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百花繚乱ラプソディ
●妖からの矢文
アヤカシエンパイアのとある山中、そこに建てられた邸宅。それは強力な妖の出現を監視し即座に対応する為の要衝である。人知れずアヤカシエンパイアの平穏を護る要のひとつ――その邸宅の門扉に禍々しくも突き刺さった矢には文が括りつけられていた。
『次の満月の夜、生贄たる花嫁を捧げよ。捧げなくば、一族諸共喰らい尽くしてくれようぞ』
この邸宅を妖に対する要と知っての所業であるならば、よほどの妖であろう。そうでないならば、よほどの愚か者か。文から漂う妖気は前者であろうと踏んだ当主は、守りを固めると共に一騎当千のつわものである猟兵達へ救援を要請することに決めたのであった。
●グリモアベースにて
「花嫁衣装に興味はないかい?」
文箱に入った書状を手にし、深山・鴇(黒花鳥・f22925)が集まった猟兵へ視線を向ける。
「アヤカシエンパイアのとある貴族からの応援要請なんだがね」
書状によれば、貴族の邸宅に力のある妖が現れる。それは生贄たる花嫁を所望しており、捧げぬのであれば貴族の邸宅を壊滅させると脅してきているのだとか。
「皆も知っている通り、アヤカシエンパイアの貴族達は全員がユーベルコード使いであり平安結界を護る戦闘に長けた者達だ。そんな彼らが手を貸してほしいというのだから、猟兵としては見過ごせないだろう?」
それは確かにその通りなのだが、どうして花嫁衣裳と関係してくるのかと猟兵達は鴇を見る。
「うん、生贄を捧げるつもりは毛頭ないのだけどね? 花嫁衣裳を着た生贄を囮にして妖の油断を誘うっていう作戦を立てているそうなんだ」
ちなみに、花嫁役は何人いたって構わない、多くいればそれだけ妖の油断も誘えるだろう。もしかしたら、戸惑いかもしれないが。
「場所は貴族の邸宅、山中にあるらしいから一般人に被害は及ばないよ。囮の花嫁になる者には衣装を貸してくれるそうだから、その辺りについては心配しなくていい」
宴も開かれているので、少しばかり楽しんでから着替えてもいいし、花嫁衣裳選びに時間を費やしても構わない。妖が現れるのは夜、それまでに支度が出来ていれば問題はないのだから。
「和装が基本だがね、色々準備してくれているそうだよ」
和風洋風、白無垢に和装ドレスなんてものまであるらしいと、鴇が笑う。
「好きなものを選んで着るといい。ああ、勿論男性であっても問題ないからね」
戦闘に入るまでバレなければいいのだ、顔を隠しておいたり完璧な女装をしてしまえばなんとでもなるはず。
「それじゃ、後は頼んだよ。ああ、敵を倒した後は近場にある湯治宿でゆっくり疲れを癒すといい」
そう言って、鴇は煙のように形の定まらぬグリモアを呼びだすと、ゲートを開き猟兵達を見送るのであった。
波多蜜花
閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
お前もアヤカシエンパイアで生贄の花嫁にならないか? というシナリオです、コメディでもシリアスでも、皆様のよきようになさってくださいね。
●プレイング受付期間について
タグでのご案内となります、参照いただけますと幸いです。
●できること
第1章『貴族の宴』
宴を楽しんだり、ガチめに花嫁衣裳を選んだり、楽しく過ごしてくださいませ。できそうだな~という事はプレイングに記載してもらえれば概ね通ります、
POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。
第2章『悪霊陰陽師』
花嫁姿で敵を油断させてからの戦闘となります、シリアスでもコメディでもお好きなスタイルでどうぞ!
第3章『秘境にたたずむ湯治宿』
ボス戦のあとのお楽しみ、秘境の温泉でゆっくり疲れを癒していってください。
宿屋で出来そうな事はだいたい通ります、公序良俗に反するものは通りません。
この章に限り、プレイングでのお声掛けがあれば当方のグリモア猟兵がご一緒します。
POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。
●同行者について
同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名】+【人数】でお願いします。例:【花嫁3】同行者の人数制限は特にありません。
プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:30迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
それでは皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
第1章 日常
『貴族の宴』
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POW : 大いに飲み食いし、主催者のもてなしを褒め称える
SPD : 他の参加者と共に遊戯や歌に興じる
WIZ : 花や月を愛で、その美しさを語らう
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
白矢羽・尭暁
【主従】
れーくん、花嫁衣裳だって!
れーくんは美人だからどれきても似合いそうだよね
僕はどれにしようかなぁ
え、僕も着るよ?だって妖も油断するっていうし、利用しない手はないよ
僕はこの花の白無垢にしようかな
白地に光沢のある糸で花が縫い取られている…
わ、結構重いな
…でも黒いのも格好いいな
花嫁衣裳っていろいろあるんだね
れーくんのは鳳凰かぁ
君といえば青竜って思うけれど鳳凰も良く似合うよ
れーくんにもそのうちお嫁さんができるのかなぁ
僕もそのうち…とは思うけれど
ふふ、君にずっと守ってもらえるなら僕も、きっと未来にいる子も安心して過ごせるね
それがいつなのかはわからないけれど
その手を取り微笑んで
うん、では行こうか
冷泉・辰乃丞
【主従】
生贄、ならば私が花嫁に(きり
美人…私が、ですか?(己の容姿無自覚
違和感がないと良いのですが
尭暁様もお召しになられるのですか?
尭暁様の美麗さが、妖をより呼び寄せないか心配ですが…
私が傍でお守りいたします
では、私も白無垢を
顔を隠せるよう綿帽子着用
花嫁にしては長身故に、大胆な鳳凰柄で
主の着付けも従者の私が
流石は尭暁様、お美しい
重さに関しては、私は問題なく動けますので
(一見スン顔だが、鍛えておりますし、みたいな得意顔な機微
私は以前も申したように、所帯を持つ予定はありません
尭暁様と、そして誕生された御子様をお守りするべく尽力する所存です
慣れぬ装束、足元にお気を付けください
お手を、と差し伸べながら
●無垢なる色に未来をのせて
アヤカシエンパイアの貴族からの応援要請――そこに一番手としてやってきたのは、本来であれば貴族達がその存在を妖から隠蔽しなければならない皇族の血筋を持つ|白矢羽・尭暁《しらやば・たかあきら》(金烏・f42890)と彼の従者である|冷泉・辰乃丞《れいぜい・しんのじょう》(青の鎮魂歌・f42891)であった。
何か言いたげな貴族に向かって尭暁はただ鷹揚に笑みを向け、辰乃丞は表情を崩さぬまま小さく首を横に振る。それだけで貴族達は何かを悟ったのだろう、諦めに満ちた表情を何とか隠しつつ、せめてもとばかりに見栄えの良い場所へと案内してくれた。
「れーくん、花嫁衣裳だって!」
屈託のない笑みを浮かべ、尭暁がずらりと用意された花嫁衣裳に視線を向ける。古式ゆかしい衣装から、他世界からの文化を取り入れたドレス、和と洋を取り入れた斬新なものまでと集めに集めた婚礼衣装だ。
「これが贄のための衣装だって、贅沢な妖もいたものだね」
身の程知らずな、と尭暁は言葉にせずに目を柔らかく細める。
「贄、ならば私が|花嫁《囮》の役目を引き受けましょう」
「れーくんは美人だからどれきても似合いそうだよね」
パッと表情を変え、尭暁が笑う。
「美人……私が、ですか?」
己の容姿に無頓着な辰乃丞が、美しいのは尭暁様でしょうにと軽く小首を傾げてすぐに元に戻す。そして主に褒められたのだから立派な花嫁になってみせようと、どの衣装がいいかと吟味する。
「私が着ても違和感がないと良いのですが」
顔周りを隠すとはいえ、身長もそれなりにあるのだ。誤魔化しのきく衣装がいいだろうかと、辰乃丞が白無垢とドレスを見比べる。
「僕はどれにしようかなぁ」
「尭暁様もお召しになられるのですか?」
「え、僕も着るよ? だって妖も油断するっていうし、利用しない手はないよ」
それもそうか、と辰乃丞が納得しかけ、いやしかしと眉根を寄せる。
「尭暁様の美麗さが、妖をより呼び寄せないか心配ですが……」
「寄ってくるなら、こちらの思う壺だよ」
「……では、私が傍でお守りいたします」
「ふふ、よろしくね」
僕の従者は心強いね、なんて言いながら尭暁はふと目を向けた白無垢を手に取った。
「僕はこの花の白無垢にしようかな。白地に光沢のある糸で花が縫い取られている……わ、結構重いな」
随分と値の張るものではないかと尭暁が目を瞬かせ、その重さに驚く。もう少し軽いものはないかと視線を彷徨わせると、黒の引き振袖が見えた。
「……黒いのも恰好いいな。花嫁衣裳っていろいろあるんだね。迷っちゃうな」
「そうですね、お色直しという言葉もありますから、実際の花嫁は幾つか衣装を選ぶのでしょう」
とはいえ、今回選ぶのは一つだけ。悩んだ末に尭暁は白無垢に決め、辰乃丞も当たり前のように白無垢を選ぶ。
「顔を隠せる綿帽子が被れるのはやはりいいですね」
柄は高身長ということもあり、大胆な鳳凰柄に決めると尭暁がひょいっと衣装を覗き込んで笑う。
「れーくんのは鳳凰かぁ。君といえば青竜って思うけれど鳳凰も良く似合うよ」
「ありがたきお言葉、では着付けを致しましょう。すべて私にお任せを」
主の着付けであれば、従者たる辰乃丞の役目。それが白無垢であろうとも、着付けるだけの腕は持っているときびきびとした動きで尭暁の着付けを済ませた。
「流石は尭暁様、お美しい」
「ありがとう、でもやっぱりちょっと重いな」
椅子に座って辰乃丞が白無垢を着るのを眺めつつ、尭暁が呟く。
「重さに関しては、私は問題なく動けますので」
心配召されぬよう、と頷くその顔はいつも通りの無表情に近いものだったが、僅かに得意気にも見えて尭暁が頼りにしているよと微笑んだ。
「れーくんにもそのうちお嫁さんができるのかなぁ」
白無垢を身に纏う辰乃丞を見つめ、尭暁がなんとなく思ったことを口にする。
「私は以前も申したように、所帯を持つ予定はありません。尭暁様と、そして誕生された御子様をお守りするべく尽力する所存です」
「僕もそのうち……とは思うけれど。ふふ、君にずっと守ってもらえるなら僕も、きっと未来にいる子も安心して過ごせるね」
血を繋いでいくのも、皇族の役目なれば尭暁に否はない。それがいつなのかはわからないけれど、子孫の暮らす未来が明るいものであればいい。だから、今はまずやってくるであろう妖を倒さなくては。
「慣れぬ装束、足元にお気を付けください」
お手を、と辰乃丞が差し出す手を取り、尭暁が微笑む。
「うん、では――」
妖退治と洒落込もうか、と尭暁は辰乃丞と共に大広間へと向かうのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ナルニア・ネーネリア
猫たちは常にコンビの猫たち
猫たちは猫たちなので猫たちらしくあればなんでもOK
人語は理解するけど返事はにゃー
猫は賢い猫なので猫の可愛らしさを理解している
この世界で多様性なるものが理解されるか知らんけど
猫の尊さは世界共通・奴隷(人類)共通と察する
奴隷より花嫁とは主役と聞いたことがある
しかし猫たちは常に主役、猫たちこそ主役
つまり猫たちが花嫁さんとやらになってみんとす!
ナルニアは和風
ネーネリアは洋風でそれぞれデコデコされよう
さー奴隷たちよ、猫たちを思う存分可愛くするのだー!!
ついでに愛でてよし、撫でてよし、
おやつをよこせ、よきようにせよ(ゴロゴロゴロ
●猫だって花嫁
ナルニア・ネーネリア(GoGo★キャッツ・f41802)は猫である。正確に言えば、ナルニアとネーネリアのどちらかが猫でどちらかがグリムなのだけれど、どっちも可愛いのだから二匹とも猫でいいじゃない案件なのだ。
さて、そんな猫達がグリモア猟兵の話を聞いて、やってきたのはアヤカシエンパイア。猫達は猟兵なので、堂々とした態度で貴族の邸宅に入り、堂々とした態度で広間へと進む。
「猫だ……」
「猫だわ……」
「猫……猫の猟兵……!」
ざわ、とした大広間の中央で、ナルニアとネーネリアは『にゃー』と鳴く。この二匹にとって、人間とは猫を崇め奉り時に可愛がり、時に吸ってきたりする――奴隷のような存在。この世界で多様性なるものが理解されるかは知らぬことなれど、|自分達《猫》の可愛さ尊さは世界共通であり、アヤカシエンパイアであろうとも――。
「か、可愛い!」
「こっちにおいで、美味しい御飯があるよ」
「お魚の骨を取ってあげますからね」
――これこの通りである。
「にゃー」
美味しい御飯も食べたいけれど、過去に聞いた話によれば花嫁とはその場の主役であるとか。しかし猫達は常に! どんな場所であろうとも! 主役なので! つまり? ナルニアとネーネリアが主役な上に、花嫁さんとやらになれば最強無敵の可愛さなのでは?
「|にゃー、にゃんにゃにゃ!《花嫁さんとやらになってみんとす!》」
ナルニアとネーネリアは猫ゆえに、にゃーとしか鳴けないけれど。猫達の意を汲むのが|人間《猫奴隷》なのだ!
「にゃー」
「はい、和風の装いですね」
「なーーう」
「こちらは洋風の装いと、腕が鳴りますわ!」
ナルニアは和風、ネーネリアは洋風で|デコデコ《デコレーション》されたい、そんな二匹の意志を感じ取った人間達はあれでもない、これでもないと奔走する。
「|にゃんにゃ~~~にゃ!《さー奴隷たちよ!》」
「|にゃう、にゃにゃーん、にゃーん!《猫達を思う存分可愛くするのだー!》」
仰せのままに! なんて楽しそうな人間達が、ナルニアとネーネリアを着飾っていく。
黒猫であるナルニアには動きにくくないように配慮した白無垢に角隠し、更には花飾りなんかも付けて可愛さが有頂天。キジ猫であるネーネリアには白い洋風ドレス、レースとフリルがこれでもかと使われた繊細な衣装はかわいさが天元突破。
これには二匹もご機嫌で喉を鳴らすというもの。
「|ゴロゴロゴロにゃ~~~ん《褒めてつかわす、褒美に愛でてよし、撫でてよし》」
「|んにゃ~~んゴロゴロゴロ《ついでにおやつをよこせ、よきようにせよ》」
可愛さをマシマシにした二匹は妖が来るまでの間、存分に撫でられ美味しいものを食べ、この宴を満喫したのであった。
大成功
🔵🔵🔵
神白・みつき
◎
生贄でございますか…
確かに民間の方にお願いすることではありませんね
元より神器に身命を捧げてはおりますが
妖の油断を誘えるよう尽力いたしましょう
花嫁衣裳と聞くと白無垢を想像してしまいますが
思っていた以上に種類が多いのですね
あまり詳しくありませんので
邸宅の方にお話を伺いながら選べたら大変助かります
いつ途絶えるとも知れぬ人生
少なくとも使命を遂げるまではこういった衣装に
袖を通す機会は無いだろうと思っていました
目出度い門出に着る衣装ですから
その先にあるのが不本意な結末であるべきではございません
襟を正し、確と御役目を果たしましょう
●真白な道の先に
「生贄でございますか……」
生贄、という言葉に神白・みつき(幽寂・f34870)は僅かに眉根を寄せる。古来より生贄や供物という文化はどの世界でもあるものだが、妖が求めてきたとなれば確実に人を喰い力にするのが目的だろう。
「どのような目的であっても生贄など許されるものではございませんが……確かにこれは民間の方にお願いする事ではありませんね」
しかも結界を護る貴族の邸宅を狙って、とあれば余計にだ。
「この身は元より神器に身命を捧げてはおりますが、妖の油断を誘えるよう尽力いたしましょう」
花嫁を贄に寄こせとは、強いお灸をすえて差し上げねばと思いながら、みつきは花嫁衣裳が用意されている広間へと向かう。案内されて入ったその部屋にはずらりと花嫁衣裳が並び、聞いていた通り和装から洋装と多種多様だ。
「思っていた以上に種類が多いのですね」
花嫁衣裳と聞いて思い描いていたのは白無垢であったが、色打掛に黒の引き振袖、更には様々な色のウェディングドレスが見えて、みつきはパチリと目を瞬いた。
どれもこれも素敵だと思うけれど、残念ながらみつきは花嫁衣裳に詳しくはない。どれにしたらいいのかわからず、困ったように眉を下げた。
「もしよろしければ、わたくし共がお手伝いいたしましょうか」
「まあ、とても助かります。私だけでは選べなくて……よろしくお願いいたします」
みつきの言葉に女房達が頷いて、まずは和装と洋装のどちらがいいかとみつきに質問していく。みつきが動きやすい方が良いと洋装を選べば、更にその中から彼女に似合いそうな形や色のドレスを持ってきてくれるのだ。
「色はやはり純白の方が花嫁らしさがあるでしょうか?」
「では純白のドレスに致しましょう、形はどのようなものがお好みですか?」
「それでしたら、こちらかと」
女房が出してきたのはエンパイアドレスと呼ばれるもので、胸したから切り替えのあるドレス。確かに動きやすそうだと頷けば、てきぱきと着付けが行われ、切り替え部分には帯で作られたリボンを結べば洋装ながらも和の趣がある花嫁の出来上がりである。
「これはまた……とても素敵です。ありがとうございます」
いつ途絶えるとも知れぬ人生の中で、こんなにも華やかな花嫁衣裳に袖を通す機会は無いだろうと思っていたけれど――鏡の中の自分はどこか嬉しそうにも見えて、みつきは一度目を閉じて。
これは目出度い門出に着る衣装、その先にあるのが不本意な結末であるべきではない。自分が為すべきことは一つ、そう思いながらゆっくりと目を開き。
「襟を正し、確と御役目を果たしましょう」
凛とした声を響かせて、みつきは舞台となる大広間へと向かうべく足を踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
筧・清史郎
【雅嵐】
ふふ、らんらんはもう何度も着ているからな
俺は初めてかもしれない(わくそわ)
初めてのことはなんだって心躍るからな
らんらんの衣裳は華やかだな
よく似合っている、さすが経験者の着こなしだ
藍色の地に金か、相性が良さそうな組み合わせだな(にこにこ)
しかし着用の際、尻尾はどうなるのだろうか…
必要ならば俺が持つぞ(トレーンベアラー的な謎感覚
…そうか、今日は尻尾は隠れているのか(残念そう
俺は…そうだな、白の十二単にしようか
格式が最も高く、皇族のみ許された婚礼の装いとのこと
このような機会だ、それも許されるだろう
ふふ、重さも問題はないな
どうだろう、似合うだろうか?(めちゃ雅やか!
では参ろうか(謎に美しい所作
終夜・嵐吾
既に花嫁衣裳経験者のわしにぬかりはない
あれは水着か…ん…いやその前にしとるな…しとったな…
わしはもう白無垢は何回か着とるし(?)ええかな~
じゃから色打掛にするかの~、派手なやつがええな!
赤もええけど~赤はの~
橙か~明るい色はなんか好きじゃないの~
あっ、これは地味に見えて派手じゃ!
藍地に金と銀で派手な刺繍がしてあるの!ずっしり…重いの…
でもこれにしよ、わしに似合うものはわしが一番わかっとる!
尻尾? 尻尾は持たんで大丈夫じゃよ
打掛の下にあるからの
せーちゃんはどれにしたんじゃ~?
十二単とは豪奢な…
めちゃくちゃ似合っとるよ、さすがせーちゃんじゃな
なんかこう、まぶしさが…ある、の?
うむ、いくかの!
●煌びやかで、雅やか
ずらりと並んだ花嫁衣裳を前にして、筧・清史郎(桜の君・f00502)は初めての花嫁衣裳体験にわくわくそわそわしながら、共にやってきた終夜・嵐吾(灰青・f05366)を見遣った。
「らんらんは何を着るのだ?」
「そうじゃの~、わしは花嫁衣裳経験者じゃからな~どれがええかな~」
なんとこの美丈夫、既に花嫁衣裳経験者である。どうして。
「白無垢も何回か着とるし……あれは水着か……ん……いや、その前にしとるな……しとったな……」
白無垢風花嫁水着、何を言っているのかと思うかもしれないが本当に白無垢風花嫁水着なので、これはカウントに入る。ドレスも着ているし何だったら予行練習もしたな……と嵐吾が少しばかり遠い目をして、花嫁衣裳を眺めた。
「ふふ、らんらんはもう何度も着ているからな」
白無垢風花嫁水着の原因は清史郎なのだが、それはそれ。
「む、もしかしてせーちゃんは初めてかの?」
「ああ、俺は初めてかもしれない」
うっかり何処かで着ていたとしても、覚えていないのであれば今回が初めてだ、と清史郎が微笑む。
「初めてのことはなんだって心躍るからな」
そう、それが花嫁衣裳を着ることであっても、だ。
「そうじゃの~、それじゃあどれにするか選ぶとするかの~」
さっさと決めなければ一日中掛かってしまいそうな衣装の数に、嵐吾はまずは和風か洋風かと清史郎に問う。
「そうだな……洋風も捨て難いところだが、今回は和風がいいな」
「それならこっちじゃの~」
白無垢に色打掛、引き振袖、更には十二単などもあり、嵐吾は白無垢は何回か着ていることだし色打掛にしようと決める。
「せーちゃん、わしは色打掛に決めたんよ。どうせなら派手なやつがええな!」
「どれ、色打掛か。これもたくさんあるのだな」
まずは柄、そして色も多種多様で、清史郎がどうするのだと視線を向けると、嵐吾は衣紋掛けに掛けられた打掛にざっと視線を走らせた。
「赤もええけど~赤はの~」
「ならば、橙はどうだ?」
「橙か~明るい色はなんか好きじゃないの~」
赤に橙、水色に薄黄色、ピンクに黒にと眺めていき、嵐吾が視線を止めたのは藍色の打掛。
「あっ、これは地味に見えて派手じゃ! 藍地に金と銀で派手な刺繍がしてあるの!」
「藍色の地に金か、相性が良さそうな組み合わせだな」
「そうじゃろ、そうじゃろ。わしはこれにきめ……ずっしり……重いの……」
そうじゃった、着物は重いんじゃ……と嵐吾が腕の中の重みにへこたれそうになりつつも、これが一番似合うんじゃ! と意気込んだ。
「だが……着用の際、尻尾はどうなるのだろうか……」
「尻尾?」
「そうだ、必要ならば俺が持つぞ?」
花嫁のドレスの裾を持つかのように、清史郎がジェスチャーでこう、としてみせる。
「せーちゃん、尻尾は持たんで大丈夫じゃよ」
「何故だ?」
「打掛の下になるからの」
「……そうか、今日は尻尾は隠れてしまうのか」
どこか残念そうな顔をする清史郎に、あ、これもふりたかっただけじゃの、と嵐吾が察してススス……と着替えに向かった。
「尻尾はなくとも、らんらんの衣装は華やかでいいな。さて、俺はどうしたものか」
嵐吾とお揃いで色打掛にするのもいいが、初めての花嫁衣裳だ。ここはやはり白がいいのではないか、と清史郎が白い衣装を物色していると、手慣れた女房達に着付けてもらった嵐吾が戻ってくる。
「おお、さすがらんらん! よく似合っている、これが経験者の着こなしというやつだな」
「そうじゃろ、わしに似合うものはわしが一番わかっとる!」
「これで尻尾があれば、もっとよかったと俺は思うぞ」
「そうじゃの~~?」
そうかの~~? という顔をしつつ、嵐吾は曖昧に笑う。どうせなんかあとでもふられるんじゃろ、わし……という諦念を感じられる笑みだった。
「ところでせーちゃんはどれにしたんじゃ~?」
「俺か? 俺は白の十二単にしようかと思う」
「十二単とは豪奢な……」
白の十二単といえば、皇族のみに許された婚礼の装い。けれどここに用意されているということは、皇族からも許しがあるという事だ。
「俺も着替えてこよう」
優秀な女房達が総出で着替えを行い、あっという間に清史郎を美しい花嫁に仕立て上げる。
「ふふ、重さも問題はないな」
戦うのにも支障はない、これならば妖の油断も誘えるというものだ。
「らんらん、どうだろう、似合うだろうか?」
「めちゃくちゃ似合っとるよ、さすがせーちゃんじゃな! なんかこう、まぶしさが……ある、の?」
上品な光沢を放つ白の十二単、それを着こなす清史郎の立ち姿は雅の一言に尽きる。二人が並び立てば、煌びやかな上に雅やかで、これならば妖も極上の贄と油断すること間違いなしだ。
「では参ろうか」
「うむ、いくかの!」
しゃなりしゃなりと美しい所作を見せながら、二人は今夜の舞台となるであろう大広間へと向かう――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
弓弦葉・晴周
花嫁衣裳でございますか
ふふ、麗しい花嫁が既にいらっしゃるようですし
私は宴を楽しませていただきますね
花嫁衣裳に袖通す皆様を眺めておりますと、思い出しますね
我が主が婚礼の儀式を挙げた時の事を
お相手の姫君は私の親類でしたので、お相手に問題はなく
何より、月の君が姫の心を掴むのに、それはもう懸命で
苦手なお歌は…結局お上手にはなりませんでしたが
それでも、月の君の誠意と想いが実り、
晴れの日を迎えられた時は、この晴周の喜びもひとしおでございました
月の君の御子様である尭暁様もいずれは妃を迎えるでしょうが
その時は、必ずや我が主にも――
ふふ、これ以上は言いますまい
華やかな皆様の御姿を眺めつつ、ゆるりと過ごしましょう
●麗しきは月
大広間の宴は賑やかで、妖が生贄を求めて来襲するなどとは思えぬほど。しかし弓弦葉・晴周(月に焦がれる・f43172)は知っている、この宴はこれから戦う者達の士気を鼓舞するものであり、妖の油断を誘う為のものであると。
「しかし……花嫁衣裳でございますか。ふふ、麗しい花嫁が既にいらっしゃるようですし、私は宴を楽しませていただきますね」
大広間の目立たぬ場所に座り、適度に料理を楽しみながら着替えが終わった猟兵達の花嫁姿に晴周が小さく微笑む。
「花嫁がこれだけいれば、妖も油断することでしょう」
その油断を突いて死角から攻撃すれば……と策を講じていた晴周がふと顔を上げると、白無垢が目に入って動きを止めた。
「……思い出しますね、我が主が婚礼の儀式を挙げた時の事を」
今でも鮮明に覚えている、月の君の婚礼。お相手となる姫君は晴周の親類で、なにひとつとして問題はなく、周囲の誰からも認められた美しき姫であった。
「何より、月の君が姫の心を掴むのに、それはもう懸命で」
文や贈り物は元より、珍しい菓子が届けば真っ先に姫君にと心を遣わせていたもの。思い出すと、その可愛らしい姿に思わず笑みが零れてしまうくらいだ。
「苦手なお歌は……結局お上手にはなりませんでしたが」
しかしそんな完璧ではない部分も、姫君の心に響いたのだろう。月の君の誠意と想いは姫の心に花を咲かせ、実を結び。とうとう晴れの日を迎えた時には、感情を露わにすることのない晴周であっても心が震えたものだ。
「あの時の喜びは……そうですね、月の君の御子様が御生まれになった時と同じくらいでしょうか」
ちらりと見えた金糸の如き煌めきに、晴周は小さく唇の端を持ち上げる。
「月の君の御子様である尭暁様もいずれは妃を迎えるでしょうが……その時は、必ずや我が主にも――」
言いかけた言葉を途中で止め、晴周は外へと視線を向ける。東から昇った月が、もうすぐ中天へさしかかろうとしていた。
「ふふ、これ以上は言いますまい」
言葉にせずとも、これは必ずや叶えること。
妖が来るまでのもう暫しの時間を、華やかな花嫁達の姿を眺めつつゆるりと過ごそうと晴周は口を閉ざし、用意された膳に再び手を付けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
◯
花嫁衣装、かぁ…
まあ相手もいない私には関係ない話ですね。
と、素通りしようとしたけれど。
(…でも、白無垢はちょっと着てみたいんですよね)
いやいや結婚前に花嫁衣装着ると嫁に行き遅れるとかなんとか聞いたことあるし、とか葛藤しながらも。
…結局来ちゃった…
いやこれはあくまで囮のためですから!
でもやっぱり、ずらっと並ぶ花嫁衣装の数々を見ればつい心が浮き立ってしまうもの。
あー、ドレスも綺麗だな、和装ドレスもいいし…
って、はしゃぐ歳でもないでしょもう…
気恥ずかしくなりつつもごく淡い水色の掛下に純白の白無垢を合わせて。
わ、自分で言うのもなんだけど
綺麗…
(でもこの姿をあの人が見てくれるわけじゃないんですよね…)
●隣に立っていてほしいのは
一部屋を埋め尽くすほどの花嫁衣裳を前にして、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)はどうして来てしまったのだろうか……と過去の自分を振り返る。
「花嫁衣裳、かぁ……」
グリモアベースでこの依頼の話を聞き、まず思ったのは相手もいない自分には関係ない話ですね、である。足を止めるまでもなく、素通りして違う依頼を聞いてみようかなんて思いはしたけれど。
花嫁衣裳の種類が豊富という言葉が耳に飛び込んできて、ふと白無垢姿の自分を思い浮かべてしまったのだ。
「……悪くないのでは」
だって、ちょっと着てみたいじゃないですか白無垢……! と思う傍らで、結婚前に花嫁衣裳を着るとお嫁に行き遅れるなんて話もあるし、でも無償で、しかも|大手を振って着れる機会《生贄として花嫁姿になるという建前》なんて滅多にないし……などと葛藤しつつ、詩織は開かれたゲートに飛び込んでしまったのである。
「いやこれはあくまで囮のためですから!」
猟兵としてのお仕事なのだから、何もやましいことなんてないのだと気合を入れて、詩織はずらりと並ぶ花嫁衣裳を選びにかかった。
「あー、白無垢がいいと思っていたけれど、ドレスも綺麗だな、和装ドレスもいいし……」
相手がいなくたって、ずらりと並ぶ花嫁衣裳を前にして心が浮き立たないわけがない。あれも素敵、これも素敵とついつい色々手に取って、鏡に向かって当ててみたりして。一通り楽しんだ後に、ハッと我に返ったのである。
「って、はしゃぐ歳でもないでしょ、もう……」
いくつになったって花嫁衣裳は心浮き立つものだから、何も恥ずかしがることはないのだけれど詩織は気恥ずかしさから頬を赤く染めて、それでも囮の為だからと白無垢を手に取った。
合わせるのはごく薄い水色の色掛下、本来であればそれも真っ白であるべきだけれど、それは本番に取っておきたいだなんて乙女心。女房達に着せてもらい、鏡の前に立ってみれば――。
「わ、綺麗……薄い水色がサムシングブルーにもぴったりで……」
自分で言うのもなんだけれど、本当にそれは自分によく似合っていた。本番だってこっちの方がいいんじゃ……? なんて思ってしまうほど。
「でも……」
ふっと視線を落とし、詩織は脳裏に浮かべたあの人がこの姿を見てくれるわけじゃないんですよね……と吐息を零す。
「い、いえいえ、今日はそういうのではないですから!」
妖を倒す為に来たのだから! と自分に活を入れ、詩織は大広間へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ミルナ・シャイン
頼典様(f42896)と
花嫁衣装!もちろんとっても興味ありますとも!
頼典様も女装して囮されますの?それはちょっと見たいかも…
お化粧はわたくしにおまかせを、去年いただいた京紅つけてみます?
京紅『紅桜』をお揃いで差して。
今回は和風に挑戦してみようかしら。白無垢も着てみたかったんですのよね。
白無垢に淡いピンクの掛下で可愛く、頼典様から贈られた白紫陽花の髪飾りをつけて。
頼典様も白無垢どうですか、頼典様には差し色で赤を入れた白無垢が似合うと思いますの!
綿帽子を被れば顔も隠せますし。
まあ…どうしましょう、あまりに美しすぎて妖に目をつけられてしまいそう。
ああ泣かないで頼子お姉様、わたくしがお守りしますから!
八秦・頼典
ミルナ様(f34969)と
生贄たる花嫁を捧げよ…か
妖が人身御供を求める話はよくあるけど、まさか白羽の矢が立ったのが平安結界の護り手たる貴族の屋敷とはね
知らずに射ったかそれとも挑戦状か…何はともあれ面白そうな事件に変わりない
無用な混乱を避けるべく位階は隠して…勿論ミルナ様だけを囮とせず化粧を専門家のミルナ様に委ねてボクも花嫁姿に扮しよう
折角だから勧められた差し色違いの白無垢を選んでみたり、生贄に選ばれて嘆く姉妹の姫君を演じてみたり
ボクが贈った紅で自分が紅差しの儀をされる側になるとは数奇な物だけど…うん、中々の美女じゃないか
ああ、ミルナ
貴方も選ばれるだなんて姉の頼子は悲しいです、よよよ…なーんてね
●共にふたりで
アヤカシエンパイアの平安貴族であり陰陽師でもある八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は、平安結界の重要さもそれを護る役目を負う者達の強さも、どちらも充分に理解している。だからこそ、妖が人身御供を求め白羽の矢を立てたのが護り手たる貴族の屋敷であることに軽く首を傾げた。
「生贄たる花嫁を捧げよ……か。知らずに射ったかそれとも挑戦状か……」
どちらにせよ、面白そうな事件だと頼典は唇の端を持ち上げ、共にやってきたミルナ・シャイン(トロピカルラグーン・f34969)へと声を掛ける。
「さて、ミルナ様は花嫁衣裳に興味はおありかな?」
「花嫁衣裳! もちろんとっても興味ありますとも!」
ぴちり、と人魚の尾を跳ねさせてミルナが力いっぱい頷いた。
「では宴会よりもボクらは花嫁衣裳が用意されている広間に参りましょうか」
お手をどうぞ、と頼典が手を差し出せば、ミルナの白く細い指先がその手を取ってうきうきそわそわと広間へと向かう。待っていた女房がそっと襖を開けると、ずらりと並んだ花嫁衣裳にミルナが藍玉の瞳を瞬かせた。
「まあ……まあまあまあ! 花嫁衣裳がいっぱいですわ!」
「これはまた、よく集めたものだね」
和風に洋風だけではなく、和風のドレスなんてものまでずらりと揃えられていて、どれにしようか悩むのは必至だ。
「どれにしようかしら……!」
「迷うね、ボクに似合うのはどれだろうか」
「頼典様も女装して囮されますの?」
ミルナの少し驚いたような言葉に、頼典が優しく微笑む。
「勿論、ミルナ様だけを囮とするようなまねはしないよ。隣で守るならボクも花嫁に扮するべきだからね」
「それはちょっと見たいかも…あ、いえ、頼典様も女装されるならお化粧はわたくしにおまかせを、去年いただいた京紅つけてみます? 京紅『紅桜』をお揃いで差して」
「心強いな、専門家のミルナ様にお任せするよ。ボクが贈った紅を揃いでつける……ふふ、特別な感じがするね」
絶対にわたくしがします! というミルナの気概を感じ、頼典が頷く。それから、改めてどの衣装にしようかと二人で花嫁衣裳を吟味することにした。
「ミルナ様は和風と洋風ならどちらがいいかな」
「どちらも素敵ですけれど、今回は和風に挑戦してみようかしら。白無垢も着てみたかったんですのよね……白無垢に淡いピンクの掛下で可愛く、頼典様から贈られた白紫陽花の髪飾りをつけて……」
「ミルナ様の白無垢……似合うと思うよ」
「頼典様も白無垢どうですか、頼典様には差し色で赤を入れた白無垢が似合うと思いますの! 綿帽子を被れば顔も隠せますし」
美容系の専門学校に通うミルナの意見はセンスもよく、何より彼女と差し色違いの衣装とあれば頼典に否はない。
「では、ミルナ様と揃いの衣装としようか」
まずはお化粧、とミルナが鮮やかな手付きで頼典に化粧を施し、そして女房達が着付けを手伝う間にミルナも化粧をし、白無垢を着こなせば――そこには美しい白無垢姿の花嫁が二人。
「仕上げに紅をさしましょう、頼典様」
「ふふ、ボクが贈った紅で自分が紅差しの儀をされる側になるとは数奇な物だけど……これもまた一興だね」
鏡に映る己の姿は美女そのもので、頼典が笑う。
「うん、中々の美女じゃないか」
「まあ……どうしましょう、あまりに美しすぎて妖に目をつけられてしまいそう」
「ミルナ様の方が美しいよ。そうだ、折角だから生贄に選ばれて嘆く姉妹の振りも良いかもしれないね」
そう言うと頼典が口元を手で隠し、僅かに高い声で演じてみせる。
「ああ、ミルナ。貴方も選ばれるだなんて姉の頼子は悲しいです、よよよ……」
「まあ、泣かないで頼子お姉さま、わたくしがお守りしますから!」
頼典にのってミルナがそう言うと、二人で顔を見合わせて笑いだす。
「なんてね、遊んでいないでそろそろ行こうか」
「はい、頼典様」
大広間には平安貴族が多くいるだろうから、なるべく無用な混乱を避ける為に正一位の位階は隠しておかなくては……と思いながら、頼典はミルナの手を取り大広間へと向かうのであった。
大成功
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シリルーン・アーンスランド
背の君陸井さま(f35296)と
花嫁衣裳、特に和装に興味がありますの
式で纏いましたはドレスにて
そわそわし居りましたら
陸井さまがお誘い下さいました
でも恐らく陸井さまはわたくし一人で参ることに
ご懸念ありお声掛け下さったのです
本当に何年経っても過保護でらっしゃいます
「何て素晴らしいご衣裳でしょう」
拝見するどれも素晴らしく惑っておりましたが
いつの間にか陸井さまが身丈も正確に合うものを
お選びあそばし
甘いお顔で似合うよなどと仰せにて
この後の事はおいて嬉しさが先立ちます
でも、それはそうとして
わたくしのサイズを常に正確に把握しておいでの異能は
どう培っておいでなのでしょう
伺っても今日もはぐらかされてしまいました
凶月・陸井
愛する妻のシリルと(f35374)と
シリルが依頼を見てそわそわしていたから
折角だから花嫁衣裳を着に行くかと誘ってみたよ
だけど多分、シリルは生贄を求める妖退治に
向かっていただろうから
そんな妻を心配して声をかけたのもあるけどね
「それじゃあ、エスコートさせていただくよ」
結婚式を挙げた時の花嫁衣装もよかったけど
他の様式も着せてあげたいんだ
シリルは日頃は洋装が多めで
それも似合っているし素晴らしいけど
戦う際に纏う和装も本当に何時も見惚れるから
沢山の衣装に目を輝かせる妻に、笑みが零れる
迷っている様子だからそっと白の引き振袖を取り
これは絶対に似合うよと伝えて
サイズの件は秘密だ
「愛する妻の事だから、解るんだよ」
●花嫁衣裳をもう一度
愛する妻の望みであれば、どんなことでも叶えてあげたいと思うのは当然のこと――それは凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)にとっても例外ではなく、シリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)が興味を持ったであろう依頼に目を通す。
「なるほど、花嫁衣裳か」
銀の雨降る世界で挙げた結婚式、その時にシリルーンが選んだのは純白のレースで飾られたドレス。今でも目を閉じれば、その美しさを鮮明に思い出せると陸井は小さく微笑む。
「となると、和装に興味があるのだろうね」
結婚式以外で花嫁衣裳を着る機会は中々ない、それが生贄となる為の花嫁衣裳――正確に言えば妖を油断させるための罠だが――であったとしても、だ。
「それにシリルは花嫁衣裳を着れなかったとしても、生贄を求める妖退治に向かうだろうし」
一人で向かうだけの実力はある、けれどそれと心配する気持ちは別物。陸井はさり気なさを装って、折角だから花嫁衣裳を着に行くかと、シリルーンを誘ったのだった。
「まあ、よろしいのですか?」
「勿論。それじゃあ、エスコートさせていただくよ」
和装が気になるとそわそわしていたシリルーンにとって、愛する旦那様からのお誘いを断るなんてことは勿論なく、二人はアヤカシエンパイアの貴族の邸宅へと訪れていた。
花嫁衣裳が揃えられている広間へと案内され、二人は女房の後ろをついて歩く。シリルーンはちらりと陸井を見上げ、恐らく自分が一人で向かうことを心配してくれたのだろうと思う。本当に、何年経っても過保護でいらっしゃいます、と嬉しさとくすぐったさを感じ、じんわりと胸の奥があったかくなるような気持ちになって、小さく笑った。
「こちらにございます、どうぞお好きなものをお選びくださいませ。選びましたら、お声掛けくださればわたくし共が着付けいたします」
「ありがとうございます」
女房の言葉に礼を言い、二人で広間に入ると目の前に広がっていたのは和装洋装を問わぬ花嫁衣裳の数々。
「まあ、本当にたくさんありますのね」
「本当だ、和装にドレスに、選び放題だな」
思わず陸井の視線が向いたのは、白のレースがふんだんに使用されたドレス。それはあの日、シリルーンが纏ったドレスに似ていたからだ。
「なんだか懐かしい気分になるな」
「陸井さまが望むなら、もう一度着てもいいですわ」
和装をと思ってきたけれど、洋装でもと言うシリルーンに陸井が小さく首を横に振る。
「結婚式を挙げた時の花嫁衣装もよかったけど、他の様式も着せてあげたいんだ」
「陸井さま……」
「シリルは日頃は洋装が多めで、それも似合っているし素晴らしいけど……戦う際に纏う和装も本当に何時も見惚れるから」
黒地に桜の振袖に臙脂色の袴姿のシリルーンは大和撫子も斯くやという美しさで、陸井は何度だって彼女に惚れ直しているのだ。
「だからね、ぜひ和装をと思っているよ」
「陸井さま……はい、そういたしますわね」
夫に喜んでもらおうと、シリルーンはどれがいいかと和装の花嫁衣裳を眺めて歩く。白無垢も素敵だし、色打掛だって目を引いて、どれにすればいいのかと迷ってしまうほどだ。
楽しそうなシリルーンの様子に陸井が笑みを零し、決めきれないと嬉しい悩みを口にする彼女にそっと白の引き振袖を手渡す。
「これは絶対にシリルに似合うよ」
「まあ……なんて素敵なんでしょう」
迷っているうちに陸井が選んでくれた衣装は身体に当ててみれば確かにシリルーンによく似合っていて、陸井を見上げれば『ほらね』と得意そうに甘い笑顔を向けるものだから、シリルーンは嬉しさに頬を赤く染めて白の引き振袖にすることにした。
女房達に着付けてもらえば、身丈も丁度良くまるでシリルーンの為に誂えたかのよう。
「相変わらず、陸井さまはわたくしのサイズを常に正確に把握しておいでですわね……」
特技とも、異能とも呼べるそれは、いったいどうやって培っているのかとシリルーンが陸井へ問い掛ける。
「それはね、愛する妻のことだから、解るんだよ」
「もう、陸井さまったら」
今日もはぐらかされてしまったわ、とシリルーンが小さく頬を膨らませると、それすらも可愛らしいと陸井が笑う。
「いつか教えていただきますからね、陸井さま」
「はは、お手柔らかに頼むよ」
愛おし気に陸井がシリルーンの手を取って、まるで結婚式場に向かうかのようにエスコートをしてくれる。その優しさに、この後の事を考えつつも嬉しさが先立って、シリルーンは蕩けるように微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浅間・墨
ロベルタ(f22361)さん。
確かに妖に対して抗える方々からの要請とは気になります。
相当強力な実力者なのでしょう。少し緊張してしまいますね。
それはそうと貴族のお屋敷に到着した後の様子が少し妙です。
衣装を変えるのはいいのですが…何故白無垢なのでしょう?
ロベルタさんに伺おうにも彼女は見当たりません。どこへ?
そして私に着付けをして頂いている方々は問答無用ですし…。
髪型を整える際に数年ぶりに前髪を上げて視界が広いです。
「…なるほど」
身形を整えたあとで初めてその意図を教えていただきました。
見染められたのでもなくお家騒動でもないようで…安心です。
「…その…」
質問できそうな雰囲気なので疑問に思ったことを幾つか伺います。
例えば。
囮に使用する部屋の広さや部屋に武器を隠しておけるか…等々。
可能ならばその部屋を少し見せていただけるか聞いてみますね。
その最低でも愛刀を隠す場所を確認しておきたいので。
もし難しい場合は出たとこ勝負で何とかしようと思います。
あ。食事は控えますね。折角の和装を汚してしまっては困ります。
ロベルタ・ヴェルディアナ
墨(f19200)ねー。
「どれも動き難そうだよねぃ~。」
墨ねーは和装なら僕は洋装かな。うー。スカートが多いじぇ。
僕の武器が両脚って考えるとスカート型の花嫁衣装はねぃ。
「ズボンの花嫁衣裳って…流石に無いよねぃ?」
一応貴族の人達に聞いてみるよ。あったら儲けな感覚だねぃ。
衣装を探して貰ってる間に妖のことを聞いてみようかな。
「脅してきた妖って見当がついてるの?」
特定は難しくても目星はついてるかな…って聞いてみるじぇ。
相手をなるべく知っておくことは有利になるからねぃ~♪
可能なら戦闘方法とかも知りたいな。…やっぱり難しい?
顔とか身形だけでも知っておきたいかな。…なるべく。
「そっか♪ ありがとーねぃ」
情報が無くても少なくてもお礼は必ず言うじぇ。
…。
聞いた時の表情でも情報を得られるかなと考えてたり。
例えばお家騒動とかだったら妙な感じになるかなーって。
考えすぎならいいんだけど一応ね~♪
「さて。墨ねーは…おぉ!! 綺麗な花嫁さんだじぇ!!」
え?事情説明?…そーいえば言ってなかったねぃ。墨ねーには。
●花嫁様は名探偵!?
アヤカシエンパイアの平安貴族からの応援要請、ロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)からそう聞いて浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)はそれならば助力するべきでしょう、とロベルタの誘いに一も二もなく頷き、件の邸宅へとやってきていた。
「墨ねー、これが白羽の矢が立ったとかいう傷跡かねぃ?」
「……確かに……矢の痕が見えますね」
門の傷痕に墨が頷くと、ロベルタはひょいっと中へと入る。その後ろをついて歩きながら、墨は屋敷の人々を遠目に見遣りロベルタへと視線を向けた。
「……あの貴族の方々もユーベルコード使いなのですよね? 妖に対して抗える方々からの応援要請とは気になります」
「なんかめっちゃ強い妖らしいじぇ」
「……ええ、相当強力な実力者なのでしょう」
そう思うと、少し緊張してしまいますね……なんて思いながら屋敷の中に入れば、女房達が二人を案内してくれる。
「お待ちしておりました、ではお衣装を用意した広間へご案内いたします」
「よろしくだじぇ!」
「……衣装部屋……? ロベルタさん、衣装とは……」
「衣装チェンジなんだじぇ!」
墨の求める答えではない言葉を元気よく言うロベルタに墨が少しばかり困惑しつつ、案内されるままに通された広間に墨は前髪に隠された瞳を瞬いた。
「……花嫁衣裳……ですか?」
眼前に広がるのは白い花嫁衣裳から色鮮やかな花嫁衣裳まで、このアヤカシエンパイアの世界以外からも集めたのか、洋風のものまで取り揃えられている。
「どれも動き難そうだよねぃ~。墨ねーはどれにするんだじぇ?」
「……私は……」
どれにする、と言われても花嫁衣裳に着替えるだなんて聞いていない墨は着替える必要はないのでは、とロベルタに視線を送る。
「ん? あ、墨ねーは和装の方が動きやすかったりするのかねぃ」
「……ええと、洋装か和装かと言われれば……そうかもしれません、が」
そう言うことではなく、と続けようとした墨の言葉を遮って、ロベルタが女房達に笑みを向けた。
「おねーさんたち、墨ねーは和装がいいみたいだじぇ!」
「まあ、それでしたら白無垢がよろしいのではないでしょうか」
「白無垢……うん! 墨ねーにはこれが似合うんだじぇ!」
これ! と指さされた衣装は純和風の白無垢で、墨が何か言うよりも先に女房達が手早く墨を脱がせ、白無垢へ着替えさせていく。
「……あ、あの、衣装を変えるのはいいのですが……」
百歩譲ってまあいいとしよう、と墨はロベルタに声を掛ける。
「……何故白無垢なのでしょう?」
墨ほどの手練れであれば女房達から逃げ出すことも可能であったが、彼女達を傷付けるような真似はしたくなかったし、何よりロベルタがこれだと決めてくれたので、されるがままになりつつそう言うけれど――ロベルタからの返事は無くて。
「……どこへ?」
「もう一人のお嬢様でしたら、自分の衣装を見繕いに向かわれました」
「……そうですか……」
自由なロベルタのこと、落ち着いたら理由も教えてもらえるだろうと墨は女房達に身を任せ、着替えが終わるのをただひたすらに待つことにした。
そんな墨を知ってか知らずか、ロベルタは他の女房と話をしながら自分の衣装をどうしようかとドレスを眺める。
「墨ねーが和装なら僕は洋装かな。うー。スカートが多いじぇ……」
ロベルタの武器はこのすらりと伸びた両脚、そう考えるとスカート型の花嫁衣裳は武器を殺すも同然だ。
「ズボンの花嫁衣裳って……流石に無いよねぃ?」
「ございますよ」
「あるの!?」
ダメ元の質問だったが、聞けばパンツスーツタイプの花嫁衣裳というものがあるらしい。それがいい! とロベルタが言うと、すぐに女房達が持ってきてくれて、ロベルタのサイズに合わせて裾上げをしたりウエストを詰めたりとしてくれる。その間に、ロベルタは世間話のように今回の妖について質問することにした。
「脅してきた妖って見当がついてるの?」
「見当でございますか? 私共は詳しくは聞いておりませぬが、どうやら過去に当家を逆恨みした陰陽師が妖に身を落としたのではないか……なんて話もございますね」
「へー敵は陰陽師ってことかねぃ?」
「当主様はそう睨んでおいでだと聞いております」
「なるほどねぃ……顔とか戦い方とかは知ってる?」
「申し訳ございません、そこまでは……」
「そっか♪ ありがとーねぃ」
本当に知らないのだろうとロベルタがあたりを付けると、礼を言って自分の支度が済むのを待つ。体のラインにぴったりとフィットするパンツスタイルに、オーバースカートになったペプラムベアトップス。それにヒールのある靴を合わせ、ヴェールを被れば花嫁の出来上がり。ヒールは妖と戦う寸前まで脱いだ状態にはなるけれど、それくらいは些事というものだ。
「おー! めっちゃ綺麗なんだじぇ♪ さて。墨ねーは……おぉ!! 綺麗な花嫁さんだじぇ!!」
「……ロベルタさんも大変お綺麗です」
「へへーありがとねぃ! 墨ねーが前髪あげてるのちょー珍しいんだじぇ~~」
「……私も数年ぶりに前髪を上げて視界が広いです」
ちょっと恥ずかしいけれど、白無垢であれば髪は結い上げ前髪も綺麗に上げるもの。角隠しのお陰で俯けば顔を隠せるけれど、それはなんだかもったいない気がして墨はロベルタを見遣る。
「……ところでロベルタさん。この花嫁衣裳の事情説明を……」
「え? 事情説明? ……そーいえば言ってなかったねぃ。墨ねーには」
大抵いつも事後承諾なのだが、それは置いておいて。ロベルタは妖が求めるのが生贄の花嫁であること、そして妖がもしかしたらこの邸宅の貴族に逆恨みをして妖に堕ちた陰陽師かもしれないことを伝える。
「……なるほど。見染められたのでもなく、お家騒動でもないようで……一安心です」
本当に嫁入りだなんてことになったらどうしよう、なんて考えていた墨はほっと胸をなでおろす。それから、妖が生贄を求めてくるならば、迎え撃つ場所や武器をどうしておくかなどを女房達に問い掛けた。
「それでしたら、こちらに」
迎え撃つは大広間、宴は最高潮といったところだろうか。しかしよく見れば酒精を口にする者達は酔っ払っているようでもなく、理性はしっかりと持っているようだと墨は思う。
「武器はこちらに」
ふかふかの大きな座布団、少しはみ出る分は白無垢の裾で隠せるだろう。既に花嫁衣裳に身を包んだ猟兵達が妖の出現を警戒しつつ、楽に口に運べる軽食を摘まんでいるのが見えた。
「お食事は如何なさいますか?」
「……ありがとうございます、私は控えさせてもらいますね」
折角の和装を汚してしまっては大変だと、墨がやんわりと断る。
「僕はもらうんだじぇ!」
その隣で、腹が減っては戦が出来ぬだよねぃ、とロベルタが笑う。
「……では、ロベルタさんには食べやすいものを……」
出来るだけ衣装を汚さず食べられるものを……と墨が言葉にせず伝えると、心得たとばかりに女房達が頷いた。
月はもうすぐ中天に差し掛かる頃、あまり待たずに妖が出てくるだろうと墨はロベルタの分まで油断せず事に当たろうと、決意を新たにするのであった。
大成功
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