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Plamotion Idol Battle

#アスリートアース #ノベル #猟兵達の夏休み2025 #夏のプラクト【バトル】 #五月雨模型店 #プラクト

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#夏のプラクト【バトル】
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ニィナ・アンエノン




●君が作って、あなたが鍛えて
『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』。
 それはプラスチックホビーを作り上げ、自身の動きをトレースさせ、時に内部に再現されたコンソールを操作して競うホビースポーツである。
 思い描いた理想の形を作り上げるというのならば、たしかに『プラクト』は心・技・体を兼ね備えたスポーツ。

 プラスチックホビーを作り上げ、フィールドに投入し自分自身で動かす。
 想像を育む心、想像を形にする技術と、想像を動かす体。
 そのいずれもが欠けてはならない。どれか一つでも欠けたのならば、きっと勝利は得られない。

 ――というのはもう、とっくにご存知のことだろう。

 朝日が痛烈にニィナ・アンエノン(スチームライダー・f03174)の緑の瞳に差し込む。
 日が昇ったのだ、と理解して彼女は仰向けに眠っていたベッドの上で上体を起こして、僅かに身動ぎする。
 彼女のスタイルは見事なものであったが、白いパジャマはゆったりとしていて、魅惑のボディラインを覆い隠していた。
 それは当然見るものを惹きつけてやまぬものであったことだろう。
 それもそのはずだ。
 彼女は企業からタイアップを望まれるほどに、そのあどけない仕草と可愛らしい表情、そして何よりもグラビアアイドル顔負けのプロポーションを持っているのだ。
 以前も美少女プラモデルを製造している企業から彼女モデルのキットが発売されたこともある。
 売上は上々過ぎて、いくつものバージョン違いのキットが世に送り出されたものである。
 そんな彼女は夏の日の朝、目を覚ました。

「ん~~~☆」
 伸びをする。
 すると彼女の二つの膨らみがパジャマを押し上げて、細いウェストにカーテンのようにパジャマの布地を垂れ落としてしまう。
 体にシルエットが完全に隠れてはいたが、差し込む朝日で彼女の細い腰が影になってより一層強調されるようだった。
「ふぁ~……んっ、んんんっ☆」
 肩甲骨を軽く剥がすように伸びをして彼女は軽めのストレッチを終わらせる。
 日頃のこうした行いが、彼女の見事なプロポーションを支えているのかもしれない。
 寝起きのアンニュイな顔立ちを誰も見ていないことが惜しいと言えば惜しい。
 アイドルにイメージビデオなどとして売り出せば、きっとまた売れるに違いないことだけは確かだったし、以前タイアップした企業からすれば、そうしたことを狙うのは当然と言えば当然であったこっとだろう。

 けれど、彼女はそうしたタイアップをあれ以来受けていないようだった。
「あふ……ん、そうだったぁ、今日は……」
 彼女のベッド、その近くに置かれたデスクの上には緑のカッターマットの上に無造作に置かれた工具の類と君上げられた一つのプラスチックホビーがあった。
 重厚なシルエット。
 それを見下ろして、ニィナは、にんまりと笑う。
 長らくかかってしまったが、それはニィナが夏のアスリートアースにおける『プラモーション・アクト』、通称『プラクト』のイベントに参加するために作成していたプラスチックホビーなのだ。
 だが、完成はまだしていない。

 キットを改造する、というのは難しいことだった。
 様々なパーツを組み合わせるにしても、ただくっつければいい、というものではない。 
 パーツ同士の干渉を避けたり、役割や稼働を保たせなければならない箇所だってあるだろう。何より、実際にプラスチックホビーを動かして競うのが『プラクト』だ。
 多くの試行錯誤が必要になるのは言うまでもないことであっただろう。
「今日は『ドライ』くんが来るんだった☆」
 完成まで多くの試行錯誤があるというのならば、当然、試さなくてはならない。
 そこで、ニィナは我が家へとチーム『五月雨模型店』のメンバーの一人である『ドライ』に試行錯誤の相手になって欲しいと連絡していたのだ。
 いつの間に連絡先を?
 アイドルのような扱いを受けているニィナのファンからすれば、垂涎の連絡先である。それを『ドライ』は小学生ながら得ていたのだ。

 これまでダークリーガーを巡る事件において『五月雨模型店』は多く巻き込まれてきた。
 その結果、猟兵として事件に関わったニィナと『ドライ』が仲を深める機会が多く与えられ、連絡先を交換するに至ったのだ。
 それに去年の二人きりのキャンプ合宿を行った仲でもある。
 師匠・弟子の間柄以上の絆が芽生えているかもしれない。
 ニィナが机の上でまた一つ伸びをすると、部屋のチャイムの音が響く。
「あは☆ いらっしゃ~い」
 ニィナが扉を開けると、そこにリュックサックを背負った『ドライ』がいた。
 帽子を被り、水筒を手にした彼は熱中症対策がバッチリのようだった。
「こんにちはだ! ニィナおねえさん! ……って、何だその格好は!?!」
 彼はニィナの姿を見て目を見開き、赤面していた。

「え?」
 ニィナは自分の姿を見下ろす。
 パジャマ着ている。大丈夫。 
 だが、それは上半身の話だ。少し大きめのパジャマとは言え、彼女は下を履いていなかった。きっと夏の夜の寝苦しさにいつのまにか脱ぎ捨てていたのだろう。
 艶姿と言ってもいいニィナの姿に『ドライ』は顔を掌で覆って慌てふためいている。
「ニィナおねえさん! 下! 下!!」
「あ、いっけない☆」
 そう言いながら、ニィナは『ドライ』の手を取って部屋に引き込む。
「いや、その前になにか履いてくれないと!!」
「え~玄関先で大騒ぎしているとご近所迷惑なんだぞ☆」
「そうかもしれないけれど! あのっ、俺は今日っ、プラスチックホビーを……!」
「うん! そうそう☆ 大まかな形はできたんだ~! 見てみて!」
「だから履いて!!」
 そんなやり取りというか、綱引きのようにニィナと『ドライ』は互いを引っ張り合っていた。

「あ☆」
 ずる、とカーペットがズレた瞬間、ニィナが倒れ込む。
 危ない、と『ドライ』が彼女の手を引いて我が身を呈して守る。が、悲しいかな。彼は小学生である。
 もう少し体格が出来上がっていれば、ニィナを抱きとめることもできたかもしれない。
 できたことは……。
 ニィナの体が床に叩きつけられることを避けることだけだった。
 つまり、彼女の下敷きになる、ということだった。
「わっ、ごめんごめん☆『ドライ』くん、だいじょうぶ?」
「……」
 こくこくと頷く。
 柔らかいやら、すべすべやら、いい匂いがするやらで、益々『ドライ』は赤面してしまう。
 仕方ないことである。
 ニィナの明るさは天真爛漫そのもの。
 けれど、その天真爛漫さは時として無邪気な色気となって『ドライ』の年頃な部分に突き刺さってしまうのだ。
 それ故に『ドライ』は改めてほしいなぁ、と思いながらも距離感の近さ故にいつもドキドキさせられっぱなしなのだ。

「だ、大丈夫だ! だから、その、退いてもらえると」
「……にひ☆」
「……なんで笑って、わああああっ!?!?」
 ニィナはこれ幸いとばかりに『ドライ』をからかい続ける。
 くすぐり、抱きつき、もみくちゃにするようにして『ドライ』をからかい続けるのだ。
 くんずほぐれつ、というのならば、まさにその通りなのだろう。
 彼女のスキンシップは彼にはちょっと過激であった。
「はぁ……はぁ……☆」
「はぁ、はぁ、はぁ……ニィナ、おねえさん……ちょっと楽しくなってた、だろう!!」
「バレた? えへ☆」
 笑ってごまかされては、もう成す術なんてない。
 ニィナに馬乗りにマウントを取られた『ドライ』は額の汗を拭いながら、息を吐き出す。

「……それで、進捗はどうなんだ! 明日だぞ! プールサイドバトルの日は!」
 そう、ニィナは『ドライ』と『夏のプラクト』の大会であるプールサイドバトルにペアで参加する予定だった。
 参加要項にあるのは水中戦型か水陸両用のプラスチックホビーが必須とあったのだ。
 であれば、新たにプラスチックホビーを作成しよう、ということになったのだが、なかなかニィナのプラスチックホビーが組み上がっていなかった。
『ドライ』はその手伝いに今日、ニィナの部屋までやってきていたのだ。
「わかってるよ~☆ 間に合うと思うんだけど……もうちょっと色々詰めておきたいかなって。それに……」
「それに?」
「『ドライ』君にちょっかいかけたいなって思って☆」
「なんだ、もうほとんど出来上がっているんじゃあないか……って、今なんて?」
「だからちょっかい、かけたいなって思って☆」
『ドライ』からすれば、プラスチックホビーの進捗がうまく行っていないと思って、手伝いにやってきていたのだ。
 それに昨日の連絡による進捗は、まだ掛かりそうだったのだ。

 けれど。

 ニィナが、じゃーん、と示したのは、完成したプラスチックホビーであった。
「できてるじゃないか!?」
「うん☆ できちゃった☆」
「できちゃった!?」
 え、じゃあ、今日は? と『ドライ』は思っただろう。
 出来上がっているのならば、まあ、あとは試合を軽くして挙動を確認したりするのが筋だろう。
 にしては、午前中から呼び出されているのだ。
 ニィナが寝起きということは、そういうことなのだ。
 けれど、そんなに時間がかかるものではない。であれば、ニィナはわざと『ドライ』を午前中に呼び出したことになる。
「ま、まさか……」
 騙された?
 いつもそうなのだ。
『ドライ』はニィナにからかわれっぱなしなのだ。
 去年の夏合宿もそうだった。
 みんなで、と思っていたが、結局ニィナと二人きりの合宿に成ってしまった。
 それが嫌なのかと言われたら、全く嫌ではない。
 むしろ嬉しい。
 はっきり言って、望外のことだと思う。
 
「その、ま・さ・か☆」
「わ、わあー!? 待って、まってくれ! ニィナおねえさん! まずは、試合! そう、試合! 思わぬ不具合が出てしまってからでは遅い! 試合中も何があるかわからない! ポロリがあってはならないんだぞ!?」
 その言葉は確かに真っ当な言葉であった。
 ニィナもわかっている。
 だが、ニィナの指がわっきわきしている。
「大丈夫なんだぞ☆ ポロリは絶対ないから☆」
「安心できない! ニィナおねえさんモデルは、非常にポロリが多いことで有名なんだ!」
「やーん☆ えっち❤」
「違う! ジョイントの話!」
 そうなのだ。
 可動領域が多いということは、即ちジョイント部分の摩耗が激しいということ。
 特に『プラクト』のように激しく動き回る競技に使用するプラスチックホビーは、その点が非常にデリケートな問題になっているのだ。
『ドライ』の言い分もわかる。

「でも、大丈夫だぞ☆ ポロリの心配はないよ☆」
「え、でも……」
「だって、ほら☆ にぃなちゃんの新しいプラスチックホビーは、これ!」
 じゃーん、とニィナが『ドライ』に馬乗りになったまま手にしていたのは、まさかの重量級のロボットプラスチックホビーであった。
 ずんぐりむっくりなクマめいたフォルムの機体。
 その名も!
『きぐるみベアベア』である。
「え、えええーっ!? き、昨日までのゴールデンバニーVer.は!? ニィナおねえさんモデルの!」
「プールサイドなんだから水中専用のがいいかなって。バニーって水着かなぁって思って☆」
「た、確かにそうかもしれないけれど!」
「でしょー☆ ほら、見て、こんなにふっといの❤」
「魚雷がね!?」
「それにフォルムもかっこいーの」
 ニィナが『きぐるみベアベア』のつるりとした丸い頭部と胴部が繋がった装甲を撫でる。なんだか意地悪するみたいに指先が滑るものだから、目に毒である。
「で、でもこれ、モーションタイプじゃ動かせないぞ!?」
「マニューパタイプだから☆ こーやってー、コンソールを、ぐりぐりって動かせばいーんだぞ☆」
「かなり、重たくならないか?」
「むっ、重たくないもん☆」
 馬乗りになっていて、それはないと『ドライ』は思ったかも知れない。

「いや、連携に話だ! こっちの機体と動きが合わせられなくては集中攻撃の的になってしまう!」
「その時は……これ!」
 腕部に仕込まれたネット射出装置をニィナは示して見せる。
「白いボンドを仕込んでるんだぁ☆ これがネット状に飛び出して一網打尽! べとべとだぞ☆」
「一発勝負のやつじゃないか!」
「そうだけど、だめ?」
「今日は絶対試さないでくれよ! 絶対に面倒なことになるし、また補充しなくちゃあならないんだから!」
「らじゃ☆ じゃ、打ち合わせも終わったしぃ、遊んでもいーよね☆」
『ドライ』は頭を抱える。
 いつものニィナのペースだ。
 これではまた、振り回されてしまう一日になってしまうだろう。
 なんとかして練習試合に持ち込みたいのだが、ニィナは『ドライ』に馬乗りになったままだ。

「あ、そーだ。ご飯食べてないんだった☆『ドライ』くんは済ませてきた?」
「あ、ああ! 朝ご飯はしっかり食べないといけないからな!」
「じゃあ、お昼にまとめちゃおうかな☆ 何が食べたい?」
 作ってくれる、ということなのか? と『ドライ』は首を傾げる。
「好きなの、あーん❤してあげるよ☆」
「自分で食べれるから!」
 そんなやり取りのまま『ドライ』は結局、一日中、ニィナに振り回されっぱなしになるのだった――。

●プールサイド
 プールサイドは、ランウェイそのものだった。
 それは、ここアスリートアースにおいても同様だ。
 鍛え上げられた肉体美を誇るように水着姿となった超人アスリートたちが練り歩き、その磨き上げた肉体を誇るのだ。
 そして、のプールサイドを歩くのはニィナだった。
 プールサイドバトルに参加するためにやってきていたし、その参加条件は水中専用か水陸両用のプラスチックホビーでエントリーすることと、そして水着であることだった。
 今のニィナはプールサイドのアイドルだった。

 彼女の焦げ茶色の髪を飾るのは、二輪の真っ赤なハイビスカス。
 そして、白いビキニ。
 清涼感を感じさせる色は、ニィナの天真爛漫さを、さらに際立たせるものだった。
 彼女が笑顔になる度に、八重歯がチラリと覗き輝く。
「今日はよろしくね~みんな~☆」
 そう言ってニィナがプールサイドに集まった『プラクト』アスリートたちに手を振ると歓声が鳴り響く。
 まるでアイドルだ。
 いや、事実アイドルなのだろう。
 彼女がタイアップした美少女プラモデルのおかげで、認知度は高い。
 何より、彼女の『プラクト』の試合の動画再生は切り抜き動画なども含めて、高い人気を誇っている。

 異性であれば、誰もが彼女のことを好きになってしまう。
「応援よろしく~☆ ニィナちゃんのプラモデルもいっぱい買ってね☆」
「「「おおおおおおおおッッッッ!!!」」」
 響き渡る強烈な歓声。
 耳をつんざかんばかりの声にペアとして参加する『ドライ』は、たじろいだ。
 ニィナの人気が高まっていることは、知ってはいたが、ここまでのものだと思いもしなかったのだ。
 それに今日の彼女は水着姿なのだ。
 僅かに嫉妬する気持ちが芽生えていることに『ドライ』は気がついてはいなかったが、なんだかモヤモヤするような顔をしていたのをニィナは見逃さなかったかも知れない。
 パレオの布を掴んで、『ドライ』の腕にさわさわと触る。
 びくっと『ドライ』が顔を向けると意地悪な笑顔と八重歯を覗かせて彼女は笑む。
「きのーのことは、ひみつ、ね❤」
「……これをみたら、そうせざるを得ないだろう! 知られたらどうなるか!」
 声を潜めて耳打ちする『ドライ』にニィナは、あん、くすぐったいとばかりにまたからかう。
 どこまで言ってもニィナのペースだ。
 もうこれは諦めるしかないだろう。

「あ、そうだ☆ はい、『ドライ』くん。これ☆」
 そう言ってニィナは髪に差していた二輪のハイビスカスの花の一輪を『ドライ』の髪に差す。
「俺には似合わないよ!」
「あはは、かーわい❤ 一緒のペアなんだから、共通点出さなきゃ❤」
 匂わせ、にしか他の観客たちには映らないだろう。
 ニィナに他意がなくても、だ。
『ドライ』は慌てたが、心のどこかにある嫉妬心に負けたように息を吐き出した。
「バトル中だけ、だからな!」
「はいはい☆ じゃあ、いっくよー!」
 ニィナは『きぐるみベアベア』を手に、掲げる。
 燦然と輝く太陽の元、プールサイドバトルが始まる。

 簡単に説明するとサバイバルバトルだ。
 ペアの片割れが行動不能になると、もう片割れが無事でも敗北となってしまう。だが、このバトルの面白い所は試合終了まで残った方もフィールドに存在でき、バトルが続けられる点にある。
「つまり、ペアがやられてもバトルが続けられるから、長く楽しめるというわけだな! お祭りらしい良いルールだ!」
 だが、『ドライ』は知らなかった。
 そう、己が思った以上にニィナのファンからの嫉妬と羨望の対象になっていることを。

「レッツ・アクト!」

 その掛け声と共に始まったサバイバルバトル。
 プールサイドバトルの醍醐味とも言うべき、プールフィールドにおけるバトル。
 誰もが水中専用か、水陸両用のプラスチックホビーを駆り、プールの海原へと飛び出していた。
『ドライ』もまた水中戦装備の『セラフィム』を駆り、プールに飛び込む。
「この日のためにカスタムした装備だ! これで……って!? な、なにー!?」
 飛び込んだ瞬間、『ドライ』の『セラフィム』に放たれる攻撃の数々。
 それはまるで嵐のような集中攻撃だった。
「ど、わっ!?」
「ニィナちゃんとペアなんて羨ましすぎる!」
「子供だからって遠慮すると思うな! むしろ、そのポジション羨ましすぎるんだよ!!」
「そこ変われ!!」
「あんな元気でセクシーなお姉さんが隣りにいたら……そうありたいだけの人生でした!!」
「うらやまけしからん! そこどけ!!!」
 そんな怨嗟の声と共に放たれる一斉砲火。

 だが『ドライ』とてWBC世界大会の優勝チームのメンバーである。
 集中攻撃を躱しながら、水柱が幾本もプールに立ち上る中、健在をアピールしていた。
「お、俺ばかりを狙っているのか!? な、なんで!?」
「わかっているだろう!! うらま……けしからんからだ!!」
「今、羨ましいって言わなかったか!!?」
「そのとおりだ馬鹿野郎!!」
「ニィナちゃんの隣は俺がいただ……ぐわっ!?」
『ドライ』に集中したヘイト。
 だが、それをお取りにしたニィナは重量級で動きが鈍い『きぐるみベアベア』を巧みに操り、魚雷をばらまいて、『ドライ』に殺到したプラスチックホビーの背中を取ったのだ。
 爆発が巻き起こり、次々と撃破スコアを伸ばしていくニィナ。

「隙あり、だよ☆ ほらほら、どんどん行っちゃうよ~☆」
 ばらまく魚雷。
 撃ち尽くして身軽になれば、『きぐるみベアベア』の巨体がスクリューと共に突進し、装備された腕部のクローでもってプラスチックホビーの胴体を挟み込んで寸断してしまうのだ。
 そのさまはまるで怪獣か怪物、妖怪を思わせるようなすさまじい戦いぶりであった。
「『ドライ』君と昨日夜遅くまで特訓したせいかだよ☆」
「夜遅くまで!?」
「足腰立たなくなるまでがんばちゃって☆」
「足腰!?」
「一生懸命な『ドライ』君、可愛かったね☆」
「一生懸命!?」
 ニィナの言葉にファンたちはどん底に叩き落されていく。
 言葉のチョイス。
 それがあまりにも危うかった。

「夜遅くまでになったのは、ニィナおねえさんが、昼間遊んでばかりだったからだ! それに足腰が立たなくなったのは、作り込んだコクピットが前傾のコクピットでマニューバタイプだからだ! 一生懸命なのは、ニィナおねえさんが特訓サボってたからだが!?」
 弁明の言葉。
 だが、その言葉は全てニィナファンたちの心を抉った。
「なんにも違わねーじゃねーか!!!」
 血涙である。
 メラメラと燃える嫉妬の炎。
 なんだかんだで、めちゃくちゃ楽しそうじゃないか!
『ドライ』がちょっと大変だった、と疲れ気味なのも、余計に癪に障る。
「遊んでいて疲れただぁ!? そんなの……そんなの!!!」
「羨ましい!!!!」
「羨ましいって言っちゃったな!? いや、だが! 本当に大変だったんだぞ!」
 その言葉は火に油を注ぐものだった。
「大変だったなんて☆『ドライ』君も一生懸命、いつもみたいに教えてくれたよ? いつもありがとうね❤」
 飛ぶ❤マーク。

 ぎぃぃぃぃ!!!

 ファンたちの歯噛みする音がプールサイドに鳴り響く。
 ニィナの強襲によって、多くのペアの片割れが脱落したが、もう関係ない。
 ファンたちは思った。
 もはや勝ち負けなんてどうでもいい。
「あいつだけは許せん!!!」
 その思いだけが共通していた。
 絶対にあの少年を倒さねばならない。
 元気で無邪気で、どこか人懐っこいワンコみたいな気質のお姉さんと特訓? あまつさえは、ペアでバトルに参加?
 何だその羨ましい夏休みの思い出は!
 だが、させぬ。 
 絶対に楽しい夏休みの思い出1ページにはさせぬとばかりにニィナファンたちは一致団結した。
「嫌な団結の仕方だな!?」
「うるせー! 問答無用に決まっているだろ!!」
 放たれる一斉砲火。
「『ドライ』くん、あぶなーい☆」
 ニィナは『きぐるみベアベア』でもって『ドライ』の『セラフィム』をかばった。
 ミサイル、魚雷、ビーム。
 あらゆる攻撃を受けて、ニィナの『きぐるみベアベア』の分厚い装甲が粉砕される。
「ニィナおねえさん!!」
「予定とは違ったが、お前の優勝はなくなった! 後は! お前だけだ!!」
「くっ……!」
 だが、次の瞬間、ニィナファンたちは瞠目した。

 撃破した『きぐるみベアベア』の内側から膨れ上がる金色の光。
 まばゆいまでのゴールド!
 それは『きぐるみベアベア』の装甲の内側にひされた新たなるプラスチックホビー!
「なんだ、この金色の輝きは!?」
「……まさか……ニィナおねえさん!?」
「ふ、ふっふふ~☆」 
 不敵な笑みと共にニィナの操縦パーティションの規格が変化していく。
 マニューバタイプから、モーションタイプへの操縦系統の変化。
 そう、彼女の『きぐるみベアベア』は、その名の通り『きぐるみ』。
 装甲という名の『きぐるみ』をパージしたその内側にあったのは、まさかのニィナ・ゴールデンバニーVer.!!
 金色のバニースーツに身を包んだニィナモデルのプラスチックホビーが海上に飛び出す。

「このときのために仕込んでいたんだよね☆」
「な、なんて手間を!? え、だったら、昨日俺が手伝いに行く必要はなかったのでは!?」
「敵を欺くには味方から☆」
「て、手間ひまかけすぎでは!?」
「でもお陰で、隙だらけだよね☆『ドライ』くん、いくよ❤」
「ええい!」
 その言葉と共に『ドライ』の『セラフィム』と『ニィナ・ゴールデンバニーVer.』から放たれるのは苛烈な攻撃だった。
 その砲火に他のプラスチックホビーたちはひとたまりもなく吹き飛ばされ、サバイバルバトルの勝者が決定する。

 二人のサバイバルバトルの優勝が決まったのだ。
 だが、忘れていることが一つだけある。
 それまでニィナは魚雷を全てうちはなっていたし、クローなどの武装も使っていた。
『きぐるみベアベア』、その武装の中で一つだけ使用していないままに、『きぐるみ』部分の装甲が破壊されてしまったのだ。
 ニィナは華麗に『ニィナ・ゴールデンバニーVer.』をプールに飛び込ませる。
「いえーい☆ やったね~!」
「どわっ、ニィナおねさん、操縦パーティションまたいで抱きつかないで!?」
「え~?」
 喜びもひとしおである。
 だが、次の瞬間、海上はモニターに写った映像に今日一番のどよめきが上がる。

 そう、ニィナの『きぐるみベアベア』。
 その腕部に装備されていた白いボンドの粘性ネット。
 充填されていた腕部が攻撃によって破損し、漏れ出していたのだ。そこに『ニィナ・ゴールデンバニーVer.』が飛び込めばどうなるか。
「ね、ねばねば~!?」
 彼女をモデルにしたプラスチックホビーは白いボンドネット塗れになってしまい、なんともいい難い光景をモニターに映し出してしまったのだ。
「わ、わああー!?」
「てへ❤ やらかしちゃったね☆」
「てへ、じゃないが!?」
 大慌てでプラスチックホビーを回収しようとする『ドライ』。
 だが、ここはプールサイド。
 さらに言えば、ニィナが抱きついている。

 まあ、後は言うまでもない。
 足をすべらせてニィナと共にプールに落ちてしまったのだ。
 水着だからよかったが、笑い事ではない。
 けれど、プールの水面から顔を出したニィナは笑っていた。
 とても良い笑顔だったし、その一幕はこの日、誰しもの夏の思い出に刻まれることになったのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年08月14日


挿絵イラスト