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赤き絵に青き死を

#サイキックハーツ #再送ありがとうございました

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 人の死は遠くなってしまった。
 事故で死ぬ者も病気で死ぬ者もいなくなり、災害ですらも人は死ななくなった。
 誰もが死なず、誰もが殺せなくなった。
「……描けない」
 そんな世界を前に『想死創哀のレイス』は嘆く。
 血染めの絵筆を、赤一色で塗りつぶされたキャンバスに向けて、だが何も描けずに。
 嘆く。
 オブリビオンであるレイス自身は人を殺すことができる。
 だがしかし、それで見られる『死』は単一で同じようなものばかり。
 描く絵も同じものばかりになってしまうから。
 もっともっと人が死ねば。もっともっと人が殺されれば。
 人に人が殺されるようになれば。
「描きたい……」
 殺人事件を望み、レイスは放浪していた。
 そして、見つけてしまう。
 それはサイキックハーツ大戦で失われたとされたはずの場所。人にデモノイド寄生体を移植し、デモノイドというダークネスを生み出していた研究施設。破壊されたはずのその施設が、放棄されたまま残されていたのだ。
 レイスにその歴史は分からない。
 だが、残された資料から施設の役割を朧げに理解した。
 デモノイドはダークネスゆえに、エスパーとなったこの世界の人々をも殺すことができる。そして、そのデモノイドは、エスパーを元にして創ることができる。
 大切な人を、デモノイドと化した大切な人が殺す。それが、見れる。
「描ける」
 それを理解して。
 レイスは施設を再稼働させる。
 デモノイドを再び創り出すために。
 己の絵のために。

「デモノイドの研究施設……まだ残っていたですね……」
 表情を曇らせていた七重・未春(高校生七不思議使い・f45217)は、だが猟兵達の視線に気付いて、にこっと笑顔をつくった。
「お集まりいただいてありがとうございますです。
 皆さんには、デモノイド研究施設の捜索と破壊をお願いしますです」
 サイキックハーツ世界での大戦後、その殆どが破壊された筈の施設。何故か残存したそのデモノイド研究施設を、オブリビオンが発見し、再稼働させたのだという。
「放置すれば、再びデモノイドが量産されてしまうかもしれないです」
 だからまだ被害の出ていない今のうちに、と未春は対応をお願いする。
「場所は、山奥にある10年以上前に廃業したホテル、のようです。
 ホテルそのものが、ではなく、ホテルのどこかに研究施設への入り口があるようです」
 5階建て鉄筋コンクリートの古びたホテルは、廃業したそのまま、荒れ果てた姿でとある山の中腹にぽつんとある。近くの町からそこまで至る道も、舗装されていたため、荒れてはいるけれども通行可能な状態で残っていた。
 だが、分かっているのはそれだけで。
 研究施設とホテルがどう繋がっているのかは分からないのだが。
 その場所に施設があると予知されたこと。それと。
「ホテルの屋上が、天体観測にいい場所として密かに知られていたそうですが、そこに星を見に行った何組かの人たちが行方不明になっているです……」
 失踪者の存在。それを根拠として未春は示す。
 被害はまだ限定的で、またデモノイドの姿も確認されていないこともあって、大事件にはなっていないが、近くの町では失踪の話がじわりと広がっている様子。
「そこで、皆さんには天体観測に来た人を装ってホテルに行ってもらいたいです。
 ちょうど晴れたいい天気ですから、きれいな星が見えるですよ」
 星を楽しむことでオブリビオンに一般人だと思わせる傍ら、そっと研究施設を探すことになるのだが。
「……あたしの知り合いも、ホテルに行って帰ってきてないです。
 研究施設に攫われてしまったかもしれないですが、だとしたら、きっと何か手掛かりを残してくれていると思うです」
 それを探して欲しい、と未春は伝えて。
「どうぞよろしくお願いいたしますです」
 ぺこり、と頭を下げると、小麦色の髪に飾られた鈴が涼やかに鳴った。




第3章 ボス戦 『想死創哀のレイス』

POW   :    血染めの絵筆
術者の血液に触れたあらゆる対象は、血液が除去されるまで、全ての知覚が【死】で埋め尽くされる。
SPD   :    魔が差す一刺し
【刃物型ユーベルコード】を降らせる事で、戦場全体が【誰もが殺し合える世界】と同じ環境に変化する。[誰もが殺し合える世界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    緋色の研究
【赤一色で塗り潰されたキャンバス】から【死に至る不運】を放ち、近接範囲内の全てを攻撃する。[死に至る不運]は発動後もレベル分間残り、広がり続ける。

イラスト:サカモトミツキ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠イデア・ファンタジアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 誰かが来ている。
 遠くに聞こえる音に『想死創哀のレイス』は、だが視線を動かさなかった。
 濁った金と青のオッドアイが見つめ続けるのは、デモノイドの『繭』。
 資料から何とか行うことができた儀式の成果だ。
 これが上手くできたなら、次を。もっともっと殺戮者を創ろう。
 今度は、番とか親子とか絆がある者達がいい。その片方を目の前でデモノイドにしてもう片方を最初の被害者にしたら、どんな絵になるだろう。いや、片方は生かして逃がして縁のある地へ案内させ、そこで暴れさせたら。デモノイドの正体を伝えさせて、その所縁の地で殺戮を行わせたら。どんな絵が描けるだろう。
 でも今は、目の前の最初の破壊者を、待つ。その目覚めを、待ち望む。
 侵入者があったようだけれど、それよりも目の前の結果の方が重要だ。
 捕らえた人間を逃がされても別にいい。失敗した時にすぐ次ができるようにと思い、この場所で見かけた人間を適当に攫っておいただけで、特に執着はない。このまま成功を見届けてから、また適当に連れてくればいい。
 でも、もしこの場所まで来て、儀式の成果を壊そうとするならば、その時は――。
 レイスはボロボロのマントの下で、大きな絵筆を握る。
 筆先から滴り落ちた赤い血は、足元に溜まり、はだしの足を赤く染めていた。
 
有城・雄哉
【POW】
アドリブ連携大歓迎

漸く時間が取れたから応援に駆け付けたが
どうやらここにいるのは随分と性格の悪いオブリビオンのようだな
…人の絆を弄び、悲劇を生もうとしているようだが
そう言うのを見るとな…俺は問答無用で殴り倒したくなるんだよ

レイスの血液に触れて知覚を死で埋め尽くされたとしても問題ない
もとより俺は人造灼滅者
この身は人間ではない…ダークネスだ
だから俺は死を恐れない
…相手が悪かったな

ダッシュでレイスに密着し
「グラップル」+指定UCで繭ごと徹底的に殴り飛ばしてやる
命中率の低下は密着して連打することでカバーだ

お前がお前の望む結果を目にすることはない
その繭ごと、俺の拳で叩き壊す!!



 有城・雄哉(蒼穹の守護者・f43828)は、地下の廊下を1人駆け抜けていく。
 デモノイドの研究施設があると聞いた廃ホテル。漸く時間が取れ、他の者達から遅れての到着となったが、先行する者達の痕跡で施設の場所はすぐに分かった。
 ホテル内に残った移動の跡と、不自然に開いていたエレベーターの扉。あるはずのない地下空間に人の気配を感じて進み。そして、囚われの人々よりも、オブリビオンを探してさらに奥へと進んでいく。
 一般人の無事は、その部屋の前を通り過ぎた時に聞こえて来た声の調子や、励ますような旋律で確信できたから。ならばと雄哉は敵の撃破を目指し。
 辿り着いた部屋に飛び込むと、薄汚れた灰色の長い髪が、ゆっくりと振り返った。
「…………」
 誰かとも何かとも、問う声はない。その視線にすらも疑問符は薄い。濁った青と金の瞳に雄哉の姿を映し、どう動くのかを見ているだけの視線。
 きっと、雄哉がこのまま立ち去ったり、ただ見ているだけなら、何もしてこないだろう。雄哉がこの場所に来た手段も理由も、猟兵であることや人造灼滅者であることさえも気にしていない。そう感じられる程に無関心な気配。
 だがしかし。
「……人の絆を弄び、悲劇を生もうとしているようだが」
 雄哉が両拳にバトルオーラを宿し、ダッシュで間を詰めると。
「そう言うのを見るとな……」
 乏しい表情のまま、『想死創哀のレイス』はボロボロのマントの下で握った大きな絵筆を持ち上げ。その筆先から赤い血をぽたりと落とし。
「俺は問答無用で殴り倒したくなるんだよ」
 静かな怒りを込めた声と共に殴りかかる雄哉を、迎え撃った。
 放たれる拳を、大きな絵筆の柄で受け弾き。その動きの合間に筆先を振り上げカウンター。雄哉は拳を引き寄せ腕を立ててガードし、また拳を叩き込む。
「邪魔をするな」
 攻防の最中、短く紡がれる声。
「何の邪魔をだ」
 雄哉も短く聞き返せば。
「死」
 一言どころか一文字で、淡々と返った音に、雄哉の表情がさらに険しくなった。
 より強く握り込まれた拳がスピードを増して。
 だが、返す筆先から滴る血が、辺りを赤く染める。
 『血染めの絵筆』――知覚を『死』で埋め尽くすユーベルコード。
 雄哉も、その感覚の全てに死を塗り付けられて。
 しかし雄哉は、それを恐れなかった。
(「この身は人間ではない……ダークネスだ」)
 人造灼滅者であることを誇るかのように、同時に自嘲するかのように、雄哉は思い。
 一度、レイスとの間を開けるも、再び死を恐れずに殴りかかる。
「……相手が悪かったな」
 密着するようにして『閃光百裂拳』を叩き込み。低下する命中率は、外しようがない距離を保つことでカバーして。連打する。思いをぶつけ続ける。
「お前がお前の望む結果を目にすることはない」
 レイスの後ろに見えるデモノイドの繭。
 レイスが迎え出てきた理由を睨みつけて。
「その繭ごと、俺の拳で叩き壊す!」
 雄哉の宣言に、レイスの無関心だったオッドアイの瞳に僅かに力が入った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・明莉
儀式やらデモノイドの繭やら…悪趣味
当然最初に「儀式」の破壊を仕掛けたい所だが、俺の真先の攻撃対象はレイス
この瞬秒の差でレイスの足止め出来れば僥倖

今も昔も、「見ないと描けない」何てのは描けない奴の言い訳に過ぎない、とも言うね
…まあ、芸術センスからっきしの俺にはよく分からんけども

軽口は叩くが内心は少々穏やかではなく
生命と意思を無視するデモノイド技術、その施設が残っていたのは失態だ
アンタ共々葬り去る

大刀の激震を手に、ダッシュで一気に間合いを詰めて
血を浴びようが問題無い
全てを「死」で埋めつくされる?
過去の戦争で多くの「生」を取り零してきた自覚はある
そんなのは、今更だ
【激震】
防御を打ち砕く一撃を与えよう



 木元・明莉(蒼蓮華・f43993)がその部屋に辿り着いた時には、もう戦いは始まっていた。
 薄汚れた灰色の長髪を翻し、血の滴る大筆を振るうオッドアイの少女。纏うマントは恐らく戦い以前からボロボロで、駆ける血に汚れた裸足。その赤の全てが自らのものではないことは淀みのない動きからも分かる。
 これが『想死創哀のレイス』。
 デモノイド研究施設を見つけ、利用しているというオブリビオン。
 対峙するのは、バトルオーラを両拳に纏った黒い短髪の青年。その戦い方に、見覚えのある姿に、彼も灼滅者であり同じ武蔵坂学園の関係者とすぐに分かる。であるならば、この研究施設があることを許せないと思っているだろうことも。
 そんな戦う2人の向こうにあるのが、儀式場。
 そして、デモノイドの繭。
(「……悪趣味」)
 不快を露わにしながらも、明莉はレイスへと向かう。
 気持ちとしては、本当は儀式の破壊を仕掛けたい所だ。それでも明莉は、一瞬すらも迷わずにレイスへの攻撃に踏み切る。
「生命と意思を無視するデモノイド技術、その施設が残っていたのは失態だ」
 苦々しく、吐き捨てるように言いながら。
「アンタ共々葬り去る」
 ダッシュで一気に間合いを詰めて、振りぬく大刀『激震』。
 殴り続ける青年の攻撃の僅かな間を埋めるような、同じ攻撃が続く中に紛れ込ませた異なる一撃は、だが大きな絵筆の柄で受け止められ。
 そこを支点にくるりと弧を描いた絵筆の先から血が滴り、辺りを赤く染めた。
 明莉と青年とを飲み込む赤は、知覚の全てを『死』で塗りつぶすユーベルコード。
「死を、見せろ」
 赤い世界から『死』を引きずり出して見せつけるかのように、少女のものにしては低い声が明莉の耳に届く。不安や恐怖を逆撫でするかのように、心に不快に響く。
「それを描く」
 レイスの声に赤が応え、明莉の全てが『死』で埋め尽くされていく。
 けれども。
(「そんなのは、今更だ」)
 自嘲気味に明莉は苦笑した。
 これまで幾度も『死』に直面してきた。自身のものも、他者のものも。
 過去の戦争で多くの『生』を取り零してきた自覚もある。
 だからこそ。
 今更、それで足を止めてなどいられない。止めるわけには、いかない。
 明莉は止まらない。
「今も昔も、『見ないと描けない』何てのは描けない奴の言い訳に過ぎない、とも言うね。
 ……まあ、芸術センスからっきしの俺にはよく分からんけども」
 あえて軽口を叩きながら、強く大刀を握りしめ。
「龍脈に眠る荒神よ」
 赤き死を振り払った明莉は、幅広の刀身を鋭く振り抜き、|激震《ハスルチカラ》を放った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

勝沼・澪
カビの匂い、埃に塗れた空気、そして鉄錆の香り。なんて辛気臭い場所なんだい、これじゃあロクなアイディアも浮かびやしない。こんなところに長居するより大人しく明るくて開けた場所に移動することをオススメするよ。ここはさっさと取り壊されるべき場所だと分かったからね。

空から大量の刃物が降ってきたら【DESアシッド】の爆発の余波でデモノイドの繭やダークネス本人にその切先を飛ばそう。もちろん爆発が直撃しても一向に構わないがね?

え? 絵を描きたかっただけ? なら題材や画材の趣味が悪すぎだ、さっさとそこら辺の文具店で安い絵の具でも買って出直してきたまえ。



 勝沼・澪(f44220)は先ほど探索した道を駆け抜けた。
 探索した、といっても全身で来るのは初めての場所。身体を液体として地下に広げ、探り当てたその部屋までの廊下を、仲間に示しながらもきょろきょろと観察する。
 そして辿り着いたそこは。
 カビの匂いと、埃に塗れ。
 鉄錆の香りが満ちていた。
(「なんて辛気臭い場所なんだ」)
 一部だけではなく全身で、改めて感じるイヤな空気に思わず嫌悪感が顔に出る。
 さっと部屋の中を一瞥して。澪は、先ほどは後ろ姿しか確認しなかった『想死創哀のレイス』と、澪の案内を得ずに到着し既に交戦している青年の姿を見た。
 そして戦いの向こうにあるデモノイドの繭を、見た。
「死を、見せろ。それを描く」
 呟くように告げて、絵筆の血で辺りを赤く染めるレイス。
「絵を描きたかっただけ?」
 澪は思わずその言葉に反応していた。
 それだけのためにこんなことをしているのか、と静かな怒りが湧いてくる。
 澪は望んでデモノイドの力を手にした。でも繭の中の誰かは、きっとデモノイドとなることを望んでいなかったはずだ。勝手に攫われて、勝手に儀式に使われた犠牲者だ。
「なら題材や画材の趣味が悪すぎだ。
 さっさと大人しくそこら辺の文具店で絵の具を買って出直してきたまえ」
 胸中の苛立ちを抑えて、澪は冷静なヒーローらしく告げる。声に含まれる怒気を完全には消しきれてはいなかったけれど。それでも凛とした態度で対峙して。
 ちらりとこちらを見たレイスのオッドアイと目が合った、と思った瞬間。
 降り注ぐ刃物型ユーベルコード。
 突然の夕立のような急な攻撃に、だが澪は左手を掲げ。
 その腕が、爆発した。
 ユーベルコード『|D《デモノイド》|E《イジェクテッド》|S《スキン》アシッド』。
 あわよくばレイスを爆発に巻き込めれば、とも思ったがそれはかなわず。でも、爆発の勢いで、強酸性の液体を飛ばしつつ、降ってきた刃物を弾き飛ばす。
 その切っ先を、自身からレイスへ、そしてその後ろにある繭へと向けて。
 巻き込むように反撃する。
「こんな辛気臭い場所じゃあロクなアイディアも浮かびやしない」
 言いながら飛ばした刃物とどんな走行でも腐蝕させる強酸性の液体とが、レイスを襲い、そしてその後ろの繭へと向かっていく。
「こんなところに長居するより、大人しく、明るくて開けた場所に移動することをオススメするよ」
 肩をすくめて見せる澪の前で、レイスは繭を庇うように立ちはだかると、大きな絵筆を振るって攻撃を弾き。弾ききれなかった分を盾にしたその身で受け止めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウ・リバーサイド
【朱玄】
縁、絲、アルジャン、皆さんについててくれるか?

連れて行かれた方の事は俺たちに任せてください
…八鳩くん、あの、また後で

人を殺したいのはお前の我儘
誰1人零さずに助けたいのは俺の我儘
だから、押し通す!

攻撃や飛沫はダンスと軽技の要領でかわし
かわせない分は王子様としての蒼き煌めきをオーラとして纏って防御

エアシューズから鎌鼬を生み出し
蒼いハートの投擲と織り交ぜ攻撃
同時に繭へと届きそうな飛沫を風圧で弾き飛ばす

心眼で繭の中のデモノイド寄生体の核を見抜く
核が見えるなら
完全に彼の魂と同化していないなら
未だ間に合うはず!
「帰ってきて!」
黒いハートに浄化と希望の力を上乗せし
UCで肉体を傷つけず核のみを攻撃


南雲・海莉
【朱玄】
リンデン、皆さんをお願いね
(胸を張る相棒を残して)

あんたの芸術は理解できない
分かるのは誰かの大切な人を害そうとした
それだけで骸の海に叩き返す理由には十分よ

思索が属するは土の魔力
剋するは風の魔力
あんたの悪趣味な芸術を丸ごと吹き飛ばしてあげる!

UCの結界を貼り
絵筆から飛び散る分に関しては結界の風で吹き飛ばすわ
みんなに付着した分は蒸気で拭き取って結界の外へと

攻撃は見切り
絵筆を剣で受け流してからダンスの要領で回避

垣間見えた死にも動揺なんてしない
皆の生を守るのだもの!

刀にも纏わせた風の魔力で切れ味を上げ
返り血だって吹き飛ばし切りつける

…あの女は私達に任せて
義兄さんは繭の方を
考え、あるんでしょ?



 少しだけ、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれながら、ユウ・リバーサイド(f19432)は廊下を駆け抜ける。
 その傍らに七不思議はいない。|縁《エン》も|絲《イト》も、首輪に災い除けのルーンを刻んだ大柄なハチワレ猫・アルジャンも、囚われていた人たちの元に置いてきた。オブリビオンは自分たちで食い止めるし、他に危険な気配もないが、念のために。
「縁、絲、アルジャン、皆さんについててくれるか?」
 しっかりと頷く少年少女と、こちらを振り向かず女子高生と遊んでいるハチワレ猫にかけた声は、指示というよりも明確に言葉にすることで皆を安心させるためで。
「リンデンも、皆さんをお願いね」
 南雲・海莉(f00345)も倣うように、胸を張る相棒へ大き目の声をかけていた。
 だから、残して来た人たちの安全も安心もきっと大丈夫。
 その点は心配していないのだけれど。
「連れて行かれた方の事は俺たちに任せてください」
 皆の様子を確認するように見回して告げたところで。
 ユウは、そのうちの1人と目を合わせることになった。
 じっと自分を見つめてくる藍色の双眸。その理由に心当たりがないユウは。
「……八鳩くん、あの、また後で」
 そう言うしかできなくて。オブリビオンを倒すのが先と彼も分かってくれるはず、と自分に言い聞かせて背を向けるしかできなかったから。
(「『俺』、マジで何やった?」)
 彼と関わったのはサイハ世界の同一存在の方のはず。そう思って、ド天然で鈍感な『自分』の記憶を探りながら、でも答えを見つけられないまま思考がから回る。
 だって自分は彼とは初対面なのだから。彼との間にはまだ何もなく、彼が|自分《ユウ・リバーサイド》に何かを思う事なんて……
「兄さん?」
 反れた思考を察してか、隣を走る海莉が呼びかけてきた。
 そうだ。今考えるべきことは、向かう先にある。
 微かな懸念を振り払い、海莉に何でもないと苦笑を返し、ユウは表情を引き締めた。
 ――すぐにたどり着いたその場所は、血に満ちていた。
 その色に、匂いに、気配に。意識しなくとも一瞬にして気持ちが切り替わる。
 先に着いた者達が既に戦いを始めていた。囚われた人たちに対応した分、後から追いかける形になったから。それだけでなく、どうやら真っ先にこの部屋に向かった猟兵もいたらしい。先ほどは見かけなかった顔を見つけて理解する。
 そして、赤い血の中に立つ『想死創哀のレイス』を見て。
 戦いに加わろうとした、そこに。
「死を、見せろ」
 少女の姿から発せられたとは思えない低い声と共に、血染めの絵筆が振りぬかれた。
 向かい来る赤い血。知覚を『死』で埋め尽くすユーベルコード。
 相対する相手への迎撃の流れで、新たに部屋に現れたユウと海莉にもレイスは攻撃を飛ばしてきたのだ。
 ユウはダンスを踊るようなステップでその赤を躱そうと身を翻し。
 海莉は逆に一歩踏み出して、緋色のマン・ゴーシュを掲げ唱えた。
「水よ、揺蕩いて生命を癒し守護するものよ。風よ、移ろいて世界を浄化するものよ。
 今ここにその加護を示せ」
 ユーベルコードで生み出されたのは、邪気を清める魔力が籠った風と蒸気の結界。
 赤を、死を、『|風雫の障壁《スチームシールド》』で吹き飛ばす。
 さらにその風に乗るようにして、海莉はレイスに斬りかかった。
「あんたの芸術は理解できない」
 ルーンを刻んだ刃を翻しながら、言葉でも切りつける。
「分かるのは誰かの大切な人を害そうとしたこと。
 それだけで骸の海に叩き返す理由には十分よ」
 風のルーンが一際輝き、細身の刃に魔力を纏わせ切れ味を上げ。今度は直接的に振るわれた絵筆を受け流すと、踊るようにステップを踏んでまた斬りかかっていく。
 他の猟兵が殴りかかり、大刀を振るうのを見て、連撃となるよう合わせながら。
 だがしかし、海莉はもう1つの目的のために、皆とは違う動きを取った。
 レイスの後ろにある、デモノイドの繭。
 それを庇おうとするレイスを繭から引き離そうと動く。
 レイスが繭に干渉できないように。
 そして、繭に干渉しようとする者にレイスが手を出せないように。
 海莉は道を作り、背中を向けたままユウに声をかけた。
「義兄さんは繭の方を」
(「考え、あるんでしょ?」)
 振り向きもせず告げた言葉と、確信する思い。
 それに応えるように聞きなれた足音が走り出したのに、海莉はふっと微笑むと、マン・ゴーシュ『Flamme』を握る手に改めて力を込めた。
 邪魔はさせない。
 後悔してほしくないから。
 海莉はレイスの絵筆を持つ手を切り裂いた。
 傷から流れ出る血。攻防の動きで、その赤は海莉に返り。Flammeに纏わせた風で吹き飛ばすけれども、散らしきれなかった返り血が少しだけ海莉に触れる。
 死が、触れる。
 長い黒髪を血の海に沈め倒れる自分。ユウが、共に戦う猟兵が、頼もしい相棒が、助け出したはずの人たちが、動かぬ骸となり果てた、幻覚。ユウの声も足音も、死の幻聴に埋め尽くされ。Flammeを握る手の触覚が薄れ、血生臭い匂いと鉄錆の味が広がって……
「思索が属するは土の魔力。剋するは風の魔力……」
 しかし海莉は、五感を埋め尽くす死に動揺せず、ルーンを紡ぎ。
 蒸気で返り血を拭き取り、死の知覚を消し去ると。
「あんたの悪趣味な芸術を丸ごと吹き飛ばしてあげる!」
 風のルーンを再びレイスへと向けた。
 そんな頼もしい義妹の援護を受けて、ユウはデモノイドの繭へと向かう。
 最初は皆の援護に動いていた。踊るように大きく振ったエアシューズを纏う脚から鎌鼬を生み出し、舞うように大きく振った手から|蒼いハート《Esprit Bleu》を投げ放って。海莉の、他の猟兵の攻撃の助けとなれるよう、レイスと戦っていた。
 でも、海莉の動きで。海莉の言葉で。
 諦めきれない想いのために、ユウは動いた。
「人を殺したいのはお前の我儘。誰1人零さずに助けたいのは俺の我儘」
 この場にいるのはユウたち猟兵とオブリビオンのレイス……だけではない。
 囚われた人たちを逃がしたけれど、唯1人、まだ助けられていない人がいる。
 ユウは真っ直ぐにデモノイドの繭を見た。
「だから、押し通す!」
 繭の中にいるのはデモノイド――デモノイド寄生体を移植された人。
(「完全に彼の魂と同化していないなら、未だ間に合うはず!」)
 ユウは黒揚羽とも見紛う|黒いハート《esprit noir》を手にし、浄化と希望の力を乗せて放つ。
 何もせずに諦めたくはない。
 もう後悔はしたくないから。
(「どうか目を覚ましてくれ!」)
 放った『|闇に舞う蝶《パピヨン・イン・ザ・ダークネス》』は、相手の本来の意識を呼び起こすユーベルコード。そして、寄生した魔術由来の生物のみを攻撃する能力。
 これならば、完全にデモノイドとなっていなければ、寄生体だけを倒せるはず。
 そう信じて、助けるためにユウが求めた、力。
「帰ってきて!」
 強い感情を籠めたesprit noirは、繭の中へ吸い込まれるように消え。
 玄き虚無を――その向こうの夢を、映した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえ?アヒルさん、痛いですってば。
起こすときはもう少し優しく起こしてください。
それは現場で寝てしまう私が悪いって、寝ていたのではなくて目を回していたんですよ。
それより、どうしたんですか?
敵さんの場所がわかったから、私を起こしに来たって、どうせ私は足手まといですから、もう少しゆっくりしてからでいいじゃないですか。
ふええ!?そんなことを言っているからいつも出遅れるって、足手まといなら敵の情報を引き出してこいって、アヒルさん何を焦っているんですか?
焦らない私の方がおかしい?
せっかくの初陣で先輩がダメダメな所を見せていたら、あっという間に後輩にまた先を越されるぞって何のことを言っているんですか?
どうせ、再会したということも素で気が付いてないんだろうって、アヒルさん教えてくださいよ。

ふええ、結局教えてもらえませんでした。
気が付いたら、死ぬ気で謝ってこいって言われただけですけど、しっかりしないといけない気がします。

あのオブリビオンさんの絵の具は危険ですからお洗濯の魔法で落としていきましょう。



 瞬く星の中を飛んでいる。右へ左へ曲がりながら、高く上がったらそこから坂道を勢いよく下るように降りて。まるで光の雨の中を走るジェットコースター。いつまでも続いていきそうな美しく楽しい時間に、思わず口元に淡い笑みが浮かんで……
 すこーん!
「……ふえ?」
 おでこに急に来た衝撃に、フリル・インレアン(f19557)は赤い瞳を開けた。
 瞬いた視界に映るのは、星空ではなく古びた部屋。何の調度品もないがらんとした空間。壁ばかりで窓が1つもないけれど、汚れているが白い壁と、それしか設備がないとも言える照明のおかげでか暗くはない。でもやはり閉塞的な空気。
 ああここは地下なんだと思い当たって。
 ここに来るのに、エレベーターがあった穴に抱えられて飛び込んだことを思い出す。落下の恐怖と爆発の衝撃で目を回していたことも。
 理解して、混乱が多少落ち着いたところで、部屋に他に人がいることにようやく気付いた。
 父親らしき男性に抱きしめられ、傍にいる大型犬を撫でている男の子。大柄なハチワレ猫を囲んでいる3人の女子学生。くたびれた服装の中年男性の傍には、長い赤髪の少女が立ち。壊れた扉の近くでは、焦茶色の癖のある短髪の青年が廊下を窺っている。
 そして、犬を撫でる男の子と同年代らしき別の少年がフリルの目の前にいて。見覚えのない、初対面であるその少年が、フリルをじっと見つめていたから。
「ふええ?」
 極度の人見知りであるフリルは、咄嗟に、大きな帽子のつばを引き寄せ俯いた。
 けれど。
 すこーん!
「ふええ!?」
 先ほどと同じ衝撃。慣れた痛みに、フリルは悲鳴を上げる。
「アヒルさん、痛いですってば」
 おでこを突いてきたのは、いつも一緒のアヒルちゃん型ガジェット。きっと赤くなっているであろうそこを片手で押さえて、ころんと床に転がったガジェットにフリルは抗議した。
「起こすときはもう少し優しく起こしてください」
 があ。
「現場で寝てしまう私が悪い、って……
 寝ていたのではなくて目を回していたんですよ」
 その鳴き声を正確に理解して反論するけれど。ガジェットはそっぽを向いて、素知らぬ素振り。謝ってくれるとは思わなかったし、そうだろうと予想していた反応だったから。
 恨みがましくおでこをさすりつつ、フリルは話を進めた。
「それで、どうしたんですか? 無理矢理私を起こすなんて……」
 があ。
「敵さんの場所がわかったから、って、どうせ私は足手まといですから、もう少しゆっくりしてからでいいじゃないですか」
 すこーん!
「ふええ!?」
 フリルの情けない発言に怒ってなのか、三度炸裂するガジェットの黄色いくちばし。
 一度下ろしていた手をまたおでこに当てたフリルの赤瞳は涙に潤んでいます。
 があ。
「そんなことを言っているからいつも出遅れる?」
 言われてふと気付いてみれば、部屋の中に猟兵は1人もいない。少なくとも、ここにフリルを連れてきてくれたはずの顔見知りの猟兵がいたはずなのに、その姿すらない。
 先ほど、ガジェットが『敵の場所が分かった』と言っていたことと合わせて考えれば、この場所に辿り着いた猟兵たちは、ここにいる人たち――おそらく囚われていたという行方不明になった人たちなのだろう――の無事を確認して、オブリビオンの元に向かったに違いない。
 となれば、フリルは確かに『出遅れている』わけで。
 があ。
「足手まといなら敵の情報を引き出してこい、って……」
 フリルも動けと、できることをしろと急かすガジェットの言い分も、分からないではない。
 けれども。
「アヒルさん何を焦っているんですか?」
 フリルはなんだか、ガジェットの雰囲気がいつもと違うと感じて、首を傾げた。
 そんなフリルにガジェットは続けて鳴き。
「焦らない私の方がおかしい? せっかくの初陣で先輩がダメダメな所を見せていたら、あっという間に後輩にまた先を越されるぞ……って、何のことを言っているんですか?」
 言ってる言葉は理解できるけれども、その意味が分からずに、さらに首を傾げる。
 初陣、とは何だろう。猟兵としてずっとずっと戦ってきたのだから、今更戦うのが初めてなわけもないし。サイキックハーツという世界に限定したとしても、幾度か来たこともあれば、ダークネスと戦ったこともある。
 それに、後輩、とは誰のことだろう。確かに、フリルの後に猟兵になった人はいるし、そういった人からすればフリルは先輩と言える。それに、気弱で足手まといな自分よりどんどん強く頼もしくなっている後輩は多いだろうと思う。でも、今この場面で改めて、しかも『また』先を越されると急かされる理由が、フリルにはどうしても分からなくて。
 フリルはおずおずと周囲を見回した。
 父親と男の子と大型犬。猫と3人の女子学生。中年男性と赤髪の少女。すぐ近くで不思議そうな顔をしている少年。そして、扉近くから振り返ってフリルを見つめる、くせ毛の青年の藍色の双眸――
 があ。
「どうせ、再会したということも素で気が付いてないんだろう?
 どういうことですか、アヒルさん」
 知らない人ばかりだと思う部屋の中で、フリルは助けを求めるようにガジェットにすがるけれども。ガジェットは、扉の方向を見たまま、つまりフリルと目を合わせないままで、何も答えてくれず。
「アヒルさん、教えてくださいよ」
 ガジェットがようやく振り向いた、と思ったら。
 すこーん!
「ふえ!?」
 すこーん!
「ふええ……わ、分かりました。行きます。ちゃんと敵さんのところに行きますから」
 追い立てるようなくちばしの連打に、フリルは諦めて立ち上がる。
 があ。
「後で気が付いたら、死ぬ気で謝りに行け?
 だから、どういうこと……ふえ、いいです、分かりました、今は行きます……」
 フリルは、なおもくちばしをこちらに向けているガジェットを床から拾い上げると。
 ため息をつきつつ、壊れた扉の先に広がる廊下を見据えて。
(「よく分かりませんが、しっかりしないといけない気がします」)
 扉の近くに立つくせ毛の青年の前を歩いて、その藍色の瞳が知人を心配するかのようにじっとフリルを見つめていることにも気付かないまま、オブリビオンの元へ向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​