アンリミッティング・ギフト
●見知らぬ少年
才能というものは残酷だ。
どれだけそれが得難い資質であっても、磨かねば腐らせてしまう。輝くこともないし、誰かに見つけられるものでもない。
得てして、それは手に入れがたいものであり、後天的に得られるものではないということになっている。
どうしたって届かない領域というものは存在しているのだ。
見上げた空は夕暮れ。
「はぁッ、はぁっッ!」
自分の息が切れ切れだったのは、一日中稽古をしていたからだ。
無論、一人ではない。
師であるイリアステル・アストラル(魔術の女騎士・f45246)とでもない。
仰向けに地面に倒れた己の前に立っているのは、一人の少年だった。
明らかに自分よりも年下。
なのに、自分は少年に手も足もでなかった。
「くっそ!」
「まだやるかい?」
「当然!」
震える足腰。
立ち上がって漸く、というように剣を構えた。
手の握力が損なわれている。
ただ構えるだけで全身の筋肉を総動員しなければならない始末だった。
「お昼前には音を上げると思ったんだけれど、存外粘るじゃあないか」
少年の言葉に、きっと自分はムッとした顔をしたのだろう。
彼がどこか悪戯気な顔をしたからだ。
そりゃあ、愉快だろうと思う。
これまで十を数えたあたりから数えることをやめた手合わせの中で、己は自分よりも年下の少年から一本取ることができなかった。
そればかりか、掠めることすらなかったのだ。
はっきり言って屈辱である。
退くに引けない。
なにせ、師匠であるイリアステルが「今日はこの子、『トレミー』と手合わせしてねぇ」と言ったのだ。
『トレミー』。
そう親しげに名前を読んだのだ。
嫉妬かと言われたらきっとそうだ。
少年の才能は本物だ。
自分と比べるべくもないものなのだろう。
だが、だからといって、それが諦める理由になるだろうか。
騎士になる前、確かに自分よりも才能があると言われたものたちがいた。
彼らもまた騎士を志していたが、長くは続かなかった。
ある者は怪我で、ある者は病気で、ある者は事情で。
いくつかの理由で騎士たる道から外れていった。
自分と彼らとの差異はなんだろうか、と考える。
努力? それとも教えを請うのにためらわないこと? 素直さ? 諦めの悪さ?
どれも違う。
これは、諦めの悪さとは別種のものだと分かっている。
己が持ち得るのは、ただ一つ。
ただひたすらに続けることだけ、だ。
構えた剣が震えるが、それでも構えた。
「じゃあ、やろうか。いつでもいいよ」
「ッシ!!」
呼気が漏れて飛び出すように斬撃を放つ。
だが、それはあっさりと下からカチ上げるようにして少年に弾かれた。
今の踏み込みはよかったはずだ。
なのに、それにすら反応されては。
「……んんぐっ!!」
くぐもった声が響く。
弾かれた剣を無理矢理振り下ろしたのだ。
再びの一撃に少年『トレミー』は軽く後ろに飛んで斬撃を躱す。
大ぶりの一撃。
それは大きな隙となる。
不敵に笑む彼の表情に大ぶりを誘われた、と己は自覚する。
放たれる一撃。
それは、己と同じ一撃だった。
そう、己は突きを取り入れていた。
初撃の斬撃、後の振り下ろし。そして、第三の突き。
ぶっつけ本番だったが、できないことはないと思っていた。だが、『トレミー』もまた突きを放っていた。
切っ先が激突し、力負けするように剣が宙を舞って、大地に突き立てられる。
わずかに彼の顔が驚きに満ちていたが、それよりも己はがっくりとうなだれるしかなかったのだ。
それは自己評価とは裏腹に『トレミー』にとっては見どころがあるように思ったであろう眼差しに気がつくことはなかった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴