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シャングリラ☆クライシス⑪〜あなたを虜にするもの

#アイドル☆フロンティア #シャングリラ☆クライシス #第二戦線 #侵略神『ヴァラケウス』

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#侵略神『ヴァラケウス』


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「……嫌なことするねえ」
 四月一日・てまり(地に綻ぶ花兎・f40912)が苦笑している。
 その曖昧な苦笑いの理由は、すぐに本人の口から語られた。
「アイドル☆フロンティアの空から、骸の海が溢れてきちゃったのはもう見たかな? なんだか、アイドルステージが嘘みたいに、物々しいことになっちゃったけど……クオリアちゃんを操ってた黒幕が出てきたね。もっとその上に、何かいそうな物言いだったけど……」
 今は考えても仕方ないから、それはいいや。と、てまりは思案を打ち切って。
「皆に向かって欲しいのは、侵略神『ヴァラケウス』のところだよ。で、皆がヴァラケウスのところに転移した時、ヴァラケウスは7thKING WARにもいたっていう、パラダルクの外殻を使って、超享楽侵食撃っていうのを仕掛けてくるんだけどね……」
 てまりが笑みを深める。
 苦く、それは苦く、困り果てたような笑みだった。
「これはね、皆がどれだけ備えてても、開幕即効仕掛けようと思っても、その全部貫通して先制発動することが確定している上に、強烈な魅了効果で皆を自分の支配下に置こうとしてくるんだけどね」
 ほら、魅了って言っても色々あるじゃない? と、てまり。
 たとえば、美貌。たとえば、カリスマ。たとえば、圧倒的な力。例を挙げればキリがない。が。
「それを受ければ、皆のね、それぞれ愛する人であって、愛されたい人でもある、その人がね、たくさん愛してくれる」
 最初は声。
 心奪われれば、次いで姿。
 やがては体温までもが、現実と錯覚する。
 そうして虜になったあなたに、囁くのだ。
 ――彼の元で共に在ろう、と。
「相手はね、生きてても、死んでても、仲がよくても、悪くても、全部お構いなしに、皆がそれぞれ望む愛し方をしてくれる。関係もね、恋人かも知れないし、家族かも知れないし……もっと他の誰かかも知れない。共通してるのは、抗い難い愛を与えてくるってこと」
 これに対抗させてくる、とてまりは言った。
 そう言えば、彼女は既婚者であり、また敬愛する父がいるのだったか。
「当然、これを打ち破るのは最低条件。その上で、支配を跳ね除けたと察知したヴァラケウスは、臨戦態勢を取ってくるから。そっちとも、ちゃんと戦わないといけないの」
 そんなところに皆を送るのは申し訳ないけど、視てしまった以上は誰かに向かってもらうしかない、と。
 てまりは掌の上、|薔薇《グリモア》を咲かせた。


絵琥れあ
 お世話になっております、絵琥れあです。
 魅了の中身を具体的にしてみたバージョン。

 戦争シナリオのため、今回は1章構成です。

 第1章:ボス戦『侵略神『ヴァラケウス』』

 超享楽侵食撃に対抗した上で、本人とも戦わなければならない、ただでさえ骨の折れる戦いですが。
 今回はその『魅了と支配』をより掘り下げた戦いとなります。
 即ちオープニングの通り、偽りの愛を如何にして跳ね除けるか。
 愛する人の幻影を、振り切ることが出来るのか。
 加えて戦闘もしっかり行っていただきます。

 ※といった性質上、失効までに余裕があっても諸々の要因でプレイングをお返ししてしまう可能性がございます。
 ご承知おきの上、参加いただければ幸いです。

 公開された時点で受付開始です、が。
 今回もかなり書けるタイミングにムラが出そうです。
 その為、採用出来るかどうかは人数とタイミングと内容次第でまちまちになります。ご了承ください。

 それでは、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『侵略神『ヴァラケウス』』

POW   :    ヴァラケウス・ブレイク
自身の【竜炎の放射】でレベル×100km/hで飛翔し、射程無限・直線上の全てを切断貫通する【漆黒の衝撃】を放つ。
SPD   :    侵略機動・蹂躙突撃
【全身】から【漆黒の破壊オーラ】を噴出しながら、レベル×5km/hで直進突撃する。2回まで方向転換可能。
WIZ   :    侵略機動・精神侵食
【漆黒のドラゴン界を纏う姿】に変身する。隠密力・速度・【竜炎】の攻撃力が上昇し、自身を目撃した全員に【絶望】の感情を与える。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

高城・柊那
超享楽侵食……。なるほど。
つまりヴァラケウスもまた、アイドルですね。
オーディエンスを魅了するのはアイドルの性です。
ならば、立ち向かいましょう。わたしがあなたを虜にするのだと!

どんなアイドルでも、必ず上はあります。
先輩、先達、憧憬する相手。そして同じジョブの|好敵手《ライバル》たち。
魅了されるのは日常茶飯事です。そして、そこから立ち上がるのもまた、アイドルの常!
見上げた星に手を伸ばし、追い縋るのがアイドル!
支配者として君臨するヴァラケウスに並び立とうと、輝き放つが!
――わたしのアイドル!

振るうは宿星剣による宿星天剣戟。
飛翔条件で食らいつき、攻撃回数で直線突撃に応戦します。
わたしの刃、神に届け!




 竜の外殻を喰らい、赫は燦然と輝く如く、鮮やかに勢いを増す。
 それもまたひとつの輝きである、と高城・柊那(マジカル武侠★ホーリーヒーナ・f45198)は感じた。
「超享楽侵食……なるほど。つまりヴァラケウスもまた、アイドルですね」
 納得してひとつ頷く。
 柊那にとってアイドルとは、そういうものだから。
「オーディエンスを魅了するのはアイドルの性です。ならば、立ち向かいましょう」
「ほう。外殻を取り込み強化された、侵略機動の使い手たる我に挑むか猟兵!」
「ええ、猟兵として――そして、アイドルとして。わたしがあなたを虜にするのだと!」
「いいだろう。ならばこの超享楽侵食撃、存分に試させてもらうとしよう!」
「!」
 爛々と、炎にも似て輝く瞳に射抜かれる。
 直後、強烈な精神侵蝕の波動が、炎の形を取って柊那へと襲いかかる!
(「どんなアイドルでも、必ず上はあります」)
 それでも柊那は恐れない。
(「先輩、先達、憧憬する相手。そして同じジョブの|好敵手《ライバル》たち。魅了されるのは日常茶飯事です」)
 アイドルは恋愛禁止、なんて誰が言ったか。
 だが、『恋愛』が愛の全てではない。支え合う仲間も、切磋琢磨し合う存在も、等しく慕わしく、それもまた愛の形。
 時にそれは力を与え、時にそれは躓かせようと働くこともあるけれど。
「そして、そこから立ち上がるのもまた、アイドルの常! 見上げた星に手を伸ばし、追い縋るのがアイドル!」
 ただ一点だけを見つめて、偽りの|幻想《あい》を振り払う。
 比類なき存在と認めた、眼前の相手に迫らんと、その決意と覚悟で己を突き動かして。
「支配者として君臨する|ヴァラケウス《あなた》に並び立とうと、輝き放つが!」
 振り上げた剣が、その刃が煌めく。
 剣に刻まれた星宿が、瞬きと共に輝きを増す。
「――わたしのアイドル!」
 光の刃を掲げて翔けて、炎の吐息を裂いていく。
 不意に炎が黒に染め上げられた。直後、不敵な笑みが、至近距離まで柊那に迫った。
 炎と光が火花を散らしてぶつかり合う。鍔迫り合いの末に双方、弾かれるように跳び退いた。再び真っ向から衝突し、そして退く。
 ヴァラケウスの一撃が、重い。柊那はその身をもって、ひしひしと感じる。
 だが同時、手数では自身に分があるとも、確信している!
 相手が体勢を整える、その一瞬を狙って懐へ飛び込んだ。
「わたしの刃、神に届け!」
 遂に、その刃が漆黒の炎ごと、侵略神と呼ばれたその存在の、肉を断つ!

成功 🔵​🔵​🔴​

天ヶ崎・聖羅
気がついたら、パパがいた。
昔は凄く強いカードデュエリストで、わたしにもカードをいっぱい教えてくれたパパ。
今は見る影も無いけど、それでも今のわたしが在るのはパパのお陰。
だから、大好き(親愛)なパパ。

わたしはいつも通り生意気なコト言うんだけど、それも許してくれて。
たまには一緒にお家で過ごそうとか言ってくれるけど…

「だ〜めっ❤️」

パパのことは好きだけど、今は大事な|試合《たたかい》の最中。
それを放り出してなんて、デュエリストとして有り得ないよね〜❤️

ってノリで魅了振り切り敵と相対。
UCで突っ込んできた処に『女王の威光』発動、動けないトコに連鎖する火力の攻勢を叩き込むよ!




「――パパ?」
 天ヶ崎・聖羅(メスガキデュエリスト・f41704)が、その勝ち気な瞳を今はパチパチと瞬かせた。
 転移した瞬間ヴァラケウスのブレスを食らったものの、なぁんだ全然痛くないじゃんざぁこざぁこ♡ ――などと思ったのも束の間、いる筈のない人物が現れたことに、流石の聖羅も一瞬面食らってしまったのだ。
 おいで、と呼ぶ声がする。紛れもなく|父親《パパ》のものだ。
 一緒に対戦をしよう、と誘う声に、聖羅は引き寄せられるように近づいた。
 |父親《パパ》は、かつてはアスリートアースで活躍し、その名を轟かせた凄腕カードデュエリストだった。聖羅のやや自信過剰な性格は、そんな父親の才を受け継ぎ、そしてその父親に学んだことで身につけた、デュエリストとしての実力に裏打ちされたもの。
(「わたしにもカードをいっぱい教えてくれたパパ。今は見る影も無いけど……」)
 かけられるその声が、向けられるその表情が、父親としての親愛と、デュエリストとしての敬愛を向けるその人を、完全に形作っている。
(「それでも今のわたしが在るのはパパのお陰。だから、大好きなパパ」)
 今にして思えば、最初から素直にそう口にしたことはあっただろうか。そんなことをふと考える。
 もう、パパ! なんて挑発的に言っても、それでもこの人は、怒ったりなどしなかった。
(「いつも通り生意気なコト言っても、それも許してくれて。わたしのよく知ってる、……知ってた、パパ」)
 その人だ。
 この人は、パパだと思うに十分すぎた。
『聖羅、たまには一緒にお家で過ごそう』
 デュエルをたくさんしよう、時間を忘れてのんびり過ごそう。
 そう、優しく語りかけてくれるその人に、聖羅は。

「だ〜めっ♡」

 パパにそっくりな|ソレ《・・》が、かき消える。表情が変わる間もなく、一瞬にして。
「ほう、超享楽侵食撃を打ち破るか」
「パパのことは好きだけど、今は大事な|試合《たたかい》の最中。それを放り出してなんて、デュエリストとして有り得ないよね〜♡」
 それは聖羅の、デュエリストとしての矜持である。そして、その心構えは|父親《パパ》を見て抱いたもの。
 最初から分かっていた。あの幻影には|父親《パパ》の、芯とも言えるそれがなかった。ならば本物ではありえない!
「やはり最後は己の実力に頼るしかないようだ!」
「切り札がダメになってもがんばるんだ〜? で・も! ざんね〜ん、こっちにも切り札があるからね!」
 あわや突撃により小さな身体が弾き飛ばされる、かと思われたその直前、聖羅の神の一手が光る!
「『|女王の威光《クイーンズ・マジェスティ》』発動! ってコトで女王様のお出ましで~す♡ 跪きなさ~い♡」
「ぬぅ……!」
 カードから浮かび上がった女王の絵から放たれた、圧倒的な威光を浴びたヴァラケウスの動きが、上から圧力か何かで押し潰されたかのように、止まる。
「そしてこのエンドカードで……壊れちゃえ♡」
 直後、連鎖する火力の攻勢による炎と稲妻と突風の、絶え間ない連撃をヴァラケウスへと叩き込む!

大成功 🔵​🔵​🔵​

カンナハ・アスモダイ
WIZ



──とびきりの愛が私に降り注ぐ。
目を奪われそうになるその最中。

──心配そうな顔をする|契約者《ファン》と目が合う。
気付く。そうじゃない、って。

私は悪魔法少女★あすも☆デウス。
全世界の|契約者《ファン》にエールを、愛を届けるんだ。
愛されるだけの私なんて、解釈違いなのよ!!!!!

怒りの感情を込め、力強い<歌唱><パフォーマンス>を行う。

愛されるだけのアイドル。その存在を否定はしない。
でもね!それは私じゃない!
愛されるだけで、|契約者《ファン》に向き合おうとしない。
そんなの、アイドル失格じゃない!

絶望を怒りで塗り潰せ!昂れ私の<アイドル力>!
乙女魔法!あなたのハートにらぶ❤ずっきゅん!




 ──とびきりの愛が降り注ぐ。
 目を奪われそうになる。カンナハ・アスモダイ(悪魔法少女★あすも☆デウス・f29830)の眼前にいる|人物《まぼろし》が、誰なのか。それは、彼女自身にしか分からない。
 アイドルたるもの、|唯一《ひとり》を作るわけにはいかないではないか。だって、自分には|契約者《ファン》がいるのだから。
 そして、気づく。
 心配そうな顔をする|契約者《ファン》と目が合う。
 そうじゃない、って。
「私は悪魔法少女★あすも☆デウス」
 全世界の|契約者《ファン》にエールを、愛を届けるんだ、って。
 そんな自分が。
「愛されるだけの私なんて、解釈違いなのよ!!!!!」
 怒りで幻影を、振り払う。
 身を躍らせ、声を張り上げ、主張する。
 力強く歌い上げ、倒れるまで踊る覚悟で。
 自分はここにいる。アイドルとしての自分がここにいる!
(「愛されるだけのアイドル。その存在を否定はしない。でもね!」)
 自分が目指し、在りたいと思う『アイドル』の在り方は、違うと胸を張って言える。
「それは私じゃない! 愛されるだけで、|契約者《ファン》に向き合おうとしない。そんなの、」
 叫ぶ。叫ぶ!
「――アイドル失格じゃない!」
 少なくとも、自分がそうであることは、認めるわけにはいかない。
 そういう存在になることは、受け入れるわけにいかない!
 自らを堕とすような愛なら、願い下げだ!
「ほう」
 振り払った幻の炎の先に、漆黒の竜炎纏う男の姿がある。
 赦せない。自分を、アイドルを貶めようとしたこの男を、赦せない!
「絶望を怒りで塗り潰せ! 昂れ私のアイドル力!」
「あくまで抗うか。ならば、力でねじ伏せる他あるまいな!」
 ビリビリと肌を痺れさせるような、地の底から溢れたような、覇気にも似た声。
 相対する者全ての希望を奪い、屈服させてしまいそうな、圧倒的な力を感じる。
 だが、声ならカンナハだって負けていない。
 怒りを、信念を、決意を、覚悟を力に変えて、高らかに歌い上げるのだ!
「乙女魔法! あなたのハートにらぶ❤ずっきゅん!」
 夢見るカワイイ乙女だって、怒らせたら怖いのです!
 黒い炎も、立ちはだかる絶望も、放たれた乙女の最強無敵ビームを押し留めることは、敵わない!

成功 🔵​🔵​🔴​

早乙女・翼
7年経っても記憶に残る声は色褪せない
俺の25の誕生日が彼女の…璃紗の命日
結婚を約束した彼女の声や姿が現れたら俺の心は間違いなく揺らぐ
愛した人を再び失うものかと手を伸ばしかけ
…手首に僅か走る痛み
悼みと共に炎の血と翼授けられた己の身を思い出し
サーベル抜いて自分の太腿に突き立て気を保とう
鞘に巻かれた|宵留《下緒》も握り締め
君は、璃紗じゃない
彼女はそんな愛し方しない…さよ

野郎に魅了されかけたとか笑えないさね
熨斗付けてこの礼はしてやる…!

俺は希望の|力《グリモア》に導かれて今、此処に在る
絶望になんざ屈しない
十字を切って主に祈り捧げ剣を向けUC発動

邪悪な竜に裁きを
闇を貫く光を此処に
希望への祈りよ、力となれ




 はたと、顔を上げたその先に影が宿る。
 それが形を成した時、早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は懐かしい声を聴いた。
(「七年。……もう、七年」)
 どれほど年を、月日を、時を重ねても、その声は色褪せず、記憶の中で残響のように木霊する時、どうしたって想起する。
(「俺の25の誕生日が彼女の……璃紗の命日」)
 結婚を、将来を約束した|女性《ひと》だった。
 ああ、間違いなく揺らいでしまうだろうと分かってはいたのだ。それが、絶対的な支配のための、夢幻でしかないと理解していても。
 それすら、己の中から掻き消えてしまうほどに、彼女の存在は、翼にとって余りに大きすぎた。ゆえに、喪失の痛みも空白も、大きすぎたのだ。それを埋める術を、心が求めてしまった。
(「二度と。もう二度と、失うものか、君、を」)
 手を伸ばす。……伸ばそうと、した。
 手首に僅か、痛みが走った。
 嫌でも思い出す。
 悼みと共に授けられたのは、炎の血と、時を経て黒ずんだ血の色にも似た深い赤の翼。
 思い出した。思い出して、しまった。
 自覚してしまった以上は逃げられない。
 向き合うしかないと知っていた。だから、これは、駄目だ。
 すらりと抜かれたサーベルの刃。
 ずぶりと音立て太腿の、肉を裂いて彩る鮮やかな赤。
 炎が、燃える。
「君は、璃紗じゃない」
 それは決別の言葉であり、己への確認であり。
 影が揺らぐ気配を覚える。鞘に巻かれた|宵留《下緒》も握り締めた。
 足元にまだ伸びている、|璃紗《あのひと》に似た影が、翼へ両手を広げているのが、見えた。
 飛び込めば受け入れられるだろう。
 従属の中で共に在れるだろう。
 だが、それは違うのだ。
「彼女はそんな愛し方しない……さよ」
 大丈夫。大丈夫だ。
 もう、いつもの自分だ。取り戻せている。
 影は消えた。代わりに残る、紅蓮と漆黒の男。
「膝をつかせることが出来るかと思ったのだがな。やはり慣れぬことはするものではないな」
「野郎に魅了されかけたとか笑えないさね。熨斗付けてこの礼はしてやる……!」
 翼は口元にこそ、緩く笑みを浮かべていたが。
 瞳は鋭く『敵』を間違いなく射抜いていて。
「やってみせるがいい、出来るものならな!」
 紅蓮を漆黒が、更に染め上げていく。
 それは目にした者全てを恐怖させ、絶望させるような、負の色たる黒の膨張であった。
 それでも、己の中の光は消えていないと、翼は確信していた。
「俺は希望の|力《グリモア》に導かれて今、此処に在る。絶望になんざ屈しない……!」
 主はきっと気紛れなのだ。
 それでも、消えかけた翼の命の灯火を、掬った。
 ならばこの祈りにも、戯れに意味を与えることもあるだろう。
「赦されざる者に、主の怒りを――裁きを」
 目の前の男が、竜が、弄んだのは翼の想いだけではない。
 人の生と死を、自分のためだけにのみ利用した。それは到底赦されざる暴虐。
 十字を切り、祈りを捧げる。主はきっと聞き届けた。
「邪悪な竜に裁きを、闇を貫く光を此処に」
「!」
 光の道にも骸の海にも、等しく光は降り注ぐ。
 そして剣を向けた先、侵略の神と謳われた竜。
「希望への祈りよ、力となれ」
 柱にも似た光の集束が、白い雷のように、黒い炎を呑み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・久遠
愛する人:嫁

……偽りと分かっとっても嫌なもんやねぇ
まぁボクは昔から溺れるほど愛を与えられとるんでね
多少は現実と錯覚するかもしれへんが虜には……
(彼の元で共に在ろう、の言葉に無表情で)
……は?
うちの嫁は間違ぅてもそんなこと言いませんが?
『久遠は私が守る』、これがあの子の口癖です
幻影とはいえ、よぉもあの子を歪めてくれたな

破壊オーラ対策で霊的防護纏い、UC摩天陣で突撃を妨害
効かん? やろうな
はなから完全に足止めできるとは思てへんよ
そんでも速度が落ちれば見切りやすいやろ
同時使用効果でUC【八卦浄銭剣】が本命
道術での瞬間移動で方向転換時などの隙を狙って飛び込み
負けん気こめて定規でぶった斬る

アドリブ歓迎




 熱のない炎に包まれた時、劉・久遠(迷宮組曲・f44175)は現れるであろうその人を確信し、苦く笑った。
(「……偽りと分かっとっても嫌なもんやねぇ」)
 事実、現れたのは美しく柔らかな金糸に、兎に似た赤い瞳の、妻となってもなお愛らしい、あの子。
 その柔らかな微笑みと、久遠、と呼ぶその声が、何より纏う空気すら、現実と錯覚させるほどに精巧だ。
 愛するのも愛されるのも嬉しく、幸せな相手だ。幻でしかないと、頭と心は理解している。
(「まぁ、ボクは昔から溺れるほど愛を与えられとるんでね」)
 ただそれでも、愛する人を振り払うのには気が引けた。
 抱擁を受け入れつつも、どうしたもんか、と思案するその最中。
『久遠、ずっとここにいよう? ヴァラケウス様が、私たちのこと、守ってくれるって、だから、』
 愛する人のその言葉は、久遠の脳を痺れさせ、甘く停滞に、そして従属に堕ちていく。
 ――筈だった。

「……は?」

 途端。
 ここまでの空気が嘘のように、久遠の表情と、声音が、冷えた。
「ずっとここに? ヴァラケウス『様』? 守ってくれる??」
 ああ、うん。わかる。わかるよ。
「うちの嫁は間違ぅてもそんなこと言いませんが?」
 人、それを『解釈違い』と言う。
 すう、と久遠の瞳が細められた。間違っても喜んでいるのではない。睥睨に近い薄目だった。
「『久遠は私が守る』、これがあの子の口癖です。ましてや守ってくれる、なんざ言語道断やっちゅうねん」
 怒りました。赦しません。
 たとえ世界結界が二重に張られるようなことがあっても、赦しません!
「幻影とはいえ、よぉもあの子を歪めてくれたな」
「……己の覇気のみで、我が超享楽侵食撃を打ち破ったのか」
 これには流石のヴァラケウスも面食らったようで、ぱちりと目を瞬かせていた。
 しかし、ならばと実力行使に切り替えた模様。だが、突破と同時に仕掛けてくることなど、久遠とて想定済み。
 突撃してくる漆黒を、緑の鎖で絡め取る。
 が、それは見る見る内にブチブチと引き千切られていく。
「時間稼ぎのつもりか? 効かんなあ!」
「ハ、やろうな。はなから完全に足止めできるとは思てへんよ、それでも――」
 万一に備え霊的防護を纏いつつ、怒りは今は腹に据えて、淡々と、冷静に場の気を読む。
「速度が落ちれば見切りやすいやろ。んで、本命はこっちや」
 掲げたのは清めの|定規《やいば》。
 歪んだ幻想ごと、祓い清め打ち消す心積もりで。
 そしてブチリと全ての緑が力を失い地に落ちた、その瞬間を狙い澄まして、ほぼ同時に敵の懐へと、縮地にて肉薄し。
「不浄なものは清め、還さなあかん。ぶった斬る」
 負けない。
 愛する人を貶めた、この男にだけは絶対に!
 漆黒の炎は真白の灰に。清水にて業火を鎮める如く。
 鎧の合間を縫う一閃、一閃、一閃、もう一閃。
 その最後の閃きが、侵略神の最期。

 侵略の炎は潰える。
 灰は光の道へと消えていく。
 人の心を歪めるその術も、今や失われつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年09月16日


挿絵イラスト