リコール・ザ・ムーンライト
クルウルウ・デイスリー
マルキアちゃん(f42012)と一緒に海へお出かけ致しましょう。
ふふぅ、お友達と海へ、というのも夏の楽しみの一つですものねぇ。
満喫しちゃうのですよぅ。
水着は、そうですねぇ、今年は黒のビキニに致しましょうか。
さてさて、海へ来て最初は……あらあら、ビーチバレーなのですぅ?
闘技場の管理人をされてる方にスポーツで勝てる気はしないのですけど、偶には運動も良いかもですねぇ。
まともにやっても勝てませんので、基本的に球を返すことを頑張りましょう。
追い風が吹いたら、ふふ、砂を巻き上げるように地面を蹴ってから、思い切りサーブを打っちゃうのです。
砂が目に入ったら儲けもの。追い風で多少加速のついた球で点数に繋がれば言うことなしです。
「あらあらぁ?ぐぅぜん舞っちゃった砂でしたけど、ふふ、目に入ったりしてませんかぁ?」
そんな感じで色んな意味でギリギリな試合を終えたら、海の家で一休みでも致しましょうか。
焼きそばからカレーにデザート、色々迷っちゃうのですよぅ。
ふむぅ、クルちゃんはカレーとかき氷を頂いちゃいましょうか。
「マルキアちゃんは、海ってあんまり来たことないのですぅ?」
クルちゃんは住んでる場所が汚泥の底バグの海ですので、割と日常的に眺めてはおりますけれど。
マルキアちゃんは闘技場が主な活動場所でしょうから、どうなのでしょう、と。
あまり来たことがないのなら、ダイビングとまでは言わなくても、海に潜って景色を眺めたりも良いかもしれませんねぇ。
「……ん。ふふ、あんまり食べちゃうと、頭きーん、てなっちゃうのですよぅ?」
かき氷を食べ始めた頃、同じくデザートを頂いているマルキアちゃんへ、
自分のかき氷をスプーンで掬って、あーん、と差し出してみちゃうのです。
……ふふ、恋人みたい、だなんて。マルキアちゃんは結構初心なのですねぇv
食事も終えて、日も落ちた時間。
二人並んで、夜の浜辺をお散歩でも。
活気に溢れた昼の海と違って、静かな海を夜風に当たりながら歩くのも良いものなのです。
空気が澄んでいるからでしょうか。お星さまも何だかより輝いて見えるような。
クルちゃんが住んでる海は真っ黒ですけど、星空の下の海は、それとは違う「黒さ」で、綺麗なものなのです。
「今日は楽しかったですねぇ。また来たいのですよぅ」
マルキアちゃんも楽しんでくれたでしょうか。
今日のことを思い出しながら、暗い砂浜を歩いて。
足元もあまり見えませんし、転んじゃったりしたらどうしましょう。怖いですねぇ。
「……手、繋いでくれてもいいのですよ?」
なんて、悪戯っぽく言ってみたり。ふふぅ、初心なマルキアちゃんには刺激が強いでしょうか♪
ともあれ、楽しかったのは本当ですし。また来たいですねぇ、なんて言いながら、お空のお月さまを見上げて。
にっこりと、マルキアちゃんへ視線を戻すのです。
「月、綺麗ですねぇ」
……ふふ。
意味合いは、お好きなように……v
●UDCアース
夏の日差しに波がさんざめく。
その光景を見やり、マルキア・エッツェリーニ(アンデフィーテッド・f42012)は、その瞳を細めた。
眩しい、と思ったのかも知れない。
「海なんていつぶりだろう」
「実際どれほどぶりなんでしょう?」
彼女のつぶやきにクルウルウ・デイスリー(Different Dimension+D・f42954)は黒い布……三角形の布に覆われた白い肌は、海を前にして浮足立つような彼女の感情を反映したように揺れた。
「実際、うん……ボクはコロシアムに籠もってばかりいるからね。カウントをたどればわかるんだろうけれど」
「それさえも億劫なくらいお仕事熱心なんですねぇ」
「そうとも言えるかもしれないね。いい気分転換になりそうだ」
そう言ったマルキアの水着もクルウルウと同じビキニデザインの水着姿であった。
ここが海であるから、ある意味必然的な姿である。
しかし、マルキアはこれが常なる服装である。理由は多々ある。いずれもゲームプレイヤーたちからは、「実にけしからん」と話題になるのだが、改めるつもりはない。
「お友達と海へ、というのも夏の楽しみの一つですものねぇ。それにマルキアちゃんのいつもの服装も、ここでなら悪目立ちはしないですものねぇ?」
「うん。水着だからね。多少見え方が違って見えるはずだよ」
そうは言うが、二人は、はっきりといって白浜で目立っていた。
当然である。
むしろ、何故、目立たないと思ったのか。
彼女たちはゲーム世界の住人と言うだけあって、非常に眉目秀麗である。
しかも、出で立ちはビキニスタイルの水着なのだ。
マルキアにしてもクルウルウにしても、その見事なプロポーションは異性のみならず同性からしても、飲み込んだ唾が硬く感じる程度には魅力的であった。
彼女たちの歩みは、どこまでも自然体である。
ある種の超然とした態度にも思えてならず、見目麗しい女性と見れば誰彼構わずナンパをと思う男性陣ですら気後れしてしまうほどであった。
そういう意味では、二人はこの海を楽しむ下地というものがすでに出来上がっているといってもよかった。
「さて、海に来たからには一度やってみたいことがあるんだけれど」
「やってみたいこと、ですかぁ?」
なんだろう、とクルウルウは首を傾げる。
マルキアは、うんと頷いた。
「ビーチバレーだよ」
「……あらあら、ビーチバレーなのですぅ?」
「そうさ。二人でどうだい?」
ビーチバレー。
それは砂浜で行われるボール遊びだ。
屋内で行われるバレーボールと異なるのは、コートが砂浜であるということ。そして、基本的に二人ペアで行うものである。
しかし、マルキアの視線が注がれているのはクルウルウである。
対戦相手として申し分ないと思っているようだった。
「闘技場の管理人をされている方にスポーツで勝てる気はしなのですよぅ」
「はは、真剣勝負ならそうかもしれないし、好きだけれどね。ビーチバレー自体はボクもはじめてだ。言わば、見様見真似だ」
「そうですねぇ……偶には運動もよいかもしれませんねぇ」
ふむ、とクルウルウはギザギザの歯列を見せて笑む。
ともすれば、それは不敵な笑みに見えただろう。
「じゃあ、準備はいいかな?」
「もちろんです。サーブ権はコイントスで?」
「いいや、クルちゃんからで構わないよ」
「あら、随分と余裕ですねぇ?」
「気分だよ、気分。こういうのはね。さあ、おいで」
クルウルウはボールを手にして、少し考える。
まともにやってマルキアに勝てるとは思えない。その見込もない。
であれば、奇策に走るしかない。
放たれたボールが放物線を描く。
マルキアが砂浜を蹴ってボールにおいついて軽くレシーヴで打ち返す。
ネットを越えたボールにクルウルウは飛びつくようにしてボールを返した。まずはボールを返すにことに注力した形だった。
「ふふっ、なんだかんだ言ってちゃんと返してくれるじゃあないか。じゃ、こんなのはどうだい!」
マルキアのスパイクの一撃にクルウルウはなんとか滑り込みながら足でボールを打ち返す。
浮き上がったボールにマルキアが跳ねる。
打ち上げることは一対一において、相手に隙を与えることになるだろう。
スパイクの一閃。
しかし、ここは屋内ではない。
屋外である。であれば、当然風が不意に吹くこともあるだろう。それも夏の風は大気のゆらぎで強風が吹くこともある。海辺であればなおさらである。
「な……!」
「今ですねぇ」
スパイクの威力が強風に煽られて弱まった瞬間、砂を巻き上げるようにして地面を蹴ってクルウルウがボールを打ち込む。
舞い上げられた砂。
「うわっ!?」
風に乗ってマルキアの視界を塞ぐのだ。
その隙にクルウルウの一撃が彼女の直ぐ側に砂浜に突き刺さるのだった――。
●海の家
「いい運動だった。ナイスゲームだ、クルちゃん。しかし、まさか砂を舞い上げるなんて、狙っていたのかい?」
「偶然ですよぅ。ちょうどよく追い風が吹いたのです。儲けもの、と思っていましたが、点数につながってよかったのですよぅ」
ビーチバレーを楽しんだ二人は、休憩がてら海の家にやってきていた。
二人のビキニスタイルの美女がやってくると、それだけで海の家の店内は騒然としたものだが、気にしない。
焼きそばとカレーに、それぞれかき氷。
二人が手にしたフードをパラソルの影が落ちるテーブルに置くと、腰をビーチチェアに落ち着ける。
運動の後は心地よい疲労感がある。
「砂が目に入っていなくってよかったです」
「あれで闘志が燃えてきたと言っても良かったね。久しぶりに羽も翼も駆使したよ……こうしてみるとカレーも美味しそうだね」
「焼きそばも、ですねぇ。そう言えば、マルキアちゃんは海ってあんまり着たことないのですぅ?」
「全くない、というわけじゃあないんだけれど。もっぱら素材集めとか、そんな目的ばかりだったからね。なんなら、遊び目的だけ、というのは今日が初めてかも知れない。クルちゃんは?」
「汚泥の底、バグの海のことを海とカウントするのなら、割と日常的ですねぇ」
「ボクには想像がつかないな。海にも底があるものなんだね」
マルキアは少し考えるが、谷底みたいなものなのだろうかと思う。
「ダイビングとまでは言わなくても、海に潜ってみるのもいいかもですねぇ」
「それも面白そうだね。でも、クルちゃんのいる場所は、こことは違うものなんだろう?」
「それはそうですねぇ、マルキアちゃん。あーん」
思索に走りそうになるマルキアにクルウルウはかき氷を掬ったスプーンを差し出す。
「ん? き、急に恋人同士みたいなことをやるんだね、君は……」
その言葉にクルウルウは歯列を見せて笑う。
「……ふふ、恋人みたい、なんて。マルキアちゃんは結構初初心なのですねぇ❤」
「か、からわないでくれよ」
「溶けて落ちちゃいますよぉ?」
「わ、わかっているよ!」
しかし、反撃してみたい。
『ドラゴンケイブ・コロシアム』の決勝戦の相手にして“|アンデフィーテッド《無敗》”と呼ばれた己がやられっぱなしではいられないのだ。
果たして、その反撃、マルキアの逆襲はクルウルウに届いただろうか――?
●夜の帳
響くのは波の音。
二人はゆっくりと砂浜を散歩するような速度で歩んでいた。
強烈な陽射しに肌に玉の汗を浮かばせていた昼間とは打って変わって、風が心地よいと思えるほどには二人の肌の熱を冷ますようだった。
「見て下さい、マルキアちゃん」
クルウルウが指差す先にあるのは、星空だった。
「いつもよりお星さまもなんだかより輝いて見えるような気がしませんか?」
彼女にとって、夜の海の黒は、己の住まう海底とは違うものだと理解できた。これはこれで綺麗だと思ったし、マルキアと共有できるだろうかと思ったのだ。
「ああ、昼と夜とで空がまったく違う顔を見せてくれるね。海って不思議だ」
それに、と彼女は暗がりの中でもはっきりと分かる程度には瞳を月明かりで輝かせた。
「星をゆっくり見上げるのも、もしかすると初めてだったりするかもしれない」
「ふふ、今日は楽しかったですねぇ。また来たいのですよぅ」
「うん、ボクも楽しかったよ。すごくリフレッシュできたよ」
誘ってくれてありがとう、と告げるよりも早く、クルウルウの指先がマルキアの指の腹をに触れた。
控えめなふれあい。
彼女は、足元が暗くて見えなくて、危ないと思った。
怖いと思った、というのは建前だろう。
「……手、繋いでくれてもいいのですよ?」
その言葉にマルキアは笑った。
「暗くてクルちゃんがはぐれてしまったら大変だからね、はは」
触れた指先を絡めるようにしてマルキアはクルウルウの手を握り返した。
思った以上に力強い感触にクルウルウは笑む。
語る言葉は全てが本心だった。
初心なマルキア、と言ったのも。だから、刺激が強いかな、と思ったのだ。
けれど、それは思い違いだったかもしれない。
思った以上に真っ直ぐに答えてくれるマルキアに、クルウルウは夜空に浮かぶ月を見上げて、それから彼女へと視線を戻した。
月光なら、彼女の瞳に宿っている。
「月、綺麗ですねぇ」
その言葉にマルキアは首を傾げた。
「確かに綺麗だけれど、どうしたんだい?」
クルウルウのしっとりとした声の意味に彼女は気づかない。
そんな鈍感さが返上されるのはいつのことになるだろうか?
いつの日か、この夜のことを思い出して真っ赤になってくれるだろうか?
そんな風に思いながら、クルウルウは繋いだ手の熱を頼りに、マルキアと共に砂浜を歩むのだった――。
成功
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