天城・千歳
夏休みシナリオの序章的な感じで、千歳がカメリア大陸の情勢悪化を受けて日乃和からカメリア大陸西岸までの指揮下の艦艇を使った航路啓開の許可を日乃和政府に取りに行った際の面談シーン
応対した東雲長官に航路啓開の要求を却下された後に、逆に指揮下の艦艇を使った日乃和南方海域の探索を要請される流れのノベルをお願いします。
現在の日乃和周辺の状況や南方海域の概要的な設定も文字数制限内で可能な所までで文章の中に入れてもらえるとありがたいです。
「日乃和政府として、その要望には応じられません」
日乃和官房長官――東雲正弘の重みのある声音が、執務室の空気を震わせた。
青い鋼に自我を宿す天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)は、想定通りの返答に不動であった。
戦況悪化が著しいカメリア大陸へ、隷下の艦艇を支援戦力として向かわせる。
その際に日乃和を出立地点として利用したい。
それが千歳の提示した要望である。
しかし、日乃和政府がこれを飲むとは初めから考えていなかった。
『直面する人喰いキャバリア問題。バーラント南方軍との武力衝突。二つの大きな問題を抱えた状態で、外界の戦争に干渉する行動はあまりにも迂闊であると?』
「その認識に齟齬は無いでしょう。もし仮に、対象国がレイテナ・ロイヤル・ユニオンであれば、持ち帰り検討させていただいておりましたが」
それほどの艦隊戦力を保有しているならば、今すぐ東アーレスへ向かい、人類の勝利に貢献して貰いたい。
それが東雲の本音であろう。
『日乃和の戦況進捗はそれほどまでに悪いのですか?』
「依然として芳しくないのが現実です」
東雲は眉間の皺を深くして続ける。
「日々レイテナに送り続けている膨大な量の物資。社会保障費。再建の途上にある国土。戦災孤児。人喰いキャバリアは日乃和から駆逐されました。ですが、負った傷は今も癒えていません。そして、戦いは今も続いているのです」
キャバリアで鉄砲を撃っているだけで国民を食わせていく事などできない――そうと納得した千歳は沈黙で理解を示した。
『貴国の置かれている状況について、まだ危うい域を脱していないという事は理解しました。この認識に齟齬はありますか?』
「レイテナが防波堤になっている限り日乃和は安泰だという声もあります。これは楽観が過ぎる危険な捉え方です。仰られている通り、日乃和はまだ危機の渦中に置かれているのです」
だからカメリア大陸に関わる余裕など無いし、向こう側に余計な手出しをさせる口実を与えたくない。
千歳にしてごもっともな東雲の見解に、カメリア大陸西岸への遠征案は決着を見た。
『了解しました。では、先ほどの要望を取り下げます』
東雲の眉が微かに動く。
歳を経てなお鋭利に光る眼差しが、続きを促した。
『代案という訳ではありませんが、日乃和南方海域の探索の許可をいただけないでしょうか?』
千歳の本命はこちらの方だった。
「理由をお聞かせ願いたい」
東雲は声の抑揚で訝しさを露骨に伝えてくる。
『日乃和の南方海域には、未開の海が広がっているとお聞きしています』
「確かに、沖ノ勿来島より南には、広大な海が広がっているだけです。航海を続けていれば、別大陸に到達する可能性も否定できませんが、公式での海路図は存在しません」
『ですので、海域の探索を行いたいのです』
「目的をお聞かせ願いたい」
『新たな島や、新たなプラントの発見に期待を寄せています。また、旧文明時代の遺構を発見できる可能性もゼロではないでしょう』
まるで大航海時代のコロンブスが抱いた冒険心のような展望。それらを千歳はすらすらと並べ立てる。
東雲は腕を組んで瞑目した後、人を疑う事を止めない目付きを寄越した。
「条件次第です」
『条件の内容を確認させてください』
「調査で知り得た情報は、全て日乃和政府と共有すること。守秘義務を認めること。調査で得た拾得物の所有権は、日乃和政府に帰属すること。日乃和政府が必要と判断した場合には、直ちに調査を中止すること。調査中に受けた損害について、日乃和政府は一切を補償しない。大雑把に言えば、このような条件が付随します」
美味しいところを渡すつもりはないらしい。
千歳もその点は織り込み済みだった。
探索が目的であって、プラントを見付けて一攫千金を夢見ている訳ではない。
「しかし、条件の承諾に関わらず注意されることです。日乃和の海は危険が多い」
『気候変動が激しいという意味ですか?』
「それも含みます」
『では、海賊などの人為的危険性も含まれると?』
過去にはワイルド・ウォードッグの構成員と思われるテロリストが日乃和の領海を侵犯した例もある。
遠く離れたカメリア大陸から来れたのだから、アーレス大陸から海賊が来たとしても不思議ではない。
「そういった類の被害はごく限定的です」
存外あっさりと見当を躱された。
「日乃和の海の沖合には、巨大で獰猛な危険生物が数多く生息しているのです」
『具体的な例を挙げてください』
「メガロドン、モササウルス、クラーケン……その他にも多くの未知なる危険が、海面の下から獲物を待ち構えています。キャバリアや船に乗っているからと言って、油断されない方がいい」
冗談のような名前を並べる東雲の顔付きは、堅く真剣だった。
『武装は必須であると?』
千歳がそう尋ねると、東雲は無言で深く頷いた。
日乃和の南方海域。
青い地獄で、千歳は何と出会うのだろうか。
成功
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