ママ!しいなのチョコだよ!
今日はバレンタイン。大好きなひとへチョコレートを贈る日なのだと聞いた久井崎・しいなは、『ママ』には内緒で早起きしてグルメプラネットの森を探検していた。
「すごーい!おいしそうなごはん、いっぱい!ママ、よろこんでくれるかな」
水も樹も地面も、すべてが|神糧《ソーマ》でできているグルメプラネットを見て、食いしんぼうなしいなは大喜び。こんどはママといっしょにきたいな、と思いつつも、今回はサプライズプレゼントで喜んでもらうのがしいなのお仕事だ。
「あのおはなも、このいしも、みんなおいしそう!ぜんぶいれちゃったらすっごくおいしくなるよね!」
無邪気にそう考えながら、しいなは美味しそうなものを全部リュックに詰めて、えいっと持ち上げる。たくさん詰めこんだのでちょっと重たいが、ママの笑顔が見たいから頑張るのだ。
そして、ママの真似をしてエプロンをつけ、レンタルキッチンに立ってみるのだが……しいなにチョコレート作りはちょっと難しい。
「チョコレートってちゃいろくて、あまいよね!ちゃいろくてあまいのを使えばいいのかな?」
うーんと首をかしげつつ、泉から汲んだリンゴソーダ水にチョコの砂と味噌の土をぽいっと投入。すでにかなり怪しさが漂っているが、まだ水っぽいのがしいなは気になる。
「かたまりそうなの……これかな?」
納豆の実を入れたら粘り気は出てきた。
もうちょっと硬くするためにフランスパンの枝や煎餅の石を入れ、しいなの好きな肉のガムも入れ、もっとかわいい色にしたいからレインボーチーズケーキの花を入れ、『かくしあじ』に甘い糸も入れ……そうして出来上がった色々と名状しがたい塊を、しいなは味見してみた。
「うん、おいしい!」
味はばっちり。ただし、しいな視点で。
後はこれを粘土のようにこねこねして、大好きなママの形にしたらきっと喜んでくれるはず!
「できたー!」
完成した手作りチョコレート(?)を見て、しいなはぱあっと瞳を輝かせる。
そうして綺麗にラッピングしてもらい――なんだかお店の人がびっくりしていたが、たぶんしいなが一人で作ってすごい!と思ったからだ――素敵なプレゼントができた。
これをママに渡したらとびきりのサプライズになるはず。早くママの笑顔が見たいしいなは、箱を抱えて元気よくママの元へ走り出した。
『しいな! 探したわ、どこへ行っていたの……』
「ママ!きょうはバレンタインだから、ほら!プレゼント!」
初めて来る世界で迷子になったのかと思い、しいなを探していたママは、綺麗に梱包された箱をさしだされて瞳をぱちくりと瞬かせる。
『もしかしてチョコレート……? しいな、一人で作ったの?』
「そうだよ!ママだいすき、いつもありがとう!」
その言葉を聞いたママは、感動してつい瞳を潤ませてしまう。しいなが一人でこれを……嬉しい、だけでは言い表せない愛おしさがこみあげてくる。ママは目尻の涙をこっそりとぬぐいながら、しいなに微笑みかけた。
『ありがとう、しいな。食べてもいいかしら?』
ママが喜んでくれてよかった。しいなも嬉しそうに頷く。
しいながキラキラした瞳で見つめる中、ママはリボンをほどき、箱を開けるのだが……むわっと漂うチョコレートと、あとなぜか混じっている味噌や醤油っぽい匂い。ママは雲行きの怪しさを察する。
恐る恐る箱を覗いたら、中に入っていたのは紫色でうねうねと蠢き、かろうじて人型っぽく――チョコレートの匂いはする『なにか』であった。
(しいな!? ど……どうしたらこんな料理が完成するの? 何を入れたの? そして……こ、これは、なに……? いえ、可愛いしいなにそんなこと聞けないわ。)
「これママだよ!かわいくつくれたでしょ!」
(私なの!? い、言われてみれば……手足が二本ずつありそうなところがママにそっくり、かも……しれないわね。)
紫色だし、なんか糸ひいてるし、手足もガムみたく伸びたり縮んだりしているが――愛娘の手作りとはいえ、戸惑いを隠せないママであったが、しいなは早く食べてほしそうにママをじっと見つめるばかりだ。
(しいなのこの純粋な眼差しを裏切るなんて……私にはできない!)
明らかに危険。しかし、ここで食べなかったらしいなはがっかりするだろう。
戦闘で受ける痛みに比べたら、しいなの愛を受け止めるなんて簡単なこと――何か邪神風の形状になってきたチョコと目が合い、謎の恐怖を覚えつつも、可愛いしいなのためにママは覚悟を決める。
『わ、わかったわ……いただきます。』
手を合わせつつも、どこから食べたらいいのが悩む。
迷ったママはとりあえず角っぽいところをぽきっと折り、恐る恐るチョコを口にした。
(………!!!)
その味は衝撃的であった。
生前にも死後にもおよそ未体験の珍妙極まる味だ。匂いだけならチョコの範囲といえなくもないが、味や食感は明らかに別の料理だ。思わず吹き出しそうになったママは、慌てて口元を押さえる。
(まず紫色はどこから来たの? 食感はパンっぽいガム……違うわ、ここは炭酸飲料風味の焼き菓子だし……生肉っぽい部分もあるし口の中で動くし、ま、ま、ま、まず)
「どう?おいしい?」
チョコそっくりの紫の顔色になりかけていたママだが、しいなの嬉しそうな顔を見てはっとする。お菓子、お肉、パン――これはしいなが大好きなものをたくさん入れて作った、世界にひとつのママのための手作りチョコなのだ。
『お、おいしいわ、しいな。一人で頑張ったのね、すごく偉いわ。』
「やったー!いっぱいつくったから、おかわりしたくなったら言ってね!」
満面の笑みを浮かべるしいな。絶対に本当の事を言ってはいけない……ママはしいなチョコを完食することを決める。根性、いや、愛である。
甘かったり辛かったり硬かったり柔らかかったり、正直かなりつらい戦いだった。
口に運ぶたびに涙が出て、悶絶しそうになるが『ママはおいしすぎて感動してるのよ、しいな』とごまかす。
しいなの笑顔と愛が最高の調味料――そう言い聞かせながら水を飲み、混沌とした味わいを中和しつつ、紫色の面積を徐々に減らしていく。
(あ、後はこの一欠片だけ……!)
そして最後に残った頭っぽい部分を口に運び、ついにママはすべてを完食した。
美味しい……味覚がしいなになったのか、脳がそう感じている気すらする。なんだかレインボーなお花畑まで見えてきたような――。
『と、ととととてもおいし、おいしゴホァ!!!』
気がするだけだった。
レインボーな感じのものを一気に吹き出し、倒れ込んでしまったママ。しいなはびっくりしてママに駆け寄った。
「わー!ママ!ママー!!」
『……はっ』
しいなの声で天国的な場所から引き戻されたママはどうにか復活し、起き上がった。
「ママ!よかった!どうしたの?おなかいたくなっちゃった?ごめんね」
すると、しいなが抱きついてきて心配そうに眉を下げ、お腹をさすってくる。その顔と仕草を見たら、もうなんでも許せてしまうのだ。ママはしいなを抱きしめ、頭を撫でてやりながら優しく微笑みかける。
『大丈夫、おいしすぎただけよ。しいな……次はママが、ホワイトデーにチョコの作り方をお返しに教えてあげる。』
「ほんと!?」
今日だけの特別なチョコも、きっといつかいい思い出になる。
大好きなママに抱かれて、しいなはまた嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴