アリスとサァカス
●アリスとサァカス
帝都の街中を、かよわい気配がひとりぼっちで歩いている。
雑踏でごった返すなか、ぎゅっと抱きしめたぬいぐるみだけが、彼女を守ってくれる存在だった。
からだじゅうのあちこちが、ちくちくと針で刺されるみたいに痛い。
助けてほしくて声をかけてみても、誰もが彼女から逃げ出してしまう。
『……どうして?』
私は、愛してほしいだけなのに。だってだって、私はあなたを愛してたのに。
ほろほろとこぼれる涙は、ぬいぐるみにじわりと染みをつくる。
たった一度、あなたが連れていってくれると約束したあの光景を、見たかった。
『きっと、すてきなサァカス』
心細さを抱えたまま、ひとりぼっちで少女は帝都を往く。
●あの子と約束
「こんにちは、猟兵の皆さん! あたいは兆・まみず、よろしくね」
ふわふわと宙を泳ぐ兆・まみず(燈蜜・f42998)は、カフェーのエプロン姿で猟兵へと挨拶をした。
「あたい、皆さんにお願いがあるの。サクラミラージュで、傷ついた影朧を助けてあげてちょうだいな」
影朧は皆、多かれ少なかれ傷ついて生まれる“弱きオブリビオン”。そのなかでも特に儚い影朧が現れたのだと、少女は告げる。
「その子はアリスっていう女の子で、生きていた頃は遠い海から帝都に連れてこられたみたい。とってもかわいい女の子なのだけど、あたいにはわからないくらい可哀想な目に遭ったみたいなの……。アリスはただ、大切にしてもらいたかっただけなのに、そうはしてもらえなくって。でも、ひとつだけ約束してもらったことがあるんだって」
まみずが猟兵達へ見せたのは、サァカスがやってくるという華やかなポスターだった。
「いつかサァカスを見せてあげるって、約束してもらったのに。それも叶えてもらえないまま、影朧になっちゃった。だから、皆さんにはアリスにサァカスを見せてあげてほしいの」
帝都に現れた影朧のアリスを、彼女の目的地であるサァカスまで安全に連れていってやり、共にサァカスを楽しむ。
そうすることで彼女の執着は果たされ、また生まれるために消えることができるという。
「街の人達もアリスを怖がっているけれど、皆さんが居ればきっと大丈夫。手を出さずに見守ってくれるはずだわ」
ふわり、ちいさな金魚の群れがサクラミラージュへの道行きを示す。
「あたいもね、大切なひとに大切にしてもらいたいって気持ち、よくわかるわ。だからせめて、アリスの願いを叶えてあげて」
お願いします、と頭を下げたキマイラの娘に誘われるのは、桜吹雪の舞う帝都。
遅咲
こんにちは、遅咲です。
オープニングをご覧頂きありがとうございます。
●成功条件
影朧の執着を果たすため、サァカスを一緒に楽しむ。
シナリオ公開からプレイングを受け付けます。
どの章からのご参加もお気軽に。
皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『愛されるための少女『アリス』』
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POW : たくさん私を愛してくれる?
【愛を求める心】を籠めた【問いかけ】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【愛する人へ捧げる想い】のみを攻撃する。
SPD : どうして私を愛してくれないの?
対象への質問と共に、【嘘偽りなく心】から【対象が愛を捧げた存在の面影】を召喚する。満足な答えを得るまで、対象が愛を捧げた存在の面影は対象を【もっとも恐れる言葉と行動】で攻撃する。
WIZ : 愛してる、とっても!
【愛しつづける想い】を披露した指定の全対象に【愛する人をなお強く愛したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:華月拓
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠スフォルツァンド・スケルツァンド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
川村・育代
あたしはこういった心や体に傷を負った子たちのために作られた身。
この子のような子を守り、支えるのがあたしの任務であり、存在理由だから。
あたしはこの子の願った『あなた』ではないけれど、代わりにこの子の最後の望みのサァカスに連れて行くわ。
できれば、こうなってしまう前に助けたかったわ。
同じ子供として彼女に近づいて一緒にサァカスを観に行かないか誘ってみるわ。
あたしなら見た目や言動が近いから警戒されないでしょうし。
(書類上の年齢は16歳だけど、バーチャルキャラクターのあたしは永遠に子供のままだから)
『あたしもこれからサァカスを観に行くんだけど、あなたも一緒に行かない?』
アスカ・ユークレース
アドリブ絡み歓迎
はじめまして、私はアスカです
アスカとアリス、似てますねえ、ふふ。
サァカスを見に行きたいのですよね?私もなんです、よければ一緒に行きませんか?
人混みではぐれないよう手を繋ぎながら歩きましょう
道中ではサァカスの話を振ります
なぜ見に行きたいのか、何を見たいのか……
私は、そうですねえ。猛獣の火の輪くぐりを見たいですね
きっと迫力満点だと思うのです
とぼとぼ、ひとりぼっちで歩く少女に、そっと声をかける者達が居る。
「こんにちは、お嬢さん」
『……だぁれ?』
不思議そうに尋ねた少女へと、アスカ・ユークレースはやさしく微笑んだ。
「はじめまして、私はアスカです」
『……私は、アリスっていうの』
「アスカとアリス。なんだか似てますねぇ、ふふ」
ちいさな声で名前を教えてくれた影朧に、アスカの隣に居た川村・育代も名を名乗る。
「あたしは育代、よろしくね。ねぇ、アリスはこれからサァカスに行くの?」
同じ年頃の見目をした育代がそう尋ねれば、アリスはこくりと頷く。
「私達もなんです、よければ一緒に行きませんか?」
いっしょに。そんな風に言ってくれる人は、今まで居なかったから、影朧は驚いたように口をひらく。
『……いいの?』
「ええ、ひとりより皆で行くほうがきっと楽しいわ。ここは人も多いし、サァカスに着く前に迷子になったら嫌だもの」
ふたりのバーチャルキャラクターが、超弩級戦力である猟兵ということを察した人々は、あくまで影朧に話しかけぬよう、けれど怯える視線も送らぬようにと努めている。
それを知らないアリスは、じゃあ、とちいさく呟いて。
『……うん。サァカス、いっしょに行く』
やった、とうれしそうに笑う育代は、傷ついたこどものために存在する、永遠のおともだち。アスカも微笑んで、そっと影朧に手を差し出す。
繋いだ互いの手に温度はないけれど、アリスは安心したように笑みをこぼした。
「アリスはどうしてサァカスに行きたいんですか?」
『たのしいことが、いっぱいあるんだって、教えてもらったの。いっしょに行こうねって、約束してもらって』
ぽつぽつとこぼす少女の言葉に耳を傾けながら、育代はすこしばかり寂しくなる。こうなってしまう前に助けてあげたくて、自分はこの子の願った“あなた”ではない。
けれど、最後の望みを叶えてあげるために、やさしく接することを忘れない。
「これから本物を見に行くのが楽しみね。二人は何を見たい?」
「そうですねぇ、私は猛獣の火の輪くぐりを見たいです。きっと迫力満点で、とってもかっこいいと思うのです」
『私……綱渡りが見たい。綺麗な服を着た女の人が、細い綱をわたるって聞いたから』
華やかなサァカスの光景を想像しながら、三人はゆっくりと桜が降りしきる大通りをゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神坂・露
レーちゃん(f14377)
とっても可愛い影朧さんが居るみたい。みつけるわ♪
「わーい♪ 捕まえたわ❤ こんにちわ~♪」
見つけたらまずはきゅぅーって抱きしめちゃうわね。
女の子はびっくりしちゃうかもしれないけどぎゅー♪
…あ。痛そうにしてたら抱きしめる力を緩めるわ。
金の糸みたいな髪の毛もゆっくりと撫でちゃうわね。
えへへ♪ふかふかだわ♪
レーちゃんに怒られちゃったけどこの子を離さないわ。
だってだって可愛いし可愛いし…可愛いんだもの♪
そうそう。この子の想いを叶えなくっちゃね?
忘れてないわよ?勿論ちゃんと覚えてるわよ?
女の子を解放してからお誘いして今度は手を差し出すわ。
「…じゃあ、サーカスを観にいこっか♪」
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
事情は把握したので露と少女を探しに行く。
今回も都に落した想いを幻朧桜へ導こうか。
「…そろそろ離してやれ。露…困惑している」
発見した露は私にするように抱きしめていて。
この子が誰にでもこうなのは何時ものことだ。
少し窘めて…てもやめないのでこのままにする。
少女の方も表情から察するに満足しているようで。
…少しは少女も救われたのかもしれないな…。
「さて。少女の想いを汲みに行くぞ。露」
少女に夢中で仕事のことを忘れていたな。露は。
そんな表情をしていた。…全く。やれやれだ…。
露と少女の楽しそうな雰囲気を観ながら後を追う。
楽しそうでなにより…だ。
猟兵達に連れられてサァカス会場にたどり着いた時、ふいにアリスは誰かに抱きしめられた。
「わーい♪ 捕まえたわ、こんにちは~♪」
『きゃっ』
神坂・露は少女をうれしそうに抱きしめたまま、にこにこと笑顔を絶やさない。そんな彼女のやわらかな仕草に驚きつつも、少女は口を開く。
『だぁれ……?』
「あたしは露、とってもかわいい子が居るって聞いて、探しに来たの。ほんとはあたしだけじゃなくって、親友も来てて……」
いつのまにかはぐれてしまったのだと続けた露は、きょろきょろと周囲を見渡す。
「うーん、そろそろ着いてると思うんだけど……」
「……そろそろ離してやれ、露」
「あ、レーちゃん!」
ようやっと友人を見つけたシビラ・レーヴェンスは、はぁとため息ひとつ。肩をすくめて、抱きしめられたままの影朧に視線を向ける。
「困惑しているぞ」
「だってだって、かわいいしかわいいし……かわいいんだもの♪」
『私……かわいい、の?』
ぱちりと瞬きして、不思議そうにアリスが尋ねる。ええ、と頷く露は、金の糸のような髪をそっと撫でてやる。
「えへへ、ふかふかだわ♪ 綺麗な髪、きらきらの目、とっても素敵♪」
心からの褒め言葉は、愛おしいものに注がれるやさしい愛情そのもの。影朧の表情がふんわりとやわらいでいることを察すれば、彼女もすこしは救われたのかもしれない、と思う。
露が誰にでもこうなのはいつものことで、そのやさしさに凍てついた心を溶かされた自分が、誰よりもよくわかっていた。
「……で、露。忘れていないか?」
「わ、忘れてないわよ、勿論ちゃんと覚えてるんだから」
釘を刺されて、一瞬どき、と露の肩が跳ねる。アリスに夢中で仕事のことを忘れていた表情を、シビラが見逃すはずもない。
「……やれやれ。彼女の想いを汲みに行くぞ」
「ええ」
そうしてようやっとアリスの身体を自由にしてから、露は影朧へと手を差し出す。
「あたし達も、あなたと一緒にサーカスを観たいの」
「共に行かないか」
やさしく微笑む露に続いて、シビラも淡々と誘いの言葉をつむぐ。不思議とその声色に棘はなく、影朧はほっとしたように頷いた。
『うん……いっしょに、見たい』
「……じゃあ、いこっか♪」
手をつないだ露と少女の雰囲気がまろやかなのを確かめて、シビラは後ろをゆく。
「楽しそうでなにより……だ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『夢のショウへようこそ』
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POW : 舞台に釘付けになってショウ見物を楽しむ
SPD : パンフレットやブロマイドを買ってみる
WIZ : ゲストとして舞台に上がる
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
きらきらとかがやくサァカスの舞台は、まるで夢のよう。
立派なたてがみのライオンは火の輪くぐりをしてみせて、おどけたピエロはこども達にお菓子を配る。
細いロープの上を器用に歩く踊り子は軽やかなステップで、タキシードに身を包んだ子猿は一輪車で会場中を練り歩く。
素敵なサァカスが、少女と猟兵達を待っていた。
――さぁ、めくるめく夢のショウのはじまりはじまり。
夏彦・星彩
【ココ彩】
影朧のアリスという子は
サァカスが気になっているのだなぁ
友だちの様に連れてるぬいぐるみとも一緒に
星彩とココも楽しみたいと思っていてなぁ
此れで皆んなサァカス楽しみ仲間〜と
楽しい時間を一緒に過ごそう…!
星彩は空中ブランコや綱渡りが
カッコいいなと思っていたので是非見たい!
ひゃ〜羽が無くてもあんなに高いところで
のびのび色んな事が出来てスゴいなぁ
ジャグリングも色々道具がビュンビュン
空飛んでいるみたいだなぁ〜
サクラミラージュだからか花のマジックも
お洒落とふわふわ吃驚で楽しい〜
アリスが見たかったサァカスは見られたろうか?
観客参加もオッケーなやつだったら
星彩達も協力するぞ〜楽しい思い出になるように!
ココ・ロロ
【ココ彩】
サイさんとアリスさんとぬいぐるみさんとココ…
今日はお友達たくさんですね
みんなはじめてサァカスでしょうか?
ふふ~、それなら一緒に楽しみましょ~!
いろいろ演目…?があるのですね
アクロバットとはどんなことするのでしょう?
空中ブランコ…?
羽ないのに大丈夫なので…わあ!すご~い!
ジャグリングはココも気になっていて~
わわ…道具が生きているみたいです!
サクラの花のマジックもあるよう~?
ふわふわひらひら…あっ、花びらがアリスさんの方へ
びっくりハラハラなのが多いですが
えへへ、楽しいですね
えっ、参加できるのもあるのですか!?
ココ達でもお手伝いできそうなのならよろこんで~
ふふー、ステキな思い出にしましょ~
「こんにちは、アリス」
夏彦・星彩がそう挨拶すれば、少女はきょとんとした顔を向ける。
「私の名前……知ってるの?」
「はい。ココもサイさんも、アリスさんとぬいぐるみさんと、サァカスを楽しみたいんです」
頷く星彩と共に、ココ・ロロを笑顔を見せる。すると、わあっとうれしそうにアリスの顔がほころんだ。
「うん……一緒に、見たい……!」
「此れで皆んなサァカス楽しみ仲間だなぁ」
席へと座った四人は、さっそく始まるショウへと視線を移す。演目には、アクロバットと書かれているけれど。
「空中ブランコ……? 羽ないのに、大丈夫なのです……?」
どんなものかいまいちわからないココと、これが楽しみだった星彩。背の高い青年が、遥かに高い天井にある縄と木の板だけのブランコをゆぅらゆら。ひゅんっとジャンプをしたならば、向こう側のブランコへと見事に飛び移る。
「わぁ! すご~い!」
続く綱渡りをする踊り子も、素敵な衣装を身に纏って軽やかなダンスを見せてくれる。
「ひゃ~。羽がなくてもあんなに高いところで」
のびのびといろんなことをやってのける彼らへと、アリスもびっくりした様子でぬいぐるみを抱きしめる。けれどそれは感動から来るもののようで、すぐに皆と一緒に拍手喝采。
ジャグリングをするピエロはボールやクラブ、リングにボックスと、様々な形の道具をひとつも落とさずくるくる空中に回している。
「空飛んでいるみたいだなぁ~」
「道具が生きてるみたいです!」
ジャグリングが気になっていたココもこれには感激で、自分もできるかしら、なんて。
しばらくすると、桜の花弁がはらはらり。団長らしきマジシャンが、ぽん、とステッキで帽子を叩く。桜の花はふわふわひらひら、アリスの元へとたどり着いて。
「きれい……」
「うん、お洒落でふわふわだ」
「えへへ、楽しいですね」
花弁をそっと掌に包み込んだアリスに二人が微笑んでいれば、今度はそこの皆さん、とお手伝いの指名が。
皆で壇上へと登ったならば、星彩とココは互いの顔を見て頷いた。
「よーし、協力するぞ~」
きらきら、無数の星々が輝いて、それらはふわふわのクッション状になって会場を楽しませる。同時にココが喚んだ動物達も賑やかに跳ねまわり、アリスを連れて会場を駆け回る。
「ふふ、楽しい……!」
笑顔を咲かせる影朧と猟兵達に、万雷の拍手が送られた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
川村・育代
引き続きアリスと一緒にサァカスを楽しむつもりよ。
あたしもサァカスを見る機会はそんなにないしね。
それに、そばにいるあたしが楽しそうじゃなかったらきっと彼女も楽しめないでしょうから。
あたしは『あなた』ではないけれど、せめて代わりにあなたが幸せに転生できることを、転生先で今度こそ『あなた』に会えることを祈るわ。
消えてしまうその時まで彼女の横で手を繋いでいるつもりよ。
ここまで不幸な人生だったからこそ、最後の記憶だけは幸せな形で送ってあげたいから。
華やかなステージから降りてきたアリスを迎え入れて、川村・育代はやさしく笑う。
「アリス、とっても素敵だったわ。あなたも花形スターの仲間入りね」
「ありがとう……!」
再び席について、育代はそっとアリスの手をつなぐ。バーチャルキャラクターとしての体温は淡いものだとしても、影朧にとってはあたたかなぬくもりだった。
育代自身、サァカスを見る機会はそれほどない。それに、傍に寄り添う自分が楽しめなければ、アリスだって楽しめないだろうとわかっていた。
「次の演目は……ゾウのパフォーマンスね」
「ゾウさん? あの、お鼻の長い……」
舞台に登場したのは、ふっくらとしたやさしそうな調教師ととてもおおきなゾウのコンビ。メスなのだろうか、愛らしい装飾で着飾ったゾウはぱぉんと鳴き声をあげている。
「おおきい……!」
わぁ、と目を見開いて驚くアリスと共に、育代もそのステージへと視線を注ぐ。その巨体にもかかわらず、玉乗りを器用にこなすかと思えば、長い鼻をつかって見事な桜の木を描きあげる。
「あの子、なんでもできちゃうのね。びっくりしちゃった!」
興味津々で話しかける育代に、影朧もうれしそうに頷く。その横顔をちらと見れば、心の底からサァカスを楽しんでいるようだった。
(――よかった)
自分は、決して彼女の想う“あなた”ではない。けれど、だからこそ。せめてその人の代わりに、アリスが幸せに転生できることを、転生先で“あなた”に会えることを祈っている。
影朧が消えてしまうその時まで、育代はアリスの手をつないでいるだろう。
不幸な人生の結末を、最後の記憶だけは幸せに見届けてあげたいから。
大成功
🔵🔵🔵
神坂・露
レーちゃん(f14377)
アーちゃんと一緒にサァカスを楽しむわ♪わーい♪
そーいえばサァカスはあたしも初めて観るわね。
だからアーちゃんと同じように驚くし感動するかも。
うふふ♪なるべく全員が前の方の席でみたいわね。
人気の一つだろーから後ろの席になっても大丈夫よ♪
楽しければ…アーちゃんが楽しければ問題はないもの。
もらったお菓子も美味しいし素敵ね。本当に素敵。
「アーちゃんはどの演目が待ち遠しいかしら?」
わくわくが抑えきれないからアーちゃんに聞いちゃう。
もし全部って答えたらあたしも全部って答えちゃうわ。
「わーい♪ 一緒ね。あたしも全部が楽しみなの」
思わずきゅうーってアーちゃんに抱き着いちゃうわ。
「今度はカフェとか都のお散歩いきましょーね♪」
また逢えるかもって知ってるけどお別れは寂しいわね。
アーちゃんもあたしと同じ気持ちだったら…嬉しいわ。
だから「じゃあ」じゃなくて「また」って言うわよ。
そして…。
アーちゃんの姿が見えなくなっても手は繋ぎ続けてるわ。
…何度経験してもこーゆーのは寂しいわね。寂しいわ…。
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
普段より高テンションなのはサァカスの影響なのか。
…よく考えると露は何時もテンションが高いな…。
アリスは少し戸惑ってはいるが楽しそうだから窘めない。
…。ん…。やんわりと窘めた方がいいかもしれないか…。
「もう少し落ち着け露。…それでは終演までもたない」
適当に席につき貰った菓子を摘まみながら開演まで待機。
露の隣はアリスのようだし今回私は露の後ろの座席にする。
珍しいことだが無意識にアリスに配慮しているのかもしれん。
露らしいといえば露らしい。私は独りを堪能しておこう。
…ふむ…。
私も露と同じでサァカスを鑑賞するのは生まれて初めてか…。
演目は全てエンターテインメントで。凝っていて楽しかった。
妙技やパフォーマンス等で楽しませる娯楽も楽しいものだな。
そしてアリスと露が意気投合しているようで…よかった。
転生した後に影朧時の記憶が残っているかは不明だが言う。
「…都の旨い紅茶を淹れるカフェを教えよう。…また、な」
…まあ…。例え記憶が無くとも。
アリスの方が忘れていたとしても見つける気がするがな。
「そーいえば、サァカスはあたしも初めて観るわね」
前の座席に並んで座って見つめる先、華やかなショウはまだまだ続いている。神坂・露はお菓子を食べながら、影朧へと尋ねる。
「アーちゃんはどの演目が待ち遠しいかしら?」
わくわくが抑えきれない様子の露の問いかけに、アリスはうれしそうに笑顔を向けた。
「あのね、ぜんぶ」
「わーい♪ 一緒ね、あたしも全部が楽しみなの」
ぎゅうっと抱きついたなら、ふふ、と少女も楽しげな声をあげる。
「もう少し落ち着け露。……それでは終演まで持たない」
サァカスの影響なのか、普段よりテンションが高い気がする友人へと、シビラ・レーヴェンスが宥めるように声をかける。それからよくよく考えると、露はいつだってテンションが高めなのだ。
いつもなら露の隣に座る彼女が、今日は後ろの座席に居るのは、露がアリスへと無意識に配慮しているように思えたから。
彼女らしいといえば彼女らしく、すこしだけ静かな座席でひとりを堪能している。
「……ふむ」
露と同じで、シビラもサァカスを鑑賞するのは生まれてはじめて。貰ったお菓子を摘まみながら眺めていると、立派なたてがみのライオンが火の輪くぐりに挑戦している。
「がんばれー♪」
おおきな声で応援する露につられて、影朧も一生懸命声を出す。観客達の声援が届いたのか、ライオンは三重の火の輪を見事にくぐっていく。わぁあ、と歓声のあがるなか、次に登場するのは会場中を飛びまわるおしゃれをした鷹。
ぱっと飛び立った鷹は、座席のあちこちを低飛行し、嘴にくわえていた袋の口をぱっと離す。ふわりと咲きこぼれる幻朧桜の薄紅の花弁が、会場中にやわらかな彩りを燈す。
「素敵! あんなこともできちゃうのね♪」
もらったお菓子もおいしくて、アリスも目をきらきらとかがやかせている。こんなに素敵な世界があるなんて、露も知らなかったから。
「……魔術以外の妙技やパフォーマンスもあるのだな」
エンターテインメントのすべてを詰め込んで凝縮したようなサァカスの演目に、さすがのシビラも楽しい気持ちが胸に広がる。
――それに、なにより。
「アーちゃん見て見て、あっち!」
「すごい……!」
目の前の座席で友人と影朧が意気投合している姿に、よかった、と目を細めた。
いよいよクライマックスのお時間となりました、と団長が告げる言葉に、残念そうな観客達の声が響く。ありがとうございます、と微笑む団員達が素敵なパレードを繰り広げて、ショウは大団円を迎えたのだった。
――ショウが終わって、すこしだけ寂しくなったサァカス会場。
猟兵達に見守られながら、アリスは猫のぬいぐるみを抱きしめてわらう。
「サァカス、とっても楽しかった……! みんなと見られて、本当によかった」
心からの望みを叶えてもらった少女は、すこしずつあわい薄紅の光に溶けていく。
「今度はカフェとか、都のお散歩いきましょーね♪」
また逢えるかもしれないとわかっていても、お別れはやっぱりさみしくて。そんな気持ちを胸に秘めて、露は微笑む。
転生したその後、影朧の頃の記憶が残っているかはわからない。けれど、シビラも同じ気持ちだった。
たとえ記憶がなくとも、アリスが忘れていたとしても、自分達は彼女を見つけるような気がする。
「……帝都の旨い紅茶を淹れるカフェを教えよう」
「うん、たのしみ!」
きっと、アリスも皆と同じ気持ちで、だからこんなにも笑顔が華やいでいるのだ。
「……また、な」
「またね、アーちゃん♪」
繋いでもらった手や、撫でてもらった頭、みんなの笑顔が影朧を見送ってくれる。
姿が見えなくなっても繋ぎ続けていた手は、最期に全員にひとひらのうすべにを残して消えた。
「……何度経験しても、こーゆーのは寂しいわね。寂しいわ……」
しょんぼりとした露を肩を、シビラがそっとたたく。
「此処に居る全員が、あの子のために尽くした。それをきっと、アリスは理解しているだろう」
ぱぁ、と露は笑顔を見せて、そうね、と頷く。
此処に居た少女の笑顔を、猟兵達は忘れることはないだろう。
――いつか、また逢う日まで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵