封神武侠界の仙界――天光の泉の畔で、この夏も祭がはじまった。
楽の音が楽しげに響き、人々や羽衣人、瑞獣までもが泉の浅瀬で踊り出す。周りには赤い灯籠が飾り付けられ、赤で統一された露店が並び、辺りにいる者たちも皆赤が目立つ出で立ちをしている。
そのさまを見て、朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)は自分がここに連れられてきた理由を察した。
「お兄ちゃん、着いたよ! |鳳赤祭《ほうせきさい》――お兄ちゃんなら絶対今年の鳳赤さまになれるもの!」
カムイの手を引いてきた羽衣人の子どもは無邪気に笑ってふわふわ飛ぶ。カムイは偶然仙界を訪れていただけなのだが、カムイを見つけた子どもが「鳳赤さまだ!」と言ってここまで連れてきたのだ。どうやらこの祭では『鳳赤さま』と呼ばれる神にちなんで赤を纏い、その年ごとに最も赤を煌かせた者を『鳳赤さま』に選ぶのだという。
「鳳赤祭……これはそういう祭りなのだね。飛び入りでもいいのかい?」
「うん! うんと素敵な『鳳赤さま』が選ばれるとね、素敵なだけみんなにいいことがあるんだって。だからこのお祭りのときは、みんな色んなところから赤が似合うひとを連れてくるの」
お兄ちゃん素敵だったから、と子どもが屈託なく笑って、お祭り楽しんでと駆けていく。
確かに今カムイは仕立てたばかりの赤い水着を纏っていた。武侠の婚礼衣装を元に仕立てられた水着は、鮮やかな赤と金が目を惹く。透けた布は羽衣のようにふわりと夏風を受けて揺れ、黒地に施された金の鳳凰の刺繡は、赤をぐっと引き締めながらに神々しい。
泉の畔とあって水着姿の者たちも多く見られたが、なかでもカムイが目を惹くのは、その髪が美しい銀朱であることも大きいだろう。この場で赤を纏っても、髪まで赤い者は多くない。
「……なんだか随分目立ってしまっているね?」
カムイが祭りを見て回りがてら歩いていると、見知らぬ祭りの参加者たちが目を輝かせて声をかけてくれる。見目を褒める声はもちろんのこと、鳳赤さま、太陽神さまとまで言われ始めると、さすがにカムイも面食らってしまった。
「私は禍津神なのだが……いいのだろうか」
つい傍らで羽ばたくホムラに首を傾げてしまう。そう見えるかもしれないと冗談めかして身内と語らっていたが、こうして見知らぬ人々にきらきらした瞳で言われてしまうと。
「ちゅん!」
「いいって?」
「ぴぃ!」
「それより餃子がおいしい……? 待てホムラ、君さっきもらった餃子、全部食べたね?」
だからふくよかになるんだ、と呆れるが、ホムラの存在も祭の参加者たちにとってはおめでたい存在に見えるらしい。たしかにふくふくした赤いカラスは、繁栄や幸福を示しているような気がしなくはないけれど。
祭りを巡るほど、カムイに届けられる賛辞も食事も大量になっていった。泉を一周し終わる頃には土産にしても多すぎるほどになったから、帰ったら驚くだろうなとつい笑み含む。
太陽が夏空の一番高くに辿り着く頃、響いていた祭りの音が更に荘厳なものになった。そうしてその音が一度止み、祭りの参加者たちが泉へと入っていく。周りの促しでカムイも泉に足を踏み入れ、心地よい水の冷たさが足元を濡らして。
一層眩しい太陽の光が、一筋、カムイを照らし出した。
「決まった、今年の鳳赤さま!」
「……私が?」
思わず呆けているうちに、カムイは泉の中央へ促される。
眩しい太陽が喜び祝うようにカムイを照らす。嬉しそうな歓声と『鳳赤さま』を呼ぶ声に、カムイも破顔して手を差し伸べた。夏に赤い桜が花吹雪く。
煌めく水面の中心で、神が祝福を告げる。
「――皆に幸福があるように」
成功
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