Plamotion Water Race
●君が作って、ボクと遊ぶ
「これで完成っと!」
レーヴクム・エニュプニオン(悪夢喰い人・f44161)は久しぶりにアスリートアース、とある商店街の片隅にある模型店『五月雨模型店』へとやってきていた。
目当てはもちろん、キットの購入……だけではない。
ここの制作スペースをレーヴクムは気に入っていたのだ。
購入してすぐに制作に取り掛かることができるのは、とてもありがたい。
眼の前には購入したプラスチックホビー……海洋生物シリーズ『ダイオウイカ』である。
透明パーツを使ったリアルな造形。
それによってまるで生きているかのように『ダイオウイカ』の姿を再現できているのだ。加えて、軟質プラスチックによって、8本の足と2本の触腕にある程度表情が付けられるようになっているのだ。
「けど、ダイオウイカもプラスチックホビーになっちゃうと、ただのイカに見えるよね……」
実際のサイズを考えれば、リサイズされるのは仕方ないことだった。
けれど、レーヴクムがこの『ダイオウイカ』のプラスチックホビーを組み立てていたのには理由がある。
そう、『プラクト』の特別ステージ、プールサイドでレースがおこなれているのだ。
参加するためには水中用か水陸両用のプラスチックホビーが必要であるから、レーヴクムは『ダイオウイカ』をチョイスしたのだ。
「気を付けてな」
「はーい!」
『皐月』店長の言葉にレーヴクムは返事をして『五月雨模型店』の扉を明けて走り出そう……として、店先にいた少女、此原・コノネ(精神殺人遊び・f43838)と鉢合わせした。
彼女は、あ、と此方を見上げて驚いているようだった。
「おや、どうしたのコノネちゃん」
「レーヴクムおにーさん、こんにちは」
「うん、こんにちは」
「あのね、見てみたいの!」
唐突である。
え、何が? とレーヴクムは首を傾げた。
彼女の言葉は足らない。だから、レーヴクムは彼女から言葉を引き出そうとして首を傾げた。
「あれ!」
彼女が指差す先にあるのは、ショーケースに飾られた勇壮な艦船モデルである。
去年、彼女が組み上げたものである。
それを見たいというのならば、いくらでも見れるだろう。
けれど、レーヴクムはコノネがそういうことを言っているのではないと理解した。
「どういうこと? コノネちゃんが作ったお船、だよね?」
「そう! 動いているところを見たいの! どうすればいいのかわからなくって……」
「なるほど。あのね、コノネちゃん。それならぴったりのイベントがあるんだけど、一緒にいかない?」
それは何気ない提案であった。
けれど、ナイスアイデアであるとも思えたのだ。
そう、彼女が動いているところが見たいと言ったのは艦船モデル。
であれば、当然プールサイドのレースに参加する資格は、それ自体がもうすでに獲得していると言っていいだろう。
タイミングよく、レーヴクムも水棲生物である『ダイオウイカ』を完成させているのだ。
であれば、一緒に、というのは天啓に思えてならなかった。
「そんなものがあるの? でも、お店から持ち出していいのかしら?」
「構わないよ。もともと君が作ったものだ。行っておいで」
店内から様子を伺っていた『皐月』店長からショーケースの中の艦船モデルを運び出してもらってコノネは力強く頷いた。
「気を付けてね」
「はーい!」
「いこう、コノネちゃん!」
二人が駆け出していくその姿は、どことなく仲良しな兄妹を思わせただろう。
そして、二人は水着に着替えプールサイドに踏み出す。
学園指定のスクール水着とマントをラッシュガードにしたコノネとレーヴクム。
手にしたプラスチックホビーをプールに浮かべれば、操縦パーティションにてお馴染みの掛け声を叫ぶのだ。
「レッツ・アクト!」
「わー楽しいわ!」
「あ、コノネちゃん、待って! スタートラインの位置に付かなくっちゃあ!」
「そうなの? ここ?」
コノネはレーヴクムに誘導されて、水流プールのスタートラインに位置をつける。
「本番ね! 楽しみだわ!」
「ふふ、そうだね! あ、レースシグナルをちゃんと確認して……カウントが始まったよ!」
「ドキドキね!」
二人は互いに笑い合いながら、スタートの合図を待つ。
グリーンシグナルから、レッドシグナルへ。
変わった瞬間に、コノネの艦船モデルが勢いよく海原を征く勇壮さでもって波をかき分けて突き進む。
それは彼女が作り上げた艦船モデルのパッケージアートそのものであった。
「すっごいわ! 本当に海を進んでいるみたい! あれ? レーヴクムおにーさんは?」
「ここだよ、ここ!」
視線を下に向ければ、水流プールの底をぬるりと泳ぐ『ダイオウイカ』の姿があった。
「わっ、本当に生きているみたい!」
「でしょう!」
そんな風に二人はなんだか記憶にない懐かしさを覚えながら、笑顔を夏の日の水飛沫の玉のように輝かせるのだった――。
成功
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