Plamotion Flying Race
●君が作って、君が笑む
プールサイド。
それは夏の日差しが似合う場所であった。
此処はアスリートアース。
超人アスリートたちひしめく夏のプールである。
まるで滝のようなジェットスライダー。激流のごとき水流プール。蟻地獄のような渦巻き。
様々な超人アスリートでなければどうしようもないような個性的なプールが存在する、そのプールサイドに立てられたパラソルの下に薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)はいた。
陽射しを遮るパラソルの影。
その下で彼女が行っているのは、まさかのプラスチックホビーの組み立てであった。
「……どうかしら?」
彼女は隣に座っていた少女、『アイン』に組み立てたプラスチックホビーを見せる。
「いいじゃん! かっけぇ!」
「そう。そうね、かっけぇ、ものね」
満足気に彼女は頷いた。
手にしていたのは、流線型のボディを持つロボットホビーであった。
彼女は『五月雨模型店』にて、このプラスチックホビーを購入していた。
無論、こうして超人プールにて未公式競技である『プラクト』のレースに参加するためである。
いつものプラスチックホビーを使用してもいいかもしれないが、せっかくだからと彼女は『五月雨模型店』で物色していた。
その折に『アイン』と呼ばれた少女と出会ったのだ。
「静漓ねーちゃん、プール行くの!? なら、私も!!」
というわけである。
「それにしてもなんでこれ?」
「トビウオ型ってかいてあったし、強く惹かれたの。羽根のある魚なんて不思議」
「でも、これ敵側だぜ?」
「……あら。そうだったの……でも、いいわ」
「かっけぇから?」
「そう、かっけぇから」
静漓は薄く笑み、頷いた。
そう、かっけぇから。単純な理由だが、それが最も正しいように思えたのだ。
「それにしても静漓ねーちゃんとは去年の夏もそうだったけど……」
『アイン』は静漓の姿をまじまじと眺めた。
プールサイド。
つまり、ここは水着であって然るべき場所なのだ。となれば、当然、静漓も水着姿である。
『アイン』は自分が彼女と同性でよかった、と心底思ったかも知れない。
なぜなら、彼女の眼の前にいる静漓は有り体に言って、美女である。
それもとんでもないレベルの。
儚げでありながら、どこか芯を持った美しい大人の女性。
未だ小学生である『アイン』からすれば、憧れでしかない。そんな女性が、今水着姿で隣りにいるのだ。
同性であっても胸が高鳴るのは、仕方のないことなのだ。
白いビキニスタイル。
蝶をデザインした装飾が彼女のなだらかな腰に配され、豊かな胸が描く谷間にも羽撃く。
それはどうしたって彼女の魅力的な体を強調するものであり、視線を惹きつけるものであったのだ。
まるで天女。
そう思うのも無理なからぬ彼女の姿に『アイン』は、ドキドキしっぱなしだった。
「……――イン……『アイン』」
「んえっ!?」
「聞いている?」
「え、何が!? 見てるけど、ちゃんと!?」
慌てて『アイン』は頭を振る。
静漓に見惚れていたのだ。全然聞いてなかった。
「この子、作中ではどう戦ったのかしら?」
静漓は己が作り上げたプラスチックホビー、『ウォリタンス』に興味津々だというように人型にヒレと羽のようなスラスターを装備した機体の詳細を知りたいと『アイン』の顔を覗き込んでいた。
その美麗な顔が近づけば、『アイン』は益々照れてしまう。
「あ、ああ!『ウォリタンス』ね! 量産型で、ええっと、その、集団戦法が得意な機体なんだよ。まるで飛ぶみたいに水中から水上に飛び出すヒット・アンド・アウェイな戦い方が特徴的でさ!」
「すごい早口」
「え!? そ、そう!? い、いーじゃん! だって『憂国学徒兵』シリーズでも、水泳部って言って人気なんだし……!」
「そうなの?」
「そうなの! な、なあ! 静漓ねーちゃん、折角作ったんだし、レースコース行こうぜ!」
静漓の手を掴んで『アイン』は走り出す。
そう、今日このプールにやってきたのは、『プラクト』によるレースを行うためだ。
もちろん、『アイン』だって静漓とおそろいの『ウォリタンス』を用意している。
「バディ・レースだってあるんだし、一緒に参加しようぜ!」
「バディ……相棒ってこと?」
「そういうこと! 協力して難所コースを進むんだぜ!」
「それは……楽しそうね」
だろー? と『アイン』は笑っている。
静漓は、きっと笑みを浮かべている自分を知るだろう。
向こうからは同じく『五月雨模型店』のメンバーたちが手を振っている。
同じようにレースに参加するつもりなのだろう。
水飛沫が飛ぶプールサイド。
笑い声が静漓の耳を打つ。
穏やかで、賑やか。
そんな中心に自分がいることを静漓はまだ信じられないかもしれない。
けれど、この夏のひとときは、しあわせなゆめで終わらない。
「静漓ねーちゃん!」
呼ぶ声に静漓は、やはり笑むのだった――。
成功
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