Plamotion Seaside Encounter
●君が作って、君が出会う
ソニア・コーンフィールド(西へ東へ・f40904)は、日差しの強烈さに目を細めた。
燦々と、と表現するにはあまりにも強い今夏の太陽は、彼女の肌を焼くようだった。そんな日差しを受けて煌めくのは白波であった。
じっと見ているだけで瞳が焼かれるのではないかと思うぐらいに強烈に海の波を太陽の光が照らしているのだ。
「夏だー!!」
けれど、日差し程度でソニアが怯むわけがない。
ようやくケルベロスディバイド世界でのいざこざが一段落したのだ。
全世界決戦体制は、世界経済のみならず多くに影響を与えた。デウスエクスの侵攻とは、やはり人類が一丸となって立ち向かわねばならないものなのだ。
勝利を得ることができたが、その代償は少なくない。
人的被害も当然ある。
なら、物的損害だって相当なものだ。
迅速にこれに対処できたとは言え、一日二日でどうにかできるものでもない。
ケルベロスとして、猟兵としてソニアは今日に至るまで一生懸命復興に尽力してきたのだ。
そんな彼女が漸くに得た休息なのだ。
「アスリートアースもやっぱり暑いんだ!」
どの世界に足を運んでも避暑地ならぬ避暑世界なんてことはないのかもしれないな、とソニアは思ったかもしれない。
とは言え、せっかくの休暇なのならば、いっぱい楽しみたい。
具体的には、『プラモーション・アクト』――『プラクト』を、だ。
「ふっふっふー、実はすでに下調べしてきちゃってるんだよね。この夏休みお楽しみ道場破りカード!」
ぺっかー、と輝くのはスタンプカードである。
アスリートアースの各地の模型店にて、その地域ごとの特色を活かしたシチュエーションフィールドや、ルールの試合を行えばスタンプがもらえるというものである。
そのスタンプを集めきると模型店全店舗で使える割引クーポンが獲得できるのだ。
これは嬉しい。
遊んだ上にお得なクーポンがもらえるなんて。
実質タダみたいなもんではないかとソニアは思った。
「よーし、まずはこのお店! たのもーう!」
海辺の模型店の扉を開く。
そこにはキャンペーン用のフィールドが用意されていた。
「こんにちは。ええと、君は……」
そこに居たのは少年だった。
線の細い体躯をしている。超人アスリートひしめくアスリートアースにおいては、貧弱とも言える体躯だっただろう。
「こんにちは! お楽しみ道場破りに来たよ!」
「やっぱり。ここのレギュレーションルールは、説明しなくっていいかな?」
「お店毎に違うんでしょ?」
「うん。ここは海辺に近いでしょう? だからフィールドはビーチサイドなんだ。ほら、波の動きも再現されているんだよ」
「わ、本当だ!」
ソニアはフィールドを覗き込む。
そこには実際の海のようなフィールドが作り込まれていて、波さえ立っているのだ。
「それで、試合形式なんだけど……」
「ビーチバレーでもする!?」
「あ、いや、それも面白そうだけど……」
少年は少し笑った。
「今回はビーチフラッグなんだ。知ってる? 砂浜に立てたフラッグを早く奪った方が勝ちっていう競技なんだけれど」
「ああ! あれでしょ。うつ伏せに寝転がって立ち上がって、ダーッ! って走ってフラッグを掴む!」
「そう、それ。それを『プラクト』でやってみようってことなんだ」
「なにそれおもしろそう!」
「相手は僕だけれど……構わないかい?」
「もっちろん! わたしの『熾天怪獣王』のダッシュを見せちゃうよ!」
「クリーチャータイプなんだ……すごい作り込みだ……これ、君が?」
少年はソニアの手にしたプラスチックホビー、『熾天怪獣王』を見て驚いたようだった。
「うん!『セラフィム』を骨組みにして怪獣王にしちゃったの!」
「人型からプロポーションをここまでいじれるなんてすごいね……ああ、僕のプラスチックホビーも『セラフィム』をカスタムしたものなんだ」
彼が手にしていたのは、黒く塗装された『セラフィム』タイプであった。
肩部にコンテナ状の装備が配されているのが特徴的だった。
「かっこいい! 名前なんていうの!? あ、キミのお名前も! わたし、ソニア!」
「名乗っていなかったね。僕は『アハト』。そして、この子は『スカルモルド』。よろしくね」
「じゃあ、早速やろうやろう!」
ソニアはワクワクしながらフィールドに『熾天怪獣王』をセットする。
「準備はいいかい?」
「うん、スタートは?」
「もちろん、『レッツ』――」
「――『アクト』!」
それが合図だった。
二騎のプラスチックホビーが一斉にうつ伏せ状態から立ち上がり、砂浜フィールドに砂塵を舞い起こす。
妨害ありのビーチフラッグ。
ただ直線速度を誇るものではない。
妨害をかわし、敵を妨害する。
その駆け引きが組み込まれたビーチフラッグは、楽しげな笑い声と共にたった一本のフラッグを巡って競われるのだった――。
成功
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