ワイクラーは呼ぶ、極星を
リズ・ヴィアル
●合わせ人数
オーレリア
リズ
以上二人です。
以下は執筆時の参考としてください
●オーレリアの出自
セルジュとクロエ(妻)の娘で長女です。
ランベール家の次期当主として最も有力視されています。
●オーレリアの性格
小泉構文で喋ります。
「小泉構文で喋るということは、小泉構文で会話するということです」
淑やかですが勇猛です。
「戦いに際しては、冷静な心に平静な思いを」
生まれや身分に関わらず、誰とでも平等に接します。
「人の命は皆平等です。つまり、命の価値は皆等しいのです」
ランベール家が標榜する自由と平和を背負い、民を導き、いずれ王家の支配から解放する事が己の使命だと考えています。
●兄妹関係
黒い三連星みたいな三人の兄がいます。
「わたくしの三人の兄は三兄弟です」
ナタリーという妹がいます。
「妹のナタリーはわたくしの妹です」
今回のノベルには関与してこないので気にしないでください。
●幼少期
次期当主候補として、幼い頃から英才教育を受けていました。
士官学校の幼年部に入学後、才覚を順調に開花させていきました。
なお、エレインとは同じ歳の同級生です。
エレインからは一方的にライバル視されていました。
一方のオーレリアは、エレインを同級生と認識していました。
「ランベール公爵家のエレイン様は、同学年の同級生です」
全ての成績において、オーレリアはエレインを上回っていました。
ですがオーレリアはそれを引き合いに出すような事はしません。
エレインは非常に悔しがっていました。
●卒業後
士官学校を歴代首位の成績で卒業した後、エルネイジェ王国軍に入隊しました。
その数年後、ランベール侯爵領の配属となりました。
そこでポラリス騎士団に編入されました。
●ポラリス騎士団
ランベール家直轄の近衛部隊です。
規模は侯爵階級の中でも最大の強豪軍です。
さらに同派閥との連携力にも優れており、王国軍の精鋭部隊に匹敵するとされています。
装備の質と兵士の練度も高水準です。
管轄する領地の面積が広大な事から、豊富な実戦経験を持ちます。
「簡潔に言い表すなら、精鋭の兵士を揃えた精鋭部隊です」
●オリーブ騎士団
医療や兵站確保など、戦闘以外に特化した近衛部隊です。
特に人道支援分野に秀でた能力を有し、国内外に対するランベール家の影響力を高める一翼を担っています。
今回のノベルでは関与してこないので気にしないでください。
●現在
最近になって猟兵化しました。
「わたくしが猟兵になったということは、わたくしは猟兵であるということです」
聖竜騎士団に属するつもりはなく、ランベール家の名の下に、国民のために力を使うつもりでいます。
●ランベール家の紋章(オーレリアのイラストを参照してください)
オリーブとポラリスです。
オリーブは自由・知恵・平和を表します。
ポラリスは導き・揺るがぬ目標・弱者への理解を表します。
この紋章がランベール家の掲げる政策を示しています。
●リズとの関係
士官学校に入学するまでの間を一緒に過ごしていました。
「リズはもっとも信頼を置ける使用人であり、もっとも心を許せるメイドなのです」
共に訓練に勤しんだりしていました。
「リズと訓練を積むことで、よりトレーニングを重ねることができました」
なお、ランベール家の使用人は、主を守るために卓越した私兵である事が求められています。
リズも例外ではありません。
【ワイクラーは呼ぶ、力の在処を】の中でリズの「……訓練、きつかった……」という台詞がありますが、本当にきつい訓練を積んでいます。
内容には特殊部隊のトレーニングメニューを織り込んだとされています。
「走らされるんですよ……壁とか……最近はけっこう走ってられるようになったけど……」
●リズから見たオーレリア
大事なお嬢様です。
「オーレリアお嬢様って私より二つ年下なんですよ……信じられませんよね……でも私なんかよりずっとしっかりしてて……早く生まれてきてごめんなさい……」
「私って信頼されてるらしいです……こんなコミュ障なのに……」
「あ……でもお茶の好みはちゃんと覚えてるんで……信頼されても大丈夫……そこだけは……でゅふっ……」
「ちょっと独特ですよね……オーレリアお嬢様の喋り方って……あっ……今のは忘れて……!」
●王家への印象
良い印象を抱いていません。
「覇権主義と軍拡にひた走る姿勢は、覇権を伸ばし、軍事力を拡大する行為です」
「戦いが広まるほどに争いが広がり、民は疲弊と疲労に苛まれ、生活が脅威に脅かされているのです」
●聖竜騎士団への印象
良い印象を抱いていません。
「猟兵を管理・監督するということは、猟兵を監視し、見張るということです。それを建前に、国に住まう国民のために使われるべき力を、王家がひとりで独占しているように思えてなりません」
「猟兵の力は危険性が高く、危ないというなら、暴走して制御不能に陥った場合に備え、分散させ、拡散し、力の均衡のバランスを保って維持するべきではありませんか?」
オーレリア・ランベール
オーレリアの猟兵化が判明した際のノベルをお願いします。
アドリブその他諸々歓迎です。
●判明した切欠
ある日、オーレリアは戦いに赴いていました。
その際に敵を盾で殴打しました。
すると敵があり得ない勢いで吹っ飛んでいきました。
「敵が遠くに吹き飛ばされたということは、敵が彼方に弾き飛ばされたということ……?」
後にそれがユーベルコードだと判明します。
●オーレリア、猟兵になった
後日のランベール侯爵邸にて。
遂にランベール家の血統から猟兵が生まれました。
しかし当主のセルジュは神妙な面持ちをしていました。
「望みであり、喜ばしい事ではあるが……よりによって次期当主のオーレリアとはな。作為的な運命を感じずにはいられん」
オーレリアもまた神妙な面持ちでした。
「わたくしも、素直に受け入れることができませんでした。けれど、選ばれたのだと思いたい。なぜなら、選ばれたということは、定められたということなのですから」
オーレリアは手のひらの上で浮かぶランベール家の紋章を見つめながら言いました。
セルジュはオーレリアの言葉に「ん?」と違和感を覚えました。
ですが言いたい事は分かるので気にしないことにしました。
「しかもリズに続いてグリモアまで有しているとはな」
セルジュの顔はますます神妙さを増しました。
「オーレリアお嬢様とお揃い……なんかごめんなさい……私なんかがお揃いで……」
リズは萎縮していました。
●リズ、オーレリアの専属メイドになる
「言うまでもないだろうが、今後はオーレリアにも猟兵としての働きを担ってもらう」
セルジュの言葉にオーレリアは深く頷きました。
「その覚悟でいます。わたくしはこの猟兵の力で、民が安心して眠れる日々を守りたい。それが、民が穏やかに安らげる日々となるのですから」
セルジュは「ん?」となりました。
「そして、民に自由と平和をもたらしたい。自由と平和は、民にもたらされるべきものなのですから」
セルジュはさらに「んん?」となりました。
「だからわたくしは、この力を振るうことを、躊躇いません。躊躇ってしまえば……力は、振るえませんから」
セルジュはもっと「んんん?」となりました。
ですが言っている事の意味は分かるので、気にしない事にしました。
「リズ……この瞬間より、お前をオーレリア専属の使用人に任命する」
「うひぇっ……!?」
リズは驚きました。
「オーレリアの助けとなり、ランベール家の助けとなってもらいたい。頼めるな?」
「リズ、わたくしからもお願いします。リズが猟兵になった時期は、わたくしよりも先。わたくしより先に猟兵になったという事は、わたくしより早い時期に猟兵になったという事です」
オーレリアの言葉にリズは「ん?」となりました。
「きっと、わたくしがリズから学ぶことも多いのでしょう。学ぶことが多いということは、リズから教わることが多いということです」
リズはさらに「んん?」となりました。
「それに――わたくし達は幼い頃から共に過ごしてきました。リズなら信頼できます。だって、信頼を置けるのがリズなのですから」
リズはもっと「んんん?」となりました。
ですが話しの内容は理解できました。
「が、ががががっがんばります……はい……自信ないけど……」
二人から頼まれたリズに選択肢はありませんでした。
●オーレリア、修行に出される
「さて……オーレリア、この後についてだが……リズと同様、当面は才能の研鑽に務めるのが適切と考えているのだが、どうか?」
セルジュの考えにオーレリアも異存はありませんでした。
「なにぶん、猟兵としての才能は、まだ手探りの状態です。手探りの状態というのは、探っている最中にあるということです」
セルジュは「ん?」となりました。
「聖竜騎士団に倣うなら、猟兵の才能は、多くの戦いを経て、次第に高まってゆくものかと思われます。戦いを通じてこそ、戦いの中でしか得られないものがあるのでしょう」
セルジュはさらに「んん?」となりました。
ですが言っている事はもっともらしいので気にしない事にしました。
「オーレリアとリズが自由に行動できるよう、関係各所には私が直々に取り計らう。必要とあらばランベール家が持つあらゆる権力を使っても構わない」
「お父様……お言葉ですが、わたくしはそこまで傲慢に振る舞えません。傲慢に振る舞うことは、わたくしにはできないことです」
セルジュはまた(以下略)
「猟兵となった今でも――わたくしは、ランベール家の一員であることに変わりはございません。ランベール家の一員であるということは、ランベールの名を背負う者ということです」
セルジュ(以下略)
「うむ。よい心がけだ。過ぎたる力を持てばそれに溺れ、いずれ我が身を滅ぼす。その節制を常々忘れずにな」
「ですが、いずれはこの力……民を王家から解放するために……」
オーレリアがそこまで言いかけると、セルジュは首を横に振りました。
「拙速が過ぎる。今は待つべき時だ。民には忍耐を強いてしまうが……旧き病に侵されたこの国に、自由と平和をもたらすには、まだ時間が必要なのだ」
「……わたくしは、病巣を断つ導きの光となれるように、努力は惜しまないつもりです。その努力は、導きの光となるための歩みです」
セル(以下略)
「オリーブの知恵と、ポラリスの導き――それが、ランベール家の本分です。本分というものは、本分であるからこそ、本分といえるのですから」
セ(以下略)
難しい話しをしているセルジュとオーレリアの間で、リズはおどおどしていました。
「あ……あの……いります? お茶のおかわり……」
だいたいこんな感じでお願いします。
●幕間
猟兵という存在のことを考える。
世界は骸の海に浮かんでいる。
骸の海が世界から排出された『過去』の集積体であるというのだから、当然のことだ。
そう、時間は消費されていく。
消費される時間は、『質量を持つ物質』。
この消費に寄って時は前に進む。
世界に生きる存在はすべて、『時間を消費して生きている』のだ。
となれば、猟兵とは自然現象でしかない。
世界に過去が満ちることを是としない排出機構であるとも言える。
何故、そうするのか。
消費された時間は過去に変わる。
未来とは過去を排出することで生産される可能性。
だが、世界とて完全無欠ではない。
骸の海に世界が浮かぶのならば、当然、染み出すこともあるだろう。
滲み出た過去が受肉した形が『オブリビオン』。
失われた過去の化身。
かつて世界に存在した者の姿。
明確な『世界の敵』。
それゆえに世界は選ぶ。
オブリビオンを排除する存在を。即ち、猟兵である。
生命体の埒外。
振るうは無限の自由たる超常能力にして『罪深き刃』、ユーベルコード。
これらを以て、世界の敵たるオブリビオンと戦う者が猟兵といえるだろう。
故に『私』は『世界の敵』となり得ない――。
●ユーベルコード
ポラリス騎士団。
それは小国家『エルネイジェ王国』、ランベール家直轄の近衛部隊の名である。
侯爵という貴族階級の中において、その規模は最大と言えるものである。
これと同じ規模と質を兼ね備えた騎士団を探すのながら、筆頭に上げられるのが聖竜騎士団である。
王国軍の精鋭部隊に匹敵する騎士団を直轄として保持できることは、ランベール侯爵家の自力あってのことであるのは言うまでもないことである。
加えて言うのならば、『エルネイジェ王国』の都市部を守護する近衛部隊とは違い、ポラリス騎士団は管轄する領地の面積から言っても、対外的な戦闘経験が豊富であるとも言えただろう。
訓練と実戦は違う。
戦場においては、あらゆる不確定要素が兵士に絡みつくものだ。
時に人はそれを運、とも表現するが、それは勝者ではなく生存者のみが語ることを許された要素であることは言うまでもない。
「……」
小国家同士の争いは、クロムキャバリアにおいて平時である。
例え、平穏のように見えたとて、その裏には戦乱の火種がそこかしこにくすぶっている。
剣戟の音が響いた。
重厚なる実体剣が副腕で振るわれ、機体のフレームが軋む音が体にまで伝わってくる。
サブアームによる耐久値は理論上、戦闘機動に耐えうるものである、という報告を受けているが、やはり実戦に勝るデータ収集はないのだと、白銀のキャバリア『ヴェナトル・ガルディア』を駆るオーレリア・ランベール(オリーブとポラリス・f45591)は理解した。
そもそも、だ。
己と数合とは言え、まともに打ち合うことができるパイロットが『エルネイジェ王国』の外……それも『バーラント機械教国連合』以外にも存在していることが意外だった。
アンダーフレームの獣脚が大地を蹴り、アームガンポッドの速射砲が弾丸をばら撒く。
腕部に装備された射撃兵装を使わされた、という事実から考えるに相手は……。
「『エース』級の力量を持ったパイロットであるということは、やはり、『エース』ということですね」
呟く言葉は誰に対しての言葉でもなかった。
腕部速射砲の弾幕を前にして、相対する白銀のキャバリアは距離を取るように戦場を疾駆する。
人型であることを突き詰めたような動きでありながら、人体にとらわれぬ機動。
イオンターボブースターの加速によって大地を跳ねるように『ヴェナトル。・ガルディア』は白銀のキャバリアへと突っ込んだ。
放たれるアサルトライフルの弾丸は耐ビームコーティングが施された大型立てによって弾かれた。
しかし、ただ盾を構えるだけではビームの貫通力に負けて貫かれてしまう。
故にサブアームでの角度というものが重要であった。
「加速しながら盾を捌くとは……やるようですね、流石はランベールの次期当主と目される御方です」
白銀のキャバリアのパイロットの言葉は、賛辞とも取れるものだった。
しかし、オーレリアは答えるまでもなく踏み込む。
振るう実体剣、アージェントソードが打ち上げるようにして、その鋭い切っ先が白銀のキャバリアを襲う。
しかし、その切っ先が白銀の装甲を切り裂くことはなかった。
僅かにずれた挙動。
それによって白銀のキャバリアは、アージェントソードの刀身の横っ腹を叩くようにアンダーフレームでもって蹴りつけていなしたのだ。
それだけではない。
剣の刀身を足場にしてオーレリアの突進を躱したのだ。
そのままであれば、実体盾に配されたビームバルカンによって、その躯体は蜂の巣になっていたのだ。
「読まれていた……こちらの挙動を。であれば、躱されたということ」
「質実剛健。華美たる貴族主義に染まらず、合理性を突き詰めた良い機体です、ランベール家次期当主……オーレリア・ランベール」
「わたくしの名前をオーレリアと語りますか。であれば、わたくしが誰なのか知っているのですね」
「……」
白銀のキャバリアは着地しながらも、『ヴェナトル・ガルディア』の間合いの外いた。
僅かに逡巡するような気配をオーレリアは感じただろう。
何が目的なのか。
徒に国境を跨いだだけだというのか、この白銀のキャバリアは。
この邂逅は偶然、遭遇戦であると片付けられないような何かを感じる。
少なくとも、あの白銀のキャバリアのパイロットは偶発的に自身と接敵したのではないはずだ。
「オーレリア・ランベール。キャバリアに乗るのはもうおやめなさい」
女性の声。
それはどこか期待を含めるような物言いだった。
敵対者の言葉など聞くに値しない。こちらを揺さぶるための言葉でしかないとオーレリアは理解していたが、そこに切実なる思いがあることも理解することができた。
だからこそ、遮ることはしなかったのだ。
「あなたの存在は、いずれ『エルネイジェ王国』を割るでしょう。そうなれば、無辜の民もまた戦乱に巻き込まれる。徒に血は流れ、奪われた者は、奪う側に立とうとする。流血なき革命などないのです。必ず、血は流れる。その時、あなたが守ろうとした民自身をあなたは傷つけてしまう。そういう選択なのです、あなたのそれは」
オーレリアが望むのは、安寧と自由である。
父の語る言葉でもある。
『エルネイジェ王国』は王制である。
無論、自身もまた貴族階級。
支配階級と言い換えてもいい。だが、オーレリアは常に思う。
人の命は皆平等だ。
生まれや身分など些細な違いでしかない。
人は生まれながらにして平等に不平等なのだ。だからこそ、オーレリアは生まれは、ただの一要素でしかない。
人間と相対するのならば、それを忘れてはならない。
「貴族の立場にあるあなたの思想は結構なことです。尊ばれるべきことでしょう。ですが」
「戦いに際しては、冷静な心に平静な思いを」
オーレリアは実体剣を構えた。
白銀のキャバリアのパイロット。
彼女が如何なる言葉を弄するのだとしても、己が負うものは自由と平和だ。
支配とは相容れない。
「その貴き生命を、ここで潰えさせるのは忍びないのですよ」
「人の命は皆平等です。つまり、命の価値は皆等しいのです」
『ヴェナトル・ガルディア』は実体剣を振るう。
もはや、ここに至って牽制は意味をなさない。
あの白銀のキャバリアは此方の攻撃を紙一重で躱す。ならばこそ、牽制は意味をなさない。全てが必殺として放たねば、追い詰めることもできない。
オーレリアは、実体剣の斬撃を嵐のようにサブアームで振るい、モニターに右サブアームが過負荷によりレッドアラートを明滅させているのを視界の端に捉える。
だが、振り抜く。
サブアームの関節が砕け、軋む音を立てながら実体剣が『射出』された。
そう、オーレリアは実体剣を振るうのではなく、投擲したのだ。
それもサブアームの耐久性を理解した上で、だ。
剣とは振るうもの。
切り裂くもの。
叩きつけるもの。
それが敵対者の認識であろう。
だが、オーレリアは必殺として実体剣を投げはなったのだ。それは意外性というものであった。
「思考から即応。即応から実行。やはり、あなたは……!」
白銀のキャバリアのパイロットが呻く。
しかし、実体剣の投擲は、制御ができない。白銀のキャバリアのプラズマブレイドが交差し、実体剣の一撃を受け止めて跳ね上げて軌道をずらしたのだ。
そのまま火花をちらしながら白銀のキャバリアは『ヴェナトル・ガルディア』に踏み込んでいた。
「――!」
これで勝負は決する。
オーレリア・ランベールは、国境付近の遭遇戦において命を落とす。
そういうシナリオであった。
これは警告だった。
誰に対しての?
言うまでもない、セルジュ・ランベールに対しての、だ。
だが、オーレリアの隻眼には光が灯されていた。
絶対なる死。
その危機を前にしてプラズマブレイドの閃光をオーレリアは瞬き一つせずに見つめていた。
目が眩むような光。
その中で、オーレリアは己の中で何かが変わる音を聞いただろう。
振るいあげるのは、サブアームの実体盾。
振り抜かれるように機体ごと身を捩り、叩きつけられた盾に寄る殴打……即ち、シールドバッシュの一撃は白銀のキャバリアを吹き飛ばした。
拉げる音。
それは驚異なる光景であった。
『ヴェナトル・ガルディア』のパワーは確かに高性能機の水準を満たしている。
だが、今の一撃は、明らかに機体出力を超えている。
本来ならばあり得ない光景だった。
そう、あり得ない。
それほどの勢いで白銀のキャバリアは彼方にふきとばされていた。
尋常ではない。
オーレリア自身もまた、その光景に瞳を見開く。
「敵が遠くに吹き飛ばされたということは、敵が彼方に弾き飛ばされたということ……?」
彼女の見開かれた隻眼に灯されるはユーベルコードの輝きであったが、今はまだ彼女には自覚することのできぬ光であった――。
●グリモア猟兵
あの戦いの後、駆けつけたリズ・ヴィアル(コミュ障根暗陰キャメイド・f45322)は、即座に理解していた。
何が、と明確なる理由を彼女が持ち得ていたわけではない。
そもそも、理由を察することができたとしても、語る言葉を彼女は持っていなかった。
どう言葉にしようかとまごまごしていることしかでえきなかっただろう。
だからこそ、リズは後日、ランベール公爵邸にて緊張した面持ちのまま、当主であるセルジュ・ランベールと、その娘であり、次期当主と目されるオーレリアの間に直立不動することしかできないでいたのだ。
「望みであり、喜ばしいことであるが……よりによってオーレリアとは、な。作為的なものを感じずにはいられん」
彼は息を吐き出していた。
主人であるセルジュの眦に刻まれた皺がもう一つ深くなったような気がした。
言葉の字面だけを捉えるのならば、まさしく運命と言えるものであった。
だが、セルジュにとっては、それはプラスの意味を持ち得難いものであったようだった。
対面に座すオーレリアもまた同様だった。
神妙な面持ちで父の気持ちが落ち着くのを待っているようだった。
「わたくしも、素直に受け入れることができませんでした。けれど、選ばれたのだと思いたい。なぜならば、選ばれたということは、定められたということなのですから」
オーレリアは己の掌に浮かぶ紋章を見つめた。
それはランベール家の紋章。
オリーブとポラリスを象徴とする家紋でもある。
見つめる彼女の隻眼は、かつての戦いで得た傷跡だ。再生治療を施せば、彼女の視力は万全のものとなるが、彼女はそれを戒めとして敢えて残しているのだ。
彼女のそんな気高さと内省深さこそが当主として相応しいとセルジュは思ったが、今なんか……と己の胸の内に湧いた違和感に足を取られたような気がした。
だが、二の句を告げなければならない。
現当主として。
「しかし、リズに続いてグリモアまで有しているとはな」
「ぴえっ! オーレリアお嬢様とお揃い……なんかごめんなさい……私なんかがお揃いで……」
いきなり名前を呼ばれたものだから、リズは肩を震わせたかと思えば、がっくり肩を落としていた。
萎縮しているのだ。
いや、むしろ急に振られたことによる、この場の神妙な空気との寒暖差にやられたような反応であった。
そんなリズへとセルジュは視線を向ける。
「言うまでもないが、今後はオーレリアにも猟兵としての働きを担ってもらう。リズのように、だ」
「その覚悟でいます。わたくしはこの猟兵の力で、民が安心して眠れる日々を守りたい。それが、民が穏やかに安らげる日々の礎となるのですから」
セルジュはオーレリアの決意の言葉を耳で噛み砕いた。
耳障りの良い言葉である。
発声も良い。
淀みなく言葉を紡げること、それもまた為政者として必要な要素の一つだ。だが、なんか、『ん?』となったのだ。
なんか、今。
いや、今だけではない。先程もだ。
「そして、民に自由と平和をもたらしたい。自由と平和は、民にもたらされるべきものなのですから」
続く言葉に、セルジュはまたもや『んん?』となった。
あれ、なんか。
「だからわたくしは、この力を振るうことを、躊躇いません。躊躇ってしまえば……力を震えませんから」
すんごい神妙な面持ちでオーレリアは毅然たる決意を表明する。
わかる。
うんわかる。わかるんだけど、なんかこう、ね? とセルジュは内心思ったが彼の表情は崩れることはなかった。
内心では『んんん?』と違和感が拭えないことに対して、己の為政者としての資質というものに疑問を抱きかけたが、今はそれを捨て置くべきだと取捨選択することができた。
これもまた烈士としての素養と言えば、そうであった。
いやまあ、オーレリアが言わんとしていることは理解できるのだ。
だが、何ていうか、何一つ言葉の情報量が字面の割に増えてないな、と思ったのだ。でもまあ、わからんでもない。うん、わからんでもない。
だから、気にしないことにしたのだ。
些細なことだ。
「であれば、だ。リズ……この時より、お前をオーレリア専属の使用人に任命する」
「うひぇっ……!?」
リズは今度こそ、セルジュの言葉に身を固くしたうえで、ぴょんことその場で跳ねた。
そう、確かにリズはランベール家の使用人だ。メイドだ。
任命されたからには、謹んで拝命すべきと理解している。
だが、なんか今日は殺気から急に話を振られることが多すぎるのだ。あと、リズはオーレリアの言葉を真面目に噛み砕こうとして、あれなんか同じ事繰り返してないかな? とか考えていた。
口には出さない。
それは不遜な行為だからだ。
「オーレリアの助けとなり、ランベール家の助けとなってもらいたい。頼めるな?」
「リズ、わたくしからもお願いします。リズが猟兵になった時期は、わたくしよりも先。わたくしより先に猟兵になったということは、わたくしよりも早い時期に猟兵になったということです」
リズは益々当惑する。
なんか長い言い回ししてるけれど、つまり、あれ? ん?
「きっとわたくしがリズから学ぶことも多いのでしょう。学ぶ事が多いということは、リズから教わることが多いということです」
「えっと、ええと、はい……」
ちょっとよくわかんない。
リズは自分の学が足りていないから、やんごとなきオーレリアの言葉が理解できないのだと思った。
「それに――わたくしたちは幼い頃から共に過ごしてきました。リズなら信頼できます。だって、信頼をおけるのがリズなのですから」
いや、嬉しい。
とっても嬉しいことをオーレリアは言ってくれている。
だがなんていうか、話の内容は理解できても、すんなり頭に入ってこないっていうか。
そもそも選択肢なんてないのだ。
断る理由なんて持ち得ていない。なのに、オーレリアは、こんな自分を信頼してくれているのだ。
応えなけれ、使用人としての矜持が廃れるってものである。
だから、いまいちオーレリアの言葉を全部飲み込めていなかったが。
「が、ががががっ、がんばります……はい……自信ないけど……」
卑屈な笑みを浮かべてリズは頷く。
「そうか。頼まれてくれるか。では、この後についてだが……当面は才能の研鑽に務めるのが適切であると考えているがどうか?」
セルジュの言葉にオーレリアは頷いた。
全くの同意見だったからだ。
「なにぶん、猟兵としての才能というものは、キャバリアの操縦に留まらないでしょう。手探り状態です。手探り状態というのは、探っている最中にあるということです」
神妙な面持ちのまま、なんかこう、中身があるような、ないようなことを言うオーレリア。
リズも、ん? という顔をしている。
「聖竜騎士団に倣うなら、猟兵の才能は多くの戦いを経て、次第に高まってゆくものかと思われます。戦いを通じてこそ、戦いの中でしか得られぬものがあるのでしょう」
彼女は眼帯にそっと振れる。
それこそが彼女の慎みの象徴でもあった。
いや、わかるよ。でもなんか、んん? となってしまう物言いなのだ。
セルジュは気にしないことにした。
スルーできるなら、スルーする。わざわざ火のついた栗を拾うために素手を伸ばす必要はないのだから。
「オーレリアとリズが自由に行動できるように関係各所へは私が取り計らうことにしよう。必要と在らば、ランベール家があらゆるバックアップをすると考えて貰って構わない」
「お父様……お言葉ですが」
オーレリアはセルジュをまっすぐに見つめていた。
隻眼の瞳がセルジュ射抜くようだった。
高潔なりし意思。
それを示すように彼女は言葉を紡ぐ。
「わたくしはそこまで傲慢に振る舞えません。傲慢に振る舞うということは、わたくしにはできないことです」
セルジュは頷いた。
まったく頭に入ってこないが、頷くことはできた。
「猟兵となった今でも――わたくしは、ランベール家の一員であることに変わりはございません。ランベール家の一員であるということは、ランベールの名を背負う者ということです」
「うむ。良い心がけだ」
なんとかセルジュはそれだけをしぼりだせることができた。
そして、なんとかして我が娘に対して如何にこれからを、と説くための言葉を紡ぎ出した。
「過ぎたる力を持てば、それに溺れ、いずれ我が身を滅ぼす。嘗ての『憂国学徒兵』のようにな。己が手の届く範囲、時に節制とも呼ばれるが、それを常々忘れずにな」
「ですが、いずれこの力……民を王家から海堡するために……」
セルジュは、その言葉を最後まで紡がせることはしなかった。
静かに振るう首が全てを示していた。
即応。
それはオーレリアの最たる資質である。
だが、今は。
「拙速がすぎる。今は待つべき時だ。民に耐えることを強いることになるが……自由と平和をもたらすには、時間が必要なのだ」
「……わたくしは、、病巣を断つ導きの光となれるように、努力は惜しまないつもりです。その努力は、導きの光となるための歩みです」
いや、うん。
セルジュは、言いたいことはわかるよ、我が娘? でもさ、と思った。
「オリーブの知恵と、ポラリスの導き――それが、ランベール家の本分です。本分というものは、本分であるからこそ、本分であると言えるのですから」
おちつこ? んね? とセルジュは思ったが、唯一の助け舟を出せるであろうリズはずっとおどおどしていた。
その視線にリズは、はっ! とした顔をする。わかってくれた?
「あ……あの……いります? お茶のおかわり……」
セルジュは深く腰掛けながら、腰が抜けたのを悟られぬように深く頷いた――。
成功
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