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第二次サイキックハーツ大戦④〜悪魔、英会話教材を作る

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●策、時に愚を征く
「――ハルファス、いい加減次の殲術道具はできたか」
『ああ、丁度調整が終わったところだ』
 不遜な男が笑いかけたのは仮面の異形――ソロモンの悪魔・ハルファス。
「待ちくたびれたぞ、お前は調整に時間を掛け過ぎている」
『武器の調整というものはそういうものだ、ソロモン。此度は広範囲に影響する物を作ったのだからそう駄々を捏ねるな』
 ハルファスの手には銀色に光る小さな円盤があった。
 ソロモンと呼ばれた男はそれを受け取り、何故かそこにあったラジカセ(CDプレーヤー付)にセットした。
 流れだすのはシンプルな英会話。時折ノイズが混じるが、英会話教材のようだ。
 しかし、そこには罠が仕組まれている。

「ふっ……ふっはっはっはっはっは!!! 良い、良いじゃないか!
 お前達の言語を学ばせてやろうという慈悲もあるとはなあ!!」
 ――これは、狂気齎す悪魔の言語が混ざっている英会話教材。
『これを聞いた生命は発狂し、やがて闇堕ちし――その時、この言葉の意味を知ることとなろう』
「勉強嫌いな学生にも効きそうだな!! 良い策だハルファス、褒めて遣わす! 闇堕ちも期待できるのならば新たなる理の世で大いに使えそうだ」
 上機嫌に笑うソロモンとくつくつと笑うハルファスは勝利を確信しているようだ。

 えっと……滅茶苦茶シリアスな雰囲気で、頑張って作った新型殲術道具……それでいいの?

●ハルファスあなた疲れてるのよ
「お疲れさん。来てくれてありがとな」
 グリモアベースにて、ひらりと手を振って猟兵達を迎えたのは青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)。
「第二次サイキックハーツ大戦の事はもう頭に入ってるか?」
 さらりと概要を説明した仁は、一つ溜息を吐き「最近のオブリビオン、よその世界に行きたがり過ぎだろ」と呟いた。
「今回は図書室空間と呼ばれる場所に向かって欲しい。そこで魔術師ソロモンとそいつが召喚した悪魔・ハルファスと交戦し撃滅してきてくれ」
 ――ダークネス種族の一つ、ソロモンの悪魔。彼らは此度の戦いでは魔術師ソロモンに従い武蔵坂学園に襲撃を仕掛けている。
「ハルファスは自分で作った大量の『新型殲術道具』を持っているようでな……恐らくそれで色々と戦ってるんだろう。で、今回主に使われるのは――……英会話教材、的な?」

 このアラフィフ、ふざけてんのかな?
 猟兵達の空気に仁も「俺は正気なんだよ!」と困った顔をした。どうやら嘘じゃないらしい。

「本来なら聞いた者を闇堕ちさせる効力があるらしいCDらしいんだけどよ、今のサイキックハーツには闇堕ちはないからそこは心配ないな。
 ……が、まあ、正気を奪ってくるというか狂気を植え付けてくるというか……並みの精神力だけじゃ抗いがたい何かはあるようでな。無策で突っ込むと普段軽くできることすらうまくいかなくなるかもしれん」
 精神的に揺らがせてくる英会話教材。気の抜けたものだが『新型殲術道具』と呼ばれるだけあってその効果は本物のようだ。それが流れる戦場で戦うには、対策が必要……なのかもしれない。
「隙を生み出すことに特化した武器ってこったな。で、奴らには無尽の武器庫と言われるものもある――他の武器も使っての戦いになることはほぼ確実だな」
 謎の英会話教材による精神的な妨害を切り抜け、悪魔の武器庫より取り出される武器にも対抗しなければならない。
 ――奇怪で厄介な状況ではある。
 だが、猟兵はこのような状況は幾度も駆け抜けてきた。
「サイキックアブソーバーとやらは、色々とこの世界を保つために役立ってきた……んだっけか? それの破壊、そしてケルベロスディバイドへの侵攻を目指す奴らを放っておくわけにはいかねぇよな」
 |オブリビオン《復活ダークネス》の企みを徹底的に潰すため、まずはこの悪魔達を叩いて欲しいと仁は笑う。
「お前さん達なら大丈夫だろ? そんなもので猟兵は止められねぇって教えてやってくれな」
 武運を祈るぜ。そう笑って、仁はグリモアを輝かせた。


春海らんぷ
 春海です。
 GWオフありがとうございました&お疲れ様でした。
 集中力を乱し、正気も削ってくる英会話教材(?)をBGMに殴り合うゆるふわバトルです。
 過去作と英語はあまり分からないので絡めたプレイングは活かしきれないかもしれません。

 Q.なんで英会話教材なんですか?
 A.GW鹿児島オフで某ゲームをしていたら『英会話教材』がめちゃ強かったからです。

●シナリオについて
 本シナリオは第二次サイキックハーツ大戦④『図書室空間』〜試作殲術道具蹂躙のボス戦シナリオで一章構成です。
 難易度は【普通】。ゆるふわネタシナリオでお送りいたします。
 このシナリオには以下のプレイングボーナスがあります。

●プレイングボーナス
 ・新型殲術道具による攻撃を見切る。
 ※本シナリオでは音の攻撃なので、対策がされていればプレイングボーナスとして見なします。

●狂気の英会話教材
 謎の技術でどこかから爆音で流されている英会話教材(?)です。
 ついでに悪魔言語も勉強できるかもしれないスグレモノ。
 闇堕ちの存在する世であれば闇堕ちを誘発させる力もありましたが、今は正気を削り行動成功率を大幅に下げる程度です。
 しかしソロモンとハルファスの連携もあるなかでこの効果は馬鹿に出来ない……かも?
 英語が苦手な人には大ダメージになるかも、ならないかも。
 ちなみに戦闘中の破壊はできませんが、シナリオ完了時に勝手に割れますのでご安心を。
 POW選択時にはこれとは別の使い捨て偽装殲術道具も使用されます。ご指定いただいても構いません。
 正直これを使おうと思ったハルファスとソロモンもなかなか正気じゃない気がするので気が向いたらツッコんであげてください。

●注意事項
 ・ゆるふわネタシナリオなノリです。
 ・詳細な受付期間につきましてはタグにてお知らせいたします。
 ・参加者様が想定より多数の場合はプレイングに問題なくとも流れてしまう場合もありますので、ご了承ください。
 ・グループプレイングは通常は2名様まで、オーバーロードは4名様までとさせてください。
 ・恐らく第一戦線締切には間に合わないので、その点ご了承の上ご参加くださいませ。

 Best regards.
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第1章 ボス戦 『魔術師ソロモン・ハルファス召喚』

POW   :    無尽の武器庫
【ハルファス】製の【新たな実験段階の殲術道具】を創造する。これを装備した者は、創造時に選択した技能1つを100レベルで使用できる。
SPD   :    偽装殲術道具「交通標識」
【戦場の地面に青色の交通標識】を貼る。戦場内の全員は、術者の現在位置から[戦場の地面に青色の交通標識]までの直線と同じ方角に移動できなくなる。
WIZ   :    巨大十字架型殲術道具「クロスグレイブ」
【十字架先端に隠された銃口】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【凍結】の状態異常を与える【聖歌と光の弾丸】を放つ。

イラスト:塩髄

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鷹神・豊
英語だと…!?
学生時代俺が唯一致命的に苦手だった
忌むべき教科ではないか!

赤点補習は無論常連
2013年度後期期末テストでは
リスニング0点筆記18点という
壊滅的数値を記録した事さえある
先輩に教えてもらったにもかかわらず…!!
疑うなら過去の俺の成績表を見てみろ…
くっ、殺せ!
地味な屈辱の記憶を掘り起こすな!

いかんつい取り乱してしまった
だが今の俺は違う
英語赤点で公務員が務まる程
社会は甘くないのでな…
地道な努力と執念で
英語アレルギーを完璧に克服した…!
どうだアレルギーと言えただろう!
昔はカタカナさえ避けていたからな!

敢えて恥を晒しに来る勇気もある
貴様ら…覚悟しろ…!!
UCを使いつつ暴力で殲術道具ごとボコる



 妙に軽快な音楽と共に始まるどうにもチープな英会話。それが英会話教材であることは大体の猟兵は分かるだろう。
「これは……英語だと!?」
 顔色がさっと変わった鷹神・豊(蒼天の鷹・f43985)、何を隠そう彼は――
「学生時代俺が唯一致命的に苦手だった忌むべき教科ではないか!」
 ――英語がハチャメチャに苦手であった。
 微かに動揺が隠せない豊。それを見て高笑いするのは魔術師ソロモンと悪魔ハルファス。
「ふっはっはっは! お前は英語が苦手か! 良い獲物だなあハルファス!」
『ああ、わざわざこの地に来たとは……飛んで火に入る夏の虫とやらか』
 しかしそんな相手の挑発じみた嘲笑に耳を貸すことなどしない豊。否、耳を貸している余裕なんぞなかったのである。
 ――脳裏に過る英語の赤点補習クラス。常連過ぎて教師には笑顔で「待ってたぞ」なんて言われる始末。
 他の教科は勉強すればできたし、なんなら勉強しなくてもできた教科もあった。それくらい英語を除けば成績には何ら問題なかったというのに。けれど英語だけはどうにもならなかった。
 高校に入ってからはヤマを張ることも覚え、せめてそこだけはと懸命に対策もした。
 ――そこまでしたのに、高校一年生の後期期末テストで悲劇が起きてしまったのだ。
「……俺はリスニング0点筆記18点という壊滅的数値を記録したことさえある」
 嗚呼辛い。先輩にも教えてもらったというのにやってしまった0点はあまりに辛い。せめて一問でも丸が欲しかった。思い出しただけで辛すぎて、豊は頭を抱えた。申し訳なさが蘇ってきた。しんどい!
 英会話教材に潜む悪魔言語すら耳に入る状態でなかったことがこの場では幸運ではあったが――恐らく本人としては悪魔言語を聞くよりも此方の方が精神ダメージは重傷レベルで重い。全治五日で済みますかこれ。
「……ほう? それってそこそこ凄いのか」
『逆の意味で凄いな』
 試験制度が分からないソロモンがこそっとハルファスに聞き、ハルファスがやんわりとその“凄さ”を教えた。悪魔ですら言葉を濁すレベルである。
「疑うなら過去の俺の成績表を見てみろ……」
「そこまで言うなら見てやろう!」
 いまいち深刻さの分からないソロモン、ブエル兵がどこかから集めてきたのを纏めたらしい書類を異空間から引っ張り出してきた。残酷な無邪気さで豊の成績表を探し、すぐさま見つけてしまったようだった。なんてこった悪魔じゃないのに人の心がないのか。
『……なるほど、これは真のようだな』
 ハルファスから完全に愉悦の色が消え、憐みのオーラに変わる。豊に同情しているのか、いっそ視線が優しい。それが余計に辛さを煽り、豊は思わず叫んだ。
「くっ、殺せ! 地味な屈辱の記憶を掘り起こすな!」
「見ろと言ったのお前だろう!?!!?」
 儂が悪いのか!? と動揺するソロモンに無言で肩ポンするハルファス。ハルファスから見てもこの状況はソロモンが悪く映ったようだ。
 おろおろするソロモンの目の前で豊が深く、深く息を吐いた。
「…………。……いかん、つい取り乱してしまった」
 相手の動揺する様を見て少々冷静になった豊はどうにか意識を現代に引き戻した。屈辱的な記憶の波濤に呑まれ続ける訳にもいかない。豊はキッとソロモンとハルファスを見据えた。
「――確かに過去の俺の成績は酷い。だが今の俺は違う。英語赤点で公務員が務まる程社会は甘くないのでな……」
『努力したんだな……』
「努力とは偉いな」
 公務員――それも公安警察だ。そこに至るまでに並大抵でない努力を重ね続け、ついに英語を倒したのだろう。とてもえらい。
「ああそうだ、地道な努力と執念で――英語アレルギーを完璧に克服した……!」
 勢いに「おおー」とぱちぱちゆるい拍手をするソロモンとハルファス。
 敵対者の見守るような視線にしっかり視線を返し豊は堂々と成長を誇った。
「どうだ、“アレルギー”と言えただろう!」
「流石にそれは言えるだろ」
「昔はカタカナさえ避けていたからな!」
『徹底し過ぎでは?』
 これぞ成長である――……のか? あるのだろう。少なからず豊の中ではあるのだ。
 ドヤ感すら漂う勢いにソロモンとハルファスも思わずツッコミを入れたが今の豊には刺さりもしない。ここまで徹底されていると英語が宿敵種族といっても過言ではないだろう。
 そんな宿敵を倒した彼が、魔術師ソロモンやソロモンの悪魔に怯むことは――ない。
「飛んで火に入る夏の虫だとか言っていたが――敢えて恥を晒しに来たとは考えなかったか」
 一歩、ソロモンとハルファスに近寄った豊の目に、焔が宿る。
「屈辱を糧に戦うとは考えなかったか」
『……!』
 灼滅者はダークネスの行いへの怒りや嘆きを糧にしていた者もいたことを、ハルファスは失念していた。
『ふん、お前はエスパーのようだが……奴らと同じということか』
「今はこうして戦える身――さて、貴様ら……」
 飛び掛かるように一気に距離を詰め、身体能力任せで振り抜かれた拳はハルファスによって咄嗟に展開されたWOKシールドの障壁を容易くぶち破り、発生源も砕く。
「……覚悟しろ……!!」
「成績見ろって言ったのおまゴファッ」
 昔から反骨精神に溢れた豊。彼の拳は今、ソロモンに暴かれた過去の屈辱の記憶に研がれ、ハルファスの憐みの視線によって磨かれている。神速の拳となった二撃目は、真っ直ぐにソロモンの顔面を殴り飛ばした。最後にソロモンが何か言っていたが暴力の前では無力。黒歴史を暴いた者は暴力によって裁かれても文句を言ってはいけない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロイド・サングルガット
おや、おや。これはまた、私にぴったりな敵が居たものだ
君もそう思うだろう、フィン?
しかしBGMにしては情緒が足りない。そこで悪魔殿、こちらはいかがでしょうか?
お耳を拝借──魔歌『祝祭の夜』

風を操り戦場一帯に範囲音響攻撃。この歌詞を知るのは、この戦場に私とフィンだけ。結界術をうまく使えば、一方方向防音コンサートホールを作る事が出来るのですよ。外からの音を防ぎつつ、自分の音は通すという事がね。
音楽教材は教室でお使いなさい。ここは戦場です
あなた方の弾丸は逸れる。凍結はフィンが溶かすでしょう
催眠術と認識阻害を載せた超音波を歌に乗せ、敵と味方を認識の上で入れ替えて差し上げます
1:1でお勉強なさるとよろしい



「おや、おや」
 悠然と闇色の髪の男が図書室に歩を進める。深紅の瞳は魔術師と悪魔を見据え、楽し気に細められた。
「BGMを用意するとは――これはまた、私にぴったりな敵が居たものだ」
 ついと視線を向けた先、太陽の煌きを宿す不死鳥がふわりと現れ、男の腕に止まった。
「君もそう思うだろう、フィン?」
 優しい声で問えばフィンと呼ばれた不死鳥は短く鳴いた。同意を示すものだと、男――ロイド・サングルガット(真夜中の太陽・f45226)には充分に伝わった。
「その目、その姿――お前はヴァンパイアか?」
 ロイドの優雅な振る舞い、美しい姿、そして放つ威圧感に、魔術師ソロモンの呼吸は自然と浅いものになっていた。
『いや、ソロモン。あやつらとは違うようだ』
 同じく畏怖に近しい感情を抱きながらも、確りとロイドという“存在”を見た悪魔ハルファス。どうやら広い意味での同胞ではないらしいと見抜いた彼だったが、警戒を弱めはしなかった。
「ダークネスではない……か」
「……あなたがたにとって、異界のヴァンパイアはそれほどまでに物珍しいのですね」
 ロイドが敵対者達に目を向けると、ソロモンはやや無理矢理に笑みを浮かべた。
「ふ、ふん……驚かせおって。ダークネスでないのならば恐るるに足らず。儂の悪魔が作った英会話教材がお前を狂わせるだろうよ」
「ふむ……」
 英会話教材。ロイドは再び空間に流れる音に耳を傾けた。狂気を誘発するその教材は、危険性がなかったとしてもあまり実用性があるように感じられなかった。なんとも典型的な会話ばかりで、話題もさして面白みもない。
「戦場の彩を用意したのは好ましく思います――しかしBGMにしては情緒が足りない。そこで悪魔殿、魔術師殿。こちらはいかがでしょうか?」
 相手の答えを待たず、ロイドは息を吸い――歌を紡ぐ。
「La――、LA――、LAAAAAAAAH――」
 それは『夜を讃える歌』。古き吸血鬼とその盟友達だけが歌詞を知る、吸血鬼の魔歌。
 彼の歌は強力な魔力を帯びたものであるとソロモンにもハルファスにも感じ取れた。
『歌の攻撃か……!』
「構わん、音量を上げて潰せば良いことよ!」
 歌であれば更なる音で潰せとソロモンがハルファスに指示する。しかし――
『何故だ。魔術音響の出力が上がりにくい……!』
 思ったように音量が上がらないことに苛立つハルファスとソロモンを押し退けるように、戦場に突風が吹き荒れた。ロイドの操り起こした風と共にフィンが空間を翔け抜け、勢いを増していく。風に乗り魔歌が戦場に響き渡った。
「くっ……何故あれは狂わぬ!?」
 ソロモンが叫んだ。ソロモン達にロイドの歌の力が及ぶのであれば、ロイドにも英会話教材の狂気が及んで当然のはずだ。しかし、ロイドには一切の狂気が見えない。
 動揺を隠さぬソロモンを見たロイドは、歌うのをやめてくすりと笑った。
「この歌詞を知るのは、この戦場に私とフィンだけ。それに結界術をうまく使えば、一方方向防音コンサートホールを作る事が出来るのですよ――外からの音を防ぎつつ、自分の音は通すという事がね」
 歌詞を知る者には行動成功率を十倍にする、可能性を広める歌。しかし、歌詞を知らぬ者からは逆に可能性を奪う歌でもある『夜を讃える歌』。その歌の力によりロイドとフィンは容易く風のコンサートホールを編み上げ、ソロモン達は音響の出力を上げることさえ手間取ったのだ。
「くそ、くそくそくそっ……! 小癪な手を使いおって……! 音が効かぬのなら……ハルファス!」
『これを使え』
 ソロモンが握ったのはハルファスの武器庫より取り出された巨大十字架型殲術道具・クロスグレイブ。
「はっ……丁度良い武器があったな! 吸血鬼退治といこうじゃないか!」
 歌が止まったことを好機と見たか、英会話教材の音量が上がる。しかしロイドとフィンにはその音は届かない。|コンサートホール《強固な結界》は歌を止めてもなお、簡単には崩れ落ちない。
「――音楽教材は教室でお使いなさい。ここは戦場です」
 ロイドが再び歌い出すと同時、ソロモンが握ったクロスグレイブから聖歌と光の弾丸が放たれる。しかし吸血鬼の歌の前では小さな光は夜を照らすに至らない。弾丸は逸れ、床に氷塊を生み出した。
 ロイドの足元を汚さないようにと思ったか、フィンがすっとその横を通りすぎれば不死鳥の光を浴びた氷は呆気なく融けて消えた。視線でフィンに礼を伝えれば、陽の鳥は機嫌よさげに空を舞った。
 のびやかに空を舞うフィンを見ながら、ロイドは魔声放つ己に意識を向けた。
 深く声を意識し、思い描くは敵の意識の塗り替え。常人の耳では分からない超音波を歌に乗せて、ソロモン、そしてハルファスに向けて放つ。その意を感じ取ったか、フィンも風を運ぶかのように敵対者目掛けて飛び立った。
 揺らぐ炎の翼と共に見えぬ超音波がソロモンとハルファスを通りすぎた時――ソロモンは徐にハルファスにクロスグレイブを向け、ハルファスもまた無数のナイフをソロモンへ向けていた。
 認識阻害を含んだ催眠術。ロイドの歌声によって発された超音波によって共に戦う味方であったソロモンとハルファスは今は倒すべき敵に見えている。
「そこまで英会話をしたいのであれば1:1でお勉強なさるとよろしい。――行こうか、フィン。“お勉強”のお邪魔をしてはいけないからね」
 ロイドはフィンを腕に止まらせ、ゆったりとその場から離れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

燮樹・メルト
爆音には、爆音!
UC!メルストリーム・ハイパーチャット!ボリューム最大でいくぞ皆の衆!ヘッドホンの準備はいいかー!いくぞー!

配信機材から流れるBGMで、英会話教材に割り込み!
音を相殺して一気にハルファスをやっつけちゃおう。

まぁ、マジで答えると……サブスクで音楽とか聴いちゃうし、CDプレイヤーって持ってないんだわ。
あと、英語の翻訳とかアプリとかでやっちゃうし、不真面目な人にはあんまり……その……。
まぁ!ドンマイ⭐️

(投擲術と毒使いを絡めたメスの投擲で、スコーンっと頭あたりにぶち込んでフィニッシュムーブ)

でも、この間の小テスト悪かったし、勉強になれば使える?のかな?……いや、やっぱないわー。



「うーわ、うっさ。英語うるさすぎない? マジやむわー」
 図書室空間にやって来た燮樹・メルト(❤️‍🩹やわらぎ🧬ちゃんねる💉・f44097)は今日もとってもダウナー。なんならこのバカデカ英会話教材の所為でテンションがダダ下がりである。それでも配信を忘れていないのはストリーマーらしいといえよう。
「こんなので勉強しようとしたって絶対頭入らないでしょ……うるさいだけじゃん……」
 あまりの騒音具合に耳を塞ぎつつ視聴者に同意を求めれば『ねー』だとか『わかりみ』だとか『やむ』だとかコメントが返ってくる。
「……ずっとこれ聞いてると普通にやみそう。教材とか狂気とか関係なくて、普通にうるささでやむ」
 ご尤もである。メルトはうぅん、と考えた後に、ぱっと目を見開いた。
「――爆音には、爆音!」
 やむ教材がダラダラ流れ続けているのであれば、それを別の音で塗り替えてしまえばいいのだ。『何流すん?』『楽しみ~』といったコメントにうんうんと頷いてメルトはばばっとポーズを取った。まるで皆を引っ張り上げる指揮官のようなポーズに視聴者もなんだかうきうきわくわくだ。
「そうと決まれば! ボリューム最大で、行くぞ皆の衆! ヘッドホンの準備はいいかー!」
 盛り上がる視聴者達。『おー!』『音量爆上げ』『いっそスピーカーにした』などと好き勝手なコメントが流れ出す。それだけメルトの行動に皆が期待を寄せている証拠だ。さあ、どんな音源で英会話教材に割り込むのか――!
「いくぞー!」
『カーン』

 狂気の英会話教材流れる図書室空間に、突如更なる爆音が重なった。
 それはキラッキラのアイドルソング――キャバリアのミコちゃんがカバーしたアイドルソングであった。
「む、なんだこの奇怪な音楽は……!?」
『また音の攻撃か!? しかし――妙な魔力は感じんぞ』
 周囲を警戒して見回すソロモンとハルファスだったが異常の原因は見つからない――にも関わらず、突如鋭いメスがハルファスの側頭部にぶっ刺さった。
「は、ハルファスー!!?」
『大丈夫だ問題ない』
 血の代わりなのか闇色の何かがドロッと零れているが、それに構わずハルファスは襲撃者を見る――いつの間にかデモノイドヒューマンの少女が立っていた。
『ふん、小娘……純粋に音の相殺でどうにかなると思ったか……』
「多分なってるかなって? まあ……なってなくてもさくっとやっつければ問題なし」
 狂気で足止めされていないメルトの勢いは止まらない。薬品を放ち、怯ませたところに解体ナイフを突き立てる。ハルファスの武器庫が開かれると同時に、ぽいっと特製の薬品『メルめるとケミカル』を放り込んだ。武器庫が厄介なら武器庫ごと駄目にしてしまえと放り込んだが、ハルファスは寸でのところで魔術で薬品を抑え込んだ。
『き、貴様ぁ……! 危ないではないか!』
「いや戦闘ってそういうものだよね」
 大事な武器庫が大変なことになりそうだったハルファス、事故防止に魔術リソースをほぼ持っていかれたらしい。ぷるぷると震えている。
「おい小娘! お前も武蔵坂学園の学生だろう!? 何故真面目に英語を聞かんのだ!」
 置いてけぼりを喰らっていたソロモンが苛立ったように叫んだ。爆音英会話と爆音アイドルソングの中、頑張って声を張っている。
「興味ないっていうか……?」
「どこでも聞きやすいCDだぞ! 勉強をしろ!」
 悪魔を従えている者が言う台詞ではない。
 ソロモンの真面目さにメルトは暫し考えて「マジで答えていい?」と真剣にソロモンを見据えた。メルトの答えを聞こうとするように自然と場の音量がちょっと下がった。
「……今ってサブスクで音楽とか聴いちゃうし、CDプレイヤーって持ってないんだわ」
「CDプレイヤーを、持っていない……!!?」
 ソロモン、大ショック。盲点だった。後ろでぷるぷる震えていたハルファスも同じくショックを受けているようだった。これがジェネレーションギャップというものか。
「だ、だがな!!? 学生なのだから授業とやらがあるんだろう。成績が悪くなるといけないというのも儂は知っておるぞ! それにアレだ、グローバルがなんとやらというのだろう!」
 一応何らかの形で英語に関しての理解はしているらしいソロモンが英語の重要性を説くがメルトには微塵も刺さらない。
「それは……英語の翻訳とかアプリとかでやっちゃうし、こういう英会話教材って不真面目な人にはあんまり……その……」
 良識あるやみ系ストリーマー、流石に相手をぐっさり刺しかねない真相はごにょごにょとぼかした。優しい。しかし、ソロモンとハルファスには明確に伝わってしまった。
 ――|令和《いま》に合ってない武器だぞ、と。
 なお、コメント欄も『配信にすりゃワンチャン』だの追い討ちアドバイスで盛り上がっていた。
「……まぁ! ドンマイ⭐️」
 そういうこともあるよと笑ってメルトは手を振る――流れるように放たれたメスがハルファスの眉間とソロモンの眉間にスココーンと刺さった。ダーツのような綺麗な突き刺さり具合である。
 そのダメージ故か、それとも精神的なショック故か崩れ落ちたソロモンとハルファスに背を向けながら、音量の下がった英会話教材に耳を傾けてみるメルト。
 この間の小テストの点数が悪かったのはちょっぴり気になっていた。
 ――もしかすればこの英会話教材ってちゃんと勉強になれば使える? のかな?
 そんなことを考えながら聞いてみるもやはりこれは悪魔の英会話教材、なんだかほんのりと気持ち悪くなってくる気がした。
「いや、やっぱないわー。少なくともこれはない」
 次の小テストは別の方法で対策しよ。
 メルトはそう決意して次なる戦場へ向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギュスターヴ・ベルトラン
嘘だろ、何で敵側が要救助レベルの迷走してんだよ…
…ま、これに乗じて叩きのめせば(大音量英語)
うるせえ!This is a penじゃねえよ!

【祈り】を捧げてUCを発動
トンチキにはトンチキをぶつける
はい、ギュスターヴは主の御心のままに16900km/hで飛ぶ輸送艦になります…

教材に対しては、精神干渉やら何やらを断つ静寂砲をぶっぱなしてうるさい英語の効果を減らす
他の偽装殲術道具には【装甲展開】で防御を厚くし、【空中機動】で避ける
…もう既に16900km/hで飛んでるけどな

あとはあいつらへ攻撃、というか【特攻】という名のツッコミしてくわ
Repeat after me!
図書館ではお静かに!



 流れ流れるチープな英会話。魂を揺さぶってくる圧倒的な違和感が混ざっているのは灼滅者だからこそ感じ取れるのか。
 まあ、それもあるのだろうけれどそんなことよりも。
「嘘だろ、何で敵側が要救助レベルの迷走してんだよ……」
 ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)はこのトンチキ武器(?)を作ったのがハルファスだということに声が震えた。|あの《・・》ハルファスがだ――闇堕ち誘発能力があるとか言われても今は闇堕ちしないし、そんなことよりハルファスとソロモンの大迷走具合の方がクる。
「ご当地怪人ならまだ分かるけど、ソロモンの悪魔――それもハルファスがだろ、何がどうなってこうなったんだよ……」
 理解ができないというかもう脳が理解を拒否している気すらする。爆音故かそれともこの奇怪な状況故か、両方か――ギュスターヴは頭が痛くなってくる。
「……ま、あちらさんも何かちょっとおかしくなることはあるということで……これに乗じて叩きのめせば」
『This is a peeeeeeen!!!!!!!!!!!!!』
「う る せ え ! ! ! ! ! !」
 相手も狂ってるならサクッと灼滅してやるのがある種救いかもしれない。気を切り替えて仕事を熟していこうとしたところに大音量で入り込んだ『|This is a pen《これはペンです》』。仕事スイッチより先にツッコミスイッチが入った。
「実際そんな使わないワードだろそれ!!!!!!!!!」
『しかし人間はこれなら分かる者もいるという』
「初心者向けの内容は大事だとハルファスも言っておったな」
 ギュスターヴのツッコミに慈悲だぞとドヤるハルファスと、うんうんと頷くソロモン。勝利を確信しているからか灼滅者相手にも身構える素振りすらない。
「使わないって言ってんだろ! ああもう……!」
 このままツッコミしていたら身が持たない。この場の混沌を収めるしかない――ギュスターヴは深呼吸をしてから主へ祈りを捧げた。
(「――主は我が羊飼い、わたしには何も欠けることがない。死の陰の谷を歩むとも、我らは恐れない」)
 主よ、この混沌の地をどうか穏やかに――そんな願いを込めて祈れば主は応えてくださった。
 ――トンチキにはトンチキをぶつけなさい。
 そう明確にギュスターヴに聞こえたかどうかは定かではないが、ギュスターヴは主の御心はよーく分かった。輸送艦に変身しろと主は仰っている。なんてこった。
 しかし敬虔なるエクソシスト、ギュスターヴ・ベルトランはそれに従わないという選択肢はなかった。
「はい、ギュスターヴは主の御心のままに16900km/hで飛ぶ輸送艦になります……」
 ちょっと目が死んでるような気もしないでもないが主の御心のままに。もしかすれば(推定)要救助者であるハルファスやソロモンも救えということなのかもしれないとぼんやりと思いながらユーベルコードを発動させる。
 ユーベルコードと祈りの力で光り輝いたギュスターヴは次の瞬間全長25mの救援救護特化型超高速輸送艦に変身していた。
「何ッ……船型の闇堕ちだと!?」
『落ち着けソロモン、あれはダークネスに非ず。恐らく奴のユーベルコードだ。奴らは過去よりも幅広い戦い方をしてくる……』
 やっと少しはまともになったか。ソロモンとハルファスの会話を聞きながら、超高速輸送艦ギュスターヴはぐんと宙を進む。その速度は先程彼も呟いた通り時速16900km――マッハにすれば約13.69。世界一速い飛行機なんて目じゃないレベルの超高速輸送艦である。少し進むだけで暴風が吹き荒れ、図書室空間を揺さぶった。
「ハルファス! アレを止めよ!」
『言われずとも』
 輸送艦の登場にあたふたするソロモンだが、音の攻撃は効くと思ったのか暴風に負けないようにと音量が上げられる。
 それでも輸送艦は止まらない。暴風と共に見えぬ静寂砲が放たれて、上げられたはずの英会話教材の音量は小さくなっていく。これではギュスターヴの精神を揺らがせることはできない。
『効かぬか……ならば、墜とすまでよ』
 空飛ぶ輸送艦を撃墜せんと無数の魔法機銃がギュスターヴに向けられた。弾幕が展開されても厚く展開された装甲を撃ち抜くには至らない。それでも墜ちぬならとハルファスが展開した主砲は軽々と高速機動で避ける。
 なんたって時速16900kmである、そう簡単に捉えられる訳がない。英会話教材に含まれた狂気を誘発する力が発揮されて初めて捉える可能性も出るだろうが――ギュスターヴは至って正気だ、針路を違えることも判断を誤ることもない。
『英会話に機銃、砲撃――お前ら、ここ何処だと思ってんだよ』
 輸送艦から発されるはギュスターヴの低く呻くような声。ギュオンと突風を巻き起こしながら急転回からの高速突撃――もはや特攻にも等しい勢いで魔術師と悪魔に突っ込んでいく輸送艦からは、怒りのような呆れのようなツッコミの声が響いた。
『ここは図書館だ! Repeat after me! 図書館ではお静かに――!!!』
「図書館ではお静かに~」
『真面目に返している場合かソロモンンンン!』
 律義に返すソロモンと流石に防御に専念しろとツッコミを入れるハルファス。ここでまともぶってももう遅い。回避不能のスピードで輸送艦がツッコミ(物理)をソロモンとハルファスにぶちかまし――魔術師と悪魔を宙高く打ち上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・明莉
英会話だと…?
ハルファスめ、復活したと思ったら人の勉学に勤しむ心につけ込んだ何と卑劣な殲術道具を
だがよく考えて欲しい
英会話が苦手っていうか勉強全般がお手上げレベルの大体俺みたいなタイプの奴が悪魔言語なんぞ理解出来る訳がないという事を(ドヤ顔

という事で
対策としてはシンプルにこれ、耳栓
狂気は何となく漏れ出るようだしね、直接聞くのは回避して
さて、こちらもシンプルに力勝負と洒落こもうか
大刀「激震」をぶんと振るいハルファス&ソロモンに対峙するかね

あんたらの知力と俺のこの脳筋力、どちらが強いか勝負
新たな実験殲術道具も地頭力に訴えるものでよろしくな
言っとくが俺の地頭力はマイナス振り切りだ…!(UC【激震】)



「英会話だと……? ハルファスめ、復活したと思ったら人の勉学に勤しむ心につけ込んだ何と卑劣な殲術道具を」
 ソロモンの悪魔の悪しき企みに不快感を露わにしたのは木元・明莉(蒼蓮華・f43993)。
 灼滅者である彼はかつての戦いでソロモンの悪魔の為した悪事を覚えている。この英会話教材も人の「学ぼう」「成績を良くしよう」という純粋な気持ちを踏み躙る卑劣なものだ。許しがたい。
『お前達灼滅者に“卑劣”と言われるならば寧ろ褒め言葉として受け取ろう』
「勉学に勤しむ心があるのであれば、悪魔の言語も学ばせてやろうという儂らの優しさを“卑劣”とは――器の狭い奴よ。その果てに闇堕ちをしても喜ばしいことだろうよ、悪魔となったのなら儂の手駒にしてやっても良いんだぞ?」
 悪辣に笑うハルファスとソロモンに明莉は溜息を吐いた。
「――だがよく考えて欲しい」
「ん?」
 まさかの灼滅者からの「良く考えろ」発言。思わずソロモンとハルファスもごくりと続く言葉を待った。
「……英会話が苦手っていうか勉強全般がお手上げレベルの大体俺みたいなタイプの奴が悪魔言語なんぞ理解できる訳がない――というか、まずそういう教材を聞こうともしないということを」
『そっち?』
 ドヤ顔でなんてこと言うの――!!!
 英語が分からないことを屈辱に思うでもなく、いっそ堂々とわからないものはわからない! と、宣言した明莉。
 確かに英語は『ぜんぜん分からない』だったようだが、成績の良い教科もあっただろうに。もっと自信を持ってほしい。
 思わずハルファスもツッコミを入れてしまったが、しかし明莉の言うことはご尤もだ。
 この手の英会話教材はある程度の理解度がないと聞いてもスペキャ顔をするしかなくなる。英語の中に悪魔言語が入っていようがどちらも理解できないので「なんか知らない言葉が聞こえる」「多分英語じゃないっぽいものが聞こえた気がする」くらいにしかならないのである。
 多少の魔術耐性があれば無力化できてしまうかもしれないくらいには、“理解できない”ということはある種強固な防御になる……のかもしれない。
 とはいえ、元よりソロモンもハルファスも悪魔言語の理解からの発狂を考えているわけではないのは明莉にもわかる。爆音で鼓膜がやられそうというのもあるが、確かに心の奥底を揺らがせてくるような何かは感じ取れる。
「ということで、対策は一応するんだけどな」
 すぽすぽっ。
 耳栓を装着。音が問題なら聞こえにくくすれば良いじゃない――Simple is best!
「なっ……卑怯だぞお前ェ!」
『折角作った教材を聞かぬとはなんだ貴様ァ!!』
 マジの卑怯者達、自分の事は棚に上げてブーブー文句を垂れるが耳栓をした明莉にその文句も届くはずもなく。一応文句を言われていることは察した明莉は肩を竦めて見せた。
「分かりやすい武器じゃなくてこういう変わり種を作るっていう試みも悪くはないと思うが――結局、シンプルが一番なんだよ」
 至極真っ当な指摘であった。捻りに捻りすぎた結果、耳栓という簡単なものであっさりと対策されてしまう殲術道具を作るくらいなら、火力に特化した武器を作った方が良かったのだ。
「ま、俺には効きにくいから助かるが」
 不敵に笑った明莉が戦場を駆け、その手に握られた身の丈の半分以上もある斬艦刀『激震』が鈍く光る。
『ッ……耳栓をしようが我らの魔術によって狂気は誘発されるはず……!』
「時間稼ぎをしろハルファス、奴が狂うまで時間を稼げばよい……! あの刃を奪え!」
 止まらぬ明莉の勢いを削ごうとハルファスが武器庫より取り出したのはウロボロスブレイド――鞭剣とも呼ばれるそれを伸ばし、激震を絡めとろうとする。
 が、その手は古武道の家柄の跡取りには、歴戦の灼滅者にはあまりに見抜きやすかった。大きく宙を裂くように激震を振るい風を起こしてウロボロスブレイドの軌道を逸らし、緩んだ繋ぎ目を的確に破壊する。一瞬にしてウロボロスブレイドは破断した刃の群れと変わった。
「やっぱシンプルじゃないな――激震じゃなくて俺を狙えばまだチャンスはあったかもしれないのに」
 頭でっかちも大変だと明莉は笑って、激震を握り直す。
(「――龍脈に眠る荒神よ」)
 呼びかけるは力を与えし神。激震に、明莉に力が漲っていく。
「あんたらの知力と俺のこの脳筋力、どちらが強いか勝負しようじゃないか」
 地を蹴って大きく振り上げた大刀がソロモンとハルファス目掛けて勢いよく振り下ろされる。
「次に開発する新たな実験殲術道具も地頭力に訴えるものでよろしくな。言っとくが俺の地頭力はマイナス振り切りだ……!」
 堂々と開き直った脳筋ストリートファイターの一太刀は知力や地頭力などで抑えきれるわけもなく。深く深くソロモンを斬りつけ、ハルファスの身を叩いた。
「ぐっ……おのれ……おのれぇ……! ならば次は貴様の言語で|理解《わか》らせてやる……!」
『古典文学なら言語が分からんとは言わせんぞ……!』
 深い傷によろめきながらもソロモンもハルファスも未だ諦めていなかった。何故か言われた通りに律義に地頭力に訴えるものを作ろうとしている模様。だが、明莉はにこやかに断った。
「あ、それは聞かなくても間に合ってる」
 こちとら『マニア』だぞ。悪魔の教材などお呼びじゃない。
 マニアがわざわざ胡散臭い教材なんて聞くわけがない――地頭力ではこの灼滅者は倒せない。気力が削がれたソロモンとハルファスは、大の字で寝転がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エレスラ・キャストール
なるほど、つまる処は聞き手の魂を闇に堕とす呪文の自動再生装置か。
なかなか強力な魔術言語のようだね、英語というのは。
(※バハムートキャバリア出身なので英語という言語を知らないようです)

とはいえ、夜の妖精が闇堕ちというのは冗談にもならない。
ここはひとつ、ぼくの歌と演奏でその呪文を押し返すとしよう。
月ノ謡を【楽器演奏】、メタルな感じの演奏に合わせた恐ろしげなノリの【呪歌】を歌い、大音量と呪力で以て英会話の効果を打ち消しにかかる。

その演奏の流れで指定UC発動、戦場内の影や暗がりから黒き獣をソロモンとハルファスへ襲いかからせるよ。
狂気の返礼に、夜闇の恐怖を差し上げよう…なんてね。



 図書室空間を満たす騒音にふむ……と頷いた女性。さらりと揺れたその黒髪は夜の美しさを宿していた。
「なるほど、つまる処は聞き手の魂を闇に堕とす呪文の自動再生装置か」
 確かに不思議な言語だと感心したように頷いているのはエレスラ・キャストール(NightWisper・f45638)。バハムートキャバリアにおいて夜に纏わる様々な事象を司る妖精の一人である。流しの歌い手でもある彼女からすれば、この英会話教材もある種の音楽に聞こえるのかもしれない。
「ほう、猟兵にはきちんと理解する者もいるのか」
『どうも人ではないようだな……妖精というものか。面白い、アレが闇堕ちしたらどのようなことになるのだろうな?』
 エレスラを興味深そうに眺めるのはソロモンとハルファスであった。これまで敵対してきた灼滅者とは違う生命体にもどのような変化が起きるのか――実験動物を見るかのような視線であったが、エレスラは気にも留めずに爆音英会話を聞き続けていた。
「うん……確かに少しばかり心が揺さぶられるような感覚もある……なかなか強力な魔術言語のようだね、英語というのは」
 おおっと英語もまるっと魔術言語認定。
 そうだったバハムートキャバリア出身の彼女、英語という言語がピンと来ないようだった。悪魔言語も英語も未知の言語。それは全編魔術言語に聞こえてしまうのも道理である。
「この魔術言語が流れ続ければ闇堕ちというものになる……かもしれないんだね?」
 夜の妖精が闇堕ち。それは冗談にもならない。
 夜には確かに恐怖というものも含まれようが、他の事象もあるからこその夜である。それを乱されてしまっては世界の道理も揺らいでしまう。ぼんやりとした表情ながら、きりりと敵を見据えたエレスラは月の意匠の美しいギターを構えた。
「ソロモン、ハルファス……あなた達の思い通りにはいかないよ」
 細く美しい指がギターに添えられ――さぞ美しい旋律が流れるかと思えば。
 GYAAAAAAAAAAANNN!!!!!!!!!
「グッ……なんだこの音は!!?」
 エレスラの見た目からは想像できない激しめの音楽が流れ出した。
 ギターからハープのような繊細な音でも流れるんじゃないかというソロモンとハルファスの想像に反し、ギターはギュンギュン掻き鳴らされている。
 魔術的作用によって様々な音色が奏でられるギターとはいえ、ギター一つで掻き鳴らされているとは思えないほどの激しい音色である。
『こ、これは……古の悪魔の音楽……!? この妖精、本来は我らより旧き悪魔だというのか……!?』
 んなわけあるかい。しかし悪魔にそう思わせる程の迫力のある呪術を含んだ音楽――夜の妖精が直々に奏でる音は、まごうことなきロック、否、『メタル』であった。
 演奏が高まっていくほどに魔術師であるソロモンや悪魔であるハルファスにすら恐怖を抱かせる。そこにエレスラの呪力を含んだ声が乗れば――それは呪歌へと成就する。
 魂込めて歌うエレスラの演奏はノっていく。まるで本当に悪魔が取りついたかのようなヘドバンを披露しながらも、演奏に一切のブレはない。
「もしかしてお前……異界の悪魔か!? 儂の手駒になれ!」
『正気かソロモン!? 此奴は手に負えぬ魔曲の使い手だぞ……!』
 演奏の凄さに感動したのか、それとも呪歌で正気を失ったか。エレスラを74番目の悪魔にせんと勧誘しだすソロモンと流石に止めるハルファス。そしてその勧誘に対するエレスラの回答は――低い低い唸りのような声。
「ヒッ、気を損ねたということかこれは……!?」
 ……エレスラは特に回答した気もなかったのだが、丁度歌の途中に挟まる低い低いデスボを披露したことで回答代わりになったようだ。
 デスボを知らなかったらしいソロモンが分かりやすくビビった。
『やめろソロモン、この妖精は|ソロモンの悪魔《同胞》に非ず、お前にも扱えるかは分からんぞ……』
「斯様に美しい見た目であるのに、悍ましい力……興味深いが……」
 勝手にビビり散らかしているハルファスとソロモンは何故か抱き合って震えていた。
 そんなおかしな状況に構わず、エレスラは更に音量を上げてメタルを奏でていく。悪魔の英会話教材よりも余程悪魔的なそのメロディは完全に場を呑み込んでいた。が、エレスラの演奏はこれで終わりではない。
「此処は既に獣の狩場、逃げる術など有りはしない。恐れよ、震えよ。その命は最早、絶望に呑まれるのみと識れ――」
 一瞬、メロディが落ち着く間。その言葉は無情な宣告のように紡がれる。再び音が激しく奏でられると共に、図書室空間の影が膨らんで、仮初の命を得て動き出していく。
『ヴヴヴゥヴゥヴウ――!』
 狼のような黒き獣が無数に湧き上がり、ソロモンとハルファスに襲い掛かった。
「眷属か……! ハルファス!」
『ッ、これなら抑え込めるはずだ……!』
 取り出されたのは偽装殲術道具・交通標識。これを地面に貼ってしまえば獣も襲ってこられまいという読みは正しかったが――ビビり散らかすハルファスがすんなりその作業を終えられる訳もなく、黒き獣が標識を奪い取り、破壊する。
「――狂気の返礼に、夜闇の恐怖を差し上げよう。魔術師と悪魔ならば、楽しんでくれるだろう?」
 夜の妖精は妖艶に笑み、動きを制限されなかった黒き獣達が魔術師と悪魔に一斉に襲い掛かる。夜の闇そのものの襲撃ともいえるそれに、ソロモンもハルファスも震え上がるしかなかった。
「……なんてね」
 メタルの演奏にテンションが上がりすぎたかもしれない。エレスラは獣達の襲撃を眺めながら悪戯っぽく笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
勉強は大好きですけど
殴り合いのBGMにするものではなくない?
大丈夫?いっそ寝ます?
意識吹っ飛ばしてあげるから

高速詠唱で風魔法を乗せたオーラ防御を纏い風音で音を緩和
更にヘッドホンしつつ狂気耐性で対策
ヘッドホンはマイクに繋がってるので自分の声が聞こえまぁす

彩音を発動し、空中戦しつつマイクで拡声しながら歌唱
声には敵にのみ届く催眠術と誘惑の魔力を乗せつつ
常に歌い続ける事で自分の耳を自分の声で守る戦法
狂気には催眠をぶつけるんだよぅ

実体化させた言葉は
遠距離からでも敵に撃ち込める巨大な大砲として
メロディは敵を縛り上げる五線譜の縄として活用
移動制限は面倒だけど、遠近対応の攻撃手段があれば案外対抗出来るからね



「うるさっ……」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は不愉快そうに耳を塞いだ。
 図書室空間で爆音で流れる英会話教材、事前に聞いてはいたけれど本当に喧しい。
「なんで英会話教材なの? ほんと、何考えてるんだろ……これじゃ勉強にならないって……正気なのかな」
 悪魔の正気を気にしてやるのは澪の優しさかもしれない。
 そんな優しさを蔑ろにするように高笑いをかますのは魔術師ソロモンであった。
「ふっはっはっはっはっはっはぁ! なるほど、なるほど――儂は勉強嫌いな学生には効くとは思っていたが、お前のような真面目な者にも存外効くのだなあ!」
 愉快愉快と笑うソロモンの高笑いは爆音BGMに負けぬほど不快であった。
「勉強は大好きですけど、殴り合いのBGMにするものではなくない?」
 それはマジでそう。学びが好きな者ですらこの爆音は苦痛だし、学ぶことが好きだからこそ、殴り合いのBGMに教材垂れ流しとはなんともいえない気持ちになる。澪のド正論に答えたのはハルファスであった。
『普通の武装では灼滅者共から情報連携を受けた猟兵達に対策されるだろう』
「それはわかるかも」
 発想は分からないでもないと澪は頷いた。そのリアクションに気を良くしたか、ハルファスは胸を張って言葉を続けた。
『故に、対策しづらい奇抜な道具を開発したのだ――学生に刺さりやすいものをな!』
「迷走し過ぎじゃない? 大丈夫? いっそ寝ます?」
 途中までは悪くなかったはずなのにどうしてこうなった。澪は「は~……」と深い溜息を吐いた。
「それもう寝不足なんじゃないかな。折角の頭脳も寝不足でズタズタになってるんじゃないの? 寝た方が良いよ、意識吹っ飛ばしてあげるから」
 心配、それ以上に呆れを滲ませた澪の目は冷ややかだ。英会話教材だけでなく、ハルファスやソロモンの返事も聞く気がないと示すようにかぽりとヘッドホンをした。呟くように紡がれた詠唱がオラトリオを加護する風を巻き起こす。
 その風に乗ってふわりと空に飛んだ澪は小瓶を手にした。小瓶に入っていた花弁をさらさらと取り出せば風に乗って戦場を翔けてから澪の手元に集まってくる。拡声マイクに変じたそれを確りと握って歌うのは可愛いアイドルソング!
「ふん……これまでも歌で対抗してくる者はいた! 何度も同じ手は喰わん!」
『ヘッドホンをしていても完全に音は防げまい』
 音量を上げて対抗してくるソロモンとハルファスだが、澪の耳には完全に英会話教材は届いていなかった。何せこのヘッドホン、澪のマイクに繋がっている――つまりは、自分自身の声が聞こえているのである。それも、音に対抗している以上そこそこの音量で歌っているから外の音を拾う余裕はない。
 空中で披露されるオラトリオのアイドルステージ。そのまま歌わせておいては狂気に絡めとれないと判断したハルファスが武器庫を開き、無数の銃を用意した。
『その歌を止めよ。でなければ撃つ』
 ハルファスの警告も澪には届かない。軽やかにのびやかに歌う彼に苛立ったハルファスが銃弾を放とうとした――その時。
「やめよハルファス! ステージはまだ終わっておらんぞ!」
『?!』
 まさかのソロモンの制止であった。何故敵を庇うのか――問わずともハルファスには分かった。
 此奴、このオラトリオに魅了されている――!!!
 澪の歌には催眠術と誘惑の魔力が含まれている。敵の心を揺らがせるのは奇しくも悪魔の英会話教材と同じ効力。しかし相手の教材を知って自分自身の歌で耳を守る澪と、相手の歌の効力を理解せず対策もせず聞いていたソロモンでは効力が出るスピードに圧倒的な差が出る。悪魔のハルファスはどうにか耐えたようだが、ソロモンはダークネスですらない――澪の魔力に抗いきることができなかったのだ。
(「狂気には催眠をぶつけるんだよぅ」)
 うまくいった。
 安心のような、悪戯が成功したような小さな喜びに似た感覚に、澪の口の端が上がった。
 だが、ソロモンは兎も角、ハルファスは未だ澪への警戒心を喪失していない。
 歌いながら祈りを込めてユーベルコードを展開する。世界を彩る音を具現化するその力は、澪の歌う歌詞の一つ一つを実体化させていく。
『新たな武器か……? 奇怪な形よ』
 見たことのない武器と判断したハルファスが殲術道具・交通標識を手にし、とん、と地を叩いた。図書室空間に巨大な青色の交通標識が貼られ、戦場に不思議な力を発揮する。
(「あれ」)
 歌いながら、澪は一定の方向に飛べなくなっていることに気付いた。全ての方向からの制限ではないとは感じ取りつつも、ハルファスが標識の方向以外への警戒を高めていることも察しがついた。
(「移動制限かぁ……ちょっと面倒かな。でも」)
 今の澪の手元には歌い紡いで作り出した実体化した歌詞がある。そして音楽を書き表す楽譜には五線譜が存在する。実体化させた五線譜を縄としてハルファス、ついでに戦意喪失したソロモンに放てば、音が包み込むかのように二人を縛り上げた。
『なっ……なんだこれは!?』
 またも見たことのない武装に驚愕するハルファス。しかし驚いてばかりもいられないと武器庫を開き逃げ出そうとする――が、五線譜の縄を断つ刃物を引き出そうとするところに襲い来るのは♡が付いた歌詞。
 見た目こそ可愛いクッションのようなぷにぷにとしたものだが如何せん大きく、何気に速度も速い。
 ぼすん!
 五線譜の縄ごと、ハルファスとソロモンがぷにぷに可愛い歌詞クッションの下敷きになった。
「どんどんいっくよー!」
 まだまだステージは終わらないと澪は愛らしく笑って、歌い続け――歌詞のクッション大砲で魔術師と悪魔を埋め続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鐘射寺・大殺
次の相手は悪魔ハルファスであるか。
兵器開発を担っていた頭脳派と聞いておるぞ。
しかしなにゆえ英語教材を武器化しようなどと思ったのだ?悪魔の考えることはよく分からんわ。

魔術師ソロモンよ、よく来たのう!我輩は砕魂の魔王、鐘射寺・大殺!そこのハルファスのようにはいかぬぞ!

殺害ギター「X-DEATH」を構え、
《楽器演奏》《衝撃波》《音響弾》《シャウト》で攻撃!その耳障りなCDの音を掻き消してくれるわ。
ソロモンの悪魔の邪悪な思念に対しては、魔王の《覇気》と《威厳》で対抗。フハハハハ、この世界の悪魔より、デビルキングワールドの悪魔のほうが強いのだ!



「ふぅむ、次の相手は悪魔ハルファスであるか」
 威風堂々、戦場に現れたのはデビルキングワールド・|砕魂《さいたま》王国の若き魔王――鐘射寺・大殺(砕魂の魔王・f36145)!
 この大戦が始まり、ソロモンの悪魔グラシャ・ラボラスとの戦いを超えてきた彼が次の敵として定めたのはハルファスであった。
「兵器開発を担っていた頭脳派と聞いておるぞ」
 暗黒剣の悪魔は期待していたのだ。別世界の悪魔の作り出す兵装は如何にワルであろうかと心躍らせていたのだ。
 ――だというのに。
「なんだこれは」
 本当になんだこれはとしか言いようがない。グリモアベースで聞いてはいたが本当に爆音英会話教材が流れている。トンチキな状況に流石の魔王様もなんだこれはしか言えなかった。
「……どう思う、川村」
 思わず身に纏う赤マント――生きた赤マントである忠実なる部下、川村クリムゾンに振ってしまう大殺。
『とても真面目すぎる兵装ですな。標的を広げるのであればもっと普通の音楽にした方が良いかと思いますが……』
 本当に殺る気があるのかと川村クリムゾンも心配そうだ。
「そうよな……なにゆえ英語教材を武器化しようなどと思ったのだ?」
 ここまで来たら本人に聞いてしまおう。大殺は眼前に立つソロモン、そしてその横で控えるハルファスに視線を向けた。
『ただの兵装では灼滅者共に簡単に対策されやすい』
「ほう」
 それはそうだ。大殺は頷き、続きを促した。
『故に、奇抜な手を絡める必要性があった。――武蔵坂学園の戦力は学生が多い。ならば学生に向けた教材という形にすればこの狂気齎す悪魔言語を広められると思った……!』
 ここまで多数のツッコミを受けてなおまだ自信があるらしいハルファスが素晴らしいだろうと胸を張った。
『恐らく作戦がズレていることは気付いているでしょうが、引くに引けないといった様子ですな』
 可哀想に……と言わんばかりのトーンで川村が呟いた。大殺も肩を竦めた。
「うむ……ソロモンの悪魔とやらの考えることはよく分からんわ」
 世界は違うとはいえど悪魔であり魔王である大殺にそれを言われちゃおしまいだよハルファス。
『なっ、な゛ぁ゛っ……! 同じ悪魔だというのに分からんというか貴様ぁ……!』
 ショックを受けたのか声を震わせ怒りを見せたハルファス。しかしそんなソロモンの悪魔の怒りなど魔王にとっては恐れるものではない。
「頭脳派であるならば過ちも認め改善するべきではないかのう」
 流石魔王様、ド正論でございます!
 デビルキングワールドの悪魔とは元は良い子すぎる種族なのである。つまり、改善すべきところがあるのならそこは改善できちゃう素直さがある。しかしソロモンの悪魔ハルファスにはそれがなかった――ここまで意地でこの悪魔の英会話教材をゴリ押して来たが、ここまでド正論をぶつけられるともう黙るしかなかった。
 戦う前から沈黙したハルファスを捨て置いて、大殺はソロモンへ笑いかけた。
「さて、魔術師ソロモンよ、よく来たのう! 我輩は砕魂の魔王、鐘射寺・大殺! 悪魔を統べる能力とは面白い――だが、この魔王はそこのハルファスのようにはいかぬぞ!」
「異界の悪魔、それも魔王と来たか……面白い! お前も儂の配下に加えてやろう!」
 国を統べる者と悪魔を統べる者――頂点に立つ者が不敵に笑い合う。
「貴様とハルファスの考えた策が音だというのなら我輩もその礼儀に乗ってやる!」
 シャッと大殺が構えたのは殺害ギター『X-DEATH』。悪魔的に格好いいデザインのエレキギターは見ているだけでテンションが上がってくるし、ギャンギャンに良い音を出す。
「フハハハ! 我輩の超絶技巧の演奏に酔いしれるが良い! その耳障りなCDの音を掻き消してくれるわ」
 高らかに笑ってギターを掻き鳴らせば大殺のテンションも上がってくる。
 アンプで増幅し、エフェクターで音も変えて奏で続ければ、不思議なことが起こった。
 魔王の奏でる超絶技巧のギターメロディは英会話教材の爆音にぶつかり、生じる衝撃波と音響弾で悪魔言語諸共英会話教材を掻き消し、それでも僅かに残った英語は大殺が奏でる音楽と合わさって――そう、即興洋楽がここに爆誕した!
「なんだ、この……英会話教材なのに英会話教材じゃないような感じは……!」
「フハハハハ! 英語を学ぶには英会話教材でなければならんという決まりはない! 音楽で学ぶ者も居る! さあソロモンよ、我輩についてこれるか!? 武器を持てい! そうだ、我輩と同じくギターをな!」
「くっ……! ハルファス、バイオレンスギターを寄越せ!」
 ハルファスからバイオレンスギターを受け取ったソロモンがジャッカジャッカとギターを掻き鳴らす。不慣れなようだが大殺はそれを嘲笑うことはしない。
「良いぞ! 楽しんで行け、この演奏を!」
 大殺は初めての経験を楽しめと笑って背を押す。
 ソロモンは不思議に思った。敵対者と同じ行動をしているというのに、何故だか楽しく感じる――それこそが眼前の魔王のカリスマ性だと気付くのにそう時間は掛からなかった。
「――|Saitama is the winner《勝つのは砕魂》!!!」
 魔王の覇気の交じったシャウトが場に微かに残っていた狂気齎す力を完全に吹き飛ばした。
 演奏しきった大殺は「ふう」と息を吐いた。
「なかなかに楽しめたぞ魔王……!」
 目を輝かせて大殺に話しかけてきたのはソロモンだ。すっかり大殺の魔王としてのカリスマ性に、威厳に魅了されたようだ。
「フハハハハハハ!! 分かったかソロモン、そしてハルファス! よぅく聞け、この世界の悪魔より、我輩の――デビルキングワールドの悪魔の方が強いのだ!」
 晴れやかに笑う魔王。彼に刃を向ける無粋をしようなどと、ソロモンも、ハルファスももう思えなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・久遠
アドリブ◎

うーわ、間違ぅてもうちの子には聞かせられんな
まぁ古来より『狂気には狂気で対抗』て言いますし
ならロック狂より愛をこめて——
|Rock You《ブチ壊したる》!!



……なーんて格好良ぉUC使うわけなんですけども
音で相殺してクラッシュだけやと芸がない思いません?
とはいえボクは至って普通の満点パパ
できるのはどんだけ嫁さんが強く可愛く雄々しいのか
(可憐な容姿でパイルバンカー構える夫絶対守るレディ
息子の描いた似顔絵がどんだけ上手いかとか
ダンス好きな娘が一緒に踊ってくれる愛しさとか
ひたすら澱みなく歌い続ける音響攻撃も
UCに合わせドローンでお届けするくらいかな
つまり対策は愛です

……後で愧死するんやろな



 未だ図書室空間に響き続ける悪魔言語交じりの英会話教材。
 これでは健全な教育には使えない――双子のパパである劉・久遠(迷宮組曲・f44175)は苦笑いを浮かべた。
 銀誓館学園OBである彼は闇堕ちというものは感覚的にはやや遠くとも、英会話教材を通して悪しき気の流れが出来上がっているのはひしひしと感じられた。
「うーわ、間違ぅてもうちの子には聞かせられんな」
 愛しい双子は現在七歳、英語の勉強が楽しくできるなら教材も検討したところだが、少なくともこれだけは絶対にない。本当にない。
「んー……もうちょっと、まっとうな教材、もしくは武器作ろうとは思わへんかったんです?」
 武器にしてはズレ倒しているし、教材にしては余計なものがありすぎる。何故こんな中途半端なものを作ったのかと、やんわりと久遠は敵対者に笑いかけた。
「学生の多い灼滅者対策にはこの手が最善だろうが!」
『武蔵坂学園は名の通り“学園”の体をとっている。故にこの教材で狂気を広めれば……!』
 これまでも多数の猟兵にツッコまれているがまだ諦めていないらしい。ある意味ブレない信念を感じて久遠も「なるほどねぇ」と一応頷いてやったが「その理屈はどうなんやろねぇ……」とうっかり声に出た。
「やり方はちょーっと、疑問には思いますけども。まぁ……色々考えた結果なんやったら、ボクは特に何も言いません」
 敵視している当時の学生達の一部はもう社会人なんじゃないのかとか、そもそもこの程度の英会話教材じゃ授業でも使えないんじゃないのかとか――作っている最中にソロモンとハルファスもまた狂気に陥ったんじゃないのかとか。
 冷静な頭で色々考えるが、にこっと笑って久遠は心に押し留めた。大人の対応である。
「まぁ古来より『狂気には狂気で対抗』て言いますし……」
 ソロモン、ハルファスと同じレベルまで狂う訳にはいかない――故に。
「ロック狂より愛をこめて――|Rock You《ブチ壊したる》!!」
 愛用のスラッシュギター『Labyrinth Suite』を鳴らし、スピーカー機能付きのドローンも飛ばせば場の淀んだ空気が斬り裂かれる。それを為せるのは己の道を貫き続けるロックスターに変身した久遠の超絶技巧の演奏だからこそ。
『狂気に対抗……ふん、ならばその対抗する力よりも更に悪魔言語を重ねるだけよ!』
 音を掻き消し再び狂気を広げんと爆音英会話教材の音量を更に上げるハルファス。ロックスターの超絶技巧演奏と英会話教材が激突する。ほんの少しだけ英会話教材が優勢か。
「ふっはっはっはっは! 一人の演奏でどこまで耐え切れるか見ものよなぁ!」
 若干の優勢を感じ取ったのか高笑いをするソロモン。だが、久遠の余裕のある表情は全く崩れていなかった。
 
(「……なーんて、格好良ぉロックスターになったわけなんですけども。音で相殺してクラッシュだけやと芸がない思いません?」)
 久遠、実はそんなことを考えていた。
 音で対抗するだけではなく、端から狂気ともぶつかり合うことを決めていたのである。
 だからこそ今ここでユーベルコードの力を全開にしていなかった。
(「とはいえボクは至って普通の満点パパ」)
 ……謙遜し過ぎではないかというツッコミどころはあるが、久遠の自認はそれらしい。
 “普通の満点パパ”だけでは狂気に抗える自信はない。ならば、家族の力を借りて狂気に立ち向かうのだ。
 まず思い浮かべたのは愛しいお嫁さん。可憐という言葉がぴったりな彼女。――なのだが、そんな彼女の得物は容姿に不釣り合いなパイルバンカーである。いかつい。そして彼女は“夫絶対守るレディ”でもある。覚悟のキマりは流石銀誓館学園というべきか。
 可愛らしくも雄々しい彼女を思い浮かべればメロディも強く、華やかなものに変わる。
『くっ……なんだ!? 音楽の力が変わった!?』
 ハルファスは何かに感づいたようだ。更に対抗しようと音量を上げてくるが、ここで久遠が怯むことはない。
 次に思い浮かべるのは可愛い双子達。
 息子の描いてくれた似顔絵はとても上手。メッセージアプリのアイコンにしたいくらい。というか一時期した。見るたびに嬉しくなってしまって返事が遅くなることも何度かあったので、ぐっとこらえてアイコンを変えた。今でも一日の終わりに絵を見て癒されるのが日課だ。久遠にとって彼こそが世界一の画家なのだ。楽しそうに描く姿も輝いているようで、見ているだけで元気が貰える。
 娘はダンスが好きだ。かつてフリッカーハートだった時期もある久遠も踊るのは好きだ。親子で共通の“好き”があって、それを共有できることは、実は希少なことかもしれない。久遠はその大切さをよくわかっている。その時間は心を癒してくれるし、「見て見て!」と前よりもキレのある動きを見せてくれる娘に成長を感じては愛しさが溢れてたまらない。
 二人の可愛い可愛い子供達を思えば、メロディが更にアップテンポな力強いものに変じた。
 家族への想いを重ね、ギターの音に乗せて。ロックスターは演奏を続ける。その熱き魂の演奏は聞く者にその想いの欠片を感じさせる。
「なんだ……!? この……心に湧き上がってくるものは!? 知らんぞ儂は、こんな感覚は知らぬ……!」
『この感覚は……愛? 何故私にそんな感覚が……!』
 そう、狂気を打ち破り、魔術師と悪魔の策を破るのは――狂おしいまでの愛!!!
 愛を知らぬ魔術師と悪魔にパパが負けるはずがなかった。
「これで――終いや」
 知らぬ感情に揺さぶられた二人は締めのギタークラッシュの雨を避けることもできず、メコッと地に埋まった。
「…………」
 演奏を終えた久遠は、地に埋まった敵対者をじっと見る。
(「……ソロモンとハルファスも愛を感じた? ……ボクの演奏、そこまでハッキリ想いが乗ってたってこと? えー……」)
 ……後で愧死するんやろなぁ……。
 久遠は図書室空間の天井を見上げて後の自分に思いを馳せた。パパよ、愛を誇って強く生きろ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬原・イロハ
完全に防御出来ないと思いますが
遮音のため可愛いヘッドホンを装着していきます

キッチンカーの上にラジカセを取り付けて、私も歌ったアイドルソングを流しながら「ソロモンさーん」と運転して近付いていきます
こんにちは! と、窓を開けて自己紹介
ラジカセ、どんなのを使ってるんです?
ウフフ、私のは……ジャーン! なんと記憶端末カードにも対応してるんですよ
CDって複製ありますか?
よかったらCD交換しましょう
無かったらCDあげつつションボリ

帰り道はどっちですか?
あっちですか~(交通標識を目指し、加速)

帰ると見せかけて
今度は召喚したラクスくんに乗って再び弾丸の如く突撃UC
音属性ものせたショットガンを放って攻撃しますね



 懲りずにまだまだ爆音英会話教材が鳴り響く図書室空間。そこにコンコロコンコロ可愛い音を響かせながら現れたのは――とても可愛らしいキッチンカーであった。
 そう、図書室にキッチンカーが乗り入れている。凄い絵面だがそれが出来るのは此処が図書室“空間”故。ソウルボードって凄い。
 そんな乱入参戦キッチンカーは運転席上に搭載したラジカセからこれまた可愛いアイドルソングを爆音で響かせていた。取り付けられているのは昔懐かしのゴツめのラジカセ、しかし実態は最新型なので音量はなかなかパワーがある。
 ふんわりとした可愛らしい声が英会話教材を割きながら進む。
「ぐっ……なんか聞いているとふわふわしてくるな……!」
『このような音は……気が抜ける……』
 ここまでの戦いで色々な曲を聴いてきた魔術師ソロモンと悪魔ハルファスだったが、未だに耳が慣れないようだった。
 英会話教材と混ざりあうアイドルソングに不快そうにするソロモンとハルファスに、ゆっくりとキッチンカーが近付く。
 ――……ンさーん……。
 爆音に混ざって声が聞こえた――気がする。
「アレは猟兵……! 轢く気か!」
『ならば交通標識を貼って……』
 その危険性に今気づいたんかい。対策しようとするソロモンとハルファスだったが、キッチンカーはのんびりと二人に近付いてきた。敵意や殺意は感じられない。
「もしかして……」
『本物のキッチンカー……?』
 本物のキッチンカーは図書室に乗り入れてこないということをすっ飛ばした二人、訝しがりながらもその車が近付いてくるのをじっと待った。
 ――ソロモンさーん!
 キッチンカーから白くて小さな綿のようなものが見えた。あれは手か? 目を凝らしているうちに、キッチンカーはソロモンとハルファスの横に止まった。
 ヴィーンと窓を全開にしてひょこりと顔を出したのは冬原・イロハ(戦場のお掃除ねこ・f10327)。ケットシーのおみみにジャストフィットなパステルカラーが可愛いヘッドホンを付けている。
「こんにちは!」
 二つの爆音に負けないように声を張って挨拶したイロハはそのまま丁寧に自己紹介を続けた。あまりの敵意のなさにソロモンとハルファスも「こんにちは」と返した。
「今流している英会話教材ってCDなんですよね」
『そうだが』
「ソロモンさん達はラジカセをお使いですか?」
「今は違うが試しに聞いた時は使ったぞ」
 ソロモンの答えにイロハの藍色の目がぱっと輝いた。
「ラジカセ、いいですよね! どんなのを使ってるんです?」
『……何の変哲もないCDプレイヤー付きだな』
「ウフフ、私のは……ジャーン!」
 運転席の真上に乗せていたラジカセを取り外したイロハは二人に見せるように爆音アイドルソングが流れたままのラジカセを見せた。
「見た目こそレトロですけど……なんと記憶端末カードにも対応してるんですよ」
『今はレトロが流行りらしいな』
 爆音アイドルソングに耳を塞ぎつつ、ハルファスはこくりと頷いた。
 最新ラジカセの自慢に満足したイロハは、良いことを思いつきました! と手をぽむりと叩いた。
「そうだ、ソロモンさん、ハルファスさん! CDって複製ありますか?」
「『――は?』」
「今流れてるアイドルソング、私も歌ったものなんです。よかったらCD交換しましょう♪」
 アイドルの布教活動のようなことを言い出したイロハに意味が分からずぽかんとするソロモンとハルファス。
「……何を企んでいる」
 CDを交換した後に壊す気だろうか――警戒したソロモンにイロハは「企みなんて何もないです!」と首を振った。
「折角作ったCD、いろんな人に聞いて貰った方が良いと思うので……!」
 純粋無垢のキラキラ天色の瞳に『ヴッ』とハルファスが呻いた。悪魔にはこの輝きは眩しすぎる。
「おいハルファス――あるのか、複製」
『ない』
「……そうなんですね……」
 複製なかった。交換できない。
 分かりやすくションボリしたイロハがCDを差し出しながら力なく「帰り道はどっちですか……」と呟いたのを見てソロモンは悪魔の主として権力を行使した。
「今すぐ作れハルファス!! この娘に土産を持たせてやれッ!!!」
『数秒待て……!』
 無茶言いやがるソロモンに苛立ちつつハルファスは複製CDを作り出した。それをイロハに差し出して、代わりにイロハのアイドルソングを受け取る。
 ところでイロハさん、手に入れたこの狂気教材CDどうするんでしょう。
 さておき、念願のCD交換を果たしたイロハはキラキラと目を輝かせて微笑んだ。
「ありがとうございます♪ では、私は帰りますね」
『帰り道はあちらだ。間違えるなよ』
「あっちですか~」
 間違った方向に進まないようにと律義に交通標識を少しずらして展開しながら正しい出口の方向を指さしたハルファス。素直に頷いたイロハは出口へ向かっていく。
 去っていくキッチンカーになんだったんだと困惑する魔術師と悪魔の目の前で、窓から白い影がシュッと勢いよく飛び出した。
『なっ……?!』
「なんだ!?」
 ソロモン達が何が何だか理解できないうちに図書室空間の上空にグリフォンが陣取っていた。
「ラクスくん、行きましょう!」
 ラクスくんと呼ばれたグリフォンの背に乗っているのは窓から飛び出した白い影――先程まで布教活動をしていたイロハであった。イロハの指示に従い、交通標識の影響範囲を避けて急加速をするラクスくん。彼の背の上で、イロハはショットガンを構えた。
「CDを作る熱意は良いと思いますが……やっぱり、教材はちゃんと教材でなきゃいけません!」
 英会話教材の音を掻き消し、アイドルソングを広げる音の魔力を含んだ弾丸がソロモンとハルファスに放たれる。
 完全に場の流れを掴み、惑わせてからの急降下爆撃にも似た攻撃にソロモンもハルファスも対応しきれない。
『ガァッ……! 帰宅フェイントとは卑怯な!』
「おのれ……騙したな……!」
 反撃しようと宙に目を向けるとグリフォンはもういない。ソロモンが遠ざかる音に気づいて視線を向ければ、キッチンカーは今度こそ帰路についていた。道中お気をつけて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
英会話教材?を爆音で垂れ流しは……確かに呪言にも聞こえなくも無いよね

でもそれをやるなら普通に歌とかアイドルソングとかの方が刺さる対象広くないかな?

【Pow:対策込み】
たとえば【歌魔法&歌唱&音響攻撃&属性攻撃(音響)&範囲攻撃】で桃太郎ちゃんの歌から、桃太郎ちゃんのアニメな歌まで【全力魔法】で歌い

ハルファスちゃん達に聞いて(大音量な歌で英会話な呪言をかき消す)貰っちゃおう

そうだ、お歌ついでに……(ニヤリ)
【早業】UC発動でキビの渾身のギャグも

英会話教材を持ち出すからには
語学に自信あるんだよね?

だったら爆音垂れ流さず
ちゃんと綺麗な英語の歌に
しようよ、聞こえやすい英語て

英会話、エエ会話♪

そんな呪言レベルにしかならない
意味が解らないけど爆音英語話じゃ
闇堕ちじゃなく病み堕ちしかなんないよ♪

え?新型殲術道具で精神力をにした物作って何するか解らないけど、ギャグ最後まで聞いてくれるんだ♪(属性攻撃(ダジャレ)込みの【歌魔法】込みの凍てつくレベルの寒いギャグのリサイタルエンドレス)

【アドリブ絡み大歓迎



「わぁ……これは……」
 空間に踏み入れた途端、小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)を襲ったのは爆音英会話教材。思わず耳をぽふっと手で覆ってしまいたくなる。
「英会話教材? を爆音で垂れ流しは……確かに呪言にも聞こえなくもないよね」
 ただでさえ知らない言語なら呪文のように聞こえるもの。多少分かる英語であっても、爆音で不快指数爆上げであれば呪言に昇華してもおかしくはない。しかも本物の悪魔言語も混ざっているとなれば尚更だ。
「ふっはっはっは! そうであろう、ハルファスの策は間違っていないのだ!」
『そう……それを目指していたのだ、私は……!』
 これまで何人かの猟兵に指摘されたであろうソロモンとハルファスは急に元気になった。狙いが伝わったことがそこまで嬉しかったのだろうか。
「んー……でもそれをやるなら普通に歌とかアイドルソングとかの方が刺さる対象広くないかな?」
 またもご尤もなご指摘が魔術師と悪魔にぐさりと刺さった。
「だっ、だからだな、武蔵坂学園は学生が多いからな……!」
『英会話教材という体にすれば聞く者も多いだろうと……!』
 ソロモンとハルファスの既にしどろもどろになりつつある反論に吉備は更に無自覚の追撃をぶちかました。
「お勉強じゃなくて、普通に息抜きの間に聞けるアイドルソングの方がみんな聞いてくれると思うけどな?」
 それは本当にそう。
 露骨に元気のなくなったソロモンとハルファスに少しだけ焦りつつ、吉備はフォローするように声を掛けた。
「ソロモンちゃんもハルファスちゃんも、作戦は悪くなかったと思うのよ?」
「『ぐっ……』」
「ジャンルが良くなかっただけというか……。たとえば……まずはこういう定番とか!」
 声に魔力を込めて歌い出すのは童謡。日本人であれば良く知るであろう桃太郎の歌であった。岡山のご当地ヒーローとなった吉備にとってこの歌は少し特別だ。
 雉鶏精が紡ぐ優しくも力強い歌は、特別な音響がなくとも少しずつ英会話教材を押していく。
『ば、馬鹿な! この爆音に対抗する……だと!?』
 何の仕掛けがあるのかとソロモンとハルファスが見回すが、そんなものはない。東方妖怪の魔力が何重にも重ねられ、そして吉備の気合の入った声が成す大きな声でありながら崩れない歌唱だ。
「――っと、こんな感じで童謡だと聞きやすいよねっ」
 童謡を歌い終えた吉備はどうかな? というように二人に首を傾げた。歌い終わっても英会話教材の狂気に毒されないのは、声で放った魔力の残滓によって影響を防いでいるのかもしれない。
『小娘、貴様……何故平然としてられる!』
「小癪な……大体、そんな童謡では子供しか聞かんわ!」
 狂気を防いでいる吉備に苛立つハルファスと、ややズレた反論をするソロモンに吉備は不思議そうに首を傾げた。
「そうかなぁ……? 童謡って確かに子供が聞くものだけど、歌って聞かせてあげるのは年上の人だったりするから、案外需要あると思うんだけど……。じゃあこっちは?」
「え、待て歌わなくて」
 いい、とソロモンが言い切る前に吉備は再び歌い出した。今度はアニソンのようなアップテンポな曲。歌っているうちに吉備のテンションも上がってきて、その場でくるりとターン。いつの間にか青色の狛犬のなまりと赤い猿のひいろもそのショータイムに参加して踊っている。
 突如始まったアニソンステージにソロモンとハルファスは呆然とするしかなかった。
「……なんだこの娘は」
『今に始まったことではないが本当に猟兵とやらは話を聞かんな……』
 今更な感想を呟きつつも吉備のオンステージが終わるまで耐え切ればいいと英会話教材の音量を最大にしたハルファス。それでも吉備の歌は掻き消しきれず、狂気齎す英会話教材とご当地パワーが込められたアニソンが激突している。
 やがて、アニソンも終わりに差し掛かる。終わりのない教材と、終わりのあるアニソン――勝った。ハルファスはそう確信した。
 だが、吉備のライブはこれで終わりではなかった。寧ろここからが本番である。
「ご清聴ありがとうございました! ……ソロモンちゃんもハルファスちゃんもまだまだ聞いてくれそうな感じだね?」
 吉備はニヤリと意味深な笑いをした。これまでの天真爛漫さから、ちょっとわるーい笑み。
「な、なんだ……?」
『何を企んでいる……?』
 その笑みに思わず魔術師と悪魔も身構えた。しかし吉備は逃がさない。待っていたのだ、こんなタフな観客を!
「それなら……お歌ついでにキビの渾身のギャグも披露しちゃいまーす!」
「は?」
 突如ドゥン☆ドゥンとビートが空間に響き渡る。リズムに乗って縦ノリする吉備が二人の観客にズビシと指を向けた。
「英会話教材を持ち出すからには語学に自信あるんだよね?」
「当たり前だ! 儂をなんだと思っている!」
『貴様、この私、ハルファスを愚弄するか――!』
 分かりやすい挑発だが、ソロモンもハルファスも乗せられてしまった。この場に流れるビートが二人の闘争心に火をつけたのかもしれない。
「そうだよね、だったら爆音垂れ流しなんてナンセンス! ちゃんと綺麗な英語の歌にしようよ、聞こえやすい英語で」
 リズムに乗りつつラップのように正論をぶつける吉備。確かに爆音にせずとも、自然に敵対者に聞かせる力があれば良かったのだ。そこに気付いたらしいハルファスがぐぬ、と唸った。
 その唸りなんて気にせず吉備は渾身のギャグの一発目を放つ。
「――英会話、エエ会話♪」
「『……』」
 隣に現れていた雉型支援機に取り付けられているメガホンキャノンが吉備の声を空間に余さず広げて――空気が凍った、気がした。
「……なんだ、なんだこの冬の如き寒さは!?」
 一瞬の空気の凍りつきの後、ソロモンがガタガタと震え出した。本物の呪言を疑うほどに、たった一言が場の温度を奪っていった。
『これは……』
「知っているのかハルファス」
『……激寒ギャグ……!』
 何を言ってるんだコイツって顔でハルファスを見るソロモン。しかしハルファスは真剣な顔で続けた。
『この娘、歌と同じ力の込め方でギャグを言うことで……時空を凍らせている!』
「何ィ!?」
 トンチキなことを言っているように見えるがハルファスの見立てはあっていた。
 吉備の声に乗せられた魔力とユーベルコードの力によって、今、吉備の放つギャグは寒ければ寒いほど物理的にものを凍らせ――|刻《とき》さえも凍らせる力を纏っていた。
 そんな能力と寒さにガタガタ震えるソロモンに構わず、吉備はノリノリで二人に言葉を掛ける。
「そんな呪言レベルにしかならない
 意味が解らないけど爆音英語話じゃ
 闇堕ちじゃなく病み堕ちしかなんないよ♪」
『いいだろうそれでも! 病めば一応闇堕ちするかもしれないだろうが!』
「儂の思ってた闇堕ちと違う」
 吉備の声掛けに反論するハルファスとその傍で迷走する悪魔に困惑するソロモン。
(「良い調子……! しかも二人とも聞いてくれてるっ♪」)
 敵の連携は厄介なもの。しかしこうして少しずつでも調子が合わなくなってくれば勝機はある。そして何より、このギャグライブを聞いてくれるのが嬉しい。吉備は更に激寒ギャグを放つ。
 吉備は自身のギャグを寒いと理解しているのかしていないのかは不明だが、聞いてくれる観客の存在にテンションが上がっているのは確かだ。
「どんどん行くよっ♪ アルミ缶の上にある蜜柑!」
 爆音英会話なんて音ごと凍り付いて吉備の耳には届かない。
『ええい、やめよ喧しい……!』
 寒さに対抗しようと思ったのか、燃えるようなバトルオーラで自身とソロモンを覆うハルファス。そのバトルオーラは吉備の凍てつくギャグに対抗する熱を持っていた。
『ソロモンよ、このオーラがあればあの娘も砕ける』
「ああ、合わせよハルファス!」
 バトルオーラの熱で少々正気に戻ったソロモンとハルファスが吉備に向かって邪悪なる闘志を纏って襲い掛かる。
 だが吉備は、それさえも目を輝かせて手を伸ばした。
「あれ、精神力を|バトルオーラ《殲術道具》にしたってことは……キビのギャグ、最後まで聞いてくれるんだ♪」
 心底嬉しそうに笑む吉備は距離を詰めるソロモンとハルファス目掛けて更なる|大吹雪《ギャグの嵐》を放つ。
「二人はスキーは好き?」
「ぐっ」
「寒い日の暖房は段ボール♪ あっ、コンドルが食いこんどる!」
『ごふっ』
「呑みすぎて缶がいっぱい? そりゃ~イカンなぁ~!」
「『ガッフ』」
 嗚呼恐ろしいまでの寒いギャグのコンボ。極寒ともいえる途切れることのないギャグは数瞬の時を止めて、ソロモンとハルファスを一方的に凍り付かせる。
「やっぱり最後は定番が良いよね、それじゃ――」
 布団が吹っ飛んだーーー!!!!
 満面の笑みでシャウトするようにド定番激寒ギャグが放たれると数秒時が止まった後――ソロモンとハルファスを図書室空間の端まで吹っ飛ばした。空間の端で崩れ落ちた彼らの身体が少し凍っているように見えるのは気のせいか。
「今日のキビ、キビキビっとギャグ言えたかも! はいっ! 小雉子じゃーナイトっ!」
 しゅびっと決めポーズを決めた吉備は久々のギャグリサイタルにご満悦のようだった。


「……ハルファス……此度は儂らの、負けだ……」
 呟くソロモンにはもう立ち上がる力はなかった。
『何故……何故だ……私の策は……!』
 ソロモンが敗北を受け入れたからか、ハルファスの身は黒い靄のようになって消えていく。制作者が灼滅された所為か、英会話教材も突如止まり、どこかにある魔術音響が燃えるような音を響かせる。
「……おのれ猟兵め……儂らの策を、折りよって……」
 ソロモンの顔には怒りに満ちていたが――少しの間の後、思い出したようにふは、と笑った。
「ふん、だが……、どいつもこいつも……、生意気で……愉快な奴ばかりであった……ふ、ふは、はははは……! 良き余興であった、褒めてやる……! 褒美だ、此度は勝ちを譲ってやろう……!」
 最期まで傲慢に、楽し気に笑いながら――魔術師ソロモンもまた、闇に融けて消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2026年05月16日


挿絵イラスト