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守国の志よ、薄暮に沈まん
虹色に輝く彩雲。
暮れる空を鮮やかに彩る美しい空を、何千というけだものの群れが黒く染め、決して憎くはないそ奴らの血で染めることで、文字通りの血路を開き、それは輝かしい航路となり、自他の血潮に塗れて空を汚らわしくけだものたちの血肉をまき散らす。
栄光という大義名分が、領土を求める形のない欲求とが、兵たちを新たな血路をと駆り立てる。
鉄の船よりも、鉄の翼よりも、もっと雄々しく、もっと安く、空を飛ぶけだものたちによる空軍部隊は、爆発的な速度で生産され、堕としても墜としても際限なく現れるのだ。
いったいいつまで、この戦いを続けねばならぬ。
いったいいつになったら、彼らを辱めなくともいい時代がやって来るのだろうか。
はじめて、空軍部隊のバトルモンスターに乗って空を飛んだ時の感動は、もう思い出せない。
甘やかな理想を抱いて軍服に袖を通した男が、いつしか、損害報告でしか語られなくなった彼等に対し、何の感慨も抱かなくなっていた。
相棒の死を悼み、恨み、奮起し、戦果を挙げて、この戦いの終結には、より多くの戦闘兵器の投入と消耗が必要である事に、何ら迷いを失う頃には、空軍を率いていた男は、英雄と呼ばれるようになっていた。
あれから、どれほどの時が流れただろう。
男の記憶は定かではなかったが、己はまだ健在であり、空には相変わらずけだものたちが飛んでいる。
『吾輩が健在であり、あれらが空を舞っているというのであれば、そうか、まだ、作戦中なのだろう。急いで、戦線に復帰せねば……理想の為に、祖国のために』
悲壮な決意と共に、古く英雄と持て囃された男は、平和な世に宣戦を布告するのであった。
「よーし、カーット! うーん、いい感じなんだけどねぇ、サメちゃんたち、もうちょっと迫力出ない?」
片田舎ののどかな丘陵で、メガホンを手に取る映画監督の鋭い声が響く。
どうやらここは映画制作の現場。
CGやVFXを極力用いず、いささか時代遅れな手法と、バトモン達を利用してパニック映画を撮っているのだという。
古代の戦闘兵器である空飛ぶサメたちが、キャンパーたちに襲い掛かるという、その手のマニアには垂涎の作になると豪語しているらしく、その熱意はスゴイ。
この映画撮影のために、わざわざテイマー資格まで取得し、たくさんの飛行サメ型のバトモンを業者から買い入れたという。
「ちょっと温厚に育て過ぎたかなぁ……やっぱ、なんだかんだで情移っちゃうよな。エミール役は、まだ準備できていないのォ?」
この映画には、一部、史実をパロディにした部分があり、かつての大戦の英雄が蘇り、敵になったり味方になったりするというのだ。
なので、軍服姿の厳つい役者の登場を待っていたのだが、
「監督、エミール・ハルトマン役、入りますよ!」
「やっとかぁ……あれ、二人もいたっけ? めっちゃ、迫力だな。真に迫ってる。いいねぇ、彼!」
誰が予測するだろう。そんな現場に、まさか本人がやってくるなど。
「というわけでですね、バトルモンスターワールドにて、映画撮影が行われているそうなんですよ」
グリモアベースはその一角、矢絣模様の給仕服に、カラスっぽい鳥を連れた疋田菊月は、かのバトモンの世界において、旧大戦の亡霊が蘇る可能性を伝える。
バトルモンスターワールドに数多く存在する、バトモンという生き物は、かつての最終戦争における生物兵器であり、その在り様は様々だが、今の時代に至っては平和的に利用され、いや、人類と共に歩んでくれているらしい。
しかしながら、そんな世界にも、人同士が争い合っていた時代の者がオブリビオンとして甦り、平和な世を乱す可能性があるというのだ。
「かつて空軍を率い、空飛ぶバトモンを操って、自らも撃墜王と呼ばれたエミール・ハルトマン大佐は、今でもいくつか資料が残っていて、今度のように映画の題材にもなったりすることもあるとか……もっとも、製作中の映画はちょっとイロモノっぽいですけどね。うふふ」
居並ぶ猟兵たちに紅茶を提供しながら、ほのぼのと微笑むのだが、事態はどうやらそう優しいものではなさそうだ。
笑みを僅かに引っ込めると、浅く息をついて、バトモンとかつての英雄たちについて話す。
「オブリビオンと化したとはいえ、彼らはかつての英雄。私とそこにいるカミオさんのように、強い契約にも似た命令権のようなモノがあるのかもしれません。バトモンはもともと戦闘生物ですからね。その類のコードがあるのも不思議じゃないです。
監督の用意した空飛ぶサメバトモン、トブカは、あっという間にコントロールを奪われ、大佐と共に山奥まで消えてしまったとの話です」
『俺が、おみゃあの命令をホイホイ聞くと思うとるのきゃ。なーめられたもんだでの』
「あ、ややこしくなるので、もうちょっとだけ黙っててくださいねー」
『ほいほい』
いきなり黒いカラスのような鳥が、ナゴヤ訛りで喋り始める珍事などがあったが、それはひとまず置いておいて。
「いきなりの出来事に、監督さんはビックリされたそうですが、なんと撮影続行! 全然危機意識が無いですね。はぁ、というわけで助けてあげなくてはいけません。
ノリのいい皆さんであれば、映画撮影に協力する……までもないとは思いますが、それを見返りにエミール大佐の行方を探ることができるかもしれません」
つまりは、エミール大佐を追いかけて、バトモンを奪還し、彼を討伐せよという話である。
その道中では、彼の使役するバトモン、トブカを相手取ることもあるだろう。
なるほど、その光景は確かに、迫力満点となる可能性は大いにある。
「なんだか、変な話になってしまいましたが、放置するのはいずれ世界の危機となってしまいます。どうぞ、力をお貸しくださいませ。
もしかしたら、ギャランティが出るかもしれませんし! 大ヒットするかもしれませんよ」
『たーわけ。サメ映画なんぞ、サメ好きしか見んだろ。どれだけ需要があると思うとるんだゃ?』
「そんなこと言っちゃダメですよ」
何やらごたごた言いつつも、取り合えずの説明を終えると、菊月は、猟兵たちを送り出す準備を始めるのだった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
新しい世界が来たとのことで、せっかくだからやってみようという……え、もうずいぶん前?
そんなはずは……というわけで、バトルモンスターワールドのエピソードとなっております。
バトモンを用いた戦い、またそうでない普通の猟兵、普通でない猟兵の方でもお楽しみいただけるトンチキな内容となっている筈です。
映画撮影とサメがフラグメントに出たんだから、仕方のない流れなのです。私は悪くない。
親愛なる相棒……バトモンと共に、かつての英雄に立ち向かう……というお話でもあるため、普段はなるべく喋らせない菊ちゃんの相棒もちょっとだけ喋らせています。
大まかな流れは、オープニングで菊ちゃんがある程度話してくれた内容の通りだと思います。
第一章で映画撮影を兼ねて、どうにか大佐のもとへたどり着く方法を探るなり、提案するなりしてみましょう。
比較的どんな内容であっても、手掛かりになるかどうかはともかく、監督はうまい事撮ってくれるでしょう。
第二章は、大佐に奪われてしまった洗脳バトモンとの戦いになると思います。たぶん、マイルドに表現すると思います。
第三章は、大佐のもとへ追いつき、決戦となる筈です。
最初のいわゆる断章は投稿せず、プレイングはオープニング公開からいつでも受け付けている、いつものスタイルです。
お好きなタイミングでどうぞ。
それでは、皆さんと一緒に、楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 冒険
『バトモン映画を撮ろう』
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POW : 演技力を見せつけろ
SPD : 面白いアドリブを決めろ
WIZ : バトモンとの絆を表現しよう
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
結城・有栖
そういえば、サメ好きな人って結構いますよね。
「そうダネー。この世界ってサメのバトモンも多いし、コアなファンも多いんじゃないカナ。
で、どうやって追いかけようカ?」
とりあえず、話を聞いてみましょう。
映画の手伝いをしつつ、追いますよ。
山奥に逃げたって話ですし、まずは逃げた方角を偵察ですね。
桔梗さんにも手伝ってもらいUCを発動。
召喚したシャドウスライムを空飛ぶ小型のサメに変身させて、桔梗さんの【影使い】で操って飛ばし、先行して偵察してもらいます。
「…沢山のサメが飛ぶと、絵面が凄いネー」
私達もウィンドボードに乗って後を追いましょう。
偵察から得た情報を元に、【野生の勘】も使って場所を予測しますよ。
それはあっという間の出来事だったという。
撮影現場である自然豊かな丘陵に、ふらっと姿を現した将校の制服を着た背の高い男。
平和などとは縁遠い鋭さを隠しもしない精悍な顔つきと、輝かしい勲章を連ねたややくたびれた軍装は、予算のそれほど豊かではない本作の撮影環境の中では、いくら現実離れしているとはいえ、ちょっと浮いていたという。
だがしかし、この場の誰もが、その人物が最終戦争の英雄、撃墜王エミール・ハルトマンを模した渾身の役作りであることを疑わなかった。
まあ、まさかオブリビオンとして甦ったご本人とは夢にも思うまい。
唯一の違和感は、やけに雰囲気が真に迫っていたことと、あとはエミール役が他にもう一人ちゃんと居た事くらいのもので、いや、それなら気づけよと言うところではあるのだが。
そこで、一部スタッフが、もしかして部外者ではという疑いから声を掛けようとしたその時、映画撮影用に大量に取り寄せたバトモン・トブカの様子をうかがっていたエミール大佐(真)は、一瞬にしてその場に控えていたトブカたちを従え、姿を消したという。
そうなってしまうと、現場は当然、大混乱。
これが今、世間を騒がしているという英雄の亡霊という奴だろうか。
これからの撮影、どうなっちゃうの?
そこで、英断かどうかはともかく、監督は撮影の続行を決めたという。
「はあ、それはまた、どうして?」
慌ただしくスタッフの行き交う撮影現場に足を踏み入れていた結城・有栖(狼の旅人・f34711)は、事件解決を買って出る助っ人及び、映画のお手伝いに入りがてら、これまでの話を聞きこんでいた。
衣装や照明、色々な小道具や撮影機材、スケジュール管理など、現場には割と人がいっぱいいる。
予算を抑えたとはいえ、映画を作るには人もお金も機材もたくさん必要だ。
「本物を使えるって、監督がその気になっちゃったんだよ。もういっぱい製作費を使ってるっていうのもあるだろうけどね。ただ、俺達スタッフとしちゃ、勝算はあるのかっていう気持ちはあるよ。いろんな意味でさ」
撮影スタッフ、それこそ、大道具などの裏方から、出演者であるサメに食べられる予定のいかにも田舎にキャンプしに来ましたみたいなイケイケな若者の格好をした者たちが寄り合う、簡易的な休憩所のテントで、有栖は飲み物や軽食を配しながら一通り話を聞いていく。
どうやら、エミール大佐(偽)の話を聞く限り、この危機的状況を逆に利用して迫力ある映画にしてしまえないかという思惑があるようだが、肝心のエミール大佐(真)に対抗する術は、今のところないらしい。
映画スタッフには、テイマーやブリーダー経験のある専門家はいても、バトモンバトルに精通している者はいないし、そもそも肝心のバトモンのほとんどは大佐に連れていかれてしまった。
この場によそから来たと言え、猟兵たちの救援は、まさに地獄に仏といったところだろう。おもに監督にとっては都合がいい展開とも言えるが。
「それで、本物のエミール大佐は、どこへ向かったんですか?」
「ここよりずっと深い山……森の深いほうだね。待ってな、地図アプリ開くから……ここが現在地で、こっち方面に行った筈だよ」
「ふむ……」
積極的に話を聞いてくれるエミール大佐(偽)は、元ラガーマンの爽やかな笑顔の好青年であり、嘘くさい軍服が全然似合わない印象だった。
きっとカメラの向こうに立つときは違うのだろう。
そんなことを思いながら、有栖は犬耳をぴこぴこさせながら地図に示された方角を記憶しながら、現実と照らし合わせ、暫し黙考の後、行動に出ることにする。
深い山の手前に位置する撮影現場は、山の中腹に拓けたポイントで見晴らしがよく、画面映えを狙うなら打ってつけかもしれない。
拓けた高地とあって風もそれなりに吹くと、褪せたような赤いフードと有栖の白髪をはためかせていく。
なんだか、ちょっと、後ろから視線を感じるような気もするが、どうせこれから向かう先からすれば反対方向だ。
「そういえば、サメ好きな人って結構いますよね」
『そうダネー。この世界ってサメのバトモンも多いし、コアなファンも多いんじゃないカナ。
で、どうやって追いかけようカ?』
独り言のような有栖に応えるのは、オウガブラッドである彼女の内側に存在するオウガ、荒ぶる本性とも言うべきオオカミさんは、しかしなんとなく穏やかな存在で、有栖にとって姉妹のような、相棒のような、好き隣人である。
方法はいくつか思いつく。それだけの戦場を越えてきたという自負もあるが、奪われたバトモンたちを過剰に傷つけてしまうような方法はできれば取りたくはない。
ならば、この場に相応しい新たな友人に手を借りるのが一番ではないか。
「山奥に逃げたって話ですし、まずは逃げた方角を偵察ですね。桔梗さんにも手伝ってもらいましょう」
その名を呼ぶと、小さな人影が有栖の服の影の何処かから様子を伺うように出てくる。
どことなく和ロリ、ゴシックロリータにも似た少女人形のように可憐な桔梗さんは、影操りバトモン・シェイドール。
この世界に触れるようになって、いつの間にか有栖に懐き、ついて来てしまった。
「偵察をするからには、怪しくない姿の方がいいはず……」
そうして桔梗さんと共に発現したユーベルコード【想像具現・シャドウスライム】によって出現したシャドウスライムは、不定形の黒い影のような質量も温度もほとんど感じないような無数の塊であった。
有栖のユーベルコードは、その不定形をすぐさま変形させ、まさに想像のままにトブカに似せた空飛ぶサメの形をとる。
しかし、このままでは大空を自由にとはいかない。サメが空を飛ぶわけがないのだ。
「るー」
考えてみれば当たり前なのに、どうしてか小首をかしげてしまうところだが、ひとまず奇妙な疑問は置いておいて、擬態したシャドウスライムたちを今度は桔梗さんの影を操る力を用いて、空を飛ばし、偵察に向かわせる。
『……沢山のサメが飛ぶと、絵面が凄いネー』
「るー」
この現場においてはきっと正常な光景だが、目を疑いたくなる絵面には違いない。
きっとこういう場面を映画で撮りたかったのかもしれないな。
やったった。という感じで満足げな桔梗さんを傍らに、有栖も空飛ぶ波乗り板『ウィンドボード』に乗り込んで飛び上がる。
「私たちも追いかけましょう。シャドウスライム……シャドウサメが、彼らのテリトリーに入ったら、何らかの反応がある筈です」
『シャドウサメ……』
「るー」
「……さっそく、一体、ちょっかいをかけられたみたいですよ。行きましょう」
桔梗さんの影使いが及ぶ範囲だが、先行させて広い範囲を洗わせていたシャドウサメによるコンタクトは、どうやら功を奏したらしい。
やはり、領空を侵犯されたら、迎撃せずにはいられないのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
音駆螺・鬱詐偽(サポート)
世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん
ただいま参上。
・・・って、どうしてこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのよ。
うう、これも番組の為なのね。
自身の命綱である番組の為、多少の苦難や困難は仕方なく行います。
むしろ持ち前の不運によりおいしい場面を呼び込んでくれるかと思います。
ただし、ネガティブとはいえアイドルですのでマイナスイメージとなる仕事はすべて却下でお願いします。
ユーベルコードや技能はご自由に使わせてください。
どうぞ、当番組のネガティブアイドルをお役立てください。
プロデューサーより
いや、ちょっとまって。聞いてないわ。
映画撮影って、どういうことなの……。
大自然の中、山の中腹に三段腹の如く切り開かれた野原の広がる丘陵は、まさしく映画のワンシーンを撮るために切り取られたかのような情景だった。
行き交う人々の姿は、共通の腕章を付けたジャケットを着込んでいたり、そうでないものは奇抜な衣装だの、迫力のバトモン……に見える小道具だのを抱えていたり、とにかくまぁ、色々な人たちがあっちゃこっちゃと入り乱れる、それらの光景は、野原を拡大して見た働きアリのようでもあったし、映画撮影の現場と聞けば、それはこんな感じなのだろうと、
音駆螺・鬱詐偽(帰ってきたネガティブアイドル・f25431)は、思い至り、そして、青白い顔色を更に体調悪そうに脂汗を浮かべるのであった。
彼女はバーチャルキャラクターではあるのだが、番組を持つアイドル。業界人である。
しかしだからこそ、現場の持つ空気のピリピリとした緊張感が、尋常でないことも感じ取れる。
この殺伐とした空気……現場にトラブルが起きて、どうにかしようと大人たちが奔走している状況なのだ。
何しろ、番組制作にもお金がかかる。地方ローカルやネット配信、その手法や規模は数あれど、まとまったお金が無いと、先ずスタッフや機材が揃わない。
ましてや映画である。
かつて、流しのギター弾きが伝説の殺し屋と間違えられるという映画が、驚くべき低予算で制作され、その完成度で話題を掻っ攫ったというが、その時の予算ですらおよそ7000ドルかかったと言われている。
シーンの撮り直しすら許されない低予算ですらこれなのだから、この現場に溢れ返る人の数を考えれば、最低でもその倍、いや、三倍だろうか?
ちなみに、どうでもいい話だが、ギター弾きの映画は三部作作られたが、一作目が売れちゃったため、二作目はおよそ100倍の予算で制作され、主演も有名人が起用されるようになったという。
いいや、話自体は一応、聞いている。マネージャーから。
いやいや、グリモア猟兵から聞いてないのかよという話だが、この話を受けたのはプロデューサーであり、ブッキングしたのはマネージャーである。
いわば、鬱詐偽さんは、また聞きのまた聞きであった。
映画関係のお仕事が入ったよ。名前を売り込むチャンスだよ。あ、一応、オブリビオン出るっていうから、もううってつけだよね。大丈夫大丈夫、そんな構えないで! サメ映画らしいし、どうせ大したもんじゃないから。チラッと鬱って、いや、映って話題取れたら、めっけもんくらいのさ。ほら~、サメ映画だし喰らい付いていくつもりで、ほら、頑張って頑張って!
って、フランクに言ったじゃなーい。
めっちゃ、お金かかってるよ、この現場ァッ。
「あ、出演者の方? 食べられ役は、しばらく出番ないけど、打ち合わせは──」
「ち、違いますゥ~! え、あ、違うわよっ、私はそう……世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん
ただいま参上」
あまりに挙動不審だったせいか、スタッフの方に声をかけられたところ、これはいいタイミングとばかり、ポーズをキメて名乗りを上げる。
ゴスパンクのバーチャルレイヤーはステージ衣装も兼ねる。あらかじめ決めていたポーズをキメれば、ぴょこんとウサミミが揺れる。
だが、鬱詐偽さんがキメ顔を維持できるのはほんの一瞬だ。
きちんときめれば美しい顔立ちも、すぐにネガティブ気味に眉が下がる。
アイドルなのに、恥じらいを捨てきれていないぞ! でも、そこがいいという声もありますよ!
これも番組存続のため、と頑張る姿をきっと見てくれている人はいる筈。
「あっす……ああ、猟兵の方! じゃあ、ちょっと変わってても安心ですねぇ~。えっとぉ、じゃあ、さっそく……逃げ出したバトモンの件ですが」
「え、あ、はい……! 何の話?」
さすが現場の人間は、切り替えが早い。と感心したのも束の間、案の定、詳しい話を聞かされていない鬱詐偽さん。
そうなのである。
今回のお話は、オブリビオンとして甦ったかつての戦争の英雄が、奇しくもサメ映画のために買い入れた空飛ぶサメバトモンたちをすべて奪い取って逃げ込んだという話であり、主役とも言うべきサメバトモンが居ないと、サメ映画が撮れないので、困っているという話であった。
猟兵としては、オブリビオンを排除し、バトモンたちを取り戻さなくてはならないのだが……。
「……なるほど、その将校さんは、山の方へバトモン達を連れて行ったと……山ロケかぁ。いや、相手は空を飛ぶ? いい手があるわ」
言うが早いか、鬱詐偽さんはバーチャル体の付属レイヤーを追加していく。
お手軽操作であらかじめデータを展開して乗せていくのは、とても便利だが、情緒もない気もする。
いえね、着替えシーンとか、そこまでは言いませんよ。でも、ゴスパンクちっくな衣装に、堕天使めいた黒い翼を生やすのだから、ぺたぺたーっという感じではなく、こう、後光のようななにかエフェクトとか入れるほうが、雰囲気って言うんですか?
などと、あまり贅沢できないなりの文句を口には登らせずに、鬱詐偽さんは、サウンドウェポンのギターとシンフォニックデバイスのウサギマイクを出現させ、一曲奏でる。
【鬱歌『Fall Down』】……。悲しみ、喪失感、鬱々とした暗澹たる空気を思わせる静かなイントロから途端にテンポアップと共に紡ぎ出される大音量のシャウトは、まるで暴風。
さながらに、スカイダイビングに耳を劈くような風切り音のような、それは腹の底から、地獄の底から自身の存在感を訴えかけるような歌声であった。
『私は世界から取り残され、世界が落ちていく──』
でも、やだぁー! 消えたくないー! 何度も消えるのはやだぁー!
一度は番組終了の憂き目に遭い、世界から忘れ去られたバーチャルアイドルとしてオブリビオンとなって甦った、鬱々たるアイドル。しかし、幸か不幸か、多くの猟兵たちの温もりに触れて、それはそれで満足にやりきったという思い出と共に去っていったかに思われたのだが、彼女は帰ってきてしまった。
新番組が始まったのです。
満足として昇華できたから、あの頃はまだいい。よかったよかったで、まあなんとか笑える話、かもしれない。たぶん。
でも、再び起用されるという事は、再び終わりを迎えかねないということである。
いやだ、終わりたくない。どうせやるなら、もっと明るい子として転生でもしていれば……でも、もう20も半ば。
人間(バーチャルキャラクターだけど)25過ぎたら、人間性はそうそう変わらないという。積み上げたものは、そうそう変わったりしないのである。
そうだ、自分自身を認めてくれた人たちに報いるためにも、このスタイルは変われない。
いやー、ちょっとくらいは、好転したと思うんだけどなぁ~?
嘆きと孤独、落ちていく夢ばかり見るおかげで、うどんくらいしか喉を通らない。
そんなちょっぴり等身大の堕天使から繰り出される歌声は、耳にしたものを、自分も落下するような錯覚を覚えるという。
いや、世界に語り掛ける歌声は、むしろ景観を落下させたかのように錯覚させ、むしろむしろ自分が飛ぶ。
鬱詐偽さんは、今、最高に浮いている。いや、いい意味で。
「私は飛び、お前たちは這え」
ネガティブなりの上昇志向。いや、それは、世界をひれ伏す命令。
きっと命令権を握られたバトモン達も、落ちるような錯覚を覚えたのではないだろうか。
今この瞬間、騒がしくなった森にこそ、彼らはいる!
そう信じて、鬱詐偽さんは飛んでいく。
なお、その光景を見ていた監督は、海中に引きずり込まれるような喪失感と共に、何らかのインスピレーションを感じたのか、後になって、鬱詐偽さんの歌声は挿入歌としてちょっとだけ使われたとかなんとか。
成功
🔵🔵🔴
クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【POW判定】
強調したい時は「★」を、それ以外の時は「♪」を語尾につけるよ♪
空飛ぶバトモンの使い手、かぁ…♪
それなら、キミの出番かな♪
よろしく頼むよ、ライバーン★
映画撮影の手伝いをしつつ、大佐を追うよ♪
ライバーンはお得意の【空中機動】を活かせる飛行シーンに出演するね♪
ついでに高所から大佐の逃げたルートについて【情報収集】をしてもらうよ♪
クローネちゃんも(主要人物は演者がもう決まっているだろうし)エキストラとして参加して【演技】するね♪
それがどこであるのか、いかなる事情があるのか、割とどうでもよく。
しかしながら、どうせなら気持ちのいいことをしよう。
クローネ・マックローネ(|闇《ダークネス》と|神《デウスエクス》を従える者・f05148)の行動スタンスはとてもシンプル。
骸の海に漂うべき多数の魂を取り込んだ器たるものに、いかほどの価値観を得ているのか想像もできないが。しかし、ブラックタールの器がとった形状は、少女の姿だった。
まあまあ、そんなちょっぴり色黒な女の子の事情はひとまず置いておいて、彼女がこの場に来たのは、崩壊しかかった映画撮影現場を、どうにかすること……は本分ではないのだが、その映画撮影のために必要な空飛ぶサメバトモンを奪い取っていった元空軍将校の英雄を倒すことが、ひいては彼らの助けともなる筈だ。
「サメ映画で、サメバトモンが居なくなったら、もう主役が居ないようなもんだよね……♪」
気持ちのいい風の吹く山腹に突き出た丘陵は、野原がさわさわとしていて、いかにも映画撮影にぴったりの開けた視界、ロケーションであった。
そこにカメラが回っていなければ、現場には思った以上にスタッフが溢れている。
映画って、本当に多くの人員とお金がかかるのだ。
簡単に中止できないという理由も、わからなくはない。
ただ、彼らがネタにしていた将校本人が蘇ってきたからと言って、撮影続行を決めたのは、さすがにどうかと思うが……その気概自体は、クローネも面白いと思ったのかもしれない。
スタッフには、それを示す腕章なりジャケットなりで画一性を持たせているため、映画スタッフでない者が現場に居れば、それはすぐにわかってしまう。
クローネもまた、映画スタッフに呼び止められるのだが、彼女が猟兵とわかると、藁にもすがるような必死さで助力を求めてきたので、どうやら、相当切羽詰まっている状況には違いないらしい。
かの英雄──エミール大佐の向かった先はどうやら判明している。
「空飛ぶバトモンの使い手、かぁ……♪
それなら、キミの出番かな♪
よろしく頼むよ、ライバーン★」
バトモンにはバトモン! ということで、クローネが呼び出したのは、雷ワイバーンバトモンのライバーン。
迸るエネルギーを誇るかのように、体表にばちばちと稲光を帯びて、眩いばかりの翼竜の姿が翼を広げてアピールする。
おお、と映画スタッフから感嘆の声が漏れる。
空飛ぶサメなどという珍妙な題材を扱っていたせいか、いまいちピンと来ていなかったが、こうしてちゃんと空を飛びそうなデザインが、その威容を誇る姿は、なんだかんだで絵になるのだ。
「撮影の方は、言うなよ。ドローンでも飛ばして、バッチシ空撮するからよ!」
「わぁ、あとでカット頂戴よ★」
羽ばたくライバーンの風にあおられながら、サムズアップする監督は、なんだかテンションが高い。
それに乗せられるようにして、クローネもぐっと親指を立てて、ライバーンを見送る。
でも、このシーン、何に使うんだろう。
主役はサメ……いや、人間の方の主演ふくめメインキャストを今更変えることは無いだろうし……ともすれば、自分とライバーンはエキストラになるのだろうか。
ゲスト出演って、どこかでフェードアウトするか、むごたらしく退場したりで、けっこう扱いが雑になりがち。
絵が様になってれば、多少意味不明でも使うんだよ精神で、なんでもかんでも詰め込むと、ひどいことになりはしないだろうか。
他人事ながら、クローネはちょっぴり不安になるのだが、まぁ、いっぱい褒められたり、驚かれたりするのは、気分がいい。
誇らしげに空を切るようにして翼を広げるライバーンの勇姿は、やっぱりその保持者としても誇らしいのだ。
「あ、何かお手伝いできることあるかな♪ 身体がドロッと溶けたり、嚙みちぎられたりとか、そういうのVFXなしでやれちゃうよ♪ クローネちゃん、割と何でも出来ちゃうから★」
「ヴォースゲー! 嬢ちゃんの身体は、一体どうなってるんだ。一体どこまでー、魅了するんだい!?」
ブラックタールである事を最大限利用できることをアピールするクローネは、エキストラどころか、割と無茶なスタントまでこなせそうな感じだ。
そこでまた、監督はじめスタッフのテンションは爆上がりするのであった。
そうして、有意義なのか、それとも映像制作として不毛の一途をたどったのかはともかくとして、しばらくすると、空から一陣の嘶きのような轟音が響く。
雷鳴のような鳴き声は、ライバーンの戻ってきた声であった。
「おかえり♪ どうだったぁ? ふんふん……」
空から情報収集を行い、探ってきた内容を、身振り手振りで教えてくれるライバーンから大佐の行方を教えてもらうと、クローネは、ちょっぴり名残惜しそうにしながら、本業の方へとシフトしていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『洗脳トブカ』
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POW : サメアタック
【体当たり】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : シャーク・バイト
【高速で移動しながら噛みつき】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【匂いと味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : おんすいシャーク
【口から高温水弾】を放ち、命中した敵を【高温の水】に包み継続ダメージを与える。自身が【空中にいる状態で攻撃】していると威力アップ。
イラスト:榛戸ろもも
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ばさばさと、羽ばたく音が、針葉樹の生い茂る森を回遊する。
ここは彼らの住処ではないが、重力を無視したかのように空を泳ぐ魚影の編隊は、おおよそそれが空である事を忘れるかのような異様であった。
その威容、鳥でも魚でもなく、翼の生えた空飛ぶサメバトモン──トブカの野性には見られぬ、規律によって統制された美しい飛行編隊は、規則的であり、だからこそ一部の隙も無いように見える。
すべてが一つの生命の意思のもとに動いているかのようなそれは、むしろ生物的というよりかは機械のような整然とした機能美を感じさせる。
在りし日の空軍の在り様。人の踏み入れぬ山奥の針葉樹林帯は、今や要塞と化していた。
だがしかし、美しいほどに整然と回遊し、哨戒する姿を見た時、バトモンと共に来た者は、或は彼らの姿に痛ましいものを見たかもしれない。
或は、彼らのその目に、死んだ魚のような仄暗さを見たかもしれない。
彼らの本来の姿を知る者からすれば、生き生きと空を飛び回る様を知る者からすれば、無機質に道具の一つとして機能するそれらの姿は、許されざる姿のように見えたかもしれない。
『……』
彼らがその牙を軋ませるのは、虚ろな目を向けるのは、果たして本意だろうか。
いずれにせよ、洗脳されたトブカたちをどうにか突破しない事には、エミール大佐のもとへたどり着くことはできまい。
結城・有栖
あれが、洗脳されて連れて行かれたトブカ達ですか。
「編隊を組んで飛ぶサメも異様ダネー。
洗脳されてやる気満々みたいだし、やるしか無いヨ」
了解です。では、オオカミさん、此処は任せます。
まずはUCでオオカミさんを召喚。
そのまま、黒い烈風による風の【属性攻撃】で竜巻を起こして、敵を巻き込み、【範囲攻撃】です。
飛んでる相手なら、強風はよく効くでしょう。
竜巻でぐるぐる回して、気絶させていきます。
「…サメと竜巻って既視感があるネ」
こっちに飛んでくる敵は、【野生の勘で見切り】、ウィンドボードを使って【軽業と空中機動】で回避。
更に、【カウンター】で桔梗さんの【影使い】の影の触手を伸ばして【捕縛】します。
その異様な光景は、まさに、映画のような作為的なものを感じずにはいられなかった。
そういえば、映画撮影の現場繋がりであり、そして、その為に起用されたバトモン達を取り戻しに来たのだから、目の前の光景もある意味その一部と言っても過言ではない。
……いや、いくら何でも暴論が過ぎるんじゃないだろうか。
仮にそうだとして、こうまで整然と、厳戒態勢を敷いたかのように美しい編隊を幾重にも張り巡らせて哨戒する空飛ぶサメバトモン、トブカ達を操れるほどの使い手がどれほどいるだろうか。
山奥の針葉樹林帯の中に、まるで要塞でも隠されているかのように思わせるほどの、鉄壁の構えは、やはり、映画のようとしか形容できないものがあったのだ。
「あれが、洗脳されたトブカ達、ですか」
影たちを飛ばし、この場所を突き止めた結城有栖であったが、さしもの猟兵と言えど、彼らの領空に迂闊に足を踏み入れるのは戸惑うところがあった。
無警戒に探索に入ったサメ型の幻影は、瞬く間にトブカ達の奇襲を受けて撃墜されてしまった。
『編隊を組んで飛ぶサメも異様ダネー。
洗脳されてやる気満々みたいだし、やるしか無いヨ』
ぴりぴりと肌を焼くような危険な気配を感じつつ、ある一定距離以降に踏み込む機会を伺っていたところへ、内なるオウガことオオカミさんが、その背をそっと押す手助けをしてくれる。
ウィンドボードで空から接近している時点で、あちらもこちらを意識しているのには違いあるまい。
ただ、彼らは強固な命令権により警戒する距離を保っているだけであり、領空を侵犯しない限り、その牙を剥きだしにすることはまだないだけだ。
時折こちらに向く、色のない視線だけが、無機質な敵意を向けてきているようで、野生動物とも防犯カメラともどこか違う気味の悪さを感じずにはいられない。
モンスターパニックものの映画の得体の知れない恐ろしさというのは、こういう空気を言うのだろうか。
「……了解です。オオカミさん、此処は任せます」
『あいヨー』
ハラハラするような、ぞくぞくするような、胸に迫る恐怖を、もしかしたらオオカミさんも共有しているのかもしれない。
或は、オウガである彼女は、オウガブラッドである結城有栖の秘められた狂気ともされるその本性では、恐れなど無いのかもしれないが、この高揚にも似た経験を同じように感じているのだとすれば、嬉しい気がする。
物理的に手を借りる意味でも、【魔獣具現・オオカミさん】により、その心象より形を得た有栖そっくりのオオカミさんは、ひらりと重力など無いかのように空を舞うと、その周囲には黒く染まった烈風が纏う。
『……!!』
整然と編隊を成していたトブカたちが、一斉に彼女の方を向く。
領空を侵犯してきた愚かな侵入者を迎撃するべく、一瞬にして攻撃機動へ移る鮮やかさはさながら機械のようであったが、しかし、ここは大自然の大気の中。
『あらヨーっ!』
まるで海中の魚雷の如く牙を剥いて突撃してくるトブカたちを、渦潮に巻き込むかのように黒い烈風が竜巻を成す。
巨体をそのままに身を任せることのできる水中ではなく、泳ぐ力を損なえばあっという間に失速してしまう空中において、猛烈な乱気流の効果は抜群だ。
風だから空の相手に不向きなどということはない。
複数の編隊をまとめて風の渦にからめとって巻き込む姿は、なんというか、こう、
『……サメと竜巻って、既視感あるネ』
数あるクソ、もといサメ映画の中でも、サメと竜巻のあれは名作と言わざるを得ない。
あの作品とディープブルー以外は別に要らないんじゃないか。いや、元祖のあれは別格としてさ。
などという過激派までいるとかいないとか。
いやいや、地上にまで平気で出てくるタコと合体するやつとか、画面映えの為に致命的な弱点を敢えて前面に出す頭二つのやつとか、ぎりぎり面白いやつはまだまだいっぱいあるって!
「ハッ!?」
竜巻に巻き込まれて目を回し失速していくトブカを見下ろし、どこか上の空だった有栖は、気が付けばトブカの編隊の一つに目を付けられていたのに気が付いた。
いつの間にか領空に踏み込んでいたようだ。
「っ! 迂闊に怪我はさせられません。桔梗さん、網を張りますよ」
「るー」
正面から迎え撃つかのように、ウィンドボードの上で身体のばねを溜めるような体勢をとると、フードの中からひょっこりとバトモンの桔梗さんが飛び出す。
空を縦横無尽に飛んでくる空飛ぶサメの突撃を、波乗り板を操って、こちらも空を自由に滑ることで立体的に躱す。
風の流れを読めるものが仮にいたなら、そこに風の波を、そして反り返る波をロケット発射口に見立てたことで名付けられた妙技、シャトルループを幻視したかもしれない。
逆さになった有栖と、交差するように突撃してきたトブカとが一瞬、視線が重なる。
しかしそれまでだ。
影を使う桔梗さんが迎え撃つように仕掛けていた影の触手が、大きなタモ網の如く誘い込まれたトブカを捕縛して逃さない。
「るー」
「ナイスですよ」
翼をがっちりと固められたトブカがじたばたしながらゆっくり落ちていくのを見送りながら、どことなく誇らしげな桔梗さんを褒めつつ、有栖もまた次の戦況に視線を飛ばすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【SPD判定】
真剣口調で話すよ
大佐は軍事行動のためにあの子達を利用しようとしているんだよね…
あんな機械兵器みたいな状態から、早く開放してあげないと
そのためにも…まずはあの子達を一時行動不能にしないとね
ライバーン!キミに決めた!
ライバーンと一緒に大佐に洗脳されたトブカと戦うよ
UCは『ライバーンのでんげきブレス★』
【空中機動/空中戦】技能で飛翔状態になったライバーンが【でんげきブレス】や【電撃突進】、【電流噛みつき】で攻撃するよ
敵の攻撃は【第六感/見切り/身かわし】で避けるね
山肌を覆うような針葉樹の森が広がるその一帯は、まるで山全体における影のようにも見えた。
さもなくば、山肌を晒さぬよう大自然からその骨肉を削がれぬよう覆った鱗のようでもあったかもしれない。
それすらも自然の一部だというのに、それはまるで、天然の要塞。
単なる自然の造形に過ぎぬその一帯が、目を凝らしてよくよく見ても堅固な風に感じたのならば、きっとその周囲を飛び交うたくさんのトブカ達の編隊飛行が、あまりにも規律正しかったからだろう。
それらの警戒網に引っ掛からぬよう、自らの足で出向いてきたクローネ・マックローネは、先ほどまで映画関係者と楽しげに談笑していた明るい表情も鳴りを潜め、少女の姿を成すブラックタールのちょっぴり地黒な横顔にいささか剣呑なものを帯びる。
「大佐は軍事行動のためにあの子達を利用しようとしているんだよね……。
あんな機械兵器みたいな状態から、早く開放してあげないと」
バトモンはもともと戦闘生物という歴史をもっている。
とはいえ、生まれた経緯からはずいぶんと年代が経ち、生物として解き放たれた彼らは、今の代においてほぼ野性と言ってもいいはずだ。
にも拘らず、相変わらずかつての英雄たちはその絶対的な命令権を行使して、バトモンを縛り付けることが可能であるらしい。
生まれたその業から逃れられぬ不幸。いや、悪用するものがすべて悪い。
クローネの中には、様々な神魔、オブリビオンの魂が通り過ぎ、今の彼女を成している。
その精神性は今や複雑で、一口には言い切れない。
力ある存在は、在るだけで世界に影響を及ぼすも、その力の向く方向を決めるのは、とてもシンプルなもので、それそのものに善悪は無いのだ。
ただし、及ぼされる影響は、時に醜悪にもなり、時に人々の胸打つものになる。
それ故に、志だけは己の行動に後悔なきよう、自分自身に恥じぬよう貫かねば、きっとどこかでひずみが生まれ、カオスを煮詰めたようなブラックタールの根幹をも、いずれは滅びに招くだろう。
難解に思う事はない。
それを悪しきものであるとするならば、クローネは、きっと力を振るう事に躊躇しない。
今は敵となってしまった、彼らが憎いわけではない。
「……まずは、彼らを一時行動不能にしないとね。
ライバーン! キミに決めた!」
上空を見上げると、いくつもの魚影が規則正しく、機械のような正確な軌道で哨戒についている。
おおよそ生物らしからぬ彼らを取り戻すべく、クローネは自らの相棒にも等しい雷ワイバーンバトモン『ライバーン』を呼び寄せる。
痺れるような静電気を帯びた風と共に、翼を広げたライバーンが羽ばたくと、気流が巻き起こって、鋭い鳴き声を引きずっていくかのように勢いよく飛翔していく。
『……ッ!!』
突然の侵入者。領域侵犯する空の影。ライバーンの勇姿は、雄々しい陽光にも似た眩い雷光を放って、その姿をアピールし、すぐさま周囲の警戒飛行中の洗脳トブカ達の視線をあつめる。
悠然たる翼竜の余裕ある羽ばたきが有機的躍動に溢れるのに対し、トブカ達の飛行を支える翼の躍動は機械的であり、まさしく水中を泳ぐかのように身を捩らせる最低限度の滑空に近い。
その静けさこそが、獲物を狙って牙を研ぎ澄ませる戦闘機械めいて、得体の知れない危険性を思わせる。
睨み合いが続嗅に思われたが、しかし、長期戦は数に勝るほうが有利だ。
「ライバーン、でんげきブレスだ!」
速攻で畳みかけるべく、クローネがライバーンに指示を飛ばす。
現場での臨機応変はさすがにライバーン本体の方に任せるが、戦況を見るクローネが大まかな戦術を飛ばすことで、その戦闘力は数倍にも引き上げられるのだ。
【ライバーンのでんげきブレス★】は、牽制でも何でもなく、一撃で複数体を黙らせるために、初手から全力で雷光を帯びたブレスを放つことで、物理的に警告する。
薙ぎ払うような雷光。それにわずかでも撫でられたトブカ達が、ことごとくその身体を痺れさせ、ひきつったようにして墜落していく。
しかし、機械のように恐れぬ洗脳トブカは、即時、ブレスの効果範囲を被害を出しながら把握し、人海戦術のようにして掻い潜り、潜り込むようにして、まさに水流をかき分けるサメと同じくその牙を剥いて突進してくる。
「っ、通り抜けてくる。ライバーン、避けるんだ!」
『クオオッ!!』
檄を飛ばすクローネに反応するようにして、ライバーンが空中で身を捩る。
魚雷のように突進してくるトブカの身体と、空中で接触こそしないものの、空気が混じり合うかのようにぐるんと体勢を入れ替える様は、生息領域が異なるようには見えない、水中のようでも空中のようでもある不思議な邂逅に見えた。
だが、見惚れても居られない。
体制を入れ替えるように見えたのは、素早い攻防でもあった。
追う行為であり、避ける行為でもあるそれが、円を描くような体勢移動であり、若干体格で勝るライバーンが首を伸ばすほうが早かった。
尾びれにがっちりと嚙みついたライバーンが、そのままトブカの身体を空中で振り回し、予期せぬ方向に引っ張られたトブカは、慣性を殺され揚力を失って、羽ばたく間もなくその身体に電撃を迸らせて身体を硬直させて失速していった。
そのわずかで、素早く、獰猛な獣同士のような攻防を経てなお、ライバーンは警戒を怠らず、周囲を威嚇するように、その口の端に雷を迸らせて嘶くのであった。
その様相には、さしもの戦闘機械のようであったトブカ達も、迂闊には踏み込めない様子であった。
大成功
🔵🔵🔵