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なないろみずうみ~夜光竜~

#ブルーアルカディア #ノベル #猟兵達の夏休み2025

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風魔・昴



麻生・竜星




 遥か彼方まで続く青い空で繰り広げられる冒険の世界、ブルーアルカディア。その小島のひとつへと訪れたふたりの猟兵は、そのうつくしさに目を細めた。
 空にかかる二重の虹と、なないろが揺らめく湖面へと視線を向ける風魔・昴は傍らの青年へと声をかける。湖面から吹く風に、麦わら帽子と艶のある髪がふわりと靡いていく。
「この世界に竜と来るのは久しぶりよね?」
「あぁ、久しぶりだね」
 昴へと頷いて、麻生・竜星も以前この世界を訪れた時のことを思い出す。あの時は星空またたく夜だったけれど、今はまるで、雨上がりのようなやさしい彩に包まれた空だった。
 様々な表情を見せる空に感嘆しながら、この島へと案内してくれたグリモア猟兵の言葉を思い出す。
「幻の召喚獣の聖地か……会ってみたいな」
 どんな見目をしているのかもわからないけれど、ふたつの虹がかかる幻想的な島の住民ならば、きっと素敵な存在に違いない。竜星が幼い頃のような好奇心を抱えているのを察して、ふふ、と昴も笑みをこぼした。
「ええ、私も。そうだ、せっかくのバカンスだもの、湖で歩いてみない?」
 泳ぐことは躊躇われるけれど、夜色のサマーワンピースに似た水着姿なのに、湖を眺めているだけはもったいない。そんな昴の提案に、竜星も軽くパーカーを羽織り直して頷いた。

 そうっと湖に足を浸してみれば、ひんやりとした感触が心地よい。やさしい風は止まることなく吹いていて、昴は竜星へと振り返る。
「ほら、竜も」
 昴にならって湖へと足をゆっくり沈めれば、竜星もまたその心地よさにほっとひと息。生き物の姿は見当たらないものの、きよらかでいて穏やかな空気を感じ取る。
「きっと、この島も夜空は美しいと思うの」
 だってこんなに穏やかで、うつくしい虹や景色が広がっている。うれしそうに笑う昴の帽子が一瞬飛ばされてしまいそうになるのを、竜星がすばやくキャッチした。
「わ、ありがとう」
「あんまりはしゃぎすぎるなよ」
「もう、わかってるったら」
 兄妹のように育った幼馴染のふたりは、そんな風にとめどない夏の話をする。誰かを守り、癒し、戦う日々を過ごしてはいるけれど、こうやって夏休みを満喫する日だって忘れない。
 毎日を忙しなく重ねているばかりでは、自分達の心と身体が壊れてしまうこともあるのだから。
「召喚獣のお話、もうすこし詳しく聞いておけばよかったわね」
「幻の聖地、だからな。俺達に興味を持ってくれるなら、きっと姿を見せてくれるだろう」
 それもそうだ、と納得し、ふたりはのんびりとバカンスを楽しむ。用意してきた軽食のサンドイッチを食べたり、揺れる草花の名前を調べてみたり。
 すこしばかり眠たくなったなら、軽くふたりで木陰でうたた寝の時間を過ごす。

 ――やがてしばらくして、昴が湖面へと再び視線を向ける。
「あら?」
 きらりとかがやくふたつの煌めき。それに気づいた彼女に、竜星が尋ねた。
「ん? どうした」
「湖に、なにかあるみたいで……」
 再び揺らめく水面へと足を沈めて、昴はその煌めきへと手を伸ばす。そうっと拾いあげてみれば、夜空の宝石のような石がふたつ。
「これは……ラピスラズリ?」
「うん、多分そうだな」
 昴の掌のなか、涙の形をしたものと、球体をしたふたつの石。ひとつを手渡されよくよく見れば、その輝きはまるで星空のようで。
 これは一体、と首をかしげる間もなく、あっと昴の驚いた声にそちらへ視線を向けた。突風というにはやわらかく、けれどすこしだけ強い風。
 そこに佇むのは、ふたりよりも遥かにおおきな体躯のうつくしいドラゴンだった。ふたりの手にした石の彩りを宿す存在は、青い鱗に覆われ金の双眸でこちらを見つめている。
「君は……召喚獣、なのか?」
 昴も同じ存在を見ているようで、ならばおそらくは手にしたふたつの石に宿る存在なのかもしれない。その問いに応えるように、ドラゴンはふたりの前で静かに頷く。
『やっと、貴方達に逢えました』
 脳内へとやわらかく流れてくる思念は、召喚獣による言葉なのだろう。
『このふたつの石は元々ひとつの召喚石でした。ですがふたつに分かれ、やがてそれぞれの形になったのです』
「どうして、私達に応えてくれたの?」
 昴が尋ねれば、また穏やかな感覚の思念が流れ込んでくる。
『私は、月夜と星空を司るもの。貴方達からは、その力がつよく感じられます。やっと、私の力を使いこなせる者達を見つけることができました』
 竜星と昴の操る力に惹かれたのだと告げるドラゴンは、想いをつむぐ。
『月と星に愛されし若者達よ、私の祝福を授けましょう――』
 それは月光のようにやわらかく、まぶしい|金色《こんじき》。竜星を包むその光は、揺るがない強さと守るための力を漲らせていく。
(凄い……制御するのに、すこし時間がかかりそうだ)
 まるで天の川の中心に立ったように、きらきらと星屑が舞う。昴を抱きしめる煌めきは、やさしさとそこから生まれる力で昴を覆う。
(なんてやさしく強い力なの……)
 これが|彼女《ドラゴン》の祝福の証なのだろうと思った時、耐えきれずに涙があふれた。

 どれほどの時が経ったか、気づけば昴は竜星に背中を支えられていた。ふたりを包むかがやきが止まり、共に召喚獣を見上げる。
『その力は守る者のために、大切な者のために使いなさい。そなたなら迷わずに使うと信じています』
 竜星は力強く笑んだのち、きっちりと敬礼を捧げる。
「貴殿の心に応えられるよう、精進します」
『この力は、助ける命のために使いなさい。貴女なら、間違うことはないでしょう』
 微笑むような感情を贈られた昴も、まっすぐに召喚獣の双眸を見つめ返す。
「ええ、ありがとう。貴方の想いに必ず応えるわ」
 頷くように目を閉じたドラゴンは一声、やさしく高らかに鳴く。そうして魔法のように姿を消したあと、まるではじめから何もなかったかのように虹の湖面が在る。
 けれど、ふたりの掌には、召喚獣から手渡された力の石が確かに煌めいていた。ふたりは顔を見合わせて、頷きあう。
「彼女から託してもらった力、きっと使いこなしましょう」
「ああ」

 この先も迷わぬように、間違わぬように。
 ふたつの虹のかかる湖の傍で、ふたりは決意を胸に抱きしめた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年08月22日


挿絵イラスト