とんだスクワンダリング・ストロール
●アーティフィシャル・インテリジェンス
銀髪が風に遊ぶように揺れる。
絶世の美貌。
そう評されるミノア・ラビリンスドラゴン(ポンコツ素寒貧ドラゴン令嬢・f41838)の姿はドラゴンプロトコルとしての性能を遺憾なく発揮していた。
だが、その性能に相応しい美貌とは裏腹に彼女の懐事情というものは、いつだって素寒貧であった。
それもこれも、迷宮の開発費……もとい、運営費が底をついているせいだ。
彼女自身が迷宮のボスである。
だがしかし、誰も彼女の迷宮イベントを攻略しに来ないのだ。
何故か。
『ミノアの迷宮城』――それは膨大なギミックが開発され、維持されている特大級の迷宮である。
膨大なリソース、尋常ならざるスペック。
それれがあって成り立つイベント迷宮。
であるのに、どうして挑戦者がいないのか。
ミノアにはわからない。
ちゃんと試作ダンジョンだって作った。完走者だっていたのだ。
落とし穴、吊り天井、地雷、足元から槍衾、吹き矢、ギロチンカッター、鉄球転がし、不条理な爆発、突風などなど。
盛りだくさんだった。
水着コンテストプールだって作ったし、かぼちゃ迷宮だって作った。
なのに!
どうしてか誰もやってこないのだ。
当然、迷宮というのは挑戦者がいて初めてトリリオンが回る。
挑戦者なくば、トリリオンは消費されるばかりなのだ。収支がまったく合わない。つまり、損ばかりしているのだ。
故にミノアは他のドラゴンプロトコルが管理するサーバーへと趣き、見聞を広めると同時に道中でバグプロトコルをしばき倒しつつ、得たトリリオンやドロップアイテムを手にプレイヤーズ・バザーへとやってきていた。
「ここが、噂のプレイヤーズ・バザーですわね? プレイヤーさんたちがたくさんいて活気づいていますわね」
自分の迷宮とは雲泥の差である。
悲しくなってくる。
だが、ミノアは泣かない。
ここから一つでも多くのエッセンスならぬアイデアを持ち帰って、己の迷宮に反映するのだ。
彼女は胸元の大きく開いた……いや、着崩した浴衣の裾を揺らして市場を歩む。
どれもこれも物珍しいものばかりだ。
だが、彼女が得たドロップアイテムだって大したものである。
「兎にも角にも、一先ずは、ドロップアイテムを換金しなくてはなりませんわ……」
路銀も心もとない。
すると、遠くから威勢のよい声が聞こえる。
声高く数字を叫ぶプレイヤーたちの姿。
「あら、なんでしょう、あれは……?」
近づいていくと、どうやらオークションらしい。
市場であるから、多くのアイテムが集うが故の試みなのだろう。
「一体何が出品されているのかしら……」
ミノアは興味が湧いて顔をのぞかせる。
あらちょっと失礼、とばかりにオークションの見物客達をかき分けてミノアはオークションにかけられているアイテムを一目見てやろうと人だかりから頭一つ突き出した。
「120万!」
「おっと、120万でました!」
「150万!!」
白熱するオークション。
トリリオンの額の大きさにミノアは驚いた。だが、もっと驚いたのは。
「あ、あれは!! 超高品質で有名なクラフト専門クラン『MURAMASA』の刀!?」
しかも、ミノアの鑑定スキルからして、あれは本物である。
もっと言えば、クランの長である『村正』の|銘《サイン》とシリアルが打刻された限定品である。
目が飛び出そうになった。顎が外れそうになった。
それだけの掘り出し品なのだ。
「あ、あわわわ、ですわ! これは見ている場合じゃありませんことよ!!」
「200万でました! 他には!」
「500万ですわ!!」
どよ、とオークションを見物していた人々がどよめく。
今まで刻まれていた金額を一気に倍にまで跳ね上がったのだ。そんなどよめく群衆をかき分けて、ミノアが浴衣の裾を直しながら躍り出る。
「ご、ごひゃく……!?」
「そうですわ! 500万と言ったら500万ですわ!」
ざわざわとどよめきが広がっていく。
「501万! ええい!」
「ちまちま刻んで恥ずかしくないんですの? こいうのは、思いっきりが肝心なのですわ! 女は度胸ですわ! 700万!!!」
その言葉にオークションは一際大きなどよめきが波のような喝采となってミノアに降り注ぐ。
打ち鳴らされるオークション・ハンマーの音。
それはミノアの定時した金額で即決した証だった。
市場からの帰り道、ミノアはご満悦だった。
思わぬ激レアアイテムゲットができたからだ。
胸に抱いた『MURAMASA』に頬ずりしている。余程嬉しかったのだろう。
「うふふ、これが『MURAMASA』の感触ですわ~! すんばらしですわねぇ~!」
しかし、予算は大きく、いや、遥かに上回っている。
当然、戻ればNPCの前にて彼女は正座させられて朝までお説教されることだろう。
だが、ミノアは悔いはしないだろう。そして、改めもしないのだ――!
成功
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