シャングリラ☆クライシス⑲~紫蘭彩めく
●わたしがいた。
そこには、わたしがいた。
一人で、無力なわたし。
喪われゆく故郷を前に、ただ立ち尽くすしかなかったわたし。
何者かの力に抗うこともできず、|流れ星《シューティングスター》を捕まえ、シャングリラ☆クライシスを引き起こしてしまったわたし。
故郷を滅ぼした星壊神が、この星をも壊そうとするのを止められない。それどころか手助けするように、向かい来るアイドルや猟兵を倒そうとするわたし。
何も忘れない。忘れられない。忘れたいことさえ。己の愚かしささえ。
道化のようだ。けれど、ぜんぶ覚えている。だからおどけることもできない。中途半端なピエロ。愉快にすらなれない。
神格者を生み出せる。だから、わたしは自分とそっくりの神格者を創った。けれど、それにわたしは勝ってしまった。
模造品は原作に勝てない、と。そういう枠組みから、はみ出ることもできない。
なんでわたしはこんな力を持っているんだろう。
いくら巻き戻しても、やり直しても、いちばんやり直したい時間には戻れなくて、思ったように修正もできなくて、不甲斐なさと不出来さを思い知るばかり。
なんで、こんな、意味もない……。
かちかちかちかち。
時計の音が刻まれる。
無慈悲に、いたずらに。
如何なる懊悩に苛まれようと、時間だけはいつだって規則正しく過ぎ去っていく。おまえはその一針のゆらぎに過ぎないのだと嗤われているようだ。
——オブリビオンなんて。
でも、わたしは強くなくちゃいけないと思った。忘れられないなら、どれだけ目を背けても残酷な現実はそこにあるまま。向き合うしかない。
人はよく「終わり良ければ全てよし」とかいう。それなら、そうなってくれないかな。
「終わってよかった」ではなく「良い終わりだった」と言えるような、そんな終幕へ。満足のいくパフォーマンス、ライブの終演を。この戦争の終焉を。
やり直す、やり直す、やり直す、やり直……。
……満足って、なに。誰が満足すればいいの。
わたし? わたしが満たされるの? わたしが満たされたところで、どうなるっていうの……?
どれだけやり直したって、巻き戻したって、わたしはもう取り返しがつかないの。ここまで来てしまった。オブリビオンになろうとしている。巻き戻しても、誰も喜ばなくて、そもそも喜ばせることができなかったのに。
『そんなことないよ、クオリアちゃん』
『大丈夫だよ。あたしたちはクオリアに生み出してもらえてよかったって思ってるよっ』
『素敵な愛をたくさんもらえたから』
『やさしい友達がたくさんできたから』
……生み出してしまった神格者の声がした。
あなたたちは、消えてしまうかもしれないのに。虚無に戻るかもしれないのに。それでも幸せだったって笑うのね。
それを「よかったね」と微笑み返せるわたしだったらよかったのに。わたしはうつろだ。
途方もないうつろから彼女たちを生み出したくせして、わたしがいちばん、うつろなのだ。
『うつろなんかじゃないよ。クオリアちゃんも、欲しいって言っていいんだよ』
『手を伸ばして、きっと取ってくれるよ、あのひとたちなら!』
ふたりの幻影が、向こうからやってくる影を指差す。
猟兵だ。アイドルだ。
輝かしい人々。|幸せな楽園の崩壊《シャングリラ☆クライシス》を止めに来た人たち。
「……あなたたちなら、」
ふと、思いつく。
このひとたちはこれまで、幾度もこのたびの危難を防ぎ、いなしてきた。だからこそ、世界は終焉に至っていない。
六番目の猟兵たちの柔軟かつ自由な戦い方には、わたし自身、何度も経験した。その強さを知っている。
覚えている。
「変えられる……?」
超えられる?
着想を得れば、もはや意のままに生み出せるようになった新たな神格者。
わたしと共に肩を並べて、戦って。
おねがい。
わたしに、
わたしに、見せて。
かちかちかちかち。
|かち《■■》を。
●楽園なんて、
「みんな、シャングリラ☆クライシスも、終わりの時が近い。悔いを残さないように、おれももう一踏ん張り、がんばろうと思う」
そんな決意を語り、グリモア猟兵のリッキー・ハートは居ずまいを正した。
今回彼が案内するのは『クオリア・シンフォナー』のいる戦場である。イエロータイガーとレッドライオン、二人の神格者を生み出した力は顕在で、猟兵たちが向かうと、彼女は新たな神格者を生み出し、それと連携攻撃を仕掛けてくるという。
そして、その新たな神格者は向かい来る猟兵と姿形、性格や戦い方までそっくりなのだそうだ。
「既にクオリアと対峙したことのある猟兵も多いだろうし、クオリアの持つ『忘れられない』体質があれば、再現するのは容易いのかもね。でも、記憶だけなのかな」
その強さは彼女が見た記憶だけで補完されているのかな。
リッキーの疑問は心に静かな波紋を落とす。小さくて、些細なゆらぎ。けれど、水面の全面が揺れる。
「自分のことは自分がいちばんよくわかってるっていう人もいるだろうし、模倣されただけのものに原本が負けるわけないって思う人もいると思う。
でも、少しだけ、考えてほしいんだ。クオリアは、どうして自分を生み出したんだろうって。会ったことない人の神格者も生み出してくるから、記憶だけじゃないんだ、これ。
クオリアを倒せば、そっくりの神格者はそれぞれの中に吸い込まれて消えるよ。なかったことになる。でも、消えるからこそ……きみたち自身の中に還るからこそ、意味を考えてほしい」
どんな思いがあったんだろう。どんな価値があったんだろう。
終戦までにクオリアの持ち場を制圧できれば、クオリアはただの少女に戻る。これまでアイドル☆フロンティアに出現してきたオブリビオンと同じく、オブリビオン化を解除される形となる。
記憶を忘れられない体質はそのままに。
それはクオリアの体質であって、我々は完全に全てを覚えていられない。欠落したり、美化したり、記憶を歪にするだろう。
だから「その瞬間」に考えるべきだ。
彼女が何を欲して、自分たちを象ったのか。
ただ勝ちが欲しいだけだったのか。
叫ばない彼女が巻き戻せない心を、どうか汲んで。てのひらひとすくいでかまわないので。
九JACK
コピーがオリジナルに勝てないことなんて、わかりきっている——そんな思いが根底にあるシナリオです。
当方の独自解釈ではありますが、このシナリオでクオリア・シンフォナーが生み出してくる「あなたそっくりの神格者」はクオリアの持つ「なにか」によって補完され、あなたと同等の強さを持つのだと思います。
やさしいシナリオが好きです。激しい心のゆらぎが好きです。
当方と似たものが好きな人に「わたしも好きだなぁ」と思ってもらえるようなシナリオにしたいです。
そんな心情系シナリオです。
一章完結、公開直後受付開始、短期募集、早期完結、適宜全リクやサポートを使う方針です。
プレイングボーナスはこちら。
プレイングボーナス:自分そっくりの「新たな神格者」の戦い方を見抜き、敵の連携を崩す。
みなさまらしいプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『クオリア・シンフォナー』』
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POW : ブラック・シンフォニア
【漆黒の最強アイドル】に変身する。隠密力・速度・【ユーベルコード】の攻撃力が上昇し、自身を目撃した全員に【崇拝】の感情を与える。
SPD : クオリア・カプリース
レベルm半径内を【高速回転する時計のオーラ】で覆い、範囲内のあらゆる物質を【時間操作】で加速、もしくは【時間操作】で減速できる。
WIZ : クロノス・アリア
【懐中時計】に宿る【時間操作の歌】を解き放ち、レベルm半径内の敵には[時間操作の歌]で足止めを、味方には【治癒速度向上】で癒しを与える。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
村崎・ゆかり
ご機嫌よう、クオリア・シンフォナー。
一手、お相手してもらっていいかしら?
あたしは、あなたに笑ってもらいたい。心から。
だから、あなたに染み込んだ骸の海を祓い落とさせてもらうわ。
淫雅召喚。
来て、ゆりゆり。
この子も元はゴーストで、それからオブリビオンになってたのよ。ゴーストって分かる?
それでも、あたしの想いが通じて、記憶から存在を呼び戻した。
どこかの誰かにそっくりね。
ゆりゆり、虚像のあたしを速攻で沈めて。あたしは虚像のあなたを薙刀で「なぎ払」う!
オブリビオンになったから何? あたしは何度でもあなたの手を取って引き上げる。
悲劇に浸ってるから、何もかもがつまらないのよ。一緒に、笑顔で楽しく歌いましょう?
熊ヶ谷・咲幸
がむしゃらに頑張るタイプで【怪力】による正面突破や力技がメインですが、力をコントロールできずにドジをすることもしばしば。【奇跡のドジ】でいい方向に向かうことも
【いっしょうけんめい☆がんばります!】でドジに拍車がかかって失敗ばかりでも【根性】で喰らいついて何度でも頑張って自他の成功率を上げます。相手が神格者さんとかなら、転生の成功率が上がってくれるといいな
【怪力】の他、【慈悲の抱擁】での浄化なども行うこともできます
敵さんでも仲良くなれればいいなと思ったらフレンド登録でマイチケ交換したいです
ユーベルコードは指定した物や公開されている物をどれでも使用します。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●独唱歌
響け、【ブラック・シンフォニア】。
時計の針が重たくかちりと一つ動く。時を司る一人の少女が、その力を高め、黒き女神として降臨する。
流れる音色はチャーチオルガンのものだろうか。教会などの神聖で静謐な雰囲気を醸す。それでいて叫びのような歌。
クオリア・シンフォナーという少女の複雑怪奇さをそのまま表しているのかもしれなかった。
漆黒の最強アイドル。作り物めいた美貌と熱の乏しい眼差しは人外めいていて、自然、頭を垂れたくなるような心地になる。
(……きれいな人だなぁ)
熊ヶ谷・咲幸(チアフル☆クレッシェンド・f45195)はしみじみ、そう思った。
咲幸自身もアイドルであるが、ドジが多く、人並み外れた怪力ゆえに、「普通」の中にいてはいけない、と閉じ籠っていたことがあった。アイドルから勇気をもらって、殻を破ってはみたけれど、がんばりはいつも空回る。
自分を助けてくれたみたいな素敵なアイドルになりたい。誰かの心を救えるアイドルになりたい。
……この人も、救ってほしいのだろうか。
感情の色が読めないクオリアの顔を見ながら思う。咲幸には何を考えているのか、さっぱりだ。でも、救いたい。
アイドルステージで打ち倒したら、オブリビオン化が解除される。アイドル☆フロンティアの「いつもの戦い」と同じだ。何も違わない。違わないのなら、声に出さないだけで、クオリアも苦しんでいるのだ。それなら、手を伸ばさなきゃ。
あたしはアイドルなんだから!
「掴め! 希望の元気星! チアフル☆クレッシェンド!!」
くるくると赤いリボンに包まれて、ふわりとリボンが解けた後、咲幸はチアフル☆クレッシェンドに変身していた。が、目を見開く。
「あ、あたしがいる……!」
そう、クオリアの傍らに、そっくりそのままのチアフル☆クレッシェンドがいた。クオリアが生み出した新たな神格者だ。そうなると事前にグリモア猟兵は言っていた。
が、咲幸はすっかり忘れていた。
どうする!?
「どうする!?」ではない。
が、他にも猟兵は到着していた。
うち一人……黒紫の髪を靡かせ、村崎・ゆかり(“|紫蘭《パープリッシュ・オーキッド》”/黒鴉遣い・f01658)は恭しくクオリアに一礼する。
「ご機嫌よう、クオリア・シンフォナー。一手、お相手してもらっていいかしら?」
「いいよ」
応じるクオリア。ゆかりは【淫雅召喚】で揺籠の君を呼び出す。
同時、クオリアも新たな神格者を生み出した。その神格者は二人の女性を象る。ゆかりとそちらのゆかりが召喚した揺籠の君。
「ゆりゆりのことも知っている……わけではなさそうね。ゴーストって知っている?」
「……幽霊?」
単純な英語なら、その意味であっている。が、かつて銀の雨降り注ぐ世界で人々を脅かした者らの呼称でもある。
「この子も元はゴーストで、それからオブリビオンになってたのよ。それでも、あたしの想いが通じて、記憶から存在を呼び戻した」
「……」
「どこかの誰かにそっくりね」
閉口するクオリアにゆかりは微笑みかける。嘲っても侮ってもいなかった。
ゆかりの想いとクオリアの想い。それが為したことは似ていても、厳密な性質は違うだろう。ゆかりは取り戻したくてゆりゆりの記憶に手を伸ばした。けれど、クオリアは。
戻らないものを戻らないと諦めている。諦めるしかなかった。
だから、似ているだけで、彼女らは違うのだ。
それでも、クオリアと並び立つ神格者はゆかりと同じ武器を持ち、能力を持ち、ゆりゆりをも呼び出す。ゆかりのゆりゆりが干渉される様子はない。そっくりだが、全く別の存在ということだろう。
「ゆりゆり」
ゆかりの呼び掛けに、ゆりゆりは速攻。神格者のゆかりとそちらのゆりゆりが行動を起こす前に蛇で絡め取り、動きを封じる。
クオリアが【クロノス・アリア】を歌い始め、ゆりゆりは足止めされてしまうが、神格者たちは特段負傷をしていないため、治癒されることもない。ただ、状況が進行しない。
歌声の奥底から、沸き上がるような悲嘆。それが濡らすように心に浸透していく。
(ああ、夢を見ているのね、クオリア。もう戻らないなりに、過去を想い続けているのね)
あの悲劇はどれだけ巻き戻したって過去のままだ。オブリビオンより取り返しがつかない。
それをわかっていてなお、クオリアは時を見ることしかできない。
そんな中、
「わあああああっ!?」
「っぐ」
派手な悲鳴と共に、赤いアイドルが飛んできた。その体がクオリアに見事体当たりを決める。そのため、クオリアは態勢を崩した。
これが目論見通りの動きなら格好がついたのだが、残念ながらチアフル☆クレッシェンドはお騒がせ☆アイドルである。クオリアが生み出したもう一人のチアフル☆クレッシェンドに投げ飛ばされたのだった。
『クオリアさん!』
神格者のチアフル☆クレッシェンドがクオリアに駆け寄る。力加減なくチアフル☆クレッシェンドを吹き飛ばし、結果、クオリアに体当たりさせてしまうというドジっ娘加減はさすがそっくり……と言えた。
が、自分そっくりの神格者に対し、チアフル☆クレッシェンドは強気に立ち上がる。何故なら、自分と同じ能力ということは、手加減が必要ない。壊してしまいそうだとか、躊躇う必要がないのだ! 何せ相手も同じだけの力を持つ。
「負け、ないから!!」
チアフル☆クレッシェンドが飛びかかる! が、神格者もがちっと受け止め、再び投げようとした。が、クレッシェンドは踏ん張る。そんな押し合いが続く。今度はこちらが膠着状態。
どうにかしなきゃ、と焦る中、考えて考えて、クレッシェンドは組み合った相手の足を思い切り踏みつける。
「わっ!?」
相手の隙を作ろうとしたわけだが、足が空振りし、むしろ自分が態勢を崩す。ちなみにもう一人のクレッシェンドが回避したとか、そんなことはない。
「きゃあああああ!?」
そのまますてーんと転び、形勢逆転される……と思いきや、転びながらも怪力で掴まれたままだった神格者は、転倒の勢いからばびゅーんと飛ばされ、尻餅をついた。
ぐしゃ。
『え』
神格者によって潰れたナニカ。それは、クオリアが取り落としたらしい懐中時計であった。
【クロノス・アリア】が止まる。
ゆかりそっくりの神格者はゆりゆりの蛇のブレスで沈められ、虚像のゆりゆりはゆかりの薙刀により薙ぎ払われる。
チアフル☆クレッシェンドの奇跡的なドジから流れるように繋がり、クオリアは再び一人になる。
そこにゆかりが歩み寄った。それに向けるクオリアの目は凪いでいる。倒される未来。それでも制圧されるまで、クオリアは蘇り続ける。終わるまで、終わらない。
時計は壊れた。それでも力がなくなったわけではない。巻き戻せば時計くらい、簡単に直せる。
そうやって、故郷も直せたらよかったのに。
「ねえ、クオリア」
「なに」
ゆっくり、俯けた顔を持ち上げると、ゆかりが目の前に来ていた。再現でも虚像でもない彼女。クオリアが生み出したのではないのに、ゆかりはクオリアに薙刀を振るうことはなかった。
代わり、手を差し伸べてくる。
「オブリビオンになったから何? あたしは何度でもあなたの手を取って引き上げる」
「どうして」
「あたしがそうしたいから。悲劇にばかり浸ってるから、何もかもがつまらないのよ。一緒に、笑顔で楽しく歌いましょう? 孤独なアリアなんて、もう歌う必要はないわ」
それにね、あたし、紫の蘭が好きなのよ。少し俯き気味に咲く姿、変わらぬ愛と美しい姿を花言葉に持ち、「あなたを忘れない」とするあの花が。
どこかの誰かにそっくりと思わない?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カンナハ・アスモダイ
自信たっぷりな表情
それなのに
不安で泣きそうな目の前の|神格者《わたし》
私そっくりだけど、何故だろう
クオリアに似ているような……?
よく分からないけど、不安いっぱいな子がいるならやってやるわ
|契約者《ファン》の皆、応援よろしくね!
目の前の2人を<励まし>、<鼓舞>するように
優しい声色で<歌唱><パフォーマンス>をお届け
応援してくれる皆の想いに元気を貰いながら、
貴女達に精一杯のエールを届けるわ
2人の真意はわからない
けど、
貴女達のキラキラ、きっと素敵だよって伝える為に
乙女魔法!萌え萌え❤ズッキュン!
<歌魔法>を奏で
温かい<浄化>の光を、貴女達に
忘れられないくらい楽しい思い出を、いつか貴女に届けたいから
ギュスターヴ・ベルトラン
確かにオレだな、性格も思考も同じ
助けたい一心で彼女のそばに立つのも、悔しい程にオレだな
でも…|Regarde-la en face《彼女を正面から見ろよ》!
助けたいと思うなら、まずやることは対話だろ
それをせずに、ただ諾々と言うこと聞くのはダメだって、分かってるだろオレならば!
わかってるならこっち来な
アイドル☆フロンティアらしく音楽でナシつけようや
【祈り】を込めUC発動
足を止められても他は動くAlléluiaを爪弾いて、大事なのは【愛を伝える】こと【声を届かせる】こと…
思いを口に出せないのはわかるとも、オレも大概そう!
…だからこそ言葉にならない祈りも歌も、ぼくは受け止めるよ
※連携等ご自由に!
●安らかなれ
壊れた懐中時計を拾う。
壊した相手を怒る気などない。クオリアが自ら生み出した神格者の一人だ。壊れてもクオリアの力なら、巻き戻せる。懐中時計は時を操る力を行使するための媒介であるけれども。
祈るように胸元に抱きしめる。漆黒のオーラがふわりと湧き上がり、かち、かち、と時計はまた正確に時を刻み始める。
時間は決して止まってくれない。この世の全ての時計が壊されようと、時計は時間の動きが可視化されるだけのアイテムに過ぎず、「時間」というのは概念で、概念は壊れたり、止まったりしない。
勝手に消えてくれはしない。
止まらない時間の中で、駆け抜けていく「生きる人々」。過去でない彼らは通りすぎていく。
猟兵はクオリアに触れようとする。干渉して、救おうとする。心を、掬おうと。
わたしは時間を汲み取れる。概念で形のないものを。時計を媒介に、記憶から抽出する。虚無から神格者を生み出すことができる。そんな膨大すぎる途方もない力を得た。
また、こちらへ向かってくる猟兵を、その姿形を掬い取ってみる。そうしたら、わたしは、
わたしは……。
俯く花の傍らに、二つの影が立つ。ピンクの髪のアイドルは漆黒の最強アイドルの傍らにあって、一切見劣りすることのない威風堂々とした佇まいで。主に敬虔である男は崇拝されるべきものが傷つかないようにか、守るように隣に。
鏡写しのような自分に似た神格者の姿に、カンナハ・アスモダイ(悪魔法少女★あすも☆デウス・f29830)は身構え、ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)は瞑目した。
『最高のアイドルの私と最強のアイドルのクオリアが揃ってるの。そんなのゲキアツでしょ? アイドルステージで私たちが負けるはずないわ』
クオリアと肩を並べてステージに立つ。それはカンナハだって何度も夢見た。敵とか味方とか、そういうしがらみが取り払われて、それが叶ったなら、どんなライブができるだろう。想像しただけで胸が躍る。
目の前の『もう一人』は擬似的にその夢想を叶えているわけだ。羨ましい。私もいつかその場所に立ってみせる、そこに立つ権利を掴み取ってやるんだから! と普段なら意気込んで、真っ向勝負とばかりに全力のパフォーマンスを繰り出すのだが。
願いも、意気込みも、変わりはない。翳りなどあろうはずもない。カンナハは多くの|契約者《ファン》たちに照らされ、輝き続けるトップアイドルだ。頂点がどこかなんて決めず、もっと、もっとと更なる高みへ登り続けている。けれど、この子は。
おんなじ顔、おんなじ強気さ。それなのに、なぜだか自信がなさそうに見える。言葉の節々が「自分に言い聞かせている」みたいに聞こえるのだ。
不安なこころを隠そうとしているみたいに。
——記憶だけじゃないんだ、これ。
グリモア猟兵の言葉を思い出す。クオリアの記憶だけでは、カンナハはこの言葉を紡ぎ出さない。こんな顔をしない。
記憶とは別の何か、それによる強さで補われている。だとしたら、この『わたし』はクオリアに少し、似ている?
クオリア、あなた、さみしいの? 不安なの?
レッドライオンもイエロータイガーも、あなたとちがう一人として戦い、輝いている。また虚無へと還るかもしれない。そんな怖さを抱えながらも、手を伸ばしている。
クオリア、あなたは、
「——クオリアも、あの『わたし』も、不安がっているのなら、私がやるべきことは一つ」
ゲキアツだ、と口では言っていても、心が寒いままなのなら、私がアイドルとしてやれるのは、その心を本当のアツアツにあたためること。
「|契約者《ファン》のみんな、今日もよろしく! いっくわよー!!」
プリンセスハート☆メ~クアップ!
祈りが届かないことが怖い。
心が砕けるときには音もしないんだ。主への祈りは静謐であることが好まれる。
故にギュスターヴは静かに目を開けた。
孤高であらんとするアイドルを守るように並ぶ『ギュスターヴ・ベルトラン』。背に庇い、つらさや苦しみから彼女を遠ざけようとする。いや、『ギュスターヴ』なら——「遠ざけよう」としているのではなく、「苛まれないように」と動いているのだろうか。
ギュスターヴは生み出された『もう一人』を見て、その有り様を「ああ、オレだな」と思った。
きっと、叫び出すことのできないその心を救いたいのだろう。壊れてしまわないように守っているのだろう。
悔しいほどに『オレ』だ。
「でも、|Regarde-la en face《彼女を正面から見ろよ》!」
その声に、向こうの『ギュスターヴ』はびくりと肩を跳ねさせた。
「助けたいと思うなら、まずやることは対話だろ。それをせずに、ただ諾々と言うこと聞くのはダメだって、分かってるだろオレならば!」
背に庇う? 敵の攻撃から守る? それで心が守れるか! 救えるのか!?
心が壊れるとき、音もないと思うのは、その心の声を聞かなかったからだ。聞き取りそびれたからだ。拾えなかった。手が届かなかった、と手を伸ばしているのならまだマシだ。だが、『オレ』のしているそれは違うだろう!
まずは手を伸ばせ。声を聞け。そうしないと何を叶えればいいか、何を祈ればいいかもわからない。「わからなかったから救えなかった」なんて言い訳は理解する努力を経てから言うものだ。
そんな叱咤。
向こうのサングラス、その向こうにある目が今、どんな色を宿しているかは窺えない。けれど、思考を歪められているわけではないのだ、そちらの『ギュスターヴ』は。だから、通じるはずだ。わかるはずだ。
自分の内側から放たれる情動は。
少し悔しげに、向こうは唇を噛みしめる。
「わかってるなら、こっち来な」
ギュスターヴはバイオレンスギター「Alléluia」を構える。
応じる気配があった。
「……行って」
『ああ』
『あなたの攻撃が通るように』『大事なのは愛を伝えること、声を届かせること……』——クオリアとギュスターヴが祈るように目を閉じたのは同時であった。
【クロノス・シンフォニー】と【レゾナンス・ワールド】がぶつかる。【クロノス・シンフォニー】の方が若干速かった。
けれど、【クロノス・シンフォニー】の足止めは、歩みを進ませないだけ。
(指は動く。声は出る。音は止まない)
なら、止められていない他の全てで。
『祈りは静謐であるべきじゃなかったか?』
「ここはアイドル☆フロンティア、演奏の一つや二つ、あった方が盛り上がんだろ!!」
最高峰のアイドルとの共演だ。二度とあるかわからない。
それに、最高峰のアイドルはもう一人。
黒や紫、クオリアのイメージカラーに彩られていたサイリウムがぱっとピンクに染まる。少し赤みの紫に近いような。
悪魔法少女★あすも☆デウスのサイリウムカラーに!
大丈夫『わたし』なら
ここにみんないるわ
ほら、123でわたしのカラー
愛の海
大丈夫『あなた』にも
ここにみんないるから
信じて
わたしも『みんな』の一人☆
【|心臓爆発☆乙女光線《モエモエキュン》】のファンサを添えて、悪魔法少女は応援の歌魔法を贈る。
応援してくれるみんな。アイドルステージにいる観客は決してカンナハ一人のものではない。もう一人の『悪魔法少女』である神格者にとっての|契約者《ファン》であることはもちろん、クオリアにだって魅了されて、サイリウムを振っていた。二人の思いや望むものとは少しだけ方向が違っても、これは紛れもない事実なのだ。
二人の気持ちはわからない。カンナハには読みきれなかった。けれど、アイドルとして何かが欲しいのではなくとも、ファンの応援は力になる。背中を押してくれる。アイドルステージのサイリウムは人々の無意識。その無意識が私たちの色に染まってくれているの。
それって、とても素敵にキラキラした現実じゃない——?
励まされ、鼓舞され、目を灼くような浄化と希望の光が、白く、白く。
クオリアは唇を引き結んでいた。誰かの涙がぱたぱたと零れて消える。自分自身から激励された『カンナハ・アスモダイ』の熱い涙だった。ああ、『彼女』は心をあたためられたんだな、とクオリアは思う。
どうしたら、いいのかな。どうしたら……。
悪魔法少女★あすも☆デウスによる特大の|乙女魔法《ファンサ》を受けてなお、クオリアはまだ、立ち止まったままだ。思いはたぶん、溢れそうなほどに募っている。
けれど、どうしたらいいかわからない。多すぎて、抱えきれないのに、こぼしてしまうのが怖くて、なくしてしまうのが怖くて……。
そうして、抱え続けることばかり選んでしまった。それができてしまったクオリアだから、吐露の仕方がわからないのだ。
途方に暮れそうな彼女を【共鳴振動】が震わせる。直したばかりの懐中時計がぴし、と音を立ててひび割れた。
軽く目を見開くクオリア。
まだ、ステージは終わっていない。終わっていないけれど。
「思いを口に出せないのはわかるとも、オレも大概そう! ……だから」
アイドルのパワーで光溢れる中ゆえ、ギュスターヴは眩しすぎてサングラスを外せなかったが、その目元が柔らかになったのを、声音から感じ取った。
どうして、そんなにやさしい声で。どうしてそんなにやさしい顔を。
クオリアが戸惑う。けれど、向けられた慈しみは、言葉は。
「言葉にならない祈りも歌も、ぼくは受け止めるよ」
……欲しかった、ものだ。
ぼくはね、祈ることが好きだよ。ぼく自身が祈るのも、だれかが祈っている姿を見るのも。
だから、うまい言葉を紡ごうとしなくていいよ。思いを捨てないで。諦めて、忘れようとしてしまわないで。ここでぼくが聞いているよ。
その声は、よく届いた。慈愛がじんわりと心をあたためる。ずっとあったのに、火の灯されることのなかったキャンドル。そこに炎が渡された。
仄かな明るさが添えられて、やっとクオリアは、飲み込み続けた息を吐き出す。
「さみしかった……」
一人ではなかった。
独りだった。
記憶を忘れられない。脳はあらゆる記憶に埋め尽くされるのに、心はずっと、うつろなままだった。空洞みたい。
風が通って、すーすーとして、寒かった。
いくら神格者を生み出しても、生み出した彼女らが微笑んでくれても。
わたしはずっと、さみしいままだった……。
ひとりになりたくない。
ひとりでいたくない。
もう、いやだったの、ぜんぶ。
失ってしまった故郷も、生み出してしまった命も、戻らない。帰ってはこないし、なかったことにはならない。
望まなかったことばかりが降り積もって、何かしらが増えているのに、空洞は風が抜けるまま。
さみしかった。
——たったその一言だけ。
紡げたのは、それだけ。
でも、彼女の骸の海は拭われて、浄化され、
やがて、『クオリア・シンフォナー』は「一人の少女」となるだろう。
大成功
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