ポンコツ素寒貧令嬢、水着でもやらかす
「オーホッホッホ……オーーーッホッホッホッホ!!」
広大な迷宮城の最奥、絢爛豪華な玉座にミノア・ラビリンスドラゴンの高笑いが響き渡る。
(一応ある)気品と(無駄なまでの)自信に満ち溢れたその姿は、純白のドレス――ではなく、ビキニとも言い難いかなりけしからん水着だった。
「水着コンテストは予想通り大盛況! やっぱり肌色は正義ですわ~~~!!」
ミノアが強い手応えを感じていた……海岸エリアを急遽改装(オール自腹)し、アピール会場に変えたことで過激な水着を求めるプレイヤーが詰めかけ、ミノアにしては珍しいことに多数の来場者を獲得したのである。
……と、ここまではいい話。
普段なら総工費>>>改修費で圧倒的な赤字になるところだが、なんとか黒字に持ち込んでいる。本当に珍しい話だ。
「とはいえイベントというものは、ここからが本番ですわ」
ミノアは悦に浸るのをやめ、ニヤリと支配者の笑みを浮かべた。
「こうして集まった皆様がたがお祭りテンションでトリリオンを使いまくり、その勢いで分不相応な|試練《クエスト》に挑戦してくだされば……!」
商機を逃さぬ経験(だけは)豊富なドラゴンプロトコルの目が鋭く光る。
観光地の主な収入源はお土産や観光地価格の食べ物といった副産物……当然同じことがラビリンスサーバーにも言える。
それにプレイヤーが試練で敗北すれば、回収した装備やトリリオンは全てミノアの総取り。プレイヤーもスリルを楽しめてWIN-WINというわけである。
だったら集まったプレイヤーをデスゲームみたいに理不尽なクエストに放り込めば楽じゃん、という声もなくはないが、それはミノアの開発者としての美学が許さない。変なところで誠実だった。
「これこそまさに一石二鳥、いえ三鳥! 今回ばかりは確実に収入ウハウハですわ~!!」
失敗しようのない見事なフローチャートを脳内に描き、ミノアは再び高笑いした。
「さて、ひとまずこれ以上の消費を抑えるために海岸エリアの設定をもとに戻しませんと」
ひとしきり勝ち誇り満足したミノアは、冷静になってイベントエリアの設定ウィンドウを開く。
そしてアピール会場化した景観を普段のものに戻し、ミスがないよう指差し確認して玉座に座り直した。
「――……ん?」
なにかヒヤリとしたものを感じ、ミノアは玉座に座ったまま身体を起こした。
一度閉じた設定メニューを開いて、各項目をじっと睨む。
「んん~……??」
異常はない。設備がバグを起こして入るとビクビク痙攣しながら彼方に吹っ飛ぶコリジョンの荒野と化したとか、見えない陥穽が出現してプレイヤーが消滅する謎の怪奇現象が起きているとか、そんなことはまったくない。
だが、何かおかしい。まずモンスターの数が……やけに多いのである。
海岸エリアにPOPする巨大ヤドカリや殺人ヒトデといったモンスターが、うようよ闊歩しているような……?
その時、バァン! と玉座の間の扉が開かれた。
「お嬢様! ご報告が!」
「な、なんですの騒々しい!」
ミノアは咄嗟に胸元を隠した。突発的だったので素の育ちの良さが出ている。じゃあなんで水着のままなんだよ、というのは禁句だ。
「ただいま海岸エリアのモンスター発生率が、倍になっております!」
「――……は?」
ミノアはぽかんとした顔で設定メニューを三度見した。
よく見ると海岸エリアの設定を戻した際、POPポイントの設定が二重になっている。つまり……出現率が単純に倍になっているのだ!
「な、そ、そんなバカな!? 確かにチェックしたはずですのに!」
「お嬢様! ご報告が!」
「今度はなんですのぉ!?」
別のメイドは羊皮紙型の不具合報告を読み上げる。
「現在POPしているモンスターは、非戦エリア設定の一部残存により……EXPもドロップもされないようです……!」
「な、ななななんですってぇー!?」
とんでもない事態にミノアは完全に白目になった。
これではただモンスターを倒しても倒してもうま味ゼロ、プレイヤーは確実に嫌になるし数が多いせいでクエストに挑むまでもなく駆逐されてしまう!
「え、えええええらいこっちゃですわ~!?!?」
このままでは、まずい。せっかくのお祭りテンションが最悪だ。
「メイド隊! あなた達はバグの原因を特定しASAPで修正なさい!」
「かしこまりました」
「お嬢様は一体!?」
「事態は一刻を争う、ゆえに――」
ミノアは双剣を手に立ち上がった。水着のまま。
「わたくし自らが打って出ますわ! イクゾー!!」
土煙を上げ爆走。
今、無駄に数が多くてしぶといのに何の利益も齎さないファッキンモブを駆逐するための、ただただ疲弊するだけの戦いが幕を開ける!
「わたくしの! わたくしの開発費が湯水のごとく消えていきますわ~~~!!」
最終的に事態は鎮圧されたものの、モンスターのPOP費用で黒字分は無慈悲に消し飛んだという。
成功
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