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海の襲撃阻むシャチの街

作者：寅杜柳

●その間隙を悪は狙う
　獣人戦線、欧州北部。
　ノルウェー南西部に少数種族であるシャチたちの街がある。
　南西のクロックワーク・ヴィクトリアが送り込んでくるオブリビオン達の攻勢を防ぎ、その上陸を阻んでいるこの地の海岸は防壁が築かれた堅守の街。
　それでもユーベルコードの攻撃を含んだ度重なる侵攻に所々防壁は崩されて、それを修理するイタチごっこが続いているが、ここ最近は超大国の攻勢も弱まって徐々に完全な状態に近づきつつあった。
　しかし弱い部分があるのならそこが残っている隙を突くのも兵法、防壁が完全修復される前のシャチの街を狙うオブリビオンが存在する。
　逢魔弾道弾を手にした悪しきシャチ獣人のエージェントは、海から静かに忍び寄らんとしていた。

　グリモアベース。
「夏の暑さも厳しいねえ……と、獣人戦線で起こる事件の予知が見えたからちょっと皆の力を貸してほしいんだ」
　お願いできるかな、と猟兵達に呼びかけるのはシャチのキマイラであるヴィクトル・サリヴァン（星見の術士・f06661）。

「事件の内容は世界各地に存在する特定種族が多く住む街が、幻朧帝国に狙われて逢魔弾道弾を起爆させられちゃうってものの一つだね。今回狙われてるのはノルウェー南西部にある少数種族のシャチが多く住む街、海からの超大国の侵略に防壁築いたり海戦得意な彼らが頑張って上陸を阻んだりしてるんだけど、今回は強いエージェントが単独犯で壊れた防壁からこっそり侵入してくるみたいで対応できずやられちゃう。どの辺りから侵入してくるかは詳細は見えなかったけど、起爆前に侵入しようとしてるエージェントを探し出して撃破して欲しい」
　そうヴィクトルは予知の概要を説明すると、街について詳細を語り始める。

「標的となったシャチの街は比較的距離の近いクロックワーク・ヴィクトリアの海からの攻撃を散発的に受けてるようで、上陸阻むために築かれた防壁も所々破壊されたりしてる。防壁修復を手伝ってシャチ獣人と交流しつつ、エージェントが侵入できる場所を減らせば発見しやすくなると思う。この街のシャチはサメぐらいに体が大きくて力も強いけど陸上の長時間作業はちょっと苦手っぽいからそこ補うのもいいかもね」
　そんな風にヴィクトルは説明し、次に破壊工作を仕掛けてくるオブリビオンについて語る。

「今回の幻朧帝国のエージェントは『海軍中佐・碓氷勇魚』ってシャチ獣人だ。戦場に極寒の海水を降らせて満たしたり海水を操ったり、強烈な音波で恐慌状態に陥らせたりしてくる。外見通り海戦が得意だから海に逃げ込まれると厄介かも。ただ、現地のシャチ獣人も海戦結構得意だから上手く協力できれば逃さないように援護してくれるかもしれないね」
　そう説明したヴィクトルは首にかけた｜鍵を《グリモア》を手にして、転送の準備を開始する。

「去年の6月位から世界各地で幻朧帝国が仕掛ける破壊工作の予知が引っかかり始めたけど、いまだその勢いは衰える様子もない。いつまでこの作戦が続くのかはわからないけど、大惨事はなんとしても阻止しないと駄目だよね」
　それじゃ頑張ろうか、とシャチキマイラのグリモア猟兵は話を締め括り、猟兵達を北欧のシャチ達の街へと転送したのだった。

第1章 日常 『復興作戦』

POW   :    大量の資材を運ぶ SPD   :    育ちの早い作物の畑を作る WIZ   :    子供達と遊んであげる イラスト：del 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●心に希望を灯すのは
　北欧の海辺の街、超大国の海からの攻撃を幾度も退けてきた防壁は所々破損し傷だらけの兵士を思わせる様相であった。
　補修しては破壊され、再度補修する。それを繰り返し続けてパッチワークのような状態となっているけれども、海から上陸してこようとするオブリビオンを退けるには大きな効果を発揮している。
　この街に多く住まうのはシャチ獣人、防壁で相手が足止めを受けている間に敵船へと泳ぎ渡って直接攻撃を仕掛けて沈没させるなどの海を利用した戦法は職人芸と言っても過言ではないだろう。
　ここ最近は超大国の侵攻の勢いも弱まっている。その好機を活かして間に合わせの脆弱な壁ではなくより頑丈な防壁へと改造しようとする機運が高まっており、破損個所のあちこちでシャチ獣人やこの街では少数派の他の獣人達が修復作業に当たっていた。

『皆大変そうだリン』
「こんな大きな資材も使うんですねー」
　八朔と熊を掛け合わせたようなマスコット『クマリン』、そして私服姿の熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）はそんなシャチの街を見渡して、感想を呟いた。
　シャチ獣人は体が大きな者が多く力仕事は得意なようだ。
「……でもすぐバテてるような？」
　だが悲しいかな、海での生活がメインのようで防壁修復の陸上作業の方ではあまりスタミナが続かないようだ。
　海の方を見遣れば防壁の近くの海中にも陣地を築いており、其方も合わせればそう簡単には防衛陣を突破される事はないようだが――いずれにせよ防壁修復の手伝いをした方がいいだろう。
　そんな訳で咲幸は破壊された防壁の瓦礫除去を手伝うと申し出て、一生懸命に作業を進めていく。
　傍目に見れば可憐な少女が細腕で力仕事を頑張っている光景、実際は類稀な怪力で小石を持ち上げるぐらいの感覚だったりもするのだが、一生懸命取り組んでいる事には間違いなく。
『あんな子供ばかりに頑張らせる訳にはいかないよな！』
『陸だろうが頑張るぞ！』
　へばっていたシャチ獣人達もそれを見て奮起、胸に希望の灯を灯されたかのように再度防壁再建作業に取り掛かっていく。
（『……咲幸ちゃんの怪力については黙ってたほうがいいかリン？』）
　咲幸の傍にいるクマリンは気合十分なシャチの様子をみてそんな風に考えたりもするが、知らぬが仏とも言うだろう。
　頑張るアイドルの少女とシャチ獣人達、その頑張りの結果として防壁は着々と再建・改造されていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●すねこすりのキャンプタイム
　同じ頃、少々離れた場所で破壊された防壁再建の作業をシャチ獣人が進めている所に琥珀色の毛並みの猟兵がやってきていた。
　彼女は犬獣人――ではなく、『すねこすり』という東方妖怪、名を山岡神・すねこ（自称・神聖なるすねこすりキャンパー・f38873）という。
「ワガハイも手伝うわん！」
『おお、ありがとうなお嬢ちゃん！　オレ達がちょいと苦手な陸の細かい作業とか手伝ってもらっていいか？』
　リーダーらしき壮年の軍帽を被ったシャチがそう言って、わかったワン！とすねこは元気よく返して補修の手伝いを開始する。
　なおすねこすりという妖怪は雨の降る夜道で人の足に纏わりついて歩行を邪魔する妖怪ともされるが、今回のお手伝いでは特にそんな事もなく補修現場をびゅんびゅん駆け回り、補修は見る見るうちに進んでいく。

『大分片付いたな。ちょっと休憩を入れようか』
　そう軍帽のシャチが告げれば、補修を行っていたシャチ達は各々休憩に入ろうとする。
　と、そこで。
「キャンプの準備はできてるわん！」
　すねこが明るい声でシャチ達に言って、近くにある広場へと誘導する。
　そこに準備されていたのはしっかりとしたキャンプ場のような道具や組まれたテント。
「ただただ働くだけじゃつまらにゃいだろうわんね」
　疲労が溜まれば作業効率も落ちてしまう。適度な休息も重要だからとキャンプ好きであるすねこは、持ち込んだキャンプグッズでこの広場に休憩の準備を整えていたのだ。
『こんな所でキャンプできるとはな』
『何か金色に光ってる……おお、火力凄い』
　どことなく神聖な雰囲気を感じる天使核が組み込まれたキャンプグッズですねこがシャチ達にコーヒーを淹れたりしつつ、シャチ達の休憩をより安らげる時間へと変えていく。
　シャチ達でも十分休めるように大きく組んだテントの下、想像だにしていなかっただろうゆったりとしたキャンプの時間を楽しみつつ、緊張を和らげ世間話で盛り上がっていくシャチ達とすねこ。
　すねこすり流のキャンプでしっかり疲れを取りつつ、シャチ獣人とすねこは元気いっぱいになって再び楽しく復興・修復へと取り掛かるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

第2章 ボス戦 『海軍中佐・碓氷勇魚』

POW   :    還らじの海 戦場が【味方不在で周囲にいるのが敵対者だけ 】の場合のみ発動可能。【莫大な北極海の海水を召喚、従属させる海王】形態に変身し、推進力・探知力・隠密力・破壊力が5倍になる。 SPD   :    攻性反響定位 【頭部のメロン体 】から大音量を放ち、聞こえる範囲の敵全員を【座標と形状を把握した上で恐慌】状態にする。敵や反響物が多い程、威力が上昇する。 WIZ   :    降り止まぬ雨よ、戦地を満たせ 【極寒の空気と共に熱を奪う北極の海水の雨 】を降らせる事で、戦場全体が【凍てつくような水温の深海】と同じ環境に変化する。［凍てつくような水温の深海］に適応した者の行動成功率が上昇する。 イラスト：うぶき 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●シャチの街を守れ
　築かれた防壁に波が押し寄せぶつかって砕けていく。
　破壊されていない、あるいは修復が完了している防壁は断崖絶壁の崖のように海から侵入しようとする者を拒み退ける防衛の要だ。
　所々ツギハギで修復されているから強度の差はあるが、修復されている場所から突破するのは強力な海棲の種族でも難しいだろう。
　故に幻朧帝国のエージェントが狙うのは修復が完了していない場所、予め海岸より離れた位置から双眼鏡で偵察していたオブリビオンのシャチ獣人『海軍中佐・碓氷勇魚』は、潜入に適した場所にいくつか目星を付けていた。
　しかし、
『……想定より修復が早いな』
　攻勢が弱まり修復に専念しているからか、想定以上の速度で防壁の修復は進んでいる。陸上の防壁でそれなら、この街の住人の大半を占めるシャチ達なら水中の防衛整備はもっと早いだろう。
　急がねばと水に潜り泳ぐ勇魚、急ピッチで修復は進んでいるが、まだ修復が終わっていない箇所が存在している。
　その箇所から静かに忍び込み、瓦礫などが少なく妙に綺麗な道を水滴を滴らせながら急ぎ通り過ぎて、そしてキャンプ等にも丁度良さそうな広場へと差し掛かったその時。
『やっぱり来たぞ！』
『囲め囲め！　オレ達の街を壊しに来やがった悪党だ！』
　響く声、同時に勇魚の周囲を武装したシャチ獣人達が取り囲む。
『誘い込まれたか！？』
　僅かに動揺するオブリビオン、復興の手伝いに訪れた猟兵達にエージェントの襲来の情報を聞いていたこの街の住人は、猟兵と共にエージェントを打倒することを選択したのだ。
　わざと防壁の一部を完全には修復せず敵が侵入しやすい経路を用意し、戦いに備え準備した場所で叩くという作戦。既に敵の撤退経路は街の住民のシャチに塞がれて逃走は困難、それでもオブリビオンは冷静さをすぐに取り戻し銛を構え、シャチ獣人達と猟兵達へと構えた。
　周囲は戦闘に支障のない広さ、元々あった物を片付けておいたこの場所なら、多少暴れても問題はないだろう。
　シャチの街を守る――そのための戦いの火蓋が落とされた。




●羆と狼と鯱
　この街のシャチ獣人の兵士達に包囲された幻朧帝国のエージェント『海軍中佐・碓氷勇魚』は即座にユーベルコードを発動、頭部のメロン体から大音量を放つ。
　周囲の敵の座標と形状を音の反響で把握しつつ恐慌に陥れ突破口を見出す力――よろめく巨体のシャチ獣人達を感知し、そしてその中に二人小さな形を把握する。
「この街を好きにはさせません！」
　決意を込めて叫ぶ熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）が、キラキラエフェクトを周囲に放ち音響攻撃を弾きつつ、可愛らしいコンパクトーー変身アイテムを手にし、力を籠めてこじ開ける。
　するとエフェクトが華やかに彼女の周囲を飛び回り、あっという間にアイドル衣装へと変身する。
　そして闇色の狼型UDC『ツキ』を従えしシン・クレスケンス（真理を探求する眼・f09866）は恐慌に陥りかけているシャチ獣人達を宥め庇うように彼らの前に立ち、美しい白銀の自動詠唱銃『judicium』を構えて牽制の銃弾を撃ち込む。
　エージェントは手にした銛で銃弾を防ぎつつ再び攻性反響定位を猟兵達に叩き込もうとするが、銃弾からワンテンポズラして飛び込んできたツキに阻まれる。
　闇色の鋭い爪牙は大柄なシャチ獣人でもまともに喰らうのはまずいという判断だろう。だが、そこで咲幸のマスコットである八朔の熊妖精――はっさくまの『フラクトクマリン』が前に飛び出して、
『咲幸ちゃん、ここは僕に任せるリン！』
「わかった、クマリンお願い！」
　頼もしいクマリンの低音ボイスに咲幸が【クマリン・モードチェンジ】のユーベルコードを起動すれば、八朔と熊を掛け合わせたような印象はそのままに、巨大なヒグマのようなガチバトル形態へと変化する。
　戦闘力を増強し、巨体のシャチのオブリビオンと並ぶ体格となったクマリンは獰猛に吼えて勇魚へと襲い掛かる。
　がっぷり四つに組み合い押し合う両者、ユーベルコードの相性からややクマリンが劣勢か。
　だが、
「隙だらけですよ」
　そこにシンの詠唱銃による【援護射撃】のユーベルコード、勇魚の足が撃ち抜かれて一瞬力が緩み、そこにツキの前脚の爪とクマリンの本物のヒグマの如き剛腕が振るわれ、エージェントを殴り飛ばし引き裂いた。
　黒い表皮に覆われたエージェントの腕が爪に引き裂かれて血に染まり、しかしエージェントは距離が離れた瞬間大音量の反響定位を放ちクマリンとツキの追撃を妨害する。
　有効な攻撃を叩き込むことはできたが、どうやらまだまだ余力はあるようだ。
　咲幸とシンは戻ってきた元の姿に戻ったはっさくま、そして闇色の狼と共に再び構え直し、次の攻撃を開始するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●鯱に山羊の一撃を
　襲撃を仕掛けてきたシャチ獣人のオブリビオンと激戦を繰り広げる猟兵達と、この獣人戦線の街のシャチ獣人達。
　援護射撃により行動を妨害され苛立ちを隠せぬオブリビオンは銛を掲げて、
『くっ……降り止まぬ雨よ！』
　そう空に叫べば、極寒の空気と海水の雨が突如空から降り注ぎ始める。それはユーベルコードの極寒の海水の雨、滝のように振り続け海へと流れ出すこともなく戦場に留まり、周囲の建物を水没させる程の勢いで水位を上げていく。
　防壁の上、まだ水没していない高さの場所からシャチの兵士が銃で支援攻撃、しかしオブリビオンはこの環境に慣れているようで中々命中させることはできない。
　そんな時、
「邪魔するぜ」
　突如足元から聞こえた声に、シャチの兵士が足元を見下ろせば、妖精階梯の黒山羊の子供の姿にも似た赤目のゴスゴート・クラリス（ゴスゴートのストリートファイター・f45431）がそこにはいた。
　ストリート風のファッションで角まで飾っている彼女はこの獣人戦線のヤギ獣人ではない。バトルモンスターワールドよりやってきたかしこいバトモンで、種族を『ゴスゴート』という。
　種族的には呪いを操り敵対者を金縛りにかけることを得意とするが、クラリスは呪いよりも直接殴る蹴るの格闘を信じている。
　つまり、
「よし、殴ってくる」
『待て待て、この冷たい海に飛び込んで近づこうってのか！？』
　戦意十分、ぶんぶん腕を振り回し今にも殴りかかりに行こうとするクラリスを、慌ててシャチの兵士が制止する。
　敵は大体水中に潜っていており、完全な水中戦ともなると普通の陸の生物であるクラリスには少々分が悪いだろう。水上での戦いなら『アクアクル』に乗って対抗もできるかもしれないが。
『……近づきたいなら俺が手伝おうか？　ここから撃ってるだけじゃ多分効果は薄いし、叩き込んでくれるなら頼みたい』
「うん、お願いする」
　そのシャチの援護の申し出をクラリスはやや片言気味に受け入れて、大きなシャチ獣人の背に乗って極寒の海水へと飛び込んでいく。
（「……冷たくない？」）
「一応魔法で近くに泡のバリアを作ってる。俺はどうにかなるが、猟兵さんは多分しんどいだろう」
　よく見れば薄い膜がシャチ獣人の周囲を囲んでいて、防寒だけでなく呼吸も問題ないようだ。これならば問題ない、とクラリスはシャチ獣人の背鰭を掴み共に移動しつつ、独特なバトモンバトルの構えと呼吸法を開始する。
　彼女の【オリジナル・スタイル】のユーベルコードはその継続時間に応じ様々な能力を高める力。移動を友軍のシャチに任せつつ、強大なオブリビオンとの能力差を埋める為にクラリスは集中し研ぎ澄ませていく。
　飛び込んでくるゴスゴートとシャチの兵士に対し、冷たい海水環境を得意とし自在に泳ぐ勇魚は容赦なく銛で貫き迎撃しようとする。
　尾の推進力で迎え撃つよう高速で迫り、そしてその銛を突き出そうとしたその瞬間、ほんの一瞬だけ勇魚の動きが硬直する。
　彼をじっと見つめる大きな赤い瞳、ゴスゴートの呪いの眼差しによる金縛りだ。
　その金縛りはすぐに解けて勇魚は軌道修正しながら刺突を放つが、その一瞬を見極めたクラリスはシャチの兵士の背を蹴って刺突を回避、そしてメリケンサックを握り込んだ拳を振りかぶり――勇魚の頭部を全力で殴り抜く！
『ぐっ……やってくれたな……！』
　やわらかいメロン体の位置に痛烈な一撃を受けた勇魚は怒気を露わにしつつ、体勢を立て直すため頭を手で抑えながらクラリス達から離れていく。
　クラリスの方は再び合流してきたシャチの兵士の背に乗せられて、
「逃さん。追いかけてくれ」
『了解！』
　悪しきオブリビオンへと追撃を仕掛けるべく、シャチの兵士の背を借りて追撃を開始するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●冷気吹き飛ばす爆発と熱唱
　黒山羊のようなかしこいバトモンが10倍近くも身長差のあるシャチの軍人を殴り飛ばし、極寒の空気と海水に戦場が満たされていく中で戦いは終盤に差し掛かろうとしていた。
「あたしに任せて」
　そうシャチの兵士達に告げながらこの戦場へとやってきたのはヤドリガミの田中・香織（ヒーローに憧れた人形・f14804）。そして、
「あたしも駆けつけてきたのよさ！」
　寒さにぶるりと震えつつ、リボンと星の特徴的なアイドルコーデの轟・やゆよ（あにそん伝道師・f06396）の熱い声が戦場に響く。
『……こんな所で死ぬ訳にはいかないのでね』
　呟いたシャチのオブリビオンが起動するのは【還らじの海】、莫大な北極海の海水が召喚され、それを従える海王形態へとオブリビオンの姿が変わっていく。
　既に召喚された北極海の海水と共に莫大な極寒の海水を操る勇魚、大津波がシャチの兵士達を呑み込むと同時に二人の猟兵を呑み込まんと襲い掛かる。
　香織はその津波に紛れる形で勇魚が迫っているのを察知、アームドフォートからの砲撃を津波に向けて放つ。
　彼女の得意戦法は真っ向からの火力のゴリ押し、目的を達成するための極めてシンプルな思考で放たれた砲弾は津波に衝突し炸裂、水を吹きとばし隠れていた勇魚の体を曝け出させると同時、ユーベルコードを起動する。
「これでも笑っていられるかしら？」
　次にアームドフォートから放ったのは催涙ガス弾、海水を貫き海王に直撃した砲弾が撒き散らすガスは、シャチのオブリビオンの目から涙を溢れ出させ行動を妨害する。
　そしてその動きの硬直をやゆよが見逃さず、紫のインカムのスイッチを入れてユーベルコード【ダイナマイト‪☆ソング！】を起動する。
「熱いアイドルってのもアリだわさ！」
　バックミュージックを流しながら熱いアニソンを歌い上げるやゆよ、その歌声に射抜かれたエージェントの巨体が灼熱の爆発に呑み込まれた。
　灼熱の爆発で攻撃するその力は同時に、味方には希望を与える癒しの爆発でもある。エージェントの攻撃で傷つけられたシャチの兵士達の傷は見る見るうちに塞がっていく。
　――しかし彼らがこれ以上戦う必要はなさそうだ。
　灼熱の爆発は残っていたオブリビオンの体力を根こそぎ削り取り、それを示すかのように戦場を満たしていた冷気と海水は消失していき、後には僅かな戦闘の痕跡が残るばかり。
　一先ずこのシャチの街が守られた事に安堵し、もう一曲熱いアニソンをやゆよが歌い始めて兵士達は歓声を上げて合わせて歌い始める。

　こうしてまた一つ、幻朧帝国の破壊工作を阻止した猟兵達は、次なる戦いに備えグリモアベースへと帰還したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2025年08月19日