ジョスルド・イン・ファミリー
●帰還
失踪した妻が帰ってきた。
字面からしてなんていうか、事件性を感じさせるものである。
だがしかし、その妻が失踪――もとい、神隠しに遭ってしまった配偶者であるところの雲南・盈江(メリュジーヌのパラディオン・f45388)は、急にいなくなった妻が、これまた急にケルベロスディバイド世界へと帰還を果たしたことに情緒がぐちゃぐちゃになってしまっていた。
「|紅河《ほんほー》ぉ……」
かすれたような声。
感極まった、とも言えるけれど、どうしたって情けない声がでてしまう。
「やあ、我が愛しの娘たち、愛しの夫君! 帰ってきたよ!」
対して、神隠しに遭った妻こと、雲南・紅河(タイタニアの心霊治療士・f45360)は、なんとも明る声色で、大手を振って帰ってきていた。
いや、もっとこうあるんじゃあないかと思わないでもない。
少なくとも幼女として受け入れた五麟姉妹たちは思った。
義母のそういうところは、いつも変わらないことであるが、今回はことがことである。
義父である盈江にしっかりして欲しいと何度思ったかわからない。
しかしだ、ようやくいつも通りの日常に戻れそうだとも思っていた。
「お義母さま、一体今までどこにいらっしゃったのです?」
長女の言葉に紅河は、うん、と一つ頷いた。
「異世界」
「異世界!?」
「そうだよ、愛しの娘たち。実は私、猟兵の力に覚醒したのだよ。それで……ああいや、これは違うな。順番が違う」
「順番? どういうことです?」
「つまりね、神隠しが先で、猟兵の覚醒が後、ということだよ」
「よかったよぉ、紅河ぁ!」
「お義父さま、ちょっと静かにしていてください。事情が、事情がさっぱりわかりません!」
ダミ声のような声で紅河にすがりつく盈江に義娘たちは、焦れるようだった。
確かに義母が帰ってきたことは喜ばしいことだ。
けれど、それよりもどうしてこんなことになってしまったのかを聞かなければならない。
事情、というのは知らなければ、そのまま流されてしまう。
特に義母と義父においては顕著なことだった。
だから、義娘たちはしっかりと紅河に問いたださねばならないと思ったのだ。
「まずね、ケルベロス・ウォー中に神隠しにあったのは、君たちの知る所だと思う」
「はい、突然診療所から消えた、と連絡頂いたときには……」
「肝が冷えたよぉ! 心配したんだよぉ! うわぁん! どうして黙っていなくなってしまったんだいってぇ~~~!!」
盈江が一々割り込んでくる。
「ええい、わからないでもないですが、今は抑えて下さい!」
「ああ、神隠し先はね、アスリートアースという世界だったんだ。これがまた面白い世界でね。人々は皆、超人アスリートたちばかりなんだ」
「へ?」
「いや、超人アスリート」
「……そ、それで、ええと」
「ああ、アスリートアースに私は迷い込んでしまったんだ。けれどね、そこで『楽しみ』というものを見つけたのさ!」
そんな紅河の手には、抱えるようにして持っていた箱があった。
紙製の箱だ。
「これはお土産にして、他世界があるっていう証拠でもあるのさ。ほら、ごらんよ!」
「……こ、これは……!」
五人姉妹は皆、驚愕した。
箱の中に治められていたのは、自分たち姉妹にそっくりな小さな……。
「お人形さん?」
「これはプラスチックホビーさ! それも美少女プラモデルというジャンルだね!」
いや、それはわかった。
神隠しに遭っていたこと、猟兵として覚醒したこと。
それとこの美少女プラモデルに何の因果があるというのだろうか?」
「ああ、それはね。『プラクト』というホビー・スポーツから語らねばなるまいよ!」
「あの、ますますわからなくなって……」
「うわぁん、かわいい~! よかった~! かわいい~!」
「そうだろうとも、私が手ずから作ったんだからね! いやぁ、神隠しってああいうものなんだねぇ」
何一つ伝わってこない。
姉妹たちはもしやこれは、自分たちの身に起こったことと同じなのではないかと思った。
だが、彼女たちは猟兵に覚醒していない。
義母と自分たちの違いは一体なんなのか。
「いや、それにしても心配かけちゃったねぇ。でも、この通り、元気で帰ってきたよ!」
「よかったよぉ! ほんほぉー!」
ひし、としがみつく盈江の頭を紅河は、よしよしと宥めるように撫でている。
夫婦仲睦まじいことは良いことなのだが、この美少女プラモデルが一体全体どうして作られたものなのかさっぱりわからない。
「それで、その」
「ああ、もう何も心配ないってことさ。これからもみんな一緒だよ」
いや、そうではなく、と姉妹たちは思った。
だが、義父の濁音塗れの泣き咽ぶような声に流されるように、感動の再会はどうにも着地点を見いだせぬまま、『まあ、なんかよし!』くらいの雰囲気になるのだった――。
成功
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