君がために笑顔はある
●グリプ5
ライフワークには情熱が必要だ。
有り体に言えば、燃料であると言っていい。であれば、情熱を育むものは一体なんだろうか?
それこそ人による、としか言いようがないのではないだろうか。
少なくとも、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)には情熱があった。端から見れば、それは出歯亀っていうなじゃないのかな、と言われることもあったかもしれない。
だが、彼女は運び屋である。
運ぶのは品物だけではない。
人と人との縁を運ぶことだってできれば、結ぶことだってできる。
メイドだから、なんでもできる。
その理屈はおかしいな? というツッコミもないので、彼女はやりたい放題である。
彼女のアグレッシヴさは他世界だろうとなんだろうお構い無しである。
仮に、世界が縁を阻むのだとしたら?
そんなの関係ない。
世界をまたごうとも縁を紡ぎ続ける。
それが彼女のライフワークなのだ!!
「こんにちは『ゼクス』様。調子は如何ですか?」
小国家『グリプ5』のキャバリア整備場にて『ゼクス・ラーズグリーズ』は相変わらずツナギ姿でオイルに塗れていた。
額に汗浮くのは、まだまだ日中の気温が下がりきらぬからであろう。
そんな彼の前に現れたメイドは包帯まみれであった。
どう見ても、不審者である。
片目だけが覗く包帯メイドがいたら、誰だってそう思う。みんなもそう思う。
「……で、なんで、そんな格好を?」
はぁ、と息を吐き出して彼は首を傾げる。
「ハロウィンですか?」
「いえ、確かにこの世界でハロウィンも捨てがたいですが。今日はまだ早いかと?」
「冷静に言われるの、ちょっと困るんですけど」
「そうですね、敢えて申しますと……名誉の負傷でございます」
「ああ、そうなんですね。大変ですね」
じゃあ、俺はこれで、と背を向ける『ゼクス』の肩をステラは掴んで離さなかった。
「『ツヴァイ』お嬢様にやられたのです!」
迫真である。
だが、『ゼクス』の顔は若干白けていた。
「『ゼクス』様の写真を渡そうとしたら暴力を振るわれたのです! どう思いますか『ゼクス』様!!」
「どうせ、また余計なこと言ったかなんかしたんでしょ」
「あっるぇ……!? 私、全然信じてもらえてない感じですか!?」
「これも揺さぶって遊ぼうと考えてのことでしょ。それに彼女が暴力を振るうなんて考えられない」
「え、いや、これは」
本当のやつ、と思ったのだが、包帯の下は綺麗なもんである。
まあ、間違いではない。
ステラは全身を覆っていた包帯をほどいて片して、居住まいを正す。
「ほら、やっぱり」
「いやですね、今回は『ツヴァイお嬢様由来のブツがないのでトークで楽しんでいただこうというメイドなりの小粋なジョークでしたのに」
「その、彼女由来のっていうのやめてほしい。なんか、やだ」
「おや? おやおやおやおやぁ!?」
「……何。なんです」
「いえ、彼女、なんて、そんな言い方されちゃってまあ、大人びた言い方をされましたね? ちょっと背伸びしたいお年頃ですものね。わかりますとも!」
ぐ、と『ゼクス』はたじろいだ。
確かに、ちょっとお背伸びした言い方だったし、なんなら彼女のことはステラよりよく解ってるし、と言いたげな雰囲気があったことは認めるところである。
しかしだ、図星を刺されて喜ぶものなどいない。
特に思春期の男子であれば取り分けて、だ。
「違いますってば。そんなんじゃ!」」
「いやぁ、実際のところ、『ツヴァイ』お嬢様の照れ攻撃は凄まじいものでござますよ。一度食らっていただきたいところ。なかなか出ないんですよねアレ」
「なんかの景品みたいな言い方」
「いや実際レアであるよ、『ツヴァイ』お嬢様のテレ顔は」
「含みがありすぎる物言いですね」
「わかりますか? いやぁ! かぐわしいですね! 私のメイドセンサーが青春スメルを感知しておりますよ!」
はすはす。
「そういうんじゃないって言ってるでしょ!」
『ゼクス』のムキなった物言いですら、ステラにはご褒美であった。
「でも……喜んでいらっしゃいましたよ『ツヴァイ』お嬢様」
ステラは笑む。
どんな時だって笑顔が一番素敵な顔なのだということはどの世界であっても変わらないことだ。
「……それなら、いいですけど。もっといい写真だってあったでしょうに」
「アレがいい、ということでしたので?」
「……!」
またそうやって、と抗議する『ゼクス』に追い立てられながら、ステラは思う。
次は冬の季節だろうか。
クリスマスを皮切りにして、イベントラッシュ。
益々、二人の若人の縁から目が離せないな、とステラはひとりホクホク笑顔のまま、退散するのだった――。
成功
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