0
2026/6/1 終わりなき世界の黄昏

#サイキックハーツ #ノベル #灼滅者

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サイキックハーツ
🔒
#ノベル
🔒
#灼滅者


0



七草・聖理




 蒼の王コルベイン、剣樹卿アラベスク、灼滅――。
 多数の有力復活ダークネス完全灼滅の報を受け、武蔵坂学園はお祭り騒ぎになっていた。
「間に合ったのね」
 一人の灼滅者として、そしてグリモア猟兵として奔走していた七草・聖理も、その一報を受けてほっと一息をつく。
 エクソシストの聖理としては、セイメイことホワイト・ビヘイビアを逃がしてしまった事への歯痒い思いもあるだろう。だが、先輩達から武蔵坂学園因縁の宿敵と聞いているあの男にも癒えぬ傷を刻みつけることができたのは、誇れる成果と言って間違いない。
 生徒達が集まっている談話室のソファに身を預けると、聖理の身体に心地よい疲労がどっと押し寄せてきた。強敵を退けることができた嬉しさも相まって、このまま眠ってしまいそうだ。その傍を、先の大戦を知る先輩らしき灼滅者とエスパー達が通りすぎていく。

「教室でパーティをやっているみたいですよ! ふふ、久しぶりですね。行ってみましょうよ」
「いや、俺は仕事があるので先に失礼する」
「またそんな事言ってる……フードコートにもめっちゃうまいものあるらしいよ? 全国のご当地名物超送られてきてるって。グローバルジャスティスってまじすごいんだな」

 教室やフードコートを使ったささやかな祝勝会は、かつて彼らが戦争に身を投じていた学生時代によく行われていたものらしい。今やもっと盛大な祝勝会もできるのだろうが、あえて当時の思い出を懐かしもうという趣向のようだ。
(祝勝会……私も参加してみようかしら)
 眠りの中に落ちかけていた聖理は、その激動の時代の空気を少しでも感じることができればと考え、疲れた身を起こす。
 いくら鍛錬を重ねても、彼らが駆け抜けた六年間だけは、聖理にとってけして埋めることのできない空白の時間だ。先輩達がその青春の日々をいかに大切に想っているかは、今回の戦争で聖理にも伝わったことだろう。セイメイやコルベインに返された言葉の一部には、学ぶべき部分もあったかもしれない。
 まずは等身大の武蔵坂学園生として、その歴史に敬意と親愛を――聖理は灼滅者、ダークネス、そしてあらゆる世界の猟兵たちで賑わうフードコートと教室を巡っていく。
 先輩達は自分の誇るご当地名物や、好きなお菓子と共に、聖理へ手荒い祝福を向けてくれたことだろう。特別なだれかではない、ひとりの学友、そして戦友として。

 なお、以下は元エクスブレインである鷹神・豊から聞けた範囲の各地の様子だ。
 全体的な空気がこうとは言えないが、過去に個人的に関わった者達の動向程度であれば話せるとの事である。

●群像
 かつてシャドウが見せた世界滅亡の悪夢から救われた事がある平凡な会社員、洋。
 当時二十代だった彼は、十年以上経ってまた訪れた悪夢の再来に震えたが、灼滅者の活躍に特に熱狂した一人に違いない。通勤電車の中で関連動画を見漁っては、武蔵坂学園の快進撃を我が事のように喜んだ。コルベイン灼滅の速報が出た瞬間など、奇声を発して周囲の見知らぬ者たちとハイタッチを交わしてしまったほどだ。

 妻をブエル兵に変えられ、灼滅されている亮一という青年は、他ならぬ灼滅者のお陰で今もその真相を知らぬまま生きている。自身の営む小さな熱帯魚店の中で、彼はコルネリウスの見せた幸福な夢に囚われた。妻が今も共に隣にいる夢――だが、彼は猟兵たちの働きで夢から醒める事を選んだ。携帯の通知が照らす現実は、大戦の終結と、妻に見切られた自分だ。
 まだ夢を見ている。変わらなくては、と思う。
 魔術師ソロモンが滅ぼされたと聞いても、彼はそれを遠い世界の話だと思い続けている。

 当時からよく殺人的な都市伝説に襲われていた民俗学者、|比嘉・石矢《ひがいしや》は、今回もしっかり旅先でジョン・スミスの放ったキャバリアの襲撃に巻き込まれていた。
「大抵の事では死ななくなったけど、今回こそは流石に死ぬかと思ったぞ……」
 比嘉は冷や汗を拭きつつ、武蔵坂学園と助けてくれた猟兵達を拝んだ。被害者中の被害者である彼の反応は、ある意味最も生々しいものだったかもしれない。

「はいはーい、穏健派ダークネスの皆元気ー? 僕一般人の救助とかしちゃった。偉すぎない? 君達も見習えば」
「天童……あんたは呑気でいいね。見なよ、ジョン達がまた暴れたお陰で『六六六人衆の怖すぎる本性……』みたいな陰謀論が広まりまくってる。『誘導乙。こいつらは復活ダークネス』『どうも六六六人衆の生き残りです。本日のレスバ会場はこちら』っと」
 一方、猟兵でもある元序列持ち六六六人衆の天童・司狼は、折角だからと生き残ってしまった同僚やダークネス達が共同生活をしている地方の牧場へ立ち寄っていた。
 かつてマンチェスター・ハンマーの配下であった眼鏡の青年は、今日もエスパー達とのレスバで殺意を発散していた。平和で何よりと天童は思うが、やはり迷惑な先輩達のせいでまた当分荒れそうである。
「スピアガンの人は?」
「あいつは僕より社交性あるからね。今日も漁行ったよ」
 軍艦島で灼滅者達と交戦した、水中戦を得意とする六六六人衆の女はしれっと漁師に転職したらしい。売店で海の幸売ってるから天童も食べてけば、と眼鏡の青年は投げやりに言い、荒れるコメント欄を冷めた目で睨む。彼らにとっての大戦の終結は『とりあえず最小限の被害で済んでホッとした』程度のものだ。昔の武蔵坂との関係を考えると、とてもではないが祝勝会などには行けない。
「ふーん……で? フニペロだっけ、君は何してんの?」
「プヘェ~!! ペロタン蹴るのメップリ! ペロタンはペロタンが生き残ればいいプヒョ~、コルネリウスもヘンになったペロし、めでたしめでたし~。パカペロ☆」
 天童に蹴られている不細工なアルパカは、元コルネリウス配下のシャドウらしいが、元上司の末路よりなぜ牧場に客が来ないのかの方を気にしていそうだった。そりゃ君がムカつくし可愛くないからでしょと天童は思ったが、黙っておく。

 全ての生命が共に生きるのは簡単ではない。だが、時は確かに明日へと進む。
 その景色の一端を守ったことを、聖理は誇らしく思うべきだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2026年06月17日


挿絵イラスト