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血肉を食らうマモノ

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●忍び寄る手は翅を千切る
 暗い夜、ある山林の中。
 誰かが倒れた俺の前に立っていた。
 他の冒険者でも来たのだろうか…。
 ゆっくり顔を上げるが、肝心の相手の顔が暗くてよく見えない。
 目の前に立っている相手の手には、先ほどまで一緒だった妖精がいた。
 危ないからと逃がしたその子は、目の前にいるそいつの手に捕まっていた。
 もがいて抵抗するその子をしっかりと掴んで離さない。
「お、おい……その子に、なにを…」
 するとまるで俺に見せつける様に小さくて透明な翅を毟り始めたのだ。
 一枚一枚丁寧に。
 もがれる度に涙を流す妖精。
「やめ…その子は何も悪い事、してない…殺すなら俺を…」
 そう言った俺の言葉に相手の動きが止まる。
 でもそれは一瞬だった。
 次の瞬間、闇の中で相手が口を開くのが分かった。そしてそのまま妖精を食らい始めたのだ。
「ぎゃ」
 短い悲鳴を残して、あの子は無残にも散ってしまった。
 パキ…ペキ…と骨を砕く音がただ静かな闇の中に響く。
 男の悲鳴と意識はここで途切れた。

●集う猟兵たち
「………集まっていただき感謝します」
 一同に頭を下げたのは、グリモア猟兵のロダ・アイアゲート(天眼石・f00643)だった。その声はいつもより少し強張っている。
「単刀直入に申します。アックス&ウィザーズの世界で少々気分の悪い予知を感知しました。…と言っても、視られたのはわずかな情報のみで、敵の正体まで把握は出来ていません」
 ロダは視えた予知を語る。暗い山の中で、何者かが捕食する場面を。
「視えたのはほんのわずかで、敵がどんな技を使うのかも分かりません」
 確認できたのは現場と、その山の麓にある街。
「情報が少ないため、皆さんには現地で情報収集を行っていただくことになります。街の中には冒険者も多く立ち寄る酒場があるので、そこなら何か知っている人がいるかと」
 ロダは再び深く頭を下げた。
「本来であれば、もっと情報のある状態で皆さんを送り出したかったのですが…」
 何度も何度も予知を見直したが、得られた情報は変わらなかった。
「おそらくこの捕食者はオブリビオンと見て間違いないでしょう。であればこのまま放置することも出来ない事態です。皆さんには情報を集め、この事件の解決及びオブリビオンの撃破をお願いしたいのです」
 ロダはグリモアを起動する。
「…相手は捕食者です。皆さんも狙われる可能性はあるでしょう…。ですが…皆さんなら無事に戻ってくると信じてますから」
 そして猟兵たちの転送を開始するのだった。


小人星人
 皆さんこんにちは、小人星人です。
 今回はシリアスなシナリオとなっております。ネタ展開はありません。
 舞台はアックス&ウィザーズ。
 過去のシナリオに比べて判定も厳しめにしております。
 損傷や残酷な描写もあるので苦手な方はご注意ください。
 プレイング受付についてはマスターページに記載しますので、そちらをご確認ください。

●1章は情報収集パートです。街中の酒場で聞き込みを行っていただきます。夜の方が酒場は活気がありますので、夜の酒場で情報収集した後そのままオブリビオンの元へ向かう流れになります。有益な情報が得られれば、この後の戦況に影響が出るかもしれません。

●2章は集団戦になります。現状何がいるのか分かっていません。酒場でもしかしたら情報が聞き出せるかもしれません。

●3章はボス戦です。現在分かっているのは、捕食者という事のみ。どのような攻撃をして予知に出てきた冒険者たちを追い詰めたのか、どんな姿なのかはまだ分かっていません。

 酒場で得た情報によって導入文で提示される内容が変わります。
 それでは皆さんの進む先に、少しでも光があることを祈っています…。
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第1章 冒険 『酒場での情報収集』

POW   :    腕相撲などの競技や、喧嘩などによって相手に力を示すことで情報を得る

SPD   :    ある時間にしか現れない事情通を捕まえる

WIZ   :    魔法で困りごとを解決した対価に情報を得る、口車にうまく乗せて情報を得る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 移転を終えた猟兵たちが立っていたのは、街中の広場であった。
 普段は夜になっても人通りもあるようだが、その広場にいたのは彼らだけであった。

 猟兵たちは事前にグリモア猟兵から聞いていた、酒場の場所へと向かう。
 程なくしてお目当ての場所には着いた。
 だが、街中よりは人の気配があるものの、想像していた活気はそこにはなく。
 静かに戸を開けると、中にはそれなりに人はいた。
 陽気な様子は見られず、強張った面持ちの冒険者たちがそれぞれ情報のやり取りをしているように見えた。
 捕食者の影響が街中に影を落としているのかもしれない。

「いらっしゃい…ちょっと雰囲気が暗くて申し訳ないけど、ゆっくりしていっておくれ」
 猟兵たちを出迎えた妙齢の女性が声を掛ける。
 その顔は無理をして笑顔を浮かべていた。

 各々席を確保し、情報収集のため酒場内にいる人たちに話しかける。
 有益な情報は果たして得られるのだろうか…。
ライラ・カフラマーン
おそらくここにいる冒険者の方々も討伐の件でいるのでしょうね
ならば同じ冒険者の振りをして、それとなく聞きだしましょう
荒事は得意ではないですからね、こういった処でお役に立たないと

「いえいえ、何か軽い食べ物をいただけますか? それと暗いのはなにかあったのでしょうか」
何も知らないそぶりで店主から事情を伺います
行きかう冒険者達を指してそれとなくうながしたいですね【コミュ力】

店主から聞きだしたネタを元に、冒険者たちから情報を聞き出してみましょう
もしかしたら敵と遭遇して引き返してきた一団もいるかもしれません【情報収集】
「仲間と山に向かう予定なのですが御同輩、とりあえず一杯。そして情報共有といきましょう」


ニコラ・クローディア
WIZとSPDの併せ技?

こういうときは、酒場の主から事情通を紹介してもらうのがいいわよね
「こんばんわ、マスター。とりあえず、このお店のお勧めを1杯いただけるかしら?」
カウンターに腰掛けて妙齢の女性(推定酒場のマスター)から情報収集
雰囲気が暗い理由や、最近近場で起きている事件、流れている噂などを浅く広く聞いていく
「なるほどね――一応、仕事を探しにきていてね。この近くで賞金のかかってるモンスターや、被害の大きいモンスターについてご存じの方とかいらっしゃらないかしら?」
良ければ紹介してくれないか、と相場よりやや多めのお金をマスターへ
顔繋ぎまで出来れば、あとは予知の情報を元に聞きだすだけよ

アドリブ歓迎



●被害者たちの話
 女性に招き入れられた猟兵たちは、それぞれ話が聞けそうな人の近くの席を確保する。

 招き入れた女性がカウンターの内側に戻るのを見ると、彼女がここの店主と見たライラ・カフラマーン(放蕩占術師 琥珀のライラ・f09622)とニコラ・クローディア(世界を渡る龍賢者・f00091)はカウンター席へと腰を下ろす。
「ごめんなさいね、折角酒場に来てもらったのに辛気臭い感じで…」
 ここでも謝罪を口にする女性。申し訳なさそうな表情の奥には、それ以上に悲しみと不安の色が見えた。
「いえいえ、とんでもない。…何か軽い食べ物をいただけますか?」
「あ、あとこのお店のお勧めの1杯もいただけるかしら?」
 目の前の彼女も何らかの形で被害を受けたのかもしれない。ライラとニコラは目配せをし、敢えてそう言った。この酒場を取り仕切っているのが彼女なら、この酒場に詳しいのもまた彼女である。その人を怒らせたりすれば情報は遠ざかってしまうだろうから。
「ちょっと待ってね」
 慣れた手つきで食事と酒を用意する女性。程なくして二人の前に置かれたのはクラッカーの上にチーズと生ハムとハーブをのせた小さなおつまみと、グラスに注がれた青い酒だった。
「軽い食事ってなるとこういうものしか今用意できなくて…でも、チーズも生ハムもこの街の特産だから味は保証するわ」
 早速出されたそれを口へと運ぶ。サクッと軽い触感と共にチーズと生ハムの塩気が合わさり、最後にハーブが味を締める。特産というだけあってその味は確かに美味しく、青い酒との相性がとても合っていた。
「確かに…すごく美味しいわね、これ」
「でも『こういうものしか用意できない』というのは…もしかしてこの暗い雰囲気と関係が?」
 行き交う冒険者たちを指してライラは問う。冒険者たちの表情もまた暗く、硬いものだった。
「……ええ、まぁね」
「それってモンスター絡みだったりするのかしら?」
 眉を下げて少し俯いていた女性がニコラを見る。
「一応、私たちも仕事を探しにきていてね。この近くで賞金のかかってるモンスターや、被害の大きいモンスターについてご存じの方とかいらっしゃらないかしら?」
 あくまで自分たちはモンスターの情報を求めに来た冒険者だというように振舞うニコラ。
「いるけど…」
 口を閉ざす女性。今回のモンスターは今までと一味違うのが分かっているからか、ライラとニコラの身を案じているようだった。
「心配しなくても大丈夫ですよ、私たち二人だけではありませんし」
「そうそう、それに誰かがやらなきゃ被害は増えてく一方でしょ?」
 二人の言葉に小さく頷く女性。
「そう、よね…」
 そう言うと彼女はフロアの隅にいる男性たちを指差す。冒険者のような出で立ちをした男3人と、白髪交じりの体格のいい男性1人は何やら神妙な面持ちで話し合っていた。
「あそこにいる白髪交じりの男の人、ここで情報のやり取りをしている私の父なの。『エイジュから紹介を受けた』と言えば、話をしてくれるはずよ」
 ライラとニコラは男性を見る。遠目ではあったが、何となく目元の雰囲気が似ているように感じた。後で分かった話だが、この酒場は妙齢の女性(名をエイジュという)の一家で切り盛りしており、普段は彼女と彼女の母が接客を、彼女の父が情報屋として冒険者と情報のやり取りを行っているようだ。
「エイジュさんのお母さんは…」
 もしや被害に…と思ったが、エイジュは首を振る。
「母はね、今回のモンスターの件で被害にあった人たちのメンタルサポートをしているの」
 日頃酒場での接客で培ってきた話術を使って、街中の家々を回って話を聞いているとのことだった。ホッとしたものの、酒場に来ている人たちだけが被害者ではないことを知る二人は、エイジュに礼を言って席を立つ。カウンターの上には、空になった皿とグラス、そして相場よりやや多めのお金が置かれていた。
「お客さん、これは…」
 受け取れないと言いたげなエイジュの言葉を遮り、ニコラは首を振る。
「美味しい食事とお酒、それから紹介料よ。物資の流通にも影響が出ているなら、仕入れだって普段より割高になっているでしょ?その分だと思って、ね?」
 ニコラたちの好意に、エイジュは静かに頭を下げた。

 二人は席を移動し、紹介された男性の元へと向かう。近づいてくる二人に気付いたのか、冒険者たちとの会話を中断し、エイジュの方を見る男性。その視線を受け取ると、エイジュは深く頷いた。
「…お嬢さんたちも例のモンスターの情報を求めてるのか」
 この酒場で今最も話題に上っているのはやはり予知で視たオブリビオンなのだろう。二人が求める情報も必然的にその存在だと思った男性は二人へ視線を向ける。
「ええ…その様子だと何か情報があるのでしょう?」
「教えていただけませんか、そのモンスターについて」
「……戦って無事でいられる保証は出来ねえぞ、それでも聞くのか?」
 今まで情報を渡した冒険者たちがちゃんと無事に帰ってきた試しはない。戻ってこれたとしてもそれは、大事なモノを失ってボロボロになった奴らだけだ。そして彼らはみな揃ってこう言うのだ。『あんな化け物に勝てる奴がいるのか…』と。
 それでも。
 目の前にいる彼女たちの目は真っすぐだった。
 一つ小さくため息をつく。
 アイツもこんな目をしていたな…と。
「わかった……お嬢さんたちの知りたいこと、俺に分かることなら答えよう」
「良いんですか、おやっさん…」
 冒険者たちも心配なのだろう。だが、それを制してライラとニコラを促す。
「ならまず基本的なことを。そのモンスターの被害っていつから出てるの?」
「…確か、ふた月くらい前だったな。最初はこの辺に出るモンスターが山で動物を狩っていたのかと思ったんだが…」
「小動物の骨が落ちてることは今までもあったからな…気付くのがもう少し早ければ…」
 もしかしたら犠牲はもう少し抑えられたかもしれない…と思うもすぐに頭を振る冒険者。
「この街で一番の冒険者たちが山に向かったけど…戻ってきてないし…」
 もう一人の冒険者は遠くを見る。
「ああ、グロームさんたちならきっと何とかしてくれる…そう思ったけど…」
 別の一人はエイジュの方を見た。つられる様にライラとニコラも彼女を見ると、彼女はグラスを磨きながらも、どこか心此処にあらずのように見えた。
「グロームさんというのは…?」
「この街で一番の冒険者だよ。そんでエイジュさんの恋人さ」
 先ほどの彼女とのやり取りを思い出す。暗い雰囲気の理由を聞いた時、わずかだが彼女は薬指の指輪に触れたのだ。特に気に留めていなかったが…。
「この街の一番の冒険者であるグロームさんが山に向かったけれど、戻ってきていない…という事ですか…彼女が無理に笑っていたのはそれが理由…」
 納得はいったが、それと同時にエイジュの心境を思うと苦しかった。
「ちなみにそのグロームって人たちが山に入ったのっていつ頃なの?」
「ひと月前だよ。…でも戻ってきていないし、行方も分からない…。後日捜索隊が山に入ったが…彼らも戻ってきていないんだ…」
 俯く冒険者たち。探しに行きたくてもこうして酒場に留まっているのは、怖いからだ。『自分たちより強い人たちが誰も戻ってきていない』その現実が、重くのしかかる。
「運よく逃げてこられた奴らもあの調子だしな…」
 酒場を見渡すライラとニコラ。客の中に周りより一際落ち込んでいる者や、酒で忘れようとしている者などがちらほらと見受けられ、そんな彼らに仲間の猟兵たちが情報を聞き出そうとしているところが見えた。

「もし、討伐に行くっていうなら…申し訳ないが、そいつ等の遺品でも何でもいい。何か残っていたら持って帰ってきてほしい…」
 白髪交じりの男は二人に頭を下げる。一番は本人たちが戻ってくることだが、それはもはや望めない。だからせめて…。
「あいつの、エイジュの肩の荷を少しでも降ろさせてやりたいんだ…」
 それは情報屋としてではなく、一人の娘と、その娘を愛した息子になるはずの男を想う父親の姿だった。
「…ええ」「…うん」
 二人は力強く頷き、オブリビオン討伐への気持ちをより強く持つのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

江田島・乱蔵
アドリブ、絡みOKです。
酒場の中を見回し、出来れば帰ってきた直後らしき冒険者達の席に同席する。
「お疲れ。一杯奢らせてくれないか?」
何者か聞いてきたら
「最近、この付近で残虐な行為を行う輩がいると聞いた。俺達はそいつを狩りに来た者だ。何でもいい、知ってる事があったら教えてくれないか?」
と、素直に言う。
彼らから情報を収集し、もし、情報を持っている人を他にも知っていたら、その人を紹介して貰う。
なるべく得たい情報は「敵の出現場所」「敵の容貌及び数」「襲撃された時の状況」「敵の攻撃の仕方」等。
情報の収集が終わったら、他の猟兵と合流。情報を照らし合わせた後「影の追跡者」を召喚、先行させながら現場へと向かう。


ビードット・ワイワイ
夜間に酒場を訪れ事情通を探しけり
【第六感】を働かせ客に【視線】を配りて探りつつ
【念動力】にて【パフォーマンス】を行いて【存在感】を出して
楽しませり。心を掴めたならば【コミュ力】にて常連客らに事情を
話して今回の事態の情報を掴んでおる者を探そう

そこなる御仁、我は此処近辺にて発生せし異常事態を調査せし者なり
されど情報掴めずして。逃げし妖精を甚振って襲うことから残虐な者
であることは判明しておりけり力量ならば十分なりて、情報あらば
教えてもらえぬか?場所、襲われし時間帯、攻撃手段、敵と共に
おりし者が判明しておれば幸いなり


トリテレイア・ゼロナイン
捕食者……酒場の様子を見るにだいぶ噂になっているようですね
私の予想ですが、山に出る捕食者に最初に遭遇、被害を受けるのは冒険者ではなく、山で生計を立てる猟師や木こりの方ではないでしょうか?

その方々が冒険者に事態の解決を依頼し、それが果たされなかったからこの雰囲気になっているのでは……

猟師や木こりは事態の解決をしてくれる冒険者が出てくるのを待っているはず。酒場の主人に紹介してもらい●礼儀作法●世界知識を駆使して遍歴の旅の最中の冒険者の騎士として振舞い、情報提供してもらいましょう

実力を疑われれば●怪力で中身入りの酒樽を持ちあげて安心させます

山に慣れ親しんだ方から見た異変の情報を得られればよいのですが


シリン・カービン
必要な情報は、捕食者の正体、能力、数。
直接見た人がいればいいのだけれど、
生き残りがいなければ情報を集めて類推します。

襲われた冒険者の情報。
襲撃現場の状況。
被害者の状況。
最近近隣で異変が起きていないか、等。

酒場の女将に情報を持っていそうな人を聞いてみますが、
他所者と警戒されたり舐められたりするのなら、
力を示す方がスムーズかもしれませんね。

突っかかってくる相手がいれば好都合。
【スプライト・ハイド】を秒単位でオンオフし、
残像で分身を作ります。

・相手視点
目の前にいたと思ったら後ろから肩を叩かれ、
振り向けばカウンターでジョッキを掲げ、
気が付けば目の前で鼻を摘まれ…

「話を聞かせてもらえると、助かります」



●運よく生き延びた人たちの話
 先の二人と同じようにカウンター席に腰かけて、それぞれ話が聞けそうな人がいないか探りを入れる。



 そして、江田島・乱蔵(闇狩り師・f05878)はある一団に目が留まり、席を立つ。状況が状況のため、さりげなく自然な流れになるように声を掛ける。
「お疲れ。一杯奢らせてくれないか?」
 酒場で情報を得ようとするのなら、場に合った交渉をする必要がある。酒を奢るのは、その常套手段なのだ。
「あんた…何もんだ?」
 悪ふざけで声を掛けているようには見えないが、彼らも冒険者として一応の警戒をしているようだ。
「最近、この付近で残虐な行為を行う輩がいると聞いた。俺達はそいつを狩りに来た者だ。何でもいい、知ってる事があったら教えてくれないか?」
 自分一人ではなく仲間と来ていることを明言し、隠さずに目的を話す乱蔵。下手に誤魔化して更に警戒されてはこちらとしても困るし、別に知られても困ることは言ってないから問題ないだろうという考えからだった。
「まぁ…そういう事なら」
 冒険者たちは顔を見合わせ、乱蔵の申し出を受けることにしたようだ。
「こちらの申し出を受けたという事は…その輩に心当たりがあるって事だよな?」
「心当たりも何も…」
 そう言って一人の冒険者は隣に座っていた気弱そうな男性を見る。恰好からして魔法使いだろうか。その人は先ほどから顔色が悪く、小刻みに震えているようだった。
(もしかして…)
 乱蔵の予感は見事的中することになる。その震えを見かねた冒険者が乱蔵にそっと耳打ちする。
「アイツ、組んでたパーティーの仲間が目の前で殺されるのを見てるんだよ…。何とか逃げ帰って来たけど、それからずっとこの調子なんだ」
(やはり生存者か…この様子だが、それでも聞かないわけにはいかないな…)
 震える魔法使いを一瞥し、乱蔵の中で言葉を選びながら問いかける。
「どんなことがあったのか、教えてもらえないだろうか?」
 せっかく耳打ちして聞こえないようにしたのにと冒険者が乱蔵を止めようとするが、それをさらに乱蔵が止める。
「この状況が続いて、さらに被害が増えない様にするためにも必要な事なんだ。…辛いことを思い出させることは申し訳ない。だが、力を貸してもらえないか?」
 体格の良い乱蔵が頭を下げる。そんな彼の姿に驚きつつも、最終的には小さく首を縦に振った。
「ありがとう。いくつか質問するが分からないことは分からないと言って構わない。他の皆さんも知っていることがあれば言ってくれ」
「シュトー、大丈夫か?」
 シュトーと呼ばれた魔法使いは今度はちゃんと頷いた。
「…僕の見たことが役に立つなら…僕は逃げることしか出来なかったから…」
 静かな、そして悔恨を含んだ声だった。
「ではまず一つ目。貴方が襲われたのは山の中で間違いはないだろうか?」
「山の中で間違いないよ。…僕たちのパーティーはあの山を越えた先にある都市で受けた依頼をこなすために来ていたんだ…まだ向こうにはあのモンスターの情報もなかったから…」
 引き受けた依頼も山の高所に生える薬草の調達だったため、特に重装備をしていくこともなかった。日の高いうちに採取して、都市にいる依頼主の元へ帰ろうとしている時に事件は起きた。
「突然後ろから声を掛けられたんだ…」
「声を?相手は話すことが出来るモンスターなのか?」
「うん…人の姿をしてたよ。天使っていうのかな…白い綺麗な翼を持った女性だった…」
 敵の正体が分かったが、乱蔵は気分の悪さを覚えた。人の姿をした者が、人を襲い捕食する…。
(竜に食われるよりも精神的にくるだろうな…)
 シュトーは俯き固く拳を握りしめる。その手の甲にポタリと雫が落ちた。
「…人の姿をしていたけど」
 静かに言葉を並べるシュトー。恐怖を思い出しながら、それでも深呼吸して必死に己を落ち着かせてさらに続ける。
「あれは…化け物だよ…笑顔でみんなを食って…っ」
 言葉が詰まる。
彼は思い出していた。笑顔で仲間が食われていくところを。それを止めることも出来ないまま、気が付いたら走り出していたことを。無我夢中でバリアを張りながら、後ろから迫る女の声を必死に振り払って。そうして街に着いた頃には女の姿もなく、ボロボロになった彼を見かねた人たちが保護をし今に至る。女の笑顔が柔和で温かみのあるもののはずなのに、それが余計に恐怖を引き立てていた。
 涙が溢れるシュトーを見て、これ以上は聞き出すのが難しそうだと乱蔵は思った。しかし、収穫はあった。

 人の姿をしている(会話も可能)。
 予知では夜の山の中だったが、彼らは昼間に薬草の採れる高所で襲われている。
 高所にあるという薬草の分布を、他の冒険者に聞いたところ、地図に印を付けたものを譲ってくれた。これで一先ず山道を迷うことはなさそうだ。あとは、仲間たちと情報を照らし合わせて向かうのみなのだが。
「今、そこへ向かう橋が崩落してるんだよ」
 そう言ってとある男性を指差す冒険者。その指を追って視線を向けると、ビードット・ワイワイ(根源的破滅招来者・f02622)と話す、目元に深い隈を作った男性がいた。



 カウンター席で第六感を働かせ、情報を持っていそうな人物を探すビードット。それは割とすぐに見つかった。カウンターの一番端で酒も飲まず、料理も食わず、上の空の男が一人。
 妙齢の女性に彼の事を聞くと、この街と現場となる山を越えた先にある都市の間を行き来する酒場の常連客の行商人だった。彼もまた被害者の一人であることを聞いたビードットは、行商人がいつも呑んでいる酒を頼みグラスを受け取ると、頭部の平らな部分に載せてこぼさない様に移動し彼に声をかける。
「…?」
 上の空の男は、突然声をかけられたことで意識を現実に戻し振り返る。そこにいたビードットの姿に驚くも、念動力で酒の入ったグラスを浮かし行商人へと差し出すその行動を見て悪い奴ではないと思ったらしい。
「隣よろしいか?」
 ビードットの言葉に無言で頷く行商人。受け取った酒をまじまじと見つめてから一口喉に通す。それでも彼の表情は晴れなかった。
「我は此処近辺にて発生せし異常事態を調査せし者なり。されど情報掴めずして」
 ビードットは行商人の隣を確保すると、早速目的の情報を得るために言葉を紡ぐ。
「逃げし妖精を甚振って襲うことから残虐な者であることは判明しておりけり力量ならば十分なりて、情報あらば教えてもらえぬか?」
 グリモア猟兵が予知で視た『妖精を襲う捕食者』の事について触れ、何か知っていることはないかと行商人へ問いかける。
 力量は問題ないと聞いて、行商人は改めてビードットを見た。黒く光る鋼鉄のボディは、様々なところを渡り歩いた彼でも中々見ない造りだった。
「妖精を襲ったっていう話は分からないけれど…おそらくアイツの事だろう…この辺で起きてる異常事態って言ったらアイツしかいない…」
 隈が出来たその表情は生気が失われているかのように白く、呟くように吐き出された言葉には深い悲しみと静かな怒りが混じっていた。
「その様子、何かあったと見たり」
 すかさず指摘するビードット。先ほど妙齢の女性が彼も被害者の一人だと言っていたが、具体的に何があったのか。
「…あれは日が傾き始めていた時間だった…」
 ビードットの指摘に唇を噛んでいた彼は、力を抜いて項垂れながらそう語り始めた。

 あれは山を越えた先の都市からこの街へ物資を運んでいる途中の事だった。
 いつものように山道に荷馬車を走らせながら、この酒場で呑む酒の事を考えつつ日が傾き始めていたので先を急いでいたんだ。
 山っていうのは街よりも夜を迎えるのが早い。もちろん時間の流れが変わるとかじゃなく、木々が生い茂りその影により開けた場所よりも暗くなるのが早いんだよ。
 で、あの山の中には深い渓谷があって橋が架かってるんだ。俺の荷馬車でも通れる幅でな、荷物を運ぶ俺としては安全で整った欠かせねえ道だった…。
 あの日もいつものように橋を渡っていた…その中腹を過ぎた後、声をかけられたんだ。
 橋の真ん中でだ。
 前には誰もいないし、後ろにももちろん人影はなかった。
 そしたらもう一度声をかけられたんだ、頭上から。
 上を向いたら空を飛ぶ人がいたんだ。
 エルフかと思ったが見た目から違うし、フェアリーにしては大きい…俺たちみたいな人間と変わらない見た目だった…その背中に翼があること以外はな。
 そいつが言うんだ。『いい天気ですねぇ~』ってな。
 …間延びする口調が今でも耳に残ってる。
 世間話をするような当たり障りのないことを言った後、耳を疑う言葉を出したんだ…。
 『こんないい天気だと…お腹空くんですよねぇ~…だから』
 『食べても良いですかぁ~?』
 そう言って手を行商人に向けると、次の瞬間その手は行商人の愛馬まで伸びていた。物理的に伸びていたんだ!
 襲われて痛みに暴れる愛馬に追い打ちをかける様に、伸びた手は胴へ巻き付いて離れない…。
 その時見たんだ…。
 その手は人の頭みたいな形をしてて…口がついていた…。
 その口が俺の愛馬を…ッ…。
 …でも俺が連れていたのは2頭だった。気付いたら俺はもう1頭の無事な奴に飛び乗って走り出していたよ…。
 俺は冒険者じゃないからな…戦おうなんて考えは最初からなかった。
 ただ逃げなきゃ死ぬ。
 それしか頭になかった…。
 振り返ると攻撃と馬が暴れた衝撃で橋が崩れ始めていた。
 橋は真ん中が一番強度的に弱いからな…。
 そして笑い声と大事な愛馬の悲鳴のような嘶きが、渓谷に消えていったんだ。

「……」
 話し終わった行商人は、拳をカウンターに叩き付けた。荷物を失ったのは確かに痛かったが、彼にとって家族同然の馬を目の前で殺されて、逃げるしかできない自分が情けなかった。でも、戦ってどうにかできる相手でもないのは、冒険者でない彼でもすぐに分かることだった。
「…情報提供感謝する」
「…役に立ちそうか?」
 俯いたまま行商人は呟いた。
「場所、敵の正体、攻撃手段が分かったのだ。何も知らずに挑むよりは余程役に立つものなり」
「そうか…」
 男は口を閉ざし、残っていた酒を一気に呑み干した。



(私の予想ですが、山に出る捕食者に最初に遭遇、被害を受けるのは冒険者ではなく、山で生計を立てる猟師や木こりの方ではないでしょうか?)
 そう考えるのは、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)である。
(その方々が冒険者に事態の解決を依頼し、それが果たされなかったからこの雰囲気になっているのでは……)
 確かに彼の考えは間違っていない。依頼主がいるから、冒険者がその依頼を引き受け解決する。それがこの世界の普通なのだ。
「すみません、この酒場に猟師か木こりの方はいらっしゃってないでしょうか?」
 妙齢の女性に尋ねるトリテレイア。
「猟師と木こりの方なら…」
 店の中央の席に座る二人組を指す。どうやら猟師と木こりは兄弟のようで、普段は山の中腹に居を構えて生活しているらしい。
 トリテレイアは女性に礼を言い、二人の元へと向かう。
「お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
 旅の最中に立ち寄った騎士として振舞う。凛として丁寧でありながら、堂々とした佇まいは、模倣で紛い物であるのを悟られない様にするためなのかもしれない。彼の体は騎士の甲冑にも見えるからか、特に違和感を持たれるようなことはなかった。
「この辺で見たことない顔だな…旅のもんか?」
 外から人が来るという事はこれまでもあったし不思議な事ではないのだが、いつもと状況が違う。最悪の時期に訪れてしまったなと言いたげな目をトリテレイアに向けていた。
「はい、何やら先ほどから皆様が山について話しているようでしたので気になって…」
 聞き耳を立てたところ、周りの人たちから聞こえてきた会話の一部を話す。といっても実際には聞き耳を立てたりしてないが、予知の内容をそのまま話してしまうのはマズイと思ったからだ。
 なぜなら、トリテレイアは外から来た冒険者(と二人には捉えられている)で、しかも山を越えてきたという訳ではないだろうということは、トリテレイアの状態を見て分かることであった。山を越えてきていたのであればそもそも無傷では済まされないし、知らないそぶりを見せることから都市から来たようではないことは冒険者でない二人でも想像がつくだろう。
「ああ…まぁ外から来たのなら知らないわな…」
「一体山で何が起こっているのですか?」
「興味本位で聞くもんじゃねえ」
 頭を横に振る木こり。最初に依頼を出して色んな冒険者が引き受けてくれたが、未だ解決しておらず被害者が増えていく現状に、依頼主としての責任を感じているようだ。
 といっても、最初期は確かに彼らが依頼を出していたが、事が大きくなるにつれ個人の依頼ではなく、街が依頼主となって取り扱われるようになったので全てが彼らの責任という訳ではないのだが、やはり思う所があるのだろう。
 一方トリテレイアは酒場の壁際に並べられていた酒樽の前に立っていた。そして中身の入ったそれを片手で軽々と持ち上げて見せたのだ。
 それに驚いたのは二人だけではなかった。酒場にいた客が皆一斉にトリテレイアを見る。
 二人の元へと戻るとトリテレイアは再び問いかけた。
「私も遊びや興味本位で聞いたりはしませんよ。…貴方たちの知っていること、話していただけませんか?」
 猟師と木こりは顔を見合わせる。そして先ほどの酒樽を持ち上げた姿に、実力があると見たのか『分かった』と一言呟いた。

「山で一体何があったのですか?」
「恐ろしく強いモンスターが、人間を襲っているんだよ…最初は動物の骨が転がっているだけだったから…」
 依頼を出したのに、気付けばこんな状況になっていた。
「俺たちは襲われる前に違和感を感じたから無事だったけどな…」
「違和感とは?」
「何というかな…山が徐々に静かになっていく感じがしたんだよ」
 街にも降りることはあるが、基本は山の中で生活している二人だ。この感覚はきっと彼らにしか分からないモノだろう。

「あと…山の中に橋があるんだが、それが先日崩落してな。様子を見に行ったんだ」
 モンスターに見つからないよう、木々に身を隠し獣道を歩いたという。その道中で人影を見、声を聞いたらしい。
「機嫌よく鼻歌を歌いながら何かしていたよ…気付かれない様に息を潜めることしか出来なかったから何をしていたのかまでは確認できなかったが…」
 戦う力があれば攻撃を仕掛けていたかもしれないが、彼らは猟師と木こり。冒険者でも歯が立たない相手では勝ち目などないのは目に見えていた。
「判断が間違っていたら俺たちもここにはいなかった…それにきっとアイツだって」
「アイツ…?」
 猟師が顎でクイクイとある方向を示す。その先には、ジョッキを片手に泣いている男がいた。
「あの方は…」
「少し前まで山の中で暴れていた山賊の生き残りさ。俺たちが街へ戻る最中に真っ青な顔をしたアイツと出くわしてな。様子がおかしかったから話を聞いてみたら…」
「生き残りという事は…」
「ああ…仲間は皆全滅だと」
 嘆きながら酒を呑む男。酒に逃げないと耐えられないとその背中が語っていた。



 シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)はカウンターで妙齢の女性と他愛無い話をしながら情報を得る機会を伺っていた。
(必要な情報は、捕食者の正体、能力、数。直接見た人がいればいいのだけれど…)
 それとなく女性に情報を持っていそうな人を聞いてみる。
「生き残りならそこでお酒呑みながら泣いている彼もその一人だけど…」
 そう言って指を指した先には嘆きながら酒を浴びる様に呑む男の姿あった。
「彼山賊だし、今話しかけるのは…」
 お勧めしないという前に、シリンの手で遮られる。
「ご心配なく。私も冒険者の一人です。あしらい方くらいは造作もないですから」
 そして山賊が座っている席の前に立つ。
「あ?なんだてめえは!俺を笑いに来たのか!」
 立ち上がってシリンに凄む…が酒が入って、且つ先ほどから泣いているのを見ていたため迫力はなかった。それでも突っかかってきた相手であるのは変わりない。
 山賊が手を出そうとしたのを片手で受け止め手を繋ぐとシリンは静かに唱えた。
「いたずら妖精いたずら妖精、その手を繋げ。」
 突然のことに理解が追い付いていない山賊をよそに、シリンは【スプライト・ハイド】を秒単位でオンオフを切り替えて残像による分身を生み出す。
「な!?」
 目の前にいたはずが後ろから肩を叩かれたり、それに振り向けば今度はカウンターで男が持っていたジョッキを掲げ、呆気にとられていると今度は目の前で鼻を摘まれ…。
 目まぐるしく動くシリンに、酔っていた男はさらに目を回す。思わず座り込んだ相手に、手を離して向き合い言葉を投げかける。
「話を聞かせてもらえると、助かります」
 酒に逃げる彼を笑わず、それどころか真剣な眼差しを向けてくるシリンに、男はバツが悪そうに謝罪するのだった。

 彼の名前はヴォルガ。
 最近まで現場の山で山賊の一団として仲間と活動していたらしい。
 元々はここからかなり離れた辺境の小さな村の羊飼いだったのだが、モンスターの襲撃で故郷が壊滅。
 行く当てもなく彷徨っていたところを山賊のお頭に拾われ、今に至っているという。まだ入って時間が経っていないこともあって、山賊の中では彼が一番下っ端だった。
 雑用などもさせられていたが、彼自身は仲間たちを慕っていたし、お頭を始めとする仲間たちも何かと気に掛けてくれていた。
 彼が身を置いていた山賊の一団は、彼のような故郷を失った人たちが集まって出来たもので、似たような境遇だったこともあり仲間意識はすごく強かったのだとか。

 いつもと同じように生活用水を取りにアジトを離れていた間に、事件は起きた。
 戻ってくると出迎えてくれるみんながその日は何故か誰もおらず。
 アジトの周辺も人の声が聞こえず静まり返っていた。
 何となく不気味さを感じながら、アジトの中へ入ると妙なにおいが鼻につく。
 『何だか血生臭いな…』と思いながらも、奥へと進んだ彼の目に飛び込んできたのは。
 血。血。血。
 真っ赤な血だまりと。
 千切れた腕、切り落とされた頭部、抉られた目玉、裂かれた耳など。
 異様な光景としか言えなかった。
 散らばった肉片はもはや誰のものか区別がつかなかった。
 彼は叫んだ。お頭の名前を。仲間の名前を。
 でも彼の声に返事するものはいなかった。
 彼は少しずつ状況を飲み込み、そして理解した。
 また自分は大切なものを失ってしまったのだと。
 アジト内を駆けまわり犯人がいないか探したが、アジトはもぬけの殻だった。
 でも見つけたところで、自分も同じ運命を辿ってしまうと思った。
 少し前まで羊飼いだった自分は、一団の中でも戦いを知らない人間だった。
 稽古をつけてもらい、それなりの強さのモンスターと渡り合えるようになっても、所詮はその程度なのだ。
 自分より強いみんなが、こんな無残な姿になっている。
 それを見て彼は復讐の炎も燃やせなかった。
 血だまりの上を駆ける。鼻はマヒしてにおいも分からなくなっていた。
 アジトを飛び出し、山を下りる。
 その道中で思わぬ相手と出会った。
 猟師と木こりだ。
 咄嗟の事に身構えるも、二人だと分かり張りつめていた緊張の糸が切れその場に崩れ落ちた。
 彼らとは少し前にも顔を合わせていた。
 山の動物たちの減りが早いと。
 乱獲をしているのではないかと。
 もちろん俺たちも食料が必要だから狩りをしたりしたが、これまでとそう変わらないものだった。
 多くの獲物を仕留めても、保存が効かないからだ。
 今思えば、すでにその時から異変は始まっていたのだろう…。
 猟師たちのように異変に気付けていたら、こうなることもなかったのだろうか。
 彼の問いに答える者はいなかった。

 酔い、泣きながら話す山賊の話をシリンなりに纏める。生存者ではあるが、敵の正体や能力といったものは結局分からずじまいではあった。しかし男はこんなことも話していた。
「木こりたちから聞いたが、橋が崩落してるんだってな。…他の道に目星はついているのか?」
 頭を横に振ると、男は懐から取り出した地図に印を付ける。
「この辺りに今は使われていない廃道があるらしい。俺は見たことはないが、お頭たちが昔話していてな…。その廃道を使えば渓谷を超えることが出来るらしい」
 そう言って印の付いた地図と、さらに何かを差し出す。
「これは…?」
「アジトの中に落ちていたんだ…。犯人のものかは分からないけど…」
 あまり有益な情報が無くて申し訳ないというように目を伏せた。差し出されたものを受け取りまじまじと見つめる。
 シリンの手の中には、白く輝く綺麗な羽根があった。


●情報を纏め、敵のもとへ
 猟兵たちは酒場を後にし、最初に降り立った広場へ戻ってきていた。それぞれ聞き出せた情報を元に、事件の背景や被害者の声、オブリビオンの正体などを纏めていく。
 シリンが山賊から渡された羽根は、乱蔵とビードットが得た情報からオブリビオンのものである可能性が高く、また敵は時間帯も関係なく人々を襲っていた。
 また、被害者たちが襲撃された場所を地図に記していくと、渓谷付近からその近辺の高所に集中していた。
 トリテレイアが猟師と木こりから聞いた山の異変の前兆、襲撃が集中しているその渓谷に架かる橋が現在崩落していることや、渓谷を超えるには廃道を使うのが良い事など、纏めた情報から導き出せたことを踏まえ、敵の正体や攻撃手段などをみんなで共有していく。
 話し合いが一通り終わると、乱蔵が【影の追跡者】を召喚する。夜道でしかも不慣れな場所という事もあり、【影の追跡者】を先行させて猟兵たちは夜の山へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『エレメンタル・バット』

POW   :    魔力食い
戦闘中に食べた【仲間のコアや魔法石、魔力】の量と質に応じて【中心のコアが活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    魔力幻影
【コアを持たないが自身とそっくりな蝙蝠】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    魔力音波
【コアにため込んだ魔力を使って両翼】から【強い魔力】を放ち、【魔力酔い】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:つかさ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※導入文を書いた後、2章受付開始の日程をお知らせします。今しばらくお待ちくださいませ。
 街を出ると、より静かな空気が猟兵たちを包む。
 空に光る月も、山に入ってしまえばその明るさは半減し、ただ互いの呼吸音や地を踏む音がやけに大きく聞こえた。

 酒場で聞いた話だと、橋が崩落してしまいその先に進むには廃道から向かうしかないようである。
 地図を見ながら進み山の中腹付近で道をそれる。
 整ってはいない山道を無言で歩くと、洞窟のようなソレは姿を見せた。
 廃道というだけあって、もう何年も人が通っていない暗くてジメジメした雰囲気が入り口からでも分かる。
 
 『何か出そう…』
 誰かがぽつりとそんなことを言った。
 しかし、先に進むにはここを通るしかない。
 足を踏み込めば月の光はもう届かず。
 一本道のように感じるが、暗くてよくは分からない。
 はぐれない様に声をかけ合いながら進んでいくと、ふと空間が広がったような気配がした。
 そして暗闇の中頭上を見ると、キラキラと光るものがあった。
 色とりどりの、まるで星のような輝き。
 手を伸ばせば届いてしまいそうなそれは、しかし星などではなく。

『キーキー』

 鳴き声の後にはばたく音。
 猟兵たちの周りを動き回る音。
 そしてその中の内の一つが、猟兵たちの眼前に突っ込んできた。
 その距離でようやく姿が確認出来るだろう。
 輝くコアを持った蝙蝠の姿を。


※現状暗いままですが、照明器具等を持っているプレイングをした場合、反映させていただきます。

※只今より受付開始とさせていただきます。お待たせしてしまい申し訳ありません。
ヴィゼア・パズル
――― 美しい… と、いかんな。思わず見惚れた。
アイテムの「野営の陣」を使ってカンテラを召喚。耳栓…も用意しよう…気休めにしかならなさそうだがな。
広範囲を照らし夜目も充分に効くこの猫の目に頼り光を反射するコアを狙おうか

【WIZ】使用 絡みアドリブ歓迎

【地形を利用、敵を盾にする】事で攻撃回避し【カウンター】にて【なぎ払い・範囲攻撃】を併用。一度に複数体へ【マヒ、二回、属性、範囲攻撃】の【鎧砕き、全力魔法】を叩き込む
連携が可能であれば合わせよう。

洞窟内に風は無くとも己で巻き起こせば良い。
…なんだ、フロゥラ、遊ぶか?
では、共に撃ち落としと行こうか。…一種の、シューティングゲームだな?


トリテレイア・ゼロナイン
さて、ここから先へはこの蝙蝠たちをどうにかしないと進めないということですか

視界に関しては私はセンサーでの●暗視が使えますが、他の方の視界も考慮して、防具改造で身体にカンデラを複数ぶら下げています。
この身体なら高い位置にも光を届けられるでしょう

剣を収め、●盾受けで防御しながら腕と頭の格納銃器による●スナイパー技能を活かした射撃でコアを撃ち抜いていきます。

●世界知識や実際に動きを見ていると共食いの習性があるようですね
それを利用させて頂きましょう

一体を中途半端に弱らせ「餌」にし、それを食べに集まってきた集団を一気に銃弾で●なぎ払います

……騎士ではなく傭兵やスナイパーの所業ですが事態解決のためです……


シリン・カービン
先を急ぎたいところですが、
無理に突破して消耗するのは避けたいですね。
皆と協力して迅速に倒しましょう。

夜目は利きますが、明るいに越したことは有りません。
初手で光の精霊を宿した【スピリット・バインド】を
廃道の壁に数発発射。
広げた投網を貼り付けて明かり代わりにします。

蝙蝠の群れに【スピリット・バインド】を発射。
「光の精霊よ、奴等を縛れ」
無力化して明かりになってもらいましょう。

敵に数を増やされると厄介です。
中心のコアが活性化している個体を見切り、
優先的に狙撃します。

動きを封じられた人がいれば、
援護射撃しつつ後方へ退避させます。

山や森は猟師である私の領域。
注意深く山道を先行します。

アドリブ・連携可。


ライラ・カフラマーン
グロームさんの遺品、ではなく生存を信じたいところですね
そのまえに立ちふさがる障害を排除しましょうか
歴戦の冒険者がこのような魔物に遅れをとることはないと思いますが、油断はできませんね

たしかあれはエレメンタル・バット、魔力を吸収するとか食べる……だったような?【世界知識】
ならば私は援護にまわり、他者と連携する方が良さそうですね
「巧言令色」光の魔法を生みだし天上へ放ちます。集中が難しいですが旋回するようにコントロールして光の環を作ります【属性攻撃】【範囲攻撃】
光は照明となり、味方が攻撃しやすいように照らしてくれるでしょう
「ふう……付与魔術も習っておくべきでしたね」

※アドリブ・他者との描写歓迎 


江田島・乱蔵
やれやれだな。まぁ、肩慣らしといくか。

洞窟に着いたら、ヘッドライトを頭に装着して前方を照らす。
戦闘は気配で何とかなるが、それ以外ではこの方が安全なので。
指示があれば従うが、なるべく前方に立ち、危険な箇所は皆に知らせながら移動する。

「妙なヤツらだな。まぁウォーミングアップにはいいか」
敵に対しては前衛で戦う。
飛び道具は無いので格闘戦。打撃で牽制しつつ、捕まえて羽根へし折るか灰燼拳を打ち込む方がいいかな、これは。
なるべく後衛に行かないように壁になって、こっちに攻撃を引きつける。

廃道を出たら周りを警戒。
異常を感じたら皆に知らせ、集合させる。

笑ってる?俺が?
ならばアイツが本命だ。思う存分楽しむとしよう。


ニコラ・クローディア
廃道とは厄介ね!
下手に範囲で薙ぎ払うと崩れる可能性があるから注意しないと
…とはいえ、さっきまで暗かったわよね
でも見えるということは、アレ自体が光っている?

――皆、明かりは最小限に!
遠距離攻撃は控えて近距離戦で対応すれば同士討ちはしないはずよ
自分から居場所を教えてくれるというんだったら、飛んで跳ねてくらいの空中戦ならニコラにもできるわ
宝石の輝きが動きを見切らせてくれる…グラップルで1体ずつ確実に仕留めるわ
攻撃を仕掛けてくればカウンターも狙えるわね
魔力を食らう性質なら、打撃の瞬間にはち切れるほど(全力魔法+力溜め)食べさせてあげるわ――おなか一杯を通り越して破裂なさい!

アドリブ・連携歓迎



 飛び交うコウモリを前に、猟兵たちの内にはそれぞれの考え・思いがあった。
(――― 美しい…)
 そう思わず見惚れたのはヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)。
 これが敵ではなく空に瞬く星であればどんなに良かったことか。

 暗闇から現れた敵を倒さないと先に進めないと覚るトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)とシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)。
 先を急ごうとして無理に突破するのは後に響くと、二人は静かに戦闘態勢を取り様子を見る。

(やれやれだな。まぁ、肩慣らしといくか)
 拳を鳴らす江田島・乱蔵(闇狩り師・f05878)。
 夜目が利かない彼は身に着けていたヘッドライトを点ける。

(廃道とは厄介ね!下手に範囲で薙ぎ払うと崩れる可能性があるから注意しないと)
 舗装も整備もされていない足場の悪い道を歩き、たどり着いた空間でニコラ・クローディア(世界を渡る龍賢者・f00091)は戦いの算段をつけていた。

「たしかあれはエレメンタル・バット、魔力を吸収するとか食べる……だったような?」
 世界知識で得た情報をぽつりと声に出すのはライラ・カフラマーン(放蕩占術師 琥珀のライラ・f09622)。
 立ちふさがる障害を前に、杖を握る手に力が入る。

 チカチカと瞬く色とりどりの光。
 しかし、それでも夜目の利かない猟兵にとっては視界が悪いのは変わらなかった。
 そこでヴィゼアはアイテムの【野営の陣】を使い、いくつかのカンテラとヴィゼアの耳に合わせた耳栓を召喚する。
 気休め程度にしかならないだろうと思ったが、人よりも優れた聴覚を持つ彼にとっては音波をまともに食らうことは避けたかった。
 耳栓をしようとしたヴィゼアにトリテレイアが声を掛ける。
「カンテラ、お借りしても?」
「ああ」
 トリテレイアは己の体にカンテラを数個ぶら下げた。
 彼自身は暗視が使えるため問題ないのだが、他の猟兵の視界を考慮してのことだった。
 
「――皆、明かりは最小限に!」
 ニコラがそう声を上げる。
 コア自体が光っていることに着目して、あまり照らさないようにと提案する。
 空間全体が光で満ちてしまうと、逆に見失いかねないからだ。
「自分から居場所を教えてくれるというんだったら、飛んで跳ねてくらいの空中戦ならニコラにもできる…きゃ!?」
 拳を構えて一歩踏み出した彼女の体勢が崩れる。
 倒れる前にその手を取ったのはシリンだった。
「大丈夫?」
「ええ、ありがと…」
 体勢を立て直すニコラ。
「最小限…しかし足元が見えないと危なさそうですね」
 【精霊猟銃】を構えるシリン。
 それを目線より下の壁に向けて数発発射する。
 放たれたのは【精霊を宿した投網弾】。
 広がって途中数匹のコウモリたちを巻き込みながら壁に張り付き、網目模様の光源ができた。

 照らされた足元は、通ってきた道よりも足場が悪く、山の木々を伝って染み出してきたと思われる水溜まりがあった。
 おそらくこの廃道はもともとこの山にあった洞窟を利用して作られたものなのだろう。手を加えられた形跡はあれど、最低限の整備しかされていないようであった。

「まぁこんな道じゃ、廃道になるのも無理ないだろうな」
 ヘッドライトの光でコウモリを照らし、その光に驚いて突っ込んできたものを拳で牽制しつつ、【灰燼拳】の一撃をコアに打ち込んで破壊していた乱蔵が言った。
「しかし妙なヤツらだな。まぁウォーミングアップにはいいか」
 これから戦うであろう事件の元凶に備えて、体を温めておくことに越したことはないと前向きに捉える彼は、捕まえたコウモリの羽をへし折る。
「キ、キキ」
 飛べなくなって地面へと落ちるコウモリ。
 そのコウモリが持つ魔力を食らおうと、数匹のコウモリたちが乱蔵と地に落ちた仲間の周りに群がる。
「――セット」
 その言葉の後に群がるコウモリの中の一体のコアが砕かれる。
 ニコラが放ったクラウディウス式龍闘術(ドラゴアーツ)による拳には魔力が纏わせられており、オーラのようになって視認できるだろうか。
 仲間を食らうより先に猟兵たちを倒さないと自分たちが不利になると本能が察知したのだろうか、群がっていたコウモリたちが離れ狙いをニコラたちに変える。
「キキキッ!」
 鋭い爪を向けて突っ込んでくるコウモリを静かに出迎えるニコラ。
 握られた拳に魔力と力を更に籠め、全身で殴り込む。
「――おなか一杯を通り越して破裂なさい!」
 コアを砕き、肉体をも貫くとニコラの魔力がコウモリを包む。
「ギ…ギィ…!」
 許容範囲を超えた魔力は肉体内部から圧迫していき、破裂音と共にコウモリは散った。

 仲間たちが倒れていく様子に、このままでは勝ち目がないと天井まで飛ぶコウモリたち。
 コアがきらめいてどこにいるかは分かるものの、途中でコアの光が消えたり浮かんだりしている。
 トリテレイアが体にぶら下げていたカンテラを持って天井の一部を照らすと、穴が数か所空いておりコウモリたちがその中へと消えていく。
 格納銃器で狙おうとするものの、穴の窪みに入り込んでいるのか撃ってもコウモリたちの断末魔は聞こえない。

 その様子を見たライラが【運命の杖】を天へ掲げる。
 掲げられた杖の先端に意識を集中すると、そこから光が溢れ始めた。
『巧言令色(ドヤガオ)』———溢れたのは光の属性を持った魔法誘導弾。
 その数100を超える。
 天井へと放たれる誘導弾を、杖をくるくると回す動きに合わせて旋回させ光の環を作り出す。
 誘導弾一つ一つを動かすため、並ならぬ集中力が必要である。
 だが彼女は敢えてその手段を取った。
 彼女は一人で戦っているわけではないからだ。
 仲間が共にいる。
 その仲間の手助けになれるのなら…。
「ふう……付与魔術も習っておくべきでしたね」
 援護にまわるだけでなく、もっと力になれれば…と彼女は後悔にも似た言葉を漏らす。
 しかし光の環は照明となり、魔法の誘導弾はコウモリたちにとって餌にもなっていた。
 実際それに釣られるように穴からコウモリたちが出てくるが、猟兵を警戒しているのかすぐに食らいつこうとはせず、はばたきを強めるとコアが光った。
 はばたく両翼から魔力を籠めた音波が放たれる。
 強い魔力がライラを襲う…その前に、コウモリは撃ち抜かれていた。
 一つはトリテレイアの『機械騎士の二重規範(ダブルスタンダード)』による格納銃器による射撃。
 もう一つは、光源にも利用したシリンの『スピリット・バインド』。
 トリテレイアの一撃で瀕死になったコウモリを、シリンの光の精霊を宿した投網弾で捕らえる。
 仲間同士でも食らい合う性質を逆手に取り、さらにコアの魔力だけでなく精霊の力を纏わせて餌として食らいつきたくなるように仕向ける。
 その状態を見ていたのか、穴の中でコウモリの鳴く声がした。
 今までの鳴き声よりも太く低く獰猛とも言える声が。
「ギギ…ギィギィ!!」
 穴から飛び出してきたのは、他の個体より一回り大きいコウモリだった。
 その体に似合わず素早い動きで、餌となった一匹を攫う。
 二人が銃口を向け撃ち込むが、それを躱し穴に戻る。
 それと入れ替わるように残りのコウモリたちが出て二人の背後から爪を立て、音波を放ちながら向かってきた。

 その手前で、既にコアの砕かれたコウモリが飛び出てぶつかる。
 それは、ヴィゼアが投げたものだった。
 砕かれたコウモリだったものに敵が気を取られている隙に、『風の精霊フロゥラ』が飛び立つ。
 その翼で、爪で、コウモリたちを斬り裂いていった。
 マヒの効果で動けなくなり、地面に落ちて悶えるそれらを猟兵たちは各々の武器で沈黙させていく。
「残りは…あの隠れたヤツだけか。…なんだ、フロゥラ、遊ぶか?では、共に撃ち落としと行こうか」
 天井を見上げるヴィゼアとフロゥラ。
 ヴィゼアの手には精霊銃【零虚】が握られていた。
 その銃口を、あの大きなコウモリが隠れた穴に向ける。
 銃口に風が集まり、それは凝縮された弾丸となって引き金を引かれ放たれる。
『爆轟(バクゴウ)』
 鎌鼬の属性を付与された高気圧弾は真っすぐに穴の中へ。
 ヴィゼアがパチンと指を鳴らすと、一気に弾け穴の中で強風が巻き起こる。

 それに驚いたのかさすがに穴から出てきた最後の一匹。
 仲間を食っている途中だったため、邪魔をするなと言いたげに音波を放ちながらライラがコントロールしている光の誘導弾を食らおうとする。
 それを阻止するように、両翼にトリテレイアとシリンの銃撃。
「ギィ、ギャア!!」
 空を飛ぶ力を失い、徐々にその大きな体が落ちてくる。
 そんなコウモリを待ち構えていたのは、乱蔵とニコラの拳だった。
 音波に歯を食いしばりながら、二人は全身の力を拳に籠めて放つ。
 避けることも出来ないコウモリは、その攻撃を受けるしかなく。
 二人の拳はコアを砕き、宝石のようなそれはきらきらと小さな結晶となって崩れ落ちる。
「キィィィィィ!!!」
 最後の一匹の断末魔は空間いっぱいに響き、それもやがて消えていった。



 廃道内は再び静寂が支配する。
 帰りもこの道を通ることになる為、『スピリット・バインド』による明かりはそのままに、召喚したカンテラは通路の途中に点々と置かれる。
 乱蔵のヘッドライトが前方を照らし、廃道を進んでいくと風の通りを感じた。
 もうすぐ出口だと確信した猟兵たちの足取りが心なしか速くなる。
 やがてうっすらと明るい景色が見えてきた。
 廃道の終わりであり、山を照らす月光が再び猟兵たちを出迎える。
 敵の襲撃がないかと周りを警戒する乱蔵たち。
 その間にシリンは猟師としての経験を活かして周囲の景色から、現在地のおおよその場所を割り出し地図へ記す。
 そんな猟兵たちの間を穏やかな夜風がすり抜けていった。
 嗅覚の優れたヴィゼアは、その中にかすかに血の匂いが混じっているのを感じ取る。
 異変を仲間に伝え、皆が無言で頷いた。
 シリンを先頭に、注意深く歩き始める猟兵たち。
(グロームさんの遺品、ではなく生存を信じたいところですね…)
 酒場で出会ったエイジュの悲しそうな瞳を思い出し、そう心の内で呟くライラ。

 やがて目標地点へとたどり着いた先には、一人の女性が何やら楽しそうに鼻歌を歌いながら作業していた。
 木こりが木を切っていたのか、その場所は他に比べて広々としていた。
 目の前の女性はまだ猟兵たちに気付いていないようである。
 そんな相手を見て、乱蔵の口角が上がった。
 仲間に指摘されれば静かに口を開いて。
「笑ってる?俺が?ならばアイツが本命だ。思う存分楽しむとしよう」
 熱い想いを宿した黒い瞳を、元凶へと向けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『暴食』のフィーラ』

POW   :    あらぁ〜、食べて良いんですかぁ〜?やったー!
自身の【何かを食べたい欲望】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    わたし〜、おなかが空きましたぁ〜
自身の身体部位ひとつを【口のみが存在する伸縮自在】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    いただきまぁ〜す♪
【隠し持つ調味料】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。

イラスト:蓮葉まこと

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リサ・ムーンリッドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※導入文を書いた後、3章受付開始の日程をお知らせします。今しばらくお待ちくださいませ。
●輝くは白翼、舞うは小花 柔い微笑が鮮血に映る
 猟兵たちの視線に気付いたのか、女性がゆっくりと振り返る。
 そして猟兵たちの姿に笑顔を見せた。
「あらあらぁ~?」
 首を傾げて、作業していた手を止める。
「まぁまぁ~こんな時間にお客さんですかぁ~?」
 間延びした口調、おっとりとした雰囲気。
 可愛らしい容姿に、月光を浴びて白く輝く翼。
 時折そよ風が吹いて、桃色の小さな花がちりちりと舞った。
 その姿はまさに天使のそれだった。
 柔い微笑を向けられれば、見惚れてしまう穏やかさを含んでいる。
 しかし、猟兵たちの表情は硬いままだった。
 
「ちょうどよかったぁ、みなさんも一緒にコレ、食べませんかぁ~?」

 石で出来た作業台の上に置いてあるソレを指差す彼女。
 そこには。
 皮を剥いで切り開かれ、辛うじて人と分かるような肉塊と人の生首だった。
 10歳前後と思われる少年の首。
 固く閉じた瞼の端からは血の涙が流れた痕があった。

「おばあちゃんが病気でぇ、必要な薬草を取りにこんなところまで来たんですってぇ…健気ですよねぇ~」
 クスクスと笑う。
「でもぉ…ちょっとだけ頭は良くないみたいですねぇ~麓の街で私の話、出ているはずなのにぃ~」
 危ないと知っていながら、わざわざここに足を運んできたその子は。
「あまりにも健気だったんでぇ…食べたら美味しそうだなぁって思ったんですよねぇ~」
 物言わぬ躯に変わり果てた。
 うっとりとしながら話す彼女は相変わらず楽しそうだった。
「子供のお肉って柔らかくて美味しいんですよぉ~、最近妖精も見かけなくなっちゃって大人ばかりだったから嬉しくってぇ~」
 そう言って再び猟兵たちと向き直る。

「あらぁ?そんな怖い顔でどうしたんですかぁ~?」
 きょとんとした表情で猟兵たちを見つめる。
 この異常な現場を見て当然の反応を示す猟兵たちとは反対に、慣れた手つきで肉塊の解体を続ける彼女。
 両者の間には明確な温度差があった。

「…どうしてなんでしょうねぇ~私がこうして食事に誘うとみなさん決まってそんな顔するんですよねぇ~」
 もしかしたら今まで彼女を討とうとしてきた冒険者たちにも同様に声をかけていたのかもしれない。
 眉を下げ悲しそうに目を伏せる。
「人だって動物やモンスターのお肉を食べるのにぃ…人間を食べちゃいけないなんて都合がいいと思いませんかぁ~?」
 悪びれることなく、正気のまま。
 猟兵たちに問いかける。
 猟兵たちの返答はなく、それぞれが武器を握る手に力を籠める。

「………そうですかぁ、残念ですぅ~」
 落胆し解体する手を止める。
「せっかく美味しいお肉が手に入ったのにぃ…また一人で食べることになるんですねぇ…」
 それは『帰さない』という意思表示だった。
 それはそうだろう。
 彼女は猟兵たちすら食糧として見ているのだから。

 『暴食』のフィーラ。
 その名を冠する通り、無限とも思える食欲を持つ。
 『食』のためなら手段を選ばず、同族すらも食らった、かつて過去にこの世界に存在した『災害』に認定された者。

 夜風が彼女の髪を揺らす。
 作業台に広がる少年の血が、天に光る月と柔い微笑を映していた。
※プレイングは4/19、朝8:31~受付となります。状況によっては再送をお願いすることになるかもしれません。その時は追ってご連絡させていただきます。
トリテレイア・ゼロナイン
アレはもはや獣です。知能があり人の言葉を解す分、質が悪いですが
もはや問答は不要、討ち取らせて頂く

柔らかい肉が好物なようですが、果たして鋼の身の私にはどういった反応をするのか……
ともあれ、生身の方への攻撃を優先するでしょうね

その攻撃から●盾受け●武器受けを駆使して仲間を●かばいます
噛みつかれてそのまま武器を持っていかれないよう注意しなければ…

私を食べる、もしくは私の腕を突っ込めるくらいの大口を開けたと判断したらその挙動を●見切り、片腕を口内に突き入れます
噛みつきの瞬間にUCを発動し、防御
その際の一瞬の動揺を突き、腕部格納銃器を展開。●だまし討ちを行い、銃弾の最後の晩餐を馳走して差し上げましょう


江田島・乱蔵
絡み、アドリブは大歓迎。

成る程、確かに人間を食べてはいけないというのが都合のいい話と言えばその通りだ。
じゃあ、逆に俺達がお前を喰らっても文句は言わないよな?

来な。遊んでやるよ、悪食野郎。

一気に接近して、格闘戦を挑む。打撃と投げを中心に戦い、隙あらば灰燼拳を打ち込んでいく。
自分の戦術上、空を飛ばれると厄介なので、灰燼拳を打ち込むためにも敵からの攻撃は意に介さず距離を取らせない。狙える時には羽を攻撃し、飛行能力を奪っていく。

戦闘が終わったら少年の亡骸を埋葬し、周囲を散策。遺品をなるべく集める。まだ生きている人は助けるが、望み薄だよなぁ…。

ん?食べないのかって?
食べたよ。勝ってコイツの「命」をな。



(アレはもはや獣です。知能があり人の言葉を解す分、質が悪いですが)
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は静かに額を押さえる。
(もはや問答は不要、討ち取らせて頂く)
 迫る攻撃に備えて大型の盾を構えた。

「成る程、確かに人間を食べてはいけないというのが都合のいい話と言えばその通りだ。じゃあ、逆に俺達がお前を喰らっても文句は言わないよな?」
 敵と相対し、拳を鳴らすのは江田島・乱蔵(闇狩り師・f05878)である。
 己の武器である拳を構え、フィーラを挑発する。
「来な。遊んでやるよ、悪食野郎」

「まぁ。随分と血気盛んな方たちですねぇ~でも食べ応えがありそうで嬉しいですぅ~」
 舞台には似つかわしくない微笑みを浮かべてフィーラは言う。
「皆さんはどんな味がするんですかねぇ~楽しみですぅ~」
 この状況を楽しむかのように飛び跳ねる。
「でもぉ、お腹が空いたのでぇ…」
 ゴソゴソと手に持った籠のバスケットから何かを取り出す。
「さっき切り取った耳を食べちゃいますねぇ~」
 小さな形のいい耳を、まるでクッキーを頬張る子供のように食べるフィーラ。

 その隙を見て動き出す二人。
 乱蔵は一気に距離を詰めその拳による一撃を放つ。
 しかしその寸前で白い翼がフィーラを空へと連れていく。
「だめですよぉ~人の食事を邪魔しちゃ~」
 月の光に照らされて、輝きを放つ翼が羽ばたき彼女は笑みを深める。
 
(柔らかい肉が好物なようですが、果たして鋼の身の私にはどういった反応をするのか……ともあれ、生身の方への攻撃を優先するでしょうね)
 狙われる可能性があるのは生身の人間だとトリテレイアが予想した通り、フィーラは乱蔵に向かって急降下していく。
 スラスターを使い、地面を滑るようにして乱蔵とフィーラの間に割って入った。
 乱蔵へ掴み掛ろうとした両手は大きな盾に遮られ、少しムッとするも変わらずの口調で言葉を紡ぐ。
「無粋な方たちですねぇ~」
 盾の縁を掴むと力任せに奪おうとする。
 その力は、人間のそれとは比べ物にならないくらい強かった。
 それは掴まれた盾を持つトリテレイアにも伝わっていた。
 彼が【無敵城塞】を使い、超防御モードになっているため傷を負わないものの、気を抜けば持っていかれそうな力強さだった。
 
「…相手は一人じゃないぜ?」
 トリテレイアの盾の影から乱蔵が飛び出し拳を振るう。
 灰燼拳による拳は、フィーラの肉体ではなく羽を狙う。
 盾に気を取られ咄嗟に反応できなかったフィーラの翼から、白い羽根がはらはらと落ちた。
(また空を飛ばれちゃ厄介だからな…)
 再び拳を振るおうとする乱蔵の手を、白い手が受け止める。
 トリテレイアの盾を思い切り押しのけた手が、乱蔵の拳を握りしめる。
「酷いですねぇ~手入れ大変なんですよぉ?」
 散った羽根を一瞥し、ため息をつきながらその綺麗な口を大きく開く。
「いただきま…」
 食らいつこうとした瞬間、フィーラの脚に衝撃が走る。
「?」
 見てみると、そこからは赤い液体が流れていた。

 それはトリテレイアの腕部格納銃器の一撃によるものだった。
 銃口は真っ直ぐにフィーラに向いている。

「ふふ…ふふふ…これは久しぶりに楽しくなりそうですねぇ~」
 バランスの取りづらくなった翼を動かし二人から距離を取る。
 痛みはあるはずだが、それでも彼女は笑っていた。


 だって、活きの良い食材ほど心躍るものはないでしょう?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ベルゼ・クルイーク
◆戦法とか苦手なんじゃが
おやおや、綺麗なお嬢さんじゃのう
じゃが…これはやりすぎとるでな
懲らしめてやらんといかんのう

「残念ながらその食事には同席出来んが
 …遊び相手にはなってやれるかもしれんぞ?」
牙を見せニヤリと笑って真っ向から喰いつきにいく
これだけ余裕のある相手じゃ、売られた喧嘩は買うじゃろ

…別に当たらんでもええんじゃ。
なんなら攻撃を敢えてくらう
で、どこか掴めたら【亀の甲】を発動して儂とあやつを固定する

「ほれ、喰えるもんなら喰うてみい。
 ま、儂は若くはないから美味くはないかもしれんがの」

で、攻撃は他の若いもんに任せる
じじぃは頭使うのが苦手での。
他のやつの盾にでも慣れればおっけー、というやつじゃ


ニコラ・クローディア
「その考えで行くのなら、貴様、猟兵の群れに『喰われる』ことも覚悟しているのだろうな?」
無論その肉を食らい血を啜る気は毛頭ないが
経験、という意味で貴様の存在をオレサマの糧にしてやろう
その噛みつきが龍の鱗を貫通できるか…試してみるか?(オーラ防御)
仮に噛まれても、肉を切らせて骨を断つ、だ
その動き、食事に執着するが故に見切りやすい
激痛耐性で耐えてカウンターを決めてやろう
ところでその口…腹を満たせるのならもちろん内側までつながっているんだよな?
カウンター時には拳銃を持った手をその口の中に突っ込んで、ウィザードミサイルを刻んだ弾丸を食道目掛けて直接クイックドロウでお見舞いしてやろう
連携・アドリブ歓迎



「残念ながらその食事には同席出来んが…遊び相手にはなってやれるかもしれんぞ?」
 牙を見せニヤリと笑って真っ向から喰いつきにいくのはベルゼ・クルイーク(暴食の牙・f13004)である。
 普段は口元を覆っているが、その口元が露になっていた。
(とはいえ戦法とか苦手なんじゃが…これはやりすぎとるでな。懲らしめてやらんといかんのう)
 口では喧嘩を売っても、実際はそう思っているベルゼだが、仲間の盾にでもなれればと飛び出していく。

 別に当たらなくてもいい、なんなら敢えて攻撃をくらう。

 それが今回彼が取った戦法である。
「ふふ…自分から飛び込んでくるなんて無謀な方ですねぇ~」
 自らに向かってくるベルゼを両腕を広げて迎えようとするフィーラ。
 にこやかに、それでいてその口から覗く歯は狂気をもっていた。
 相手の懐に飛び込むようにして距離を縮め、腕と肩を掴むベルゼ。
「ほれ、喰えるもんなら喰うてみい。ま、儂は若くはないから美味くはないかもしれんがの」
 そう言うベルゼへ噛み付くが、己の歯がベルゼの肉体へ傷を付けられず少し困惑した表情を見せるフィーラは負けじと言い返す。
「何か技を使ったみたいですねぇ~…でもいいんですかぁ~?見たところ貴方も動けないようですけどぉ~?」
 ベルゼの【亀の甲】の特性に気付いたのか、このまま押し合いでもするつもりかと言いたげな彼女に、ベルゼは答える。
「いいんじゃ、攻撃は他の若いもんに任せるでの」
 ベルゼの背後から飛び込む影があった。

「貴様、猟兵の群れに『喰われる』ことも覚悟しているのだろうな?」

 その声と共に現れたのは、ニコラ・クローディア(世界を渡る龍賢者・f00091)である。
(無論その肉を食らい血を啜る気は毛頭ないが…)
「経験、という意味で貴様の存在をオレサマの糧にしてやろう」
 覚醒状態に入ってる為か、先程までと口調の変化が見られるが敵を倒すという目的が変わっているわけではない。
 種族の特性でもある龍の鱗が見える拳をフィーラに振るうと、フィーラはベルゼを盾にして飛び退く
「おっと」
 【亀の甲】のおかげでダメージを負うことはなかったが、思わず手を離し距離を取られる。
 そこへ間髪入れずに突っ込んでいくニコラ。
 彼女を食らおうと口を開くフィーラ。

「ところでその口…腹を満たせるのならもちろん内側までつながっているんだよな?」
 ニッと笑みを浮かべながら、拳を敵の顔面へと突きつける。
 フィーラは咄嗟にそれに噛み付いたが、口内をヒヤリと冷たい何かが触れた。
 舌で触れて『私の好きな食べ物じゃない』と思った時には、既にニコラは引き金を引いていた。
 次の瞬間、フィーラの体が衝撃で揺れる。
 口内へ次々と撃ち込まれる【ウィザード・ミサイル】は、炎による熱で体内を焼く。
 ぐらりと体が後方へ傾いたのを見て、ニコラはフィーラの口から拳を抜いた。
 噛まれた傷が出来ていたが、激痛耐性で堪えバックステップで距離を取り様子を見る。
 傾いた体は———地面へは倒れなかった。

 傷ついた翼がゆっくりと動く。
 体勢を戻し、ベルゼとニコラを見た瞳に先ほどまでの笑みはなかった。

 近くに転がるバスケットに手を伸ばすと、その中から手のひらサイズの塊を取り出して貪るように食べ、それを平らげると二人を見て口を開いた。

「随分と…マズイものを食べさせますねぇ…あまりにもマズいから非常食食べちゃったじゃないですかぁ…まぁ、今まで色々食べて蓄えていたおかげで体内の損傷も少し修復できたので良しとしますけどぉ…」
 確実にダメージは与えているが、恐ろしいほどタフなフィーラに息を吞む。

「『普通』の人間だったら即死でしょうけどねぇ~…」
 一呼吸おいて彼女は続ける。


 生憎と、まだ終わるつもりはありませんよ…と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ライラ・カフラマーン
我々も他の物を食として頂きます、それは否定しません
しかしだからといって喰われる筋合いもありません
貴方の道理と我々の道理は相容れぬ物
「猟兵としてライラ・カフラマーン、刃向わせて頂きます」

倒すべき相手、しかし尋ねることがあります
賢者の影にて相手に問います
「相対した者は全て喰らったのですか? 生存者は?」
クロームさんが生きていれば……いえ止めましょう

戦闘が終われば遺品を探します
それを持って酒場へと報告いたします
今回の出来事は私の旅行記に綴られることになるでしょう
強めのお酒で他の皆さまと乾杯したいところですね
「湿っぽい相伴になりますが、つきあってくれますか?」
※アドリブ・他者との描写歓迎 


シリン・カービン
子供が一人で山に入れば熊や狼に襲われることもあります。
胸は痛みますが、それは自然の摂理。
だが、あいつは違う。命を食い散らかす暴食を私は許さない。

見た目にそぐわぬ強敵に、私も真の姿を現します。
(肌が褐色に変わり、額に第三の目が開く)

接近戦を挑む仲間の後方に回り、狙撃体勢を取ります。
【ホークアイ・スナイプ】を発動、
全神経を集中、通常以上の射撃精度を可能にします。

彼女の不利な行動はこちらの好機。
その隙に翼、脚を狙って連射。移動能力を奪います。

頭部に変形させた部位や投げられた調味料は
即座に撃ち抜き、噛みつき攻撃はさせません。

狙撃中に狙われるのは覚悟の上。
その前に落とせば良いのだから。

アドリブ・連携可。



 ボロボロになってもなお尽きぬ『食』への執着。
(我々も他の物を食として頂きます、それは否定しません。しかしだからといって喰われる筋合いもありません)
 【運命の杖】を構えてフィーラに向き合うライラ・カフラマーン(放蕩占術師 琥珀のライラ・f09622)。
 前髪から覗く赤い瞳は、相容れない相手を映していた。
「猟兵としてライラ・カフラマーン、刃向わせて頂きます」
 そう言って杖を振りかざす。
「相対した者は全て喰らったのですか?生存者は?」
 倒すべき相手ではあるが、聞かなければいけないと思っていたことを口にする。
 そしてその問いに反応するように、ライラの影がフィーラの足元まで伸びた。
「ふふ…そんなこと聞いてどうするんですかぁ?答えてもどうせおとなしくならないでしょぉ?」
 答えたフィーラの足元で影が蠢く。
 それは静かにフィーラの脚を絡めとり、地へと縫い、締め付ける。
「いやですねぇ~…これで私を倒せるとでも思ってるんですかぁ?」
 下半身の動きを奪われるも、上半身は未だ動けると主張するフィーラ。
 その時ライラを見る瞳が何かを捉えた。

(子供が一人で山に入れば熊や狼に襲われることもあります。胸は痛みますが、それは自然の摂理。だが、あいつは違う。命を食い散らかす暴食を私は許さない)
 ライラの後方で【精霊猟銃】を構えるシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)の銀の髪が月の光に照らされて煌めいた。
 その彼女の色白の肌が、ゆっくりと変質していく。
 褐色に染まった肌、風で揺れる前髪から第三の目が現れた。
 銃口はフィーラ、彼女だけに向けられていた。
 動けないのを好機と見て、銃弾が弾ける。
 翼を、脚を的確に貫き、移動能力を更に奪っていく。
 羽根が散り、鮮血が流れるもやられっぱなしな敵ではない。
「あぁ…痛いですねぇ~…お腹もすいたので貴女を食べても良いですよねぇ?」
 腕を上げて掌をシリンへ向ける。
 それはみるみるうちに変形し、人間の頭部のような形になる。
 それも口のみが存在したものに。
 勢いをつけて振りかざすとフィーラの両腕はまるでゴムのように伸びてライラとシリンをそれぞれ狙う。
 不規則に動く腕を、シリンは【ホークアイ・スナイプ】による超精密射撃で攻撃する。
 大きく開かれた口にシリンの銃弾が詰め込まれる。
 食い込み、肉を裂き、腕の機能を失わせる。
 もう片方の腕はライラへと伸び、口は舌なめずりをしていた。
「…ッ!」
 ライラはギリギリまで腕を惹き付けると【マンゴーシュ】をその口へと突き刺す。
 食わせる様に奥深くまで。
 両腕が使い物にならなくなり、悔しさを滲ませるフィーラ。
「どうして、そうやってみんな私の食事を邪魔するんですかぁ!私はただ食べたいだけなのにぃ!」
 脚はライラの影に掴まれた上シリンの銃撃により動けなくなり、翼も今までのダメージが重なってボロボロになった彼女には、もはや一つしか残されてなかった。
 唯一残った自分の頭を腕と同様に変形させて、最後の足掻きを見せる。
 首を伸ばして二人を食らい自身を治癒しようとするが、彼女の肉体は隙だらけだった。
 そしてゴムのように伸びるという事は、切れる可能性もあるという事。
 ライラとシリンは武器を構えて特攻を仕掛ける。
 首の付け根に刃を突き刺し、銃弾の雨を降らせる。

「あ、あああ…まだ、まだ食べたりないのにぃ!!!!!」
 ゆっくりとフィーラの頭部が地面に落ちる。
 彼女は最後の断末魔まで『食』への執着を見せるのだった。



●静かな朝、溢れる涙
 脅威を退け、静寂が猟兵たちを包む。
 敵が戦闘前に肉塊を解体していた場所に戻り、誰が何を言わずとも少年の埋葬をし始めた。
 辺りを見渡すと、少し離れたところに何かが積まれて小さな山が出来ていた。
 よく見てみると…それは沢山の骨だった。
 細かったり小さかったり、中には動物の頭蓋骨らしきものが乱雑に積み上げられたそれを見て、猟兵たちは悟った。
『生き残っている者はいない』と。
 そこからはそれぞれ埋葬のための穴を掘り、遺品があれば丁寧に分ける。
 そんな作業を続けて、終わったときは朝日が昇り始めていた。
 遺品を持ち、山を去る前に弔った者たちへ深く頭を下げる。
 どうか安らかに、そう願いを込めて。

 下山し街の門までやってくると、そこにはあの酒場にいた情報屋で、エイジュの父でもあるあの男が立っていた。
 おそらく寝ないで猟兵たちの帰りを待っていたのだろう。
 猟兵たちの姿が見えると、目を見開いて出迎える。

「お前さんら、よく戻って来たな…!」
 今までの事もあり心配だったのか、彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 酒場へ向かう道すがら、起こった事、見たものを男に報告する。
「そうか…すまないな、辛い思いをさせて…お詫びと言っちゃなんだが、酒でも飲んでいってくれよ…強い度数のものがあるんだ…それで嫌な記憶を忘れてくれ」
 沈痛な面持ちで、でもそれ以上にやっと解放されたと安堵を見せる男。
 猟兵たちは男に、遺品の事についても話す。
「遺品か…そうだな、うちは色んな人が出入りするから、受け渡しはこちらが責任もってやらせてもらうよ…でもそうか…あいつもか…」
 どこか寂しげに呟く。
 酒場に着いて遺品を広げていた際、奥からエイジュが駆けるように出てきた。
 父親が声をかけたのだろう。
 そんな彼女にあるものを差し出す。
 そこには―――。

『エイジュ しあわせにできなくて ごめんな』
 マントの切れ端か何かに血文字で書かれたメッセージと、それが見つかった場所のすぐ近くに落ちていた指輪を見せる。
 彼女が指に嵌めているものと同じデザインの指輪。
 誰の遺品かは言わなくてもすぐに分かった。
 受け取るとその場によろよろと座り込むエイジュ。
 大切な人が永遠に戻ってこないことを心のどこかで覚悟はしていたが、それでも耐えられるものではなく。
 静かな朝、酒場に女の涙がこぼれるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年04月25日


挿絵イラスト