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背中合わせの挿話〜七彩に鎖す誓い

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索

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●誓
 ――あれは勇敢で、己の責務に忠実な男だ。
 わたしの思いを知ったところで、心動かされはしないだろう。いや、わたしがそんな思いを抱くことすら、想像するまい。
 知ったところで、守るべきものを違える男ではない。だからこそわたしは、あれを好いたのだ。
 思いに蓋を。口を鎖そう。裡に虹を秘めたこの貝のように。
 そして誓おう。わたしはこの地でずっと、あれの幸せを祈り続けると――。

●『アトラシア』
 帝竜ヴァルギリオスと共に蘇ったという、未だ所在の掴めない『群竜大陸』の発見。
 帝竜がオブリビオン・フォーミュラならば、それは猟兵たちにとって重要な任務ではあるのだが、
「大陸発見にしろ、勇者一行の足痕探しにしろ、浪漫溢れる話じゃないか」
 悪くないと笑って、グレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)は星の数ほどの可能性の中のひとつを語り始める。

 妖精――フェアリーの勇者の物語が伝えられる場所があるという。
 峡谷に営まれる集落の名は、アトラシア。奥まった辺境の町ではあるが、古くから栄えてきたのには理由がある。
 一つは、町の特産である貝殻の細工物。きれいな真水にしか棲まない二枚貝の内側は、淡く美しい虹色の金属光沢を持ち、街の人々はそれを加工することを生業としてきたらしい。
「そしてもう一つが、『勇者様の盟い』と呼ばれる祭りだ」
 年に一度、季節の移ろうこの時期に催される祭事。
 かの貝の棲処となる川は、渓谷の奥にある大滝の上流を水源としている。光さす晴れの日には、こまかな水の雫が霧のように落ちかかるその滝に、風に揺らいで形を変える虹が常にある。どうやらそれに因む祭りらしいのだが、
「ただただ虹の名所を謳って人を呼んでる訳じゃないようだ。フェアリーの勇者の話も無関係じゃなさそうだしね。ってことで、あんたたち、ちょっと件の祭りに参加してきてくれないかい」
 もちろん遊ぶなとは言わないさ、と女は閉じた片目でにやり、笑ってみせる。
 通りの出店で細工物を物色して歩くだけでも、真偽も定かでないさまざまな口伝えを耳にすることができるだろう。話好きそうな人々を選んで少し水を向けてみれば、より詳らかに語ってもらえる筈だ。
 虹の名所である滝は、町の中を通る川を遡ればすぐ。滝壺から川に至る周囲の水辺は貝殻片の砂地に囲まれ、淡く降る霧の中で頭上の虹を楽しむことができる。人々は虹のかけらのような砂を掬い取り、澄んだ水にはらはらと放つのだとか。
「それが虹に誓いや祈りを籠める作法らしい。まあ、それも何に由来したものだか分からないんだけど」
 さて、とグレの開いた掌に、あかあかと燃える翼が現れる。
「あたしから話せることはこれくらいだ。まずは気楽に祭りを楽しんでおいで」
 その傍らに少しずつ、勇者の輪郭があらわれてくることだろうから。

 ――アトラシアの町に、今はまだ鎖されたままの物語。その鍵をひらくのは、貴方かもしれない。


五月町
 五月町です。お目に留まりましたらよろしくお願いします。
 『勇者』にまつわる物語を、皆様のもとへ。

●ご案内
 当シナリオは、七凪臣MS運営の『背中合わせの挿話~地風に託す想い』と物語がリンクしております。
 それぞれの展開は独立したものですが、時系列が同時進行となっています。両シナリオに同時参加された場合、PCさんが二重存在することになります(※特に二章以降)。ので、情緒的にもどちらかを選んで参加されることをお勧めします。
 運営中、七凪臣MSと重複参加やシナリオ間連携プレイングの確認は行いません。

●シナリオについて
 一章はイベシナ的に楽しく、あるいはしっとり。二章以降は冒険となりますが、得られた情報と皆様のプレイング次第では、心情色強めにもなるかもしれません。

●シナリオ詳細
 ※第一章のみ公開直後からプレイングを受付開始します。
 それ以外はマスターページ及びツイッター(@satsuki_tw6)にてお報せします。

 【第一章】日常。
 アトラシアの『勇者の盟い』の祭りをご自由にお楽しみください。
 勇者に纏わる情報については、少し気にかけておけば自然と耳に入ってくるものもあるかと思います。もちろん、突っ込んだ調査をしていただいても構いません。
 グレは転送に専念します(登場しません)。
 【第二章】冒険。詳細は二章冒頭にて。
 【第三章】戦闘。詳細は三章冒頭にて。

●複数名でご参加頂く場合
 2、3名でのご参加がお勧めです。
 迷子防止のため、お名前とID、またはグループ名をご指定ください。できるだけ近い時間帯でのプレイング送信をお願いします。

 それでは、『勇者』と『恋』の物語へ、いってらっしゃいませ。
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第1章 日常 『繋ぐ七色』

POW   :    虹を一望できる場所から眺める。

SPD   :    誓いをたてる、約束の品物を贈る。

WIZ   :    虹のかかる峡谷をくぐる。

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カーニンヒェン・ボーゲン
古い話には目がなくていけませんな。
好奇心を擽られつつ、町の散策に赴きます。
お祭り自体には贈り物の指定がないのですかね…ふむ。
誰かに、ではなく自分の心の内に想いを秘める盟い、ということなのでしょうか。

町中で語られる話に耳を傾けつつ、祭りの屋台や贈答品を扱う商店があれば、
二枚貝の閉じたデザインの品がないか目を配ります。
店主に、その由来や製作した職人を知っているかを訊ねて、
可能なら職人にもお話を聴きたいものです。

祭りとして伝承される程に、そのお方は幾度となく虹に盟いを繰り返していたのでしょうか。
思いとは、水と同じく、絶えず涌き出でるものですから。
それでもその想いは、光を受けて輝き続けていたのですね。


アリス・フェアリィハート
【ミルフィ・クロックラヴィット(f02229)】とご一緒に参加

※アドリブ等歓迎です

ミルフィと一緒に
虹を
一望できる場所から眺めます

ここが…街のフェアリーさん達がお教えくださいました…
虹を一望できる場所なんですね…

『わぁ…きれいな虹…とってもすてきな眺めですね…ミルフィ…♪』

ミルフィと
きれいな虹を見ていると…

ミルフィが
私の髪に、
虹色に輝く二枚貝の髪飾りを
付けて下さって…

『これは…?――とってもきれいな…貝の髪飾りです…有難う、ミルフィ…♪』

ずっと私の側にいて
私を護って下さる
というミルフィの言葉に
嬉しく思い、頷いて…
ミルフィの傍らに
寄り添います

『はい…ミルフィ…ずっと…私のそばに…いてくださいね…』


ミルフィ・クロックラヴィット
【アリス・フェアリィハート(f01939)】姫様と
御一緒に参加

※アドリブ等歓迎

アリス姫様と一緒に
虹を
一望できる場所から眺めますわ

アリス姫様
此処が…街のフェアリー様達がお教えくださいました…
虹を一望できる場所ですわ…

『アリス姫様…御覧下さいまし…とても…美しい虹が掛かってございますわ…♪』

流石に
フェアリー様達が
お勧めする場所だけありますわ

――と、
虹に見とれて忘れるところ
でしたわ…

『アリス姫様…これは…街で入手致しました――この辺りでしか採れない、虹に輝く二枚貝の細工物だそうですわ…』

アリス姫様の髪に
髪飾りを付け…

『とても…よくお似合いですわ、姫様…♪』

アリス姫様…
ずっと…御側で
姫様を…護りますわ


雨糸・咲
まずは貝殻細工のお店を覗いて歩きます
虹色に耀く耳飾りに見入ってしまうものの

いえ、私は…
飾ったところで、そんなに見栄えもしないですし…

身を飾る事にはどちらかというと不慣れ
でも、
お店の方が親切なので
つい色々とお話を聞いてしまって
お礼も兼ねて、なら…良いかしら?なんて
迷った末に、髪に隠れてしまうくらいの小さなイヤリングを手に取って

それから、せっかくなので滝を見に行きます
道々、地元の方らしき人を見かけたら
少しお話を聴いてみましょう

今は、少し気持ちがあやふやで
誓いを立てるには至らないけれど

…きれいないろ、ですねぇ

見上げる虹はただ美しく
眺めて、心洗われるだけ

※アドリブ、他の方との絡み歓迎です


マリス・ステラ
【WIZ】

「"浪漫"がある。旅をする理由はそれで充分です」

虹のかかる渓谷をくぐります
舞い降りた透明な時間と清浄な空気に、あたたかな光を感じます

幻想の欠片を探して、水辺の砂をすくいとり、澄んだ水に放ちます
わずかに瞑目して『祈り』を捧げます
それは誓いであり、結びになるでしょう

頭上にかかる虹を見上げて、

「遠くで聞こえる雨音のように、溢れてゆく祈りが聞こえます……」

零れ落ちた静けさに、胸の鼓動が少し痛い
同時に自身の『第六感』が始まりの予感を告げている
果てない願いと、勇者を巡る鎖された物語に思いを馳せます

「行きましょう。貴き絆を知るために」


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
虹の欠片に誓いを込めて。
うむ、良い催しだな。

虹の名所に訪れる者ならば、いくらか話を知っているかも知れんな。
話を聞きがてら、私も一つ、誓いの作法に倣ってみようか。
私の誓いは、愛と希望を世界の全てに示すこと。
明日の朝日を、誰もが疑いなく信じられるように――この世の皆が笑えるように。
この力でもって、世界の味方となることだ。
……虹に誓うのだから、必ずや叶えねばなるまいな。

誓った後は、ついでに少し情報を集めておこうか。
近くの冒険者でも捕まえて、軽く話でもするとしよう。我々よりは詳しいであろうよ。
ここの謂れなんぞに触れて、何か面白い話が聞ければ良いがな。


終夜・凛是
虹。虹って、見たことない。見てみたい。
色んなもの、見ていったらきっとにぃちゃんと会えた時に、話せることもふえるから

滝に足を運ぶ
虹って……そっか、見えるけど手が届かない。そういうもの、か
昔の俺と、にぃちゃんみたい
でも今はちがう、ぜったい
俺は虹でもなんでも追いかけられるから


後は細工店を見に
貝殻の裏側、最初からこんななの?加工する前とか見てみたい、見れる?と店の人にお願い、してみる
貝殻をこんな風にできるって、すごい

買い物ついでに、勇者の話をよく知ってる人を知らないか聞いてみる
もし知ってて教えてもらえたなら話を聞きにいく

その前に、揃いの指輪を二つ買う
こういうのいっぱい指にするとキラキラしててかっこいい


白雪・大琥
店に並ぶ細工物を眺めながら勇者の情報を得ようと
自分に合いそうな耳飾りを物色していく

……こう、洒落たもんはつけた事ねぇから……選ぶの難しいな
暫く首を捻ってみるがお手上げ
店の人に選んでもらおう
恋だの愛だのには縁遠いしいまいちわかんねぇけど……この貝殻ってのは綺麗なんで
薦められた耳飾りを空に翳してみる
陽に当たると此処でも虹が揺らめいて色の見え方を変えた
……こんなに綺麗なのに、鎖したまま生きたのか。勿体無ぇな

フェアリーの勇者も何か、虹に想いや誓いを残して行ったんだろうか
これ貰う。と耳飾りを購入しながら、勇者について知らないか聞いてみる
その際も目線は細工物へ
ちょっと変わった生き物のオブジェと目が合った



●言い伝えの片端
 アトラシアの町並みは、どことなく可愛らしい。
 フェアリーの勇者が拓いた町とはいえ、住まう人々は妖精種族のみに留まらないのだが――人間サイズが殆どでありながら、どことなく華奢なつくりの建物が目立つのは、もしかしたら言い伝えを意識してのことだったのかもしれない。
 店らしい店はどこもかしこも、石畳の道に向かって扉を大きく開け放っている。そこからちらちらと誘う細工物の煌めきを、多くの観光客たちと同じように、雨糸・咲(希旻・f01982)もつい覗き見ずにはいられなかった。
 招かれるままに軒をくぐると、そこはたくさんの装飾品が並ぶ店。身を飾ることに慣れない咲は、目を楽しませるばかりのつもりだったけれど、
「うちは年頃の娘さん方にも手が届きやすいものを並べてるんだよ。ほら、これなんかどうだい?」
「い、いえ、私は……飾ったところで、そんなに見栄えもしないですし……」
 恐縮する咲に、店子の女性はからりと笑って手招きをする。
「まあまあそんな、勇者様みたいなことを言わないでさ。ものは試しだよ、お嬢さん」
「勇者様みたいな……?」
 淡く虹色に輝く雫を咲の耳に近づけ、女性が頷く。
「そう伝わってるよ。フェアリーだしね、そりゃもう可憐なお姿だったそうだけど」
 ――戦いにしか能のないわたしに、こんな愛らしいものは似合わないよ。
 周囲がどう言おうが笑って取り合わず、身につけるものといえば針のようなレイピアと、小さな小さな鉱石ランプが一つきり、だったという。
「……そうなんですか」
「その辺りの通りをゆっくり歩いてみるといい。勇者様の銅像だとかモザイクだとか、ランプを持ったお姿が見られるからね」
 それはそうとお嬢さん、なかなか似合ってると思わないかい?
 自分の見立てに間違いはないと、満足げな女性が見せた鏡の中。咲の青い髪越しにちらちらと覗く小さなピアスの光は、髪を伝う雨のひと滴のようでもあって。
(「色々とお話も聞いてしまったし。……似合っている、なら……良いかしら?」)
 ――いただきます、と思い切った顔の娘に、女性はにっこりと目尻に皺を刻んでみせる。
「……ちょっと明るいとこで見てもいいか」
 二人の遣り取りが落ち着いたところで、白雪・大琥(不香・f12246)が問う。
 いいとも、と返る笑顔の眩しさから思わず目を逸らし、窓辺に近づいた青年の手にあるものは、小さな黒銀のイヤーカフ。洒落たもんは選ぶの難しい――と、店子の女性に選んでもらったものだ。
 二筋、三筋、白みがかった縞を刻まれたそれは、陽の光を受けて淡い虹の反射を大琥の瞳に返す。
「……こんなに綺麗なのに、鎖したまま生きたのか。勿体無ぇな」
 恋だの愛だのは大琥には分からないけれど。思うまま呟いた言葉に、ほんとだよねえと女性が笑う。
「言い伝えじゃあ、好いた人はドワーフの勇者様だったそうだ。お国でそこそこのお立場にある人だったとかでね。困らせちゃいけないって思いなさったんだろうね……何しろまっすぐで真面目な方だったんだ、あたしらの勇者様はさ」
 それにしたって伝えるくらい、って今どきの子らは言うけど――それも恋ってもんかもしれないよねぇ。
 大琥がこれ貰う、と差し出したイヤーカフを包みながら、しみじみと女性は言う。あたしにもそんな純な時代があったもんだ、なんて昔話にはそこそこに頷いておいて、大琥は店内に散る微かな光に目をやった。
(「それが、勇者が虹に残した誓いか」)
 虹色のように晴れやかで、美しい想い。けれど伝えられなくて、なくすこともできなくて――身の裡に、その心に、貝のように鎖すと誓った光。
 勿体ない、とは思う。けれど何が正解だったのかも分からない。
 頭を掻く大琥を、棚の上の不思議な生き物のオブジェが、虹色の瞳で見つめ返していた。

「貝殻の裏側、最初からこんななの?」
 薄暗がりの店の中、差し出されたランプの灯りに跳ねる虹色。若者好みのリングにはめ込まれた煌めきが、素材の持つそのものとはにわかに信じられなくて――終夜・凛是(無二・f10319)の声は思いがけなく素直な音を帯びる。
 だって、こういうのいっぱい指にすると、キラキラしててかっこいい。
 人とのかかわりに長ける方では決してない。けれど少年らしいささやかな熱が、凛是に次の問いを口にさせる。
「加工する前、とか。見てみたい、見れる?」
 買うつもりの揃いの指輪をふたつ、握り込んで離さない少年に、寡黙な店員は瞬いて、ついて来いと言った。扉一枚隔てて向こうの工房で、作業をしていた若い女が顔を上げる。
「見学?」
「……、いい?」
「大歓迎」
 にやりと笑って手招く女。材料、と投げられた貝殻は、凛是の拳ほどもある。内側の輝きは確かに指輪と同じ、と見比べてぽつり、
「……すごい」
「あは、ありがと。先に指輪を削ってね、別に削った貝を嵌めて……」
 絶え間なく動く指先が作り出すものを、少年は見つめている。笑うでも瞠るでもないけれど――籠った熱意ににこ! っと笑って、残念だねーと女は言った。
「滝の洞窟に行けたらよかったのにね。すごいのが見れたのに」
「滝の……洞窟?」
「うん。勇者様の時代から今までのここの職人たちの技の結晶があるの。見れたんだけど、去年までは」
 今は閉鎖されちゃってるから。そう告げた女に、なんで、と静かに噛みつくように問う。
「魔物が棲みついた、って話」
 近づいちゃダメだからね、と念を押す女に背を向け、店員に代金を押し付けて――足早に店を出た。

「ありがとうございます。いや、古い話には目がなくていけませんな」
 帽子を取り、にこやかに一礼をして、カーニンヒェン・ボーゲン(或いは一介のジジイ・f05393)はゆるり石畳を歩き出す。
 散策がてら心擽られるままの情報収集は、実のあるものだった。勇者の物語に興味があるのだと告げれば、町に住まう者たちは喜んで知る話を語ってくれた。
 曰く、勇者様はただ一人を思い続けてその生涯を閉じたのだとか。
 また曰く、勇者様の思い人は地の底の国の勇者だったのだとか。
「お祭り自体には、誰かへ思いを秘めた贈り物をする……という意味合いはないのですかね……ふむ」
 ――と、なれば。この祭りに聞く『誓い』とは、元々は人に向けられるものではなく、自身の裡に秘めるものなのだろう。
 思案する紳士の足が、ある軒先で止まる。廂の下に並べられた品々の中、目についたのは虹色の煌めきではなく――二枚貝の姿をそのままに、彩を内に隠した小物たちだった。
 小さなものはアクセサリーに、大きなものは小物入れだろうか。丁寧にそれを検め、店子に尋ねる。
「これは、やはり誓いを秘めるという言い伝えに関係が?」
「おや、目の付け所がいい」
「恐れ入ります」
 にこり微笑んだカーニンヒェンに、店子の男はその通りだよと頷いた。
「元々はこの形の細工物が多かったんだけどな。この町じゃ、虹は勇者様の秘めた誓いの象徴だからねえ。今じゃ皆に知られた話だけど、勇者様が亡くなるまで、誓いのことはごく身近な人間しか知らないことだったくらいだ」
「おや、それは」
「だってそうだろ? 秘めた誓いだっていうなら、こうも話が広まってるのは妙だ」
 詳しい奴がいるよ、と案内された店の奥で、職人が頭を下げた。カーニンヒェンとさほど歳も変わらないだろうその男が語ったことには――この祭りは、勇者の死後に生まれたものだという。
「片思いのまま生涯ひとりを愛し通すなんざ、健気な話でしょう? 当時の町の人間はそれでますます勇者様を好きになっちまって、なんとかお気持ちを見えるようにしてやりたいと思ったんだ」
「なるほど。それで虹色が表に出る細工物が増えた、という顛末ですな」
 しみじみと頷いて、紳士は勇者の心に思いを馳せる。
「そのお方は幾度となく虹に盟いを繰り返していたのですね。こうして祭りとして伝承される程に」
 水のように絶えず湧き出でる心を、愛した人が幸福であれと願い続ける、誓いの力へと変えて。後にそれを知った人々の心を、揺さぶるほどに。
「――彼女の想いは、光を受けて輝き続けていたのですね」
 胸に暖かく落ちた物語に、恭しく礼を取った。

●虹の向こう側
「アリス姫様……さあ、どうぞ。こちらでございますよ」
 ピンク色の長い髪を揺らして、ミルフィ・クロックラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・f02229)は主の手を引いていく。
「街のフェアリー様たちがお教えくださいました、虹を一望できる場所ですわ……」
 町の奥へと清流を遡れば、近づいてくる水の音。一般的な滝とは少し違う、さわさわと雨が重なり降るような音色に耳を傾けながら、導かれるまま滝へ向かうアリス・フェアリィハート(猟兵の国のアリス・f01939)。その青い瞳に、ふわりと風に揺れ靡く白い霧のヴェールが映る。
「此処が……」
 プリズムの光沢を返す大粒の砂が、足許でしゃらりと歌う。けれど、それよりもアリスの心を捉えて離さないもの。
「わぁ……きれいな虹……」
 促すまでもなく虹に見惚れるアリスの傍らで、ミルフィは満ち足りた笑みを浮かべる。――お連れして良かった。
「とってもすてきな眺めですね……ミルフィ……♪」
「ええ……流石にフェアリー様達がお勧めする場所だけありますわ」
 勇者を慕う者たちが集まって作ったこの町には、エルフや人間も数多くいたけれど、中でも勇者と同じ種族であるフェアリー達は、一際誇らしそうにこの場所を教えてくれたのだ。
「――と、虹に見惚れて忘れるところでしたわ……アリス姫様、少しそのままじっとなさっていて下さいまし」
「ミルフィ、それは……?」
 陽光に煌めくアリスの髪に、ミルフィはそっと虹色の光を付け足した。町で手に入れた、蝶の形の髪飾り。虹色貝で作られた翅は、足許に広がる砂と同じ輝きを湛えている。
 きれい、と微笑むアリスに、とてもよくお似合いですわとミルフィも目を細める。この笑顔に、ずっとお仕えしていたい。
「アリス姫様……ずっと御傍で姫様を……護りますわ」
 躊躇いもなく零れた誓いに、小さな主は青い瞳を見開いて――幸せそうに頷くと、そっと身を寄せた。
「はい……ミルフィ。ずっと……私のそばにいてくださいね……」

「……きれいないろ、ですねぇ」
 頭上に揺らぐ光帯を見上げる咲の気持ちは、まだ少し定まらなくて――確かな心で『誓い』を立てるには、足りない心地がしたけれど。
 淡く、優しく、美しく。風に移ろう滝のヴェールの上、ゆらゆらと形を変える七色は、まるで心を濯ぐよう。
 滝の麓に降り立ったマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は、青い瞳にまっすぐに七色を捉えた。細やかな飛沫を攫った風が頬に心地好く、ひんやりと澄んだ感触ゆえに、空から落ちかかる光の温もりもより確かに感じられる。
 虹が常に架かる場所。勇者が誓いを捧げた場所。グレが言った通り、そこには確かに浪漫がある。周囲に在る人々の姿は、それがこうして訪れるに足るものである証明だろう。
 常ならばひとときで消えてしまう七色の幻想が、この場所にはずっと空にある。そして足許にさらさらと流れる砂も、その色を微かに帯びていた。
 華奢な指先でそっと掬い取り、冷たい水に放つ。その一瞬だけ瞳を閉じて、祈りを捧げた。
 再び目を開けば変わりなく、七色は空から見守っている。
「溢れてゆく祈りが聞こえます……」
 まるで遠い雨音のように。さらさらと流れる飛沫の歌は、まるで誰かの囁く祈りのようで、それなのに静かで。
 けれど、胸の音が痛いほどに身の内に響くのは、静けさのためばかりではない。
 これから起こる何かを報せる早鐘に、マリスはゆっくりと立ち上がった。誰にともなく呟く声が、飛沫の音に攫われていく。
「……行きましょう。尊き絆を知るために」
 その物語はきっと、この先に開かれる筈だから。

「私の誓いは、愛と希望を世界の全てに示すこと」
 さらさらと掌から零れ落ちる『虹の欠片』を見送りながら、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)ははっきりとそう紡いだ。
 明日の朝日を誰もが疑いなく信じられるように――この世の皆が笑えるように。猟兵の力を以て、世界の味方となること。
 さらり、と最後の欠片が水底に消えたのを認め、笑みを浮かべる。この誓いは、必ず叶えなければ。――勇者の虹に誓うのだから。
「さて……ああ、少しいいか? 尋ねたいことがあるんだが」
 負った荷や格好からして、町の人間ではないだろう。水辺に近づいた若者が、自分のことかと瞬きをする。
「ああ、そうだ。冒険者か?」
「ええ、そうです。ちょうど近くを通りかかったら、勇者の滝の祭りだと聞いたもので……折角だから寄ってみようかと」
「そんなに名が知れているのだな、この滝は。生憎、私はここの伝承には詳しくないのだ」
「はは、私も聞きかじったくらいですよ。妖精の勇者様が、生前ずっとここで祈ってらしたんでしょう?」
 ちょっと失礼――とささやかに祈りを捧げ、身を引いた冒険者の男に、ニルズヘッグは首を傾げた。
「祈るだけか? 虹の欠片に誓いを込めると聞いたが」
 ああ、と笑みが返る。
「今はそう言われてますね。でも、それは勇者様が亡くなった後に生まれた風習だそうですよ」
「……それは」
 何故、と重ねる問いに、今度は男が首を傾げ返す。
「さあ……そこまでは。でも、そうやって変わっていく風習も面白いですよね」
 では、と去っていく男を暫し見送って、ニルズヘッグは水面へ視線を戻した。
 ごく淡い虹の色――絶え間なく揺れる水底に、新たな謎が揺らめいている。

(「……ああ、虹って……そっか」)
 初めて見たそれに、凛是は手を伸ばす。見える。けれど手が届かない。触れられない。そういうものか――まるで、
(「……でも今はちがう、ぜったい。俺はなんでも追いかけられるから。虹でも、にぃちゃんでも」)
 ――二つの指輪は今は、両方この手にあるけれど。
 伸ばす手の先、架かる虹と淡く煙る滝。その向こう側にうっすらと透ける影を、少年は強い眼差しで見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
チロ(f09776)と一緒に!

フェアリーの勇者も本当にたくさんいるのね
やっぱりフェアリーとしては何だか誇らしいものよ(ふふん)

チロ、虹よ!
虹もとっても綺麗だし、砂も虹色にキラキラしててとっても綺麗!
これを掬って、水にえいってして、虹にお願いごとをするのよ
チロは何か、ほしいものはある?

あたしは…
皆とずっと一緒にいられますようにっていうのも勿論だけど
チロがしょんぼりしないように、いつまでもキラキラでかっこいい
勇者みたいなあたしでいられますようにってお願いするわ!
でも、これは自分の力で叶えるものかも?

お祈りも済ませたし、綺麗な貝殻のお土産と、あとは…
ソルベのために、冷たいおやつを探しに行きましょう!


チロル・キャンディベル
キトリ(f02354)といっしょ

ようせいのゆうしゃさんって、キトリといっしょね!
チロにとって、キトリはゆうしゃさんみたいにキラキラでカッコいいの

にじ!キラキラー!
空も地面もキラキラで、くらくらしちゃう
えーと、この下のキラキラを持って、えいってすればいいのね

チロのほしいもの?
ソルベがそろそろあつそうだから、すずしい何かがほしいのよ
ちがうかしら…?

チロの『いのり』は
ソルベやキトリ、みんなともっともっといっしょにいられますように!
キトリは今でも、チロにとってはキラキラなのよ
だからチロも、はなれないようにがんばらないと

キトリ、あとでお買いものしましょ
みんなにおみやげ買ってかえるのよ!


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に

そのようだな
降る雫に揺らぐ七色を仰げば
張っていた気も解ける

師父よ、予てより思っていたが
なぜあれは橋の形をしているのだ
…御身の星のようなものか

陽に、月に、時に炎に
揺れど変わらぬ透明なひかりの彩は
冗談のように似ている
が、得意顔は少々腹立たしい故胸に収め

祈りを向ける先はなく
誓いを今更口にするのはむず痒いが
しかし惜しむこともしない
虹の砂を一掬い

…此の身朽ちるまで
双つ星の盾に、剣に
師にだけ届け、掬った心は指の間から水へと返す

そうだな、虹と貝、どちらもよく似ている故
何か関連があるのやもしれん
いつか誰かがそうして誓いでも立てたのだろうか
お得意の猫被りの出番だ、と軽口叩き


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
七彩を抱く滝に、見目麗しい螺鈿の細工
ふふ、この町は虹と共に在ったのだな

よしジジ、虹を見に行くぞ
特等席たる従者の肩に座し清冽なる滝の前へ
水気孕む空気の心地好さたるや
仰げば揺らめく虹が見えるだろうか
…む、橋の形か?
そうさな…見る角度もあるそうだが
世には円形の虹もあるそうだぞ?

暫し堪能すれば大地に降り立ち
水底から虹色に輝く砂を掬い取る
誓いや祈りを――か
生憎祈り等疾うに捨てた身だ
…然し不出来な弟子の平穏を祈る位
罰は当たらぬやも知れん

祈りを水へ還しつつふと疑問が脳裏を過る
この作法はどの様にして成り立ったのか――
真偽は兎も角、柔らかな物腰で民より情報収集を試みる
ええい、茶化すでないわ



●溶けだす誓い
「フェアリーの勇者も本当にたくさんいるのね……!」
 滝へ向かう道すがら。擦れ違う人々の声に勇者の物語を耳にする度、キトリ・フローエ(星導・f02354)はぱたぱたと夜明け色の妖精羽を震わせた。
 妖精の勇者。その物語の片鱗を、キトリは別の町でも耳にしたばかり。同じフェアリーとしては誇らしいものだと、なんだか鼻が高い。
「ようせいのゆうしゃさんって、キトリといっしょね!」
 白熊のソルベの背でふさり、ふさりと尻尾を揺らしながら、チロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)は大きな瞳にそんなフェアリーを映して笑う。いつも自分を守ってくれる強くて優しいキトリは、
「チロにとってゆうしゃさんみたいにキラキラでカッコいいの」
「そ、そう? そうね、まかせて! これからもチロはあたしが守ってあげる」
 ソルベもね、とふかっと白熊の頭の上へ着地する。その鼻先にふと、水の匂いが香った。
「! チロ、虹よ!」
「にじ! キラキラー!」
 チロルの思いを追い風に駆け出したソルベの足を、きらきら輝く虹の砂がとらまえる。見上げる顔に落ちかかる細やかな水の雫、小さなふたりの頭上に広がる大きな大きな虹。地の砂も水底も、くらりと世界が翻りそうに輝いている。
「これを掬って、水にえいってして、虹にお願いごとをするのよ」
 ほしいものはある? 茶さじほどの砂を抱えて鼻先で羽戦いたキトリに、真似るチロルはことりと首を傾げ。
「チロのほしいもの? ソルベがそろそろあつそうだから、すずしい何かがほしいのよ。ちがうかしら……?」
「うーん、そうね! それもとっても大事なんだけれど」
 優しくまだいとけない心に、終わったら冷たいおやつを探しに行きましょう、と添って、励ますように周囲を飛び回るキトリ。見つめるうちに、チロルはあっと思い立つ。
「チロの『いのり』は、ソルベやキトリ、みんなともっともっといっしょにいられますように!」
 くすぐったそうに羽を震わせて、キトリはふわりと砂を放った。
「あたしは……そうね、それなら。チロがしょんぼりしないように、いつまでもキラキラでかっこいい勇者みたいなあたしでいられますように!」
 でも、それは自分で叶えるものかもしれないから。これは願いというよりは、誓いなのだ。
 ちらちらと輝きながら沈んでいく虹色を見送る大人びたキトリの横顔。みんなにおみやげ買ってかえりましょ、と笑う瞳に頷いて、チロルも思う。
 お姉さんのようなキトリは、今だってこんなにキラキラだから――チロも、はなれないようにがんばらないと。

 虹色に色づく霧の飛沫を望む特等席は、従者の肩の上だった。
 華奢とはいえ、成人の身の丈をいとも容易く肩上に掬い上げるジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)。町では少し硬くあったその表情が解けるのを間近に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は続いた問いかけにふ、と微笑んだ。
「師父よ。予てより思っていたが、なぜあれば橋の形をしているのだ」
「そうさな……見る角度もあるそうだが、世には円形の虹もあるそうだぞ?」
 子を教え導くような、弟に語り諭すような。少し得意げな輝きを抱くアルバの星の瞳の、さまざまなる光に揺れながら変わりなくある彩、揺れ動いてなお変わらないもの。それはあまりに、頭上に架かる色に似ていた。
 するり、気紛れに肩を滑り下りる師を意識することなく支えながら、ジャハルは共に砂へ指先を伸ばした。掬う傍から零れゆく七色の欠片が、誰に預けるべき祈りを担うのか男は知らない。向ける先も持たない。けれど、
「誓いや祈りを――か。生憎祈り等疾うに捨てた身だが」
 悲壮なく微笑んだ師の横顔が、こちらを見る。
「……不出来な弟子の平穏を祈る位、罰は当たらぬやも知れん」
 ああ、同じだ――と。しゃらしゃらと水面を打つ虹砂の雨を追いながら、ジャハルは惜しみも恥じらいもせず、それを口にした。師のようにすがたには表れずとも、いつもその胸には在る輝き。
「……此の身朽ちるまで、双つ星の盾に、剣に」
 眼下の澄水にでも頭上の架け橋にでもなく、ただ隣に届けばいい。
 砂が水底へ姿を消すのを見送った師が、不意にぽつり、
「……この作法はどの様にして成り立ったものか」
「そうだな。虹と貝、どちらもよく似ている故、何か関連があるのやもしれん」
 いつか誰かがそうして誓いでも立てたのか。思いつきを並べる弟子を傍らに、むくむくと頭を擡げる好奇心に弾かれるように立ち上がるアルバ。
「――つかぬことを伺いますが。この誓いの作法、由来をご存知でしょうか」
 誓いを預けに訪れたらしい町の人々に向けられる、柔らかく嫋やかな表の顔が、得意の猫被りとぼそり呟いたジャハルを一瞬、振り仰ぐ。茶化すでないわ、と自分にしか見せられぬ剣呑な眼で。
「この砂のことですかな。これは勇者様の後の世に生まれた倣いなのですよ」
「……おや。フェアリーの勇者が斯く誓いを捧げていた、という訳では」
「ええ、ないのですな。そも勇者様の誓いとは、秘めるもの。ですがこれは、それが届くようにとの町人たちの願いなのです」
 ゆっくりと頷いた町の老人は、いつの間にか並び立った二人に語る。

 ――虹を編んだこの水は、長い時を経て地底へ染み渡るだろう。
 ならばそこに、いっそうの輝きを捧げよう。そうすれば、いつの日かは地底へと届くかもしれない。
 そこに溶けた、かの方の誓いが、祈りが。

「勇者の想い人というのは、確か」
「ええ。この水よりはるか深くに営む、ドワーフの勇者であったと。そう伝わっておりますな」
 人々がそれを知ったのは、勇者亡きあとのこと。それでも――いや、だからこそ、彼女を愛する人々はそれを届けたいと願ったのだと。
「かの遺跡もその名残なのですよ。今は中を見ること叶いませんが」
「……遺跡」
 ジャハルの声に、然様、と老人は滝を仰いだ。
 つられて見上げる眼差しの先、淡い光の幕の向こうにあってひときわ暗く、洞窟がぽかりと口を開けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千代森・瞳
職場と部屋とを往復する日々
紙面に、画面に映る鮮やかなものたちが大好きだったのに
あの日から、現実のその陰に棘が見え隠れしているようで
…だけど

▼行動
滝へ
知らない所に来てしまったんだと足が震えていた筈なのに
暗がりのない光と、陰のない人々の笑顔に駆け出していて

あ、でも、調査も忘れません
観光客らしく、地元の方に作法の理由や纏わる逸話などないか
同じ観光客らしい賑やかな集団に、どんな噂からこの町に来たのかとか
人見知りで緊張してしまいますが、神話とか好きなので、聞き込めたら

教えてもらえたら、光を弾く砂を掬いに
眼前の光景だけじゃない
開かれた世界に眩むばかりだったけれど
…私も、前へ歩きたい
それを、ここに、誓います


ソラスティベル・グラスラン
『勇者様の盟い』ですか。どういった催しなのでしょう?
小さい身で大冒険を繰り広げたであろう妖精族の勇者、ふふふ、浪漫に溢れますね!

【POW】
はわぁ……!周辺に積もる砂も貝殻の欠片なのですね!
この集落の貝殻細工もとても美しかったですが、
ここはこの場所そのものが大自然からの特注品…!
砂はキラキラと、頭上で橋かける虹と同じくこちらも虹色
水に撒いてしまえば、水の中でもまた別の輝きを放ちそうな

周囲の人々をみたところ、何やら祈りなどの作法がある様子
わたしも教えて貰いましょう!虹の誓いや祈り、きっと素敵な思いがありますっ
この作法には何か由来があるのでしょうか?
【優しさ・コミュ力】で深く尋ねてみましょう!


玖・珂
形なきものは移ろいやすく
形あるものはいつか崩れる

風に揺らぐ光の彩に、水に曝された貝の彩に
そんな言葉が浮かべど、そればかりではない事も知っている
滝に架かる虹も、今日まで続く祭りもその一つなのだろう

勇者の為人、祭りの由来
枝葉の真偽は判じかねるが、根は共通するものがあろう
通りの会話を聞きつつ商いの長そうな店で尋ねてみよう
何故、勇者様と呼ばれているのだろうか?

店で情報だけを貰い帰るのは失礼だな
盃があればひとつ頂きたい
壊れにくい物が良いな、私は彼方此方と動き回るから
図柄は店主に任せるぞ

様々な色を秘めた螺鈿は心模様を想わせる
伝えねば始まらぬ事も多いが、飲み乾すほうがよい事もある

この物語はどちらなのだろうな


イア・エエングラ
じ、っと眺めて足止めてふと目が移って隣へ
きらめく細工物を覗き込んだら、動けなくて
ふと顔上げればやっとざわめきも聞こえて
ものがたりも、聞けたんなら嬉しいかなあ
頁に綴って伝うより、人から人へのお話は
きっとそこに伝えたかった想いの足跡があるものね

こつんとつついて光に翳して
お空にかざせばここにも虹がかかるから
やあ本当に虹のふもとなのねえ
幾つか覗いて悩んで、考えて
そうな、ふたつ、貝を合わせた小物入れ
二枚の貝は合わさる組み合わせは他にはないそうよう
綺麗な中身にそっと綴じる、想いはどんなものだったろな
沈む、揺らぐ、水のうち、柔い想いを閉じ込めたのなら
掛かる虹の下で、その欠片を追えるの、かしら



 多くの種族が行き交う道も、その先に在る滝の姿も――千代森・瞳(人間の探索者・f00524)には、遠く眺めていただけの存在だった筈だった。
 中に身を置き、近づけば近づくほどに、その在り方はあまりに異質で、知らない所に来てしまったんだと迫る実感に足は震えた。けれど、滝の放つ澄んだ輝きに、見上げては笑う人々の顔、不安の影を吹き飛ばすような爽やかな明るさに、少しずつ足は進んでいて――気づけば弾む胸を押えて、滝の麓に立っていた。
「まあまあ、今日も綺麗ねえ」
「いい虹だこと……勇者様が笑っていらっしゃるのかしらねえ」
 佇む瞳の傍らに、ゆったりと近づいてくる老女が二人。上を見上げながら進む足を横目に気にするうちに、あっ、とひとりが声を上げた。考えるより先に、手が動いていた。
「……だ、大丈夫ですか。……その、砂地では危ないですよ、足元を見てないと……」
「あらあら、私ったら。ごめんなさいね、ありがとう」
 支えた人のふくよかな笑みと答えは、自分の世界に在るものと変わりない。それでまた少し心を溶かして、瞳は思い切って尋ねてみる。
「地元の……方なのですよね。私は、観光……なのですが」
「あら、素敵だわ。ええそう、私はアトラシアに住んでいるの。毎日こうして祈りに来るのよ」
「不思議な言い伝え、ですよね。……どうして託すものが虹なんでしょうか」
 神話や伝説が好きなのだとぽつり付け足せば、老女たちはにっこりと目を細める。
「虹は儚くて、移りゆくものでしょう? 人の心のように」
 雨上がりや、お天気雨や。一瞬にしか現れ出ない筈の幻の光が、この滝抱く峡谷には常に在る。それが、消えて欲しくない祈りを持つ勇者には心強かったのだと。
 好いた人と離れていても、思いを伝えることができなくても、自分の思いは儚くならない。移りゆきもしない。――この虹のように、ずっと心に在り続けるのだと。そう、
「ご自分の心をこの土地の虹になぞらえたと言われているの。ふふ、勇敢な勇者様も恋をするとひとりの女の子になってしまうのねえ」
 かわいらしいお話でしょう、とふくふく笑う老女たちに、すてき! と瞳を輝かせるのはソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)。
「小さい身で大冒険を繰り広げたであろう妖精族の勇者。ふふふ、浪漫に溢れますね!」
 その恋に、こんな素敵な思いがあるなんて! 物語をせがむ孫のような少女の姿に、老女たちもつい微笑まずにはいられない。
「小耳にはさんだのですが、祈りや誓いを込めた砂をまくのは、町の皆さんが思いついたことなのですよね?」
「ええ、そう言われているの。勇者様は毎日のようにこちらへ通って、一心に祈っておられたそうだから」
「この空の虹に溶けた勇者様の思いは、貝の砂の虹色に移って、この底で水と一緒に染み通っていくの。それがお相手の勇者様のところへ届きますようにって……そんな願いが込もっているのよ」
「町の人たちも浪漫ちっくですねえ……!」
「うふふ、ほんとね。洞窟の『虹の鉱脈』が見られなくなってしまったから、祭りの見どころが一つきりになってしまったけれど」
 それでも、この町の者は今でも勇者様が大好きなのよ。そう頷き合う老女たちに、ソラスティベルはわかります、と笑顔を見せた。
「だって、お顔に書いてあります!」
 あらまあ、と笑い零れるふたりと共に、少女は両手に砂を掬い上げる。
「はわぁ……! ほんとですっ、ここに積もっている砂も貝殻の欠片なのですね!」
 さらさらと砂地に零せば淡く乾いた輝き。水に撒けばしっとりきらきらと、輝きを増した虹の色が星屑のように水底へ降り注ぐ。
 町で見た貝殻細工もとても美しくて、目も足も止めずにはいられなかったけれど――ふわり、風が頬に吹き寄せるこまやかな飛沫に誘われて、ソラスティベルは顔を上げた。
 今にも消えそうに大きく揺れる虹に少し慌てるけれど、その光は弱まることこそあれ、完全に失われることはない。
「この場所そのものが、大自然からの特注品ですね……!」
 そのかいなに包まれながら、勇者は煌めく恋を育てていたのだ。小さな小さな体の中で。
 語ってくれた老女たちに控えめな礼を告げ、瞳は水辺へ歩みを進める。心はまだ僅かに恐れを残していたけれど、足はもう震えてはいなかった。
 内側までも照らしに来るような、目の前の淡いひかり。それだけじゃない。瞳の歩んできた、決まりきった道の先にはなかった開かれた世界に、眩むばかりだったけれど――怯える心は少しだけ形を変えた。
「……私も、前へ歩きたい。それを、ここに、誓います」
 光を弾いて零れ落ちる砂だけが、誓いを聞き留める。澄んだ水底へ、大切に連れていく。

●かたちあるもの、かたちなきもの
 目を閉じれば、滝に見た彩りが瞼の裏に蘇る。
 風に揺れ移りゆく七色の繊細さ、水底を目指し煌めく七色の艶やかさ。形なきものは移ろいやすく、形あるものはいつか崩れゆくもの。けれど人の営みが、それを悠久にすることもある。
「あの虹も、今日まで続く祭りも、その一つなのだろうな」
 呟きに肩の上で羽雲が身動ぎする。持ち上げた瞼の奥に黒々と輝く瞳を微かに笑ませ、玖・珂(モノトーン・f07438)は緩やかに通りを歩み出した。
 立ち並ぶ家々や商店は心地好く色褪せて、物語にあるような古き良き町並みを形作っている。その中で、最も古そうな――しかし補修の行き届いた、長く商いを続けていそうな軒を選び、そっと中を覗き込んだ。
「ここは器を扱っているのだな」
「仰る通りでございます。この辺りで採れる黒みがかった木材と虹色は、とても相性が良いのですよ」
 淡く七色を跳ね返す、美しい模様が嵌め込まれた木の器。素朴でありながら豪奢――質実剛健を感じさせる品のひとつひとつに目を留めながら、玖珂は問う。
「私はこの辺りに明るくなくてな。店主、かのフェアリーは何故勇者様と呼ばれているのだろうか?」
「大きな戦いにて手柄を上げた方であったと聞き及んでおりますよ。お一人で遂げられた訳ではなく、共に起った多くのお仲間も勇者と呼ばれているようですが」
 その中のお一人が恋のお相手であったとも、と人の好い笑みを浮かべる店主に、さもあろうな、と玖珂は微笑んだ。
「生涯伝え得ぬ思いであったとか。移ろいやすい心を、それほどの長い間抱き続けるとは……眩いものだな」
「本当に。近くにある安らぎに身を任せることも、お望みになれば叶ったでしょうが。それをなさらない勇者様であられた故、我々はこうして細工に思いを込めるのですよ」
 この輝きがどこかで、相手だという勇者の元へ届くようにと。
「良い話を聞かせてくれた。礼という訳でもないが、盃があればひとつ頂きたい」
 彼方此方と動き回る身には、壊れにくいものが良い――付け足された注文にはおやおやと笑って、店主は細やかな菱文様の埋め込まれた盃を差し出した。手に取れば木のぬくもりが優しく、薄く磨かれた縁も柔らかな感触を残す。穏やかな酒が飲めそうだと受け取って、玖珂は揺れ移る彩りを静かに見つめた。
 まるで心模様のよう。伝えなければ始まらないことも多くありながら、飲み乾す方が良いこともある。さて、
「――この物語はどちらなのだろうな」
 ありがとうございます、の言葉を背に、独り言つ。

 陽の降り注ぐ店先にまで品物を広げた、幾つかの店の並び。
 その片隅で足を止めたきり、身動ぎしない男がひとり。青い瞳にちらちらと七色の反射を受け止めて、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は魅入られている。
 音が消え、気配を失って――虹色に鎖された世界にふと、淡くさやかな煌めきが行き過ぎる。はっと我に返れば、流れ出す音、動き出す時。眼前を横切ったフェアリーの少女の一団が、ごめんなさい! と慌てて謝った。ゆるり柔い笑みで応えて、
「そこな娘さまがた。勇者のものがたりを、聞けたんなら嬉しいかなあ」
 頁に綴って伝うより、人から人へと伝うもの。それは、伝えたかった想いの足跡を含むだろうから。
 どうする? どうしよう。いいんじゃない? ひそやかな相談の末、いいわよ、と鼻先に浮かび上がる少女たち。とりとめもなく語る話は、
「勇者さまはね、渋好みなの。だってドワーフを好きだったのよ。髭がね、こんな、もじゃもじゃなのよ、きっと。ドワーフってみんなそうだもの」
「勇者さま、りりしいけど、すっごくかわいかったんだって。あたしたちみたいに! ねえ、なんでドワーフだったのかなあ」
「かっこいいドワーフがいたのかな? でもでも、もーっとかっこいいフェアリー、たくさんいたと思うんだけどなー」
 若さ幼さゆえに偏ってもいて、邪気はなくて。けれど声音に、その物語を好む気配は確かに流れていた。楽しげに傾けた耳は、でも、と小さな囁きを聞き留める。黙っていたフェアリーの少女が、ひとり。
「きっと、そのひとの心が好きだったんだと思うの」
 とても勇敢で、まっすぐなひとだったって。そう勇者様が言ったって、言われているの。
 えー、でもー、と上がる無邪気な反論をよそに、真剣な眼差しをイアへ向ける少女。まるでそれだけは譲れないのだというような瞳に、わかったよと頷いて、イアは掌にすっぽり収まる貝のかたちをこつん、と指先でつつき、手に取った。開けば虹色が現れる、貝そのままの小物入れ。
「やあ、本当に虹のふもとなのねえ」
 空に翳せば、内に含む煌めきがちらちらと妖精たちを照らす。焦がれるように近づいた小さなひとりに、
「二枚の貝は、合わさる組み合わせは他にないそうよう」
「うん。わたしたちの勇者さまとドワーフの勇者さまも、そうなれたらよかったのにね」
 おや大人びたことをいう、と指先でそっと頭をなぞってやって、イアは光に目を凝らす。この煌めきに綴じる想いは、どんなものであったろう。
 降り揺らぐ水。深く湛える水。その内に、貝殻の砂へ託した柔い想いを閉じ込めたなら、
「――架かる虹の下で、その欠片を追えるの、かしら」
 ぱちり、と虹色に蓋をする。沈んだ想いは、どこを目指して漂っていくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
普段花々の美しい所に暮らしているけれど虹というのは殆ど見たことが無いの
綺麗ね、純粋にそう思うわ

紐を通して首飾りに出来る貝細工が買いたいわね
フェアリーランドを使う時の媒体が欲しいの、と言っても猟兵以外には分からないことでしょうからそれは伏せることにして

…分かってるわ、仕事もするわよ
同じフェアリー…導き手と呼ばれる筈の同族が勇者なんてものをやってた話に興味が無いわけではないし
恋ってものは…よく、分からないのだけれど
そういうのも込みで訊いてみることにしましょう
まぁ訊かれた側に『恋を知りたいお年頃のフェアリーかな』くらいに思われれば円滑かしらね
別にホントはそんなじゃないわ、本当よ


ティモール・アングルナージュ
まずは、通りの出店を見て歩くよ!
わー綺麗な貝殻ー! キラキラ、虹みたい!
…はっ、ボクは紳士だから、はしゃがずスマートに店の人に話を聞くね!
「勇者の物語のこと、教えてくれない?」
わ、ボク、このキーホルダーほしいー!(すぐはしゃぐ
愛用の懐中時計につけるね。ほら、イケてるでしょ!

虹の名所の滝にも行ってみようっと。
わぁっ、すっごくきれいな虹ー!(きゃっきゃ
ここでも詳しそうな人に話を聞くねー。
虹の砂を水に放って、願い事……大好きな猟兵のみんなが怪我とかしませんように!
あと、週末お布団干したいから晴れますように!(主夫
もし撮影OKならギアくんに記念写真撮ってもらう!(カメラ内蔵
誰でも、よかったら一緒にー!


セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
アレスを急かし
ワクワク出店を覗く
興味津々に相槌を打ち買い物
…っと素で楽しんじまった

しかし誓いなぁ
貝の様に口を閉ざし心に誓う
とかって意味の作法だったり?
適当に言いつつ砂を放ち
アレスへ向く
アレス
お前が俺に無茶すんなって言うなら
なるべく無茶しない…様に覚えてはおく
しないとは言い切れないが
まあ…だから何だ
お前も無茶すんな
お前が怪我すんのは俺だって業腹だ
それでもどうしても無茶したい時は言え
傍にいて、力を貸してやる
約束だ、と
トン…とアレスの胸を拳で軽く突く
作法とかよりこっちの方が誓った気になるな

首を傾げつつも手を出し
嬉しさと気恥ずかしさとで言葉を詰まらす
代わりに手を握り返し
…絶対、守れよ


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

屋台なら話を聞きやすそうだ
祭りの由来について世間話がてらに聞く
…隣で全力で楽しむセリオスには苦笑を見せる

騎士に誓いや祈りは不可欠だ
この作法も「誰か」への誓いの証かも
真面目に作法をし
…セリオス?
彼の言葉を聞き、彼流の誓いを胸に受け止める
…君に無茶をするなと言われてしまうなんてね
でも、そうだな…守るべき者の為にと…僕も無茶をしがちだ
…手を出してくれないか
差し出された手を取ると、跪き
約束しよう。僕も出来る限り無茶はしない
そして、君が選択した時は…君の力となろう
僕の剣は、君と共に在ると
誓いと共に彼の手の甲に口づける
…これが、僕流の誓いだ
ーーああ。我が剣、我が命にかけて
…絶対に守るよ



「わー綺麗な貝殻―! キラキラ、虹みたい!」
 わぁ、こっちも――あっ、こっちもー! 辺りを明るく照らすティモール・アングルナージュ(時計仕掛けのマンゴー・f08034)の声に、道行く人々もなんだなんだと集まって、店先は大盛況。
 けれどティモールは気づくのだ。はっ、お仕事お仕事。紳士ははしゃがずスマートに、店の人に話を聞かなくちゃ!
「勇者の物語のこと、教えてくれない? ……あっ、わ、ボク、このキーホルダーほしいー! ランプの形、おもしろーい!」
 一分と持たなかったがそれはそれ。はしゃぐティモールの指先が摘まみ上げたのは、虹色の煌めきを持つ貝殻片を光に見立て、小さなランプを模したアクセサリー。
「ああ、じゃあ勇者様のランプの話をしようかねえ。それは、勇者様の持ち物にあやかって作ったんだよ」
 自分を飾り立てることを好まなかったという勇者が、常に持ち歩いていたものが二つ。ひとつは武器であるレイピア、そしてもう一つが、小さな小さな妖精サイズの鉱石ランプ。
 どんな職人の手になるものか、精緻で細やかな造りのそれを、勇者は生涯手放すことなく過ごしたという。
「へー、それでこの形になったんだー!」
 愛用の懐中時計の鎖につければ――ほら、イケてるでしょ! 無邪気に自慢する少年のおかげで、『勇者様のランプ』の飾りが飛ぶように売れていく。
 そんな賑わいに惹かれて近づいた店先で、きらりと輝く出会いを果たした娘がひとり。
 とろり、蕩けた氷のような硝子の中に、青みがかった虹の彩がちらちらと躍る。小さな小さなビーズの一雫を暫し眺めた氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は、ゆっくりと眼差しを売り子へ向けた。
「貴方が作ったの?」
「は、はい!」
 硝子と虹色貝を使った装飾品が並ぶ台の片隅で、ふるふると不安げに翅を震わす相手もフェアリーだ。そんなに怯えなくても取って食いやしないわよ、と小さく嘆息し、レインは些か素っ気ない声で、けれど本心から告げた。
「綺麗ね」
「! ほ、本当ですか……!」
 聞けばようやく見習いを卒業して、自分の作った品を並べるのはこれが初めてなのだという。頬を上気させたフェアリーの娘は、聞いてもいないことまで語り始めた。
「滝の洞窟の『鉱脈』を作れるようになるのが、わたしの夢なんです! 本当に腕の良い細工師にならないと参加できませんからっ」
「……鉱脈を、作る?」
「はいっ、今は魔物がいるせいで作業が止まってしまっていますけど……」
 しゅん、とうなだれる翅。どうやら随分起伏の激しい質らしい。溜息をもう一つ追加して、レインは気を取り直す。
「ねえ、ところで。私、この町も勇者のこともよく知らないのよ。少し教えてくれない? 恋のお話なんでしょう。どんな言い伝えだったのかしら」
 自ら発した問いながら、いささか居心地が悪い。恋――というもの、レインにはよく分からない。敢えて口に出したのは、恋を知りたい年頃の娘かと思われれば色々と容易に話して貰えるかと思ってのことだったのだが――思わず身を引くほど眩く、相手はぱああっと顔を輝かせた。ある意味最適な相手を見つけたのかもしれない。
 ――曰く、勇者は共に戦ったドワーフの勇者に恋をした。けれど、伝えることはできなかった。
 理由はいろいろ伝わっているらしい。その中で一番好きな話なのですが、と、フェアリーの娘は微笑んで。
「相手の勇者様はとても勇敢で、でも無骨で、お得意の石工と自分の責務にしか興味がないような方で。そんなところが、私たちの勇者様と気が合ったのだ、と」
 好きなままのその人で在ってほしくて。でも募る思いもあって――なんて、
「とっても凛々しい勇者様なのですけど、私たちとそんなに変わらない女の子だったんだなあってちょっと嬉しくなるんです」
 笑った娘は、好奇心たっぷりに。
「お姉さんも恋のお話、お好きなんですか?」
「……、まあ……そうね」
 ――別にホントはそんなじゃないわ、と何故か自分に言い訳をしつつ、レインは気恥ずかしさを払うように代金を押し付けた。
「ありがとう。大事に使わせてもらうわ」
 硝子の雫を紐に通し、首から下げる。これならきっと、フェアリーランドの媒体にもなりそうだ。

●冒険の入口
「わぁっ、すっごくきれいな虹―!」
 ティモールの歓声を、柔らかな滝の音色が包み込む。
 人懐っこいシャーマンズゴーストの少年は、辺りにいた子どもたちの心を捉えてしまった。きゃっきゃとはしゃぎながら、教えられたとおりに虹色の砂を掬う。
「水にこぼすの、さらさらーって!」
「おーけー、さらさらー!」
「そしたらね、はい、願いごと!」
「願い事ー! 大好きな猟兵のみんなが怪我とかしませんように! あと、週末お布団干したいから晴れますように!」
「えー、なんだよそれー!」
 弾ける笑い声をぎゅっと抱き込んで、みんな寄って寄ってー、と誘う。その前に、ぷしゅっと蒸気を零しながら、とてとて歩いていく猫型ガジェット。
「よーし、ギアくんよろしくね! 虹と滝とみんなと一緒にー、はい、笑ってー!」
 覗き込む子どもたちの興味津々の笑顔と、虹と、ご主人とを。つぶらな瞳で見つめ返したギアくんが、一枚の写真に残す。

「……っと素で楽しんじまったな」
「まあ、情報もそれなりに集まったし、いいんじゃないか」
 苦笑いするアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)を、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)はなんだよ、と肘で小突いてみせる。
 町で伝え聞いた誓いの作法に倣い、膝をつき砂を掬い上げる友を、セリオスはふうんと腕組みで見下ろした。
「誓いなぁ……貝のように口を閉ざし心に誓う、とかって意味かと思ったけど」
「そうだな。話の通りなら、秘めた思いが水とともに、想う相手のもとへ沁みとおるように……ということだった」
 騎士に誓いや祈りは不可欠だと、真摯な眼差しを投げる水面に、さらさらと砂が沈んでいく。アレクシスよりは少し気安く砂を投げたセリオスが、ふと――唇を結ぶ。
「アレス」
「? ……どうしたんだ、セリオス?」
 あの砂が水底に届く前に。紡ぐ言葉は言い伝えほどに綺麗にはなりきれなくて、
「お前が無茶すんなって言うなら、なるべく無茶しない……様に覚えてはおく。しないとは言い切れないが」
 瞬く友の眼差しに、あー、と長い髪を掻き上げる。
「……だから何だ、お前も無茶すんな。お前が無茶すんのは俺だって業腹だ」
 それでも、どうしても――そんな時は、傍で力を貸すからと。
 供の拳がとん、と胸を衝く。そこに確かに落ちた温もりに、アレクシスは破顔した。とても彼らしい誓い。
「君に無茶をするなと言われてしまうなんてね」
 けれど、覚えのないことではなかった。護るべきものがあれば身を挺しても護る――それは騎士としての矜持ではあるけれど。
「……セリオス、手を出してくれないか」
 首を傾げる青年の手を取り、跪く。手の甲に落としたやわらかな熱に、込めるのは誓い。
「約束しよう。僕もできる限り無茶はしない。そして君が選択した時は……僕の剣は、君と共に在る」
 セリオスの白い頬に宿った熱を、囃し立てる風が涼やかに撫でていく。降る水霧を掬って駆け抜け、虹を揺らす。
 上手く結べない言葉の代わりに、答えは握り返す手で。
「……絶対、守れよ」
「――ああ、我が剣、我が命にかけて……絶対に守るよ」
 虹の天幕が華やかに揺れた。交わされた誓いを祝福するかのように。

 住まう場所には綺麗な花々が咲き誇っていて、七つよりもっと多くの花色を知ってはいるけれど、
「――綺麗ね」
 この場所の雨に似た匂いも、頭上に架かる光の橋も。思いがけず零れた素直な言葉に気づかないまま、レインはふわりと身を浮かべ、光の方へ近づいていく。
 魔物が巣食う、滝の洞窟。そこには中断された『作業』があるらしい。『虹の鉱脈を作る』、その意味はまだ分からないけれど。
「……行ってみる価値はありそうね」
 世界を輝かせるものに出逢えそうな予感が、追い風のようにレインを急き立てる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『脱出』

POW   :    障害物とオブリビオンの攻撃を力尽くで退け、力の限り猛進する

SPD   :    障害物をオブリビオンの攻撃を華麗にかわし、風のように疾走する

WIZ   :    障害物を利用しオブリビオンを足止めしつつ、最短の脱出ルートを探る

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●常在の光
 ――勇者様は最期まで、気高く、凛々しく、一途な方でした。
 かつてつらい片思いをしていた私を伴って、勇者様はよく虹のもとへお出かけになりました。
 いつも何もおっしゃらず、静かに祈りを捧げていらっしゃるので、訊ねたことがあるのです。この虹に毎日何を祈っておられるのですか、と。
 勇者様は可憐な笑みを浮かべて、内緒だぞ、とお話しくださったのです。深き地の国に、ひそかに恋い慕う方がおられることを。生涯、その方の幸いを思い続けると、この虹に誓ったことを。
 虹も想いも移ろうものです。ああ、けれどそれが、この町と勇者様の心には常に在る。あの強く優しい横顔は、そのためだったと知りました。
 叶えないと決めてしまった、私よりももっともっと寂しい恋。でも、勇者様は少しもお辛そうには見えなくて、いつだって幸せそうで。
 私にはそれがとてもとても眩しくて――切なかったのです。
 幾度も幾度も、滝へご一緒いたしました。あの滝の陰に洞窟を見出した時も、私は勇者様のお隣におりました。
 そして、下へ下へと続いていく暗がりの道を目にして仰った独り言も、私は確かに耳にしたのです。勇者様と同じ色の翅を持つ、小さな小さな鉱石の燈を大事そうに抱き締めながら。
 あれはきっと、こんな場所を照らして生きているのだろうなと――微笑みながら仰ったのを。

 ……勇者様が永久の眠りに就かれてのち、私は勇者様の恋のお話を、友人たちに打ち明けました。勇者様を敬愛する誰もが心を打たれ、話はあっという間に広まって……ああ、きっと勇者様は、全く仕方のない奴だとお笑いになるでしょうね。
 あの洞窟に、地底へ向かう坑道が掘られ始めたのはそれから。
 虹に預けた思いが届くことなど、勇者様は望んでおられなかったかもしれないけれど。でも、皆が居てもたってもいられなかったのです。
 せめてあの美しいお心を、虹のひかりを、地の国へ届けよう。命あるうちは届かなかった想いだから。
 地の国の勇者様に、お目にかけたかったのです。
 その思いの為、皆がこんなに骨を折らずにいられないほどに、あの方は貴方を愛していらしたのですよ――と。

●虹の洞
 立ち入り禁止の柵を越え、猟兵たちは洞窟へ足を踏み入れた。
 ひんやりと澄んだ空気が肌に迫る。光溢れる滝に慣れた目が闇に順応するのを待って――目を瞠った。
 おおもとの孔を生かしながら、削り出された岩の壁。照らす灯りにちらちらとさざなみだつ虹色の燐光は、まるで地へ続く星空のよう。
 何かの鉱脈かと近づいてよくよく見れば、それらは人の手によって壁に埋め込まれた、虹色貝の欠片だった。
 職人たちが口にしたのはこれだったかと、心当たりの幾人かが仲間たちにそれを伝える。
 決してそのまま届くことはない七彩を、地底へと届けるために。勇者を慕った人々が脈々と刻み続けた、新たな祈りのかけらたちだと。

 天然の洞窟らしく岐路は多い。しかし、通るべき幾つかの道は七彩が教えてくれる。見飽きぬ色彩を楽しみながら奥を目指すうち――ふと、唐突に。
 背後に湧き上がった殺気が、猟兵たちを身構えさせた。
 振り向く後方、看過してきた岐路から不自然に伸びる影。手にした灯りのせいではない。揺れる。縮む。千切れる。――溢れ出す。
 魔物だ、と誰かが叫んだ。誓いの作法とともに守られてきたこの洞を侵し、手をかける人を遠ざけるもの。
 湧き出した影の群れ、過去の残滓が、冷たい鳥のかたちをとって波のように襲い掛かってくる。
 この狭い通路で相手取れば、壁面に刻まれた微かで優しい光ごと抉り砕いてしまうだろう。猟兵たちがいかに気をつけようと、あの悪意ある群れは構いなどすまい。
 敵を振り払い、往なしながら――今はただ、奥へ奥へと逃げるしかない。足許に大穴を穿たれようとも、帰る道を塞がれようとも!
ソラスティベル・グラスラン
くっ…本来ならば全て打ち払うところですが、今は走ります!
街の皆さんの想いを、そして勇者様の想いを護る為に!

【ダッシュ】で今はただ洞窟の奥へ、奥へ!
虹の星空だった岩壁が、今は満点の流れ星のように後ろへ消えていきます
うふふっ、これが聞いていた『虹の鉱脈』!今は非常事態ですが、なんて美しい!
っと、迫りくる敵を【盾受け・オーラ防御】で防御を固め、
【怪力】で戦車のようにずどどどどと押し通りますッ!

此処に誓うは不退転の意思!勇者とは誰より前に立つ者!
全力の【勇気】で支えた、【勇者理論】!!(防御重視)

街の職人さんは『虹の鉱脈』を作りたいと夢見ていました
その想いは壊させません。わたしもまた、『勇者』として!


ジェイクス・ライアー
一途な想いが今もなお人々の心を震わせている。その想いに共感する者たちが、ここに集まった事だろう。
…だというのに、これらはなんと無粋なのだろうな。
積み上げてきた経験から反射的に戦闘態勢に入りかけるが、ここで戦うのは避けなければならない。そう…視界に入る、虹色が止めるのだ。

ともなればすべき事は決まる。
翔ぶように走り、敵を引き離すことは容易い。だがそれでは意味がない。
適度な距離を保ち[おびき寄せ]ながら、武器は使わず、遅れかける仲間がいれば手を引く。

多くの人々が想い馳せ作り上げたこの場所から、引っ張り出してやる。覚悟しろ。


玖・珂
美しいのは虹や貝だけではなさそうだ
なんと世話焼きで、なんと優しい村人達であろうか

連綿と紡いできた想いを鎖すわけにはゆかぬな
恋路を邪魔する者はなんとやら、無粋な魔物を取り除きに参ろう

購入した盃が懐深く納まっている事を確認したなら
片目に藍色の花を咲かせる

暗視しつつ、前へ進む事を第一に
敵の攻撃は糸雨で軌道を逸らす、絡め取り投擲するなどし
極力相手はせぬぞ
対峙すれば其れだけ場が荒れよう

往なす方向は地面や空中を狙うが
万が一、壁面に大きな損傷が出来そうな時はかばうぞ

あの者達ならばまた刻めばよいと言いそうだが……やはり惜しいのだ
敵に鋼糸を絡めて足止めし、直ぐに離脱するぞ

七彩に導かれるまま、一途に駆け抜けよう


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
そう簡単にはいかないってか。
ふはは、結構!
他者の想いに触れるのだ。多少の苦難がなくては、味気ないよなァ!

この場で本格的な戦闘は忍びない。
生憎と、私の得物は長物ばかりだしなァ。
振り払うだけならば、【愛しき従属者】の方が勝手が良かろう。
百と四十五の蛇の群れ――注意を引くためにけしかけることも出来る。盾にも丁度良い。
攻撃が防げたならば、後は走るだけだな。
多少の障害など知ったことか!

他の連中が危ういならば助け船を。
呼び出す蛇も、所詮は単なる弱い死霊。盾として存分に使うとしよう。
ともかく全員が逃げ切るのが最優先ってやつだ!


イア・エエングラ
ふふ、そうな。そう、その心に、恋をしたなら
仕方がないもの。そんな一途な恋のさき
届けたいと願う人の路を

やあ、荒らしては、いけないよう
此処でお相手しては傷がついてしまうもの
ゆけるとこまで、いきましょうな
おにさんこちら、くるり裾払って駆けだそう

ちりりと虹の標を追いかけて
おいでとばかりに青い火曳いて
地形の利用と斜面は冷たい火で凍らせて
滑って先まで抜けましょな
嘴に突かれてはいやだもの
しゃがんで避けたら踵反して次の路を
跳ねた息を飲み込んで、
……すこしお待ちになってね
一息、氷の壁を作ったならば
やっぱり待ってはくださらないから
さあさまた振り返らずに駆けだしましょう
下へ、下へ、どこまでゆくかな、ゆけるかな


雨糸・咲
岩壁に小さく光る貝の星
それは、一途にたった一人を想い続ける勇者様と
彼女を慕った人々の心が詰まった道標だから

だめよ…
やめて、傷付けないで

動揺まではいかずとも
いつもより焦燥感に駆られたのは
話に聞いた勇者様にどことなく親近感めいたものを感じ
同時に憧れや愁苦も胸に滲んでいたからかも知れません

第六感、聞き耳で敵との距離を測り
進む方向、角度、風の有無などから脱出口を探しつつ
暗視、地形の利用で敵の足止めを
極力通路が傷付かないよう慎重に動きます

たくさんの美しい心が築いてきた道
…必ず、守ってみせます!

――この道は、彼女の想い人へといつか届くのかしら?
そうだったら良いのにと、願わずにいられない

※アドリブ、絡み歓迎


マリス・ステラ
【WIZ】奥へ、更に奥へ!

「主よ、憐みたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から光を放ち『存在感』を示して魔物を『おびき寄せ』る
惹きつけて他の猟兵達を逃がしつつ奥へ

怪我や損傷には【不思議な星】
花霞に触れれば『第六感』が強く働く

「美しい夢を辿りましょう」

虹の色彩は運命の欠片
いとしさを連れて、さあ目指そう、世界の果てを
『地形を利用』して魔物を振り切ります

歩みを止めず優しい光を横目に、

「叶わないから、夢を見るのか。叶わないから、夢なのか……」

囁くように、寂しさの粒を想う
どれほど美しくても夢は夢、幻です
何を求めて輝くのか、遠い時代を越えて、誘われるままに
今は進もう、喜びが咲く、この道を



●勇者のこころ
「くっ……本来ならば全て打ち払うところですが!」
 今は走るしかない。ソラスティベルの声に弾かれ、猟兵たちは素早く身を翻す。
 追い来る影は、柔らかな煌めきに目を奪われる暇すら与えてくれない。けれど、駆け抜ける傍らで奥へ奥へと誘う虹色の光の波に、ソラスティベルは弾む息に笑み声を零した。
「うふふっ、これが聞いていた『虹の鉱脈』! なんて美しい!」
 視界の端に湧き出でては消えていく。色彩を帯び流れる輝きは、町で伝え聞いた人々の想い、そして勇者の想いでもある。だから、
「っと……、壊させませんよ! わたしもまた、『勇者』として――此処に誓うは、不退転の意思!」
 突如回り込んでくる殺気にも、誰よりも前に――誰よりも勇気を持って。少女のこころに秘める信念が、守りの力としてその身に顕れる。影の突撃を受けとめた盾がその一撃を和らげると、そのまま勢い任せに影の群れを分断した。
「……押し通りますッ!」
 影が左右に引き裂かれる。駆け抜ける少女の心の輝きを、その内に呑みきれなかった敵意の群れが、悔しげな唸りを洞内に響かせ、続く猟兵たちに標的を変更する。ふふ、と唇に笑み上らせて、イアはそれを呼び招いた。――おにさん、こちら。
「そうな。一途な恋のさき、届けたいと願う人の路を――やあ、荒らしては、いけないよう」
 ふふ、と唇に笑み上らせて、イアはひらり、夜の裾を翻す。導きは傍らをなぞる虹の標、ちりりと光る燐光に細めた瞳は、碧く輝く炎を両の掌に誘う。触れれば凍てるその低い熱は、ほとほとと零れ落ちては地をひととき、凍らせる。ちょうど、男が滑り駆け抜けるその僅かな間だけ。
 恋うてしまえば。その心を想ってしまえばもう、仕方がないもの。身に沈む物語にそれを知る男は、気怠い微笑みに人々への好もしさを浮かべる。叶わなかった想いであればこそ、その光を届けたいというのなら、
「下へ、下へ――どこまでゆくかな、ゆけるかな」
 歌うように。掌に掲げる氷の炎が尽きたなら、迫る影をしゃがんで躱し、彩なき壁を選んで蹴る。返す踵、跳ねた体の行く先は、傍らの岐路。呼吸を取り返す間に、
「……すこしお待ちになってね、なあんて」
 氷漬けにした影が壁をなす、それが続く影に打ち破られる。その一瞬で充分だ。響く笑い声ひとつを置き土産に、イアは先へ駆ける。
「おお、こわい、こわい。嘴に突かれてはいやだもの」
 声の余韻に惑う影を残して、男は岐路の彼方へ消えていた。

「主よ――憐みたまえ」
 駆ける足を止めることはなく、心は奥へ奥へと馳せながら、マリスは唱える祈りに一瞬、目を閉じる。ひらかれた青に宿る星がきらきらと輝いて、やがてその光輝は全身に至る。
「影よ、おいでなさい。この光で覆い尽くしてあげましょう」
 誘う声は鈴のように。薄闇の洞窟にあってはっきりと存在感を示すその輝きに、吸い寄せられるように影が集まっていく。膨れ上がる敵意を六感に認め、髪飾りをひと撫でした。――教えてくれた花精への礼の代わりに。
「虹の欠片は運命の欠片……美しい夢を辿りましょう」
 目指すはかの勇者の世界の果て。いとしさも、よろこびも、さびしさも全て連れてそこを目指す。目端に流れてゆく七彩の輝きに、寄せられただろうあらゆる感情を思いながら、マリスは二手に分かたれた道の一方へ、素早く身を翻した。
 叶わないから夢を見るのか、叶わないから夢なのか。どれほど美しくても夢は夢で、幻で――ならばここに刻まれた光は、何を求めて輝くのだろう。
 遠く永い時を越えた思いの行きつく先へ、優しい光に誘われるままに。一心にマリスが飛び込んでいった、その傍らで。
「そう簡単には通しはしないってか。ふはは、結構!」
 迫る影ににやりと瞳の金色を歪ませて、ニルズヘッグは駆ける爪先で地に光を引く。それが簡易な文字の形をとれば、そこから鎌首を擡げるのは――百と四十五の蛇の群れ。
「――長物よりもこちらの方が勝手が良かろう。振り払うだけならばな」
 かりそめの命の出現に、影は今よと喰らいつく。極力攻撃はしないよう言霊で縛られながらも、群れなす従属者たちは確かに一時の足止めをなしていた。
「さあ、私の前に従属を示せ、愛しき者ども。絡みつき、盾となり、存分に引き付けろ!」
 自分へ、仲間へ、そして壁面への、余計な攻撃を避けられさえすればそれでいい。傍らに揺れ光る淡い彩りにニルズヘッグはふと、眼差しを柔らげる。
「ふ……他者の想いに触れるのだ。多少の苦難がなくては、味気ないよなァ!」
 ――だからそう、逃れて駆ける道の先にまた冷たい影が現れようと、笑い飛ばしてやる。
 岐路から次々と飛び出してくる影を、ニルズヘッグが再び招いた蛇たちが絡め取っていく。それをすり抜けて追いついたいくつかの翼を、盾から噴出する蒸気で吹き飛ばしながら、ソラスティベルは叫んだ。
「『虹の鉱脈』は、町の職人さんの憧れでもありました。作りたいと夢見ていた方が、たくさん――その想いは、壊させません!」
 声が反響する。洞内に映し出された虹の彩がさやさやと輝いた。まるで呼応するように、奥へと導くように。

●退けるは今になく
「……なんと無粋なのだろうな」
 風のように駆け抜けながら、脱いだ上着で厭わしい影を払う。刻まれる皺のひとつも惜しまぬその所作は、決死の逃走にあってすら涼しげだ。
 ジェイクス・ライアー(驟雨・f00584)のさやかな溜息が、冷ややかな洞内に煙る。仲間たちから伝え聞いたのは、長き時を経て今なお、人々の心を震わせる勇者の一途な想い。それに共感したからこそ――この洞窟を、勇者を慕う彼らの手に取り戻したいと願ったからこそ、猟兵たちはここに集まったというのに。
 高潔な思いを塗り潰そうとするかのように、冷たい影がジェイクスに伸びる。咄嗟に――自然に、身に帯びた数多の武器を抜きかける。しかしそれをしないのは、
「……この囁きに背くことこそ、無粋というものだな」
 視界の端から訴えかける、虹色のささめきが止めるから。微笑みすら浮かべ、紳士は不意に足を止める。
 なすべきことは一つだけだ。動きを止めた今を狙いと飛び込んでくる影の突撃を、揺らす上着でふわり、往なす。体を捕り逃したと反転する災魔の群れを、壁に足を掛け左右に跳びながら躱し、光の少ない方へと誘導する。
 そうして保たれた道に、際限なく溢れてくるもの。
「だめよ……」
 追い来る影。満ち溢れる敵意。自分に迫るそのことよりも咲の心を震わすものは、はらはらと僅かに零れる虹の色、貝の星の欠片。
「やめて――傷つけないで」
 常ならば穏やかな表情を浮かべる瞳が、僅かな焦燥に揺れる。
 終のときまでただひとり、心に在るひとを思い続けた勇者には、憧れを感じて――微かな染みのような愁苦も心に滲んで、どこか近しく思われたからこそ。
 駆ける脚を緩めることはなく、けれど後方へ気がかりを残す咲を嘲笑うように、影が壁へ大きく進路を揺らす。
「っ、だめ!」
 けれど、その一撃が虹を散らすことはなかった。
「玖珂さん!」
「――……恋路を邪魔するものはなんとやら、無粋なことだ」
 庇い引き受けた一撃に汚された真白の装束は、守り手の誇り。ただ今は虹を護るべく、片目に藍の花を笑み咲かせる玖珂の姿がそこに在った。
 蜘蛛糸を操るかのように揺らす指の先、操られたように影が地へ引き落とされる。洞内の薄闇に紛れた鋼糸に敵意が逸らしながら、
「さあ、立ち止まる暇はない。対峙すれば其れだけ場が荒れよう」
「はい……!」
 頷くが早いか、二人は先へと身を翻す。攻撃的な羽戦きに追われながらも、並ぶ道行きに咲の心も僅かに上を向いた。
「美しいのは、かの虹や貝だけではなさそうだ」
「えっ?」
「なんと世話焼きで、なんと優しい村人達であろうかと。この洞窟を輝かせるものは、その心の美しさでもあるのかもしれぬな」
 亡き後に、これほどに思いの成就を願われたものがあっただろうか。疾く駆けながらも柔く綻ぶ声音に、はい、と咲も思いを並べる。
「だからこそ……壊されたくないんです」
「そうだな。あの者達ならばまた刻めばよいと言いそうだが……やはり惜しいのだ。――む」
 道が僅かに狭くなった。背後に迫る勢いをそのまま引き受ければ、壁面の彩など容易に抉り取られてしまいそうなほどに。闇を視る瞳に活路を探す玖珂に、
「! 玖珂さん、こっちです」
「その道は……」
「大丈夫、任せてください! たくさんの美しい心が築いてきた道ですから……必ず、守ってみせます!」
 六感に捉えるは音、風――そして微かなひとの匂い。この岐路の先は、必ず先に、駆け抜ける仲間のもとへ繋がっていると、咲は断言する。
 判断は一瞬。咲の真剣な声音に迷うことなく、ふと綻ばせた唇で玖珂は紡ぐ。
「――ああ、任せよう」
 連綿と紡がれてきた想いを、この地に鎖したままにはしておけない。抱く思いはふたり同じだから。
 さらに狭い岐路に飛び込んだ娘たちを、影の群れは迷うことなく追いかける。虹の鉱脈に彩られた本道を可能な限り避けられれば、鉱脈の損傷を抑えることにも繋がるはずだ。
(「――あの道は、彼女の想い人へと……」)
 いつか届くのだろうか。過去をなぞる自身の心を映すように、咲は思う。上がる息に弾む心に、そうだったらいいのにと願わずにはいられない。
 駆け抜ける先に出口が見える。微かに明るいのは、虹の煌めきが道を示すからか――、
「此方だ」
「!」
「えっ……わっ!」
 手首を捉えた手に驚くよりも速く、ジェイクスは二人を壁へと引き寄せる。二人が身を引いた瞬間、体があった場所を追う影の群れが駆け抜けた。命を捕らえ損ねた敵意はすぐに翻ってくるけれど、
「行けるか?」
「ああ、勿論」
「はい、私も!」
 ジェイクスに舵を預け、鋭く引き返してきた影が突っ込む直前、ふたりは跳んだ。岐路に再び吸い込まれる影を躱して、虹の道を駆ける。息を弾ませることもなく、ふと、男は呟いた。
「覚悟をして待っていろ。――引っ張り出してやる」
 それは今、ではないけれど。
 人々の想いが穿ったきららかな道、この場所に、巣食う悪意は似合わないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に

…架け橋のようだな
世にも希なる地底の虹
あえかな光が目を奪う

だというに、無粋な連中だ
迫る影と足音が煩わしいが

師父よ
試運転だ、付き合え
師を抱えると【竜追】にて前へと飛翔
ここでは戦れぬ以上、口惜しさで速度は全開には遠く
つい舌打ちが零れる

はて、どれ程であろうか
まあ流星ほどではあるまいよ
障害物には…善処しよう
――師父、少々足りぬ故援護を頼む

その意気や好し、承知した
少々危うい制御のせいか上下左右にぶれながら
敵の妨害を躱しつつ、逃げ遅れ気味の猟兵がいれば
ほんの一時でも空いた腕で掴んで罠や攻撃を回避、援護

流れる景色が速く、融けて流れゆく
それがまるで一繋ぎの虹の様だなどとは感傷だろうか


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ほう、地底に広がる七彩の星か
…成程、悪くない
悪くないが――まさか魔物に追われる事になろうとはな

洞窟だけあって足場が悪い
転び砕けるのだけは避けたいが…む?
ジジ、何やら考えがある様だな
試運転なる単語が不穏で仕方ないが
乗り掛かった船だ、付き合ってやる

我が従者がどの様にしてこの状況を打開するか――うおっ
不意に顔を殴る風圧に驚き目を丸くする
いやいやどんな速度だお前?
ぶつかるなよ、くれぐれもぶつかるなよ!?

高速で通り過ぎていく景色に冷や冷やしつつ
言われずともと杖を握る
描いた魔方陣より【女王の臣僕】を召喚
魔物共を氷漬けにしてしまえば追うに追えまい
ええいこうなれば自棄だ
一気に突っ切るぞ!


終夜・凛是
せまい
でもこのきらきらしてるの、俺は好き
虹色貝の欠片、こうやって使ってるんだ……祈りのかけら
届いてるんだろうな、きっと

気の向くままに適当に進んでいけば
……なんか、白い塊が前にいる……
……もたもたしてる
……すすめない
……上はちょっと余裕がある

悪いけど、先行かせてと声かけて壁を蹴って上を飛び越えていく
なんかちっちゃいの(f09776)とそれよりもっとちっちゃいの(f02354)がいたけど気にせず進む

目の前に魔物が現れたら攻撃し蹴散らして
俺の後ろからくるやつも、いるし
なんとなく、何故だかわかんないけど
よく覚えてはないけどさっき追い越したふたりを思い出す

にぃちゃんはきっと、他のやつ助けるから、俺も


チロル・キャンディベル
キトリ(f02354)こそ、暗いからいなくなっちゃわないでね?
キラキラの羽が、チロのこと照らしてくれるからだいじょうぶだと思うけど

キラキラのカベがきれい!
すごいすごい、これみんなゆうしゃさんのために
昔の人がずーっとがんばったカベなのね
みんなに大好きって思われたステキなステキなゆうしゃさん
チロもっといろいろ、ゆうしゃさんこと知りたくなっちゃった

敵を止めるのは弱めの火の魔法
ちょっとでも足止めできればいいの
キトリといっしょだからがんばるの!

上を通る影(f10319)、視線は尻尾に
ふわふわだったの!
妖狐の人ってみんなふわふわなのかしら
キトリの声にはっとして
ソルベ、あとちょっとだから急いでって声かけるの


キトリ・フローエ
チロ(f09776)、ソルベ、大丈夫?
行く手を塞ぐ敵はあたしが控えめの雷魔法でぱちっと動きを止めて
広い所まで頑張って逃げるわ
だって全力で戦ったら、きれいな虹が壊れてしまうもの
…きれいな虹色。たくさんの想いと祈り
どうかあたし達を、みんなを導いてね、お願いよ
チロとソルベに見失われないようにしながらなるべく速く飛んでいくけれど
ソルベのほうが速いなら、チロと一緒にソルベにつかまって

……?
何だかおおきな影(f10319)が飛び越えていったような
でも一瞬、それが誰かまではわからずに
こうしている間にも、後ろから敵が追ってくる
今は考えるより逃げるのが先!
チロ、ソルベ、きっとあともう少しだから、頑張りましょう!


カーニンヒェン・ボーゲン
日の下を離れられぬ虹の光を、貝は内に秘めて水の底へ届けてくれるのですね。
ならば地下への風は、我々がなりましょう。

導に沿って走ります。
敵影は引き付けるがいいか、目立たずやり過ごすがいいか。
まあ、お互いがそこそこ集団となっておりますし、遅れずについて行くのが得策ですかな。

しかしこの洞穴も、勇者の時代から存在しているものなのですか。
枝分かれした道の先も、気にならぬと言えば嘘になります。
その時代の物々が遺されているやも…。
…いけませんな。戦闘にならぬとは限りません。
今はただ、故人を慕い、手をかけてきた人々の技の結晶を眺め、やり過ごしましょうか。
至る所に闇は湧く。
この場所を閉ざされた過去にはさせません。


セリオス・アリス
アドリブ◎
【双星】
…ッち!暴れられねぇとはめんどくせぇ!
逃げるぞアレス!
【青星の盟約】を『歌い』身体強化
靴に風の魔力を送り足旋風を炸裂
威力を利用し地面を削る様に『ダッシュ』
アレスをちらりと振り返って
【赤星の盟約】を歌いアレスの支援を
あんま遅いと置いてくぞアレス!
言いつつも距離があきすぎないように
…けどまあ、この位置どりの方が安心すんな!
奴隷として囮になった何時かの事を思いだし
むず痒さから
そう思うならまず捕まえてみろと笑って挑発

アレスが弱らせた前方の敵を『ジャンプ』からの蹴りで『踏み』倒し
下手に避けるよりこっちの方が速い!
お前もそのつもりだったろっと楽しげに
こうしてると昔にした鬼ごっこみたいだな


アレクシス・ミラ
アドリブ◎
【双星】

振り切るしかないか…!走るぞ!
前のセリオスを見失わまいと「追跡」しながら走る
生憎、君の靴のような物を僕は持っていないんでね!
…置いていくと言いつつも力を貸してくれたり、僕に合わせてくれるんだな
なら、君が走れるように援護しよう
君はそのまま走り続けろ。周りは僕に任せてくれ!

思えばいつも君を追いかけていた。助けに行く時も、探す時も
でも、僕が君の前に行っては駄目なのかい?
彼の挑発に強気に笑ってみせる
今度も追いついてみせるさ!

必要最低限の【天星の剣】で彼を援護する
僕は【絶望の福音】で躱せるか試しながら走る
出来なければ「見切り」を駆使だ

鬼ごっこか…呑気だな
言っただろ?追いついてみせると


千代森・瞳
ひええあばば
ってびびってる場合じゃないですよね魔物がいるってお話もありましたし!
…ち、誓ったんだもの
このままじゃ、あの人達の想いも、壊されてしまうから

▼WIZ
奥への逃走が最優先事項
逃走ルートの確保を頑張りたいです
こ、こういう時は…グラフィティスプラッシュ!
水に優しい塗料で魔物の足止めと、敵が分かり易いように目印
外れちゃっても、地形を塗り潰して魔物を跳ね除ける方の援護となれたら
あ、あとで綺麗にします…!

…影の中でチカチカ瞬く虹の欠片
綺麗、なんて考えは後にして
足止めが足りてましたら
私達自身の進行への遮蔽物や分かれ道がないか観察もします

今の若い人達って凄い…
ジョギングを始めた程度じゃ…い、息が…!


ティモール・アングルナージュ
虹の洞きれいー!
暗いとこはギアくんのお目目ライトぴかーっとして進むけど…
え、魔物ー!?大変大変ー!!(わたわた
とにかく奥にダッシュしなきゃー!

でも!
ボク紳士だから、こんな時こそ冷静に!(きり
ギアくんをガジェットショータイムで、大きなエンジン付スケボーに!
下へ下への道だもん、早いよね!
大穴も、地形を利用したジェット噴射の大ジャンプで飛び越えちゃう!
転んだり走るの苦手な子も一緒に乗せてあげる!
敵も、炎属性のジェット噴射で吹き飛ばして焼いちゃう!
ボク超器用だから、障害物もお手の物ー!
でも、天然ジェットコースターは大迫力で
「わ、わぁー!! ひえぇっっ!」
ちょっぴりキャッキャしつつ…思わず絶叫しちゃうっ



●疾走
「ひ、ひええあばば……ってびびってる場合じゃないですよね!」
 駆け抜ける仲間たちの流れに必死に食らいつきながら、瞳は恐れも震えも声にする。
 置いていかれる訳にはいかない、襲い来る影はもう瞳にとって、物語の中の冒険譚ではなく今この身に迫るものだ。自分が魔物に襲われるなんて、考えたこともなかったのに!
 けれど怯える心とは裏腹に、胸に確かに宿る思いが熱を持つ。
 水底に沈みゆく虹のひかりに、誓ったのだから。怖くても、恐ろしくても、前へ進みたい――見知らぬ自分に温かな笑みで応えてくれた、優しい人達の想いが壊されてしまわないように。
「とにかく、逃走ルートの確保です……! ごめんなさい、あ、あとで綺麗にしますから……!」
 傍らに輝く虹色を避けて、色持つ雫が洞窟に咲く。敵影に届かず地を彩ったその彩は、ひとときぼうと光を放ち、その上を駆け抜ける瞳に加護の力を巡らせる。
 光に怯んだかのように一瞬、影が竦む。その隙にぐんと膝に力を込めて速度を上げ、弾む息に歯を食いしばった。
(「今の若い人達って凄い……こ、こんな全力疾走なんて。い、息が……!」)
 こんな全力に常に備えるなんて、ジョギングを始めた程度ではまるで追いつかない。こめかみにずくずくと心臓があるかのような痛みを感じながらも、傍らを行きすぎる光にはまだ、美しさを感じられる。或いはそれは、極限にあるからだったかもしれない。
「……はあ、はあ……――綺麗……、っ」
 走れ。奔れ。心に急き立てられるまま、光の促す方へひたすらに疾走する。――その、少し手前で。
「わあ、虹の洞きれいー!」
 無邪気な歓声と猫型ガジェット・ギアくんの目が、淡く駆け抜ける光の帯を照らしていた。
 懸命に走るティモールとギアくんの織りなす光と影が、七色を揺らす。鮮やかと言うにはあまりに淡い、かそけき光。それを無残に破壊しかねないものが、不意に岐路から顔を出して、
「え、魔物ー!? 大変大変―!! ……はっ、ボク紳士だから、こんな時こそ冷静に!」
 わたわたと大慌て一転。お願いギアくん! と願ったら、かしゃかしゃかしゃ、がしゃん! 猫のすがたはあっと言う間に一枚板に。
 小さな四つの車輪、そして蒸気吹き出すターボエンジン――即座に使い道を理解して、目を輝かす。
「スケボーなら下へ下への道だもん、早いよね! よーし、いっくよー!」
 ジェット噴射に勢いを借りて、追い来る影など吹き飛ばして。ついでに虹に悪さをしないよう、蒸気の帯びる魔力で灼き切ったりしながら――ひゃほー! きゃっきゃ! とティモールは洞窟を駆ける。
 障害物だってお手の物。だってボク超器用だから!
 不意に抉れた地面だって大丈夫。大ジャンプで飛び越えちゃう!
 その先で、ふと気づいたのだ。苦しげに息を弾ませ、それでも懸命に走る瞳に。
「ちょっと休んでいいよー! 一緒に乗せてあげる!」
「はぁ、はぁ……え? ひやっ!?」
 懐っこくお招きしたスケボーの上――ふたり分の重みを追い風としていよいよ高まる加速度に、
「ひええわあああ!」
「わ、わぁー!! ひえぇっっ!」
 それはまるで天然ジェットコースター。二つの絶叫の合唱が、遠くまでこだましていく。

「……今、何か……聞こえた」
 悲鳴、だったような。赤毛から覗く耳をぴくりと震わせて、けれど見えないその姿に、凛是は肩竦めるように吐息を零した。近くに居ないのだから手の出しようがない。
 声だけではない。洞窟にはあらゆるものの気配が反響していた。せまくて、くらい。けれど、と指に嵌めた七彩と壁の色を見比べて、凛是は思う。このきらきらしてるの、俺は好き。
「虹色貝の欠片、こうやって使ってるんだ……」
 職人たちの技の結晶だと、工房の職人が言っていた。祈りのかけらはきっと届いているのだろう、と思う。凛是の願いに『願い』が応えてくれたなら、それはもう『願い』じゃないけれど――この光も誰かの祈りであるのなら、それだけは届いて欲しい。
 輝きに呼ばれるまま、六感の指し示すままに駆けてきた道の先でふと、凛是は速度を緩めた。
 ――……なんか、白い塊が前にいる。

「キラキラのカベがきれい!」
「そうね、……きれいな虹色。たくさんの想いと祈り」
 どうかあたし達を、みんなを導いてね。先導して飛んでいくキトリの祈りを真似するように、駆けるソルベの背中のチロルは一瞬だけ、まぶたの裏にその煌めきをしまう。
 ――フェアリーの勇者のために、昔の人がずっと頑張ったしるし。皆に大好きだと思われた、素敵な勇者さん。
「チロもっといろいろ、ゆうしゃさんのこと知りたくなっちゃった」
「あたしもよ。洞窟の魔物を倒したら、もっと分かることがあるかもしれないわね」
 のどかな会話にふと影が差す。前方の岩影が揺れた、と思った次の瞬間、それはふたりと一匹の頭上にぶわりと広がって、虹色の煌めきを覆い隠してしまった。
「! チロ、広い所まで逃げるのよ!」
 藍色の瞳がさっと使命感に冴える。チロはあたしが守らなきゃ。翻す花の杖に控えめにねと囁けば、花抱く球体はそれに応え、火花のようにささやかな――けれど確かな威力を宿した雷を放った。
「あたしの全力を受けたくなかったら、おとなしくどきなさい!」
 ――だって本気で戦えば、虹が壊れてしまうもの。キトリの思いにこくりと強く頷いて、チロルはりりん、と花の鈴連なる獣奏器を歌わせる。少しだけ足止めできればそれでいい、その間に駆け抜けるから。
「キトリと一緒だからがんばるの!」
 音には安らぎを、放つ炎には確かな熱を。小さな手で、澄んだ心で、チロルはしっかりとその熱を調える。いつだって自分を照らしてくれるキトリの翅のような、キラキラした虹のひかりを損なわないように。

 ……もたもたしてる。
 ……すすめない。
 影の翼は確実に数を減らしてはいるけれど、数の暴力に翻弄される小さなふたり。焦れる訳でも苛立った訳でもなかったけれど、凛是はちらと天井との距離を測る。たいして高くもないけれど、上の方がまだ余裕がある。ならば、
「悪いけど、先行かせて」
 虹色の輝きを確実に避けて壁を蹴る。それは一瞬のこと、小さなふたりには獣のように機敏に跳ねる何かが、とん、とんと空を走っていく。頭上を越えていくふんわりしたものが、そこに留まる影の一塊を拳で抉り貫き、散らしていった。まるで祓うように。
(「さっきは近くにいなかったから、届かなかった、けど。俺の後ろからくるやつも、いるし。……にぃちゃんはきっと、他のやつ助けるから、俺も」)
 夕陽の色の瞳は、助けたふたりをちらと一瞬捉えたきりで駆け去って。見上げる二人はぱちりと瞬く。
「――ふわふわだったの!」
 妖狐の人ってみんなふわふわなのかしら? ましろな自分の尻尾を比べるようにきゅっと抱いたチロルに、助けてくれたのかしら、と見送ったキトリははっと我に返る。
 今は考えるより逃げるのが先――次の敵が追ってくる前に!
「チロ、ソルベ、きっとあともう少しだから、頑張りましょう!」
「! うん、ソルベ、あとちょっとだから」
 急いで、と小さな掌でぽふり。撫でられた白熊は頷いて、ふたりを乗せて駆けだした。

●そして、最奥へ
「……ッち! 暴れられねぇとはめんどくせぇ!」
 響いた舌打ちは、すぐに鮮やかな歌声に塗り替えられる。駆ける傍らに並走する光のさざなみに合わせ、星の輝きを歌い上げるセリオスの声は、四肢のすみずみまで至る魔力の熱量で、迫る影ひとつ蹴り落とすことを可能にした。
「これが精々だな、逃げるぞアレス! あんま遅いと置いてくぞ!」
 笑う声が、失われた過去の旋律をなぞる。故郷の調べを歌い上げるその音色は、誰よりも近く共感するだろうセリオスの唯一への援護。
 置いていくと軽口を叩きながら、いつだってこうして力を並べ、合わせてくれる。微笑みは一瞬に留め、アレクシスは僅かに前を行くセリオスのもとへ、夜明けの光を差し出した。
「君はそのまま走り続けろ! ――星を護りし夜明けの聖光、我が剣に応えよ!」
 振り抜いた切っ先から奔る閃光が、セリオスに伸びようとしていた影の手を灼き貫く。ちぎれて消える暗闇を振り切り、地を蹴る足に僅かな力を込めただけで、距離は心ほども近づいた。
「思えばいつも君を追いかけていた。助けに行く時も、探す時も」
「そう言われりゃそうか? ……けどまあ、この位置どりの方が安心すんな!」
 返る笑みに人の気も知らないで、と苦笑いを浮かべながらも、アレクシスは知っている。傍らを駆ける横顔が、むず痒さを押し隠そうとしていることも。だから、
「でも、今度は僕が君の前に行く。――追いついてみせるさ!」
 水辺の盟に重なる言葉と、それを体現する俊足。こんなふうにと示す微笑に、セリオスは微かに目を瞠り、にやりと笑った。
「そう思うなら、まず捕まえてみろよ」
「ああ、お望み通りに!」
 夜明けの白光が薄闇を穿つ。立ちはだかった翼の影がぐらりと傾ぐ、その上へセリオスは跳躍した。蒸気の力を借る一蹴、それすら足場としてさらに高く、低い洞窟の天井を掠めそうなほどに。猫のようにしなやかに跳び越えれば、影はもはや後方に――そして地を駆け抜けてきた彼の光が、着地点に待つ。
「生憎、君の靴のようなものを僕は持っていないんでね!」
「負け惜しみか? 下手に避けるよりこっちの方が速い!」
 馴染み故の遠慮のない剣呑を滲ませて、笑い合う。
「いいや、言っただろ? 追いついてみせると」
 何度でも、何度だって。鬼ごっこみたいだなんて言わせない。再び一歩追い抜くアレクシスに、弾む呼吸で速度を並べたセリオスの笑い声が、煌めく洞にきらきらと反響していく。
「――ふ」
 弾む息のはざまに、カーニンヒェンは柔い笑みを零した。
 駆け抜ける若者たちの遣り取りに、だけではない。ひたすらに下方へ続く、果ての見えない洞窟。暗闇の中から湧いてくる、冷徹な黒い影。それにも関わらず心も視界も光を失わないのは、冒険心を擽ってやまない数多の岐路、その先に在るかもしれない旧き時代の遺物――勇者を語るなにかがカーニンヒェンを誘うからだ。
 そして何よりも、こっちだよ、と誘い招く虹色のさざめき。
「引き付けるかやり過ごすか……いや、こちらが得策ですかな」
 老紳士は齢を感じさせない速さで、彼らに続く。足許を掬おうと伸びる黒影を軽快な跳躍で躱す、その歩みが一団に遅れを取ることはない。期待にか疲労にか、鼓動は確かに速くなってはいたけれど。
 見失わぬように視界の端に置いた光の標に、ゆるりと眦を下げる。そもそものこの洞穴が、勇者の時代から存在しているもの。そしてそこから、亡き人を偲び慕う手が、休むことなく光を刻み繋いできたこと。興味をそそる全てが、この場所を災魔の手に委ねるべきではないと告げている。
 好奇心から思わず岐路へ逸れたくなる心を、いけませんなと今は戒めて、カーニンヒェンは胸に帽子を抱く手に力を込める。
 ゆるり眺める暇すらないけれど、視界の端を眺めていく人々の技巧の結晶はただただ美しかった。日の下を離れられぬ誓いの光を、地底へ沁みとおる水へ、そしてこの地の底へと届ける虹色の煌めきを、ゆっくりと楽しむのは後。
「地下への風には、我々がなりましょう――この場所を、閉ざされた過去にはさせません」
 ここにまた誓いをひとつ。飛び掛かる影が目の前を塞ぐ前にその下を、紳士は鮮やかに滑り抜ける。
「……架け橋のようだな」
 決して広くはない洞窟に、低く凪いだ声が落ちた。背の高い男にはやや窮屈であろうに、それを思わせぬ身のこなしでジャハルが疾走する。
 その静かな眼差しをここまで奪い続けたものは、あえかなる光。世にも希なる地底の虹が心を捉えてやまないけれど、それを堪能する暇すら与えてくれない無粋者にはごく微か、眼の色が荒れた。
「地底に広がる七彩の星か。……成程、悪くない。悪くないが――」
 まさか魔物に追われることになろうとは。どこか他人事のような吐息を零したアルバは、気を抜けば容易く足を取りそうな足場を気にかけながらジャハルに並ぶ。星を帯びる石にかたちづくられた身には、転倒は即ち身を欠くと同義。
「まあ砕けようが、繋ぎ直せばそれで良いが……避けたくはあるな」
「――、師父よ。試運転だ、付き合え」
 呟きを聞き留めた弟子の言葉が不穏な響きを帯びる。怪訝な顔をひとたびは向けながら、時折面白いことをやらかすこの大きな子供はアルバには面白く、僅かに興が乗った。
「いいだろう、乗りかかった船だ。付き合ってや――うおっ!?」
「――往くぞ」
 抱きかかえる腕とそれごと包む疾風の纏いが、師の答えを掻き消した。傍らの虹の保護を頭に置いては全力も出せず、しかし広げた翼を追い立てる風の威は、
「いやいやどんな速度だお前?」
「はて、まあ流星ほどではあるまいよ」
「ぶつかるなよ、くれぐれもぶつかるなよ!?」
 ――澄ました師の顔を歪ませるには充分に足りて、それは少しだけ小気味いい。それはそれとして、笑う気配を敏く察知し、肘で弟子を小突くアルバ。そのくらいの余裕と信頼はあるようだ。もとより、自分の采配で師を砕け散らせる気など毛頭なかったが。
「暴れるな、師父。それより少々足りぬ故、援護を頼む」
「……は、言われずとも」
 星秘める瞳が眼前の影に翳ることはない。握り直した杖が流星のひかりを描く。抱えられた肚に力を籠める。
「控えよ――女王の御前であるぞ!」
 魔力を帯びた声が、冴え冴えと青い蝶の群れを喚ぶ。立ち塞がる影を凌ぐ鱗粉の冷気が、影の壁を凍り付かせた。揺れる制御にも速度を緩めることはせず、ジャハルはそれを身を以て突き抜ける。ひとかけも欠けさせまいと、その腕に師を庇いながら。
「ええい、こうなれば自棄だ。果てまで一気に突っ切るぞ!」
「ああ、侭に」
 制御に集中しながらも、弟子の意識は傍らを融けて流れゆく、ひと繋ぎの光を辿る。
 虹の光彩の示すまま――そして。

 しっとりと湿った洞内の冷気を、息詰まる逃走に燃える猟兵たちの体はさほど感じてはいなかった。
 だがそれは不意に、唐突に。明らかに変質した空気が身に迫り、最奥の存在を意識させる。
 翼持つ影の放っていた、そこはかとない冷ややかさとは違う。刺すような冷気、先鋭な敵意。下へ下へと進む進路の先から放たれていることは明確だ。
 けれど、止める足を彼らは持たない。寧ろ、その存在をこの地から排する為にここまで来たのだから。
 駆け抜ける直線の先がぼう、と柔く明るんでいる。何があるかも知れない果てへ、猟兵たちは躊躇うことなく飛び込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『氷凝鳥』

POW   :    爪の一撃
【非情に素早い突進からの爪】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    氷柱雨
レベル×5本の【氷】属性の【鋭利な結晶体】を放つ。
WIZ   :    大空を舞う
【空高く飛ぶことで】対象の攻撃を予想し、回避する。

イラスト:玻楼兎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●盟いを彩るもの
 ――どこまで掘り続けるのかって?
 そりゃあ地の国に至るまでさ、乗りかかった船だ。こんな馬鹿を一度始めたんだ、勇者様のお心を半端なところに置き去りにして引き返す訳にいかんだろ?
 ……と言いたいとこだが、実のところ、数年前から作業は止まってる。
 なんでかって? そりゃあ固い地層に行きついちまったからだよ。
 下れば下るほど明るく感じただろ? いや、気のせいじゃない。ここの地層は、深く潜れば潜るほど水晶質を帯びて、灯りの光を含むようになってるんだ。
 それがやたらに固くてな、もう鶴嘴が通らないんだよ。……壁一枚壊しちまえばまたでかい空洞でも掘り当てそうな手応えはあるんだけどなぁ。
 まあそれは残念じゃあるが、見てくれは確かに上等だからな、この奥は。
 勇者様の虹にしたって、地上にあるよりお相手さんに近づいてるには違いない。つう訳で、そこをキレイに整えたわけだ。
 ……ほら着いた、ここがその最奥だ。おまえさんも大成したいなら、ここの細工を見ておきな。
 俺たち細工師の技の限りがここにある。何しろ勇者様のお相手に一番近い場所なんだ――ははっ、花嫁衣装みたいなもんかもしれないなあ?

●囚われの思い
 駆ける勢いに任せて飛び込めば、誰もが心を止めた。
 広々と開けた空間。遠い壁、高い天井。その殆どが精緻な虹色を刻み込まれている。まるで裡から輝くように見えるのは――水晶を多く含んだその壁が、光を吸って輝くからだ。
 中央の台座には小さなひかり。勇者のランプを模して作られた常夜灯には、魔法の光がふわりと灯り、跳ねる虹色をより美しく見せている。――見せる筈。それなのに。
 その灯りは凍りついている。
 分厚い氷の中に、預けた誓いが鎖されている。

 武器を取る手に油断なく力を込める。
 上空に羽戦くものたちは、影の鳥によく似ていた。けれど全身から冴え冴えと放つ冷気は比べものにならない。
 氷漬けの燈と猟兵たちの翳す灯りに、氷の結晶を帯びた体が浮かび上がる。猟兵たちを追って飛び込んできた数多の影、その魔力とひとつになって、帯びる冷気はいっそう厳しさを増していく。
 美しい――けれど、それはこの洞窟の美しさには無用のもの。この果てへ届けられた思いを捕らえる無粋者たちだ。
 虹色に心奪われている暇はない。かの災魔たちを打ち倒し、氷の封印を解かなければ。

 ――その先に、もしかしたら。
 あらたな風が吹き込むこと。貫かれた想いの先を見ることも、あるかもしれない。
マリス・ステラ
【再】
【WIZ】他の猟兵と協力して戦います

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光の『存在感』で敵を『おびき寄せ』る
光は『オーラ防御』の星の輝きと、星が煌めく『カウンター』

「"涯"の向こうを見るために」

弓で『援護射撃』
重傷者に限定して【不思議な星】
緊急時は複数同時に使用

虹の欠片が美しいのは光を吸って輝くから、理屈としてはそうなのだろう
ただ、私はこうも思う

光は夢だから

「……夢だから美しいのか。美しいから夢なのか」

思いを馳せながら『破魔』の力の宿る弦音を響かせる
今こそ『封印を解く』時です
願いはひとからひとに繋がっていきます
勇者たちの想いも今に繋がっているのですから


アリス・フェアリィハート
【ミルフィ・クロックラヴィット(f02229)】と一緒に参加

※アドリブや他の方との連携も歓迎です

ここは…?
とってもきれいです…
中央には…凍りついた灯り…?

でも
オブリビオンさん達が…

ミルフィと一緒に
戦います…!

『ミルフィと一緒なら…怖くないです…!』

氷擬鳥さん達に囲まれない様
布陣し戦闘

自身の剣
『ヴォーパルソード』で
炎属性の【属性攻撃】や
【二回攻撃】での時間差攻撃、
【なぎ払い】等の剣戟や
【衝撃波】や【誘導弾】等の遠距離攻撃で攻撃

敵さんの攻撃は
【第六感】、【見切り】、【オーラ防御】、【残像】等で回避

もしミルフィや味方が
負傷したら
シンフォニック・キュアで回復

『大丈夫ですかミルフィ!?今、治療します!』


ミルフィ・クロックラヴィット
【アリス・フェアリィハート(f01939)】姫様と
御一緒に参加

※アドリブや他の方との連携も歓迎

此処は…
中央の台座に
凍りついた灯りが…
これの封印を解く必要が…?

しかし敵も眼前に…
アリス姫様を御護り致さねば…

氷凝鳥達に囲まれぬ様
布陣し戦闘

自身のアームドフォート
『アームドクロックワークス』での砲撃
【誘導弾】や【一斉発射】
黒剣
【ジャバウォックの爪牙】での
炎属性の【属性攻撃】や【串刺し】、【なぎ払い】等の剣戟、
両方を使う【2回攻撃】の
時間差攻撃等で攻撃

敵の攻撃は
【早業】、【残像】、【見切り】、【武器受け】等で回避

『アリス姫様は…わたくしがお護り致しますわ!』

纏めて攻撃可能なら
UCで
周囲を巻き込まぬ様
攻撃


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
魔物に求めても無駄かも分からんが、それにしても無粋な連中であることよ。
勇者の想いは、あるべきかたちへ返してもらおうか。

空を飛ばれるのは厄介だが、ならば飛べないようにしてしまえば問題はなかろう。
ちょうど広さも都合が良い。
ふはは、私の蛇は鳥を相手にも怯みやせんぞ。
さァ、出番だ白蛇。貴様の毒牙で端から叩き落せ!
落ちてきた連中は槍で仕留める。この広さならば、存分に振るっても問題はなかろうよ。

ここにあるのは勇者の想いだけではない。
人々の願いの全てが詰まっているとあらば、魔物なんぞに凍らせてやるのは、それこそ勿体ないよなァ。


雨糸・咲
【再】
辿り着いた場所は、あまりに美しくて
言葉も無く息を零す
それでも、

本当は、もっと――

たくさんの心が詰まったあたたかな場所のはず
燈火が氷に閉じ込められたままでは、哀しいから

飛び回る青い鳥は、物語で見た幸福の鳥とは違う
ひたむきな想いに立ち塞がるものならば、払うまで

見切り、第六感で素早い爪や降り注ぐ氷柱を避け
愛憐蔓で飛ぶ鳥を引きずり降ろします
大がかりな魔法でこの場所を傷付けたくなくて

さや、――力を貸して

短く告げて傍らに喚ぶ、香らぬ花の精
舞うように小太刀を振るう白い少女と共に、
無粋の鳥は骸の海へ還しましょう

たとえ、命の尽きた後でも
想いが届くのなら…
私は、その先が見たいのです

※アドリブ、絡み歓迎


ティモール・アングルナージュ
他の皆とも協力できればー!

あー! この常夜灯…!
ボクが買った、この勇者様のランプのキーホルダーと同じだー!
でも凍っちゃってたら、折角のランプに火が灯せないよっ。
それにお店の人言ってたよ?
勇者様は小さな小さなランプをいつも持ち歩いてて、生涯手放すことなかったって
それって、すっごく大切なランプだったってことだよね!
そんなランプに燈る虹のいろ、ボク見たーい!
だから鳥さんたち倒して、氷の封印解いちゃお!

ぜーんぶ、氷をとかしちゃうよ!
ガシェットショータイムでギアくんを火炎放射器に!
炎属性の範囲攻撃で、氷の結晶体ごと撃っちゃお!
だって、寒いし…!

氷が解けて虹が見れたら、きっとキャッキャはしゃいじゃう


終夜・凛是
にじいろ
なのに、凍ってる……人の気持ちを、凍らせてるみたいで
俺は、これ、凄く嫌
こころは、凍らせるものじゃ……ない

見上げた姿はゆうゆうと
けど、どんなにきれいでも俺は許さない

他の猟兵と協力しつつ
攻撃は拳で
あれは凍れるものだから狐火の方が良いんだろうけど
この気持ちじゃ上手に、扱えない
手の届く距離にいるものの懐へ踏み込んで、拳で穿つ
近い距離で攻撃受けるならその時が機会
傷を恐れずに突っ込む

細工師たちが、繋いできたものを、お前らに絶対、奪わせない
いつか、たどり着いてくれるだろうから

俺の願いも、気持ちもきっといつか
出会えるって思ってるんだ、にぃちゃん
そわりと、するのはなんでだろ。なんでだろ……


カーニンヒェン・ボーゲン
【再】
秘めたる色の目覚めの時は、もう間近なのでしょうな。
吹花の如く、頭上に散らばる虹の欠片に色が戻るよう、
渡る風は冬の気嵐を遠ざけましょう。

【UC:アザゼル】を呼びます。
頭上高くから、射下ろすように。
矢が天井や壁を傷つけぬよう計らいます。
矢に『属性攻撃・破魔』の効果で暖気を纏わせ、
『生命力吸収』で冷気を奪いたい所ですな。

同時に戦場に目を配り、水晶質の地盤の向こうから、
別の戦闘の気配や空間のある兆しがないかも探っておきたいです。

心とは不思議なもので、言葉にして輪郭を与えるだけで変質する事もある…。
しかし積もれば宙にも溶け出し、知らず惹かれ合うのではないでしょうか。

おはようございます。お寝坊どの。


イア・エエングラ
やあ、とじた貝の、裡のよう
深く深く沈むほどに耀う想いのよに
そうしてずうっと褪せずにいたのに

お外から鎖してはいけないよう
あんまり暖かく見えたから
融けてしまいそだったろか
そうな、僕にもすこし、眩しいだろか
飛ぶ姿を見上げならお前のゆく先を探してみよう
くるり回るその瞬間をおりていらっしゃるその際を
じっと狙い澄ませてすこし当て易い黒糸威で貫こう
外してはお部屋に傷がつくものな
鬼さんこちら、逃げてはいや、よ
そうしてもう一度と撃つのは、その均衡を崩しに
他の方の狙う隙にでもなれば十分、かしら

騒がせてしまってごめんなさいね
どうぞこんなところで消えずいて
泡にならずに届いて、みせて
氷る雨の先に虹が、掛かるのならば


セリオス・アリス
【再】
アドリブ◎
【双星】

アレス、バテてないだろうな?
片眉をあげ楽しそうに
歌で自分とアレスに魔力を巡らせ
背中合わせで戦う
さっきお前の前にいる方が落ち着くっていったが訂正するわ
お前とこうやって、戦ってるのが一番いいなッ!
斬撃を放ち
任せてくれというアレスに嬉しそうに
ああ、安心しろ
お前に傷一つ
そのマントに汚れ一つつけさせねえよ
力を溜めアレスと同時に
【蒼ノ星鳥】を放って数を減らす

高所に逃げるならダッシュからのジャンプ
更にアレスが投げた剣を足場にもう一段高く跳び鳥の更に上へ
上空で回転して勢いをつけ炎の属性を纏わせた剣でその首を落とす!

再び背中合わせに
いない間寂しかった?
なんて笑えるくらい安心する


千代森・瞳
【再送】

あれだけ走ったのにゾッとするのは、震えがとまらないのは
冷気だけじゃないなんて分かり切ってるけど
氷で覆い隠せない虹色の輝きがあるから
ここにあの鳥はふさわしくないって、分かるから
…や、やってやります!

▼行動
罠も追跡も意味はない
それなら引き続き、グラフィティスプラッシュで攻撃と支援をします
影の鳥に対するのと近い要領で、塗料による攻撃を
でも、足止めさえ無理なら
フィールドを塗りつぶすことで仲間の攻撃の手助けを

下手に倒れて邪魔にならないように
まず鳥の半径30cm以内に入らないようにします
あとは観察を
飛翔する仕草、氷柱を投げる又は落とそうとする挙動
来ますの一言くらいなら
かじかむ口でも言えるはず…!


アレクシス・ミラ
【再】
アドリブ◎
【双星】

そっちこそ。君はいつも全力だからな
歌に込められた魔力と背中の存在に心強さを感じる
…いつもなら君を支え、守るために戦うが
君とこうして共に戦えるのはいいな
背中は僕に任せてくれ!僕も…君に背中を預ける!
騎士の誓いの強さ、君に見せよう!
敵の突進を斬り伏せるように【天流乱星】をセリオスの技と同時に放つ

相手は空か…なら!
セリオスの跳躍に合わせて剣を「怪力」で投げ、洞窟の壁に突き刺す
彼が剣を足場にした後は、回収するまで「見切り」「カウンター」による蹴りで対応
「衝撃波」を飛ばして壁の剣を飛ばし、落ちてきた剣を取ると同時に振り下ろす

戻って来なかったら探しに行くまでさ
なんて、笑って見せよう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

鳥の癖に地下を好むとはな
奴等もこの場所を気に入ったのか

師の炎から逃れたものへと翼で飛翔
天井や壁には当てず、空中で氷鳥の体のみを狙い
【竜墜】で地へと撃ち落とす
怯ませた、あるいは気を引けた隙を
師の魔法が突いてくれるだろう
爪の一撃は黒剣と高めた防御で受け止め反撃を狙う

少々斬り裂かれようと耐え
この街の勇者達の辛抱を
民たちの献身を見習うとしよう

叶うなら町の者らを足止めしていた壁へも
氷鳥もろとも竜墜の一撃を
天井には被害が及ばぬよう範囲攻撃を絞り
足掛かりとなる罅の一つも入れば良い


時をも超え繋ごうとしたのだ
岩盤の一つや二つ壁にはなるまい

…手を取り合えた
一繋ぎの世界と誓いに祝福あれと


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
全く、美しい物を愛でる暇すら与えぬとは
美しくも無粋な連中も居たものよ

描く魔方陣
召喚するは【愚者の灯火】
決して壁や天井に施された細工を傷つけぬよう炎を操る
此方の行動を読むならばそれを逆手に取れば良い
ジジ、お前も手を貸せ
被害は最小限に留めよ
落ちてきた、怯んだ鳥は容赦なく焼き払おう
互いに隙を突かれぬよう声掛けを欠かさず
従者へ一撃を喰らわせんと接近しようものならば格好の的
ふふん、狙われようと文句は言えまい?

全ての鳥を片付けた後は、細工に注意しつつ氷を融かしていく
――さあ、目覚めの時だ
勇者の想いを、私に見せておくれ

然し…こつんと地面を杖で打ち
この下――気になるのは私だけではあるまい


キトリ・フローエ
チロ(f09776)と

すごいわ、地上なのに虹のかかった空があるみたい
…でもね、オブリビオン、あんた達はお呼びじゃないの
冷たい氷に閉じ込められた勇者様の想いも祈りも
あたし達が絶対に解き放ってみせる

行くわよ、チロ、ソルベ!
全力込めて空色の花嵐で鳥達を攻撃
詠唱を重ねてもう一度
躱す暇なんて与えてやるものですか
チロの炎と一緒に、綺麗な花で飲み込んであげる

本当に大好きだったなら、想いを伝えてしまえばよかったのにって思うけど
でも、それは野暮ってものよね
とってもとっても、大好きだったってことよ!ってチロに笑って

ずっと昔からみんなが繋いできた想いも
今はもうどこにもいない勇者様の想いも
どうか、届きますように


チロル・キャンディベル
【再】
キトリ(f02354)と

わあ…!
すごい、にじ!
お外で見たにじを思い出すのよ
びっくりしてソルベも足を止めてるの

キトリ、いこう!
チロ、寒いのはすきだけど
この場所では、氷はあんまりよくないのよ
ソルベとキトリといっしょに、エレメンタル・ファンタジア
あつい火の玉で鳥さんをとかすのよ!

今回のゆうしゃさんのお話、チロにはむずかしくてよく分かんない
だいすき?それとってもステキね!
ゆうしゃさんも、その心も
町の人がずっとずーっとたいせつにしてたのね!
おうえんしたいの

だから、このにじ色の世界が
ゆうしゃさんの心が置きざりにならないように
敵をたおして、道を開くの!
そうしたらきっと、ハッピーエンドね!


玖・珂
【再】
私一人では出遅れるところであった
咲と手引してくれた者に礼を

凍てる虹は美しいが、刻が止まった様にも思えるな
氷を融かし最後の一押しをしようか

地形の把握も兼ね場を見廻し情報収集
不自然に細工が途切れた場所があれば
第六感が此の先だと告げるだろうか

目星を付けたなら羽雲を手元に
舞う敵へ長杖から火球を放ち、敢て回避させ誘導を謀るぞ

氷柱は軌道を読み躱す、杖の刺突で砕く等するが
残り1本は回避時に躓いた風を装い敵に隙をみせよう

爪の一撃が迫れば占めたもの
早業でその場から身を退き
氷凝鳥に壁壊す手伝いをして貰おう

最後は炎纏わせた杖に怪力をのせ穿ち砕くぞ

雪解け水が大地へ染み込むように
綻びた七彩が彼の地まで届かんことを


ソラスティベル・グラスラン
アドリブ大歓迎

そのランプは、一途に思い続けた勇者の心なのです
凍てつかせては、封じては……ずっと此処に留まってしまう
届かずに、ここで潰えてしまうのです!

彼女を解き放ちなさい!この、時の牢獄からっ!!【鼓舞】

先駆けて突撃し敵の注目を引きます!
【盾受け・オーラ防御】で守り【かばう】で味方を守護
【爪の一撃】は突進を【盾受け・怪力】で受け止め、
続く爪を【見切り】、狙うはその刹那
その間合いはわたしの間合いでもあります!【鎧砕き】の一撃を!
今こそ滾れ、我が【勇気】よ!!

―――そういえば、ここより先は硬くて掘れないのでしたっけ
ふふふ、では後輩勇者より先輩勇者の貴方へ
美しいものを見せて貰った、お礼です!



●夢は現へ
「あー! この常夜灯……! ボクが買った、この勇者様のランプのキーホルダーと同じだー!」
 ティモールの叫びに、仲間たちの眼差しが集う。
 はっ、ボク紳士紳士……! と慌てつつ、けれどティモールはまっすぐに――聞き知ったすべてを口にする。
「お店の人言ってたよ? 勇者様は小さな小さなランプをいつも持ち歩いてて、生涯手放すことなかったって! それって――」
「それならチロにもわかるの! それはね、たからものってことなの。とってもとってもたいせつだったってことなのよ!」
「そうだよねっ、ボクもそう思うー!」
 恋を知らない幼い心にも分かること。満ちる虹色に思わず瞬くソルベと同じ顔をしていたチロルが、ぱっと顔を輝かせて手を挙げた。ぱたぱたとふれる尻尾は自分のことのように嬉しそうで――けれど分厚い氷を見れば、少しだけしょんぼりと下がる。
 魔法の燈は、今は弱々しく氷の中に眠っている。眠らされている。そして敵意を露わにそれを見下ろすものたちが上空に在る。冷ややかな翼を広げた氷の鳥たち。
「ううん、がっかりしていられないの! みんなであの鳥をたおすのよ!」
 ああ、そうな――と、イアの声が柔く応じる。
「とじた貝の、裡のよう。深く深く沈むほどに耀う思いのよに、ずうっと褪せずにいたのに」
 外から鎖すことを誰が許したものか。唇に浮かべた笑みは柔らかに、けれどイアの眼差しは、幼子を咎めるように空を仰ぐ。
 大きく弧を描く翼が、天井の七彩を掠めはしまいかと案じられ、軌跡のゆく先を追う視線は静かに逸る。息を潜めて。冥き淵、呼吸を奪う水底から、頭上を過る影を狙い待つ狙撃者のように。
 光のひとつ映すことなく指先に戯れる死霊のように、あの鳥も眩しかったろうか、とイアも目を細める。
「そうな、これにも――僕にもすこし、眩しいだろか」
 だから、終わりをさしあげような。見上げる爪が命を刈り取りに来る一瞬、死霊たちに魔力の槍を借る。細く、細く、光通さぬいとのように駆け抜けたそれは、胸に戴く輝石ごと鳥を貫いて立ち消えた。
「ああ、よいこと。外してはお部屋に傷がつくものな」
 いとけない童子のように笑み声を転がし、情けのない魔物のように次の一射を紡いでみせた。

 ここは――とってもきれいだけれど。
 空間の中央には、厚い氷に覆われた弱々しい魔法の灯り。僅かに洩れ出る光を受けて、頭上に鏤められた輝きが、アリスの金色の髪に虹色の光を降らす。
 けれど、大きな瞳を瞬いて見上げた天井には、その輝きを凍り付かせるものが羽戦いていて。
「あれは……オブリビオンさん達が……?」
「ええ……どうやらあれらの仕業のようですわ。凍りついた灯り……封印を解いてさしあげなければならないようです」
 けれど敵は眼前に。ならば、主であるアリスを護ることこそがミルフィの使命。
「アリス姫様……怖くはございませんか?」
「はい、ミルフィと一緒なら……怖くないです……!」
「よろしゅうございます。では、アリス姫様は……わたくしがお護り致しますわ!」
 少女たちの眩い気合が敵を惹きつける。頭上から注がれる敵意に固定砲台・アームドクロックワークスの狙いを定めたミルフィは、巧みに躱す翼を連なる砲射で追いかける。
「撃ち落としますわ! アリス姫様、お気をつけなさいませ……!」
「はい……! 受けて下さい、ヴォーパルの剣閃……!!」
 鋭い冷気を纏うものへ振り翳す一閃に、アリスが宿すは『炎』。属性を付与された一振りは、しかし降下の勢いに任せた突進によって弾かれる。
「きゃあ……!」
「アリス姫様っ! ――っ、よくも……!」
「だ、大丈夫です! ミルフィが守ってくれましたから……! それよりも、今、治療します!」
 身を挺した従者によって直撃を免れたアリスは、零れた血に瞳を揺らす。けれど、泣かない。
 幼い歌声が洞窟に広がっていく。旋律は虹色に煌めく壁面に反響し、ミルフィの傷を優しく癒していく。
 そして、従者はそれを待たずに立ち上がる。上空を旋回し、追撃の爪を構え再降下してくる敵を、怒りに燃える赤い瞳にしっかりと映し、
「アリス姫様を害そうとしたこと……後悔なさいませ!」
 狙うは全方位。意識に障る全ての敵意に狙いを定め、全弾を撃ち放つ。――その向こう側で、
「アレス、バテてないだろうな?」
 憎めないにやり笑いは心の深さを知り合う相手ゆえ。笑う声にセリオスの表情が知れて、背中を預けたアレクシスはふと唇を綻ばせた。
「そっちこそ。君はいつも全力だからな」
「当然だろ? 手抜きして面白いことなんかないからな――さあ、耳かっぽじってよく聴けよ!」
 その喉から零れ出るのは無論、絶唱。失われたものを歌う歌声が、失わずに在る絆の力を高らかに増幅させていく。きららかに跳ねる節、柔らかに繋ぐ抑揚。光すら思わせる歌声に、相棒は笑みを深めた。――言われずとも、耳が、心が、追い求めたこの声を聴かずにはおかない。
 剣先まで伝う歌声の魔力で迫る敵を斬り伏せながら、アレクシスは呟いた。
「……君とこうして戦えるのはいいな」
 いつもは支え、守るための戦いで。対等に並び合い、背に気配を感じ合える今には胸が熱くなる。だから、
「背中は僕に任せてくれ! 僕も……君に背中を預ける!」
 騎士の誓いを君の前に示そう。高らかな宣言におまえらしいなとセリオスは笑う。はにかんだ顔は見せない代わり、
「ああ、安心しろ。俺だってお前に傷一つ――そのマントに汚れ一つつけさせねえよ!」
 アレクシスの剣から立ち上がった光の柱が、高い天井を貫きそうに伸びる。真白の光輝が振り下ろされる瞬間、青白い焔の闘気が片翼をなし、囲い込む敵を四方に弾き飛ばした。
 青い星の尾の消えるのも待たず、セリオスが上空へ逃れた敵へと駆ける気配に、アレクシスは辺りを見渡した。
 きららかな壁を穿つを避けて戦う仲間を見れば、セリオスの足場とできるのは一点のみ。岩盤が堅いと言われていた装飾のない一面だけだ。
 貫けるか。――いや、騎士の誓いにかけて!
「セリオス!」
「! さっすが、分かってる!」
 深々と壁に突き刺さった渾身の一投を足掛かりに、セリオスが跳ぶ。烏のように空を躍る影から繰り出される炎の斬撃は、逃れた敵の首を真上から刈り落とす。
「っと、待たせたな! いない間寂しかった?」
 軽々と背に舞い戻った満足げな顔に、アレクシスは声だけで笑う。
「戻って来なかったら探しにいくまでさ」
「ははっ、言うじゃねえか! ああ――やっぱりお前とこうやって戦ってるのが一番いいなッ!」
 楽しげに連なる剣戟は、言の葉以上を紡ぐもの。

 ――主よ、憐れみたまえ。
 荒々しい戦いの音の反響の中、ころころと笑う鈴のように。零れた声に、身の内に秘めたひかりがまずは星宿す片方の瞳から、続いて全身からやわらかに溢れ出す。
 マリスを守りもし、襲い来たる敵を迎え撃ちもするその輝きは、地の底にも喩えられそうな洞窟に柔く広がっていく。味方へ向かう敵意を、僅かでも自身へと分かとうと。
「墜としてあげましょう。“涯”の向こうを見るために」
 虹の滝に委ねられた勇者の誓い。滝の裏側からこの地まで、虹貝の欠片で編み繋がれた人々の想い。それは言葉にするまでもなく、美しく輝くものだから。
 洞壁の跳ね返す淡い輝きを凌駕して、ひとり際立つマリスの姿。それはいやでも敵の目を惹き、冷気を帯びた爪が次々と降り注ぐ。
 マリスの引く弓に、弦は歌う。掠めはせずとも構わない。躱し来た爪が身を切り裂いても構わない――手は止めない。撃ち洩らした翼を隙なく穿つ、心強い仲間たちが在ると知っている。
「……どちらが先であったのでしょうね。夢だから美しいのか。美しいから夢なのか――」
 そして何かが、マリスの六感に訴え来る。この物語は、夢では終わらない。勇者の命の終わりをもって一度幕を下ろしたはずの物語が、今一度、異なる終わりを紡ぎ出そうとしている。
 連綿と紡がれ続けた、アトラシアの人々の虹色の技――そしてそれを守らんとする、猟兵たちの心。ひとからひとへ繋がれた『夢』が、現になろうとしているのだと。

●戒め溶かす熱量
(「俺は、これ――すごく嫌」)
 凍る虹色を目にした瞬間から。凜是の胸に宿る炎はぐつり、と軋んでいた。
 説明はできない。言葉になんてならない。ただ、酷く不快で、身に灯る熱が揺らぐのを感じていた。
 朗らかにこの煌めきを語る人々を見た。勇者へ向けられた思いの結晶を傍らに、ここまで駆けてきた。だから知識より言葉より深いところで、肌触りで知っている。
 これは心だ。勇者の、人々の――そして、
「こころは、凍らせるものじゃ……ない」
 きゅ、と眉根を寄せて、赤い尾を連れた少年が駆ける。爪が掌に痕を刻むほど拳を握り締めても、煮える炎は鎮まらない。許さない。冷ややかな風を連れて頭上を掠めるものに、狐火の方が奏功するとは分かっていても――この気持ちでは巧く扱えないと、痛いほど分かる。だから、
「これで充分。……遅い」
 焦がれたものには及びもつかないと口の端だけで一瞬、笑って、少年手近な一羽に飛び掛かった。
 細工師達が紡ぎ来たものを奪わせない。虹の光が辿り着く、その瞬間まで。地に組み伏せて穿つ拳は命を還すも、鳥の鉤爪は去り際に首筋を抉りにくる。どうせ治るし、と躱しもしなかったそこへ、
「――こらー!」
 小さいけれど、確かに自分へ向けられた声が届く。

 きょろきょろと辺りを見渡す少年は、混戦に紛れた小さな自分に気づいていないようだ。拡声器を握りしめるキトリの翅がちょっとぷるぷるしている。
「キトリ? どうしたの?」
「ううん、なんでもないわ! 行くわよ、チロ、ソルベ!」
 あんなやけっぱちな戦い方! 次に見つけたらただじゃおかないんだから――と、愛らしい憤りは羽戦きだけに留め、キトリはしゃんと前を見る。
「冷たい氷に閉じ込められた勇者様の想いも祈りも、あたし達が絶対に解き放ってみせる。オブリビオン、あんた達はお呼びじゃないの!」
 花纏う精霊が指先を駆け抜ける。軌跡はすぐに杖へと編まれ、そしてすぐさま解けて百千の青白の花弁をなす。姿やさしき花吹雪は、小さなからだから紡がれる魔力を帯び、心を映し、頭上のひかりを遮る巨影へと一心に駆け抜ける。
「チロ!」
「うん、行こう! ソルベもいっしょよ!」
 駆け抜ける白熊の背で、チロルの花鈴が歌う。生まれた土地を思わせる地底の涼しさは、好き。ソルベも少し元気を出したよう。けれど、だめなのだ。あの鳥たちの呼ぶ寒さは、氷の戒めは、
「この場所ではあんまりよくないの。あつい火の玉で、氷の鳥さんをとかすのよ!」
 キトリの花の軌跡に狙いを揃え、音色が熱を呼び覚ます。薄氷の翼をしゅわり、真白の蒸気に溶かしたチロルの炎の塊を、もう一度と重ねた花吹雪が誘導する。壁の彩り、心の色を、かけらも壊さずに済むように。そして、
「ゆうしゃさんの心が置きざりにならないように、敵をたおして、道をひらくの!」
 魔法と音色が奏でるのは、応援の気持ち。
「そうね、躱す暇なんて与えてやるもんですか!」
 きらきらと煌めく瞳に勝ち気な色を乗せ、キトリは掌へ舞い戻った精霊を再び空へ送り出した。澄んだふた色に包まれて、また一羽、鳥が消え――満ちる冷気の弱まりに、凍てつく氷が汗をかく。魔法の燈が、輝きを取り戻す。
「そのランプは、一途に思い続けた勇者の心なのです……!」
 振り絞る勇気は、それを灯した人々の心を知ったから。解かれようとする氷の戒めに冴え冴えと澄みわたる敵の殺気の矢面に、ソラスティベルは立ち、高らかに声を上げる。
 届かずにここで消えてしまうなんて、いやだ。冷たい時の牢獄に縛られたままなんて、絶対にいやだ。襲いかかる凶爪の連撃を盾で押し返し、撥ねのけるように叫ぶ。
「彼女を解き放ちなさいっ! これなるは神鳴る勇者の戦斧――!」
 その爪の間合いはソラスティベルの間合い。まるで今、勇者とならんとする少女の心意気を古の勇者に示すように、雷鳴に似る轟音を大斧が歌い上げる。奔る蒼雷に照らされた少女の眼差しはきらきらと、仲間の剣が傷つけた壁面へ流れた。
(「そういえば、ここより先は硬くて掘れないのでしたっけ」)
 ふふ、と引き結んだ唇を笑みが割る。何もないかもしれない。この先はどこにも繋がっていなくて、ただ虹を走らせるべき道が増えるだけ、なのかも。
 ――でも、何かあるかもしれない。その期待に抗わず、ソラスティベルは溶けゆく燈に呼びかけた。
「ふふふ、見ていてくださいね。後輩勇者から先輩勇者の貴方へ――美しいものを見せてもらった、お礼です!」
 雷撃纏う斧が翻る。刻めない虹色の代わりに、青白く走る火花が黒壁を彩った。

 ――どうして震えずにいられるのだろう。
 あれだけ走って熱を放つ体が、未だ凍えている。背筋を這い上る悪寒は気温のせいではないことなんて、瞳はとうに知っていた。
 眼前の敵意はこんなにも恐ろしいのに、周囲に在る仲間のすべてが勇者のようで。どうしてあんなふうにいられるのかと、笑う膝で、揺れる瞳でそう思うけれど。自分が受ければ到底無事ではいられなさそうな、分厚い氷の中でゆらめくもの――隠されることなく輝く光が、瞳の足に力をくれる。
「ここにあの鳥は……あなたたちは、相応しくないとわかるから、……や、やってやります!」
 気合いとともに振り抜いた絵筆に、色が躍る。自分でも驚くほどに鮮やかな、これまで描き出したことのないような色が。
(「……っ、やっぱり躱される! ――でも、せめて」)
 考えろ、考えろ。冷気と熱気の鬩ぎ合う頭が出した結論に、瞳は従う。振り描く絵筆に、彩りを途切れさせず繋ぐこと。――この場所を少しずつ、自分の領域に塗り替えること。
 ここはもう、見慣れない世界ではない。ひとときなれど自分が描いた、自分の世界。だから少しだけ、冷静さを取り戻す。視界に入る鳥の軌道も、なんとか読める。
「――そ、そこの綺麗なお姉……お兄……さんで合ってるかな! き、来ますっ!」
 かじかむ口が、縮こまる喉が叫んだ声に、振り返ったアルバが笑う。へにゃりと情けない笑いが零れ、膝の力が抜けた。――勇者の付き人くらいの役は果たせたかな、なんて。
「――鳥の癖に地下を好むとはな」
 オブリビオンの心にも虹の輝きは好ましく映ったのか、或いは気に食わず封じ込めたいと願っただけか。何れにしても譲る気などなく、一撃を躱した師を一瞥したジャハルは翼を空へと伸ばした。
 青空の下よりははるかに狭い虚空を、隅々まで意識を届けるかのように翼を操り旋回する。氷の鳥はいつしか気づいただろう、追っていた筈の我が身が、気づけば影色の翼に追われる側に回っていたことに。
「全く……まあ好んだとすればまだマシというものよ。いずれにせよ、美しいものを愛でる暇すら与えぬとは」
 美しくも無粋な輩もいたものだ。嘆息を冷ややかな空気に溶かしたアルバの唇が、よどみなく詠唱を紡ぐ。
 地に描き出した魔方陣から泉の如く飛び出すものは、揺れ躍る炎の子。ジャハルに追われて頭上を飛び交う氷の翼に取りつき、溶かし、無邪気に白い靄へと還しゆく魔法。灼き洩らしたものあらば、猛々しい獣の鱗と爪を纏ったジャハルの腕が、追い立てる勢いのままに地に叩き伏せていく。少なからず身に受ける衝撃も厭わぬ弟子に、顰めた片眉はどこか愉しげでもあった。
「手を貸せ、とは言ったが……お前のそれは痛そうで敵わんな」
「何を今更。かの物語の勇者たちの辛抱と、この町の民の献身を見習ったまで」
「ふ、殊勝なことだ。――だがそれも悪くない」
 被害は最小限に留めよと言い置いて、アルバは溢れ出す熱の源を目指し来る者にふふん、と笑う。
「火に入る虫とはこのことよ。……狙われようと文句は言えまい?」
 まるで子供のようだと零れる弟子の嘆息は知らぬまま――あるいは知って知らぬふりか。けれど撃ち上がる炎の子らの、纏う火加減は忘れない。この美しき空間を損なうまいと告げたのは、他ならぬ自分だ。
 熱の返す赤い輝きに星宿す瞳を染めながら、アルバはさあ、と指先を翻す。操る術に、共闘する猟兵たちの善戦に、墜ちては消える鳥たちは既に半数。ならばこの炎の矛先を、少し分けても構うまい。
「――目覚めの時だ。勇者の想いを、私に見せておくれ」
 めろめろと燃える炎の子らが踵を返す。氷に鎖されたかの燈を、抱き締めるように手を伸ばし、一体、二体と溶け合って熱を高めていく。遮りに来る無粋な鉤爪は、ジャハルの竜爪が掬い取るように岩盤へ叩きつけた。
「これで良いのだろう」
「ああ、よくやった。罅のひとつもくれてやれ」
 黒壁の向こう、下りゆく道の先――語られる物語との符合が気にかかるのは無論、師弟だけではない。
「はっ、氷を溶かすのボクも手伝うー! 勇者様の大切なランプに燈る虹のいろ、ボク見たーい!」
 懐中時計を飾る小さな小さな鉱石ランプは、大事に大事に懐へ。心細く揺れる氷漬けの燈が、本当はどんな色で輝くのか。飾られた妖精の翅が、どんなふうに照らされるのか――ただそれを正しい在り方で望むために、ティモールは鳥たちを見据える。
「来るなら来ーい! さあギアくん! ぜーんぶ、氷を溶かしちゃうよ!」
 はしゃぐ調子も明るい声も、いつもと変わりないティモールではあるけれど、朗らかな熱意に裏を読むものはどこにもいない。主の呼びかけに応える頼もしきガジェット・ギアくんは瞬時に組み変わり、ぱかりと口を開けた。その喉奥にちらりと燃える熱に、ティモールの目がきらりと光る。
「火炎放射器だねっ! よーし、氷の結晶体ごと撃っちゃお!」
 だって寒いし! ――そんな理由はさておいて。
 阻みにかかる氷の翼ごと、分厚く鎖す氷の檻ごと――アルバの差し向けた炎の子ごと、魔法の炎がぼうと包み込む。
「あ……っはは、豪快だな! 壊れぬ程度にしておくれ、少年」
 アルバの口から思わず零れた素の言の葉に、だいじょうぶ! と力強く(根拠はない)言い切るティモール。
 戦いながら成り行きを見守る猟兵たちの前で、ぴりぴりと微かな音を立てて氷が溶けていく。そして、
「ギアくんそこまでー! ほら、みんな見て見てー!」
 ――これが本当のランプの光だよー!
 歓声が洞窟に谺する。
 より力強く、より美しく、遮るものなく。時を取り戻した魔法の彩が、洞内に溢れ出す。

●光と風の交歓
「それにしても無粋な連中であることよ」
 口の端に笑みは絶やさず、けれど蜜色に輝くニルズヘッグの瞳には明らかな不快が滲んでいた。
 魔物に情緒を求めるのが間違いか。それにしても、弱らされてなお美しいこの眼前の輝きを、氷漬けにしようなどという思いつきこそが興ざめだ。
「まあ言っても通じはすまい。ならば体で知ってもらうしかなかろう!」
 滾る戦意に煽られて、氷の鳥の一羽がニルズヘッグを標的に定めた。結ばれたそばから降り注ぎ、鋭く床を穿つ氷柱群を身を転がして躱しながら、男は笑っていた。
「ふはは、そんなものか! 私の蛇は、鳥を相手にも怯みやせんぞ」
 向ける腕に絡みついた白の腕輪、と見ゆるは愛しきしもべ。赤い宝石めいた眼は主を一瞥し、そしてしゅるりと身を縮める。
「そうだ、さァ――貴様の毒牙で端から叩き落とせ!」
 発条のように跳躍した白い影が、虚空に羽戦くものの喉笛に食らいつく。キィィ、と声を軋ませ暴れる鳥の懐を足場とし、蛇は二度跳んだ。羽戦く力を失い墜ちるものあれば、その落下点に滑り込むのは無論、ニルズヘッグの槍。
 この広さならば、得物の暴れるままにさせても不都合は生じまい――けれど、無差別に場を荒らす一撃を選ばずに槍を取った、その判断には思いが滲む。そう、ここにあるのは勇者の思いだけではない。人々の願いの全てが詰まっている。
「魔物なんぞに凍らせてやるのは、それこそ勿体ないよなァ」
 光を取り戻した燈を狙い来る鳥を、槍の穂が迎え穿つ。
「これこそが勇者の想いのあるべきかたち。――貴様らの氷が侵すことなど二度とないと知れ!」
「ふふ、同感と言わせていただきましょう。秘めたる色の目覚めの時は、もう間近なのでしょうな」
 笑み含み、カーニンヒェンは名工の手になる刃をすらりと抜いた。銘を『老兎』――確かと謳われるその切れ味を目の前に溶け散らされる氷の鳥に体現しながら、ふむ、と手を宙に翳す。目の前に至ったものを斬り伏せるばかりでは、いかにも効率が悪い。
「ならば参られよ――アザゼル」
 それは六翼で天井を覆い、猟兵たちも氷の鳥たちも見下ろす視点を持つ。広き視界をあまねく埋めるべく射下ろす矢の雨は、カーニンヒェンは無論のこと、仲間や虹の彩りへも逸れることなく、氷の鳥だけを射砕いていく。
 彼らの命が冷気によって紡がれるのなら、破魔の矢はそれを奪い取る。ゆるり熱を上げる戦場を堕天使に任せながら、男はさて、と思案を巡らせた。
 硬く掘削の刃を通さなかったというその壁は、おそらく装飾にも向かなかったのだろう。虹の光に彩られることなき一面は、暗い灰色を帯びながらも透けるような質感を示している。
(「さて――何が待っているのでしょうか」)
 見えはしない。直感でしかない。けれど確かに、心に告げるものがある。

 声もなくただ目を瞠るばかりだった、虹色の洞。けれど未だ頭上を覆う敵意に、咲の唇に零れる息は意味を違える。
 氷に鎖された燈を解き放てば、温かな気配が溢れ出て。壁面の虹色は、込められた心の分だけ煌めき満ちた。
「あなたは、幸福の青い鳥ではないんですね」
 伝うことなかった恋。思いを鎖し、それでも最期まで幸せだったという勇者。彼女を愛した人々。目前の鳥が、今に連なる物語を幸せにうたうものではないのなら――ひたむきな想いに立ち塞がるものでしかないのなら、
「払いましょう。ここはあなたたちが好きにしていい場所ではないの」
 言葉ごと穿とうと放たれる氷柱を身軽く躱し、咲の眼差しは絶えず空を見る。鋭い爪の狙いが六感に触れた瞬間、読み切った軌道の先へ、本性とするものの片鱗――両の腕からするりと伸びた葡萄の蔓がしなやかに絡みついた。
 大がかりな術になるほど、この優しい場所は傷つく。墜落する一羽を待つ僅かの間に思案を巡らせて、咲は呼んだ。
「さや、――力を貸して」
 香りなく、それゆえにか清々しく。雪色の髪と衣を靡かせた椿の精が、ちいさな小太刀を手にひとさし、舞う。強かに戒める蔓の先、もがく氷の鳥を嫋やかな刃が貫いた。手応えは氷の如くゆるりと溶け、転がりゆきそうになったさやを抱き上げる。一瞬の後、氷柱がそこに突き立った。
 素早く躱す身のこなしを流石だと笑って、玖珂は娘の背に迫る氷柱のひとつへ腕を翻す。羽雲、と呼ぶ一声で溶けるように杖へと変じた鳥は、白い残像を纏って鋭きものを刺し貫いた。
「玖珂さん! ありがとうございます」
「礼なら私が言わねばなるまい。先刻の手引きに感謝を」
 おかげでこの戦列に間に合った。右眼に麗しき翠の花を咲かせた羅刹は、静かな猛りと花開いた魔力を杖へと伝わせていく。
「やるぞ、羽雲」
 命尽きるが先か、敵のそれが果てるが先か。自らの命を糧に火球を紡ぐ玖珂には、されど負ける心算などない。つく膝の先に、刻を止め凍てつく虹が解き放たれることはないと知る故に。
 六感の告げるその場所は、目にも明らかだ。虹の彩らぬ唯一の壁、その先に待つものを心が告げている。敢えて読みやすい軌道で躱させる鮮やかな熱は、無論無駄撃ちなどではない。
(「冒険者では至れぬ路――ならば」)
 ひらりひらりと躱し逃れ、見立ての中に敵の動きを閉じ込めていく。何を誘おうとしているのかを悟った咲の瞳が輝いた。
「私も手伝います!」
「ああ、心強い。勇ましいな、咲は」
「ふふ、褒めていただいて嬉しいです!」
 悪戯に笑み交わすその裏には、真摯な願いを抱いて。退路を奪いに来る氷柱を避けて、躱して、最後の一撃に足を取られて壁際へ追い込まれた、そう『見せる』。
 ――氷に鎖した贖いとして、あの爪に壁穿つ一撃を担わせよう。
 命を狩りに舞い降りた鉤爪が貫いたのは、誰の姿もなき硬質の障壁。アレクシスが友の足掛かりとして突き刺した剣の痕、ソラスティベルの雷撃が灼いた痕――ジャハルが誘った敵の蹴爪の痕。そこへもう一度、深々と。
 キィィ、と耳障りな声を響かせ藻掻く命を、椿の精の担う小太刀と炎を纏う杖の一閃とが終わらせる。奇しくもそれが最後の一羽。
 そして――壁を、亀裂が駆け抜けた。

 何も刻まれてはいない、彩りのない黒壁に光の筋が走る。
 それだけは崩れはしなかったろう。けれど均衡を破る力がある。かの壁の向こうから、この壁を越えようとする力がある。
「……そういうことか。――綻びた七彩が、彼の地まで届かんことを」
 玖珂の祈りが確信へと移ろう。
 からり、とひと欠片零れた。穿たれた小さな隙間から、風が届いた。からから、がらがらと、力強さを増して毀れゆく。
 春に解ける雪水のように、長き時を経て地に染み通った思い。その行きつく先、最果てが、猟兵たちの前に拓かれてゆく。
 ――それがこの物語の結末の、はじまり。

●背中合わせの挿話~七彩に笑む誓い
「わあ……! すごい、にじ!」
「すごいわ、地下なのに虹のかかった空があるみたい」
 外で見た虹の淡い輝きが、目の前に蘇る。氷から解き放たれた魔法の燈を跳ね返し、少しずつ広がっていく壁の欠落から零れる光と風が、きらきらちらちらと淡い反射を繰り返させる。
 この洞窟の奥へ踏み込んだときよりもひときわ華やいだ光景に、チロルとソルベはぽかりと口を開け、キトリはそっと息を零した。
「本当に大好きだったなら、想いを伝えてしまえばよかったのにって思うけど。……でも、それは野暮ってものよね」
「やぼ? 今回のゆうしゃさんのお話、チロにはむずかしくてよく分かんない」
 ことりと首を傾げるチロルに、そうね、あたしもと。少しだけ分かって、分からない思いを胸に、キトリは笑う。
「とってもとっても、大好きだったってことよ!」
「! そうなのね。それなら、チロといっしょ!」
 ――チロはキトリがだいすきだもの! 返る言葉にあたしもよと綻んで、飛ばされないようにと伸ばされたチロルの掌の中、キトリは静かにその輝きを見守っている。
 町の人々が繋いできた想いも、今はもうどこにもいない勇者の想いも――今、出逢おうとしているのかもしれない。

「なんて……きれい」
 迎える光に深度を増した虹の彩が、硝子玉のように澄んだ咲の瞳を通り抜け、心を射た。氷の戒めから解かれた燈が、鏤められたひとつひとつ、守り抜いた地上の星々をきらきらとさざめかせている。
 ここに刻まれたものは、熱だ。広々としたこの場所に、収まらないほどの心の熱が満ちている。触れるものの肌を、想うものの胸を、優しく暖めるほどの。
「命の尽きた後でも、想いが届くのなら……」
 届けたい思いがあった。今も胸に宿っている。だから、届く瞬間を見届けたい。溢れる光は咲の望むとおりを映し出す。

「……届いた?」
 無意識にぎゅ、と脈打つ傷に触れ、凛是は呟く。届いた。いつかと思っていたけれど、目の前で。それは自分の願いも、気持ちもきっとと信じさせるに足るもので。
 胸騒ぎがする。もしも獣の姿をとっていたなら、毛がざわつくような、逆立つようなと言ったかもしれない。崩れる壁から溢れ出る風、その向こうに、何かが。
(「――なんでだろ。なんでだろ……この、感じ」)
 凛是に答えをくれぬまま、壁は穿たれていく。光と風が、目の前に躍り出る。

 薄い唇をゆうるりと寛げて、イアは笑った。
「騒がせてしまってごめんなさいね」
 けれどもう、遮るものは何もないのだと。広げた袖には心地好く風が吹き寄せて、命なき気配に敏い男は目を細めてみせる。
「どうぞこんなところで消えずいて。そら――泡にならずに届いて、みせて」
「……まこと、心とは不思議なものですな」
 並び立つカーニンヒェンも、微笑みで顛末を見届ける。
 不安が魔物を作り出すように、望みが幻を見せるように。言の葉に紡ぎ、輪郭を描き出すだけで、在り方を変質させる思いがときにある。剣と魔法の世界にあれば、それは尚のこと。
 けれど時に、積もり、溶け出し、こんな美しい昇華を見せることもある。命の終わりの先に、呼び合う羽化の時を迎えることだって、あってもいいではないか。
「おはようございます。お寝坊どの」
 さあ――凍てついた時を越えて、迎えの風が届いたから。

 流れ込む光と風に驚いたように、氷から解き放たれた燈がみずみずと瞬いた。
 鉱石ランプに宿る魔法は凛と輝き、吹き寄せる熱に戦き震え――けれど躍る風に手を引かれ、ちらちらと光を散らして駆け巡る。
 思わぬ光に照らされ、プリズムを返す内壁の輝きは夢のようで、こまやかに彫られた数多の模様が織りなす煌めきは、祝福のようで。
 それだけで、見守る者たちには知れた。

 ――ああ、翅持つ勇者は出会ったのだと。
 鎖された祈りを解いてくれるただひとりに。地底から絶え間なく吹き寄せる、その風に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月13日


挿絵イラスト