甘やかビッグ・イーター
●水着コンテスト
猟兵たちにとって夏とは水着コンテストの季節だ。
例年のことであるし、その都度開催される世界が違う。
「今年はこの世界でやる言うてたん、本当やったんやなぁ……」
織部・藍紫(シアン・f45212)は、水着コンテストの報を聞き及んでいたが、いまいちピンと来ていなかった。
どうしてそんなことをするのだろうか。
素朴な疑問である。
それには夏だから、としか言いようがない。
いや、他にもっとなにか尤もな理由があったかもしれないが、藍紫には思いつかなかった。
そして、当然、池神・聖愛(デリシャス☆マリア・f45161)もまた猟兵である。
「聖愛ちゃんも出る言うてたなぁ……いやまて、水着……?」
藍紫は自分がピンと来ていなかった理由を理解した。
水着というものが一体如何なるものかさっぱりわかっていなかったのだ。
「ミズギ……水、着……ううん?」
こういう時、スマートフォンという名の板切れはひどく便利である。
ぱぱっと画面に指をすべらせる。
「はぁ、なるほど。人間が海やら川やらとにかく水辺で着る衣服っちゅーことやな。なるほどなるほど」
衣装チェンジみたいなもんね、と藍紫は軽く考えていた。
「何調べてるんですか?」
「おわっと……ん、ああ、人間って泳ぐにも服を変えないといけないねんなって思って」
「ああ、水着のことですか?」
「そうそう。聖愛ちゃん、水着コンテスト出るって言うてたやろ? そも、水着ってなんやろーって思うてな」
「で、お勉強ですか? えらいです」
にこやかな聖愛の言葉に藍紫は、でれっとしてしまう。
いやいや、こんなことで褒めんでも、と思う言葉は喉から飛び出すことはなかった。
褒められるのならば、褒められた方が特だとも思っていた。
それに、と聖愛ならば、この水着とやらもきっと可愛いのだろうと思う。それはあまりにも色眼鏡がひどいのではないかと一瞬思ったが、頭を振った。
いやいや、そんなことあるかい、と。
聖愛のことである。
きっと素敵なのだ。
とかなんとか思っていたのが水着コンテスト前。
そして今、水着コンテスト会場で藍紫は目をひん剥いていた。
「え、あ、え……!?」
「どうです、似合いますか?」
聖愛は、その場でくるりとターンをする。
彼女のイメージカラーとも言うべきイエローのパレオがふわりと舞い上がり、薄いジャケットはシースルー素材なのか涼やかであった。
だが、特筆すべきところはそこではなかった。
彼女の身に纏う水着。
「いや、ちょい待って!!」
「はい? どうしたんですか?」
「その! いやそのな? なんかわしの知ってる水着と違うんやけど」
藍紫は視線を泳がえていた。
どこに視線をおいていいのかさっぱりわからなかったからだ。
「これも水着ですよ? 似合いません?」
「いや! 似合ってる! 似合とるよ!? でも、そのお腹とか見えて! 刺激が強くて!! いや、似合ってるとは思うんよ。思うんやけど!!」
「えへ。びっくりしちゃいました? ほあ、見てください。キャンディの耳飾りも可愛くて狩っちゃいました!」
ストレートの束ねた髪が尻尾のように揺れた。
いたずらが成功したみたいにウィンクして見せる彼女の魅力に藍紫は撃ち抜かれていた。
のけぞるようにして藍紫は顔をそらす。
耳が真赤である。
赤面して動揺していることを隠すように藍紫は天を仰いだ。
ありがとう、ビキニタイプ。
「でもやりすぎちゃう!?」
思わう叫んだ。
「そうですか? 定番だと思うんですけど……あ、でもパレオ可愛くありませんか?」
彼女はパレオを広げてみせた。
ふとももが! と藍紫は首をあらぬ方角に向けた。
白い肌が! もうどうなっているのか訳が割らない。
「ん、ああ、うん、可愛いと……って、あれぇー!?」
藍紫がやっとの思いであらぬ方角に向いた首を彼女に向けると、すでに彼女の手には山のようなかき氷とこれまた山のような焼きそば、さらにたこ焼きのパックがあったのだ。
「いつの間に!? ちゅーか、なにそのマウンテンかき氷……いやいや、その前に焼きそばたこ焼き何人前……?」
「とっても美味しそうだったので!」
「えぇ……うん、そうやね。甘いのとソースのしょっぱさがいい感じになりそうやね」
「はい! 夏ですから!」
にっこり笑顔の聖愛。
もうその顔を見せられては藍紫はもう何も言えなかった。
そもそも直視できないくらいに彼女の姿は藍紫にとっては太陽のように光り輝いていた。
それ以前に彼女の姿が刺激的ぎて視線を合わせることも、向けることも難しかった。
「うん、夏やね……夏やな……夏なんよな……」
そう返事することしかできなかった。
「さあ、藍紫さん! 屋台巡りしましょう!」
「うん、いつものね……」
彼女らしいと言えば彼女らしい。
けれど、ああ、やっぱり。
聖愛の水着姿が気になって気になって、しようがない――!
成功
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