なないろみずうみ~游覧魚~
果てのない空に浮かぶ冒険の島々、ブルーアルカディア。幻の召喚獣が住まうと言われる小島の湖へ訪れた逆戟・イサナは、その光景に瞬きする。
「へぇ、絶景じゃんか」
届かぬ空の上、二重の虹がまばゆくかかっているのが湖面へと反射して、七色にゆらめいている。
十分にリラックスできることが想像できて、東方妖怪はそっと薄手の和柄シャツを脱ぐ。短い丈のズボンは、濡れたとしても心地よい風ですぐに乾くだろう。ちゃぷりと湖面に足を浸せば、ひんやりとした感覚がその身に馴染む。
「ちょっとはしゃいでみるか」
なんて呟いて、妖怪は湖に。借り物である人の身でも泳ぐことはできるから、静かにゆらめく虹色の水底へ。
その潜水時間はとても長く、ただのヒトよりも圧倒的に深いところまで潜っていける。空に果てはなくとも、湖の底はイサナからすればすぐ傍だった。
陸地には何かしらの植物が生えていたものの、生息している水棲生物は居ないらしい。それでも、水中でゆれる水草すらも七色に融けていて、陽が翳されたステンドグラスのように輝いてみえた。
ゆぅらりゆらり、泳ぎ、浮かび、ぼんやりと漂う。普段よりも心地よいと思うのは、鯨の妖怪が本性であるからか。けれど、姿かたちを思い出せないままの彼自身は知らぬこと。
「案外召喚獣ってのも、オレと似たようなものなのかもなぁ」
ふいに、ちゃぷりと音がする。先ほどまで共に游ぐ生き物は居なかったはずなのに、その気配は確かにすぐ傍で感じられた。
聴覚よりも鋭い感覚が、ささやかな振動を察知する。
――そこに居るのか?
言葉ではなく、思念で呼びかける。透明な見目に虹を編んだような長い尾鰭の魚が、軽やかに泳いでいる。
こっちへおいでと誘うように、魚は静かに進んでいく。ついてきてほしいのだと言いたげな動きを認めて、イサナは広い湖中のなかでそれを追いかける。
やがて、再び水底へとたどり着いた時、きらきらとかがやく石の欠片が目に留まる。これが噂の召喚石か、とそれを拾って、水面に顔を出した。
ぷは、と久しぶりに息を吐いて、吸う。決して苦しくはないけれど、新鮮な空気が全身を巡る。
手にした宝石に目を向ければ、掌が透けてしまうほどの透明度を誇っている。けれどわずかに頭上の虹と同じ彩りを宿していて、なるほどな、と頷く。
「お前がオレを気に入ったんなら、ついてきてくれよ」
ちゃぷん。魚が、うれしそうに飛び跳ねた気がした。
成功
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