揺蕩う中にも祭事あり
●誕生日
「ぱんぱかぱーん!」
それは盛大に馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の屋敷に響いた声であり、音であった。
夏の日。
それは暑さを友にする季節。
そんな真っ只中にあって、必要なものはなにか。求めるものはなにか。
言うまでもない、涼である。
暑さには涼。
これは人間の歴史が始まって以来、当然のように求められるものであった。
そして、それは何も人間に限った話ではない。
動物だって植物だって、生きとし生けるもの全ては涼を求める。
そういうものだ。
だが、幽霊はどうだろうか?
幽霊の理、というものを理解する者あれば、涼を求めるまでもなし、と言うかも知れない。
そもそも、だ。
「誕生日おめでとうございます」
「ぷきゅ~!」
「クエッ!」
「にゃ~」
四者四様の祝う言葉。
そう、今日はこの屋敷に住み着いた幽霊『夏夢』の誕生日であった。
いや、死んでいるのに、幽霊なのに誕生日とは? と思わないでもなかった。
「あの、たんじょう、び?」
「ええ、わからないでもないですが、そうです。確かに私達も含め生まれたからには死せる運命。死んだ後に誕生日を、というのは可笑しいかもしれませんが」
「ぷきゅ~!」
そんなのいい! とばかりに『陰海月』がアイスケーキにロウソクの代わりに立てた「2」と形作られたクッキーと共にやってくる。
そう、死んでいるからって、幽霊であるからって誕生日を祝ってはいけないなんて理由はない。
それに、今日は『夏夢』と出会った日なのだ。
であれば、それが『夏夢』にとっての新たなる誕生日なのだ。
「にゃ~」
『玉福』もまた、今日くらいならと言わんばかりに『夏夢』にすり寄ってくる。
「ね、お猫さま吸いをしても!? 良いと!?」
まあ、いいよ、とばかりに『玉福』が頷く。
それを見やりながら、義透たちはアイスケーキを切り分ける。
ふぅーっと息を吹きかけてロウソクの火を消すことはできないけれど。
「ふぅ~!」
勢いよく『夏夢』が息をアイスケーキに吹きかけると、一気に室内の気温が下がる。
これもまた霊障の一種なのだろう。
冷房よりもキンッキンに冷えた室内にて、『夏夢』以外の全員が震え上がる。
「あ、わ、すみません~!」
それは夏の日の賑やかな一幕。
誕生日という記念日。
そして、ささやか……ではない冷気めいた涼が屋敷内に吹き荒れた喜びの日となったのだった――。
成功
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