なないろみずうみ~夢光兎~
どこまでも続く冒険の空の世界、ブルーアルカディア。季節が夏ともなれば、様々な冒険者達が旅行やバカンスへと旅立つことも多い。
それは猟兵達も変わらないようで、数多ある島々は彼らをすべからく受け入れている。ふたつの虹が掛かった浮島に降り立った二人の猟兵は、そのうつくしさに目を瞠った。
わぁ、とはじめに歓声をあげたのはココ・ロロで、はじめてやってきた異世界にわくわくが止まらない。
「ほんとうに島がたくさん浮いているのですね~」
「うん、楽しげだなぁ」
夏彦・星彩も、普段はあまり訪れることのない世界。それでいて仲の良い友達との夏休みなのだから、これから何をしようか考える。グリモア猟兵の話によると、幻の召喚獣達が住んでいると聞いていて。
周囲を見渡してみれば確かに清浄な空気が流れていることが、瑞獣とキマイラである二人には感じられる。ここなら、きっと秘められた生き物が穏やかに暮らしているのも頷けた。
「召喚獣たち、どんな子たちでしょう」
「星彩やココ達とも仲良く遊べるのを、楽しみにしよう」
はい、と頷くココの恰好は、さわやかな浅葱色のシャツに麦わら帽子。ひまわり色の浮き輪は、星彩と一緒に使っても沈まない丈夫な一品。一方の星彩も、中華風のトップスにハーフパンツの水着で水遊びの準備はばっちり。
――いざ、二人は虹の湖面へと近づいていく。
二重の虹が水面に映しだされて、その煌めきは湖の底まで見えるよう。そっと星彩が水を軽く掬ってみれば、ひんやりと心地よい。つられるように、ココも自分の脚のつま先を湖のなかへ。真夏の暑さであれほど帯びていた身体の熱も、やがてそよ風と湖の冷たさによって和らいでいく。
思いきって二人一緒に、せーので太ももまで水に浸かる。きよらかな感覚が全身に巡って、はふ、と息をつく。
「気持ちいいですねぇ」
「うん」
ふくふくと笑いあう彼らの耳に、ちゃぷりと水音が届く。自分達以外のそれに意識を向ければ、どうやら湖のまんなかあたり。
浮き輪をぷかぷか、泳ぎながらそちらへ近づいてみると、透けてしまいそうなほどにましろのちいさな獣の群れが飛び跳ねている。
「……兎、だろうか」
「翼もはえてます」
ぴょんぴょんと湖面を跳ねる翼の生えた兎達が、この湖に住まう召喚獣の一種だとわかっ時、彼らの視線がこちらへ向く。ぱしゃんと水飛沫をあげながらこちらへと跳ねて近づく召喚獣達は、愛らしい鳴き声で少年達を招く。
「サイさん、これって」
「一緒に遊んでくれるみたいだ」
遊びのお招きならば大歓迎。顔を見合わせた二人に、ましろの獣の群れは思いっきり水を浴びせる。
「わっ」
「水遊びなら負けないぞ」
そうして始まる水のかけあいっこで、きらきらとした光がプリズムめいて輝いている。水飛沫がきらめく度に、羽根つき兎達も七彩をその身に宿して乱反射。綺麗ですねぇ、と感嘆するココに頷いて、星彩も兎のジャンプを目に留める。
――ふと、兎達の動きが止まって、また甘えた声で二人を呼ぶ。
「どうしましたか~?」
「休憩の時間か?」
二人が首をかしげた次の瞬間。ふわり、少年達の身体が宙に浮く。驚いた二人を空へと連れていくのは兎達で、ちいさな身体でいとも簡単に星彩とココを空に羽ばたかせた。
やがて二人の足が降りたのは虹の上で、真下にひろがるのは先ほどまで遊んでいた湖だった。
「虹の上に立つなんて、ココ、はじめてです……!」
「星彩もだ、驚いたなぁ……!」
ふわふわぴょんぴょん、兎達が虹の上を跳ねる。手をつないで彼らの元へと歩いていけば、七色のやわらかな光の橋はやさしく二人の脚を守ってくれる。
「こんな風に空を楽しめるなんて、星彩は思ってなかった」
「はい、なんだか夢みたいです」
くすくすと笑う少年達は、兎達とも共に空の散歩を楽しむ。つなぎあった掌のなかには、まんまるなプリズム宿すふたつの石が握りこまれていることに気づくのは、もうすこし後のこと。
夏休みはもうすこしだけあるから、終わってしまうまで遊び尽くそう。
羽根つき兎達がぴょんこと跳ねて、夏が終わっても二人の傍に寄り添っている。
成功
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