空白都市ブランクブック。
そう呼ばれる都市国家は、上部に巨大な白い本のオブジェを戴いている。
未だ白紙の歴史を、自分達の手で書き記して行く。この都市国家の名は、そんな思いを込めて付けられた。
若い都市国家は今、祭りの空気をまとって浮足立っている。
その源は、都市国家の中層にあった。ドロースピカの光に照らされた広場の中央で、一冊の本が白い台座の上に載っている。酷く古びたその本は、この階層が造られた時に見付かったものだ。
その本には最初、何も文字が記されていなかった。都市国家が戴く、白い本さながらに。
古い本について一つの噂が囁かれるようになったのは、都市国家に住む人々が増え、階層が更に重なり始めた頃だ。
曰く、この由来の分からぬ本に、大切な人との思い出を書き記すと、本がその思い出をずっと守ってくれるという。
噂は若者を中心に広まって行き――本が見付かった階層を治めていた貴族は、その本を大切に安置し、年に一度、お祭りを開く事にした。
本はお祭りの日だけ外に出され、都市国家の住人は思い思いのインクで自分の思い出を綴る。それに合わせて、本が置かれる広場で栞やペンのインク等を売る屋台が出店されるのだ。
この年も、そんなささやかなお祭りが開かれ、平和に一日が過ぎゆく筈だった。
一人の男の亡霊が、そこに現れなければ。
「忘れたのか……忘れたとでも言うのか……」
古びた本の前に並ぶ人々を見る目には、エリクシルの赤が滲んでいた。
「みんな、集まってくれてありがとう」
ロッタ・シエルト(夜明けの藍・f38960)はそう言って、グリモアベースに集った猟兵達へお辞儀をした。
「実は、ブランクブックっていう都市国家に、エリクシルから願いの力を移植されたモンスターが現れることが分かったの」
ブランクブックでは今、古い本を中心としたお祭りが開かれている。モンスターはその最中に乱入し、参加者達を虐殺しようと企んでいるのだ。
「たくさんの人を殺すことで、この事件で死んだ人を生き返らせたいっていう、強い願いを引き出そうとしてるみたいね」
幸い、今ならばまだモンスターが祭りの場へ着く前に、事態を食い止める事が出来る。ブランクブックの住人達が悲劇を知るより早く、モンスターを倒して欲しいとロッタは語った。
「見た目はモンスターっていうより、亡霊みたいな存在だけど、みんなならそんなに苦労せずに倒せると思うわ」
モンスターを倒せば、悲劇の終焉は砕かれる。そのまま立ち去っても良いが、お祭りを楽しんで行くのも良いだろう。
舞台となっている広場には、中心となる古い本がある。住人達に倣ってここに思い出を記すも良し。周囲に出ている店で、何かお土産を買って行くのも良しだ。
「お店の商品は、栞とかペンとか……本や文房具に関するものが多いみたい。変わったインクとかも見つかるかもしれないわね」
気を付けて、行ってらっしゃい。
ロッタはそう言って、掌にグリモアを浮かべた。
牧瀬花奈女
こんにちは。牧瀬花奈女です。このシナリオは二章構成となります。各章、断章追加後からプレイングを受け付けます。
シナリオの舞台となる都市国家は過去シナリオにも登場した事がありますが、未読でも全く問題ありません(タグ: #空白都市ブランクブック )
●一章
ボス戦です。お祭りの場で殺戮を繰り広げようとしている亡霊を倒して下さい。
●二章
日常章です。都市国家で開かれている、本に関するお祭りを楽しむ事が出来ます。
この章のみ、プレイングでお声掛けを頂いた場合、ロッタ・シエルトがお邪魔します。話し相手が欲しい時等にどうぞ。
●その他
再送が発生した場合、タグ及びマスターページにて対応を告知致します。プレイングが返って来た際は、お気持ちにお変わり無ければそのまま告知までお待ち頂ければ幸いです。
第1章 ボス戦
『或る貴族の亡霊』
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POW : 見つけたぞ
【刺突】が命中した敵を【鞘】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[鞘]で受け止め[刺突]で反撃する。
SPD : 忘れたとでも言うのか
異空間「【逆しまに偽られた過去】」に通じる不可視の【螺旋階段】を3つ作成する。自分のみ入場可能で、内部では時間が経過しない。
WIZ : 誰も、許すものか
【怨嗟を呼び起こす幻】を放つ。他のユーベルコードと同時に使用でき、【平常心を乱す】効果によってその成功率を高める。
イラスト:毒島
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アカシャ・ライヒハート」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
祭りの喧騒が淡く響く路地に、貴族然とした男がゆらりと立っている。その様は、モンスターというよりは亡霊と呼ぶに相応しい。
「忘れているのか……許されるとでも、思っているのか……」
男の目に、都市国家の人々はどう映っているのか。何であれ、歪んだ姿である事に違いは無いだろう。
男は広場への一本道を、すうと滑るように歩き出した。しかし、その歩みは僅か数歩で止まってしまう。
グリモアベースから転送された猟兵達が、行く手に立ちはだかったのだ。
この先にある幸せを終わらせはせぬと、その目が語っていた。
夜鳥・藍
例えどんなに人につくし生き死んだものであってもいつか忘れられるもの。
逆に記憶に残し続けることも自由です。
やってはいけないのは強要する事。
たとえ忘れてしまっても何かの折に思い出して懐かしむならそれでよいではありませんか。
何よりあなたが覚えているのなら。
彗星にて衝撃波を飛ばし、一時的にでも反撃の動きを抑えます。
完全に抑えきれなくとも心構えをできる時間が出来るでしょう。
今更の怨嗟はございませんが、注意するに越したことはありません。
許される…何かしらの罪と言えるものがあるのかもしれませんね。
ですが忘れるほどの時が経っているとするならば、子々孫々までにその罪を問うのはおかしいと思います。
●
路地にゆらりと現れた亡霊の前へ、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は刀を佩いて立ちはだかった。彼女がクリスタリアンである事を示す宙色の瞳と、銀河めいた長い髪が、影の中できらめいて見える。
貴族と思しき姿をした亡霊は、藍を認めて緩く唇を開いた。
「見つけたぞ……」
掠れた声が路地の空気を揺らす。碧眼の奥に、ちらりとエリクシルの赤が覗いた。
亡霊の目は藍を見ていない。現に立つ自分の上へ、誰かの影を重ねているのだとすぐに藍は察した。
例えどんなに人につくし生き死んだものであってもいつか忘れられるもの。
藍は身の内が凪いでいる事を感じつつ、腰の打刀の柄を握った。
忘れる事も――逆に、記憶に残し続ける事も、それはそのひとの自由だ。やってはいけないのは、他者へ強要する事。
「たとえ忘れてしまっても、何かの折に思い出して懐かしむならそれでよいではありませんか」
凛とした声が路地に響く。背筋をぴんと伸ばした藍の背を、差し込む光を照り返す髪が撫でた。動きに反応したのか、亡霊が仕込み杖の鞘から刃を抜き放つ。
「何よりあなたが覚えているのなら」
亡霊が刃を振るう隙を、藍は与えなかった。瞬き一度の間に亡霊との距離を詰め、鯉口を切る。そりの浅い両刃造の刀が、鞘の中でぱちりと青白く爆ぜた。
飛べと、上げる言葉は一つで足りた。
仄かな月光と共に抜刀された刃が、電撃をまとう衝撃波を放つ。月の如き色を宿したそれは、眼前の亡霊の腹を真横に薙いだ。
まともに一撃を受けた亡霊には、仕込み杖を保持する力すら残らない。切っ先が石畳を叩いて、鋭い音を立てる。
刀を振り抜いた後も、藍は亡霊への警戒を怠らなかった。雷を宿した一撃で、亡霊の動きは一時的に止められている。藍の中に、今更湧き起こる怨嗟は無い。それでも注意するに越した事は無いだろう。
長い呼吸を一度、二度。亡霊が反撃の素振りすら見せない事を知ると、藍は刀を再び納刀した。
「許す、ものか……許されると、思っているのか……」
ぱちぱちと爆ぜる青白い光に縛られながら、亡霊が震える声を紡ぐ。
許される。
その言葉が出て来るという事は、何かしらの罪と言えるものが、あるのかもしれない。けれど。
「忘れるほどの時が経っているとするならば、子々孫々までにその罪を問うのはおかしいと思います」
揺らぎ無い藍の言葉を、亡霊はただ幽し声を零しながら聞いていた。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
盟友エンマ殿(f38929)と
かの地は同胞の住まう処
いかでせわしくとも否やはない
此度も盟友とゆこう
祭に無粋極まるしの
「そも、我はそ奴が根本から気に入らぬでな」
朋友の言で形は把握して居る
自らの怒りや呪いで民を虐げる者なぞ
貴族に相応しからず
「何一つ慮る事なぞない」
友に頷きただ退治てくれようと気炎をあげ
「そこな亡霊!その穢れた歩みを止めよ!」
同時に大鎌を一閃し
「貴様如きの妄執に民を巻き込むな!」
我らが役目はコレを表へ出さぬ事
張った声で先ずは注意を惹き
怯まば棘で絡め捕ろう
「済まぬがエンマ殿!引導を!」
友の太刀は慮外者に容赦なぞ無い
そして決して過たぬ
必要とあらば我ももう一閃
骸の海へ追い返し終わらせようぞ
エンマ・リョウカ
盟友のキラさん(f38926)と
折角の祭りの空気だ
どんな狙いであれこの場を
そして人々が願う想いを
邪魔させるわけにはいかないからね
「あぁ、確かにその通りだね」
キラさんの怒りも解る
上に立つ者としての彼女らしい言葉
それに頼もしさを貰いながら
今は戦いの場へ向かおうか
「すまないが、此処から先にはいかせない」
キラさんの動きに合わせ互いに
交互に刃が襲い掛かる様に切り結ぶ
こうすれば私達を無視して進むことはできないし
間違っても表通りに出す事はないからね
「祭りの音に、お前は不要だよ」
「任せてくれ!」
声に応えて、そのまま力を溜め
敵が受けようが返そうとしようが貫く
私にとっての最大の一撃を放つよ
「これで終わりにしよう」
●
ブランクブックは、キラティア・アルティガル(戦神の海より再び来る・f38926)にとって同胞の住まう処だ。そこが危機に晒されているとなれば、いかにせわしかろうとも赴く事に否やは無い。幸せな祭りに、亡霊の姿は無粋極まるというものだ。
キラティアの盟友たるエンマ・リョウカ(紫月の侍・f38929)も、祭りの場が壊される事を是とはしなかった。どんな狙いであれ、この場を、そして人々が願う想いを、邪魔させる訳には行かない。
「そも、我はそ奴が根本から気に入らぬでな」
影の差す路地に足を踏み入れながら、キラティアは新緑めいた瞳をすうと細める。
幸せな祭りを終わらせようとしているのは、貴族の亡霊なのだという。自らの怒りや呪いで民を虐げる者など、貴族に相応しい筈が無い。
「何一つ慮る事なぞない」
鋭い刃物のような言葉に、エンマは瞬きを一つして頷く。
「あぁ、確かにその通りだね」
キラティアの抱く怒りが、エンマにはよく解る。上に立つ者としての彼女の言葉が、後ろから背を支えてくれるような気がした。
路地に入って十歩ばかり進むと、二人は貴族然とした容貌の男を視認する。既に他の猟兵と一戦交えた後なのか、石畳の上に落ちた仕込み杖を拾い上げていた。
エンマへ頷き、キラティアは靴音高く亡霊へ近付く。ただ退治てくれようとあげた気炎が、大鎌の柄を握る手を熱くした。
「そこな亡霊! その穢れた歩みを止めよ!」
黒と鈍色に彩られた刃が、冴えた輝きと共に亡霊の胴を一閃する。
「すまないが、此処から先にはいかせない」
キラティアの一撃で崩した体勢を、エンマは立て直す隙を与えなかった。三日月めいた反りの野太刀が、陽光の如き光を零し亡霊を袈裟斬りにする。
「お前たちも忘れているのか……許すものか……」
エリクシルの赤を秘めた瞳は、二人を見ているようで見ていない。それでも、そんな事は関係無かった。
キラティアが大鎌を振るえばエンマが即座に後へ続き、エンマの野太刀が叩き込まれた時にはキラティアがすぐさま追い打ちをかける。
コレを表へ出さぬ事。
二人は自分達が為すべき事を、芯から理解していた。立て続けの斬撃に、亡霊はまともに歩く事も叶わない。
「貴様如きの妄執に民を巻き込むな!」
キラティアの裂帛に、亡霊が僅かに目を瞠る。明らかに動きが止まったその刹那、キラティアは確と目を開いて|棘《ソーン》を亡霊の足へ突き刺した。白いズボンが見る間に灰色へと変じて行き、亡霊の動きがぎこちなく鈍る。
「忘れているのか……誰も、許すものか……」
「祭りの音に、お前は不要だよ」
ゆらりと立ち上がった怨嗟ごと、エンマは亡霊を斬り裂いた。その間に、亡霊の足全体が石と化して行く。
「済まぬがエンマ殿! 引導を!」
「任せてくれ!」
キラティアの呼び掛けに応え、エンマは野太刀をまっすぐ構えた。漆黒の瞳にいっとき紫が走って、鬼神そのもののオーラが体に宿る。
強大な力を扱うが故に無防備となる僅かな時間を、キラティアは更に前へ出て埋めた。
友の太刀は慮外者に容赦など無いと、そして決して過たないと知っているからこそ出来る動きだった。大鎌の切っ先が亡霊の肩を抉り、黒い上着の布が辺りに散る。
「これで終わりにしよう」
亡霊は野太刀の一撃を、刺突で受け止めようともがいた。だが、エンマの動きの方が早い。
武芸者としての最大の斬撃が、石と化した部分を粉々に砕いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
八坂・詩織
イグニッション!
髪を解き、瞳は青く変化。防具『雪月風花』を纏う。
よほど深い恨みでもありそうなご様子ですが。
誰の、何に対する恨みだったんでしょうね。あるいは社会全体への憎しみとか?こちらとしては知りようもない話ですが。
理由を知ればあるいは同情の余地もあるのかもしれません。でもどちらにせよ、他人を傷つけていい道理はありません。
纏った氷雪のオーラで【オーラ防御】、刺突攻撃を凌ぎつつ。
なかなか素早い身のこなしですね、でもこれならどうでしょう?
UC『ファンガスプリズン』発動。ファンガスで作った網を展開し運動能力を吸収。
そのまま雪の魔力を秘めた雪簪をそっと刺し【凍結攻撃】。
今はこのままおやすみなさい。
●
路地に入るなり、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は自らのイグニッションカードを取り出した。
「イグニッション!」
高らかに起動を告げると、一つにまとめていた髪がするりと解けて広がる。瞬いた瞳は青く変じ、袖と裾にピンクの花と蝶が舞う白い着物がその身を包んだ。
亡霊は、足の部分が半ば砕けて半透明になっている。それでも詩織を見る目には、未だ強い光があった。
「見つけたぞ……」
亡霊が仕込み杖の鞘を払い、細身の刃を閃かせる。
路地に響いた声を聞いて、詩織は瞬きを一つした。この重々しい声からは、よほど深い恨みでもあるように感じられる。
誰の、何に対する恨みなのか。或いは特定の対象ではなく、社会全体への憎しみなのか。そこまでは読み取る事が出来ない。
亡霊が刃の切っ先を詩織へ向け、滑るような動きで距離を詰めて来る。着物の擦れ合う音を立ててたおやかな腕を広げると、ほっそりした体が氷雪のオーラを纏う。刃はきらめく雪の結晶に受け止められ、細く物悲しい音を奏でた。
「理由を知れば、あるいは同情の余地もあるのかもしれません」
亡霊は聞き取れないほどの声で、何事かを呟き続けている。エリクシルの赤を滲ませた瞳が、詩織に誰かの面影を重ねているのだ。
「でもいずれにせよ、他人を傷つけていい道理はありません」
しっかりとした芯を持つ声が、亡霊の妄執を跳ね返した。細身の刃は繰り返し刺突を放っている。しかし、その全ては氷雪に阻まれて詩織の身にまでは届かない。
「忘れたとでも言うのか……お前も、私を……」
繰り出された何度目かの突きを、詩織は後退って回避した。氷雪を貫く強さこそ無いが、亡霊の身のこなしはなかなかに素早い。
「でもこれならどうでしょう?」
詩織は人差し指をぴんと伸ばして、虚空に弧を描いた。瞬き一度の後、ファンガスで作られた網が周囲にぶわと広がる。
突如として現れた網に、亡霊が対処出来よう筈も無い。茸の網は亡霊の胴を容易く絡め取った。笠が揺れるごとに、亡霊の運動能力が汲み上げられて行く。
詩織は袂から、薄青の宝玉があしらわれた簪を取り出した。雪の魔力を抱くそれを、亡霊の肩へそっと突き刺す。
「今はこのままおやすみなさい」
静かな呼び掛けと共に、亡霊の腕が凍り付いた。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
前行ったトコだよね
猟兵が助けた小さな子も
その無事を喜んだ優しい人たちもいる
何が気に入らないとしても
今を生きる人たちに被せるのは
八つ当たりにも程がある
「そんな事は絶対させないよ」
何処だって何時だってやる事は同じ
変んない
俺達は護るべきものの為に戦う
「陸井、俺は足止めするから!」
相棒に言い置きククルカンウィングを詠唱する
これでどれ程の技を持ちどれ程の速さを以て
外を地獄に変えたかろうと
絶対に路地の外には出さない、出られない
振り払おうとしても高速で纏いつく俺は
厄介極まりない羽虫
そして俺には頼もしい相棒が居るからね
破滅はこの街に似合わない
この帰結は絶対
「お前は此処で消えるんだ」
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
以前の戦争の時も戦ったし
またこの場所を
そして暮らす人々を護る為に
こいつは倒しておかないとな
「やるぞ、時人」
返事を聞かなくても
相棒の顔を見たら解る
やる事は変わらないし
俺達はいつも通り当たり前に
戦って護りきるのみだ
「任せた!こっちはでかいので行くぞ」
だけどいつも通りの文字を放ったら
この場所だと下手したら外までいくな
相棒が路地から出さない様に抑えているし
今は能力者としての力でいこう
敵が相棒に気を取られてる間に距離を詰め
拳を直接当てて、そのまま一撃を放つ
視界の先、表通りに見える人々と
祭りを楽しむ声を邪魔させないよう
この場できっちり、破滅は終わりにする
「悪いな、俺達の勝ちだ」
●
ブランクブックの空気を吸い込んで、葛城・時人(光望護花・f35294)は胸の内がほんのりと解れるのを感じた。
猟兵達が助けた小さな子と、その無事を喜んだ優しい人たちと。この都市国家に住まう人々の姿が、脳裏で像を結ぶ。
時人と共にこの地を踏んだ凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)は、黒弦の眼鏡越しに亡霊を見た。
以前の戦争での戦いが、ふっと意識に上る。またこの場所を、そして暮らす人々を護る為に、この亡霊は倒しておかなければならない。
「お前たちも、忘れているのか……誰も、許すものか……」
肩から氷の欠片を散らし、亡霊は掠れた声を上げた。赤がちかりと瞬く碧眼は僅かに霞がかって、この場にいないものを見ているように思えた。
何が気に入らないとしても。
時人は深い青の眼差しで、亡霊をまっすぐに射抜く。
それを今を生きる人たちに被せるのは、八つ当たりにも程がある。
「そんな事は絶対させないよ」
握り締めた錫杖の銀鎖が、しゃんと澄んだ音を奏でた。
「やるぞ、時人」
相棒へ一声掛け、陸井は一歩前へ進み出る。
返事は聞かずとも、顔を見ればすぐに解った。場所が何処であろうと、いつであろうと、二人のやる事は変わらない。護るべきものの為に戦い、背負った一字にかけて護りきるのみだ。
それが二人の『当たり前』だった。
「陸井、俺は足止めするから!」
時人がそう告げた刹那、その背から白く輝く翼が生えた。己の|白燐蟲《ククルカン》と合体を果たしたのだ。息を吸うごとに命が削られて行く感覚が内を撫でるが、時人は構わず羽ばたいて亡霊の元へ高速で移動した。
「任せた! こっちはでかいので行くぞ」
燐光を散らしながら舞う時人へ、陸井は声を張った。ガンナイフの撃鉄を起こし、矢立の筆へ手を伸ばしかけて、その動きが途中で止まる。
陸井の操る戦文字は威力が高く、範囲が広いものも少なくない。この狭い路地で使えば、その影響は外まで及んでしまうかもしれなかった。
相棒がそう考える間も、時人は亡霊へ食らい付いている。どれ程の技を持ち、どれ程の速さを持とうと、それを時人の速度が上回った。
絶対に路地の外には出さない、出られない。
繰り返し、穿つように打ち据える錫杖の打撃は、亡霊に前進の一歩を許さなかった。
相棒が亡霊を路地から出さないよう、抑えてくれるのならば。
今は能力者としての力でいこう。
陸井は石畳を蹴って、亡霊の脇を抜け背後に回った。
その手が水の術式を纏うのを見て、時人は口元を軽く綻ばせる。
亡霊にとって、振り払おうとしても高速で纏いつく時人は、厄介極まりない羽虫のようなものだろう。そして時人には、頼もしい相棒が居るのだ。
破滅はこの街に似合わない。この帰結は絶対――
「お前は此処で消えるんだ」
静かな宣告と共に振り下ろされた錫杖が、亡霊の頭部を抉る。
陸井は瞬き一度の間だけ、亡霊越しに広場の方を見た。視界の先――表通りに見える人々と、祭りを楽しむ声を邪魔させないように。
この場できっちり、破滅は終わりにする。
渦巻く水流を纏った掌を、陸井は亡霊の背へ思い切り叩き付けた。掌と亡霊の背中の間で水が勢い良く弾け、妄言を吐き続けていた口が大きく開く。亡霊の体が傾き、石畳の上で横倒しになった。
「悪いな、俺達の勝ちだ」
もう起き上がって来ない亡霊へ、陸井は息をついて告げた。短い呼吸を二度するだけの時が過ぎて、亡霊の姿が消え去る。
平和を取り戻した路地には、祭りの音だけが淡く響いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『約束の場所にて』
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POW : 観光地巡りを楽しむ
SPD : お洒落な飲食を楽しむ
WIZ : 穏やかな語らいを楽しむ
イラスト:麦白子
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
密やかに亡霊を骸の海へ還した猟兵達は、広場へと向かった。足を踏み入れた途端、人々の奏でる活気が耳をくすぐる。
広場の中央には台座があり、古びた本がその上に載っていた。白紙だった頁には、既に何人かの思い出が記されている。
その台座の周囲に、ぐるりと円を描くようにして屋台が並んでいた。様々な材質のペンや、凝った意匠の栞。色とりどりのインク等がそこでは売られている。
帰る前に、本や文房具に関する、それらの品々を見て行くのも良いだろう。何か書き留めておきたい事があるのなら、台座の上の本へそれを綴って行くのも自由だ。
猟兵達は広場を見回し、ゆっくりと足を進め始めた。
夜鳥・藍
POW
被害が出なくて本当に良かった。
屋台を一つ一つ見て回るけれど…文房具とか好きだからたくさん買ってしまいたくなるわ。特にあまり使う予定は無いけれどインクとか色とりどり欲しくなっちゃうわね。
でも使わずしまい込まれてしまうよりは…ブックカバーの方がいいかしら?
自然のもの、植物や星や空模様のブックカバーをいくつかと、同じ数だけカバーの模様と似た栞を。
同時進行で数冊本を読む事があるし、本の内容でカバーを変えるのも楽しいものです。
あ、ステンドグラス風切り絵の栞もいいわね。
どうしようかしら?小さな額に入れて飾るのもいいような気がする。
●
祭りの場にいる人々は、みな柔らかな表情を浮かべていた。その様子を見て、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は、ふわと口元を綻ばせる。
被害が出なくて本当に良かった。
芯からそう思った後、広場をぐるりと囲む屋台へ目を移す。宙色の瞳が真っ先に惹かれたのは、文房具を売っている屋台だった。
硝子や金属の軸を持つペンや、日々の記録を残しておける薄い帳面。瓶詰めのインクは色も濃淡も様々なものが揃っており、見ているだけで心が躍った。
文房具等を好む藍としては、どれもたくさん買ってしまいたくなるけれど。
「でも使わずしまい込まれてしまうよりは……ブックカバーの方がいいかしら?」
普段愛用している文房具の事を考えて、藍は小さく独り言つ。使い切れずに棚や引き出しに眠っている様を想像すると、胸の奥が仄かにきゅっと縮こまった。
その屋台では、厳選したインクを一つだけ買い、ブックカバーを売っている屋台へと足を運ぶ。
「いらっしゃい。ゆっくり見て行って下さいね」
店主の言葉に甘えて、藍は商品を端から端までじっくりと見て行った。若草を刺繍したものや、空模様に染め抜かれたもの。幾つもの星を描いたものが、藍を誘うように日差しの中で整列している。
「この、植物が刺繍されたものと……こちらと、こちらを頂けますか? あと、栞があれば、見せて頂きたいです」
「栞はこっちにありますよ」
藍の言葉に応じて、店主は底の浅い木箱を持って来た。選んだブックカバーと模様が似ているものを、そこから取り出す。
「随分たくさん選んで下さいますね」
「同時進行で数冊本を読む事があるし、本の内容でカバーを変えるのも楽しいものです」
店主へ微笑して、藍は会計を済ませようと財布へ手を伸ばした。
視界の端に、新たな栞が映ったのは、その時だ。
ステンドグラス風の切り絵の栞が、他の栞に紛れるようにしてひっそりと木箱の中に佇んでいる。大きさも形も、描かれている模様も、藍の心を強く惹き付けた。
是非とも買いたいけれど、これは小さな額に入れて飾るのもいいような気がする。
祭りの賑やかさを背に感じながら、藍は心地良く頭を悩ませた。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
大切な人との思い出、ですか。
忘れたくない思い出ならいっぱいあるけど…思い出全てを書き記すのは無理なので。
書き記すのは一番大切な人との、つい最近の出来事。
出身世界とは違う世界の、沖縄の波照間島で観た星空の記憶。
星空に一番近い島と称される島の、天然のプラネタリウムのような満天の星々。水平線ぎりぎりに見えたみなみじゅうじ座。
双眼鏡で観た散開星団ジュエルボックス。
星に興味がない先輩も綺麗だと言ってくれたこと。
星空はいつ、どこで観ても綺麗で、その全てが大切な思い出だけど。
やっぱり一番大切な人と観る星空は忘れ難いもので…
…何か気恥ずかしくなってきちゃった、星空みたいなインクでも探して買って帰ろうかな。
●
先に立った人々が離れて行くのを待ってから、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は広場の中央に置かれた台座の前へ進み出た。そこに載る古びた本には、もう既に幾人もの思い出が残されている。
色とりどりのインクで記された思いに、詩織は茶の瞳をやんわりと細めた。
「大切な人との思い出、ですか」
ぽつりと言葉を零して、台座に並んでいるペンの一本を取り上げる。こちらも複数置かれているインク瓶の一つへペン先を浸した。
忘れたくない思い出ならば、胸の中に沢山ある。けれど、その全てを書き記す事は出来ない。
それならと、詩織はペン先をそっと本の頁へ押し当てた。
整った文字が書き残すのは、詩織にとって一番大切な人との、つい最近の出来事だ。
出身世界とは違う世界の、沖縄の波照間島で観た星空の記憶が、言葉になって頁を几帳面に埋めて行く。
星空に一番近いと称される島の夜空が、天然のプラネタリウムのように星々を抱いていた様。水平線ぎりぎりに見えた、みなみじゅうじ座のきらめき。宝石箱とも呼ばれる散開星団は、双眼鏡越しでも溜め息が出そうだった。
それから。
――星に興味がない先輩も、綺麗だと言ってくれたこと。
そこまで書き記した時、詩織の頬が薄く熱に染まった。鼓動がことりと揺れるのが、意識せずとも分かる。
星空はいつ、どこで観ても綺麗で、その全てが大切な思い出だけど。
傍に一番大切な人がいる時に観た星空は、忘れ難い輝きとなって詩織の内側を照らしてくれる。
胸中に暖かさがいっぱいに広がって、詩織はペンを本の脇へ戻した。
記された思い出は、この本がずっと守ってくれるのだという。
気恥ずかしさに染まった頬を、緩やかに吹いた風が心地良く撫でて行く。静かに目線を上げると、瓶詰めのインクを並べている屋台が幾つか視界に入った。
「星空みたいなインクでも探して買って帰ろうかな」
もう一度だけ本の頁へ視線を落とした後、詩織は屋台に向けて歩みを進め始めた。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
盟友エンマ殿(f38929)と
邪を退治た後は空気も清々しやの
「良きかな」
生きて今を過ごす者らの正しき時が流れおる
なれば後は祭を楽しむだけじゃの
「奥方を連れ来なんだ由、我は承知しおるぞえ」
ちと盟友をからかってみる
「贈り物をと思うたのであろ?」
顔を見た所図星じゃの
此処でなら実用の質実たる品でなく
奥方が喜ぶ品があろう
買い物は付き合うぞえ
我も手に合う道具を探そうか
ロッタ殿とも合流し皆で見回らば楽しやな
「おお!良い品じゃの!」
無骨に見えて奥方の好みを外さぬは流石だの
最後は記帳かや
購った筆記具と洋墨で
『この地に永遠の繁栄と幸いあれ』
記した嘉言が少しなと
邪悪を退けるものとなるを願いつつ
何ぞあらばまた参ろうぞ
エンマ・リョウカ
盟友のキラさん(f38926)と
無事退治できたね
祭りの空気に水を差すこともなく
誰に知られる事もない平和
「何よりも良い事だね」
「おっと、お見通しだったとは」
見抜かれていた事に照れ隠しの笑みと
頬を指でかきながら答えるよ
「何か特別な日でもないんだけどね」
こうして戦いに出ている間も
帰りを待っていてくれる愛する妻に
安心して、喜んでほしくて
ロッタさんとも合流して
共に回ってくれる二人に感謝するよ
「ありがとう。助かるよ」
一緒に道具を見て回るけど
買い物はは本当に出会いの物だね
馬に跨った騎士と姫の意匠の
彫金で作ったらしい栞
「これに決めたよ」
後は一緒に買ったインクとペンで
本に書き込んでいこうか
『変わらぬ平和の為に』
●
すうと息を吸い込んで、キラティア・アルティガル(戦神の海より再び来る・f38926)はその心地良さに目を細めた。邪を退治た後は、空気も清々しい。
「良きかな」
そう言葉を紡ぐキラティアの隣で、エンマ・リョウカ(紫月の侍・f38929)も亡霊を無事退けられた事に心を和らがせていた。
祭りの空気に水を差すこともなく、誰に知られる事も無い平和。張り詰めていたものがやんわりと緩む。
「何よりも良い事だね」
うむ、と頷いて、キラティアは広場を囲む屋台を見回した。
ここには生きて今を過ごす人々の、正しき時が流れている。そうなれば、後は祭りを楽しむだけだ。
「奥方を連れ来なんだ由、我は承知しおるぞえ」
キラティアは唇の端を持ち上げ、緑の瞳に童子のような光を宿した。義を重んじるこの盟友を、今は少しばかりからかってみたい。
「贈り物をと思うたのであろ?」
「おっと、お見通しだったとは」
胸の内を言い当てられて、エンマは照れ隠しに笑んだ。仄かに熱を帯びた頬を、指で小さく掻く。
「何か特別な日でもないんだけどね」
独り言つように呟くエンマの脳裏に、最愛の人の可愛らしい笑顔が浮かんだ。
こうして戦いに出ている間も、愛する妻は帰りを待ってくれている。決して一人にしないと誓った妻に、安心して、喜んで欲しい。それは、エンマにとって、意識するまでもない、自然な事だった。
「買い物は付き合おうぞ」
図星であった事に笑んで、キラティアはそう申し出る。
此処でなら、実用第一の質実たる品ではなく、エンマの愛する人が喜ぶ品が見付かるだろう。
広場の足元を固める石畳を踏み締めると、二人の見知った少女の姿が視界に映った。
「ロッタさん、そこにいたんだね」
エンマが名を呼べば、二人をここへ導いたロッタ・シエルト(夜明けの藍・f38960)がぱっと顔を輝かせて走って来る。
「キラティアさんもエンマさんも、今回はありがとう」
「そう気にせずとも良い。祭りの場に無粋な輩は不要であるからの」
ぺこりとお辞儀をするロッタへ、キラティアはにこりと笑って見せた。
「私とキラさんは、屋台で買い物をするつもりなんだ。ロッタさんも一緒にどうかな?」
「わ! 楽しそう! 喜んでご一緒するわ!」
二人の道行きに一人が加わり、広場の賑やかさの中を屋台に向かって滑らかに進んで行く。共に屋台を回ってくれる盟友と知己の姿が、エンマの心をふわりと軽くした。
「ありがとう。助かるよ」
「なに。我も手に合う道具を探そうかと思うたところじゃ」
キラティアはそう言って、屋台の一つに目を向けた。色とりどりのインクやペンに混じって、栞が幾つか並んでいる。三人の足が、自然とそちらへ進んだ。
エンマはその中で、一つの栞に気を引かれた。
馬に跨った意匠の、彫金で作ったらしい品。これまでの屋台では見掛けなかっただけに、買い物とは本当に出会いの物だと感じる。
「これに決めたよ」
「おお! 良い品じゃの!」
エンマが手に取った栞を見て、キラティアは目を瞬かせた。無骨に見えて奥方の好みを外さぬは流石だの、と満面に笑みが浮かぶ。
栞に加えて、エンマは自身のためにインクとペンを買う。キラティアも、並ぶ品々の中から筆記具と洋墨を一つずつ贖った。
買い物が済めば、次に行くのは台座の元だ。
手にしたばかりの筆記具で、キラティアは頁の白紙を埋めて行く。
『この地に永遠の繁栄と幸いあれ』
キラティアに次いで今度はエンマが頁に文字を書き記した。
『変わらぬ平和の為に』
記した嘉言が、少しなりとも邪悪を退けるものとなるように。願った言葉は古びた本の中へ守られて行く。
「何ぞあらばまた参ろうぞ」
「ああ、そうだね」
エンマと言葉を交わし、キラティアは揃って台座の前から歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユルグ・オルド
ジルフラウ(f42427)の嬢ちゃんと
どォも色男を放っておけないって?
冗談粧かしつつ
暇持て余してたンで助かった、なァんて
ま、ネどこにだって居るのさ
軽口流しも慣れたもんだとも
しかし嬢ちゃんのことだから出かけるなら
食い気が先かと、と口の端に笑みのせて
まァ美味しいご飯のためにも散歩くらいね?
ふは、行こうつって誘ったのに書かねえの?
イイじゃんこの機に手紙でも日記でも書きゃ
今ならなんと一揃え――
あ、そこで俺に出してくれんじゃないんだ
選ぶのはどんな色にも残る濃紺のインク
まあるい小瓶が玩具のようで
隣が手にするインク覗き込めば成程と
そりゃア嬢ちゃんの目の色だ
イイね、それらしんじゃない?
よっしゃ記念に買ってやろ
ジルフラウ・トライア
ユルグ(f09129)と
まさかばったり会うなんてね
お祭りの噂に訪れた街中で
知ってる顔が見えてつい声を
よく回る口はハイハイソウネと流し
こっちの世界に来ることもあるのね
断れなくて留まってる訳じゃなさそう…かな
ふぅんと短く笑み
主役は台座の上だけど
屋台があれば自然と足が、ね?
まあね!なんなら今も小腹が減ってきてるわよっ
むすっとして見せても
並んだ栞に頰が緩む
ペンにノートに便箋
あっちにも色々ありそう
書き物に縁がなくても
インクって特に心惹かれる
じゃあ、手紙書こうかな
誰に送ろうか顔を思い浮かべていくのも楽しいし
あ、と手にしたインクは
夏の鮮やかな青空みたい
見留められてなんだかむずがゆく
あなたのは…誠実でいい色ね
●
ジルフラウ・トライア(蒼穹の降石・f42427)がこの都市国家を訪れたのは、お祭りの噂を耳にしたからだった。古びた本を中心とした広場を、ぐるりと囲むようにして並んだ屋台に目を向けて、一歩を踏み出す。その時、青い瞳が、見知った金髪を捉えた。
「ユルグ?」
「どォも色男を放っておけないって?」
ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)の方は、先にジルフラウに気付いていたらしい。冗談粧した言葉を紡ぐ瞳は、柔らかで緩やかな光を宿していた。
「暇持て余してたンで助かった」
「ハイハイソウネ」
いつもながらによく回る口だ。ジルフラウは猫めいた目を半ばまで伏せて、ふわふわと軽い言葉を受け流した。
「こっちの世界に来ることもあるのね」
「ま、ネどこにだって居るのさ」
軽口流しも慣れたもんだと、ユルグはやんわり首を傾けて横髪を頬へ流す。
断れなくて留まっている訳ではなさそうだ。ジルフラウはそう判断すると、ふぅんと短く笑みを零した。
このお祭りの主役が、台座に載った本である事は、重々承知しているけれど。ジルフラウの足は、どうしても屋台へと向いてしまう。
「しかし嬢ちゃんのことだから出かけるなら、食い気が先かと」
口の端に笑みをのせ、ユルグはジルフラウの視線を目で追った。
「まあね! なんなら今も小腹が減ってきてるわよっ」
むすっとした顔を作ってはみても、屋台に並ぶ栞が視界に入れば頬が緩む。ペンにノート。それから便箋。足を延ばせば、様々なものが見られそうだ。
「あっちの屋台に行ってみない?」
「まァ美味しいご飯のためにも散歩くらいね?」
自分より背の高い青年を連れて、ジルフラウはインクを並べた屋台まで歩を進めた。
いらっしゃい、と柔らかく注ぐ店主の言葉を聞きながら、瓶詰めのインクへ目を落とす。
「書き物に縁がなくても、インクって特に心惹かれる」
「ふは、行こうつって誘ったのに書かねえの?」
軽く開いた唇から呼気を零して、ユルグはそっとジルフラウの顔を覗き込んだ。
「イイじゃんこの機に手紙でも日記でも書きゃ」
今ならなんと一揃え――そう言葉を継ぎかけたユルグへ目を瞬いて、ジルフラウは並ぶインクへ改めて目線を向ける。
「じゃあ、手紙書こうかな。誰に送ろうか顔を思い浮かべていくのも楽しいし」
「あ、そこで俺に出してくれんじゃないんだ」
眉を下げつつもユルグの表情は明るい。
自らもインク瓶へ目を向けると、濃紺のインクが気を引いた。どんな色にも残るその色は、まあるい玩具のような小瓶に入っている。手に取ると、その丸みが心地良い。
その隣で、ジルフラウが小さく声を上げて一つの瓶を手にしていた。
夏の鮮やかな空みたい。
「そりゃア嬢ちゃんの目の色だ。イイね、それらしんじゃない?」
見留めた声が紡いだ言葉に、なんだかむずがゆくなる。
「あなたのは……誠実でいい色ね」
だろ、と笑んだユルグの手が、ジルフラウからインク瓶を優しく取り上げた。
「これとこれ、会計よろしく」
「自分の分は自分で……」
払う、と言いかけたジルフラウの鼻先に、すっと人差し指が伸びて来る。
「いい記念だろ?」
そう言われてしまえば返す言葉は見付からない。
会計を済ませたインク瓶を、ジルフラウはそっと両手で受け取った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
あいつの妄執にも理由はあったろうけど
無事追い返せたのホント良かった
「祭の邪魔されるのイヤだったしさ」
「って訳で楽しもう!」
ペンやインクも興味はあるけど
俺は相棒と違って金釘だし
どっちかなら屋台の美味しそうな匂いが
勝つ感じ
「食べ歩きしよ、陸井!」
俺、にっこにこだと思う
喋ってたらロッタが来てるの気付いた
「やっほー!」
知己だし遠慮なく声掛けて
「ね、良かったらこの世界の美味しいの教えて!」
ロッタが教えてくれるの三人で食べて
甘いお菓子も勿論お土産も一杯買ってから
「よし書こっか」
何書くかは決まってる
『護』!
もち陸井と並べてね
護り抜いた証にだ
必要ならまた幾度でも
それも俺達の誓いだよ
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
きっちり還せたな
後始末も不要だし
祭りの方に混ざって
この場を楽しむとしよう
「じゃあ、行くとするか」
「勿論だ。さて何食べるかな」
やっぱり祭りの屋台は良いよな
揚物やら焼き物が並んで
お腹のすくいい匂いが漂ってくる
相棒もいい笑顔だし
何にするかと見回っていたら
ちょうどロッタさんにも会えた
挨拶しながら相棒と一緒に色々聞いてみる
「俺は名物みたいなものも気になるな」
他世界の屋台を堪能して
三人で色々食べてお土産も買ったら
後はこの祭りの仕上げの
本へ書き込むことだけだな
相棒と言葉は被るけど
俺も『護』と書いて
この場を護れた事と
また何があっても護ると誓う為
「祭りも、良かったらまた来たいからな」
●
亡霊の姿は、もはや影も形も無い。広場へ足を進めた葛城・時人(光望護花・f35294)と凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)は、そこに人々の平和な活気が満ちている事に安堵した。
あいつの妄執にも理由はあったろうけど。
エリクシルの赤を滲ませた亡霊の瞳を思い浮かべ、時人は軽く目を伏せる。無事に骸の海へ追い返せた事は、心底から良かったと言える。
「祭の邪魔されるのイヤだったしさ」
陸井は相棒へ緩やかに頷きを返し、祭りの活気に眼鏡越しの視線を向けた。
各々の武器を収めてしまえば、後始末も不要だ。祭りの方に混ざって、この場を楽しみたい。
「って訳で楽しもう!」
「じゃあ、行くとするか」
声を弾ませる時人に笑んで、陸井は広場を囲む屋台へと共に歩いて行く。
風に乗って漂うインクの匂いに、時人が目を瞬いた。ペンやインクも興味はあるけれど、と、隣の相棒にちらとだけ視線を送る。
陸井と違って自分は金釘だと、時人は自認していた。故に、どちらかと問われれば――インクの匂いにほんのり混じる、暖かく美味しそうな香りに軍配が上がる。
本が発祥のお祭りとあって、屋台は栞や文房具を並べているものが多い。けれど、食べ物を扱っている屋台も、祭りに来ている人々のお腹を満たせそうなくらいは並んでいた。
「食べ歩きしよ、陸井!」
「勿論だ。さて何食べるかな」
にっこにこ、という形容がぴったりな相棒の表情に微笑んで、陸井は食べ物の屋台が並ぶ一帯へ足を向ける。
やはり祭りの屋台は良いと、歩を進めながら陸井も思う。揚げ物や焼き物が並んで、お腹のすくいい匂いが漂ってくる。同じくお腹を空かせた人々が、思い思いの食べ物を持って歩く姿が目に映った。
何にしようか、と屋台を見回せば、ロッタ・シエルト(夜明けの藍・f38960)がとことこと姿を見せる。
「やっほー!」
声を掛けたのは時人が先だった。二人に気付くと、ロッタは駆け足で距離を詰める。
「葛城さんも凶月さんも、今日はありがとう」
「や、俺達にとっては当たり前のことだからさ」
ね、と陸井へ目線をやれば、相棒も当然のように頷いた。ぱちりと藍の瞳が瞬きをして、すぐに屈託の無い笑みが浮かぶ。
「ね、良かったらこの世界の美味しいの教えて!」
「この世界の?」
うーん、と暫し考えを巡らせた後、ロッタはついて来て、と歩き始めた。
「俺は名物みたいなものも気になるな」
「そっちは、この後でご案内するわね」
陸井の要望にも、すぐに明るい声が返って来る。
ロッタが足を止めたのは、花の砂糖漬けを売っている屋台の前だった。小さな包みに収まったそれからは、甘い香りが漂う。
二人が食べる分と、それとは別にお土産用にも幾つか包みを買うと、ロッタがまた別の屋台へと移動する。
今度は焼き菓子の屋台だ。
「あ、これって……」
時人が呟くと、ロッタは肩に掛けていた星霊籠を持ち上げて見せる。屋台の焼き菓子に姿を写し取られている、星霊スピカがその中でくるくると動いていた。
「なるほど。これは、確かにこの世界ならではだね」
陸井はそう言って、焼き菓子の包みを幾つか手に取る。ロッタが言うには日持ちがするため、お土産にも適しているのだという。
その他にも二、三の屋台を巡ってお腹を満たすと、時人と陸井は広場の中心へと足を向けた。この祭りの仕上げ――台座に載る本への書き込みを済ませるつもりだった。
「よし書こっか」
ペンを取り上げた時点で、もう時人が書く事は決まっている。
『護』
その一字が、白紙の頁にしっかりと記された。
「言葉は被るけど、俺もこれだな」
時人が書いたその隣へ、陸井も『護』の一字を書き込む。
この街を護り抜いた証に。そして、また何があっても護ると誓う為に。
「祭りも、良かったらまた来たいからな」
必要ならまた幾度でも。
それも、二人の誓いだった。
新たな思い出を刻んだ頁が、風に触れてはらりと動く。とりどりのインクで記された言葉は、虹のように本の中へ抱かれて行った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵