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赤き絵に青き死を
人の死は遠くなってしまった。
事故で死ぬ者も病気で死ぬ者もいなくなり、災害ですらも人は死ななくなった。
誰もが死なず、誰もが殺せなくなった。
「……描けない」
そんな世界を前に『想死創哀のレイス』は嘆く。
血染めの絵筆を、赤一色で塗りつぶされたキャンバスに向けて、だが何も描けずに。
嘆く。
オブリビオンであるレイス自身は人を殺すことができる。
だがしかし、それで見られる『死』は単一で同じようなものばかり。
描く絵も同じものばかりになってしまうから。
もっともっと人が死ねば。もっともっと人が殺されれば。
人に人が殺されるようになれば。
「描きたい……」
殺人事件を望み、レイスは放浪していた。
そして、見つけてしまう。
それはサイキックハーツ大戦で失われたとされたはずの場所。人にデモノイド寄生体を移植し、デモノイドというダークネスを生み出していた研究施設。破壊されたはずのその施設が、放棄されたまま残されていたのだ。
レイスにその歴史は分からない。
だが、残された資料から施設の役割を朧げに理解した。
デモノイドはダークネスゆえに、エスパーとなったこの世界の人々をも殺すことができる。そして、そのデモノイドは、エスパーを元にして創ることができる。
大切な人を、デモノイドと化した大切な人が殺す。それが、見れる。
「描ける」
それを理解して。
レイスは施設を再稼働させる。
デモノイドを再び創り出すために。
己の絵のために。
「デモノイドの研究施設……まだ残っていたですね……」
表情を曇らせていた七重・未春(高校生七不思議使い・f45217)は、だが猟兵達の視線に気付いて、にこっと笑顔をつくった。
「お集まりいただいてありがとうございますです。
皆さんには、デモノイド研究施設の捜索と破壊をお願いしますです」
サイキックハーツ世界での大戦後、その殆どが破壊された筈の施設。何故か残存したそのデモノイド研究施設を、オブリビオンが発見し、再稼働させたのだという。
「放置すれば、再びデモノイドが量産されてしまうかもしれないです」
だからまだ被害の出ていない今のうちに、と未春は対応をお願いする。
「場所は、山奥にある10年以上前に廃業したホテル、のようです。
ホテルそのものが、ではなく、ホテルのどこかに研究施設への入り口があるようです」
5階建て鉄筋コンクリートの古びたホテルは、廃業したそのまま、荒れ果てた姿でとある山の中腹にぽつんとある。近くの町からそこまで至る道も、舗装されていたため、荒れてはいるけれども通行可能な状態で残っていた。
だが、分かっているのはそれだけで。
研究施設とホテルがどう繋がっているのかは分からないのだが。
その場所に施設があると予知されたこと。それと。
「ホテルの屋上が、天体観測にいい場所として密かに知られていたそうですが、そこに星を見に行った何組かの人たちが行方不明になっているです……」
失踪者の存在。それを根拠として未春は示す。
被害はまだ限定的で、またデモノイドの姿も確認されていないこともあって、大事件にはなっていないが、近くの町では失踪の話がじわりと広がっている様子。
「そこで、皆さんには天体観測に来た人を装ってホテルに行ってもらいたいです。
ちょうど晴れたいい天気ですから、きれいな星が見えるですよ」
星を楽しむことでオブリビオンに一般人だと思わせる傍ら、そっと研究施設を探すことになるのだが。
「……あたしの知り合いも、ホテルに行って帰ってきてないです。
研究施設に攫われてしまったかもしれないですが、だとしたら、きっと何か手掛かりを残してくれていると思うです」
それを探して欲しい、と未春は伝えて。
「どうぞよろしくお願いいたしますです」
ぺこり、と頭を下げると、小麦色の髪に飾られた鈴が涼やかに鳴った。
佐和
こんにちは。サワです。
天体観測にも熱中症対策が必要そうな夏ですね。
山中にある廃業したホテルが舞台となります。
第1章は星空をお楽しみください。
町から離れ、周囲に他の建物もなく住民もいないので、綺麗に星が見えます。
ホテルの屋上、1階レストランのテラス席などからの鑑賞がおすすめ。
屋上はフェンスに囲まれただけの何もない場所です。
レジャーシートを持ち込んだりして寝転がって星を眺めるのにいいかも。
テラス席には古びたテーブルとイスが残されています。
第2章は攫われた人々の捜索です。
先に囚われた誰かさんが手掛かりを残してくれていますので、研究室の入り口はすぐに見つかると思います。
そのため、主に施設内の捜索をしていただく形になります。
第3章はボス戦です。
デモノイド研究所を再稼働させたオブリビオン『想死創哀のレイス』と戦います。
デモノイドとの戦闘はありません。
それでは、満天の星空を、どうぞ。
第1章 冒険
『ナイトフェスへ行こう!』
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POW : ナイトフェスで過ごす
SPD : ナイトフェスで過ごす
WIZ : ナイトフェスで過ごす
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
燮樹・メルト
❤️🩹やわらぎ🧬ちゃんねる💉
今日は廃墟探索配信だよー。
くれぐれもみんなは廃墟探索は気をつけるんだよー、マジやむトラウマや事故に遭うかもだし。
ホイっと、到着〜。
聞いてたけど、中は真っ暗……。
と思うじゃん?実はね、ここ灯りがないから、星がすごい見えるんだよねー、わかる?あれがアルタイル、デネブ、ベガ、夏の大三角ってやつー、きちんと言えると、ちょっと博識感出ておすすめー、皆の衆、刮目なー。
ここまで一般人のフリをして、オブリビオンの警戒を解くように行動。
ストリーマーは、映えるものの為に動いて、結果「そうなるわな」って世の中は思うから、逆手をとっていきやすいのもあるからね。
そのホテルは、山の中に佇んでいた。
山道を進んだ先が開けたと思うとどんっと現れる5階建て鉄筋コンクリート建築。周囲は木ばかりで民家などなく、またすでに廃業しているからホテルの明かりはおろか、外灯も街灯もない。
夜闇の中に埋もれ、誰からも忘れ去られたかのような、黒くて暗い廃ホテル。
「今日は廃墟探索配信だよー」
その駐車場に燮樹・メルト(❤️🩹やわらぎ🧬ちゃんねる💉・f44097)の声が響いていた。
誰かと一緒にいるわけではない。でも、独り言でもない。
「くれぐれもみんなは廃墟探索は気をつけるんだよー。
マジやむトラウマや事故に遭うかもだし」
自称「やみ」系ストリーマーなメルトは、自動で撮影してくれるドローン『レコれこフィーチャー』を伴っていたから。そのカメラに向けて、だぶっとした白衣の袖を振る。小柄なメルトには大きすぎる白衣ゆえに、袖から手は出ていない。だから、袖を振る。
コンクリート舗装されているから、まあところどころひび割れてそこから草が生えてはいるけれども、歩くのに支障はない。だからすぐにメルトは建物に辿り着いて。
「ホイっと、到着~」
陽気にまた袖を振ると、開いたままの自動扉――廃墟だから動くわけもなく、壁の一部になり果てている――の隙間をするりとくぐった。
「聞いてたけど、中は真っ暗……と思うじゃん?
実はね、ここ灯りがないから、星がすごい見えるんだよねー、わかる?」
ドローンに語りかけながら、メルトは階段を上っていく。もちろんエレベーターなんて動いていないから。5階分を息も乱さず軽く上って、さらにその上へと進めば。
辿り着く扉。
電気が通っていても手動の扉のドアノブを、きしむ音と共に回すと。
「ほら~」
その先には満天の星空が広がっていた。
人工の明かりもなければ、新月なのか月すらない。だからこそ明るい夜空。
「あれがアルタイル、デネブ、ベガ、夏の大三角ってやつー。
きちんと言えると、ちょっと博識感出ておすすめー。皆の衆、刮目なー」
その星々を袖で指し示しながら、メルトはひとり語りを続けていく。
一般人のフリをして、オブリビオンの警戒を解くように。
(「ストリーマーは、映えるものの為に動いて、結果『そうなるわな』って世の中は思うから、逆手をとっていきやすいのもあるからね」)
そんなしたたかな計算をしつつ。
でも、純粋に配信も星空も楽しんで。
「ほらほらー、あっちはさそり座なー。赤い星、見えるー?」
メルトはゆるゆると袖を振った。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、お星さまが綺麗ですね。
……廃業してしまってますけど。
こんなに綺麗な星空が見えるホテルがなんで廃業してしまっているんでしょうね?
どんないい場所でも廃業する時は廃業するですか、いろいろと難しいんですね。
ふえ?それよりも感想はそれだけなのかってなんの事ですか?
もっといろいろ感想があるんじゃないのかって、アヒルさん何の事を言っているんですか?
わからないのならしょうがないって、アヒルさん本当に何の事を言っているんですか?
教えてくださいよ。
「ふわぁ、お星さまが綺麗ですね」
頭上に広がる満天の星空に、フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)は、感嘆の声を上げた。
赤い瞳に映るのは、落ちてきそうなほど綺麗に輝く無数の星。
来てよかった、と思う光景。
例えホテルの屋上に至るまでに、暗くて薄汚れていてお化けでも出そうな階段を、おどおどびくびく上ってきていたとしても……
「……廃業してしまってますけど」
あ。ここまでの道中に感じたものを吹き飛ばすには感動が足りなかったようです。
「こんなに綺麗な星空が見えるホテルがなんで廃業してしまっているんでしょうね?」
入るのに覚悟が必要だった入り口や、微妙に物が残っていたりそれが壊れていたりするフロアや廊下、とにかく暗くて怖かった階段を思い出してか、どこか文句を言うような口調でフリルは1人語る。
しかし、その手の中のアヒルちゃん型ガジェットが、があ、と鳴いて。
「どんないい場所でも廃業する時は廃業する、ですか……いろいろと難しいんですね」
その言葉を唯一正確に理解できるフリルは、ふう、とため息のような息を吐いた。
独り言ではない。いつもガジェットが傍にいてくれるから。
だからこそ、怖い階段も上れた。どんな世界にも来れた。
この、サイキックハーツ世界にも――
があ。
「ふえ? それよりも感想はそれだけなのか、ってなんの事ですか?」
不意に鳴いたガジェットの言葉に、首を傾げるフリル。
心当たりが全くなくて困っていると、またガジェットが鳴いて。
「もっといろいろ感想があるんじゃないのか?
アヒルさん、何の事を言っているんですか?」
フリルの困惑は深まるばかり。
怖かったのはホテルが廃業しているせいで。星空は本当に綺麗で。
でも遊びに来たわけではなくて、危ない研究施設に人が攫われているようだから何とかしなきゃいけない、というのは分かっている。けれど、今はその詳細も分からないし、オブリビオンの姿も見えないから、感想も何もまだない。
そんな状況で、ガジェットが何を求めているのか、フリルには理解できなくて。
があ。
「わからないのならしょうがない、って……
アヒルさん本当に何の事を言っているんですか?」
それでもガジェットは何も答えない。
「教えてくださいよ」
フリルの情けない声を聞きながら、ガジェットは円らな黒瞳で星空を見上げた。
大成功
🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
行方不明の人たちがいて
しかも
そん中に未春の知り合いがいるってんなら
尚更見過ごせない
オブリビオンを海へ還すぜ
まずは星空を楽しむぜ
行動
お、確かに寝っ転がってみるなら
屋上が良さげかも
ゴロンと横になって空を眺める
綺麗だよな
っとによく見える
空気が澄んでるんだろうな
あの輝く星たちの中には
地球と同じような惑星がある星もあって
俺たちと同じように夜空を眺めているのかも
つまり星の輝きは命の輝きと同じだよな
なーんて自然に思えてくるぜ
で、起き上がって
邪魔にならないよう気をつけて
夜空を見上げながらギターを爪弾く
気分がいいからだけど
その他に
音の反射で隠された出入り口を探ってる
ってのもあるぜ
あと影も何か教えてくれるかも
(「っとによく見える。空気が澄んでるんだろうな」)
屋上にゴロンと横になった木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は、視界いっぱいに広がる星空に口元を緩めた。
そこは、四方を囲む転落防止のフェンスと、階段に続く扉がついたコンクリートの直方体、その横にどんっと置かれた給水タンク以外は何もない、ただただ平坦な屋上。
だからこそ、寝っ転がって星を見るには最適で。
「綺麗だよな」
思わず感動が声に出る。
満天の星しか見えないから。
あの輝く星たちの中には、地球と同じような惑星がある星もあって。ウタと同じように夜空を眺めているのかもしれなくて。
(「つまり星の輝きは命の輝きと同じだよな」)
なんてことを自然に思えてしまったりする。
美しい瞬き。
それを思う存分、独り占めして。
よっ、とウタは起き上がった。
でもそのまま立ち上がらず、屋上に座り込んだまま。
手にしたのはワイルドウィンド。インカムつきの愛用のギター。
確かめるように数音鳴らしてから、爪弾くのは穏やかで緩やかな調べ。
夜空の星の瞬きを邪魔しないように、旋律を広げていく。
演奏を始めたのは、美しい景色に気分がいいから、だけれどもそれだけじゃない。
(「行方不明の人がいるんだよな」)
しかもその中に、案内してくれたグリモア猟兵の知り合いもいるという。
それは尚更見過ごせない。
グリモア猟兵として前に進んでいく少女の助けとなるためにも。
ウタは次の行動を見据え、広がる音が不自然に反射するところがないか耳を澄ませ。また|影の追跡者《シャドウチェイサー》を召喚し、怪しい者がいたら追跡しようと待機させる。
(「……特に変わったものはない、か」)
だが、音の広がりは目に見える光景と相違なく、隠された出入口、なんてものもなさそうで。屋上にいるのは猟兵だけで、影が追跡できる相手も見当たらない。
他に変わったことはないかとさりげなく周囲を探りながら。
ウタは星空の下でギターを奏で続けた。
大成功
🔵🔵🔵
木元・明莉
山中での星見は例外なく素晴らしいモンだが、
状況が状況だけに心から楽しむ、てのは難しそ、かね?
が、先行している七重の知り合いさん、てヤツはそれはそれとして楽しんでいたような気も、したり、しなかったり?
ま、あれこれ考えずゆっくりしましょっか
フェンスを背に、お茶の持ち込みOKならペットボトル片手に星空眺めるよ
この時期は低空に在る北斗七星、見えるかな?
お、流れ星
あれって数ミリの塵が流れる姿と聞いた時、あまりの小ささに慄いたよな
星見に来てる人達の様子も確認し、俺の他の猟兵の姿を⋯て、流石、ぱっと見全然わからんな
デモノイトの研究所なんてもん、現存される訳にはいかないんでね
警戒されずに探索へと向かいたいね
「山中での星見は例外なく素晴らしいモンだ」
フェンスに背を預けた木元・明莉(蒼蓮華・f43993)は、ふっと小さく微笑みながら、手にしたペットボトルに口をつけた。中身はシンプルにお茶。普通に持ってきたからもう冷たくはないが、その涼やかな口当たりで十分だ。
この時期は北斗七星は低めの空にあるんだよな、と目の前の空を探す。街中では見えない星もたくさん見えるから、星のつながりを探すのが少し大変なのが嬉しい。
そうして星空を楽しみながらも。
(「状況が状況だけに心から楽しむ、てのは難しそ、かね?」)
明莉の心中に影を落とす、行方不明事件の話。しかもそれがデモノイドの研究施設に行きつくとなれば、放ってはおけないから。
(「デモノイトの研究所なんてもん、現存される訳にはいかないんでね」)
星空を眺めながら、不自然にならないように辺りも見回す。
フェンスに囲まれた屋上には、出入りのための扉と、もうきっと空っぽになっているであろう給水タンクくらいしかない。何もないからこそ天体観測スポットになったのだろう。
確かに、街から離れた山の中にわざわざ来て、5階建てのホテルの階段を頑張って上るだけの価値はある景色だ。エレベーターが使えないのを恨めしくは思ったが。明莉も開けて来た扉の向こう、階段の隣の両開きの自動扉が開いたならば、もっと楽に屋上まで来れた。電気が来ていない以上、言っても仕方がないことだが。
そうして階段を上って星を見に来た人は、明莉の他にもいる。カメラに向かって話し続ける左目に眼帯をした萌え袖の少女に、両手の中のアヒルの人形に語りかける大きな帽子をかぶった少女。ギターを爪弾くのは黒髪の少年、いや青年か。それぞれが屋上で、離れて好き好きに行動している。
しかし、今夜ここに集まった彼らは猟兵のはず、だが。
(「流石、ぱっと見全然わからんな」)
皆、満天の星の下で思い思いに過ごしているようにしか見えなくて。本当に星空を楽しむために来ているかのようだったから。
明莉は、ふと苦笑する。
(「先行している七重の知り合いさん、てヤツも、それはそれとして楽しんでいたような気も、したり、しなかったり?」)
事件を話してくれた、グリモア猟兵になったという後輩。彼女が語る『知人』を、明莉も知っている気がして。彼ならば、もしかしたら自分から事件の只中に飛び込んでいったのではないか、なんて思ったりもして。
でも今は。明莉は夜空を見上げた。
(「ま、あれこれ考えずゆっくりしましょっか」)
動くべきその時に備えて。
大成功
🔵🔵🔵
ユウ・リバーサイド
【朱玄】
海莉とテラス席へ
縁と絲を呼び出して
アルジャンも一緒にね
うん、天体観測だよね?
ふふっ、確かに言われてみれば
持ってきた大きな魔法瓶には
グレープフルーツの香りの冷たい緑茶を
お菓子にはサクミラで購入したフランスの伝統焼き菓子を皆に
(犬猫にはお水を)
振る舞いながら
フ、フンイキ?
(ぎこちなく後ろを振り返って
忘れようとしていた廃墟の様子に震え
エンをギュッと抱きしめ)
(イトは『むしろ懐かしい感じ』と
エンはユウの耳元で『お父さんが一緒だから怖くない』)
…!
(ハッとした表情で)
…うん、確かにそうだ
(イトがガッツポーズで励まし)
(手元のクラフティに視線を下ろし)
“俺”も会ったことがあるかも
絶対助けなきゃね
南雲・海莉
【朱玄】
義兄と共にテラス席へ
(上機嫌で尻尾を振りながらついてくるリンデン)
義兄さんと天体観測、ね
(リンデンとアルジャンに犬用、猫用おやつを配りつつ)
だって小さい頃は星より夜景がメインだったでしょ?
(2人、芦屋にいた頃は
夜はUDCの職員さんの車で市内の展望台に連れて行ってもらってた)
アルダワも蒸気で星なんて見えなかったし
綺麗よね
ホテルもとても雰囲気たっぷり
(突然の怖がる様子にくすくすと)
エンくんとイトちゃんは怖くないの?
(ちょっぴり覚悟を決めた様子の義兄に笑み)
子供に頼るわけに行かないわよね、『お父さん』?
(リンデンが「わふ」と同意したように)
未春さんのお知り合いが居るのよね
全力を尽くしましょ
ホテルの1階にはレストランがあった。
もちろんホテルと共に廃業したそこには、テーブルとイスがそのまま残されていた。古く薄汚れて、また一部は脚が折れたり壊れていたけれども。まだまだ使えるものも多く。
それは、ガラスが割れた大きな窓の向こう、テラス席も同じだったから。
「義兄さん、この席でどう?」
そっとテラスに出た南雲・海莉(Pray to júː・f00345)は、比較的汚れが少なく、壊れていないテーブルを見つけると、そのイスの座面をさっと払ってから座った。
後をついて来た、背中に小さな翼がある褐色大型犬・リンデンが、尻尾を振りながらイスの横におすわりする。その頭をそっと撫でた海莉が、リンデンの後ろを見上げると。
「うん、充分だ」
ユウ・リバーサイド(Re-Play・f19432)が頷いて、リンデンの横を通り過ぎてテーブルを回り込み、海莉と向かい合うイスに腰かけた。
ユウの後に続くのは、小学生くらいのまだ幼い雰囲気の少年と、中学校制服を着た長い髪の少女。そして大柄なハチワレ猫。少年少女はイスに座らずユウの傍に立ち、猫はテーブルの下でくるんと丸くなる。
皆がそれぞれの席についたのを見てから。海莉は改めて、空を見上げた。
無数の星が輝く夜空を。
「義兄さんと天体観測、ね」
ふふっと面白そうに零れた言葉に、不思議そうにユウが首を傾げる。
「うん、天体観測だよね?」
そのために来たはず、と思って確かめれば。
「だって小さい頃は星より夜景がメインだったでしょ?」
苦笑しながら言う海莉に、ああ、とユウもようやく頷いた。
それは昔。2人でUDCアースの芦屋にいた頃。夜に、UDC職員の車で市内の展望台に連れて行ってもらったことが度々あった。でも、その展望台はここよりもっともっと街に近かったこともあり、綺麗なのは街の灯りで。星は明るいものしか見えなかった。
「アルダワも蒸気で星なんて見えなかったし」
その後、海莉が1人で暮らし、ユウを迎え入れた世界でも、蒸気機械が多いゆえに綺麗な星空なんて望むことすらできなくて。
「ふふっ、確かに言われてみれば」
わざわざ他世界に来ないと楽しめない光景、というのをやっと認識して。ユウも、ふふっと笑みをこぼした。
少しの間、2人は静かに星空を見上げ。
そこにリンデンが短くひと吠えした。
「ああ、そうだった」
思い出した海莉は、持ってきた犬用おやつを、お待たせ、とリンデンの前へと差出し。
「アルジャンの分も、ね」
テーブルの下も覗き込むと、寝転がるハチワレ猫の前にも猫用おやつをそっと置く。
その様子に、ユウも、テーブルの上にフランスの伝統焼き菓子を出し。携帯用カップに、大きな魔法瓶から冷たい緑茶を注いで、海莉に渡した。
「リンデンとアルジャンはこっち、な」
そしてテーブルの下には水を入れた器を置いて。
星空の簡易お茶会。
「ありがとう、義兄さん」
海莉はカップを手にすると、そっと口をつけて。
「……グレープフルーツ?」
「ああ。夏らしく爽やかだろう?」
ふんわり口に広がる香りに微笑み合った。
焼き菓子もいただいて、甘さと爽やかさを楽しみながら。
改めて見上げる星空。
「綺麗よね」
思わず、海莉の口から感想が零れ落ちる。
「ホテルもとても雰囲気たっぷり」
「フ、フンイキ?」
続く言葉に、ユウの肩がびくっと跳ねた。
ぎこちなく振り返れば、そこにそびえ立つのは廃ホテル。割れた窓ガラスに家具などが残され荒れた内部、人工の灯りひとつない暗い建物。怪談にぴったりのロケーション。
忘れよう忘れようとしていたその様子を改めて認識してしまったユウは。
心配そうに寄り添ってきた少年をぎゅっと抱きしめる。
突然の様子に、海莉はくすくすと義兄を見つめて。
「エンくんとイトちゃんは怖くないの?」
『むしろ懐かしい感じ』
訊ねた長い髪の少女は、穏やかな笑みを浮かべていた。
「そりゃ、|絲《イト》は旧校舎の七不思議なんだから……」
口を尖らせるユウに、抱きしめていた少年がそっと耳打ちする。
『お父さんが一緒だから怖くない』
「……うん、確かにそうだ。|縁《エン》も絲も、みんな一緒なんだから」
気付きと共に覚悟を決めた様子のユウに、海莉は優しく微笑んで。
「子供に頼るわけに行かないわよね、『お父さん』?」
同意するように傍らのリンデンが、わふ、と吠えた。
頷くユウの腕の中で縁がはにかむように笑い、寄り添う絲がガッツポーズを見せる。
怖がってばかりはいられない。
だってユウ達はここに、行方不明になった人を助けに来たのだから。
「未春さんのお知り合いが居るのよね。全力を尽くしましょ」
グリモア猟兵の――困ったときは助けると約束した友人の願いを受けて、海莉は星空をまた見上げ。
「……『俺』も会ったことがあるかも」
ユウは手元のクラフティに視線を落とすと、何かを食べている様子ばかりが思い出される知人の姿を脳裏によぎらせて。
「絶対助けなきゃね」
先ほどとは少し違う覚悟を口にした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
勝沼・澪
いくら星が綺麗に見えるからって廃墟に無断侵入は立派な犯罪行為なんだが……バレなきゃいいの精神かね。まあ、今回我々は「依頼」という名の大義名分があるからいいが。
1階レストランのテラス席で自前のドリンク(ノンアル)を片手にのんびりしているとしよう。目に見えた場所に「知らない誰かがいる」というのも立派な抑止力になり得る。誰も知らない場所で法を犯すことへの背徳感こそがここに人を招き入れるスパイスなのだから。
しかし……まだ残っているとはね。意外と調査は穴だらけだったようだ。
レストランのテラス席にはもう1人、勝沼・澪(デモノイドヒューマンのダークヒーロー・f44220)がのんびりと座っていた。
「いくら星が綺麗に見えるからって廃墟に無断侵入は立派な犯罪行為なんだが……」
呟いて、口をつけるのはドリンクの入ったボトル。廃ホテルゆえにレストランが営業しているるわけもないから、もちろんそれは澪の持ち込み――というより、その場で創造した、本当の意味で自前の栄養ドリンクだった。
猟兵である澪のユーベルコードだが、サイキックハーツ世界ではさほど珍しくない能力lである。エスパーも使えるESPにも『ドリンクバー』はあるのだから。とはいえ、猟兵とエスパー、もとい、ユーベルコードとESPでは、見た目は同じでもその効果は大分違う。まあ、それはさておき。
「バレなきゃいいの精神かね。
まあ、今回我々は『依頼』という名の大義名分があるからいいが」
不法行為を気にしているのかいないのか、呟きの割には緊張感の欠片も見せず、澪はイスに座ったまままったりと空を見上げた。
煌めく星々は確かに綺麗で。わざわざ来ようとする理由になるのも納得できる。
そこに、誰も知らない場所で法を犯すことへの背徳感が加わることで。
隠れた人気スポットになってしまった、というわけか。
(「些細な悪事はスパイスなのだから」)
だからこそ、澪は、ホテル入り口からも見えるテラス席に座る。
目に見えた場所に『知らない誰かがいる』というのは、背徳感をスパイスどころではなく高めてくれるはず。澪が居るだけで、立派な抑止力になり得るはずだから。
これで、今夜この廃ホテルに集うのは猟兵達だけになっただろう。
「しかし……まだ残っているとはね」
ドリンクボトルから離した澪の口元が、苦く歪んだ。
思うのは、このホテルのどこかに入り口があるという研究施設の存在。
ソロモンの悪魔・アモンが創り上げた、人間をデモノイド寄生体によりダークネスへと変貌させてしまう秘法。それを用いてダークネスを――デモノイドを量産させるための場所。
サイキックハーツ大戦を経て、全て破壊された、との報告書もあった、その施設がまだ残っている。そのことに、澪は眉を寄せ。
「意外と調査は穴だらけだったようだ」
重い溜息をつくと、澪はまたドリンクボトルを傾け、夜空を見上げた。
星が、流れる。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『囚われた人々を救え』
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POW : 体力に任せ、くまなく捜索を行う
SPD : 人目に付きにくい場所や、誘拐に利用されたと思しきルートを探る
WIZ : 誘拐事件に繋がりそうな情報を集め、人々の居場所を推理する
イラスト:del
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ギターの音が聞こえた気がして、彼はふと顔を上げた。
動きを止め、しばし耳を澄ませる。
しかし聞こえたのは、空調の音とくぐもった機械音のみ。それまでも聞こえ続けていた音だけで、気のせいかと視線を落とす。
それもそうだろう。何しろこの部屋には窓の1つもなく、唯一の入り口である扉も固く閉ざされているのだから。
隣の部屋にあるらしい何らかの機械の稼働音は聞こえるけれど、それも壁越しに僅か、低く小さく響くのみ。扉の向こうからすら、足音の1つも聞こえない。誰も廊下を歩いていないからなのか、頑丈そうな扉が防音だからなのかは分からないが。
そんな状況で、外の音など聞こえるはずがない。
例え誰かが助けに来てくれていたとしても。
扉を開けるか、この研究施設を壊すかしなければ、音は聞こえないだろう。
「……お兄ちゃん?」
考えを巡らせているその様子に、小学生の男の子が声をかけてくる。
座る父親にしがみついたまま、不安よりも不思議そうな顔をして。息子の肩を抱いた父親の方が、青く硬い顔をしていた。
顔を上げて男の子の方を見ると、その向こうに固まって座っていた女子高校生3人も、ゆるりと振り向いたところで。
なんとなく部屋の反対側に視線を流すと、くたびれた服装の中年男性も、眠っているかのように俯いていた顔をこちらに向けていた。
天体観測に来ていた親子。
肝試しのつもりで遊びに来た女子高生。
雨風をしのごうと思ったと語った男性。
そして、偶然立ち寄った麓の町で、失踪者がいるという小さな噂を聞いた、彼。
閉ざされた部屋にはその7人だけがいる。
静かに、何も喋らずに、座って。
出してくれと暴れるのも、なんでこんなことにと泣きわめくのも、既に終わっている。
互いの簡単な自己紹介もした。でなければ、私服の少女たちが高校生かどうかすら分からなかったから。助け合うために。助かると希望を持つために。話をした。
でもそれも尽きて。
ただ座り込むだけになっていた。
彼は、首を傾げた男の子に、なんでもないというように首を振って見せる。
聞き間違いだと思うギターの音のことは伝えない。期待を持たせすぎてはいけない。それに元々彼は口数が少なかったから。気のせいだったとも語らない。
でも、短いこげ茶色のくせ毛の下で、藍色の瞳は強く確信を抱いていた。
絶望の欠片もない、希望と信頼の光。
武蔵坂学園に入ってからずっとずっと消えない灯。
またそれぞれに俯き、身を寄せる助けるべき人たちを見つめてから。
彼は――|八鳩《やばと》|秋羽《あきはね》は、自分の足に繋がった『赤い糸』が消えていないことを確かめて、猟兵の来訪を待つように天井を見上げた。
木元・明莉
さて、そろそろ動き出そうか
夜の闇に紛れて人目を避け屋上から抜け出し探索を始めよう
目立たぬよう注意深く進んでくかね
⋯七重が、知り合いが手掛かりを残してるかもとか言ってたっけ
手掛かり、ねぇ
食いしん坊の事だから、パンくずとか落としていってたりしてね
思わず懐かし気に笑みを零しながらも、「手掛かり」は見落とさず、それを頼りに入口を探していこう
入口、ここかな?
捕らえられている人達の気配を感知し目星がつけば、密やかでも中に声が届くよう話しかけてみて
知った声が返れば、腹減ってないか?と本人確認
さて扉はどうしよっかね?
とりま扉から離れてもらい、大刀「激震」の重さを使い扉を叩き潰してみようかね?
見上げていた夜空に、一筋の光が走る。
「お、流れ星」
あれはわずか数ミリの塵が流れる姿らしい。それを聞いた時、あまりの小ささに慄いたのを思い出しながら。
木元・明莉(f43993)はフェンスから背を離した。
(「さて、そろそろ動き出そうか」)
もう天体観測のフリは充分だろうと判断して、ゆっくりと動き出す。
それでもいきなり目立つことはしない。まずは、次の観測場所を探すかのように、時折夜空を見上げながら屋上を歩き回った。
懐中電灯なんかは点けない。星を見るには邪魔だから不自然に見えるだろうし、月のない夜でも星明りでそれなりに明るい。それに、ずっと屋上にいて闇に目が慣れている。
天体観測に来たならば。天体観測に来たフリをするならば。
失踪した人々は、屋上に来たはずだから。
屋上から探すのは間違っていないだろうと思い。
(「七重の知り合いさんなら、手掛かりを残してるだろ」)
思い当たる彼ならば、戦うことはできなくても、きっと『何か』してるはず。
(「食いしん坊の事だから、パンくずとか落としていってたりしてね」)
思わず懐かし気に笑みを零しながら、ぐるりと屋上を回っていった。
フェンスに囲まれた、平らな屋上。
どんっと置かれた給水タンクに近づいて。雨風に汚れ古びたそれを、さりげなく叩いてみる。響く低い音。中は空っぽか、水が残っていてもほんのわずかだろう。そして中に人の気配はない。
あとは屋上に出入りするための扉だけ。
屋上には何もないのかと。階下を探しに行こうと、明莉は扉を開け。
階段を下りようとして、それに気付いた。
階段の横にはもう1つ扉がある。電気が来ていないから動かない、両開きの自動扉。
エレベーター。
その閉じた扉から、1本の赤い糸が伸びていた。
「……アリアドネの糸!」
明莉はすぐにその正体を理解する。
アリアドネの糸――服の生地から、自分と仲間にだけ見える赤い糸を作成するESP。糸は、これを発動した地点から伸び、使用者の足に繋がっている。何らかの理由で起点に戻れなくなるか、使用者がESPを解除するまで、消滅しない道標。
かつては灼滅者しか使えなかった能力だが、エスパーとなったサイキックハーツ世界の一般人にも使える者が現れている。
そう。きっと彼も……
明莉は、エレベーターの扉をこじ開けた。
そこに人が乗るための箱はなく、また箱を上下させるための太いケーブルも切断されたのか存在せず、ただただ穴が開いているのみ。
そして赤い糸は、穴の底へと伸びている。
地下へと。
「ここが入口、か」
確信すると、明莉は穴へと身を躍らせた。
一番底まで辿り着き、四方を見回すと。自動扉となる機構は見つからなかったが、代わりにでっかい横穴が開いていて。
赤い糸は、その横穴の先へと明莉を導く。
ホテルとは到底思えない地下室。その廊下を明莉は足音を殺して進み。左右に時折ある扉はいったん無視して、赤い糸だけを追う。
そして辿り着いたその部屋の前で。
明莉は扉越しに人の気配を感じた。
「……誰かいるか。助けに来た」
密やかに、だが中に声が届くように話しかけてみるけれど。
動揺の気配が伝わるものの、声は返らない。
警戒されているか、と考えた明莉は。
「八鳩。腹減ってないか?」
『……大丈夫。皆、無事』
本人確認を兼ねて、知人であることを伝えられるように言葉を選べば、予想通りの声が応えてくれた。
口元に苦笑を浮かべ、安堵の息を吐いてから。
「扉を開けるから、離れてろよ」
明莉は150cm丈の幅広い銀色の大刀『激震』を構え。
その重さで叩き潰すように、扉を開けた。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふえ?もう行くんですか?
もう少し、お星さまを眺めていても。
ふええ、アヒルさん怒らないでください。
行きます、行きますから、もう随分出遅れてるのは分かってますから、ただちょっとあの廃墟の中に戻るのは嫌かなって。
ふええ、急かさないでください。
さっきから、ずっと同じ事を言ってるって、今度はちゃんと行きますから。
それでどっちに行けばいいのですか?
屋上に上る途中で赤い糸を見なかったかって、そういえばありましたね。
特に気にしませんでしたが。それを追えばいいのですか?
ふえ?アヒルさんなんで不機嫌になっているんですか?
覚えてないならしょうがないかって、なんで何か納得してても私は突かれなけきゃいけないんですか。
屋上で星空を眺めていたフリル・インレアン(f19557)は、手の中のアヒルちゃん型ガジェットの鳴き声に、その視線を下ろした。
「ふえ? もう行くんですか?」
他の人には、があ、としか聞こえない声。でもフリルは、フリルだけは、その声の意味を正確に聞き取れて。
「もう少し、お星さまを眺めていても……」
美しい星空をもう一度見上げる。しかし。
があ!
「ふええ、アヒルさん怒らないでください。
行きます、行きますから。もう随分出遅れてるのは分かってますから」
強くなった鳴き声に、フリルは涙目で再びガジェットを見た。
そう。フリルはここに天体観測に来たわけではない。この場所で失踪した人を探しに、そして予知された危険な施設の対処をするために、ここにいるのだから。
綺麗な景色をずっと見ているわけにもいかないのは、フリルにも分かっている。
「ただ、ちょっと、あの廃墟の中に戻るのは嫌かなって……」
ちらりと視線を向けた先にあるのは、屋上に出るときにくぐってきた扉。
その向こうは、だいぶ前に廃業したホテル。暗く荒れ果てた建物の中は、雰囲気ばっちりの天然お化け屋敷状態だったので、頑張ってここまで通ってきたフリルが、また戻りたくないと思うのも無理からぬこと。ですが。
があ!
「ふええ、急かさないでください。
さっきから、ずっと同じ事を言ってる、って今度はちゃんと行きますから」
ガジェットに怒られ急かされ、ついにフリルは覚悟を決めた。
いつも以上にびくびくおどおどした足取りはゆっくりではあるけれど。
扉に向かって戻っていく。
「それでどっちに行けばいいのですか?」
建物の中、といっても5階建てのホテルにはそれなりに広さがある。手掛かりもなく、無目的にぐるぐる歩けば、そこそこ時間を取られるだろう。その分、怖い時間が長くなりますし。
なのでフリルは、ガジェットを頼ったのだが。
があ。
「屋上に上る途中で赤い糸を見なかったか……って、そういえばありましたね」
指摘にフリルは思い出す。屋上の扉を開ける直前、階段の踊り場で見た赤い糸を。
確かそれは、エレベーターの扉から出ていて。このエレベーターさえ使えれば、怖い階段をずっと登って来なくてもよかったのに、怖い時間が短くなったのに、と恨めしく思ったのも思い出す。何しろ、赤い糸に気付いたのも、怖くて足元ばかり見ていたからだったから。
「それを追えばいいのですか?」
でもその赤い糸が重要な手がかりだなんて思っていなかったフリルは、ガジェットに首を傾げ。そのガジェットが、答えもせず、ぷいっと横を向いているのに気が付いた。
「ふえ? アヒルさん、なんで不機嫌になっているんですか?」
鳴き声を聞かなくても分かるその雰囲気に、フリルは困惑するけれど。
どうもその困惑すらも、ガジェットには気に食わないようで。
があ。
「覚えてないならしょうがないか、って……?」
言い放ったその言葉の意味も、フリルには分からず。
かつてその赤い糸をフリル自身が使っていたことを思い出せず。
サイキックハーツ世界に|戻《・》|っ《・》|て《・》|き《・》|た《・》ことへの感想をフリルが抱けなかったことも加えて。
さらにガジェットの機嫌が悪くなる。
だから。
すこーん!
「なんで何か納得してても私は突かれなけきゃいけないんですか!?」
八つ当たりのように、フリルの額に黄色いくちばしが突き刺さった。
大成功
🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
っと、隠された扉じゃなくて
現にある扉が入り口ってことだったか
ともあれ
皆、無事みたいだし何よりだ
(耳がいいから声が聞こえてる
行動
身を躍らせて飛び込んで
獄炎噴射で軟着陸
さぞ怖かっただろうし
今も救援が来たとは言え
こんな廃屋に囚われていて
攫った相手も健在となれば
到底気持ちが安らがないだろう
安全が確保されたわけじゃないは事実だ
けどオブリビオンがやってくる前に
全員を脱出させるのは多分難しいよな
だからギターを爪弾く
戦闘力upはつまり
この異常事態に落ち着いて行動出来る
未来への希望と立ち向かう勇気とが心に灯る
ってカンジでワイルドウィンドを奏で歌う
ああ、当然オブリビオンにも聴かれちまうだろうが
どの道倒す相手だ
迎え撃つのみだ
俺たちが敵を倒すまで
もう少しだけ辛抱していてくれよな
来たようだ
俺たちの心も燃えてるぜ
すぐに海へ還してやる
「ふええ……アヒルさん、ここです……」
大きな帽子をかぶり、何故か額を抑えた少女が指示したのはエレベーター。
屋上へと上ってきた階段の隣にある両開きの扉を指し示し。
「ふえ? 扉、開いてましたっけ?」
それが全開の状態で、下へ続く穴を見せているのに首を傾げた。
その後をついていった木霊・ウタ(f03893)は、少女の横からひょいと穴を覗き込み。
「なるほど。隠された扉じゃなくて、現にある扉が入り口ってことだったか」
「ふええ!?」
感想を思わず口にすれば、少女の肩がびくっと跳ねた。
幾度も肩を並べた身知った猟兵ゆえに、少女が同じ目的でここに来ていると確信し、その動きを追ってきたのだが。少女はウタに全く気付いていなかったらしく。そして驚いた反動からか、帽子の下からおどおどとこちらを見上げる怯えたような赤瞳に、今度はウタが驚いてしまった。
でもすぐに、ウタはにっと笑みを浮かべて。
「皆、無事みたいだぜ」
鋭敏な耳に聞こえてきたかすかな声を教えるように、穴の底を指さして見せた。
だが、少女には聞こえなかったらしく、きょとんとするだけで。
確かにまだまだ遠いしな、と思ってウタは苦笑する。
「無事で何よりだが……早く助けに行かないとな」
そして、穴の淵に立つと。
「行くぜ?」
「ふえ?」
少女を無造作に抱えて。
「ふええええええ!?」
穴の底へと身を躍らせた。
人が乗り込む箱どころか、その箱を吊り下げ上下させる太いワイヤーすらもない、ただの穴になっていたエレベーター。少なくとも建物の地上階分――5階分はある高さを、何の補助もなく、翼もなく、飛び込んだのだから、少女の悲鳴も当然か。
だがウタは、焦りの欠片もない余裕の表情で、ぐんぐん近づく穴の底を見て。
タイミングを計ると、ブレイズキャリバーたる獄炎を一気に放った。
「ふええ!」
少女の悲鳴が、落下の恐怖から炎や爆音への驚きへと変わる。
それと同時に、炎の噴射の勢いで、落下速度が急減し。熱く焙られた穴の底へ、ウタは静かに着地。
「着いたぜ」
告げて見下ろした少女は、急激な展開に目を回しているようだった……
「あー……」
やりすぎたか? と苦笑して。ウタは少女を抱えたまま当たりを見回す。
落下の途中で数えた開閉機構の数からすると、ここは廃ホテルにはないはずの地下。本来エレベーターが着かない場所。その四方の壁のうち1枚にでっかい横穴が開いているのを見つけ、ウタはそこへと進んでいく。
声は進む先から聞こえていたから。
大分聞き取りやすくなった声を頼りに、ウタは進み。
廊下にいくつかあった扉のうち、開いていた――というか壊されていた扉の中へ入っていくと、大刀を持つ男が振り向いた。
「よっ」
「ああ」
屋上でちらりと見かけた顔。ここにいるということは同じ猟兵。
そう判断して短い挨拶を交わしながら、部屋の中を見る。
床に座り込んでいる人の塊は3つ。1つは、小学生ぐらいの男の子とその肩を抱いた父親らしき男性。1つは、私服の少女3人組。子供っぽさも残っているから中学生か高校生かといったところか。それと、くたびれた服装の中年男性が1人。
そして、大刀の猟兵と話していたらしい、こげ茶色のくせのある短髪の青年。
いずれも怯え疲れた様子はあれど怪我はなさそうだと見たウタは、ほっと息を吐き。
抱えていた少女を部屋の隅にそっと横たえた。
「さっきの爆音は?」
「俺だ。驚かせたか?」
青年との話を切り上げ、問いかけてくる大刀の猟兵に、謝る仕草と共に答えれば。
「まあ、そこそこには。それに……」
「オブリビオンに気付かれる、って心配か?」
続く言葉を先に告げると、返ってくる苦笑。
でもウタは、不敵に笑って見せて。
「どの道倒す相手だ。迎え撃つのみ、だろ?」
空いた手に愛用のギターを――ワイルドウィンドを持った。
気にかけるのは敵よりも、囚われていた人々。
さぞ怖かっただろう。今も救援が来たとは言え、こんな廃屋に囚われていて攫った相手も健在となれば、到底気持ちが安らがないだろう。
この地下の施設にいる限り、安全が確保されたわけじゃないのは事実。
しかし、オブリビオンが支配する施設で、オブリビオンに気付かれずに全員を脱出させるのは難しいとウタは判断していたから。
だから、ギターを爪弾く。
囚われていた人々が少しでも落ち着けるように。
異常事態に立ち向かう勇気と、未来への希望が、その心に灯るように。
そして仲間がここに集えるように。
その心が、力強く燃えるように。
ギターを奏で、歌う。
その場の空気が華やかになり、人々の表情が緩んでいく。
部屋に向かってくる新たな足音が聞こえる。
ささやかだけれども確実な変化に、事態が好転していく気配に、ウタはにっと笑い。
「俺たちが敵を倒すまで、もう少しだけ辛抱していてくれよな」
その勇気と希望を盛り上げていった。
大成功
🔵🔵🔵
勝沼・澪
もう十分星は出てきた。ならそろそろ頃合いかな?
招かれざる客が来ないことを確信したら【DSEリキッド】で自分の体を液状化させてホテルの水道管やら隙間やらをつたって探索といこう。土や埃が体に混じってしまうのは必要経費さ、どうせ体内で溶けてしまうし。
私は「あの頃」を知らない。武蔵坂学園に縁のある複数の猟兵の「知り合い」が誰かも知らない。あの一員になりたくて儀式を受けて、意識を失って、終わった頃には全部終わっていたただの負け犬さ。……でも時すでに遅しでも悪に噛みついたって別にいいだろう?
「もう十分星は出てきた。ならそろそろ頃合いかな?」
ホテル1階にあるレストランのテラス席に座っていた勝沼・澪(f44220)は、ぼんやりと夜空を見上げていた視線を下ろし、ゆっくりと辺りを見回した。
天体観測や肝試しに来る者なら、とっくにホテルに到着しているはずの時間。そんな人々を、招かれざる客を、牽制して追い返すためにテラス席の目立つ位置にいた澪は、もうその役割も必要ないだろうと、ドリンクボトルをテーブルの上に置き。
その手が、溶ける。
デモノイドヒューマンである澪は、肉体の一部もしくは全部を液体に変異させることができる。その能力で、手を、腕を、身体を液状化させると。
探索を開始した。
床に広がり、隙間に入り込み、水道管を通って――人型では決して入れない場所へと、どんどんと侵入していく。
廃ホテルゆえに、身体である液体に土や埃が混じってしまうのが難点だけれども、必要経費と割り切って。どうせ体内で溶けてしまうし、と気にしないようにして。
澪は、広がっていく。
探すのは、デモノイドの研究施設。
澪が生み出されたのとは違う、でも同じ場所。
(「私は『あの頃』を知らない」)
――女の子は、ヒーローになるのが夢だった。
偶然見かけた灼滅者に憧れて。でも女の子は灼滅者になれなくて。それでも諦められなくて。灼滅者になりたくて――儀式に身を投じた。
そして、デモノイド寄生体に魂を蝕まれず、その制御に成功し。
女の子は灼滅者になった。
でも。
(「あの一員になりたくて儀式を受けて、意識を失って、終わった頃には全部終わっていた……ただの負け犬さ」)
手にした力を活用することもできず。
憧れた人達と共に戦うこともできず。
ただ、異形となっただけだった。
(「それでも」)
それでも女の子は――澪は、夢を手放さなかった。
もういなくなったはずのダークネスが何故か再び現れたから、というのもあるが。
それよりも何よりも、澪の心の火は完全には消えていなかったから。
(「時すでに遅しでも」)
サイキックハーツ大戦前の戦いの日々は知らない。
この施設に囚われているという、武蔵坂学園に縁のある猟兵の『知り合い』が誰かも分からない。
あの頃戦っていた灼滅者と同じにはなれない。
それでも澪は、ヒーローになりたいと願って。
今度こそヒーローになると誓って。
(「悪に噛みついたって別にいいだろう?」)
立ち向かう。
思い描き憧れた、ヒーローとして。
大成功
🔵🔵🔵
ユウ・リバーサイド
【朱玄】
海莉の勘は当たるからな
絲、頼む
(「任せて!」
絲が元の姿に戻り
地下への最短ルートを示す)
縁とアルジャンを抱え、急ぐよ
ここは俺がやるよ
(一階エレベーター入り口を
化術で鬼の手にした右手に込めた怪力でこじ開け)
アルジャンにしがみ付かせ
軽技の要領で縦穴を降り
俺にも手がかりが見えた!
…大丈夫かい
(久しぶり、との言葉は飲み込んだ)
未春さんに依頼されてきたんだ
(アルジャンが自分を怖がらない相手を見つけ、体をくっつけて寄り添う
縁と絲が、自分達なりに寄り添い励まそうと救助対象に笑顔を)
俺達は救援に来ました
護衛は任せてください
なので脱出まで後もう一踏ん張り、お願いします
安心させるように笑顔の魔法を添えるよ
南雲・海莉
【朱玄】
アルダワ学生…元だけど私の出番ね
遭難者救助の実習の内容を思い出しながら
…音がした!
勘だけど、下の方!
イトちゃんを追うわ
誰かが先に見つけたのね
UCで降りていくわ
サイドカーは外し
エンくんは後ろに
リンデンは前に抱えるように
帰りもこれで皆を連れ出せるかしら?
皆さん、怪我などはありませんか?
この世界の人は病気や怪我には強いっていうけれど
心は他の世界を同じって聞くわ
(リンデンが率先して幼い子達の元へ
そっと横たわり、撫でられるポジションへ)
擦り傷などがあれば手当
ハミングで歌魔法に
癒しの力を乗せるわ
未春さん程じゃないけれど効果はあるはず
その後で周辺の壁などを調べて監視カメラや仕掛けの有無を確認するわ
「……音がした!」
南雲・海莉(f00345)は、耳に届いた異変に思わず立ち上がった。
レストランのテラス席で同じテーブルについていたユウ・リバーサイド(f19432)も、義妹の様子にすぐに腰を浮かせる。自分には何も聞こえなかった。でも海莉が言うなら。
「どっちだ?」
「勘だけど、下の方!」
「海莉の勘は当たるからな」
信頼と共に頷いて、すぐに傍らの鮮血色の長髪の少女へと振り向いた。
「|絲《イト》、頼む」
『任せて』
応えた少女は、七不思議本来の姿『増える矢印の落書きと廊下の窓に広がる血の手形』に戻る。真っ赤な矢印が、ユウの傍から順に、床に壁に増えていく。
その人が進むべき先を示し、踏み出す勇気を後押しする、優しい七不思議。
それを知るユウと海莉は、迷わずに矢印の通りに駆け出した、
すぐにたどり着いたのは、上へ続く階段の横にある両開きの扉。
エレベーターの入り口。
電気の通ってない廃ホテルゆえに、扉は壁と同じだったけれど。
「ここは俺がやるよ」
抱えていた小学生くらいの少年・|縁《エン》と大柄なハチワレ猫・アルジャンをそっと下ろしたユウは、空いた手を閉ざされた扉へと伸ばした。
真ん中にあるわずかな隙間に右手の指をかけ、化け術で鬼の手にすると、その怪力で扉をこじ開ける。
そこには深い穴があった。
ここはホテルの1階で、階段は上にしか続いていない。つまり地下などないはずだからエレベーターはここより下に行く必要はないはず。それなのに、エレベーターが上下するその穴は、ユウが覗き込むほど下に底がある。
あり得ない地下室。
つまりは、そこが――
「誰かが先に見つけたのね」
穴の底から漏れ聞こえてくる声、というか音楽に、海莉は理解すると。
ユーベルコードで黒い長髪を銀桃色に変え、ホログラムの姿となって、傍に現れた宇宙バイク『エスバイロ:ブリスコラ』にまたがった。
いつもついているサイドカーは、狭い室内を考慮して外している。だから普段そこに座る相棒――褐色の毛色の大型犬・リンデンは、海莉の前に抱えられるように乗り。
「エンくんもこっちに」
呼び寄せた縁を後ろに座らせてから、海莉はバイクを走らせた。
宇宙空間を疾走するための宇宙バイクだけれども、重力下でも、地上走行を、そして降下もできるから。バイクは真っ赤な矢印を追って地下へ降りる。
「アルジャン」
そしてユウは、大柄なハチワレ猫を自身にしがみつかせると、軽業の要領で、縦穴の壁を伝って降りていく。重りがある分、ひらりひらりとはいかないけれど。危なげなく、底に着地できて。
「……見えた」
その足元に、四方を囲む壁のうち1枚に空いた大穴の方へ向けて、赤い糸が伸びているのを見つけた。
同じ色でも絲のものではない。指し示す方向は同じでも、導く絲と違い、ただ通った道を記録するだけの赤い――アリアドネの糸。
起点に戻れなくなった時には消えるESPがしっかり残っていることに安堵し。そして咄嗟にそれを使えるだけの人物がこの先にいることを感じて。
ユウは、足元にアルジャンを降ろすと、赤い矢印と共に、赤い糸の先へと走った。
ギターの音が、歌が聞こえる。大きくなっていく。
そして、開かれた扉を見つけて飛び込むと。
そこに彼はいた。
「皆さん、怪我などはありませんか?」
すぐ後ろでバイクを降りた海莉が早速声をかける。彼だけでなく他の人へも。
この世界の一般人は皆エスパーだから病気や怪我をすることはない。でも、ここに彼らを捕らえたのはオブリビオン。エスパーを殺せる存在。それに、身体は怪我をしなくても心は他の世界の人々と同じはずだから。
海莉はむしろ心的外傷を気遣い、この中で一番年下の、父親らしき男性に肩を抱かれた男の子の元へと向かう。
それを追いかけるように、いやむしろ海莉よりも率先して、リンデンが男の子の傍に駆け寄ると、その前に座り込んで顔を寄せた。驚いた男の子は、でもすぐにリンデンへ手を伸ばし、頭を撫でて。嬉しそうに父親に笑顔を見せる。
縁は、部屋の隅に倒れている大きな帽子をかぶった少女を、不思議そうに覗き込み。
絲も、少女の姿に戻って、1人でいたくたびれた服装の中年男性に何やら声をかけていく。多分、励ましているのだろうと思う。
アルジャンも、部屋に着くなり無造作に奥へと歩き出し、3人の少女の前へ。気付いてきゃあきゃあ騒ぎ出す少女達の手から逃れつつも、つかず離れずの位置で尻尾を揺らして彼女達を楽しませていた。
そんな皆の動きを見てから。
ユウは、改めて彼を見た。
くせのあるこげ茶色の短髪。藍色の瞳。どこかぼんやりとした表情。記憶の中の姿よりぐんと背が伸び、大人びているけれど、ちまっとした小動物のような印象が何故か残っていて。その手に食べ物がないのが不思議に思えてしまう……見知った相手。
八鳩・秋羽。武蔵坂学園の元エクスブレインの1人。
灼滅者に未来予知を与えていた存在。
ゆえに、ユウも――ユウのサイキックハーツ世界での同一存在も、彼を知っていた。
しかし。
久しぶり。
そう言いかけた言葉を、寸前でユウは飲み込む。
記憶を共有しているとはいえ、ユウは『ユウ・リバーサイド』であって|同一存在《草那岐・勇介》ではないから。秋羽とは初対面になる。だから。
「……大丈夫かい?
未春さんに依頼されてきたんだ」
ユウは言葉を変えて、秋羽に話しかけた。
「未春?」
「そうそう。七重、気付いたらグリモア持ってるのな」
こくんと首を傾げる秋羽の隣で、大刀を携えた黒髪の男がにこにこ笑っている。
秋羽を、そして今回の事件を知らせてくれたグリモア猟兵である灼滅者を知る男。彼も灼滅者だと、サイキックハーツ大戦を乗り越えて来た者だと、既視感と共に分かる。
その向こうでギターを弾く青年も猟兵だ。
集った戦力。そして無事を確認できた失踪者達。
「義兄さん」
「海莉」
傍にきた海莉に応えてから、ユウは声を張った。
「俺達は救援に来ました。護衛は任せてください。
なので、脱出まで後もう一踏ん張り、お願いします」
舞台の上に立っている時のように、安心させる存在に見えるように堂々と。そして、笑顔の魔法を添えて。皆に声を届ける。
「……海莉?」
と、秋羽が聞き留めたその名を繰り返し呟くのが聞こえ。
ああ、と振り返った海莉が自己紹介しようとする、より前に。
「南雲・海莉?」
「え? ええ、そうよ」
「……ユウ・リバーサイド?」
「うん……?」
確認するように出て来た自分達の名に、驚く海莉とユウ。
「何だ、八鳩。知り合いだったのか?」
大刀の男性が訊ねるのに、しかし秋羽は首を横に振り。
「知らない。でも、知ってる」
「もしかして、未春さんから聞いた?」
思い当たった海莉の確認に、今度はこくんと頷いた。
なるほど、とユウは海莉と納得の視線を交わし。
(「……あれ?」)
秋羽がじっと自分を見ているのに気付いた。
睨まれているわけでも、笑いかけているわけでもない。でも、ぼーっとしているのとは違う、何か意味のありそうな視線。ただ、その意味に、ユウは全く心当たりがなくて。
どうすればいいのか、戸惑っていたそこに。
「妙だな」
ギターを弾きながら青年がこちらに来て、声をかけてきた。
「これだけ騒いでいるのに、オブリビオンが現れない」
「確かに」
指摘に、大刀の男性も頷き、開けっ放しの扉へ振り向く。よく見ると扉は壊れていて、そもそももう閉じれそうになかったけれど。
部屋の中で、ユウ達は特に声を潜めずに話し、リンデンやアルジャンの行動に笑ったり騒いだり、ギターで音楽を奏で歌ってもいた。その音は、廊下に広がり、研究施設に響いていただろう。
施設のどこかにいるはずのオブリビオンに、それは聞こえているだろう。
それなのに、相手に動きがない。
「軽く調べただけだけれど、この部屋に監視カメラや仕掛けはなかったわ」
いつの間にか探りを入れていた海莉が伝え、さらに首を傾げている。
疑問符が消えないそこに。
「オブリビオンに私達をどうこうするつもりはないようだよ」
新たな声と共に、扉からもう1人、白衣を着た金髪の女性が現れた。壁にそっと当てた右手は、青いマニキュアの塗られた普通の手だったけれど、左手は、長めの白衣の袖に、青い液体が戻っていっている。
「このさらに奥に、デモノイド製造のための儀式場がある。
そこにオブリビオンはいて、そこから動く様子はなかったよ」
まるで先に行って見て来たかのような口ぶりに、女性には、相手に気付かれずに偵察する術が何かしらあったのだろう、と皆は思い。それが何かと問うより先に、思い浮かぶ新たな疑問符。
「このまま俺達を黙って見逃してくれる……?」
まさかそんな、とも思う。むしろそれが罠なのでは、と。
でも、逃げられるなら早く一般人を逃がした方がいい、とも思うから。
どうするかと迷う、そこに。
「ただ……」
白衣の女性が深刻な面持ちで告げた。
「そこには、もうデモノイドの『繭』が1つあった。いつ孵化するかは、分からない」
「!?」
その情報に、海莉がハッと息を呑む。
「攫われたのは、ここにいる人達だけじゃなかったってこと?」
「……もう1人……」
そこに、ぽつりと声が零れた。
くたびれた服装の中年男性が、寒さに震えるかのように自身の身体を抱きながら、揺れる声でぽつぽつと告げる。
「もう1人、いた……俺が連れてこられた時に、先に1人、俺と同じような男がいて……
……どこかに、連れていかれた……その親子が来る前だ……」
「私達の前に、もう1人……」
「ちょっ……オジサン、初耳なんですけど!?」
父親が茫然と呟き、少女達から驚きとも抗議ともつかない声が上がる。
ちらりと見ると、秋羽も少し驚きを見せていた。
そして猟兵達の間には、緊張が走る。
もう1人。すぐに行けば助けられるのだろうか。それとも手遅れなのか。
どちらにしろ、孵化を待つわけにはいかない……
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『想死創哀のレイス』
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POW : 血染めの絵筆
術者の血液に触れたあらゆる対象は、血液が除去されるまで、全ての知覚が【死】で埋め尽くされる。
SPD : 魔が差す一刺し
【刃物型ユーベルコード】を降らせる事で、戦場全体が【誰もが殺し合える世界】と同じ環境に変化する。[誰もが殺し合える世界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ : 緋色の研究
【赤一色で塗り潰されたキャンバス】から【死に至る不運】を放ち、近接範囲内の全てを攻撃する。[死に至る不運]は発動後もレベル分間残り、広がり続ける。
イラスト:サカモトミツキ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠イデア・ファンタジア」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
誰かが来ている。
遠くに聞こえる音に『想死創哀のレイス』は、だが視線を動かさなかった。
濁った金と青のオッドアイが見つめ続けるのは、デモノイドの『繭』。
資料から何とか行うことができた儀式の成果だ。
これが上手くできたなら、次を。もっともっと殺戮者を創ろう。
今度は、番とか親子とか絆がある者達がいい。その片方を目の前でデモノイドにしてもう片方を最初の被害者にしたら、どんな絵になるだろう。いや、片方は生かして逃がして縁のある地へ案内させ、そこで暴れさせたら。デモノイドの正体を伝えさせて、その所縁の地で殺戮を行わせたら。どんな絵が描けるだろう。
でも今は、目の前の最初の破壊者を、待つ。その目覚めを、待ち望む。
侵入者があったようだけれど、それよりも目の前の結果の方が重要だ。
捕らえた人間を逃がされても別にいい。失敗した時にすぐ次ができるようにと思い、この場所で見かけた人間を適当に攫っておいただけで、特に執着はない。このまま成功を見届けてから、また適当に連れてくればいい。
でも、もしこの場所まで来て、儀式の成果を壊そうとするならば、その時は――。
レイスはボロボロのマントの下で、大きな絵筆を握る。
筆先から滴り落ちた赤い血は、足元に溜まり、はだしの足を赤く染めていた。
有城・雄哉
【POW】
アドリブ連携大歓迎
漸く時間が取れたから応援に駆け付けたが
どうやらここにいるのは随分と性格の悪いオブリビオンのようだな
…人の絆を弄び、悲劇を生もうとしているようだが
そう言うのを見るとな…俺は問答無用で殴り倒したくなるんだよ
レイスの血液に触れて知覚を死で埋め尽くされたとしても問題ない
もとより俺は人造灼滅者
この身は人間ではない…ダークネスだ
だから俺は死を恐れない
…相手が悪かったな
ダッシュでレイスに密着し
「グラップル」+指定UCで繭ごと徹底的に殴り飛ばしてやる
命中率の低下は密着して連打することでカバーだ
お前がお前の望む結果を目にすることはない
その繭ごと、俺の拳で叩き壊す!!
有城・雄哉(蒼穹の守護者・f43828)は、地下の廊下を1人駆け抜けていく。
デモノイドの研究施設があると聞いた廃ホテル。漸く時間が取れ、他の者達から遅れての到着となったが、先行する者達の痕跡で施設の場所はすぐに分かった。
ホテル内に残った移動の跡と、不自然に開いていたエレベーターの扉。あるはずのない地下空間に人の気配を感じて進み。そして、囚われの人々よりも、オブリビオンを探してさらに奥へと進んでいく。
一般人の無事は、その部屋の前を通り過ぎた時に聞こえて来た声の調子や、励ますような旋律で確信できたから。ならばと雄哉は敵の撃破を目指し。
辿り着いた部屋に飛び込むと、薄汚れた灰色の長い髪が、ゆっくりと振り返った。
「…………」
誰かとも何かとも、問う声はない。その視線にすらも疑問符は薄い。濁った青と金の瞳に雄哉の姿を映し、どう動くのかを見ているだけの視線。
きっと、雄哉がこのまま立ち去ったり、ただ見ているだけなら、何もしてこないだろう。雄哉がこの場所に来た手段も理由も、猟兵であることや人造灼滅者であることさえも気にしていない。そう感じられる程に無関心な気配。
だがしかし。
「……人の絆を弄び、悲劇を生もうとしているようだが」
雄哉が両拳にバトルオーラを宿し、ダッシュで間を詰めると。
「そう言うのを見るとな……」
乏しい表情のまま、『想死創哀のレイス』はボロボロのマントの下で握った大きな絵筆を持ち上げ。その筆先から赤い血をぽたりと落とし。
「俺は問答無用で殴り倒したくなるんだよ」
静かな怒りを込めた声と共に殴りかかる雄哉を、迎え撃った。
放たれる拳を、大きな絵筆の柄で受け弾き。その動きの合間に筆先を振り上げカウンター。雄哉は拳を引き寄せ腕を立ててガードし、また拳を叩き込む。
「邪魔をするな」
攻防の最中、短く紡がれる声。
「何の邪魔をだ」
雄哉も短く聞き返せば。
「死」
一言どころか一文字で、淡々と返った音に、雄哉の表情がさらに険しくなった。
より強く握り込まれた拳がスピードを増して。
だが、返す筆先から滴る血が、辺りを赤く染める。
『血染めの絵筆』――知覚を『死』で埋め尽くすユーベルコード。
雄哉も、その感覚の全てに死を塗り付けられて。
しかし雄哉は、それを恐れなかった。
(「この身は人間ではない……ダークネスだ」)
人造灼滅者であることを誇るかのように、同時に自嘲するかのように、雄哉は思い。
一度、レイスとの間を開けるも、再び死を恐れずに殴りかかる。
「……相手が悪かったな」
密着するようにして『閃光百裂拳』を叩き込み。低下する命中率は、外しようがない距離を保つことでカバーして。連打する。思いをぶつけ続ける。
「お前がお前の望む結果を目にすることはない」
レイスの後ろに見えるデモノイドの繭。
レイスが迎え出てきた理由を睨みつけて。
「その繭ごと、俺の拳で叩き壊す!」
雄哉の宣言に、レイスの無関心だったオッドアイの瞳に僅かに力が入った。
大成功
🔵🔵🔵
木元・明莉
儀式やらデモノイドの繭やら…悪趣味
当然最初に「儀式」の破壊を仕掛けたい所だが、俺の真先の攻撃対象はレイス
この瞬秒の差でレイスの足止め出来れば僥倖
今も昔も、「見ないと描けない」何てのは描けない奴の言い訳に過ぎない、とも言うね
…まあ、芸術センスからっきしの俺にはよく分からんけども
軽口は叩くが内心は少々穏やかではなく
生命と意思を無視するデモノイド技術、その施設が残っていたのは失態だ
アンタ共々葬り去る
大刀の激震を手に、ダッシュで一気に間合いを詰めて
血を浴びようが問題無い
全てを「死」で埋めつくされる?
過去の戦争で多くの「生」を取り零してきた自覚はある
そんなのは、今更だ
【激震】
防御を打ち砕く一撃を与えよう
木元・明莉(蒼蓮華・f43993)がその部屋に辿り着いた時には、もう戦いは始まっていた。
薄汚れた灰色の長髪を翻し、血の滴る大筆を振るうオッドアイの少女。纏うマントは恐らく戦い以前からボロボロで、駆ける血に汚れた裸足。その赤の全てが自らのものではないことは淀みのない動きからも分かる。
これが『想死創哀のレイス』。
デモノイド研究施設を見つけ、利用しているというオブリビオン。
対峙するのは、バトルオーラを両拳に纏った黒い短髪の青年。その戦い方に、見覚えのある姿に、彼も灼滅者であり同じ武蔵坂学園の関係者とすぐに分かる。であるならば、この研究施設があることを許せないと思っているだろうことも。
そんな戦う2人の向こうにあるのが、儀式場。
そして、デモノイドの繭。
(「……悪趣味」)
不快を露わにしながらも、明莉はレイスへと向かう。
気持ちとしては、本当は儀式の破壊を仕掛けたい所だ。それでも明莉は、一瞬すらも迷わずにレイスへの攻撃に踏み切る。
「生命と意思を無視するデモノイド技術、その施設が残っていたのは失態だ」
苦々しく、吐き捨てるように言いながら。
「アンタ共々葬り去る」
ダッシュで一気に間合いを詰めて、振りぬく大刀『激震』。
殴り続ける青年の攻撃の僅かな間を埋めるような、同じ攻撃が続く中に紛れ込ませた異なる一撃は、だが大きな絵筆の柄で受け止められ。
そこを支点にくるりと弧を描いた絵筆の先から血が滴り、辺りを赤く染めた。
明莉と青年とを飲み込む赤は、知覚の全てを『死』で塗りつぶすユーベルコード。
「死を、見せろ」
赤い世界から『死』を引きずり出して見せつけるかのように、少女のものにしては低い声が明莉の耳に届く。不安や恐怖を逆撫でするかのように、心に不快に響く。
「それを描く」
レイスの声に赤が応え、明莉の全てが『死』で埋め尽くされていく。
けれども。
(「そんなのは、今更だ」)
自嘲気味に明莉は苦笑した。
これまで幾度も『死』に直面してきた。自身のものも、他者のものも。
過去の戦争で多くの『生』を取り零してきた自覚もある。
だからこそ。
今更、それで足を止めてなどいられない。止めるわけには、いかない。
明莉は止まらない。
「今も昔も、『見ないと描けない』何てのは描けない奴の言い訳に過ぎない、とも言うね。
……まあ、芸術センスからっきしの俺にはよく分からんけども」
あえて軽口を叩きながら、強く大刀を握りしめ。
「龍脈に眠る荒神よ」
赤き死を振り払った明莉は、幅広の刀身を鋭く振り抜き、|激震《ハスルチカラ》を放った。
大成功
🔵🔵🔵
勝沼・澪
カビの匂い、埃に塗れた空気、そして鉄錆の香り。なんて辛気臭い場所なんだい、これじゃあロクなアイディアも浮かびやしない。こんなところに長居するより大人しく明るくて開けた場所に移動することをオススメするよ。ここはさっさと取り壊されるべき場所だと分かったからね。
空から大量の刃物が降ってきたら【DESアシッド】の爆発の余波でデモノイドの繭やダークネス本人にその切先を飛ばそう。もちろん爆発が直撃しても一向に構わないがね?
え? 絵を描きたかっただけ? なら題材や画材の趣味が悪すぎだ、さっさとそこら辺の文具店で安い絵の具でも買って出直してきたまえ。
勝沼・澪(f44220)は先ほど探索した道を駆け抜けた。
探索した、といっても全身で来るのは初めての場所。身体を液体として地下に広げ、探り当てたその部屋までの廊下を、仲間に示しながらもきょろきょろと観察する。
そして辿り着いたそこは。
カビの匂いと、埃に塗れ。
鉄錆の香りが満ちていた。
(「なんて辛気臭い場所なんだ」)
一部だけではなく全身で、改めて感じるイヤな空気に思わず嫌悪感が顔に出る。
さっと部屋の中を一瞥して。澪は、先ほどは後ろ姿しか確認しなかった『想死創哀のレイス』と、澪の案内を得ずに到着し既に交戦している青年の姿を見た。
そして戦いの向こうにあるデモノイドの繭を、見た。
「死を、見せろ。それを描く」
呟くように告げて、絵筆の血で辺りを赤く染めるレイス。
「絵を描きたかっただけ?」
澪は思わずその言葉に反応していた。
それだけのためにこんなことをしているのか、と静かな怒りが湧いてくる。
澪は望んでデモノイドの力を手にした。でも繭の中の誰かは、きっとデモノイドとなることを望んでいなかったはずだ。勝手に攫われて、勝手に儀式に使われた犠牲者だ。
「なら題材や画材の趣味が悪すぎだ。
さっさと大人しくそこら辺の文具店で絵の具を買って出直してきたまえ」
胸中の苛立ちを抑えて、澪は冷静なヒーローらしく告げる。声に含まれる怒気を完全には消しきれてはいなかったけれど。それでも凛とした態度で対峙して。
ちらりとこちらを見たレイスのオッドアイと目が合った、と思った瞬間。
降り注ぐ刃物型ユーベルコード。
突然の夕立のような急な攻撃に、だが澪は左手を掲げ。
その腕が、爆発した。
ユーベルコード『|D《デモノイド》|E《イジェクテッド》|S《スキン》アシッド』。
あわよくばレイスを爆発に巻き込めれば、とも思ったがそれはかなわず。でも、爆発の勢いで、強酸性の液体を飛ばしつつ、降ってきた刃物を弾き飛ばす。
その切っ先を、自身からレイスへ、そしてその後ろにある繭へと向けて。
巻き込むように反撃する。
「こんな辛気臭い場所じゃあロクなアイディアも浮かびやしない」
言いながら飛ばした刃物とどんな走行でも腐蝕させる強酸性の液体とが、レイスを襲い、そしてその後ろの繭へと向かっていく。
「こんなところに長居するより、大人しく、明るくて開けた場所に移動することをオススメするよ」
肩をすくめて見せる澪の前で、レイスは繭を庇うように立ちはだかると、大きな絵筆を振るって攻撃を弾き。弾ききれなかった分を盾にしたその身で受け止めた。
大成功
🔵🔵🔵
ユウ・リバーサイド
【朱玄】
縁、絲、アルジャン、皆さんについててくれるか?
連れて行かれた方の事は俺たちに任せてください
…八鳩くん、あの、また後で
人を殺したいのはお前の我儘
誰1人零さずに助けたいのは俺の我儘
だから、押し通す!
攻撃や飛沫はダンスと軽技の要領でかわし
かわせない分は王子様としての蒼き煌めきをオーラとして纏って防御
エアシューズから鎌鼬を生み出し
蒼いハートの投擲と織り交ぜ攻撃
同時に繭へと届きそうな飛沫を風圧で弾き飛ばす
心眼で繭の中のデモノイド寄生体の核を見抜く
核が見えるなら
完全に彼の魂と同化していないなら
未だ間に合うはず!
「帰ってきて!」
黒いハートに浄化と希望の力を上乗せし
UCで肉体を傷つけず核のみを攻撃
南雲・海莉
【朱玄】
リンデン、皆さんをお願いね
(胸を張る相棒を残して)
あんたの芸術は理解できない
分かるのは誰かの大切な人を害そうとした
それだけで骸の海に叩き返す理由には十分よ
思索が属するは土の魔力
剋するは風の魔力
あんたの悪趣味な芸術を丸ごと吹き飛ばしてあげる!
UCの結界を貼り
絵筆から飛び散る分に関しては結界の風で吹き飛ばすわ
みんなに付着した分は蒸気で拭き取って結界の外へと
攻撃は見切り
絵筆を剣で受け流してからダンスの要領で回避
垣間見えた死にも動揺なんてしない
皆の生を守るのだもの!
刀にも纏わせた風の魔力で切れ味を上げ
返り血だって吹き飛ばし切りつける
…あの女は私達に任せて
義兄さんは繭の方を
考え、あるんでしょ?
少しだけ、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれながら、ユウ・リバーサイド(f19432)は廊下を駆け抜ける。
その傍らに七不思議はいない。|縁《エン》も|絲《イト》も、首輪に災い除けのルーンを刻んだ大柄なハチワレ猫・アルジャンも、囚われていた人たちの元に置いてきた。オブリビオンは自分たちで食い止めるし、他に危険な気配もないが、念のために。
「縁、絲、アルジャン、皆さんについててくれるか?」
しっかりと頷く少年少女と、こちらを振り向かず女子高生と遊んでいるハチワレ猫にかけた声は、指示というよりも明確に言葉にすることで皆を安心させるためで。
「リンデンも、皆さんをお願いね」
南雲・海莉(f00345)も倣うように、胸を張る相棒へ大き目の声をかけていた。
だから、残して来た人たちの安全も安心もきっと大丈夫。
その点は心配していないのだけれど。
「連れて行かれた方の事は俺たちに任せてください」
皆の様子を確認するように見回して告げたところで。
ユウは、そのうちの1人と目を合わせることになった。
じっと自分を見つめてくる藍色の双眸。その理由に心当たりがないユウは。
「……八鳩くん、あの、また後で」
そう言うしかできなくて。オブリビオンを倒すのが先と彼も分かってくれるはず、と自分に言い聞かせて背を向けるしかできなかったから。
(「『俺』、マジで何やった?」)
彼と関わったのはサイハ世界の同一存在の方のはず。そう思って、ド天然で鈍感な『自分』の記憶を探りながら、でも答えを見つけられないまま思考がから回る。
だって自分は彼とは初対面なのだから。彼との間にはまだ何もなく、彼が|自分《ユウ・リバーサイド》に何かを思う事なんて……
「兄さん?」
反れた思考を察してか、隣を走る海莉が呼びかけてきた。
そうだ。今考えるべきことは、向かう先にある。
微かな懸念を振り払い、海莉に何でもないと苦笑を返し、ユウは表情を引き締めた。
――すぐにたどり着いたその場所は、血に満ちていた。
その色に、匂いに、気配に。意識しなくとも一瞬にして気持ちが切り替わる。
先に着いた者達が既に戦いを始めていた。囚われた人たちに対応した分、後から追いかける形になったから。それだけでなく、どうやら真っ先にこの部屋に向かった猟兵もいたらしい。先ほどは見かけなかった顔を見つけて理解する。
そして、赤い血の中に立つ『想死創哀のレイス』を見て。
戦いに加わろうとした、そこに。
「死を、見せろ」
少女の姿から発せられたとは思えない低い声と共に、血染めの絵筆が振りぬかれた。
向かい来る赤い血。知覚を『死』で埋め尽くすユーベルコード。
相対する相手への迎撃の流れで、新たに部屋に現れたユウと海莉にもレイスは攻撃を飛ばしてきたのだ。
ユウはダンスを踊るようなステップでその赤を躱そうと身を翻し。
海莉は逆に一歩踏み出して、緋色のマン・ゴーシュを掲げ唱えた。
「水よ、揺蕩いて生命を癒し守護するものよ。風よ、移ろいて世界を浄化するものよ。
今ここにその加護を示せ」
ユーベルコードで生み出されたのは、邪気を清める魔力が籠った風と蒸気の結界。
赤を、死を、『|風雫の障壁《スチームシールド》』で吹き飛ばす。
さらにその風に乗るようにして、海莉はレイスに斬りかかった。
「あんたの芸術は理解できない」
ルーンを刻んだ刃を翻しながら、言葉でも切りつける。
「分かるのは誰かの大切な人を害そうとしたこと。
それだけで骸の海に叩き返す理由には十分よ」
風のルーンが一際輝き、細身の刃に魔力を纏わせ切れ味を上げ。今度は直接的に振るわれた絵筆を受け流すと、踊るようにステップを踏んでまた斬りかかっていく。
他の猟兵が殴りかかり、大刀を振るうのを見て、連撃となるよう合わせながら。
だがしかし、海莉はもう1つの目的のために、皆とは違う動きを取った。
レイスの後ろにある、デモノイドの繭。
それを庇おうとするレイスを繭から引き離そうと動く。
レイスが繭に干渉できないように。
そして、繭に干渉しようとする者にレイスが手を出せないように。
海莉は道を作り、背中を向けたままユウに声をかけた。
「義兄さんは繭の方を」
(「考え、あるんでしょ?」)
振り向きもせず告げた言葉と、確信する思い。
それに応えるように聞きなれた足音が走り出したのに、海莉はふっと微笑むと、マン・ゴーシュ『Flamme』を握る手に改めて力を込めた。
邪魔はさせない。
後悔してほしくないから。
海莉はレイスの絵筆を持つ手を切り裂いた。
傷から流れ出る血。攻防の動きで、その赤は海莉に返り。Flammeに纏わせた風で吹き飛ばすけれども、散らしきれなかった返り血が少しだけ海莉に触れる。
死が、触れる。
長い黒髪を血の海に沈め倒れる自分。ユウが、共に戦う猟兵が、頼もしい相棒が、助け出したはずの人たちが、動かぬ骸となり果てた、幻覚。ユウの声も足音も、死の幻聴に埋め尽くされ。Flammeを握る手の触覚が薄れ、血生臭い匂いと鉄錆の味が広がって……
「思索が属するは土の魔力。剋するは風の魔力……」
しかし海莉は、五感を埋め尽くす死に動揺せず、ルーンを紡ぎ。
蒸気で返り血を拭き取り、死の知覚を消し去ると。
「あんたの悪趣味な芸術を丸ごと吹き飛ばしてあげる!」
風のルーンを再びレイスへと向けた。
そんな頼もしい義妹の援護を受けて、ユウはデモノイドの繭へと向かう。
最初は皆の援護に動いていた。踊るように大きく振ったエアシューズを纏う脚から鎌鼬を生み出し、舞うように大きく振った手から|蒼いハート《Esprit Bleu》を投げ放って。海莉の、他の猟兵の攻撃の助けとなれるよう、レイスと戦っていた。
でも、海莉の動きで。海莉の言葉で。
諦めきれない想いのために、ユウは動いた。
「人を殺したいのはお前の我儘。誰1人零さずに助けたいのは俺の我儘」
この場にいるのはユウたち猟兵とオブリビオンのレイス……だけではない。
囚われた人たちを逃がしたけれど、唯1人、まだ助けられていない人がいる。
ユウは真っ直ぐにデモノイドの繭を見た。
「だから、押し通す!」
繭の中にいるのはデモノイド――デモノイド寄生体を移植された人。
(「完全に彼の魂と同化していないなら、未だ間に合うはず!」)
ユウは黒揚羽とも見紛う|黒いハート《esprit noir》を手にし、浄化と希望の力を乗せて放つ。
何もせずに諦めたくはない。
もう後悔はしたくないから。
(「どうか目を覚ましてくれ!」)
放った『|闇に舞う蝶《パピヨン・イン・ザ・ダークネス》』は、相手の本来の意識を呼び起こすユーベルコード。そして、寄生した魔術由来の生物のみを攻撃する能力。
これならば、完全にデモノイドとなっていなければ、寄生体だけを倒せるはず。
そう信じて、助けるためにユウが求めた、力。
「帰ってきて!」
強い感情を籠めたesprit noirは、繭の中へ吸い込まれるように消え。
玄き虚無を――その向こうの夢を、映した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふえ?アヒルさん、痛いですってば。
起こすときはもう少し優しく起こしてください。
それは現場で寝てしまう私が悪いって、寝ていたのではなくて目を回していたんですよ。
それより、どうしたんですか?
敵さんの場所がわかったから、私を起こしに来たって、どうせ私は足手まといですから、もう少しゆっくりしてからでいいじゃないですか。
ふええ!?そんなことを言っているからいつも出遅れるって、足手まといなら敵の情報を引き出してこいって、アヒルさん何を焦っているんですか?
焦らない私の方がおかしい?
せっかくの初陣で先輩がダメダメな所を見せていたら、あっという間に後輩にまた先を越されるぞって何のことを言っているんですか?
どうせ、再会したということも素で気が付いてないんだろうって、アヒルさん教えてくださいよ。
ふええ、結局教えてもらえませんでした。
気が付いたら、死ぬ気で謝ってこいって言われただけですけど、しっかりしないといけない気がします。
あのオブリビオンさんの絵の具は危険ですからお洗濯の魔法で落としていきましょう。
瞬く星の中を飛んでいる。右へ左へ曲がりながら、高く上がったらそこから坂道を勢いよく下るように降りて。まるで光の雨の中を走るジェットコースター。いつまでも続いていきそうな美しく楽しい時間に、思わず口元に淡い笑みが浮かんで……
すこーん!
「……ふえ?」
おでこに急に来た衝撃に、フリル・インレアン(f19557)は赤い瞳を開けた。
瞬いた視界に映るのは、星空ではなく古びた部屋。何の調度品もないがらんとした空間。壁ばかりで窓が1つもないけれど、汚れているが白い壁と、それしか設備がないとも言える照明のおかげでか暗くはない。でもやはり閉塞的な空気。
ああここは地下なんだと思い当たって。
ここに来るのに、エレベーターがあった穴に抱えられて飛び込んだことを思い出す。落下の恐怖と爆発の衝撃で目を回していたことも。
理解して、混乱が多少落ち着いたところで、部屋に他に人がいることにようやく気付いた。
父親らしき男性に抱きしめられ、傍にいる大型犬を撫でている男の子。大柄なハチワレ猫を囲んでいる3人の女子学生。くたびれた服装の中年男性の傍には、長い赤髪の少女が立ち。壊れた扉の近くでは、焦茶色の癖のある短髪の青年が廊下を窺っている。
そして、犬を撫でる男の子と同年代らしき別の少年がフリルの目の前にいて。見覚えのない、初対面であるその少年が、フリルをじっと見つめていたから。
「ふええ?」
極度の人見知りであるフリルは、咄嗟に、大きな帽子のつばを引き寄せ俯いた。
けれど。
すこーん!
「ふええ!?」
先ほどと同じ衝撃。慣れた痛みに、フリルは悲鳴を上げる。
「アヒルさん、痛いですってば」
おでこを突いてきたのは、いつも一緒のアヒルちゃん型ガジェット。きっと赤くなっているであろうそこを片手で押さえて、ころんと床に転がったガジェットにフリルは抗議した。
「起こすときはもう少し優しく起こしてください」
があ。
「現場で寝てしまう私が悪い、って……
寝ていたのではなくて目を回していたんですよ」
その鳴き声を正確に理解して反論するけれど。ガジェットはそっぽを向いて、素知らぬ素振り。謝ってくれるとは思わなかったし、そうだろうと予想していた反応だったから。
恨みがましくおでこをさすりつつ、フリルは話を進めた。
「それで、どうしたんですか? 無理矢理私を起こすなんて……」
があ。
「敵さんの場所がわかったから、って、どうせ私は足手まといですから、もう少しゆっくりしてからでいいじゃないですか」
すこーん!
「ふええ!?」
フリルの情けない発言に怒ってなのか、三度炸裂するガジェットの黄色いくちばし。
一度下ろしていた手をまたおでこに当てたフリルの赤瞳は涙に潤んでいます。
があ。
「そんなことを言っているからいつも出遅れる?」
言われてふと気付いてみれば、部屋の中に猟兵は1人もいない。少なくとも、ここにフリルを連れてきてくれたはずの顔見知りの猟兵がいたはずなのに、その姿すらない。
先ほど、ガジェットが『敵の場所が分かった』と言っていたことと合わせて考えれば、この場所に辿り着いた猟兵たちは、ここにいる人たち――おそらく囚われていたという行方不明になった人たちなのだろう――の無事を確認して、オブリビオンの元に向かったに違いない。
となれば、フリルは確かに『出遅れている』わけで。
があ。
「足手まといなら敵の情報を引き出してこい、って……」
フリルも動けと、できることをしろと急かすガジェットの言い分も、分からないではない。
けれども。
「アヒルさん何を焦っているんですか?」
フリルはなんだか、ガジェットの雰囲気がいつもと違うと感じて、首を傾げた。
そんなフリルにガジェットは続けて鳴き。
「焦らない私の方がおかしい? せっかくの初陣で先輩がダメダメな所を見せていたら、あっという間に後輩にまた先を越されるぞ……って、何のことを言っているんですか?」
言ってる言葉は理解できるけれども、その意味が分からずに、さらに首を傾げる。
初陣、とは何だろう。猟兵としてずっとずっと戦ってきたのだから、今更戦うのが初めてなわけもないし。サイキックハーツという世界に限定したとしても、幾度か来たこともあれば、ダークネスと戦ったこともある。
それに、後輩、とは誰のことだろう。確かに、フリルの後に猟兵になった人はいるし、そういった人からすればフリルは先輩と言える。それに、気弱で足手まといな自分よりどんどん強く頼もしくなっている後輩は多いだろうと思う。でも、今この場面で改めて、しかも『また』先を越されると急かされる理由が、フリルにはどうしても分からなくて。
フリルはおずおずと周囲を見回した。
父親と男の子と大型犬。猫と3人の女子学生。中年男性と赤髪の少女。すぐ近くで不思議そうな顔をしている少年。そして、扉近くから振り返ってフリルを見つめる、くせ毛の青年の藍色の双眸――
があ。
「どうせ、再会したということも素で気が付いてないんだろう?
どういうことですか、アヒルさん」
知らない人ばかりだと思う部屋の中で、フリルは助けを求めるようにガジェットにすがるけれども。ガジェットは、扉の方向を見たまま、つまりフリルと目を合わせないままで、何も答えてくれず。
「アヒルさん、教えてくださいよ」
ガジェットがようやく振り向いた、と思ったら。
すこーん!
「ふえ!?」
すこーん!
「ふええ……わ、分かりました。行きます。ちゃんと敵さんのところに行きますから」
追い立てるようなくちばしの連打に、フリルは諦めて立ち上がる。
があ。
「後で気が付いたら、死ぬ気で謝りに行け?
だから、どういうこと……ふえ、いいです、分かりました、今は行きます……」
フリルは、なおもくちばしをこちらに向けているガジェットを床から拾い上げると。
ため息をつきつつ、壊れた扉の先に広がる廊下を見据えて。
(「よく分かりませんが、しっかりしないといけない気がします」)
扉の近くに立つくせ毛の青年の前を歩いて、その藍色の瞳が知人を心配するかのようにじっとフリルを見つめていることにも気付かないまま、オブリビオンの元へ向かっていった。
大成功
🔵🔵🔵