アスファルトを焦がすような太陽の光を背にしながら、ナクタは目当てのおもちゃ屋の入口に立っていた。トイロボのメンテナンスセットを買いに来ただけのつもりだったが、どうやら今日からイベントが行われているらしい。
閉じた扉の向こう側からたくさんの声が聞こえてきている所から、どうやら盛り上がっているのだろう。少しだけ寄ってもいいかもしれないと、ナクタは店内へ続く扉に手をかけた。
「なにがサマーフェスティバルだ!無人島を舐めるな!サバイバルを舐めるな!!」
明らかにイベントを楽しんでいるとは思えないような異様な雰囲気。一人の男を囲んで、怪しい目つきの客たちが揃って声を上げている。涼しい店内で夏を感じよう!というポスターも、無慈悲に破られてその殆どが床で踏みつけられていた。
足元に落ちていたまだ読めるポスターを手に取ったナクタは、叫んでいる内容がほんの僅かだが理解できた。今日のイベントの目玉は無人島のジオラマで行うサバイバル形式のサバイバルバトルだったらしい。らしいというのは、そのイベントがすっかりとダークリーガーに乗っ取られてしまっているからだ。
「そうだ!舐めた奴らに知らしめてやれ!無人島は遊びではないと!」
「……まさか、トイロボのダークリーガーが来ていたとはな」
おそらく無人島が舞台での立ち回りの甘さは本物だろう。そうでなくてはここまで客がダーク化しいるわけがない。本来ならば全員が敵であるはずのサバイバルで、これだけ仲間と思わせた人間が多いということなのだから。
だが相手が手強いとしてもナクタのやることは変わらない。ダークリーガーがいるのならば、トイロボバトルのアスリートが、戦わないなんてありえないのだから。
「俺からも試合を申し込もう。全員まとめてかかってこい!」
本来ならば多勢に無勢。実際の水こそ使われていないものの砂浜を表現するために薄く砂が敷きつめられた海岸は遮蔽物もなく見渡しがいい。大勢から狙いを定められてしまえば身を隠すことも逃げることも難しい。難しい、はずだとナクタ以外は認識していた。
「障害物がないのであれば、こちらで用意すればいいだけだ」
ダークリーガーの仲間としてダーク化していても、元々一つのチームであったわけではない。その上倒すべき敵を眼の前に、攻撃を躊躇する理由がどこにもなければ先を争うように突撃してくる。
それに狙いを定めたバラックスクラップの一撃によるスクラップのなだれで、多数のスクラップがまるで大型の船の残骸でも漂着したかのようにジオラマの砂浜にばらまかれた。それだけではない、突然現れた遮蔽物に戸惑っている間もなく、次々に脱落者が発生した通知とともに生き残っているプレイヤーの数が減っていくのだ。
「どこを見てる?遅い!」
EP-Lレッグホイールによる圧縮空気を用いた高速移動。突然のことに対応できず、スクラップで物理的に分断されたダーク化したプレイヤーはあまりにも見事な高速戦闘に呆気にとられ我に返っていく。
薄く敷きつめられているがゆえに、慌てて移動すれば砂が上滑りし足を取られる。そんな状況で想定外の高速移動をしてくるOM-NATAKUを相手にして、心構えもできていない状況で対応できる者はダークリーガーも含めプレイヤーには存在しなかった。
一人また一人と仲間として使うはずだった者たちが減っていき、最初は余裕を見せていたダークリーガーにも段々と焦りが見えてくる。遮蔽物であるスクラップの間を高速移動するOM-NATAKUに、動揺した状態ではうまく狙いが定められない。
「何故だ!砂の上だぞ、何故そんな速く動ける?!」
深い理解が戦いに優位に働くのは、なにがどうなるかを知っているからだ。だが、全く想定外のものがそこに飛び込んできたならば、目の前の全てが想定外になったならば。
足を砂にとられた機体はバランスを崩し、倒れまいと姿勢制御に意識を奪われる。時間にしてはほんの僅か、そのほんの僅かな隙も肉薄したOM-NATAKU相手では致命になり得る。
「無人島での戦いを舐めていたのは、お前の方だったみたいだな」
蹴りを目的としたというより、高速移動から停止するためのついでとでも言わんばかりの雑な脚部の一撃がダークリーガーのトイボットの腹部にめり込むように命中し今度こそ本当に体制が崩れる。
そこに間髪入れずに放たれたRX-LツインソードGの一撃が完全に命中して、ダークリーガーのトイボットの腹部装甲を完全に破壊した。ライフポイントはもうゼロ、その上パーツも破損し動かそうにも動かせない状況では、敗北を認めるよりほかなかった。
「勝負あったな、オレの勝ちだ」
ナクタの言葉と重なるようにして、サバイバルバトルでの勝利者を知らせるリザルトが表示される。店内の客も先程までの事を忘れたようにすっかりと元に戻り、新しい勝者の誕生に歓声を上げた。
成功
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