ワイクラーは呼ぶ、力の在処を
リズ・ヴィアル
リズの猟兵化が判明した時のノベルをお願いします。
アレンジその他諸々お任せします。
●リズ、猟兵になる。
とある夏の日のランベール侯爵邸にて。
当主のセルジュは頭を抱えていました。
ランベール家は、遂に派閥内から念願の猟兵を輩出したのです。
しかし猟兵になった人物が問題でした。
「あの……すいません……旦那様……私なんかが……」
メイドがボソボソとした声で謝ります。
「リズ、もう一度確認したい。グリモアを出してみせておくれ」
「ひゃ……ひゃひ……!」
リズは両手でお椀を作ります。
するとそこにグリモアが現れました。
「間違いなく猟兵なのだな。しかもグリモアを有しているとは」
セルジュは深い溜息を吐きました。
「ご、ご、ごめんなさい……はい……」
リズはグリモアを閉じて体を縮こまらせました。
「よい。これは喜ばしい事なのだ。しかし使用人からの輩出になろうとはな」
ランベール家が中心となる派閥は、昨今急激に力を付け始めた王室派閥に対抗するため、猟兵の確保を目指していました。
リズの猟兵化は大きな価値を持ちます。
ですがセルジュとしては、派閥の求心力を高めるため、ランベールの血統から猟兵を輩出するのが望ましいと考えていました。
●リズ、修行に出される。
セルジュは言いました。
「リズ、猟兵となったお前を私はもうただの使用人とは扱わない。今後は猟兵としての働きを求めていく事になるだろう」
「は、はひ……でも何をどうしたら……?」
「当面は才能の研鑽に努めてもらおう。依頼を通じ、力の扱い方を学びなさい」
「お、お、お、仰せの通りに……はい……」
「王家と対抗していく上で、いずれリズは重要な役割を果たす事となる。その事を常々心に留めておくように」
「あ……はい……責任重大ですね……自信ないですけど……」
「うむ。重大だ」
「でゅふ……が、が、頑張ります……はい……」
「さしあたってシールドファンダーとヴェロキラ・ワイルドガンナーを与える。他に必要な物があれば言いなさい」
「ひゅっ……あ、えと、ありがとうございます……はい……」
こうしてリズの猟兵修行が始まりました。
だいたいこんな感じでお願いします。
●リズについて
「ども……メイドです……」
ランベール侯爵家に仕えるメイドです。
ヴィアル家は曽祖母の代から仕えており、リズは母の後を継いで使用人となりました。
「ほ、他にできる仕事もなさそうだったんで……すぐに雇ってもらえてよかった……でゅふ……」
●性格
「わ、わた……私、人と話すの苦手で……ごめんなさい……」
根暗で陰険でコミュ障です。
小声でボソボソと喋ります。
●メイドとして
接客対応以外の働きぶりは普通です。
また、リズを含めたランベール家に仕えている全ての使用人は生身とキャバリアの戦闘訓練を受けています。
「あ、あ、あんまり得意じゃないんですけどね……でもキャバリアのコクピットは好き……狭くてひとりだから……ふひっ……」
●猟兵化のきっかけ
ある日なんとなく手を開いて閉じてを繰り返していました。
すると謎の立体映像が現れました。
「ひぇっ……! なんか出た……! 消えないし……!」
それがグリモアと判明し、猟兵化が発覚しました。
●ヴェロキラ・ワイルドガンナーについて
エルネイジェ王国軍の主力キャバリア、ヴェロキラの重砲撃戦仕様です。
リズ専用機という訳ではなく、ヴェロキラと並んで広く普及している機体です。
猟兵となったリズが依頼を遂行する上で必要になるだろうと、シールドファンダーと合わせてセルジュから贈られました。
グレネードキャノン、ミサイルポッド、ガトリングガンを背部に集中装備しています。
顎内部には高出力のビームキャノンを備えています。
武装の一斉射撃の火力は小隊一個分に匹敵すると言われております。
追加装甲を装備する事で防御性能も高めています。
運動性と機動性は低下していますが、武装をパージする事で通常のヴェロキラと遜色ない敏捷性と格闘戦能力を発揮します。
頭部のキャノピーは、戦闘時の情報収集・処理能力を向上させるための複合センサーシステムです。
●在処
善悪を画すものは何か?
倫理か、国家か。
しかして、それは人の領分である。
であれば、人ではない者たちにとって善悪を決定するものに力は意味をなさないものであろう。
滅ぼすか、滅ぼされるか。
世界には明確に分かたれたものたちがいる。
善悪は寄与しない。
ただそこに在る、というだけのことだ。
表層をなぞれば、それが埒外たる力であるとわかるだろう。
故に、と小国家『プラナスリー』は立場を明確にしている。
人が人を害するのならば、人ではないものが統べるしかない。人が人である以上、人が尊び求めるものは得られない。
「力を得た時点で、私にとってあなたはすでに同盟者ではない。今までは『力なき者』であったから協力もしましたし、対等でいられた。けれど、『そうなって』しまったのなら、もはや私とあなたは袂を分かつ以外に道はない」
一方的な宣言であった。
同時にそれは最後の手向けであったかもしれない。
今一度問う。
善悪を画すものは何か?
倫理であるというのならば、それは夢想家の戯言であろう。
国家であるというのならば、すでに大衆に飲み込まれた愚昧さを笑うしかない。
人が人である以上、そこには平等に不平等であるという対等なる立ち位置があった。
それが『力なき者』の特権だ。
しかし、壇上に上がるというのならば、もはや――。
●幕間
手を開く。
そこには何も無い。
あるのは空だけであった。
しかし、同時に世界という全てがそこにあった。
なんて。
そんな無意味なことをリズ・ヴィアル(コミュ障根暗陰キャメイド・f45322)は思った。
小国家『エルネイジェ王国』、その名門貴族が一門であるランベール公爵家の屋敷の一角――リネン室とも言うべき白い清潔な布が収められている部屋の、さらに隅にて彼女はうずくまっていた。
別に何か失敗をしでかしたとか、理不尽なお叱りを受けたというわけではない。
単純に彼女はここが気に入っていた。
適度に狭く、適度に快適。
そして、何より他者からの視線を感じなくてよかった。
名門貴族の屋敷というだけあって使用人たちの数は多い。
リズ・ヴィアル。
彼女の家は、曾祖母の代を遡ってランベール家に仕えている。
彼女自身も母の後を引き継ぐ形で使用人としてこの屋敷で仕えることになった。
それ自体は渡りに船であった。
他に仕事ができるわけでもない。やりたいことがあるわけではない。
縁故と言われても、別段に気にするところではなかった。人は一人では生きることはできないとしっていたからだ。
どれだけ言葉を弄されるのだとしても、リズは一向に構わなかった。
「……訓練、きつかった……」
ランベール家に仕える使用人は、おしなべてキャバリア操縦の技術を叩き込まれる。
それはこの戦乱の世界クロムキャバリアにおいては必須の技能であったと言えるだろう。
戦乱は尽きない。
そして、戦場の花形は人型戦術兵器キャバリアである。
銃と同じように女子供であっても力で勝る者との立場を対等にし、時に逆転せしめる力であった。
その点で考えれば、リズは感謝こそすれ理不尽さを感じるものではなかった。
しかし、彼女を襲った理不尽とは力の在処であった。
今一度掌を握りしめる。
もう一度開いた時、そこに浮かぶのは光る奇妙な正方体であった。
知を識る者であれば、それを『グリモア』と呼ぶ――。
●猟兵
リズ・ヴィアルは恐縮しきりであった。
夏の日差しが差し込む書斎。
空調が聞いているのか、暑苦しさはない。
だが、リズは胸につかえた圧迫感のようなものを感じていた。
何故なら、彼女が呼び出されているのは、セルジュ・ランベール公爵その人であったからだ。
彼は書斎の机の上に肘を乗せ、頭を抱えていた。
これは彼にとって僥倖そのものであったし、念願の、と言わしめるものであったはずだ。
セルジュ・ランベールは猟兵に覚醒した人材を求めていた。
それは王家と己が派閥とのパワーバランスを拮抗させるために必要なものであったからだ。
しかし、聖竜騎士団を率いるソフィア・エルネイジェは国内の猟兵覚醒者を囲い込んでいた。
対するランベール公爵派は猟兵を擁していない。
「あの……すいません……旦那様……私なんかが……」
ボソボソとリズが申し訳無そうに言葉を紡ぐ。
もしかしたら、聖竜騎士団に売り飛ばされると思っているのかも知れない。
聖竜騎士団と言えば、国内においてのキャバリア操縦技能に秀でた、まさに近衛と呼ぶにふさわしい技量を持つ騎士たちで固められた軍事の要である。
猟兵覚醒者が集められ、ソフィアの懐に囲い込んでいると言われている。
そんな中に対立派閥のランベール公爵家出身の猟兵となったリズがうまくやっていける自信など皆無であった。
セルジュ・ランベールは、面を上げた。
「リズ、もう一度確認したい。グリモアを出してみせておくれ」
「ひゃ……ひゃひ……!」
リズは掌を合わせる。
すると、杯のようになった掌の上に光るグリモアが現れる。
その光景に息が漏れた。
「間違いなく猟兵なのだな。しかもグリモアを有しているとは」
深い溜め息をついた。
「ご、ご、ごめんなさい……はい……」
身を縮こまらせたリズにセルジュは、手で制した。
彼女の問題ではない。
確かに念願であった猟兵覚醒者である。
「よい。これは喜ばしいことなのだ。しかし……」
使用人から覚醒者が出たことは予想外であった。
そもそも猟兵に覚醒すること自体、法則性が見いだせていないのだ。方法論も確立していない。
何故、そうなるのか未だ解き明かせていないのだ。
ましてや、猟兵ならざるセルジュ・ランベールに分かるはずもない。
そのため王室派閥に対抗するために求めた猟兵の確保が、棚からぼた餅のように転がり出たのは、確かに彼の言葉通り喜ばしいことなのだ。
彼女の、リズという存在の価値は、派閥において大きな価値を持ち得るだろう。
だが、それは己が血筋から排出されるべきだと思っていた。
いや、望ましいと考えていた、というのが正しいだろう。
何せ、あの不可解な技術を持ち得る小国家『プラナスリー』の『ノイン』ですら猟兵への覚醒方法を知らなかったのだ。
……今にして思えば、彼女は猟兵の出現を快く思っていなかった。
国内外問わず、彼女は猟兵の出現の折々にて行動を起こしている。
偶然とは考え難い。
政界においても傑物であるセルジュ・ランベールは直感的に理解していた。
互いに利用していた。
しかし、それは己の派閥が猟兵を擁していなかったからだ。
一方的とも取れる関係破棄。
それはタイミングを考えれば、リズが猟兵に覚醒した方を彼が受け取ってすぐだった。
恐らくこの屋敷内のことも『ノイン』は把握しているのだろう。
如何なる手段かはわからない。
だが、リズという猟兵が発生したことを契機に彼女はもう二度とこの屋敷に現れることはないだろうという予感がある。
「……互いに用済み、ということか」
「ひっ」
用済み、というフレーズにリズは、己のことかと見を固くした。
セルジュ・ランベールは手を振って否定した。
「リズ、猟兵となったお前を私はもうただの使用人として扱わない。今後は猟兵としての働きを求めていくことになるだろう」
「は、はひ……でも何をどうしたら……」
決然たる瞳の色を見やり、リズはさらに肩をすくめて身を硬くした。
彼女自身戸惑っていることはわかる。
力の発生は望む、望まざるとて与えられるものだ。
しかし、困惑している暇すら与えられないのが人の生というものだ。ならば、セルジュ・ランベールは覚悟を決めた。
「当面は才能の研鑽に努めてもらおう。猟兵は、力の扱い方を実践で学ぶそうだな」
「そ、そう、気聞き及んでおります。お、お、仰せの通りに……はい……」
リズはやはりまだおどおどしていた。
いずれ、彼女はランベール派閥の旗印にならねばならない。
王室派閥に取り込む余地ありと思われるような態度は、彼女のみならず派閥のためにはならない。
であれば、とセルジュ・ランベールは思ったが頭を振った。
毅然としなければならない。
今決めたことだ。
甘くなった、と自らを自嘲するしかなかった。
「王家と対立していく上で、いずれリズ、お前は重要な役割を果たすことになる。その事を常々心に留めておくように」
責任が人を強くすることもある。
これがリズに対して適切であるかはわからない。だが、未来のことなどわかろうはずもない。
であれば、セルジュ・ランベールは己がこれまで築き上げてきた方法論を矛として振るうしかないのだ。
「あ……はい……責任重大ですね……自信ないですけど……」
「持ってもらわねば困る」
「あう、ですが……」
「リズ、お前が感じたように責任の大きさはお前を押しつぶそうとするだろう。だが、私はお前に期待している。それはわかってもらえるな?」
思わず乞うような物言いになったのを、セルジュ・ランベールは眦を抑えて息を吐き出すようにして止めた。
「でゅふ……が、が、頑張ります……はい」
リズは理解していないだろう。
けれど、それでいい。
「さしあたっては『シールドファンダー』と『ヴェロキラ・ワイルドガンナー』を与える。他に必要なものがあれば言いなさい」
『シールドファンダー』もそうだが、『ヴェロキラ・ワイルドガンナー』の名を聞いてリズはさらに身を固くした。
ガチガチに頭の天辺まで硬直するようだった。
ヴェロキラ。
それは『エルネイジェ王国』主力のキャバリアである。
ワイルドガンナーとは、その重砲撃戦仕様を差す。その火力は一騎で一個小隊に匹敵すると言われている。
グレネードキャノン、ミサイルポッド、ガトリングガンを背部に集中装備した火力のハリネズミとも評される期待である。
さらには機体の内部兵装も充実しており、その拡張性は状況に合わせて装備を換装し、対応することが可能となっている。
それだけで特別仕様であると言えるだろう。
しかも重装甲の大型キャバリア『シールドファンダー』と合わせて与えられるのは、期待の現れであるという以上に一使用人に対しては破格の待遇とも言えただろう。
「ひゅっ……あ、えと、ありがとうございます……はい……」
「よい。では、下がりなさい……」
リズは頭を下げて退室する。
正直なところを言えば、荷が勝ちすぎている気がする。
期待していると言われたとしても、リズはそれに応えられる気がしなかった。
使用人として対人関係の構築にも難がある。
働きぶりは悪くはない。だが、取り立てて言うべき点もない。
可もなく不可もなく。
そういう使用人だったのだ。
キャバリア戦闘訓練においてもそうだ。非凡なる才能があるわけでもない。
彼女の操縦技術は、使用人の中においても高い方ではない。
しかし、それでも猟兵としての力に覚醒した。
益々持って猟兵という存在に対しての法則性が見いだせない。
「ふぅ――……」
セルジュ・ランベールは深い、深い溜息を吐き出した。
吐き出した所でどうなるわけでもない。
状況はたしかに動き出した。
遅々なる歩みかもしれない。
しかし、それでも確かに動き出したのだ。停滞とは程遠い。僅かでも確かな一歩。
望むものは何か。
セルジュ・ランベールは空の手を握りしめた。
開いた其処は、空のままだった。
口惜しいと思わないでもない。
それは力を得られぬが故の、ではなかった。
武人としての性か、それとも政治家としての本領か。
そのいずれかをセルジュ・ランベールは己が胸に秘する。
すでに賽は投げられた。
道も分かたれた。
後は、そう。
進むだけだ――。
成功
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