビニという事なので、ますは店に関する情報収集を
行います。
店の立地条件が気になります。
近くに大規模マンションや大学の寮があれば、若い男女が集まるのは
当然ですし、そうでないなら何故集まったのか調べる必要があります。
後は品揃え。
コンビニは本部の流通に基づいて品物を揃えますが、同じ系列の
コンビニと異なる商品があれば注意します。
コンビニで駄弁る人の会話にも耳を傾けます。
そういう形で”なぜこのコンビニが失踪コンビニの舞台になったのか?”
を調べてみます。
ふう、と、少々遅れ気味に現地に到着したリューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)は、既に疲労感を感じつつも、気分を一新する為に嘆息する。
何しろ、現場となったコンビニそのものを調べる為に、あちこちの系列店を見て回ったり、店舗の立地などを正確に調べ上げたりと、資料を集めるだけでも時間がかかってしまったのである。
情報収集も楽ではない。UDCアースの、特にこの国ではコンビニはそこらじゅうに点在する。
最初こそ意気揚々と歩き回ってみたものの、だんだん同じような店構えを巡るうちにうんざりしてきて、自分は何をやっているのだろうという徒労感が生じてからは、時間が過ぎるのがただただ緩慢に感じたものだ。
だが、と襟元を正して件のコンビニに入店するリューインの足取りは比較的軽いものになっていた。
失踪事件の現場となったこの場所が、ここいら一帯にある同系列のコンビニでは最後となる。
ようやく終わる。もとい、ようやく調査が始められるという期待が、歩き詰めだった疲労を少しだけ紛らわせてくれた。
「いらっしゃいませーこんばんはー」
どこか親しみを感じるコンビニ店員の声に迎えられ、リューインは曖昧に笑みを浮かべつつ応じつつ、棚の外周を巡るようにして商品を眺めはじめる。
さて、改めて事のあらましと、自分なりの考えをまとめてみよう。
(まず、店の立地が気になりますね)
このコンビニは国道沿いではあるが、周囲は閑静な住宅街で、人の通りはそれほど活発とは言い難い。
近くに大きなマンションや学生寮があるというわけでもなく、主な客層は周囲の住民を除けば、いずれも国道を利用する通退勤の社会人や長距離運転手。
あとは、幼少からここで育った子供が学校からの行き帰りで利用する関係で、そのままある程度の年齢になってからも、一番解りやすい場所であるここを利用することが多いという調査結果を得た。
つまり、若い男女が多く利用するというわけでは必ずしも無いが、しかし、利用する若い男女に絞れば、この場所で育った子供だった可能性が高くなってくる。
面識や強い繋がりが無くても、連れ去られた人たちに共通する項目がそれだというなら、何か意味があるのだろうか。
(他には、品揃えですけど……)
実を言うと、こちらはあんまり芳しくない。
コンビニの品揃えに関しては、どこも似たり寄ったりで、たいして違いがあるようには思えなかった。
現場となったここのコンビニも、取り立てて目立つようなものがあるようには見えない。
これに関しては当てが外れたかな……。
どうしてこのコンビニに人を集める必要があったんだろうか。ここでなければならない理由が何かあったのだろうか。
単なる偶然とも考えられるが、ただの若者を集めるのにこの場所は必ずしも交通の便に優れているわけではない。
何か見落としているだろうか。
「うーん、もう少し調べてみましょうか。まだ何か見落としてる可能性も……」
再び湧きあがろうとする徒労感を振り払うかのように気を取り直し、せっかく入店したのに何も買わないのも不自然とばかり、お茶とパンを手に取りつつ調査を再開すると、考え込んでいるうちに入店したらしい別の客が目に入った。
男女二人組のカップルだろうか。垢抜けているが、慣れた足取りはどこか安心感のようなものを感じさせる。
ひょっとしたら彼らも、ここが地元の若者なのかもしれない。
何気なく観察していると、二人組はほとんど迷うことなく温かい飲料のコーナーからペットボトルのコーヒーを手にとってレジに向かうところだった。
どうやら単に飲み物を買いに寄っただけらしい。
手がかりは厳しいだろうか。リューインは心中で嘆息し、観察をやめようかと思ったが、
「お、まだこれあるんだ! 店員さん、温かい饅頭も頂戴」
「え、なにそれ?」
深夜のコンビニには一瞬でテンションの上がった男のほうの声が、リューインの興味を引いた。
見れば、レジ脇のホットスナックのコーナーの一角、肉まんなどを温めているガラス張りのあれはなんと言うのだろう。とにかく肉まんの一種か何かだろうか。
「ガキのときによく食ったんだよ。たぶん、ここでしか売ってないやつ。なつかしー」
「うまいの?」
「うまいうまい。半分やるよぉ」
なんだか頭悪そうな会話だが、甘えるような仕草の女性の方に懐かしげに説明する男は、なんとなく少年に戻ったような顔つきである。
本当に昔からあるものなのだろう。たった数秒のやり取りの中に、彼の思い入れのようなものを感じる気がする。
もしかしたら彼に弟や妹がいて、同じように半分あげた思い出でもあるのかもしれない。
調べてみる価値はあるかもしれないな。
リューインは思い切って、レジに向かうことにした。
「あ、すいません、さっきのお客さんが買っていったお饅頭ってここにしかないんですか?」
「え、あ、はい。そうですよ。ここの店舗だけだと聞いてます。普通のお饅頭なんですけど、昔からここで売ってるそうですよ」
急な質問にも、店員は朗らかな笑みを浮かべつつ、とてもシンプルに答えてくれる。
「普通のお饅頭とどう違うんですか?」
「うーん、温かいです!」
「え……えと、それ以外で……いや、一個貰います!」
「はぇ、かしこまりました。ありがとうございますー」
説明を求めたところで、有用なことが聞けそうもなかったので、リューインは先回りして件の温かいお饅頭を追加で購入し、店員に見送られつつコンビニを後にする。
……勢い余って店を出てしまったが、それはもう仕方ないので、調査を一時中断して、問題のお饅頭を取り出してみる。
街灯の明りに照らされるお饅頭は、いわゆるあんまんと似ているが、表面に焼印のようなものが施されているのが印象的だった。
その焼印の模様をじっと見て、リューインは確信を得る。
「これは当たりかもしれません」
武人の名門の出で、アルダワ魔法学園の学生でもあるリューインには、その焼印はただの模様ではなく、呪術に繋がる紋様であるように思えてならなかった。
食べ物にシンボルとして描かれたに過ぎないものに精密さはないものの、それでもある程度の効果は予想できる。
それほどシンプルなものなのである。
この紋様は恐らく、催眠や暗示といったもの、その導入に用いられる一種だろう。
この紋様を記憶に強く刻み付けておくことにより、特定の波長や文言に惹き付けられ易くなる。
それを段階的に深めていくことで、やがてはただの一挙動だけで、人を意のままに操ることも不可能ではなくなる。
(つまり、こういうことでしょうか)
ここで、幼少の頃からこのお饅頭に慣れ親しんで育った若者が、何かのきっかけで件のホラー系のトピックに行き着いた。おそらく、この饅頭と同じマークで注目を引いたのだろう。
既に子供の頃から刷り込まれていた紋様も手伝って、催眠をかけられた若者たちはこの場所に集められ、連れて行かれたというわけだ。
その精度は様々だろうが、波長の合うものを狙ったというなら、これは同時に篩でもある。
だが、
(どうしてここなのだろう)
この場所で饅頭を売っていたからというのは、ちょっと不合理だ。
と、思い悩んだリューインの頭上を、ほのかに光を帯びる桜の花びらが舞う。
「これは……グリモア?」
現場へやって来たときも見かけた、この依頼をサポートしているグリモア猟兵特有のものである。
任務中にグリモアが開くことは稀だが、わずかに片鱗を見せたそれは、ひと束の資料を伴って、すぐに霧散してしまう。
それは、事前にエーカ・ライスフェルトが掴んだ情報をまとめた資料であり、その内容を改めたリューインは、自分の抱いた疑問の答えを見た。
そういえばそうだった。
失踪した彼らが集められたのは、元々心霊スポット探訪が目的だったのだ。
そちらに焦点を当てて調べられた資料が示す先は、このコンビニ付近の林道をいった先にあるという、廃病院。
どうやら、次の目的地が決まったようだ。
「失踪した人が帰ってこなければ、殺人事件と変わらないですね・・・
恐そうな感じがしますが、放っておけない」
冷や汗が滲むのを堪えるように、まだ熱い饅頭を頬張ると、リューインは気合を入れなおして、夜闇の中を歩き始めた。
成功
🔵🔵🔴
聖護院・カプラ
能面の者がオブリビオンに連なる者であるのは間違いがないでしょうが、行いを改めさせる為には些か情報が不足しているようです。
若者達を救う為にも今は……張り込み調査を行いましょう。
サクラさんの予知によると若者達は歩いて姿をどこかへ消したと。
あれだけの人数、車で運ぼうと思えば非常に目立ちます。
車の目撃情報が(おそらく)ないという事は、徒歩圏内に邪神教団の拠点があるのではないでしょうか。
人払いの呪いや怪異の力が効いているのなら聞き込みの反応は芳ばしくない筈。
近くの店を(防犯の啓蒙、不審者情報等で)『説得』して、監視カメラの記録を見せていただきそこから行き先を絞りましょう。
真夜中の闇の中に、コンビニはその存在を示すかのように炯々と明るさを放っている。
そして、そこから少し離れた場所に到着した聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)もまた、闇夜の中ですら輝きを放たんばかりの存在感を放っていた。
UDCアースの現行科学では再現不可能なウォーマシンの巨躯は、いくら違和感を持たれない猟兵という存在であっても他者を威圧してしまいかねない。
それでも、仏の御心に近付きたい謎の悟りを見出したカプラは、マシンでありながら人間の若者の失踪を捨て置くことは出来ない。
コンビニの調査は、他の猟兵達が十分に行った可能性がある。
ならば、周囲の張り込み、聞き取り調査を主に行うほうがいいだろうか。
地面から僅かに浮遊する台座に胡坐をかきつつ、カプラは考える。
能面の者がオブリビオンに連なる者であるのは間違いはないだろう。
それに至るには、なにはなくとも不足した情報を生めることが不可欠。
周囲を見回してみれば、コンビニは国道に面していて、歩道も敷設されているものの、主な客層は車を所有する者がほとんどのように見える。
連れ去っていくなら、車輌に押し込んで連れて行くほうが、逃げられる心配もないのではないだろうか。
しかしサクラ予知からすると、失踪した若者たちは、いずれも能面の者に先導される形で歩いて夜の闇に消えていったという。
いずれにせよ、大勢で動くというのは、それなりに目立つ行動に変わりはない。
加えて、車輌ではなく歩かせたということは、彼らの目的地が徒歩圏内のどこかである可能性も高い。
「捨てる神あれば、拾う神ありと申します」
恐らく目立つ場所ではない。
目印となるなら、最初からその場所に集めればいい話なので、夜中でも明るい場所をわざわざ待ち合わせ場所にしたということは、口頭や地図での案内が難しいのか。
──それとも、人払いの呪いや、怪異の不可思議な力で尋常の手段では見つからない仕組みになっているのか。
だとするなら、ただ人に尋ねて回るのは、手こずるかもしれない。
「おや、これは丁度いいですね」
コンビニから徐々に遠ざかりつつ、周囲を探索していたカプラは穏やかな調子を崩さず、暗闇の中の僅かな明りを見出す。
頭部光学センサーを暗視モードに切り替え、当該対象周辺の情報を収集してみると、どうやら小さな公園らしく消えかけの街灯と、その近くに車が一台止まっていた。
着目したのは車の方である。街灯の明りとは別に室内灯の明りが洩れている。
スポーティーなRV車。半端な田舎街には少々不釣合いなほど先進的な印象を受けることから、そこそこ遠くから静けさを求めてやってきたのではないかと推察する。
その車輌に近付くにつれ、カプラの動体センサーがわずかに振動を検知する。
なんとなく事情を察したところだが、これもお仕事なので心中で車中の人間に詫びつつ、カプラは祈るように合掌してから、無人の運転席側の窓をノックする。
程なくして、スモークを張られた後部座席側の間仕切りをしていた車中のカーテンが開く。
「ああ? 誰だよ!?」
「お取り込み中、失礼します。少々、お伺いしたいことがあるのですが」
「うおわっ!? ロボット!?」
闇夜の中で輝く光学センサーと目が合ったRV車の男は、最初こそカプラのその威容に面食らったものの、全身から放たれる言い様のないアルカイックで親しみのある雰囲気に一目で飲まれてしまう。
そのまま何かに吸い込まれるかのように、何故か、何故か、半裸のまま車のパワーウィンドウを開けて、話に応じる。
「本当に申し訳ありません」
「いや、それはいいんだけど、あんた、一体なんの用なんだ?」
「いえ、たいしたことではありません。素敵な車をお持ちですね。さぞ、機能にも投資していらっしゃるのでは?」
「いやぁ、そりゃもう、テレビにラジオにカーナビに、音響関係も充実してるし、事故対策も万全といっても過言じゃないよ。
嫁と安心してドライブもできるし、最近じゃこうして」
「なるほどなるほど。それは結構ですね。では、ドライブレコーダーなどは搭載しておられますか?」
「もちろん。世の中、何が起こるかわからないから、そういうのは欠かせないよ」
「では、少しばかり調査にご協力願えませんか?」
穏やかな調子で話を進めるカプラにつられるようにして、RV車の男はついつい車自慢から、車載カメラの情報を提供するに至る。
カプラのユーベルコードによる、あくまでも善意の協力を仰ぐ説得だったのだが、果たして望みの情報の一端は手に入れることに成功した。
わずかに揺れる車載カメラの映像には、能面をつけた黒いコートの者を先頭に、若者達の集団が話をするでもなく、とりつかれたように歩いていく姿が映っていた。
(歩いていった方向は……あちらですね)
提供されたデータを保存し、方向を改めて確認すると、カプラはもう一度RV車の男に向き直り、
「ご協力感謝します」
「いやいや、おたくも道中気をつけてな」
軽く会釈を交わして、次の目的地へと急ぐことにする。
そうして幾つもの聞き込みや、道中の閉店作業中の店やガソリンスタンドなどの監視カメラ映像を提供してもらうべく『説得』し続けたカプラは、
能面の者の足取りをついに辿りきり、鬱蒼とした林の奥にぽつんと出現した廃病院へと行き着いたのだった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『廃病院探索』
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POW : 開かない扉はぶち破る。通れない柵は乗り越える。ひたすら突き進め!
SPD : 怪しい部屋や薬棚、普段触れないものがたくさんあるぞ! いろいろ探してみよう。
WIZ : 昔この部屋は病室だった? 情報を集めて推理しよう。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
様々な情報を得、それらを駆使して辿り着いた猟兵たちの前には、まるで山の中に隠されていたかのような、白い建造物があった。
それほど大きな規模ではないが、どうにも異質な雰囲気が感じられてならない。
真夜中だというのに、割れた窓ガラスの奥からは揺れる明かりが洩れ、風雨に晒されすっかり汚れてしまった正門に立ててあったろう「立ち入り禁止」の立て札は薙ぎ倒されている。
連れ去られた若者たちがこの廃病院の中にいるのは間違いなさそうだ。
ひょっとしたら、病院の中では何かの儀式が始まっているかもしれない。
神の復活?
悪魔の召喚?
いずれにせよ、若者を集めた能面の者が執り行う祭事というものならば、それはホラースポット探索などというものにはならないはずだ。
若者達の探索をするか、それとも能面の者を探し出して、その終結を急ぐか。
猟兵たちはまたも選択しなくてはならない。
宇冠・由
(こういうときはマスクの身体は役に立ちますの)
すいすいと割れた窓から潜入
【十六夜月】で狼たちを召喚
夜目にも嗅覚にも鋭い彼らなら、調査に役立ちますわ
さて、光があるほうにいそうですが、まずは「真新しい血の匂い」がないか狼たちに支持、あるならそちらを優先して調べます
ないなら手術室を、オカルトに惹かれて儀式を行うならそこで行う可能性はありますもの。改造人間、ではありませんが……
全て空振りなら洩れる明かりがある方向へと向かいます
道中、怪しげな仮面がないかも気を配りながら病院散策といきます
そういえば、ここって電波届くのでしょうか? 若い人たち、皆さんスマホ持ってそうですけど
暗闇の中の林道に埋もれるような廃病院をいち早く発見した宇冠由は、機械の身体をなまめかしく稼動させ、仮面の顎に手をやる仕草で、まず手始めに見える範囲から廃病院の規模を探ることにした。
それほど規模が大きいわけではない。規模が大きければ、そこにあるだけで話題になる筈だろう。
風化の兆しの見られる痛み具合から察するに、とっくに廃業しているのは間違いないが、それにしては人か、もしくはそれに近い何かの気配が感じられる。
能面の者が若者達を連れ込んだ場所として、におうのは確かだった。
ひとまず、探りを入れてみる他ない。
とはいえ、真正面から乗り込むのは愚策というものだ。相手がオブリビオンであるには間違いないだろう。
何かの目的あって若者をさらったにせよ、即時戦闘となっては、一般人を犠牲にしてしまう可能性が高くなる。
少し考えたが、中に入り込んで誘拐された若者達の情報を得ない限りは、ロクに対策も立てられはしない。
(とにかく、侵入してみましょうか。大丈夫、こういうのは得意分野ですわ)
機械の擬身体がびくんを脈打つように伸びきり、関節やそれに連なる部位から折り畳むようにして変形して縮んでいく。
やがて折り紙のように折り畳まれた身体は、どういう仕組みなのか由の仮面の裏側に完全に収納されて、もはやただの仮面だけになってしまう。
尤も、それが由そのものなのだが、そんなことはお構いなしに、由は仮面のまますいすいと宙を泳ぐように移動し、病院の敷地に入り込んでいった。
(こういうときはマスクの身体は役に立ちますの)
一番気になるのは、外からも見えた明りの漏れる窓だったが、そこから直接入り込むのはいくらなんでも目立ってしまうと考え、手近な入り口を探してみると、ガムテープを幾重にも張り巡らされた窓ガラスの中に、ちょうど由の仮面が入り込めそうなほど割れた窓があるのを見つけた。
病院施設内部は、ひやりとした空気が流れているだけで、物音はほとんどしなかった。
内部は意外にも片付いていて、手術台などの医療器具はおろか、ベッドや机や椅子などの調度品も見当たらない。
ちゃんと業者などの手が入って、ある程度の荷物は撤収された後なのだろう。
(とはいえ、これだけ静かだと穏便に探すというのも手間ですわね)
少し悩んで、由はユーベルコードの使用を決める。
暗闇の中に地獄の炎で補った両手が浮かび上がる。
(私に力を貸して)
両手の合間に生まれるのは乳白色の円。僅かに欠けはじめた十六夜月を思わせるそれは、淡い輝きを放ち、ひと時だけ周囲に物影が生じるほどの燐光をおびるが、それはすぐに群雲に覆われるかのように消えてしまう。
後に残った物陰だけが切り絵のように浮かび上がり、伸び上がるように四肢をなして幾つもの狼の姿となって這い出してくる。
その狼たちは由の傍に侍り、甘えるように鼻を鳴らす。
(よく来てくださいました。皆さんには、血の匂いを探ってほしいのです。なるべく新しい血をの匂いを)
心を通わせるままに狼たちに指示を出すと、彼らは弾かれたように速やかに行動に移り、あっというまに病院内へと散らばっていく。
由もそれを追う。
すると、効果はすぐに出たようで、それほど離れていない大部屋の方から人の声が上がった。
「うおっ!? なんだ、犬? なんで、え、つか、ここどこだ!?」
「え、え、なに、血? なんで?」
「明りつけろ明り! なんだよこれ、なんで俺、こんなとこに……」
やがて追いついた由が目にしたのは、ベッドのない大部屋の病室の中央で、何をするでもなく立って居たらしい若者たちが、唐突に現れた狼達に囲まれてパニックを起こしているところだった。
薄暗くてよく解らないため、誰かがライターで周囲を照らすと、お互いが一様にして鼻から血を流しているのに気がつき、尚更困惑していた。
「あー、くそ、鼻血かよ。なんだよもう……」
「つか、ここどこだよ……なんか、頭ボーっとするし……」
「あれだろ、ホラースポットの……いつ来たのか思い出せないけど」
「ていうか、誰かティッシュもってない?」
意外にも若者たちは、お互いに触れ合ったりライターで明りを取り戻したりしているうちに、比較的すぐに平静を取り戻しつつあった。
元々ホラースポットを目指して集まったような若者達なだけに、ホラーに対する切り替えが早いのだろうか。
もう少し危機感があったほうがいい気もするが、これはこれで好都合かもしれない。
彼らに誘拐された自覚があるかどうかは不明だが、それでも鼻血を出しているだけで済んでいるのは、軽傷と受け取ってもいいのかもしれない。
そして、ここに長時間居座られているのも困る。
ここは、首謀者の気付かないうちに、穏便に自分達の足で帰ってもらうのが一番かもしれない。
声をかけて、出口に誘導しておくのがいいだろう。
「あのう、ここは危ないので、おうちに帰ったほうがいいですわよ」
暗闇の中に炎で身体を象った由が姿を現した。
しかしながら、ここは廃病院。宙に浮く仮面の由が炎の肉体をもって現れるのは、ホラーでしかなかった。
「う、うわっ! あああっ! で、でたぁ!!?」
「マジか!? うわぁ、本物だ!」
暗闇の中で尚更目立つ由の姿を前に、若者たちは一部、すっ転ぶ者も出しつつ、みな連れ立って病室から駆け出していった。
大声に驚いたのはむしろ由のほうであったが、すぐに静けさを取り戻した病室の中で、すぐに自分自身も冷静さを取り戻す。
(心外ですね……まぁ、ほんのちょっぴり、間が悪かったのでしょうか)
そんなちょっと寂しげな由の傍らに駆け寄る影の狼。
その所作は、逃げ出した若者たちが無事に病院施設から抜け出したことを伝えていた。
「あらまあ、騒ぎを聞きつけてみれば、猟兵さんか。もう嗅ぎ付けたんだねぇ」
不意に、病室の入り口のほうから声がした。
すぐさま油断なく振り向く由の目の前には、小面の能面を被った黒いコートの者が佇んでいた。
(行って!)
即座に指示を飛ばした狼が、その能面姿に飛びかかるが、その牙は空を掻くように手応えがなくすり抜けてしまう。
能面の姿が歪む。
(本物ではない……ようですのね)
喰い付かれたことにも、自身が煙のように揺らめいていることにも、能面のものは気にした様子は無かった。
「まあ、いいけどね。そいつらはもう用済みだったんだ。折り合いが悪かったから、こんな犬っころ相手にしただけで、すぐに暗示が解けちゃうんだもんなぁ」
やがてその声も霧のように掻き消えてしまう。
どうやら、誘拐された若者も、儀式も、まだ完全に片付いたわけではないらしい。
(すぐに、付近の猟兵に連絡を……)
と擬体の通信機器を使用しようとしたものの、どうやら圏外らしかった。
(電波、届かないんですね。若い人たち、皆さんスマホ持ってそうですけど……ちゃんと帰れたでしょうか)
大成功
🔵🔵🔵
エーカ・ライスフェルト
私が単独で突入したら、犯人は倒せず被害者は全滅する展開になる気がするのよね
「気付かれないよう忍び込んで、敵首魁に繋がる物を探すつもり」
「未来が残っている人間を消費して利益を得る、というのはよくある魔術的儀式だわ」
ただ、私って熱線銃の代わりに魔術(【属性攻撃】)を使っているだけのスペースノイドだから、高度な儀式は分からないの
「知識がないのだからある所から借りてきましょう」
【世界知識権限】を使って、周囲に漂っている気配や魔力に近いものの知識を呼び出しメモに取っていくわ
不審な物が無くても、儀式的な意味がありそうな物の配置が見つかればそれについても知識を呼び出す
メモは、奥を調べる人の手に渡るようにする
リューイン・ランサード
恐ろしげな廃病院に着いてしまいました<汗>。
きっと邪悪な儀式とかやっているんだろうなあ。
恐いけど攫われた皆さんを助けないと。
こっそり入って、攫われた人々を逃がしてから、能面の者と
戦うのが良さそうです。
なので存在希薄化で姿を消し、翼で空を飛んで、屋上かガラスが
完全に外れた窓から侵入。羽音は出来るだけ小さくする。
病院内では【忍び足、目立たない、追跡】と組み合わせて、
攫われた人達のいる部屋を探す。
また、病院には非常出口や裏口は必須なので、人々の逃走に
使えるようルート把握。
他の猟兵さん達が能面の者の注意を引いたら、人々の催眠や暗示を
【破魔】で解除し、病院の外に逃がし、【盾受け、オーラ防御】で
【かばう】
恐ろしげな廃病院にたどり着いてしまった。
とっくに営業していないような風体なのに、なにやら明りが洩れているところもあるし、邪悪な儀式とか、やっているのかもしれないな。
リューイン・ランサードは、はやくも帰りたくなる気持ちを押さえつけるので精一杯になりつつあったが、一般人が攫われているのを思うと、自分がやらねばと思いなおすのであった。
とはいえ、どこから入ったものかな。
ひとまず一番怪しい明りの洩れている部屋があるが、あそこを目指すにしても、直接入るのはなんというか、こう……気が引ける。
正面から入って、罠でも仕掛けられていたら嫌だし、裏口の扉が開いている保証もない。
考えれば考えるほど、駄目な方向に転がりそうな気がしてくる。
よくないな。こういう考えはよくない。
全てがうまく行くとは思わないまでも、自分を信じる範囲での行動なら、運命は裏切らない筈だ。たぶん。
自分にはせっかく羽があるのだから、どうせなら屋上から攻めてみてはどうだろうか。
見上げる限りでは、屋上に特別な仕掛けは内容に見える。あくまで見えるだけだが……。
「迷っていても仕方ないですね。極力、敵と遭遇しないよう、注意しないと」
意を決すると、リューインはお守りの護符を胸中に握り締め、ユーベルコードを発動。
自身を守る術式の他、消音障壁をも実装した【存在希薄化】によって、リューインはそのドラゴニアンの翼の羽ばたきすら無にして、世界から隔絶されたかのように音もなく飛び立つ。
闇夜の中では星明りだけが頼りだが、幸いにして病院の壁面は白いので、暗い中でもある程度は視界が確保できる。
しばらく周囲に注意を払いながらでもいいが、悠長なことはできない。
他者からの認識を阻害する術式を展開したまま、ゆっくりと音もなく、屋上の手すりの近くに降り立つ。
周囲に人影はなく、人やそれに類する気配も……。と、注意を払っていたリューインの足元で乾いた金属音が鳴る。
思わず振り向いたリューインだが、その方向は屋上の手すり。更にその向こうは夜空が広がるだけで足場はずいぶん下のはずだが。
と、視線を下げたリューインに、手すりに引っかかる百合の紋章のようなフックが目に入り、あ、これは、と思った次の瞬間には、何も無い筈の夜空に可憐なイブニングドレスが花咲くように舞った。
「あ」
「え」
フック付きワイヤーで屋上に侵入してきたエーカ・ライスフェルトが誰かの声を聞いたような気がした瞬間、何も無い筈の屋上で誰かとぶつかった。
「くっ……だれ?」
転がりつつすぐさま身を起こすエーカが、冷静に目を細めてウィザードロッドを隠し持ち、いつでも攻撃できる態勢をとる中、ぶつかられたリューインは慌てて存在希薄化を解除する。
「ちょちょちょ、ま、待って。待ってください。猟兵です」
かなりテンパりつつも、声は荒げずに両手を挙げてみせるリューインの姿に攻撃の意思がないことを確認すると、ようやくエーカも攻撃態勢を解除する。
「ふう、驚いた……。もう先に侵入しているなんてね」
「こちらの不注意でした。もっと早く気付いていれば、ぶつからずに済んだのに」
「言いっこなしよ。こうなったのも何かの縁。しばらく一緒に行動しましょうか」
気だるげに嘆息するエーカだったが、接触するまで存在を感知できなかったリューインの能力は尊敬に値するがゆえの提案であった。
そして、一人で心細かったリューインもまた、同じ目的で侵入してきたエーカの同行はありがたいものだった。
そうしてお互いの自己紹介もそこそこに、二人は病院内部への侵入を改めて試みるのであった。
手始めに屋上の扉の鍵をどうやって開けるかを相談したところ、
「流石に、物理錠のハッキングは専門外だわ……壊すわけにはいかないのかしら?」
「僕もこういうのは……でも、その必要なさそうですよ」
見れば、扉の窓部分が一部破損しており、そこから手を入れて向こう側から手動で解錠すれば鍵の有無は関係なさそうだ。
とはいえ夜の廃病院で、暗闇に手を入れるのは勇気が居る。
お互い顔を見合わせるところだが、猟兵とはいえ、割れたガラスの隙間に女性の手を突っ込ませるのは気が引けたリューインがその役を買って出ることにした。
「別に、無理しなくても……」
「い、いえいえ、万一手を怪我でもしたらいけませんし……」
そういうリューインの声は少しだけ震えていた。
気弱なところのあるリューインだが、それでもいいとこの生まれの男児という矜持はあるのである。
武門の生まれだからではなく、そういう性分でもあるのかもしれないが。
「んっ? よっ、ほ……あ、開きました……んひっ!?」
しばらく窓枠に手を突っ込んでいたリューインだったが、扉の内鍵を開けた瞬間、その手首を何かに掴まれて、慌てて手を引き抜いて後ずさる。
「どうしたの?」
「誰か、居ます……!」
小首を傾げるエーカの前に立ち、リューインが懐から霊符を手に油断なく構える。
「う、うう……」
扉を開けて出てきたのは、どうやら若者のようだったが、どうにもその様子がおかしい。
まずその足元が覚束ない。そして、だらしなく開いた口から泡を吹いているのに、倒れてもおかしくない様子ながら、その目が爛爛と輝いて見える。
なにより、額に刻まれた血文字のような紋様が、星明りしかない闇夜の中で浮き出て見えるのが不気味だった。
「……これは、敵ってことでいいの?」
尋常ではない様子の若者から距離を取りつつ、エーカが攻撃態勢に移ろうとするのを、リューインは手で制し、
「操られているだけみたいです。僕に任せてください」
言うが早いか、霊符を押し付けるようにして額の血文字を覆うと、若者はそこで糸が切れた人形のように力を失ってその場に倒れる。
UDCアースの事件、怪異が相手ともなれば、と思って持って来た破魔の霊符だったが、これだけで完全に解除できたとは思えない。
「僕の霊符で解除できたのは、暗示や催眠という、悪意ある邪念のようなものだけだと思います。こういう、ちゃんとした手法で術式を組まれたものを一発でっていうわけには……」
「そう……私も、熱線銃の代わりに魔術を使う程度のスペースノイドだから、こちら側の専門知識は持っていないの。だから、こういう儀式の知識は持ち合わせていないわ」
でも、と何か思いついたように、霊符の上から血文字をなぞると、エーカは這わせていた指先を虚空にさまよわせる。
それはまるで本棚に並んだ本の背表紙を選んでいるかのようにも見えた。
「知識がないのだからある所から借りてきましょう」
彼女の周囲にゆらめく世界を成している何かが光となって、その指先に収束する。
そうして引き出されたそれが、ユーベルコードとして世界の知識を伴って引き出されていく。
「すごい、この世界のアーカイブみたいなものですね」
「ええ、情報を引き出すから、少しだけ待っていて」
「わかりました。では、僕は彼が起きたときのための、非常用の出口を探してきます」
世界知識を何倍にも増幅するユーベルコードに目を輝かせつつ、自分の仕事をしに行くリューインを見送りつつ、エーカは世界知識にアクセスしながら、ふと冷静さを保ってさえ居れば、彼もちゃんと頼りになる猟兵ではないかと頭の隅で考える。
もう少し自信を持てばいいのに。
そうしてデータを解析していくうちに、若者に施された術式のあらましを拾い上げる。
「……未来が残っている人間を消費して利益を得る、というのはよくある魔術的儀式だわ」
でもこれは、趣味が悪い。
興味さえ抱いてもらえば、その波長が合う限り、その者の寿命を削り取ってその命の分だけ顕現できる時間を得る。
言ってしまえば、この儀式は、復活の儀式であると同時に、栄養補給でもあったのだ。
だとするなら、この術式と繋がっている先に、きっとそれは居る。
「あーあー、こんなところに居たのかぁ」
おぞましい気配に振り向こうとするが、そこに質量を感じない。
きっとそこに気配はあっても、きっとそこには居ない。
それが解っていながらも振り向くと、能面の者の影だけがそこに佇んで、若者を見下ろしていた。
「管を塞がれちゃったか。まあいいけどね。そいつから取れる分は、もうもらったし」
小面の奥で何者かが笑う気配がした。
それに薄ら寒さを感じていると、いつの間にかそれは姿と共に気配を消していた。
「エーカさん、非常用のはしごがまだ使えるみたいでした……あれ、どうしたんですか?」
「……いえ、それより、儀式の解呪が終わったわ」
顔色を崩したエーカを窺うように覗き込んでくるリューインから逃れるように、立ち上がりつつドレスに付いた埃を払い落とす。
その横顔は、既に戦う者のそれに変わりつつあった。
「あの、何があったか知りませんけど……きっと、まだ囚われてる人が居ると思うんです」
「そうね……気付かれないよう忍び込んで、敵首魁に繋がる物を探すつもり。だったけど、もう見つかってしまったようね。急がなきゃならないわ」
「お、お供しますよ。怖いですけど」
大股で病院内部へと歩を進めるエーカにリューインも遅れまいと付いていく。
おっかなびっくりという表現が付いて回るが、それでも頼れる仲間であることを知ったエーカは、後ろ手をあげてそれに応じるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
畠・和彦
これぞホラースポットと言わんばかりの廃病院だね
気を引き締めて捜査にとりかかりますか
そ、それにしても今回の仲間は、やたらとキャラの濃い人が多いなぁ
【SPD】
まず廃病院の案内図を【撮影】して皆に渡そう
ボクは明らかに怪しい部屋と、人を集めるのに適した広い部屋を探索する
【忍び足】で【目立たない】よう、サイバー双眼鏡の熱源探知と【暗視】機能を活用して【失せ物探し】だ
あと【聞き耳】もたてておこう
若者は一箇所に固められてると思うが、途中で怪しいと抜け出す人もいるかもしれない
そういう人を見つけたら【コミュ力】で皆の集まってる場所を聞き出そう
道中、能面の者を見かけたら『影の追跡者の召喚』を行って【追跡】させるよ
聖護院・カプラ
事態は一刻を争うようですね。
廃病院と能面の者の関連性について調べている時間の余裕はありません。
若者達を取り返すか、能面の者の行いを改めさせるか……。
どちらも必要な事ですが、私は複数人居て発見しやすいであろう若者達を探そうと思います。
彼らが邪神復活の儀式などに必要な生贄だと仮定するなら、廃病院から連れ出してしまえば儀式の手順が狂い救助と救世執行を同時に済ませられる筈です。
見つかる危険性よりも見つける可能性を優先し、『後光』を照らしながら探索を始めます。
若者達を説得し連れ戻そうと思いますが、既に操られているならば仕方がありません。
『円相光』にてその身動きを留め、外へできるだけ多く避難させましょう。
「これはまた随分と……」
林道を抜けた先に見えた廃病院の全貌に、畠和彦は呆れ半分に見上げた拍子に零れ落ちそうになった帽子を手で押さえる。
どこかの国のエージェントっぽいエーカは途中ではぐれてしまったが、ここにはそういう人を迷わせるおまじないでもかかっていたのだろうか。
願わくば彼女には無事で居てほしいところだが、同時に彼女ほどの手腕があればちょっとやそっとじゃどうにかなることなんてないような、そんな気もする。
とはいえだ。ようやく目的の場所に到着することができたわけだが、少しばかり出遅れてしまったろうか。
まあそれならば、遅れを取り戻しにかかるだけだ。
さあ気を引き締めて、捜査に取り掛かりますか。と、意気込んでいると、
「おやおや、これはまた随分と……」
すぐ近くで同じような言葉を呟く声、そして、謎の駆動音。
耳慣れないその音域が、UDCアースの現行科学からはなかなか出るものでないと感じたのは、すぐ傍にやって来たその存在の迫力、とでも言うのだろうか。
巨躯である事もさることながら、宙に浮く謎の台座に胡坐を組んだその威容は、きっとここが森の中の廃病院という場所を抜きにしても異質な存在感を醸し出していた。
まるで金属で出来た即身仏。それがまるで菩薩のように穏やかな声色で、病院を見上げている。
「え、ええと、あなたも猟兵なんだよな……? 都市伝説の類じゃなくて」
「そういうあなたは、探偵さんですかな? 捜査の現場に立ち会えるとは、光栄ですね」
「うん、まぁ、そうなんだけど……やばいな、今回の仲間、かなり濃いぞ」
様々な意味で存在感を放つ巨躯のウォーマシンこと聖護院カプラの登場により、和彦は早くも気圧されつつあった。
別に自分のやり易い方法でやるのが一番なのだが、頭の隅っこの方で、もうちょっとアピールするべきだろうかなどと、特に依頼と関係のない方向で考えをめぐらせてしまう。
先ほどまで同行していたエーカも、聞くところによると宇宙出身らしいし、同行こそしていないが、同じように依頼に望んでいる仲間の内でも変わった井出達や過去を持っていたり、便利な能力を有していたりと実に様々な驚きを持っている者が多いようだ。
それに対しただの人間に過ぎない自分には、失った記憶と、刑事らしかったノウハウがほんのちょっぴりあるだけだ。
「どうかされましたかな? 何か、侵入に最適な策でもおありなのでしょうか?」
「いやぁ……やっぱ、足で稼ぐしか無いかな」
「なるほど、真理ですね」
攫われた若者達を救出しつつ、今回の首謀者の居場所を探すのに明確な策というものは浮かばなかった和彦だったが、それをいい方に取ったらしいカプラはそのまま歩を進めて自身のパーツを展開し始める。
そうして露になった内部機構が激しい光を放ち始める。
「うおっ!? ど、どうするつもりだ!?」
「事態は一刻を争うようです。
廃病院と能面の者の関連性について調べている時間の余裕はありません。
こちらから目立つよう行動すれば、見つけるよりもはやく見つかることでしょう」
「や、やる事が派手だねえ……」
唐突に変形して輝き始めるものなので、巨大ビーム砲でも放って穴でも開けるつもりかと恐ろしい想像をしていたが、それはどうやら思い過ごしだったらしく、カプラは見た目通りに極力争いを用いない方法で探索するつもりらしい。
それに、明りも僅かだった廃病院を探すのに、カプラの後光はあちこちを照らすのにとても効率的だった。
これならば、探索はかなり楽になる筈だ。
「お、ちょっと待った。こっちをちょっと照らしてもらえるかい?」
「どちらです?」
「こっちだ、こっち……あ、ちょっと眩しい」
後光を背負いながら進んでいくカプラと同行する和彦が見つけたのは、病院の案内板のようだった。
ある程度の明りがあるお陰で、劣化が進んで薄くなってはいるが、探索には十分に使えそうなものだ。
和彦がそれを携帯端末で撮影するが、
「まずいな、圏外だ」
「基地局が近くに無いようですね。私も記憶したので、問題ありませんよ」
「そうかい? じゃあ、失せもの探しの続きといこうか」
そうして案内板を参考に探索を再開する。
ちなみにわずかに宙に浮く台座に座っているカプラはもとより、恐らく刑事経験で鍛えられた熟練を感じさせる和彦の忍び足もあって、二人の探索は見た目に反してとても静かに行われている。
また、視界こそ明るいものの、二人ともそれ以外にも注意を払っていた。
僅かな物音はもとより、常人には検知できないものまでも。
カプラの動体検知センサーはもとより、和彦もまた操作の為に誂えた最新の装備、サイバー双眼鏡を片目にあてつつ周囲の変化に気を配っていた。
現状で暗視はほとんど必要なかったが、それでも約5m先までの温度検知も可能なこの装備が、ようやく役立つ瞬間がやって来た。
「なあ、気がついたかい?」
「ええ、どうやら当たりのようですね」
声をかける和彦と、それに応じるカプラはどうやら同じ答えを見つけたようであった。
人間の体温に合わせて色づくよう設定した双眼鏡の先には、壁越しで精度は落ちているものの、薄い扉の先に複数人の人間の形状をした温度の高まりを検知していた。
和彦が扉を開けると、カプラの後光により部屋の中が照らされる。
そこは複数人用の病室、いわゆる大部屋のようで、ベッドやカーテンなどが取り払われているといやに広く、また、部屋の中央に円を描くように規則正しく立ち竦む若者達の姿は、ただそれだけで異様だった。
「おい、助けに来たぞ。……おい、君たち! なんか、様子がおかしいな」
立ったまま虚ろな目で佇む若者の肩を揺すってみたり声をかけてみたりするが、和彦のそんな呼びかけに答える若者はひとりもなく、ただただ何も無い虚空を眺めるだけだった。
「ふむ、どうやらまだ暗示の中にいるようです。少々手荒ですが、私も手を尽くしてみましょう。光にご注意を」
「ん? わかった」
和彦が愛用の帽子で顔を覆うのを確認すると、カプラは後光の光を強め、更に特定の周期で緩急をつけて光を浴びせ始めた。
「改めなさい」
ユーベルコード『円相光』の応用として用いた光の波は、光による物質の固定ではなく、ストロボのように特定周期で光を浴びせることで、彼らにかけられた暗示行動を無理矢理引き剥がすものだった。
「う、まぶし……」
「うわ、なんか仏様見えんだけど……俺、死んだ?」
「はあ? 死んだらフツー川だべ」
やがて光の波が収まると、その場にへたりこむ若者たちが光の強さに皆一様に手で顔を覆っていた。
「すごいなその光。もしかして、怪しい宗教とかやってないよね?」
「いやはや、それは心外ですね。これも説得ですよ」
帽子を戻した和彦が、本来とは違うユーベルコードの使用に訝しげに軽口を挟むが、カプラはウォーマシン特有のポーカーフェイスで流す。
まあそれは置いておいて、困惑する若者達の一人に、和彦は座り込んで話しかける。
「なあ、君たちをここに連れ込んだ奴のこと、知ってるかな?」
あくまでも友好的に、肩に手を置きつつ問いかける和彦に対し、若者は答えようとして、視線をさまよわせる。
言い訳を考える仕草にも似ているが、これは恐らく自分の記憶を探っているのだ。と、和彦は直感的に理解する。
「わ、わからない……おかしいな。コンビニに集まったのは憶えてるんだけど……」
若者の瞳が徐々に怯えを帯び始める。探った自分自身の記憶に覚えがなかったのだろう。
「じゃあ、他に捕まった人の場所とか、逃げ出した奴とか……知らないかな?」
「わかんねぇ。わかんねぇよ。ここに、ここに来るって話は聞いてた気がするんだけど、どうやってここに来たのかも、全然……」
混乱の色が強くなっていく若者の言葉に、和彦は不毛さを感じる。
これ以上、彼らを問い詰めるのは酷な事かもしれない。それよりも、ここから出したほうがいいだろう。
「そうかあ……すまん、無理を言ったな。君たち、もう帰りなさい。
帰り道は、わかるか?」
そうして、あやすようにして若者の背をぽんぽんと叩き、丁寧に帰り道を教えてやると、若者たちはよろよろとちょっと覚束ない足取りながらも、皆で手を取って病室から出て行った。
そうしてそれを見計らったかのように、人の居なくなった病室の中央に向かって、和彦はおもむろにコートの内側からシャープペンを取り出し、投げつけた。
「……偽者か」
思わず悪態が漏れる。そこで気付いたらしいカプラも、和彦が反応した場所を後光で照らす。
「ふふふ、驚いたな」
若者が先ほどまで囲んでいた部屋の中央に、小面の能面をつけた黒いコートの何者かが宙に浮いていた。
牽制に投げつけたシャープペンの手応えは無かった。おそらく、幻影なのだろう。
「まったく、君たちには困ったものだよ。ようやく、復活の目処が立ったって言うのに……餌を逃がしてしまうんだから。
まあでも、逃げてもまた、集めればいい。
君たちだって、何度でも追い払えばいい話だ」
ゆっくりと回りながら、能面の者が能天気な調子で声を紡ぐ。
誰に言うでもない調子は、それこそ相手が誰でもいいかのような口ぶりだ。
「……来なよ。全員助けられるとか、本当に思ってるならね」
能面が二人を見下すように顎をしゃくる。その仕草はまるで、無表情な能面を嗤わせているかのようだった。
それが癪に障ったか、二投目を用意する和彦だったが、それを投げつける前に能面の者の影は姿を消してしまう。
「逃げられましたか……」
「いや、そうでもないさ」
言葉を失うカプラに、和彦は自分の足元を見ながら、力強く答える。
「仏さんが光を照らしてくれたお陰で、あの影にも一瞬だけ影ができた。影に影がっていうのも変な話だけどね」
能面の者が空中に浮いて語っている最中にも、和彦はユーベルコード「影の追跡者の召喚」を行って、その痕跡を探っていたのだった。
「では、かの者の居場所は」
「ああ、追えるはずだ」
言いながらトレンチコートを翻す和彦を、今度はカプラが追う。
わざわざ姿を見せたのは、罠かもしれない。
しかし、あんな風に喧嘩を売られては、買わないわけにはいかない。
携帯端末で案内板を確認しつつ、二人はかの者の待ち受ける場所へと急ぐこととした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『暗黒面・小面の者』
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POW : 私は暗黒面。私は小面の者。恐怖と狂気の蒐集家。
見えない【自爆する仮面に寄生された生物】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : 七という数字に秘められし謎を知っていますか?
レベル分の1秒で【7発同時に7方向から対象を追跡する怪光線】を発射できる。
WIZ : 私は恐怖と狂気の蒐集家。これは蒐集品の一部です。
【今までに喰らった生け贄】の霊を召喚する。これは【異常なまでに超高音の金切り声】や【召喚者のレベルに比例した威力の自爆】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:天之十市
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「虚偽・うつろぎ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちがついに突き止めた、こたびの誘拐犯の居場所は、廃病院の地下であった。
病院の地下の設備は、表の案内板に記載されているものではなく、それはいわゆる、解剖室のその先にあった。
鉄扉を幾つか隔てた先へと足を運んだ猟兵たちの目の当たりにしたのは、安置室と呼ばれる遺体のためのベッドが幾つも並ぶ部屋の中、無造作に寝転がされて動かなくなっている若者たちの死体と……。
その中央に佇む小面の能面を被った黒いコートの何者か。
「いやぁ、ここまでの生贄を用意するのには、なかなか時間がかかったんだよ。
何より、相性がよくないといけないからね。そういう意味では、彼らはなかなか美味だと思うんだ。
まあでも」
能面の者の矮躯がぼこりぼこりと不自然に膨れ上がり、黒いコートが内側から這い出た何かに引き千切られて落ちる。
墨の様な、髪の様な異質な黒い何かが、長細い人のような何かを象る。
そうして頭に当る小面がうっすらと笑みを浮かべ、猟兵たちを見下ろした。
「君たちをやるのに、贄なんて必要ない。これからもっと力が必要になるからね。その時の為にとっておかなきゃ。
何をするつもりかって? ははは、これから居なくなる君たちには、関係の無い話さ」
濃密な殺意を振り撒き、小面の者が高らかに笑った。
エーカ・ライスフェルト
小人物としか思えない言動だけど、戦い方が巧いオブリビオンね
閉所で自爆ドローン召喚なんて、私にとって相性が悪すぎるわ
「先手必勝よ。炎よ、矢となり、敵を討て」という感じの詠唱で、【属性攻撃】による単発の炎の矢を敵に撃ち込むわ
大げさに詠唱したけどユーベルコードではないから、よくてかすり傷ね
それで私を甘く見てくれたらいいのだけど
いずれにせよ、敵がユーベルコードを使ってから【自動追尾凝集光】を使う
狙いは敵本体ではなく、敵が召喚したものよ
目的は、味方が攻撃するまでに敵を消耗させること
最初はレーザーを数本当てて確実に倒し、徐々に本数を減らして必要最小限の数で倒していくわ
最後は、残ったレーザーを束ねて敵本体へ
リューイン・ランサード
無造作に寝転がされて動かなくなっている若者たちの死体・・・
「うわあああっ~!」
予想はしていたけど実際に見ると、絶叫しつつ勝手に身体が動いた。
頭は「怖いから正直言って逃げたいが、こりゃ仕方ないなあ~」
と諦めた。
真の姿を開放しつつ【空中戦、第六感、見切り】で安置室の中を翼で
飛びまわり、床・壁・天井にぶつかりそうになる都度、手足で
キックして、軌道を読まれないように高速移動、同時に【ビーム
シールドの盾受け・オーラ防御】展開しつつ、暗黒面・小面の者
に接近。
接近したら拳に【光の属性攻撃、破魔、怪力、鎧無視攻撃】を宿した
上で震龍波を打ち込む!
可能なら能面を狙う!
一撃では終わらせない!
連続で震龍波を打ち込む!
宇冠・由
(暗黒面……?)
「なるほど、“それ”には十分な余力が必要なんですね。それは貴方のお名前に関係しているのでしょうか? まぁどちらにせよ、力を惜しみながら消えてくださいまし」
挑発しながら相手の意識をこちらへひきつけます
深夜の病院の地下、光源は必要でしょうし、相手の目くらましにもなります
私の身体、その地獄の炎を輝かせ、周囲を照らしましょう
まず球形の炎のオーラで相手を閉じ込め、その動きと怪力を封じます。そうすれば寄生生物も外に出られず、出たとしてもそれはオーラを破った個所に限定されますわ
「こんな狭いところで物騒なものを放たないでくださいな」
怪光線を放つようであれば、【熾天使の群れ】で全て撃ち落とします
聖護院・カプラ
これだけの力を持ったオブリビオン、やはり既に人を害していましたか……。
人が生きる筈だった時間を費やして顕現していると見ましたが、なんたる邪悪。
更に、今までに喰らった生け贄の霊は成仏する事も叶わず使役されるがままとなっているのでしょう。
ですが、そのような行いも私達猟兵が改めさせてみせます。
敢えて攻撃に用いる霊を先に出し尽くさせて、
彼ら/彼女らごと小面の者を『功徳』にて浄化致しましょう。
その為に受けるダメージなど、些細な物です。
……強制成仏といった形でしか、犠牲となった彼ら/彼女らに救いを用意できない事に自責の念を禁じ得ません。
事後にこれ以上、能面の者による犠牲者を出させない事を固く誓いましょう。
畠・和彦
未来ある若者をよくこんなに犠牲にできたもんだ
いつもなら逃げ出したいところだが、流石にほっとけないな
・戦闘
柄ではないが真の姿を解放
今回は杖での接近戦だ
最初は【地形の利用】で障害物を利用して【目立たない】よう【忍び足】と【ダッシュ】で敵との距離を縮める
ある程度近づいたらUC【八綜無間流杖術『流水の構え』】を使い、7方向からの怪光線と霊の自爆攻撃を【第六感】で回避し【カウンター】による【マヒ攻撃】効果のある【鎧無視攻撃】を放つ
狙う部位は仮面
これが仮面に寄生する生物への障害になるか、もしくは【時間稼ぎ】になるといいんだが
金切り声には【呪詛耐性】で対応
奴を倒せば、奴による今後の犠牲者は確実に減るだろう
「ふふふ、あははは!」
居並ぶ猟兵たちを前に、小面の者は黒く細い体を震わせて笑い声をあげる。
「いやいや、なかなか清々しい気分だよ。ずっと閉じ込められていたようなものだからね。
言っておくけど、あの小柄が本来の姿ではないよ。なにしろ、あんな姿じゃ本来の半分の力も出せないからね」
自身を自身たらしめいている能面を片手で覆いつつ、空いた手の指先をまるで釣竿を引くかのように動かすと、小面の者の周囲にうち捨てられていた若者の死体がずるずると引き摺られ、不自然に立ち上がる。
人が起き上がるとき、うつ伏せなら手をつき膝を曲げて足裏で体を支えるだろうし、仰向けなら上体を起こして同じように体を支えて立つことだろう。
しかし小面の者を守るように立ち上がった若者達は、それらがない。文字通り引き摺られて無理矢理引っ張り起こされたような状態だ。
彼らにおそらく意思は無く、何らかの力で玩具のように弄ばれているだけだ。
それを示すかのように、引き起こされた若者達の顔は一様に血の気が無く、その目は閉じられたままである。
これが小面の者の城塞なのだとしたら、その在り様は邪悪という他ない。
「う、うわああああっ~!」
不気味に立ち並ぶ若者の死体を前に、リューイン・ランザードが悲鳴を上げて数歩後ずさる。
本来気象の穏やかな彼にとって、既に事切れている幾つもの若者の姿はショッキングであった。
だがそこは情けなくとも猟兵。心のどこかでは、覚悟が決まっているところがあった。
どうせ、こいつを倒さなくては、ここから逃げ出すことはできない。怖くて、逃げたくて仕方ない。そう仕方ないのだ。
こいつを倒さないことには、仕方が無い。
顔を背けて縮み上がる顔つきとは裏腹に、リューインのドラゴニアンとしての翼や血脈は大きく脈打ち始めていた。
「そうだな、こいつは不気味だ。いつもなら逃げ出したいところだが、流石に放っておけない」
傍目には怯えたかのようにも見えるリューインの脇を通り抜けて一歩前に出たのは、畠和彦。
その手には凶器にもなるシャープペンが握られ、キャップを押すと先端からはライターのような火が飛び出し、周囲を明るく照らす。
『四人』いる猟兵と対峙する小面の者、そして決して広いとは言えないが地下の一室としては広めの安置室のあちこちに死体が転がっているのが見て取れた。
周囲を見回し、和彦は思わず「随分集めたもんだ」と感嘆すると、改めて小面の者に向き直り、片手で火を放つシャープペンを弄びつつ、もう片手は下げたまま何かを握り締めている。
「探偵道具っていうのも便利なものだろ。けどまぁ、実は火なんて出ないんだけどな、これ」
何気ない様子で弄んでいた火付きのシャープペンを放り投げると同時に、手近にあったストレッチャーを、小面の者の方へ蹴り付けた。
ローラー付きのストレッチャーは軽く蹴飛ばしただけで勢いよく走り出したが、小面の者にぶつかる前に死体の壁に阻まれた。
ほんの一瞬、それだけで戦いの合図としては十分だった。
しゅるりと、乾いた音が和彦の手元からこぼれる。腰を落として構えた和彦の手元にはいつの間にか手頃なサイズの杖が握られていた。
棒でも棍でもなく、杖。主に護身術に用いられるものが有名だが、その本質は棒でもあり棍でもある強みがある。
「──ですが、本命はこちらでしてよ」
構えをとった和彦に注力した小面の者の背後から、それはいきなり炎となって姿を現した。
「く、いつの間に背後に回りこんだ!?」
死体の壁を越えて唐突に背後に姿を現した炎の体こと宇冠由の姿を認めて、思わず狼狽する小面の者だったが、死体たちが反応するよりも前に、その周囲を炎の膜で多い尽くしてしまう。
周囲を守る死体の壁ごと炎で覆われ締め付けられてしまっては、さしもの小面の者も身動きが取れないようだった。
由が奇襲に成功した背景には、事前に暗がりでライターのような火を出した和彦の協力があった。
暗い場所で明りになるものがあれば、それは否応無く目を引く。
あの場で四人しか居ないように見せかけていたが、実のところ和彦は火の付いたシャープペンを放り投げて注意が逸れたところで、密かにコートに忍ばせていた由の本体である仮面を別の方向に放っていたのである。
万一、それが誘導とばれてもいいよう、直後にストレッチャーを蹴り付けることで再び注力させる手間までかけていた。
「ふふふ、これは一本とられたってわけだ。さすがに、多数相手じゃ、分が悪いかなぁ。
でも知ってるかい? 火災が生じたときに消火するのは、なにも水や消火器だけじゃないんだよ」
身動きがとれなくなった状況に陥ったにも拘らず、小面の者は尚も子供に言い聞かせるような口調を崩さず、その能面は不気味な笑みをたたえたままだ。
「何を……」
由が問うより早く、縛り付けていた死体たちの体が二倍以上に膨張する。
しまった。と思ったときには、既に死体全てが炸裂した後だった。
爆発物を用いた消火は一般的ではないが、手榴弾などの小型の爆発物であっても、火災を鎮火させる時もあるのである。
肉体を補う炎で覆っていた由の炎はその爆発を受けて掻き消えてしまう。
「ううっ、由さん……!」
爆発から退避していたエーカ・ライスフェルトは由の安否を気遣いつつ、尚も健在である小面の者の戦力を冷静に分析していた。
「小人物としか思えない言動だけど、戦い方が巧いオブリビオンね。
閉所で自爆ドローン召喚なんて、私にとって相性が悪すぎるわ」
あの爆発を至近距離からもらっては、いくらなんでも危ない。
とはいえ、周囲の死体が爆発した今なら、遮蔽物になるものは無い。
エーカの握り締めたウィザードロッドがきらりと輝きを帯びる。
「炎よ、矢となり、敵を討て」
簡素な詠唱から放たれた炎の矢の魔法が、小面の者の能面をかすめる。
僅かな隙を狙った一撃ゆえに、威力も命中精度もイマイチだったが、こちらを向かせるのには成功した。
エーカのクールな面差しにかすかな笑みが乗る。
そうだ、一瞬だけこちらを向かせるだけでいい。
ごきん!
小面の者の死角から、その側頭部に木製の簡素な杖が打ち込まれる。
「こっちだ、間抜けェ……!」
いつの間に肉薄したのか、エーカの魔法の矢で生じた一瞬の隙を見逃すことなく、絶妙なタイミングで全身のバネを利用した突きを繰り出した和彦の声に呼応するかのように、小面の能面に亀裂が奔る。
「ククク、たいした連携じゃないか。溢れちゃいそうだよ」
その亀裂を瞬時に補うかのように黒い液体のようなものが染み出して縫合し始める。
それと同時に別の死体が引き寄せられて、和彦は追撃することもままならず、それらの対応をせざるを得なくなる。
元来、人相手に考案されたのが武術だが、小面の者が操るのは、人の形をした爆弾だ。
通常の対応をしたのでは、距離を詰められた段階で爆破されてしまう。何よりも、
「くっ、髪か、こいつは……!?」
死体をつないでいる黒い糸のような何かが和彦の杖の動きを阻害して、うまく立ち回ることができない。
だが、一瞬だけ足を止めたのが幸いした。
「──誘導属性付与完了。照射開始」
涼やかな声と共に、エーカの放ったユーベルコード『自動追尾凝集光』が複雑に湾曲しながら和彦の脇をすり抜けると、死体やそれらをつなぐ黒い髪が引き裂かれていく。
爆破される前に導火線を絶つこの魔法の効果は覿面であり、接続を絶たれた死体たちは文字通り糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちて止まる。
「なるほど、厄介だな彼女は」
能面の奥で歯をかみ合わせると、周囲から白いもやが集まり、それが塊となって形を持ち、嘆きの形相を浮かべる。
甲高い金切り声を上げるそれは、亡霊といって差し支えない。
空気を震わせるそれが、尤も接近していた和彦を襲うが、恨み言など刑事時代に聞き慣れていたのか、
「ええい、うるさいぞお前等!」
たいした害が無いまま、杖を振り回す和彦をすり抜けていく。
亡霊の狙いはあくまでもエーカのようだ。死体爆弾の処理を行っているエーカに、それを防御する術は無い。
もしも、それら亡霊が他の死体と同じように自爆する代物ならば、今の彼女にとっては脅威であろう。
「うわあああ!!」
金切り声を上げる亡霊の声を掻き消す裂帛の悲鳴が、エーカの前に飛び出る。
それまですくみあがっていたリューインが、一回り大きな体躯で輝く光を讃えたビームシールドを構えたまま突撃していた。
ただの科学の代物ならばいざしらず、アルダワ魔法学園出身のリューインによって魔術的加護を与えられた盾に阻まれて、亡霊の攻撃は届かず終わった。
「見事な覚悟です」
それに呼応するように、ずぅんと重たい金属の塊が、傷んだリノリウムの床を更に鞭打つ。
周囲が暗く思えてしまうほどの後光を背負ったウォーマシンがそこに降り立つだけで、安置室に線香を焚いた様な厳かな雰囲気を醸し出す。それほどの存在感。
聖護院カプラの出座。ただのそれだけで、小面の者の呼び寄せた幾多もの生贄の霊魂、亡霊が釘付けにされてしまう。
「ふむ、ふむ……今までに食らった生贄の霊を成仏させることもせず、あまつさえ使役するとは……何たる邪悪」
あくまでも穏やかな言葉遣いその調子ではあるが、瑪瑙のような光学センサーがとらえる先にいる小面の者には、はっきりと怒りの情を抱く。
「さあ、迷える霊たちよ。私の声を聞きなさい。このようなところに居ては、迷うばかり。往く場所は、この光が示しましょう」
「うぬぬ……やめろ、私の生贄をもっていくんじゃない!」
驚異的な存在感と、穏やかな口調に導かれるままにカプラの元へと吸い寄せられる霊魂たちを引きとめようと、小面の者が手を伸ばすが、その手を和彦の杖が叩き落とす。
「余所見をするなよ。お前一人のものじゃないぜ」
「邪魔をするなぁ!」
再度、手を持ち上げて和彦の相手をしようとするも、エーカの放つレーザーが振り上げた片腕を引き千切る。
さらにそちらへ目を向ければ、盾を構えたまま突撃してくるリューインが迫っている。
「おのれ、おのれ……お前たちのせいで、生贄が滅茶苦茶だ……おのれぇ!」
がぱり、と小面の能面の顎が外れて大きく空洞が生まれる。
暗闇を湛えた口腔がやがて七つの輝きを持つ光線を吐き出すと、いち早く危険を察知した和彦が身を低くして初弾を回避する。
拡散する怪光線は、まるで力任せに捻じ曲げたかのように軌道を変えて猟兵たちに襲い掛かる。
「チッ、これは、参った……な!」
光線が捻じ曲がる追尾機動を描くのを即座に理解した和彦は、その場でユーベルコード・八綜無間流杖術『流水の構え』を発動させ、心身を落ち着かせる。
体の思う様、脳の記憶ではなく肉体に染み付いた記憶を想起させるべく、敢えて失われた過去へと思いを向ける。
ただの人間なれど、この世の理から逸脱した猟兵が向ける思いとは、別のものを意味する。
一切の甘えを廃した顔つきとなった和彦の五感は極限まで研ぎ澄まされ、追尾する光線を寸手のところで見切る。
危機を回避するための感覚は、研ぎ澄ました五感のその先にある。
とはいえ、それでも物質世界の理の内では、道理の壁は厚く、回避はできても攻撃に転じることが出来るほどの攻撃密度ではなかった。
極限を維持する肉体はいつまでもつか。いや、もたぬまでも、せめて一撃……。
思案する最中の和彦の後ろで、光線の初弾で盾をはじかれ、リューインが慌てて空中に逃げる。
同質のユーベルコードを用いるエーカもまた、それを迎撃するので手一杯で攻撃に転ずることができないでいた。
一方で空中に逃げたリューインは、もはや守る盾がないので、壁や天井を蹴って軌道を変えつつ、どうにかこうにか避けに徹していた。
そんな中で、一切の防御を放棄したカプラは、攻撃を受けるままだった。
「む、ぐぅ……」
装甲を焼く光線が、かつての戦争を思い起こすものがある。
だがそれ以上に、今ある霊魂を導くことこそ我が使命。そうあらんとばかり、カプラは頑として動こうとしない。
「仏の旦那!」
「心配無用です。この痛みは、彼らの痛み。受け止めきれず、何が仏でしょうか」
悲鳴のような声を上げる和彦にも、爆ぜて飛ぶ自身の装甲にも構わず、カプラは功徳をやめない。
「このままでは……」
冷静な表情を崩さぬまま、しかし額に汗を浮かべつつエーカは膠着状態に陥った状況をどうにかする手立てを考える。
しかし、今の体勢を崩せば、反撃どころではなく、先に光線に焼かれてしまいかねない。
一瞬だけでいい。この光線を止ませる事ができれば。
今や光り輝く安置室のあちこちには、怪光線で飛び火したあちこちの調度品が燃え上がっている。
それすらも目立たぬほどの光を放ち続ける小面の者の攻撃は止む気配を見せない。
「おのれおのれおのれ、我等暗黒面のため、その余力の生贄が、なんて様だ。また一から集めなおしだ。この体も、また修復しなくては。集めなおさなくてはならない。
お前たちのせいだ。お前たちの」
(暗黒面……?)
もはやうわ言のような小面の者の声に応じるかのように、何者かの声が響いた。
あちこちで燃える調度品の炎が揺らめいて集い、炎に洗われる様にしてウサギの面が宙に浮かんだ。
「由さん! 無事だったの!?」
「少しだけ、遠くに飛ばされてしまいましたわ」
元々が仮面の由は、自分の肉体を炎で補っている。その肉体が爆発で散り散りになってしまい、肝心の仮面も吹き飛ばされたため、しばらく戦線に復帰できなかったようである。
炎の肉体で地に降り立った由は改めて、小面の者に向き直る。
「なるほど、“それ”には十分な余力が必要なんですね。
それは貴方のお名前に関係しているのでしょうか?」
上品な口調で語りかける由に対し、返答の変わりに怪光線が殺到する。
が、炎の肉体がいくら怪光線にさらされても体を突き抜けるだけであり、薄っぺらい仮面は、傾けるだけで容易に光線の軌跡から外れてしまう。
「……まぁどちらにせよ、力を惜しみながら消えてくださいまし」
優雅なカーテシーを一つ。そして翻すようにドレスを一つ払うと、無数の火の粉が火の鳥へと変じて羽ばたきと共に大きく成長していく。
再び怪光線が降り注ぐが、今度は炎を突き抜けたりせず、不死鳥と化した炎が光線を真正面から食い潰していく。
「さあ、反撃開始ですわよ。こんな狭いところで物騒なものを放たないでくださいな」
七つの怪光線を一手に引き受け無力化した由のユーベルコードに、猟兵たちの反撃が始まった。
レーザーを束ねて攻撃へと転じたエーカの集中砲火は小面の者の四肢を焼いた。
攻撃を防ぐ手立てを失った小面の者に、三度、和彦の杖が打ち込まれる。
すでにその体は、限界を超えた運動量に疲弊していた。渾身の一突きはしかし僅かに身をそらした小面の者の喉元を抉り飛ばしたに過ぎなかった。
「チッ、浅いか……!」
普通なら致命傷、だが、相手は正体不明のオブリビオンだ。
千切れとんだ能面の張り付いた頭から小さな手足が幾つも生えて、逃亡を図ろうとする。
「逃が、さない!」
着地と共に駆け出そうとするところを、真上からリューインが急襲する。
ドラゴンの強固な鱗に覆われた拳、真の姿により得たありったけの怪力、魔術学園で培った魔術の叡智による光と破邪。
とにかくあらん限りの力を持って全体重を乗せた一撃で殴り潰す。
「ウギ、ウギギ……」
地面と板ばさみにあった能面はまだ形を保っていたが、今しがた生えたばかりの手足はぴくぴくと空を掻くばかりだ。
多少哀れに見えなくもない。
だが、こいつを生かして置くわけにはいかない。
周りに迷惑だし、なにより、ここから逃げられなくなるではないか。
『世界に遍在するマナよ、全てを破砕する波と化し、僕の拳に宿れ。』
真の姿を得て、やや正気を欠いたハイテンションのまま、改めてリューインのユーベルコードが発動する。
先ほどのありったけに加え、超振動をも加味すれば、どれだけの邪悪でも粉微塵の分子の残滓になって消えていく。
「オオオオオオッッ!!」
断末魔だったのか、ドラゴンの咆哮だったのか。それは定かではない。
リューインの『震龍波』によって床材の陥没痕と化した小面の者は、黒いもやのようなものになってこの世から消えてなくなった。
とどめを刺せるほどの因縁を持つ者でもない限り、完全にその存在を絶つことは不可能ではあるだろうが、しばらくは顕現することはないだろう。
「……っはぁ~……こわかったぁ」
緊張の糸が切れる気配とともに、リューインを始め、猟兵たちがその場にへたりこむ。
「あー、しんどい……柄にもないことしたなぁ……明日は筋肉痛だな、こりゃ」
「うふふ、皆さん、一応ここって言わば、霊安室ですわよ」
「もう、思い出させないでよ……」
気が抜けてめいめいに疲労の色を見せるところに、穏やかに水を差したり、眉を寄せて抗議してみたりと、その反応は様々だったが、皆いずれも脅威を打ち倒した安堵を共有していた。
しかしただ一人、カプラだけは焦げ付いた自身の装甲をやんわりと撫でつけながら、瞑目するように安置室に光学センサーを向けていた。
(……強制成仏といった形でしか、犠牲となった彼らに救いを用意できない事に自責の念を禁じ得ません。)
この場に居る誰もが、きっとこの安堵を抜ければ感じるであろう、事件の爪痕。
機械でありながら、この依頼では命に触れすぎたカプラは、いち早く痛感すると共に、これ以上、能面の者による犠牲者を出させない事を胸中に固く誓うのだった。
大成功
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