とんだストルティオ・カメリュス
●世界最大
見渡す限りの大平原。
豊かな牧草が鮮やかな色を放っている。
太陽の光は刺すようであった。
しかし、そこは薬草採取クエストや野生動物を狩る食材採取クエストのエリアとしてゴッドゲームオンラインにおいて初心者向けクエストエリアであった。
現実であれば、猛獣や過酷な環境などが生命に襲い来る。
しかし、仮想現実であるゴッドゲームオンラインでは、その心配は皆無と言っていい。
だからこそ、ここでモンスターとエンカウントせずとも狩猟や採取といった体験ができるのだ。
時には行商人を狙う盗賊たちも出没するし、密猟ハンターに扮したNPCを退治するクエストにも発展することだろう。
ある意味で平和であった。
しかしだ。
いくら生命の危険がないエリアと言えど、スリルは味わうことができる。
加えて言えば、野生動物を飼い馴らせばライドアイテムとしてエリアの移動に役立てることもできるだろう。
だが。
「ひぇぇぇえええええ!?」
ある意味で平和なエリアに響き渡るのは、悲鳴だった。
黄色い悲鳴。
ではない。単純に慌てふためいた女性の声であった。
銀髪が棚引く。
白い角は雄々しく、けれど、彼女が身にまとったドレスは美しっく繊細であった。具体的には、すごくけしからん純白の姫ドレスである。
とんでもないけしからんさである。
具体的に言えば、すごいセクシーである。
あれは誰だ? どこの迷宮ダンジョンの主だ?
ミノア・ラビリンスドラゴン(ポンコツ素寒貧ドラゴン令嬢・f41838)である。
彼女は、けしからん姫ドレスを揺らしながら、これまたものすごい速度で平原を駆け抜けていた。
「なんで、なんでですの~!?」
悲鳴が置き去りにされている。
それほどの速度なのだ。
身に纏うのは純白のドラゴンオーラ。|聖剣士《グラファイトフェンサー》としての側面が強い二刀流モードだ。
彼女は、日課のラビリンスサーバー、迷宮城近くのとある平原エリアの巡回に勤しんでいた。
基本的に採取や狩猟クエストが行われる初心者でも安心なエリアである。
とは言え、行商人NPCの護衛クエストも行われる場所でもあるのだ。街道にバグが発生していないかを管理するのも彼女の仕事なのだ。
バグプロトコルがいつ発生するのかもわからないのであれば、やはり日々マメに行わねばならない仕事なのだ。
それ自体は褒められるべきことであっただろう。
無論、問題はなかった。
薬草の群生地に問題はなかった。
狼の縄張りも問題なかった。
個体数の増減も見受けられなかったが、毒消し草の生育が少しばかり悪いと思ったくらいだが、これも許容範囲内だ。
だが、問題が起こっていた。
今まさに彼女を追いかけている影である。
巨体であることが彼女に背に落ちる影でわかるだろう。
彼女の管理する平原エリアには、大型モンスターである恐竜型モンスターが存在している。
ティラノサウルス。
トリケラトプス。
まあ、代表どころと言えばこれだろう。
そして、ダチョウである。
「なんで、ダチョウがおりますの~!?」
ミノア混乱していた。
彼女がこれまで管理していたサーバーに、そんなデータはなかった。
なのに、何故?
簡単な話である。
ゲームプレイヤーたちの仕業だ。
彼らはゲーム世界に現実世界のエッセンスを取り込んでいく。そのデータがミノアの管理するサーバーにまで及んでいたのだろう。
彼女がダチョウをみた驚愕の声に反応して追いかけ回されたのが事の始まりだ。
しかし、ミノアは高を括っていた。
なにせ、これまで存在していたのは恐竜たちである。
今更、世界最大の鳥とは言え、ダチョウ如き……。
4.8トン。
この数字が何を示しているかおわかりだろうか?
これはダチョウが飛べない鳥でありながら、今の今まで生き残れてきた理由である。
ダチョウの蹴り足は頑丈で発達している。
そのキック力の圧力が4.8トンなのだ。
奔る速度は最大で80kmに及ぶ。
加えて持久力もあるのだ。
これがゴッドゲームオンラインにエッセンスとして加えれた場合のデータはどうなるかなど言うまでもない。
「バチクソ速ぇーですわ~!? なんなんですの、あれ!? ラクダみたいな円な瞳してるのに~!?」
「ボーボー!!」
低い声で鳴く声がさらにミノアを恐怖させる。
せっかく、巡回をユーベルコードで短縮したはずなのに、彼女はダチョウに追いかけ回されていつもより長く時間を浪費することになるのだ。
「ま、まだ追いかけてきますの~!?」
何がそこまでダチョウにさせるのか。
さっぱりわからないミノア。
けれど、彼女の美しい姿に求愛していたのかもしれない。わからんでもない。
なんとかミノアはダチョウを振り切って城の玉座にしなだれかかる。
「くったくたになりましたわ~……」
汗だくの純白姫は、げんなりしたように深く深く息を吐き出すのだった――。
成功
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