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#UDCアース
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●逃亡の果ても、また地獄
大切で、大好きな、わたしのおともだち。
この子と一緒なら、どこまでも行けるんだと思っていたのに。
しかし、悲しい哉……現実とはかくも無情。
幼子の足で進める距離は短く、自由には責任も伴うもので。
そう、幼き姫は必死に歩き続けたのだ。前に読んだ絵本の様に、待っていても妖精さんは来てくれないから。だから、自分の足で御伽の世界へ向かうのだと決めたのだ。
嗚呼、なんと夢に溢れた無謀な逃亡劇か!
闇雲に歩き続けても、都合良く幻想が現実に変わる訳も無いのに。
結果、幼子は地獄(おうち)にも帰れない。天国(ネバーランド)にも辿り着けない。
素足で遠くまで歩き続けた根気は認めるが、それでも限界は来るもの。寒さに、空腹に、寂しさに遂に幼き姫は泣き出して。涙がおともだちを濡らした時、雑音が幼子の耳に入る。
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくないッ!もう、嫌だぁ!くりかえさないで!
――だって、ここは、わたしのおうちじゃないのに……!
「ぱぱ、ごめ……ごめんなさい、ごめんなさい……!ぶたないでぇ……!」
崩れ落ちる中学生らしき少女の前に在るのは、黒い影を映す鏡。
呻き声を上げ続ける少女には頭部、心臓部を覆う様な機械が着けられている。
鏡の背面に並び立つ他の少年、少女も同様の機械が装着されていて。皆、同じ様に呟くのだ。
……ぶたないで、おなかすいたよ、ゆるして。ごめんなさい。どうか、どうか。
●眠れない夜に嘆く者
「心の傷は簡単に癒えるもんじゃねぇわ、な」
珍しく真剣な様子で呟くのは、グリモア猟兵の十朱・幸也(鏡映し・f13277)だ。
彼なりに思う所もあるのだろうか……しかし、其れよりも真っ先に伝えなければならない事がある。テーブルの上に地図を出し、彼は場所を指し示した。
「UDCアースでまた、失踪事件だ。今回は男女関係なく……特定条件の学生が狙われているらしい」
……特定条件とは何だろうか。
十朱の苦々しげな口ぶりに一抹の不安、或いは既に覚悟を決めた猟兵もいて。
重くなる空気を不思議に思う声を聞いて、彼は口を開こうとする。せめて、少しでも彼らの心を抉らない様にと必死に考えて、絞り出した言葉は。
「過去、親から保護された経験がある奴らだ……虐待とかが理由でな。邪神が関係しているのは間違いねぇ」
儀式場の特定、必要があれば邪神の撃破。
だが、十朱が猟兵達に頼みたい事は其れだけじゃない。
「今回の奴らは、まだ生きてるみてぇだ。ただ、どんな目に遭っているかはわからねぇ」
あくまでもグリモア猟兵の独善による言葉であって、強制力は無い。
其れでも、生きている以上は助けられる可能性がある。だからこそ、可能ならば救ってやってくれと。其の様に語る十朱の言葉には普段の余裕はなく、懇願するようだった。
……心を落ち着かせる為に深呼吸を一つ、彼は復活の予兆が見られる邪神の事を話そうと。
「鏡の姿をした邪神らしい、精神攻撃が得意とか……お前らの見たくねぇ物を映してくる、かもしれねぇ」
今回の被害者達だけではなく、邪神と対峙する以上は猟兵達も其の危険に曝される可能性が高い。
送り出す事しか出来ない現状に、十朱の掌が血で滲む様に見えた。
……彼は、せめて無事で帰ってこいと告げるしか出来ない。其の言葉を胸に留め、猟兵達はUDCアース世界へと向かうのだ。
嗚呼、猟兵の皆々様。御自分の変容は希望?絶望?それとも、虚ろでしょうか?
其れを決めるのは貴方達次第。舞台の幕はもう下ろせない。
――さあ、どうぞ最期までお楽しみ下さいな。
ろここ。
●御挨拶
皆様、お世話になっております。
もしくは初めまして、新人マスターの『ろここ。』です。
本シナリオをもちまして、十本目のシナリオとなります……!
日頃から皆様には大変お世話になっております、末筆ではありますが今後とも宜しくお願い致します。……え、本当に十本目だよね?
という訳で!十本目のシナリオは調査、及び戦闘シナリオとなります。
冒頭で察した方もおられると思いますが、シリアスです。
尚、第三章では皆様の内面……理想、過去などを暴き、心を喰らう事でしょう。
何が映し出されるのか、映し出された『何か』に何を思うのか。何を感じるか。或いは、どの様に立ち向かうのか。
……皆様の気持ちを書いて頂ければ、私も精一杯描写させて頂きますね。
それでは、皆様の素敵なプレイングを幸也と一緒にお待ちしております。
どうぞごゆるりと、楽しんで頂ければ。
第1章 冒険
『住宅街での神隠し』
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POW : 地域ボランティアの活動員としてパトロール。怪しい人物がいないか捜索等。
SPD : 行方不明になったと言われる場所から捜索。奇妙な痕跡が残っていないか調査等。
WIZ : 行方不明者の家族や友達から聞き取り。不可解な点がないか考察等。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
紅月・美亜
【アドリブ、共闘歓迎】
さて、まずは捜索か……情報収集は得意分野だ。まずは行方不明者の近親者から探るとしよう。無論、ハッキングでな!
表面上は当たり障りのない会話をしているが、少しばかり思考をハッキングさせてもらう。別に記憶が全部見える訳ではないが、特定の単語で思い浮かべるイメージを読み取れる筈だ。誰かが情報収集を行うならそのアシストの方が良いかな? 単語、映像、音声。ハッキングで読み取れる情報は少なくない筈だ。そして、私ならそれを映像化も出来る。N.D.A.L.C.S.の性能を甘く見てもらっては困るな。
怪しい所に揺さぶりをかけて、色々と突き付けて行くぞ!
グルクトゥラ・ウォータンク
子供を助けるのは大人の仕事じゃ、気に病むでない。成らぬ世こそ、為さねば変わらぬ何事も、じゃ。
調査探索ならば電脳妖精の出番じゃな。UC発動、ネット上に放流しての【情報収集】だけでなく、事件現場周辺の監視カメラに【ハッキング】を仕掛け必要な情報を探すぞい。【追跡】はお手のものよ。
被害者の身の回りの人間も調査じゃ。特に家族じゃな、見つかりづらい探査電脳妖精の特性を活かして密かに会話を盗聴したりするぞい。
時間がたつほど子供たちの危険度が増す。急ごう。
●Hacking
――助ける為にも、まずは情報収集を行う必要がある。
電脳魔術士達が、各々のハッキング技術を駆使して情報を集めようとしていた。
まずは一人目、『大いなる始祖の末裔 レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』……失礼、訂正しよう。大いなる始祖の末裔を自称する、紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)の姿が其処には在った。
彼女はいち早く、行方不明者の近親者の情報を集めた後、既に其の内の一人と接触している様だった。迅速な動きは装備している『N.D.A.L.C.S.』の恩恵もあるのか。
「此処も賑やかだったんだけどね、失踪事件があってから……」
「成程。確かに少し、寂しさを感じるな」
当たり障りのない会話のつもりが、此の近親者は行方不明となった少女の事を案じているのだろう。気付いた時には、失踪事件の話題となっていて。
……尤も、紅月としては会話の内容は重視していない。彼女にとって重要なのは表面ではなく、内面。内側に潜む女性の記憶だ。視覚、聴覚、嗅覚へのハッキングにより、目の前の女性が浮かべるイメージを覗き見ようと試みる。さて、結果は如何に――。
「(居場所が無いと嘆いていた、のか)」
失踪者の一人らしき少女が、女性にそう悩みを吐露していたらしい。
……女性は少女の母親、其の姉だった。少女が虐待を受けていた事に気付いてあげられなかった。其の事実に罪悪感を抱いていたが、かと言って引き取る余裕も無く。せめて、と時に彼女の相談に乗っていたのだ。
記憶の断片を読み取り、其の情報を元に紅月は判断する。少なくとも、彼女が失踪事件に関わっていない事は判った。
「……失踪した者達が、早く帰って来るといいな」
「ええ、本当に。……ごめんなさい、初対面の方なのに」
話し相手になってくれてありがとう、と。
丁寧にお辞儀をして、紅月に感謝を示してから女性は其の場を後にする。
……瞬間、彼女の『N.D.A.L.C.S.』は違う映像を映し始める。此れまでの情報には映らなかった、少女と同年代に見られる男女の姿。此れは友人を誘ってきた、のか。
其れだけならば微笑ましくも思えるが、違和感がある。一人だけ虚ろな目をした者がいるのだ。何者か、どういう状態か。……此れ以上は探れなかった。
「……他の猟兵と情報交換をするべき、だろうな」
自分とは違う情報を入手した可能性もある。
道中、怪しい者が居れば直ぐにハッキング出来る様に備えつつ……紅月は再び歩き始めた。
●物量は正義!
「成らぬ世こそ、為さねば変わらぬ何事も、じゃ」
グリモア猟兵に気に病むなと励まして、二人目の電脳魔術士――グルクトゥラ・ウォータンク(サイバー×スチーム×ファンタジー・f07586)はUDCアースへと降り立つ。
彼のハッキング技術はシンプルだ。まずはインターネットが利用出来る場所を探して……近場のインターネットカフェへ入店して。後は彼らの出番。
「それじゃ、頼んだぞい」
数が多い、という次元を超えた様な気もするが……グルクトゥラは数多の探査用電脳妖精を、召喚した端からインターネットの海へ向かわせる。六百を優に超える電脳妖精が向かうのは監視カメラ、其のシステムだ。特に事件現場周辺に集中させる。
電子の海を泳ぐのは、電脳妖精にとって朝飯前。システムに辿り着いた彼らはハッキングを開始、即座に彼の元へ情報を届けた。
普段は大雑把だが……時間を掛ければ、子供達が益々危険に晒されてしまう。速く、手掛かりを。情報の精査に取り掛かる彼の横顔は職人の其れだった。
「ふむ、家族はいるのじゃろうか……」
……親から保護された経験があるのならば、其の後も家族で過ごしている可能性は低いだろう。それでも、僅かな可能性も取り零さない様に。
監視カメラの映像には、確かに失踪者が映っている物もある。だが、中々決定的な瞬間は見つからない。焦るグルクトゥラの所に、ふと一体の電脳妖精がある映像を示す。
「ん……?警察、かのう?」
住宅街付近、とある公園で男性同士が揉めている様子だった。
片方はグルクトゥラの認識通り、警察の人間だろう。もう一人は男性……頬が赤い様子から、昼間から飲んだくれていたのだろうか。
『ちょっと、落ち着いて下さい!』
『うるせぇ!大体なぁ、俺はもうあのガキと会ってねぇんだよ!消えてからも俺に迷惑を掛けやがって、クソッ!』
……正直、見ているだけで腹立たしい。
しかし、此の調子なら何かボロを出すかもしれない。湧き上がる怒りを抑えながら、彼は映像を見続ける。
『ですが、お嬢さんは……』
『るっせぇ!だったら、あのクソガキがいる学校でも施設でも行けばいいじゃねぇか!俺に関わんな、酒が不味くならぁ!』
学校、施設。鏡があると言うならば、其れを置く為の空間は必要だろう。
失踪現場は住宅街だった筈だが、場所を移動させられた可能性もあるか……。
もう少し情報を精査したい。グルクトゥラは引き続き其の場に留まり、電脳妖精が集めた情報を調べるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
ミッションを受託。
――これより被害者の救助ミッション、及びUDCの殲滅任務を開始する。
【POW】
(ザザッ)
時間が惜しい、速やかに"怪しい対象――目標UDC"を直接探知する。
"Thundercloud"を召喚。
衛星から上空を視察、指定対象をサーチする。
(視力+情報収集+追跡)
――指定対象は"本機と類似したUDCオブジェクト"。
予知にあった通り"頭部と心臓部を機械で覆っている"なら、本機に関わるUDCであると推察する。
衛星の透視能力と各探索機能も駆使。
発見し次第可及的速やかに現場に急行する。
――逸早く殲滅する。被害者は出さない。
本機の作戦概要は以上、実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)
●MISSION START
――NOW LOADING……I Copy.
たった今、黒豹型の機械鎧を着けた猟兵――ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)は改めて本ミッションの情報を受託した。即ち、被害者の救助ミッション、及びUDCの殲滅任務。状況から鑑みるにあまり猶予はない、時間が惜しい。
……故に、彼は己の推察を元に特定対象の索敵を試みるのだ。
「情報支援衛星召喚、データリンク完了」
各種精密探索・透視能力を有する偵察衛星、彼のユーベルコードによる召喚物。其の固有名詞は『Thundercloud』と呼ぶらしい。本来は別のユーベルコードである『Thunderbolt』射出の為、観測手たる天の眼の役割を担うが……今回は索敵を目的として使う様だ。
五感の共有を手早く済ませて、ジャガーノートは即座に上空へと放つ。索敵条件、其れは彼と類似したUDCオブジェクト。『Thundercloud』は迅速に情報収集を開始する。
……頭部と心臓部を機械で覆っている、というグリモア猟兵の予知が正しければ。
今回の敵は『Dr.』絡みの何かが関係している可能性が有る。衛星の性能を最大限に発揮して、彼は索敵をし続ける。推察の正誤確認も兼ねているのかもしれないが、確信めいた物を感じている……かもしれない。
――そして、何かが見つかった。
「……HIT. 特定地点のGPS情報、登録完了」
其れがどんな建物か、何処に在るのか。現時点で知るのは、ジャガーノートのみ。
他の猟兵が発見に至らないという事は、外観は判らない様にしているのだろう。
恐らく、彼が探している何かは屋内に存在すると考えられる。其処が邪神復活の儀式場なのだろう。……しかし、そんな事は些事に過ぎない。
探す『何か』が其処に在るという事実、其れこそが彼を動かすのだ。
「――逸早く殲滅する。被害者は出さない」
其れが上書きされた存在理由による意思決定だとしても。
或いは其れ以外に理由があるのかもしれない。どちらの意思か、までは不明だが。
ジャガーノートは可及的速やかに、現場へと急行する。速く、速く、もっと速く。
……異形の怪物は、決して誰も殺させないと駆け続けるのだ。
本機の作戦概要は以上、実行完了。
次なるミッションの為、目標地点への移動を最優先に行動。
――Over.
大成功
🔵🔵🔵
古高・花鳥
必ず助けます、身の安全だって、心だって……!
学生が標的なのなら学生の方々から情報を集めるべきでしょう
怪しまれないようセーラー服姿で調査ですね
まず失踪した方の知り合いやお友達からの聞き込みです
「礼儀作法」を忘れずに聞き込みます
怪しい場所へ行ったりしてなかったか、誰かと接触してなかったか、とか
並行して過去に虐待の類を受けていた人も探します
もちろん深く詮索はしません、「優しく」「手をつないで」心に寄り添って話を聞きます
そして、近頃身の回りで何か起きなかったか、詳しく聞いてみたいと思います
そして、可能なら得られた情報をもとに、側で動きを待ってみようかと思います
もちろん、護衛も兼ねて
(アドリブ歓迎です)
推葉・リア
【SPD】
…思い出したくない事を無理に思い出させるなんて本当に最低ね…
早く助けないと…
失踪する子達に共通点はあるけど、いなくなった場所は同じかしら?
【第六感、聞き耳、催眠術、言いくるめ】を使って、いなくなった場所やいなくなった人達の友人らに聞き込みするわ
直前まで何をしてたのか?何処に居たのか?
それと雀や烏とかにも【動物と話す】で聞いてみようかな意外と知っていそう
場所が遠かったら『星色ライド』で一気に飛んで移動して時間短縮、他の人とも情報を共有するわ
…そして、もし怪しい人や次に狙われそうな子がいたら【忍び足、目立たない】で追跡してみよう
連れさらわれた場所が分かれば一番いいわね
【アドリブ共闘歓迎】
仁上・獅郎
生きているなら、救いたい。
助けを求めるなら、放っておけない。
動機としてはそれで十分です。
さて、失踪者の行方を辿らないと、ですね。
警戒されにくい[礼儀作法]、聞き出しやすい[コミュ力]を心掛けて。
ご家族、ご友人、担任の先生、施設の担当者を当たりましょう。
聞くべきは、新しい友人や特別親しい友人がいなかったか。
普段のご様子はどんなものだったか。
失踪した方の行方に心当たりがないか。
共感を示し、容易な質問から答えにくい質問へと順々に聞いていく。
さて、心理学の手法が通用すると良いのですが。
それにしても、鏡、ですか。
異界と繋がる場所と言われますが……
そちらも心当たりを聞いて、影の追跡者に追ってもらいますか。
●失踪者を知る者
セーラー服を身に纏う古高・花鳥(月下の夢見草・f01330)の問い掛けに、とある失踪者のクラスメイトは答える。其れは皆、知っている話だとでも言う様で。
『そういや、隣のクラスの奴が一緒にいたのを見たな。幼馴染らしいぜ?ただ、少し前に見た時は険悪な空気だったんだよな……』
学校の友人達への聞き込みを終えた推葉・リア(推しに囲まれた色鮮やかな日々・f09767)の問い掛けに、同学校の飼育小屋で過ごすウサギが答える。此の子も先程と同様に、普段から見ていると言う様に。
『見たよ!見たよ!いつも僕らの仲間の飾り、つけてる女の子と!一緒!』
同じくある程度の教師への質問、情報収集を終えた仁上・獅郎(片青眼の小夜啼鳥・f03866)の問い掛けに担任を務めている教師が答える。彼も此れまでに列挙した猟兵達と同様、直ぐに浮かんだ生徒の事を告げるのだ。
『ああ、隣のクラスの子ですね。うさぎさんのアクセサリーを沢山着けているから、直ぐ分かると思います。今は……屋上にいるのではないでしょうか』
奇しくも同じ場所にいた猟兵達は情報収集を終えて、互いの知る其れを交換する。
……三人が目指すのは屋上。うさぎのアクセサリーを沢山着けているらしい生徒を探して、一歩一歩階段を上がっていく。件の生徒と擦れ違う事はない。
誰かが静かに扉を開けると……確かに其処には手提げ鞄にうさぎのキーホルダーを着けた女子生徒が、屋上で一人佇んでいた。
●伝えたい言葉、想い
「遊び半分で首突っ込むの止めてくんない?ケーサツにはもう話したし」
突如現れた三人の姿を見て、女子生徒は明確な警戒心を露わにする。
表情に浮かぶのは疲労の色。既に同じ様な事を、何度も聞かれたのだろうか。
……其れでも手掛かりを持っている可能性がある以上、彼女に尋ねなければ。先に動いたのは仁上だった。
「突然、すみません。失踪した方について知りたいのですが……普段、仲良くされているんだとか」
「別に仲良くないし」
「え?でも、失踪した日も一緒に居たって聞いたんだけど……?」
……思い出したくない事を、無理に思い出させる。今も尚、そんな目に遭っているかもしれない。だからこそ、早く助けたいと推葉は強く思うのだ。
居なくなった場所も共通点があるのか。女子生徒に失踪者の足取りを聞こうと、深く追求しようとしたが……返って来たのは言葉ではなく、鋭さを増す視線。
しかし、其の反応を見て彼女は気付いた。失踪した当日に会っているのは間違いない、と。……続く様に声を掛け始めるのは、古高だ。
「わたし達は、彼女を助ける為に此処へ来ました。だからこそ、少しでも知っている事があれば教えて頂けないでしょうか」
「……はいはい、会ってたわよ。ちょっと話してから、お互い別々に帰っただけ」
コレで満足?と面倒臭そうに告げて、女子生徒は手提げ鞄を持とうとする。此れ以上、付き合っていられないと言いたげだった。
……心理学の知識が多少あるからか、其れとも第六感が働いたのか。仁上が彼女に制止を促す。やんわりとした言い方だったからか、女子生徒の動きが止まった。
「何?まだ何か用?」
「ええ、もう一つ。失踪した方と何かありましたか?」
「……っ、別に」
「別々の方向へ帰った、のは解りました。僕達が知りたいのはその理由です」
「別にどうだっていいでしょ!?もう放っておいてよ!」
……女子生徒が虐待を受けている様には見えないけれど。
古高は今が正に、其の時だと感じたのだろう。そっと女子生徒に近付いたかと思うと、手を取る。繋いだ手から温かさが、優しさが伝わる様に祈りながら。
「……深くは詮索しません。ですが、わたし達は本気で助けたいと思っています。どうか、わたし達を信じてくれませんか?」
「うん、うん!私も遠くまでびゅーん!って行けるし、どんなに離れてても大丈夫よ!」
「なんで、そんなに……」
三人の事なんて知らない、赤の他人がどうして此処までしてくれるのだろうか。
今の女子生徒には理解出来ず、帰ろうとした足は動かない。困惑が表情に表れているのを見て、仁上は微笑みながら告げるのだ。
「生きているなら、救いたい。助けを求めるなら、放っておけない。動機としてはそれで十分です」
――ただ、其れだけだからと。
仁上の言葉を聞いて、二人も同じ気持ちだと頷いて。
繋いだ手から優しさが伝わる、狐の様な耳を着けた女性の明るさが心を照らす。
……ぽたり、と気付けば女子生徒は涙を零し始めていた。溢れて、止まらなくて。古高が持っていたハンカチを差し出すと、また涙が溢れる。
そんな様子に彼は心理学の面から、推葉は第六感で察したのだ。女子生徒は何かをずっと抱えていて、苦しんでいたのだと。
「……えっと、ゴメンね。少しずつでいいから、話してもらえる?」
流石に今の状態で聞くのも気が引けたが、時間が無いかもしれない。
推葉が申し訳なさげに促すと、女子生徒は呼吸を整えながら少しずつ言葉を紡ぐ。
女子生徒は噂通り、失踪した少女の幼馴染だった。
少女の母親が再婚してから、虐待が始まったらしいが……其れ以前から仲良くしていて、傍で支えてきたらしい。少女が施設に入った後も、交友関係は続いていた。
……ならば何故、失踪当日は別々に帰ったのか。三人の疑問に女子生徒は答える。
「酷い事、言っちゃったの」
クラスメイト達は、冗談のつもりだったかもしれない。
友達数人とゲームをして、女子生徒が負けた。其の時は罰ゲームの詳細が決まっていなかったが……後で決まった内容は『大好きな幼馴染との縁切り』という残酷な内容。
自分達の友達が、別のクラスの人間と仲良くしているのが気に喰わなかったのか。理由は不明だが、勿論彼女は一度断ったのだ。だが……。
「やらないと、SNSで……悪評を、ばら撒くって……」
学校と言う名の閉鎖社会、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの利用が進んでいる今は尚更、噂が広まるまで時間が掛からない。彼女は其れを恐れたのだ。恐怖に呑まれて、心にもない言葉を吐いてしまった。そして、別々に帰って……少女は姿を消した。
……此処までの話を聞いて、猟兵達はより一層助けたいと感じていた。
其の為にも場所を特定しなければならないが……別々に帰った以上、女子生徒はそれより先の事を知らないだろう。どうするかと話し合おうとして、ふと彼女が猟兵達を見て。
「ケーサツには、話さなかったんだけど。前に一度だけ……施設に馴染めないって、雰囲気が変だって、あの子が言ってた。みんな、ぼんやりしてるって」
施設の雰囲気とはそういうものなのかと思っていた為、言わなかったらしい。
……其の施設に何かあるかもしれない。一度、女子生徒の護衛を古高に任せて、推葉と仁上が動き始めようとする。
「頼りにしてるよ、星色。それじゃ、先行ってるわね!レッツゴー!」
――いの一番に施設へ向かおうとするのは、推葉だ。
緑とオレンジのコンゴウインコの身体が大きくなり、人一人が乗れる程になっていて。自分よりも一回り大きくなった星色に乗って、彼女は空を駆けて行く。
仁上は自分が向かう前に、影の追跡者を召喚して。五感を共有する其れを先行させて、更に情報を得ようとしていた。失踪者達もだが、鏡の邪神も其処にいる可能性もある為だ。
彼も歩き始めたのを見届けた後、女子生徒の背を撫でて落ち着かせようとしながら……古高は優しく声を掛ける。
「大丈夫です。きっと助けますから、その後に……ちゃんと本当の気持ちを伝えましょう」
そんな機会が本当にある様にと願って、女子生徒は首を縦に振ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
空亡・柚希
助けられる可能性がまだ残っているのなら助けたい
邪神のせいで、まだ先がある命が終わってしまうのは、哀しい事だから
……うん、どんな人であれ、突然消えてしまうのは哀しいよ。残された側にとっても。
失踪したところから調べる
落とし物や奇妙な痕跡が残っていないか、違和感を見逃さないように
(《視力》《第六感》)
……失踪した子はいつ、何を境にして消えたんだろう。
……。鏡……。邪神が鏡の姿らしいとは聞いたけれど……。
シノ・グラジオラス
SPD選択
他者との協力も惜しまず
幸い、俺は親には恵まれたが…思い出すのは幼馴染と初めて会った時の様子
俺にできる事なんて限られてるだろうが、助けられるなら助けてやんないとな
(煙草の火を消し)さて、本気出しますか
聞き込み時は愛想よく穏やかに。それが件の親でもな
『情報収集』や『コミュ力』を使って、一番最新の失踪者の最後の目撃情報を収集
そこを起点に『聞き耳』『視力』の五感系や『野生の勘』を駆使して
血痕や引きずった跡など、少しでも違和感があるものを探し、
『追跡』『失せ物探し』で痕跡が途切れるまで追う
痕跡が消えた周辺で失踪に関連ありそうな事を中心に聞きこむ
これを繰り返し手がかりが途絶えるトコまで探そうか
●死角に潜む手掛かりを求めて
現代の監視カメラの性能は、日々進歩していると言っても過言ではないだろう。
……しかし悲しい哉、万能とは程遠い。
其れに加えて、コスト削減の為にと敢えて設置台数を少なくしている場所もある。どうやら此の住宅街は違う様だが……監視カメラの視野に限界がある以上、どうしても死角となる場所は存在するものだ。
――そう、例えば彼らがいる場所の様に。
「(……俺にできる事なんて限られてるだろうが、助けられるなら助けてやんないとな)」
脳裏に過ぎるのは大切な幼馴染、初めて会った時の様子は……きっとシノ・グラジオラス(火燼・f04537)にしか正確に言葉に出来ない。其れでも敢えて言葉にするならば、悲痛という単語が一番的確だろうか。
幸い、自分は親には恵まれたが。昔見た、幼馴染のあの時の表情を思い浮かべて、彼は救出への決意をより一層強くする。
……そして、救出を望む声は其の場にもう一つ。
「(邪神のせいで、まだ先がある命が終わってしまうのは、哀しい事だから)」
普段は修理も承る、玩具屋の二代目として働く空亡・柚希(玩具修理者・f02700)だ。
助けられる可能性がまだ残っているのならば助けたい、彼もその様に望んでいる。
どんな人であれ、突然消えてしまうのは……残された側にとっても、きっと悲しい筈だから。
壊れてしまった玩具は直せるけれど、人の心はどうだろうか。
其れは彼自身も解らない。解らなくても……命は失ってしまえば、二度と修理出来ない事は知っている。
だからこそ、彼は命がまだ壊れていない内に助けたいと願うのだ。
聞き込みの結果、最近失踪した少女は此の住宅街で見掛けたのを最後に行方をくらましたらしい。まるで神隠しにでも遭った様に。
現在も監視カメラの映像を入手、解析を続けている別の猟兵と連携して……彼らは其の死角となる場所を徹底的に調べ始める。血痕、少女の落とし物、奇妙な痕跡。
お互い、簡単に見つからないであろう事は理解しているけれど。隈なく探して、少しでも手掛かりを得ようと行動し続ける。
……そんな予想とは裏腹に、早速二人は何かを発見した。
「シノくん、ちょっといいかな」
「どうした?何か、見つけたのか……って、何だこりゃ」
庭の小さな茂みの中、其処に隠されていたのは小さな兎のぬいぐるみをキーホルダーにした物だった。本当に微かだったが……シノは鋭い嗅覚で、確かに血の臭いを感じ取る。尤も、臭いの強さから小さな傷口が出来て、偶々付着してしまった程度の量と見受けられるが。
其れでも……シノは野生の勘で、空亡は第六感で理解する。
此の兎のぬいぐるみは、失踪した少女と関係があるのではないかと。
「失踪した女の子は、最後に此処に来たって事か?」
「かもしれない。でも……特に荒された形跡は無さそうだね」
「……何か、逆に不自然過ぎるんだよな。もしかして、例の機械みたいなのが監視カメラを避けて、何処かに運んだとか?」
でも、行く宛もなくそんな芸当出来んのかね……。シノは独り言の様に呟きながら、他に何か無いだろうかと辺りを見渡している。手掛かりが他にあるか、探し出す為に。
……嗚呼、其れは直感なのか。それとも己の身にこびり付いた邪神の残滓が、同類の気配を察知したのか。空亡が続けて見付けたのは、足元に打ち捨てられた……くすんだ金色のプラグの様な物。
其れに気付いた時には空亡は駆け出していて。慌てて、シノが彼の後を追い掛ける形となる。
「おいおい、空亡どうした!?」
「シノくんの予想、当たっているかもしれない。そう仮定したとして、一体何処に運んだんだろうね」
「人気の少ない所……でも、そういう場所は普通は警察が探しに来るか」
「学校は不特定多数の人間が多過ぎる。それなら、不特定多数の人間が少ない場所の方が良い」
「……なぁ、まさかとは思うんだが」
言葉が続く前に、空亡は走りながら首を縦に振る。
……其の動作だけで、シノが確信を得るには充分過ぎた。
先程発見した物に対する直感、其れを踏まえた仮説に過ぎない。それでも、不思議と確信めいたものを空亡は感じていた。駆けて、駆けて、其の内にぽつり。
「――多分、彼女が引き取られた施設自体が儀式場になっているんだ」
「施設の人間、皆グルって事かよ……!?」
元々在った施設が、オブリビオンの手に落ちていたとしたら?
施設に昔から居る子供達も皆、オブリビオンの命令に従う様な状態だったなら?
例えば、そう……今回のオブリビオンの能力があれば。
――生贄候補の拠り所を奪う為、籠の鳥とする為の策を講じる事も簡単だろうね?
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
木槻・莉奈
SPD選択
アドリブ、共闘歓迎
…助けなきゃ、ね
あれを繰り返すなんて…出来るだけ早く、助けてあげなきゃ
辛さを知ってるから…放って、おけないもの
※莉奈自身がある種の虐待の経験者
【Venez m'aider】使用
行方不明となった場所を中心に街中にいてもおかしくない猫や鼠、鳩や鴉を呼び寄せ周辺の捜索を
人が通れぬ通路からも含めて、報を集めてもらうわ
元々この地に住んでる生き物にも声をかけて何か知らないか聞いてみるわね
『動物と話す』『情報収集』にて動物駆使した情報収集
何か痕跡があれば『追跡』『失せ物探し』
人から情報を集める場合は『コミュ力』『世界知識』で違和感ない様話を合わせて
必要があれば『鍵開け』も辞さない
●同病相憐れむ
躾と称して、暴力的な行動で子供を従わせる。
成程、其れは確かに虐待と呼ぶに相応しい蛮行だろう。
……だが、虐待とは其れだけに留まらないものだ。自分の描いた人生(ストーリー)を歩ませようと、子供の心を尊重しようとせず。其の結果、意に反した子供を育てる事を放棄する者もいる。酷い時には、まるで最初から居なかった様に扱う親も存在する。
育児放棄もまた、虐待の一つと言えるのだろう。
――さてさて、猟兵たる彼女は一体どちらだろうね?
「みんな、お願い。力を貸してね」
木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)の『Venez m'aider』により呼ばれた動物達、其の全てに守護の魔法が付与される。猫や鼠、鳩など……其れらは皆、普通に街中に居ても違和感の無い動物達だった。彼女の技能も組み合わせれば、広範囲の情報を得る事が出来る筈だ。
意図を素早く汲み取り、動物達は周辺に散開。
人目に付かない様な裏通り、細い道を進んでいく。些細な証拠も逃さぬ様にと。
「……早く助けなきゃ、ね」
ぽつりと、独り零す言葉に含まれるのは不安。そして、静かに燃える様な決意。
彼女は辛さを知っている、違う形であっても……虐待の苦しみや悲しみ、寂しさを理解しているから。悪夢の様な時間をただ、繰り返し続ける。どうか、どうか。嗚呼、其れは小さな願いも届かない真っ暗な闇、そんな表現も生温い程の――。
「(……っ、落ち着いて。まずは、情報を)」
――今は、感傷に浸っている場合じゃない。
首を振って過去を振り払い、木槻は前へと歩き出す。
……今は違う、大切な親友や頼もしい仲間達が傍にいる。彼らと並び立つ為に。其れに見合うだけの強さを持って、彼女は此の依頼に臨んでいるつもりだ。
動物達に任せっきりではいけないと、彼女も近くの人に尋ねようとしたが……その前に、先程何処かへ向かった筈の猫が何匹が戻って来ていた。どうやら住宅街付近の公園に向かった際、野良猫同士がたむろしている所に遭遇したらしい。
「施設?」
……野良猫達曰く。今の施設は変わってしまった、との事だ。
昔の施設の人達は優しかった。野良猫である自分達とも良く遊んでくれたのに。
今は違う、昔の施設の職員は皆いなくなって。新しい職員は全員、自分達が近付いても厳しい目つきで追い払おうとしてくる。其れに……日毎、施設から感じる嫌な雰囲気が強くなっている気がして。……何故か、近寄るのさえ恐ろしく感じる。
悪い事は言わない、近付くな。後から戻ってきた鼠や鳩達からも、同じ様な話を聞いて……木槻は自分の予想に確信を持つ。
「何か、ある筈……よね」
――もし閉鎖されているのなら、鍵開けも辞さない。
本来は人見知りする性格である事から考えると、かなり大胆な行動。救出への強い思いが、木槻を駆り立てるのだろうか。
彼女もまた、他の猟兵達と同様に駆け足で施設へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
※ネグル(f00099)と
【SPD】
……虐待。
(自ら産み出した子を、害する。
森の獣の理に馴染んだ自分には、)
それは。ネグル。
病の、せいか?
(全く、理解できない)
病なら。
焼かなければならないけれど。
……違う?
(今は、子供探しだ。
森番は森を知るが、街はあまり知らない。
現代的な情報収集は彼に頼る。
ネグルが魔法のように探してくれた痕跡を【追跡】。【野生の勘】で違和感を逃すまい。
……そもそも、どこからいなくなったのか。
子供にとって安心できる場所からか。
そうでない、おそろしい場所からか)
誰かと話すのは。ネグル、任せた。
……おれは。喋るの苦手だから。
ネグル・ギュネス
ロク(f01377)と参加
そうさな。
ある意味では、病である。
但し焼いてどうにかなるものでは無いのだ。
それは、人の弱さに巣食う病───講義がてら、探そう
ネットハック開始。
地域掲示板、裏サイト。
今は何処にも、病がある。【ハッキング】で色々なデータを抜きとり、情報検索しながら、パトロールと行こう。
怪しい場所があれば、ロクに任せる。
怪しい場所があれば、【迷彩】で姿を消し、怪しい人物を探す。
見つけたら、【撮影】して、他仲間に情報を飛ばしつつ、尾行開始だ。
追跡をロクに頼みながら、私も続こう。
虐待された子は、手を繋ぐのではなく手を向けられ、抱かれるのではなく投げ捨てられる。
───何故か?
答えは、この先だ。
●潜む病巣
サイバネット・サルベージによるネットハック、スタート。
電波に干渉、情報を検索しながらネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)は、森番たるロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)と共に歩き続ける。
公共の地域掲示板、特定学校の裏サイト。被害者である少女のプロフィール、そして他の猟兵達から連携された情報を元にすれば、検索条件はある程度絞れる。
……インターネットの海は広く、病もまた多い。今回の件もまた、然り。
ネグルが其の内の一つを発見したのは特定学校の裏サイト、其処に在る掲示板だった。かなり前に投稿された火種、其れが燃え広がる。フォローする様な言葉も焼け石に水で。
此処まで酷い炎は裏に隠し切れず、いつか表にまで広がっていただろう。或いは、もう既に。
――ふと、ロクがぽつりと零した。
「……虐待」
自ら産み出した子を、自らの手で害する。
森の獣の理に馴染んだ身である、ロクには全く理解出来ない話だった。
子はとても大切で、愛おしい存在。時に試練を課す事はあれど、殺害までに至らない。
それでも、自分の子を害するならば、其の理由は……。
「それは。ネグル。病の、せいか?」
病ならば、おれは、焼かなければならない。ととさまのためにも。
ロクの静かな呟きにふむ、と顎に手を当てながらネグルは己なりの答えを返す。
「……そうさな。ある意味では、病である。但し焼いてどうにかなるものでは無いのだ」
「病、なのに」
「それは、人の弱さに巣食う病───講義がてら、探そう」
焼いて、どうにかなるものではないとネグルは言う。
ならばどうすればいいのだろう、病は焼かなければいけないものなのに。
ロクが思案していると、不意に彼が立ち止まっていて。どうしたのだろう、問い掛ける前に彼女は気付く。迷彩を使用して、何かから見つからない様にしていると。
互いに音を立てない様にしつつ、視線の先には学生らしき少女の姿が。だが、失踪者ではない。ならば、彼女は誰だ?
「ロク」
悟られぬ様に、微かな声で名前を呼ぶ。其れだけで充分だ。
森で狩りを行う様に、獲物に気取られぬ様に。ロクは静かに其の女子生徒を追跡する。
ネグルも後を追う前に……カリキュレイト・アイで密かに撮影した女子生徒の写真データ、それから己が集めた情報を纏めたデータを、他の猟兵達に送信して。其の上で迷彩を維持したまま、二人の後を追い掛ける。
「(……そもそも、どこからいなくなったのか)」
子供にとって、安心出来る場所からか。
それとも……そうでない、恐ろしい場所からだろうか。
目の前で一定のリズムで歩き続ける少女の正体は分からない。分からないが、ロク自身の野生の勘は告げる。此の少女には何かある、そう判ずるに足る嫌な気配がある。
……病の可能性がある以上、焼かなければと思うけれど。今は追跡を優先に彼女は行動する。
機械の様な常に一定間隔で進む姿は、とても不自然に見える。そんな少女が立ち止まったのは、とある児童養護施設だった。
そのまま中へ入ったのを確認してから、ロクは入口の様子を覗き見ようとして……目を見開く。入口は何か巨大な獣が無理矢理抉じ開けた様な、破壊の跡が残されていたのだ。
……此の異様な状況を見ても全く動じず、少女は中へ入ったのか?
それに、先程も感じた嫌な気配が一層強くなった気がして。どういう事だ。
「虐待された子は、手を繋ぐのではなく手を向けられ、抱かれるのではなく投げ捨てられる」
──何故か?
漸く追いついたのだろう、ネグルがロクの方へ歩みを進めながら呟いた。
虐待を受けた子供の行き先が、必ずしも楽園とは限らない。寧ろ、進んだ先も地獄である可能性もあるのだ。哀しい哉、其れが現代社会の現実。
……さて、彼らの目の前に在る此の施設。既に理解していると思うが、此処は最初から地獄では無かった筈なのだ。ならば、どうして地獄へと変貌してしまったのだろうか。
「答えは、この先だ」
……此の先に何が待ち受けるのか。
既に開かれた地獄への入口、抉じ開けたのは一体誰なのだろうか。二人だけで進むのは危険である事、そして他の猟兵達が向かっている事を知り、待つ事にした様だ。
ただ一人、此の場に立つ森番だけは微かに知っている筈の匂いを感じ取りながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『『ジャガーノート』寄生未完了体』
|
POW : 《Now Loading...》
戦闘力のない【電子データ】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【寄生完了を加速させるプログラム】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD : 助けて、誰か
【寄生された子供の生存願望を叫ぶ悲痛な声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ : 《緊急防衛モード、作動シマス》
【寄生対象者の生命力】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【自身を緊急防衛モード】に変化させ、殺傷力を増す。
イラスト:tel
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●過去に囚われた者達は踊る
「おい、早く何とかしろ!」
猟兵諸君、君達は見事に儀式場特定に成功した!
数々の情報を揃えて、此の施設に隠された秘密を突き止めたのだ。
……待ち切れず、既に入口を破壊して侵入した猟兵もいるが。職員の振りをしていた邪神信奉者達が慌てふためいているのは、彼の存在によるものだろう。
まあ、尤も。今の君達が見るべきは信奉者達ではなく。目の前の男女達だ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
「もう、ぶたないで……!」
「いいこに、するから、ゆるしてゆるしてゆるしてぇ!」
――頭を覆うヘルメット、そして心臓を覆うハート型の機械。
其処からはコードが伸びていて、彼らの身体を絡め取っている。『Now Loading』と浮かべるガラス画面越しの瞳は虚ろだが、悲嘆の感情を露わにしていて。
嗚呼、今の彼らには猟兵諸君はどの様に見えるのだろうか。
自分達を救うヒーロー?いいや、そんな訳が無い。今の彼らにとって、君達は自分達に虐待を加える酷い親にしか見えていないのだ。
そう、確かに彼らは生きている。
既に侵入していた一人の猟兵は告げるのだ。頭と心臓部分を狙え、と。
……しかし、彼らは今見ている悪夢を都合良く忘れるだろうか?
其れでも命だけでも助けたいと願うならば猟兵諸君よ。
己が意思を通す為、彼らの未来を守る為に、思う存分に戦うと良い。
――さあ、邪神による邪神の為の喜劇を始めよう。
【お知らせ】
プレイング受付開始は『4月4日(木)8時30分』以降となります。
ロク・ザイオン
※ネグル(f00099)と
(知っている匂い。幽かなノイズ。
子供たちは友と同じ機械に、蝕まれているのか)
ネグル。
…キミの目は。とてもいいから。
お願い。
あの病葉を、治したい。
(どうか、助ける道を、見出してくれ)
(ネグルが答えを出す時間を稼ぐ。
【ダッシュ+先制攻撃+優しさ】
「羨囮」で顔を、子供の怯えないものに変える。
近付いて抱き締めるように拘束)
……こわがらないで。
(耳障りな声は隠せないけれど。
噛みつきで口を塞ぐ。悲鳴を上げないように。
命は疲れて動けない程度にしか吸わない)
(刀は抜かない。
それ以上の攻撃は出来ない。
攻撃を受けたら「生まれながらの光」で耐える)
(その悲鳴を。
美しいと感じる、自分が嫌だ)
ネグル・ギュネス
ロク(f01377)と参加
仔細承知
君の眼となり、全てを見通す
子供を悲しませる喜劇など、破壊させて頂く
全てを見透せ、ユーベルコード【勝利導く黄金の眼】
子供達の行動パターン解析、そのトラウマや逃避行動をロクに伝える
また邪神の眷属達が余計な茶々いれぬよう、雷の【属性攻撃】を持った弾丸でスタンさせておく
ロクが子供達を惹きつけている間に、【ハッキング】で機械掌握
命を脅かし、悪夢を見せるプログラムを駆除、幸せな夢に書き換える
───ああ、よく頑張った
もう痛くもないよ。腹も空かせやしない
無理にいい子である必要は、ないんだ
携帯食料のお菓子を口に放り込んでやろう
甘いものは、苦痛を癒す
笑顔で子供達を撫で、守り抜く
●異形は告げる
ノイズが走る様な音を聞き、猟兵達が其の方向を一斉に向いた。
彼らが装着し、蝕まれる機械達。其れに縁深き者が周囲の猟兵達に通達する。
――猟兵らへ勧告。頭部と心臓部のデバイス破壊を推奨する。
そうすればまだ救助は叶う。
●病葉を治す為の道標
己の友が伝える事実に安堵するも、ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)が子供達へ向ける視線は悲しげだった。
知っている匂い、微かなノイズ。自分達を傷付ける架空の対象へと怯える声。同じ機械に蝕まれているかもしれない、そう理解は出来るけれど。其れを治す手段が解らない。子供達を蝕む其れだけを焼くのも難しい。
「ネグル」
「なんだ」
ぽつり、と傍らに居るネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)の名前を呼ぶ。縋る様な思いを込めて、呟く。
事務的に問い返す表情は淡々としているが、彼も彼女の気持ちは多少理解していた。
「……キミの目は。とてもいいから。お願い」
どうか、子供達を助ける道を、見出してほしい。ロクは其の為の手段が彼にはある事を知っている、だからこその頼み。焼く以外の道を望む理由は一つ。
「あの病葉を、治したい。だから」
「――仔細承知。君の眼となり、全てを見通す」
能面のように変わらぬネグルの表情、其れがふと微笑みを浮かべた気がした。
……子供を悲しませる喜劇を破壊する為、助ける為の道を見透す。ネグルは己のユーベルコード、勝利導く黄金の眼を発動。超高速演算開始、子供達の行動パターンを解析。彼らの発言も情報として組み込み、より正確な近未来予測をする。
「運命は視えている。我が眼が映し出す未来は――」
子供達全ての未来予測は難しくとも、目の前に居る数人ならば容易い。
トラウマ、逃避行動。何に対して恐れを抱き、涙するのか……高速演算終了。
「――子供達の平穏、だ。ロク、彼らは育児放棄をされていた、空腹を訴えても誰も助けない……そんな環境に身を置いていたのだろう」
ネグルから聞いた情報にロクが頷くのと、彼が即座に雷を纏う弾丸を数発放つのはほぼ同時だった。
頭部に命中した弾丸は、子供達が見る偽りの悪夢にノイズを走らせる。戸惑いに動きが鈍るも、恐怖が消えた訳じゃない。近付く者に怯えて、来ないでと何度も叫ぶ。お腹が空いたなんて言っても、泣いても、誰も助けてくれないから。
……痛ましい悲鳴。此れ以上怖がらせない様に、おいでとロクは呟く。例えば、そう。ふんわりとした毛並の動物、其の頭部ならば安心出来るだろうか。羨囮により変化した顔のまま、彼女は子供達に近付いて……数人纏めて、抱き締めようと。
「……こわがらないで」
嗚呼、なんて耳障りな声なんだろう。顔は変えられても、声は変えられない。
ほっとした様に動きを止める子供もいたが、拒絶する様に生への渇望を叫び散らす子供もいる。悲鳴を聞く度に美しいと感じてしまう自分が嫌になる、けれど。
耳が痛くなる程の絶叫を止める為、ロクは噛みつきで口を塞ごうとした。生命力は必要最低限奪うだけに留める。動きを止めれば、後は……彼に任せよう。
「後は任せろ」
ネグルが子供達の背後に回り、ハッキングを開始。
機械を掌握すべく、プログラムの解析を行う。膨大な量のコードを読み取り、悪夢を見せる根幹たるプログラムを見つけ出す。邪神の眷属も情報セキュリティを即時強化、侵入者の干渉を拒絶するも……其れら全てを破壊し尽くし、彼は目的のプログラムへと到達する。過去に干渉し、心を蝕む悪辣極まりないプログラムを、彼は書き換える。
「ああ、よく頑張った」
プログラムが書き換えられた事で、邪神の眷属が望まない其れと変じたからか。
ノイズが、エラーが、光に蝕まれる。頭部の以上はコードを伝い、心臓部のデバイスも侵食したのだろう。穏やかで幸せな、空腹に悲しまない温かい夢。一度映像が流れると同時に、学生達数人が装着していた眷属が地面に落ちて……自壊した。
「もう痛くもないよ。腹も空かせやしない。無理にいい子である必要は、ないんだ」
「本当、に?」
「……甘いものは、苦痛を癒すそうだ」
まだ夢現と言った様子の学生達の口に、ネグルは携帯食料を放り込む。
離れていたロクも顔を元に戻して、ほんの僅かだが……微笑み、頷く。もう大丈夫だから。完全ではないかもしれないけれど、病葉は消えたから。言葉でちゃんと伝えたいと思ったが、耳障りな声を聞かせるのは悪いと思った故に止めて。
「そっか、御飯……食べられるん、だよね」
自分の言葉にホッとしたのだろう。ぽろぽろと一人が涙を零すと、他の学生達も涙を流す。そんな彼らを守り、宥める為に二人は撫でて落ち着かせようとしていた。
確かに、ネグルの視た未来は正しかったのだ。
……此の数人の学生達の心には、平穏が訪れたのだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
木槻・莉奈
シノ(f04537)と
…悪夢を忘れるなんて、都合いい事起こってはくれないわ
それでも…前に進むのか、進まないのか、選ぶのは自分だわ
その意思すら奪い取るものを…許すつもりはないの
POW選択
『高速詠唱』『全力魔法』で【トリニティ・エンハンス】
選ぶのは【水の魔力】による防御力強化
寄生された子達を傷付けぬように狙うのは機械部分のみ
心臓部を狙う際は正面ではなくサイドに回って
『先制攻撃』『2回攻撃』も駆使し、回避は主に『見切り』
子供達に傷をつけるくらいなら、攻撃も甘んじて受けるし過剰なダメージ受けそうな子がいたら『かばう』わ
ごめんねシノ、無茶してるのは分かってるんだけど…
放っておけない、放っておきたくないの
シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と
別に正義を振りかざすつもりはないんだが
ただ、目の前で悪夢に溺れてるヤツがいるから起こしてやる。理由はそれだけでいいだろ
SPD選択
【襲咲き】で槍系の黒剣を使用
頭と心臓部分を『気絶攻撃』『スナイパー』を使って狙い、破壊を狙う
他の部位に当たったり、ダメージ過多なら『フェイント』に切替えて回避
敵の攻撃は『見切り』『武器受け』で受け流す
リナが無茶するなら、『かばう』でダメージを肩代わりして一旦引き離そうか
ダメージは『激痛耐性』で我慢
あのな…放っておけとか言ってないだろ。無茶するなって言っただけだ
リナが倒れたら誰がアイツらを助ける?
俺一人じゃ遊んでやるのが精いっぱいだ。手伝ってくれよ
●選択の自由
「――ぶぇっくしょい!!!」
「えっ……シノ、どうしたの。おじさんみたいなくしゃみ……」
「なんか、シエンに酒集られる噂された様な……」
シリアスな空気を吹き飛ばす様な、そんな勢いでシノ・グラジオラス(火燼・f04537)は盛大にくしゃみをしていて。突然の出来事に、真剣に考え込んでいた木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)も思わず目を丸くした。
……恐らく、予感ではなく。確実に起こり得る出来事ではあるだろうが、彼が其れを理解するのはきっともう少し後の話。
「兎に角……シノ、お願い。手伝って」
「……今、俺、夢見てる?」
「茶化さないでね?」
「悪い、悪い。でも、まあ……別に正義を振りかざすつもりはないんだが」
シノは数人の学生達と向き直りながら襲咲きを発動、燎牙を別の姿へと変える。
悪食の大剣は柄の部分から彼の血を啜り、喰らい、やがて斧槍へと。元が大剣だった故か、刃の部分がやや大きめで。それでも彼は軽々と振るう。
「目の前で悪夢に溺れてるヤツがいるから起こしてやる、理由はそれだけでいいだろ」
「……前に進むのか、進まないのか、選ぶのは自分だわ」
悪夢を都合良く忘れるなんて出来ない。
悲しい哉、現実はそんなに優しくないのだ。木槻自身もそうだから、残酷である事を理解している。それでも、生きているならば……選ぶ自由、権利を手に出来る。其れは誰かに指図される事も無い、尊ぶべき己の決断。
「その意思すら奪い取るものを……許すつもりはないの」
薄花桜を強く握り締めて、木槻はいの一番に学生達へと駆け出した。
走りながら紡ぐのは全力のトリニティ・エンハンス、選ぶは水。防御力を特に強化するのは、必要以上の危険すらも覚悟しているからか。
『Now Loading...』『4、333、2222、4444』『Now Loading...』
一瞬だけ映された数字の羅列の意味を理解する前に、電子データの様な物が浮かぶ。攻撃手段は持ち合わせていない様だが……彼女は迷う前に、まずは頭部の機械に損傷を与えようと薄花桜を振るう。返し刃でもう一閃。
「いやァァァ!!!」
「えっ……!?」
先程召喚された電子データが発光すると同じく、損傷部分が埋められていく。コードもより複雑に学生達を絡め取ろうと動いていて……其処で木槻はある可能性に至る。電子データのせいで、寄生が加速されているのではないか。
「なら、先に……!」
――電子データを破壊してから、邪神の眷属を倒せばいい。
しかし、敵も其れを良しとする筈も無く。木槻が迫り、得物を振り下ろそうとして……ピタリ、と止まる。恐れ、泣き叫ぶ学生の一人が正面に立ち、盾にされてしまったから。
何処まで好き勝手利用すれば、気が済むの……!
憤り、焦り、其れは隙を生んでしまう。別の学生が手近にあった鋏を手に、刃の部分で抵抗しようと振り下ろす。
……直後、彼女と学生の間に割り込んだ影が一つ。肩に突き刺さり、ぐっと呻き声が上がる。
「――シノ!?」
「無茶するなって、本当に」
激痛には耐性がある、此の程度ならまだ動ける。
普段通りの笑みを浮かべて、木槻を落ち着かせようと頭の上にポンと手を置いて。わしゃわしゃ、と撫でる。唐突な事にまた驚きながら、彼女は思い詰めた様にぽつりと。
「ごめんねシノ、無茶してるのは分かってるんだけど……放っておけない、放っておきたくないの」
「あのな…放っておけとか言ってないだろ。リナが倒れたら誰がアイツらを助ける?」
気持ちは痛い程伝わるけれど、其れでも……彼女に降りかかる危険は、少しでも肩代わりしたいと思うから。妹には自分の優先順位が低い、なんて不機嫌な様子で怒られそうだけれど。それでも元々、自分はこういう性分だ。
「俺一人じゃ遊んでやるのが精いっぱいだ。手伝ってくれよ。学生は頼むわ」
「……ありがとう、シノ」
何だかんだ言ってはいるけれど、頼もしい事には変わりない。
シノの言葉にほっと息を吐いてから、再び学生達に向かって駆け出す。電子データを破壊されまいと同様の手段を取り、慟哭。
「そうは問屋が、なんとやらってな!」
人狼の脚力を舐めるな、とダッシュで背後に回っていたシノがニヤリと笑う。
挟撃の形を取り、彼は正確に電子データを貫いて破壊。さあ、もう寄生を加速させる障害は無くなった。後は――。
「リナ!」
「シノ、頭部をお願い!」
薄花桜、槍と化した燎牙が同時に閃く。
舞う様に学生達のサイドに回り、木槻は心臓部を切り裂く。シノは背面から頭部を正確に薙ぎ、機械越しに柄で頭部を突いた。勿論、突きはかなり手加減をした上で。
……ガシャン、と落ちて。邪神の眷属は火花を散らせて、動きを止める。学生達は彼の一撃で気絶をしたのか、倒れたまま呻く様な声を上げていて。
「終わった、か」
木槻が頷き、其の場にしゃがんで学生達を見つめる。
どうか、自分の納得のいく選択が出来ます様に。他人である自分には祈るしか出来ない、でも……何もしないよりはいいでしょう?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
紅月・美亜
「救ってやるなどと言うつもりはない。お前が自分で助かるんだ、お前の意思で」
まあ、多少の手伝いはするがな。
電子制御兵器相手ならハッカーとしての腕の見せ所だろう。だが、無線では厳しい。誰かに囮になってもらって光学式チェーンのアンカーを食い込ませる。有線接続してしまえばこっちの物だ。
「Operation;CRISIS、発動!」
CRISISの効果はベクトル転換。0を1に、+を-に変えるコードだ。本来代償となる【寄生対象者の生命力】を逆転させ、【寄生者の生命力】を消費させて自壊させてやる。
推葉・リア
…きっと彼らには私達が恐怖の対象に見えているのね…
本当に悪趣味!最低よ!早く助けるわ!
効くかしら?【先制攻撃】で【催眠術】と【言いくるめ】と【誘惑】で相手に私達は害を与える存在じゃないって教える!
完全には行かなくても、少しでもその苦痛を和らげたいわね…
そして動きも止めたいわ
そうしたらあの悪趣味ヘルメット戸惑うだろうしそこを狙うわよ!さっさとその子達から離れなさいよ!ってバイフォックスファイアでヘルメットと胸の変な機械だけを狙うわ!
それと【第六感】で確実にトドメがさせそうなヘルメットを優先にね
無事にあの悪趣味ヘルメットから開放出来たら、安全な場所まで避難させるわ
もう大丈夫って
【アドリブ共闘歓迎】
●思いは真逆、されど同じ方向へ
……無事に救出された者もいるが、寄生されたままの学生達も少なくはない。
施設の中にはまだ恐怖に震え、涙する声が満ちている。勿論、其れこそが邪神の目的であり、望む舞台なのだろうが。万人に受け入れられる芸術など有りはしない、憤りを覚える者もいる。
此の妖狐――推葉・リア(推しに囲まれた色鮮やかな日々・f09767)の様に。
「本当に悪趣味!最低よ!早く助けるわ……!」
自分達が恐怖の対象に見えている、邪神の眷属のせいで。
なんて悪趣味な事を考えるのだろうか、そして……つい、空想をしてしまう。両親に殴られて、蹴られて、それでも手を伸ばすのに。優しい声が返って来る事はないと知った時の、子供の身には有り余る程の絶望。痛ましくて、悲しくて、泣きそうになる。
――それでも助ける為に、彼女の想いは炎となるのだ。
「……救ってやるなどと言うつもりはない」
非情にも見える言葉を投げ掛けるのは、合理主義者の一面を見せる紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)だった。尤も、其れが大いなる始祖の末裔としての振る舞いなのか、本心か。其れは彼女のみぞ知る。
しかし、其の発言も続く言葉で意味が大分異なるだろう。
「お前が自分で助かるんだ、お前の意思で」
――其の為に、多少の手伝いはしてやろう。
アンカー付き光学式チェーンを準備して、紅月ははっきりと告げる。
電脳魔術士たる彼女ならば、機械である『ジャガーノート』への干渉も可能だろう。だが、其の為に……無線接続では厳しい。電子的な接続はセキュリティを敷き、防がれる可能性もある。ならば、直接繋いでしまえばいい。
「推葉、頼む。一瞬で良い、隙を作ってくれ」
「えっ、リアルハッキングが見られるの?ゲームみたいに!?……じゃなくて、任せてね!」
ゲームでハッキング技術を駆使して、難題を解決するシーンがあったけれども。
そんな場面を生で見られるかもしれない、そんな興奮は一度抑えて。
……殴らないで、蹴らないで。そんな風に泣き叫び、あっちに行けと手で払う動作をする学生達数人に推葉は語り掛ける。
「私達は、あなた達に害を与える存在じゃないわ。殴らないし、蹴らない」
推葉の言葉を聞いて、僅かに動きが止まる。本当に?本当に、もう、しないの?
……縋る様な声がまた痛々しい。でも、まだ足りないと彼女は理解している。だからこそ、言葉を続ける。
「信じて、なんて言えない。でも、私達は絶対にあなた達を傷付けない。約束するわ」
催眠術、言いくるめ、誘惑。
確かに彼女の用いた技能の内、どれか一つは効果を発揮していたのかもしれない。だが、其れよりも伝わったのは推葉の気持ち、だろう。
彼らの境遇に胸を痛めて、絶対に助けるという思いを込めた言葉。其れにある学生が改めて涙を零す。……心から安堵した、からか。
隙を窺っていた紅月も其の様子に、ふと笑みを浮かべる。恐らく、自分には難しい方法だろうなとも思うけれど。こういう方法も悪くないとは思うのだ。
「うん……怖かったよね。今、助けるから」
――視線が合うと同時に、紅月が動く。
学生達に無用な恐怖を与えない様に背面から、紅月が光学式チェーンによる接続を試みる。邪神の眷属が反応するも、外部デバイスである学生達がエラーを起こした事で動けず。
物理的に接続をしてしまえば、後は彼女の領分だ。
「Operation;CRISIS、発動!」
気付かれずに速やかに、ほんの僅かに手を加えるだけが良い。
紅月の思う、ハッキングとはそういう物だ。『ジャガーノート』の緊急防衛モードが作動される瞬間、膨大なコードの中に異なるコードを少しだけ組み込む。
――ベクトル転換。0を1に、+を-に。
寄生者の生命力を代償として発動する緊急防衛モード、其の方向を変換させる。
……例えば。緊急防衛モード発動に必要な生命力が足りないとしたら、どうなるだろうか。勿論、そんなケースに備えて、エラー回避の為のコードも用意されていた筈だが。其れは彼女のハッキング技術で密かに消去が完了している。
結果――生命力を消費する瞬間、強制的な発動により自壊させるのだ。
「……完了、後は頼むぞ」
「ええ……さっさと、その子達から離れなさいよ!」
腕を炎でできた狐の頭部に変形させた推葉が、数人のヘルメットを壊そうと動く。
自壊が進み、防衛手段も無くなった邪神の眷属は炎の狐に喰らわれ、更に罅が入り始めていて。生命力を奪わない様に即座に離れれば、数人の学生に寄生していた其れらがボロボロになって崩れる。
……余程、怒り心頭だったのか。彼女はバイフォックスファイアでトドメ、と床に落ちた其れらにもう一度噛み付く。
戦闘が終わり、学生達の命に別条が無い事を確認してから、二人は安全な場所まで気を失った学生達を非難させるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
空亡・柚希
(共闘、アドリブ歓迎です)
壊れかけている、けれど。
まだ壊れ切ってはいない。ここで潰えてはいけない子達。
……だから、直す。助けるよ。
(哭く声に眉間の皺をくしゃりと歪ませ、
でも感情とは裏腹に武器を取る手に淀みは無く)
注意する能力値の方向はSPD/
狙うのは頭、と心臓。
手のひらの人形を銃器に組み替え、狙って構えよう(《Tinsoldat XXV》)
覆う機械を出来るだけ早く停止させたいし、子どもに傷をつけたくはない
<視力3><スナイパー2><誘導弾2>で攻撃の精度を上げる
退こうとしたら、誘導弾もあるけれど<追跡3>で狙いは違えないように
仁上・獅郎
……ふざけるな。
彼らが何をした?
頼るべき親に見捨てられた彼らが。
それでも生きたいと叫ぶ彼らが。
何が目的かは知りません。
ですが、これは、悪辣に過ぎる……!
術式起動。
己が身に降ろすは、時空そのものと語られる強大な邪神。
当然、そんな代物を宿す代償は大きい。
自己存在を侵される感触、内から蝕む激痛。
自意識が薄れ――しかし繋ぎ止め、制御下へ。
目の前の心の痛みに比べれば、この程度。
頭と心臓の機械に触れ、塵へと帰し、命を繋ぎ留めよう。
解放した少年少女を一人一人抱き留め、声を掛けます。
拒絶されてもいい、僅かでも救われるなら。
よく頑張りましたね。
あなたの「助けて」、きちんと聞こえましたよ。
だから、もう大丈夫です。
朝海・柚貴
アドリブ歓迎
私は支援を主に
クランケを広範囲に展開
オーラ防御、盾受け、武器受けを使って守りの態勢でプランを練ります
無理に追い詰めると強化されるようですから、味方を守りながら情報取集を
面白い事をなさいますね
救うべきなのは心でしょうか、命でしょうか
どちらを失っても生きるという事にはならないのに
すべてを救えるなんて夢は見ませんが
彼らを過去の事にしてしまう理由もありませんから
――本当に滑稽。ですが駄目で元々
彼らの装着された機械を
情報収集、メカニック、第六感で何かしら取り除く術がないか探りましょう
最終的には問題の部分を
クランケで一気に鎧無視攻撃、鎧砕き、範囲攻撃で攻撃します
●壊れかけている事は、壊れた事と同義ではない
……だからこそ、まだ救う為の道が残されているのだ。
三者三様の反応を見せる猟兵達、彼らは何を思うのだろうか。嗚呼、実に興味深い。
まずは一番淡々としている者から見てみよう。人形の様に冷たく整った見目、紡ぐ言葉は信頼した者達以外に向ける其れ。朝海・柚貴(猫の街・f10070)という人間。
「すべてを救えるなんて夢は見ませんが、彼らを過去の事にしてしまう理由もありませんから」
――救うべきは心か、命か。
両方が揃ってこそ、生きるという事が出来るのではないだろうかと朝海は思う。
命あっての物種とは言うだろうが、心が壊れた者に生きる事を強いる事は……地獄で暮らせと言うもの、ではないのか。それでも救いたい、助けたい、なんて。人間はかくも面白いものだ。
勿論、自分もそんな人間である事に変わらない。其れもまた事実。
駄目で元々、彼らの未来を邪神の眷属に奪わせる理由もまた、無い。心がまだ壊れていない、水際でまだ留まっているのならば。此の世界は彼らにとって、まだ地獄では無いだろうから。
彼は骨骸の様なUDCを加工したクランケを即座に展開、味方を含めて守りの態勢を取るのだ。
「(4、333、2222、4444。……まだ望めるのならば、尚更)」
次に見るはサイボーグの玩具店店主、玩具修理者。
まだ、壊れていないと確信を持つのは、空亡・柚希(玩具修理者・f02700)だった。
「壊れかけている、けれど」
どれ程の時間、悪夢に苛まれてきたのだろう。
自分を壊そうとする力に耐えて、耐えて、涙を流してきたのだろう。
学生達は玩具では無いのに、何故だろうね。空亡の耳に届くのは、彼らの何かが軋む音。悲鳴とは違う、内側から聞こえる何かの音にも眉間の皺を歪ませる。
「ここで潰えてはいけない子達……だから、直す。助けるよ。」
学生達の心が壊れる前に、粉々になってしまう前に。
掌に乗せるのはTinsoldatという名の兵隊人形。借りるよ、と呟けば、其れは姿を変えていく。組み替え、銃器と成った物を構える。表情は歪んでいても、武器を取る手に淀みが見られないのは……助ける、其の一心故か。心を落ち着かせる為、空亡は呼吸を整えていた。
「……ふざけるな」
恐らく、此の三人の中で一番憤りを見せているのは彼なのかもしれない。
言葉に表す程の怒り、何の目的でこんな惨い所業をするのだろうか。嗚呼、そんな人間臭さは恐らく今回の邪神の好む所だろう。
仁上・獅郎(片青眼の小夜啼鳥・f03866)は唇を噛み締めて、学生達と向かい合う。
彼らが何をした?頼るべき親にも見捨てられて、それでも生きたいと渇望を叫び続ける彼らが。施設という安心出来る場所で、やっと未来に向かって歩き出せた彼らを。どうして、こんな――。
「これは、あまりにも、悪辣に過ぎる……!」
どんな手段を使ってでも、どんな代償を支払ってでも。
学生達の悲痛な叫び、其の元凶を断たねばならない。例え、彼らを苦しめる機械と同類の力を借りてでも。助ける為に、仁上は此処へ来たのだから。
●4、333、2222、4444の意味
「術式を起動します。すみませんが……時間を稼いでくれませんか」
「元より、支援(バックアップ)の為に動きますから。問題なく」
「僕は、その間に出来るだけ眷属に傷を付けておくね」
銃器を構えた空亡が狙いを定めた上で、静かに引鉄を引いた。
子供を傷付けたくない、そんな気持ちからだろう。普段よりも研ぎ澄まされた集中力、正確な射撃。学生達の身体を利用して叫びながら、邪神の眷属は俊敏に回避。
虚しく放たれた筈の弾丸は遠くに飛び進んだ所で……角度をつけて、進行方向を変える。軌跡を描き、彼の救出への意思を乗せて。弾丸は加速、加速、追跡して頭部に命中。罅が入るのを確認して、其の部分へ向けてもう一発。
「お見事、興味深い射撃ですね……ですから」
妨害行動は慎んで頂きましょう、淡々とした声で呟く。
緊急防衛モードで強化した肉体で自分達へと向かい、駆ける学生達の足をクランケが威嚇する事で止める。
此のまま問題部分を切除、破壊出来れば手早く済むだろうが……ユーベルコードによる攻撃でなければ、致命傷を与える事は出来ない。ならば予定通り、味方の支援に専念するだけだ。守りに徹しながらも、学生達を蝕む機械を朝海は眼鏡越しに見据える。
……此の二人の奮闘によって、大分時間を稼ぐ事は出来た。既に二人、救助が成功している。救助した人物は朝海のクランケによって、一時的に二人の背後に避難させていた。
――さて、もうそろそろ頃合いだろう。術式起動には充分過ぎる時間だ。
「御身に我が身を差し出し、御身を借り受けん」
毒を以って、毒を制すとは……正に、仁上の行動だろうか。
そんな化物の様な代物、自分の身に降ろす。助ける為の行動とは言えど、あまりにも危険過ぎる事を理解して用いる彼の精神性は、ある意味常軌を逸しているかもしれない。機械が何かを察して、僅かに震えた様に見えた。
「(うっ、ぐっ……!?)」
自己が消える、自我が蝕まれる、仁上・獅郎という存在が曖昧になる。
激痛が全身を駆け巡る、邪神が自分を消そうとあらゆる手段で己を苛む。いっその事、身体を明け渡した方が楽ではないか……甘い毒の様な誘惑、血を吐き出しそうになる程の苦痛に耐えて、ふらふらとした足取りで学生達に近付く。
己よりも上位の存在への畏怖がプログラムを停止、動きを止めたのかもしれない。彼が頭部、そして心臓部分へ触れる事は容易くて。触れた部分から、徐々に塵となって消え始める。最極空虚の邪神の力、其の一端。
……少しした所で『ジャガーノート』が全て塵となった事を確認、仁上は仁上のままで、ユーベルコードを解除。邪神の内から追い出して、そして、解放された少年少女達を抱き留める。一人ずつ、慈しむ様に。
「どう、して……?」
「……あなたの『助けて』という声、きちんと聞こえましたよ」
明確な意思を示してしまえば、きっと邪神の眷属が摘み取ろうとするだろう。
誰が始めたのかはわからないけれど、学生達の間で気持ちが通じていたのか……誰かに、自分達を助けて欲しかった。悪夢から救って欲しかった。
そんな一縷の希望(バグ)に『ジャガーノート』は気付かなかった。ただの意味のない数字の羅列だと切り捨てた。しかし、仁上の様な猟兵は気付いていた。
4、333、2222、4444……携帯電話のテンキーにて文字を入力をすると『タ、ス、ケ、テ』となるから。そして、やっと気持ちが届いたのだ。
「うん……壊れなくて良かったよ、本当に」
「彼らのこの先、少しでも光があればいい……とは思いますよ、私も」
「玩具って喜んでくれるかな、後で話してみたいね」
「……其の前にもう一仕事ありますが。向こうの少女は、彼が対処してくれるでしょう」
今回の悲劇を整えた、元凶である邪神。
空亡と朝海が少しの間だけ他愛のない会話を楽しんで、ふと現実に戻る。そう、まだ元凶の切除が終えていない。邪神との戦いはきっと、もう直ぐの筈だ。其の前に救出した学生達を安全な場所へ移動させようと二人は決めて、行動する。
……そう、あと一人。
恐らく其の少女は最近失踪した人物、対峙するは異形の怪物。
Juggernaut同士の戦い、此の悲劇もクライマックスに近付いた。結末は――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
――猟兵らへ勧告。頭部と心臓部のデバイス破壊を推奨する。
そうすればまだ救助は叶う。
――本機達が加虐者に見えているのか。
(装置が見せる幻、或いは本件の首魁の仕業か。どうあれ)
気に食わない。
(ザザッ)
SPDを選択。
――助かりたいか。
そうだな。
そうだった。
(聞き覚えのある叫び。『僕』とてそうだった。)
(故に、何より共感はできる。)
――救いが欲しくば、強くあれ。
(その寄生せんとする機械ども)
(この件の首魁たるUDC)
(そして、君達を虐げた存在にも。負けぬよう)
――この場で唯一
君達が受けている痛みを解る者から言えるのは、それだけだ。
(後は熱線で"スナイパー"で慎重に撃ち、装置を破壊するのみ。)
●怪物が目指す英雄
――其の少女は諦めていた。
家族に虐待されて、新しい家には居場所が無くなって、一番大事な友達も失って。
もう、何もかもがどうでも良くなった。生きる事がこんなにも辛いならばいっその事、諦めてしまえば楽になれると……だからこそ、叫ぶ声は何故か弱弱しくて。
諦観が心を蝕む、空虚な心を侵食するのは早く。嗚呼、もう、時間が無い。
「――本機達が加虐者に見えているのか」
ノイズ混じりに呟く黒豹の怪物、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)が冷静に呟く。恐らくは装置が見せる悪夢、夢幻。此れは本件の首魁も関わっているのだろうか。其れは今、断定出来ない。だが、此れだけは言える。
「気に食わない」
UDC-■■■αに対して?それとも、今回の元凶に対して?或いは……。
ゆっくりと少女に近付き、黒豹の怪物は向かい合う。叫びは悲痛そのものだったが……彼は恐れず。そして、揺るがず。
「――助かりたいか」
「来ない、で……お願い……」
恐怖に駆られた言葉を紡ぐ度、少女は涙を零している。
其れだけで怪物は理解する、彼女の本心に。彼女の願いに。
嗚呼、そうだな。そうだった。聞き覚えのある叫びに、怪物は共感を強く抱くのだ。何故か。『本機』……否、『僕』とてそうだったから。だからこそ、怪物ははっきりと告げるのだ。
「――救いが欲しくば、強くあれ」
寄生せんとする機械共、首魁たるUDC。
何より……戻った先で少女を、他の学生達を虐げた存在にも。負けない強さを持って欲しいと怪物は願う。安全な場所に避難しようとする学生達、其の内の何人かが怪物の言葉を聞いて、また涙を流すのだ。
彼の言う強くあれ、とは。どんな強さか解らない、まだ解らないけれど。
「――この場で唯一。君達が受けている痛みを解る者から言えるのは、それだけだ」
痛みを知る者の言葉は深く、そして何よりも重い。
同じ苦しみを受けて尚、自分達を救おうと動いてくれる姿。ノイズ混じりで上手く聞き取れなくても、言葉に込められた思いは伝わるから。
そして其れは、目の前の少女も同じで。
もう嫌われたくなくて、だから良い子を演じていた。大切な友達に嫌われても仕方がないと思い込んで、逃げていた。どうして、なんて聞けなかったの。
あの時、ちゃんと強く在れたなら……少しでも、変わっていたのかな。今からでも、遅くないのかな。……それなら、もう少しだけ。
「……た、すけ、て」
「――I Copy.」
――救いたいと思ったものを救う為の力は今、此の手にある。
怪物は刹那にも近い速さでJaguarを発射、正確に心臓の機械を発射。抵抗を示す間もなく、機械は外れて……床に落ちる。
頭部が外れて、泣き腫らした少女の口元には笑みが浮かんでいて。
「あ、りが……と……ひょう、の……」
倒れた少女を慌てて、他の猟兵が運ぼうと動く。
少女は怪物を怪物と見做さず、豹と呼んだ。見目恐ろしい姿をしていても、少女は確かに豹と感じた。嗚呼、もう少し正確に表現をするならば。
ジャガーノート・ジャックにとって、目指すべき英雄。
……もしかしたら、少女の目には其の様に映っていたのかもしれない。
――Over.
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『貴方の魔性を映す鏡の女神・スペクルム』』
|
POW : 『アナタは、私(アナタ)の過去に囚われ続ける』
【対象自身の過去のトラウマを抱えた姿】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 『欲望に素直になりなさい、"私(アナタ)"』
質問と共に【対象の理性を蕩けさせる甘い香りと囁き】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
WIZ : 『アナタが"私"を認めるまで、躾てあげる』
【従属の首輪】【躾の快楽触手】【欲に堕落する媚薬の香】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠風雅・ユウリ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●悲劇の創造主
嗚呼、嗚呼、何という事でしょう!
悲しく、虚しく、救いのない悲劇は見事に打ち砕かれてしまった!
猟兵と被害者が演じる舞台、其れは陳腐な感動劇と成り果ててしまった。
――だが、諸君。此れで終わる訳が無いのだ。
『ああ、足りない。嘆きが足りないわ、足りないの』
避難を終えた猟兵達の前には、いつの間に現れていたのだろうか。
大きな鏡に影が映る、其れこそが鏡の女神たる邪神。魔性を映す恐怖の鏡。
ジャガーノートを利用して、学生達に終わらない筈の悪夢を見せていた……今回の悲劇を作り出した元凶。
『……足りないのよ。悲しみが、苦しみが、怨みが、呪いが、全部足りない』
心を廃れさせて、心を喰らう女神はくすくすと笑う。
欲望は快楽のみではない。例えば……過去に戻れたなら、失った者に会えたなら、そんな願望だって、裏を返せば欲望と同義ではないか。
鏡に映る影は微笑む、ぐにゃりと揺れて……其処に映るのは誰だろう?何だろう?
『アナタが、私(アナタ)を認めるまで、素直になるまで……楽しみましょう?』
ねぇ、私(アナタ)?と、非道な笑みを浮かべて邪神は告げる。
――鏡に映る姿、何か、貴方は何を想いますか?
猟兵諸君、よくぞ此処まで辿り着いた!
しかし、邪神の望む悲劇には些か刺激が足りない!足りないならば追加しよう。
邪神は虎視眈々と君達の心を狙い、抉り、黒に染まった其れを喰らうだろう。
君達は他人に救いの手を伸ばせても、自分自身にはどうなんだろうね?
どう立ち向かう?どう跳ねのける?どう抗う?――全ては君達次第。
……漸く悲劇も大詰めだ、ラストダンスと洒落込もうか!
【お知らせ】
プレイング受付開始は『4月11日(木)8時30分』以降となります。
推葉・リア
…やる事が悪趣味なら邪神も悪趣味ね!
さっさと叩き割って………っ!
やっぱり出てくるわよね(黒髪の妖刀を持った宿敵)…だから私はアンタの『宝石』じゃない!収蔵物じゃない!!……っ!愛は感じてただろうって…?そんなの『私』じゃなくて『宝石』としてでしょう!?
…!あぁもう!『アイツ』の幻覚が投げてくる首輪とか触手とか鬱陶しい!全部『バイフォックスファイア』で砕くか炎の『オーラ防御』で防いでいって
そして『フォックスファイア』を合体させてありったけを相手にぶつけるわ!
あの時と同じように燃やして砕いてあげる!
……はぁ…やっぱり『アイツ』本人には…まだ会いたくないわね…(小声)
【アドリブ共闘歓迎】
●嗚呼、愛しき物よ
「……やっぱり、出てくるわよね」
推葉・リア(推しに囲まれた色鮮やかな日々・f09767)が静かに息を吐く。
やっぱり、やる事が悪趣味なら邪神も悪趣味だ。少しでも早く割ろうとしたけれど、目の前の人物が其の邪魔をする。
長い黒髪を一纏めに結った、美しくも禍々しい刀を手にした者。金色の模様がまた美しい、暗き赤のマントを羽織る其の人物は静かに笑みを浮かべるのだ。漸く会えた、愛しい『宝石』よ。確かに己を見て告げる言葉に、憤りから彼女は歯軋りをして。
「――だから、私はアンタの『宝石』じゃない!収蔵物じゃない!!」
『それでも、愛は感じてただろう?』
「ふざけないで!そんなの……『私』じゃなくて、『宝石』としてでしょう!?」
そんな些細な事に、何を怒るのか。目の前の宿敵は不可解といった様子で。
……其れが推葉の怒りを買う事になると気付かないのは幻影だからか。或いは彼女の記憶に居座る、此の人物の性格がそうさせるのか。本当に腹立たしい。相変わらずムカつく。
『ならば――認めるまで、躾ける他ないか』
「おいで!狐火達、燃えちゃって!焼き尽くして……!」
――アンタの思い通りになんて、なってたまるもんか……!
歪んだ笑みを浮かべながら、推葉の宿敵は妖刀を手にしている方とは反対の手で従属の首輪や触手を放つ。苛立ちが募ると同時に、何よりも気持ち悪い。人を、人と見ない其の視線が嫌だ。
鬱陶しいと言いたげに彼女は徐々に数を増やす狐火を出現させて、急速に集束。二十八の炎が一つの大きな炎を成して強化された上で……放たれた首輪などを無視して、宿敵目掛けて一直線に。燃えろ、燃えろ、あの時と同じ様に砕いてあげる!
フォックスファイアとは別の炎で、飛来する物は辛うじて防ぐ事が出来たが……敵は?
『此処で焼き尽くしても、あの時と同じだ』
……記憶は消えない、簡単に消せやしない。いつかまた会う時が楽しみだ。
推葉は息を飲みながら宿敵……其の幻影が焼き尽くされる様を見て、消えていくのも理解した。それなのに胸が騒めいて、不安が拭い切れない。もう、アイツはいないのに。
「……はぁ。やっぱり『アイツ』本人には……まだ、会いたくないわね」
推葉が小さく呟いた声は、何処かか細く聞こえた、そんな気がした。
そして……推葉の見た幻影が消えると同時に、邪神の本体である鏡に僅かな罅が入り始めた。
大成功
🔵🔵🔵
シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と
POW選択
人間の頃の赤髪と全身血塗れの自分
※人狼病と黒剣を遺し、代わりに死を持って逝ってくれた女性の返り血
冗談キツいな…セスを…セシリアを殺した時の姿かよ
虚勢を張るのが精一杯で、指一本も動かせない
目の前の自分を殺したいくらい憎いのに、セスの生きてと言う願いが邪魔をする
(リナに起こされて、目の前の自分を殺しても赦されるワケじゃないと冷静になって)
すまん、助かった。リナは大丈夫か?
嬉しい事言ってくれるね。こりゃ挽回しないとだな
その姿で出てきたって事は覚悟は出来てんだろうな
『先制攻撃』『2回攻撃』『捨て身の一撃』で【紅喰い】を攻撃力重視を真っ向から当てる
ダメージは『激痛耐性』で
木槻・莉奈
シノ(f04537)と
POW選択
(見える姿はガリガリに痩せてお姫様の格好をした幼い頃の自分)
過去に囚われ続ける?
馬鹿言わないで
選ぶのは私よ、あなたじゃないわ
攻撃に躊躇いは一切見せず、『覚悟』を持って
『高速詠唱』『全力魔法』『先制攻撃』『2回攻撃』で【トリニティ・エンハンス】
選ぶのは【炎の魔力】、攻撃力重視
シノが動けずいるならビンタで叩き起こすわ
今どこにいて、今日何をしてきたか思い出せる?
ねぇシノ…目の前で悪夢に溺れてるなら起こしましょうか?
私?大丈夫よ、私にあれは効かないわ
選ぶ事を教えてくれた人が傍にいるのに、効くわけないじゃない
(にしても…「セシリア」ね。名前だけでも、知れたのは収穫、かな)
●生きるという選択
――目の前の自分を殺したいくらい憎いのに、彼女の願いが邪魔をする。
『……俺、か』
「冗談キツいな。セスを……セシリアを、殺した時の姿かよ」
人狼病と黒剣を遺して、自分の代わりに死を抱いて逝った……当時の己の姿。
今とは違う真っ赤な髪。ふわっとした尻尾は無く、耳も人間の物で。人狼病に感染する前、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)という男は人間だったのだ。久方ぶりに見る己の姿は全身が血生臭い。鋭い嗅覚故に、頭痛がしそうな程に。
「幻でも、臭いは感じるものなんだな……リアルなもんだ」
『良く吠えるな。……セスを殺した時の事を思い出したか、俺』
――来るな、来るな。
血生臭さをそのままに、幻影の自分が少しずつ近付いてくる。
本当は普段通りを演じる様に、虚勢を張るのが精一杯。シノは指一本も動かせない、動かない様に意識する事に集中しているのに。
後退する足は、前進しようと。震える手は、眼前の男の首を絞めようと。
過去に戻れるならば、あの時の自分を殺めてしまいたい。其れ程に己が憎い。だって、あの時に俺が居なければ――。
『俺がいなければ、セスは死なずに済んだのに』
「黙れよ……黙ってろ、クソ野郎ッ!!!」
――さあ、一方。
お姫様の様に育てられてきた、木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)はどうだろうか。
「そう……貴女が出てくるのね、私」
今よりも遥かに華奢……そう表現するのも可愛いと思える程、不健康に痩せ細った小さなお姫様。華やかなドレスを身に纏うのに、表情は明らかに影を落としている。
……笑って頂戴?誰かにそう言われたのだろうか、浮かべる笑みは痛々しい。
確かに御伽噺で見る様なお姫様は皆細く、キラキラと輝くドレスを身に纏い、浮かべる笑みは周囲にも笑顔を与える。そんな夢の様な存在。しかし……夢は夢だからこそ憧れるもの。現実にしようなんて嗚呼、なんと、人間という者は烏滸がましい存在なんだろうね!
そんな母親の身勝手に振り回された犠牲者の彼女は――。
「――馬鹿言わないで」
はっきりと、幻影に対して言い放つのだ。
美しくも痛ましいお姫様は動揺を見せている。そんな言葉遣いをしたらダメ、いけないわ。お姫様はそんな事を言わないもの。
それでも、木槻は怯まない。姫を望むのならば凛として、武士の様に振る舞おう。守られるだけなんて嫌、誰かを守る為の力が欲しい。そう、選ぶ事を教えてくれた人がいるから。……そして、彼が苦しんでいるならば助けないという選択肢はない。
「過去に囚われ続けるつもりなんてない。選ぶのは私よ、あなたじゃないわ」
幻影に背を向けて、振り返らない。
待って、行かないで!そんな足を止めようとする言葉も聞く気はない。
――ただ、木槻が過去に伝えたい事があるとするならば。
「……人は、生き方を自分で選ぶ事が出来るの。それだけは覚えておくといいわ」
言葉を掛けても、過去が変わる訳じゃないと理解しているけれど。
そう教えてくれる人がいると、伝えたかったのかもしれない。自己満足だ。
そんな木槻の言葉が届いたのか……幻影は消える直前、安堵した様に笑っていた。振り返らない彼女が知る由も無いけれど。
『もう……終わらせてくれよ。それが望みだろう、俺?』
「うるせぇんだよ、もう。ああ、そうだな。そんなに死にたきゃ、殺――ッ!?」
――シノが燎牙に手を掛けようとした瞬間、渇いた音が室内に響き渡る。
悪夢に溺れている王子様を目覚めさせるのは、お姫様の口付け……なんて事だったら雰囲気もあっただろうが。此処に居るのは武家の姫の様な木槻で、目覚めさせるのは平手打ち。
……しかし、其れこそが彼女らしいのもまた事実。真っ赤になった頬に触れながら、シノは目を何度か瞬かせる。
「ねぇ、シノ……目の前で悪夢に溺れてるなら、起こしましょうか?もう一発、平手打ちするくらいならお安い御用よ」
「リナ……お前、は?」
「選ぶ事を教えてくれたのはあなたでしょう?私にあれは効かないわ、大丈夫」
木槻の言葉を聞いて、沸騰していた頭が冷えるのを感じる。
……そうだ、あの時。セスの願いを抱えて生きていくと決めたのは、他ならぬ自分自身だと言うのに。どうして忘れていたのだろう。シノは落ち着いた様子で燎牙から手を離し、血塗れの己の幻影に言い放つ。
「悪ィな。俺には美人との約束があるんで、まだ死ねないんだわ」
「シノらしい理由ね」
「俺らしいって、どういう事だ!?」
「普段通りのシノらしくて、好ましいって意味よ」
シノが幻影に告げると同時に、其の姿が霧散して消えていく。
ふふっ、と安心から木槻が微笑むと同時に、不意打ちで照れ臭くなったらしい。尻尾が揺れながらも、彼がふいっと顔を背けていた。
……彼女がとある人物の名前を知った事に、収穫を得たと感じていた事も知らず。
――また二つ、鏡に亀裂が走った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
グルクトゥラ・ウォータンク
過去に願うことなど何もない。後悔も痛みも我が歩み。現在に願うことなど一つもない。一心不乱に駆けねばならぬ。先へ、なお先へ。未来に願うことなど…否。世界を渡り、世界を学び、知を、技を、自らを極めたい!それこそ我が欲望、我が真の姿!
鏡に映るのは無数の機械から成る人形。内へと増殖を繰り返し無限に創造を繰り返す暴走する化物。鏡に映され、虚像が現実に入れ替わり…
『唯一符号発動』
宇宙でその姿を得た時から、ずっと作り続けていたのだ。暴走する自我を、拘束し制御するための自分だけのユーベルコードを!
精神は肉体の奴隷なれば、身体を拘束し精神を制御する。もはやお主の甘言は聞かぬ。
覚悟せい邪神、わしの拳は大分効くぞ!
●覚悟の拳
さて、まずはグルクトゥラ・ウォータンク(サイバー×スチーム×ファンタジー・f07586)という男の話をしよう。
彼の通称はグルク、電脳蒸気のドワーフハッカー。
今、己の幻影と対峙している様だが……悲劇の主たる邪神の思い通りにいかない事もあるもので。例えば、彼の反応の様に。
理性を蕩かす甘い香りも、囁きも、全てが彼に躊躇いを失わせる切っ掛けとなるに過ぎない。何故ならば……今、彼が見ている幻影は自身の真の姿。
「唯一符号発動、真自我拘束制御式――解放」
――其の男は、過去に願うことなど何もない。
後悔も痛みも全て、己が歩んできた全てを否定する事はしない。
――其の男は、現在に願うことなど一つもない。
一心不乱に駆けねばならぬ。先へ、先へ、まだ見ぬものを見る為に。
――其の男は、未来に願うことなどなかった……否。
グルクトゥラは望むのだ。世界を渡り、世界を学び、知を、技を、自らを極めたい!
目の前の己に対して、何を恐れる事があるというのか。己の欲望から目を逸らすつもりなどない、寧ろ此れこそが欲望の具現と言うのならば尚の事。甘んじて受け入れようではないか!
「ウオォォォ……ッ!!!」
目の前に映る幻影が完成図だとするならば、グルクトゥラの様子はまるで組み立てる工程を映像で流しているかの様で。
無数の機械から成る人形……其れはガジェットボールズの全兵装と拘束装甲、電脳妖精のデータとエネルギー変換が双方向で移動する循環システム。更に内側に秘めたるは、鐵哭の王『クラッハ』の破壊と創造の力。
普遍に伝わる奇跡ではなく、己の為の奇跡(ユーベルコード)を以って、欲望を具現する。
全身を拘束する内側で繰り返される増殖、創造。其れが生み出す威圧感は計り知れない。ずっと、ずっと作り続けていた。自我を拘束し、制御する為の術を編み出していた。精神は肉体の奴隷、ならば身体を拘束してしまえばいい。
……暴論と邪神は言うだろうが、彼の解もまた真理である可能性はあるだろう。
「覚悟せい、邪神」
普段通りのグルクトゥラの声で、化物は告げる。
拘束されても尚、振り上げる拳を見ては幻影も同様に。突き合わせる現実と、虚像。……真に彼を理解していない拳に劣る筈もなく、現実が虚像を掻き消すのだった。
――拳の風圧もだが、其れ以外の要因もあるのか……鏡の罅が広がっている。
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
※ネグル(f00099)と
お前が。
子供たちを――
【――こえは】
(鼓膜を鑢で擦るような耳障りな声が、嘲笑う)
【子供たちの悲鳴(うた)は。心地よかったろう】
(鏡の中の己が醜く捻れ。ゆがむ。
焼け爛れた溶岩に鎧われる、歪な獣が牙を剥いて)
【お前の焼く病と、お前の耳は、何が違うと思っている?】
(――黙れ)
【だから森を追われたんじゃないか】
(黙れ!!)
――ああぁアアア!!
(炎色の長い鬣と尾、真の姿を解き放ち
【早業・傷口を抉る】「轟赫」の二十七を以て、迫る枷や香ごと鏡を焼き潰す)
…見ないで。
おれは。よき、人間では…
…ありがと。ネグル。
そうかな。
…森番で、いられたかな。
ネグル・ギュネス
ロク(f01377)と参加
生憎だが、私は記憶が無い
故に過去など、無い
あるのは現在(いま)と未来(あす)だけだ
邪神よ、未来を奪えず現在に滅び、過去に帰るが良い!
暴れるロクのサポートに回る
怒りのあまり、か
わからないでもないが
【ダッシュ】で共に近づき、虚像に立ち向かう
過去のトラウマ?過去など私には無い
欲望?良かろう、私の好きなものをあけすけなく答えてやる
躾?───お断りだ!
ロクに攻撃が向けば、身を呈し庇う
そして刀を振るうて、【衝撃波】を放ちながら、ユーベルコード【クラックメタル・インパクト】で、逆に捕縛
引導を渡せ、ロク
戦闘後、しょんぼりしたロクと止め
大丈夫、よく頑張ったな
子供達を救えた
君は良いやつさ
●森番の盾となりて
「お前が。子供たちを――」
怒りに声が震える。此の鏡が、子供達を蝕んだ病葉か。
激情が身体を突き動かすよりも早く、ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)は地を駆け出す。彼女のサポートに回る為だろう、ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)も共に。
「(……怒りのあまり、か。わからないでもないが)」
自分は其処まで感情を剥き出しにする事はない、だからこそ眩しくも感じる。
ネグルが内心思うも、今のロクは気に留める事もないだろうが。くすくす、と笑う声さえも吐き気がする。此れは焼いても良い病だ。ならば、問答無用で焼き尽くしてくれる。心意気は見事、だが……悲劇の主も呆気なく倒されるつもりもないらしい。
「――ッ!?」
「ロク?」
急に立ち止まるロクを案ずる様に向けられる、ネグルの視線にすらも気付かない。
彼の声が耳に入らないのか。いや、聞こえている。其れよりも大きな声が、幻聴が、彼女の目を見開かせている。止めろ、止めろ、止めろッ!
……そんな声を上げる余裕もなく、鏡に映る其れがぐにゃりと変わる。
「虚像、か」
同じ様な光景をネグルを目にしたからだろう、直ぐに納得した様子。
だが、怯む素振りは見せない。寧ろ、傍らの少女の心身状態に注意している程。
何故か?簡単な事だ、彼には記憶が無い……恐れるだけの過去などない。在りし日は未だ白紙のまま。
……だからこそ、現在(いま)と未来(あす)を奪わせる訳にはいかない。
『虚勢か、否か。お前は……過去を知る事が恐ろしいだけではないのか?』
「知った風な口を利くな、邪神風情が」
消え行く大切な何か、焼け残った記憶が示す其れを探している事は事実だ。
――だが、其の為に優先順位を違えるつもりもない。
「過去のトラウマ?過去など私には無い」
邪神が放つ何かから守る様に、ロクの前に立つ。
「欲望?良かろう、私の好きなものをあけすけなく答えてやる」
……恐らく、ロクに向けて放たれたのだろう。
ネグルは飛来する首輪を視認、桜花幻影の柄を握り締める。
「躾?──お断りだ!」
――右足を踏み出して、一呼吸に抜き放つ。
ちりんと鈴が小さく鳴ると同時に、目の前に映る己の幻影諸共、首輪を斬り裂いた。
再び、ロクへと視線を向けるが……彼女はまだ何かに震えている。怯えていると言うよりも、何かを拒んでいる様な。
ざりざり、と。音がする。
外からではなく、内から削る音が耳障りだ。
――子供たちの悲鳴(うた)は。心地よかったろう?
「だま、れ」
鏡から飛び出した様に、歪んだ影は己に近付く。
其れはロク自身が、一番見たくない姿だった。焼け爛れた溶岩に鎧われる、歪な獣。牙を剥く姿は敵意を露わにしているのに、ニタァと嘲笑っている様にも見えて。
――お前の焼く病と、お前の耳は、何が違うと思っている?
「……れ」
――認めろ、だから森を追われたんじゃないか。
「黙れェェェッ!!!」
「――あ゛あ゛ァアアアッ!!!」
「ロク……?」
炎色の長い鬣と尾、錯乱している事を差し引いても明らかに変容した雰囲気。
此れが、ロクの真の姿か。言葉は無くとも理解する、其の間にも放たれた二十七の轟赫が飛来する枷も、触手も、何もかもを焼き尽くす。
削られた部分に沁みる様に声が残る、呪詛の様に心を蝕んでいく。黙れ、黙れ。おれは、森番でいたい。森番、なのに。――なら、此の姿は何だ?
「……悲劇も、嘆きも、もういらない」
――刀を鞘に納めたネグルが動き出す。
本体の鏡に一瞬で接近、左拳によるストレートが放たれる。黒き輝きは鎖と化して拘束、逃げる事は許さない。……嗚呼、そうか。己は今、確かに想定以上の怒りを感じていたらしい。
「引導を渡せ、ロク」
其れはまるで、森番としての責務を果たせと言外に告げている様で。
……よき、人間ではないのに。こんな姿、見られたくないのに。
それでも、真っ直ぐに『ロク』へと向けられる言葉が響いたのか。髪から伸ばした帯状の炎、其れら全てが邪神を焼き尽くそうと動く。仕留めるには至らないけれど、致命傷は与えた筈だ。
落ち着いたのか元の姿に戻るも、ロクは変わらず肩を落としていて。ぽん、と触れては離れるネグルの手に彼女は視線を向ける。
「大丈夫、よく頑張ったな」
「……ありがと。ネグル。おれ……森番で、いられたかな」
ああ、と即座に返って来た言葉にロクは安堵した様に息を吐く。
否定する理由が何処にあるのだろう、彼女は子供達を救えた良いやつなのだから。
……焼け焦げた鏡は満身創痍。
其れだけに非ず、全面に亀裂が走っていた。何故、どうして。邪神は狼狽える。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
空亡・柚希
昔の僕が映っている
傷なんて無いような手をして、邪神の事なんて知らなかった頃
人間だった時の両手が、血を噴きボロボロに崩れていく
(思わず、手袋越しに自分の手を見て、……かたかた、震えている)
*
共闘、アドリブ歓迎/
注意する能力値の方向はPOW/
武器を持つ手首を掴み、息を整えて一気に変化(《Heartless》)
さっき使った銃に似たものだけれど、これは手に根を張り生える姿
命中精度は〈スナイパー〉〈追跡〉〈誘導弾〉などで補正をかけ、これ自体は攻撃力を重視
歪んだ修復が為されるのは、気持ちの良いものじゃあないけれど
今だけはこの手に感謝しないと
伝わる感触は冷たく、無機質で、硬質
そう簡単に、壊れたりしない
●〇〇の崩壊
……空亡・柚希(玩具修理者・f02700)が対峙する影。
其れは邪神の事なんて知らなかった頃、父が邪神に関わっていた事も知らずに過ごしていたのかもしれない。そんな、無知な自分。
まだ温もりがあって、確かに血の通っていた両手だった……のに。
『なん、で……!?』
――虚像の自分が見つめる両手から、紅色が噴き出す。
何が起こったのか理解する間なんて有りはしない、紅は止まらない。止まれ、と叫んでも無意味な事。嗚呼、もう、紅に染まった其れが崩れる。普通では有り得ない現象が目の前で起こったからだろうか。
見開く双眸が映すのは困惑?恐怖?いいや、そんなものじゃ足りはしない。
当時に起きた出来事を踏まえて予測するならば、絶望という言葉が合っているだろうか。其れを理解するのは本人だが、空亡も思い出したのか。
手袋越しの両手を見て、震えている。顔面蒼白の様子で、かたかた、と。
「(……大丈夫、だ)」
今の両腕は違う、生身じゃない。無機質で硬質の、錆び塗れの機械。
そんな腕があんな風に紅を噴き出す事は無い、崩れて落ちる事もないから。
実感を持つ為にも、ユーベルコードの発動の為にも。オトシモノを掴む方の手首を、反対の手で握り締める。嗚呼、やっぱりあるじゃないか。
安堵故か無意識に息を吐いては、Heartlessにて手を邪神の残滓を巻き込んだ銃器と化す。手に根を張る其れに眉を顰めるが、今は戦いに集中しなければ。
「こう直すのは僕の本意じゃない……けれど、ね」
――今だけは、此の手に感謝しないと。
歪んだ修復は為されない方が良い、あまり気持ちの良いものではないから。
未だに崩れる両腕を見て、狼狽える自分も。人の心を喰らう邪神も。歪んだ此の腕で撃ち抜き、倒す。此れ以上、子供達を壊させたりはしない。
「僕は玩具の修理屋だけど……」
……空亡が息を呑む。良く狙って、避けられても当てるんだ。絶対に。
「子供達の為にも、君を壊すね」
――弾丸が数発、放たれた。
救いを求める様に狼狽する幻影は言うに及ばず、弾丸に貫かれて霧散する。
邪神は被弾を防ごうと、首輪を飛ばす事で迫る其れを落とそうと。だが、空亡の意志を込めた弾丸が止まる筈もない。
……穿つ弾丸によって、邪神の崩壊は進む。終わりはきっと、もう直ぐ。
大成功
🔵🔵🔵
仁上・獅郎
僕が鏡に見るのは、右の眼球を失った己。
子供の頃、邪神の生贄となりかけた時を想起させる姿。
……今更ですね。
僕も所詮は人間、欲望を秘めた獣です。
認めましょう、己が欲望を。
自分が救われたいが為に、人を救おうとしている。
罪過を贖う為の救済……実に滑稽でしょう。
されど、それが全てではない。
自分の悪性を認めても、善性が否定されるわけではない。
故に、僕はこの信念を貫き通すまで――生ある者に救いの手を。
【千華爛漫・花信風】。
この風と光の花は、己と対峙する者への後押し。
過去を踏破し、未来へ踏み出す人へのエール。
僕もまた、過去を背負い、歩き出しましょう。
拳銃を構えた手に震えはない。
さあ、カーテンコールの時間です。
●カーテンコール
仁上・獅郎(片青眼の小夜啼鳥・f03866)が見るのは、右の眼球を失った己の姿。
……其れは嫌でも彼に思い出させるのだ。子供の頃、邪神の生贄となり掛けた時の事を。今更ですね、とは思うけれど。
あの時に抱いた感情、体感した出来事が消える訳ではない。
『…………』
「何も言わない……いえ、何も言えませんか」
肉体を召喚陣に見立てる降霊術による神降ろし……そんな、人の身には過ぎたる様な力を手にした事に関係しているのか。或いは、生贄となる過程で邪神の狂気の一端に触れてしまったのだろうか。何故だろう。
――理解するのはきっと、仁上自身のみ。
「ええ、認めましょう。己が欲望を」
人間は欲望を秘めた獣。……其れは、仁上に限った話ではない。
無償で他者の救済を行う者など、そう多くいる筈はない。他者の命、他者の心を救うのは己の為。救う事が生き甲斐だから、救う事で必要とされている実感が欲しいから。理由は様々。
――彼の理由は、罪過を贖う為の様だ。
自分が救われたいが為に、見知らぬ誰かを救おうとしている。
嗚呼、何たる独善!何たる身勝手な理由だ!悲劇の主が笑む、其の事実を知った彼の心が折れる瞬間を。
「されど、それが全てではない」
――せせら笑う、筈だったのに。
どうして、何故。邪神の心を表す様に影が揺れている。
「悪性を認めても、善性が否定されるわけではない」
独善的な理由であろうと、何だろうと。
其れが悪性だけで作られた物ではないから。其処には確かに、仁上の『誰か助けたい、守りたい』という想いが篭っている。故に、彼は己の信念を貫き通すのだ。
悪性を理解し、善性を信じ、その上で――生ある者に救いの手を差し伸べる。
千華爛漫・花信風……齎す光の花に溶けていく様に、こくりと微笑んでは少年が消えていった。
「さあ、カーテンコールのお時間です」
……邪神が望む悲劇の舞台の幕はもう下ろしてしまおう。
悪趣味極まりない此の邪神に、歓声や拍手など必要はない。
くれてやるものは……グリップを握る拳銃に込められた、鉛玉一つで充分。其れで終わらせる。理解出来ない事象に影が揺れるが構わず、仁上は静かに告げる。
「子供達の痛みを少しでも感じてから、消えて下さい」
迷いのない言葉と共に放たれた弾丸が、容赦無く邪神を撃ち抜く。
鏡面が砕けて落ちる、消えたくないと邪神の影が嘆きを必死に訴える。散々好き勝手駒扱いをしておいて、言える立場でもないのに。
――しかし、此れでも足りないと言うようにある猟兵が正面に立つ。
成功
🔵🔵🔴
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
(理性が蕩けるような囁き。)
(甘い香り。)
(嗚呼、欲望に素直になっていいのか。)
(そうか。)
『僕』は
(――『ジャガーノート』を自分の目の前に晒した事も)
(子供達に酷い仕打ちをした事も)
(どれを取っても)
(怒りしかない。理性なんて無くてもいいんだろう?)
お前を殺したい。
殺す。
死ねよ。
(故にこそ、純粋たる暴力衝動に従い。殺意を以て。"破壊(ジャガーノート) "を齎すのみ。)
("Thunderbolt"、最大容量33㎥の破壊光線。例えばそれは、射程33m×幅1m、厚み1㎝の雷霆100本に相当する。)
("一発辺り"、で。)
――"OVERKILL"の時間だ。
塵一つ遺さず消えろ、屑。
(ザザッ)
●OVER KILL
……本体の崩壊が始まるが、甘い香りは未だ残っている。
邪神の真正面に立つ、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)の理性を蕩かせるには充分。内側に存在する者の欲望を解き放つ為の、細やかな切っ掛け。
『本機』ではない、『僕』の欲望。歪ませる者は、もう虫の息。心のままに、思うままに。『僕』であるジャガーノートは言葉にするのだ。
「お前を殺したい。殺す。死ねよ」
雑音が混ざっていて上手く聞き取れなかったかもしれない。
其れでも確かに、機械的な声ではなかった。とある少年が感情のままに呟いた、そんな声に聞こえた気がして。……勿論、其れを確たる事実とする証拠はないけれど。
ジャガーノートの内側は唸り、吼える様にも見える。
寄生が完了する前とは言えど、『ジャガーノート』を自分の目の前に晒した事。
まるで玩具で遊ぶかの様に、子供達に酷い仕打ちをした事。
嗚呼、嗚呼。どれをとっても――怒りしかない。
悲劇の主を気取る邪神よ、なんと愚かな事をしたのだろうか。
せめて、壊れる前に少しでも香りを消しておくべきだった。
目の前の醜き獣、意思を持つ暴力装置。理性という安全装置を自ら外しておいて、ただ壊れて消える事が許されるとでも思ったのだろうか。
ジャガーノートは純粋な暴力衝動のままに、殺意を剥き出しにしていた。
破壊を、破壊を。破壊(ジャガーノート) を齎す存在として、一心不乱に暴虐の限りを尽くす化物。
『本機』か『僕』かは今は関係ない、此れはジャガーノートの意志(プログラム)。
「――"OVERKILL"の時間だ」
言葉の通り、過剰殺戮をし尽くしてくれよう。
彼は即座に特殊破壊光線兵器である『Thunderbolt』を乱射形態に変化させた。
最大容量三十立方メートルの破壊光線。例えるならば、射程33m×幅1m、厚み1㎝の雷霆100本に相当する代物だ。……たった一発が其の威力。
乱射などすれば勿論、反動なり代償なりを被る必要もあるだろう。尤も、安全装置が外れた彼には関係のない話だが。
「塵一つ遺さず消えろ、屑」
……其れがやけに鮮明に聞こえたのは、『僕』の激情故か。
ジャガーノートの殺意が放たれる。其の度に轟音が鳴り響く。猟兵達が危険を感じて、外へ避難する間も彼は『Thunderbolt』を放ち続ける。
足りない、足りない、まだ足りない。塵すらも残さず消えてしまえ。
●After
――暫くして。
悲劇の主も、舞台も全て破壊し尽くした先に立っていたのはジャガーノート。
また邪神の儀式場に利用されると思ったからなのか、其れは定かでは無い。
UDC組織の構成員も溜息を吐かざるを得ない、そんな惨状だったらしい。
それでも『本機』と『僕』、そして猟兵達。
彼らは子供達を救った、時間は掛かるだろうが子供達はまた日常に還れるのだ。
……其の中でとある少女が、大切な友人と共に語らう事もあるかもしれない。
お揃いの、仲良しなうさぎのキーホルダーを着けて。
――Mission complete.
大成功
🔵🔵🔵