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運命の炎

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 がたがたと揺れる粗末な幌馬車の荷台から、マーシャはそっと外を覗いた。ごわごわした幌の布地が冷たく感じるのは、このあたりに年じゅうたちこめている霧のせいだ。初めてスラウェンに来た時には、まるで曇天がそのまま降りてきたようだと思ったものだ。
 馬車が揺れる。スラウェンの門が遠くなっていく。家々が霧に沈んでいく。
「そのくらいにしておきなさいな、マーシャ。ほら座って。冷えるとよくないわ」
 サネルマが荷台にしつらえられた簡素な椅子に毛布を広げた。これで少しはましな座り心地になるだろう。
「ええサネルマ、でも……」
 嫁いできた村だが、マーシャが住んでもう十年近くになる。戻ることはないのだと思うと、もう少し見ていたい気がした。
 サネルマはやれやれと赤毛に指を絡ませた。
「あなたはもう、あなた一人じゃないのよ。お腹の子を守ることを第一に考えなくては」
「わかっているわ。でも、この子は本当に、英雄なんかになるのかしら――」
 ぽつりと呟いた声は、木製の車輪が軋む音に吸い込まれていった。

 サネルマの占いはよく当たる。スラウェンでは、困りごとがあればいつもサネルマに頼っていた。
 春に生まれる仔馬の数、夏に訪れる隊商の構成、秋の実りの多寡、冬に川が凍り付く時期を、サネルマはすべて言い当ててみせた。
 そのサネルマが、マーシャの子は英雄になると言ったのだ。
 スラウェンに喜色が満ちた。霧に覆われ闇に沈むこの世界を切り拓く可能性があるならば、胎児にさえ縋らずにはいられぬ。噂は瞬く間に広がった。
 ――マーシャの人生は変わってしまった。
 村人が一人、また一人と姿を消すようになったのは、マーシャの腹がいよいよ大きくなり、臨月にさしかかる頃だった。
 いくら探しても見つからなかったかれらはある日、全員まとめて村のはずれにうち棄てられていた。みな干からびたようになって死んでいた。
「ヴァンパイア……!」
 死因は明らかであった。
 比較的平和であった――よその村に比べればだが――この村にもとうとう奴らの手が伸びてきたのかと、村人たちは戦慄した。
 同時に村人たちは、マーシャに村を発つように口々にすすめた。ヴァンパイアはスラウェンを食い尽くすつもりかもしれない。今発てば東へ行く隊商に紛れ込める。はやく逃げて、英雄を産んでおくれ――。
 かくして、マーシャと、村一番の占い師であるサネルマは、村で唯一まともな馬車に乗せられ、マーシャの故郷であるエスフレンへと向かうことになったのである。

「濃き靄の内より出でしみどりごの、よるべなき生を哭く声、朝夜のふところ深き森の袖、隠るるなかれ、隠るるなかれ――」
 予言の歌は時に抽象的だ。エフェネミラルはそれを他の情報と照らし合わせ、解釈して猟兵たちに伝えるのだが、一切の間違いがないとは限らない。そのため、手を加えぬままの歌を猟兵たちに聴かせるようにしているのである。
「スラウェンからエスフレンまでの、馬車なら二日の道を行く者がいる。これを守ってほしい」
 女二人、そのうち一人は身ごもっているようだ、とエフェネミラルは言う。
「どうしてそんな――この寒い時期に、無茶な旅を」
「逃げているのだろう。彼女らを追う影がある」
 グリモアが告げる影はすなわちオブリビオンだ。身ごもった女を、生まれてもいない子を害そうというのか――。
 猟兵たちは嫌悪感を覚えたが、驚きはしなかった。あえて希望の芽を摘むことが好きな手合いはどこにでもいる。特にダークセイヴァーにおいては珍しくもなかった。世界を蹂躙し、支配者となったオブリビオンたちはしだいに残虐な娯楽を好むようになっていったのだ。
 権勢を得た者は一定の確率でそうなる。人間の歴史にもあったことだ。オブリビオンがその過去をふたたび、あるいはみたび繰り返したところで、なんの驚きがあろうか。
「馬車はじきに関所にさしかかる。この地方の統治者が誰かはわからない。が、オブリビオンの息がかかっていないわけがない」
 粗末な馬車に乗った女二人。商人でも旅芸人でもない彼女らが関所で見咎められれば、その時点で領主――おそらくはオブリビオン――に差し出されるであろう。
「うまく隊商に紛れていればいいのだが」
 そう甘くもないだろう。エフェネミラルが言わずとも、猟兵たちは頷く。
「見つからぬよう、はからってほしい。子が英雄になろうがなるまいが私は構わない。ただ、生まれる命には祝福が必要だ」


降矢青
 ご覧いただきありがとうございます。降矢青です。
 年末年始を殺伐とした気分で過ごしたい方向けのシナリオとなっております。

 第一章の成功条件は【マーシャとサネルマを関所の兵に見つからずに通過させること】。
 万一見つかってしまった場合は、ほかの兵に知らされる前に黙らせてください。
 今回のシナリオは、戦闘パートは多くありません。その分皆様の心情などにも触れていきたいと思っております。
 キャラクターが何を考え何を感じるのか、そしてどう動くのか、ぜひ教えていただければと思います。
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第1章 冒険 『関所を突破して送り届けろ!』

POW   :    強引に突破する、または気迫を漲らせて近寄らせないことで突破する

SPD   :    素早く物を隠す、迂回路を使う、見つからずに突破する

WIZ   :    袖の下を渡す、言い包める、許可証を偽造する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベガ・メッザノッテ
半分ヴァンパイアの血が流れるアタシとしテ、こんなことをするなんて許せないネ!高潔な種族らしい振る舞いをして欲しいワ!

【SPD】
予め馬車の人々にハ、妊婦サンが冷えちゃうのは良くナイってアタシのマント(装備品)をかけておくヨ。

関所についたら【見切り】で兵よりも先に話し始めるワ!先手必勝、【コミュ力】を活かすヨ!「ハァイ、荷馬車を通したいノ!」隊商に紛れ込めるならそうしたいネ。
もしも二人の方を覗こうとしてきたラ、関所の兵のおめめに【呪詛】を仕込ミ、一時的だけど見えなくしちゃうワ!相手が悶えてるうちに通過するヨ〜!バイバ〜イ!

●口調プレイングに沿って下さい。他人との絡み、アドリブ歓迎です。


トリテレイア・ゼロナイン
予言の仔…御伽噺でも良くある話ですね、成長して立派な騎士になったり…

ですがここは弱者が弱者の命を差し出し生き延びる世界、オブリビオンの命で何も知らぬ母子を差し出す…といったケースも考えられます
正直サネルマ様すら疑わしい、マーシャ様を最優先で行動しましょう

【POW】
関所に向かう途中の馬車に近づき、「礼儀作法」で遍歴の騎士と信用させて行き先が同じだからと関所までの護衛を申し出ましょう

関所に着いたら二人と別れ、遠方に仕官の口を求めたが関所を通るための許可証が無いと騒ぎ「怪力」で強行突破を匂わせましょう
私への対処で兵が集まり他の猟兵の行動もしやすくなるはず
突発的な問題は銃での「だまし討ち」で対処


麻生・大地
「あまり頭を使うのは得意ではありませんし、僕は僕のやり方で手助けすることにしましょう」

【情報収集】

事前に多目的ドローンで、上空から関所付近の上面図を作成
近辺の兵士や兵舎の配置を調べ、これは仲間に共有しておきます

【忍び足】【だまし討ち】

次に、【ハイドクローク】を使用
兵舎付近に潜伏、兵たちの動向を監視し、
万が一の時は即座に鎮圧できるようにしておきます。

といっても、昏倒させるぐらいの手加減はしますが

以上、全て逐次仲間に情報として送ります

「姑息と言われようが卑怯と言われようが、これが僕のやり方です。英雄なんてなりたくないし、なろうとも思いませんしね」



◆第一の墻壁

 予言の仔。
 御伽噺にはよくある話だ。トリテレイア・ゼロナインの記憶中枢に残る物語の中にも、そのようにして生まれ、偉大な騎士になった者の話があった。
 しかしここはダークセイヴァーだ。身喰いのごとく、弱者が弱者の命を差し出して生き延びる場所である。
(……正直、サネルマ様すら疑わしい)
 護衛対象ではあるが、無条件に信用するわけにもいかない。マーシャを最優先にしよう、と結論付けて、トリテレイアは馬車に近づいた。
「失礼いたします、奥方」
「だ、誰!?」
 幌馬車の開口部を全て覆う――覆ってもなお有り余るトリテレイアの巨体に、マーシャは怯えた声を出した。
「驚かせてしまい申し訳ございません。わたしはトリテレイアと申す者。騎士の修行のため、この地方を遍歴しております」
 トリテレイアは胸に手を当て、膝を曲げて騎士の礼をした。まるで姫君に跪くように。
 マーシャは慌てふためき、体の前で両手を振った。ただの村人である自分の前に、こんなにも強そうなひとが膝を折るなんてとんでもないことだ。
「見ればご婦人の二人旅、この辺りは野盗どももおり物騒でございますゆえ、せめて道中をお護りいたしましょう」
 騎士物語の中から出てきたような口調は、マーシャの信用を得るに十分であった。御伽噺の騎士や姫君に憧れてベッドの中で本を抱えて眠った日が、マーシャにもあったのであろう。
「あの、立ってください。私はそんなことをしてもらうような身分じゃありません」
 でも、とマーシャは重くなった腹を撫でる。
「騎士様がいてくれれば、心強いわ。この子もきっとそう」
 ねえサネルマ、とマーシャは連れを振り返る。サネルマは突然現れたトリテレイアに警戒の色を露わにしつつも、護衛は必要と考えたのだろう、こくりと頷いた。

「話、つけてきたヨ!」
 澱む霧を吹き飛ばすような楽しげな声がした。トリテレイアは体を横にずらし、マーシャが声の主を見られるようにした。
 わたしの仲間です、とトリテレイアが視線で示した先には、ベガ・メッザノッテの姿がある。
「ちょっと先に隊商がいるワ。ソコの隊長サンに、混ぜてもらえるように頼んできたカラ」
 遠くからでも見えるトリテレイアの巨体をさして、紛れ込ませてくれるならあの騎士が護衛をするといえば、そう難しいことでもなかったとベガは語った。
「だから御者サン、急いデ急いデ! 関所が見える前に追いついてネ!」
 その声に追い立てられ、御者がスピードを上げる。馬車の揺れが大きくなったが、マーシャもサネルマも気にならぬようだった。
「良かったわ、隊商に入り込めて」
 緊張にこわばっていたサネルマの表情が幾分かやわらいだように見えた。そうねと頷くマーシャも同様だ。
 エスフレンに行くにはどうしても関所を通らねばならないが、他に荷のない女二人でそのうち一人は妊婦など、通常の旅人とは思われぬ。見咎められぬほうがおかしい。それに、道中には野生の獣や、悪くすれば怪物どもがうろついていて、とても安全とはいえぬ。
 大きな隊商ならば人も多く、隊列を組んで身を守る術ももっている。少しは旅がしやすくなるはずだ。

 関所を抜けるには三度兵士の眼を掻い潜らねばならぬ。
 それを伝えたのは麻生大地であった。
 トリテレイアが馬車に接触し、ベガが隊商と話をする間に、大地は多目的ドローン《ネツァク》を飛ばして砦の様子を探っていたのである。
 霧が深いため観測しづらかった部分もあるが、おおむね関所は三つに分かれており、そのそれぞれに兵士が配されているということまでは調べがついた。
「すごいネ、大地! この短時間で見取図マデ作っちゃったノ!?」
 目の前でさらさらと描かれた関所の見取図に、ベガは歓声をあげた。
「あまり頭を使うのは得意ではありませんが、この程度でしたら」
「十分頭脳派の働きじゃないノ!」
 ベガはふむふむと見取図を覗き込む。
「入口、中央広場、そしテ出口ネ」
「兵の数からして、主に検分を行うのは中央の広場でしょう。ですが、入口・出口のどちらにおいても、荷をあらためる場合があるようです」
「入口の対処はアタシに任せテ。それだけ調べてもらえば十分ヨ」
 不敵な笑みを浮かべるベガにひとつ頷いて、大地は馬車のそばを離れた。
 他者から姿が見えていないことを確認し、《ハイドクローク》を発動する。大地の姿が揺らぎ、背後の木々に紛れ――消えた。このユーベルコードは疲労が大きい。大地は足音を殺しつつ、急ぎ関所へと向かった。

「あの、どうしてあなたたちは――」
「皆まで仰らずとも結構ですよ」
 騎士がご婦人をお助けするのは当然のことです、とトリテレイアの態度は恭しい。
「掻い摘んで言うとネ、そこの赤毛のお姉サンみたいに先見の占いができるコがいるノ。それで、アナタたちを助けてあげてって頼まれたわけヨ」
 それに、半分ヴァンパイアの血が流れるベガとしては、同じ血を持つ者の行いに我慢がならなかった。高潔な種族であるはずが、なんと下卑た振る舞いか。
 しかしそれを口に出すのは憚られた。ヴァンパイアという言葉を出すだけでも、怯えさせてしまうかもしれなかったからだ。
「先見の……?」
 にわかには信じがたいという風情のサネルマとは対照的に、まあ、とマーシャは手を打った。
「サネルマ以外にも、そんなことができる人がいるのね! サネルマは本当にすごいのよ。ああでも、これで安心ね」
 ベガは微苦笑を浮かべた。信用を得られて喜ぶべきか、マーシャの警戒心のなさを咎めるべきか、判断がつかなかった。

「ハァイ、荷馬車を通したいノ!」
 関所の兵士が口を開く前に、ベガは話しかけた。トリテレイアは、近くにいては逆に目立つからと一時離れている。
 マーシャの乗った馬車は首尾よく隊商の中央付近に紛れ込むことができた。もう何台も馬車を見て、この後さらに何台も馬車が続いている現状は、兵士の目を鈍らせるのに一役買っている。
「中身は何だ?」
「少しの衣類と、あとは空ヨ。エスフレンで葡萄酒を積むから空けてあるノ」
「空? ふむ、まあ一応中身を――」
 馬車の中でマーシャが身を固くした、そのときだった。

「許可証だと!? 遠く北西の涯より仕える主を求め、騎士の道を貫かんとする者の行く手を、紙きれ一枚の有無で阻むというのか、貴殿ら!」
 前方からトリテレイアの仰々しい声が響き渡った。
 馬車の中をあらためようとしていた兵がびくりと手を止め、声のした方角に目をやると、見上げても見上げきれぬほどの騎士が別の兵を相手に憤慨している様子が見えた。足を踏み鳴らす音はずしりと重々しく、彼が激発すればどうなることか、兵士が不安を覚えるに十分である。
 勇気を振り絞ってトリテレイアを制止しようとしていたひとりの兵士が、突然どうと倒れた。トリテレイアは大声で話しているだけで、指先ひとつ動かしてはいないのは、誰もが目にしたところである。
「な、なんだ!?」
 狼狽する兵士の声を右耳に聞きながら、ベガは心中で笑みをこぼした。
 自分たち猟兵以外にわかるはずもない。いや、猟兵であっても、事前に作戦を共有していなければわかりようがない。《ハイドクローク》で姿を消した大地が、トリテレイアに掴みかかろうとした兵士に手刀を叩き込んだことなど。
「何が起こった!? ああクソ、お前、行っていいぞ!」
「どうもネ! バイバ~イ!」
 慌てて駆けだす兵士の後ろ姿にベガはひらひらと手を振った。

 馬車が関所の入口を通過したことを確認して、大地は人けのないところまで移動し《ハイドクローク》を解いた。機械の体であっても疲労と無縁ではない。
 なおも巨大な体躯を駆使して兵士の視線を巧妙に馬車から逸らすトリテレイアの姿をちらりと見て、大地は大きく息をついた。
 大地には、あのようなやり方は到底不可能だ。だが、それが悪いとは露ほども思わぬ。
「姑息と言われようが卑怯と言われようが、これが僕のやり方です。英雄なんてなりたくないし、なろうとも思いませんしね」
 生まれる前から希望を押し付けられた赤子は、どんな心持であろうか。
 大地は考えを巡らせかけて、やめてしまった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。サネルマ…だっけ?
それだけ占いに長けているくせに、安全に逃げる道一つ占えないなんて…
“猟兵”がいるから大丈夫だと思っている?それとも…

…この世界の上位者の『礼儀作法』に従って『存在感』を放ち、
ヴァンパイアの従者を『装って』関所の兵士を言いくるめる
「…馬車に乗った女が二人…一人は身重…が関所に来る」と伝え、
遠い地のヴァンパイアの貢ぎ物だから手を出すなと要求(命令)

「我が主は美食家」とか「胎児の血」とか…
残虐な娯楽を連想させる単語を告げ、
『第六感』で最も反応が著しかった兵士を『見切り』、
「断れば、あなたの奥方でも…」と『誘惑』してから
【見えざる鏡像】で不可視化する

「…すこし、脅し過ぎた?」



◆鬼胎惹起

 隊商に紛れられたのは幸運であったが、全てにおいてよい結果が得られるとは限らぬ。
 大規模な行列が通ると予め情報のあったこの日、関所においては兵を増員して対応にあたっていた。
 そのため、中央広場に辿り着く前にも随所で兵士の目があり、いくらトリテレイアが騒ぎを起こして目を引いているといっても、荷馬車がまったく兵の目に触れぬというのは不可能といえた。
(サネルマ……だっけ? このことは占えなかったなんて……)
 それでもこれが最善と判断したのかもしれない。猟兵が来ることは視えていたのだろうか。それとも、あるいは――?
 泡沫のように思考が浮かぶが、それに集中していられる状況ではない。
 巨躯の騎士に注意を逸らされず職務を全うする勤勉な兵。リーヴァルディ・カーライルは彼らに目を光らせていた。
 リーヴァルディはマーシャの馬車に歩み寄ろうとした兵に近付き、後ろから声をかける。
「下手なことは……しない方がいい」
「何だお前は――子供?」
 その兵からみて、リーヴァルディは頭ひとつ以上小さい。なぜ子供がこんなところにいるのか。兵の目が疑わしげに細められる。
「見て……わからない? 《あの御方》の側付き……邪魔をしないほうが……いいと思う、けど」
 リーヴァルディは、もちろん嘘をついている。少ない情報を繋ぎ合わせ、ダンピールの血と存在感を利用し、それらしいことを言ってやっただけだ。
 しかし兵のほうは、この地を掌握するヴァンパイアにどれほどの恐怖で律されているのだろうか、びくりと体を震わせ姿勢を正した。
「女二人……一人は身重……あの行列の中にいるけど……我が主に捧げるため。大切な《お食事》が……下賤の兵などの目に触れたら……」
 兵は息を呑んだ。リーヴァルディはなおも容赦なく言葉を続ける。
「主は美食家……胎児の血は、なかなか手に入らない……不興をこうむれば、今度は……あなたの奥方かも……」
「ひ、わ、わかった……! 俺は何も見ない!」
「そう……?」
 それはよかった、と囁くような声を残して、リーヴァルディはふっと姿を消した。《見えざる鏡像(インビジブル・ミラー)》によるものだが、兵士には知る由もない。
「う、うわああああああッ!!」
 兵士の恐怖が自制心の堤防を越えた。その場からとにかく逃れようと、目を見開いて走り出す。
「……すこし、脅しすぎた?」
 まずい、とリーヴァルディは顔を上げた。
 このまま兵士が中央広場に駆け込めば――

失敗 🔴​🔴​🔴​

花棺・真尋
【POW】
聞いた事のある村の名だと思ったら以前戦った村か。なるほど。
俺は占いというものを信じてはいないが、信じている人間を否定するつもりもない。英雄として祀り上げられる子に同情はするがな。
ただ祝福は与えられて然るべきだ。それが希望だと言うのなら尚更。

俺が出来ることはひとつしかない。オブリビオンとそれに連なるものへ引き金を引くこと。それが例え人であろうとも、躊躇いはない。
命を弄ぶ手合いは嫌いなんだ。反吐が出る。

口封じの任は請け負った。彼女らのことが見つかった際には他の兵に知られぬよう排除する。



◆魔弾の射手

 ドン、と衝撃音が響き、直後に空気がしぼむような音が細く長く後を引いていく。
 関所にいた者は、兵士も商人も旅人も、皆そろって空を振り仰いだ。何の音か、どこから聞こえた音か。それを突き止めようとせわしなく視線を動かすが、それらしいものは何一つとして目に入らぬ。
 銃の音だとわかる者は、この世界にはいない。花棺真尋の携える《宵》の名を持つスナイパーライフルは、ダークセイヴァーの銃とはあまりにもかけ離れている。
 真尋は関所が一望できる木立の上に腰を据え、常にスコープを覗いていた。しかるべき時が来れば迷わず引鉄を引くためだ。相手が人であっても、躊躇いはない。
 ――そして、その時が訪れた。
(俺に出来ることはひとつしかない。オブリビオンとそれに連なるものへ引鉄を引くこと)
 彼の生は常に戦場にあった。今更汚れ仕事を厭うことがあろうか。
 射撃姿勢のときに唇を微かに開き、口で息をするのはスナイパーとして身についてしまった習性だ。標的に位置を知られぬからこそ真価を発揮するスナイパーにとって、くしゃみは大敵ゆえにこのような方法がとられる。この場においては多少の物音を立てたところで関所の兵に聞こえるはずはないのだが、染み付いた呼吸はそう簡単に変えられるものではなかった。
 木の上から遥か東に目をやれば、目的地であるエスフレンに続く道がうっすらと見える。
(聞いたことのある村の名だと思ったら以前戦った村か、なるほど)
 真尋はエスフレンを脅かす異端の騎士を撃退したことがあった。今回マーシャの護衛に当たる猟兵の中には、そのとき肩を並べて戦った者もいる。
(死人みたいな目をしてやがった奴等のところに、今度は英雄か)
 英雄だ、予言の赤子だなどと、真尋は信じてはいない。むしろ祭り上げられる嬰児に同情をおぼえる。
 それでも新しい生命が生まれるならば、それが希望であるというならば、祝福は与えられてしかるべきであろう。
 真尋は自分が撃った兵士をちらりと見やった。運がよければ生きているだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

星噛・式
「関所を通過するのは簡単だが協力がいる。俺が良いというまで喋らず決して動かないことだ」

女性2人を抱きしめるとクリスタライズを発動させ姿を消し念のため樽の後ろにも隠れておく

馬車を運転する行者には関所では長話せず手早く抜けるようにお願いする

大人の女性2人を長時間消すのは恐ろしく体力が必要なため彼女とて難しい

関所の者を片付けるのは容易だが無駄な血を流すのは彼女の流儀ではない

領主が悪だとしてもその部下までが悪とは限らない。善人を裁くことはできない

妊婦を抱えての戦闘となれば激しい運動により流産なんてことになれば英雄を失い希望がなくなってしまう

「こんな世の中だからこそ英雄という希望を失うわけにはいかない」


黒城・魅夜
方法自体は、おそらく簡単。私の能力でお二方を透明化し、息を殺してそっと関所を通り抜けるだけです。

……ですが、問題はそれ以前。猟兵の存在が知られていないこの世界で、突然現れた得体の知らない私のようなものの言うことを、お二方が信じてくださるかどうか。
私には、相手を説得したり言いくるめたりするような技能も、相手の心を解きほぐすような技能もありません。かといって、じっくり話し合うには時間がない。
……已むを得ません。自分の短剣を抜いて、差し出しましょう。切っ先を私自身に向けて。

「私に何か不審な点あらば、即座に貫いて構いません。ですが今だけは、私のことを信じてください。あなた方を、助けたいのです……」



◆第二の墻壁

 ここまで馬車の中を見られずにきたが、中央広場では本格的に荷の検分が行われる。積荷の価値に応じて通行料を徴収せねばならぬからだ。ここで中を見るなと強硬に反発すれば、その時点で捕らえられてもおかしくない。
 星噛式と黒城魅夜は目を合わせて頷き合うと、馬車の中にそっと体を滑り込ませた。
 灯りもつけぬ荷台の隅、ただ布が重なっているようにも見えるそこに、マーシャとサネルマが身を寄せ合うように座っていた。入ってきたのが兵士だと思ったのであろう、怯えと敵対心が、薄明に浮かび上がる瞳の中に揺れている。
「大丈夫、兵ではありません」
 抑えた声で魅夜が語りかける。女性の声とわかって、マーシャはほんのわずか警戒を解いたようであった。
「関所を通過するのは簡単だが協力がいる。俺が良いというまで喋らず、決して動かないことだ」
 式と魅夜はそれぞれに姿を消す術を心得ている。大地のそれと同じく、消耗の激しいものだが、馬車の中を兵に見せたうえでマーシャとサネルマを守り通すためには最善の手と思われた。
「この技には条件がある。俺の場合は相手を抱きしめること、そっちの魅夜の場合は――」
「口付けをすること、です」
 マーシャは身を硬くした。彼女らも先ほど話しかけてきた騎士たちの仲間なのだろうとは想像がつく。彼らもにわかには信じがたいことを色々と言っていたが、しかし、彼らは馬車の中には入ってこなかった。戦う術をもたぬマーシャとサネルマに、触れられるほど近付くことはなかった。
 不安はもっともです、と魅夜は目を伏せ、懐を探った。うつむく顔の動きに従って、切り揃えられた髪がさらさらと流れる。
 取り出したのは鈍く光る短剣だ。マーシャがいよいよ緊張に顔をこわばらせ、サネルマにしがみついた。サネルマが鋭く声を発する。
「あなた、そんな物を、どういうつもり!?」
「私に不審な点あらば、即座に貫いて構いません」
 魅夜は二人を刺激せぬよう、ゆっくりとした動きで短剣を回し、柄をマーシャに向けて差し出した――即ち、刃を己に向けて。
 半ば反射的に受け取ったマーシャは、その重さにたじろいだ。短剣といっても、マーシャが普段扱うような刃物とはわけがちがう。人血を吸ったことのあるであろうそれを、持っていたくないとさえ感じた。
 迷いに揺れるマーシャに、魅夜はさらに言葉を続ける。
「今だけは、私たちのことを信じてください。あなた方を、助けたいのです……」
 切々とした訴えに、とうとうマーシャとサネルマは頷いた。どちらにせよ、兵士に見つかればどうなるかわからぬのだ。

 馬車の揺れが止まる。
「行先と積荷は?」
「エスフレンに行くのヨ。中身ハ少しの衣類。さっきの兵隊サンにも説明したワ」
 外でベガが兵士の相手をしている声が聞こえてくる。
「では、中を検めさせてもらう」
 いよいよだ。マーシャは強く目を閉じた。
「動かず、物音を立てなければ絶対に見つからない。安心しろ」
 式がささやく。マーシャは小刻みに頷いた。怯えた表情のままであるから、震えているようにも見えた。
 自分達の姿は完全に消えていると式は言う。しかしマーシャには、本当にそうであるかを確認する術がないのだ。マーシャは祈るように瞼を閉じた。
「荒事には持ち込ませない。妊婦を抱えて戦闘なんて、腹の子に万一があってはいけないからな。こんな世の中で、英雄という希望を失うわけにはいかない」
 そう言った式を、短剣を差し出した魅夜を、信じるしかなかった。
「ふむ、ほとんど空だな」
「そう言ったじゃないノ」
「確認するのがこっちの仕事なんでな」
 兵士とベガの交わす一言一言が永遠のように感じられた。それはマーシャやサネルマのみならず、式と魅夜にも同じであった。
 ぱたり、と微かな音をたてて、式の頬から汗のしずくが落ちた。大丈夫かと問いかけようとするマーシャを式が目線で制する。隣では魅夜が荒くなる息を抑えている。知らず、マーシャは手を強く握り締めていた。
 早く時が過ぎるよう祈りながら、マーシャは兵士の靴音を聞いていた。
 兵士が退屈そうに荷台の中を一瞥し降りていったとき、式の額には玉のように汗が浮かび、魅夜の唇は色を失っていた。
「……疑ってごめんなさい」
 マーシャは握った短剣を魅夜に返そうとして、しばらく迷った後、もう一度柄を固く握り締めた。
「あなたたちに向けようなんて、もう思ってないわ。でも、関所を抜けるまで、貸しておいてほしいの」
 魅夜はマーシャの表情が、守られる村娘から母親の顔に変化しているのを見た。いざ事が起これば、関所の兵に剣を向けてでも子を守るつもりなのだ、と魅夜は察した。
「ええ、でも――それを持つことが重くなったら、いつでも返してくださいね」
 魅夜は安心させるように微笑んだ。血を吸った剣はマーシャには重過ぎる。本当はそんなものを持たずに一生を過ごすほうが、ずっと幸せなのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリウム・ウォーグレイヴ
私は袖の下を渡しましょう。
オブリビオンに仕えている兵士とはいえ問答無用に命を奪う事はしたくありません。
また身籠っている彼女等の状況や今後を考えると穏便に済ませるのが一番だと思うのです。
というのは言い訳かもしれませんね。手を血で汚したくないための。

彼女等が関所で怪しまれた時、前へ出ましょう。
「お寒い中お疲れ様です〜これで皆さんと酒場で一杯どうです?」
とでも言いつつ、兵士にお金を握らせます。
もし言葉で通れないようでしたら、ホワイトファングで力づくです。
無駄な殺生は気が進みません。
動きを封じるのみで、あとの事は私達猟兵に任せて先を急ぐように伝えます。
「希望があれば人は前へ進めます。……お願いします」


戒原・まりあ
【WIZ】
隊商の商人に紛れ込んで
兵士の皆さま方、この寒空の下、お疲れ様です。
これは中に積んでいる衣類と同じものなのですけれど……と
暖かい羽織るものに包んで、賄賂代わりの葡萄酒をそっと監視役に手渡すわ
これで温まって頂けたら幸いですわ。なんて
これで通してくれたらいいのだけれど

無事に赤ちゃんに生まれてほしいのは勿論だけれど
この寒空の下のお仕事が大変だから温まってほしいのも本当だわ
別に兵士の皆さんはお仕事してるだけだものね
悪いのはオブリビオンの方針よ



◆第三の墻壁

 関所の出口にも兵が立っていた。
 彼らの役割は本来、出入りの整理や櫓での物見程度のものだが、ここでも荷をあらためようとする場合がある。
 アリウム・ウォーグレイヴと戒原まりあはその目的をきわめて正確に察した。すなわち、賄賂(まいない)である。
「ここは金品を渡してでも穏便に行きたいところですね」
「同感よ。悪いのはオブリビオンであって、兵士の皆さんはお仕事をしているだけだもの」
 まりあの言うとおり、関所の兵士はマーシャたちと何も変わらぬ、このあたりの住民であろう。文字通り生活のために雇われてこの仕事をしているにすぎない。
 賄賂を求めるのも、腐敗というよりも、環境の劣悪さがそうさせているのだ。この仕事に従事しても、生活は楽ではないだろう。
 意見が一致したことにアリウムは内心で安堵した。猟兵はなまじ力をもつだけに、賄賂などという手を好まぬ者も多い。
 しかし彼は――猟兵として在るべき姿かはさておき――できることなら手を血で汚したくはなかった。その理由ができたことに安堵しているのだ。
 アリウムの胸には、自嘲に似た、しかしもっと輪郭のぼやけたものが広がっていた。
 マーシャと子を――人々が前に進むための希望を守るには、これが最善だという確信はあった。しかしそれが逃げだと、もし誰かに言われれば、アリウムは反論したであろうか。

「兵士の皆さま方、この寒空の下、お疲れ様です。これは中に積んでいる衣類と同じものなのですけれど」
 満面に笑みを貼り付けて、まりあが兵に話しかける。兵もこのようなやりとりには慣れていると見えて、鷹揚にうなずいた。
 アリウムとまりあはいずれも良家の出身である。彼らの品のよいいでたちを見て、懐が暖まるのを期待したのか、兵士の対応は予想よりも随分と柔らかかった。
「む、隊商か。ご苦労だな」
「とんでもない。皆さまには頭が下がります。どうぞ、羽織るものでも」
 まりあの言葉に偽りはなかった。無事に赤子に生まれてほしいのは勿論だが、寒空の下で働く兵士に暖をとってほしいという気持ちにも嘘はない。だからこそ兵士も、疑いもせずにまりあが差し出したものを受け取ったのかもしれなかった。
 兵士は羊毛で織られた分厚い衣服を手渡され、口許をほころばせた。いくら布地が厚いといっても、それだけの重さではなかった。兵士は生地ごしに重い酒瓶の感触を確かめた。
「お寒い中大変でしょう。そちらで足りなければ、これで皆さんと一杯どうです?」
 アリウムはそう言って、兵士が抱えた衣服の中に小さな袋を滑り込ませた。さらに重くなった衣を抱えて、兵士は笑みを深くする。
 アリウムが見上げれば、物見の兵も様子を察したのであろう、こちらを見下ろして軽く手を振っていた。
「いや、気遣い痛み入る。商いの成功を祈っているぞ」
 行っていい、と彼から言葉が出るのに、少しの時間もかからなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『命の灯』

POW   :    気合で妊婦を励ます

SPD   :    細々とした産婆の手伝いをこなす

WIZ   :    落ち着かない近親者を宥める

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


◆落陽

 関所を無事に抜け、森に差し掛かるところで、一行は日暮れを迎えた。
 眼前の森を抜ければ目的地であるエスフレンが見えてくるはずだが、夜に森の中を進むのは自殺行為にほかならない。
 地理に明るい隊商の者達は、絶対に夜に森に入ろうとはしなかった。このあたりには野生の狼が出ると聞く。狼だけならばまだしも、この森には亡者が出るという噂もあるではないか。最近は見なくなったという話もあるが、それでも夜に森に入ろうという愚か者などいるものか――。
 隊商は街道沿いで一夜を明かすとみえ、それぞれ馬を繋ぎ天幕を張るなど、野営の準備に忙しい。
「雪が降らなければいいのだけど」
 マーシャは不安そうに空を見上げた。その横でサネルマは火を熾している。
「疲れたでしょう――マーシャ?」
 マーシャの顔を覗きこんだサネルマの表情が変わった。マーシャの眉間には深い皺が刻まれ、この寒空だというのに、全身が汗にまみれていた。
「まさか、マーシャ」
「実は、関所にいたときからお腹が痛くて……まだ違うと、思っていたのだけど」
 ここで生まれたらどうしよう、こんな寒い中で。マーシャは不安げにサネルマの服を掴んだ。
 占い師というのは、医学の発展していないこの世界において、時として医者の役割をも担う。サネルマもその例に漏れず病人を診たことは何度もあり、出産に立ち会った経験もあった。
 サネルマはすぐにわかった。今夜のうちに子が生まれる。サネルマは両手でマーシャの肩を掴んだ。
「しっかりなさい、マーシャ。生まれるのを止めることはできないわ。ここで産むのよ」
 様子を見守っていた猟兵たちをサネルマは振り返った。
「誰かマーシャを荷台の中へ運んでください。女性のかた、何人か私の手伝いを。そうでないかたは火を絶やさずに。暗い中ですみませんが、水を汲んできて湯を沸かしてくださいな」
 出産の血の臭いで獣が寄ってこなければいいが――。炎に照らされたサネルマの横顔には緊張の糸が張り詰めていた。
戒原・まりあ
サネルマさんの指示をよく聞いて手伝うわ
女手が足りないようなら【オルタナティブ・ダブル】でもう一人の自分を呼び出して手伝ってもらいましょう
ねえ、まりあだって赤ちゃん、見てみたいでしょう?
誰もいない自らの腹を撫でてまりあへ微笑む
――そうね、とっても興味あるわ!

手伝う合間合間にマーシャさんへ安心できるよう声掛け
大丈夫よ、ここまで大きくなったんだもの、元気に生まれてくるわ
そうよ、きっと今日はいい日になるわ
男の子かしら、女の子かしら
ううん、どちらでも、産まれてきたら目一杯抱きしめてあげてね
産みの苦しみも歓びも私は経た事が無いから分かってあげられないけれど、
産まれてこられなかった時の事なら、分かってるから


麻生・大地
「お産の手伝いは流石に無理ですね。僕は見張りと薪の調達を」

【暗視】【情報収集】【念動力】【忍び足】

念のため、ドローンも飛ばして周辺警戒と水場の捜索をしておきます
あまり馬車から離れないように【サイレント・グラップル】で、極力音を出さないように細めの木を薪として調達


「英雄になる定めの子…か」

英雄譚というものは好きになれない
華々しい活躍ばかりに目が行きがちだが英雄の物語は

『喪失の物語』でもあるからだ

親を、兄弟を、友を、恋人を、故郷を喪い、
それが戦う理由になり、進みべき道を示す
そうして英雄の物語は輝きを増すのだ

そして最後には悪は倒され世界は救われるというハッピーエンドとなる
…少なくとも読み手にとっては


星噛・式
式は慌てふためいていた。なんならこの場で1番

「こ、ここで出産⁈どうする?私は何したらいい?お湯の用意か?それとも周囲の安全を確認するか?」

戦闘においては慌てるといった行動からは最も遠い存在であり常に冷静沈着な彼女であるが自身の力が及ばない現象に対してはやや弱気になることがある

現状いくら式がお世話をしたところで頑張るのは妊婦の彼女であることから自身の力が及ばない事を理解し慌てている

サネルマの指示に従い道具や補佐を務める。器用なこともあり指示は的確に行えている

出産も終わりを迎える頃には式も疲労困憊していたが出産の喜びから式自身も涙を流す

「いつもは奪う側だがたまには産み出す側の手伝いってのも良いね」


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

長い夜の始まりですね。
マーシャさん達への言葉は他の猟兵にお任せし、私は焚き木を拾いに森へ。
私の武器は刺す事は得意ですが、切る事は不得意です。
故に落ちている木を拾いつつ、足りないようであれば他の猟兵にお願いして木を切ってもらいましょう。
生れてくる赤子もそうですが、体力を消耗したマーシャさんを寒い環境に晒すわけにはいきません。
十分な量を拾えるまで何度でも往復します。

産まれてくる赤子に祝福を。
英雄と定められた赤子。この先の人生に苦労や苦難、受難が待ち受けているのでしょう。
それでも私はこの暗黒の世界に産まれる赤子に祝福を送りたいのです。
人の強さに、可能性に、希望を見出している私のためにも。


トリテレイア・ゼロナイン
人の出産の際に取るべき行動など騎士道物語には載っていませんでしたね…

「手をつないで」励ます…
いえ、見知らぬ男の騎士に加えてこの図体と鋼の冷たい手、悪影響も甚だしい

外に出て「暗視」で周囲を見張りつつ、外からの脅威に備えましょう

虫1匹たりともマーシャ様に近づけさせません

…このような状況では他の猟兵、そして疑惑を向けたサネルマ様に託すほかないというのが情けない限りです

それにしてもマーシャ様の出産のその時だというのに、一番側に居るべき御仁が不在とは

生まれくる赤子の父親…暗い、もしくは下世話な想像は幾らでも予想がつきますが何故この逃避行に居ないのでしょう?


ジェイソン・スカイフォール
「水を汲んできます!」
水場へと駆け出していく。

(救護の経験は何度もありますが、さすがに出産は……)

ここは知識のあるものに従うのが妥当と考え、指示を乞う。
ただし呼ばれない限り荷台には入らず、周辺の用をこなす。
必要があれば医学的な手当てや、ユーベルコードによる治療を。

手が足りているようなら、周囲を落ち着かせるようにする。
用のないものは荷台に近づかぬように、本人と専門家を信じて任せるようにと話す。



◆命の灯

「こ、ここで出産!? どうする? 私は何したらいい? お湯の用意か? それとも周囲の安全を確認するか!?」
 星噛式は慌てふためいた。他の猟兵たちにもほぼ例外なく動揺が走ったが、その中でも一番と言ってよい。
 戦闘においては冷静沈着、およそ慌てるということのない式だが、今回ばかりは力の及びようもない。これはマーシャの戦いなのである。
「落ち着いて、式さん」
 戒原まりあが声をかける。
「サネルマさんを手伝いましょう。それに、あなたがいたほうがマーシャさんも安心すると思うわ」
 関所でマーシャさんの身を隠して安心させたのはあなたでしょう、とまりあが言うと、式は少し落ち着きを取り戻したようであった。
「そう……そうだな、よし」
 意を決したように式は幌の内側へと入っていく。まりあは外に残る猟兵たちにひとつ頷いて、式のあとに続いた。
「サネルマさん、何を手伝えばいいかしら」
「ああ、二人とも、よかったわ。お産の進みが早いの。式さんといったかしら、マーシャの汗を拭いて、腰をさすってあげてちょうだい」
 こくこくと式は頷き、これでいいか、苦しくないかなどと声をかけながらマーシャの世話を始めた。
「まりあさん、これから出産のときの姿勢を教えるわ。ちゃんとした産小屋ならよかったのだけど、そういう場所もないから、マーシャが力を入れやすいように、私たちの手で支えてあげないといけないのよ」
 もう一人いればいいのに、とサネルマは頭を振った。サネルマは赤子を取り上げねばならないから、マーシャの体を支えることができない。まりあと式で支えてもよいが、できれば一人はマーシャの汗を拭いたり水を飲ませてやったり、自由に動けるようにしておくべきだとサネルマは説明する。
「それなら私に任せてくださいな」
 驚かないでくださいね、と前置きをしてから、まりあは《オルタナティブ・ダブル》を発動した。何をする気かと怪訝そうなサネルマの表情が驚きに変わる。
 まりあの姿がぼやけ、暗くなり目が疲れてきたのだろうかとサネルマが瞬きをしたその間に、まりあの姿が二人になっていたのである。
「あなたは――あなたたちは、一体なんなの」
 出会ってから、ずっと聞きたかったことである。予言を受けマーシャを助けにきたという謎の一団。これまでの行動を見るに、マーシャの味方であることに間違いはないのだろう。しかし、不可思議な部分が多すぎる。
「……サネルマ、サネルマ」
 マーシャが荒い息の合間にサネルマを呼ぶ。
「いいのよ、いいじゃない。私みたいな何もない人間からすれば、あなたの占いも信じられないほどすごい力よ。あなたに占ってもらって、この人たちが来て――こんなことが立て続けに起こるなんて、この子を守ろうとする意志が、どこかにあるんだわ」
 だから信じましょう、とマーシャが言うと、サネルマもそれ以上言葉を重ねるわけにはいかなかった。サネルマは喉につかえた言葉を飲み下し、どの位置を持つか、どういう姿勢にすべきかをまりあに教えはじめた。
 二人のまりあは教わったことを確認しあい、微笑みあう。
「楽しみね。ねえ、まりあだって赤ちゃん、見てみたいでしょう?」
「そうね、とっても興味あるわ!」
 片方のまりあはまるで自らも子を孕んでいるかのように、そっと腹を撫でた。
 まりあ達はいつでもマーシャを支えられるよう傍らに膝をつき、安心させるように声をかける。
「大丈夫よ、ここまで大きくなったんだもの、元気に生まれてくるわ。そしたら目一杯抱きしめてあげてね。ごめんなさい、私は経験がないから、産みの苦しみや歓びはわかってあげられないけど」
 穏やかな声に、マーシャは汗みずくの顔で笑い返す。
 ――生まれてこられなかった時の事なら、分かってるから。
 それは聞こえないほど微かな声だったので、どちらのまりあが発した言葉かは、わからなかった。

 馬車のそばにトリテレイア・ゼロナインを残し、猟兵たちはそれぞれ必要な物品を調達しに走った。
 麻生大地は太陽の最後の光が消える前にドローンを飛ばし、周辺の地形を確認していた。幸いにも近くに沢があり、水の確保は問題ない。隊商はそれを知ってここを野営地に選んだのだろう。
「水を汲んできます!」
 大地から沢の位置を聞くと、ジェイソン・スカイフォールはすぐさま水汲みに走った。水の確保がなにより大切だということは、衛生兵になっていやというほど叩き込まれていた。
(とはいえ、救護の経験は何度もありますが、さすがに出産は……)
 戦場に妊婦はいない。ひとつの体にふたつの心臓が入っているような患者を、ジェイソンは診たことがなかった。
 場合によってはジェイソンの力が必要になることもあるかもしれないが、本来、そんなことは起こらぬほうがよい。救護の心得があることは式とまりあに伝えてあるが、声がかかるまでは周辺の用をこなすべきだろう。
 水汲みを終えたジェイソンは隊商の天幕へと向かった。
「すみませんが、清潔な布を売ってもらえませんか」
 水汲みの最中に気がついたことだ。赤子の産着もなければ、このあと汗と血にまみれるであろうマーシャの着替えもない。
「構わんが、あんた、あそこの馬車の人かね。なんの騒ぎだい」
「身重のご婦人がいまして、お産が始まったようです」
 そりゃあ大変だ、と行商人は飛び上がった。
「じゃあ、景気づけに一杯やろうかと思ってたが、少し離れてやったほうがいいかね」
 助かります、とジェイソンは軽く頭を下げる。
「できれば他の方々にも、こちらへ近づかぬように伝えていただけますか。産婦が集中できるようにしたいので」
 任せとけ、と行商人は丸い拳で胸を叩いた。

「薪を調達してきます」
 大地が言うと、アリウム・ウォーグレイヴが同行を申し出た。
 長い夜が始まる。今夜は冷えそうだ。赤子はもちろん、体力を消耗するであろうマーシャのためにも、火を絶やすことはできない。
 幸い森が近いため薪となる枝はいくらでも手に入ったが、産湯を沸かすほどの量を集めるために、二人は何度も往復することになった。
「英雄になる定めの子……か」
 大地の言葉は半ば独り言のようだったが、アリウムも似たようなことを考えていたのだろう、間を置かずに返答があった。
「占いが真実であろうとなかろうと、この先の人生が平坦であることはないのでしょうね」
 すっかり陽の落ちた空は、アリウムの髪と同じ色をしていた。
「僕は、英雄譚というものは好きになれないのですよ」
 大地は笑ってはいたが、目元には苦みのある色が浮かんでいる。
「英雄の華々しい活躍は詩人が歌うにはいいでしょうが、多くの場合、英雄譚とは喪失の物語です」
 順風満帆な人生を送り、ただ強くなって強敵を倒す英雄などいない。親を、兄弟を、友を、恋人を、故郷を喪い、それが戦う理由になり、進むべき道を示す。そうして英雄の物語は輝きを増すのだ。
 悲劇に彩られた英雄が巨悪を倒してこそ、読み手は結末に満足して本を閉じる。
「赤子に英雄の定めを負わせるとは、そういうことではないでしょうか」
「そうかもしれません」
 アリウムの足の下で細い枝が折れる音がした。
「生まれる子にはこの先、苦労や苦難、受難が待ち受けているのでしょう」
 この世界では特にそうだ。平凡に生まれ平凡に死ぬことさえ難しい。まして、予言を受けて生まれる子がどういう人生を辿るか――。
 予言を恨み運命を呪うことは想像に難くない。あるいは、生まれてきたことさえ厭わしく思う日がくるやもしれぬ。
「それでも私はこの暗黒の世界に生まれる赤子に祝福を送りたいのです」
 アリウムは自らの言葉が、ただマーシャや赤子を祝いたいという純粋な気持ちからくるものではないことを知っていた。アリウム自身が、そこに希望を見出していたのである。
 子のために命を懸ける母の強さに、守られた母の胎から外へ踏み出す子の可能性に。

 トリテレイアは馬車の傍らに立ち、微動だにせず周囲に警戒の目を向けていた。
 静かな夜だった。馬車の中ではマーシャが痛みに耐え、式やまりあが補佐に奔走しているのであろうが、冷え切った夜が音を吸ってしまうかのようであった。時折式が顔を出しては、やれ水が足りない、やれ布を裂いて渡してくれなどと言うほかは、揺れる火のほかに動くものもなかった。
(……情けない限りです)
 トリテレイアは溜息をついた。息は白く夜空に上っていく。
 トリテレイアの拠所となっている騎士物語には出産に関する記述などない。励まそうにも、傍で手を握って安心させられるような図体でもない。他の猟兵や、彼が疑いを向けたサネルマに託すほかないことが口惜しく感じられた。
 どれほどの時が過ぎたであろうか。月のない夜で、時の流れを覆い隠すように雲が広がりつつある。

 それははじめ、目覚めかけた鳥の声のようであった。
 火の番をし、周囲の警戒にあたっていた猟兵たちが一斉に顔を上げる。
 その声は次第に大きく力強くなり、聞き間違いようのないほどになってはじめて、彼らは各々のしぐさで拳を握った。その場で握るだけの者、高く突き上げる者、隣にいる者と打ち合わせる者。
 式が馬車から降りてきて、目に涙を浮かべて頷いてみせた。その足元がふらついているのを見てトリテレイアは段差の前で腕を差し出す。
「お疲れさまでした」
「ありがとう。いつもは奪う側だが、たまには生み出す側の手伝いってのも良いね」
 水晶の手と鋼の腕がぶつかり、まるで杯を交わすような音が響いた。

 マーシャが着替えを終え、サネルマが赤子を産湯に入れ、式とまりあが馬車の中を片付けている頃。産湯なら男手でもと手を挙げる者はいたが、生まれた子が女児であったため、再び男は蚊帳の外であった。
「――それにしても、一番側にいるべき御仁が不在とは」
 トリテレイアはごく小さく呟いたつもりであったが、その声はアリウムに届いていたようであった。
「子の父親のことですね」
「ええ……想像はいくらでもつきますが、何故この逃避行にいないのでしょう」
「私も気にはなりましたが、ご本人が何も仰らないのでは、訪ねるわけにもいかず」
「――気に、なりますよね」
 小さな笑い声が聞こえた。マーシャがまりあに支えられて馬車から降りてきていたのだ。安静にしているべきだが、馬車の中では暖がとれず、火にあたりにきたのだという。
 急ぎジェイソンが瞼の色や脈を診るなどし、体力の消耗は問題なさそうだと告げる。
 トリテレイアとアリウムは勝手な噂話の非礼を詫びたが、マーシャはぱたぱたと手を振った。
「ごめんなさい、盗み聞きする気はなかったの。こんなに良くしてもらって、お話ししてなかった私がいけないのよ」
 村のはずれで見つかった遺体。疑いようもなくヴァンパイアの仕業であるその事件の被害者の中に、マーシャの夫も含まれていたのだという。
「そりゃあ悲しかったわ。でも、もっと悲しかったのは、英雄が生まれるから大丈夫だとか、大きくなって夫の仇を取ってくれるとか、そういう勝手を村の人たちが言ったことよ」
 英雄の母は夫の死を悲しむこともできないのか。英雄になる子は生まれる前に起こった事件の敵討ちまでせねばならないのか。父親の死さえも英雄譚のタペストリの金糸ひとすじに過ぎないのか。
「サネルマの占いには、みんな助けられてきたわ。でも、私は、あの子が英雄なんかじゃないほうがよかった」
 ぽつりと落ちた言葉に、トリテレイアははっとした。
 あの子。《あの》。マーシャの手元から距離があることを示す言葉だ。
「マーシャ様、お子様は今どこに!?」
「え、今、あっちでサネルマが産湯を――」
 トリテレイアはマーシャが指さした馬車の陰へ走った。
「しまった――!」
 そこには、まだ湯気のたつ湯桶が置かれているばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


◆昏き森

 生まれたばかりの赤子を抱いて、サネルマは森を走っていた。
「ごめんなさい、マーシャ、ごめんなさい」
 慈悲を乞うように唇から声が漏れ、声が漏れるたびに涙が溢れる。
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
 サネルマの涙が、未だ名前のない赤子の頬に落ちた。
「こうしないと――」
 マーシャの夫をはじめとするたくさんの遺体が見つかった日の夜、サネルマは会ってはいけないものに会ってしまった。目も合わせられず震えるしかないサネルマに、英雄を捧げねば村ごと同じ目に遭わせる、とヴァンパイアは告げたのである。
「ごめんなさい、私が、予言なんてしなければよかった」
 占わなければ。英雄でさえなければ。占いで視えたとしても、口外しなければあるいは。ヴァンパイアがスラウェンを襲うことなどなかったかもしれないのに。
 後悔が波のように襲ってきても、足を止めることはできなかった。
「よくやった」
 耳元で低く掠れた声がささやき、サネルマはびくりと肩を震わせた。いつの間に姿を現したのか、サネルマのすぐ斜め後ろにヴァンパイアの姿があった。サネルマは上がった息を押さえながらヴァンパイアに正対する。
「これで――これで、スラウェンには何もせずにいていただけますね」
 良いだろう、とヴァンパイアはくつくつと笑う。
「だが、厄介ごとを持ち込んでくれたな」
 背後で草を踏み分ける音がする。追ってきたのが誰か考えるまでもない。猟兵と名乗る不可解な者たち――サネルマは彼らが眩しかった。眩しいゆえに、眉をひそめ目を細めて見ぬようにした。
「命で償ってもらおう」
 サネルマの態度に疑いを抱いた者もいたかもしれない。いや、疑ってほしかったのだ。疑って、追ってきて、その力でどうかヴァンパイアを――。
 サネルマは祈るように目を閉じた。ヴァンパイアが剣を振り下ろす。赤子の声が、どこか遠くで聞こえたような気がした。
麻生・大地
【レグルス】に【騎乗】して、全速力で現場に向かいます
最大出力でです

【かばう】【盾受け】【武器受け】【時間稼ぎ】

【レグルス・タイタンフォーム】で変形
ヴァンパイアの目前に割って入ります
けれど、赤ん坊とサネルマさんが戦域にいる以上、大立ち回りはできませんからひたすら二人をかばいながら耐えます

仲間が二人を戦域から離脱させるまでの間、
何としてでも追撃させるわけにはいきません

僕は英雄などになりたくないし、なろうとも思いません
なら何故、身を挺してまで縁もゆかりもないものを助けようとするのか?
そうですね…そう聞かれたなら

「簡単なことですよ。『目の前のあなたが気に入らない』」

それだけで十分戦う理由になります


黒城・魅夜
間に合うものならば……!
【スナイパー】【ロープワーク】【薙ぎ払い】を使って私の鎖を飛ばし、吸血鬼の剣を弾き飛ばせないか試します。
彼女にとっては死こそが救いでしょうが、だからこそ、生きての贖罪を。

そして、生命のみならず魂を穢す吸血鬼。あなたにこそ裁きを与えましょう。

UC【篠突く雨のごとく罪と罰は降りつのる】を使用。さらに【二回攻撃】で追撃に移ります。仲間が傷を負わせていたなら【傷口をえぐります】。

「さあ血を流しなさい吸血鬼、罪に塗れたどす黒い血を!」

(アドリブ共闘歓迎です)



◆疾駆

 獣の唸り声にも似た音が森を駆け抜ける。
 愛機レグルスを駆る麻生大地の顔や腕を木々が叩いていくが、彼は瞬きもせず前方を見つめていた。その瞳はすでに、跪くサネルマと剣を持つヴァンパイアを捉えている。
「いました、あそこです!」
 後ろを振り返り大地が叫んだ。
「左に避けてください!」
 大地の背後から声が飛び、同時に顔の右横を金属の擦れ合う音が走る。
 レグルスの後部座席に同乗してきた黒城魅夜が鎖を放ったのである。
 鎖は木々の間を縫って飛び、剣へと向かう。サネルマの首に断頭台のごとく剣が落ちかかる。
 赤く血が弾けたのが先か、鎖が剣を弾いたのが先か。
「サネルマさん!」
 魅夜がレグルスから飛び降り駆け寄る。血を流してはいるが、ぎりぎりのところで致命傷は免れたようであった。
「嘘、私……」
 死のうと思ったのよ。その声は声にならなかった。喉から嗚咽が漏れる。
「あなたにとっては死こそが救いかもしれません。ですが、だからこそ、生きての贖罪を」
 サネルマの首がわずかに動いた。頷こうとしたのか、首を振ろうとしたのか。しかし傷ついた首ではそれを判断できるほどの動作はかなわず、血だけが襟を濡らしていく。
「彼女をこちらへ!」
 徒歩の猟兵たちの先頭を切って、ジェイソン・スカイフォールが走り寄ってきた。
 ジェイソンには人を癒す力と救護の知識がある。魅夜は彼にサネルマを任せ、ヴァンパイアに向き直った。赤子は未だヴァンパイアの手の中にある。
「生命のみならず魂を穢す吸血鬼。あなたにこそ裁きを与えましょう――《篠突く雨のごとく罪と罰は降りつのる(デス・ティ・ニー)》!」
 放たれた鋼鎖の数もするどさも、先程の比ではなかった。無数の鎖が宙を滑る様はさながら蛇の群れ。それは高く低く複雑な軌跡を描いて飛び、ヴァンパイアの右手と左足をとらえ巻き付いた。
「今です!」
 魅夜が言ったとき既に、大地はその準備を整えていた。
「プログラム・ドライブ。レグルス・タイタンフォーム!」
 それは武骨ながら、洗練し尽くされた美しさをもっていた。バイクが変形し、装甲となって大地の体を包み込んでいく様子は、蓮の花弁が花托を取り巻くさまを思わせた。
 鋼鉄の城塞となった大地は地を蹴り、ヴァンパイアの眼前に飛び込んだ。戦域にサネルマと赤ん坊がいる限り、大立ち回りはできない。それは他の猟兵も同じで、各々赤子を奪還すべく隙をうかがっていたが、下手をすれば赤子かサネルマか、どちらかに攻撃が当たってしまう。
 しかし今、生ける城塞がサネルマの前に立ちはだかったことで、少なくともサネルマに攻撃が当たる心配はなくなった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
ああ、この任務で一番の間抜けは私だ
騎士道に縛られず只の機械としてマーシャ様とお子様から一秒でも目を離すべきではなかったのだ

お子様を最優先、サネルマ様にも生きてマーシャ様からの裁きか許しを与えるために損害を無視して「かばう」

脚部スラスターを全開、「暗視」でサネルマ様を探しながら森を「スライディング」し障害物は「怪力」「踏みつけ」で薙ぎ倒し最短距離で向かう

「武器受け」「盾受け」そして我が身で吸血鬼から両名を救います

もしこの後の戦闘に加わる余裕があれば吸血鬼の攻撃から猟兵達をかばう壁役として参加

騎士にも機械にもなり切れぬ紛い物、この失態は我が身で償いましょう
マーシャ様の信を裏切ることだけは許されない



◆騎士の誓い

 トリテレイアの脚部が唸る。騎士の巨躯が滑るように走る。その姿が瞬く間に森の中へと消えると、木々が折れ、石が弾き飛ばされる音が聞こえてきた。トリテレイアは戦場の周りを弧を描くように半周し、ヴァンパイアの背後に姿を現した。
(ああ、この任務で一番の間抜けは私だ)
 その表情は苦渋に歪んでいた。疑いをかけていながらサネルマから目を離してしまったのは失態であった。主を守ることのできなかった騎士は自ら死を選ぶこともあるという。しかし今死んだところで、雲上で叙事詩の騎士たちに並ぶことなどできようか。
「御伽噺に謳われる騎士たちよ。鋼のこの身、災禍を防ぐ守護の盾とならんことをここに誓わん!」
 声高に叫ぶとトリテレイアは、彼に搭載されている数多の武装のひとつも構えず、ヴァンパイアの左腕を掴んだ。そのままの勢いで腕から赤子をもぎ取る。
 その時、魅夜の鎖が解けた。たった一人でヴァンパイアの動きを完全に封じるほどの術である。赤子を取り戻すまで、ほとんど気力でもたせていたのだろう。
「《それ》を返してもらおうか、機械人形!」
 怒声とともにヴァンパイアは無数の蝙蝠を呼び出した。それは黒き嵐のごとくトリテレイアに群がる。
 トリテレイアに反撃の術はない。ただ赤子を抱き込み、全身でそれを受けた。
(騎士にも機械にもなり切れぬ紛い物、この失態は我が身で償いましょう)
 得体の知れぬトリテレイアをマーシャは信じると言った。その信に応えるためならば、蝙蝠に食われるなどいかほどのことか。
 トリテレイアをも見下ろす高みから大地が腕を伸ばす。大地はトリテレイアに群がる蝙蝠を薙ぎ払い、その視界を開けてやった。
「早く後方へ!」
 城塞と騎士、二重の壁に守られた赤子とサネルマを見て、ヴァンパイアは腹立たしげに声をあげる。
「理解しがたいな。貴様ら、その二人に縁もゆかりもなかろう。なぜ身を食われてまで立ちはだかる!?」
「簡単なことですよ。目の前のあなたが気に入らない、それだけで十分です」
 トリテレイアとサネルマ、そして赤子を背後に隠し、大地はそう言ってのけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒原・まりあ
庇いに入るのは間に合うかしら
赤ちゃんを取り落とさないでと声をかけてから、サネルマさんを突き飛ばして剣の間合いからどかすわ
間に合わずサネルマさんが剣の傷を受けてしまった場合は、【生まれながらの光】を、まずサネルマさんに
――あなたが償うべき相手は、ヴァンパイアじゃないわ。

以降は戦闘で傷ついた猟兵に、深手の順に光をとばしていくわね
一人ずつで追いつかないようなら、複数同時の癒しも視野に入れつつ
この光で、影の蝙蝠の居所も照らし出せるといいのだけど

ねえ、私達とマーシャさんとサネルマさんを、ヴァンパイアを、巡り合わせた
それだけでこの子の働きは英雄ものだわ、きっと
だから予言は成就、後は気負わず生きれたらいい


ジェイソン・スカイフォール
サネルマの生死を問わず、退避させる。生きていて負傷していれば救護を。
「今はともかく、安全な場所へ。あとのことは生き延びてからです」
彼女に罪があるとして、それを裁くのはダークセイヴァーの住人がすればよいこと。
助けられなかった場合は、黙祷をして、戦いへ向かう。

ユーベルコード「正当防衛」により、影の蝙蝠を叩き落としていく。
敵は無数の蝙蝠と剣による手数で多数の猟兵を相手取っている。
少しでもその数を減らすことで、より高い攻撃力を持つほかの猟兵に攻撃のチャンスをつくりたい。



◆癒し手

 ジェイソン・スカイフォールと戒原まりあは、ヴァンパイアの剣の届かぬ後方でサネルマの救護にあたっていた。サネルマの傷は浅くはなかったが、両者とも聖痕の持ち主であることが奏功したのか、血は止まりつつあった。
 そこへトリテレイアが赤子を抱いて駆け寄ってきた。
「ああ、ああ……」
 けたたましく泣く赤子の姿を見て、サネルマの目からまた涙があふれる。
「気持ちはわかるけど、今はあまり喋らないで、気を落ち着かせて。傷に触るわ」
 まりあから柔らかな光が広がり、サネルマを包み込む。
「あなたが償うべき相手は、ヴァンパイアじゃないわ」
 サネルマの呼吸が落ち着くのを待って、まりあはトリテレイアにも光を飛ばした。蝙蝠の噛み傷は一つ一つは小さいとはいえ数があまりに多い。また、何らかの毒があることも懸念された。
 その間にジェイソンは赤子を受け取り、つぶさに様子を観察する。よく泣いており命に別状はなさそうだが、なにせつい数時間前に生まれたばかりの赤ん坊だ。寒空の下、体温の維持が気がかりであった。ジェイソンは上着を脱ぎ、赤子の体を包み込んでやった。
 そのとき蝙蝠の羽搏きが耳を打った。トリテレイアを追ってきたのだろうか。数は多くはなかったが、赤子が噛まれれば命にかかわる。
 ジェイソンはすばやく赤子をまりあに託し、ユーベルコード《正当防衛(セルフディフェンス・アーツ)》を発動した。軍隊仕込みの無駄のない格闘術が、ひとつの動作ごとに一匹の蝙蝠を叩き落していく。
「今はとにかく、安全な場所へ。あとのことは生き延びてからです」
 振り向きざままりあに二人を連れて退避するよう促すと、まりあは頷いたが、サネルマは首を振った。
「この事態を招いたのは私よ。逃げるわけにはいかない」
「あなたの罪を云々するのはこの世界の住人がすればよいことです。私たちではないし、あなた自身でもない」
 ジェイソンは低く言うと、そのまま戦場へと駆け戻っていった。

「行きましょう、サネルマさん」
 左に赤子を抱き、右腕でサネルマを支えて、まりあは立ち上がった。体から放たれる光がぼんやりと周囲を照らしている。これで、蝙蝠に追われても全く気が付かないということはないだろう。
「ねえサネルマさん、この子はもう英雄だと思うの」
 足取りは重いが、まりあの声は暗くはなかった。
「私たちとマーシャさんとサネルマさんを、ヴァンパイアを巡り合わせた。それだけでこの子の働きは十分」
 まりあは仲間たちの勝利を確信していた。
 グリモアの予知のからくりはまりあにはわからぬ。しかし、潰えるはずだった命に猟兵の手が届いたのは、元を辿ればサネルマの予言があったからだ。何かひとつ歯車が外れていれば、このことはグリモアの予知にのぼらなかったやもしれぬ。
「だからもう、予言は成就。これから先は気負わずに生きれたらいいわね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三岐・未夜
冗っ談じゃない!
その子をお母さんの所に帰す為に僕もわざわざ来たんだ。勝手なことして勝手に諦めて目なんか閉じてんなよ!

レギオンに誘惑と催眠術を乗せて操縦。振り下ろされる剣と女の間に割り込めレギオン!
お前らは斬られたって良い、僕が何度だって召喚してやる。だからその子とその女は何としてでも守り切れ。

子供産むって命懸けなんだよ。お母さんって必死なんだよ。
オブリビオン如きにはわかんないだろうけど、十月十日頑張って重いお腹抱えてやっとこの世に産み出せたのに、やっと子供と一緒にいられるのに、余計なことするなよ!

少しでも出来ることをしなきゃ。お母さんの所に帰してあげなきゃ。誘き寄せてでも、逃す時間は稼ぐよ。


花棺・真尋
振り下ろされる剣の軌道を少しでもずらせれば。
クイックドロウでヴァンパイアの剣を狙うが間に合うか……

俺はオブリビオンを撃てればそれでいい。だが、その命を護ろうとした者がここにいる。ならばまずはそのための最善を尽くそう。最終的な目的は変わらない。

胸糞悪いな。犠牲を払えば助けてやるだなんていう話は、あとからどうとでも覆せる。甘言にのせられた奴の末路だってよく知っている。

この状況下では俺は援護に回った方がいいか。サネルマと赤子を背後に庇いながら、攻撃に備える。
下手にこの場から逃がして追われた方がマーシャのいる場所がバレる可能性もあり危険だと判断した。



◆交錯

 大地は数え切れぬほどの斬撃をその身に受け、なおヴァンパイアの前に立ちはだかっていた。
 傷を負ったサネルマの歩みは、暗く足元の悪い森の中で這うような遅さだ。通常であれば、戦域から離脱したと判断してもよいほどには離れていたが、ヴァンパイアの赤子への執着は予想以上であった。
「執念深いにもほどがありますね……!」
 防御よりも時間稼ぎを優先した大地の体は大小の傷を負っていた。防御一辺倒ではいずれ限界がくる。
 ヴァンパイアが再び蝙蝠を放った。大地がそれに対処できるほど、ヴァンパイアは甘くない。
 蝙蝠は音もなく闇に溶けて赤子を追う。

「――冗っ談じゃない! その子をお母さんのところに帰すためにわざわざ来たんだ!」
 三岐未夜の顔は目元が髪に隠されており表情は定かではないが、声には苛立ちの成分が多分に含まれていた。
「行け、レギオン!」
 未夜は《エレクトロレギオン》を発動し、サネルマたちを守るべく蝙蝠を追わせた。その数は百近くにもなろうか。その機械兵器には、蝙蝠を誘惑する香りが仕込まれていた。
「噛まれようが、僕が何度だって召喚してやる。だからその子とその女は何としてでも守り切れ!」
 レギオンは蝙蝠などよりも圧倒的に速い。蝙蝠とサネルマたちの間に割り込み、その香りで蝙蝠を誘き寄せ、一匹ずつ落としていく。
 しかしレギオンにも弱点はある。脆いのだ。蝙蝠の翼のひとうちでさえ、当たれば消滅してしまう。
 未夜の耳でピアスが鳴った。彼の耳を飾るいくつものピアスの中に、彼の父母がつけていたものがあることは、この場の誰も知らぬことである。見た目とは裏腹にまだ子供である彼にとって、母という存在はあまりにも大きかった。
「子供産むって命懸けなんだよ。お母さんって必死なんだよ。オブリビオン如きにはわかんないだろうけど、十月十日頑張って重いお腹抱えてやっとこの世に産み出せたのに、やっと子供と一緒にいられるのに、余計なことするなよ!」
 叫びとともに、未夜の周囲には再びレギオンが現れた。

 舌打ちとともにヴァンパイアが剣を振り上げる――否、振り上げようとした。
 闇の中から熱線が照射された。
 ヴァンパイアは初撃こそ剣に反射させしのいだものの、狙撃手の位置を掴めぬまま、二撃目で剣を握る手に熱線を受けた。
「どこまでも邪魔だてするか! 下等生物ども!」
 怨嗟の声は花棺真尋のいる場所まで届いたが、視線は夜陰と木立に阻まれている。真尋は返事代わりにもう一度熱線銃を撃った。邪魔な蝙蝠が失せれば戦場は狙撃手の舞台であった。
 馬鹿な女だ、と真尋は思う。サネルマのことである。犠牲を払えば助けてやるなどといった話は、暴力に端を発している以上、後からどうとでも覆せる。実際に甘言にのせられた者がどんな末路を辿ったか、戦いに身を置いていればいくらでも目にしてきた。
 極論をいえば、サネルマがどうなっても真尋はかまわぬのだ。マーシャや赤子とて例外ではない。
 真尋は善人ではない。オブリビオンを撃てればそれでいい。だが、彼の仲間たちは護るために戦っている。それを覆すほどの理由もなければ、そこまでの悪人でもない。
「どこを見てやがる」
 短く言って、さらに熱線銃を放つ。
 狙撃手が声を発するなど本来ありえぬことだ。しかしあえて真尋は声を出し、自らの位置を匂わせた。
 ヴァンパイアがサネルマを追い、マーシャの居場所が割れれば厄介だ。そうなるくらいなら、むしろ真尋を狙ってくれたほうがまだ対処しやすい。そう判断しての行動であった。

 ヴァンパイアはさらに蝙蝠を放ったとみえる。レギオンの網を掻い潜った蝙蝠が縦横に飛び、狙撃手の居場所を探り始めた。
 真尋は接近戦には不向きだ。
(近付かれる前に位置を変えるか)
 真尋が身動きしたその時、視界に影が割り込んだ。
「その位置を保ってください!」
 割り込んだ影はジェイソンだ。
 彼も真尋と同じ傭兵上がりである。いくつもの戦場を経験していれば、狙撃手は位置取りが要であること、本来そこを動かずに済むように作戦を立てることなどは当然のように知っていた。
 ジェイソンは攻撃の面では強力な力をもたない。真尋の火力を活かすため、鬱陶しい蝙蝠の相手はジェイソンが引き受けるべきであった。
「間違っても射線に入るなよ」
 真尋は言って、再び熱線銃を構えた。
 ジェイソンが蝙蝠に対処し、さらにトリテレイアも後方から戻ってきて剣戟の盾役をつとめた。
 ヴァンパイアにはもはや、赤子を追う余裕は残されていなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

サネルマさんの無事を祈りたい。
彼女は村を救いたいという一心だけだったはずだ。
その手段や行為が許されないことは分かっている。
しかしヴァンパイア相手に何ができようか。
許せない。一番許せないのは善人を無理矢理悪の底へと突き落とす行為!
数の利を利用?背後からの奇襲?全て却下だ。
この敵は俺の手で破壊しないと気が済まない。
ホワイトパスで攻撃を読みつつ正面から槍での接近戦でいこう。
少しでも距離を離すものならホワイトファングで動きを封じ、必要であれば自爆覚悟でホワイトブレスをゼロ距離で放つ。
「お前を凍らすよ。断末魔がうるさそうだからな。静かに俺の前から消えてくれ」
俺からお前への最期のお願いだ。



◆蒼氷の魔法騎士

(彼らが戻ってきたということは、サネルマさんや赤子は無事か)
 アリウム・ウォーグレイヴはジェイソンやトリテレイアの様子を見て安堵した。
 サネルマの行為はけして正しいものではない。しかし戦う術をもたぬ彼女が、村ごと人質にとられた状況で、ヴァンパイア相手に何ができようか。
 善人を無理やり悪の底へと突き落とす行為。
 ヴァンパイアが行ったそれは、アリウムが何より嫌悪するものであった。
 このまま数の利で押し通せば、いずれ真尋がヴァンパイアの頭部を撃ち抜いてくれるかもしれない。そんな考えも浮かばぬではなかったが、それでは収まらぬものが腹の底から湧き上がってくる。
 ――却下だ。
 アリウムの蒼氷の相貌はまさに氷のように冷え切っていた。静かに憂いをたたえる瞳が、今は冷厳な怒りを放っている。
「お前はこの手で破壊する」
 アリウムは槍を構えた。空を切る音が高く響き、か細い女の悲鳴を思わせる。
 ヴァンパイアが応えるように数十の剣を空に呼び出す。闇夜の中にあってなお眩く輝く豪奢な剣は、この場にひどく不釣り合いであった。その剣はひとつは鋭く、いまひとつは円を描くように、さらにひとつは地を這うがごとく――すべてがばらばらに動き、アリウムを取り囲む。
 強大な魔力がアリウムから放たれる。すさまじい魔力は冷ややかな風圧を生じ、ヴァンパイアの頬を擦った。
 無数の剣戟がアリウムを襲う。その数はあまりに多い。
「その攻撃、全て読ませてもらおうか」
 不可避と思われた攻撃のすべてをアリウムは避けた。まるで数秒先の未来を視ているかのような動作で避け続け、あるいは槍で受け止め、その間にもヴァンパイアへと歩を進める。
 息のかかりそうな距離であった。
「お前を凍らすよ。断末魔がうるさそうだからな。静かに俺の前から消えてくれ」
 轟、と耳元で鳴ったのは、幻聴であっただろうか。
 冬の夜空にあって、アリウムの周囲はなお冷たい。冬の冷気が彼に従っているかのようにも思われた。空気がちりちりと凍りつき、その漣が合わさって大波をなす。至近距離から放たれた極低温の波涛がヴァンパイアを覆い尽くす。
 白い槍が風を切って啼き、凍りついたヴァンパイアの胸を貫いた。
 そのとき森はすでに静けさを取り戻しており、アリウムの言ったとおり、断末魔のひと声も聞こえなかった。


 戦いを終えた猟兵を、まりあに付き添われたマーシャとサネルマ、そして生まれたばかりの女児が迎えた。
 何度も頭を下げる二人に猟兵たちはそれぞれの方法で応える。にこやかに応じる者、姿を見せず帰還する者、言葉は交わさぬが見守る者。
「名前は決まっているのかしら?」
 まりあが赤子の小さな手を握り、マーシャに訊いた。
「ええ、ネリー。炎になる、という意味よ」
 運命の炎に巻かれぬようにと、マーシャの切なる思いが込められていた。
「いい名前ね」
 自らが炎となり、選ぶ道を生きていけるよう。まりあは目を閉じ、束の間祈った。
 目を開けて見上げれば、降るような星空だった。目線を下げれば、母の腕に戻って安心したのか、眠っている赤子の姿がある。
「ねえネリー、お誕生おめでとう」
 雲のない空から、雪が舞った。


 了

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月05日


挿絵イラスト