Plamotion Splash Race
●君が作って、君が走る
「夏と言ったら……これ!」
燦々と降りしきる夏の日差し。
青空の澄み渡る中、雲南・盈江(メリュジーヌのパラディオン・f45388)が眩しさを覚えたのは、雲南・紅河(タイタニアの心霊治療士・f45360)の水着姿だった。
自分とは対照的な色白の肌。
そのコントラストを生み出していたのは、黒い水着。
フリルが揺れて、タイタニアである彼女の蝶の翅を思わせるようなリボンの装飾が妖艶さと可愛らしさを両立させているように思えてならなかった。
メリュジーヌたる種族の下肢たる胴を思わず彼は唸らせるようにうねらせた。
「これ、と言われても……これが紅河の言っていた……ええと、なんでしたっけ?」
「『プラクト』だよ。正式には『プラモーション・アクト』と言う」
彼女が手にしたプラスチックホビー。
それは彼女を模した美少女プラモデルと分類されるものだった。
盈江は彼女の趣味というものをよく理解している。
どうして、ここ――アスリートアースにやってきているのかと言われたら、自分がポロリと漏らした『プラクトとはなにか』という言葉に対して紅河が『百聞は一見にしかず』と娘たち共々連れ立って世界をまたいでしまったのだ。
なんていうか剛腕である。
そういう他者をぐいぐい引っ張っていくところも紅河らしくて惚れ惚れするな、と盈江は思ったかも知れない。
「でも、これは自分で作らなくてはならないんでしょう? じ、自分にできますでしょうか」
プラスチックホビーというものは、たいてい小さな部品で組み上げられているものだ。
盈江はそうしたものを自分の手で作り上げる、ということに不安を覚えているのだろう。
わからなくもない、と紅河は思った。
自分もそうであった。いや、そうでもなかった。
なにせ、美少女プラモデルの可憐さと言ったらなかったからだ。これを自分で完成させたい。我が物にしたい。その欲求だけで組み上げてしまえたのだ。
そういう意味では『プラクトとはなにか』という疑問を端に発した盈江のモチベーションというものは、パーツの細かさに尻込みしてしまうのもっ無理なからぬことのように思えたからだ。
「できるさ。確かに自分の作りたいものを作るのが1番いいだろうさ。けれど、状況に合わせて使うパーツを選んだり、改造したりする。そういう戦略性を楽しむのも、一つの楽しみ方じゃあないかい?」
「それは、そうかもです……でも、やっぱりどれにしたらいいかわからなくって」
「そういうと思って、盈江。これを」
そう言って紅河が手渡したのは水上バイクに変形するロボ型美少女プラモデルであった。
昨今の美少女プラモデル界隈は、その嗜好の幅広さから多種多様なモデルが販売されている。
一口に美少女プラモデルと言えないほどに様々な形態が存在しているのだ。
「こ、これが……?」
「そう、レースコースに参加するのならば、こういうものがいいだろうと思ってね。おや、存外上手いじゃあないか、さすがは盈江だね」
「へ、へへ、そうですか?」
「うん、大したものだ。サクッと組み上げられてしまった。どうだい、ひとつ私の『マーメイド』と競争をしてみないかい?」
「競争? レースってことですか?」
「そうだ。そうだな……ただどちらが速いかを決めるかだと面白みにかけるだろう。なら、勝ったほうが負けた方になんでもお願いできる、なんていうのはどうだい?」
それは、と思ったが盈江は水を差すと理解していた。
そもそも、紅河が一度言い出したら聞かないこともわかっていた。
であれば、だ。
「の、望むところですます!」
「そうこなくっちゃあね!」
さあ、と姉妹たちの声援を受けて、組み上げた『マーメイド』と『バイクロボ少女』が水流コースにて飛び込む。
「こういう時は、『レッツ・アクト』と言うんだよ!」
「れ、れ? え、『レッツ・アクト』?」
その言葉と共に夫婦対抗レースが始まる。
水の流れをかき分けて進む『マーメイド』と『バイクロボ少女』。
切り裂いた水が飛沫となって舞う中、二つのプラスチックホビーが太陽の日差しを受けて煌めく。
姉妹たちの声援が響く中、笑い声が響く。
「紅河がハマるのも、わかるなぁ……」
「そうだろう? 楽しいだろう!」
純粋な速さ勝負。
コーナリングで差をつける『マーメイド』。
ストレートで引き離す『バイクロボ少女』。
その一進一退のレース運びは、夫婦と言えど一歩も譲らぬデッドヒートであった。
姉妹たちはどちらも応援するしかない。
けれど、作りの差か、加速した『バイクロボ少女』のパーツが外れてしまい、バランスを崩した所を『マーメイド』が一気に抜き去りゴールテープを切った。
ギリギリと言えばギリギリの勝利。
紅河は笑む。
その口面の奥にある表情に盈江は、一体どんな瀟洒の特権を告げるのか、怖くもありつつ、どこか胸を高鳴らせる夏の一幕となるのだった――。
成功
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