黒猫と狼の|森で食べ歩く夏《サマーバイキング》
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――グルメプラネット。
ソーマと呼ばれる様々な魔法食材が自生するその世界では、森の樹々に生るのは果実に限らない。
「いやー、グルメプラネットには始めて来たけど、凄いね。美味しい匂いが漂ってくるよ」
そんな世界のとある森の前で、夜久・灯火(f04331)が目を細めていた。
そこら中から、色んな匂いが漂ってくるのだ。
「カレーパンとかハンバーグが生ってる樹とか初めて見たよ」
「地元の方によると、此処は『レストランの森』っていうらしいですよ」
結城・有栖(f34711)が掻き分けている枝に松の葉の様に生えているのはフライドポテト。他にも実の代わりにアメリカンドッグが生っている樹もあれば、葉が鯵の干物の樹や、ピザが花と咲いてる樹もある。
「レストランかぁ……確かに、それっぽい森だねー。バイキング形式って感じ?」
「バイキングと言うか、食べ物狩りって感じです?」
灯火の言葉に、有栖も頷く。
色々な料理が生る樹が次から次へと現れる様相は、確かにバイキングっぽい。
「不思議の国みたいな光景ダネー」
もう一人の有栖――オウガのオオカミさんが、もう一度出てきた樹に生るカレーパンに手を伸ばす。
「味の方も気になるカナ」
言うなりオオカミさんはカレーパンを樹からもぎ取ると、齧りつく。
「ンッ!?」
目の色が変わった。
「このカレーパン、美味しいヨー。有栖も灯火もドウゾ」
オオカミさんに勧められるままに、有栖と灯火は手近なカレーパンを樹からもいで、齧りつく。
中身は粗挽きの挽肉がゴロゴロとしているキーマカレーだ。
程良い辛さで、パンと具材のバランスが絶妙である。
「ん。美味しい」
「お肉もたっぷり入った美味しいカレーですね」
『るー♪』
「桔梗さんも気に入りましたか? それは良かったです」
バトモン・シェイドールの桔梗にもカレーパンを上げながら、一行は更に森の奥へ向かう。
しばらく進むと、特徴的な樹が現れた。
かなり高い樹だ。途中に枝が無く、天辺の方に大きな実が幾つも生っている。見た目が近いのはヤシの樹。
「ココナッツみたいな樹の実が生ってるけど、この匂いって……」
「……あの料理、ですよね?」
けれど樹上から漂って来るのは明らかにココナッツとは違う匂いで、灯火と有栖は思わず顔を見合わせる。
確かめるには、採ってみるしかない。
「桔梗さん、影を伸ばしてあの実を摂ってください」
『るー』
灯火の指示に応えて、桔梗が影を手に変えて、樹上の実に伸ばしていく。
「なんかほんのり温かいんだケド?」
桔梗が採ってきた実をオオカミさんが受け取り、そこに有栖が大鉈を振るう。
切り取った実の上側を外すと、中から湯気がふわっと立ち昇った。
「これ……ラーメンに見えるヨ?」
「ラーメンだね」
「ラーメンですね」
そう。ココナッツの様な大きな実の中身は、ラーメンだった。
「この色、香り……」
見た目だけならココナッツに見えなくもない白濁のスープを、有栖が啜る。
「豚骨です」
濃厚ながら後味スッキリとした豚骨ラーメンだった。
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「ちょっと……食べ過ぎたかもしれません」
「中々恐ろしい森だねー」
進む内に、有栖と灯火は腹がくちかけていた。
何しろ、進む度に次々と色んな料理が出て来るのだ。麺つゆの川にはそうめんが流れていたり、お出汁が香るお茶漬けが湧いてた事もあった。
「誘惑が多すぎるヨ」
『るー』
オオカミさんも桔梗も、敢えて周りを見ないようにしている。
けれど有栖達はまだ、この森に来た一番の目的を見付けていなかった。
「森の奥には、シャーベットの樹があるらしいんですよ」
「美味しいデザートがあるなら、食べたいよねー」
夏だからこそ、冷たいデザートは食べたい。
「何だか涼しくなってきたから、近そうかな?」
灯火が感じた空気の変化は、目指すシャーベットの生る樹が近そうなのを予感させていた。
更に進むと、変化は空気に留まらなくなる。
足元には霜が積もり、景色が白くなっていく。
そしてついに――見えた。
先程のラーメンの実より少し小さいくらいの色取り取りの丸い実が幾つも生っている、凍り付いた大きな樹。
「気を付けてください。地元の人によると、氷のモンスターが樹を守るように居座っているらしいです」
シャーベットの樹の前に蠢く白い塊の群れを見て、有栖が声を上げる。
「雪……? いや、かき氷?……そう言えば、モンスターの姿のソーマもいるんだっけ?」
冷気を撒き散らすその姿に灯火が、目を細めた。
凍った果実を載せている白いかき氷に見える。動いてるけど。
「守ってるってことは、美味しいのカナ? あいつらも美味しそうだケド」
白いもの――かき氷ゴーレム達を敵とみとめ、オオカミさんが掌に風を渦巻かせる。
『るー』
その隣では、桔梗が影をざわつかせていた。
「2人とも乗り気ですね。でも、倒す必要はありません」
シャーベットの樹に誰かが届けば、それで良いのだ。
「桔梗さんは敵を影で縛って足止め、オオカミさんは風の爪で攻撃しつつ注意を引いてください」
「ボクも、食後の運動がてら手伝うよ」
有栖がオオカミさんと桔梗に飛ばした指示の意図が陽動と気づいて、灯火も電脳魔術でゲームキャラを召喚。
『――!!!』
突然現れたケットシーの群れに気を取られたゴーレムの一部を桔梗が影で縛り上げ、オオカミさんが風の爪で吹き飛ばす。
「今のうちに――」
「有栖ちゃん、これ」
ウィンドボードに飛び乗った有栖は、灯火から渡されたクーラーボックスを手にゴーレムの群れを飛び越える。
『!!!』
「おっと、させないよ」
頭上を越えて樹に取り付いた有栖に気づいた数体のゴーレムが凍り付いた果実を飛ばすが、それは灯火のシールドドローンが防ぐ。
「これと、そこのと……あ、そこの色の実も取ってないですね?」
有栖は色を頼りに、シャーベットの実を可能な限りクーラーボックスに入るだけ詰め込んでいく。
「確保しました。撤収しましょう」
「じゃあ煙幕行くよー」
「風もおまけダヨ」
有栖が樹からウィングボードに戻ったのを見て、灯火が煙幕を展開し、オオカミさんが風を起こしてゴーレムを煙に巻いていく。
そして――。
「……もう大丈夫でしょうか?」
周囲の空気が冷たくなくなったところで、有栖が後ろを振り返る。
もうシャーベットの樹は見えなくなっていた。かき氷ゴーレムも追ってきていない。
「有栖ちゃんお疲れ様。怪我はない?」
「灯火さんもお疲れ様です。私は大丈夫です」
ウィングボードから降りた有栖は、灯火の労いに笑みを返しながらクーラーボックスを下ろす。
「それでは、デザートにしましょう」
かき氷ゴーレム達とのやり取りで、別腹も良い感じに空いている。
「シャーベットの実、いっぱい収穫したんですよ」
赤、黄、緑に紫、桃色に白。色の濃淡の違いもあって、どれも違う味なのだろう。
「私はこのグレープっぽいの貰おうカナ」
オオカミさんが手を伸ばした紫の実は、予想通りグレープ味だった。
『るー、るー』
「桔梗さんが欲しいのこれですか……あ、この香り、梅ですね」
ねだる桔梗に、有栖は黄緑のマーブル色のシャーベットの実を上げる。
「じゃあボクは……これにしようかな。多分、梨味だと思う」
「私はリンゴと思われる実にします」
見た目と香りでこの実は何味のシャーベットだろうと予想しながら、一行はレストランの森で、〆のデザートを楽しむのであった。
成功
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