サーマ・ヴェーダは夏空に昼夜を問わず
メルヴィナ・エルネイジェ
メルヴィナ達が夏のひと時を海で過ごすノベルをお願いします。
アドリブその他諸々お任せします。
海鶴マスターのナイアルテさんやNPCにご登場頂いてもOKです。
その際は誘われたという事にでもしてください。
●海
メルヴィナ達はエルネイジェ王家のプライベートビーチにやってきました。
「海ですわ〜!」
メサイアは大はしゃぎです。
「おお! メルヴィナ殿下! 新しい水着を降ろされたのですね!」
ルウェインもメルヴィナの水着姿を見て大はしゃぎです。
「こういう場所ではメルヴィナと呼ぶのだわ」
「はっ! メルヴィナ!」
「それでその……どうなのだわ?」
「どう……と仰られますと?」
「私の水着……変じゃないのだわ?」
「とてもよくお似合いです! まるで水面を揺蕩うクラゲのような優雅さ! しかし……なんと言ったらいいのか……」
ルウェインはしどろもどろになりました。
「やっぱり変なのだわ?」
メルヴィナは不安そうにルウェインの顔を覗き込みます。
「いや! その、つまり……近くで見ると、大胆というか……刺激的というか……目のやり場に困るというか……」
「こういうのは嫌いなのだわ?」
「いえまったく! 至極魅力的! ンアーッ!」
上目遣いのメルヴィナに、ルウェインは煩悩が爆発してしまいました。
「気持ち悪いのだわ」
メルヴィナはちょっと寒気がしました。
「冷たい眼差しもまた愛おしい!」
「とにかく、海なんだから海に入るのだわ」
「はっ! メルヴィナと一緒なら海の果てでも底へでも!」
●帰り際に
そうして一日は過ぎ、そろそろ帰るお時間となりました。
「わたくしとっても満足ですわ〜!」
メサイアは心行くまでエンジョイできました。
「メルヴィナとのお戯れ……素晴らしい一日だった……」
ルウェインは感慨に耽っていました。
「楽しかったのだわ?」
「はい! とっても!」
即答するルウェインに、メルヴィナは子供みたいだなって思いました。
「メルヴィナは楽しく過ごせたでしょうか? 退屈させてはいませんでしたか?」
「私も……まぁ……それなりに楽しかったのだわ」
「それを聞いて安心しました!」
「いつか、新しい家族と一緒に来たいのだわ」
「それは素晴らしい事ですね! ん? ファッ!?」
ルウェインは新しい家族の意味を察して焦りました。
「子どもは嫌いなのだわ?」
メルヴィナは不安そうに尋ねます。
「いえまったく! ですが、俺に子の親ができるかどうか……」
ルウェインは曇らせた面持ちを俯けました。
母親は蒸発してしまい、父親は早くに死んでしまったので、家族というものがよく分からなかったのです。
「不安なのだわ?」
「俺は正しい親というものをあまりよく知りません」
「ルウェインなら大丈夫なのだわ。私を愛してくれたように、子も愛せるのだわ」
「心強いお言葉です」
「だから……その……」
メルヴィナはもじもじし始めました。
「どうかされましたか?」
「この後何かする事はないのだわ?」
「この後……?」
ルウェインは暫く考え込みます。
メルヴィナはなんだか熱っぽい視線で見つめてきます。
遂に察したルウェインは、意を決して言いました。
「メルヴィナ……今夜、お時間を頂けないでしょうか?」
「どうするのだわ?」
メルヴィナはルウェインが言わんとしている事を分かっていましたが、わざと尋ねました。
自分から言うのはちょっとはしたないと思ったのです。
また、ルウェインには自分から誘う位の甲斐性を持って欲しいと思っていました。
「つまり、えー、なんと申しますか……ご奉仕! ご奉仕に上がりたいのです!」
「……もうちょっとムードのある言い方にしてほしいのだわ」
メルヴィナは少しがっかりして溜息を吐きました。
「申し訳ありません!」
「でもいいのだわ」
「ありがたき幸せ!」
「子どもは三人くらいは欲しいのだわ」
「頑張ります!」
ルウェインは時期尚早過ぎる気もしましたが、あの夜からメルヴィナの伴侶となる覚悟を決めていたので、ここで躊躇うのは誓いを反故にする事だと思いました。
「お二人とも何をお話ししておりますの? お遊びする約束ですの? わたくしもお遊びいたしますわ〜!」
メサイアはメルヴィナとルウェインが何の話をしているのか全然分かりませんでした。
「メサイアはだめなのだわ」
「わたくしだけお仲間外れですの……? お仲間外れにされるわたくしとってもおかわいそうですわ〜!」
メサイアは泣き出してしまいました。
「これは遊びじゃないのだわ。私とルウェインの大切なことなのだわ」
「メルヴィナお姉様と焼肉の妖精さんばっかりおズルいですわ〜!」
「俺が焼肉の妖精……?」
ルウェインは困惑しました。
かつてメサイアが焼肉の話をしていた最中にルウェインが現れたので、メサイアはルウェインの事を焼肉の妖精だと思っていたのです。
「わたくし意地悪されましたわ〜! ひどいですわ〜!」
夜の浜辺にメサイアの泣き声が響き渡りました。
だいたいこんな感じでお願いします。
●あの後のメルヴィナ
恋愛大海獣になりました。
またの名を怖いもの無しといいます。
「議会が何を言ってきたって関係ないのだわ」
「お母様からはもう大人なんだから自分の思うようにしなさいと言われたのだわ」
「お父様は……どこにいるか分からないけど、きっとダメとは言わないのだわ」
「大勢の国民が困ることになるのはよくないけど……でも無理なものは無理なのだわ」
「海の利権がどうこうとか、そういうのは面倒を見てあげるから安心するのだわ」
「だからそのために嫁ぐ必要なんて無いし、嫁ぐつもりもないのだわ」
「私をあまり不機嫌にさせない方がいいのだわ」
「リヴァイアサンの声を聞ける私がいなくなって一番困るのは国なのだわ」
●ルウェインへの感情
ルウェイン愛ずる姫君になりました。
「でも気持ち悪いところはやっぱり気持ち悪いのだわ」
「人には良い部分も悪い部分もあるから仕方ないのだわ」
「ルウェインは私の気持ち悪いところを受け入れてくれたのだわ。だから私もルウェインの気持ち悪いところを受け入れるのだわ」
自分はもうルウェインと結婚したも同然と思っています。
「結局私は、人を愛する人を愛してしまったのだわ」
一度は崩れた夢、両親のような幸せな家庭を持つという夢を叶えようとしています。
「今度はきっと幸せになれるのだわ」
「ルウェインなら私が産む子も愛してくれるのだわ」
「でも……もしも私より子どもの方を愛するようになっちゃったら……それはそれで複雑な気分なのだわ……」
ルウェイン・グレーデ
メルヴィナとメサイアとの合わせです。
●現在の心境
メルヴィナと海に来てウッキウキです。
「メルヴィナ姫の美しさは、水辺にいてなお一層輝きを増すのだ!」
でも水着が一見お洒落に見えて(透けてる内側が)大胆なので煩悩が暴走寸前です。
「なんたる大胆なお召し物! たわわを包む貝殻も……ンアーッ! いかん! 煩悩よ消えろ!」
●あの後のルウェイン
覚悟完了しました。
「メルヴィナ姫は俺に添い遂げる事をお赦しくださった。我が生涯という一本の剣はメルヴィナ姫だけのために!」
ですが自分はまだ器が足りないと思っています。
「グレイグ皇王陛下ほどとは言わずとも、せめて大きな武勇の一つでもあれば……」
「俺が謗られるのは構わない。だが俺のせいでメルヴィナ殿下が謗られるのは慚愧に堪えない」
また、メルヴィナが子どもを欲しがっている事を察しました。
しかし自分に親が出来るのか自信がありません。
「俺はきっと正しい親というものを知らない。そんな俺に務まるのだろうか?」
「それに恥ずかしい事ながら、俺には財力も家格もない。アイディール侯爵家に色々と援助して貰ってはいるが、こんな事ではメルヴィナ姫に甲斐性無しと失望されてしまう」
メサイア・エルネイジェ
メルヴィナとルウェインとの合わせです。
●現在の心境
海を前にして大はしゃぎです。
「でっけぇ海ですわ〜!」
「お太陽がギンギラギンですわ!」
「あっちぃですわ〜!」
「こんなお暑い日はストゼロがうんめぇのですわ〜!」
「たくさん遊ぶのですわ〜! 飲むのですわ〜! 食べるのですわ〜!」
「今度はちゃんとおバーベキューセットをお持ちしておりますわ〜!」
●ルウェインに対しての感情
「焼肉の妖精さんですわ」
かつてメサイアが焼肉の話をしていた時、突然現れたので焼肉の妖精だと思っています。
ルウェインがメルヴィナの事を好きなのは理解しています。
「わたくしもメルヴィナお姉様が大好きですわ〜!」
「メルヴィナお姉様はソフィアお姉様みたいに怖くないのですわ」
「ルウェイン様はメルヴィナお姉様とよくご一緒されておりますわねぇ」
「時々お顔やお首にお歯型が付いているのですわ。きっとメルヴィナお姉様に齧られてしまったのですわ。焼肉の妖精さんなので美味しいのに違いありませんわ」
●メルヴィナに対しての感情
昔に比べて顔色が良くなったと思っています。
「近頃のメルヴィナお姉様はお機嫌が良さそうですわ」
「ちょっと前まではお悲しそうなお顔ばかりしておりましたのよ」
「それになんだかお肌がツヤツヤしてる気がしますわ」
「きっと美味しいお酒をお飲みになられているからですわ!」
「わたくしもストゼロを飲んでお肌ツヤツヤですわ〜! わたくしとってもお綺麗ですわ〜! いぇい!」
●因みに
メサイアには浮いた話は今のところありません。
国内外では「付き合いたくない女No.1」とか「王位がおまけに付いてきてもアレだけは絶対無理」とか言われています。
●プライベートビーチ
小国家『エルネイジェ王国』。
それはクロムキャバリア、アーレス大陸西部に位置する大陸の覇権を狙う小国家である。
王国、と名乗っていることからも、統治する者がいる。
それが王族である。
王族の責務とは即ち、小国家を繁栄に導くこと。
それ故に多くの責務がまとわりつくものである。
だが、その責務が常人では耐えられぬからこその王族。心身ともに強くあらねば立ち行かぬ。
そして、その代価は王族に多くの恩恵を齎すだろう。
確かに国とは民である。
同時に民とは国でもある。
王族は責務を果たしてこそ、恩恵を甘受する立場にあるのだ。
それを忘れた者から破滅してくのは、歴史の示すとおりである。
メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)は、それを承知している。
確かに彼女の力は『エルネイジェ王国』においてなくてはならないものであるし、他国との緩衝地帯である海洋を束ねることで比類なき恩恵をもたらしている。
その力の全てを一手に個人へと委ねられている、ということ事態が海洋を支配する機械神『リヴァイアサン』の強大さを示しているとも言えただろう。
「海ですわ~!」
そんな恩恵の一端であるプライベートビーチ。
響いたのは、脳天気な声であった。
小国家『エルネイジェ王国』を巡る事情というものを考えれば、あまりにも能天気。
何も考えていない。
否、何も考えられない。
そう思わせるような声色を上げて、メサイア・エルネイジェ(暴竜皇女・f34656)は今年もまた王族御用達のプライベートビーチへとやってきていた。
「でっけぇ海ですわ~!」
言い直す必要があっただろうか?
ない。
まったくない。
ただただメサイアは己の感じるままに言葉を紡ぐ。
良いように言えば、裏表がない、とも言える。
そんな彼女に誘われてやってきていたグリモア猟兵であるナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)は困惑していた。
またなぜか付いてきたノイン・シルレル(第九の悪魔・f44454)は、きょろきょろとプライベートビーチを見回していた。
一体何をしに来たのか。
さっぱりわからないが、メサイアはまるで気にとめていなかった。
「お太陽がギンギラギンですわ!」
「あ、あの、メサイアさん……私たちが付いてきてもよかったのでしょうか?」
ナイアルテの言葉にメサイアはキョトンとする。
なぜ、そんなことをナイアルテが言うのかさっぱりわからなかったからだ。
せっかくのプライベートビーチである。
人数が多いほうが絶対楽しい。
遊ぶのならば仲間外れを作ってはならない。
メサイアにとって、それは不文律であったし、言わずとも伝わるものであると思っていたのだ。だが、ナイアルテはどこか恐縮そうである。
対するノインはまったく動じていないし、恐縮もしていなかった。
むしろ、メサイアよりもずかずかとプライベートビーチの白浜を進んでいっているではないか。
「せっかくの海なのですわ~! みんなで遊んだほうが絶対楽しいのですわ~!」
「確かに、そうなのですが……」
だが、ナイアルテが心配していたのは、仲間はずれだとかどんな遊びを、とかではないかった。
彼女の視線の先にいるのは、パラソルを手にしてメルヴィナに強烈な夏の日差しがかからぬようにしているルウェイン・グレーデ(メルヴィナの騎士・f42374)であった。
彼の傍にはぴったりとメルヴィナがいる。
べったりくっつく、というほどではない。
が、確実にナイアルテが知るメルヴィナとルウェインの距離感ではなかった。
以前はあんなに距離が近かっただろうか?
どう考えても、あそこまでくっついていなかった。
というか、ルウェインが一方的にメルヴィナを慕っていたように思える。
そして、メルヴィナはどちらかと言えば、気味悪がっているというか、距離を置こう置こうとしていたように記憶していたのだ。
しかし、現状はどうだ。
ルウェインにメルヴィナから距離を詰めているように思えてならない。
ナイアルテは思った。
これは邪推ではないだろうか、と。
他者の交友関係に対して、己がどうこう言うつもりはない。そんな資格だってない。
だがしかし、である。
ナイアルテもまた乙女である。おと、め……? となる年頃であるかもしれないが、まあ、そこは脇においておくとしよう。
それなりに彼女も男女の色恋沙汰というものには興味がある。
故にメルヴィナとルウェインの間に流れる絶妙な空気感というか、色というものを察知していたのだ。
「私達は、そのお邪魔では……?」
「なんでですの? はっ! もしや、ナイアルテ様はお食事の心配をされておりますの? 大丈夫ですわ~! 食材は焼き肉の妖精さんがたっぷり持ち込んでおりますわ~!」
メサイアはルウェインを指差す。
焼き肉の妖精?
一体それはなんだ、という顔をナイアルテはした。
当然であろう。
焼き肉の妖精とはメサイアがルウェインに対して、そう認識しているからだ。
かつて彼女が焼き肉の話をしていた時、突然現れたるウェインを以来ずっと焼き肉の妖精だと思い続けているのだ。
いや、話が脱線した。
そうじゃない。
そうじゃないのだ。
ナイアルテは頭を振った。
「違います。そうではなくて……」
「おナイアルテ様は心配性ですわね~! ストゼロのことならわたくしにおまかせあれですわ~! いざとなれば、おえー、ですわ~!」
「それも困ります。お忘れになったのですか! ハーブ農園をアルコール漬けにしてしまったことを!」
「はてな? ですわ~?」
忘れがたいことである。
メサイアは以前、国の事業であり生産物であるハーブの農耕地帯をストゼロ浸しにしてしまった前科があるのだ。
彼女がその気になれば、プライベートビーチもストゼロまみれにすることだってきるかもしれない。
そんなことを二度も許せば、今度こそメサイアの弾劾裁判が始まって国が割れるかもしれない。いや、いいすぎかも知れないが、なりかねないと思わせるほどにはメサイアはぶっ飛んでいた。
ナイアルテは決意した。
メサイアがこんな調子では、メルヴィナとルウェインの仲が進展しないかもしれない。
であれば、己が守護らねばならぬ。
メルヴィナとルウェイン。
二人の恋路はまだはじまったばかりであろう。
であれば、ナイアルテは二人の思いが見事成就するまで見届けなければならない!
そう彼女は心に誓ったのだ。
「メサイアさん、あちらにいきましょう! もしかしたら、あちらにストゼロの原石があるかもしれません! 海原は宝の宝庫。さすれば、この近海にもストゼロの原液を圧縮濃縮縮退した物質が眠っているかもしれません!」
何を言っているのかさっぱりわからない。
ストゼロの原液?
であれば、メサイア本人ではないだろうか?
なにせ、源泉かな? と見紛うほどに口からストゼロを吐き出すユーベルコードを彼女は持っているのだ。
あまりにも埒外が過ぎる。
が、事実でもあるのだ。
そもそも、メサイアが如何に『お馬鹿な皇女』と揶揄されているのだとしても、流石にそんな見え透いた嘘に釣られるわけがないのだ。
「原石ですって!? どういうことですの、おナイアルテ様!?」
「あれだけの美酒、人の手によって生み出されるものでしょうか? いえ、あれこそ神秘! ストゼロのゼロとは、人間がゼロからでは生み出せぬとういう符丁に違いないのです! であれば、やはりストゼロの原液……原石なる宝が……メガリスが存在していてもおかしくないはずなのです!」
「むちゃくちゃ欲しいですわ~! ストゼロの原石! うぉん、わたくし俄然燃えて参りましたわ~!!」
やる気に満ちたメサイアの顔にナイアルテはしめしめと思った。
そして、ルウェインに向かって無意味なサムズアップと、下手くそなウィンクをしてみせた。
「……?」
ルウェインはさっぱりわからなかった。
無理もない。
グリモア猟兵としての面識があったとしても、ルウェインからすればナイアルテは、ある種国賓のような存在なのだ。
そんな彼女が何故かよくわからないハンドサインと目配せをする理由が思いつかなかったのだ。
聖竜騎士団の諸先輩方であれば、わかったかもしれないが、ルウェインはそういうところに関しては鈍かったのだ。
ばちん、ばちん、とナイアルテのへったくそなウィンっくにルウェインは意図が読めずに困惑するしかなかった。
「いきますわよ、おナイアルテ様~! ストゼロの原石はわたくしのものですわ~!」
「あ、待ってくださいメサイアさん! 慌てないで!」
そんな二人の背中を見送るしかなかった。
「ふむ……あの来賓の方は一体なにを言いたかったのだろうか……?」
ルウェインは首を傾げるばかりであった。
もう一人の国賓……ノインはどこかに行ってしまった。
饗さなければならないのをルウェインはソフィア・エルネイジェから言付けられていたが、しかし、その二人が各々楽しむというのならば、敢えて構うのも不躾だろうとも思えたのだ。
故にルウェインは手にしていたビーチパラソルを白浜に突き立て、抱えていたビーチチェアを並べる。
彼女らをもてなすのは当然として、ここにはメルヴィナもメサイアもいる。
己の使命というものは大きくわけて二つ。
一つは『エルネイジェ王国』に招かれた国賓であるグリモア猟兵二名をもてなすこと。
もう一つは王族であるメルヴィナとメサイアの護衛である。
とは言え、メルヴィナとメサイアをどうにかできる者がいるとは思えない。
メサイアに至っては、ヴリトラ教の信徒でもあるのだ。
むしろ、護衛は邪魔になるであろう。
『大体のことはチェストで解決』というのが、ヴリトラ教の教えである。
物騒極まりないことであるが、これまでもそうやって多くの事柄を暴力でもって解決してきた嫌な実績があるので、心配は無用というものである。
となれば、ルウェインが気にかけなければならないのはただ一つ。
「今、あのグリモア猟兵から何かウィンクされていなかったのだわ?」
言葉が重たい。
言葉に質量がある、というのならば、今まさにルウェインはそれを感じたところであった。
触れられたわけでもないのにルウェインは己の肩に、ずしりと圧を感じていた。
「はっ! 何やら目配せをされていたようですが! 皆目検討もつきません! ゲストの意図を汲み取れず、申し訳ないとは思いますし、我が不明を恥じるところであります!」
「目配せ?」
メルヴィナの言葉の圧力が弱まったように思えた。
ルウェインはビーチチェアを置き終えて、メルヴィナに向き合う。
パラソルの影に陰っていてなお、メルヴィナの青い瞳は宝石のように輝いてみえた。瞳孔が開きっぱなしであるが、それもまた美しいと思える程度にはルウェインはメルヴィナにぞっこんであった。
恋は盲目とは言うが、では愛はなんていうのだろうか。
考えさせられる一幕である。
ルウェインは振り返って見たメルヴィナの姿を見て思った。
彼女の美しさは、水辺において尚一層輝きを増すものである、と。
凄まじい美しさである。
天上の女神であっても裸足で逃げ出す美しさをメルヴィナは持っている。
それが、天女の羽衣の如き薄布を纏っているのであれば、殊更である。
そう、水辺! 海辺! であれば、その装いは常なるものではない。ご存知水着である!
猟兵諸兄に置かれては、無論語るところのない水着!
毎年毎年、世界を変えて行われる水着コンテスト。
水着とは確かに水辺にて相応しい装いかもしれない。
だが、猟兵にとっては夏を彩る風物詩なのだ。
メルヴィナとて例外ではない。
「メルヴィナ殿下、今年もまた新しい水着をおろされたのですね」
ルウェインは彼女の三つ編みに編み込まれた髪が揺れるのを見ただろう。
内心はもう大はしゃぎである。
言葉にしがたいほどの喜びに満ち溢れていた。
彼女の水着は、それはとても麗しいものであった。レースの衣はまるで海原に揺蕩うクラゲを思わせたし、その佇まいは優雅そのもの。
何よりメルヴィナの可憐なる姿を倍増させる装いであたのだ。
貝殻を模したトップスにあしらわれた真珠は、彼女という至宝を際立たせることあっても、その輝きで陰らせることはできない。
それほどまでに彼女の白い肌は美しいのだ。
全てにおいてパーフェクト!
清楚さと優雅さ。
それを供えた麗しい水着姿を、こうも間近で拝謁できる栄誉を得られたことにルウェインは感涙さえしただろう。
だが、そんなルウェインの言葉にメルヴィナは不満そうであった。
むすっと、僅かに頬を膨らませている。
それも愛らしいと思ってしまうのだから、ルウェインも己が大概であることを知るべきであった。
「ルウェイン、こういう場所ではメルヴィナと呼ぶのだわ」
「しかし、王家の御用地とは言え」
「ルウェイン」
「はっ! メルヴィナ!」
弱かった。
いろんな事情があることは承知である。
しかし、ルウェインは一騎士なのだ。であれば、己が剣を捧げるべき王家に対して恥じぬ行動を常に心がけねばならない。
ソフィアも己にそのように告げていた。
だが、それはあくまで名目というものであった。
言葉にしては、その程度のもの。
燃え上がる二人を前にしては、ソフィアも止めようがないと思っていただろう。故に、ルウェインには上司として、また妹であるメルヴィナを預ける騎士として、と面倒な姉を演じなければならなかったのだ。
そんなソフィアの気苦労は益々増えていくことだろう。
フラストレーションとか溜まっていないだろうか?
ストレス大丈夫? と思わずにいられない。長姉として、次期女皇として、あまりにも多くの事柄が彼女の双肩にのしかかっている。
だが、そんな彼女のことを思えど、メルヴィナはルウェインに尋ねずにはいられなかった。
「それでその……どうなのだわ?」
彼女はルウェインから一歩離れた。
距離を置かれた、と思ったかも知れない。以前のルウェインならば。
しかし今の彼は違う。
一歩離れた意図を汲み取ろうとしていた。
だが、鈍感は生来のものである。
治そうとして直せるのならば、ラブコメディは死滅している。そういうものである。
「どう……とおっしゃられますと?」
かーっ! これである。見なよ、これがルウェイン・グレーデだよ。
女心の、「お」の字も解さぬ返答!
鈍チンのお手本みたいな返しである!
しかし、メルヴィナはもう今更であった。
そんなルウェインの鈍感さに一々後退したりしないんどえある。
「私の水着……変じゃないのだわ?」
一歩引いた距離が、自然二人の慎重さによって上目遣いとなって炸裂するのである。
自身への負い目。
気恥ずかしさ。
けれど、一匙の勇気。
それを持って繰り出されるメルヴィナの所作の一撃がルウェインを襲う。
さすがのルウェインも、しどろもどろである。
「とてもよくお似合いです! まるで水面を揺蕩うクラゲのような優雅さ! しかし……なんと言ったらいいのか……」
なぜ、しどろもどろになったのか。
言うまでもない。
確かにメルヴィナの水着姿は麗しい!
優雅さの塊である。
今生に置いて、これほどまでに素晴らしい麗しさは見ることはできないと思えるほどであった。
だがしかし!
ルウェインにとって煩悩というのは、鈍感さを治すことができないように消すことができないものであった。
メルヴィナのたわわな果実を包み込む貝殻のトップス!
描かれるは谷間!
さらに言えば、二つの果実を繋ぐ二の腕から覗く腋の陰影の美しさ! 目が! 吸い込まれてしまう!
それだけではない!
これだけ優雅さを強調しておきながらなんであるが!
メルヴィナのボトム……つまりは、下肢! すらりと伸びた細い足の白さは、太陽さえ羨む眩しさなのだ!
加えて言えば、これまでルウェインが見ないようにしていたレースの如き薄く透ける……メルヴィナの下腹部!
前を見ても後ろを見ても、透けている。
なにかの間違いではないかと思えるほどに大胆なデザイン!
ほ、本当に水着なんですか?! とルウェインは尋ねたくなるほどの攻めた鋭角さにルウェインの煩悩は正直に言って暴発寸前であった。
このままではあらぬことを口走ってしまいそうであった。
「やっぱり変なのだわ?」
そんな懊悩を他所にメルヴィナはルウェインの心を掌で転がすようだった。
変なわけがない。
そうルウェインが思っているのを知っていて尚、追い込む言葉。
不安そうな表情はわかっていても、確認せずにはいられない乙女心の現れである!
覗き込むような所作をされれば、余計に谷間が強調されて視線を惹きつけてやまない。
不躾な視線になってしまう。
それを恐れて顔を背けるルウェインにメルヴィナは、さらに体を寄せた。
ビーチパラソルの影の下であるから、メルヴィナも大胆になっていたのかもしれない。
「……ルウェイン。ちゃんと、見て、なのだわ」
「いや! その、つまり! 近くで見ると、大胆と申しますか……! 刺激的ともうしますか……ともかく、目のやり場にこまるというか……」
「こういうのは嫌いなのだわ?」
メルヴィナは薄布の如きレースの端を両手で摘んで持ち上げた。
それはカーテシーと呼ばれる所作であったかもしれないが、今、その装いでやられると、ルウェインの視線を釘付けにするのは、白い臍であった。
白い肌。
滑らかな曲線。
覆う布地の少なさは、まるで薄布があるから、という油断を見せつけているようであり、また同時に此方を誘っているのではないかと誤解させる罠にすら思えてならなかっただろう。
「こんなのは、はしたない、のだわ?」
「いえまったく! 至極魅力的! ンアーッ!!」
暴発していた。
それはなんていうか、メルヴィナが思う以上の反応であった。
「気持ち悪いのだわ」
思ってたんと違う。
もっと素直に『綺麗』だとか『かわいい』だとか、そういう言葉を投げかけてくれると思っていたのに、ルウェインはあまりのことに暴発してしまっていたのだ。
煩悩って大変なのである。
しかし、メルヴィナからすれば、期待していた言葉がもらえなかったという事実しかない。
故に、じとっとした目でルウェインを見てしまう。
しかし、それさえも。
「冷たい眼差しもまた愛おしい!」
「とにかく、海なんだから、海に入るのだわ」
「しかし」
「いいから、なのだわ。ルウェイン」
メルヴィナに手を引かれてルウェインは海辺に引っ張り出される。
無論、メルヴィナとともにあるのならば、海の果てまででも、底まででも征こうという決意はあったのだ。
それに、とルウェインは思う。
彼女の表情は見るからに明るいものばかりになった。
それは喜ばしいことだ。
あの一夜以降、ルウェインは彼女と添い遂げることを誓った。
己の剣は生涯彼女だけのものだ。
だがしかし、己の器はあまりにも及ばない。
そう、かつて『エルネイジェ・ドリーム』を成し得た『グレイグ』皇王のような大きな武勇がないのだ。
それは騎士としては致命的であったし、立身出世を思うのならば、当然手を伸ばさねばならないものであった。
己の力不足は、即ちメルヴィナへの誹りへとつながるだろう。
己が如何に謗られるのは構わない。
しかし、メルヴィナが謗られるのはどうにも慚愧に堪えない。
それに、と己の手を引くメルヴィナを見る。
いいや、とルウェインは頭を振る。
思い過ごしかもしれない。なら、今は彼女が笑っていることを大切にしなければならないと思ったのだ――。
●日が落ちて
夕焼けが水平線を染める。
それは橙色であり、空を燃え上がらせるようであった。
「ストゼロの原石はなかったですが、わたくしとっても満足ですわ~!」
メサイアはナイアルテをあっちこっちに引っ張り回して遊び回り、浜辺のバーベキューでは肉に魚にストゼロにと大盛りあがりであった。
ナイアルテは肩で息をしていた。
どう考えても体力が続かなかったのだ。
「ぜぇ……はぁ……」
「おナイアルテ様は体力がねぇですわね~! 何事も楽しむには体力がいりましてよ~!」
「そ、そう、ですね……」
なにかに付けてメサイアは姉であるメルヴィナに近づこうとしていたため、その度にナイアルテはメルヴィナとルウェインから遠ざけるように、あの手この手でメサイアの注意を惹きつけていたのだ。
それが、この疲労感の正体であることは言うに及ばないだろう。
しかし、ナイアルテは満ち足りていた。
そう、自分の働きによって、二人の恋路は守られたのだ。
であれば、体力が底をついて、明日の朝はきっと筋肉痛で置きられなくなったのだとしても、悔いはないのだ。
ばちん、とまたへったくそなウィンクをルウェインにした。
が、ルウェインは首を傾げるばかりであった。
「……ルウェイン?」
メルヴィナは見逃していなかった。
「はっ! なんでしょう、メルヴィナ」
「……楽しかったのだわ?」
「はい、素晴らしい一日でした……」
「そんなに、なのだわ? 私と一緒にいられて?」
「はい! とっても!」
メルヴィナは己が杞憂を抱いていたことに気がついただろう。
ナイアルテが、そういうつもりではないこともそうだが、ルウェインが本当に己だけしか見ていないことに安堵したのだ。
それに、と彼女は思う。
即答した彼の姿が子どものように思えてならなかった。
言ってしまえば、愛らしいとさえ思ったのだ。
「メルヴィナは楽しく過ごせたでしょうか? 粗相はなかったでしょうか?」
ルウェインは真っ直ぐに此方ばかりを見ている。
これで疑え、という方が無理難題だ。
メルヴィナは息を吐き出す。
「私も……まぁ……それなりに楽しめたのだわ」
「それを聞いて安心しました!」
「いつか、新しい家族と一緒に来たいのだわ」
メルヴィナは己の薄布に覆われた下腹部を掌で撫でた。
それは願望であったし、近い未来実現するものに思えてならなかった。それは彼女にとっての幸せな未来絵図でもあったこことだろう。
「それは素晴らしいことですね!」
だが、ルウェインの鈍感さである。
ここまで来て気がつけない……とは、とナイアルテは、じとっとした目でルウェインを見た。
ここまで言わせているのだ。
察しろ、とナイアルテは思った。
しかし、そこまで思ってから、彼女は、はたと気がついた。
ん? もしかして自分はなにか思い違いをしていたのではないか、と。
そう、ルウェインとメルヴィナ。
二人の関係性は、まだ未熟なものであり、そこまで進展していないだろうと思っていたのだ。
ナイアルテは「しかたないですねー、じれったいので私がちょっとやらしー雰囲気にしてさしあげますよ!」位の気持ちであったのだ。
だが、現実は違う。
そんな彼女の恋愛初心者っぷりを置き去りにすでに二人はしていたのだ。
なので、彼女の気遣いというのはあまりにも見当違い!
恋愛大レースの首位を爆走していたのは、メルヴィナ・ルウェイン組だったのだ。
「ん? ファッ!?」
そう、ルウェインはルウェインでようやく意味に気がついたのだ。
彼女の言う言葉。
その意味が己の思い違いでもなく、察するべき事柄である、と。
だが、同時に焦りが生まれる。
子供ができる。
確かにそういう行為を行ったと言えば行った。いや、それは男らしくない。
ルウェインは不誠実な男ではない。
もし、そうなれば、という責任感すらあるし、そうであったのならとさえ思うだろう。
だが、不安は焦りが呼んできたのだ。
「子供は嫌いなのだわ?」
メルヴィナの言葉にルウェインは頭を振る。
彼女を不安にさせてはならない。
己が抱いた不安など、彼女に感じさせてはならないと思ったのだ。
「いえ、まったく! ですが」
ルウェインは思う。
己の生まれを。
恵まれたものではなかった。
早くに戦死した父。蒸発した母。
それは幼いルウェインにとって、良い親、正しい親という価値観を奪い去るものであった。
故にルウェインは手本にすべき親の不在のまま大人になってしまったのだ。
そんな者に父親となる資格があるかと言われたら、ルウェインはないのではないかとさえ思えたのだ。
もっと言えば、よくわからない、というのが正しい。
「俺に子の親がができるかどうか……」
「不安なのだわ?」
「俺は、正しい親というものをあまり良く知りません」
「それが、その顔の理由なのだわ?」
メルヴィナはルウェインの頬を掌で包みこんだ。
その暖かさは、不安に曇ったルウェインの表情を解きほぐすようだった。
強張りを温めて、その不安を溶かすように。
「ルウェインなら大丈夫なのだわ」
なぜ、とルウェインは視線を持って問いかける。
どうしてそう言えるのか。
未来など不確定でしかない。
なのに、どうしてメルヴィナはそうも真っ直ぐに己を見て、そう言えるのか。不思議でならなかった。
「私を愛してくれたように、子も愛せるのだわ」
それは、どんな言葉よりも己の曇天を割るものだった。
例え、父と母とが揃っていたとしても、同じ気持ちになっただろう。だが、彼らの言葉では晴れぬ問題でもあった。
それをメルヴィナはたった一言で晴らしてしまったのだ。
「心強いお言葉です」
なんて素晴らしい女性なのだろう。
己には似合わない。
己には財力も家格もない。
甲斐性なしと謗られてもしかたない身分である。なのに、メルヴィナは、こんな己を信じてくれている。
それが誇らしいと思えるようになるには、まだ遠いかも知れない。
けれど、彼女の言葉が今、どんなにルウェインのわだかまりを打ち砕いたのか知れないだろう。ルウェインは、心底メルヴィナに惚れ直した。
今、ここが砂浜でなければ力強く抱きしめていたことだろう。
周囲にはメサイアもナイアルテもいる。
流石に耳目があるところでは、と自重せねばならない。ナイアルテは、「えー!? えー!? きゃー!!!」みたいな顔をしているが、無視しておこう。
「だから……その……」
だが、メルヴィナは違った。
彼女だけは、もじもじとしていた。
ふとももをすり合わせ、掌をすり、指先がいじいじと動いている。
目線は上目遣いにルウェインを見つめている。
心做しか、夕焼けに染まるよりも顔が赤いような気がしてならない。
「どうかされましたか?」
「この後、なにかすることはないのだわ?」
メルヴィナの言葉にルウェインは考える。
メサイアの強い要望でバーベキューは終わっているし、あとは送り届けるだけである。
他になにか?
抜け落ちたことがあるのだろうか?
だが、答えを待つようにメルヴィナの視線が熱を帯びていた。
じっとりとした視線。
ねっとりとルウェインの首元、鎖骨を見つめる彼女の吐き出す息さえも熱を帯びているように思えてならなかった。
ここまでくればルウェインも理解した。察してしまった。むしろ、これ以上は彼女に恥をかかせることになる。
ならば、とルウェインは無礼を承知で彼女の耳元に顔を近づけた。
吐息がかかれば、その熱帯びた耳朶を刺激することになるとわかっていてなお、だ。
「メルヴィナ……今夜、お時間を頂けないでしょうか?」
「どうするのだわ」
……これである。
自分に言わせるつもりなのだ。
わかっているのに。
己に言わせて、あくまで自分は受け身だったと言いたいのだ。
求めるのではなく、求められたいと思いたいのだ。
そういう男女の駆け引きめいたものが必要ないのに、駆け引きをしてみたいといういじらしさをルウェインは感じた。
ならば、ルウェインがすべきことは一つ。
己が全部悪いことのするのだ。
そうした情念を持ち合わせるのは、男女に差はない。
だが、世間一般的に見れば、そうしたものは男性のほうが強い、ということになっている。
であれば、だ。
メルヴィナが求めているのは、そういう甲斐性だ。
「つまり、えー、なんと申しますか……」
ああ、だが悲しいかな。
ルウェインは下手くそである。
こういう駆け引きが上手ではないのだ。だからこそ、言葉を選ぶばかりに、どうにも。
「……ご奉仕! ご奉仕に上がりたいのです! 今日は夏の日差しもございました! お疲れでしょう! マッサージを! そう、そのマッサージのご奉仕をと!」
「……もうちょっとムードのある言い方にしてほしいのだわ」
がっかりしたメルヴィナであった。
深い溜息がルウェインに降り注ぐ。
「申し訳ありません!」
謝罪するしかない。だが、メルヴィナは、ふ、と笑いを漏らした。
「でもいいのだわ。マッサージ、頼むのだわ、ルウェイン」
「ありがたき幸せ!」
「子供は三人くらいほしいのだわ」
その言葉にナイアルテは顔を真赤にしていた。
いや、本当に聞いちゃいけなかっただろうし、海に誘われたからってホイホイ付いてきた自分も悪いのだが、本当におじゃま虫じゃないのかな?! とナイアルテは思わずにいられなかった。
とんでもないことである。
しかもだ。
「頑張ります!」
がんばるの!? ぐ、具体的すぎません!? とナイアルテは赤面しっぱなしであった。そんな猛烈に求められるのは、女性として冥利に尽きるのかもしれないが、しかし、とナイアルテは、ボッシボッシと煙を頭から浮かべるばかりであった。
いい雰囲気なので、フェードアウトしようとナイアルテは離れる構えになっていた。
だが、その微妙によい空気をぶち壊す存在が、一人いた。
そう、ご存知メサイアである。
壊すことに定評のある皇女。
それがメサイアなのだ。
「お二人共何をお話しておりますの? お遊びする約束ですの? わたくしもお遊びいたしますわ~!」
「ち、違います、メサイアさん! えっと、ま、マッサージです!」
「わたくしもマッサージお願い致しますわ~! 砂浜を全力疾走しすぎて足がパンパンのパンなのですわ~!」
「ちょっ! メサイアさん……!」
「メサイアはだめなのだわ」
当然である。
メルヴィナの言葉にメサイアは瞳をうるませた。
メルヴィナはソフィアのようにガミガミ言わないし、怖くない。
だから、どちらかと言えばメルヴィナは姉として大好きであった。だが、そんなメルヴィナが駄目だという。
どうしてなのだろう。
悲しみが溢れ出して、涙となってこぼれる。
いや、そんな生易しい表現ではない。滝のようにおんおんと泣くメサイアにナイアルテは慌てた。
「わたくしだけお仲間外れですの……?」
「いえ、厳密に言えば、私もですから仲間外れではないですよ!?」
「ナイアルテ様も仲間外れ、わたくしも仲間外れ! とってもおかわいそうですわ~!」
びえんびえんと泣き出すメサイア。
しかし、メルヴィナも引けない。
というか、この状況で、じゃあどうぞ、とはならんのである。
どう考えても女性三人に男性一人。釣り合いが取れない。
いや、違う。
そういう問題ではない。
「これは遊びじゃないのだわ。私とルウェインの大切なことなのだわ」
うんうんそうですそうです、とナイアルテも頷いていた。
「メルヴィナお姉様と焼き肉の妖精さんばっかりおずるいですわ~!」
「焼き肉の妖精?」
ルウェインは首を傾げていた。
困惑していた。
なんだそれは、と思った。
だが、その様子にメサイアは焼き肉の妖精こと、ルウェインにすら爪弾きにされたと泣く。
「わたくし意地悪されましたわ~! ひどいですわ~! 焼き肉の妖精さんとメルヴィナお姉様が秘密の焼肉パーティをしているってみんなに言いふらしてやりますわ~!!」
それはそれでどうなんだ、と思ったがナイアルテはメサイアの背中と二人を見合わせて、決断した。
今日、この日に己がここにいたのは、このためだったのだと自覚したのだ。
「メサイアさんのことは、私にお任せください。その、お二人は……ええと、その……」
なんて言えばいいのか。
励んでくださいね、とでも? いや、それはまずい。なんていうか、気まずい。
出歯亀したい欲があると勘ぐられても仕方ない。
「お、お幸せに!」
ナイアルテはそう言うしかなかった。
そして、メサイアの背を追って、明日は全身が筋肉痛で動けないだろうな、と予感しながら、しかして二人の幸せを願って走り出すのだ。
そんな二人を見送るルウェインとメルヴィナは顔を見合わせた。
「……ルウェイン?」
「……メルヴィナ、俺は良い父親になれるかどうかはわからない。けれど、良い親になりたいとは思っています。ですから、どうか」
その言葉は偽りではない。
ルウェインはメルヴィナの手を自ら取った。
空には満天の星空。
二人を見ていたのは、星々だけ。
重なる影は、きっと夜に見える情熱の陽炎。
一度、二度では足りなくて。
きっと朝日に消える陽炎は、二人の記憶の中にしかない。
触れ合う体温があれば、夏の夜さえ熱帯夜に変えてしまうのだった――。
●暗躍
グリモア猟兵、ノインは『エルネイジェ王国』の王族御用達のプライベートビーチにいた。
「……で、まさかとは思いますが出歯亀ではないですよね?」
彼女の言葉に岩場の影が動く。
「ハッ、まさか。俺の狙いじゃあない。宛が外れたのは俺の方だ」
岩場から現れたのは黒髪を揺らした凶暴性を秘めた赤い瞳の男だった。
青年と呼んで差し支えのない年齢。
彼の名を知る者もいただろう。
「あなたのお名前は?」
ノインは知らなかった。
だからこそ、尋ねたのだろう。その様子に黒髪の凶暴なる青年は訝しむ表情をした。
「何を言っていやがる『ノイン』。お前の冗談は何一つ面白くねぇんだよ。大方、俺がまた必要に……いや、まて。お前、『誰』だ?」
「だから、初対面ですよ。私はあなたを知らない。あなたは私を知っているような口ぶりですが、覚えがありません。ですから、こう尋ねました。あなたのお名前は、と」
「……『フュンフツィヒ』。お前、『ノイン』じゃあないのか?」
「ノインですよ、私の名前は。ですが、ああ、私の名前を『欲した者』はいましたが……」
「……」
赤い瞳は警戒しているようだった。
『フュンフツィヒ』――それはかつて『黒騎士』と呼ばれた『インドラ』、そして『スカルモルド』と呼ばれたキャバリアを駆ったパイロットの名前である。
そして、『ギガス・ゴライア』すらも乗りこなしたパイロットでもあった。
彼がなぜ、この『エルネイジェ王国』……それも王族がの所有地であるセキュリティの固いプライベートビーチにやってきていたのか。
「あなたはあてが外れた、といいましたが、もしやあの王族の中に目当ての者がいなかった、とも取れる発言ですね?」
「……チッ」
「失言でしたね。であれば、あなたの狙いは……ああ、なるほど」
突きつけられた銃口が剣呑な輝きを放っているのをノインは見ただろう。
『フュンフツィヒ』はそれ以上言うな、と言わんばかりに睨めつけている。
「この国の習わしに乗っ取るのならば、得ようとするのではなく、奪う、のが良いのでは?」
「馬鹿にしてんのか。俺にできないとでも?」
「いいえ、助言です。あなたが欲しているのは、請い、願い、へりくだっても得られぬ者、でしょうから。なにせ、求めるのは……次期女皇――」
銃声が響いた。
ノインの背後の岩場に亀裂は知らせた銃弾。
彼女はたじろぐことなく肩をすくめた。
「気に食わねぇ女だ。『ノイン』とおんなじ顔をして、腹立つ物言いばかりしやがる」
「怒らせるつもりはなかったのですが」
「煽ってる時点で、そのつもりはなかったなんて言い訳にもなりゃしねぇ」
「そうですか。ですが、あなたもわかっているはずです。ええと、タイプG、でしたか。あなたは、『彼』を越えられますか? エルネイジェ・ドリームを掴むことができるでしょうか?」
「夢で終わらせるつもりなんてさらさらねぇんだよ。俺は、あいつを……手に入れる。。そのためなら」
なんだってする。
その言葉にノインは瞳を閉じて嘆息する。
瞼をあけた次の瞬間、そこに『フュンフツィヒ』の姿はなかった。
せっかちだ、とノインは思っただろう。
見上げる空は、夕暮れに近づいている。
夜の帳が落ちる頃合いだろう。
明けぬ夜がないように、解き明かされぬ謎もない。
であれば、とノインは静かに思う。
「夏は恋人たちの季節。であれば……無粋なことなど何一つない方がいい、そうですよね」
彼女はなんて訳知り顔にまま、此方に向かって泣き声が近づいてくるのに気がついた。
この声は確か、メサイアだろう。
やれやれ、と彼女はまた一つ息を吐き出して。
「仲間外れにされましたわ~! ひどいですわ~! え~んえ~ん!」
「そこの皇女殿下。こちらに」
そう言ってメサイアの眼の前に軽く投げつけたのは、薄い白い宝石。
「こ、これは!?」
「ストゼロの原石でございます」
もちろん、嘘である。
適当、ごまかし。
ノインは、そう笑ってメサイアを慰め、後方から駆けつけたナイアルテの息切れする姿に鍛錬が足りませんね、とまた一つ息を漏らしたのだった――。
成功
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