なないろみずうみ~華乙女~
澄んだ青空の続く世界、ブルーアルカディア。無数に浮かぶ島々のひとつへと訪れた少年は、頭上にかかるふたつの虹に目を瞠る。
「綺麗……」
その真下に広がる湖面にも、揺らめくなないろが映し出されていた。レルヒェ・アルエットは思わず呟いて、周囲の景色へ視線を向けた。
生き物の気配はしないけれど、やわらかな彩をした草花がいきいきと育っている。ゼロとイチでつくられたデータの世界に生きるドラゴンプロトコルだからこそ、見知らぬ世界の植物達に興味があって。
「この花は見たことないな」
名前も知らないその花を観察しおえて、少年は湖へと足を運ぶ。すこしばかりぶかぶかのパーカーを脱いで、青いスカーフが揺れるセーラー服と短パン姿。
はじめは緊張したものの、水のなかへ浸した素足は心地よく馴染む。ゆっくりと足のつく場所まで向かってみれば、なんだか楽しくなってきて。
「君達も」
浅葱色をした二頭の竜へと声をかければ、二匹もちゃぷちゃぷと水遊びをはじめる。ぱしゃりと虹の湖面が波打って、思わず笑みをこぼす。
「ふふ」
楽しいな、と水浴びを満喫したなら、湖のふちに並ぶ岩へと腰かける。足は水中に沈めたままで、麦わら帽子がふわりと揺れる。
すぴ、すぴ。寝息を立てはじめた浅葱色のかたわれが、ふいにぱちりと目を開ける。もう一頭も鼻をひくつかせて、ちいさくひと鳴き。
「うん。わたしも感じたよ」
何処に居るんだろう。そっとあたりを見渡せば、岩場の陰、草の生い茂るちいさなすみっこ。そこに居たのは、ひかりかがやく花に隠れた、親指ほどのちいさい妖精。
「こんにちは、君はこの島の住民だね」
やさしく話しかけるレルヒェへと、妖精はこくりと頷く。そろりと姿を見せた召喚獣は、竜達の周囲を舞い踊る。
「君は、素敵な花を抱いているね」
レルヒェの言葉に、妖精は手にしていた花を彼のスカーフへと押しこめる。器用に留められたそれに礼を言うと、またふわりふわりと宙を踊る。
「もしかして、わたし達を好いてくれたの? うれしいな」
こくこくと頷く妖精は、ドラゴンプロトコルの掌へ。うれしそうに微笑む召喚獣は、やがて花のかたちをした薄紅の石へと姿を変える。
「一緒に来てくれるんだね」
少年はやわらかな光を宿した華石を撫でてやる。二頭の竜も、新たな仲間を迎え入れるかのように穏やかな鳴き声をあげた。
成功
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