ここはUDCアースに存在するという邪神居酒屋『蝉』――。
心の友と書いて親友と読む仲の比良坂・彷と霧島・ニュイ、そして愛犬のチョビは、支配蝉である謎の邪神を倒すため入店を決行したのだった!(猟兵大ピンチ感)
『カナカナカナカナ……よくぞ我を見つけたカナ。まさか追いノベルが来るとは思わなかったカナ』
中は……巨大なヒグラシ(たぶん邪神)が壁に貼りついている以外は意外と普通の居酒屋だった。キャラ付けがご当地怪人みたいだが、邪神である。
「眼鏡男子割引使えますか!? 秋頃に全身作りますから!」
ニュイが謎の言葉をかけると、邪神は食い気味の速度でお通しを出してきた。某報告書を読んだ者だけが使える秘密のキーワードだ。マジですか!? いいよ! お連れ様も飲食代無料にしちゃうしドリンクも飲み放題だよ!
なぜ邪神が居酒屋をやっているのか。なぜ普通に接客してくるのか。唐突すぎる。
この居酒屋大丈夫? と彷は一瞬思ったが「ヤバかったらまたきっちゃんが助けに来てくれるかもしれないし……」などと考え、一瞬で姫化した。いや今回は絶対来ませんよきっちゃんは! システム上の壁は魔性オーラでも破れない!
超展開なのは仕方ない。二人はまだ全然語り足りていなかった。所謂|コレ《﹅﹅》、特に同背後カプについてあと六千字は語りたかったのだ……!
「邪神『蝉の怨霊』様は|コレ《﹅﹅》への課金エネルギーで顕現する御方……入店できたという事は貴方達もやっているようね」
「彷、この居酒屋、スタッフさんの様子もおかしいよ!」
「信者じゃない? あの時のタイタニアの人達と似てんなぁ」
皆さんの星の力であのタイタニアさん達も実装枠を勝ち取れた。でも邪神を崇めてたらダメじゃないかな……お二人とも何とか言ってやってください!
『カナカナカナ……実は我は男子会をすると弱体化するカナ。男子のわちゃわちゃよこせカナ』
邪神が唐突に弱点をバラし始めた。こいつ、さては日頃から同背後達をわちゃわちゃさせまくっているな……しかし彷さんとニュイさんはわかりみしかない、みたいな顔で頷いて下さっている。ここはわちゃわちゃしないと出られない居酒屋になった。
「えー仕方ないなー」
お二人がご案内されたお席は当然のように愛犬同伴OKだった。ワンちゃん用の焼き鳥盛り合わせにハンバーグプレート、ゼリー等がどしどし運ばれてくる。
なんと今ならお洋服もプレゼント! やっぱり時期が時期なのでね、定番だけど水兵さんルックが絶対可愛いんですよ……帽子に勿忘草のワンポイントを添えて御主人様とお揃い要素を入れたい! 気温も考慮して冷感素材で!
「水着圧がすごいよ!」
「え、俺達よりわんこ優先なの?」
星20ぐらい盛り盛りにされたチョビちゃんはスタッフ達に甘やかされご機嫌だった。えっ妖怪なんですか? 人の感情をもしゃもしゃ食べるの? 可愛いのでヨシ!
「これでしばらくチョビの食費には困らないかな……それで彷、今日はどうしたの? また恋愛相談?」
「だから恋愛じゃねえんだって俺が一方的に崇めてるだけできっちゃんは推しなのリアコとかですらないの推しには指一本触れちゃいけないって知らない?俺みたいなクズのホスト系博打打ちに沼るきっちゃんとか俺が一番解釈違いなわけあーだめだめだめ、だーめーでーすー」
着席するなり、彷さんは超早口で拗らせた事を喋りだしたが、いつもこの手の相談を受けているニュイはまた始まったなーとニヤニヤしている。チョビも犬用ごはんそっちのけで彷の肩に飛び乗ると、美味しそうに顔をぺろぺろし始めた。
推しに対する激重感情拗らせてる人の語り、見てるの楽しいもんね。手を出してなくて偉いって邪神も思う。ホスト系クズの自覚あって偉い。
「まーた感情喰われてる。はァ、最初は俺が相談にのる方だったんだけどなぁ……」
彷は天を仰いだ。
この居酒屋、古くなった町工場をリノベされてるっぽい。天井高っ……と思っただろう。この二人大衆酒場にいるべきビジュアルじゃないな……かといってオシャレカフェで恋バナしそうな雰囲気でもないな……という邪神匠の妙なこだわりを感じる。
おかげさまでリア充生活を謳歌しているニュイはえへへー、と朗らかな笑顔を浮かべているが、顔に騙されてはいけない。色々あって自殺した恋人・リサちゃんを人形にして連れ歩いていたうえ、今は魂人になった彼女と付き合っているこれまた結構ヤバめの方だ! 正直好き。
彷だって、最初は詐欺s……確信たらし教の教祖様として、人肌恋しいという彼へ真面目にアドバイスしていたのだ。「クズ彼氏とやべーことになってる女ならチョロイし狙い目。イイ男見つけてリリースすれば後腐れないぜ」とか……超実践的なやつを。
『クズカナ』
邪神にも言われてる。ちなみに彷さん、男性でもブロマンスまでならOKらしいぞ。耳より情報ですね……いつか彷さんときっちゃんの間に挟まったモブ男性に刺されてほしいなあ。
だがクズにはなれなかったニュイは「人生フルベッドして探せばいいじゃーん(超意訳)」というクズアドバイス二の矢を実践した。リサちゃんが魂人になっている可能性に賭け、人形とはお別れしたのだ。このエピソード自体はとても切なくて素敵な話であった。邪神、通過済。
「おねーさんナンパしつつ結局は友達で終わってたもんな、いつも。あ、これは死んだ彼女しかダメな純情ボーイじゃーん、ってピンときたのよね」
「ううう……その話する? でもそうだったし見つかったんだよねー、彷には今も感謝してるよ!」
いい話風だが、一般純情ボーイはそこで止まるのよニュイさん。
宿敵にする人は結構いるが、リサちゃんのご遺体を人形にはしてない。
『カナカナカナ……類友……』
さすが彷さんの心の友なだけはあった。大体、ヤンデレの剣×男子高生の冷凍死体をやっている邪神には言われたくないよな。片方人ですらないから……我々が同背後とばかり絡んでいる理由はこのあたりにある。ですよね?
「僕らの恋愛観に誰もついてこれないんだよおおお!」
「わかる。他人様を巻きこんじゃいけねえ……」
恋愛観と書いて性癖と読みます。
万一ノリノリで付き合ってくれる人がいても、それはそれで怖い。
大丈夫? 失踪したり囚われたり毎回斬ってほしいって頼んだり、ご遺体を人形にして連れ回した後思い出の栗の木の下に埋めたり、本気で嫌悪してほしいから全方位DVしかできないけど……ってなるので、そっとしておいてほしい。
「リサちゃんは常識人だから今までいろいろ隠してたんだけど、ついこの間リサちゃんの墓参りに彼女を連れて行ったんだ」
「へー。なんか進展あった?」
「遺体をリサイクルして人形にしていたことを打ち明けたよ……!」
それは初耳だった彷も、お通しのもやしナムルを落としそうになった。
怖い! 最終話の手前ぐらいで出てくる衝撃の真相エピソードだよ!!
邪神今、ほんわか担当の友人キャラが連続猟奇殺人の黒幕だった時の気持ち。
「ちょっと怖がってたけど、いつか受け入れてくれるって信じてる……」
「いや当たり前じゃん純情ボーイどこ行ったの? 乙女心ってわかる? てへこつ★じゃないって」
ニュイさんはぽわぽわしているが、ちょっとどころじゃなくホラーだと思うなそれは……クズではないが、ピュアボーイゆえの大胆なサイコ行動。実は結構繊細そうな彷さん(私見)は逆にやらなそうである。
「僕、リサちゃんの準備が整ったらプロポーズするんだ……」
「……まぁ今がいちゃいちゃ幸せそうならいいんじゃね?」
リサちゃん、なんて優しくて懐が深いんだ……結婚式には呼んでくださいね!
ここで一旦休憩。一応居酒屋だし、二人はメニューを見てみた。
「もやしとサプリと犬のご飯しかないんだけど!? お酒は!?」
「俺鉄分とマルチビタミン。あー、それともやし様」
「普通に注文してるし様って言った!?」
「レンチンで喰えるし安い。神じゃん」
「先見教は!? 実はもやしを崇める教団だったりしないよね!?」
「もやしは神だ、レンチンで食べられるからなぁ!」
「ステシにまで書いてあるうううう!!」
「レンチンは焦げないけどそのまま寝て腐らせるとかあばばばば」
「なんか降りた! 怖い! 邪神さん助けて!」
『カナカナ……我は豆腐一筋』
「胃腸炎で最近固形物食べてないの!? い、いいよ僕作るから寝てなよ!」
この邪神、ほっといても死にそう。蝉だし。
という訳で、ニュイ神がおつまみとドリンクを作ってくれました。
もやしに乾燥油揚げと輪切り唐辛子を入れて、出汁とみりんと料理酒を入れて煮て卵とじにしたやつと、70℃くらいのお湯で作ったカップスープだ。適温……!
もやし教徒と化した彷さんもご満悦だ。胃腸が回復したら作らせていただきます!
「ニュイ、俺はさァ、きっちゃんにもこういう家庭を築いてほしいわけ……サクミラ女子だし血痕が幸せだよね」
「……結婚?」
「ごめんごめん、グリモア猟兵しぐさ出ちゃった」
稀によくある誤変換。邪神もやってみたら血痕になったょ……。
「さっきも言ったけど俺に沼ったら駄目なの。幸福の対極、破滅の象徴って感じの男じゃん。ニュイもリサちゃんがこういう男に捕まってたら嫌でしょ」
いやそれはわからんけど……ニュイさんどうでしょう。さっきのリア充(?)エピソード聞いてると山奥とかに埋める可能性若干あるな、と邪神は思った。
でもわかる、推しの好みが自分だったら逆に夢が壊れるって拗らせ感情……彷さんちの家庭環境複雑すぎるし、ゴメン、確かに幸せになれるイメージはない。フォローできない。つらい。メリバならまだある。
「だから『29歳の誕生日の次の日にいなくなる』って言ってありまーす」
予告失踪――!
本当にめんどくさい男だな!
でもね、女の子ってそういうの沼るよ。分かっててやってる!?
「彷とこうして遊んでられるのもあと4年かぁ。それまでにリサちゃんと結婚しなきゃ……」
止めてよ心の友さぁ!
いや、ここアドリブだけど、別に止めなそうだなって。ゴメン。
「でもさ、俺が例の因習村みたいなトコに行ったらちゃんと乗り込んできてくれんの。こないだはねえ、サイザナのカジノで片羽根を担保に入れたら、なんか裏でつながってたシンジゲートをきっちゃんが壊滅させちゃった★ いやぁ、あれは金になったなぁ」
いや分かっててやってんな。
因習闇オークションで味をしめてませんか? またきっちゃん怒らせるし悲しませるの?
今の私は邪神である。ニュイさんどいて、そいつ殺せない!
『貴様、もう許さぬカナカナ……カナ!? 何カナこの殺気!?』
チョビが突然ピクッと耳を立て、出入り口まで走っていくと扉をカリカリし始めた!
すごいご飯が来たワン! 開けるワン! という顔。彷はフッと笑った。
「踏み込んでくるのさ、丁度殺される直前とかあるある。すごいねぇ、ヒーロー補正がパないねえ」
惚気られてる。第四の壁があるので呼べないが、たぶんすぐそこまで来てる。
怖いよぉ……イケメン女子とクズ男の姫、しかも兄弟。実家のような安心感。
「彷……もっと橘ちゃんの気持ち考えなよ! 人格2つ分のオーダー指輪贈って、自分も贈ってるの僕知ってるよ」
「ニュイも知ってるか、チッ」
いや、まともな事言ってる風だけど、ニュイさんも彼女のご遺体を人形にして埋めた事は忘れてはいけない。登場人物が全員怖いノベル。
「えー……いや、確かにさぁ……隠れ里にいた14歳の頃に橘がきて、色々あって……外に出る動機にはなったけど」
影朧退治のために派遣された學徒兵の娘は、あの頃どこでも独りぼっちだった。
戦いで傷を負った彼女が休めるようにと、部屋を用意したのだが、『教祖』の女信者たちがそれを快く思わなかった。目の届かぬ所で酷い態度を取られ、しょんぼりと肩を落とし帰っていった姿を今も覚えている。
「そいつの名前教えろって言っても言ってくれねえんだよなぁ、粛正したいのに……これでも考えてんだよ、あの頃から毎日毎日毎日あの子のことばっか」
その薄汚い女信者達を囲っていた『教祖』は、いくら否定しても自分自身なのだ。恋焦がれていた『俺』の心だけは純粋だった、なんて綺麗な想い出に書き変えたら正真正銘の屑ではないか。
うーん、繊細系クズッ……! ニュイさんのようなある種の強引さは彷にはない。
「だからぁ、博徒の俺だろうが教祖だろうが、橘からは離れなきゃなんないの!!」
「そ、そうなんだ……ごめん」
なんかもう泣き出しそう。もしかして酔ってます?
お二人のアルコール耐性わからんから、何飲んでるのかはご想像にお任せしていますが。
その時、チョビがずっとカリカリしていた扉がガラッと開いた。
「全く『博徒』は本当に素直じゃないんですよねえ。そんなんだと『僕』が橘をもらってしまいますよ?」
「彷が二人に増えてるけど!?」
「はああああ!? え、俺、いや教祖じゃん、なんで分裂してんの」
きっちゃんじゃなかった――!
そこに立っていたのは彷そっくりの、身体に桜を咲かせた狩衣姿の男性だった。たぶん蝉のUCで召喚されたやつです。私ね、今邪神だからね、なんでもできるんだ。
そんなわけでかなり偽物っぽい教祖は、左薬指の指輪をドヤァ……と見せつけている。
「う、うわぁ、婚約指輪だ……」
ニュイは恐る恐る彷の右手(右である。大事)をチラ見した。薬指につけている指輪が……ない!
「なんで今日に限って外してるの!?」
「ニュイは推しに貰ったもん毎日身に着けんの!? 大事にしまっとくでしょ普通!」
「はあ、『僕』が唯一橘を譲れるのは『博徒』だけだというのにこの体たらく……他の男には渡しませんよ」
たらしこんでおいてこの発言である。めんどくさい! めんどくさいよこの一族!
というか教祖様意外と親切じゃないかな!? 倒され待ちしてない!?
「しっかりしなよ、彷! 人生フルベッドはどうしたの!? 僕にだけフルベッドさせて逃げる気なの!?」
伏線回収。
ニュイさんへの雑アドバイスが今、ブーメランとなりブッ刺さる――!
彷は博徒っぽいニヒルな笑みを浮かべると……唐突に自転車を取りだした。漕ぐと★が増えるアレだ。
そう、この混迷を極める俺関係も★がなきゃ解決できない、それが|コレ《﹅﹅》。報告書書いてればクズ感も多少は減るしがんばれ!
「橘大好き! デイリーやべえ奴粛正も『愛されてる』に変換してくれる器のでけー片割れです! らぶ♥」
「キャラ崩壊してるううううう!!!」
これはちゃんと発注文に書いてありました。
言えてえらい! でも本人に言いな本人に!
教祖様(偽)はそんな博徒を温かく?見守り、チョピちゃんはクソデカ感情を食べてもちもちつやつやになりました。
邪神? 死んだよ。行殺――!
成功
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