タナハは辿る、エヴォルティオの枝葉
ソフィア・エルネイジェ
ソフィアがマリアと談話しているシーンのノベルをお願いします。
アレンジその他諸々お任せします。
マリアの姿は以下の通りです
https://tw6.jp/gallery/?id=205925
●久し振りの母娘対面
ある日の夜。
ソフィアはマリアの部屋を訪れていました。
ビバ・テルメで出会った4人とグレイグの関係性に付いて、報告と相談をするためです。
「こうしてゆっくり話ができるのも久方振りね」
「女王陛下、この度は多忙の中、時間を割いて頂きましたことを……」
「楽になさい。政務中でもあるまいし。メサイアは元気にしてる?」
「はい。壮健が過ぎるほどです」
「なら良いのだけれど。偶には顔を出すように言っておきなさい」
「伝えておきます。では母上、早速お伺いさせていただきたいのですが、皇王陛下……いえ、父上の家族や親類について、何か存じませんか?」
「グレイグの? 家族がいたという話は聞いた事がないわね。あの人は元々孤児だったそうだから」
「やはりですか……」
ソフィアの中で、あの4人はグレイグのクローンである事の信憑性が高まりました。
「グレイグに何かあったの?」
「実は……」
ソフィアはフュンフツィヒとタイプGの少年達について、マリアに話しました。
「グレイグのクローンねぇ? 1人でも世話が焼けるのに、3人も4人もいたら大変よ」
「それは確かに」
「けれど、私の与り知らないところで、あの人を勝手に増やされているのは考えものね」
「何を目的に父上のクローンを生み出したのでしょうか?」
「才能を欲したのかも。戦いに関する才能だけは随一だもの」
「父上にも報告に上がるべきと思われますか?」
「あの人に言ってもまともに聞かないわ。放っておきなさい」
「ではそのように。今回の件の扱いについて、母上はいかがお考えで?」
「市井に不要な混乱を与えたくはないわ。現時点で公表の必要はないでしょう」
「では、仰せの通りに」
「ソフィアは引き続き調査を続けなさい。本当にグレイグの生き写しなら狂犬も同然。止める者が必要です」
「承知致しました。それと、もう一つ……父上に関する事です」
「あの人がまた何かしでかしたの?」
「いえ、厳密には父上のギガス・ゴライアに関する事なのですが……オブリビオンマシン化を遂げています」
マリアは深い溜息をつきました。
オブリビオンマシンの概要は、以前からソフィアから聞かされています。
「困ったものね」
「精神汚染の兆候について、現段階では推しはかりかねますが……」
「嵐みたいな人だもの。破滅的な思想を植え付けられていたとしても、それが元々なのかオブリビオンマシンの仕業なのか、分からないわ」
「どちらにしても、事態が深刻化する前に手を打つべきと考えています」
グレイグのギガス・ゴライアは国家の象徴を担うキャバリアです。
敵国には抑止力を働かせています。
仮に失われれば、国内外に対して大きな影響が及びます。
ですが放置しておくのも危険です。
ギガス・ゴライアのオブリビオンマシン化を察知したグリモア猟兵が、猟兵を送り込んでくる可能性があるからです。
そうなれば国内で大規模な戦闘が始まってしまうでしょう。
「母上から父上にギガス・ゴライアを一時的に手放すよう説得できませんか?」
「難しいわね。あの人はギガス・ゴライアを心底気に入っているから。でも説得はしてみましょう」
「お願いします」
こうして夜は更けていきました。
だいたいこんな感じでお願いします。
●マリア・エルネイジェについて
エルネイジェ王国の現女皇王です。
ソフィア達の実母です。
「女王とお呼びください。その方が語感が良いでしょう?」
口調はソフィアと似ています(私、~様、です、ます、でしょう、でしょうか?)
●年齢
40代です。
若々しく見えるのは、戦場で鍛え上げた筋肉によるものです。
「やらねばならない事が沢山あるのです。のんびり老いてなどいられません」
●人物像
公正を重んじ、武を尊びます。
民に寛容な穏やかさと、敵には容赦しない苛烈さを兼ね揃えており、戦場では恐るべき戦乙女となります。
●様々な異名
槍の名手として有名で剣聖ならぬ『槍聖』の名で畏敬を集めています。
戦場に立てば常勝。
一騎打ちでグレイグを倒す。
他にも様々な偉業を成し遂げた事で『西アーレス最強の女』とされています。
エルネイジェ王国の最盛期に女王に君臨していた『ヴァレリア女王の再来』とも呼ばれています。
『グレイグを止められる唯一の人』でもあります。
●家族関係
良好です。
しかし末娘のメサイアにだけは甘く、あのような性格になった理由のひとつとなっています。
「私の可愛いメサイアは元気にしている? あの子はよく食べるから、お腹を空かせていないか心配だわ」
●前線は退いた
先代のインドラの巫女でした。
ソフィアが次代の巫女になったのをきっかけに聖竜騎士団団長の座を譲り、第一線を退いています。
以降は政務に専念せざるを得なくなりました。
「まったく、グレイグは自分の仕事も全部私に押し付けて……」
「今の私の戦場はテーブルの上です」
●政策理念
覇権主義を掲げ、軍事力と版図の拡大を推し進めています。
「守りたいものがある者は、常に強くあり続けなければならないのです。弱者必滅。強者絶対。闘神アーレスの教義は、遺憾ながら真の理です」
専守防衛や軍縮、自由民主主義化政策を推進するランベール派閥ら議会派勢力とは対立しています。
「弱腰な姿勢はバーラントの支配圏拡大を手助けするだけです。この百年を振り返ってもまだ分からないのですか?」
●ソフィアの憧れ
戦場に立つマリアの姿に、ソフィアは強い尊敬と憧れを抱きました。
槍を得物としたのもマリアの影響です。
しかしマリアの槍の腕は随一で、ソフィアは一度たりとも一本を取る事ができませんでした。
槍だけでは絶対に敵わないと悟ったソフィアは、大盾を持つようになりました。
●猟兵に対する認識
選ばれし者達と認識しています。
「我が子達に芽生えたその才覚、我が子達なら有意義に扱えるはずです」
ただ、その生命の埒外の力を悪用する者が必ず現れると確信しています。
「その力は自分が正しいと思った事に使いなさい。世界のため、誰かのため、そんな建前ではなく、何が正しいのかを見定め、選ぶ責任があります」
●オブリビオンマシンに対する認識
存在と概要はソフィアから聞かされています。
「ソフィアを疑うつもりはありません。しかし、その存在を認識する手段は、猟兵という限られた者達の主観だけ。これで民の納得が得られましょうか?」
「一部の主観にのみ認識できる存在を社会が承認すると、この見えざる敵を排除するため、主観に基いた暴力や支配が正当化されてしまう」
「権力者や過激な者ほど、オブリビオンマシンという口実を利用することになるでしょう」
客観的に存在を証明できる手段が見つかるまで、オブリビオンマシンの扱いは慎重にするべきとの考え方です。
ソフィアも兼ねマリアと同じ意見です。
●突然変異
生物の進化が優位な遺伝子によってのみ成されるというのならば、それは確かに血統を重んじる考えにつながるものであった。
だが、あくまで、だ。
それはある種の影響を及ぼすに至る、程度のものでしかない。
確かに優位なる血統は生き残る可能性を多く持ち得るだろう。
だが、進化という点において考えた時、血統の純粋性は殆ど意味を成さない。
人間という種としての進化は、種族の中の総数の変化によって突き進む。
サンプルが多ければ多いほどに精度が上がっていくのと同じように、だ。
クロムキャバリアにおいて、『エース』の血統が必ずしも戦場を支配するものではないのは、戦乱の世界が未だ統一されていないことからも明らかであろう。
嘗ての『憂国学徒兵』にして『グリプ5』の国父『フュンフ・エイル』が残した血脈がそうであるように。
小国家『八咫神国』が滅びたように。
その観点で言えば、『ノイン』は小国家『エルネイジェ王国』の『セルジュ・ランベール』を烈士として讃えていたし、指導者とはかくあれかしと認める所であった。
「覇権主義など、古き産物が生み出したものでしかない。永きを求めるのならば、それは淘汰されるべきものです」
嘗て、『ノイン』は『セルジュ・ランベール』にそう語った。
王族が掲げるところの『弱者必滅。強者絶対』は、進化という観点から見て、あまりにも時代遅れであり危険な思想でしかないと彼女の持論からすれば、断じることのできるものであったからだ。
王族という血統など、進化のプロセスにおいて、広大で複雑で、判然としない理屈の中の一部にしか過ぎないのだ。
「そういう意味では、あなたの掲げる専守防衛はと軍縮はいざ知らず、自由民主主義を導き出したことは大変に素晴らしい。正しくあなたは、進化の海原へと自らの意思で舵取りをされたのだ。これ以上に喜ばしいことなどないでしょう」
「何故、そう思うかね」
「あなたが進みゆくのは、可能性という名の混沌だからです。王族という血統に頼らずとも、人は生きて行く事ができると証明しようというのでしょう。だから、あなたは貴族主義すら捨てようとしている。市井からも力あれば、地位、血筋を問わず登用する」
「弱腰であると女皇王陛下からは言われたが」
「力が絶対であると嘯く女が言いそうなことです」
『ノイン』は鼻で笑ったようだった。
「あの女は、自らの夫とする存在こそが闘神アーレスの教義が真の理であることを体現していると知りながら、同時に『セルジュ・ランベール』、あなたの掲げる自由民主主義の旗印になっていることを認めないのです」
「それで?」
「仕込みは、すでに終わっています。ですが、過信はしないことです」
「何故だ?」
「わかっているでしょう?」
『ノイン』は笑っていた。
「どんなものにも理があるのならば、どんな理にも理外が存在しえるのですよ? それこそ、『グレイグ』のようにね――」
●母娘
ソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)は僅かに緊張した面持ちであった。
彼女が前にしている扉は、母であり、小国家『エルネイジェ王国』の現女皇王『マリア・エルネイジェ』の部屋であるからだ。
無論、ただ母に会いに来たわけではない。
ここに着たのは、現女皇王に謁見を求めたからである。
「こうしてゆっくり話ができるのも久方振りね」
母であるマリアの声色は柔らかいものだった。
謁見の間ではないからかもしれないが、ソフィアはまだ緊張が取れなかった。
「女王陛下、この度は多忙の中、時間を割いて頂きましたことを……」
恭しく礼を持ってソフィアは拝謁せんとしていたが、その堅苦しさにマリアは手で制した。
「楽になさい」
それは許しの言葉であったが、同時に此処には母と娘しかいないのだということを暗に示していた。
どこに目耳があるかわからない、とソフィアは理解していたし、また同時に己が娘として報告と相談をしに着たわけではなかった。
だから、彼女は礼を欠かさなかった。
「政務中でもあるまいし。メサイアは元気にしてる?」
「はい。壮健が過ぎるほどです」
「ならよいのだけれど。たまには顔を出すように言っておきなさい」
「伝えておきます」
口調が砕けた物言いになるのを、何処か懐かしさとして受け止めるソフィアは頷いた。
メサイアのことになるとマリアは眦が僅かに下がる。
それほどまでにマリアは末娘であるところのメサイアを溺愛している。
もし、また末の弟でも生まれることになったのならば、一体どうなってしまうのだろうかと思った。
とは言え、マリアはすでに齢は四十を数えている。
一見すれば、彼女の容姿は実年齢とまるでそぐわない美しさである。
二十代だと言われても、誰もが信じるだろう。
それほどまでにマリアの容姿は見目麗しく整っていた。
いずれもが戦場で鍛え上げられた内なる筋肉によって維持されている。すでに全盛期を超えたはずであるが、未だソフィアは彼女の肉体が練り上げられ続けていることを知る。
「では、母上。早速お伺いさせていただきたいのですが、皇王陛下……」
そこまで続けたソフィアは、マリアの視線が細められるのを見て取って、一つ咳払いする。
「いえ、父上の家族や親類について、何か存じ上げませんか?」
「グレイグの?」
マリアは、意外そうに目を見開いた。
娘からそんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「家族がいたという話は聞いたことがないわね。あの人は元々孤児だったそうだから」
そればかりか、敵国の兵士でもあったのだ。
仮に彼の家族が存命していたとして、こちらから敵国にコンタクトを取ることはなかっただろう。
それもグレイグ自身が頓着していないのだから、真実は闇の中である。
「やはりですか……」
わかっていたことだが、ソフィアは表情を曇らせる。
彼女の中で、小国家『ビバ・テルメ』にて遭遇した四人の後天性アンサーヒューマンの少年……『タイプG』と呼ばれていた彼らがグレイグのクローンではないかという疑念が確信に一歩近づくのを感じたからだ。
「グレイグに何かあったの?」
娘の様子にマリアは気遣うように尋ねる。
それはやはり確信をついてくる。
無駄などない。
鋭い槍のように話の要点へと突いてくるのだ。
「実は……」
ソフィアはこれまで遭遇したオブリビオンマシンを駆るパイロットたちの特徴の仔細をマリアに語る。
『エルネイジェ王国』近隣に嘗て出現していた『黒騎士』と『白騎士』と呼称される正体不明の機体、その一騎を駆っていたのが『フュンフツィヒ』と呼ばれる黒髪の青年であったこと。
そして、その『フュンフツィヒ』は暴走したとは言え、『ギガス・ゴライア』のレプリカを御していたこと。
さらには『タイプG』と呼ばれる四人の少年たち。
類稀なるキャバリア操縦適正。
みなぎる戦意とそれを支える戦闘技術。
それは正しく、幼き日に寝物語として枕で聞いた若き日の父の戦い方とそっくりだったのだ。
マリアは仔細を聞き終えると頷く。
「グレイグのクローンねぇ? 一人でも世話が焼けるのに、四人も五人もいたら大変よ」
「それは確かに」
どこかで父の粗野な笑い声が響いたような気がした。
あの父は制御しようとして制御できるような男ではない。唯一彼を従えることができるのが、母であるマリアだけだ。
娘であっても、これだけはどうしようもないことだった。
「けれど、私の与り知らぬところで、あの人を勝手に増やされているのは考えものね」
「何を目的に父上のクローンを生み出したのでしょうか?」
ソフィアにとっては、これが単純な疑問だった。
そう、確かに父は戦いにおいて母に比肩し得る存在である。
常勝たる母に届くかもしれない逸材。
それは王族という血統を重んじる『エルネイジェ王国』においては異質の中の異質である。
言ってしまえば、突然変異種とも言えるほどの力である。
であれば、だ。
「才能を欲したのかも。戦いに関する才能だけは随一だもの」
マリアは息を吐き出した。
邂逅を果たした時のことを思い出したのかもしれない。
父と母の出会いは戦場だった。
大凡、普通の出会いではなかった。
戦場とは殺し、殺される場所でしかない。恋だの愛だのが生まれる場所とは到底思えない。
だが、父と母は、その到底思えぬ場所で出会い結ばれたのだ。
であれば、戦場において愛が芽生える可能性がゼロだと断じることは愚かしい考え方であっただろう。
「父上にも報告に上がるべきと思われますか?」
他ならぬグレイグの遺伝子を用いてクローンが生み出されているのだ。
感情で言うのならば、不快であるかもしれない。
しかし、マリアは頭を振った。
「あの人に言ってもまともに聞かないわ。放っておきなさい」
まともに聞かないだけで済めばいい。
もしかすると、グレイグ単体で己のクローンと目される四人の少年たち『タイプG』が逗留している小国家『ビバ・テルメ』に赴く可能性だってある。
そうなった時、小国家間の戦争状態に突入するだろう。
悪戯に戦火を広げるだけだ。
それは避けなければならない。
如何に覇権主義とは言えど、四方八方に戦争をふっかける必然性もなければ、正当性もない。
そこまで考え、ソフィアは頷く。
「では、そのように」
「ええ、そうしてちょうだい。グレイグが飛び出しかねないもの。そうなった時、止めるのは、いつだって私の役目になるのだから」
「心中お察しします……今回の件の扱いについて、つきましては母上のお考えをお聞きしたく」
「市井に不要な混乱を与えたくはないわ。現時点での公表の必要はないでしょう」
今や、母の戦場は政治上のテーブルだ。
嘗ては、『槍聖』、『エルネイジェ王国』最盛期に君臨せし『ヴァレリア女王の再来』とも呼ばれていた彼女に、槍振るう戦場はもはやない。
様々な偉業を成し遂げた彼女でさえ、時間は味方しない。
けれど、それでも未だにソフィアは彼女を超えられる気がしない。
「ソフィアは引き続き蝶あを続けなさい。本当にグレイグの生き写しなら狂犬も同然。止めるものが必要です。場合よっては、首輪も」
「承知いたしました。それともう一つ……父上に関することです」
はあ、と大きな溜息がマリアからこぼれる。
「あの人がまた何かしでかしたの?」
すでにマリアの中ではグレイグがやらかしたのだと決定されているようだった。
それはそれでどうなのかと思わないでもなかったがソフィアは頭を振った。
「いえ、厳密には父上の『ギガス・ゴライア』に関することです……」
「近くに」
マリアの言葉にソフィアは歩みを進め、彼女の耳元に顔を寄せた。
「オブリビオンマシン化を確認しております」
大きなため息は深い溜息に変わった。
彼女は猟兵ではない。
だが、オブリビオンマシンという判別できぬ存在については、知識としてある。
「困ったものね」
第一声は、それだった。
絞り出した、とも言える。
オブリビオンマシンは、搭乗者をどんな高潔な志を持った者すら破滅願望にひた走らせる。
狂気侵す存在なのだ。
しかし、グレイグの乗騎がオブリビオンマシン化しているとは言え、彼の様子が妻であるマリアから見て変わらぬように思えるのは、一体どういうことなのか。
精神汚染がどこまで進んでいるのか、ソフィアにも推し量りかねていた。
故にマリアに報告したのだ。
「嵐みたいな人だもの。破滅的な思想を植え付けられていたとしても、それが元々なのかオブリビオンマシンの仕業なのか、わからないわ」
「母上でも、そう思われますか」
「ええ」
断言したことにソフィアは、ある種の絆のようなものを感じたかもしれない。
「どちらにしても、事態が深刻化する前に手を打つべきと考えております」
「妥当な判断ね」
それもそのはずだ。
『ギガス・ゴライア』はグレイグが乗ってこそ他国への抑止力となり得る。
国家の象徴とも言うべき黒鉄の獣騎なのだ。
仮に失われたとするのならば、他国からの干渉を赦すことになる。
さらに言えば、だ。
「グリモア猟兵が察知している気配は? 一度、聖竜騎士勲章を授与した女性がそうなのでしょう?」
「彼女が、予知する可能性はあります。仮にそうなれば」
「国内が戦場になるわね」
「……母上から父上に『ギガス・ゴライア』を一時的に手放すようご説得は……」
「難しいわね。あの人は『ギガス・ゴライア』を心底気に入っているから。でも、説得はしてみましょう」
うまくいくかはわからない。
だが、やってみないことには結果は得られないのだ。
それに、もしもの事態に陥った時、父を唯一止められるのが母であるソフィアである。
「よろしくお願いたします」
「それよりもメサイアのことについて話してほしいわ」
「メサイアの、ですか?」
ソフィアは頭痛がした。
メサイアのこと。
顔を思い浮かべるだけで、頭痛か腹痛が起こるようになってしまっている。
「ええ、私のかわいいメサイア。元気にしているのはわかったけれど、お腹をすかせていないかしら。心配だわ。よく食べる子だったものね」
母からすれば、末妹メサイアはまだ子供みたいなものなのだろう。
あれでもう戴冠式を終えた成人なのだから、子離れしてほしいところである。
だが、そういったところで母は首を縦に振らないだろうことは容易に想像することができた。
こういう母に自分も似るようになるのだろうかとソフィアは思う。
嘗て、いや、今も母は己の憧れだ。
戦場に立つ勇壮さ。
そして尚、その槍の腕は些かも衰えていない。
過去一度もソフィアは彼女から一本を取る事ができなかった。
故に悟り、『インドラ・ナイトオブリージュ』……『インドラ』の強襲仕様を好んで使うようになったのだ。
槍だけでは絶対に敵わない。
それは諦観とも取れるものであった。
が。
「お酒ばかり呑んでいないわよね? ちゃんと栄養バランスの摂れる食事をしているのかしら? ああ、心配だわ。ソフィア。メサイアに一度戻ってくるように説得してくれないかしら? あの子のかわいい顔を見ないと、私がんばれないわ」
「見れずとも頑張っていただきたいのですが」
「それは無理よ。メサイア、ああ、私のかわいいメサイア。撫でくりまわしたいわ。頬ずりしたいわ」
ソフィアは、息を吐き出す。
母が吐き出した溜息よりもでっかい溜息であったが、マリアは気にした様子もなく、ソフィアを見上げる。
「ね?」
「……はぁ、わかりました。伝えておきます」
「絶対よ! 絶対に絶対の絶対よ!」
ソフィアは、また頭痛の種が一つ増えたな、と思いながら、母の言葉を背に部屋を辞するのだった――。
成功
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